説明

スパッタリング装置及びスパッタリング方法

【課題】基板ホルダの基板以外の領域の表面に成膜材料が付着するのを防止することができ、基板上に成膜される膜の品質及び生産性を向上させることができるスパッタリング装置を提供する
【解決手段】真空排気可能な真空容器1と、真空容器1の内部に配設され、基板8をその処理面を下方へ臨ませて保持する保持機構30、31を備えた基板ホルダ40と、基板ホルダ40の直下に基板8に対向させて配置され、放電用電力が供給されるカソード電極10と、カソード電極10の基板側に支持されたターゲット16と、を備え、基板ホルダ40は、基板以外の領域の表面温度を基板8上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度以上に加熱する加熱機構60、61を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電圧を印加してイオン化した不活性ガスをターゲットに衝突させ、ターゲット物質をスパッタして基板上に成膜するスパッタリング装置及びスパッタリング方法に関する。詳しくは、基板の処理面を下方に臨ませて保持する基板ホルダを備えたフェイスダウン型のスパッタリング装置及びスパッタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリング装置は、基板とターゲットとの配置関係から、フェイスアップ型とフェイスダウン型とに大別される。
【0003】
即ち、フェイスアップ型のスパッタリング装置は、真空容器の下部に基板ホルダを備え、基板ホルダに基板をその処理面を鉛直方向上方へ臨ませて保持し、その直上に基板に対向させてカソード電極を配置し、カソード電極の下面にターゲットを支持している。
【0004】
他方、フェイスダウン型のスパッタリング装置は、真空容器の上部に基板ホルダを備え、基板ホルダに基板をその処理面を鉛直方向下方へ臨ませて保持し、その直下に基板に対向させてカソード電極を配置し、カソード電極の上面にターゲットを支持している(特許文献1参照)。このフェイスダウン型は、フェイスアップ型と比較して、基板の処理面に付着するパーティクルが少ないなどの利点がある。
【0005】
しかし、フェイスダウン型のスパッタリング装置では、基板ホルダに基板を設置する場合に、基板あるいは基板を搭載したトレイが重力で落下しないように、基板ホルダの下面(設置面)に基板を固定または保持する必要がある。基板の保持構造には、基板あるいは基板を搭載したトレイの周辺部の全周をプレートで押さえて固定または保持する機構や、基板等の周辺部の2点以上の任意の複数箇所をチャックピンで押さえて固定する機構などが一般に用いられる。その他、基板ホルダの基板保持側に静電吸着用電極を配設し、静電吸着により基板を保持する構造が採用されている。
【0006】
特に、ターゲットとしてガリウム(Ga)を用いた窒素(N2)リアクティブスパッタリング法による窒化ガリウム(GaN)成膜では、Gaの融点が低い。したがって、Gaを固体のままでターゲットとして使用することが困難であり、液体ターゲットとして収容しなければならないため、フェイスダウン型のスパッタリング装置を用いて成膜を行う必要がある。この場合、チャックプレートあるいはチャックピンを用いて、基板あるいは基板を搭載したトレイを基板ホルダの下面に保持した状態で、スパタリング成膜が行われている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−13219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、従来のスパッタリング装置では、成膜にともないチャックプレートやチャックピンにも成膜材料が付着する。この付着膜は、厚みが増加するにつれて膜自身の応力が増大して剥離が生じ、下方に位置するターゲット上に落下してしまい、異常放電を誘発する。
【0009】
異常放電が発生すると、基板上に成膜される膜の品質が低下するため成膜工程が維持できなくなる。そのため、付着膜が剥離する前にチャックプレートやチャックピンを交換するなどのメンテナンスを行う必要があった。この交換作業は、基板上への積算膜厚が数μm程度になる毎に頻繁に行う必要があり、生産性を低下させる要因となっていた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、基板ホルダの基板以外の領域の表面に成膜材料が付着するのを防止することができ、基板上に成膜される膜の品質及び生産性を向上させることができるスパッタリング装置及びスパッタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成すべく成された本発明の構成は以下の通りである。
