説明

ディーゼルエンジン

【課題】排気ガスの熱でナフテンを芳香族に転化できる反応器を具えたディーゼルエンジン及び予混合圧縮着火(PCCI)式のディーゼルエンジンを提供する。
【解決手段】ディーゼルエンジンに排気ガスの熱を利用してナフテンを芳香族に転化できる反応器(6) を装着することで、廃熱回収、熱効率の向上を図る。また、PCCIエンジンに反応器を装着することで、低負荷などの低温度条件下ではセタン価の高いベース燃料(ナフテン系燃料)を、高負荷条件下ではセタン価の低い改質油(芳香族系燃料)を供給することで、PCCI運転領域を飛躍的に拡大させてCO2 の削減を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮着火エンジン用燃料、例えばナフテンを含有する軽油、A重油、灯油等をベース燃料とし、圧縮により自己着火を行なうエンジンであって、エンジンの排気ガスの熱を利用した脱水素触媒による脱水素反応によって前記ベース燃料をよりセタン価の低い改質燃料に改質する反応器を備えたディーゼルエンジンに係り、圧縮した空気に燃料を噴射して自己着火させる通常のディーゼルエンジンにおける性能向上や、予混合圧縮着火(PCCI,Premixed Charge Compression Ignition)式のディーゼルエンジンにおけるPCCI燃焼領域の拡大による燃費向上やCO2 の排出量抑制に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車から排出される窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)と、これら有害成分の大気中の濃度との間には一定の関係があると考えられる。このため、大気環境改善の観点から、自動車から排出されるこれら有害排出ガス成分の削減が強く求められている。さらに、地球温暖化防止のためには、化石燃料の燃焼で排出されるCO2 の削減が必要であり、自動車からのCO2 排出の削減が求められている。そこで、自動車用エンジンとして利用されているディーゼルエンジンにおいても、有害排出ガス成分と排出CO2 の同時削減が求められており、そのため、ディーゼルエンジンに対しては熱効率向上が求められるとともに、さらに熱効率の向上のために予混合圧縮着火(PCCI,Premixed Charge Compression Ignition)燃焼が注目され、ディーゼルエンジンの一部の運転条件下で採用されつつある(このようなディーゼルエンジンをPCCIエンジンとも呼ぶ)。
【0003】
ディーゼルエンジンでの熱効率向上策(燃費向上及びCO2 削減)としては、排気ガスの熱回収が有効と考えられるが、排気ガス温度は比較的低く、有効な熱回収システムは実用化されていない。
【0004】
一方、CO2 と有害排出ガス成分の同時削減策として注目されているPCCIエンジンでは、燃焼の開始(着火)を燃料の自己着火に依存しているので、燃焼室内の温度が低い冷機時や低負荷条件下では、着火性に優れた(セタン価の高い)燃料が求められている。一方、燃焼室内の温度が高い高負荷条件下では、着火性の良好な燃料は、燃焼室内で多点同時着火による急激な燃焼(ノッキング)を起こすので、NOX や燃焼騒音の急増やエンジンの損傷を起こす事から、着火性の低い(セタン価の低い)燃料が有効である。すなわち、PCCIエンジンにおいては、エンジンの運転条件によって相反する着火性を有する燃料が求められている。このため、PCCI燃焼が可能なディーゼルエンジンでの運転領域は当該燃料の着火性、すなわちセタン価によって限定され、PCCIエンジンの優位性が制限されている。従って、運転条件によって着火性の異なる燃料を供給できれば、より広範囲な運転領域でPCCI燃焼が成立し、CO2 削減に大きく貢献できる。
【0005】
そこで、低温条件下ではセタン価の高い燃料を供給し、高温条件下ではセタン価の低い燃料を供給する方法として、下記特許文献1乃至2に開示されているように、着火性の異なる二種類の燃料を自動車に供給し、運転条件によって使用する燃料を変更するシステムが提案されている。しかしながら、該システムを有する自動車を実用化するためには、二種類の燃料を供給する社会インフラの構築が必要であり、かつ消費者は二種類の燃料を適宜給油する必要があり、実用化に向けた大きな障害になっている。
