説明

タイヤ内発電装置

【課題】タイヤの低速回転時から効率良く発電することで高電力を得ることができるタイヤ内発電装置を提供する。
【解決手段】タイヤ気室内のトレッド部に取付けられるタイヤ内発電装置であって、回転中心と重心とが異なるように一部が磁石により形成され、車両走行時のトレッド部に加わる力の変化に応じて回転する回転体と、回転体と対面し、磁石の放出する磁束の電磁誘導作用により電圧を発生し、発電するコイル部と、電圧を蓄電する蓄電部とを備え、コイル部の発電をトレッド部に加わる力の変化に応じて制御する制御部を備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ内発電装置に関し、特に、発電の制御により高電力を得ることができるタイヤ内発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ内の温度や圧力を検出するTPMS(タイヤ・プレッシャー・モニタリング・システム)等のセンサ及び無線を有するデバイスをタイヤ気室内に設置してタイヤモニタリングを実施する場合に、デバイスに電力を供給するタイヤ内発電装置が知られ、具体的には、発電体を螺旋状に摺動させることにより磁石とコイルで発電させる装置(特許文献1参照)や、回転錘を回転させて発電させる装置(特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に係る発電装置では、発電体にかかる力の方向と発電体の螺旋摺動方向とが同一方向ではないため、発電体の摺動抵抗が大きく、タイヤの回転速度が低速のときにはほとんど発電できない。また、発電体の摺動抵抗は、タイヤの回転速度全域に亘り影響を及ぼすため、発電効率が低くなり、高電力を得ることができない。また、特許文献2に係る発電装置では、回転錘と発電ロータの回転力が歯車を介して伝達されるため、タイヤの回転速度が高いときには歯車の慣性力を利用した発電が可能となるが、タイヤの回転速度が低いときには歯車の回転抵抗が高いため、発電することができず、発電効率が低くなり、高電力を得ることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−92784号公報
【特許文献2】特開2000−278923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、低速回転時のタイヤであっても効率良く発電させ、高電力を得ることができるタイヤ内発電装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の構成として、タイヤ気室内のトレッド部に取付けられるタイヤ内発電装置であって、回転中心と重心とが異なるように一部が磁石により形成され、車両走行時のトレッド部に加わる力の変化に応じて回転する回転体と、回転体と対面し、磁石の放出する磁束の電磁誘導作用により電圧を発生し、発電するコイル部と、電圧を蓄電する蓄電部とを備え、コイル部の発電をトレッド部に加わる力の変化に応じて制御する制御部を備える構成とした。
本発明によれば、制御部がトレッド部に加わる力の変化に応じてコイル部による発電を制御することで、発電により回転体の回転するエネルギーが発電により失われ、回転体の回転にブレーキが作用することを抑制できるので、回転体の回転が維持され、効率良く発電することで高電力を得ることができる。
本発明の第2の構成として、制御部は、トレッド部が接地している時間、コイル部と蓄電部との回路を遮断する構成とした。
本発明によれば、タイヤ内発電装置が取付けられるトレッド部が、路面に接触するタイヤ踏み込み時から、上記トレッド部が路面から離れるタイヤ蹴り出し時までのトレッド部が接地している時間、コイル部と蓄電部との回路を遮断することにより、タイヤ踏み込みからタイヤ蹴り上げの間に回転体の回転に発電によるブレーキが作用しないので、効率良く発電できる。つまり、回転体の回転エネルギーが発電により失われることを防ぐことができる。
本発明の第3の構成として、制御部は、トレッド部の接地を検知する検知手段を有する構成とした。
本発明によれば、制御部が検知手段を有することにより、タイヤ内発電装置の取付けられたトレッド部が路面に接地したことを検知できるので、上記トレッド部が路面に接地している時間、確実に蓄電部とコイル部との回路を遮断し、コイル部での発電が回転体の回転を妨げないように制御することができる。
