説明

ステアリングホイールの制振構造

【課題】インフレータからのガスの噴出開始後、早期に連通孔からのガス漏れを抑制する。
【解決手段】インフレータ21を支持部材46の弾性支持部56によって弾性支持し、インフレータ21をダイナミックダンパのダンパマスとして機能させるとともに、弾性支持部56をダイナミックダンパのばねとして機能させる。支持部材46においてインフレータ21と対向する位置に連通孔58を設け、支持部材46の連通孔58を取り囲む位置に環状のシール部57を設け、インフレータ21をシール部57において支持部材46に接触させることで、連通孔58からのガス漏れを規制する。インフレータ21のガス噴出孔23に近接する箇所には、同ガス噴出孔23から周壁部22の径方向外方へ噴出されたガスGの向きを後方へ変え、かつ同ガスGの圧力を受けて前方へ向かう力Fを発生させる受圧部66をインフレータ21に一体に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の操舵装置に用いられ、かつエアバッグ装置を備えたステアリングホイールの振動を抑制(制振)する制振構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の高速走行中や車載エンジンのアイドリング中に、ステアリングホイールに上下方向や左右方向の振動が伝わると、運転者の快適な運転が損なわれるおそれがある。そこで、このステアリングホイールの振動を抑制(制振)する技術が従来から開発・提案されている。その1つに、錘と、この錘をステアリングホイールの芯金等に支持する弾性部材とからなるダイナミックダンパを用いる技術がある。この技術によると、ステアリングホイールからダイナミックダンパに対し、そのダイナミックダンパ固有の共振周波数と同一又は近い周波数の振動が伝わると、ダイナミックダンパが共振してステアリングホイールの振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイールの振動が抑制(制振)される。
【0003】
一方、ステアリングホイールには、車両の衝突時等における運転者の保護を図るべくエアバッグ装置が内装されている。エアバッグ装置は、エアバッグと、エアバッグにガスを供給するインフレータとをパッド部内に備えており、車両衝突時等には、インフレータから供給されるガスによりエアバッグを後方へ向けて膨張させることで、運転者を衝撃から保護する。
【0004】
ここで、上記エアバッグ装置が、ステアリングホイールの内部スペースの多くを占有することから、近時のステアリングホイールでは、上述したダイナミックダンパを内装することが難しくなっている。
【0005】
そこで、エアバッグ装置のインフレータをダイナミックダンパのダンパマスとして機能させるステアリングホイールの制振構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このステアリングホイールでは、インフレータとして、その周壁部に設けられたガス噴出孔から、同周壁部の径方向外方へガスを噴出して、エアバッグを後方へ膨張させるものが用いられている。また、インフレータの前側でそのインフレータを弾性支持する弾性支持部を有する支持部材が用いられている。そして、インフレータがダイナミックダンパのダンパマスとして機能させられ、弾性支持部がダイナミックダンパのばねとして機能させられる。
【0006】
さらに、支持部材においてインフレータと対向する位置には連通孔が設けられている。インフレータ及び支持部材には、上記連通孔を取り囲む位置に環状のシール部が設けられている。そして、インフレータがシール部において支持部材に接触することで、連通孔からのガス漏れが規制される。
【0007】
上記特許文献1に記載されたステアリングホイールでは、エアバッグの非膨張時には、インフレータは、シール部において支持部材に接触しない。そして、ステアリングホイールからダイナミックダンパに対し、そのダイナミックダンパ固有の共振周波数と同一又は近い周波数の振動が伝わると、弾性支持部が弾性変形しながらインフレータを伴って振動し(インフレータ及び弾性支持部が共振し)、ステアリングホイールの振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイールの振動が抑制(制振)される。
【0008】
また、車両に対し衝突等による衝撃が加わると、インフレータにおける周壁部のガス噴出孔から、同周壁部の径方向外方へガスが噴出される。このガスがエアバッグ内に供給されて同エアバッグが膨張する。エアバッグの内圧上昇に伴い、インフレータには前方へ向かう力が加わる。この力により、インフレータが弾性支持部を弾性変形させながら前方へ移動し、シール部において支持部材に接触する。インフレータと支持部材との間がシールされた状態となり、連通孔からのガス漏れが規制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−96127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記特許文献1に記載されたステアリングホイールでは、連通孔からのガス漏れを抑制する効果は、エアバッグがある程度膨張した後に得られる。これは、インフレータに加わる前方へ向かう力は、エアバッグの内圧上昇に伴い生ずるからである。そのため、インフレータからのガス噴出開始から、エアバッグの内圧がある程度上昇するまでの期間は、インフレータ及び支持部材間のシールが行なわれず、ガスが連通孔から漏れ出るおそれがある。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、インフレータからのガスの噴出開始後、早期に連通孔からのガス漏れを抑制することのできるステアリングホイールの制振構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ステアリングホイールのパッド部内に配設されるエアバッグと、前記パッド部内の前記エアバッグよりも前側に配設され、周壁部に設けられたガス噴出孔から同周壁部の径方向外方へガスを噴出して前記エアバッグを後方へ膨張させるインフレータと、前記インフレータの前側で同インフレータを弾性支持する弾性支持部を有する支持部材とを備え、前記インフレータをダイナミックダンパのダンパマスとして機能させるとともに、前記弾性支持部をダイナミックダンパのばねとして機能させ、さらに、前記支持部材において前記インフレータと対向する位置に連通孔を設け、前記インフレータ及び前記支持部材の少なくとも一方には、前記連通孔を取り囲む位置に環状のシール部を設け、前記インフレータを前記シール部において前記支持部材に接触させることで、前記連通孔からのガス漏れを規制するようにしたステアリングホイールの制振構造であって、前記ガス噴出孔に近接する箇所には、同ガス噴出孔から前記周壁部の径方向外方へ噴出されたガスの向きを後方へ変え、かつ同ガスの圧力を受けて前方へ向かう力を発生させる受圧部が前記インフレータに一体に設けられていることを要旨とする。
【0013】
