説明

スポットビーム型電子ビーム露光装置及び電子ビーム位置変動抑制方法

【課題】スポットビーム型電子ビーム露光装置及び電子ビーム位置変動抑制方法に関し、各種の外乱に起因する電子ビームの位置変動をリアルタイムに抑制する。
【解決手段】電子源1から放出された広い断面積の電子ビームを一つの描画用電子ビーム3とそれを取り囲む四つの検出用電子ビーム4とに分ける五つの孔を配置したビーム制限絞り2と、四つの検出用電子ビーム4を四極子のレンズと双極子の偏向との重畳電場内に通過させる電場発生機構5と、描画用と検出用の双方電子ビームに作用するコンデンサレンズ6と、描画用電子ビーム3を照射面に集束させる対物レンズ8の主面付近の上下に検出エッジ及び検出器の組み合わせからなる電子ビーム検出機構9をx,y方向に計四つ配置し、一方の方向から二つの検出信号を処理する検出信号処理回路11を各々の方向に備え、各検出信号処理回路11からの出力により描画用電子ビーム3を偏向させる偏向器7を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスポットビーム型電子ビーム露光装置及び電子ビーム位置変動抑制方法に関するものであり、特に、電子ビームが照射する試料上の位置の変動をリアルタイムに補正し抑制するための構成に特徴のあるスポットビーム型電子ビーム露光装置及び電子ビーム位置変動抑制方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マスクを用いることなく、元となるパターンデータに応じて細く絞った電子ビームを電気的に直接操作するスポットビーム型の電子ビーム直接描画技術は、他の方法ではできないような細かいパターンを作成できるほとんど唯一と言ってよい技術であり、主導してきた先端的な半導体集積回路の研究開発にとどまらず、量子デバイスやMEMSなど微細なパターンを必要とする多様なデバイスの研究開発や少量試作に使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、従来は細く絞ったレーザービームによって記録パターンが生成されてきた光ディスクの原盤作成においても、より高記録密度で微細な記録パターンが要求される次世代、次々世代の記録方式に対しては、電子ビームの使用が検討されるようになってきた。
【0004】
さらに、磁気ディスクにおいても、垂直記録方式を超える高記録密度を実現する方法として、記録領域自体を個々の微小な領域に分離した媒体が研究されており、その微小領域を形成するための原盤作成にやはり電子ビームの使用が考えられている。
【0005】
このような細く絞った電子ビームを対象に照射する装置では、種々の原因で種々の経路を通って侵入してくる外乱により、電子ビームの位置変動が生じる。
【0006】
外乱に同期した電子ビームの走査と取得した信号の画像処理によりある程度の対応が可能な走査型電子顕微鏡などとは異なり、スポットビーム型電子ビーム描画装置では位置変動がそのまま描画パターンに現れてしまうために、位置変動そのものを問題がないレベルにまで小さく抑えなければならない。
【0007】
このような外乱に対処するために、従来においては、空間中の浮遊磁場や電極電圧の変動、励磁電流の変動といった、電子ビームの位置変動を引き起こす多数の原因候補の量を計測し、それに重みをかけて重ね合わせた結果をもとに電子ビームを偏向させることで位置変動の抑制を図っていた。
【0008】
なお、配列電子源を用いる特殊な構成の電子ビーム露光装置において、描画用とは異なる電子ビームによりウェハ上の基準マークを走査して照射原点を補正することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかし、この場合にはリアルタイムで照射原点補正を行おうとしても、基準マークからの二次電子/反射電子による検出信号が、描画している照射面から発生する大量の二次電子/反射電子に埋もれてしまい、基準マークからの二次電子/反射電子による検出信号が検出できず、したがって、リアルタイムの補正ができないという問題がある。
【0010】
また、可変成形ビーム型電子ビーム露光装置においては、投影レンズ近傍と対物レンズ近傍に金属電極を配置して、描画に使用しない電子ビームの周辺部を検出してクロスオーバー位置と放射強度分布の変動を補正することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
しかし、この場合、特許文献3で暗示されているように、描画試料面での電子ビーム位置変動を検出する変動検出位置は投影レンズ近傍の方であり、対物レンズ近傍の方ではないので、より寄与の大きな投影レンズ以降の経路における外乱の影響による位置変動を補正することができないという問題がある。