【特許文献1】特開2001−254660号広報
【特許文献2】特開2005−139945
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ディーゼルエンジンでの熱効率向上策としては、排気ガスの熱を利用して(廃熱回収)燃料を改質し、水素を回収できる装置を自動車に搭載できれば、空気を圧縮した後に燃料を噴射して着火するディーゼルエンジンの熱効率向上に大きく貢献できると考えられる。
【0007】
また、ディーゼルエンジンの中でも、特にPCCIエンジンでは、一種類の燃料を自動車に供給し、自動車で(オンサイトで)燃料を改質して着火性を変化させ、運転条件に適合するように改質前後の燃料を適宜供給できれば、社会インフラの構築や消費者の利便性悪化を来たすことなく、PCCI燃焼領域を大きく拡大でき、CO2 の削減に寄与できると考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、自動車に設置され排気ガスの熱を有効に利用して作動する反応器によって燃料を改質するとともに水素を生成できるディーゼルエンジンを提供することにより、ディーゼルエンジンの性能向上を図るとともに、特にPCCIエンジンにおいては広範囲の運転条件下でPCCI燃焼を成立させうるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究に励んだ結果、圧縮着火エンジン用燃料(例えば軽油、A重油、灯油留分のナフテン系燃料)をベース燃料としてエンジン本体に供給するディーゼルエンジンにおいて、エンジン本体からの排気ガスの熱を利用してベース燃料を脱水素反応で改質する脱水素触媒を充填した反応器を設け、これにベース燃料、例えばナフテンを通過させ、これによってベース燃料よりも低い適切なセタン価を有する改質燃料、例えば芳香族系燃料をオンサイトで製造し、これをエンジンに供給するエンジンシステムが有効であることを見出し、以下に説明する本発明を完成させるに至った。
【0010】
請求項1に記載されたディーゼルエンジンは、供給された燃料を自己着火させて燃焼させるエンジン本体と、前記エンジン本体から排出される排気ガスの熱と脱水素触媒を用いてベース燃料の一部を改質燃料に改質することで水素を生成する反応器とを有し、前記ベース燃料と前記改質燃料を前記エンジン本体に供給して燃焼させることにより駆動されることを特徴としている。
【0011】
請求項2に記載されたディーゼルエンジンは、請求項1記載のディーゼルエンジンにおいて、前記水素を、前記エンジン本体に供給して燃焼させることを特徴としている。
【0012】
請求項3に記載されたディーゼルエンジンは、請求項1記載のディーゼルエンジンにおいて、前記エンジン本体から排出された排気ガスを浄化する排気ガス浄化触媒を備え、前記水素を前記排気ガス浄化触媒に供給して触媒に吸蔵されたNOX を還元させることを特徴としている。
【0013】
請求項4に記載されたディーゼルエンジンは、請求項1記載のディーゼルエンジンにおいて、前記改質燃料を、比較的低セタン価油でも利用できる高負荷運転時にのみ前記エンジン本体に供給し、圧縮した高温な空気に噴射することにより自己着火して燃焼させることを特徴としている。
【0014】
請求項5に記載されたディーゼルエンジンは、請求項1記載のディーゼルエンジンにおいて、相対的に高負荷とされる運転条件下では、改質によって大きくセタン価の低下した前記改質燃料をより多く使用するとともに、相対的に低負荷とされる運転条件下では、前記ベース燃料をより多く使用するように前記ベース燃料と前記改質燃料の供給を制御し、燃料と空気の混合気を圧縮することにより自己着火して燃焼させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明のディーゼルエンジンは、吸熱反応により例えばナフテンを芳香族に転化する脱水素触媒を充填した反応器を具えており、この反応器を排気ガスの熱で作動させるものであるため、排気ガスの熱を有効利用して燃料改質を行ない、水素を生成することができる。従って、特定の蒸留性状を有し、硫黄分、ベースのセタン価(CN)、改質後のCN及び密度が特定の範囲にある燃料油組成物を、これよりも低いセタン価を有する改質燃料に改質してディーゼルエンジンやPCCIエンジンに供給することができ、排気ガスとCO2 の効果的な同時削減を達成することが可能となる。