【0012】
即ち、真空排気可能な真空容器と、上記真空容器の内部に配設され、基板をその処理面を下方へ臨ませて保持する保持機構を備えた基板ホルダと、上記基板ホルダの直下に上記基板に対向させて配置され、放電用電力が供給されるカソード電極と、上記カソード電極の基板側に支持されたターゲットと、を備え、上記基板ホルダは、上記基板以外の領域の表面温度を上記基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度以上に加熱する加熱機構を有することを特徴とするスパッタリング装置である。
【0013】
また、基板ホルダに処理面を下方へ臨ませて基板を保持すると共に、その直下に基板に対向するようにカソード電極の上面にターゲットを支持し、高電圧を印加してイオン化した不活性ガスをターゲットに衝突させ、ターゲット物質をスパッタして基板上に成膜するスパッタリング方法であって、
成膜工程において、上記基板の表面温度を上記基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度未満に制御し、上記基板ホルダの上記基板以外の領域の表面温度を上記成膜材料の分解または蒸発温度以上に制御することを特徴とするスパッタリング方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板ホルダの基板以外の領域の表面温度を基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度以上に加熱するので、基板ホルダの基板以外の領域の表面に成膜材料が付着するのを防止することができる。したがって、基板上に成膜される膜の品質を向上させることができ、メンテナンスの頻度が減少するので、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0016】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明に係るフェイスダウン型スパッタリング装置の第1の実施形態の構成を示す模式図である。
【0017】
図1に示すように、第1の実施形態のスパッタリング装置は、処理室として真空排気可能な真空容器(チャンバ)1を備えている。この真空容器1には、不図示のコンダクタンスバルブを介して排気ポンプ等を備えた排気系2が接続されている。また、真空容器1には、不活性ガスの導入手段として、マスフローコントローラなどの自動流量制御器(不図示)を介して、ガスボンベ等のガス導入系3が接続され、このガス導入系3から不活性ガスが所定の流量で導入される。本実施形態では、不活性ガスとして、例えば、アルゴン(Ar)、や窒素(N2)等を使用する。
【0018】
本実施形態のスパッタリング装置は、所謂フェイスダウン型のマグネトロンスパッタリング装置であって、真空容器1の上部に基板8を保持する基板ホルダ40を配置し、その直下にカソード電極10及びターゲット16を配置している。
【0019】
基板ホルダ40は、ターゲット16の直上に位置し、ターゲット16と相対向するように配設されている。基板ホルダ40は、例えば、円板状の保持部材であって、基板8を保持する保持機構を備えている。基板ホルダ40は、その基板保持面を鉛直方向下方へ臨ませて配設されている。即ち、基板ホルダ40は、保持機構により該ホルダ40の下面(表面)に基板8をその処理面を鉛直方向下方へ臨ませて保持する。
【0020】
基板8としては、例えば、半導体ウエハが挙げられ、基板のみの状態もしくはトレイに搭載された状態で、基板ホルダ40に保持される。
【0021】
基板ホルダ40の下面に基板8を保持するため、本実施形態の基板ホルダ40には、上記保持機構として、基板8の周辺部を下方から支持する機械的な保持機構が備えられている。機械的な保持機構としては、例えば、チャックプレート30、31が採用されている。チャックプレート30、31により基板ホルダ40の下面に保持された基板8は、その処理面を直下(鉛直方向下方)のターゲット16に臨ませて配置される。なお、チャックプレート30、31の詳細構造については、後述する。
【0022】
また、基板ホルダ40には、基板表面を加熱する加熱機構50が内蔵されている。本実施形態では、加熱機構50として、電熱ヒータが採用されているが、これに限定されず、例えば、熱媒体の流通経路として構成してもよい。この加熱機構50は、例えば、基板ホルダ40を1100℃の設定温度で加熱し、基板8の表面温度を950℃に維持する。なお、基板上に均一な成膜を行うため、基板ホルダ40に不図示の回転機構を備えてもよい。
