説明

タービンローターの製造方法

【課題】コストを低減できるとともに、振動特性の悪化を防止できるタービンローターの製造方法を提供する。
【解決手段】電子銃10を用いて嵌合部21を溶接するタービンローターの製造方法であって、嵌合部21を一回転させる中で、嵌合部21の位相に対応する電子ビーム12を電子銃10より嵌合部21に複数回照射して、タービンシャフトの周方向において等間隔に配置されるとともに、複数の溶融部を嵌合部21に形成する溶融部形成工程と、溶融部形成工程の後に、溶融部形成工程で形成される溶融部の幅と同じ幅、あるいは溶融部の幅よりも小さい幅だけ嵌合部21を回転させる回転工程と、を含み、溶融部形成工程および回転工程は、複数の溶融部が嵌合部21の全周にわたって連続して形成されるまで繰り返される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービンホイールおよびタービンシャフトを溶接によって接合するタービンローターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タービンホイールとタービンシャフトとを溶接することで接合するタービンローターの技術は公知となっている。
図12に示すように、タービンローター120は、タービンハウジング191、センタハウジング192、およびコンプレッサーハウジング193内に回転可能に収納される。タービンローター120は、エンジンの排気ガスが流入することでタービンホイール130が高速で回転し、当該回転に伴ってコンプレッサーホイール190も高速で回転する。これにより、圧縮される空気をエンジンに供給する。このようなタービンローター120は高精度に製造する必要がある。
【0003】
例えば、タービンホイール130とタービンシャフト140との嵌合部121(図13参照)をタービンシャフト140の周方向に沿って溶接すると、最初に溶接された部分より順番に凝固収縮して歪みが発生する。つまり、タービンシャフト140の軸方向に収縮してタービンローター120の軸方向の寸法が合わなくなる、あるいは、タービンローター120が傾いてタービンローター120の精度が低下してしまう。このため、溶接した後でタービンホイール130を削る等、別途精度を向上させる工程を行う必要があった。つまり、タービンローター120の製造コストが上がるという問題があった。
【0004】
上記のような問題を解消するタービンローターの製造方法として、以下に示す特許文献1、および特許文献2のような技術が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示される技術は、タービンホイールとタービンシャフトとを複数の電子銃によって溶接する技術である。
図13に示すように、複数の電子銃110・110は、タービンシャフト140の軸心に対して対称な位置に配置される。そして、タービンホイール130とタービンシャフト140とを嵌合させた状態で回転させながら、当該嵌合部121に向けて複数の電子銃110・110より同時に電子ビーム112・112を照射する。
【0006】
これによれば、嵌合部121は、タービンシャフト140の軸心を中心に点対称となる位置より順に凝固収縮が開始される。つまり、凝固収縮する部分をタービンシャフト140の軸心に対してつり合わせることができる。このため、凝固収縮によって発生するタービンシャフト140の軸方向の寸法収縮を抑制できる。
しかし、特許文献1に開示される技術では、高価な部材である電子銃110・110を複数用いるため、タービンローター120の製造コストが上がってしまうという点で不利であった。
【0007】
また、特許文献2に開示される技術は、タービンホイールとタービンシャフトとが当接する部分に軸方向当接部を形成し、タービンホイールとタービンシャフトとを電子銃を用いて溶接する技術である。
図14(a)に示すように、タービンホイール130の開口部131は、その径方向内側に向かって縮径する段差部132が形成され、タービンシャフト140の軸方向に沿って大きく開口する。タービンシャフト140の一端部は、タービンホイール130の開口部131に沿った形状に形成される。タービンシャフト140の一端部は、タービンホイール130の開口部131に圧入される。タービンシャフト140の一端部とタービンホイール130の段差部132とが当接する部分は軸方向当接部123として形成される。また、タービンホイール130の開口部131側の端部とタービンホイール130とが嵌合する部分は、嵌合部121として形成される。
そして、軸方向当接部123が溶融しないように電子銃110でタービンホイール130とタービンシャフト140とを溶接する。
【0008】
