説明

セラミック部材及びウェハ研磨装置用テーブル

【課題】熱伝導性に優れるとともに、破壊しにくくて長期信頼性に優れたセラミック部材を提供することができる。
【解決手段】このセラミック部材2は、含珪素セラミックからなる多孔質体17の開放気孔中に金属シリコン24を含浸した複数のセラミック・金属複合体18製の基材11A,11Bからなる。基材11A,11B同士は、金属シリコン24からなる接合層14を介して接合され、多孔質体17内に含浸されている金属シリコンと接合層14を構成する金属シリコンとは境目なく連続的に存在した状態にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック部材及びウェハ研磨装置用テーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、珪素を含むセラミックの一種として炭化珪素(SiC)が知られている。炭化珪素は、熱伝導性、耐熱性、耐熱衝撃性、耐摩耗性、硬度、耐酸化性、耐食性等に優れるという好適な特性を有する。
【0003】
ゆえに、炭化珪素は、メカニカルシールや軸受等の耐磨耗材料をはじめとして、高温炉用の耐火材、熱交換器、燃焼管等の耐熱構造材料、酸やアルカリに晒されやすいポンプ部品等の耐腐食材料など、広く利用可能な材料であるといえる。
また、近年では上記の諸特性、特に高い熱伝導性に着目し、炭化珪素の多孔質体を半導体製造装置(例えばウェハ研磨装置等)の構成材料として利用しようとする動きがある。これに加え、炭化珪素からなる多孔質体に存在する開放気孔中に金属を含浸することによって、非含浸体よりもさらに熱伝導性に優れた炭化珪素・金属複合体を製造することも提案されている。
【0004】
ウェハ研磨装置とは、半導体ウェハのデバイス形成面を研磨するためのラッピングマシンやポリッシングマシンのことを指す。この装置は、プッシャプレートと、炭化珪素・金属複合体からなる複数枚の基材からなるテーブル等を備えている。各基材同士は、積層された状態で樹脂製の接着剤により接合されている。テーブルにおける接合界面には流路が設けられ、その流路には冷却水が循環される。また、プレートの保持面には、半導体ウェハが熱可塑性ワックスを用いて貼付けられる。回転するプレートに保持された半導体ウェハは、研磨クロスが設けられたテーブルの研磨面に対して上方から押し付けられる。その結果、テーブルに対して半導体ウェハが摺接することにより、ウェハの片側面が均一に研磨される。そして、このときウェハに発生した熱は、テーブル内を伝導した後、流路を循環する冷却水により装置の外部に持ち去られるようになっている。
【0005】
炭化珪素・金属複合体製の基材は高熱伝導性等の特性を有しており、このような基材を用いて構成されたテーブルは、均熱性や熱応答性に優れたものとなると考えられる。従って、かかるテーブルを用いて研磨を行えば、大口径・高品質の半導体ウェハが得やすくなるものと考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来において基材同士を接合するためには、熱伝導率の低い接着剤が用いられていた。このため、接着剤が接合界面における熱抵抗の増大をもたらし、テーブル全体として熱伝導率の低下を来していた。従って、熱伝導率の高い炭化珪素・金属複合体を基材に用いているにもかかわらず、実際上は十分な均熱性や熱応答性を実現することができなかった。また、炭化珪素・金属複合体と接着剤とでは熱膨張係数が大きく異なるため、接合界面においてクラックや剥がれが発生しやすかった。ゆえに、ヒートサイクルを受けるとテーブルが破壊しやすく、長期信頼性が低かった。
【0007】
また、接着剤に代えて基材同士の接合にロウ材を用いた場合、熱抵抗の増大に関する問題は解消される反面、熱膨張係数差に起因するクラックや剥がれの発生については避けることができなかった。
【0008】
さらに、従来技術においては各基材の全体をシリコンによって含浸していたため、テーブル自体が重くなってしまうという問題があった。従って、搬送時等においてその取り扱いが困難であるという欠点があった。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、熱伝導性に優れるとともに、破壊しにくくて長期信頼性に優れたセラミック部材を提供することにある。
本発明の第2の目的は、大口径・高品質ウェハの製造に好適なウェハ研磨装置用テーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、含珪素セラミックからなる多孔質体の開放気孔中に金属シリコンを含浸した複数のセラミック・金属複合体同士が、前記金属シリコンからなる接合層を介して接合され、前記多孔質体内に含浸されている金属シリコンと前記接合層を構成する金属シリコンとは境目なく連続的に存在した状態にあることを特徴とするセラミック部材をその要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記複数のセラミック・金属複合体は、いずれも炭化珪素多孔質体の開放気孔中に金属シリコンを含浸したものであるとした。
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2において、前記接合層の厚さは10μm〜1500μmであるとした。
【0012】
請求項4に記載の発明では、複数の基材を積層してなる積層構造物の上部に、ウェハ研磨装置を構成しているウェハ保持プレートの保持面に保持されている半導体ウェハが摺接される研磨面を有するテーブルにおいて、前記基材は含珪素セラミックからなる多孔質体の開放気孔中に金属シリコンを含浸したセラミック・金属複合体であり、各基材同士は前記金属シリコンからなる接合層を介して接合され、前記多孔質体内に含浸されている金属シリコンと前記接合層を構成する金属シリコンとは境目なく連続的に存在した状態にあり、かつ前記接合層のある接合界面には流体流路が配設されているウェハ研磨装置用テーブルをその要旨とする。
【0013】
以下、本発明の「作用」について説明する。