上記の構成によれば、エアバッグの非膨張時には、インフレータはシール部において支持部材に接触しない。このときには、インフレータがダイナミックダンパのダンパマスとして機能し、支持部材の弾性支持部がダイナミックダンパのばねとして機能する。そのため、ステアリングホイールからダイナミックダンパに対し、ダイナミックダンパ固有の共振周波数と同一又は近い周波数の振動が伝わると、弾性支持部が弾性変形しながら、インフレータと、これに一体に設けられた受圧部とを伴って振動し(インフレータ及び弾性支持部が共振し)、ステアリングホイールの振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイールの振動が抑制(制振)される。
【0014】
衝突等の衝撃に応じ、インフレータの周壁部に設けられたガス噴出孔からガスが同周壁部の径方向外方へ噴出されると、受圧部がインフレータに一体に設けられていることから、同インフレータの位置に拘らず、ガス噴出孔に近接する箇所に受圧部が位置する。そのため、上記ガスは受圧部に当たり、周壁部の径方向外方から後方へ向きを変えられる。このガスがエアバッグ内に供給されて、同エアバッグを膨張させる。また、ガス噴出孔からのガスの圧力は受圧部によって受けられ、同受圧部において前方へ向かう力が発生される。この力により、ガス噴出孔からのガスの噴出開始直後からインフレータが弾性支持部を弾性変形させながら前方へ移動し、シール部において支持部材に接触する。この接触により、連通孔を取り囲む位置で、インフレータと支持部材との間がシールされた状態となり、連通孔からのガス漏れが抑制される。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記受圧部は、前記ガス噴出孔に対し、前記周壁部の径方向外方に近接する箇所に設けられていることを要旨とする。
【0016】
上記の構成によれば、ガス噴出孔と受圧部との間隔が狭くなり、ガス噴出孔から噴出されたガスが短時間で受圧部に到達する。ガスの噴出開始後、ガスが受圧部によって後方へ向きを変えられるまでの時間が短くなり、その分、エアバッグの膨張開始時期が早まる。また、ガスの噴出開始後、受圧部において前方へ向かう力が発生するまでの時間が短くなり、その分、インフレータがシール部において支持部材に接触してシールが開始される時期が早まる。そのため、上記請求項1に記載の発明の効果がより早くから得られるようになる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記受圧部は、後側ほど前記周壁部から遠ざかるように傾斜していることを要旨とする。
上記の構成によれば、ガス噴出孔から周壁部の径方向外方へ噴出されたガスは、後側ほど同周壁部から遠ざかるように傾斜している受圧部に当たることで、効率よく後方へ向きを変えられる。また、ガス噴出孔から噴出されたガスの圧力が上記のように傾斜している受圧部によって受けられることで、前方へ向かう力が効率よく発生される。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の発明において、前記パッド部内にはバックホルダが配設され、前記エアバッグは前記受圧部よりも前記周壁部の径方向外方で前記バックホルダに固定されていることを要旨とする。
【0019】
ここで、ガス噴出孔から噴出されたガスは周壁部の径方向外方へ流れる。そのため、仮に、周壁部(ガス噴出孔)と、エアバッグのバックホルダに対する固定部分との間に、ガスの流れを妨げるものが何もないとすると、ガス噴出孔から噴出されたガスは、エアバッグの上記固定部分に触れて悪影響を及ぼすおそれがある。
【0020】
この点、請求項4に記載の発明では、ガス噴出孔から噴出されたガスは、エアバッグの上記固定部分に到達する前に受圧部に当たり、後方へ向きを変えられる。その結果、ガス噴出孔から噴出されたガスが、エアバッグの上記固定部分に直接触れることが起こりにくくなり、同固定部分がガスの熱の影響を受けにくくなる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明において、前記弾性支持部は絶縁性の弾性材料により形成され、前記受圧部は、導電性材料により形成され、かつ前記周壁部の周りに配置されたガスプレートの一部として設けられており、前記ガスプレートにはアース端子が設けられており、前記インフレータに帯電した電荷を放電するためのアース経路が前記アース端子に接続されていることを要旨とする。
【0022】
ここで、上記制振構造を有するステアリングホイールでは、インフレータが、絶縁性の弾性材料からなる弾性支持部により弾性支持されていて、導電性の部品から電気的に遮断される。そのため、ステアリングホイールの振動に伴い、インフレータがエアバッグ等と擦れると電荷がインフレータに溜まる。この電荷は静電気を引き起こし、インフレータの誤作動の原因となり得る。
【0023】
この点、請求項5に記載の発明では、導電性材料により形成されているガスプレートにアース端子が設けられ、ここにアース経路が接続されている。そのため、インフレータが上記のように帯電したとしても、インフレータの電荷は、ガスプレート、アース端子及びアース経路を通じて放電される。その結果、インフレータに溜まる電荷が原因でインフレータが誤作動することが起こりにくくなる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記アース端子は、前記ステアリングホイールの前面に露出していることを要旨とする。
上記の構成によれば、ステアリングホイールの前面からアース端子が露出する。このアース端子にアース経路に接続されていれば、その接続部分もステアリングホイールの前面から露出する。これらの露出部分は、ステアリングホイールの前方から視認可能である。従って、ステアリングホイールを前方から視認することで、アース端子に対するアース経路の接続状況、例えば接続の有無等を瞬時に把握することが可能となる。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、前記支持部材において、前記周壁部の径方向についての中間部分には貫通孔が設けられており、前記アース端子は前記貫通孔を後方から前方へ向けて貫通していることを要旨とする。
【0026】
上記の構成によれば、支持部材の貫通孔を後方から前方へ向けて貫通するアース端子は、同支持部材において、周壁部の径方向についての中間部分を通り、ステアリングホイールの前面に露出する。そのため、アース端子が、支持部材において周壁部の径方向についての外側に設けられる場合に比べ、ステアリングホイールの制振構造の上記径方向についての寸法が小さくなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のステアリングホイールの制振構造によれば、インフレータからのガスの噴出開始後、早期にインフレータをシール部において支持部材に接触させ、早期に連通孔からのガス漏れを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態を示す図であり、エアバッグ装置が内装されたステアリングホイールの一部を示す背面図。
【図2】第1実施形態におけるエアバッグ装置の構成部品の一部(バックホルダ、カップリテーナ、インフレータ等)を示す正面図。
【図3】(A)は、図1の3−3線に沿ったステアリングホイールの断面構造を示す部分断面図、(B)は、(A)におけるP部を拡大して示す断面図。