【0023】
カソード電極10には、直流電力または高周波電力を供給する不図示の放電用電源が接続されている。カソード電極10の表面側(上面側)には、裏板15を介して、ターゲット16が支持されている。本実施形態では、ターゲット16としてガリウム(Ga)を採用し、窒素(N2)リアクティブスパッタリング法による窒化ガリウム(GaN)成膜を行う。前述したように、Gaの融点が低いので、液体ターゲットとして収容しなければならないため、裏板15を容器状に形成し、その内部に液体ターゲット16を収容する。
【0024】
カソード電極10の本体内には、マグネトロン放電用の磁石ユニット11が配置されている。磁石ユニット11は、例えば、ヨーク12上にそれぞれ逆方向に磁化された中央磁石13と外側磁石14とが固定された構造を有している。磁石ユニット11は、不図示の回転機構に接続され、カソード電極10の面内方向に沿って回転可能と成っており、カソード表面にマグネトロン放電用の磁場を形成する。不活性ガスの導入下において、回転機構によって磁石ユニット11を回転させながらカソード電極10に放電用電力を投入して高電圧を印可することで、基板ホルダ40との間でマグネトロン放電が行われ、ターゲット物質がスパッタされる。
【0025】
ターゲット16の周囲は、ターゲット以外の部分がスパッタされるのを防止するため、絶縁材7を介して、真空容器1と同電位に接地されたカソードシールド6で覆われている。
【0026】
また、本実施形態のスパッタリング装置では、基板ホルダ40とカソード10との間の空間を取り囲むように、略筒体状の開閉可能な防着シールド20、21が配されている。防着シールド20、21は、基板ホルダ40とカソード電極10との間の空間を覆って、スパッタされた粒子が真空容器1の内壁に付着するのを防止する。固定側の防着シールド20は、真空容器1の底部のカソード電極10の周囲に固定されて、上方へと起立している。他方、可動側の防着シールド21は、真空容器1の上部の不図示の駆動機構に接続された操作ロッド24の下部に固定されている。この操作ロッド24は、伸縮可能なベローズ22内に挿通され、矢印23に示す上下方向に操作されて、可動側の防着シールド21を開閉させる。
【0027】
可動側の防着シールド21の一側方の真空容器1の側壁にはゲートバルブ4が配設され、基板ホルダ40に保持される基板8が矢印5に示す基板搬送経路で搬入または搬出される。
【0028】
次に、チャックプレート30、31の構造について説明する。図2は、チャックプレートを下方から見た模式図である。
【0029】
図2に示すように、基板(ウエハ)8を保持するチャックプレート30、31は、角度(円弧長さ)の異なる円弧状の帯板であって、不図示の駆動機構に接続された操作ロッド51、52の下部に固定されている。これらの操作ロッド51、52は、伸縮可能なベローズ35、37内に挿通され、矢印36、38に示す上下方向に操作されて、チャックプレート30、31を昇降動作させる。操作ロッド51、52によってチャックプレート30、31が上昇したときに、基板8の周辺部の全周を下方から支持(チャック)して基板ホルダ40の下面に押し付けるようになっている。
【0030】
また、基板ホルダ40は、基板以外の領域の表面温度を基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度以上に加熱する加熱機構60、61を有する。第1の実施形態では、加熱機構60、61は、機械的な保持機構であるチャックプレート30、31に沿って配設されている。具体的には、加熱機構60、61は、チャックプレート30、31の直下(前面側)に配置され、チャックプレート30、31に沿ってリング状に形成された電熱ヒータによって構成されている。したがって、基板ホルダ40の基板以外の領域の表面(ターゲット対向面)が加熱される。
【0031】
本実施形態では、ヒータ50で基板表面を950℃に加熱し、ヒータ60、61で基板ホルダ40の基板以外の領域の表面を1000℃以上に加熱する。なお、ここにいう基板ホルダ40とは、機械的な保持機構であるチャックプレート30、31を含む概念である。GaNが分解または蒸発する温度は、1Pa程度の圧力では約1000℃である。
【0032】
したがって、基板8上にはGaNが成膜されるが、ヒータ60、61及びこれによって加熱された基板ホルダ40の基板以外の領域の表面には成膜されることがない。これにより、基板上への成膜を繰り返し行っても、ヒータ60、61及び基板ホルダ40からの膜剥れが発生することはない。よって、チャックプレート30、31やヒータ60、61の交換作業を行う必要がなく、メンテナンスの頻度が減少して、生産性を従来よりも大幅に向上させることができる。
