説明

スルーホール用充填剤及び多層配線基板

【課題】スルーホールへの高い充填性と、得られた硬化体とスルーホール上導体層との高い密着性と、の両方がバランスよく得られるスルーホール用充填剤及びこれを用いた多層配線基板を提供する。
【解決手段】本スルーホール用充填剤は、第1エポキシ樹脂(BPA)及びこれより粘度が小さい第2エポキシ樹脂を含む硬化性樹脂と、無機フィラー(例えばシリカ)とを含有するスルーホール用充填剤であって、第2エポキシ樹脂はシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエータル等及び/又はそのオリゴマーである。本多層配線基板100は、表裏を導通する内壁面導体6が形成されたスルーホールが設けられ且つスルーホール内が硬化体2により充塞されたコア基板1と、その表面に配設され且つ硬化体2の露出面に密着された第1導体層3と、第1導体層3が形成された面に積層されたビルドアップ絶縁層4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルーホール用充填剤及び多層配線基板に関する。更に詳しくは、充填性及び密着性に優れたスルーホール用充填剤及びこのスルーホール用充填剤を用いて得られた硬化体をスルーホール内に備えた多層配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化や軽量化、高密度実装化に伴い、配線基板の多層化及び省スペース化が進み、コア基板のスルーホール上さえもビア導体等を積層し得るスペースとする必要が生じている。このため、スルーホール用充填剤が硬化されてなる硬化体の表面にスルーホール上導体層を形成し、このスルーホール上導体層に更にビア導体を積層する多層化技術が必要となっている。一方で、スルーホールはますます小径化される傾向にあり、上記密着性を確保した上で、より小径なスルーホールにおいても高い充填性(印刷性)が得られるスルーホール用充填剤が求められている。この技術に関する文献として下記特許文献1及び2が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−186728号公報
【特許文献2】特開2003−133672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記多層化技術を十分な信頼性をもって実現するには硬化体とスルーホール上導体層と高い密着性を確保することが不可欠となるが、この際には、硬化体自体の低熱膨張化も欠かせない。即ち、スルーホール用充填剤を充填する基板と得られた硬化体との熱膨張係数差が小さいことが要求され、低熱膨張化のために多量のフィラー使用が必要となる。その上で上記充填性を確保する必要がある。
【0005】
充填性を向上させる技術としては、上記文献1に示されるように、液状エポキシ樹脂を用いて充填剤の粘度を低下させる技術が知られている。しかし、この構成において液状エポキシ樹脂を利用すると、得られる硬化体とスルーホール上導体層との密着性を十分に得ることが困難となる。即ち、リフロー工程及び実使用時の熱サイクル及び熱衝撃などにより、硬化体とスルーホール上導体層との剥離、これらの間に生じる膨れ、更には、スルーホール上導体層とその上に積層されたビア導体との密着性低下等が問題となる。
【0006】
一方、硬化体とスルーホール上導体層との密着性を向上させる技術としては、上記文献2に示されるように、スルーホール用充填剤に金属粒子を含有させる技術が知られている。しかし、この構成ではスルーホール上導体層と硬化体との密着性は向上されるものの、昨今の小径なスルーホールに対応できるだけの充填性を確保することが困難である。即ち、金属粒子を含有させるとスルーホール用充填剤が増粘するという問題がある。特に金属粒子は硬化体の低熱膨張化への寄与は小さいため、金属粒子を含有させた上で低熱膨張化に十分寄与する他のフィラーを含有させる必要がある。そうすると、結果的にフィラー量が増加し、液状エポキシ樹脂を用いたとしてもフィラー過多により低粘度化と密着性とのバランスをとることが困難となる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、スルーホールへの高い充填性と、得られた硬化体とスルーホール上導体層との高い密着性と、の両方がバランスよく得られるスルーホール用充填剤及びこのスルーホール用充填剤を用いて得られた硬化体をスルーホール内に備えた多層配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
〈1〉第1エポキシ硬化性樹脂及び該第1エポキシ硬化性樹脂より粘度が小さい第2エポキシ硬化性樹脂を含む硬化性樹脂と、該硬化性樹脂を硬化する硬化剤と、金属フィラーを除く無機フィラーとを含有するスルーホール用充填剤であって、
上記第2エポキシ硬化性樹脂は、下記一般式(1)で表される化合物及び/又はそのオリゴマーであることを特徴とするスルーホール用充填剤。
【化1】

〔式(1)において、P及びQは、各々メチレン基又は単結合である。〕
〈2〉上記第1エポキシ硬化性樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、キレート変性エポキシ樹脂、及びアミノフェノール型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種である上記〈1〉に記載のスルーホール用充填剤。
〈3〉上記第1エポキシ硬化性樹脂は、エポキシ当量90〜290g/eq且つ粘度0.5〜30Pa・sである上記〈1〉又は〈2〉に記載のスルーホール用充填剤。
〈4〉上記第2エポキシ硬化性樹脂は、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーからなり、エポキシ当量130〜150g/eq且つ粘度0.3Pa・s以下である上記〈1〉乃至〈3〉のうちのいずかに記載のスルーホール用充填剤。
〈5〉溶剤を含有せず且つずり速度21s−1における粘度が20〜40Pa・sである上記〈1〉乃至〈4〉のうちのいずかに記載のスルーホール用充填剤。
〈6〉上記第1エポキシ硬化性樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、及びキレート変性エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種であり、且つ、エポキシ当量90〜290g/eq且つ粘度0.5〜30Pa・sであり、
上記第2エポキシ硬化性樹脂は、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーからなり、エポキシ当量130〜145g/eq且つ粘度0.3Pa・s以下であり、
溶剤を含有せず且つずり速度21s−1における粘度が20〜40Pa・sである上記〈1〉に記載のスルーホール用充填剤。
〈7〉上記無機フィラーは、シリカフィラーと炭酸カルシウムフィラーとを含有し、
上記硬化性樹脂及び該無機フィラーの合計を100体積%とした場合に、該無機フィラーを30〜70体積%含有する上記〈1〉乃至〈6〉のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
〈8〉上記シリカフィラー及び上記炭酸カルシウムフィラーとの合計を100体積%とした場合に、該炭酸カルシウムフィラーを2〜25体積%含有する上記〈7〉に記載のスルーホール用充填剤。
〈9〉内壁面導体が形成されたスルーホール内に充填された後、硬化されて硬化体となり、且つ得られた該硬化体のうちの該スルーホールから露出された面に密着された導体層が形成されることとなる上記〈1〉乃至〈8〉のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
〈10〉上記導体層を介した上記硬化体上にビア導体が形成されることとなる上記〈9〉に記載のスルーホール用充填剤。
〈11〉上記スルーホールの内径が、200μm以下である上記〈1〉乃至〈10〉のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
〈12〉上記スルーホールの長さが、300〜1000μmである上記〈1〉乃至〈11〉のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
〈13〉上記内壁面導体は、粗化されていない上記〈1〉乃至〈12〉のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
〈14〉表裏を導通する内壁面導体が形成されたスルーホールが設けられ且つ該スルーホール内が硬化体により充塞されたコア基板と、
上記コア基板の表面に配設され且つ上記硬化体の上記スルーホールから露出された面に密着された第1導体層と、
上記コア基板の該第1導体層が形成された面に積層されたビルドアップ絶縁層と、を備える多層配線基板であって、