請求項1に記載の発明によると、前記セラミック・金属複合体及び金属シリコンからなる接合層の熱膨張係数差は極めて小さいため、接合界面におけるクラックや剥がれの発生を防止することができる。ゆえに、ヒートサイクルを受けても破壊しにくく、長期信頼性に優れたセラミック部材となる。また、金属シリコンは一般的な接着剤に比べて格段に高い熱伝導率を有するため、接合界面において熱抵抗を増大させるという心配もない。よって、熱伝導性に優れたセラミック部材とすることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によると、炭化珪素多孔質体はとりわけ高い熱伝導率を有するため、熱伝導性に極めて優れたセラミック部材となる。また、炭化珪素多孔質体という同種のセラミックからなる複数の複合体を用いたことにより、複合体間の熱膨張係数差を完全になくすことができる。よって、接合界面におけるクラックや剥がれの発生を確実に防止することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によると、接合層の厚さを上記好適範囲に設定することにより、接合作業の困難化を伴うことなく十分な接合強度を得ることができる。接合層が10μmより薄いと、十分な接合強度が得られなくなるおそれがある。逆に、接合層を1500μmより厚くしようとすると、含浸のときの条件設定が難しくなり、接合作業が困難になるおそれがある。
【0016】
請求項4に記載の発明によると、接合界面におけるクラックや剥がれの発生が防止され、ヒートサイクルを受けても破壊しにくくなる。この結果、流体流路からの流体漏れも未然に防止され、長期信頼性に優れたテーブルとなる。また、金属シリコンからなる接合層は接合界面において熱抵抗を増大させないため、熱伝導性に極めて優れたテーブルとなる。従って、テーブル内部に温度バラツキが生じにくくなり、極めて高い均熱性及び熱応答性が付与される。このため、大口径・高品質ウェハの製造に好適なものとすることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上詳述したように、請求項1〜3に記載の発明によれば、熱伝導性に優れるとともに、破壊しにくくて長期信頼性に優れたセラミック部材を提供することができる。
請求項4に記載の発明によれば、大口径・高品質ウェハの製造に好適なウェハ研磨装置用テーブルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
[第1の実施形態]
以下、本発明を具体化した一実施形態のウェハ研磨装置1を図1〜図3に基づき詳細に説明する。
【0019】
図1には、本実施形態のウェハ研磨装置1が概略的に示されている。同ウェハ研磨装置1を構成しているテーブル2は円盤状である。テーブル2の上面は、半導体ウェハ5を研磨するための研磨面2aになっている。この研磨面2aには図示しない研磨クロスが貼り付けられている。本実施形態のテーブル2は、冷却ジャケットを用いることなく、円柱状をした回転軸4の上端面に対して水平にかつ直接的に固定されている。従って、回転軸4を回転駆動させると、その回転軸4とともにテーブル2が一体的に回転する。
【0020】
図1に示されるように、このウェハ研磨装置1は、複数(図1では図示の便宜上2つ)のウェハ保持プレート6を備えている。プレート6の形成材料としては、例えばガラスや、アルミナ等のセラミックス材料や、ステンレス等の金属材料などが採用される。各ウェハ保持プレート6の片側面(非保持面6b)の中心部には、プッシャ棒7が固定されている。各プッシャ棒7はテーブル2の上方に位置するとともに、図示しない駆動手段に連結されている。各プッシャ棒7は各ウェハ保持プレート6を水平に支持している。このとき、保持面6aはテーブル2の研磨面2aに対向した状態となる。また、各プッシャ棒7はウェハ保持プレート6とともに回転することができるばかりでなく、所定範囲だけ上下動することができる。プレート6側を上下動させる方式に代え、テーブル2側を上下動させる構造を採用しても構わない。ウェハ保持プレート6の保持面6aには、半導体ウェハ5が例えば熱可塑性ワックス等を用いて貼着される。半導体ウェハ5は、保持面6aに対して真空引きによりまたは静電的に吸着されてもよい。このとき、半導体ウェハ5における被研磨面5aは、テーブル2の研磨面2a側を向いている必要がある。
【0021】
次に、テーブル2の構成について詳細に説明する。
図1,図2に示されるように、本実施形態のテーブル2は、2枚の炭化珪素・金属複合体製の基材11A,11Bからなる積層セラミックス構造体である。上側基材11Aの裏面には、流体流路である冷却用水路12の一部を構成する溝13が所定パターン状に形成されている。2枚の基材11A,11B同士は、接合層14を介して互いに接合されることにより、一体化されている。その結果、基材11A,11Bの接合界面に前記水路12が形成される。下側基材11Bの略中心部には、貫通孔15が形成されている。これらの貫通孔15は、回転軸4内に設けられた流路4aと、前記水路12とを連通させている。
【0022】
水路12の一部を構成する溝13は、上側基材11Aの裏面を生加工後かつ焼成前に研削加工することにより形成された研削溝である。溝13の深さは3mm〜10mm程度に、幅は5mm〜20mm程度にそれぞれ設定されることがよい。
【0023】
前記基材11A,11Bは、含珪素セラミックからなる多孔質体17の開放気孔中に金属シリコン24を含浸したセラミック・金属複合体18である。本実施形態において具体的には、炭化珪素多孔質体17の開放気孔中に金属シリコン24を含浸した炭化珪素・金属複合体18が選択されている。なお、本実施形態のものは、両基材11A,11Bにおける全領域(ただし溝部13等の部位は除く)が含浸部位A2となっていて、積極的には未含浸部位A1は設けられていない。
【0024】
多孔質体17の多孔質組織を構成する炭化珪素結晶21,22の平均粒径は、20μm以上という比較的大きな値に設定されることがよい。熱が結晶の内部を伝導する効率は、熱が結晶間を伝導する効率に比べて一般に高いため、平均粒径が大きいほど熱伝導率が高くなるからである。また、多孔質組織の気孔率は30%以下という小さい値に設定されていることがよく、このような設定にすれば熱伝導性の向上を確実に図ることができる。即ち、気孔率が小さくなると多孔質組織内における空隙が減る結果、熱が伝導しやすくなるからである。