【0033】
さらに、本実施形態のスパッタリング装置には、上記した加熱機構50の温度、加熱機構60、61の温度、排気ポンプ、磁石ユニット11の回転機構、カソード10の給電、防着シールド21の駆動機構、チャックプレート30、31の駆動機構などの各構成要素の動作を制御する不図示の制御装置が備えられている。制御装置は、CPUやROM、RAM等の記憶部などからなるコンピュータを備えて構成されている。CPUは、プログラムにしたがって上記各部の制御や各種の演算処理等を行う。記憶部は、予め各種プログラムやパラメータを格納しておくROM、作業領域として一時的にプログラムやデータを記憶するRAM等からなる。この制御装置は、不図示の温度センサ、ダイアフラムゲージやB−A(Bayarad−Alpert)ゲージなどの各種センサに接続され、各センサの検出信号に基づいて、制御指令を出力する。特に、制御装置は、ヒータ50に制御指令を出力して基板8の処理面の加熱温度を制御し、ヒータ60、61に制御指令を出力して基板ホルダ40の基板以外の領域の表面(ターゲット対向面)の加熱温度を制御する。
【0034】
次に、第1の実施形態のスパッタリング装置の作用と共に、本発明に係るスパッタリング方法について説明する。本実施形態のスパッタリング方法は、準備工程、基板搬入工程、成膜工程及び基板搬出工程の順に行われる。
【0035】
以下、各工程の順に説明するが、成膜条件は次の通りである。即ち、ターゲット16はGaであって、ターゲットサイズはφ9.3インチとする。基板8はサファイア基板であって、基板サイズはφ4インチとする。ヒータ50による基板ホルダ40の設定温度は約1100℃であり、基板8の表面温度は950℃である。Ar流量は25sccmで、N2流量は12sccmである。スパッタリング圧力は1Paであり、放電用電力はパルス(DC)2kW(周波数:35kHz,duty:82.5%)とする。
【0036】
<準備工程>
真空容器1内を排気系2により所定の圧力まで排気する。基板ホルダ40に内蔵されたヒータ50に不図示の電源より電力供給し、基板ホルダ40を設定温度に加熱する。
【0037】
<基板搬入工程>
次に、真空容器1の側壁に配設されたゲートバルブ4を開ける。そして、不図示の駆動機構の操作ロッド24により、可動側の防着シールド21を矢印23の上方向へ動作させ、矢印5に示す基板搬送経路を開放する。
【0038】
さらに、不図示の駆動機構の操作ロッド51、52を介して、チャックプレート30、31を矢印36、38の下方向へ動作させ、基板搬送経路の下方(アンチャック位置)まで降下させる。
【0039】
この状態で、ロボットアーム等の不図示の搬送アームを用いて、基板8を基板ホルダ40の下面(前面)へと搬送する。そして、駆動機構の操作ロッド52により、チャックプレート31を図1に示した位置まで矢印38の上方向へと動作させ、基板8の周辺部を保持する。さらに、上記搬送アームを後退させた後、駆動機構の操作ロッド51により、チャックプレート30を図1に示した位置まで矢印36の上方向へ動作させ、基板8を保持する。
【0040】
そして、駆動機構の操作ロッド24により、可動側の防着シールド21を矢印23の下方向へと動作させ、図1に示す位置に戻す。その後、ゲートバルブ4を閉じる。
【0041】
<成膜工程>
基板8の表面温度が所定の温度(950℃)に到達するまで加熱時間をおいた後、ガス導入系3より所定の流量のArとN2を導入する。また、排気系2のコンダクタンスバルブにより真空容器1の内部を任意の圧力に調整する。
【0042】
この不活性ガスの導入下において、不図示の回転機構によって磁石ユニット11を回転させながら、カソード電極10に放電用電力を投入する。カソード電極10に高電圧を印可すると、カソード10と基板ホルダ40との間でマグネトロン放電が行われ、ターゲット物質がスパッタされ、ターゲット16に対向配置された基板8の処理面に薄膜(GaN膜)が堆積する。
【0043】
その際、ヒータ50で基板8の表面温度を基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度未満に制御し、ヒータ60、61で基板ホルダ40の基板以外の領域の表面温度を上記成膜材料の分解または蒸発温度以上に制御する。具体的には、ヒータ50で基板表面を950℃に加熱し、ヒータ60、61で基板ホルダ40の基板以外の領域の表面を1000℃以上に加熱する。なお、ここにいう基板ホルダ40とは、機械的な保持機構であるチャックプレート30、31を含む概念である。GaNが分解または蒸発する温度は、1Pa程度の圧力では約1000℃である。
