説明

スパッタリングターゲット、透明導電膜及び透明電極

【課題】異常放電を抑制し安定にスパッタリングを行うことのできるターゲット、金属又は合金用のエッチング液であるリン酸系エッチング液でもエッチング可能な透明導電膜が得られるターゲットを提供する。
【解決手段】インジウム、錫、亜鉛、酸素を含有し、六方晶層状化合物、スピネル構造化合物及びビックスバイト構造化合物を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結して作製したスパッタリングターゲット(以下、単に、スパッタリングターゲット、又はターゲットと称する場合がある。)、スパッタリングターゲットを用いて成膜される透明導電膜及び透明電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、表示装置の発展はめざましく、液晶表示装置(LCD)や、エレクトロルミネッセンス表示装置(EL)、又はフィールドエミッションディスプレイ(FED)等が、パーソナルコンピュータや、ワードプロセッサ等の事務機器や、工場における制御システム用の表示装置として使用されている。そして、これら表示装置は、いずれも表示素子を透明導電性酸化物により挟み込んだサンドイッチ構造を備えている。
【0003】
このような透明導電性酸化物としては、非特許文献1に開示されているように、スパッタリング法、イオンプレーティング法、又は蒸着法によって成膜されるインジウム錫酸化物(以下、ITOと略称することがある)が主流を占めている。
【0004】
かかるITOは、所定量の酸化インジウムと、酸化錫とからなり、透明性や導電性に優れるほか、強酸によるエッチング加工が可能であり、さらに基板との密着性にも優れているという特徴がある。
【0005】
ITOは、透明導電性酸化物の材料として優れた性能を有するものの、希少資源であるだけでなく、生体に対して有害でもあるインジウムを大量に含有(90原子%程度)させなければならないという問題があった。また、インジウム自体がスパッタ時のノジュール(突起物)発生の原因となり、このターゲット表面に発生したノジュールも異常放電の原因の一つにもなっていた。特に、エッチング性の改良を目的としたアモルファスITO膜の成膜に際しては、そのスパッタリングチャンバー内に微量の水や水素ガスを導入するために、ターゲット表面のインジウム化合物が還元されてノジュールがさらに発生しやすいという問題が見られた。そして、異常放電が発生すると飛散物が成膜中又は成膜直後の透明導電性酸化物に異物として付着するという問題が見られた。
【0006】
このように、供給の不安定性(希少性)、有害性、スパッタ時のノジュールの発生の問題からITO中のインジウムを減らす必要があった。しかし、ITO中のインジウムの含有量を90原子%以下に削減しようとするとターゲット中の高抵抗の錫化合物が電荷(チャージ)を持ち異常放電が起こりやすくなる等の問題が発生していた。
【0007】
また、一般に配線用の金属や金属合金(AlやAl合金等)のエッチングにはリン酸系エッチング液、ITOのエッチングには蓚酸系エッチング液、と異なるエッチング液を用いるためタンク等エッチング液用の設備が個別に必要であったり、配線と電極を一括してエッチングすることはできない等生産性の向上に課題があった。
【0008】
また、In(ZnO)(ただし、mは2〜20の整数である。)で表される六方晶層状化合物を含有し、かつ、該六方晶層状化合物の結晶粒径を5μm以下の値とするすることでノジュールの発生を防ぎ異常放電を抑える方法も検討されている(特許文献1、2)。しかし、この方法ではインジウムを70原子%以下まで削減すると抵抗が高いZnO数が大きい(mが4以上のIn(ZnO))六方晶化合物が発生するおそれがあった。また、ターゲットの焼結密度や導電性が低下し、異常放電や成膜速度が遅くなる原因となる、ターゲットの強度が低く割れやすい、スパッタリングで成膜した透明導電膜が空気存在下での耐熱性が劣るおそれがある等の問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO01/038599パンフレット
【特許文献2】特開平6−234565号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「透明導電膜の技術」((株)オーム社出版、日本学術振興会、透明酸化物・光電子材料第166委員会編、1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、理論相対密度が高く、抵抗が低く、強度の高いターゲット、インジウム含有量を低減したターゲット、スパッタリング法を用いて透明導電膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し安定にスパッタリングを行うことのできるターゲット、金属又は合金用のエッチング液であるリン酸系エッチング液でもエッチング可能な透明導電膜が得られるターゲット、それらのターゲットを用いて作製した透明導電膜、透明電極及び透明電極の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
インジウム、錫、亜鉛を主成分とする酸化物焼結ターゲットは、原料の形態・焼結時の温度履歴・熱処理方法・組成比等で、In(ZnO)(mは2〜20の整数)で表される六方晶層状化合物、SnOで表されるルチル構造化合物、ZnOで表されるウルツ鉱形化合物、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物、Inで表されるビックスバイト構造化合物をはじめZnSnO、SnIn12等の結晶構造を含む可能性がある。また、それらの結晶構造が様々な組合せを取り得ると考えられる。
【0013】
多くの化合物の組合せのうちスピネル構造化合物、ビックスバイト構造化合物及び六方晶層状化合物を併せて含有したものは、抵抗が低く、理論相対密度が高く、強度の高いターゲットとなることを見出した。この効果の理由は完全には解明できていないが、ZnSnO等で表されるスピネル構造化合物にInが固溶しやすいことが関係しており、正二価のZnと正四価のSnが組になると、正三価のInに置換しやすくなると推定される。また、インジウムと亜鉛のみからなる場合、インジウム量が減少するとIn(ZnO)のmが大きいものが生成しやすくなるが、Snが適量含まれていることで抵抗の比較的低いm=3のIn(ZnO)が生成しやくなるためと思われる。
【0014】
また、このターゲットを用いてスパッタリング法で成膜した透明導電膜は、インジウムが削減されていても、導電性、エッチング性、耐熱性等に優れ、液晶ディスプレイに代表されるディスプレイやタッチパネル、太陽電池等各種の用途に適していることを見出した。
【0015】