【0025】
ここで、炭化珪素結晶21,22の平均粒径が20μm未満であったり、気孔率が30%を超えるものであると、含浸を行ったとしても熱伝導率を160W/m・K以上の高い値にすることが困難になる。従って、均熱性、熱応答性及び形状安定性の向上を十分に達成することができなくなる。なお、熱伝導率の値は160W/m・K以上であることが好ましく、さらには180W/m・K〜280W/m・Kであることがより好ましく、200W/m・K〜260W/m・Kであることが特に好ましい。
【0026】
炭化珪素結晶21,22の平均粒径は、20μm〜100μmに設定されることが好ましく、30μm〜90μmに設定されることがより好ましく、40μm〜70μmに設定されることが最も好ましい。平均粒径が大きくなりすぎると、複合体18が過度に緻密化してしまうおそれがある。
【0027】
開放気孔の気孔率は、10%〜50%に設定されることが好ましく、10%〜40%に設定されることより好ましく、20%〜30%に設定されることが最も好ましい。
また、前記複合体18は、平均粒径が0.1μm〜1.0μmの細かい炭化珪素結晶21(以下、細結晶21という)を10体積%〜50体積%含み、かつ、平均粒径が25μm〜150μmの粗い炭化珪素結晶22(以下、粗結晶22という)を50体積%〜90体積%含むものであることが好ましい。
【0028】
上記のように、細結晶21と粗結晶22とが適宜の比率で含まれる複合体18の場合、粗結晶22間に形成される空隙が細結晶21で埋まった状態となりやすく、実質的な空隙の比率が小さくなる(図2(b)参照)。その結果、複合体18の熱抵抗がよりいっそう小さくなり、このことが熱伝導性の向上に大きく貢献しているものと考えられる。
【0029】
細結晶21の平均粒径は、0.1μm〜1.0μmに設定されることがよく、0.2μm〜0.9μmに設定されることがより好ましく、0.3μm〜0.7μmに設定されることが最も好ましい。細結晶21の平均粒径を極めて小さくしようとすると、高価な微粉末の使用が必要となるため、材料コストの高騰につながるおそれがある。逆に、細結晶21の平均粒径が大きくなりすぎると、粗結晶22間に形成される空隙を十分に埋めることができなくなり、複合体の熱抵抗を十分に低減できなくなるおそれがある。
【0030】
複合体18において細結晶21は、10体積%〜50体積%含まれることがよく、15体積%〜40体積%含まれることがより好ましく、20体積%〜40体積%含まれることが最も好ましい。細結晶21の含有比率が小さくなりすぎると、粗結晶22間に形成される空隙を埋めるのに十分な量の細結晶21が確保されにくくなり、複合体18の熱抵抗を確実に低減できなくなるおそれがある。逆に、細結晶21の含有比率が大きくなりすぎると、前記空隙を埋める細結晶21がむしろ余剰となり、本来熱伝導性の向上に必要な程度の粗結晶22が確保されなくなる。従って、かえって複合体18の熱抵抗が大きくなるおそれがある。
【0031】
さらに、複合体18において粗結晶22の平均粒径は、25μm〜150μmに設定されることがよく、40μm〜100μmに設定されることがより好ましく、60μm〜80μmに設定されることが最も好ましい。粗結晶22の平均粒径を極めて小さくしようとすると、前記細結晶21との粒径差が小さくなる結果、細結晶21と粗結晶22との混合による熱抵抗低減効果を期待できなくなるおそれがある。逆に、粗結晶22の平均粒径が大きくなりすぎると、粗結晶22間に形成される個々の空隙が大きくなることから、たとえ十分な量の細結晶21があったとしても当該空隙を十分に埋めることは困難になる。よって、複合体18の熱抵抗を十分に低減できなくなるおそれがある。
【0032】
複合体18において粗結晶22は、50体積%〜90体積%含まれることがよく、60体積%〜85体積%含まれることがより好ましく、60体積%〜80体積%含まれることが最も好ましい。粗結晶22の含有比率が小さくなりすぎると、本来熱伝導率の向上に必要な程度の粗結晶22が確保されなくなり、かえって複合体の熱抵抗が大きくなるおそれがある。逆に、粗結晶22の含有比率が大きくなりすぎると、相対的に細結晶21の含有比率が小さくなってしまい、粗結晶22間に形成される空隙を十分に埋めることができなくなる。よって、複合体18の熱抵抗を確実に低減できなくなるおそれがある。
【0033】
上述したように、炭化珪素多孔質体17の開放気孔中には、金属シリコン24が含浸されている。金属シリコン24の含浸を行うと、金属シリコン24が多孔質体17の開放気孔内に埋まり込むことによって見かけ上は緻密体となり、結果として熱伝導性及び強度の向上が図られるからである。
【0034】
ここで、含浸用金属として特に金属シリコン24を選択した理由は、金属シリコン24は元来炭化珪素との馴染みがよい物質であることに加え、それ自体が高い熱伝導率を有しているからである。ゆえに、金属シリコン24を多孔質体17の開放気孔内に充填することによって、熱伝導性及び強度の向上を確実に達成することができるからである。また、金属シリコン24は、接着剤のような樹脂材料とは異なり熱膨張係数が炭化珪素と極めて近似しているため、接合層14の材料として好適だからである。
【0035】
金属シリコン24は、炭化珪素100重量部に対して15重量部〜50重量部含浸されていることがよく、さらには15重量部〜45重量部含浸されていることがよりよく、特には15重量部〜30重量部含浸されていることが好ましい。
含浸量が15重量部未満であると、開放気孔を十分に埋めることができなくなり、複合体18の熱抵抗を確実に低減できなくなるおそれがある。逆に、含浸量が30重量部を超えるようになると、結晶部分の比率が相対的に低下してしまう結果、場合によってはかえって複合体18の熱伝導率が低下する可能性がある。
【0036】
また、金属シリコン24からなる接合層14の厚さは、10μm〜1500μmであることがよく、さらには100μm〜500μmであることがよりよい。
その理由は、接合層14が10μmよりも薄いと、十分な接合強度が得られなくなるおそれがあるからである。逆に、接合層14を1500μmよりも厚くしようとすると、含浸のときの温度、時間等の条件設定が難しくなり、接合作業が困難になるおそれがあるからである。
