説明

タイヤ用ビード部材の製造装置、タイヤ用ビード部材の製造方法及びタイヤ用ビード部材

【課題】タイヤ用ビード部材を製造する際における未加硫ゴムの射出時間を短縮して、ゴム焦げを抑制する。
【解決手段】環状のビードコア14が配置される第1成形型11と、該第1成形型11に重ねた際に、前記ビードコア14の径方向外側において該第1成形型11との間にビードフィラー用のキャビティ18を形成するように構成され、該キャビティ18内に前記ビードフィラー用の未加硫ゴムを射出可能なように該キャビティ18に開口すると共に流路方向に沿って延びる溝が内壁面に形成されたノズル26が設けられた第2成形型12と、を有している。ノズル26の内壁面に溝を設けることで、該溝における未加硫ゴムの通過抵抗を、ノズル中央部よりも小さくして、ノズル26内における通過抵抗の原因である乱流の発生を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形を用いたタイヤ用ビード部材の製造装置、タイヤ用ビード部材の製造方法及びタイヤ用ビード部材に関する。
【背景技術】
【0002】
押出機により口金を介してゴムを帯状に押し出し、その帯状ゴムの端部同士を貼り合わせて円環状に成形する工程を備える円環状ゴム部材の製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
また射出成形法を利用して、ビードフィラーを有するビード部材を成形する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−61691号公報
【特許文献2】特開2007−253470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した特許文献1に係る従来例のように、帯状ゴムの端部同士を貼り合わせて円環状に成形してタイヤ用のビードフィラーを成形する方法では、該端部同士のジョイント部におけるゲージのばらつきや、段状のセット位置ずれが発生して、製品タイヤの均一性、即ちタイヤバランスやユニフォーミティーが悪化することが懸念されていた。またジョイント部のゲージが部分的に厚くなると、加硫が遅れるために加硫時間を延長する必要があった。
【0006】
またこのような課題を解決するために、上記した特許文献2に係る従来例のように、射出成形法を利用して、金型のキャビティ内に、該金型内の流路であるノズルを通じて未加硫ゴムを射出することで、ビードフィラーを有するビード部材を成形する方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、ビードフィラー用の未加硫ゴムは粘度が高く、射出温度領域(100〜150℃)における、ノズルの内壁(金属)との密着力が大きくなる。従って、金型のキャビティ内にノズルを通じて未加硫ゴムを射出する際には、射出圧力を高く設定することが必要である。これにより、ノズルの内壁に対するゴム密着と相まって、ノズル内の未加硫ゴムの流れが乱流となるため、該ノズル内の通過抵抗が大きくなり、射出時間が長くなる傾向がある。
【0008】
次に、ビードフィラー用の未加硫ゴムは、上記のように粘度が高く、加硫に要する時間が短い。従って、射出時間が長くなると、金型の流路内での未加硫ゴムの滞留時間も長くなり、該未加硫ゴムは上記のように高温に加熱されていることから、キャビティ内への未加硫ゴムの射出が完了する前に、該未加硫ゴムの加硫が進行する、所謂ゴム焦げが発生してしまう。
【0009】
本発明は、上記事実を考慮して、タイヤ用ビード部材を製造する際における未加硫ゴムの射出時間を短縮して、ゴム焦げを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明(タイヤ用ビード部材の製造装置)は、環状のビードコアが配置される第1成形型と、該第1成形型に重ねた際に、前記ビードコアの径方向外側において該第1成形型との間にビードフィラー用のキャビティを形成するように構成され、該キャビティ内に前記ビードフィラー用の未加硫ゴムを射出可能なように該キャビティに開口すると共に流路方向に沿って延びる溝が内壁面に形成されたノズルが設けられた第2成形型と、を有している。
【0011】
請求項1に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置では、第2成形型に設けられ該第2成形型と第1成形型と間のキャビティに開口するノズルの内壁面に、流路方向に沿って延びる溝が形成されており、該溝における未加硫ゴムの通過抵抗は、ノズル中央部(非溝部)よりも小さくなる。これにより、ノズル内における通過抵抗の原因である乱流の発生が抑制されるので、タイヤ用ビード部材を製造する際に、所定量の未加硫ゴムをキャビティ内に射出するのに要する時間(射出時間)を短縮することができる。またこれによって、キャビティ内への未加硫ゴムの射出が完了する前に、該未加硫ゴムの加硫が進行すること(ゴム焦げ)を抑制することができる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置において、前記溝は、前記内壁面の全周に設けられている。