さらに、このターゲットを用いてスパッタリングで成膜した透明導電膜は金属又は合金用のエッチング液であるリン酸系エッチング液でもエッチング可能な透明導電膜が得られ、生産性の向上に寄与し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明によれば、以下のスパッタリングターゲット、その製造方法、透明導電膜及び透明電極が提供される。
[1]インジウム、錫、亜鉛、酸素を含有し、六方晶層状化合物、スピネル構造化合物及びビックスバイト構造化合物を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
[2]前記六方晶層状化合物がIn(ZnO)で表され、前記スピネル構造化合物がZnSnOで表され、前記ビックスバイト構造化合物がInで表されることを特徴とする上記[1]記載のスパッタリングターゲット。
[3]In/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.33〜0.6の範囲内の値であり、
Sn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.05〜0.15の範囲内の値であることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のスパッタリングターゲット。
【0017】
[4]X線回折(XRD)におけるピークについて、
六方晶層状化合物の最大ピーク強度Iと、
スピネル構造化合物の最大ピーク強度I、及び
ビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度I
が下記の関係を満たすことを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
/Iが、0.05〜20の範囲内
/Iが、0.05〜20の範囲内
【0018】
[5]Inリッチ相、Snリッチ相及びZnリッチ相の3相の組織を備えるインジウム−錫−亜鉛系酸化物からなることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
[6]スピネル構造化合物のマトリックス中に、六方晶層状化合物及びビックスバイト構造化合物の粒子が分散していることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
[7]バルク抵抗が0.2〜10mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
[8]理論相対密度が90%以上であることを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれか記載のスパッタリングターゲット。
【0019】
[9]インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、及びそれらの粉末の粒径よりも小さい粒径の錫化合物粉末を、In/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.33〜0.6の範囲内、及びSn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.05〜0.15の範囲内の割合で配合した混合物を得る工程と、
該混合物を加圧成形し成形体を作る工程と、
該成形体を1250〜1700℃で30分〜360時間焼成する工程と、
を含む上記[1]〜[8]のいずれか記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
[10]上記[1]〜[8]のいずれか記載のスパッタリングターゲットをスパッタリング法により成膜してなる透明導電膜。
[11]上記[10]記載の透明導電膜をエッチングすることによって作製された透明電極。
[12]電極端部のテーパー角が30〜89度の範囲内である上記[11]記載の透明電極。
[13]上記[10]記載の透明導電膜を、リン酸系エッチング液を用いて、金属又は合金と一括してエッチングする工程を含む、透明電極の作製方法。
【0020】
本発明によれば、抵抗が低く、理論相対密度が高く、強度の高いターゲットが得られる。
本発明によれば、スパッタリング法を用いて透明導電膜を成膜する際に発生する異常放電を抑制し安定にスパッタリングを行うことのできるターゲットが得られる。
本発明によれば、導電性、エッチング性、耐熱性等に優れた透明導電膜が得られる。
本発明によれば、金属又は合金用のエッチング液であるリン酸系エッチング液でもエッチング可能な透明導電膜が得られる。そのため、金属又は合金と一括してエッチングを行うことができ、透明電極の生産性の向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施例1で得られたターゲットのX線回折のチャートを示す図である。
【図2】図2は、実施例1で得られたターゲットの3つのリッチ相(Inリッチ相、Snリッチ相、Znリッチ相)を示す電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるターゲット断面の元素分析画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のスパッタリングターゲット、透明導電膜及び透明電極について詳細に説明する。
【0023】
I.スパッタリングターゲット
(I−1)スパッタリングターゲットの構成
本発明のスパッタリングターゲット(以下、本発明のターゲットということがある)は、インジウム、錫、亜鉛、酸素を含有し、六方晶層状化合物、スピネル構造化合物及びビックスバイト構造化合物を含むことを特徴とする。
【0024】
上述したように、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物、Inで表されるビックスバイト構造化合物及びIn(ZnO)(mは2〜20の整数)で表される六方晶層状化合物のうちm=3のものを併せて含有したものは、抵抗が低く、理論相対密度が高く、強度の高いターゲットとなる。
【0025】
ターゲット中の化合物の結晶状態は、ターゲットから採取した試料をX線回折法により観察することによって判定することができる。
【0026】
ここで、スピネル構造化合物について説明する。
「結晶化学」(講談社、中平光興 著、1973)等に開示されている通り、通常ABの型あるいはABXの型をスピネル構造と呼び、このような結晶構造を有する化合物をスピネル構造化合物という。
【0027】
一般にスピネル構造では陰イオン(通常は酸素)が立方最密充填をしており、その四面体隙間及び八面体隙間の一部に陽イオンが存在している。
【0028】
尚、結晶構造中の原子やイオンが一部他の原子で置換された置換型固溶体、他の原子が格子間位置に加えられた侵入型固溶体もスピネル構造化合物に含まれる。
【0029】
本発明のターゲットの構成成分であるスピネル構造化合物は、ZnSnOで表される化合物であることが好ましい。即ち、X線回折で、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースのNo.24−1470のピークパターンか、あるいは類似の(シフトした)パターンを示す。