これによれば、タービンホイール130とタービンシャフト140とを溶接するときに、軸方向当接部123がタービンホイール130とタービンシャフト140とを支持した状態となる。つまり、溶接時に発生するタービンローター120の傾きを抑制できる。
しかし、特許文献2に開示される技術では、軸方向当接部123を形成する分だけ、軸方向当接部123を形成しない場合に比べてタービンローター120の軸長が長くなってしまう(図14(b)に示す矢印L参照)。このため、固有振動数が低下して使用回転域がその影響を受ける。つまり、振動特性が悪化する(ターボ性能が悪化する)という点で不利であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−254627号公報
【特許文献2】特開2002−235547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、コストを低減できるとともに、振動特性の悪化を防止できるタービンローターの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1においては、タービンホイールおよびタービンシャフトを嵌合させることで嵌合部を形成し、溶接手段を用いて前記嵌合部を溶接するタービンローターの製造方法であって、前記嵌合部を前記溶接手段に対して一回転させる中で、前記嵌合部の位相に対応するパルスビームを前記溶接手段より前記嵌合部に複数回照射して、前記タービンシャフトの周方向において等間隔に配置されるとともに、複数の溶融部を前記嵌合部に形成する溶融部形成工程と、前記溶融部形成工程の後に、溶融部形成工程で形成される溶融部の幅と同じ幅、あるいは溶融部の幅よりも小さい幅だけ前記嵌合部を前記溶接手段に対して回転させる回転工程と、を含み、前記溶融部形成工程および回転工程は、前記複数の溶融部が前記嵌合部の全周にわたって連続して形成されるまで繰り返される、ものである。
【0012】
請求項2においては、前記複数の溶融部が前記嵌合部の全周にわたって連続して形成された後で、最後に行われた前記溶融部形成工程で形成される複数の溶融部に対応する複数の後熱部を形成する後熱部形成工程をさらに含む、ものである。
【0013】
請求項3においては、前記溶融部形成工程を少なくとも一回行って、前記複数の溶融部が形成されていない部分である非溶融部が前記嵌合部に残っている状態で、前記複数の溶融部を凝固収縮させる凝固収縮工程をさらに含み、前記嵌合部は、前記タービンホイールにタービンシャフトを圧入することで形成し、前記溶融部形成工程および回転工程は、前記凝固収縮工程を行った後で、前記複数の溶融部が前記嵌合部の全周にわたって連続して形成されるまで繰り返される、ものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、複数の電子銃を用いることなくタービンホイールとタービンシャフトとを接合できるためコストを低減できるとともに、タービンローターの軸長を長くすることなく高精度にタービンホイールとタービンシャフトとを接合できるため振動特性の悪化を防止できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一実施形態に係るタービンローター製造装置の全体的な構成を示す図。
【図2】嵌合部を一回転させる中で電子ビームを照射する状態を示す説明図。(a)時点Aにおける状態を示す図。(b)時点Bにおける状態を示す図。(c)時点Cにおける状態を示す図。(d)時点Dにおける状態を示す図。(e)時点Eにおける状態を示す図。(f)時点Fにおける状態を示す図。
【図3】嵌合部を一回転させた後で、溶融部の幅と同じ幅だけ回転させて電子ビームを照射するサイクルタイムを示す図。
【図4】溶融部を順番に形成する状態を示す説明図。(a)時点Gにおける状態を示す図。(b)時点Hにおける状態を示す図。(c)嵌合部の半分まで溶融部を形成する状態を示す図。(d)嵌合部の全周に溶融部を形成する状態を示す図。
【図5】溶融部を示す説明図。(a)一回目の溶融部形成工程で形成された溶融部示す図。(b)二回目の溶融部形成工程で形成された溶融部を示す図。(c)最後に形成された熱影響部に対応する後熱部を示す図。
【図6】溶融部の温度変化と時間の相関を示す図。
【図7】嵌合部を一回転させた後で、溶融部の幅よりも小さい幅だけ回転させて電子ビームを照射するサイクルタイムを示す図。
【図8】溶融部形成工程の別実施形態を示す説明図。(a)嵌合部を一回転させる中で三回電子ビームを照射する状態を示す図。(b)嵌合部を一回転させる中で十回電子ビームを照射する状態を示す図。(c)嵌合部を一回転させる中で四回電子ビームを照射する状態を示す図。
【図9】嵌合部を一回転させる前にさらに電子ビームを照射する状態を示す説明図。