【0016】
また、本発明のディーゼルエンジンによれば、生成した水素はエンジン本体に供給して燃焼させることにより、熱効率をさらに向上させることができる。
【0017】
また、本発明のディーゼルエンジンが、エンジン本体から排出された排気ガスを浄化する排気ガス浄化触媒を備えている場合、生成した水素を排気ガス浄化触媒に供給してNOX の還元剤として使用することができる。
【0018】
また、本発明のディーゼルエンジンが空気を圧縮した後に燃料を噴射して自己着火させるディーゼルエンジンエンジンである場合には、低温条件下(反応器が作動しない排気ガス温度条件下)では、セタン価の高いベース燃料(例えばナフテン系燃料)をエンジンに供給し、高温条件下ではセタン価の低い改質燃料(例えば芳香族系燃料)をエンジンに供給することにより、廃熱回収、低セタン価燃料の利用、水素の活用を行うことができる。
【0019】
また、本発明のディーゼルエンジンが混合気を圧縮して自己着火させるPCCIエンジンである場合には、低温条件下ではセタン価の高いベース燃料(例えばナフテン系燃料)をエンジンに供給して低負荷限界を拡大し、高温条件下ではセタン価の低い改質燃料(例えば芳香族系燃料)を供給して高負荷限界を拡大すると同時に、廃熱回収と水素の活用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
1.第1実施形態(図1)
以下に、本発明の第1実施形態を図1を参照して詳細に説明する。
本例は、空気を圧縮して高温とし、ここに燃料を噴射して自己着火させるディーゼルエンジンに係り、特に排気ガスの熱と脱水素触媒を用いてベース燃料を改質して水素を生成する反応器を備えたディーゼルエンジンに関するものである。
【0021】
ベース燃料は、市販ディーゼルエンジンの場合と同様に、例えばナフテンを含有する軽油のような圧縮着火エンジン用燃料を使用する。軽油の他、ナフテンを含有するA重油や灯油も適用可能である。本例のディーゼルエンジンでは、ベース燃料と改質燃料を燃焼させることが主目的であり、水素は副燃料としても使用可能な副生産物として位置づけられるため、ベース燃料及び改質燃料が共に圧縮着火エンジン用燃料として用いられるので、改質によるセタン価の低下が過大とならないよう、比較的低濃度のナフテン含有燃料が用いられる。
【0022】
ベース燃料は、ベース燃料タンク(1) から、ポンプ(2) に加圧されて噴射弁(3) からエンジン本体(5) に供給されてディーゼル燃焼を行なう。
【0023】
また、本例のディーゼルエンジンは、ベース燃料を改質して水素を生成する反応器(6) を備えている。反応器(6) の容器内には、吸熱反応である脱水素反応によってベース燃料から水素を引き抜く脱水素触媒が収納されている。この反応器(6) には、ベース燃料タンク(1) からベース燃料を供給するためにポンプ(2) が接続されており、またエンジン本体(5) から排気ガスを排出する排気管が接続されている。これによって、ベース燃料タンクから反応器(6) に供給されたベース燃料は、エンジン本体(5) から排出される排気ガスの熱を有効に利用して脱水素触媒により脱水素反応を起こし、改質燃料に改質され、また副産物として水素が生成される。なお、エンジン本体(5) からの排気ガスは反応器(6) を通して排気ガス浄化触媒(例えばNOX 吸蔵触媒)(10)を経て排出される。
【0024】
排気ガスの温度が反応器(6) が作動する温度以上に高まると、ベース燃料は上述のように反応器(6) を経て改質され、得られた改質燃料は、改質燃料系として設けたタンク(7) 、ポンプ(8) から前記噴射弁(3) を経てエンジン本体(5) に供給される。
【0025】
改質燃料専用の供給系であるタンク(7) 、ポンプ(8) を用い、噴射弁(3) を利用してエンジン本体(5) に必要に応じて改質燃料を供給できる構成をとることにより、セタン価が低い改質燃料を、低いセタン価の燃料でも運転可能な高負荷時のみに特化して精密に制御して供給することが可能となるので、エンジン出力性能が維持される。
【0026】