【0037】
次に、このテーブル2の製造手順を図3に基づいて説明する。
炭化珪素の多孔質体17は、粗粉末に微粉末を所定割合で配合して混合する材料調製工程、成形工程及び焼成工程、金属含浸・基材接合工程を経て製造される。
【0038】
前記材料調製工程においては、平均粒径5μm〜100μmのα型炭化珪素の粗粉末を100重量部用意する。これに対して平均粒径0.1μm〜1.0μmのα型炭化珪素の微粉末を10重量部〜100重量部を配合し、これを均一に混合することを行う。
【0039】
α型炭化珪素の粗粉末の平均粒径は、5μm〜100μmに設定されることがよく、15μm〜75μmに設定されることがより好ましく、25μm〜60μmに設定されることが最も好ましい。α型炭化珪素の粗粉末の平均粒径が5μm未満になると、異常粒成長を抑制する効果が低くなるおそれがある。逆に、α型炭化珪素の粗粉末の平均粒径が60μmを超えると、成形性が悪化することに加え、得られる複合体18の強度が低くなるおそれがある。
【0040】
α型炭化珪素の微粉末の平均粒径は、0.1μm〜1.0μmに設定されることがよく、0.1μm〜0.8μmに設定されることがより好ましく、0.2μm〜0.5μmに設定されることが最も好ましい。α型炭化珪素の微粉末の平均粒径が0.1μm未満になると、粒成長の制御が困難になることに加え、材料コストの高騰が避けられなくなる。逆に、α型炭化珪素の微粉末の平均粒径が1.0μmを超えると、粗結晶22間に形成される空隙が埋まりにくくなるおそれがある。なお、微粉末としてα型を選択した理由は、β型に比べて熱伝導率がいくぶん高くなる傾向があるからである。
【0041】
前記微粉末の配合量は、10重量部〜100重量部であることがよく、15重量部〜65重量部であることがより好ましく、20重量部〜60重量部であることが最も好ましい。微粉末の配合量が少なすぎると、粗結晶22間に形成される空隙を埋めるのに十分な量の細結晶21が確保されにくくなり、複合体18の熱抵抗を十分に低減できなくなるおそれがある。また、20μm以上という所望の気孔径を得るために焼成温度を極めて高温に設定する必要が生じ、コスト的に不利となる。逆に、微粉末の配合量が多すぎると、熱伝導性の向上に必要な程度の粗結晶22が確保されなくなる結果、複合体18の熱抵抗が大きくなるおそれがある。また、強度に優れた複合体を得ることも困難になる。
【0042】
上記の材料調製工程においては、前記2種の粉末とともに、成形用バインダや分散溶媒が必要に応じて配合される。そして、これを均一に混合・混練して粘度を適宜調製することにより、まず原料スラリーが得られる。なお、原料スラリーを混合する手段としては、振動ミル、アトライター、ボールミル、コロイドミル、高速ミキサー等がある。混合された原料スラリーを混練する手段としては、例えばニーダー等がある。
【0043】
成形用バインダとしては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等がある。成形用バインダの配合割合は、一般に炭化珪素粉末の合計100重量部に対し、1重量部〜10重量部の範囲であることが好適である。この比率が1重量部未満であると、得られる成形体の強度が不十分となり、取扱性が悪くなる。逆に、この比率が10重量部を超えるものであると、乾燥等によって成形用バインダを除去する際に成形体にクラックが生じやすくなり、歩留まりが悪化してしまう。
【0044】
分散溶媒としては、ベンゼン、シクロヘキサン等の有機溶剤、メタノール等のアルコール、水等が使用可能である。
また、上記原料スラリー中には、さらに炭素源となる有機物が炭素重量換算値で1重量%〜10重量%、特には6重量%〜9重量%配合されていることがよい。即ち、前記有機物に由来する炭素が焼結体の炭化珪素の表面に付着することにより、含浸してきた金属シリコン24と炭素とが反応し、そこにあらたに炭化珪素を生成する。従って、そこに強いネッキングが起き、これにより熱伝導性及び強度の向上が図られるからである。
【0045】
ここで、成形体における前記有機物の分量が少なすぎると、焼結体表面を覆う酸化珪素膜が厚くなり、焼結体側に金属シリコン24が入りにくくなる結果、そこにあらたに炭化珪素が生成しにくくなるおそれがある。
【0046】
逆に、成形体における前記有機物の分量が多すぎると、例えば樹脂を選択した場合において、成形時の離形性が悪化するおそれがある。また、炭化珪素の焼結が阻害される結果、強度低下を来すおそれがある。
【0047】
前記有機物としては、例えばフェノールレジン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ピッチ、タールなどがある。このなかでもフェノールレジンは、ボールミルを用いた場合に原料を均一に混合できるという点で有利である。
【0048】
次いで、前記原料スラリーを用いて炭化珪素の顆粒が形成される。炭化珪素粉末を顆粒化する方法としては、噴霧乾燥による顆粒化法(いわゆるスプレードライ法)のように、従来からある汎用技術を用いることができる。即ち、原料スラリーを高温状態に維持した容器内へ噴霧し、急速に乾燥を行なう方法などが適用可能である。
【0049】
続く成形工程においては、材料調製工程により得られた混合物からなる顆粒を所定形状に成形して成形体を作製する。
その際の成形圧力は、1.0t/cm〜1.5t/cmであることがよい。
その理由は、成形体密度及び焼結体密度が高くなる結果、熱伝導率が高くなるからである。また、成形体の密度は、2.0g/cm以上に設定されることがよい。その理由は、成形体の密度が小さすぎると、炭化珪素粒子相互の結合箇所が少なくなるからである。よって、得られる多孔質体17の強度が低くなり、取扱性が悪くなる。
【0050】
続く焼成工程においては、成形工程によって得られた成形体を1700℃〜2400℃の温度範囲で、好ましくは2000℃〜2400℃の温度範囲で、特に好ましくは2000℃〜2300℃の温度範囲で焼成して多孔質体17を作製する。
【0051】
焼成温度が低すぎると、炭化珪素粒子同士を結合するネック部を十分に発達させることが困難になり、高熱伝導率及び高強度を達成できなくなる場合がある。