【0044】
基板8上に所定の膜厚を堆積後、放電用電源からの電力供給を停止する。さらに、ガス導入系3からのAr及びN2の導入を停止し、排気系2のコンダクタンスバルブを開放して真空容器1の内部を排気する。
【0045】
<基板搬出工程>
次に、ゲートバルブ4を開けた後、駆動機構の操作ロッド24により、可動側の防着シールド21を矢印23の上方向へ動作させ、矢印5に示す基板搬送経路を開放する。
【0046】
さらに、駆動機構の操作ロッド51により、チャックプレート30を矢印36の下方向へ動作させ、矢印5に示す基板搬送経路の下(アンチャック位置)まで下降させる。
【0047】
不図示の搬送アームを挿入し、駆動機構の操作ロッド52により、チャックプレート31を矢印38の下方向へと動作させ、上記アンチャック位置まで下降させて、搬送アームに基板8を載置する。
【0048】
次に、搬送アームを後退させ、真空容器1から基板8を搬出する。また、駆動機構の操作ロッド24により、可動側の防着シールド21を矢印23の下方向へ動作させ、図1の位置に戻す。さらに、駆動機構の操作ロッド51、52により、チャックプレート30、31を矢印36、38の上方向へ動作させ、チャック位置に戻す。最後に、ゲートバルブ4を閉じて、全工程を終了する。
【0049】
本実施形態のスパッタリング装置を用いたスパッタリング方法の成膜工程では、ヒータ60、61によって、基板ホルダ40の基板以外の領域の表面を成膜材料が分解または蒸発温度以上の温度に加熱するので、ターゲット16に対向する基板以外の領域の表面(前面)に成膜材料が付着しなくなる。そのため、ターゲット16上へ付着膜が落下することがなく、この付着膜の落下による異常放電が発生を抑制して、基板8上に堆積する膜の品質を向上させることができる。また、チャックプレート30、31やヒータ60、61の交換作業を行う必要がなく、メンテナンスの頻度が減少して、生産性を従来よりも大幅に向上させることができる。
【0050】
〔第2の実施形態〕
図3は、第2の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0051】
第2の実施形態では、基板ホルダ40に備えられた保持機構は機械的な保持機構であって、加熱機構62、63は機械的な保持機構に内蔵されている。具体的には、チャックプレートをチャックプレート形状(円弧状)のヒータ62、63で形成し、これらのヒータ62、63で基板ホルダ40の基板以外の領域の表面(ターゲットの対向面)を加熱するように構成されている。即ち、ヒータ50で基板8の表面を950℃に加熱し、チャックプレート形状のヒータ62、63で基板ホルダ40の基板以外の領域の表面(ターゲットの対向面)を1000℃以上に加熱する。これにより、基板ホルダ40の基板以外の領域の表面には成膜材料が付着しない。
【0052】
第2の実施形態のスパッタリング装置は、基本的に第1の実施形態のスパッタリング装置と同様の作用効果を奏する。特に第2の実施形態によれば、機械的な保持機構に加熱機構50を内蔵しているので、部品点数が少なくして装置構造を簡略化できるという特有の効果を奏する。
【0053】
〔第3の実施形態〕
図4は、第3の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
第3の実施形態では、第1の実施形態と同様に、保持機構は機械的な保持機構であって、加熱機構64、65は機械的な保持機構に沿って配設されている。具体的には、機械的な保持機構であるチャックプレート30、31の上部(背面)にヒータ64、65を配置し、ヒータ64、65によって、チャックプレート30、31を加熱する構成されている。これにより、基板ホルダ40の基板以外の領域の表面(ターゲット対向面)が加熱される。即ち、ヒータ50で基板8の表面を950℃に加熱し、ヒータ64、65で基板ホルダ40の基板以外の領域の表面を1000℃以上に加熱する。これにより、基板ホルダ40の基板以外の領域の表面には成膜材料が付着しない。
【0055】
第3の実施形態のスパッタリング装置は、基本的に第1の実施形態のスパッタリング装置と同様の作用効果を奏する。
【0056】
〔第4の実施形態〕
図5は、第4の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0057】
