説明

デュアルクラッチ式自動変速機およびその変速制御方法

【課題】変速時に原動機回転数が許容回転数を超えることなく、良好な変速を行なうことが可能な信頼性の高いデュアルクラッチ式自動変速機およびその変速制御方法を提供する。
【解決手段】第1、第2入力軸21、22と、デュアルクラッチ40と、第1、第2シフト機構101〜104と、原動機回転数検出部2bと、入力軸回転数検出部3aと、変速制御装置とを備え、変速制御装置は、推定入力軸加速度演算部3cと、ダウンシフト指令送出判定部3dと、要求ギヤ段判定部3eと、変速完了推定時間演算部3gと、変速完了時回転数演算部3hと、演算された変速完了時入力軸回転数Ni(T)が、原動機過回転数閾値Eより大きい場合には、変速完了時入力軸回転数Ni(T)が原動機過回転数閾値Eより小さくなるように原動機回転数Neの目標回転数変速度ΔNetを変速制御の途中から大きくするよう制御する目標回転数変速度制御部3kと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの入力軸それぞれに原動機の回転駆動力を伝達可能なデュアルクラッチを有するデュアルクラッチ式自動変速機およびその変速制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特許文献1に示すようなシフト変更の際にトルク切れをなくすことができるデュアルクラッチ式自動変速機が注目されている。このようなデュアルクラッチ式自動変速機は、同心に設けられ偶数段および奇数段のギヤが夫々固定された2つの入力軸と、入力軸と平行に配置され偶数段および奇数段の従動ギヤを支承する第1副軸と、偶数段および奇数段の従動ギヤのうち残りの従動ギヤを支承する第2副軸と、を有している。またエンジンと2つの入力軸との間にはトルク伝達を夫々断接する2つのクラッチを有している。
【0003】
デュアルクラッチ式自動変速機はこのような構成によって、一方の入力軸に連結されるクラッチが接続状態となり、エンジントルクを一方の入力軸から所定のギヤ段を介していずれか一方の副軸を回転させ車両を走行させる。このときクラッチが切断状態である他方の入力軸では車両の走行状態やアクセルの操作状態等から次に変速される所定のギヤ段が制御装置によって予測(要求)され、いずれか他方の副軸に予測されたギヤ段(要求ギヤ段)が成立されて待機している。そして例えば運転者が加速を欲しアクセルを踏込み、車速が変速点に到達すると接続されていた一方の入力軸のクラッチの係合が切離されて解除される。そして、それとともに、切断状態であった他方の入力軸のクラッチが係合されていき、やがて他方の入力軸にエンジントルクが完全に伝達され待機していたギヤ段(要求ギヤ段)を介して車輪を駆動させ車両が走行する。これによって短時間で変速動作が完了し変速時にトルク切れをおこしにくい構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−196745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の従来技術では、例えばダウン変速時において車両が加速しているような状況では、クラッチ切断状態の他方の入力軸で成立している要求ギヤ段の変速比が大きくなるために車両の加速が他方の入力軸に増幅して伝達され、他方の入力軸の入力軸回転数が大きくなる場合がある。これにより接続されていた一方の入力軸のクラッチの係合の切離後、他方の入力軸のクラッチを係合するときには、原動機の原動機回転数を増速した他方の入力軸の回転数に同期させて一致させる必要があり原動機回転数が許容回転数を超えてしまう虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、ダウン変速時においても原動機回転数が許容回転数を超えることなく、良好な変速を行なうことが可能な信頼性の高いデュアルクラッチ式自動変速機およびその変速制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、請求項1に係るデュアルクラッチ式自動変速機の発明は、同心に配置された第1入力軸および第2入力軸と、車両の原動機の回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチおよび前記回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチを有するデュアルクラッチと、前記第1入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および前記第2入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構と、前記原動機の駆動軸の回転数を原動機回転数として検出する原動機回転数検出部と、前記第1入力軸および前記第2入力軸の各入力軸回転数を検出する入力軸回転数検出部と、変速指令が送出されると、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチのうち、前記第1入力軸および前記第2入力軸のうちの前記原動機から切り離される実ギヤ段が成立する入力軸に対応するクラッチを、クラッチトルクを制御することによって切離する切離制御を行ない、前記第1入力軸および前記第2入力軸のうちの前記原動機に接続される要求ギヤ段が成立する入力軸に対応するクラッチをクラッチトルクが前記原動機の出力駆動力と前記原動機に要求される目標回転数変速度とに基づいて演算される目標クラッチトルクになるよう制御し、前記原動機回転数と前記接続される入力軸の前記入力軸回転数とを同期させる係合制御を行なう変速制御装置と、を備え、前記変速制御装置は、検出された前記第1または第2入力軸の前記入力軸回転数に基づいて、前記実ギヤ段より低速側の低速側変速ギヤ段がそれぞれ対応する前記第1または第2入力軸に成立された場合の該第1または第2入力軸の推定入力軸加速度を演算する推定入力軸加速度演算部と、前記変速指令でダウンシフトの要求ギヤ段が送出されたか否かを判定するダウンシフト指令送出判定部と、前記ダウンシフト指令送出判定部によって前記ダウンシフトの要求ギヤ段が送出されたと判定された場合に、前記要求ギヤ段と前記実ギヤ段とが一致するか否かを判定する要求ギヤ段判定部と、前記要求ギヤ段判定部によって前記要求ギヤ段が前記実ギヤ段と一致しないと判定された場合に、前記要求ギヤ段に対応する前記演算された前記低速側変速ギヤ段の前記推定入力軸加速度と、前記実ギヤ段から前記要求ギヤ段への変速パターンに応じて設定される前記原動機の前記目標回転数変速度と、に基づき前記係合制御において前記入力軸回転数と前記原動機回転数とが同期する変速完了時までの変速完了推定時間を演算する変速完了推定時間演算部と、演算された前記変速完了推定時間に基づき前記変速完了時における前記入力軸回転数または前記原動機回転数の変速完了時回転数を演算する変速完了時回転数演算部と、演算された前記変速完了時回転数が、前記原動機の許容回転数に応じて予め設定される原動機過回転数閾値より大きい場合には、前記係合制御を行なうクラッチの前記クラッチトルクの増加および前記切離制御を行なうクラッチの前記クラッチトルクの減少の少なくとも一方を制御して前記目標回転数変速度を変速制御の途中から大きくし、前記変速完了時回転数を前記原動機過回転数閾値より小さくする目標回転数変速度制御部と、を備える。
【0008】
請求項2に係るデュアルクラッチ式自動変速機の発明は、請求項1において、前記変速完了推定時間演算部では、前記原動機の前記目標回転数変速度は、前記原動機回転数検出部によって検出した前記原動機の前記原動機回転数に基づいて演算する。
【0009】
請求項3に係るデュアルクラッチ式自動変速機の変速制御方法の発明は、同心に配置された第1入力軸および第2入力軸と、車両の原動機の回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチおよび前記回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチを有するデュアルクラッチと、前記第1入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および前記第2入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構と、前記原動機の駆動軸の回転数を原動機回転数として検出する原動機回転数検出部と、前記第1入力軸および前記第2入力軸の各入力軸回転数を検出する入力軸回転数検出部と、変速指令が送出されると、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチのうち、前記第1入力軸および前記第2入力軸のうちの前記原動機から切り離される実ギヤ段が成立する入力軸に対応するクラッチを切離する切離制御を行ない、前記第1入力軸および前記第2入力軸のうちの前記原動機に接続される要求ギヤ段が成立する入力軸に対応するクラッチをクラッチトルクが前記原動機の出力駆動力と前記原動機に要求される目標回転数変速度とに基づいて演算される目標クラッチトルクになるよう制御し、前記原動機回転数と前記接続される入力軸の前記入力軸回転数とを同期させる係合制御を行なう変速制御装置と、を備えたデュアルクラッチ式自動変速機の変速制御方法であって、前記変速制御方法は、検出された前記第1または第2入力軸の前記入力軸回転数に基づいて、前記実ギヤ段より低速側の低速側変速ギヤ段がそれぞれ対応する前記第1または第2入力軸に成立された場合の該第1または第2入力軸の推定入力軸加速度を演算する推定入力軸加速度演算ステップと、前記変速指令でダウンシフトの要求ギヤ段が送出されたか否かを判定するダウンシフト指令送出判定ステップと、前記ダウンシフト指令送出判定ステップによって前記ダウンシフトの要求ギヤ段が送出されたと判定された場合に、前記要求ギヤ段と前記実ギヤ段とが一致するか否かを判定する要求ギヤ段判定ステップと、前記要求ギヤ段判定ステップによって前記要求ギヤ段が前記実ギヤ段と一致しないと判定された場合に、前記要求ギヤ段に対応する前記演算された前記低速側変速ギヤ段の前記推定入力軸加速度と、前記実ギヤ段から前記要求ギヤ段への変速パターンに応じて設定される前記原動機の前記目標回転数変速度と、に基づき前記係合制御において前記入力軸回転数と前記原動機回転数とが同期する変速完了時までの変速完了推定時間を演算する変速完了推定時間演算ステップと、演算された前記変速完了推定時間に基づき前記変速完了時における前記入力軸回転数または前記原動機回転数の変速完了時回転数を演算する変速完了時回転数演算ステップと、演算された前記変速完了時回転数が、前記原動機の許容回転数に応じて予め設定される原動機過回転数閾値より大きい場合には、前記係合制御を行なうクラッチの前記クラッチトルクの増加および前記切離制御を行なうクラッチの前記クラッチトルクの減少の少なくとも一方を制御して前記目標回転数変速度を変速制御の途中から大きくし、前記変速完了時回転数を前記原動機過回転数閾値より小さくする目標回転数変速度制御ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係るデュアルクラッチ式自動変速機の発明によれば、ダウンシフトの要求ギヤ段が送出され、要求ギヤ段と実ギヤ段とが一致しない場合において、係合制御中の要求ギヤ段に対応する入力軸の入力軸回転数と原動機の原動機回転数とが一致(同期)するまでの変速完了推定時間が演算される。