本発明の第4の構成として、検知手段は、トレッド部の遠心力を検知する加速度センサで構成した。
本発明によれば、タイヤ内発電装置の取付けられたトレッド部と路面とが接触するタイヤ踏み込み時と、トレッド面と路面とが離れるタイヤ蹴り出し時と、トレッド面が接地している間と、蹴り出しから踏み込むまでの間とのタイヤ内発電装置に作用する加速度を加速度センサにより直接検知することができる。
本発明の第5の構成として、検知手段は、トレッド部の周方向のひずみを検知するひずみセンサで構成した。
本発明によれば、トレッド部と路面とが接触したときのトレッド部の周方向のひずみを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に係るタイヤ内発電装置の外観斜視図。
【図2】本発明に係るタイヤ内発電装置の分解斜視図。
【図3】本発明に係るタイヤ内発電装置の部分拡大断面図。
【図4】本発明に係るコイル部と磁石との関係を示す斜視図。
【図5】本発明に係る回転体が回転するメカニズムを示す概念図。
【図6】本発明に係るタイヤ内面におけるタイヤ径方向の加速度の変化を示すグラフ。
【図7】本発明に係るタイヤ内発電装置に作用するタイヤ径方向及びタイヤ周方向の加速度の変化を示すグラフと、回転体の挙動の模式図。
【0008】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組合せのすべてが発明の解決手段に必須であるとは限らず、選択的に採用される構成を含むものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態
図1は、タイヤ内発電装置1の外観斜視図を示す。図2は、タイヤ内発電装置1の分解斜視図を示す。図3は、タイヤ内発電装置1の部分拡大断面図を示す。以下、図1乃至図3を用いてタイヤ内発電装置1について説明する。
タイヤ気室内のトレッド部T2に取付けられるタイヤ内発電装置1は、トレッド部T2のインナーライナT1に貼り付けられるベース2と、一対の回転軸支持部材3;3と、回転軸支持部材3;3に軸支される回転軸4と、コイル部固定部材5と、コイル部6と、回転体7;7と、電気部品群22により構成される。電気部品群22は、コイル部6の発電を制御する制御部8と、コイル部6と電線23により接続される蓄電部9と、蓄電部9から供給される電力により駆動する各種デバイス20により構成される。なお、タイヤ気室内とは、タイヤをホイールに組み付けたときにホイールとタイヤのインナーライナとに囲まれ、空気を保持する空間である。
【0010】
ベース2、一対の回転軸支持部材3;3、回転軸4及びコイル部固定部材5は、非磁性材料により形成される。ベース2、回転軸支持部材3;3及びコイル部固定部材5は、例えば、アクリル樹脂により形成され、回転軸4は、例えば、JIS規格のSUS304により形成される。
なお、本実施形態における説明に用いる、上下,前後,左右の位置関係は、図1において矢印で示した。
【0011】
ベース2は、例えば、矩形の平板により形成されたベース板11と、ベース板11上に設けられた固定台12とを備える。固定台12は、下板13と、左右一対の側壁14;14と、屋根板15と、左右の側設置台16;16と、収納設置空間17とを備える。下板13は、ベース板11より一回り小さい矩形の平板状であってベース板11上にベース板11と同心に設けられる。左右一対の側壁14;14は、下板13上に間隔を隔てて設けられ、上下方向及び前後方向に延長する。側壁14;14は、下板13上に左右の側縁からそれぞれ等間隔の位置に設けられる。屋根板15は、左右一対の側壁14;14の上端面を跨ぐように設けられる。左右の側設置台16;16は、下板13の上面から上向きに延長し、左右の側壁14;14の外面から下板13上の左右の側縁に沿って張り出すように設けられる。収納設置空間17は、下板13と左右の側壁14;14と屋根板15とで囲まれ、前後が開口した空間である。
なお、ベース2は、上述した各部材を組み立てて形成したものでも、一体成型して形成したものでもよい。
【0012】