【図10】溶融部が形成される状態を示す説明図。(a)溶融部を形成する状態を示す図。(b)溶融部を凝固させる状態を示す図。(c)嵌合部の全周に溶融部を形成する状態を示す図。
【図11】タービンホイールとタービンシャフトとの間に隙間が形成される場合の嵌合部を示す断面図。
【図12】タービンローターを示す説明図。
【図13】従来の複数の電子銃を用いて嵌合部を溶接する状態を示す説明図。
【図14】従来の嵌合部を示す拡大断面図。(a)軸方向当接部を形成した場合の図。(b)軸方向当接部を形成しない場合の図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、第一実施形態に係るタービンローターの製造方法が用いられてタービンローター20の製造を行うタービンローター製造装置1について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、タービンローター20は、自動車等のターボチャージャー等に取り付けられ、エンジンの排気ガスによって高速で回転する。タービンローター20は、タービンホイール30とタービンシャフト40とを具備する。
【0018】
タービンホイール30には、タービンシャフト40の軸方向に沿って開口する略円状の開口部31が形成される。
【0019】
タービンシャフト40の先端部41は、タービンホイール30の開口部31の内径と略同一の外径となるように形成され、タービンホイール30の開口部31に嵌入される。これにより、タービンホイール30の開口部31およびタービンシャフト40の先端部41は嵌合される。当該嵌合される部分は、嵌合部21として形成される。
また、本実施形態のタービンシャフト40は、焼き入れ鋼によって構成される。
【0020】
タービンローター製造装置1は、電子銃10を具備する。
【0021】
電子銃10は、嵌合部21を溶接することで、タービンホイール30とタービンシャフト40とを接合するものである。電子銃10は、タービンローター20より離れた位置に配置される。電子銃10は、所定の電子ビーム発生源より照射される電子ビーム12を電磁コイル11で収束させることにより、電子ビーム12を嵌合部21に照射する(衝突させる)。
【0022】
電子銃10は、加工部位(溶接部位)への照射のON/OFFとの切替を即座に行って、所定の短い間隔で電子ビーム12を照射可能に構成される。言い換えれば、電子銃10は、パルスビームを照射可能に構成される。具体的には、電子銃10は、例えば、50msecの間だけ電子ビーム12を照射し、その後1000msecの間だけ電子ビーム12の照射を停止することができ、さらにはこの50msecの電子ビーム12の照射および1000msecの電子ビーム12の照射停止を、繰り返し行うことが可能である。
【0023】
また、タービンローター製造装置1は、所定のアクチュエータを具備し、当該アクチュエータを駆動させることにより、一定の回転数でタービンシャフト40を回転可能に構成される。このとき、タービンホイール30は、タービンシャフト40の回転に伴って一体的に回転する。つまり、タービンローター製造装置1は、嵌合部21を電子銃10に対して回転させる。
【0024】
以上の構成を備えるタービンローター製造装置1が用いられて行われる、第一実施形態に係るタービンローターの製造方法について説明する。
【0025】
なお、以下において、電子銃10が電子ビーム12を照射する時間を「時間T1」とし、嵌合部21を電子銃10に対して一回転させる時間を「時間T2」とする。また、時間T1の長さは、時間T2の長さの二十分の一の長さとする。
【0026】
また、図2において、最初に電子ビーム12が照射される位置を「位置21a」とし、タービンシャフトの軸心Pに対して位置21aより反時計回りに90°位相がずれた位置を「位置21b」とし、位置21bから反時計回りに90°位相がずれた位置を「位置21c」とし、位置21cから反時計回りに90°位相がずれた位置を「位置21d」とする。つまり、「位置21b」、「位置21c」、および「位置21d」は、位置21aを基準として、反時計回りに順に90°ずつ位相がずれた位置である。
【0027】
まず、タービンローター製造装置1は、所定のアクチュエータを駆動させて一定の回転数でタービンシャフト40を回転させる。言い換えれば、嵌合部21を電子銃10に対して回転させる。
【0028】
次に、図2および図3に示すように、タービンローター製造装置1は、嵌合部21を電子銃10に対して一回転させる中で、電子銃10からの電子ビーム12の嵌合部21に対する時間T1の間だけの照射を複数回(第一実施形態では二回)行う。嵌合部21において電子ビーム12が照射される部分は溶融し、溶融部51・52が形成される。
【0029】