上記硬化体は、請求項1乃至8のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤が硬化されてなることを特徴とする多層配線基板。
〈15〉上記ビルドアップ絶縁層は、その表裏を導通するビア導体を備え、
上記ビア導体は、上記第1導体層を介して上記硬化体上に配置されている上記〈14〉に記載の多層配線基板。
〈16〉上記スルーホールの内径が、200μm以下である上記〈14〉又は〈15〉に記載の多層配線基板。
〈17〉上記スルーホールの長さが、300〜1000μmである上記〈14〉乃至〈16〉のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
〈18〉上記内壁面導体は、粗化されていない上記〈14〉乃至〈17〉のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
【発明の効果】
【0009】
本発明のスルーホール用充填剤によると、スルーホールへの高い充填性が得られ、また、得られた硬化体とスルーホール上導体層との間で高い密着性が得られる。更に、このスルーホール用充填剤を用いることで、信頼性の高い高密度化された多層配線基板を得ることができる。
第1エポキシ硬化性樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、キレート変性エポキシ樹脂、及びアミノフェノール型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種である場合は、より優れた充填性が得られると共に、硬化体とスルーホール上導体層との密着性にもより優れた多層配線基板を得ることができる。
第1エポキシ硬化性樹脂がエポキシ当量90〜290g/eq且つ粘度0.5〜30Pa・sである場合は、耐熱性に優れた硬化体が得られる。より優れた充填性が得られると共に、硬化体とスルーホール上導体層との密着性にもより優れた多層配線基板を得ることができる。
第2エポキシ硬化性樹脂がシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーからなり、エポキシ当量130〜150g/eq且つ粘度0.3Pa・s以下である場合は、耐熱性に優れた硬化体が得られる。より優れた充填性が得られると共に、硬化体とスルーホール上導体層との密着性にもより優れた多層配線基板を得ることができる。
溶剤を含有せず且つずり速度21s−1における粘度が20〜40Pa・sである場合は、小口径のスルーホールに特に好適に対応でき、優れた充填性を得ることができる。
第1エポキシ硬化性樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、及びキレート変性エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種であり、且つ、エポキシ当量90〜290g/eq且つ粘度0.5〜30Pa・sであり、第2エポキシ硬化性樹脂がシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーからなり、エポキシ当量130〜150g/eq且つ粘度0.3Pa・s以下であり、溶剤を含有せず且つずり速度21s−1における粘度が20〜40Pa・sである場合は、特に優れた充填性が得られ、更に、充填口径200μm以下のスルーホールにおいても高い充填性を得ることができる。
無機フィラーがシリカフィラーと炭酸カルシウムフィラーとを含有し、硬化性樹脂及び無機フィラーの合計を100体積%とした場合に、無機フィラーを30〜70体積%含有する場合は、得られる硬化体とこの硬化体に接する導体層との密着性に優れた配線基板を得ることができる。
シリカフィラー及び炭酸カルシウムフィラーとの合計を100体積%とした場合に、炭酸カルシウムフィラーを2〜25体積%含有する場合は、得られる硬化体とこの硬化体に接する導体層との密着性に特に優れた配線基板を得ることができる。
内壁面導体が形成されたスルーホール内に充填された後、硬化されて硬化体となり、且つ得られた該硬化体のうちのスルーホールから露出された面に密着された導体層が形成されることとなる場合は、硬化体と導体層との密着性に優れた配線基板を得られる。また、リフロー工程(特に無鉛ハンダによる高温リフロー工程、更には複数回にわたって課された場合にも)及び実使用に伴う熱サイクル、熱衝撃等によっても、硬化体と導体層との間にデラミネーションが生じることを効果的に抑制できる。即ち、硬化体と導体層との間の高い接続信頼性を得ることができる。
導体層を介した硬化体上にビア導体が形成されることとなる場合は、導体層とビア導体との間の電気的に接続信頼性に優れた配線基板が得られる。
スルーホールの内径が200μm以下である場合は、充填口径が小さいにも関わらず、本スルーホール用充填剤を用いることによって優れた充填性が得られると共に、他の本スルーホール用充填剤を用いることによる効果を得ることができる。
スルーホールの長さが300〜1000μmである場合は、本スルーホール用充填剤を用いることによって優れた充填性が得られると共に、他の本スルーホール用充填剤を用いることによる効果を得ることができる。
内壁面導体が粗化されていない場合は、粗化されていないためにアンカー効果が得られず、硬化体との密着性が本来得られ難いにも関わらず、本スルーホール用充填剤を用いることで高い密着性が得られる。
【0010】
本発明の多層配線基板によれば、硬化体とこの硬化体と接する導体層との密着性に優れた多層配線基板とすることができる。また、リフロー工程(特に無鉛ハンダによる高温リフロー工程、更には複数回にわたって課された場合にも)及び実使用に伴う熱サイクル、熱衝撃等によっても、硬化体と導体層との間にデラミネーションが生じることを効果的に抑制できる。即ち、硬化体と導体層との間の高い接続信頼性を得ることができる。
ビルドアップ絶縁層がその表裏を導通するビア導体を備え、ビア導体が第1導体層を介して硬化体上に配置されている場合は、硬化体と導体層との間のデラミネーションが抑制されるために、導体層の変位を生じることなく、この導体層とビア導体との接続信頼性に優れた多層配線基板とすることができる。
スルーホールの内径が、200μm以下である場合は、充填口径が小さいにも関わらず、本スルーホール用充填剤を用いることによって優れた充填性が得られると共に、本スルーホール用充填剤を用いることによる効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[1]スルーホール用充填剤
本発明のスルーホール用充填材は、第1エポキシ硬化性樹脂及び該第1エポキシ硬化性樹脂より粘度が小さい第2エポキシ硬化性樹脂を含む硬化性樹脂と、該硬化性樹脂を硬化する硬化剤と、金属フィラーを除く無機フィラーとを含有するスルーホール用充填剤であって、
上記第2エポキシ硬化性樹脂は、下記一般式(1)で表される化合物及び/又はそのオリゴマーであることを特徴とする。
【化2】

〔式(1)において、P及びQは、各々メチレン基又は単結合である。〕
【0012】
上記「第1エポキシ硬化性樹脂」(以下、単に「第1エポキシ樹脂」ともいう)は、第2エポキシ硬化性樹脂よりも粘度(温度20〜30℃における粘度)が大きく、硬化されてエポキシ樹脂となる硬化前樹脂である。この第1エポキシ樹脂について上記粘度以外は特に限定されないが、少なくとも温度20〜30℃において液状であるエポキシ樹脂(即ち、流動性のエポキシ樹脂であること)が好ましい。更には、温度25℃における粘度が30Pa・s以下(通常0.2Pa・s以上、より好ましくは0.2〜25Pa・s、更に好ましくは0.5〜21Pa・s)であることが好ましい。この範囲の粘度であれば、第2エポキシ硬化性樹脂との混合により優れた充填性が得られ、尚かつ導体材料との優れた密着性を合わせ有するスルーホール用充填剤とすることができる。
【0013】
この第1エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びグリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのなかでは、ビスフェノール型エポキシ樹脂及びグリシジルアミン型エポキシ樹脂が好ましい。これらエポキシ樹脂は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、キレート変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(非キレート変性)、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂等が挙げられ、これらのなかでも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びキレート変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