変速完了推定時間は演算された要求ギヤ段に対応する入力軸の推定入力軸加速度と、実ギヤ段から要求ギヤ段への変速パターン毎に予め設定されている目標クラッチトルクによって決定される原動機の目標回転数変速度とに基づき演算される。そして変速完了時の入力軸または原動機の変速完了時回転数が変速完了推定時間に基づいて演算される。演算された変速完了時回転数が原動機の許容回転数に応じて予め設定される原動機過回転数閾値より大きい場合には、変速完了時回転数が原動機過回転数閾値より小さくなるよう原動機回転数の目標回転数変速度を変速制御の途中から大きくするよう、係合制御を行なうクラッチのクラッチトルクの増加および切離制御をおこなうクラッチのクラッチトルクの減少の少なくとも一方を制御する。これにより、原動機回転数は原動機過回転数閾値より小さな回転数領域において入力軸と同期(一致)可能となるので、ダウンシフト中においても原動機回転数が過回転となることを防止しながら要求ギヤ段による変速を良好に完了させることができ、信頼性が向上する。
【0011】
請求項2に係るデュアルクラッチ式自動変速機の発明によれば、検出された実際の原動機回転数に基づき原動機回転加速度を演算し、該演算結果に基づいて変速完了推定時間を演算するので、精度よく推定でき、信頼性が向上する。
【0012】
請求項3に係る変速制御方法の発明によれば、請求項1と同様の効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機を適用可能な車両の一部の構成を示したブロック図である。
【図2】デュアルクラッチ式自動変速機の変速機部分の構造を示すスケルトン図である。
【図3】フォークの駆動機構を示す図である。
【図4】クラッチアクチュエータ作動量−クラッチトルクの関係を示すグラフである。
【図5】アップシフトおよびダウンシフトの変速線を説明する図である。
【図6】クラッチの係合制御時に目標回転数変速度を大きくする制御を行なう場合の目標クラッチトルクの設定について説明する図である。
【図7】クラッチの切離制御時に目標回転数変速度を大きくする制御を行なう場合の目標クラッチトルクの設定について説明する図である。
【図8】変速制御装置によって制御中の各部状態を説明する図である。
【図9】第1の実施形態に係る変速制御装置の制御方法を示したフローチャートである。
【図10】変形例に係る変速完了推定時間Tをマップから求める方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を具体化したデュアルクラッチ式自動変速機の第1の実施形態について、図1〜図9を参照し説明する。図1は、本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機1を適用可能な車両の一部の構成を示したブロック図である。図1に示す車両はFF(フロントエンジンフロントドライブ)タイプの車両であり、原動機の一例でありガソリンの燃焼によって駆動されるエンジン4、本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機1、差動装置14(ディファレンシャル)、駆動軸15a、15b、駆動輪16a、16b(前輪)および図示しない従動輪(後輪)を備えている。なお、図1は車両の上面図であり、図1の上方が車両の前方に相当する。
【0015】
図2に示すようにデュアルクラッチ式自動変速機1は、複数のギヤ段が形成され収納されるミッションケース11、およびデュアルクラッチ40(本発明のデュアルクラッチに該当する)を収納するクラッチハウジング12を有している。ミッションケース11およびクラッチハウジング12によってケース10を形成している。
【0016】
また、デュアルクラッチ式自動変速機1は、ミッションケース11に収容される複数のギヤ段の切替え(変速シフト)、およびデュアルクラッチ40が有する第1クラッチディスク41(本発明の第1クラッチを構成する)および第2クラッチディスク42(本発明の第2クラッチを構成する)の切替えを制御する本発明に係る変速制御装置を有している。変速制御装置はECU2(Engine Control Unit)とTCU3(Transmission Control Unit)とによって構成されている。
【0017】
図1に示すように、ECU2にはエンジン4の駆動軸4b近傍に設けられたエンジン4の出力軸回転数センサ4a、エンジン4が有するスロットルボデーのスロットルバルブを開閉させるモータ、スロットルボデーのスロットルバルブ開度を検出するスロットル開度センサ、燃料噴射をおこなうインジェクタ(いずれも図略)、およびアクセルペダルPに設けられたアクセル開度センサ27等が接続されている。これによって各機器とデータの授受を行なったり、各機器に対して制御指令を行なったりする。例えば、取得したTCU3からのデータを含んだ以上の情報に基づきモータを駆動させスロットルボデーのスロットル開度を制御する、或いは、インジェクタの燃料噴射量を制御する等してエンジン4の駆動軸4bの回転数であるエンジン回転数Neを制御する。
【0018】
図1に示すように、TCU3には、後述するデュアルクラッチ40の切替え制御を行なう第1、第2クラッチアクチュエータ17、18が有する各直流電動モータ19a、19b、各直流電動モータ19a、19bが出力するストロークを検出するストロークセンサ17a、18a、車速を検出する車速センサ23a、23b、および第1および第2入力軸回転数センサ24a、24bが接続されている。またTCU3には、後述する第1〜第4シフトクラッチ101〜104をそれぞれ作動させるフォーク駆動機構130の各モータ131、およびストロークを検出するシフトストロークセンサ136〜139が接続されている(図3参照)。これによってTCU3は各機器とデータの授受を行なったり、各機器に対して制御指令を行なったりする。TCU3はECU2と接続されCAN通信によってECU2と相互に情報を交換しながらデュアルクラッチ式自動変速機1の変速制御を適切に行なう。
【0019】
図2に示すように、デュアルクラッチ式自動変速機1は、前進7速のデュアルクラッチ式自動変速機であり、ケース10内の軸線方向に、第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸31、および第2副軸32を備えている。またケース10内には、デュアルクラッチ40、各ギヤ段の駆動ギヤ51〜57、最終減速駆動ギヤ58、68、各ギヤ段の従動ギヤ61〜67、後進ギヤ70、およびリングギヤ80を備えている。以降、第1入力軸21、第2入力軸22、第1副軸31、および第2副軸32と同一軸方向を入力軸方向と称す。
【0020】
第1入力軸21は、軸受によりミッションケース11、およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承されている。第1入力軸21の外周面には、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。そして、第1入力軸21には、複数の奇数段駆動ギヤである1速駆動ギヤ51および3速駆動ギヤ53が直接形成されている。また複数の奇数段駆動ギヤである5速駆動ギヤ55および7速駆動ギヤ57は、第1入力軸21の外周面に形成された外歯スプラインにスプライン嵌合により圧入され固定されている。また、第1入力軸21の端部の外周面には、第1クラッチディスク41の内径部にスプライン係合される連結部(スプライン)が形成されている。そして第1クラッチディスク41の内径部は該連結部(スプライン)に係合され第1入力軸21上を入力軸方向に進退移動可能となっている。
【0021】
第2入力軸22は、中空軸状に形成されており、第1入力軸21の1部の外周に複数の軸受を介して回転可能に支承され、且つ、軸受によりミッションケース11、およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承されている。つまり、第2入力軸22は、第1入力軸21に対して同心に相対回転可能に配置されている。また、第2入力軸22の外周面には、第1入力軸21と同様に、軸受けを支持する部位と複数の外歯歯車が形成されている。第2入力軸22には、複数の偶数段駆動ギヤである2速駆動ギヤ52、4速駆動ギヤ54および6速駆動ギヤ56が形成されている。また、第2入力軸22の端部の外周面には、第2クラッチディスク42の内径部にスプライン係合される連結部(スプライン)が形成されている。そして第2クラッチディスク42の内径部は該連結部(スプライン)に係合され第2入力軸22上を入力軸方向に進退移動可能となっている。
【0022】
第1副軸31は、軸受によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に対して回転可能に支承され、ミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配置されている。また、第1副軸31の外周面には、最終減速駆動ギヤ58が形成されるとともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。さらに、第1副軸31には、1速従動ギヤ61、および3速従動ギヤ63、4速従動ギヤ64、および後進ギヤ70を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
【0023】