逆に、焼成温度が高すぎると、炭化珪素の熱分解が始まる結果、多孔質体17の強度低下を来してしまう。しかも、焼成炉に投じる熱エネルギー量が増大する結果、コスト的に不利となる。
【0052】
また、焼成時において焼成炉の内部は、例えばアルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素、水素及び一酸化炭素の中から選択される少なくとも一種からなるガス雰囲気(即ち非酸化性雰囲気、不活性雰囲気)に保たれるべきである。なお、このとき焼成炉内を真空状態にしてもよい。
【0053】
さらに焼成時においては、ネック部の成長を促進させるために、成形体からの炭化珪素の揮散を抑制することが有利である。成形体からの炭化珪素の揮散を抑制する方法としては、外気の侵入を遮断可能な耐熱性の容器内に成形体を装入することが有効である。前記耐熱性の容器の形成材料としては、黒鉛または炭化珪素が好適である。
【0054】
続く金属含浸・基材接合工程では、以下のようにして未含浸の多孔質体17に金属シリコン24を含浸する。
金属シリコン24の含浸に際し、前もって多孔質体17に炭素質物質を含浸しておくことが好ましい。このような炭素質物質としては、例えばフルフラール樹脂、フェノール樹脂、リグニンスルホン酸塩、ポリビニルアルコール、コーンスターチ、糖蜜、コールタールピッチ、アルギン酸塩のような各種有機物質が使用可能である。なお、カーボンブラック、アセチレンブラックのような熱分解炭素も同様に使用可能である。前記炭素室物質をあらかじめ含浸する理由は、多孔質体17の開放気孔の表面に新たな炭化珪素の膜が形成されるため、これによって金属シリコン24と多孔質体17との結合が強固なものになるからである。また、炭素室物質の含浸によって、多孔質体17自体の強度も強くなるからである。
【0055】
次いで、前記多孔質体17を複数枚積層し、かつその積層物の最上部に固体状の金属シリコン24を載置しておく(図3(a),(b)参照)。固体状の金属シリコン24として、本実施形態では塊状のものが用いられている。このほかにも、例えば粉末状のもの、粒状のもの、シート状のもの等を用いても構わない。また、固定状の金属シリコン24に代えてペースト状の金属シリコン24を用い、それを積層物の最上部に塗布しておくようにしてもよい。
【0056】
そして、前記積層物を加熱炉内にセットし、所定時間かつ所定温度にて加熱する(図3(c)参照)。その結果、固体状またはペースト状であった金属シリコン24が溶融するとともに、多孔質体17の開放気孔内を通り抜けて流下する。
その結果、多孔質体17内に金属シリコン24が含浸され、所望の炭化珪素・金属複合体18が得られる。そして、このとき同時に、金属シリコン24からなる接合層14を介して前記複合体18同士が接合された状態となる。
【0057】
このときの加熱温度は、1500℃〜2000℃に設定されることが好ましい。その理由は、1500℃よりも低いと、金属シリコン24を完全に溶融させて流動化させることができず、複合体18内に未含浸部分が生じたり、接合界面に未接合部分が生じたりするおそれがあるからである。逆に、2000℃よりも高いと、金属シリコン24が気化(昇華)する結果、十分量の金属シリコン24が接合界面に留まらなくなり、かえって接合強度の低下を来すおそれがあるからである。また、加熱時に熱エネルギーを浪費することになるため、経済性や生産性が低下するおそれもあるからである。
【0058】
また、加熱時間は1時間以上に設定されることがよく、好ましくは2時間以上に設定されることがよい。その理由は、1時間未満であると、複合体18の接合界面に未接合部分が生じたりするおそれがあるからである。
【0059】
積層物の加熱は減圧下において、特には5torr以下の条件下において行われることが好ましい。その理由は、減圧下であると多孔質体17内の空気が開放気孔から抜け出しやすくなり、その分だけ金属シリコン24をスムーズに含浸させることが可能になるからである。また、酸素の少ない環境にすることにより、金属シリコン24の酸化を防止するためである。
【0060】
以下、本実施形態をより具体化したいくつかの実施例及び比較例を紹介する。
〈実施例1−1〉
実施例1−1の作製においては、出発材料として,平均粒径30μmのα型炭化珪素の粗粉末(#400)と、平均粒径0.3μmのα型炭化珪素の微粉末(GMF−15H2)とを準備した。そして、100重量部の前記粗粉末に対して、前記微粉末を30重量部を配合し、これを均一に混合した。
【0061】
この混合物100重量部に対し、ポリビニルアルコール5重量部、フェノールレジン3重量部、水50重量部を配合した後、ボールミル中にて5時間混合することにより、均一な混合物を得た。この混合物を所定時間乾燥して水分をある程度除去した後、その乾燥混合物を適量採取しかつ顆粒化した。このとき、顆粒の水分率を約0.8重量%になるように調節した。次いで、前記混合物の顆粒を、金属製押し型を用いて1.3t/cmのプレス圧力で成形した。得られた円盤状の生成形体(50mmφ、5mmt)の密度は2.6g/cmであった。
【0062】
続いて、後に上側基材11Aとなるべき成形体の底面を研削加工することにより、深さ5mmかつ幅10mmの溝13を底面のほぼ全域に形成した。
次いで、黒鉛製ルツボに前記生成形体を装入し、タンマン型焼成炉を使用してその焼成を行なった。焼成は1気圧のアルゴンガス雰囲気中において実施した。
また、焼成時においては10℃/分の昇温速度で最高温度である2200℃まで加熱し、その後はその温度で4時間保持することとした。
【0063】
続く金属含浸・基材接合工程では、得られた多孔質体17にフェノール樹脂(炭化率30重量%)をあらかじめ真空含浸し、かつ乾燥した。そして、多孔質体17を2枚積層し、かつその積層物の最上部に塊状の金属シリコン24を載置しておく。なお、ここでは純度が99.99重量%以上の塊状の金属シリコン24を使用した。そして、塊状の金属シリコン24が載置された積層物を加熱炉内にセットし、これを1torrの減圧下で加熱して、最高温度1800℃で約3時間保持した。このような処理の結果、固体状であった金属シリコン24を溶融させ、多孔質体17内に金属シリコン24を含浸させた。このとき同時に、金属シリコン24からなる接合層14を介して、複合体18同士を接合した。なお、ここでは炭化珪素100重量部に対する金属シリコン24の含浸量を、30重量部に設定した。また、金属シリコン24からなる接合層14の厚さを150μmに設定した。