ベース燃料を反応器(6) で改質し際に得られた水素は、精製することなく図1中実線で示すように吸気管(4) に供給し、エンジン本体(5) で燃焼に利用しても良いし、また図示はしないが水素を貯蔵・供給するシステム、例えば水素専用のタンク及び噴射系を設ければ、水素を必要時に必要量だけ供給することができるので、水素を希薄燃焼条件下でのみ利用することができ、水素を効果的に燃焼させて水素による燃焼効率のさらなる向上を得ることができる。高負荷時にはより多くの空気を供給するために充填効率が高い条件下で燃焼する必要があるため、かかる条件下で水素を供給するとその分だけ空気量が減少して充填効率が低下し、好ましくないが、出力が低い希薄燃焼条件下であれば水素を供給することによって燃焼効率向上の効果が得られるからである。
【0027】
また、ベース燃料を反応器(6) で改質して際に得られた水素は、上述のようにエンジン本体(5) に供給して燃焼効率の向上に役立てる他、又はかかる用途と共に、図1中破線で示すように排気ガス浄化触媒(10)に供給して触媒のNOX の還元剤として利用することもできる。
【0028】
このように、排気ガス浄化触媒として例えばNOX 吸蔵触媒を装着したエンジンでは、NOX の還元や触媒の硫黄被毒回復のために、反応器(6) で生成した水素を使用すれば、燃料(リッチスパイク)の節約を通じて、燃費の向上に寄与できる。
【0029】
なお、ベース燃料中のナフテン含有量が少なく、改質によるセタン価の低下が小さい場合には、得られた改質燃料は、上述のように改質燃料系から噴射弁(3) を介してエンジン本体(5) に供給してもよいが、図1中に破線で示すようにベース燃料タンク(1) に直接戻してもよい。この場合には、改質燃料とベース燃料が混合し、燃料全体としてのセタン価が減少する。また、この場合には、改質燃料系としてのタンク(7) 、ポンプ(8) は不要であり、改質燃料はベース燃料とともにポンプ(2) によって加圧して噴射弁(3) からエンジン本体(5) に供給されて燃焼される。この場合には、高負荷時のみに低いセタン価の改質燃料を供給することはできないので改質によるセタン価の低下が少ない燃料にのみ適用できる。
【0030】
なお、ナフテン系燃料から水素を引き抜く脱水素触媒としては、例えば特開2006−257906に記載されているように、250℃以上に加熱した白金を担持した触媒が利用可能であり、これによってベース燃料から、水素と、脱水素燃料である改質燃料としての芳香族系燃料を得ることができる。反応器(6) 中の脱水素触媒の温度は250℃以上、望ましくは300℃以上が必用であるが、高転化率、すなわち、より多くの芳香族系燃料が必用な運転条件は高負荷条件下であり、その条件下では高い排気ガス温度が得られるので上記脱水素触媒によるベース燃料の脱水素反応は問題なく行なわれる。
【0031】
なお、ベース燃料としては、セタン価が高く、かつ転化後のセタン価低下が比較的小さい事が必要であり、ジメチルデカリン(CN=40、転化後のジメチルナフタレンはCN=18)を10%含有する市販型軽油(CN=57)を用いることができる。また、ナフテン含有量が多い燃料、例えば純度95%以上のジメチルデカリン溶剤を用いると、転化後の芳香族系燃料のセタン価が20以下となり、空気を圧縮して自己着火するディーゼルエンジンには不適当となる。
一方、シクロヘキサンを例とした脱水系反応は下記の通りであり、1モルのシクロヘキサンから1モルのトルエンと、3モルの水素が生成し、熱回収ができる。
7 14→C7 8 +3H2 +△H=205kJ/mol
【0032】
以上説明した第1実施形態のディーゼルエンジンによれば、低温条件下(反応器が作動しない排気ガス温度条件下)では、セタン価の高い例えばナフテン系燃料(ベース燃料)をエンジンに供給し、改質によって得られたセタン価の低い例えば芳香族系燃料(改質燃料)は高温条件下においてのみエンジンに供給することにより、廃熱回収、水素の活用(燃焼効率の向上、排気ガス浄化触媒の還元)を行うことができる。
【0033】
2.第2実施形態(図2)
以下に、本発明の第2実施形態を図2を参照して詳細に説明する。
本例は、混合気を圧縮して自己着火させるディーゼルエンジンに係り、特に排気ガスの熱と脱水素触媒を用いてベース燃料をセタン価の低い燃料に改質するとともに水素を生成する反応器を備え、これらセタン価の異なる2種類の燃料を負荷に応じて適宜に供給制御することで排出ガスの低減と燃費の向上を同時に達成できるPCCIエンジンに関するものである。