屋根板15の上面、及び、側設置台16の上面は、ベース板11の上表面と平行な面として形成される。回転軸支持部材3;3は、側設置台16の上面より上方に延長するように側設置台16の上面に設けられ、コイル部固定部材5が屋根板15の上面より上方に延長するように屋根板15の上面に設けられる。
【0013】
コイル部固定部材5は、屋根板15の左右間の中央位置より上方向及び前後方向に延長して互いに対向する対向面5a;5aを有した平板により形成される。
コイル部固定部材5の平板の対向面5a;5aは屋根板15の上面である平面に対して垂直な面である。コイル部固定部材5は、対向面5a;5aを貫通するコイル部収納貫通孔5bと、上縁面を円弧状に切り欠いて形成された軸避け部5cとを備える。コイル部6はコイル部収納貫通孔5bの孔内壁に接着剤などの固定手段で固定される。
なお、コイル部固定部材5は、屋根板15と一体に形成しても良いし、屋根板15と別個に形成しても良い。
【0014】
回転軸支持部材3は、側設置台16と別個に形成されるものであり、例えば、平板状の壁体により形成され、接着剤などの固定手段で側設置台16の上面に固定される。回転軸支持部材3は、上部側面に回転軸4の端部41を回転可能に支持する軸受21を備える。
軸受21は、回転軸支持部材3の上部側面に形成された孔に取付けられた軸受部材、あるいは、回転軸支持部材3の上部側面に形成された軸受孔により形成される。
【0015】
回転軸4は、両端部41;41と、ヨーク体位置決め部42、磁石対応部43、軸補強部44とを備える。
回転軸4の両端部41;41は、各回転軸支持部材3;3の軸受21;21に回転可能に支持される。図2に示すように、回転軸4は、中央部に軸補強部44を備え、軸補強部44と端部41との間には、ヨーク体位置決め部42と磁石対応部43とを備える。軸補強部44と磁石対応部43と端部41とが断面円形状に形成され、ヨーク体位置決め部42が断面角形状に形成される。
ヨーク体位置決め部42は、例えば断面正六角形状に形成される。
軸補強部44と左右の磁石対応部43;43とが隣り合うように設けられ、磁石対応部43とヨーク体位置決め部42とが隣り合うように設けられ、ヨーク体位置決め部42と端部41とが隣り合うように設けられる。
【0016】
回転軸4の端部41の断面円径寸法は、ヨーク体位置決め部42の断面正六角形の内接円の円径寸法以下に形成される。磁石対応部43の断面円径寸法は、ヨーク体位置決め部42の断面正六角形の外接円の円径寸法以上に形成される。軸補強部44の断面円径寸法は、磁石対応部43の円径寸法よりも大きい寸法に形成される。
【0017】
回転体7は、扇形状のヨーク体71と磁石72とにより構成し、ヨーク体71と磁石72とを組み合わせることで扇形状の偏心錘を形成する。ヨーク体71は、扇形状のヨーク面板73と、位置決め孔74と、磁石位置決め板75;75;76とを備える。ヨーク面板73は、扇部73aと扇の要部73bとを備える。ヨーク面板73の扇形状は、扇の2つの半径線のなす角度が例えば120°に形成される。位置決め孔74は、ヨーク面板73の扇の要部73bに形成された孔であり、回転軸4のヨーク体位置決め部42の断面正六角形状に対応した正六角形状の孔に形成される。磁石位置決め板75;75は、ヨーク面板73の2つの半径線縁に沿って設けられる。磁石位置決め板76は、ヨーク面板73の円弧線縁に沿って設けられる。磁石位置決め板75;75;76は、ヨーク面板73の一方の面より一方向に突出し、かつ、ヨーク面板73と垂直に形成される。
【0018】
磁石72は、円の中心に円孔を備えた所定厚さの円板を円の中心を要とした扇形状に分割した扇形状の磁石により形成される。
磁石72の扇の要には回転軸4の外周面に対応する湾曲切欠部80を備える。2つの半径のなす角度が60°の単位扇形状磁石77を2つ組み合わせて2つの半径のなす角度が120°の扇形状に形成された扇形状の磁石72を用いる。2つの半径のなす角度が60°の単位扇形状磁石77を用いることにより安定的な磁力が得られ、また、コイル巻体61の筒内の空間60(図4参照)を通過するときの磁束φの向きを変化させる速度を速くできるため、発電効率を高めることができる。
なお、単位扇形状磁石77の2つの半径のなす角度を60°に設定したが、30°に設定して、周方向に異なる磁極が交互に配置されるように磁石72を構成しても良く、適宜コイル巻体61の形状に応じて設定すれば良い。