また、グリシジルアミン型エポキシ樹脂としては、アミノフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。このアミノフェノール系エポキシ樹脂とは、構造内のベンゼン環に直接結合されたアミノ基を1つ以上有し、このアミノ基が有する水素原子がグリシジル基末端を有する置換基に置換されおり、且つ分子全体に少なくとも2つ以上のグリシジル基を有する構造の多官能性エポキシ樹脂である。
【0016】
この第1エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に限定されないが、90〜290g/eqが好ましい。この範囲であれば、耐熱性に優れた硬化体が得られる。更に、このエポキシ当量は90〜240g/eqがより好ましく、90〜205g/eqが更に好ましく、170〜205g/eqが特に好ましい。尚、このエポキシ当量は、JIS K7236(エポキシ樹脂のエポキシ当量試験方法)による。
【0017】
また、第1エポキシ樹脂の粘度は特に限定されないが、温度25℃における粘度が0.5〜30Pa・sであることが好ましい。この範囲であれば、より優れた充填性が得ることができる。更に、この粘度は0.5〜20Pa・sがより好ましく、0.5〜15Pa・sが特に好ましい。尚、この粘度は、JIS K7233(エポキシ樹脂及び硬化剤の粘度試験方法)による。
【0018】
上記「第2エポキシ硬化性樹脂」(以下、単に「第2エポキシ樹脂」ともいう)は、上記一般式(1)で表される化合物及び/又はそのオリゴマーである。上記一般式(1)においてP及びQは、各々メチレン基又は単結合である。即ち、第2エポキシ樹脂としては、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及びシクロヘキサンジオールジグリシジルエーテルが含まれる。
これらのなかでも、式(1)においてP及びQが共にメチレン基であるシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルが好ましい。また、Pを含む置換基とQを含む置換基とがシクロヘキサンに対して1,4位(対称位置)に配置された1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーが特に好ましい。
【0019】
この第2エポキシ樹脂のエポキシ当量は特に限定されないが、130〜150g/eqが好ましい。この範囲であれば、耐熱性に優れた硬化体が得られる。更に、このエポキシ当量は130〜145g/eqがより好ましく、130〜140g/eqが特に好ましい。尚、このエポキシ当量は、JIS K7236(エポキシ樹脂のエポキシ当量試験方法)による。
【0020】
また、第2エポキシ樹脂の粘度は特に限定されないが、温度25℃における粘度が0.3Pa・s以下であることが好ましい。この範囲であれば、より優れた充填性が得ることができる。更に、この粘度は0.02〜0.2Pa・sがより好ましく、0.02〜0.1Pa・sが特に好ましい。尚、この粘度は、JIS K7233(エポキシ樹脂及び硬化剤の粘度試験方法)による。
【0021】
本スルーホール用充填剤における上述の第1エポキシ樹脂と第2エポキシ樹脂との配合割合は特に限定されず、各々の樹脂種により適宜な範囲とすることができるが、第1エポキシ樹脂と第2エポキシ樹脂との合計を100質量%とした場合に、第2エポキシ樹脂は1〜50質量%が好ましい。この範囲では優れた充填性及び優れた密着性を確保した上で、特に高い耐熱性を得ることができる。更に、この配合割合は1〜40質量%がより好ましく、1〜35質量%が特に好ましい。
【0022】
更に、第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂が、各々ビスフェノールA型エポキシ樹脂とシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーとである場合には、第2エポキシ樹脂は、1〜50質量%が好ましく、5〜45質量%がより好ましく、15〜35質量%が更に好ましい。
また、第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂が、各々水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂とシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーとである場合には、第2エポキシ樹脂は、1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
更に、第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂が、各々キレート変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂とシクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーとである場合には、第2エポキシ樹脂は、1〜50質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましく、6〜18質量%が更に好ましい。
【0023】
スルーホール用充填剤全体に対するエポキシ樹脂(第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂を含む)の含有量は、スルーホール用充填剤全体を100質量%とした場合に、30〜70体積%(より好ましくは35〜70体積%、更に好ましくは40〜60体積%、特に好ましくは40〜50体積%)であることが好ましい。この範囲では、口径200μm以下である小口径のスルーホールに対しても優れた充填性が得られる。特にスクリーン印刷法による充填に対応でき、印刷充填を行うことができる。加えて、得られる硬化体における低熱膨張化を十分に達しつつ、高温暴露、熱衝撃及び熱サイクルによるデラミネーション発生を抑制できる。
【0024】
上記「硬化剤」は、第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂を硬化できるものであればよく、その種類は特に限定されない。即ち、触媒型硬化剤であってもよく、重付加型硬化剤であってもよい。触媒型硬化剤としては、イミダゾール系硬化剤、三級アミン系硬化剤及びルイス酸等が挙げられる。また、重付加型硬化剤としては、ポリアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、ポリフェノール系硬化剤及びイソシアネート系硬化剤等が挙げられる。これらのなかでも、イミダゾール系硬化剤及びポリアミン系硬化剤が好ましい。
イミダゾール系硬化剤としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
ポリアミン系硬化剤としては、ジシアンジアミド、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、メタキシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミン及びジヒドラジド等が挙げられる。
これら硬化剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、硬化剤以外にも1種類又は2種以上の硬化触媒を用いることができる。
【0025】
本スルーホール用充填剤に含まれる硬化剤の量は特に限定されず、本スルーホール用充填剤を硬化させることができればよいが、例えば、第1エポキシ樹脂、第2エポキシ樹脂及び硬化剤の合計量を100質量%とした場合に、硬化剤は2〜12質量%とすることができる。この範囲であれば、耐熱性を保持しつつ、本スルーホール用充填剤に含まれるエポキシ樹脂を十分に硬化させることができる。この含有量は、2〜10質量%が好ましく、2〜7質量%がより好ましい。
【0026】
上記「無機フィラー」は、金属を除く無機物からなるフィラーである。本スルーホール用充填剤において金属フィラーにより十分な低熱膨張化(例えば、温度20〜80℃の間における熱膨張係数が40ppm/℃以下)を達するには、多量のフィラーを要することとなり、過度な増粘をまねくため好ましくない。このため、金属フィラーを用いることなくスルーホール用充填剤の低熱膨張化を達することが好ましい。この無機フィラーとしては、セラミックフィラー及び誘電体フィラーが挙げられる。セラミックフィラー及び誘電体フィラーは、いずれか一方のみを用いてもよく、両者を併用してもよい。
【0027】