より詳細には、図3に示す時点Aから時点Bまでにおいて、電子ビーム12を照射して、溶融部51を形成する(図2(a)および図2(b)参照)。つまり、時間T1の間電子ビーム12を照射する。
【0030】
時点Bから時点Dまでにおいて、電子ビーム12の照射を停止する(図2(c)参照)。このとき、嵌合部21が位置21cまで、換言すれば、嵌合部21が時点Aの状態から半回転する。
【0031】
時点Dから時点Eまでにおいて、再び電子ビーム12を照射して、溶融部52を形成する(図2(d)および図2(e)参照)。つまり、時間T1の間電子ビーム12を照射する。
【0032】
時点Eから時点Fまでにおいて、嵌合部21が位置21aまで、換言すれば、嵌合部21が時点Aの状態から一回転するまで電子ビーム12の照射を停止する(図2(f)参照)。
【0033】
このように溶融部51・52は、タービンシャフトの軸心Pを中心に互いに180°位相がずれた状態で配置される。溶融部51・52は、時間T1の間だけ電子ビーム12を照射することで形成されるため、同一の形状に形成される。
【0034】
以下において、嵌合部21を電子銃10に対して一回転させる中で、電子ビーム12を照射する間隔(時点Bから時点Dまで)を「時間T3」とする。第一実施形態の時間T1と時間T3との長さの和は、嵌合部21を電子銃10に対して一回転させる時間である時間T2の二分の一の長さとなる。
【0035】
溶融部51・52を形成した後で、図3に示すように、タービンローター製造装置1は、電子ビーム12の照射を停止した状態で所定の時間だけ嵌合部21を回転させる。すなわち、時点Fから時点Gまでにおいて、電子ビーム12の照射を停止する。
以下において、嵌合部21を電子銃10に対して一回転させた後で電子ビーム12の照射を停止する時間(時点Fから時点Gまでの時間)を「時間T4」とする。また、時間T4は、時間T1と同じ長さとする。
この場合、タービンローター製造装置1は、嵌合部21が前回一回転した際に形成された溶融部51の幅だけ嵌合部21を電子銃10に対して回転させることとなる。
【0036】
ここで、溶融部51の幅とは、タービンシャフト40の周方向における溶融部51の長さである。つまり、溶接部51の幅は、電子ビーム12を照射する時間である時間T1に対応する。
【0037】
そして、時点Gから時点Hまでにおいて、電子ビーム12を照射して、溶融部53を形成する(図4(a)および図4(b)参照)。
溶融部53は、溶融部51に対して連続して形成される。つまり、溶融部51と溶融部53とは繋げられる。
【0038】
ここで、図5(a)に示すように、溶融部51は非常に高温であるため、溶融部51の周囲には熱影響部51aが生じ、溶融部51に対応する熱影響部51aの硬度は高くなる。このため、置き割れ(熱影響部51aにひびが入る等)が発生する可能性が生じる。従って、置き割れの発生を防止するために、熱影響部51aに熱を与える後熱(焼きなまし)工程を溶接後に別途行う必要がある。
【0039】
図5(b)に示すように、溶融部53も溶融部51と同様に高温であるため、溶融部53の熱によって溶融部51の熱影響部51aは高温で保持される。以下において、このような熱影響部51aを高温で保持する部分を「後熱部51b」とする。
これによれば、後熱工程が行われたときと同様に、溶融部51の熱影響部51aの硬度を低くできる。つまり、溶融部51の熱影響部51aにおいて置き割れが発生することを防止できる。
【0040】
タービンローター製造装置1は、前述したような加工部位への照射のON/OFFを繰り返すことにより、図4(c)および図4(d)に示すように、嵌合部21が一回転するごとに、一回の電子ビーム12の照射で形成される溶融部の幅だけ位相をずらしながら、溶融部を繋いでいく。第一実施形態では、嵌合部21を十回回転させることで溶融部51〜70が嵌合部21の全周にわたって繋げられる。
このように、電子銃10は、最初に形成される溶融部51から最後に形成される溶融部70までが繋がるような電子ビーム12を照射する。つまり、電子ビーム12は、嵌合部21の位相に対応するパルスビームとなる。
【0041】
ここで、溶融部51〜68は、溶融部53〜70を形成することで繋げられる。つまり、熱影響部51a〜68aは、溶融部53〜70の熱によって高温で保持されるため、置き割れが発生することを防止できる。
【0042】
図5(c)に示すように、溶融部51〜70を嵌合部21の全周に形成した後で、タービンローター製造装置1は、最後の回転で形成される溶融部69・70の熱影響部69a・70aに対応する後熱部69b・70bを形成する。
【0043】
より詳細には、電子銃10の設定を変更し、溶融部70と同じ位置に出力を絞った(フォーカスをずらした)電子ビーム12を照射する。これにより、熱影響部70aに熱を与えることができるため、溶融部70の熱影響部70aに対応する後熱部70bを形成できる。また、溶融部69に対しても同様に後熱部69bを形成する。