【0013】
請求項2に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置では、ノズルの内壁面の溝が、該内壁面の全周に設けられているので、ノズル内における乱流の発生をより抑制することができる。このため、未加硫ゴムの射出時間をより短縮して、ゴム焦げをより一層抑制することができる。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置において、前記溝は、前記ノズルの径方向断面において、V字形又は円弧形である。
【0015】
請求項3に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置では、ノズルの内壁面の溝が、該ノズルの径方向断面において、V字形又は円弧形であるので、ノズル内における未加硫ゴムの通過抵抗を減少させて、射出時間を短縮することができる。
【0016】
請求項4の発明(タイヤ用ビード部材の製造方法)は、タイヤ用ビード部材の製造方法において、環状のビードコアを配置した第1成形型に第2成形型を重ねて、前記ビードコアの径方向外側において前記第1成形型と前記第2成形型との間にビードフィラー用のキャビティを形成する工程と、前記第2成形型に形成され流路方向に沿って延びる溝が内壁面に形成されたノズルを通じて、前記キャビティ内に前記ビードフィラー用の未加硫ゴムを射出する工程と、を有している。
【0017】
請求項4に記載のタイヤ用ビード部材の製造方法では、流路方向に沿って延びる溝が内壁面に形成されたノズルを通じて、キャビティ内にビードフィラー用の未加硫ゴムを射出するので、該射出に要する時間を短縮して、ゴム焦げを抑制することができ、更にビードフィラー内への空気の混入を抑制することができる。
【0018】
請求項5の発明(タイヤ用ビード部材)は、請求項4に記載のタイヤ用ビード部材の製造方法を用いて製造され、環状の前記ビードコアの外周に、環状の前記ビードフィラーが接着されている。
【0019】
請求項5に記載のタイヤ用ビード部材では、請求項4に記載のタイヤ用ビード部材の製造方法を用いて製造され、環状のビードコアの外周に、環状のビードフィラーが接着されているので、該ビードフィラーには継目や段差がなく、かつ該ビードフィラー内への空気の混入もない。このため、このタイヤ用ビード部材を用いてタイヤを製造することで、タイヤバランスやユニフォーミティーに優れた高品質のタイヤを得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置によれば、タイヤ用ビード部材を製造する際における未加硫ゴムの射出時間を短縮して、ゴム焦げを抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0021】
請求項2に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置によれば、未加硫ゴムの射出時間をより短縮して、ゴム焦げをより一層抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0022】
請求項3に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置によれば、ノズル内における未加硫ゴムの通過抵抗を減少させて、射出時間を短縮することができる、という優れた効果が得られる。
【0023】
請求項4に記載のタイヤ用ビード部材の製造方法によれば、キャビティ内への未加硫ゴムの射出に要する時間を短縮して、ゴム焦げを抑制することができ、更にビードフィラー内への空気の混入を抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0024】
請求項5に記載のタイヤ用ビード部材によれば、タイヤバランスやユニフォーミティーに優れた高品質のタイヤを得ることができる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】タイヤ用ビード部材の製造装置を示す断面図である。
【図2】(A)ノズルの断面形状を示す、図1における2A−2A矢視拡大断面図である。(B)ノズル内における未加硫ゴムの流速分布を示す拡大断面図である。