【0064】
得られた炭化珪素・金属複合体18製の基材11A,11Bでは、多孔質組織における開放気孔の気孔率が20%、全体としての熱伝導率が210W/m・K、全体としての密度が3.0g/cmであった。また、炭化珪素結晶21,22の平均粒径は30μmであった。具体的には、平均粒径が1.0μmの細結晶21を20体積%含み、かつ、平均粒径が40μmの粗結晶22を80体積%含んでいた。
【0065】
また、本実施例の多孔質体17の熱膨張係数は4.0×10−6/℃であった。
一方、金属シリコン24からなる接合層14の熱膨張係数は4.2×10−6/℃であり、多孔質体17のそれと極めて近似していた。金属シリコン24からなる接合層14の熱伝導率は150W/m・Kであり、高熱伝導体といい得るものであった。
【0066】
続いて、上側基材11Aの表面に研磨加工を施すことにより、最終的に、半導体ウェハ5の研磨に適した面粗度の研磨面2aを有するテーブル2を完成した。
このようにして得られた実施例1−1のテーブル2の曲げ強度を従来公知の手法により複数回測定したところ、その平均値は約550MPaであった。
【0067】
図2(b)において概略的に示されるように、多孔質体17内に含浸されている金属シリコン24と、接合層14を構成する金属シリコン24とは、境目なく連続的に存在した状態にある。ゆえに、このことが曲げ強度の向上にいくぶん寄与しているものと考えられている。
【0068】
また、ヒートサイクルを一定時間行った後、テーブル2を厚さ方向に沿って切断し、その切断面を肉眼及び顕微鏡により観察した。その結果、接合界面におけるクラックや剥がれは全く確認されなかった。
【0069】
このようにして得られた実施例1−1のテーブル2を上記各種の研磨装置1にセットし、水路12内に冷却水Wを常時循環させつつ、各種サイズの半導体ウェハ5の研磨を行なった。そして、各種の研磨装置1による研磨を経て得られた半導体ウェハ5を観察したところ、ウェハサイズの如何を問わず、ウェハ5には傷が付いていなかった。また、ウェハ5に大きな反りが生じるようなこともなかった。つまり、本実施例のテーブル2を用いた場合、大口径・高品質な半導体ウェハ5が得られることがわかった。
〈実施例1−2〉
実施例1−2の作製においては接合層14の厚さを50μmに設定し、それ以外の条件については基本的に実施例1−1と同様にしてテーブル2を作製した。
【0070】
得られたテーブル2の曲げ強度を複数回測定したところ、その平均値は約550MPaであった。また、一定時間のヒートサイクル後にテーブル2の切断面を観察したところ、接合界面におけるクラックや剥がれは全く確認されなかった。
【0071】
さらに、テーブル2を上記各種の研磨装置1にセットし、各種サイズの半導体ウェハ5の研磨を行なったところ、前記実施例1−1とほぼ同様の優れた結果が得られた。即ち、ウェハ5の傷付きや反りが認められず、大口径・高品質な半導体ウェハ5が得られることがわかった。
〈実施例1−3〉
実施例1−3の作製においては接合層14の厚さを1500μmに設定し、それ以外の条件については基本的に実施例1−1と同様にしてテーブル2を作製した。
【0072】
得られたテーブル2の曲げ強度を複数回測定したところ、その平均値は約550MPaであった。また、一定時間のヒートサイクル後にテーブル2の切断面を観察したところ、接合界面におけるクラックや剥がれは全く確認されなかった。
【0073】
さらに、テーブル2を上記各種の研磨装置1にセットし、各種サイズの半導体ウェハ5の研磨を行なったところ、前記実施例1−1とほぼ同様の優れた結果が得られた。即ち、ウェハ5の傷付きや反りは認められず、大口径・高品質な半導体ウェハ5が得られることがわかった。
〈比較例1〉
比較例1においては、あらかじめ多孔質体17ごとに別個に金属シリコン24の含浸を行って基材11A,11Bを作製し、次いでAg−Cu−Tiからなるロウ材を用いて基材11A,11B同士をロウ付け接合することとした。それ以外の条件については、基本的に実施例1と同様にして、テーブル2を作製した。
なお、前記ロウ材の熱伝導率は、金属シリコン24のそれよりも若干高く、170W/m・Kであった。ロウ材の熱膨張係数は18.5×10−6/℃であり、金属シリコン24のそれよりもいくぶん大きかった。
【0074】
なお、比較例1の場合、金属シリコン24の含浸作業と基材11A,11B同士の接合作業とを別工程にて行っていることから、実施例1−1,1−2,1−3に比べて生産性及びコスト性に劣っていた。
【0075】
次に、得られたテーブル2について曲げ強度を複数回測定したところ、その平均値は約400MPaであり、実施例1−1,1−2,1−3より低い値となった。また、一定時間のヒートサイクル後にテーブル2の切断面を観察したところ、接合界面においてクラックや剥がれが確認された。
〈比較例2〉
比較例2においては、あらかじめ多孔質体17ごとに別個に金属シリコン24の含浸を行って基材11A,11Bを作製し、次いで樹脂製接着剤(セメダイン社製)を用いて基材11A,11B同士を接着することとした。それ以外の条件については、基本的に実施例1と同様にして、テーブル2を作製した。なお、前記接着剤の熱伝導率は、金属シリコン24のそれよりも大幅に低く、0.162W/m・Kであった。同接着剤の熱膨張係数は65×10−6/℃であり、金属シリコン24のそれよりも相当大きいものであった。
【0076】
なお、比較例2の場合、金属シリコン24の含浸作業と基材11A,11B同士の接着作業とを別工程にて行っていることから、実施例1−1,1−2,1−3に比べて生産性及びコスト性に劣っていた。
【0077】
次に、得られたテーブル2について曲げ強度を複数回測定したところ、その平均値は約50MPaであり、比較例1よりもさらに低い値を示した。また、一定時間のヒートサイクル後にテーブル2の切断面を観察したところ、接合界面においてクラックや剥がれが顕著に発生していた。
【0078】