【0030】
次に、ビックスバイト構造化合物について説明する。ビックスバイト(bixbyite)は、希土類酸化物C型あるいはMn(I)型酸化物とも言われる。「透明導電膜の技術」((株)オーム社出版、日本学術振興会、透明酸化物・光電子材料第166委員会編、1999)等に開示されている通り、化学量論比がM(Mは陽イオン、Xは陰イオンで通常酸素イオン)で、一つの単位胞はM16分子、合計80個の原子(Mが32個、Xが48個)により構成されている。本発明のターゲットの構成成分であるビックスバイト構造化合物は、これらの内、Inで表される化合物、即ちX線回折で、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースのNo.06−0416のピークパターンか、あるいは類似の(シフトした)パターンを示すものであることが好ましい。
【0031】
尚、結晶構造中の原子やイオンが一部他の原子で置換された置換型固溶体、他の原子が格子間位置に加えられた侵入型固溶体もビックスバイト構造化合物に含まれる。
【0032】
ここで、六方晶層状化合物とは、L. Dupont et al., Journal of Solid State Chemistry 158, 119-133(2001)、Toshihiro Moriga et al., J. Am. Ceram. Soc., 81(5) 1310-16(1998)等に記載された化合物であり、本発明でいう六方晶層状化合物とは、In(ZnO)(mは2〜20の整数)あるいはZnInk+3(kは整数)で表される化合物である。
上記の六方晶層状化合物うち、本発明のターゲットに含まれる六方晶層状化合物は、In(ZnO)において、m=3の化合物であることが好ましい。m=3以外の化合物を含有すると、バルク抵抗が高くなる、ターゲットの密度が上がらない、強度が低下する等のおそれがある。
【0033】
本発明のターゲットは、In/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.33〜0.6の範囲内の値であり、Sn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.05〜0.15の範囲内の値であることが好ましい。
上記原子比は、誘導結合プラズマ(ICP)分光分析によって測定することができる。
【0034】
In/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.33より小さいと、ターゲットの抵抗が高くなったり、スパッタリング時のスパッタリングレートが遅くなるおそれがあり、また、0.6より大きいと、インジウムを削減する効果がなくなったり、ノジュールが発生するおそれがある。In/(In+Sn+Zn)で表される原子比は、0.35〜0.55の範囲内の値であることがより好ましく、0.37〜0.5の範囲内の値であることが特に好ましい。
【0035】
Sn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.05より小さいと、スピネル構造化合物の生成が困難となりターゲットの相対密度が低くなったり、抵抗が高めになるおそれがあり、また、0.15より大きいと、六方晶層状化合物の生成が困難となり、スパッタリング法で作製した透明導電膜の、リン酸系エッチング液でのエッチングが困難となるおそれがある。Sn/(In+Sn+Zn)で表される原子比は、0.06〜0.13であることがさらに好ましく、0.07〜0.11の範囲内の値であることが特に好ましい。
また、Zn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.2〜0.7であることがより好ましく、0.3〜0.6であると特に好ましい。
【0036】
本発明のターゲットは、X線回折(XRD)におけるピークについて、
六方晶層状化合物の最大ピーク強度Iと、
スピネル構造化合物の最大ピーク強度I、及び
ビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度I
が下記の関係を満たすことが好ましい。
/Iが、0.05〜20の範囲内
/Iが、0.05〜20の範囲内
【0037】
上記最大ピーク強度の比は、X線回折(XDR)による求めたチャートより任意の範囲(例えば、2θ=15〜65°の範囲)に存在する最大ピーク強度から計算することによって測定することができる。
【0038】
/Iで表される最大ピーク強度の比が0.05より小さいと、スパッタリング法で作製した透明導電膜の、リン酸系エッチング液でのエッチングが困難となるおそれがあり、また、20より大きいと、ターゲットの抵抗が高くなったり、スパッタリング時のスパッタリングレートが遅くなるおそれがある。I/Iで表される最大ピーク強度の比は、0.1〜10の範囲内であることがより好ましい。
【0039】
/Iで表される最大ピーク強度の比が0.05より小さいと、スパッタリング法で作製した透明導電膜の、リン酸系エッチング液でのエッチングが困難となるおそれがあり、また、20より大きいとターゲットの抵抗が高くなったり、スパッタリング時のスパッタリングレートが遅くなるおそれがある。I/Iで表される最大ピーク強度の比は、0.1〜10の範囲内であることがより好ましい。
【0040】
本発明のターゲットにおいて、電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるターゲット断面の元素分析について、インジウム(In)リッチ相、スズ(Sn)リッチ相及び亜鉛(Zn)リッチ相を備えることが好ましい。ここでリッチ相とはEPMAによる分析で周辺の元素密度より高い(通常1.5〜2倍以上)部分をいう。
【0041】
本発明のターゲットが上記3つのリッチ相の組織を備えていることは電子線マイクロアナライザー(EPMA)によって確認できる。図2に、典型的な上記3つのリッチ相を示す電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるターゲット断面の元素分析画像を示す。
【0042】
インジウム(In)リッチ相、スズ(Sn)リッチ相及び亜鉛(Zn)リッチ相を備えていないと、正三価のIn化合物に正二価のZnが多く固溶した状態となってキャリアトラップとなりキャリア密度が低下し、バルク抵抗が高くなったり、結晶型が充分に成長せずターゲットの密度が低くなったり強度が低くなるおそれがある。
【0043】
本発明のターゲットは、スピネル構造化合物のマトリックス中に、六方晶層状化合物及びビックスバイト構造化合物の粒子が分散していることが好ましい。
【0044】
本発明のターゲットは、上記のような粒子分散状態を有することで、仮焼を行わなくてもターゲットの密度が上げ易くなったり、放電状態が安定し異常放電が防止できるという効果が得られる。