【図4】(A)は、図1の4−4線に沿ったステアリングホイールの断面構造を示す部分断面図、(B)は、(A)におけるQ部を拡大して示す断面図。
【図5】本発明を具体化した第2実施形態を示す図であり、エアバッグ装置が内装されたステアリングホイールの一部を示す背面図。
【図6】第2実施形態におけるエアバッグ装置の構成部品の一部(支持部材、インフレータ等)を、斜め前方から見た状態を示す斜視図。
【図7】図5の7−7線に沿ったステアリングホイールの断面構造を示す部分断面図。
【図8】アース端子を有するガスプレートを斜め後方から見た状態を示す斜視図。
【図9】受圧部の変更例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1実施形態)
以下、本発明を、車両用ステアリングホイールの制振構造に具体化した第1実施形態について、図1〜図4を参照して説明する。
【0030】
図3及び図4に示すように、ステアリングホイール10の一部をなすパッド部11は、運転者側(後側:図3及び図4の左側)に位置するパッドカバー12と、パッドカバー12の前側に位置するロアカバー(図示略)とを備えている。
【0031】
ステアリングホイール10の内部には、鉄、アルミニウム、マグネシウム、又はこれらの合金等によって形成された芯金Bが配設されている。芯金Bは、ステアリングホイール10の骨格部分をなすものであり、図3(A)にその一部が図示されている。
【0032】
パッド部11の内部、すなわちパッドカバー12とロアカバーとによって囲まれた空間には、上記芯金Bに加え、エアバッグ装置20が設けられている。エアバッグ装置20は、ステアリングホイール10の振動を抑制(制振)するための制振構造を有している。
【0033】
エアバッグ装置20は、車両の前面衝突(前突)等により、車両に対し前方から衝撃が加わった場合に、インフレータ(ガス発生器)21からガスGをエアバッグ27に供給し、そのエアバッグ27を運転者の前方で膨張させて、運転者に伝わる衝撃を緩和するための装置である。
【0034】
エアバッグ装置20は、上述したパッドカバー12、インフレータ21及びエアバッグ27に加え、バックホルダ31、カップリテーナ41、支持部材46及びガスプレート61を備えている。なお、パッドカバー12はステアリングホイール10(パッド部11)の構成部材の1つであるが、ここではエアバッグ装置20の構成部材も兼ねている。次に、エアバッグ装置20のこれらの構成部材について説明する。
【0035】
<パッドカバー12>
パッドカバー12は、蓋部13と、その蓋部13から前方へ突出する略四角環状の収容壁部14とを有しており、全体が合成樹脂によって形成されている。これらの蓋部13及び収容壁部14は、バックホルダ31との間に収容空間15を形成している。蓋部13の前面には、同蓋部13の他の箇所よりも厚みが小さく強度の低い破断予定部16が形成されており、エアバッグ27が展開膨張したときに、この破断予定部16において蓋部13が破断されるようになっている。
【0036】
図1及び図4に示すように、収容壁部14の前端部の複数箇所(6箇所)には、係止爪17が一体に形成されている。各係止爪17は、矩形板状をなす本体部18と、本体部18の前部において収容空間15から遠ざかる方向へ突出する爪部19とによって構成されている。
【0037】
<インフレータ21>
図3及び図4に示すように、インフレータ21の外周部分は、前後方向に延びる軸線L1を中心とする略円筒状の周壁部22によって構成されている。周壁部22の内部には、エアバッグ27を膨張させるためのガスGを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。周壁部22には、複数のガス噴出孔23が周方向に略等角度毎に略等間隔となるように設けられており、ガス発生剤で発生されたガスGが各ガス噴出孔23から周壁部22の径方向外方へ噴出される。
【0038】
上記周壁部22上であって、各ガス噴出孔23よりも前側となる箇所には、その周壁部22の全周にわたって環状のフランジ24が形成されている。フランジ24は、インフレータ21の軸線L1に直交する略平板状をなしている。フランジ24の複数箇所(4箇所)は、同フランジ24の他の箇所よりも周壁部22の径方向外方へ多く延出する取付け片24Aとなっており(図4(B)参照)、ここに締結用挿通孔25があけられている。
【0039】
また、図1に示すように、インフレータ21の前部には一対のコネクタ26が組付けられており、インフレータ21への作動信号の入力配線となるハーネス(図示略)が、これらのコネクタ26に接続されるようになっている。
【0040】
なお、インフレータ21としては、上記ガス発生剤を用いたタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断してガスを噴出させるタイプが用いられてもよい。
【0041】
<エアバッグ27>
図3及び図4に示すように、エアバッグ27は、上記インフレータ21から供給されるガスGにより膨張するものであり、強度が高く、かつ可撓性を有する織布等の布によって袋状に形成されている。エアバッグ27は、ステアリングホイール10と運転者との間の領域で膨張し得る大きさを有している。エアバッグ27は、インフレータ21のガス噴出孔23から噴出されたガスGを導入するためのガス導入口28を自身の前端部に有している。エアバッグ27においてガス導入口28の周辺部分の複数箇所(4箇所)には、ボルト挿通孔29があけられている(図4(A)参照)。エアバッグ27のガス導入口28を除く多くの部分は、図示しないが、折り畳まれることによりコンパクトな形態にされて、上記収容空間15に配置されている。
【0042】
<バックホルダ31>
図2〜図4に示すように、バックホルダ31は、金属板をプレス加工することにより形成されている。バックホルダ31の主要部は基部32によって構成されている。基部32は、インフレータ21の軸線L1に対し直交する略平板状をなしており、略四角環状をなしている。基部32は、上記エアバッグ27におけるガス導入口28の前側に位置しており、インフレータ21の周壁部22よりも若干径の大きな円形の挿入孔33を有している。
【0043】
基部32において、パッドカバー12の上記各係止爪17に対応する複数箇所(6箇所)には、それぞれ係止孔34が形成されている。各係止孔34は、幅広の上記各係止爪17に対応して基部32の辺方向に細長いスリット状をなしている。各係止孔34には、その後側から各係止爪17の爪部19が挿通されている。そして、各爪部19が基部32の前側で各係止孔34よりも周壁部22の径方向外側に位置することで、各係止爪17が各係止孔34に対し、後方への移動不能に係止されている。
【0044】
図1及び図3に示すように、上記基部32の複数箇所(3箇所)には、ホーンスイッチ機構35を取付けるための取付け部36が、それぞれ周壁部22の径方向外方へ突出するように形成されている。各ホーンスイッチ機構35は、車両に設けられたホーン装置(図示略)を作動させるためのものである。各取付け部36には、ホーンスイッチ機構35の取付けのための取付け孔37が貫通形成されている(図3(A)参照)。各取付け部36に取付けられたホーンスイッチ機構35は芯金Bに支持されている(図3(A)参照)。この支持により、エアバッグ装置20は、芯金Bに対しフローティング状態となり、各ホーンスイッチ機構35を変形させることにより前後方向へ移動(変位)可能である。