第1副軸31の外歯スプラインには、後述する第1シフトクラッチ101(本発明の第1シフト機構に該当する)、および第3シフトクラッチ103(本発明の第2シフト機構に該当する)の各クラッチハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。最終減速駆動ギヤ58は、図1に示す差動装置14(ディファレンシャル)のリングギヤ80に噛合している。
【0024】
第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される1速従動ギヤ61は第1入力軸21に形成された1速駆動ギヤ51と噛合し、1速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そして要求ギヤ段GdとしてTCU3によって1速従動ギヤ61が選択されると、第1シフトクラッチ101のスリーブ202が1速従動ギヤ61側に移動して1速従動ギヤ61と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより1速従動ギヤ61と第1副軸31とが一体的に回転する状態となる(この状態を1速ギヤ段が成立した状態という。なお、以降2速〜7速および後進の変速段においても同様である)。このとき、第1シフトクラッチ101の作動の状態は第1シフトクラッチ101用のシフトストロークセンサ136によって監視され第1シフトクラッチ101が現状どのような状態であるかTCU3によって把握されている。以降、第2シフトクラッチ102〜第4シフトクラッチ104も同様である。
【0025】
第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される3速従動ギヤ63は、第1入力軸21に形成された3速駆動ギヤ53と噛合し、3速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって3速従動ギヤ63が選択されると、第1シフトクラッチ101のスリーブ202が3速従動ギヤ63側に移動して3速従動ギヤ63と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより3速従動ギヤ63と第1副軸31とが一体的に回転する状態(3速ギヤ段成立状態)となる。
【0026】
第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される4速従動ギヤ64は、第2入力軸22に形成された4速駆動ギヤ54と噛合し、4速ギヤ段(本発明の偶数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって4速従動ギヤ64が選択されると、第3シフトクラッチ103のスリーブ202が4速従動ギヤ64側に移動して4速従動ギヤ64と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより4速従動ギヤ64と第1副軸31とが一体的に回転する状態(4速ギヤ段成立状態)となる。
【0027】
さらに、TCU3によって第1副軸31の支持部に遊転可能に支持される後進ギヤ70が選択されると、第3シフトクラッチ103のスリーブ202が後進ギヤ70側に移動して後進ギヤ70と第1副軸31とを相対回転不能に接続する。これにより後進ギヤ70と第1副軸31とが一体的に回転する状態(後進ギヤ段成立状態)となる。なお、後進ギヤ70は、第2副軸32に遊転可能に支持される2速従動ギヤ62と一体的に形成された小径ギヤ62aに常に噛合している。
【0028】
第2副軸32は、軸受によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に対して回転可能に軸承され、ミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配置されている。また、第2副軸32の外周面には、第1副軸31と同様に、最終減速駆動ギヤ68が形成されるとともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。第2副軸32の外歯スプラインには、第2シフトクラッチ102(本発明の第2シフト機構に該当する)、および第4シフトクラッチ104(本発明の第1シフト機構に該当する)の各クラッチハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。最終減速駆動ギヤ68は、差動装置14のリングギヤ80に噛合している。リングギヤ80は、最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ68に噛合されることで、第1副軸31および第2副軸32に常時回転連結される。このリングギヤ80は、ケース10に軸支される出力軸(図略)および差動装置14を介して駆動軸15a、15bおよび駆動輪16a、16bに回転連結されている。さらに、第2副軸32には、上記の2速従動ギヤ62、5速従動ギヤ65、6速従動ギヤ66、および7速従動ギヤ67、を遊転可能に支持する支持部が形成されている。
【0029】
第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される2速従動ギヤ62は第2入力軸22に形成された2速駆動ギヤ52と噛合し、2速ギヤ段(本発明の偶数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって2速従動ギヤ62が選択されると、第2シフトクラッチ102のスリーブ202が2速従動ギヤ62側に移動して2速従動ギヤ62と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより2速従動ギヤ62と第2副軸32とが一体的に回転する状態(2速ギヤ段成立状態)となる。
【0030】
また、第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される5速従動ギヤ65は、第1入力軸21に形成された5速駆動ギヤ55と噛合し、5速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって5速従動ギヤ65が選択されると、第4シフトクラッチ104のスリーブ202が5速従動ギヤ65側に移動して5速従動ギヤ65と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより5速従動ギヤ65と第2副軸32とが一体的に回転する状態(5速ギヤ段成立状態)となる。
【0031】
また、第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される6速従動ギヤ66は、第2入力軸22に形成された6速駆動ギヤ56と噛合し、6速ギヤ段(本発明の偶数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって6速従動ギヤ66が選択されると、第2シフトクラッチ102のスリーブ202が6速従動ギヤ66側に移動して6速従動ギヤ66と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより6速従動ギヤ66と第2副軸32とが一体的に回転する状態(6速ギヤ段成立状態)となる。
【0032】
さらに、第2副軸32の支持部に遊転可能に支持される7速従動ギヤ67は、第1入力軸21に形成される7速駆動ギヤ57と噛合し、7速ギヤ段(本発明の奇数変速段に該当する)を形成している。そしてTCU3によって7速従動ギヤ67が選択されると、第4シフトクラッチ104のスリーブ202が7速従動ギヤ67側に移動して7速従動ギヤ67と第2副軸32とを相対回転不能に接続する。これにより7速従動ギヤ67と第2副軸32とが一体的に回転する状態(7速ギヤ段成立状態)となる。
【0033】
次にデュアルクラッチ40について図1、図2に基づいて説明する。なお、図1、図2のデュアルクラッチ40を比較すると構成が異なる様に見えるが、図2のデュアルクラッチ40は図1のデュアルクラッチ40に対してより簡易的に描いたものであって、図1、図2のデュアルクラッチ40は同じものである。
【0034】
デュアルクラッチ40は、第1入力軸21および第2入力軸22に対して同心に設けられている。デュアルクラッチ40は、図2の右側においてクラッチハウジング12に収容され、図1、図2に示すように、第1、第2クラッチディスク41、42、センタプレート43、第1、第2プレッシャプレート44、45、および第1、第2ダイアフラムスプリング46、47(図1参照)を有している。このとき第1クラッチディスク41、センタプレート43、第1プレッシャプレート44および第1ダイアフラムスプリング46によって本発明の第1クラッチを構成している。また第2クラッチディスク42、センタプレート43、および第2プレッシャプレート45および第2ダイアフラムスプリング47によって本発明の第2クラッチを構成している。
【0035】
第1クラッチディスク41はエンジン4の回転駆動トルクTer(本発明の回転駆動力に該当する)を第1入力軸21に伝達し、第2クラッチディスク42はエンジン4の回転駆動トルクTerを2入力軸22に伝達する。第1クラッチディスク41は、第1入力軸21の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合され、第2クラッチディスク42は、第2入力軸22の連結部に入力軸方向に移動自在にスプライン係合されている。
【0036】
センタプレート43は図1、図2に示すように、第1クラッチディスク41と第2クラッチディスク42との間にその面が第1、第2クラッチディスク41、42の面と平行に対向して配置されている。センタプレート43は第2入力軸22の外周面との間にボールベアリングを介して第2入力軸22と相対回転可能に設けられエンジン4の駆動軸4bに連結されて一体回転する。
【0037】
第1および第2プレッシャプレート44、45は図1、図2に示すように、センタプレート43との間でそれぞれ第1、および第2クラッチディスク41、42を挟持し第1、および第2クラッチディスク41、42と圧着可能に配置されている。
【0038】