また、上記のような粒子分散状態は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)によるターゲット断面の元素分析画像によって確認することができる。
【0045】
本発明のターゲットが上記のような粒子分散状態を有するためには、六方晶層状化合物及びビックスバイト構造化合物の結晶粒径が共に20μm以下であると好ましく、10μm以下であるとより好ましく、5μm以下であると特に好ましい。これらの化合物の結晶粒径が20μmより大きいと、異常放電やノジュールが発生しやすくなるおそれがある。また、20μm以上の大きな粒子の粒界が応力集中点となりターゲットが割れやすくなるおそれもある。
【0046】
各化合物の結晶粒径は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)によって測定することができる。
【0047】
また、本発明の効果を損なわない範囲内でMg、B、Gaを含有させて透過率を改善したり、Alを加えて耐熱性を改善したり、Zrを加えて耐薬品性を改善してもよい。
【0048】
本発明のターゲットは、バルク抵抗が0.2〜10mΩ・cmの範囲内であることが好ましい。
ターゲットのバルク抵抗は、四探針法によって測定することができる。
【0049】
バルク抵抗が10mΩ・cmより高かったり、理論相対密度が90%より小さいと放電中にターゲットが割れる原因となるおそれがある。また、バルク抵抗が0.2mΩ・cmより小さいとターゲットの抵抗が剥離しターゲットに付着した膜より高くなりノジュールが発生しやすくなるおそれがある。
本発明のターゲットのバルク抵抗は、6mΩ・cm以下であることがより好ましく、4mΩ・cm以下であることがさらに好ましい。
【0050】
本発明のターゲットの理論相対密度は、理論相対密度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。理論相対密度が90%より小さいと、ターゲットの強度が低下したり、成膜速度が遅くなったり、スパッタリングで作製した膜の抵抗が高くなったりするおそれがある。
【0051】
ターゲットの理論相対密度は、次のようにして求めることができる。
ZnO、SnO、Inの比重を各々5.66g/cm、6.95g/cm、7.12g/cmとして、その量比から密度を計算し、アルキメデス法で測定した密度との比率を計算して理論相対密度とする。
【0052】
本発明のターゲットの抗折力は、10kg/mm以上であることが好ましく、11kg/mm以上であることがより好ましく、12kg/mm以上であることが特に好ましい。ターゲットの運搬、取り付け時に荷重がかかり、ターゲットが破損するおそれがあるという理由で、ターゲットには、一定以上の抗折力が要求され、10kg/mm未満では、ターゲットとしての使用に耐えられないおそれがある。
ターゲットの抗折力は、JIS R 1601に準じて測定することができる。
【0053】
さらに、本発明のターゲットにおいては、In粉末のX線回折(XRD)ピーク位置に対する、ビックスバイト構造化合物のピーク位置がプラス方向(広角側)にシフトしていることが好ましい。このピークシフトは、最大ピークの位置(2θ)で0.05度以上が好ましく、0.1度以上がより好ましく、0.2度以上が特に好ましい。また、プラス方向(広角側)にシフトしていることからインジウムイオンよりイオン半径の小さい陽イオンが固溶置換し格子間距離が短くなっているものと推察される。尚、In粉末のX線回折(XRD)ピーク位置は、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)データベースのNo.06−0416に公開されている。
ここで、ピークのシフト角は、X線回折のチャートを解析することによって測定することができる。
【0054】
ビックスバイト構造化合物の最大ピーク位置のシフトした角が0.1度より小さいと、キャリア発生が不十分となりターゲットの抵抗が高くなるおそれがある。これは、In中への他原子の固溶量(原子数)が不十分で、キャリア電子が十分に発生していないためと思われる。
【0055】
また、本発明のターゲットにおいては、スピネル構造化合物のピーク位置がマイナス方向(狭角側)にシフトしていることが好ましい。このピークシフトは最大ピークの位置(2θ)で、0.05度以上が好ましく、0.1度以上がより好ましく、0.2度以上が特に好ましい。また、マイナス方向(狭角側)にシフトしていることから格子間距離が長くなっているものと推察される。
【0056】
スピネル構造化合物の最大ピーク位置のシフト方向がプラス側(広角側)であると、キャリア発生が不十分となりターゲットの抵抗が高くなるおそれがある。これは、ZnSnO中への他原子の固溶量(原子数)が不十分で、キャリア電子が十分に発生していないためと思われる。
図1に、In粉末のX線回折(XRD)の最大ピークのピーク位置に対する、ビックスバイト構造化合物の最大ピーク位置がプラス方向(広角側)にシフトしている、実施例1で得られたターゲットのX線回折のチャートを示す。
【0057】
(I−1)スパッタリングターゲットの製造方法
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法(以下、本発明のターゲット製造方法ということがある)は、インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、及びそれらの粉末の粒径よりも小さい粒径の錫化合物粉末を、In/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.33〜0.6の範囲内、及びSn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.05〜0.15の範囲内の割合で配合した混合物を得る工程と、
該混合物を加圧成形し成形体を作る工程と、
該成形体を1250〜1700℃で30分〜360時間焼成する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0058】
以下、本発明のターゲット製造方法を工程毎に説明する。
(1)配合工程
配合工程は、金属酸化物等のスパッタリングターゲットの原料を混合する必須工程である。
原料としては、インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、及びそれらの粉末の粒径よりも小さい粒径の錫化合物粉末を用いる。錫化合物粉末の粒径が、他の化合物の粉末の粒径と同じか又はそれらより大きいと、SnOがターゲット中に存在(残存)しターゲットのバルク抵抗を高くするおそれがあるためである。
また、錫化合物粉末の粒径がインジウム化合物粉末及び亜鉛化合物粉末の粒径よりも小さいことが好ましく、錫化合物粉末の粒径はインジウム化合物粉末の粒径の2分の1以下であるとさらに好ましい。また、亜鉛化合物粉末の粒径がインジウム化合物粉末の粒径よりも小さいと特に好ましい。