【0045】
基部32において、上記取付け孔37及び係止孔34と挿入孔33との間の複数箇所(4箇所)には、ボルト挿通孔38がそれぞれあけられている(図4(A)参照)。
<カップリテーナ41>
図2〜図4に示すように、カップリテーナ41は、金属板をプレス加工することにより形成されている。カップリテーナ41は、環状の取付け基部42と、取付け基部42の内縁部から後方へ向けて延びてインフレータ21の後部を覆うカバー部43とを備えている。
【0046】
取付け基部42は、インフレータ21の軸線L1に対し直交する略平板状をなしており、上記エアバッグ27におけるガス導入口28の後側であって、インフレータ21のガス噴出孔23に対し、周壁部22の径方向外方となる箇所に配置されている。取付け基部42において、バックホルダ31の各ボルト挿通孔38に対応する箇所には、ボルト挿通孔44があけられている(図4(A)参照)。カバー部43には、インフレータ21から噴出されたガスGをカップリテーナ41からエアバッグ27へ放出する複数のガス放出口45が形成されている。
【0047】
<支持部材46>
図1、図3及び図4に示すように、支持部材46は、インフレータ21をバックホルダ31に弾性支持するためのものである。支持部材46の中央部には、インフレータ21のコネクタ26に接続されたハーネスを同支持部材46よりも前方へ引き出すための連通孔58が設けられている。
【0048】
支持部材46の骨格部分は支持板部47によって構成されており、その大部分がバックホルダ31の前側に配置されている。支持板部47は、金属板をプレス加工することによって形成されている。
【0049】
支持板部47において、バックホルダ31の各ボルト挿通孔38に対応する複数箇所にはボルト挿通孔48があけられている(図4(A)参照)。支持板部47の後側であって各ボルト挿通孔48の同一軸線上にはカラー(円筒状のスペーサ)49が配置されている。各カラー49は支持部材46の一部を構成するものとして用いられ、後述する弾性部53によって支持板部47とともに被覆されることで、同支持板部47に対し一体となっている。
【0050】
支持板部47は、その中心部分に、前方へ向けて膨出するカバー部51を有している。カバー部51は、インフレータ21の前側外周部を離間状態で覆っている。
支持板部47には、その外縁部から前方又は後方へ延びる複数(係止孔34と同数)の保持部52が設けられている。各保持部52は、バックホルダ31の上記係止孔34に対応する箇所に設けられており、係止爪17に対し周壁部22の径方向内側から弾性的に接触する。各保持部52は、係止爪17が周壁部22の径方向内側へ撓むのを規制し、同係止爪17を、爪部19が係止孔34に係止された状態に保持する。
【0051】
支持板部47は、上記以外にも次の機能も有する。
(i)インフレータ21が前方へ過剰に移動した場合に受け止める機能。
(ii)インフレータ21の前方に配策されているハーネスがそのインフレータ21に接触するのを規制して、ハーネスとの接触によりインフレータ21の振動が阻害されるのを抑制する機能。
【0052】
上記保持部52を除く支持板部47の大部分は、合成ゴム、エラストマー等の弾性材料からなる弾性部53によって被覆されている。弾性部53はカバー部51にも設けられており、インフレータ21の支持板部47との接触を規制して、接触に伴う異音の発生を抑制するようにしている。また、弾性部53は、上記各カラー49を被覆している。
【0053】
そして、バックホルダ31の基部32とカップリテーナ41の取付け基部42との間には、それらのボルト挿通孔38,44にボルト挿通孔29を合致させた状態で、上記エアバッグ27のガス導入口28の周辺部分が配置されている。表現を変えると、エアバッグ27の上記周辺部分は、そのボルト挿通孔29にボルト挿通孔38,44を合致させた状態のバックホルダ31及びカップリテーナ41によって前後から挟み込まれている。
【0054】
さらに、上記基部32の前側には、各ボルト挿通孔38にボルト挿通孔48を合致させた状態で支持部材46が配置されている。この状態では、ボルト挿通孔38,48間にカラー49が介在されている。これらのカラー49により、バックホルダ31から前方へ一定距離離れた箇所に支持板部47が配置されている。
【0055】
そして、カップリテーナ41、エアバッグ27及びバックホルダ31の各ボルト挿通孔44,29,38と、各カラー49と、支持板部47の各ボルト挿通孔48とに対し、同カップリテーナ41の後方からボルト54が挿通されている。支持板部47から前方へ露出する各ボルト54にナット55が締付けられている(図1参照)。各ナット55の締付けにより、カップリテーナ41及び支持部材46がバックホルダ31に締結されるとともに、エアバッグ27におけるガス導入口28の周辺部分が、カップリテーナ41及びバックホルダ31間に挟まれて締結されている。
【0056】
図4に示すように、上記弾性部53において、インフレータ21の各締結用挿通孔25の前方となる複数の箇所(4箇所)には、後方へ向けて延びる円筒状の弾性支持部56が設けられている。ここでは、各弾性支持部56が弾性部53に対し、その一部として一体に形成されている。これらの弾性支持部56は、上述したインフレータ21とともにダイナミックダンパを構成するものである。第1実施形態では、これらの弾性支持部56をダイナミックダンパのばねとして機能させ、インフレータ21をダンパマスとして機能させるようにしている。
【0057】
ここで、各弾性支持部56の大きさ、径方向の厚み、前後方向の長さ等をチューニングすることで、ダイナミックダンパの上下方向や左右方向についての共振周波数が、ステアリングホイール10の上下方向や左右方向の振動について、狙いとする制振の周波数(制振したい周波数)に設定されている。
【0058】
図3及び図4に示すように、上記弾性部53において、フランジ24の前方であって、上記各弾性支持部56に対し周壁部22の径方向内方で上記連通孔58を取り囲む箇所は、環状のシール部57を構成している。このシール部57は、エアバッグ27の非膨張時には、フランジ24から前方へ僅かに離れていて、フランジ24との間に僅かな隙間Cを生じている。
【0059】
<ガスプレート61>
ガスプレート61は、金属板をプレス加工することにより環状に形成されている。ガスプレート61の一部をなす取付け基部62は、インフレータ21の軸線L1に対し直交する略平板状をなしていて、フランジ24の後側に配置されている。この取付け基部62は、前後方向については、インフレータ21の各ガス噴出孔23よりも前方に位置している。取付け基部62において、フランジ24の締結用挿通孔25の後方となる複数箇所(4箇所)には、締結用挿通孔63があけられている。
【0060】
そして、ガスプレート61は、取付け基部62においてフランジ24とともに上記弾性支持部56に締結されている。より詳しくは、弾性支持部56の後端面には、金属製のリベット64が加硫接着等によって固定されている。リベット64の後部は、後端が開放された筒状をなしており、フランジ24及び取付け基部62の各締結用挿通孔25,63に対し、前方から挿通されている。
【0061】