【0019】
図4に示すように、単位扇形状磁石77は、一方の扇面側がN極に着磁され、他方の扇面側がS極に着磁されて形成された2極の磁石である。扇形状磁石72は、異極同士が互いに隣り合うように2つの単位扇形状磁石77;77の端面78;78同士が接着されて形成される。
よって、回転体7が、当該回転体7の回転方向に沿って配置された複数の異なる磁極の単位扇形状磁石77;77を備えるので、磁極の変化点が多くなり、回転体7が回転することによりコイル巻体61の筒内の空間60を通過する磁束φの向きを変化させる速度を速くすることができるので、発電効率を高め、高電力を得ることができる。
【0020】
磁石72は、磁石位置決め板75;75;76で囲まれた磁石設置部79内に挿入可能な大きさに形成される。例えば、磁石位置決め板75;75;76で囲まれた扇部73aの一方の扇面73uの面積と同じ面積の扇面を有した扇形状の磁石72を形成し、扇部73aの一方の扇面73uと磁石72の一方の扇面とが互いに接着剤などの固定手段で固定されて回転体7が形成される。
即ち、回転体7の磁石72は、コイル部6に対向する面とは反対側の面にヨーク面板73を備え、かつ、磁石72の扇の外周面にヨークとして機能する磁石位置決め板75;75;76を備える構成としたので、磁石72内で自己完結する磁界発生状態を抑制でき、コイル巻体61の筒内の空間60を通過する磁束φの磁束密度を大きくできるので、高電力を得ることができる。
また、ヨーク体71が磁石設置部79を備えるので、磁石72をヨーク体71の決まった位置である磁石設置部79に容易に設置できるとともに、回転体7:7の製作が容易となる。また、磁石72の位置ずれも防止できるので、コイル部6に安定した磁界を供給できる。
【0021】
回転体7は、ヨーク体71の扇部の要部73bが回転軸4への取付孔としての位置決め孔74を備え、磁石72はヨーク面板73と磁石位置決め板75;75;76とで囲まれた扇形状の磁石設置部79に対応する扇形状に形成し、磁石72の扇の要には回転軸4の外周面に対応する湾曲切欠部80を備え、磁石設置部79に設置される構成とした。
つまり、磁石72に回転軸4への取付部を設けない構成としたので、回転体7がより回転しやすくなり、コイル巻体61の筒内の空間60を通過する磁束φの向きが変化する速度がより速くなって、高電力を得ることができ、また、効率的に連続発電が可能となり、発電量を増加させることができる。
また、磁石72を偏心錘として利用したので、部品点数を削減できるとともに、磁石72が回転しやすくなるので、高電力を得ることができるとともに発電量を増加させることができるようになる。
【0022】
回転体7の磁石72が回転軸4の軸補強部44側に位置するように、ヨーク体71の位置決め孔74内に回転軸4の端部41側から断面六角形のヨーク体位置決め部42を嵌め込んで、図3に示すように、ヨーク面板73の扇の要部73bにおける位置決め孔74の孔縁部面46と回転軸4の磁石対応部43の端面45とを接触させる。この際、ヨーク体71と回転軸4とを接着剤などの固定手段で固定すれば、ヨーク体71と回転軸4とをより確実に一体化させることができる。
そして、回転軸4の端部41;41を回転軸支持部材3の軸受21内に回転可能に挿入した状態で、回転軸支持部材3を屋根板15の上面に接着剤などの固定手段で固定する。
回転軸4の各ヨーク体位置決め部42;42には、各回転体7;7の磁石72;72の扇面同士が向き合うように取付けられる。
【0023】
軸受21に回転可能に支持された回転軸4と、回転軸4の中心線を回転中心として回転軸4と一緒に回転するように形成された回転体7とにより、回転構成部25が形成される。
回転体7は、回転中心と重心とが異なるものであればよく、例えば、扇の2つの半径のなす角度が例えば180°以下の扇形状により形成されたものを用いればよい。
【0024】
また、図4に示すように、コイル部6は、回転軸4と一緒に回転して互いに向き合う2つの回転体7;7における磁石72;72の互いに異なる磁極間で発生する磁束φが通る空間60を取り囲む筒形状にコイル62が巻回された2つのコイル巻体61;61により形成される。例えば、コイル巻体61は、回転する2つの回転体7;7の磁石72;72間で発生する磁束φが通る扇形の筒形状を形成するようにコイル62が巻かれる構成である。好ましくは、コイル62として、断面矩形状の平角線を用いることで、巻線抵抗減少と巻数増加が図れ、巻線密度を向上できるので、発電効率を高めることができる。