第4の実施形態では、基板ホルダ51に基板8を保持する保持機構が、静電吸着により基板8を保持する静電吸着用電極(ESC電極)70、71によって構成されている。静電吸着用電極70、71は、基板ホルダ41の基板保持側(下面側)に配設されている。この基板ホルダ41には、基板8の表面を加熱する加熱機構(電熱ヒータ)51が内蔵されている。
【0058】
且つ、基板ホルダ41は、基板以外の領域の表面温度を基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度以上に加熱する加熱機構66を有する。具体的には、加熱機構66として、基板ホルダ41及び基板8を囲繞するようにリング状の電熱ヒータを配置し、基板以外の領域の表面(ターゲット対向面)が加熱するように構成されている。即ち、ヒータ51で基板8の表面を950℃に加熱し、ヒータ66で基板以外の領域の表面を1000℃以上に加熱する。これにより、基板ホルダ41の基板以外の領域の表面には成膜材料が付着しない。
【0059】
第4の実施形態のスパッタリング装置は、基本的に第1の実施形態のスパッタリング装置と同様の作用効果を奏する。特に第4の実施形態によれば、保持機構を静電吸着用電極70、71により構成しているので、機械的な保持機構を採用する場合に比して、装置構造を簡略化できるという特有の効果を奏する。
【0060】
〔第5の実施形態〕
図6は、第5の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0061】
第5の実施形態では、基板ホルダ41に基板8を保持する保持機構が、静電吸着により基板8を保持する静電吸着用電極(ESC電極)70、71によって構成されている。静電吸着用電極70、71は、基板ホルダ41の基板保持側(下面側)に配設されている。基板ホルダ42のホルダ本体がターゲット16の表面以上(上面以上)の大きさに形成され、基板ホルダ42に内蔵された加熱機構52は基板ホルダ42の表面全体(下面全体)を加熱するように構成されている。これにより、基板ホルダ42の基板以外の領域の表面には成膜材料が付着し難くなる。
【0062】
なお、加熱機構52は、例えば、電熱ヒータにより構成され、基板8の処理面を加熱するヒータ部分に電力供給する不図示の閉回路と、基板以外の領域の表面(ターゲット対向面)を加熱するヒータ部分に電力供給する不図示の閉回路と、を備えていてもよい。この場合、各閉回路は不図示の制御装置に接続され、基板8の処理面の加熱温度と、基板以外の領域の表面の加熱温度と、を別個に制御可能に構成されている。即ち、基板8の表面(処理面)を950℃に加熱し、基板以外の領域の表面を1000℃以上に加熱制御する。これにより、基板ホルダ42の基板以外の領域の表面には成膜材料が付着しない。
【0063】
第5の実施形態のスパッタリング装置は、基本的に第1の実施形態のスパッタリング装置と同様の作用効果を奏する。特に第5の実施形態によれば、保持機構を静電吸着用電極70、71で構成し、基板ホルダ42のホルダ本体をターゲット16の表面以上の大きさに形成しているので、装置構造を大幅に簡略化できるという特有の効果を奏する。
【0064】
〔第6の実施形態〕
図7は、第6の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。なお、第1の実施形態と同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0065】
第6の実施形態では、基板ホルダ43のホルダ本体がターゲット16の表面以上の大きさに形成されている。この基板ホルダ43には、基板8の処理面を加熱する加熱機構53と、基板ホルダ43の基板以外の領域の表面(ターゲット対向面)を加熱する加熱機構54と、が内蔵されている。
【0066】
各加熱機構53、54は、例えば、電熱ヒータであって、各ヒータ53、54は別個に温度制御可能に構成されている。具体的には、各ヒータ53、54は、それぞれ基板8の処理面の加熱温度と、上記基板以外の領域の表面の加熱温度と、を別個に制御可能な不図示の制御装置に接続されている。上記基板8の処理面を加熱する加熱機構53は、基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度未満の温度に加熱し、上記基板以外の領域の表面を加熱する加熱機構54は上記成膜材料の分解または蒸発温度以上の温度に加熱する。即ち、基板8の表面(処理面)を950℃に加熱し、基板以外の領域の表面を1000℃以上に加熱制御する。これにより、基板ホルダ43の基板以外の領域の表面には成膜材料が付着しない。
【0067】