リベット64の後部は、図4(B)において二点鎖線で示すように、ガスプレート61の取付け基部62から後方へ露出している。リベット64の露出部分が、同図4(B)において実線で示すように押し潰されて拡径させられる(かしめられる)ことで、リベット64がフランジ24に固定されるとともに、リベット64の拡径部分とフランジ24との間でガスプレート61(取付け基部62)が挟み込まれている。このように、インフレータ21は、ガスプレート61と一緒に、リベット64によって複数の弾性支持部56に締結されている。インフレータ21は、これらの弾性支持部56により支持部材46、ひいてはバックホルダ31に弾性支持されている。
【0062】
なお、本実施形態では、ガスプレート61は、フランジ24とともに弾性支持部56に締結されることでフランジ24に固定される構造が採用されているが、フランジ24の弾性支持部56との締結部分とは異なる箇所においてフランジ24に固定されてもよい。
【0063】
ガスプレート61は、インフレータ21の各ガス噴出孔23と、エアバッグ27におけるバックホルダ31への固定部分(ガス導入口28の周辺部分)との間に受圧部66を有している。受圧部66は、各ガス噴出孔23から周壁部22の径方向外方へ噴出されたガスGの向きを後方へ変え、かつ同ガスGの圧力を受けて前方へ向かう力Fを発生させるためのものである。受圧部66は、ガスプレート61の一部が上記取付け基部62の内縁部で屈曲させられることにより形成されている。受圧部66は、後側ほど周壁部22から遠ざかるように略一定の角度で傾斜していて、テーパ状をなしている。
【0064】
上記のようにして、第1実施形態のステアリングホイール10の制振構造が構成されている。次に、この制振構造の作用を中心に第1実施形態の作用について説明する。
第1実施形態のステアリングホイール10では、運転者が図3及び図4に示すパッドカバー12を前方へ押圧することにより、バックホルダ31がエアバッグ装置20の他の構成部品を伴って前方へ変位する。この変位により、ホーンスイッチ機構35が閉成して、ホーン装置が作動(鳴動)する。
【0065】
また、エアバッグ装置20では、車両に対し、前面衝突(前突)等による前方からの衝撃が加わらない通常時には、インフレータ21の各ガス噴出孔23からガスGが噴出されず、エアバッグ27が折り畳まれた状態に維持される。
【0066】
上記通常時であって、車両の高速走行中や車載エンジンのアイドリング中に、ステアリングホイール10に対し、上下方向や左右方向の振動が伝わる場合がある。この振動は、エアバッグ装置20では、バックホルダ31、各弾性支持部56等を介してインフレータ21に伝わる。この際、インフレータ21のフランジ24は、支持部材46のシール部57から離れていて、両者24,57間の隙間Cが、インフレータ21の振動を許容する(図3及び図4参照)。
【0067】
上記振動に応じて、エアバッグ装置20では、インフレータ21がダイナミックダンパのダンパマスとして機能し、支持部材46の各弾性支持部56がダイナミックダンパのばねとして機能する。
【0068】
例えば、ステアリングホイール10が所定の周波数で上下方向へ振動すると、その周波数と同一又は近い共振周波数で各弾性支持部56が弾性変形しながら、インフレータ21と、これに一体に設けられた受圧部66(ガスプレート61)とを伴って上下方向に振動(共振)し、ステアリングホイール10の上下方向の振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイール10の上下方向の振動が抑制(制振)される。
【0069】
また、ステアリングホイール10が所定の周波数で左右方向へ振動すると、その周波数と同一又は近い共振周波数で各弾性支持部56が弾性変形しながらインフレータ21及び受圧部66(ガスプレート61)を伴って左右方向へ振動し、ステアリングホイール10の左右方向の振動エネルギーを吸収する。この吸収により、ステアリングホイール10の左右方向の振動が抑制(制振)される。
【0070】
このようにして、第1実施形態では、ステアリングホイール10について、上下及び左右のいずれの方向についても振動が抑制(制振)される。
ところで、前突等により車両に対し前方から衝撃が加わると、慣性により運転者が前傾しようとする。一方、エアバッグ装置20では、前記衝撃に応じインフレータ21が作動させられ、各ガス噴出孔23からガスGが周壁部22の径方向外方へ噴出される。
【0071】
上記のように噴出されたガスGは、後側ほど周壁部22から遠ざかるように傾斜している受圧部66に当たり、流れの向きを、図3(B)及び図4(B)において実線の矢印で示すように、周壁部22の径方向外方から後方へ変えられる。この向きを変えられたガスGは、エアバッグ27内に供給される。このガスGにより、エアバッグ27が後側(運転者側)へ向けて、折り状態を解消(展開)しながら膨張する。この展開膨張するエアバッグ27により、パッドカバー12の蓋部13に押圧力が加わる。蓋部13が破断予定部16において破断されるまでは、エアバッグ27の展開膨張が規制される。
【0072】
また、各ガス噴出孔23からのガスGの圧力は、上記のように傾斜している受圧部66によって受けられ、図3(B)及び図4(B)において白抜きの矢印で示すように、同受圧部66において前方へ向かう力Fが発生される。この力Fにより、ガス噴出孔23からのガスGの噴出開始直後からインフレータ21が各弾性支持部56を弾性変形させながら前方へ移動し、シール部57において支持部材46に接触する。この接触により、インフレータ21と支持部材46との間がシールされた状態となり、連通孔58からのガス漏れが抑制される。
【0073】
さらに、各ガス噴出孔23に対し、周壁部22の径方向外方に近接する箇所に受圧部66が設けられている第1実施形態では、各ガス噴出孔23と受圧部66との間隔が狭く、各ガス噴出孔23から噴出されたガスGが短時間で受圧部66に到達する。ガスGの噴出開始後、受圧部66によって後方へ向きを変えられるまでの時間が短く、その分、エアバッグ27の膨張開始時期が早まる。また、ガスGの噴出開始後、受圧部66において前方へ向かう力Fが発生するまでの時間が短く、その分、インフレータ21がシール部57において支持部材46に接触してシールが開始される時期が早まる。
【0074】
エアバッグ27がパッド部11の内部(パッドカバー12及びロアカバー間)で膨張するときには、その膨張がパッド部11によって制限されるため、時間の経過に伴い同エアバッグ27の内圧が急激に上昇する。ガスGにより前方へ移動させようとする力がインフレータ21に加わるようになる。この力と、受圧部66による上記力Fとによって、インフレータ21はシール部57において支持部材46に強く接触する。そして、エアバッグ27の内圧は、同エアバッグ27がパッド部11から飛び出す直前に最も高くなる。
【0075】
上記展開膨張するエアバッグ27により、パッドカバー12の蓋部13に加わる押圧力が増大していくと、同蓋部13が破断予定部16において破断される。破断により生じた開口を通じてエアバッグ27が後方へ向けて引き続き展開膨張する。前突の衝撃により前傾しようとする運転者の前方に、展開膨張したエアバッグ27が介在し、運転者の前傾が拘束されて、運転者が衝撃から保護される。
【0076】