【0034】
ベース燃料は、比較的高いセタン価を有し、かつ改質によるセタン価の低下が大きい燃料、例えばエチルシクロヘキサン(CN=40、転化後のCN=8)、ジメチルデカリン(CN=40、転化後のCN=18)等がリッチな燃料を使用する。本例のディーゼルエンジンであるPCCIエンジンでは、セタン価が大きく異なる二種類の燃料を適宜制御して供給・燃焼させる必要があり、ベース燃料としてはナフテンリッチな燃料を用いることが前提となる。
【0035】
低温度条件下では、セタン価の高いベース燃料は、ベース燃料タンク(1) から、ポンプ(2) に加圧されて噴射弁(3) からエンジン本体(5) に供給されて燃焼される。
【0036】
また本例のPCCIエンジンは、ベース燃料をセタン価の低い燃料に改質して水素を生成する反応器(6) を備えている。反応器(6) の容器内には、吸熱反応である脱水素反応によってベース燃料から水素を引き抜く脱水素触媒が収納されている。この反応器(6) には、ベース燃料タンク(1) からベース燃料を供給するためにポンプ(2) が接続されており、またエンジン本体(5) から排気ガスを排出する排気管が接続されている。これによって、ベース燃料タンクから反応器(6) に供給されたベース燃料は、エンジン本体(5) から排出される排気ガスの熱を有効に利用して脱水素触媒により脱水素反応を起こし、セタン価の低い改質燃料に改質され、また副産物として水素が生成される。なお、エンジン本体(5) からの排気ガスは反応器(6) を通して排気ガス浄化触媒(例えばNOX 吸蔵触媒)(10)を経て排出される。
【0037】
高温度条件下では、排気ガスの温度が反応器(6) が作動する温度以上に高まると、ベース燃料は上述のように反応器(6) を経て改質され、得られた改質燃料は、改質燃料系として設けたタンク(7) 、ポンプ(8) 、噴射弁(9) を経てエンジン本体(5) に供給してもよいし、図2中破線で示すようにベース燃料の噴射弁(3) を利用してエンジン本体(5) に供給しても良い。
【0038】
このように、本例のようなPCCIエンジンでは、燃焼の開始(着火)を燃料の自己着火に依存しているので、燃焼室内の温度が低い冷機時や低負荷条件下では、着火性に優れた(セタン価の高い)燃料が必要であり、一方、燃焼室内の温度が高い高負荷条件下では、着火性の良好な燃料は、燃焼室内で多点同時着火による急激な燃焼(ノッキング)を起こすので、NOX や燃焼騒音の急増やエンジンの損傷を起こす事から、着火性の低い(セタン価の低い)燃料が必要となる。そこで、低温条件下ではセタン価の高い燃料を供給し、高温条件下ではセタン価の低い燃料を供給するために、エンジン条件(負荷、速度等)を図示しないセンサ等によって検出し、適当なエンジン条件を境として燃料の種類を切り替え、又はエンジン条件の変化に伴って二種類の燃料の供給比率を適宜に変更していくように、図示しない制御手段による燃料供給制御を行い、より広範囲な運転領域でPCCI燃焼を成立させて、排出ガスの低減と燃費の向上を同時に達成している。
【0039】
ベース燃料を反応器(6) で改質して際に得られた水素は、精製することなく図2中破線で示すように吸気管(4) に供給し、エンジン本体(5) で燃焼に利用しても良いし、また同図中実線で示すようにタンク(11)に貯蔵し、噴射系(12)で吸気管(4) に供給し、エンジン本体(5) で燃焼させてもよい。水素専用のタンク(11)及び噴射系(12)を設けた場合には、水素を希薄燃焼条件下でのみ利用することができ、水素による燃焼効率のさらなる向上が得られる。すなわち、高負荷時にはより多くの空気を供給するために充填効率が高い条件下で燃焼する必要があるため、かかる条件下で水素を供給するとその分だけ空気量が減少して充填効率が低下し、好ましくないが、出力が低い希薄燃焼条件下であれば水素を供給することによって燃焼効率向上の効果が得られるからである。
【0040】
また、ベース燃料を反応器(6) で改質して際に得られた水素は、上述のようにエンジン本体(5) に供給して燃焼効率の向上に役立てる他、又はかかる用途と共に、図1中破線で示すように排気ガス浄化触媒(10)に供給してNOX の還元剤として利用することもできる。