更に、セラミックフィラーとしては、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、タルク、窒化アルミニウム、及び硫酸バリウム等が挙げられる。誘電体フィラーとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、及びチタン酸ジルコン酸鉛等が挙げられる。これらの無機フィラーは目的用途に応じて適宜のフィラーが含有されることが好ましいが、なかでもシリカ、炭酸カルシウム及びアルミナのうちの少なくとも1種を用いるが好ましく、更には、シリカ及び炭酸カルシウムを併用することが特に好ましい。これらを併用することにより、第2エポキシ樹脂として前記式(1)に示す化合物及び/又はそのオリゴマーを用いることによるスルーホール上導体層(即ち、後述するスルーホールから露出された面に密着された導体層であり、いわゆる蓋めっき層である)との密着性を更に向上させることができる。
【0028】
無機フィラーとして、シリカフィラーと炭酸カルシウムフィラーとを併用する場合、硬化性樹脂(第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂を含む)と無機フィラー(シリカフィラー及び炭酸カルシウムフィラーを含む)との合計を100体積%とすると、無機フィラーは30〜70体積%であることが好ましい。無機フィラーとしてシリカフィラー及び炭酸カルシウムフィラーを併用した場合、上記範囲では十分な低熱膨張化が可能であると共に、過度な増粘を生じることがない。即ち、具体的には、温度20〜80℃の間における熱膨張係数を40ppm/℃以下(通常、60ppm/℃以上)に抑えることができると共に、溶剤を含有しなくともスルーホール用充填剤の粘度をずり速度21s−1(22℃)における粘度を20〜40Pa・sとすることができる。更に、この体積割合は、35〜60体積%とすることがより好ましく、40〜50体積%であることが特に好ましい。これらの範囲では、更なる低熱膨張化及び低粘度化を達することができる。
【0029】
更に、シリカフィラーと炭酸カルシウムフィラーとの割合は特に限定されないが、これらの合計を100体積%とした場合に、炭酸カルシウムフィラーは2〜25体積%であることが好ましい。この範囲では、硬化体とスルーホール上導体層との密着性を特に効果的に向上させることができる。この炭酸カルシウムフィラーは5〜23体積%であることがより好ましく、7〜21体積%であることが特に好ましい。
【0030】
この無機フィラーの形状は特に限定されず、球状(例えば、ラグビーボール形状等の略球状形状を含む)、キュービック状、ウィスカー状、及び柱状等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでも球状が好ましい。球状の無機フィラーを用いることで、その他の形状を用いる場合に比べてより充填性がよく、更に高充填できるスルーホール用充填剤が得られる。
【0031】
また、無機フィラーの粒径は特に限定されないが、平均粒径(球状でない場合には平均最大長さ)が0.1〜30μm(より好ましくは平均粒径1〜20μm、更に好ましくは平均粒径2〜10μm)であることが好ましい。更に、最大粒子径は45μm以下であることが好ましい。平均粒径がこの範囲であれば、小口径のスルーホールへの充填の際に目詰まりを生じて充填不良となることがなく、本スルーホール用充填剤を構成する各成分との均一な分散が容易であり、更には粘度制御等を行い易い。
尚、上記無機フィラーの各種粒径(平均粒径及び最大粒径など)は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度分布測定を行って得られる。以下、同様である。
【0032】
更に、この無機フィラーは上記平均粒径の範囲において、粒度分布が狭い無機フィラーを用いてもよいが、粒度分布が広い無機フィラーを用いることが好ましい。これにより無機フィラーの更なる高充填が可能となり、低熱膨張化を促進できる。この粒度分布の広い無機フィラーは、例えば、粒径の異なる無機フィラーを混合して得ることができる。即ち、例えば、平均粒径が50nm以下である小径無機フィラーと、平均粒径が0.5〜20μmである大径無機フィラーと、を併用することで好ましい粒度分布の無機フィラーを得ることができる。この範囲では上記高充填及び上記低熱膨張化に加えて、ポットライフを長くでき、連続印刷性により優れたスルーホール用充填材を得ることができる。この各無機フィラーは、更に、平均粒径3〜35nmの小径無機フィラーと、平均粒径1〜15μmの大径無機フィラーと、を併用することがより好ましく、平均粒径6〜18nmの小径無機フィラーと、平均粒径2〜10μmの大径無機フィラーと、を併用することが更に好ましい。
【0033】
更に、小径無機フィラーと大径無機フィラーとを併用する場合には、これらの合計を100体積%とした場合に、小径無機フィラーは0.1〜5体積%であることが好ましい。この範囲では、無機フィラーの更なる高充填が可能となり、低熱膨張化をより促進できる。この小径無機フィラーは0.1〜3体積%であることがより好ましく、0.1〜1体積%であることが特に好ましい。更には、この小径無機フィラー及び大径無機フィラーはいずれも、シリカフィラーであることが好ましい。これにより、充填性、密着性及び低熱膨張化を特にバランスよく得ることができる。
【0034】
特に、シリカフィラーと炭酸カルシウムフィラーとを併用する場合には、シリカフィラーは上記の粒度分布の広い無機フィラーとして用い、炭酸カルシウムフィラーは粒度分布の狭い無機フィラーとして用いることが好ましい。この際には、シリカフィラーは前記の小径無機フィラー及び大径無機フィラーの各々の好ましい粒径及び体積割合として用いることができる。一方、炭酸カルシウムフィラーは、平均粒径0.1〜5μmで用いることが好ましく、0.3〜4μmがより好ましく、0.5〜2.5μmが特に好ましい。
【0035】
尚、無機フィラーは、表面処理を施したものを用いてもよく、表面処理を施していないものを用いてもよい。表面処理を施した無機フィラーとしては、スルーホール用充填剤を構成するエポキシ樹脂との密着性を向上させるためにカップリング処理(シランカップリング剤等)を施した無機フィラーが挙げられる。また、脂肪酸(例えば、ステアリン酸等の炭素数10〜20以上の脂肪酸)、スルホン酸系化合物(炭素数10〜20)及びパラフィン系化合物(炭素数10〜20)等の有機系表面処理剤によりコーティングされた無機フィラーが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
本発明のスルーホール用充填剤には、第1エポキシ樹脂、第2エポキシ樹脂、硬化剤及び無機フィラー以外にも他の成分を含有できる。他の成分としては、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、及び分散剤等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、本発明のスルーホール用充填剤には、溶剤が含有されてもよいが、実質的に含有されないものが好ましい。本スルーホール用充填剤においては、溶剤が含有されなくとも、前述の優れた充填性、換言すれば、優れた流動性及び充填する際の樹脂とフィラーとの一体性等を得ることができるからである。更に、溶剤が含有されないことで、スルーホール等に充填した後、硬化させる際に溶剤の揮発に起因する泡の発生、凹みの発生及びクラックの発生等を特に効果的に防止できる。更に、配線基板においては、熱負荷が加えられた場合であっても、硬化後の充填物のフクレの発生、気泡の発生及びクラックの発生等を特に効果的に防止できる。
【0037】
また、本発明のスルーホール用充填剤の粘度は特に限定されないが、回転粘度計により温度22±1℃で測定した場合の剪断速度21s−1における粘度が20〜40Pa・s(より好ましくは20〜38Pa・s、更に好ましくは20〜35Pa・s)であることが好ましい。この範囲では特に優れた充填性が得られ、特に口径200μm以下(更には50〜200μm)のスルーホールに対して優れた充填性が得られる。
【0038】
本発明のスルーホール用充填剤を適用するスルーホールは特に限定されないが、図1〜3に例示されるように、スルーホール上導体層3が形成されることとなる配線基板100で用いられる。即ち、本発明のスルーホール用充填剤は、内壁面導体6が形成されたスルーホール11内に充填された後(充填された状態のスルーホール用充填剤21)、硬化されて硬化体2となり、且つ得られた該硬化体2のうちの該スルーホール11(即ち、内壁面導体6内)から露出された面25に密着された導体層3が形成されることとなるものとすることができる。更には、上記導体層3を介した上記硬化体2上にビア導体5が形成されることとなる場合に好適である。
【0039】