【0044】
これにより、最後の回転で形成される溶融部69・70の熱影響部69a・70aを高温で保持することができるため、溶融部69・70において、置き割れの発生を防止できる。つまり、タービンローター20において、置き割れの発生を防止できる。
これにより、タービンローター20は、溶接後に別途後熱工程を行うことなく置き割れの発生を防止できるため、製造工程を短縮できる。従って、タービンローター20の製造コストを低減できるとともに、タービンローター20の製造に要する時間を短縮できる。
【0045】
このように、タービンローターの製造方法では、溶融部51〜70が嵌合部21の全周にわたって形成されるまで電子ビーム12を嵌合部21に複数回照射する工程と時間T1の間だけ嵌合部21を電子銃10に対して回転させる工程とを繰り返す。
これによれば、最初に形成される溶融部である溶融部51、時間T3後に形成される溶融部52の順に凝固収縮が開始される。また、溶融部51と溶融部52とは、前述のように、タービンシャフトの軸心Pを中心に互いに対称な位置に配置される。つまり、溶融部51と溶融部52とは、タービンシャフト40の周方向において等間隔に配置される。
【0046】
従って、溶融部51・52が凝固収縮する時間に対して、溶融部51が形成されてから溶融部52が形成されるまでの時間である時間T3を短くすることで、嵌合部21を一回転させる間に形成される溶融部51と溶融部52とはほぼ同時に凝固収縮を開始する。第一実施形態では、少なくとも、溶融部52は、最初に形成された溶融部51が凝固を開始するまでに形成される。
例えば、嵌合部21を溶接したときに、溶融部51が図6に示すグラフG1のように温度が変化する場合、溶融部51と溶融部52とが形成される時間差(時間T3)を短くすることで、溶融部52の温度変化のグラフであるグラフG2がグラフG1に近接する。
【0047】
これにより、凝固収縮による引っ張りをタービンシャフトの軸心Pを中心につり合わせることができるため、タービンシャフト40の軸方向の寸法収縮を抑制できる。
つまり、嵌合部21を溶接するときに発生するタービンシャフト40の軸方向の寸法収縮を抑制できる。
【0048】
また、第一実施形態のタービンローター製造装置1は、一つの電子銃10を用いてタービンホイール30およびタービンシャフト40を接合する構成である。このため、従来技術にあるような複数の電子銃を用いることがないため、タービンローター20の製造コストを低減できる(図13参照)。
【0049】
特に、タービンシャフト40を高速回転させて、嵌合部21を非常に速い速度で回転させた場合、溶融部51と溶融部52とが形成される時間差(時間T3)がさらに短くなり、グラフG1とグラフG2とは重なる。
つまり、溶融部51・52が凝固収縮する時間に対して溶融部51と溶融部52とが形成される時間差(時間T3)が非常に小さくなる。このため、タービンシャフト40の軸方向の寸法収縮をさらに抑制できる。
【0050】
なお、嵌合部21を電子銃10に対して一回転させた後で電子ビーム12の照射を停止する時間T4の長さは、電子ビーム12を照射する時間T1以下であればよい。以下では、時間T1よりも時間T4が短い場合(すなわち時間T1>時間T4の場合)について説明する。なお、説明の便宜上、時間T4は、時間T1の半分の長さとする。
【0051】
図7に示すように、嵌合部21が電子銃10に対して一回転する間に時間T1の間だけ電子ビーム12が嵌合部21に二回照射されて、溶融部51・52が形成される。そして、嵌合部21が電子銃10に対して一回転した後で時間T4だけさらに回転させて、電子ビーム12を時間T1の間照射して溶融部53を形成する。
【0052】
この場合、溶融部53の一部は、嵌合部21が溶融部51の幅よりも短い幅だけ回転することとなるため、溶融部51の一部と重なった状態となる、つまり、溶融部51・53がオーバーラップする。
溶融部53を形成した後で、時間T3だけ嵌合部21を電子銃10に対して回転させ、時間T1の間電子ビーム12を照射することで、溶融部54を形成する。この場合溶融部52・54がオーバーラップする。
【0053】
タービンローター製造装置1は、このような加工部位への照射のON/OFFを繰り返して、嵌合部21の全周にわたって連続する溶融部を形成する。
このように時間T1よりも時間T4が短い場合には、個々の溶融部がオーバーラップする。
これによれば、時間T4の長さが時間T1の長さと同じ場合と比較して、より確実に溶融部を繋げることができる。
【0054】