ターゲットの原料となる各金属化合物の粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0059】
ターゲットの原料であるインジウム、錫及び亜鉛の化合物は、In/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.33〜0.6の範囲内、及びSn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.05〜0.15の範囲内の割合で配合する必要がある。上記範囲をはずれると、前記効果を有する本発明のターゲットは得られない。
【0060】
インジウムの化合物としては、例えば、酸化インジウム、水酸化インジウム等が挙げられる。
錫の化合物としては、例えば、酸化錫、水酸化錫等が挙げられる。
亜鉛の化合物としては、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛等が挙げられる。
各々の化合物として、焼結のしやすさ、副生成物の残存のし難さから、酸化物が好ましい。
【0061】
金属酸化物等のターゲットの製造に用いる、上記粒径の関係にある原料を混合し、通常の混合粉砕機、例えば、湿式ボールミルやビーズミル又は超音波装置を用いて、均一に混合・粉砕することが好ましい。
金属酸化物等のターゲットの製造原料を混合して粉砕する場合、粉砕後の混合物の粒径は、通常10μm以下、好ましくは3μm以下、特に好ましくは1μm以下とすることが好ましい。金属化合物の粒径が大きすぎると、ターゲットの密度が上がり難くなるおそれがある。
ターゲットの原料となる金属化合物の混合物の粉砕後の粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0062】
(2)仮焼工程
仮焼工程は、インジウム化合物と亜鉛化合物及び錫化合物の混合物を得た後、この混合物を仮焼する、必要に応じて設けられる工程である。
【0063】
この仮焼工程においては、500〜1、200℃で、1〜100時間の条件で熱処理することが好ましい。500℃未満又は1時間未満の熱処理条件では、インジウム化合物や亜鉛化合物、錫化合物の熱分解が不十分となる場合があるためである。一方、熱処理条件が、1,200℃を超えた場合又は100時間を超えた場合には、粒子の粗大化が起こる場合があるためである。
【0064】
従って、特に好ましいのは、800〜1,200℃の温度範囲で、2〜50時間の条件で、熱処理(仮焼)することである。
【0065】
尚、ここで得られた仮焼物は、下記の成形工程及び焼成工程の前に粉砕するのが好ましい。この仮焼物の粉砕は、ボールミル、ロールミル、パールミル、ジェットミル等を用いて、仮焼物の粒径が0.01〜1.0μmの範囲内になるようにするのがよい。仮焼物の粒径が0.01μm未満では、嵩比重が小さくなり過ぎ、取り扱いが困難となるおそれがあり、1.0μmを超えると、ターゲットの密度が上がり難くなるおそれがある。
仮焼物の粒径は、JIS R 1619に記載の方法によって測定することができる。
【0066】
(3)成形工程
成形工程は、金属酸化物の混合物(上記仮焼工程を設けた場合には仮焼物)を加圧成形して成形体とする必須の工程である。この工程により、ターゲットとして好適な形状に成形する。仮焼工程を設けた場合には得られた仮焼物の微粉末を造粒した後、プレス成形により所望の形状に成形することができる。
【0067】
本工程で用いることができる成形処理としては、金型成形、鋳込み成形、射出成形等も挙げられるが、焼結密度の高い焼結体(ターゲット)を得るためには、冷間静水圧(CIP)等で成形するのが好ましい。
尚、成形処理に際しては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、ポリワックス、オレイン酸等の成形助剤を用いてもよい。
【0068】
(4)焼成工程
焼結工程は、上記成形工程で得られた微粉末を造粒した後、プレス成形により所望の形状に成形した成形体を焼成する必須の工程である。
焼成は、熱間静水圧(HIP)焼成等によって行うことができる。
【0069】
この場合の焼成条件としては、酸素ガス雰囲気又は酸素ガス加圧下に、通常、1250〜1700℃、好ましくは1300〜1650℃、さらに好ましくは1350〜1600℃において、通常30分〜360時間、好ましくは8〜180時間、より好ましくは12〜120時間焼成する。焼成温度が1250℃未満であると、ターゲットの密度が上がり難くなったり、焼結に時間がかかり過ぎたり、未反応の原料が残るおそれがあり、1700℃を超えると成分の気化により、組成がずれたり、炉を傷めたりするおそれがある。
【0070】
尚、粉末混合物を、酸素ガスを含有しない雰囲気で焼成したり、1,700℃を超える温度において焼成すると、六方晶層状化合物が優先的に生成し、スピネル結晶の形成が十分でなくなる場合がある。また、Sn及びSn化合物がガス化し、炉を傷めるおそれがある。また、1250℃より低いと所望の結晶型が生成せずターゲットの焼結密度が上がらずターゲットの抵抗が上がったり、強度が低下するおそれがある。また、焼結温度が低いと抵抗の高いIn(ZnO)(mは4〜20の整数)で表される六方晶層状化合物が発生するおそれがある。
【0071】
昇温速度は、5〜600℃/時間とすることが好ましく、50〜500℃/時間とすることがより好ましく、100〜400℃/時間とすることが特に好ましい。昇温速度が600℃/時間より速いと、六方晶層状化合物の生成が優先し、スピネル結晶の形成が十分でなくなる場合があり、また、5℃/時間より遅いと焼成に時間がかかりすぎ生産性が低下するおそれがある。
【0072】
降温速度は、5〜600℃/時間であることが好ましく、50〜500℃/時間とすることがより好ましく、100〜400℃/時間とすることが特に好ましい。降温速度が600℃/時間より速いと、六方晶層状化合物の生成が優先し、スピネル結晶の形成が十分でなくなる場合があり、5℃/時間より遅いと焼成に時間がかかりすぎ生産性が低下するおそれがある。
【0073】
(5)還元工程
還元工程は、上記焼成工程で得られた焼結体のバルク抵抗をターゲット全体として均一化するために還元処理を行う、必要に応じて設けられる工程である。
本工程で適用することができる還元方法としては、例えば、還元性ガスによる方法や真空焼成又は不活性ガスによる還元等を適用することができる。
【0074】
還元性ガスによる還元処理の場合、水素、メタン、一酸化炭素や、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
【0075】
不活性ガス中での焼成による還元処理の場合、窒素、アルゴンや、これらのガスと酸素との混合ガス等を用いることができる。
【0076】
尚、還元処理時の温度は、通常100〜800℃、好ましくは200〜800℃である。また、還元処理の時間は、通常0.01〜10時間、好ましくは0.05〜5時間である。