【0012】
さらに、可変成形ビーム型電子ビーム露光装置において、第2成形アパチャに描画に使用しない電子ビームを透過させる開孔を設け、その直下で透過してくる電子ビームをリアルタイムに検出して偏向器にフィードバックして位置補正を行うことも提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0013】
しかし、この場合も、補正できる位置変動は電子源から第2成形アパチャまでの経路で受けた外乱の影響に限られ、この場合の位置変動量は以降の電子レンズ群の倍率で縮小されて描画試料面での位置変動に占める割合が小さくなり、実際に大きく影響する第2成形アパチャ以降の経路における外乱による位置変動を補正することができないという問題がある。
【特許文献1】特開平11−097330号公報
【特許文献2】特開平10−106931号公報
【特許文献3】特開昭55−038057号公報
【特許文献4】特開2001−023878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、電子ビームの位置変動を引き起こす多数の原因候補の量を計測し、それに重みをかけて重ね合わせた結果をもとに電子ビームを偏向させる従来の外乱の抑制方法では、位置変動と相関が強い物理量を見つけ出すことが難しく、抑制効果が不十分であるという問題がある。
【0015】
なお、外乱のうち、商用電源周波数とその高調波に同期した外乱の振幅と位相は安定しているため、このような性質がある位置変動に対しては最初にその量を計測して記憶し、それを打ち消す様に電子ビームを偏向させ続ける学習補正が有効であり、例えば、本発明者の実験装置では振幅をおおむね1/10以下に抑制できている。
【0016】
しかし、描画時間が数時間以上に長くなると、その間に商用電源周波数が変動したり位相がずれたりする機会が増え、最初に得られていたほどの抑制効果が描画中には失われてしまうという事態が生ずるという問題がある。
【0017】
また、外乱が振幅と位相が短時間で変動するような不安定な場合には、従来の学習補正では外乱による位置変動に対する抑制効果が得られないという問題がある。
【0018】
したがって、本発明は、各種の外乱に起因する電子ビームの位置変動をリアルタイムに精度良く抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
図1は本発明の原理的構成図であり、ここで図1を参照して、本発明における課題を解決するための手段を説明する。
図1参照
上記課題を解決するために、本発明は、スポットビーム型電子ビーム露光装置において、一つの電子源1から放出された広い断面積の電子ビームを一つの描画用電子ビーム3とその周辺を取り囲む四つの検出用電子ビーム4とに分けるための五つの孔を配置したビーム制限絞り2と、切り出した四つの検出用電子ビーム4だけを四極子のレンズ電場と双極子の偏向電場との重畳電場内に通過させるところの電場発生機構5と、描画用電子ビーム3と検出用電子ビーム4の双方に作用するコンデンサレンズ6と、描画用電子ビーム3を照射面に集束させる対物レンズ8の主面付近の上下に電子ビームの検出エッジ及び検出器の組み合わせからなる電子ビーム検出機構9をx,y各方向に対して各々一つ計四つ配置し、一方の方向の上下の検出器から得られる二つの検出信号を処理する検出信号処理回路11を各々の方向に備えるとともに、各検出信号処理回路11からの出力により描画用電子ビーム3を各々の方向に偏向させる偏向器7を備えていることを特徴とする。
【0020】
このように、通常は軸上の孔しかないビーム制限しぼりの周辺部に四つの孔を設けて、通常ならばビーム制限絞り2で遮られてしまう電子ビームの一部を、検出用電子ビーム4として利用してその位置変動量をカラム内で常時検出するようにしているので、検出工程が描画用電子ビーム3に影響を与えることなく、リアルタイムでの位置変動の打ち消しが可能になる。
【0021】
特に、検出用電子ビーム4に対する外乱の影響と描画用電子ビーム3に対する外乱の影響は互いに強い相関があるので、このように双方の相関が強い物理量を利用することによって、充分な位置変動の抑制効果が得られる。
【0022】