【0041】
このように、排気ガス浄化触媒として例えばNOX 吸蔵触媒を装着したエンジンでは、触媒の還元剤として、反応器(6) で生成した水素を使用すれば、燃料の節約を通じて、燃費の向上に寄与できる。
【0042】
なお、ナフテン系燃料から水素を引き抜く脱水素触媒や、改質に伴う反応の一例は第1実施形態で説明したものと同様であるのでその記述を援用するものとする。
【0043】
以上説明した第2実施形態のディーゼルエンジンであるPCCIエンジンによれば、低温条件下ではセタン価の高い例えばナフテン系燃料(ベース燃料)をエンジンに供給して低負荷限界を拡大し、高温条件下ではセタン価の低い例えば芳香族系燃料(改質燃料)を供給して高負荷限界を拡大すると同時に、廃熱回収と水素の活用(燃焼効率の向上、排気ガス浄化触媒の還元)を図ることができる。
【0044】
このように、本発明のディーゼルエンジンは、吸熱反応により例えばナフテンを芳香族に転化する脱水素触媒を充填した反応器を具えており、この反応器を排気ガスの熱で作動させるものであるため、排気ガスの熱を有効利用して燃料改質を行ない、水素を生成することができる。従って、圧縮着火エンジン用燃料としての特定の蒸留性状を有し、例えばナフテンが豊富な燃料油組成物を、これよりも低いセタン価を有する改質燃料、例えば芳香族系燃料に改質して供給することができるので、ディーゼルエンジンやPCCIエンジンにおいて排気ガスとCO2 の効果的な同時削減を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態の全体構成図である。
【図2】本発明の第2実施形態の全体構成図である。
【符号の説明】
【0046】
(1) …ベース燃料タンク
(2) …ポンプ
(3) …噴射弁
(4) …吸気管
(5) …エンジン本体
(6) …反応器
(7) …改質燃料系のタンク
(8) …改質燃料系のポンプ
(9) …改質燃料系の噴射弁
(10)…排気ガス浄化触媒
(11)…水素供給用のタンク
(12)…水素供給用の噴射系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給された燃料を自己着火させて燃焼させるエンジン本体と、前記エンジン本体から排出される排気ガスの熱と脱水素触媒を用いてベース燃料の一部をベース燃料よりセタン価の低い改質燃料に改質するとともに水素を生成する反応器とを有し、
前記ベース燃料と前記改質燃料を前記エンジン本体に供給して燃焼させることにより駆動されることを特徴とするディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記水素を、前記エンジン本体に供給して燃焼させることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記エンジン本体から排出された排気ガスを浄化する排気ガス浄化触媒を備え、前記水素を前記排気ガス浄化触媒に供給して窒素酸化物を還元するための還元剤として使用することを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記改質燃料を、高負荷運転時にのみ前記エンジン本体に供給し、圧縮した高温の空気に噴射することにより自己着火して燃焼させることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジン。
【請求項5】
相対的に高負荷とされる運転条件下では、前記改質燃料をより多く使用するとともに、相対的に低負荷とされる運転条件下では、前記ベース燃料をより多く使用するように前記ベース燃料と前記改質燃料の供給を制御し、燃料と空気の混合気を圧縮することにより自己着火して燃焼させることを特徴とする請求項1記載のディーゼルエンジン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−101195(P2010−101195A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270865(P2008−270865)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】