第6の実施形態のスパッタリング装置は、基本的に第1の実施形態のスパッタリング装置と同様の作用効果を奏する。特に第6の実施形態によれば、保持機構を静電吸着用電極70、71で構成し、基板ホルダ42のホルダ本体をターゲット16の表面以上の大きさに形成し、基板ホルダ42に各ヒータ53、54を内蔵する構造であるので、装置構造を簡略化できるという特有の効果を奏する。また、第5の実施形態に比べ、静電吸着型基板ホルダ43の基板以外の領域の表面温度を基板8の温度と別個に制御することができ、これらの温度の差をより大きくしたい場合に好適である。
【0068】
〔第7の実施形態〕
第7の実施形態のスパッタリング装置は、第1から第6の実施形態における基板ホルダ40、41、42及び43の少なくとも基板以外の領域の表面(ターゲット対向面)に窒化アルミニウム(AlN)が被覆されている。
【0069】
スパッタリング装置では、スパッタリング圧力が一般に1Paより低い場合、ターゲット対向面で高エネルギー粒子衝撃によるスパッタが生じる。そのため、ターゲットに対向する基板以外の領域の表面がスパッタリングされ、その構成元素が不純物として基板上に堆積する膜中に直接混入したり、ターゲット上に付着してターゲット物質と共に再スパッタリングされて混入したりする。したがって、これらの不純物元素の混入により膜の特性が劣化してしまう。
【0070】
GaNの場合、Alが混入しても膜特性を劣化させる不純物とはならない。また、AlNの分解温度は、GaNのそれよりも若干高い。これらのことから、例え低いスパッタリング圧力でスパッタリングして基板ホルダの基板以外の表面がスパッタリングされ、その構成元素が基板8上に堆積される膜中に混入しても、その元素がAl及びNであるため膜の特性を劣化させる不純物とはならない。
【0071】
したがって、第7の実施形態によれば、基板上に成膜される膜の品質特性を積極的に向上させることができるという特有の効果を要する。
【0072】
本発明は、上記の第1から第7の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変更をすることができる。
【0073】
例えば、以上の実施形態では、GaN成膜について述べたが、本発明の要旨は、基板ホルダの基板以外の表面(ターゲット対向面)を成膜材料の分解または蒸発温度以上の温度に加熱して、成膜材料が付着しないようにすることである。したがって、成膜材料は上記の実施形態で述べたGaNに限るものではなく、金属や合金、GaNと同様の窒化物であるAlNやInNなど、色々な材料に適応可能である。
【0074】
なお、GaNなどの窒化物の分解温度は、N2の分圧に依存し、低圧ほど低温度で分解する。したがって、加熱温度(1000℃)は例示に過ぎず、限定されない。
【0075】
また、上記の実施形態では、機械的な保持機構としてチャックプレートを例示したが、これに限定されない。図8に示すように、機械的な保持機構として、例えば、基板8または基板8を搭載したトレイの周辺部を2点以上の任意の複数箇所で支持(チャック)するチャックピン32を採用しても構わない。この図示例では、基板8を3本のチャックピン32でチャックした状態が表されている。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、スパッタリング装置のみならず、ドライエッチング装置、プラズマアッシャ装置、CVD装置および液晶ディスプレイ製造装置等の基板ホルダを備えた処理装置に応用して適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係るフェイスダウン型スパッタリング装置の第1の実施形態の構成を示す模式図である。
【図2】チャックプレートを下方から見た模式図である。
【図3】第2の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。
【図4】第3の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。
【図5】第4の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。
【図6】第5の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。
【図7】第6の実施形態のフェイスダウン型スパッタリング装置の構成を示す模式面図である。
【図8】チャックピンを下方から見た模式図である。
【符号の説明】
【0078】
1 真空容器
5 基板搬送経路
8 基板
10 カソード電極
11 磁石ユニット
16 ターゲット
30、31 チャックプレート
32 チャックピン