【図3】(A)ノズルの断面形状を示す、図1における3A−3A矢視拡大断面図である。(B)ノズル内における未加硫ゴムの流速分布を示す拡大断面図である。
【図4】タイヤ用ビード部材を示す斜視図である。
【図5】タイヤ用ビード部材を示す、図4における5−5矢視拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。図1において、本実施の形態に係るタイヤ用ビード部材の製造装置10は、第1成形型11と、第2成形型12とを有している。
【0027】
第1成形型11は、環状のビードコア14が配置される型であり、該ビードコア14の載置面11Aには、例えばビードコア14の位置決め部(図示せず)が設けられている。なおビードコア14の位置決め部は、例えば該ビードコア14の内径に対応して配置された複数の凸部として構成されている。
【0028】
第2成形型12は、第1成形型11に重ねた際に、ビードコア14の径方向外側において該第1成形型11との間にビードフィラー16(図4,図5)用のキャビティ18を形成するように構成されている。具体的には、第2成形型12のうち第1成形型11の載置面11Aに対向する側には、型閉じ状態において該載置面11Aに当接する一般面12Aが設けられ、該一般面12Aの例えば中央部には、ビードコア14の幅に対応する深さ及びビードフィラー16の外径に対応する直径を有する凹部12Bが形成されている。
【0029】
この凹部12Bは、一般面12Aと例えば平行に形成され、第1成形型11の載置面11Aとの間にビードコア14を保持可能な底面12Cと、該ビードコア14の径方向外側において一般面12Aに向けて傾斜し、第1成形型11の載置面11A及びビードコア14との間にキャビティ18を形成する傾斜面12Dとを有している。これにより、型閉じ時において、キャビティ18の形状は、タイヤ軸方向断面において、例えば略三角形となる。
【0030】
また第2成形型12には、キャビティ18内にビードフィラー16用の未加硫ゴム20(図2(B),図3(B),図4,図5)を射出可能なように該キャビティ18に開口すると共に流路方向に沿って延びる溝24が内壁面に形成されたノズル26が設けられている。このノズル26は、第2成形型12内に一体成形されており、ビードコア14の周方向に複数形成されている。またノズル26は、第2成形型12の例えば上面12Uに設けられた供給口12Eからキャビティ18に至る、未加硫ゴム20用の流路22の出口部に夫々形成されている。
【0031】
溝24は、ノズル26の内壁面の全周に例えば均等に配列して設けられており、該ノズル26内の流路方向に沿って延び、該ノズル26の径方向断面において、例えばV字形(図2(A))又は円弧形(図3(A))に形成されている。図2(A),図3(A)における溝24の寸法例は、表1に示すとおりである。
【0032】
【表1】

【0033】
なお、ノズル26の内壁面における溝24の配置は、図示の例に限られるものではなく、該溝24がノズル26の内壁面の周方向に断続的に設けられていてもよい。
【0034】
そして本実施形態に係るタイヤ用ビード部材の製造方法は、環状のビードコア14を配置した第1成形型11に第2成形型12を重ねて、ビードコア14の径方向外側において第1成形型11と第2成形型12との間にビードフィラー16用のキャビティ18を形成する工程と、第2成形型12に形成され流路方向に沿って延びる溝24が内壁面に形成されたノズル26を通じて、キャビティ18内にビードフィラー16用の未加硫ゴム20を射出する工程と、を有している。
【0035】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図1において、本実施形態に係るタイヤ用ビード部材の製造装置10では、第1成形型11の載置面11Aの所定位置にビードコア14を載置し、第2成形型12を第1成形型11に重ねる。具体的には、第2成形型12の一般面12Aを第1成形型11の載置面11Aに対向状態で当接させることで型閉めを行う。そして第1成形型11及び第2成形型12を例えば100〜150℃に加熱した状態で、第2成形型12の上面12Uに設けられた供給口12Eから流路22内に矢印A方向に未加硫ゴム20を供給する。この未加硫ゴム20を、ノズル26からキャビティ18内に射出してキャビティ18内に充填することで、ビードコア14の外周に環状のビードフィラー16が接着されたタイヤ用ビード部材28を得ることができる。
【0036】
このとき、図2,図3に示されるように、ノズル26の内壁面に、流路方向に沿って延びる溝24が形成されているので、該溝24における未加硫ゴム20の通過抵抗は、ノズル中央部25(非溝部)よりも小さくなる。換言すれば、溝24での未加硫ゴム20の流速S1が、ノズル中央部25での未加硫ゴム20の流速S2よりも大きくなる。