ここでいうスルーホール11は、配線基板100(多層配線基板等を含む)を構成する各層(例えば、コア基板1等)に形成された貫通孔11であり、通常、層間導通を目的とするものである。このスルーホール用充填剤を充填するスルーホールの形状及び大きさ等は限定されない。例えば、充填する際のスルーホール口径(以下、単に「充填口径」ともいう)が200μm以下であるスルーホールに好適であり、特に充填口径が75μm以上200μm以下の小径のスルーホールに好適である。この「充填口径」とは、スルーホール自体の開口径に係わらず、本スルーホール用充填剤を充填する際の開口径を意味する。即ち、例えば、スルーホール内に内壁導体層が形成されている場合には、内壁導体層に囲まれた孔の開口径を意味するものである。更に、本スルーホール用充填剤に適したスルーホールとしては、スルーホール長さが1200μm以下であるものが好ましい。更には、300〜1000μmがより好ましく、350〜900μmが特に好ましい。また、このスルーホールは、内壁面導体が粗化されていない場合に好適に用いることができる。
【0040】
尚、本発明のおける優れた充填性とは、後述する実施例における印刷条件を適用した場合に、充填を行った基板の裏面からスルーホール用充填剤が突出されることを意味する。この突出はスルーホールの口径一杯にスルーホール用充填剤が突出されるものである。このように突出されることで硬化後にこの突出部を研磨除去することでコア基板表面を高い精度で平坦化することができる。
また、本発明における硬化体と導体層(スルーホール上導体層及び内壁面導体)との優れた密着性とは、硬化体から導体層を引き剥がすために高いピール強度を要することを意味する。この密着性がよいことで、例えば、鉛含有量が5質量%以下である無鉛ハンダを用いた高温リフロー炉を通過する際にも硬化体と導体層との間にデラミネーションが生じることを抑制し、更には、防止できる。
【0041】
[2]多層配線基板
本発明の多層配線基板100(図1〜3参照、以下同様)は、表裏を導通する内壁面導体6が形成されたスルーホール11が設けられ且つ該スルーホール11内が硬化体2により充塞されたコア基板1と、
上記コア基板1の表面15に配設され且つ上記硬化体2の上記スルーホール11(内壁面導体6内)から露出された面25に密着された第1導体層3と、
上記コア基板1の該第1導体層3が形成された面15に積層されたビルドアップ絶縁層4と、を備える多層配線基板100(100a及び100b)であって、
上記硬化体2は、本発明のスルーホール用充填剤が硬化されてなることを特徴とする。
【0042】
上記「コア基板(1)」は、スルーホール11が設けられ且つそのスルーホール11内が硬化体2により充塞された基板である。このコア基板1は、通常、多層配線基板100において多層化を始める際の切っ掛けとなる元基板である。コア基板の種類等は特に限定されない。例えば、エポキシ樹脂基板、ビスマレイミド−トリアジン樹脂基板、フッ素樹脂基板、その他の耐熱性樹脂基板、各種樹脂シートを用いた複合樹脂基板、各種樹脂中にガラスフィラーが分散された複合樹脂基板、ガラス不織布で補強された複合樹脂基板、銅等の金属からなる金属板層内部に備える複合樹脂材料、及びこれらの基板の銅貼り積層基板等を用いることができる。更に、これらの基板に層間絶縁材(エポキシ樹脂、フェノール樹脂、液晶ポリマー等)を塗布して硬化させた基板、これらの基板に層間絶縁層(エポキシ樹脂、フェノール樹脂、液晶ポリマー等ならなる樹脂シート)を積層して硬化させた基板等を用いることができる。これらの各種基板は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。尚、本発明の多層配線基板の積層数等は特に限定されないが、例えば、上下2〜12層構造とすることができる。
【0043】
上記「スルーホール(11)」は、コア基板1に設けられ、コア基板1の表裏に貫通した貫通孔11である。更に、このスルーホール11には内壁面導体6が形成されている。この内壁面導体6は、スルーホール11内においてコア基板1の表裏を導通するための導体層であり、スルーホール11内において、通常、筒形状をなす。
このスルーホールの形状等は特に限定されないが、スルーホールの内径(充填口径)は200μm以下であることが好ましい。充填口径が200μm以下であるスルーホールにおいては前記本発明のスルーホール用充填剤を用いたことによるメリットがより効果的に得られるからである。更に、この充填口径は75μm以上200μm以下であることがより好ましい。また、スルーホールの長さ(コア基板の厚さに相当)は1200μm以下であることが好ましく、300〜1000μmがより好ましく、350〜900μmであることを特に好ましい。加えて、内壁面導体は、粗化されていないことが好ましい。
【0044】
上記「硬化体(2)」は、スルーホール11内を充塞するものであり、この硬化体2は、前記本発明のスルーホール用充填剤が硬化されてなる。また、硬化体2はスルーホール11内を充塞しつつ、通常、上記筒形状の内壁面導体6内を充塞している。従って、硬化体2は、スルーホール11内において、通常、円柱形状をなしている。
更に、通常、硬化体2のうち、第1導体層3と接触される端面25は研磨平坦化されている。これにより、第1導体層3との密着性を向上され、第1導体層3上への更なる多層化(第1導体層3上にビア導体4を積層する等)において信頼性が向上される。この硬化体2は、通常、コア基板1のスルーホール11内に充填されると共に、コア基板1の表裏両方のスルーホール開口端から突出されるように充填される(即ち、突出部211が形成されるように充填される)。そして、突出された状態で硬化させた後、得られた硬化体のコア基板1表面から突出された部位(即ち、突出部211)を研磨除去して平坦化し、その後、必要に応じて更なる硬化を行って硬化体2が得られる。
【0045】
上記「第1導体層(3)」は、コア基板1の表面15に配設され且つ硬化体2のスルーホール11から露出された面25に密着された導体層である。即ち、この第1導体層3は、前述のスルーホール上導体層3であり、いわゆる蓋導体層等とも称される。この第1導体層3は、スルーホール11の内壁面導体6と、通常、電気的に接続されており、この第1導体層3との電気的接続を行うことによって、コア基板1の反対面との電気的接続を行うことができる。この第1導体層を構成する導体材料は特に限定されないが、例えば、銅、銀、金、アルミ、及びこれらの合金を用いることができる。前記スルーホールの内壁面導体についても同様である。
【0046】
上記「ビルドアップ絶縁層(4)」は、コア基板1上に積層された絶縁層である。本多層配線基板では、少なくともコア基板1の第1導体層3が形成された面15に、第1導体層3上に積層されたビルドアップ絶縁層4(第1ビルドアップ絶縁層)を備える。更に、このビルドアップ絶縁層4は、その表裏を導通するビア導体5を備えることができ、このビア導体5は、第1導体層3を介して硬化体2上に配置された構造とすることができる。
【0047】
本発明の多層配線基板100では、前記本発明のスルーホール用充填剤を用いているために、硬化体2は第1導体層3との密着性に優れている。このため、リフロー工程(特に高温リフロー工程)等の高温に曝された場合、また、これらの高温工程が複数回にわたって課された場合にも、硬化体2と第1導体層3とが高度に密着しており高い耐久性が発揮され、硬化体2と第1導体層3との界面にデラミネーションが生じることを防止できる。
また、スルーホール11内に配設されている内壁面導体6との密着性にも優れており、上記第1導体層におけると同様な効果が得られる。
【0048】
また、本発明の多層配線基板100では、ビルドアップ絶縁層4(第1導体層3上に形成されたビルドアップ層)は、そのビルドアップ層4の表裏を導通するビア導体5を備え、このビア導体5は、第1導体層3を介して硬化体2上に配置された構造とすることができる。
この構造の多層配線基板100においては、硬化体2と第1導体層3とが高度に密着されているために、硬化体2と第1導体層3との界面にデラミネーション等を生じず、第1導体層3とビア導体5との間の高い接続信頼性を得ることができる。特に前述のリフロー工程等の高温に曝露された場合にこの効果は顕著に得られ、本発明のスルーホール用充填剤を用いない場合との差異が明かとなる。
【0049】
更に、本発明の多層配線基板100では、スルーホール11の内径(スルーホールの充填口径)が、200μm以下(より好ましくは75μm以上200μm以下)である構造とすることが好ましい。更に、スルーホール11の長さは1200μm以下(より好ましくは300〜1000μm、更に好ましくは350〜900μm)の構造とすることが好ましい。加えて、内壁面導体6は粗化されていないものが好ましい。これらの好ましい構成にいては各々より前記本発明のスルーホール用充填剤を用いることにより効果を顕著に得ることができる。これらの点については前述の通りである。
【0050】