また、上述のスポットビーム型電子ビーム露光装置を用いて電子ビーム位置変動を抑制する場合には、ビーム制限絞り2で切り出した検出用電子ビーム4を、電子ビームが通過した四極子のレンズ電場と双極子の偏向電場との重畳電場の働きによって、描画用電子ビーム3がクロスオーバーを結ぶコンデンサレンズ焦点面よりも遠方である対物レンズ主面付近の上下に配置した検出用エッジ上によって検出エッジと直交する方向に一方向集束させ、検出エッジで遮られた検出用電子ビーム4の割合をその直下の検出器で検出し、その割合の変化を含んだ検出信号を検出信号処理回路11で処理することで検出エッジ上での検出用電子ビーム4の位置変動量を知り、x,y各方向ごとにそれぞれ上下に設けた検出エッジ上での検出用電子ビーム4の位置変動量から、描画用電子ビーム3の描画試料面10上での位置変動量を検出信号処理回路11内で推定し、その位置変動量を打ち消すように描画用電子ビーム3を偏向させる情報を偏向器7に対して検出信号処理回路11から出力して、描画用電子ビーム3を偏向補正して描画用電子ビーム3の振動をリアルタイムに抑制する。
【0023】
この場合、切り出した検出用電子ビーム4だけを四極子のレンズ電場と双極子の偏向電場との重畳電場内に通して、x,y方向の一方向に付き対物レンズ主面付近の上下に配置した二つの検出エッジ上に、エッジ直交方向には一方向集束しエッジ平行方向には発散させることにより、エッジに直交する方向には1μm程度以下に集束させることが可能になり、それによって、0.1nm程度の位置変動によって生じる検出エッジで遮られた電子ビームの割合の変化は、検出エッジの下に配置した検出器で検出することができる。
【0024】
なお、四極子のレンズ電場による一方向集束を行わないと、検出エッジの位置での電子ビームの直径は数十〜数百μmと太いままであるために、0.1nm程度の位置変動を検出することは事実上不可能となる。
【0025】
また、このように検出されるx,y方向の一方向に付き二カ所での検出用電子ビーム4の位置変動量に、所定の重みをつけて差を取ることで、描画試料面10上での描画用電子ビーム3の位置変動量を推定することができ、推定した位置変動量を打ち消すように偏向器7によって描画用電子ビーム3に偏向補正をかけることによって、リアルタイムでの位置変動の打ち消しが可能になる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、描画を行う電子ビームとほぼ等しい影響を受けてくる検出用電子ビームの位置変動量を計測するという、双方の相関が強い物理量を利用しているので、充分な精度の位置変動の抑制効果が得られる。
【0027】
さらに、リアルタイムに位置変動量を計測できることで、振幅と位相が短時間に変動する、不安定な位置変動に対しても充分な抑制効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、まず、一つの電子源1から放出された広い断面積の電子ビームを一つの描画用電子ビームとその周辺を取り囲む四つの検出用電子ビームとに分けるための五つの孔を配置したビーム制限絞りにより四つの検出用電子ビームを切り出す。
【0029】
次いで、切り出した四つの検出用電子ビームだけを電場発生機構を構成する四極子のレンズ電場と双極子の偏向電場との重畳電場内を通過させ、重畳電場の働きによって、描画用電子ビームをクロスオーバーを結ぶコンデンサレンズ焦点面よりも遠方である対物レンズ主面付近の上下に配置した検出用エッジ上において検出エッジと直交する方向には一方向集束し検出エッジと平行な方向には発散させる。
【0030】
次いで、描画用電子ビームを照射面に集束させる対物レンズの主面付近の上下にx,y各方向に対して各々1つ計4つ設けた電子ビームの検出エッジ及び検出器の組み合わせからなる電子ビーム検出機構により、検出エッジで遮られた検出用電子ビームの割合をその直下の検出器で検出する。
【0031】
次いで、検出した割合の変化を含んだ検出信号を検出信号処理回路で処理することで検出エッジ上での検出用電子ビームの位置変動量を知り、x,y各方向ごとにそれぞれ上下に設けた検出エッジ上での検出用電子ビームの位置変動量から、描画用電子ビームの描画試料面上での位置変動量を検出信号処理回路内で推定し、その位置変動量を打ち消すように描画用電子ビームを偏向させる情報を偏向器に対して検出信号処理回路から出力して、描画用電子ビームを偏向補正して描画用電子ビームの振動をリアルタイムに抑制する。
【実施例1】
【0032】
ここで、図2乃至図6を参照して、本発明の実施例1のスポットビーム型電子ビーム露光装置における電子ビーム位置変動抑制方法を説明する。
図2参照
図2は、本発明の実施例1に使用するスポットビーム型電子ビーム露光装置の概念的構成図であり、電子源21、電子ビーム制限絞り兼電場発生機構30、コンデンサレンズ22、偏向器23、対物レンズ24、及び、電子ビームの検出エッジ26及び検出器27の組み合わせからなる電子ビーム検出機構25を対物レンズ24の主面付近の上下にx,y各方向に対して各々1つ計4つ設けている。