図1に示す第1、第2ダイアフラムスプリング46、47は、円板状に形成されている。第1ダイアフラムスプリング46はセンタプレート43を中心として、入力軸方向に第1プレッシャプレート44と反対側に配置されている。第1ダイアフラムスプリング46の外径部と第1プレッシャプレート44とは円筒状の連結部44aによって連結されている。また第1ダイアフラムスプリング46はセンタプレート43から延在している腕部43aの先端部に支持されている。このような状態において第1ダイアフラムスプリング46の外径部がエンジン4方向に付勢するばね力によって連結部44aをエンジン4側に付勢すると第1プレッシャプレート44が第1クラッチディスク41から離間する。
【0039】
また第1ダイアフラムスプリング46の内径部をエンジン4側に向かって押圧すると第1ダイアフラムスプリング46の外径部のエンジン4方向へのばね力は減衰する。そして、それとともにセンタプレート43から延在している腕部43aの先端部を支点として第1ダイアフラムスプリング46の外径部はエンジン4とは反対方向に移動する。これらによって第1プレッシャプレート44は第1クラッチディスク41方向に移動し、やがてセンタプレート43との間で第1クラッチディスク41を挟持して圧着する。そして完全に係合しエンジン4の回転駆動トルクTerが第1入力軸21に伝達される。なお、上記において第1ダイアフラムスプリング46の内径部を押圧する押圧力は内径部を押圧するときのアクチュエータ作動量L1によって制御するが詳細については後述する。
【0040】
また第2ダイアフラムスプリング47は第2プレッシャプレート45の変速機側で、且つセンタプレート43の腕部43aのエンジン4側に配置され第2プレッシャプレート45と対向している。第2ダイアフラムスプリング47の外径部は、外径部のばね力がセンタプレート43から延在している腕部43aを変速機側に向かって付勢するよう配置されている。これにより通常時において第2プレッシャプレート45は第2クラッチディスク42に圧着されないようになっている。そして第2ダイアフラムスプリング47の内径部をエンジン4側に向かって押圧すると腕部43aに接触する第2ダイアフラムスプリング47の外径部を支点として押圧部近傍がエンジン4方向へ移動する。これによって第2プレッシャプレート45がダイアフラムスプリング47に押され第2クラッチディスク42方向に移動し、やがてセンタプレート43との間で第2クラッチディスク42を挟持して圧着する。そして完全に係合しエンジン4の回転駆動トルクTerが第2入力軸22に伝達される。なお、第1ダイアフラムスプリング46と同様に第2ダイアフラムスプリング47の内径部を押圧する押圧力は内径部を押圧するときのアクチュエータ作動量L2によって制御する。
【0041】
上述した第1ダイアフラムスプリング46、および第2ダイアフラムスプリング47の内径部の押圧は、図1に示す第1、および第2クラッチアクチェータ17、18(本発明のクラッチアクチェータに該当する)によって制御する。第1、および第2クラッチアクチェータ17、18は、それぞれ直流電動モータ19a、19bと、直流電動モータ19a、19bの作動によってボールねじ構造により直線運動するロッド25a、25bと、ロッド25a、25bの直線運動を第1、第2ダイアフラムスプリング46、47の各内径部にリンク機構によって伝達する伝達部26a、26bと、ロッド25a、25bの直線運動のアクチュエータ作動量L1、L2を検出するストロークセンサ17a、18aと、を有している。そして、ストロークセンサ17a、18aにより検出されたロッド25a、25bのアクチュエータ作動量L1、L2に関する情報はTCU3に送信される。
【0042】
デュアルクラッチ40がこのように構成されるので、TCU3から第1または第2クラッチアクチュエータ17、18に変速指令が送出されると、TCU3は第1または第2クラッチアクチュエータ17、18を所定のアクチュエータ作動量L1、L2だけ変速機側に向かって作動させ、エンジン4から入力軸に伝達されるクラッチトルクTcを制御する。これによりTCU3は第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21、および第2入力軸22のうちのエンジン4から切り離される入力軸に対応するクラッチを切離する切離制御を行なう。
【0043】
また同時にTCU3は、第1クラッチを構成する第1クラッチディスク41および第2クラッチを構成する第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21および第2入力軸22のうちのエンジン4に接続される入力軸に対応するクラッチのクラッチディスクを、クラッチトルクTcが、エンジン4の出力駆動トルクTe(本発明の出力駆動力に該当する)とエンジン4に要求される目標回転数変速度ΔNetに基づいて演算される目標クラッチトルクTcaになるよう制御する(詳細については後述する)。そして、エンジン4の回転数Neが、接続される入力軸の回転数Ni1またはNi2と同期すると接続させる係合制御を行なう。具体的には直流電動モータ19a、または19bを作動させ、ロッド25a、または25bの作動が第1または第2ダイアフラムスプリング46、47の内径部をエンジン4側に向かって押圧するよう制御する。
【0044】
次に、第1〜第4シフトクラッチ101〜104について図2、図3に基づいて説明する。図2、図3に示す各フォーク72a、72b、72c、72dは、第1〜第4シフトクラッチ101〜104が有するスリーブ202の外周部に係合してスリーブ202を入力軸方向にスライドさせる部材である。各フォーク72a〜72dは、それぞれのフォーク駆動機構130によって駆動される。
【0045】
フォーク駆動機構130は、第1〜第4シフトクラッチ101〜104をそれぞれ駆動するために本実施形態においては4つ設けられている。それぞれのフォーク駆動機構130は、図3に示すように、回転軸にウォームギヤ132が形成されたモータ131、ウォームギヤ132に噛合するウォームホイール133、ウォームホイール133に同心に一体的に形成されたピニオンギヤ134、ピニオンギヤ134に噛合するラック軸135を備えている。このラック軸135には、各フォーク72a〜72dがそれぞれ一体に設けられている。つまり、それぞれのフォーク駆動機構130のモータ131を回転することで、そのモータ131に連結されているフォーク72a〜72dが第1副軸31または第2副軸32の軸方向にスライドする。
【0046】
また、図3に示すようにフォーク72a〜72dが軸方向にスライドして移動するストローク量を検出するためのシフトストロークセンサ136〜139がピニオンギヤ134の回転軸近傍にそれぞれ設けられている。シフトストロークセンサ136〜139はTCU3に接続されTCU3の演算部にてウォームホイール133の回転数がストローク量に変換される。なお、シフトストロークセンサ136〜139はモータ131の回転軸近傍にそれぞれ設けてもよい。
【0047】
第1シフトクラッチ101は、第1副軸31の軸方向において1速従動ギヤ61と3速従動ギヤ63との間に配置されている。第2シフトクラッチ102は、第2副軸32の軸方向において2速従動ギヤ62と6速従動ギヤ66との間に配置されている。また第3シフトクラッチ103は、第1副軸31の軸方向において4速従動ギヤ64と後進ギヤ70との間に配置されている。さらに第4シフトクラッチ104は、第2副軸32の軸方向において5速従動ギヤ65と7速従動ギヤ67との間に配置されている。
【0048】
図2に示すように第1シフトクラッチ101は、クラッチハブ201と、1速係合部材205と、3速係合部材205と、シンクロナイザリング203と、スリーブ202とを有している。クラッチハブ201は第1副軸31にスプライン固定されている。1速係合部材205は1速従動ギヤ61に圧入固定され、3速係合部材205は3速従動ギヤ63に圧入固定されている。シンクロナイザリング203は、クラッチハブ201と左右の各係合部材205、205との間にそれぞれ介在されている。スリーブ202はクラッチハブ201の外周に軸線方向移動自在にスプライン係合されている。そして第1シフトクラッチ101は各従動ギヤ61、63を交互に第1入力軸21に離脱可能に接続する周知のシンクロメッシュ機構である。
【0049】
第1シフトクラッチ101のスリーブ202は、中立位置では係合部材205、205の何れにも係合されていない。しかしフォーク駆動機構130の作動によってラック軸135が入力軸方向に駆動され、ラック軸135に固定されスリーブ202の外周の環状溝に係合されたフォーク72aによりスリーブ202が1速従動ギヤ61側にシフトされれば、スリーブ202の内歯(図略)は1速従動ギヤ61側のシンクロナイザリング203にスプライン係合する。そしてシンクロナイザリング203を1速従動ギヤ61に押しつけながら第1副軸31と1速従動ギヤ61の回転を同期させる。次にスリーブ202の内歯が1速係合部材205の外周の外歯スプラインと係合し、第1副軸31と1速従動ギヤ61を一体的に連結して1速ギヤ段を成立させる。またフォーク駆動機構130によりフォーク72aがスリーブ202を3速従動ギヤ63側にシフトさせれば、同様にして第1副軸31と3速従動ギヤ63の回転を同期させた後にこの両者を一体的に連結して3速ギヤ段を成立させる。
【0050】
第2〜第4シフトクラッチ102〜104は、第1シフトクラッチ101と実質的に同一構造で取り付け位置が異なるのみである。第2シフトクラッチ102は2速従動ギヤ62および6速従動ギヤ66を第2副軸32に選択的に連結して相対回転不能とし2速ギヤ段および6速ギヤ段を成立させる。また第3シフトクラッチ103は4速従動ギヤ64および後進ギヤ70を第1副軸31に選択的に連結して相対回転不能とし4速ギヤ段および後進ギヤ段を成立させる。さらに第4シフトクラッチ104は5速従動ギヤ65および7速従動ギヤ67を第2副軸32に選択的に連結して相対回転不能とし5速ギヤ段および7速ギヤ段を成立させる。
【0051】
ECU2は、図1に示すように、アクセル踏込量検出部2aと、原動機回転数検出部2bとを有している。
アクセル踏込量検出部2aは、アクセル開度センサ27を含み運転者が踏込んだアクセルの踏込およびアクセル踏込量Lacを検出する。具体的にはアクセル開度センサ27から取得したアクセル開度を踏込量として検出する。
原動機回転数検出部2bは、エンジン4の駆動軸4b近傍に設けられた出力軸回転数センサ4aを含み、出力軸回転数センサ4aによってエンジン回転数Neを検出する。
【0052】