更に、本発明の多層配線基板100では、内部又は表面にハンダ部を備えることができる。このハンダ部を構成するハンダの種類は特に限定されず、従来より使用されている鉛を含有する共晶ハンダ(例えば、鉛含有量がハンダ全体の5質量%を超える)を用いることができるが、鉛を実質的に含有しない高融点の無鉛ハンダ(通常、鉛含有量がハンダ全体の5質量%以下、検出限界以下であってもよい)を用いることができる。これらのうち、本発明の多層配線基板では無鉛ハンダを用いる際の高温リフロー工程を経る場合にも高い信頼性を得ることができる。このハンダ部としては、多層配線基板表面に配設されるハンダバンプや、この多層配線基板100に実装される各種部品を接続するための接続ハンダ等が挙げられる。この高温リフロー工程は、最高温度215℃以上(更には220℃以上、通常280℃以下)のリフロー炉に製造途中の多層配線板を通過させる工程である。この温度を負荷される時間は特に限定されないが、通常、3分以下(更には2〜3分、通常2以上)である。
【0051】
本発明の多層配線基板100の製造方法は特に限定されないが、図2〜3に示すように、内壁面導体6を有するスルーホール11が設けられたコア基板1の該スルーホール11内にスルーホール用充填剤を充填する充填工程(A)と、充填された上記スルーホール用充填剤21を硬化して硬化体2を得る硬化工程(B)と、上記コア基板1の表面15を平坦化する平坦化工程(C)と、上記コア基板1の表面及び上記硬化体2の端面25に密着した第1導体層3を形成する第1導体層形成工程(D)と、上記コア基板1の上記第1導体層3が形成された表面15を覆うビルドアップ絶縁層4を形成するビルドアップ絶縁層形成工程(E)と、上記ビルドアップ絶縁層4のうちの上記第1導体層3と接しない側の面に上記ビルドアップ絶縁層4を貫通して上記第1導体層3と接続され且つ上記硬化体2上に配置されたビア導体5を形成するビア導体形成工程{(F)及び(F’)}と、を備えて得ることができる。
【0052】
上記充填工程(A)におけるスルーホール用充填剤の充填方法は特に限定されないが、スクリーン印刷、圧入印刷、及びロールコート印刷等の方法により充填することができる。スルーホール内に充填されたスルーホール用充填剤は、その後、加熱硬化させる。
上記硬化工程(B)における効果条件は特に限定されないが、例えば、加熱温度は80〜200℃(更には100〜200℃、特に100〜185℃)とすることができる。更に、加熱時間は0.1〜10時間(更には0.5〜7時間、特に0.5〜5時間)とすることができる。尚、上記範囲で1工程のみで加熱を行ってもよく、2工程以上に分けて加熱を行ってもよい。また、この硬化体形成工程では仮硬化状態とし、第1導体層を形成した後、その後の工程で完全に硬化させる更なる硬化工程を備えてもよい。
【0053】
上記平坦化工程(C)は、コア基板1の表面15を平坦化する工程であり、通常、硬化体2のスルーホール内から突出された部位211を除去する工程でもある。この際には、ベルトサンダー研磨及び/又はバフ研磨などによる平坦化処理を施すことができる。尚、この平坦化工程を備える場合には、上記スルーホール用充填剤を硬化させる際に、硬化温度を低めに設定して硬化させ、平坦化処理後に、再度加熱硬化を行うことができる。
【0054】
更に、硬化体のスルーホールから露出された表面には、その後、形成される第1導体層との接合性を向上させるために接合性向上処理(粗化処理、表面コート処理など)を行うことができる。即ち、例えば、過マンガン酸塩及び/又は蟻酸等を用いたウェットエッチング、プラズマ処理を用いたドライエッチング、導体層との接合性が向上される各種接合性向上コート等を行うことができる。これらは1種のみを行ってもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでも、本スルーホール用充填剤に無機フィラーとして炭酸カルシウムフィラーが含有される場合にはウェットエッチングを行うウェットエッチング工程を施すことが好ましい。この処理を行うことで、硬化体と第1導体層との間にとりわけ高い密着性を得ることができる。
【0055】
上記第1導体層形成工程(D)における第1導体層の形成方法は特に限定されないが、通常、メッキ形成する。この第1導体層の形成に際しては、無電解メッキ法と電解メッキ法とを組み合わせて形成することができる。更に、第1導体層を所定の形状に成型するために、導体層をパターニング工程(エッチングレジスト層形成、露光、現像、エッチング、及びエッチングレジスト層剥離等の各工程を含む)を行って、所定の形状を得ることができる。
【0056】
上記ビルドアップ絶縁層形成工程(E)では、ビルドアップ絶縁層の形成方法は特に限定されない。例えば、硬化されてビルドアップ絶縁層となる液状樹脂を塗布して硬化させてもよく、フィルム状の半硬化絶縁層を貼り付けたのち硬化させて形成してもよく、これらの方法を併用してもよい。これらのなかでは、フィルム状の半硬化絶縁層を用いることが好ましい。工程数が削減されるためである。更に、フィルム状の半硬化絶縁層を用いる場合には、貼り付ける際に真空加熱圧着を行うことが好ましい。
【0057】
上記ビア導体形成工程{(F)及び(F’)}は、ビルドアップ絶縁層にビア導体を形成する工程である。この工程では、通常、先ず得られたビルドアップ絶縁層4に、このビルドアップ絶縁層を貫通するビアホールを形成するビアホール形成工程(F)を備える。ビアホールの形成方法は特に限定されないが、フォトビア工法及び/又はレーザービア工法を用いることができる。ビアホールは、本発明のスルーホール用充填剤が硬化された硬化体の上方に形成する。得られたビアホールには、ビア導体との接合性を向上させるために、デスミア等の粗化処理を行うことができる。
【0058】
次いで、上記ビアホール内を公知の方法により導体で充塞する導体形成工程(F’)を備える。尚、ビア導体5は、通常、第1導体層3と、ビルドアップ絶縁層4の第1導体層3と接しない側の表面に形成される第2導体層とを電気的に接続する導体として利用される。この際には、第2導体層とビア導体5とは、同時に一体的に形成してもよく、別体に形成してもよい。
上記ビア導体形成工程{(F)及び(F’)}後は、その他の多層化工程(G)を施して更なる多層化を行うことができる。即ち、図3に示すように、ビルドアップ絶縁層4を複数層積層することができ、ビア導体5を複数積層することができる。また、ビア導体5においては、スタックドビア構造(積層ビア構造、Stacked−via)を適用できる。更に最外層にはレジスト層7を形成できる。
【0059】
本多層配線基板では、前記本スルーホール用充填材を用いているために、リフロー工程(とりわけ高温リフロー工程)等の高温に曝された場合、また、これらの高温工程が複数回にわたって課された場合にも、硬化体2に対する導体層(第1導体層3及び内壁面導体層6)のピール強度もほとんど変わらず、高い耐久性が発揮され、硬化体2と各導体層との接合性が低下、いわゆる剥がれが生じることを大幅に抑制できる。また、硬化体2と各導体層との界面にデラミネーションが生じることも防止できる。更には、上記の高温リフローを通過させた後のフクレも生じず、高温リフローにも十分耐えられる硬化体2を得ることができる。
【実施例】
【0060】
[1]スルーホール用充填剤の調製
各々下記材料を用い、各々容器中にて撹拌したのち3本ロールで混練し、更に消泡剤を添加し、次いで、真空撹拌を行って各スルーホール用充填剤(実施例1〜3及び比較例1〜4)を調製した。尚、この調製に際しては、実施例1〜3及び比較例1〜4の各スルーホール用充填剤の温度22±1℃且つずり速度21s−1における粘度が30±5Pa・sとなるように、各成分の配合比を制御し、この際の各スルーホール用充填剤の構成を下記表1に示した。表1に示すように、実施例1〜3並びに比較例1、2及び4では温度22±1℃且つずり速度21s−1における粘度を30±5Pa・sの範囲に収めることができた。しかし、比較例3ではできず、温度22±1℃且つずり速度21s−1における粘度は220Pa・sとなった。
【0061】
【表1】

【0062】
上記表1及び後述する表2内の「TH」とは「スルーホール」を意味する。また、上記表1において「*」は、本発明の範囲外であることを意味する。また、上記表1内の無機フィラー及び金属フィラーに関する「体積%」とは、硬化性樹脂(第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂)と各フィラーとの合計を100体積%とした場合の各フィラーの体積換算による含有率である。更に、これらのフィラーに関する「質量部」とは、硬化性樹脂(第1エポキシ樹脂及び第2エポキシ樹脂)と硬化剤との合計を100質量部とした場合の各フィラーの質量換算による含有量である。
【0063】
上記表1に示す各成分は以下の通りである。
「BPA」;ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jER−828」、液状、エポキシ当量184〜194、22℃粘度20Pa・s、接触角44度)