このように、時間T1の間だけ電子銃10より電子ビーム12を嵌合部21に複数回照射する工程は、嵌合部21を電子銃10に対して一回転させる中で、嵌合部21の位相に対応する電子ビーム12を電子銃10より嵌合部21に複数回照射して、タービンシャフトの周方向において等間隔に配置されるとともに、複数の溶融部51〜70を嵌合部21に形成する溶融部形成工程として機能する。
【0055】
また、電子ビーム12の照射を停止した状態で時間T1の間だけ嵌合部21を電子銃10に対して回転させる工程は、溶融部形成工程の後に、溶融部形成工程で形成される溶融部51〜68の幅(タービンシャフト40の周方向における溶融部51〜68の長さ)と同じ幅、あるいは溶融部51〜68の幅よりも小さい幅だけ嵌合部21を電子銃10に対して回転させる回転工程として機能する。
【0056】
また、後熱部69b・70bを形成する工程は、複数の溶融部51〜70が嵌合部21の全周にわたって連続して形成された後で、最後に行われた溶融部形成工程で形成される複数の溶融部69・70に対応する複数の後熱部69b・70bを形成する後熱部形成工程として機能する。
【0057】
なお、本実施形態のタービンローターの製造方法は、嵌合部21を電子銃10に対して一回転させる間に二回電子ビーム12を照射して、溶融部51〜70を形成したが、これに限定されるものでない。すなわち、嵌合部21を一回転させる間に三回以上電子ビーム12を照射して溶融部を形成しても構わない。
【0058】
例えば、図8(a)に示すように、嵌合部21を電子銃10に対して一回転する間に三回電子ビーム12を照射する場合、溶融部51・52・53は、タービンシャフトの軸心Pを中心に120°位相がずれた状態で配置される。
これによれば、同時に凝固収縮が始まる溶融部が三つになるため、例えば、三つの溶融部51・52・53のうち一つの溶融部51だけが早く凝固収縮しても、タービンシャフト40の軸方向の寸法収縮を他の二つの溶融部52・53で抑制できる。つまり、三つの溶融部の凝固収縮差に対してロバスト性を向上できる。特に、嵌合部21を一回転させる間に五回電子ビーム12を照射するような星型にした場合、さらに安定するため、ロバスト性を向上できる。
このように、嵌合部21が一回転する間に溶融部を三箇所以上形成する場合には、各溶融部が凝固収縮するときに、タービンシャフトの軸心Pに対してつり合わせることができれば、各溶融部の形状を同一の形状にする必要はない。
【0059】
また、図8(b)に示すように、嵌合部21を一回転させる間に電子ビーム12を十回照射して溶融部51〜60を形成し、次の一回転で嵌合部21の全周にわたって溶融部を形成しても構わない。この場合、嵌合部21を二回転させることで溶融部が嵌合部21の全周にわたって形成される。
【0060】
そして、図8(c)に示すように、嵌合部21に対してより短い間隔(図8(c)においては六十分の一)の溶融部を形成し、当該溶融部を嵌合部21の全周にわたって繋げても構わない。
【0061】
また、嵌合部21が一回転する間に形成されない各溶融部の形状、例えば、互いに隣接する溶融部の形状は、前述のように凝固収縮するときにタービンシャフトの軸心Pに対してつり合わせることができれば、同一の形状である必要はない。つまり、電子ビーム12を照射する時間T1は、嵌合部21が一回転する毎に変更しても構わない。
【0062】
また、嵌合部21が凝固収縮を開始する時間は、溶接の深さおよびタービンシャフト40の材料等によって変動する。このため、電子ビーム12を照射する間隔である時間T3は、当該変動する時間に応じて適宜設定することが好ましい。
【0063】
また、第一実施形態のタービンローターの製造方法では、嵌合部21を一回転させた後で、時間T4の間だけさらに回転させて電子ビーム12を照射したが、これに限定されるものでない。すなわち、図9に示すように、嵌合部21を一回転させる前に電子ビーム12を照射しても構わない。
より詳細には、嵌合部21を一回転させる時間である時間T2より、電子ビーム12を照射する時間である時間T1だけ早い時間(あるいは時間T1よりも短い時間だけ早い時間)が経過した後で、電子ビーム12を時間T1だけ照射する。これにより、最初に形成される溶融部51の回転方向前側に次の溶融部53形成される。
これによれば、電子ビーム12を照射する時間T1だけ早めて、溶融部を形成できる。このため、より早い時間でタービンローター20を製造できる。
【0064】
また、嵌合部21を一回転させる中で、電子ビーム12を最後に照射した後で、嵌合部21の回転数を変更して、溶融部の幅と同じ幅(あるいは溶融部の幅よりも小さい幅だけ)嵌合部21の電子銃10に対する位相をずらしても構わない。この場合、電子銃10は、一定の間隔で電子ビーム12を照射して、嵌合部21の全周にわたって溶融部を形成できる。
【0065】