TCU3は前述の通り第1〜第4シフトクラッチ101〜104を作動させるフォーク駆動機構130を制御するシフトクラッチ制御部(図略)を有している。また、TCU3は、変速制御部3bを有し、要求ギヤ段Gdへの変速指令が送出されると、変速制御部3bによって第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち係合されているGpが成立している一方のクラッチディスクを切離制御し、要求ギヤ段Gdが成立した他方のクラッチディスクを係合制御する。なお、ここで要求ギヤ段Gdとは、運転者のアクセル操作状態、車両の走行状態および変速線等に基づきTCU3が要求する現在ギヤ段Gpの次に選択すべき変速ギヤ段のことをいう。実際には要求ギヤ段Gdの演算は事前に準備されTCU3のROMに記憶される変速線に基づいて行なわれる。
【0053】
例えば図5に示す変速線は、代表として例えばアップシフト側である2速段から3速段への変速線Aおよび3速段から4速段への変速線Bと、ダウンシフト側である4速段から3速段への変速線Dおよび3速段から2速段への変速線Cを示している。変速線は車両の変速時に利用されるマップデータであり、予め選択したギヤ段選択パラメータ(本実施形態においては車速Vとアクセルペダル開度)を各軸にとり、一のギヤ段から他のギヤ段への変速の要否を判断するための基準線である。
【0054】
なお、図5に示すように、デュアルクラッチ式自動変速機1においては、アップシフト側の変速線A、Bの若干手前に破線で示したプレ変速線a、bを有している。プレ変速線a、bとは所定のアクセル開度と車速Vとの関係が高速側の変速ギヤ段に向かっている途中、プレ変速線a、bを越えた場合に、フォーク駆動機構130によって、越えた各プレ変速線に対応するギヤ段(要求ギヤ段Gd)へのシフトが開始されるための変速線である。また同様に減速時におけるダウンシフト側の変速線C、Dの若干手前には破線で示したプレ変速線c、dを有している。これによりアクセルペダルPをOFFにする、または緩める等して車速Vが減速する場合や、図5中の一点鎖線に示すようにアクセルペダルPを踏込みアクセル開度と車速Vとの関係がプレ変速線c、dを低速側の変速ギヤ段に向かっていき、やがて越えると、プレ変速線c、dに対応するギヤ段(要求ギヤ段Gd)へのシフトがフォーク駆動機構130によって開始される。
【0055】
そして、2速ギヤ段から3速ギヤ段のように変速比が小さい変速段に向かってシフトするアップ変速の変速指令が送出された場合には、次のような変速制御を行なう。変速制御部3b(本発明に係る変速制御装置を構成する)は、先ず、第2クラッチアクチュエータ18を作動させ2速駆動ギヤ52が固定された第2入力軸22に連結される第2クラッチディスク42を予め設定される目標クラッチトルクTcaによって制御しながら切離する切離制御を行なう。
【0056】
また同時に変速制御部3bは、第1クラッチアクチュエータ17を作動させ成立された3速駆動ギヤ53が固定された第1入力軸21に連結される第1クラッチディスク41を予め設定される目標クラッチトルクTcaによって制御し、エンジン回転数Neと第1入力軸回転数Ni1とを同期させながら接続する係合制御を行なう。このときエンジン回転数Neは原動機回転数検出部2bによって検出され、第1入力軸回転数Ni1は後述する入力軸回転数検出部3aによって検出される。そして、変速制御部3bは、エンジン回転数Neが第1入力軸回転数Ni1と同期すると、第1クラッチアクチュエータ17のクラッチアクチュエータ作動量L1を最大量(図示しない)作動させ第1クラッチディスク41を完全に接続する。
【0057】
ここで、上記のようなアップシフト変速において、変速前後における車速Vが一定であると仮定すると、変速ギヤ段の変速比は小さくなっている。このため第2入力軸回転数Ni2よりも第1入力軸回転数Ni1の方が低く、これによってエンジン回転数Neは変速前後で低下することになる。そのため、第1クラッチディスク41と第2クラッチディスク42の係合状態を単に切換えたのでは、クラッチの負荷が増大したり変速ショックが生じたりするおそれがある。そこで、変速制御部3bは、上記のように、第1クラッチディスク41を完全に接続する前に、エンジン回転数Neを減速させて第1入力軸回転数Ni1と同期させる同期制御を行ない変速ショックを低減するとともに変速後におけるエンジン回転数Neの安定化を図っている。
【0058】
また、例えば3速ギヤ段→2速ギヤ段等のダウンシフト変速においては変速前後における車速Vが一定であると仮定すると、変速ギヤ段の変速比は大きくなっている。このため第1入力軸回転数Ni1よりも第2入力軸回転数Ni2の方が高く、これによってエンジン回転数Neは変速前後で上昇することになる。そのため、第1クラッチディスク41と第2クラッチディスク42の係合状態を単に切換えたのでは、クラッチの負荷が増大したり変速ショックが生じたりするおそれがある。そこで、変速制御部3bは、第2クラッチディスク42を完全に接続する前に、エンジン回転数Neを加速させて第2入力軸回転数Ni2に同期させる同期制御を行ない変速ショックを低減するとともに変速後におけるエンジン回転数Neの安定化を図っている。
【0059】
TCU3は、図1に示すように、入力軸回転数検出部3aと、上述した変速制御部3bと、推定入力軸加速度演算部3cと、ダウンシフト指令送出判定部3d、要求ギヤ段判定部3eと、原動機回転加速度演算部3fと、変速完了推定時間演算部3gと、変速完了時入力軸回転数演算部3h(本発明の変速完了時回転数演算部に該当する)と、目標回転数変速度制御部3kと、を有している。
【0060】
入力軸回転数検出部3aは、図1に示す第1入力軸21近傍に設けられた第1入力軸回転数センサ24a、および第2入力軸22近傍に設けられた第2入力軸回転数センサ24bを含み、第1入力軸21および第2入力軸22の入力軸回転数Ni1、Ni2を検出する。
【0061】
変速制御部3bは、前述のとおり変速指令が送出されると、第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21および第2入力軸22のうちの実ギヤ段Gpが成立するエンジン4から切り離される入力軸(以後、実ギヤ段入力軸と称す)に対応するクラッチディスクを制御しながら切離する切離制御を行なう。また、同時に第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42のうち、第1入力軸21および第2入力軸22のうちの要求ギヤ段Gdが成立するエンジン4に接続される入力軸(以後、要求ギヤ段入力軸と称す)に対応するクラッチディスクを、クラッチトルクTcが、目標クラッチトルクTcaとなるよう制御しながらエンジン回転数Neを接続される入力軸の入力軸回転数Niと同期させ係合させる係合制御を行なう。
【0062】
目標クラッチトルクTcaは下記[数1]により演算する。この目標クラッチトルクTcaは、低速ギヤ段側のクラッチを切離制御し、高速ギヤ段側のクラッチに対して係合制御する場合、または、シフトダウンに際して高速ギヤ段側のクラッチを切離制御し、低速ギヤ段側のクラッチに対してこのトルクで制御する場合に、変速ショックを抑制した変速が可能となる基準の伝達トルクである。そして目標クラッチトルクTcaは、所定の実ギヤ段Gpから所定の要求ギヤ段Gd(例えば4速ギヤ段→3速ギヤ段や4速ギヤ段→2速ギヤ段)へ変速する場合毎に事前に実験等によって適切な値が設定され、図略のROMに記憶されている。
【0063】
[数1]
Tca=Te−Ie・ΔNet
Tca :目標クラッチトルク
Te :エンジンの現出力トルク
Ie :イナーシャ
ΔNet:目標回転数変速度
【0064】
そのため、先ず、エンジン2のイナーシャIe(慣性モーメントまたは慣性能率ともいう)にエンジン4の目標回転数変速度ΔNet(本発明の目標回転数変速度に該当する)を乗算して高速ギヤ段側クラッチまたは低速ギヤ段側クラッチの目標慣性トルクIe・ΔNetを算出する。この「目標慣性トルクIe・ΔNet」とは、エンジン回転数Neを好適に変化(減速又は加速)させるために第1、第2クラッチディスク41、42からエンジン4の駆動軸4bに伝達されるべき減速トルク又は加速トルクに相当する。なお、上記においてエンジン回転数Neを減速させるときには目標慣性トルクIe・ΔNetは負の値をとり、加速させるときには正の値をとるものとする。
【0065】
目標回転数変速度ΔNetは、エンジン回転数Neの駆動軸の回転加速度でありアップ変速制御(アップシフト)またはダウン変速制御(ダウンシフト)において、エンジン回転数Neの変速度の目標値として予め定められている値である。つまり、目標回転数変速度ΔNetは、アップ変速制御またはダウン変速制御においてエンジン回転数Neの変速度が目標回転数変速度ΔNetとなるように制御すれば、変速ショックを抑制しつつ、変速を早期に完了することができる。
【0066】
そして、エンジン4の現在の現出力トルクTeから目標慣性トルクIe・ΔNetを減算して目標クラッチトルクTcaを算出する。このエンジン4の「現在の現出力トルクTe」は、例えば、原動機回転数検出部2bによって検出されるエンジン回転数Neやアクセル踏込量検出部2aによって検出されるアクセルペダルPのアクセル踏込量(アクセル開度)などの検出値に基づいて算出することができる。
【0067】
目標クラッチトルクTcaを得るための第1、第2クラッチアクチュエータ17、18のクラッチアクチュエータ作動量L1、L2は変速制御部3bが有する演算部(図略)によって演算される。クラッチアクチュエータ作動量LとクラッチトルクTcとの対応関係は事前に取得されて例えばROMに記憶されている(図4参照)。そこで図略の演算部では目標クラッチトルクTcaに対応する第1、第2クラッチアクチュエータ17、18のクラッチアクチュエータ作動量L1、L2を図4の表から求める。
【0068】
推定入力軸加速度演算部3cは、入力軸回転数検出部3aによって検出された、現在の第1入力軸21の入力軸回転数Ni1または第2入力軸22の入力軸回転数Ni2に基づいて、実ギヤ段Gp(例えば4速ギヤ段)より低速側の低速側変速ギヤ段(例えば3〜1速ギヤ段)が対応する入力軸に成立した場合における該入力軸の推定入力軸加速度Ni1a、Ni2aを推定演算する。具体的には、まず現在の入力軸回転数Ni1またはNi2を微分して現在の入力軸加速度Ni1aまたはNi2aを演算する。このとき入力軸加速度Ni1aまたはNi2aは、第2入力軸22と、第1副軸31および実ギヤ段Gp(4速ギヤ)を介して回転連結される車両の車輪16a、16bの回転加速度、即ち車両の現在の加速度Vaの比例関係を有する関数として演算される。そして、このように演算された例えば第2入力軸22の入力軸加速度Ni2aに基づき、低速側変速ギヤ段である3〜1速ギヤ段がそれぞれ対応する第1入力軸21または第2入力軸22に成立されたときの入力軸加速度Ni1a(本説明においては3速ギヤ段および1速ギヤ段が対応)、および入力軸加速度Ni2a(本説明においては2速ギヤ段が対応)を3〜1速ギヤ段の変速比に基づいて演算する。