【0033】
また、一方の方向の検出用電子ビーム52に対して設けた上下の電子ビーム検出機構25の検出出力は検出信号処理回路28へ出力されて、検出信号処理回路28を介して偏向器23にフィードバックされる。
なお、他の方向に対しても同様に、検出信号処理回路が設けられており、検出信号処理回路を介して他の方向の検出用電子ビーム52を偏向する。
【0034】
ここで描画試料面10と共役の関係にあるのは電子源21の面とコンデンサレンズ焦点面であり、それ以外の場所での電子ビームの位置と、描画試料面10での電子ビームの位置とは1:1に対応しない。
【0035】
それ以外の場所では、電子ビームの位置と同時にその進行方向がわかってはじめて、描画試料面10での電子ビームの位置がわかるのであるが、電子ビームの進行方向を知るには、異なる二ケ所での電子ビームの位置がわかれば良い。
これが、上下二ケ所に電子ビーム検出機構25を設ける理由であり、各々からの検出信号により描画電子ビームの進行方向、ひいては、描画試料面10での位置を推定するのである。
【0036】
この場合の電子源21は、一例としてサイズが100nm程度のヴァーチャルソースであり、加速電圧を例えば、100kVとする。
また、コンデンサレンズ22の焦点面28はコンデンサレンズ22の下端から100mmの位置に設定するとともに、検出用電子ビーム52のコンデンサレンズ22による焦点位置をy(x)方向の一方、y2 方向については、対物レンズ24の上面側とし、他方のy1 方向については、対物レンズ24の下面側とする。
【0037】
この場合、検出用電子ビーム52y1の中心軸からの乖離は、以降で詳述するように、経験した双極子の偏向電場の強さが異なる分、検出用電子ビーム52y2の中心軸からの乖離より大きくなる。
なお、x方向についても同様に設定する。
【0038】
図3乃至図4参照
図3は、電子ビーム制限絞り兼電場発生機構30の概略的斜視図であり、また、図4の上図は電場発生機構を示す概略的平面図、下図は概略的側面図であり、電子ビーム制限絞り兼電場発生機構30の上端面を構成する電子ビーム制限絞り31の中央には直径が例えば、0.5mmの描画用電子ビーム51を透過させる開孔32とその周囲に例えば、5.62mmのピッチで直径が例えば、0.5mmの検出用電子ビーム52を透過させる4つの開孔33が設けられている。
【0039】
また、電子ビーム制限絞り兼電場発生機構30の下端面を構成する電子ビーム透過板34にも、上記開孔32,33と投影的に重なるとともに、直径が例えば、3mmの開孔35,36が設けられいる。
【0040】
また、電場発生機構は四極子兼双極子を構成する直径6mmの9つの電極から構成されている。
まず、中央の電極37には電子ビームを透過させる貫通孔が設けられているとともに、その上下端が電子ビーム制限絞り31と電子ビーム透過板34とに電気的にも機械的にも接続されて、接地電位になっている。
【0041】
また中央の電極37と電子透過部を介して例えば5.62mmのピッチで対向するように負電圧を印加する4つの電極38〜41が設けられており、また、4つの電極38〜41の各2つの電極の中間部には正電圧を印加するための2つの電極42,43と2つの分割型電極44,45が設けられており、分割型電極44,45は絶縁シート46を介して一体化された2つの半円柱状導電部材47,48で構成されている。
この9つの電極のうち、中央の電極37と、電子ビーム透過部を囲む他の三つの電極によって、4組の四極子兼双極子が構成される。
【0042】
図5参照
図5は、四極子兼双極子の概略的斜視図であり、ここでは、1組の四極子兼双極子を説明する。
図に示すように、中央の電極37と、電子ビーム透過部を囲む他の三つの電極38,42及び分割型電極44によって四極子兼双極子を構成し、電極38に負電圧を、また、電極42と分割型電極44を構成する半円柱状導電部材47に負電圧の1/2の正電圧を印加する。
【0043】
また、図示は省略するが、この電極37,38,42及び分割型電極44の組に電極37を介して反対位置にある電極37,40,43及び分割型電極45によって構成される四極子兼双極子にも同じ電圧を印加し、例えば、負電圧を−1686Vとすると、正電圧を843Vとする。
【0044】
一方、これらの四極子兼双極子と直交する方向に配置される2つの四極子兼双極子、即ち、電極37,38,39及び分割型電極45によって構成される四極子兼双極子と電極37,41,43及び分割型電極44によって構成される四極子兼双極子には、例えば、−1520Vの負電圧と760Vの正電圧を印加する。