従って、本実施形態の各実施例によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)前記実施例1−1,1−2,1−3のテーブル2の場合、2枚の炭化珪素・金属複合体18同士が、金属シリコン24からなる接合層14を介して接合されている。接合層14の熱膨張係数と、複合体18の熱膨張係数(実質的には炭化珪素の熱膨張係数にほぼ等しい)との差は、約0.2×10−6/℃であって極めて小さい。このため、熱膨張係数差に起因する熱応力が生じる心配がなく、クラックや剥がれの発生を防止することができる。ゆえに、ヒートサイクルを受けても破壊しにくく、長期信頼性に優れたテーブル2とすることができる。また、金属シリコン24は接着剤に比べて格段に高い熱伝導率を有するため、接合界面において熱抵抗を増大させるという心配もない。よって、熱伝導性に優れたテーブル2とすることができる。
【0079】
(2)実施例1−1,1−2,1−3によると、テーブル2を製造する際、金属シリコン24の含浸作業と複合体18同士の接合作業とが同時に行われる。従って、前記各工程を個別に行う場合に比べ、効率よくテーブル2を得ることができる。よって、上記のような好適なテーブル2を確実にかつ安価に製造することができる。
【0080】
(3)実施例1−1,1−2,1−3によると、接合界面におけるクラックや剥がれの発生が防止され、ヒートサイクルを受けても破壊しにくくなる。この結果、冷却用水路12からの水漏れも未然に防止され、長期信頼性に優れたテーブル2となる。また、金属シリコン24からなる接合層14は接合界面において熱抵抗を増大させないため、熱伝導性に極めて優れたテーブル2となる。従って、テーブル2内部に温度バラツキが生じにくくなり、極めて高い均熱性及び熱応答性が付与される。このため、前記テーブル2を用いたウェハ研磨装置1にて研磨を行えば、大口径・高品質ウェハ5を確実に製造することができる。
[第2の実施形態]
次に、本発明を具体化した第2の実施形態のウェハ研磨装置1を図4に基づき詳細に説明する。なお、第1の実施形態と共通する構成についてはその説明を省略し、相違する構成について説明する。
【0081】
第2の実施形態のテーブル2は、一部の領域に未含浸部位A1を備えている点で相違している。具体的にいうと、このテーブル2において水路12よりも下側に位置する下側基材11Bには、含浸部位A2と未含浸部位A1とが設けられている。即ち、本実施形態のテーブル2には未含浸部位A1が積極的に設けられている。含浸部位A2は下側基材11Bの表層部に存在しており、未含浸部位A1は下側基材11Bの内部領域に存在している。ここでは、含浸部位A2の厚さが10mm〜30mm程度となっている。なお、下側基材11Bにおける含浸部位A2と未含浸部位A1との体積比は、8:1〜15:1となっている。
【0082】
本実施例のテーブル2を製造する際の金属含浸・基材接合工程では、加熱時間が1時間以上に設定されることがよく、より好ましく1時間〜2時間程度に設定されることがよい。その理由は、1時間未満であると、接合界面に未接合部分が生じるおそれがあるからである。逆に、2時間を超えると、複合体18内に意図的にある程度の大きさをもった未含浸部分A1を生じさせることが困難になり、全領域が含浸部位A2になってしまうおそれがあるからである。
【0083】
以下、本実施形態をより具体化した実施例を紹介する。
〈実施例2−1〉
実施例2−1の作製は、金属含浸・基材接合工程の条件のみを変更したことを除き、基本的には実施例1−1に準ずるものとした。
【0084】
本実施例の金属含浸・基材接合工程では、得られた多孔質体17にフェノール樹脂(炭化率30重量%)をあらかじめ真空含浸し、かつ乾燥した。そして、多孔質体17を2枚積層し、かつその積層物の最上部に塊状の金属シリコン24を載置しておく。なお、ここでは純度が99.99重量%以上の塊状の金属シリコン24を使用した。そして、塊状の金属シリコン24が載置された積層物を加熱炉内にセットし、これを1torrの減圧下で加熱して、最高温度1800℃で約1.5時間保持した。即ち、実施例1−1のときよりも短い時間に設定した。
【0085】
このような処理の結果、固体状であった金属シリコン24を溶融させ、多孔質体17内に金属シリコン24を部分的に含浸させた。このとき同時に、金属シリコン24からなる接合層14を介して、複合体18同士を接合した。
【0086】
得られた炭化珪素・金属複合体18製の上側基材11Aでは、基材全体としての熱伝導率が210W/m・K、密度が3.0g/cmであった。一方、炭化珪素・金属複合体18製の下側基材11Bでは、基材全体としての熱伝導率が140W/m・K、密度が2.8g/cmであった。
【0087】
続いて、上側基材11Aの表面に研磨加工を施すことにより、最終的に、半導体ウェハ5の研磨に適した面粗度の研磨面2aを有するテーブル2を完成した。
このようにして得られた実施例2−1のテーブル2の曲げ強度を従来公知の手法により複数回測定したところ、その平均値は約550MPaであった。
【0088】
また、ヒートサイクルを一定時間行った後、テーブル2を厚さ方向に沿って切断し、その切断面を肉眼及び顕微鏡により観察した。その結果、接合界面におけるクラックや剥がれは全く確認されなかった。
【0089】
このようにして得られた実施例2−1のテーブル2を上記各種の研磨装置1にセットし、水路12内に冷却水Wを常時循環させつつ、各種サイズの半導体ウェハ5の研磨を行なった。そして、各種の研磨装置1による研磨を経て得られた半導体ウェハ5を観察したところ、ウェハサイズの如何を問わず、ウェハ5には傷が付いていなかった。また、ウェハ5に大きな反りが生じるようなこともなかった。つまり、本実施例のテーブル2を用いた場合、大口径・高品質な半導体ウェハ5が得られることがわかった。
【0090】
従って、本実施形態の実施例によれば、第1の実施形態の効果に加えて、さらに以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施例のテーブル2では、下側基材11Bに未含浸部位A1が積極的に設けられている。このため、使用する含浸材料の総重量が少なくなり、テーブル2全体の軽量化を図ることができる。具体的には、前記実施例1−1の85%〜95%程度の重さとなる。従って、搬送時等において取り扱いが容易なテーブル2とすることができる。
【0091】