また、図4に示すように、コイル巻体61を回転体7:7の磁石72:72と対面する回転軌跡の投影部分に設けることで、コイル巻体61の筒内の空間60を通過する磁束φの磁束密度を大きくでき、高電力を得ることができる。
【0025】
コイル部6の外周を磁石72の外周より大きくした場合、コイル巻体61の巻長さが長くなることで、コイル巻体61の抵抗が大きくなり、発電効率が悪化するが、コイル巻体61の筒の断面の外周形状と磁石72の断面の外周形状とを同じ形状に形成し、さらに、回転体7が回転し、磁石72の断面の中心線とコイル巻体61の筒の断面の中心線とが一致したときに、コイル巻体61の断面の外周の長さが磁石72の断面の外周の長さよりも小さくなるように形成することで、コイル巻体61の抵抗を小さくしつつ、発電効率を高めることができる。
【0026】
コイル部6は、磁石72の磁束の変化により生じる電流を電線23を介して電気部品群22に出力する。電気部品群22は、制御部8と、蓄電部9と、デバイス20とにより構成される。
制御部8は、検知手段としての加速度センサ24と、スイッチング回路26とを備える。加速度センサ24は、収納設置空間17内のベース2の上面に取付けられ(図2参照)、タイヤが回転することによりタイヤ内発電装置1に作用する遠心力の加速度(タイヤ径方向の加速度)を検知する。
スイッチング回路26は、複数の電子部品により構成され、加速度センサ24の出力する信号を加速度に変換する変換回路を有し、予め制御回路内に設定される閾値とタイヤ径方向の加速度とを比較して、上記加速度が閾値以上のときにコイル部6と蓄電部9との接続を遮断するスイッチを備える。閾値には、例えば、重力加速度の10倍の10G(重力加速度の10倍)が電気的に設定される。例えば、スイッチをコンパレータとMOSFET(電界効果トランジスタ)とにより構成し、コンパレータの参照電圧と、加速度センサ24の出力する電圧との差が閾値以下の電圧となったときに、コンパレータからMOSFETに信号電圧を出力し、コイル部6と蓄電部9とを接続する回路を遮断し、閾値以上の電圧となったときに、コイル部6と蓄電部9との回路を接続する。
なお、制御部8の構成は上記に限らず、タイヤ内発電装置1全体の重量が増加しないように適宜選択すれば良い。
蓄電部9は、整流回路18と、充電回路19とを備える。
整流回路18は、例えば、コイル部6で発生する電圧によって出力される交流電流を整流する回路がワンチップに構成された整流素子を用いる。また、充電回路19には、発電された電流の電荷を蓄積する静電容量タイプのコンデンサが用いられる。
デバイス20は、タイヤの空気圧を測定するTPMSや、TPMSから出力される空気圧や空気温度を無線により車室内に送信する無線装置などにより構成される。
【0027】
上記構成のタイヤ内発電装置1によれば、次のように発電が行われる。
回転するタイヤにおいて、タイヤ内発電装置1には、回転による遠心力がタイヤ径方向に常に作用する。遠心力下にあるタイヤ内発電装置1において、タイヤ内発電装置1の取付けられたトレッド部T2が路面に接地する瞬間であるタイヤ踏み込み時に、回転体7:7は、タイヤの遠心力が作用しない0G状態(無重力状態)となり、タイヤ周方向に加速度が生じる。よって、回転体7:7には、慣性力による周方向の加速度が生じ、回転軸支持部材3に対して回転を開始する。回転を開始した回転体7:7は、接地中において遠心力の作用しない状態が継続され、タイヤ踏み込み時に生じた慣性力を維持したままタイヤ内発電装置1の上側まで回転する。そして、回転体7:7は、上記トレッド部T2が路面から離れる瞬間のタイヤ蹴り出し時の加速度によりさらに回転が加速される。このタイヤ蹴り出しによる加速度は、回転体7:7を支持する回転軸支持部材3が蹴り出しにより回転方向に加速されることと、タイヤの回転による遠心力が回転体7:7に作用することとの相対的な運動により生じるものである。
その後、回転体7:7は、タイヤの遠心力の作用下で回転支持部材3に対する回転運動を開始し、回転体7:7の磁石72:72の放出する磁束がコイル部6を横切るたびに電磁誘導作用によりコイル部6に電圧が発生する。つまり、回転体7:7が回転することで、コイル部6に電圧が発生し、発電が開始される。