【0045】
この四極子兼双極子の四極子のレンズ電場と双極子の偏向電場との重畳電場の働きによって、検出用電子ビーム52の焦点位置が、対物レンズ24の主面付近の上下になるようにし、その位置に配置した検出用エッジ上において検出用電子ビーム52を検出エッジと直交する方向に一方向集束させ、平行な方向には発散させる。
例えば、検出用電子ビーム52y2の検出エッジと直交する方向のビームサイズはおよそ82nmとなり、検出用電子ビーム52y1の検出エッジと直交する方向のビームサイズはおよそ85nmとなる。
【0046】
図6図照
図6は、電子ビーム検出機構の概念的構成図であり、検出エッジ26と検出器27によって構成されており、検出エッジ26によって、検出エッジ26と直交する方向に集束された検出用電子ビーム52の一部を遮蔽して、遮蔽されなかった検出用電子ビーム52を検出器27によって検出する。
【0047】
このようにして検出器27によって検出する遮蔽されなかった検出用電子ビーム52の検出量の変動によって、位置変動量を評価する。
ここでは、検出エッジ26に直交する方向には1μm以下、具体的にはおよそ82nmとおよそ85nmに集束させているので、0.1nm程度の位置変動の検出が可能になる。
【0048】
図7参照
図7は、描画試料面での描画用電子ビームの位置変動量の推定方法の説明図であり、ここで、対物レンズ主面と描画試料面29の間隔をL、対物レンズ主面と検出用電子ビーム52y2に対する検出エッジまでの間隔をΔ2 、対物レンズ主面と検出用電子ビーム52y1に対する検出エッジまでの間隔をΔ1 、描画用電子ビーム51のy方向の位置変動量をδy 、描画試料面29における描画用電子ビーム51の照射位置から対物レンズ24の中心点への臨み角をαy 、検出用電子ビーム52y2の位置変動量をY2 、検出用電子ビーム52y1の位置変動量をY1 、対物レンズ24の焦点距離と角度倍率をそれぞれf,mとする。
【0049】
このような関係から、描画用電子ビーム51の位置変動量をδy は、
δy ≒L×αy ・・・(1)
で表されることになるが、この場合の角度αy は、位置変動量をY1 ,Y2 に重み付けして、
αy ≒w1 ×Y1 −w2 ×Y2 ・・・(2)
として描画用電子ビーム51の位置変動量δy を検出信号処理回路28において推定し、この位置変動量δy を相殺するように偏向器23にフィードバックをかける。
【0050】
なお、この場合の重み係数w1 ,w2 はそれぞれ、
1 =〔1−Δ2 /f(1+m)〕/〔Δ1 +Δ2 −(Δ1 ×Δ2 )/f〕 ・・・(3)
2 =〔1−(m×Δ1 )/f(1+m)〕/〔Δ1 +Δ2 −(Δ1 ×Δ2 )/f〕 ・・・(4)
で定義する。
このような、関係をx方向についても行って、x方向における位置変動量δx を相殺するように偏向器にフィードバックをかける。
【0051】
このように、本発明の実施例1においては、四極子兼双極子からなる電場発生機構を利用して検出用電子ビーム52の焦点位置が、対物レンズ24の主面付近の上下になるようにして、その位置において検出用電子ビーム52の位置変動量を測定しているので、コンデンサレンズ22より後段の位置における外乱の影響による位置変動量をリアルタイムで測定することができ、それによって、外乱が小さい場合にも描画用電子ビーム51の位置変動を精度良く抑制することができる。
【0052】
以上、本発明の実施例を説明してきたが、本発明は実施例に記載された構成・条件等に限られるものではなく各種の変更が可能であり、例えば、上記の実施例においてはコンデンサレンズと対物レンズを通過する電子ビームが回転しない静電型のレンズとしているが、静電型のレンズに限られるものではなく、通常使用されることが多い電磁型のレンズを用いても良いものである。
【0053】
但し、電磁型レンズを用いる場合には、上下の検出エッジと検出器の組からなる電子ビーム検出機構では、対物レンズ磁界通過中に受ける回転角度分だけ下方の電子ビーム検出機構の検出エッジと検出器の配置及びエッジの向きともどもに回転させておく必要がある。
【0054】
また、上記の実施例においては、説明を簡単にするために偏向器を平行平板型の静電偏向器として説明しており、したがって、x方向用偏向器とy方向用偏向器の一対の偏向器を用いることを前提としているが、八極子偏向器等の多極子偏向器を用いても良いものであり、その場合には、一つの八極子偏向器等の多極子偏向器に印加する電圧値にx方向位置変動量とy方向位置変動量を同時にフィードバックすることになる。
【0055】