【0069】
ダウンシフト指令送出判定部3dは変速指令でダウンシフトの要求ギヤ段(例えば2速ギヤ段)が送出されたか否かを判定する。
要求ギヤ段判定部3eは、ダウンシフト指令送出判定部3dによってダウンシフトの要求ギヤ段(上記説明においては2速ギヤ段)が送出されたと判定された場合に、要求ギヤ段Gdが、第1クラッチディスク41(第1クラッチ)および第2クラッチディスク42(第2クラッチ)のうち、現在係合されているクラッチディスク(上記説明においては第1クラッチディスク41)に対応する実ギヤ段入力軸(上記説明においては第2入力軸22)で実際に成立している実ギヤ段Gp(上記説明においては4速ギヤ段)と一致するかを判定する。つまり、要求ギヤ段Gdは、まだ実ギヤ段Gpとして成立しておらず、これから要求ギヤ段Gdに向かって変速制御が行なわれることを確認する。
【0070】
原動機回転加速度演算部3fは、要求ギヤ段判定部3eによって要求ギヤ段Gdが実ギヤ段Gpと一致していないと判定されたときに、原動機回転数検出部2bによって検出されたエンジン回転数Neに基づき、エンジン4の原動機回転加速度Nea(本発明の目標回転数変速度ΔNetに該当する)を演算する。原動機回転加速度Neaは検出されたエンジン回転数Neを微分することによって求めることができる。
【0071】
変速完了推定時間演算部3gは、要求ギヤ段入力軸の現在の入力軸回転数Nipおよび演算された入力軸加速度Niaと、検出された現在のエンジン回転数Nepおよび演算された原動機回転加速度Neaとによって入力軸回転数Niとエンジン回転数Neとが一致する(同期する)までの変速完了推定時間Tを演算する。具体的には下記式[数2]によって求められる要求ギヤ段入力軸回転数Ni(Gd)と、式[数3]によって求められるエンジン回転数Neとが一致する(等しくなる)ときの時間tを変速完了推定時間Tとして演算によって求める。
【0072】
[数2]
Ni(Gd)=Nip+Nia×t
Ni(Gd):要求ギヤ段入力軸回転数
Nip:現在の要求ギヤ段入力軸回転数
Nia:演算された要求ギヤ段入力軸加速度
t :現在からの経過時間
【0073】
[数3]
Ne=Nep+Nea×t
Ne :エンジン回転数
Nep:現在のエンジン回転数
Nea:演算された原動機回転加速度
t :現在からの経過時間
【0074】
変速完了時入力軸回転数演算部3h(本発明の変速完了時回転数演算部に該当する)は、演算された変速完了推定時間Tに基づき式[数2]によって変速完了時の要求ギヤ段入力軸の入力軸回転数Ni(T)を演算する。なお、このとき変速完了時の要求ギヤ段入力軸の入力軸回転数Ni(T)を演算したが、この態様に限らず、演算された変速完了推定時間Tに基づき式[数3]によって変速完了時のエンジン回転数Neを演算してもよい。
【0075】
目標回転数変速度制御部3kは、演算された変速完了時入力軸回転数Ni(T)が、エンジン4の許容回転数である最大エンジン回転数Nemaxに応じて予め設定される原動機過回転数閾値Eより大きい場合に、変速完了時入力軸回転数Ni(T)が、原動機過回転数閾値Eより小さくなるようエンジン回転数Neの目標回転数変速度ΔNet(原動機回転加速度Nea)を途中から大きくするよう制御する。
【0076】
つまり、変速完了時入力軸回転数Ni(T)が、原動機過回転数閾値Eより大きい場合、入力軸回転数Niとエンジン回転数Neとの同期が完了した段階においては、エンジン回転数Neはエンジン4の最大エンジン回転数Nemaxの直前(近傍)まで上昇していることになる。これにより、例えばTCU3からアップシフトの変速指令が送出され同期完了後に、アップシフト制御が実行されても、アップシフト制御の実行中にエンジン回転数Neが最大エンジン回転数Nemaxを越えてしまいエンジン4にダメージを与えてしまう虞がある。このため、変速完了時入力軸回転数Ni(T)が、原動機過回転数閾値Eを越えないようエンジン回転数Neの目標回転数変速度ΔNet(原動機回転加速度Nea)を制御の途中から大きくして変更するものである。こうすることにより、エンジン回転数Neは低回転数域で入力軸と同期し原動機過回転数閾値Eを越えることなく変速を完了させることができる。なお、ここで、原動機過回転数閾値Eの設定方法は、どのように決めても良い。本実施形態においては、実際に実験を行ない、例えばダウン変速時で車両が加速している状況等においても、変速完了時入力軸回転数Ni(T)が原動機過回転数閾値E以下であればエンジン回転数Neが最大エンジン回転数Nemaxを越えることがない値で原動機過回転数閾値Eが設定されている。
【0077】
そして、本実施形態においては目標回転数変速度ΔNetを大きくする方法として2つの方法が準備されている。1つ目の方法は、これから係合制御を行なうクラッチのクラッチトルクTcを増加させることによって目標回転数変速度ΔNetを大きくするものである。係合制御を行なうクラッチのクラッチトルクTcを増加させるとエンジントルクTe(出力駆動力)は、車両を走行させる駆動力として使用される。それに伴いエンジン回転数Neは車輪の回転によって持ち上げられ目標回転数変速度ΔNetが大きくなる。
【0078】
そして、このとき目標回転数変速度ΔNetを大きくするための係合制御時におけるクラッチトルクTcの大きさは、図6のTcgに示すように、一定でもよいし、必要な目標回転数変速度ΔNetの傾きに応じてTceに示すようにリニアに増加するよう設定してもよい。
また変速完了時入力軸回転数Ni(T)が、原動機過回転数閾値Eを越えず目標回転数変速度ΔNetを大きくする必要がない場合には、図6に示すように通常のクラッチトルクTcbで制御してもよいし、原動機過回転数閾値Eと変速完了時入力軸回転数Ni(T)との乖離量に応じて目標クラッチトルクTccをリニアに変更して制御してもよい。
【0079】
2つ目の方法は、切離制御をおこなうクラッチのクラッチトルクTcを減少させることによって目標回転数変速度ΔNetを大きくするものである。切離制御をおこなうクラッチのクラッチトルクTcを減少させるとエンジン4のエンジントルクTe(出力駆動力)は、回転に対する抵抗が減少するのでエンジン回転数Neが吹き上がり、結果として目標回転数変速度ΔNetが大きくなる。
【0080】
そして、このとき目標回転数変速度ΔNetを大きくするための係合制御時におけるクラッチトルクTcの大きさは、図7のTchに示すように一定でもよいし、必要な目標回転数変速度ΔNetの傾きに応じてクラッチトルクTckに示すようにリニアに減少するよう設定してもよい。また変速完了時入力軸回転数Ni(T)が、原動機過回転数閾値Eを越えず目標回転数変速度ΔNetを大きくする必要がない場合には、図7に示すように通常のクラッチトルクTcmで制御してもよいし、原動機過回転数閾値Eと変速完了時入力軸回転数Ni(T)との乖離量に応じてクラッチトルクTcnをリニアに変更して制御してもよい。
【0081】
また上記、1つ目および2つ目の方法によって同時に制御してもよい。このように本実施形態においては係合制御を行なうクラッチのクラッチトルクTcを増加させる、および、切離制御をおこなうクラッチのクラッチトルクTcを減少させるという2つの方法の少なくとも一方を制御することによって目標回転数変速度ΔNetを大きくする制御を行なう。
【0082】
次に、走行中の車両における第1の実施形態のデュアルクラッチ式自動変速機1が備える変速制御装置の変速制御方法および作用について図8のタイムチャートおよび図9のフローチャートに基づいて説明する。
なお、本実施形態においては、例えば、車両は加速走行中であり第2クラッチディスク42(第2クラッチ)が係合状態であって第2入力軸22とエンジン4とが接続されているものとする。このとき、車両は第2入力軸22で成立している4速ギヤ段によって走行している。よって4速ギヤ段が実ギヤ段Gpである。そして、運転者が加速を欲してアクセルペダルPを所定のアクセル踏込量Lac踏込み、これによってアクセル開度が図5の1点鎖線に示すように3速ギヤ段、および2速ギヤ段のダウンシフト変速線D、Cを通過することによって2速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)への変速要求がTCU3から送出されたものとして説明する。
【0083】
また、本実施形態における4速ギヤ段→2速ギヤ段へのデュアルクラッチ40の変速状態は図8のトルク欄に示すようになっている。具体的には4速ギヤ段の切離制御が開始された後、2速ギヤ段に移行するまでの間には第1入力軸21で成立する3速ギヤ段を経由している。そして2速ギヤ段に移行するまでの間の所定の位置まではデュアルクラッチ40に付与される予め設定される目標クラッチトルクTcaは略一定になるよう制御されている。つまり、第1クラッチディスク41の目標クラッチトルクTcaと第2クラッチディスク42の目標クラッチトルクTcaとが略一定になるよう制御されている。なお、このとき目標クラッチトルクTcaはエンジントルクTeより小さな値になるよう制御される。そして略一定になるよう制御される目標クラッチトルクTcaによって第1クラッチディスク41および第2クラッチディスク42は所謂、半クラッチ状態が維持され、これによってエンジン回転数Neが吹き上がり所定の回転数変速度ΔNetで増加するよう制御されている。このようにして増加したエンジン回転数Neが、2速ギヤ段にダウンシフトしたことによって増加した第2入力軸22の入力軸回転数Niとやがて同期し変速が完了する。このような変速を前提として変速制御方法について以下説明する。
【0084】
ステップS10(推定入力軸加速度演算ステップ)では、入力軸回転数検出部3aによって検出された、現在の第1入力軸21の入力軸回転数Ni1または第2入力軸22の入力軸回転数Ni2に基づいて、実ギヤ段Gp(4速ギヤ段)より低速側の低速側変速ギヤ段(3〜1速ギヤ段)が、対応する入力軸に成立した場合における該入力軸の推定入力軸加速度Ni1a、Ni2aを上述した方法によってそれぞれ推定演算する。
【0085】