次に、第二実施形態に係るタービンローターの製造方法が用いられてタービンローター20の製造が行われるタービンローター製造装置1について、図面を参照して説明する。
なお、第二実施形態のタービンローター製造装置1は、第一実施形態のタービンローター製造装置1と同様に構成されるため、その説明を省略する。
【0066】
また、第二実施形態の時間T1〜時間T3は、第一実施形態の時間T1〜時間T3と同じ時間の長さとする。また、時間T4は、時間T1と同じ長さとする。
【0067】
第二実施形態では、タービンホイール30とタービンシャフト40とがそれぞれ密着するように、タービンシャフト40の先端部41をタービンホイール30の開口部31に圧入する。これにより、嵌合部21が形成される。
【0068】
次に、タービンローター製造装置1が用いられて行われる、第二実施形態に係るタービンローターの製造方法について説明する。
なお、以下において、タービンシャフト40の嵌合部21のうち、溶融部が形成されていない部分を「非溶融部22」とする。
【0069】
図10に示すように、第二実施形態のタービンローター製造装置1は、第一実施形態のタービンローター製造装置1と同様に、嵌合部21を回転させる。そして、時間T1の間電子ビーム12を照射して溶融部51・52を形成する。
【0070】
溶融部51・52を形成した後で、タービンローター製造装置1は、時間T4の間だけ嵌合部21を回転させる。
第二実施形態では、図10(a)に示すように、溶融部を形成する工程を五回繰り返すことにより、溶融部51〜60が、位置21aから位置21bまで形成されるとともに位置21cから位置21dまで形成される。
【0071】
図10(b)に示すように、溶融部51〜60を位置21b・21dまで形成した後で、タービンローター製造装置1は、当該溶融部51〜60が凝固するまで待機する。
つまり、溶融部51〜60は前述したような、タービンシャフトの軸心Pを中心につり合った状態で凝固収縮する。従って、溶融部51〜60は凝固収縮によって発生するタービンシャフト40の軸方向の寸法収縮を抑制できる。
【0072】
このとき、溶融部51〜60は、凝固収縮によってタービンシャフト40の軸がずれる(倒れる)ように引っ張られる。ここで、嵌合部21には、溶融部51〜60が形成されていない部分である非溶融部22が残っている。また、嵌合部21は、圧入されているため、当該非溶融部22が柱となりタービンローター20が傾くことを抑制できる。
つまり、従来技術にあるような軸方向当接部123(図14参照)を別途設けることなくタービンローター20が傾くことを抑制できる。このため、タービンローター20の軸長が長くなることを防止できる。つまり、振動特性が悪化する(ターボ性能が悪化する)ことを防止できる。
【0073】
例えば、図11に示すように、嵌合部21に隙間Sがある場合、嵌合部21に非溶融部22が残っている状態で溶融部51〜60を凝固させたとき、非溶融部22は、溶融部51〜60の凝固収縮によって、隙間Sに向かって傾いてしまう(図11の二点鎖線で示す符号40参照)。
しかし、タービンホイール30にタービンシャフト40を圧入することで嵌合部21を形成することにより、非溶融部22は、溶融部51〜60が凝固するときに柱として機能する。
【0074】
図10(c)に示すように、溶融部51〜60が凝固するまで待機した後で、溶融部59・60に繋げるように溶融部61・62を形成する。
そして、タービンローター製造装置1は、各溶融部51〜62の幅だけ位相をずらしながら、溶融部51〜62に繋げるように溶融部63〜70を形成していく。つまり、溶融部51〜70が嵌合部21の全周にわたって形成されるまで電子ビーム12を嵌合部21に複数回照射する工程と時間T1の間だけ嵌合部21を電子銃10に対して回転させる工程とを繰り返す。
【0075】
なお、第二実施形態のタービンローターの製造方法では、嵌合部21の半周まで溶融部51〜60を繋げた状態で凝固させたが、これに限定されるものでない。すなわち、嵌合部21に溶融部が形成されていない部分である非溶融部22が残っている状態で、当該溶融部を凝固させればよい。
【0076】
このように、溶融部51〜60が凝固するまで待機する工程は、溶融部形成工程を少なくとも一回行って、複数の溶融部51〜60が形成されていない部分である非溶融部22が嵌合部21に残っている状態で、複数の溶融部51〜60を凝固収縮させる凝固収縮工程として機能する。
【0077】
なお、本実施形態のタービンローターの製造方法では、電子銃10を用いて嵌合部21を溶接したが、これに限定されるものでない。すなわち、レーザー溶接装置を用いても構わない。
【0078】