上記のように内圧の上昇したエアバッグ27が蓋部13を破断してパッドカバー12から飛び出すと、パッド部11による上記膨張の制限がなくなる。そのため、エアバッグ27が急激に膨張し、そのエアバッグ27の内圧が急激に下降して負圧(大気圧よりも低い圧力)となる。
【0077】
このときにも、各ガス噴出孔23から噴出されたガスGの圧力が受圧部66に受けられて、前方へ向かう力Fが発生される。しかし、この力Fは、負圧がインフレータ21を後方へ移動させようとする力よりも小さい。そのため、各弾性支持部56の弾性復元力によりインフレータ21が後方へ移動して、フランジ24が支持部材46のシール部57から一時的に離れ、両者24,57間に隙間Cを生ずる。
【0078】
しかし、ガス噴出孔23から噴出されたガスGは引き続き受圧部66に当たって、向きを後方へ変えられる。この向きを変えられたガスGにより、エアバッグ27の外部の空気Aが、上記隙間Cを通じてエアバッグ27の内部へ引き込まれる。フランジ24とシール部57との間の隙間Cでは、図3(B)及び図4(B)において二点鎖線の矢印で示すように、エアバッグ27の外部から内部へ向かう空気Aの流れが生ずる。そのため、隙間Cが生じているにも拘らず、エアバッグ27内のガスGが上記隙間Cを通って連通孔58から漏れ出ることが抑制される。
【0079】
そして、エアバッグ27内へガスGが継続して供給されることにより内圧が高くなっていくと、インフレータ21を前方へ移動させようとする力が増加していき、インフレータ21がシール部57において再び支持部材46に接触し、連通孔58からのガス漏れが抑制される。
【0080】
なお、各ガス噴出孔23から噴出されたガスGは、上述したように周壁部22の径方向外方へ流れる。そのため、仮に、周壁部22(ガス噴出孔23)と、エアバッグ27のバックホルダ31に対する固定部分(ガス導入口28の周辺部分)との間に、ガスGの流れを妨げるものが何もないとすると、各ガス噴出孔23から噴出されたガスGは、エアバッグ27の上記固定部分に触れて悪影響を及ぼすおそれがある。
【0081】
この点、第1実施形態では、各ガス噴出孔23から噴出されたガスGは、エアバッグ27の上記の固定部分に到達する前に受圧部66に当たり、後方へ向きを変えられる。その結果、各ガス噴出孔23から噴出されたガスGが、エアバッグ27の上記固定部分に直接触れることが起こりにくい。
【0082】
また、受圧部66が、仮に、インフレータ21と一体となって動かない部材、例えばバックホルダ31等に固定された場合には、各ガス噴出孔23と受圧部66との位置関係が、インフレータ21の上記移動に伴い変化する。そのため、インフレータ21の位置によっては、各ガス噴出孔23から噴出されたガスGが受圧部66にうまく当たらず、上述したガスGの向きを後方へ変える機能や、前方へ向かう力Fを発生させる機能が充分発揮されないおそれがある。
【0083】
この点、第1実施形態では、受圧部66がインフレータ21のフランジ24に一体に設けられていることから、同インフレータ21の位置に拘らず、各ガス噴出孔23に対し、周壁部22の径方向外方に近接する箇所に受圧部66が常に位置する。そのため、インフレータ21の位置に拘らず、各ガス噴出孔23から噴出されたガスGが受圧部66に当たり、上述したガスGの向きを後方へ変える機能や、前方へ向かう力Fを発生させる機能が、充分に発揮される。
【0084】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)インフレータ21のガス噴出孔23に近接する箇所に、同ガス噴出孔23から周壁部22の径方向外方へ噴出されたガスGの向きを後方へ変え、かつ同ガスGの圧力を受けて前方へ向かう力Fを発生させる受圧部66を、インフレータ21(フランジ24)に一体に設けている(図3、図4)。
【0085】
そのため、インフレータ21の位置に拘らず、常に各ガス噴出孔23に対し、周壁部22の径方向外方に近接する箇所に受圧部66を位置させることができる。そして、この受圧部66により、インフレータ21からのガスGの噴出開始後、早期にインフレータ21を前方へ移動させて、同インフレータ21をシール部57において支持部材46に接触させることができ、早期に連通孔58からのガス漏れを抑制することができる。
【0086】
(2)受圧部66を、ガス噴出孔23に対し、周壁部22の径方向外方に近接する箇所に設けている(図3、図4)。
そのため、ガスGの噴出開始後、受圧部66によって後方へ向きを変えられるまでの時間を短くし、エアバッグ27の膨張開始時期を早めることができる。また、ガスGの噴出開始後、受圧部66において前方へ向かう力Fが発生するまでの時間を短くし、シールの開始時期を早めることができ、上記(1)の効果をより早くから得ることができる。
【0087】
(3)受圧部66を、後側ほどインフレータ21の周壁部22から遠ざかるように傾斜させている(図3、図4)。
そのため、ガス噴出孔23から噴出されたガスGの向きを、上記受圧部66によって後方へ効率よく変えることができる。また、ガス噴出孔23から噴出されたガスGの圧力を上記受圧部66によって受けることで、前方へ向かう力Fを効率よく発生させることができる。
【0088】
(4)エアバッグ27におけるガス導入口28の周辺部分を、受圧部66よりも周壁部22の径方向外方でバックホルダ31に固定している(図4(A))。
そのため、エアバッグ27のバックホルダ31との固定部分(ガス導入口28の周辺部分)が、各ガス噴出孔23から噴出されたガスGの熱の影響を受けるのを抑制することができる。
【0089】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、図5〜図8を参照して説明する。
なお、図5では、インフレータ21への作動信号の入力配線となるハーネス30が、同インフレータ21の一対のコネクタ26に接続された状態で図示されている。
【0090】
第2実施形態では、ガスプレート61として、第1実施形態とは若干異なる構成を有するものが用いられている。
図7及び図8に示すように、ガスプレート61は、第1実施形態と同様、取付け基部62及び受圧部66を備えている。取付け基部62は、インフレータ21の軸線L1を中心とする円環状をなしている。また、取付け基部62は、上記軸線L1に直交する略平板状をなしている。取付け基部62の周方向についての複数箇所(4箇所)からは、突部62Aが周壁部22の径方向外方へ向けて突出している。各突部62Aには、上記締結用挿通孔63があけられている。そして、ガスプレート61は、取付け基部62の各突部62Aにおいて、リベット64によりフランジ24とともに各弾性支持部56に締結されている(図4(B)参照)。
【0091】
弾性支持部56は、絶縁性の弾性材料であるゴムによって形成されている。また、受圧部66を含め、ガスプレート61の全体は導電性を有する金属の板材(金属板)によって形成されている。さらに、バックホルダ31もまた導電性を有する金属の板材(金属板)によって形成されている。
【0092】
ガスプレート61の取付け基部62において、隣り合う突部62A間、本実施形態では、特定の突部62Aに対し、取付け基部62の周方向に接近した箇所には、アース端子67が設けられている。アース端子67は、ガスプレート61を構成する金属板の一部を前方へ向けて曲げることにより、ガスプレート61に一体に形成されている。