【0077】
(6)加工工程
加工工程は、上記のようにして焼結して得られた焼結体を、さらにスパッタリング装置への装着に適した形状に切削加工し、またバッキングプレート等の装着用治具を取り付けるための、必要に応じて設けられる工程である。
【0078】
ターゲットの厚みは通常2〜20mm、好ましくは3〜12mm、特に好ましくは4〜6mmである。また、複数のターゲットを一つのバッキングプレートに取り付け実質一つのターゲットとしてもよい。また、表面は80〜10,000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが好ましく、100〜1000番のダイヤモンド砥石により仕上げを行うことが特に好ましい。80番より小さいダイヤモンド砥石を使用するとターゲットが割れやすくなるおそれがある。研磨はターゲットの長板方向に行うことが、強度が高く好ましい。
【0079】
本発明のターゲットを製造するには、上記本発明ターゲット製造方法を用いることが好ましいが、ターゲットの上記粒径の原料を上記特定の原子比で混合し、上記焼成工程における焼結温度、焼結時間を用いさえすれば、それ以外の工程については、特に限定されず、例えば、特開2002−69544号公報、特開2004−359984号公報、特許第3628554号等に開示されている公知の方法や、次のような方法を採用することもできる。また、これらの方法の一部を組合せた製造方法を用いてもよい。
【0080】
工業用スパッタリングターゲットの製造方法(1)
(i)秤量された原料を水、助剤とともにボールミル・ビーズミル等で湿式混合・粉砕する。
(ii)得られた原料混合物をスプレードライヤー等で乾燥・造粒し造粒粉末を作る。
(iii)得られた造粒粉末をプレス成型した後、ゴム型でSIP成型する。
(iv)得られた成型体を酸素加圧下で焼成し焼成体を得る。
(v)得られた焼成体をダイヤモンドカッター・ウォーターカッター等で切削後、ダイヤモンド砥石等で研磨する。
(vi)イタルインジウム等蝋剤を塗布し銅等でできたバッキングプレートと貼り合わせる。
(vii)蝋剤処理、酸化層除去等のためのバッキングプレート研磨、ターゲット表面処理を行う。
【0081】
工業用スパッタリングターゲットの製造方法(2)
(i)秤量された原料をボールミル等で乾式混合・粉砕し造粒粉末を作る。
(ii)得られた造粒粉末をプレス成型する。
(iii)得られた成型体を大気圧で焼成し焼成体を得る。
【0082】
工業用スパッタリングターゲットの製造方法(3)
(i)秤量された原料をボールミル等で乾式混合・粉砕し造粒粉末を作る。
(ii)得られた造粒粉末をボールミル・Vブレンダー等で湿式混合・粉砕し造粒分散液を得る。
(iii)得られた造粒分散液から鋳込み成型で成型体を得る。
(iv)得られた成型体を支持体上で空気に接触させ乾燥した後、大気圧で焼成し焼成体を得る。
【0083】
本発明の透明導電膜は、その比抵抗が1800μΩ・cm以下であることが好ましく、1300μΩ・cm以下であることがより好ましく、900μΩ・cm以下であることが特に好ましい。
透明導電膜の比抵抗は、四探針法により測定することができる。
【0084】
また、本発明の透明導電膜の膜厚は、通常1〜500nm、好ましくは10〜240nm、より好ましくは20〜190nm、特に好ましくは30〜140nmの範囲内である。500nmより厚いと、部分的に結晶化したり、成膜時間が長くなるおそれがあり、1nmより薄いと、基板の影響を受け、比抵抗が高くなるおそれがある。透明導電膜の膜厚は、触針法により測定できる。
【0085】
II.透明導電膜
(II−1)透明導電膜の構成
本発明の透明導電膜は、上記本発明のターゲットをスパッタリング法により成膜してなることを特徴とする。
【0086】
本発明の透明導電膜は、非晶質又は微結晶のものであることが好ましく、非晶質のものであることが特に好ましい。結晶性であると、後述する透明電極作製時のエッチング速度が遅くなったり、エッチング後に残さが残ったり、透明電極を作製した際に、電極端部のテーパー角が30〜89度に入らなかったりするおそれがある。
【0087】
(II−2)透明導電膜の製造方法
本発明の透明導電膜を製造するためのスパッタリング法及びスパッタリング条件に特に制限はないが、直流(DC)マグネトロン法、交流(AC)マグネトロン法、高周波(RF)マグネトロン法が好ましい。液晶(LCD)パネル用途では装置が大型化するため、DCマグネトロン法、ACマグネトロン法が好ましく、安定成膜可能なACマグネトロン法が特に好ましい。
【0088】
スパッタ条件としては、スパッタ圧力が通常0.05〜2Paの範囲内、好ましくは0.1〜1Paの範囲内、より好ましくは0.2〜0.8Paの範囲内、到達圧力が通常10−3〜10−7Paの範囲内、好ましくは5×10−4〜10−6Paの範囲内、より好ましくは10−4〜10−5Paの範囲内、基板温度が通常25〜500℃の範囲内、好ましくは50〜300℃の範囲内、より好ましくは100〜250℃の範囲内である。
【0089】
導入ガスとして、通常Ne、Ar、Kr、Xe等の不活性ガスを用いることができるが、これらのうち、成膜速度が速い点でArが好ましい。また、Zn/Sn<1の場合、導入ガスに酸素を0.01〜5%含ませると、ターゲットのバルク抵抗が下がりやすく好ましい。Zn/Sn>2の場合、導入ガスに水素を0.01〜5%含ませると、得られる透明導電膜の抵抗が下がりやすく好ましい。
【0090】
本発明の透明導電膜は、インジウムが削減されていても、導電性、エッチング性、耐熱性等に優れている。また、本発明の透明導電膜は、金属又は合金用のエッチング液であるリン酸系エッチング液でもエッチング可能であり、金属又は合金と一括してエッチングを行うことができるという利点を有している。
【0091】
本発明の透明導電膜は、その比抵抗が3000μΩ・cm以下であることが好ましく、1,500μΩ・cm以下であることがより好ましく、1,000μΩ・cm以下であることが特に好ましい。
透明導電膜の比抵抗は、四探針法により測定することができる。
【0092】
III.透明電極
(III−1)透明電極の構成
本発明の透明電極は、上記本発明の透明導電膜をエッチングすることによって作製されることを特徴とする。従って、本発明の透明電極は、上記本発明の透明導電膜の上記特性を備えている。
本発明の透明電極は、電極端部のテーパー角が30〜89度の範囲内であることが好ましく、35〜85度がより好ましく、40〜80度の範囲内が特に好ましい。
電極端部のテーパー角は、断面を電子顕微鏡(SEM)で観察することによって測定することができる。
【0093】
電極端部のテーパー角が30度より小さいと電極エッジ部分の距離が長くなり、液晶パネルや有機ELパネルを駆動させた場合、画素周辺部と内部とでコントラストに差が出る場合がある。また、89度を超えるとエッジ部分の電極割れや剥離が起こり配向膜の不良や断線の原因となるおそれがある。
【0094】
(III−2)透明電極の作製方法