「水添BPA」;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「YX8000」、液状、エポキシ当量205、22℃粘度2.5Pa・s、接触角17度)
「キレート変性BPF」;キレート変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(株式会社ADEKA製、商品名「EP−49−25」、液状、エポキシ当量178、22℃粘度2.7Pa・s)
「CHDM」;1,4−シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルエポキシ樹脂(東都化成株式会社製、商品名「ZX−1658」、液状、エポキシ当量130〜140、22℃粘度0.1Pa・s未満、接触角40度)
「アミノフェノール」;アミノフェノール型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「jER−630」、液状、エポキシ当量90〜105、22℃粘度0.7Pa・s以下、接触角66度)
「1,6−HDOGE」;1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名「YED−216D」、液状、エポキシ当量110〜130、22℃粘度0.1Pa・s未満)
【0064】
「無機フィラー」;2種のシリカフィラー(大径シリカフィラー及び小径シリカフィラー)と炭酸カルシウムフィラーとを順に、40体積%:0.3体積%:6.4体積%の比で混合した無機フィラーを用いた。尚、大径シリカフィラーは、平均粒径3μm且つ最大粒径12μm以下、小径シリカフィラーは、平均粒径12nm且つ最大粒子径0.1μm以下、炭酸カルシウムフィラーは、平均粒径1μm且つ最大粒径64μm以下である。
「金属フィラー」;平均粒径2.5μm且つ最大粒子径15μm以下の銅粉末を用いた。
「硬化剤」;実施例1〜3及び比較例1〜4はいずれもイミダゾール硬化剤を5質量部(エポキシ樹脂全体を100質量部)用いた。
【0065】
[2]スルーホール用充填剤の評価
(1)粘度
上記[1]で得られたスルーホール用充填材について、温度22℃におけるずり速度21s−1における粘度を測定した。測定に際しては、各スルーホール用充填剤を調製後、容器に充填して1時間温度22±1℃にした恒温槽に載置し、恒温槽に浸けたまま、回転粘度計(東機産業株式会社製、形式「TV20H」)を用いてずり速度21s−1における粘度を測定した。この結果を表1に示した。
【0066】
(2)熱膨張係数
実施例1〜3及び比較例1〜4の各々スルーホール用充填剤をシート状に成形し、150℃で5時間で加熱硬化させて得られた厚さ100μmのシートから幅5mmの試験片を切り出した。その後、各試験片をJPCA−BU01に規定された熱機械的分析(TMA)測定に供した。この測定では、スパン15mmにて、測定用試験片の長手方向に5g引張加重を加えた状態で、−55〜270℃の温度範囲についての測定を行った。そして、得られた結果のうち40〜80℃における熱膨張係数を表1に示した。
【0067】
(3)ガラス転移点
各スルーホール用充填材をシート状に成形し、150℃で5時間で加熱硬化させて得られた厚さ100μmのシートから4mm×50mmの試験片を切り出した。その後、各試験片をDMA(Dynamic Mechanical Analysis)測定に供し、周波数11Hzにおけるtanδ曲線(温度とtanδとの相関曲線)をプロットし、このtanδ曲線の変曲点から各々の試験片のガラス転移点を求めた。この結果を表1に示した。
【0068】
(4)印刷性
厚さ400μm(表1「t400um」)又は厚さ800μm(表1「t800um」)のハロゲンフリー高弾性・低熱膨張多層材料(コア基板として利用、日立化成工業株式会社製、品名「MCL−E−679FG」、ガラス転移点160〜170℃、z方向熱膨張係数20〜30ppm/℃、xy方向熱膨張係数13〜15ppm/℃)に、貫通孔を設け、各貫通孔内に内壁面導体層を形成して、各々充填口径が75μm(表1「φ75um」)、100μm(表1「φ100um」)、150μm(表1「φ150um」)及び200μm(表1の「φ200um」)であるスルーホールを設けた(この測定は内壁面導体層に粗化処理を施していない)。そして、各基板の各スルーホール内に、実施例1〜3及び比較例1〜4のスルーホール用充填剤をスクリーン印刷(印刷条件;スキージ角度10°、スキージ速度12mm/秒)により充填した。そして、この充填の際の性状を下記基準により判定し、表1に「○」又は「×」として示した。
「○」…基板裏面からスルーホール用充填剤が突出されたもの。
「×」…基板裏面からスルーホール用充填剤が突出されなかったもの。
【0069】
(5)密着性A(コア基板を用いた第1導体層とTH上ビア導体との密着性評価)
上記(4)の後、100〜130℃で20〜90分間加熱して、スルーホール用充填剤を仮硬化(硬化体形成工程)させた。次いで、仮硬化させた硬化体(スルーホール用充填剤)の表面を研磨し、その後、150〜170℃で1〜5時間加熱して完全に硬化させた硬化体を得た。更に、デスミア処理を施した後、硬化体の表面に無電解メッキ(銅メッキ、厚さ3μm以下)及び電解メッキ(銅メッキ)を施して導体層(第1導体層、厚さ25〜30μm)を形成した。更に、プリプレグを用いてビルドアップ絶縁層を積層し、更に、フォトプロセスを用いて硬化体の直上にビアホールを形成し、更に、その中にビア導体を形成した。次いで、最高温度270℃の高温リフロー炉を60秒かけて2回通過させた後、硬化体を含む断面で切断して、硬化体とこの硬化体の直上に配置されたビア導体との間のデラミネーションの有無を確認し、その結果を表2に「○」又は「×」として示した。
「○」…目視により認められるデラミネーションが無いもの。
「×」…目視により認められるデラミネーションが有るもの。
【0070】
(6)密着性B(耐熱前の硬化体と試験用銅メッキとの間のピール強度の測定)
前記と同じハロゲンフリー高弾性・低熱膨張多層材料の表面に、実施例1〜3及び比較例1〜4の各スルーホール用充填剤を硬化体厚さ0.5mm且つ2mm四方となるように印刷塗布した後、100〜130℃で20〜90分間加熱した後、更に150〜170℃で1〜5時間加熱して完全に硬化させた。その後、得られた厚さ0.5mmの硬化体の表面を研磨(粒度600)して平滑化した。続いて無電解メッキ(銅メッキ、厚さ3μm以下)及び電解メッキ(銅メッキ)を施して導体層(仮想第1導体層、厚さ25〜30μm)を形成した。次いで、引き剥がし幅10mm、引き上げ角度90、引き上げ速度は50mm/分の各条件でピール強度を測定し、その結果を「耐熱前密着性」として表2に示した。
【0071】
(7)密着性C(耐熱後の硬化体と試験用銅メッキとの剥離の有無)
上記(6)において銅メッキ層を剥がしていない試験片について、更に、最高温度270の高温リフロー炉を60秒かけて2回通過させた後、銅メッキ層の表面から目視にてデラミネーションの有無を確認した。その結果を下記基準に基づき評価し、表2に示した。
「○」…目視により認められるデラミネーションが無いもの。
「×」…目視により認められるデラミネーションが有るもの。
【0072】
(8)密着性D(耐熱後の硬化体と試験用銅メッキとの間のピール強度の測定)
上記(7)において「○」であった試験片について、引き剥がし幅10mm、引き上げ角度90、引き上げ速度は50mm/分の各条件でピール強度を測定し、その結果を表2に示した。
【0073】
(9)密着性E(耐熱前の銅箔と硬化体との間の密着強度の測定)
厚さ12μmの銅箔の表面に、実施例1〜3及び比較例1〜4のスルーホール用充填剤を硬化体厚さ0.5mm且つ2mm四方となるように印刷塗布した後、100〜130℃で20〜90分間加熱した後、更に150〜170℃で1〜5時間加熱して完全に硬化させた。その後、得られた厚さ0.5mmの硬化体の側方から剛体を衝突させて、硬化体が銅箔表面から剥離し始めた時点の負荷を測定した。その結果を表2に示した。
【0074】
【表2】

【0075】
(10)実施例の効果
表1より、実施例1〜3のスルーホール用充填剤は、上記の如く粘度を30±5Pa・sに調整することができた。これにより、表1の「未粗化TH充填性」に示すように、粗化処理を行っていないスルーホール、充填口径75〜200μm且つ充填長さ400〜800μmまでの幅広い小口径スルーホールに対応でき、優れた充填性が得られた。
更に、表1より、上記の如く粘度を30±5Pa・sに調整した場合に、熱膨張係数を30〜36ppm/℃と小さく抑えられることが分かる。また、得られる硬化体のガラス転移点は134〜179℃と十分な耐熱性を有することが分かる。また、表2より、密着性A〜Eはいずれの項目に関しても優れた密着性が得られ、複数回の高温リフローに耐える高い密着性を有していることが分かる。
【0076】