コイル部6による発電は、制御部8により制御される。
制御部8は、加速度センサ24の検知する加速度が10G以下のときは、回転体7:7がコイル部6を通過するときにスイッチング回路26をオフにしてコイル部6と蓄電部9との接続を一時的に遮断し、加速度センサ24の検知する加速度が10G以上のときは、スイッチング回路26をオンにしてコイル部6と蓄電部9とを接続状態にする(図5参照)。
よって、コイル部6で発生した電圧により生じる電流は、制御部8を介して蓄電部9の整流回路18により整流されて充電回路19のコンデンサに電荷として蓄電され、デバイス20に供給される。
【0028】
以上説明したように、タイヤの回転によりタイヤ内発電装置1に作用するタイヤの回転による遠心力により作用する径方向加速度を制御部8の加速度センサ24で検知することで、タイヤ内発電装置1が路面と接触するタイヤの裏面側に位置しているかどうかを検知し、加速度センサ24の検知した加速度が10G以下のときには、コイル部6と蓄電部9との接続をスイッチング回路26により遮断する。これは、ちょうど回転体7:7がコイル部6を通過するときであり、コイル部6と蓄電部9との接続が遮断されているため、コイル部6には電流が生じないので、回転体7:7の回転エネルギーが電気エネルギーに変換されず、回転体7:7の回転にブレーキがかかることがない。そして、回転体7:7がコイル部6を通過した後は、スイッチング回路26がコイル部6と蓄電部9とを接続することで、回転体7:7の回転エネルギーを保つことができる。よって、制御部8がタイヤ径方向の加速度に基づいて、回転体7:7とコイル部6との発電を制御することでタイヤが低速回転しているときでも回転体7:7の回転エネルギーの損失が少ない安定した発電をすることができる。
【0029】
以下、本発明のタイヤ内発電装置1の効果について説明する。
本発明のタイヤ内発電装置1の効果を調べるために、タイヤ内発電装置1に制御部8を備える場合と、制御部8を備えない場合の発電の違いについて調べた。
実施条件を以下に示す。
・タイヤサイズ;225/55R17を用いた。
・タイヤ内発電装置1をタイヤ気室内のトレッド部T2の幅方向中央部にベース2の裏面11aに接着して取付けた。回転軸4は、タイヤの回転軸と平行に取付けた。ベース2の裏面11aから回転軸4までの距離は20mmとした。
・蓄電部9の充電回路19はコンデンサに電荷が蓄えられる回路を用い、無線デバイスとコンデンサとを接続した。
・制御部8は、タイヤ内発電装置1に作用する遠心力を加速度センサ24により検知し、スイッチング回路26をコンパレータとMOSFETとにより構成し、コンパレータの参照電圧と、加速度センサの出力する電圧とを比較して加速度が10Gの時に、コンパレータがMOSFETに信号を出力するように電圧差による閾値設定のスイッチング回路26を構成した。
・回転軸4は、全長の寸法が22.5mm、軸補強部44の長さ寸法が3mm、磁石対応部43の長さ寸法が4mm、ヨーク体位置決め部42の長さ寸法が3.25mm、端部41の長さが2.5mm、軸補強部44の径寸法が3.5mm、磁石対応部43の径寸法が2.5mm、ヨーク体位置決め部42の最大径寸法が2.5mm、端部41の径寸法が2mmのものを用いた。
・ヨーク体71は、回転体7の回転中心からヨーク面板73の円弧線縁に沿って設けられた磁石位置決め板76の内面76aまでの距離である扇の内寸法が9mm、ヨーク面板73から磁石位置決め板76の外面76bまでの距離である扇の外寸法が9.5mm、ヨーク面板73の2つの半径線縁に沿って設けられた2つの磁石位置決め板75;75の内面75aと内面75aとのなす角度が120°のものを用いた。また、図3に示すように、磁石位置決め板75;75;76の幅寸法aを3mm、ヨーク面板73の幅寸法bを1mmとした。
・単位扇形状磁石77は、扇の要の円弧の内径が4mm、扇の外径が18mm、厚さ4mm、重さ2.35gのネオジム磁石を用いた。
・コイル巻体61は、扇の要の円弧の内径が内径5mm、扇の外径が18mm、筒の全長が2mm、コイルの線径が0.08mm、巻数が500回のものを用いた。
・タイヤ内発電装置1は、電気回路群22を含めて全体で13gのものを用いた。