また、上記の実施例で例示した、間隔、サイズ、電圧等の数値は単なる一例であり、装置構成・規模に応じて適宜変更されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の活用例としては、スポットビーム型電子ビーム露光装置が典型的なものであるが、走査型電子顕微鏡等のスポットビームを直接照射するタイプの荷電粒子照射装置にも適用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の原理的構成の説明図である。
【図2】本発明の実施例1に使用するスポットビーム型電子ビーム露光装置の概念的構成図である。
【図3】電子ビーム制限絞り兼電場発生機構の概略的斜視図である。
【図4】電子ビーム制限絞り兼電場発生機構の配置説明図である。
【図5】四極子兼双極子の概略的斜視図である。
【図6】電子ビーム検出機構の概念的構成図である。
【図7】描画試料面での描画用電子ビームの位置変動量の推定方法の説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1 電子源
2 ビーム制限絞り
3 描画用電子ビーム
4 検出用電子ビーム
5 電場発生機構
6 コンデンサレンズ
7 偏向器
8 対物レンズ
9 電子ビーム検出機構
10 描画試料面
11 検出信号処理回路
21 電子源
22 コンデンサレンズ
23 偏向器
24 対物レンズ
25 電子ビーム検出機構
26 検出エッジ
27 検出器
28 検出信号処理回路
29 描画試料面
30 電子ビーム制限絞り兼電場発生機構
31 電子ビーム制限絞り
32 開孔
33 開孔
34 電子ビーム透過板
35 開孔
36 開孔
37〜41 電極
42,43 電極
44,45 分割型電極
46 絶縁シート
47,48 半円柱状導電部材
51 描画用電子ビーム
52 検出用電子ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの電子源から放出された広い断面積の電子ビームを一つの描画用電子ビームとその周辺を取り囲む四つの検出用電子ビームとに分けるための五つの孔を配置したビーム制限絞りと、前記切り出した四つの検出用電子ビームだけを四極子のレンズ電場と双極子の偏向電場との重畳電場内に通過させるところの電場発生機構と、前記描画用電子ビームと前記検出用電子ビームの双方に作用するコンデンサレンズと、前記描画用電子ビームを照射面に集束させる対物レンズの主面付近の上下に電子ビームの検出エッジ及び検出器の組み合わせからなる電子ビーム検出機構をx,y各方向に対して各々一つ計四つ配置し、前記一方の方向の上下の検出器から得られる二つの検出信号を処理する検出信号処理回路を各々の方向に備えるとともに、前記各検出信号処理回路からの出力により描画用電子ビームを各々の方向に偏向させる偏向器を備えていることを特徴とするスポットビーム型電子ビーム露光装置。
【請求項2】
請求項1記載のスポットビーム型電子ビーム露光装置における電子ビーム位置変動抑制方法であって、上記ビーム制限絞りで切り出した検出用電子ビームを、電子ビームが通過した四極子のレンズ電場と双極子の偏向電場との重畳電場の働きによって、上記描画用電子ビームがクロスオーバーを結ぶコンデンサレンズ焦点面よりも遠方である対物レンズ主面付近の上下に配置した上記検出用エッジ上において前記検出エッジと直交する方向に一方向集束させ、前記検出エッジで遮られた検出用電子ビームの割合をその直下の検出器で検出し、その割合の変化を含んだ検出信号を上記検出信号処理回路で処理することで前記検出エッジ上での検出用電子ビームの位置変動量を知り、x,y各方向ごとにそれぞれ上下にある前記検出エッジ上での検出用電子ビームの位置変動量から、前記描画用電子ビームの描画試料面上での位置変動量を前記検出信号処理回路内で推定し、その位置変動量を打ち消すように描画用電子ビームを偏向させる情報を上記偏向器に対して検出信号処理回路から出力して、描画用電子ビームを偏向補正して前記描画用電子ビームの振動をリアルタイムに抑制することを特徴とする電子ビーム位置変動抑制方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−273717(P2007−273717A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97420(P2006−97420)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構、「大容量光ストレージ技術の開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】