ステップS14(要求ギヤ段判定ステップ)では、要求ギヤ段判定部3eによって要求ギヤ段Gdと実ギヤ段Gpとが一致しているか否かが判定される。本実施形態においては2速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)と4速ギヤ段(実ギヤ段Gp)は一致していないのでステップS16に移動する。もし一致していれば既に要求ギヤ段Gdへの変速が完了しているので、ステップS10に戻る。
ステップS16では、図8に示す原動機回転数検出部2bによって検出された現在のエンジン回転数Nepを微分し原動機回転加速度Neaを演算する。
【0086】
ステップS18(変速完了推定時間演算ステップ)では、変速完了推定時間演算部3gが、まず要求ギヤ段Gd(2速ギヤ段)に対応する演算された低速側変速ギヤ段(2速ギヤ段)の推定入力軸加速度Ni2aを要求ギヤ段入力軸回転数Ni(Gd)とする。次に要求ギヤ段入力軸回転数Ni(Gd)と演算されたエンジン回転数Neとが一致(同期)するK点(図8参照)における現在からの経過時間t(=変速完了推定時間T)を式[数2]および式[数3]から演算して求める。
ステップS20(変速完了時回転数演算ステップ)では変速完了推定時間Tに基づき要求ギヤ段入力軸の変速完了時入力軸回転数Ni(T)を演算する。なお、このとき上述したように演算された変速完了推定時間Tに基づき式[数3]によって変速完了時のエンジン回転数Ne(T)を演算してもよい。
【0087】
ステップS22(目標回転数変速度制御ステップ)では、演算された変速完了時入力軸回転数Ni(T)(または変速完了時のエンジン回転数Ne(T))が、エンジン4の許容回転数(最大エンジン回転数Nemax)に応じて予め設定される原動機過回転数閾値Eより大きいか否かを判定する。本実施形態のように原動機過回転数閾値Eより大きい場合には、変速完了時入力軸回転数Ni(T)が最大エンジン回転数Nemaxに近すぎ最大エンジン回転数Nemaxを越えてしまう虞があるので、ステップS24に移動し原動機過回転数閾値Eを越えないための処理をおこなう。原動機過回転数閾値Eより小さい場合には、ステップS26に移動し通常の目標回転数変速度で制御を行なう。
【0088】
ステップS24(目標回転数変速度制御ステップ)では、目標回転数変速度制御部3kによって、変速完了時入力軸回転数Ni(T)が原動機過回転数閾値Eを越えないようにするため、エンジン4の目標回転数変速度ΔNetを制御の途中から大きくするよう制御する。このとき本実施形態においては、目標回転数変速度ΔNetを大きくするために切離制御される3速ギヤ段が成立している第1入力軸21に対応する第1クラッチディスク41のクラッチトルクTcを減少させている(図8、F部参照)。これによりエンジン4は自身のエンジントルクTeによって吹き上がりはじめ目標回転数変速度ΔNetが大きくなる(図8回転数欄のG部参照)。このとき、目標回転数変速度ΔNetの大きさは、変速完了時入力軸回転数Ni(T)が原動機過回転数閾値Eを越えなければどのように決定してもよい。これにより、変速完了時入力軸回転数Ni(T)は原動機過回転数閾値E以下となり、例えば変速完了後にアップシフトの変速指令が送信されても、最大エンジン回転数Nemaxを越えることなく変速を完了させることができ、信頼性が向上する。
【0089】
なお、上記方法のみに限らず前述したように目標回転数変速度ΔNetを大きくする方法として、係合制御を行なうクラッチのクラッチトルクTcを増加させることによって目標回転数変速度ΔNetが大きくなるよう制御してもよい。つまり、本実施形態においては、これから係合制御が行なわれる2速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)が成立する第2入力軸22に対応する第2クラッチディスク42のクラッチトルクTcを増加させるよう制御すればよい。これによっても目標回転数変速度ΔNetは増加し同様の効果が得られる。さらに切離制御される第1クラッチディスク41のクラッチトルクTcの減少と、係合制御される第2クラッチディスク42のクラッチトルクTcの増加とを同時に実施することによって制御してもよい。
【0090】
なお、上記においては3速ギヤ段が成立している状態において目標回転数変速度ΔNetを大きくする制御を行なった、しかしこれに限らず、図8H部に示す4速ギヤ段を切離制御し3速ギヤ段を係合制御する状態においても本発明の制御を適用することができる。このようにより早い段階で本発明の制御を適用することにより最大エンジン回転数Nemaxを越えることに対する信頼性はさらに向上する。
【0091】
上述の説明から明らかな様に、本実施形態に係るデュアルクラッチ式自動変速機1においては、ダウンシフトの要求ギヤ段Gdによって変速指令が送出され、要求ギヤ段判定部3eが係合状態のクラッチに対応する入力軸(実ギヤ段入力軸)で成立している実ギヤ段Gpは要求ギヤ段Gdとは異なると判定すると、係合制御において要求ギヤ段Gdに対応する要求ギヤ段入力軸の入力軸回転数Niとエンジン4(原動機)の原動機回転数とが一致(同期)するまでの変速完了推定時間Tが演算される。このとき変速完了推定時間Tは検出される入力軸回転数と所定の実ギヤ段Gpから所定の要求ギヤ段Gdへ変速する場合毎に予め設定されている目標クラッチトルクによって決定される目標回転数変速度とに応じて演算される。その後、演算された変速完了推定時間Tに基づき要求ギヤ段Gdに対応する要求ギヤ段入力軸の変速完了時の入力軸回転数Ni(T)が演算される。そして演算された変速完了時入力軸回転数Ni(T)がエンジン4(原動機)の最大エンジン回転数Nemax(許容回転数)に応じて予め設定される原動機過回転数閾値Eより大きい場合には、変速完了時入力軸回転数Ni(T)が原動機過回転数閾値Eより小さくなるようエンジン回転数Neの目標回転数変速度ΔNetを変速制御の途中から大きくするよう、係合制御を行なうクラッチのクラッチトルクTcの増加および切離制御をおこなうクラッチのクラッチトルクTcの減少の少なくとも一方を制御して対応する。
【0092】
つまり駆動輪に所定のトルクを伝達させながら目標回転数変速度ΔNetを大きくしたい等の場合には係合制御を行なうクラッチのクラッチトルクTcを増加させることによって達成する。また駆動輪へのトルクの伝達よりも変速ショックの軽減を優先させながら目標回転数変速度ΔNetを大きくしたい等の場合には切離制御をおこなうクラッチのクラッチトルクTcを減少させることによって達成する。このように状況に応じて制御方法を適宜使い分け、対応することが可能となる。これにより、エンジン回転数Neは原動機過回転数閾値Eより小さな回転数領域において入力軸と同期(一致)可能となるので、ダウンシフト中においても原動機回転数が過回転となることを防止しながら要求ギヤ段Gdによる変速を良好に完了させることができ、信頼性が向上する。
【0093】
また、実際のエンジン回転数Neに基づき演算した原動機回転加速度Neaから変速完了推定時間Tを演算するので、精度よく変速完了推定時間Tが推定でき、信頼性が向上する。
【0094】
次に、本実施形態においては、変速完了推定時間Tを演算する場合には、式[数2]が示す要求ギヤ段入力軸回転数Ni(Gd)と、式[数3]が示すエンジン回転数Neとが一致(同期)するときの現在からの経過時間tを演算することによって変速完了推定時間Tを求めた。しかしこの態様に限らず、変形例として図10に示すように、例えば4速ギヤ段(実ギヤ段Gp)→2速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)、5速ギヤ段(実ギヤ段Gp)→3速ギヤ段(要求ギヤ段Gd)というようにシフトダウンする変速段同士の組み合わせパターンによって決定される車速Vに対する変速完了推定時間Tのマップデータに基づいて変速完了推定時間Tを推定演算してもよい。なお、このとき車速Vは、第1入力軸または第2入力軸の入力軸回転数から求めてもよいし、車輪16a、16b近傍に設けられた車速センサ23a、23b、の出力を検出することによって求めてもよい。
【0095】
このように変形例では、変速完了推定時間Tが車速Vやアクセル踏込み量Lac等に応じて予め設定される目標クラッチトルクTcaの大きさによって決定されることを利用してマップを作成し該マップから変速完了推定時間Tを推定演算するものである。このときアクセル踏込み量LacはECU2が有するアクセル踏込量検出部2aによって検出する。そして、図10に示すマップではアクセルペダルPの踏込量Lacの大きさを例えば3段階に区分し、該区分に基づき変速完了推定時間Tを判断するようにしている。これによってより精度良く、変速完了推定時間Tが推定できる。また、変形例の変速制御方法は、図9のフローチャートにおいてステップS16を削除し、ステップS18(変速完了推定時間演算ステップ)において図10のマップから車速Vおよびアクセル踏込み量Lacに対応する変速完了推定時間Tを演算すればよい。それ以外の制御については、第1の実施形態と同様であり、これによって第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0096】
なお、本実施形態においては、車両が第1入力軸21で成立している4速ギヤ段によって走行しており、その後、3速ギヤ段を経由して2速ギヤ段へ変速するよう変速要求がTCU3から送出されたものとして説明した。しかしこの態様に限らず、3速ギヤ段を経由せずに4速ギヤ段→2速ギヤ段へ変速する変速要求がTCU3から送出される態様(所謂、シングル変速)であってもよい。この場合には、まず変速制御部3bが、4速ギヤ段が成立された第2入力軸22が連結する第2クラッチディスク42を切離制御によって切離させる。その後、切離された第2入力軸22に成立された2速ギヤ段の作用によって、切離された変速前の4速ギヤ段時の第2入力軸回転数Ni2よりも増加している、第2入力軸22の第2入力軸回転数Ni2に一致させるようエンジン回転数Neを燃料噴射等によって増加させ、その後第2クラッチディスク42によって係合制御する。そして、この係合制御を実施するときに本発明に係る制御を適用すればよい。これによっても第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0097】