この場合、本実施形態にあるようなパルスビームを照射するために、レーザーシャッターを用いる、あるいは、レーザー発振器のONとOFFとを制御することが考えられる。しかし、このような場合には、高速であるとともに高精度であるレーザーを照射できない場合がある。つまり、パルスビームの照射タイミングがずれることで、溶融部が途切れる場合がある等、タービンローター20の製造精度が低下する場合がある。
【0079】
また、最後の回転で形成される熱影響部69a・70aに対応する後熱部69b・70b(図5(c)参照)を形成するときに、レーザー溶接装置より照射されるレーザー光を集光するレンズを制御(例えば、向きを変える等)する必要がある。このような動作は、非常に短い時間の間で正確に行う必要がある。しかし、このような動作を行う場合においても、高速であるとともに高精度であるレーザーの照射を行うことができない場合がある。つまり、最後の回転で形成される熱影響部69a・70aの硬度が高いままの状態となり、ひいては、熱影響部69a・70aにおいて置き割れが発生する可能性がある。
【0080】
一方、電子銃10を用いた場合には、電子を流すタイミングを変えるだけで、電子ビーム12を照射するタイミングを変えることができる。つまり、高速であるとともに高精度である電子ビーム12を照射できる。
また、電子銃10を用いた場合には、出力を絞るだけで最後の回転で形成される熱影響部69a・70aに対応する後熱部69b・70bを形成できる。従って、電子銃10を用いることにより、熱影響部69a・70aにおいて置き割れが発生することを確実に防止できる。
【0081】
本実施形態の電子銃10は、電磁コイル11を用いて電子ビーム12を照射したが、これに限定されるものでない。すなわち、電子銃10は、電磁コイル11を2セット(偏向コイルおよび収束コイル)用いて、電子ビーム12を収束および偏向する構成としても構わない。この場合、収束コイルだけで照射する電子ビーム12と比較して、電子ビーム12の照射開始から高出力となるため、加工部位への電子ビーム12のON/OFFの使い分けを容易にできる。つまり、より高い効果が得られる。
【0082】
本実施形態のタービンローターの製造方法は、パルスビームを用いて溶接を行う適宜の部材に対して、広く適用可能である。特に、タービンローター20のような高い精度が求められる部材に対して用いることにより、溶接後に精度を向上させる工程等を行うことなく低コストに製造できる。
【符号の説明】
【0083】
1 タービンローター製造装置
10 電子銃(溶接手段)
12 電子ビーム(パルスビーム)
20 タービンローター
21 嵌合部
30 タービンホイール
40 タービンシャフト
51 溶融部
P タービンシャフトの軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンホイールおよびタービンシャフトを嵌合させることで嵌合部を形成し、溶接手段を用いて前記嵌合部を溶接するタービンローターの製造方法であって、
前記嵌合部を前記溶接手段に対して一回転させる中で、前記嵌合部の位相に対応するパルスビームを前記溶接手段より前記嵌合部に複数回照射して、前記タービンシャフトの周方向において等間隔に配置されるとともに、複数の溶融部を前記嵌合部に形成する溶融部形成工程と、
前記溶融部形成工程の後に、溶融部形成工程で形成される溶融部の幅と同じ幅、あるいは溶融部の幅よりも小さい幅だけ前記嵌合部を前記溶接手段に対して回転させる回転工程と、
を含み、
前記溶融部形成工程および回転工程は、
前記複数の溶融部が前記嵌合部の全周にわたって連続して形成されるまで繰り返される、
タービンローターの製造方法。
【請求項2】
前記複数の溶融部が前記嵌合部の全周にわたって連続して形成された後で、最後に行われた前記溶融部形成工程で形成される複数の溶融部に対応する複数の後熱部を形成する後熱部形成工程をさらに含む、
請求項1に記載のタービンローターの製造方法。
【請求項3】
前記溶融部形成工程を少なくとも一回行って、前記複数の溶融部が形成されていない部分である非溶融部が前記嵌合部に残っている状態で、前記複数の溶融部を凝固収縮させる凝固収縮工程をさらに含み、
前記嵌合部は、
前記タービンホイールにタービンシャフトを圧入することで形成し、
前記溶融部形成工程および回転工程は、
前記凝固収縮工程を行った後で、前記複数の溶融部が前記嵌合部の全周にわたって連続して形成されるまで繰り返される、
請求項1または請求項2に記載のタービンローターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−208620(P2011−208620A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79757(P2010−79757)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】