40、41、42、43 基板ホルダ
50、51、52、53、54 加熱機構(ヒータ)
60、61、62、63、64、65、66 加熱機構(ヒータ)
70,71 静電吸着用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空排気可能な真空容器と、
前記真空容器の内部に配設され、基板をその処理面を下方へ臨ませて保持する保持機構を備えた基板ホルダと、
前記基板ホルダの直下に前記基板に対向させて配置され、放電用電力が供給されるカソード電極と、
前記カソード電極の基板側に支持されたターゲットと、
を備え、
前記基板ホルダは、前記基板以外の領域の表面温度を前記基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度以上に加熱する加熱機構を有することを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項2】
前記保持機構は機械的な保持機構であって、前記加熱機構は前記機械的な保持機構に沿って配設されていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項3】
前記保持機構は機械的な保持機構であって、前記加熱機構は前記機械的な保持機構に内蔵されていることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項4】
前記保持機構が静電吸着用電極であることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリング装置。
【請求項5】
前記基板ホルダ及び基板を囲繞するように、前記加熱機構が配置されていることを特徴とする請求項4に記載のスパッタリング装置。
【請求項6】
前記基板ホルダのホルダ本体が前記ターゲットの表面以上の大きさに形成され、前記加熱機構は前記基板ホルダの表面全体を加熱することを特徴とする請求項4に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
前記基板ホルダに、前記基板の処理面を加熱する加熱機構と、前記基板以外の領域の表面を加熱する加熱機構と、が内蔵され、各加熱機構は別個に温度制御可能であることを特徴とする請求項4または6に記載のスパッタリング装置。
【請求項8】
前記基板の処理面を加熱する加熱機構は、前記基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度未満の温度に加熱し、前記基板以外の領域の表面を加熱する加熱機構は前記成膜材料の分解または蒸発温度以上の温度に加熱することを特徴とする請求項7に記載のスパッタリング装置。
【請求項9】
前記基板の処理面の加熱温度と、前記基板以外の領域の表面の加熱温度と、を別個に制御可能な制御装置が備えられていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
【請求項10】
前記基板ホルダの少なくとも前記基板以外の領域の表面に窒化アルミニウムが被覆されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載のスパッタリング装置。
【請求項11】
前記基板上に成膜する成膜材料が窒化ガリウムであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載のスパッタリング方法。
【請求項12】
基板ホルダに処理面を下方へ臨ませて基板を保持すると共に、その直下に基板に対向するようにカソード電極の上面にターゲットを支持し、高電圧を印加してイオン化した不活性ガスをターゲットに衝突させ、ターゲット物質をスパッタして基板上に成膜するスパッタリング方法であって、
成膜工程において、前記基板の表面温度を前記基板上に成膜する成膜材料の分解または蒸発温度未満に制御し、前記基板ホルダの前記基板以外の領域の表面温度を前記成膜材料の分解または蒸発温度以上に制御することを特徴とするスパッタリング方法。
【請求項13】
前記基板上に成膜する成膜材料が窒化ガリウムであることを特徴とする請求項12に記載のスパッタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−202190(P2011−202190A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166756(P2008−166756)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】