また、本実施形態においては、第1入力軸21に、奇数段の駆動ギヤで51、53、55および57を固定して設け、第2入力軸22に、偶数段の駆動ギヤ52、54、および56を固定して設けた。そして第1副軸31および第2副軸32に、第1入力軸21の奇数段駆動ギヤと噛合して奇数変速段を成立させる従動ギヤ61、63、65、67と、第2入力軸22の偶数段駆動ギヤと噛合して偶数変速段を成立させる従動ギヤ62、64、66とを遊転可能に設けた。しかし、この形態に限らず第1入力軸21および第2入力軸22に、それぞれ駆動ギヤ51、53、55、57と駆動ギヤ52、54、56とを遊転可能に設けてもよい。そしてこのときには第1副軸31、および第2副軸32に1速〜7速従動ギヤ61〜67を固定して設けてやればよい。
【0098】
また、特開2011−144872公報の図1に開示されるデュアルクラッチ式自動変速機のように7速駆動ギヤ26aのみを第1入力軸15に遊転可能に設け、7速駆動ギヤ26aに噛合する7速従動ギア26bを第2副軸18に固定して設けてもよい。さらに公報の図1に示すように切替えクラッチ30Dが紙面右方に移動することによって第1入力軸15と出力軸19とを直結するよう構成してもよい。このようなデュアルクラッチ式自動変速機においても同様の効果が得られる。
【0099】
また、本実施形態に係るデュアルクラッチ40を構成する第1、第2クラッチディスク41、42、センタプレート43、および第1、第2プレッシャプレート44、45の各配置については、本実施形態において説明した態様に限らず、どのように配置して構成してもよい。
【0100】
また、本実施形態においては、本発明に係るデュアルクラッチ式自動変速機として前進7速の変速段を有するデュアルクラッチ式自動変速機にて説明した。しかし、この態様に限らずデュアルクラッチ式自動変速機は7速を越える前進変速段、または6速以下の前進変速段を有するものでもよい。これによっても同様の効果が得られる。
【0101】
また、本実施形態においては、フォークシャフト135を4本設け、それぞれのフォークシャフト135に対して設けたフォーク72a〜72dを各々作動させて各ギヤ段の切り替えを行なった。しかしこれに限らずセレクト用モータを設け、セレクト用モータの駆動によりフォークシャフトを選択し、選択したフォークシャフトをシフト用モータによってスライドさせて各ギヤ段の切り替えを行なってもよい。
さらに、デュアルクラッチ式自動変速機を、自動車に適用するのではなく、自動二輪車等の他の自動変速機に適用してもよい。
【符号の説明】
【0102】
1・・・デュアルクラッチ式自動変速機、2・・・変速制御装置(ECU)、 3・・・変速制御装置(TCU)、4・・・エンジン、4a・・・出力軸回転数センサ、10・・・ケース、11・・・ミッションケース、12・・・クラッチハウジング、17・・・第1クラッチアクチュエータ、18・・・第2クラッチアクチュエータ、21・・・第1入力軸、22・・・第2入力軸、23a、23b・・・車速センサ、31・・・第1副軸、32・・・第2副軸、40・・・デュアルクラッチ、41・・・第1クラッチディスク、42・・・第2クラッチディスク、101、104・・・第1シフト機構(第1、第4シフトクラッチ)、102、103・・・第2シフト機構(第2、第3シフトクラッチ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同心に配置された第1入力軸および第2入力軸と、
車両の原動機の回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチおよび前記回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチを有するデュアルクラッチと、
前記第1入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および前記第2入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構と、
前記原動機の駆動軸の回転数を原動機回転数として検出する原動機回転数検出部と、
前記第1入力軸および前記第2入力軸の各入力軸回転数を検出する入力軸回転数検出部と、
変速指令が送出されると、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチのうち、前記第1入力軸および前記第2入力軸のうちの前記原動機から切り離される実ギヤ段が成立する入力軸に対応するクラッチをクラッチトルクを制御することによって切離する切離制御を行ない、前記第1入力軸および前記第2入力軸のうちの前記原動機に接続される要求ギヤ段が成立する入力軸に対応するクラッチをクラッチトルクが前記原動機の出力駆動力と前記原動機に要求される目標回転数変速度とに基づいて演算される目標クラッチトルクになるよう制御し、前記原動機回転数と前記接続される入力軸の前記入力軸回転数とを同期させる係合制御を行なう変速制御装置と、を備え、
前記変速制御装置は、
検出された前記第1または第2入力軸の前記入力軸回転数に基づいて、前記実ギヤ段より低速側の低速側変速ギヤ段がそれぞれ対応する前記第1または第2入力軸に成立された場合の該第1または第2入力軸の推定入力軸加速度を演算する推定入力軸加速度演算部と、
前記変速指令でダウンシフトの要求ギヤ段が送出されたか否かを判定するダウンシフト指令送出判定部と、
前記ダウンシフト指令送出判定部によって前記ダウンシフトの要求ギヤ段が送出されたと判定された場合に、前記要求ギヤ段と前記実ギヤ段とが一致するか否かを判定する要求ギヤ段判定部と、
前記要求ギヤ段判定部によって前記要求ギヤ段が前記実ギヤ段と一致しないと判定された場合に、前記要求ギヤ段に対応する前記演算された前記低速側変速ギヤ段の前記推定入力軸加速度と、前記実ギヤ段から前記要求ギヤ段への変速パターンに応じて設定される前記原動機の前記目標回転数変速度と、に基づき前記係合制御において前記入力軸回転数と前記原動機回転数とが同期する変速完了時までの変速完了推定時間を演算する変速完了推定時間演算部と、
演算された前記変速完了推定時間に基づき前記変速完了時における前記入力軸回転数または前記原動機回転数の変速完了時回転数を演算する変速完了時回転数演算部と、
演算された前記変速完了時回転数が、前記原動機の許容回転数に応じて予め設定される原動機過回転数閾値より大きい場合には、前記係合制御を行なうクラッチの前記クラッチトルクの増加および前記切離制御を行なうクラッチの前記クラッチトルクの減少の少なくとも一方を制御して前記目標回転数変速度を変速制御の途中から大きくし、前記変速完了時回転数を前記原動機過回転数閾値より小さくする目標回転数変速度制御部と、
を備えるデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記原動機の前記原動機回転数に基づいて前記原動機の原動機回転加速度を演算する原動機回転加速度演算部を備え、
前記変速完了推定時間演算部は、
前記演算された原動機回転加速度に基づいて前記目標回転数変速度を変更するデュアルクラッチ式自動変速機。
【請求項3】
同心に配置された第1入力軸および第2入力軸と、車両の原動機の回転駆動力を前記第1入力軸に伝達する第1クラッチおよび前記回転駆動力を前記第2入力軸に伝達する第2クラッチを有するデュアルクラッチと、前記第1入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して奇数変速段を成立させる第1シフト機構、および前記第2入力軸に伝達された前記回転駆動力を変速して偶数変速段を成立させる第2シフト機構と、前記原動機の駆動軸の回転数を原動機回転数として検出する原動機回転数検出部と、前記第1入力軸および前記第2入力軸の各入力軸回転数を検出する入力軸回転数検出部と、変速指令が送出されると、前記第1クラッチおよび前記第2クラッチのうち、前記第1入力軸および前記第2入力軸のうちの前記原動機から切り離される実ギヤ段が成立する入力軸に対応するクラッチを、クラッチトルクを制御することによって切離する切離制御を行ない、前記第1入力軸および前記第2入力軸のうちの前記原動機に接続される要求ギヤ段が成立する入力軸に対応するクラッチをクラッチトルクが前記原動機の出力駆動力と前記原動機に要求される目標回転数変速度とに基づいて演算される目標クラッチトルクになるよう制御し、前記原動機回転数と前記接続される入力軸の前記入力軸回転数とを同期させる係合制御を行なう変速制御装置と、を備えたデュアルクラッチ式自動変速機の変速制御方法であって、
前記変速制御方法は、
検出された前記第1または第2入力軸の前記入力軸回転数に基づいて、前記実ギヤ段より低速側の低速側変速ギヤ段がそれぞれ対応する前記第1または第2入力軸に成立された場合の該第1または第2入力軸の推定入力軸加速度を演算する推定入力軸加速度演算ステップと、
前記変速指令でダウンシフトの要求ギヤ段が送出されたか否かを判定するダウンシフト指令送出判定ステップと、
前記ダウンシフト指令送出判定ステップによって前記ダウンシフトの要求ギヤ段が送出されたと判定された場合に、前記要求ギヤ段と前記実ギヤ段とが一致するか否かを判定する要求ギヤ段判定ステップと、
前記要求ギヤ段判定ステップによって前記要求ギヤ段が前記実ギヤ段と一致しないと判定された場合に、前記要求ギヤ段に対応する前記演算された前記低速側変速ギヤ段の前記推定入力軸加速度と、前記実ギヤ段から前記要求ギヤ段への変速パターンに応じて設定される前記原動機の前記目標回転数変速度と、に基づき前記係合制御において前記入力軸回転数と前記原動機回転数とが同期する変速完了時までの変速完了推定時間を演算する変速完了推定時間演算ステップと、
演算された前記変速完了推定時間に基づき前記変速完了時における前記入力軸回転数または前記原動機回転数の変速完了時回転数を演算する変速完了時回転数演算ステップと、
演算された前記変速完了時回転数が、前記原動機の許容回転数に応じて予め設定される原動機過回転数閾値より大きい場合には、前記係合制御を行なうクラッチの前記クラッチトルクの増加および前記切離制御を行なうクラッチの前記クラッチトルクの減少の少なくとも一方を制御して前記目標回転数変速度を変速制御の途中から大きくし、前記変速完了時回転数を前記原動機過回転数閾値より小さくする目標回転数変速度制御ステップと、
を備えるデュアルクラッチ式自動変速機の変速制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−87778(P2013−87778A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225527(P2011−225527)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】