【0093】
図6及び図7に示すように、支持部材46の支持板部47において、周壁部22の径方向についての中間部分には、前後方向に貫通する貫通孔50が設けられている。上記アース端子67は、この貫通孔50を後方から前方へ向けて貫通し、ステアリングホイール10(支持部材46)の前面において露出している。
【0094】
一方、図5に示すように、バックホルダ31において、特定の取付け部36の近傍には、アース端子68が設けられている。このアース端子68が設けられた箇所は、上記ガスプレート61のアース端子67に接近した箇所でもある。この箇所において、アース端子68はステアリングホイール10の前面において露出している。
【0095】
上述したように、バックホルダ31は、ホーンスイッチ機構35を介して、ステアリングホイール10の芯金Bに支持されている(図3(A)参照)。芯金Bは、ステアリングシャフト(図示略)等を介して車両のボディに接続されている。そして、上記ガスプレート61のアース端子67と、バックホルダ31のアース端子68とは、アース線69によって接続されている。アース線69は、アース端子68、バックホルダ31、芯金B、ステアリングシャフト等とともに、インフレータ21に帯電した電荷を放電するためのアース経路を構成している。このようにして、アース経路がアース線69においてガスプレート61のアース端子67に接続されている。
【0096】
上記以外の構成は第1実施形態と同様である。そのため、第1実施形態で説明したものと同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
次に、上記のようにして構成された第2実施形態の作用について説明する。
【0097】
図7に示すように、支持部材46の貫通孔50を後方から前方へ向けて貫通するアース端子67は、同支持板部47において、周壁部22の径方向についての中間部分を通り、ステアリングホイール10の前面において露出する。そのため、アース端子67を、支持板部47において周壁部22の径方向についての外縁部まで引き延ばす場合に比べ、ステアリングホイール10の制振構造の上記径方向についての寸法が小さくなる。
【0098】
また、ステアリングホイール10(支持部材46)の前面からは、貫通孔50を貫通した上記アース端子67が露出する。アース端子67にアース経路(この場合、アース線69)が接続されていれば、その接続部分もステアリングホイール10(支持部材46)の前面から露出する。これらの露出部分は、ステアリングホイール10の前方から視認可能である。
【0099】
ところで、制振構造を有するステアリングホイール10では、インフレータ21が、絶縁性の弾性材料(ゴム)からなる弾性支持部56により弾性支持されていて、導電性の部品から電気的に遮断される。そのため、こうした弾性支持部56による制振構造を有さないステアリングホイールとは異なり、ステアリングホイール10の振動に伴い、インフレータ21がエアバッグ27、シール部57等と擦れると、電荷がインフレータ21に溜まる。この電荷は静電気を引き起こし、インフレータ21の誤作動の原因となり得る。
【0100】
しかし、導電性材料により形成されているガスプレート61にアース端子67が設けられ、これにアース経路が接続されている第2実施形態では、インフレータ21の電荷は、ガスプレート61、アース端子67及びアース経路を通じて放電される。
【0101】
従って、第2実施形態によれば、上述した(1)〜(4)に加え、次の効果が得られる。
(5)ガスプレート61にアース端子67を設け、インフレータ21に帯電した電荷を放電するためのアース経路をアース端子67に接続している(図5、図7)。
【0102】
そのため、ステアリングホイール10の振動に伴いインフレータ21に溜まる電荷が原因で、そのインフレータ21が誤作動するのを抑制することができる。
なお、インフレータ21にアース端子を直接設けることでも、同様の効果は得られるが、インフレータ21に対し加工を行なう必要がある。第2実施形態では、インフレータ21に加工を行なうことなく、上記の効果を得ることができる。
【0103】
(6)ガスプレート61のアース端子67をステアリングホイール10(支持部材46)の前面に露出させている(図5、図6)。
そのため、ステアリングホイール10を前方から視認することで、アース端子67に対するアース経路(アース線69)の接続状況、例えば接続の有無等を瞬時に把握することが可能となる。ステアリングホイール10の出荷前に、アース線69の接続状況を簡単に検査することができる。
【0104】
(7)バックホルダ31のアース端子68についてもステアリングホイール10の前面に露出させている(図5)。
そのため、アース端子68に対するアース線69の接続状況について、上記(6)と同様の効果を得ることができる。
【0105】
(8)支持板部47において周壁部22の径方向についての中間部分に貫通孔50を設け、アース端子67を後方から前方へ向けて貫通孔50に貫通させている(図6、図7)。
【0106】
そのため、アース端子67を設けることにより、ステアリングホイールの制振構造が周壁部22の径方向に大きくなるのを抑制し、同制振構造のコンパクト化を図ることができる。
【0107】
(9)アース端子67をガスプレート61に一体に形成している(図8)。
そのため、アース端子67とガスプレート61とが別々の部品によって構成される場合に比べ部品点数を少なくすることができる。また、アース端子67をガスプレート61に固定する作業も不要となる。
【0108】
(10)ガスプレート61を構成する金属板を曲げることによりアース端子67を形成している(図7、図8)。
そのため、金属板を曲げるといった簡単な加工を行なうだけで、アース端子67が一体となったガスプレート61を形成することができる。
【0109】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<受圧部66について>
・受圧部66は、インフレータ21におけるフランジ24の一部として形成されてもよい。
【0110】
・受圧部66はインフレータ21に直接取付けられてもよい。その一例を図9に示す。なお、図9では、インフレータ21の内部の図示が割愛されている。この場合、インフレータ21の周壁部22であって、各ガス噴出孔23よりも前方側(図9の右側)となる箇所には、周壁部22の径方向外方へ向けて開口する凹部71が設けられる。この凹部71は、例えば同図9に示すように、周壁部22の周方向に延びる溝部によって構成されてもよい。溝部は、周壁部22の全周にわたって設けられてもよい。また、図示しないが、凹部71は、周壁部22の周方向について、ガス噴出孔23に対応して互いに離間した箇所に設けられた複数の穴部によって構成されてもよい。そして、受圧部66を有するガスプレート61が、取付け基部62において凹部71に係入(嵌入、圧入)されることで、受圧部66がインフレータ21に取付けられる。
【0111】
・「ガス噴出孔23から周壁部22の径方向外方へ噴出されたガスGの向きを後方へ変え、かつ同ガスGの圧力を受けて前方へ向かう力Fを発生させるものであること」を条件に、受圧部66の構成が変更されてもよい。
【0112】