これに対して、比較例1のスルーホール用充填剤は、第1エポキシ樹脂としてBPAを用い、第2エポキシ樹脂としてアミノフェノールを用いた比較例である。この比較例1は粘度を30±5Pa・sに調整でき、その際の熱膨張係数は28ppm/℃と小さく、且つ、硬化体自体のTgは227℃と高く非常に優れている。しかし、表2に示す実際の各密着性においては、密着性A及び密着性Bについては良好であるものの、密着性Cについてはデラミネーションが認められ、密着性Eについても1.9kgfと低い値となった。
また、比較例2のスルーホール用充填剤は、第1エポキシ樹脂としてBPAを用い、第2エポキシ樹脂として1,6−HDOGEを用いた比較例である。この比較例2は粘度を30±5Pa・sに調整でき、その際の熱膨張係数は32ppm/℃と小さく、且つ、硬化体自体のTgは175℃と優れている。しかし、表2に示す実際の各密着性においては、密着性A及び密着性Bについては良好であるものの、密着性Cについてはデラミネーションが認められた。
【0077】
更に、比較例3のスルーホール用充填剤は、第2エポキシ樹脂を用いていない比較例である。この比較例3では、粘度を30±5Pa・sに調整できなかった。このため、印刷性が悪く、表1に示すように、充填口径200μm且つ充填長400μmのスルーホールのみに充填できたが、他のスルーホールへは目的状態の充填を行うことができなかった。ただ、充填できた充填口径200μm且つ充填長400μmのスルーホールを有する基板についての密着性A〜Dはいずれも良好であった。
また、比較例4のスルーホール用充填剤は、第1エポキシ樹脂としてBPAを用い、第2エポキシ樹脂としてCHDMを用いたものの、無機フィラーに換えて金属フィラーを用いた比較例である。この比較例4は粘度を30±5Pa・sに調整でき、その際の硬化体自体のTgは183℃と優れていた。しかし、熱膨張係数は46ppm/℃と大きく、熱膨張係数を小さく抑制できなかった。更に、表2に示す実際の各密着性においては、密着性Aが不十分であり、密着性Bにおけるピール強度も0.1kN/mと小さい値となった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は電子部品関連分野において広く利用できる。また、本発明の多層配線基板は、マザーボード等の通常の配線基板、フリップチップ用配線基板、CSP用配線基板及びMCP用配線基板等の半導体素子搭載用配線基板、インターポーザー基板、アンテナスイッチモジュール用配線基板、ミキサーモジュール用配線基板、PLLモジュール用配線基板及びMCM用配線基板等のモジュール用配線基板等に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の多層配線基板の一例の一部断面を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の多層配線基板の他例を製造する工程を説明する説明図である。
【図3】上記図2に続く説明図である。
【符号の説明】
【0080】
100、100a及び100b;多層配線基板、1;コア基板、11;スルーホール、15;コア基板の表面、2;硬化体、21;スルーホール用充填剤、211;突出部、21’;研磨前の硬化体、211’;突出部、25;硬化体のスルーホールから露出された面、3;第1導体層(スルーホール上導体層)、4;ビルドアップ絶縁層、7;レジスト層、5;ビア導体層、6;内壁面導体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1エポキシ硬化性樹脂及び該第1エポキシ硬化性樹脂より粘度が小さい第2エポキシ硬化性樹脂を含む硬化性樹脂と、該硬化性樹脂を硬化する硬化剤と、金属フィラーを除く無機フィラーとを含有するスルーホール用充填剤であって、
上記第2エポキシ硬化性樹脂は、下記一般式(1)で表される化合物及び/又はそのオリゴマーであることを特徴とするスルーホール用充填剤。
【化1】

〔式(1)において、P及びQは、各々メチレン基又は単結合である。〕
【請求項2】
上記第1エポキシ硬化性樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、キレート変性エポキシ樹脂、及びアミノフェノール型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種である請求項1に記載のスルーホール用充填剤。
【請求項3】
上記第1エポキシ硬化性樹脂は、エポキシ当量90〜290g/eq且つ粘度0.5〜30Pa・sである請求項1又は2に記載のスルーホール用充填剤。
【請求項4】
上記第2エポキシ硬化性樹脂は、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーからなり、エポキシ当量130〜150g/eq且つ粘度0.3Pa・s以下である請求項1乃至3のうちのいずかに記載のスルーホール用充填剤。
【請求項5】
溶剤を含有せず且つずり速度21s−1における粘度が20〜40Pa・sである請求項1乃至4のうちのいずかに記載のスルーホール用充填剤。
【請求項6】
上記第1エポキシ硬化性樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、及びキレート変性エポキシ樹脂のうちの少なくとも1種であり、且つ、エポキシ当量90〜290g/eq且つ粘度0.5〜30Pa・sであり、
上記第2エポキシ硬化性樹脂は、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル及び/又はそのオリゴマーからなり、エポキシ当量130〜150g/eq且つ粘度0.3Pa・s以下であり、
溶剤を含有せず且つずり速度21s−1における粘度が20〜40Pa・sである請求項1に記載のスルーホール用充填剤。
【請求項7】
上記無機フィラーは、シリカフィラーと炭酸カルシウムフィラーとを含有し、
上記硬化性樹脂及び該無機フィラーの合計を100体積%とした場合に、該無機フィラーを30〜70体積%含有する請求項1乃至6のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
【請求項8】
上記シリカフィラー及び上記炭酸カルシウムフィラーとの合計を100体積%とした場合に、該炭酸カルシウムフィラーを2〜25体積%含有する請求項7に記載のスルーホール用充填剤。
【請求項9】
内壁面導体が形成されたスルーホール内に充填された後、硬化されて硬化体となり、且つ得られた該硬化体のうちの該スルーホールから露出された面に密着された導体層が形成されることとなる請求項1乃至8のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
【請求項10】
上記導体層を介した上記硬化体上にビア導体が形成されることとなる請求項9に記載のスルーホール用充填剤。
【請求項11】
上記スルーホールの内径が、200μm以下である請求項1乃至10のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
【請求項12】
上記スルーホールの長さが、300〜1000μmである請求項1乃至11のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
【請求項13】
上記内壁面導体は、粗化されていない請求項1乃至12のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤。
【請求項14】
表裏を導通する内壁面導体が形成されたスルーホールが設けられ且つ該スルーホール内が硬化体により充塞されたコア基板と、
上記コア基板の表面に配設され且つ上記硬化体の上記スルーホールから露出された面に密着された第1導体層と、
上記コア基板の該第1導体層が形成された面に積層されたビルドアップ絶縁層と、を備える多層配線基板であって、
上記硬化体は、請求項1乃至8のうちのいずれかに記載のスルーホール用充填剤が硬化されてなることを特徴とする多層配線基板。
【請求項15】
上記ビルドアップ絶縁層は、その表裏を導通するビア導体を備え、
上記ビア導体は、上記第1導体層を介して上記硬化体上に配置されている請求項14に記載の多層配線基板。
【請求項16】
上記スルーホールの内径が、200μm以下である請求項14又は15に記載の多層配線基板。
【請求項17】
上記スルーホールの長さが、300〜1000μmである請求項14乃至16のうちのいずれかに記載の多層配線基板。
【請求項18】
上記内壁面導体は、粗化されていない請求項14乃至17のうちのいずれかに記載の多層配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−194105(P2009−194105A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32323(P2008−32323)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】