・車速30km/hで定常走行し、蓄電電圧が0Vから安定するまで走行させた。
・安定した電圧とデバイスの負荷(R=200Ω)とにより、発電量(W=V/R)を算出した。
【0030】
上記実施条件に基づき実施した結果、制御部8を備えるタイヤ内発電装置1では、14.7mWの発電量が得られ、制御部8を備えないタイヤ内発電装置1では、13.6mWの発電量が得られた。つまり、制御部8を備えることにより、8%の出力の向上が得られた。
【0031】
以下、制御部8の有無による結果について考察する。
図5は、回転するタイヤ内においてタイヤ内発電装置1の回転体7:7が回転するメカニズムの概念図を示す。
図6は、タイヤ内発電装置1の取付けられたトレッド部T2が路面と接地している時間及びその前後の時間においてトレッド部T2に作用する遠心力を加速度センサ24により検知したタイヤ径方向の加速度の変化を示すグラフである。
図7(a)は、タイヤ内発電装置1に作用するタイヤ径方向の加速度の変化を示すグラフと、周方向の加速度の変化を示すグラフである。図7(b)は、図5に示す、状態1〜5における回転体7:7の挙動を模式的に示す図である。なお、図7(a)は、図6における8.32sから8.36sを拡大したものである。同図において、タイヤ内発電装置1に作用するタイヤ径方向加速度は、タイヤ内面に作用する加速度と作用反作用の関係にあるため、図7(a)に示す径方向の加速度は、図6のグラフでは上下反転した形で示される。
図6に示すように、トレッド部T2が路面と接地している時間では、トレッド部T2のタイヤ径方向の加速度は、略0Gとして加速度センサ24により検知される。
また、図5,図7(a)に示すように、タイヤ内発電装置1のタイヤ周方向の加速度は、接地時間の両端で加速度の変化が生じている。これは、タイヤが路面と接触するタイヤ踏み込み時(状態2)と、タイヤが路面から離れるタイヤ蹴り出し時(状態4)に対応する。さらに、図5,図7(a),(b)に示すように、タイヤ径方向及び周方向の加速度の変化と、回転体7:7の挙動の模式図とを比較すると、状態2により得られる周方向の加速度の大きさによって、回転体7:7が回転するか回転しないかが決定されることが分かる。
よって、図7(b)に示すように、制御部8を備える場合、コイル部6と蓄電部9とを遮断したときの方が、状態2において大きなタイヤ周方向の加速度が得られ、状態3における自由回転の回転力が大きい。そして、完全に接地した状態3では、回転体7:7は、接地した瞬間のタイヤ周方向の加速度が回転体7:7に作用し、回転軸支持部材3の上側まで回転する。さらに、状態4におけるタイヤ蹴り出し時には、遠心力が回転体7:7に作用することで、タイヤ径方向に加速される。このメカニズムにより、回転体7:7は、時速30km/hにおいても安定的に発電を行うことが可能となった。
一方、制御部8を備えない場合、状態2で周方向に作用する加速度により発電が行われてしまうため、回転エネルギーが不足し、さらに、状態3でも発電が継続されるために回転エネルギーが消費されてしまい、回転不足となる。そして、状態4のように周方向に加速度が得られても、制御部8を備えるときのような回転力ではなく、元の位置に戻る回転力として作用してしまい、回転体7:7が回転することができない場合が発生してしまう。よって、制御部8を備えない場合には、時速30km/hにおいて効率良く発電することができないことが確認された。
【0032】
よって、本発明のタイヤ内発電装置1によれば、タイヤの遠心力により作用するタイヤ径方向の加速度の変化に応じて、制御部8がコイル部6と蓄電部9との接続を遮断することで、タイヤが低速回転時においても発電してしまい回転体7:7の回転エネルギーを発電により消費することを制御できるので、安定的に発電することができる。よって、タイヤ内の温度や圧力等のタイヤ情報を検出し、タイヤの動的な状態を連続送信するために高電力を必要とするデバイス20に対して安定して電力を供給できるようになる。
【0033】
なお、上記実施例において制御部8がコイル部6と蓄電部9との接続を遮断する閾値を10Gとして説明したが、閾値となる加速度は、タイヤの大きさ及び発電させたいタイヤの回転速度に応じて適宜設定すれば良い。