例えば、受圧部66が、ガス噴出孔23よりも前方で、インフレータ21の軸線L1に直交する第1壁部と、その第1壁部の径方向外縁部から、軸線L1に平行な状態でガス噴出孔23よりも後方まで延びる第2壁部とによって構成されてもよい。この場合、ガス噴出孔23から周壁部22の径方向外方へ噴出されたガスGは、第2壁部に当たり、前方へ流れを変えるものと、後方へ流れを変えるものとに分かれる。前方へ流れを変えたガスGは第1壁部によって受け止められ、前方へ向かう力Fが発生する。
【0113】
・受圧部66は、略一定の角度で傾斜するもの(上記各実施形態がこれに該当する)のほか、インフレータ21の軸線L1に沿って傾斜角度が徐々に変化するものであってもよい。また、受圧部66は、周壁部22の径方向内方や外方へ膨らむ(凹む)ように湾曲しながら、全体として、後側ほど周壁部22から遠ざかるように傾斜するものであってもよい。
【0114】
<インフレータ21について>
・インフレータ21の周壁部22は、円筒状以外の筒状をなすものであってもよい。
<弾性支持部56について>
・支持部材46の上記各実施形態とは異なる箇所に弾性支持部56が設けられてもよい。また、支持部材46における弾性支持部56の数が変更されてもよい。
【0115】
・弾性支持部56は、円筒状をなすものに限らず、他の筒状、例えば円錐筒状をなすものであってもよい。
<シール部57について>
・シール部57は、インフレータ21のみに設けられてもよいし、インフレータ21及び支持部材46の両方に設けられてもよい。シール部57の設けられる対象がインフレータ21の場合には、例えば、弾性を有する部材がフランジ24の前面に貼付けられて、シール部57とされてもよい。また、シール部57は、インフレータ21においてフランジ24とは異なる箇所に設けられてもよい。
【0116】
<アース端子67について>
・アース端子67は、ガスプレート61とは別の部品によって構成されてもよい。ただし、この場合には、アース端子67をガスプレート61に固定する構造が必要となる。
【0117】
・アース端子67は、取付け基部62に代えて受圧部66に設けられてもよい。
・アース端子67は、支持板部47において周壁部22の径方向についての外側まで引き延ばされてもよい。この場合には、支持板部47における貫通孔50は不要となる。
【0118】
・アース端子67に対するアース経路(アース線69)の接続状況の検査(確認)が、視認とは異なる方法で行なわれる場合には、アース端子67は必ずしもステアリングホイール10の前面に露出しない箇所(隠れた箇所)に設けられてもよい。
【0119】
<その他>
・バックホルダ31、カップリテーナ41、支持板部47及びガスプレート61の少なくとも1つは、プレス加工以外の形成手段、例えばダイカスト成形等によって形成されてもよい。
【0120】
・本発明は、車両に限らず、航空機、船舶等の他の乗物における操舵装置のステアリングホイールの制振構造に適用することもできる。この場合、車両には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
【0121】
その他、前記各実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに記載する。
(A)請求項5〜7のいずれか1つに記載のステアリングホイールの制振構造において、前記アース端子は前記ガスプレートに一体に形成されている。
【0122】
上記の構成によれば、アース端子とガスプレートとは一体となっているため、これらが別々の部品によって構成される場合に比べ部品点数が少なくてすむ。
(B)前記(A)に記載のステアリングホイールの制振構造において、前記アース端子は、前記ガスプレートを構成する板材を曲げることにより形成されている。
【0123】
上記の構成によれば、板材を曲げるといった簡単な加工を行なうだけで、アース端子が一体となったガスプレートが形成される。
【符号の説明】
【0124】
10…ステアリングホイール、11…パッド部、21…インフレータ、22…周壁部、23…ガス噴出孔、27…エアバッグ、31…バックホルダ、46…支持部材、50…貫通孔、56…弾性支持部、57…シール部、58…連通孔、61…ガスプレート、66…受圧部、67,68…アース端子、69…アース線(アース経路の一部を構成)、F…力、G…ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールのパッド部内に配設されるエアバッグと、前記パッド部内の前記エアバッグよりも前側に配設され、周壁部に設けられたガス噴出孔から同周壁部の径方向外方へガスを噴出して前記エアバッグを後方へ膨張させるインフレータと、前記インフレータの前側で同インフレータを弾性支持する弾性支持部を有する支持部材とを備え、前記インフレータをダイナミックダンパのダンパマスとして機能させるとともに、前記弾性支持部をダイナミックダンパのばねとして機能させ、さらに、前記支持部材において前記インフレータと対向する位置に連通孔を設け、前記インフレータ及び前記支持部材の少なくとも一方には、前記連通孔を取り囲む位置に環状のシール部を設け、前記インフレータを前記シール部において前記支持部材に接触させることで、前記連通孔からのガス漏れを規制するようにしたステアリングホイールの制振構造であって、
前記ガス噴出孔に近接する箇所には、同ガス噴出孔から前記周壁部の径方向外方へ噴出されたガスの向きを後方へ変え、かつ同ガスの圧力を受けて前方へ向かう力を発生させる受圧部が前記インフレータに一体に設けられていることを特徴とするステアリングホイールの制振構造。
【請求項2】
前記受圧部は、前記ガス噴出孔に対し、前記周壁部の径方向外方に近接する箇所に設けられている請求項1に記載のステアリングホイールの制振構造。
【請求項3】
前記受圧部は、後側ほど前記周壁部から遠ざかるように傾斜している請求項2に記載のステアリングホイールの制振構造。
【請求項4】
前記パッド部内にはバックホルダが配設され、前記エアバッグは前記受圧部よりも前記周壁部の径方向外方で前記バックホルダに固定されている請求項2又は3に記載のステアリングホイールの制振構造。
【請求項5】
前記弾性支持部は絶縁性の弾性材料により形成され、
前記受圧部は、導電性材料により形成され、かつ前記周壁部の周りに配置されたガスプレートの一部として設けられており、
前記ガスプレートにはアース端子が設けられており、前記インフレータに帯電した電荷を放電するためのアース経路が前記アース端子に接続されている請求項1〜4のいずれか1つに記載のステアリングホイールの制振構造。
【請求項6】
前記アース端子は、前記ステアリングホイールの前面に露出している請求項5に記載のステアリングホイールの制振構造。
【請求項7】
前記支持部材において、前記周壁部の径方向についての中間部分には貫通孔が設けられており、
前記アース端子は前記貫通孔を後方から前方へ向けて貫通している請求項6に記載のステアリングホイールの制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−79053(P2013−79053A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−78737(P2012−78737)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】