(2)また、本実施例のテーブル2では、水路12を介して下側の領域のほうが上側の領域に比べて相対的に熱伝導率が低くなっている。このため、テーブル2の熱応答性が確実に向上する。従って、かかるテーブル2を用いて研磨を行えば、大口径・高品質の半導体ウェハ5をより確実に得ることができる。
【0092】
(3)本実施例のテーブル2では、含浸部位A2が存在している基材11A,11Bの表層部に好適な強度が確保される。この結果、表層部からのパーティクルの発生も極めて少なくなり、テーブル2の周囲の汚れを確実に防止することができる。しかも、表層部には高いシール性が確保されため、たとえ水路12から冷却水Wが漏れたとしても、テーブル2の外部にまでその冷却水Wが漏れてしまうようなことはない。
【0093】
(4)本実施例の構造を採用した場合、金属含浸・基材接合工程における加熱時間が少なくて済むことから、テーブル2の製造時間を短縮することができる。
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
【0094】
・ 含珪素セラミックからなる多孔質体17として、炭化珪素以外のもの、例えば窒化珪素等を用いてテーブル2を作製してもよい。また、同種のセラミックからなる複数の複合体18を用いることに代え、異種のセラミックからなる複数の複合体18(例えば炭化珪素と窒化珪素との組み合わせ)にしてもよい。
【0095】
・ 2層構造をなす実施形態のテーブル2に代えて、3層構造をなすテーブルに具体化してもよい。勿論、4層以上の積層構造にしても構わない。以上のような構造を採用した場合であっても、基本的には実施形態の方法により多層構造のテーブルを製造することが可能である。
【0096】
・ 本実施形態のテーブル2の使用にあたって、水路12内に水以外の液体を循環させてもよく、気体を循環させてもよい。さらに、このような水路12を省略した構成にすることもできる。
【0097】
・ 本発明のセラミック部材は、ウェハ研磨装置におけるテーブル2として具体化されてもよいほか、テーブル2以外の部材(ウェハトッププレート等)に具体化されてもよい。勿論、本発明のセラミック部材は、ウェハ研磨装置用テーブル2等に代表される半導体製造装置の構成材料に具体化されるのみにとどまらない。例えば、同セラミック部材を電子部品搭載用基板の放熱体、メカニカルシールや軸受等の耐磨耗材料、高温炉用の耐火材、熱交換器、燃焼管等の耐熱構造材料、ポンプ部品等の耐腐食材料などに具体化することも勿論可能である。
【0098】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想をその効果とともに以下に列挙する。
(1) 含珪素セラミックからなる多孔質体の開放気孔中に金属シリコンを含浸した複数のセラミック・金属複合体同士が、前記多孔質体との熱膨張係数差が5×10−6/℃以下(より好ましくは2×10−6/℃以下、さらに好ましくは0.5×10−6/℃以下)の材料からなる接合層を介して接合されているセラミック部材。従って、この技術的思想1に記載の発明によれば、破壊しにくくて長期信頼性に優れたセラミック部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明を具体化した第1の実施形態におけるウェハ研磨装置を示す概略図。
【図2】(a)はウェハ研磨装置に用いられるテーブルの要部拡大断面図、(b)はそのテーブルの接合界面をさらに拡大して概念的に示した断面図。
【図3】(a)〜(c)は、同テーブルの製造工程を説明するための概略断面図。
【図4】本発明を具体化した第2の実施形態におけるウェハ研磨装置を示す概略図。
【符号の説明】
【0100】
1…ウェハ研磨装置、2…セラミック部材としてのウェハ研磨装置用テーブル、2a…研磨面、5…半導体ウェハ、6…ウェハ保持プレート、6a…保持面、11A,11B…基材、12…流体流路、14…接合層、17…多孔質体、18…セラミック・金属複合体としての炭化珪素・金属複合体、21,22…炭化珪素結晶、24…金属シリコン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含珪素セラミックからなる多孔質体の開放気孔中に金属シリコンを含浸した複数のセラミック・金属複合体同士が、前記金属シリコンからなる接合層を介して接合され、前記多孔質体内に含浸されている金属シリコンと前記接合層を構成する金属シリコンとは境目なく連続的に存在した状態にあることを特徴とするセラミック部材。
【請求項2】
前記複数のセラミック・金属複合体は、いずれも炭化珪素多孔質体の開放気孔中に金属シリコンを含浸したものであることを特徴とする請求項1に記載のセラミック部材。
【請求項3】
前記接合層の厚さは10μm〜1500μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック部材。
【請求項4】
複数の基材を積層してなる積層構造物の上部に、ウェハ研磨装置を構成しているウェハ保持プレートの保持面に保持されている半導体ウェハが摺接される研磨面を有するテーブルにおいて、
前記基材は含珪素セラミックからなる多孔質体の開放気孔中に金属シリコンを含浸したセラミック・金属複合体であり、各基材同士は前記金属シリコンからなる接合層を介して接合され、前記多孔質体内に含浸されている金属シリコンと前記接合層を構成する金属シリコンとは境目なく連続的に存在した状態にあり、かつ前記接合層のある接合界面には流体流路が配設されているウェハ研磨装置用テーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−188428(P2006−188428A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12134(P2006−12134)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【分割の表示】特願2000−296202(P2000−296202)の分割
【原出願日】平成12年9月28日(2000.9.28)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】