また、タイヤの内面に対するタイヤ内発電装置1の取付位置は特に限定されない。例えば、タイヤ内発電装置1を回転軸4がトレッド部T2の幅方向と直交するようにタイヤ気室内のトレッド部T2に取付けても良い。
【0034】
また、検知手段を加速度センサ24により構成したが、タイヤ気室内のトレッド部T2のタイヤ周方向のひずみをひずみゲージにより検知するように構成しても良い。
例えば、ひずみゲージは、タイヤ内発電装置1のタイヤの前進回転方向上流側に隣接するようにタイヤ気室内のトレッド部T2に貼り付けられれば良い。このようにひずみゲージを配置することで、タイヤ内発電装置1の取付けられたトレッド部T2が、路面と接触するタイヤの踏み込み時を正確に検知することができる。さらに、タイヤの前進回転方向下流側にタイヤ内発電装置1に隣接するようにひずみゲージを貼り付けることで、タイヤの蹴り出し時を正確に検知することができる。また、タイヤ内発電装置1を取り囲むようにひずみゲージを貼り付けるようにしても良い。
【0035】
また、タイヤ内発電装置1は、上記構成に限らず、タイヤ内発電装置の回転体と磁石とを別体として構成しても良く、タイヤの回転速度の小さいときに、常時発電しないようにタイヤ内発電装置1に上記制御部8を備えることでタイヤが低速回転時から効率良く安定的に発電できるようになる。
【0036】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 タイヤ内発電装置、2 ベース、3 回転軸支持部材、4 回転軸、
5 コイル部固定部材、5a 対向面、5b コイル部収納貫通孔、5c 軸避け部、
6 コイル部、7 回転体、8 制御部、9 蓄電部、11 ベース板、
12 固定台、13 下板、14 側壁、15 屋根板、16 側設置台、
17 収納設置空間、18 整流回路、19 充電回路、20 デバイス、
21 軸受、23 電線、25 加速度センサ、26 スイッチング回路、
41 端部、42 ヨーク体位置決め部、43 磁石対応部、44 軸補強部、
60 空間、61 コイル巻体、71 ヨーク体、72 磁石、
73 ヨーク面板、73a 扇部、73b 扇の要部、73u 扇面、
74 位置決め孔、75;76 磁石位置決め板、77 磁石、78 端面、
79 磁石設置部、80 湾曲切欠部、a:b 幅寸法、T2 トレッド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ気室内のトレッド部に取付けられるタイヤ内発電装置であって、
回転中心と重心とが異なるように一部が磁石により形成され、車両走行時の前記トレッド部に加わる力の変化に応じて回転する回転体と、
前記回転体と対面し、前記磁石の放出する磁束の電磁誘導作用により電圧を発生し、発電するコイル部と、
前記電圧を蓄電する蓄電部とを備え、
前記コイル部の発電を前記トレッド部に加わる力の変化に応じて制御する制御部を備えることを特徴とするタイヤ内発電装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記トレッド部が接地している時間、前記コイル部と前記蓄電部との回路を遮断することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ内発電装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記トレッド部の接地を検知する検知手段を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のタイヤ内発電装置。
【請求項4】
前記検知手段は、前記トレッド部の遠心力を検知する加速度センサであることを特徴とする請求項3に記載のタイヤ内発電装置。
【請求項5】
前記検知手段は、前記トレッド部の周方向のひずみを検知するひずみセンサであることを特徴とする請求項3に記載のタイヤ内発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−239510(P2011−239510A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106866(P2010−106866)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】