本発明の透明電極の作製方法は、上記本発明の透明導電膜を、リン酸系エッチング液を用いて、金属又は合金からなる膜と一括してエッチングする工程を含むことを特徴とする。
本発明の透明電極の作製方法においては、電極端部のテーパー角が30〜89度の範囲内である透明電極を作製することが好ましい。
【0095】
本発明の透明電極の作製方法で用いるエッチング方法には特に制限はなく、公知の如何なるエッチング液、エッチング方法を用いてもよいが、透明導電膜をリン酸系エッチング液でエッチングすることが好ましい。
リン酸系エッチング液を用いることにより、透明導電膜を、透明導電膜の基材側に形成された金属又は合金からなる膜と一括してエッチングすることができる。
【0096】
リン酸系エッチング液とは、リン酸を20〜100質量%含む水溶液をいい、リン酸、硝酸、酢酸の混酸(一般にPANと呼ばれている)が好ましい。PANとしては、20〜95質量%のリン酸、0.5〜5質量%の硝酸、3〜50質量%の酢酸の混酸がより好ましい。
代表的なPANは、硝酸1〜5質量%、リン酸80〜95質量%、及び酢酸4〜15質量%からなり、一般にAl等のエッチングに使われている。
また、特にAg等のエッチングには、硝酸1〜5質量%、リン酸30〜50質量%、及び酢酸30〜50質量%のものも用いられる。
【0097】
リン酸系エッチング液におけるリン酸濃度は、20〜95wt%の範囲内であることが好ましく、30〜95wt%の範囲内であることがより好ましく、50〜95wt%の範囲内であることが特に好ましい。リン酸濃度が低いと電極端部のテーパー角が30度より小さくなったり、エッチングの時間が長くなり生産性が低下するおそれがある。
【0098】
エッチング時のエッチング液の温度は、通常15〜55℃の範囲内、好ましくは20〜50℃の範囲内、より好ましくは25〜45℃の範囲内である。エッチング液の温度が高すぎると、エッチング速度が速すぎて線幅等が制御できなくなるおそれがある。逆に温度が低すぎると、エッチングに時間がかかり生産性が低下するおそれがある。
【0099】
成膜された透明導電膜を、50℃のリン酸系エッチング液を用いてエッチングする場合のエッチング速度は、通常30〜1000nm/分の範囲内、好ましくは40〜300nm/分の範囲内、特に好ましくは50〜200nm/分の範囲内である。30nm/分より遅いと、生産タクトが遅くなるばかりではなくエッチング残渣が残るおそれがある。また、1000nm/分より速いと、速すぎて線幅等が制御できないおそれがある。
【0100】
本発明の透明導電膜と一括してエッチングし得る金属又は合金としては、Al、Ag、Mo、Cr等とそれらの合金が挙げられ、Al又はAgとそれらの合金が好ましく、Alとそれらの合金が特に好ましい。
本発明の透明導電膜は、これらの金属又は合金と一括してエッチングできることにより、エッチング工程等を減らすことができ、生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
実施例1
(1)スパッタリングターゲットの製造
原料として、各々4N相当の平均粒径が1μm以下の酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫とを、原子比〔In/(In+Sn+Zn)〕が0.44、原子比〔Sn/(In+Sn+Zn)〕が0.12、原子比〔Zn/(In+Sn+Zn)〕が0.44となるように混合して、これを湿式ボールミルに供給し、20時間混合粉砕して、原料微粉末を得た。
得られた混合スラリーを取り出し、濾過、乾燥及び造粒を行った。この造粒物を、294MPaの圧力をかけて冷間静水圧プレスで成形した。これを焼成炉に装入し、酸素ガス加圧下に、1400℃において、48時間の条件で焼成して、焼結体(ターゲット)を得た。1000℃までは50℃/時間の昇温速度で、1400℃までは150℃/時間の昇温速度であった。降温速度は100℃/時間であった。
【0102】
(2)スパッタリングターゲットの物性評価
上記(1)で得られたターゲットにつき、理論相対密度、バルク抵抗値、X線回折分析、結晶粒径及び抗折力を測定した。
その結果、理論相対密度は98%であり、四探針法により測定したバルク抵抗値は、3.5mΩ・cmであった。
【0103】
また、この焼結体から採取した試料について、X線回折法により透明導電材料中の結晶状態を観察した結果、得られたターゲット中に、In(ZnO)で表される六方晶層状化合物、ZnSnOで表されるスピネル構造化合物及びInで表されるビックスバイト構造化合物が確認された。
【0104】
また、図1に示した通り、スピネル構造化合物の最大ピークは狭角側へ0.4度、ビックスバイト構造化合物の最大ピークは広角側へ0.2度シフトしていた。
【0105】
さらに、得られた焼結体を樹脂に包埋し、その表面を粒径0.05μmのアルミナ粒子で研磨した後、電子線マイクロアナライザー(EPMA) EPMA−2300(島津製作所製)により下記条件で測定した。
・加速電圧:15kV
・試料電流:0.05μA
・Beam Size:1μm
・Step Size:0.2×0.2μm
上記条件により測定した結果、焼結体は図2に示すようにインジウム(In)リッチ相、スズ(Sn)リッチ相及び亜鉛(Zn)リッチ相備えていることを示す。
インジウム(In)リッチ相はInで表されるビックスバイト構造化合物と推定でき、その平均粒径は20μm以下であった。また、亜鉛(Zn)リッチ相はIn(ZnO)で表される六方晶層状化合物と推定でき、その平均粒径は20μm以下であった。
【0106】
また、上記(1)で得られた焼結体を切削加工し、#400でダイヤモンド固定砥粒砥石により研磨して、直径約10cm、厚さ約5mmのスパッタリングターゲットを作製し、物性の測定を行った。研削面の表面粗さRaは0.3μmであった。
【0107】
(3)透明導電性酸化物(透明導電膜)の成膜
上記(1)で得られたスパッタリングターゲットを、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、室温において、ガラス基板上に透明導電膜を成膜した。
ここでのスパッタ条件としては、スパッタ圧力1×10−1Pa、到達圧力5×10−4Pa、基板温度200℃、投入電力120W、成膜時間15分間とした。
この結果、ガラス基板上に、膜厚が約100nmの透明導電膜が形成された透明導電ガラスが得られた。
【0108】
(4)スパッタ状態の評価
(i)異常放電の発生数
上記(1)で得られたスパッタリングターゲットを、DCマグネトロンスパッタリング装置に装着し、アルゴンガスに3%の水素ガスを添加した混合ガスを用いた他は、上記(3)と同一条件下に、240時間連続してスパッタリングを行い異常放電の有無をモニターしたが1度も確認されなかった。尚、下記表1において異常放電が認められなかった場合を「○」、認められた場合を「×」で示した。
【0109】
(ii)ノジュール発生数