【0037】
これにより、ノズル26内における通過抵抗の原因である乱流の発生が抑制されるので、タイヤ用ビード部材28を製造する際に、所定量の未加硫ゴム20をキャビティ18内に射出するのに要する時間(射出時間)を短縮することができる。またこれによって、キャビティ18内への未加硫ゴム20の射出が完了する前に、該未加硫ゴム20の加硫が進行すること(ゴム焦げ)を抑制することができ、かつビードフィラー16内への空気の混入を抑制することができる。
【0038】
更に、ノズル26の内壁面の溝24が、該内壁面の全周に設けられており、かつノズル26の内壁面の溝24が、該ノズル26の径方向断面において、V字形(図2(A))又は円弧形(図3(A))であるので、ノズル26内における乱流の発生をより抑制することができる。このため、未加硫ゴム20の射出時間をより短縮して、ゴム焦げをより一層抑制することができる。
【0039】
(試験例)
従来の溝なしノズルと、本実施形態に係るノズルとを用いて、実際に射出試験を行ったところ、ノズルを通じて220ccの未加硫ゴムを射出完了するのに要する時間は、従来の92秒から26秒と劇的に減少した。また射出時間が短縮されたため、ビードフィラーにおけるゴム焦げの発生率が、従来の81%から0%に減少した。更に、ノズル内の未加硫ゴムの流れが改善されたことで、ビードフィラー内への空気の混入の発生率が、従来の81%から0%に減少した。
【0040】
(タイヤ用ビード部材)
図4,図5において、タイヤ用ビード部材28は、上記したタイヤ用ビード部材の製造方法及びタイヤ用ビード部材の製造装置10を用いて製造されており、環状のビードフィラー16を半加硫状態とすることで、環状のビードコア14の外周に、該環状のビードフィラー16が接着されている。従って、ビードフィラー16には継目や段差がなく、かつ未加硫ゴム20の射出時間が短縮されているため該ビードフィラー16内への空気の混入もない。このため、このタイヤ用ビード部材28を用いてタイヤ(図示せず)を製造することで、タイヤバランスやユニフォーミティーに優れた高品質のタイヤを得ることができる。なお、半加硫状態とは、未加硫の状態よりは加硫度が高いが、最終製品として必要とされる加硫度には至っていない状態をいう。
【符号の説明】
【0041】
10 タイヤ用ビード部材の製造装置
11 第1成形型
12 第2成形型
14 ビードコア
16 ビードフィラー
18 キャビティ
20 未加硫ゴム
24 溝
26 ノズル
28 タイヤ用ビード部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のビードコアが配置される第1成形型と、
該第1成形型に重ねた際に、前記ビードコアの径方向外側において該第1成形型との間にビードフィラー用のキャビティを形成するように構成され、該キャビティ内に前記ビードフィラー用の未加硫ゴムを射出可能なように該キャビティに開口すると共に流路方向に沿って延びる溝が内壁面に形成されたノズルが設けられた第2成形型と、
を有するタイヤ用ビード部材の製造装置。
【請求項2】
前記溝は、前記内壁面の全周に設けられている請求項1に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置。
【請求項3】
前記溝は、前記ノズルの径方向断面において、V字形又は円弧形である請求項1又は請求項2に記載のタイヤ用ビード部材の製造装置。
【請求項4】
環状のビードコアを配置した第1成形型に第2成形型を重ねて、前記ビードコアの径方向外側において前記第1成形型と前記第2成形型との間にビードフィラー用のキャビティを形成する工程と、
前記第2成形型に形成され流路方向に沿って延びる溝が内壁面に形成されたノズルを通じて、前記キャビティ内に前記ビードフィラー用の未加硫ゴムを射出する工程と、
を有するタイヤ用ビード部材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のタイヤ用ビード部材の製造方法を用いて製造され、環状の前記ビードコアの外周に、環状の前記ビードフィラーが接着されたタイヤ用ビード部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−126194(P2011−126194A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288098(P2009−288098)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】