上記(1)で得られたターゲットを用い、上記(3)と同じ条件で8時間連続してスパッタリングを行った。次いで、スパッタリング後のターゲットの表面を実体顕微鏡により30倍に拡大して観察した。ターゲット上の任意の3点で囲まれた視野900mm中における20μm以上のノジュール発生数をそれぞれ測定し平均値を求めた。
【0110】
(5)透明導電膜の物性評価
上記(3)で得られた透明導電ガラス上の透明導電膜の導電性について、四探針法により比抵抗を測定したところ、700μΩ・cmであった。
また、この透明導電膜は、X線回折分析により非晶質であることを確認した。
一方、膜表面の平滑性についても、P−V値(JISB0601準拠)が5nmであることから、良好であることを確認した。
さらに、この透明導電膜の透明性については、分光光度計により波長500nmの光線についての光線透過率が88%であり、透明性においても優れたものであった。
【0111】
さらに、この透明導電膜を代表的なリン酸系エッチング液(硝酸3.3質量%、リン酸91.4質量%、酢酸10.4質量%。以下PANと略す。)を用い、50℃でエッチングを行ったところ、エッチング速度は40nm/分であった。
また、エッチング後に電子顕微鏡(SEM)で観察したところ残渣も少なくエッチング性も良好であった。尚、下記表1において、PANエッチング後の残渣が少なかった場合を「○」で示し、エッチング後の残渣が多く観察された場合及びエッチングができなかったために残渣が多く観察された場合を「×」で示した。
【0112】
尚、X線回折測定(XRD)の測定条件は以下の通りであった。
装置:(株)リガク製Ultima−III
X線:Cu−Kα線(波長1.5406Å、グラファイトモノクロメータにて単色化)
2θ−θ反射法、連続スキャン(1.0°/分)
サンプリング間隔:0.02°
スリット DS、SS:2/3°、RS:0.6mm
【0113】
実施例2、3及び比較例1〜5
原料の組成比を表1に示す原子比となるように調整し、比較例1、2、3はRFスパッタリングを用いた他は実施例1と同様にターゲット及び透明導電膜を作製し、評価した。
【0114】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のターゲットを用いてスパッタリング法で成膜した透明導電膜は、インジウムが削減されていても、導電性、エッチング性、耐熱性等に優れ、液晶ディスプレイに代表されるディスプレイやタッチパネル、太陽電池等各種の用途に適している。
さらに、本発明のターゲットを用いてスパッタリング法で成膜した透明導電膜は、金属又は合金用のエッチング液であるリン酸系エッチング液でもエッチング可能であり、透明電極の生産性の向上に寄与し得る。
また、本発明のターゲットは安定にスパッタリングが行なえるため、成膜条件を調整する等してTFT(薄膜トランジスタ)に代表される透明酸化物半導体の成膜にも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム、錫、亜鉛、酸素を含有し、六方晶層状化合物、スピネル構造化合物及びビックスバイト構造化合物を含むことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記六方晶層状化合物がIn(ZnO)で表され、前記スピネル構造化合物がZnSnOで表され、前記ビックスバイト構造化合物がInで表されることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
In/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.33〜0.6の範囲内の値であり、Sn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.05〜0.15の範囲内の値であることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
X線回折におけるピークについて、
六方晶層状化合物の最大ピーク強度Iと、
スピネル構造化合物の最大ピーク強度I、及び
ビックスバイト構造化合物の最大ピーク強度I
が下記の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のスパッタリングターゲット。
/Iが、0.05〜20の範囲内
/Iが、0.05〜20の範囲内
【請求項5】
Inリッチ相、Snリッチ相及びZnリッチ相の3相の組織を備えるインジウム−錫−亜鉛系酸化物からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
スピネル構造化合物のマトリックス中に、六方晶層状化合物及びビックスバイト構造化合物の粒子が分散していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
バルク抵抗が0.2〜10mΩ・cmの範囲内であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のスパッタリングターゲット。
【請求項8】
理論相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
インジウム化合物の粉末、亜鉛化合物の粉末、及びそれらの粉末の粒径よりも小さい粒径の錫化合物粉末を、In/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.33〜0.6の範囲内、及びSn/(In+Sn+Zn)で表される原子比が0.05〜0.15の範囲内の割合で配合した混合物を得る工程と、
該混合物を加圧成形し成形体を作る工程と、
該成形体を1250〜1700℃で30分〜360時間焼成する工程と、
を含む請求項1〜8のいずれか1項記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項記載のスパッタリングターゲットをスパッタリング法により成膜してなる透明導電膜。
【請求項11】
請求項10記載の透明導電膜をエッチングすることによって作製された透明電極。
【請求項12】
電極端部のテーパー角が30〜89度の範囲内である請求項11記載の透明電極。
【請求項13】
請求項10記載の透明導電膜を、リン酸系エッチング液を用いて、金属又は合金と一括してエッチングする工程を含む、透明電極の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−26039(P2012−26039A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188298(P2011−188298)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【分割の表示】特願2007−536466(P2007−536466)の分割
【原出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】