説明

トラクター用油圧流体組成物及びそれの調製

トラクター用油圧流体組成物は異性化基油から準備され、a)その生成物、留分又は供給原料はフィッシャー−トロプシュプロセスから由来する若しくはフィッシャー−トロプシュプロセスからのワックス状供給原料の異性化によるいずれかの段階で製造される(フィッシャー−トロプシュ由来基油)、又はb)実質的にパラフィン系のワックス供給原料(ワックス状供給原料)から作られる。一実施態様では、同組成物は粘度調整剤の使用量が0〜10重量%にまで低下し、70,000mPa.s未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、合衆国憲法35条119項の下で2007年9月27日に出願された米国仮出願番号60/975,720に与えられた優先権を主張する。同開示事項は本明細書内に組み入れられる。
【0002】
本発明は、一般的にはトラクター用油圧流体組成物に関し、より詳細には粘度調整剤の使用量を低下させたトラクター用油圧流体組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
トラクター用油圧流体は、トラクター、オフハイウェイ機器、建設用機器等のオフハイウェイ移動装置の可動部品の潤滑のために使用される多目的潤滑剤である。いくつかの実施態様においては、この種の流体は上述の機器内の変速機、差動装置、最終ドライブの遊星歯車、湿式ブレーキ及び油圧系の全てを潤滑するように調合され、特定の製造業者の要求事項を満足させている。機器製造業者は高温(すなわち100°C)で適切な粘度を維持しつつより低温(すなわち−40°C)でより低粘度の潤滑剤を求めている。
【0004】
先行技術でのトラクター用油圧流体組成物は、典型的には基油ストックとしてグループI、II、III、IV(すなわち合成ポリa−オレフィン(PAO))、又はそれらの混合物を用いている。これらのグループは、基油指針を設定するために米国石油協会(API)が開発した基油に関する広範囲なカテゴリーを意味する。近年の改質プロセスは、例えばフィッシャー−トロプシュ基油(FTBO)等の新油種を製造しており、同基油はフィッシャー−トロプシュプロセスから由来する又は同プロセスによるいずれかの段階で生成される、油、留分、又は供給原料である。
【0005】
フィッシャー−トロプシュ合成生成物は、よく知られたプロセスにより得られる。これらのプロセスを例示すると、商業化されているSASOL(登録商標)スラリー相フィッシャー−トロプシュ技術、商業化されているSHELL(登録商標)ミドルディスティレート合成(SMDS)プロセス、又は未商業化のEXXON(登録商標)アドバンスト・ガス・コンバージョンプロセスが挙げられる。これら及びその他のプロセスの詳細は以下の特許文献に記載されている:EP−A−776959、EP−A−668342、米国特許番号4,943,672、5,059,299、5,733,839、及びRE39073;並びに米国公開出願番号2005/0227866、WO−A−9934917、WO−A−9920720及びWO−A−05107935。フィッシャー−トロプシュ合成生成物は、1〜100個又は100個すら超える炭素原子、を有する炭化水素を通常は含み、これらは典型的にはパラフィン類、オレフィン類及び含酸素生成物を包含している。フィッシャー−トロプシュプロセスは、クリーンな代替炭化水素生成物を製造するための経済的に成立するプロセスである。フィッシャー−トロプシュ基油を製造するためのプロセスでは、中間供給原料又は生成物を常圧又は減圧の蒸留装置により精留してよい。広い沸点範囲を有する水素の存在下で異性化基油を精留する場合には、減圧蒸留塔から回収された塔底物質は高沸点炭化水素の混合物である。
【0006】
米国特許番号7,189,682は、以下の粘度調整剤種の混合物を使用するトラクター用油圧流体を開示している:10,000〜60,000の重量平均分子量を有する第一の粘度調整剤(2〜30重量%)、第一の粘度調整剤よりも大きくかつ50,000〜200,000の重量平均分子量を有する第二の粘度調整剤(1〜6重量%)。トラクター用油圧流体に適する油はフィッシャー−トロプシュ合成により製造された油を包含する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
粘度調整剤の使用によって、ある種の用途のためのトラクター用油圧流体のせん断安定性が損なわれる可能性がある。粘度調整剤の使用量を低下すると同時にトラクター機器に関する目標とする動粘度及び低温ブルックフィールド粘度仕様値を依然として満たす改善されたトラクター用油圧流体組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施態様では、(i)潤滑油基油、(ii)0〜10重量%の粘度調整剤及び(iii)0〜10重量%の少なくとも1種の添加剤パッケージ、を含むトラクター用油圧流体組成物が提供される。同潤滑油基油は連続した数の炭素原子及びn−d−Mで測定される7.5重量%未満のナフテン系炭素を有する。同トラクター用油圧流体組成物は、70,000mPa.s未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度及び少なくとも7.0mm/sの100°Cに於ける動粘度を有する。
【0009】
別の実施態様では、70,000mPa.s未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度及び少なくとも7.0mm/sの100°Cに於ける動粘度を有するトラクター用油圧流体組成物を製造するための方法が提供される。その方法は、(i)連続した数の炭素原子及びn−d−Mで測定される7.5重量%未満のナフテン系炭素を有する潤滑油基油、(ii)0〜10重量%の粘度調整剤及び(iii)0〜10重量%の少なくとも1種の添加剤パッケージ、をブレンドする工程を含む。
【0010】
更に別の実施態様では、機器潤滑のためのプロセスが提供される。同プロセスは、オフハイウェイ移動機器の油容器に対してトラクター用油圧流体組成物を供給する方法を含む。同組成物は(i)潤滑油基油、(ii)0〜10重量%の粘度調整剤及び(iii)0〜10重量%の少なくとも1種の添加剤パッケージを含む。同潤滑油基油は、本質的に連続した数の炭素原子及びn−d−Mで測定される7.5重量%未満のナフテン系炭素を有する異性化基油から成り、また同トラクター用油圧流体組成物は、70,000mPa.s未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度及び少なくとも7.0mm/sの100°Cに於ける動粘度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、基油粘度の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度に対する効果を示しており、ここでは異性化基油ブレンドをAPIグループI及びII規定の基油を含有する通常型ブレンドと比較している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の用語は本明細書を通じて使用されており、断りがない限り以下の意味を有する。
【0013】
「フィッシャー−トロプシュ由来」とは、生成物、留分又は供給原料がフィッシャー−トロプシュプロセスから由来する又は同プロセスのいずれかの段階で生成されることを意味する。本明細書で使用される「フィッシャー−トロプシュ基油」とは「FT基油」、「FTBO」、「GTL基油(GTL:gas−to−liquid)」又は「フィッシャー−トロプシュ由来基油」と同じ意味で用いられる。
【0014】
本明細書で使用される「異性化基油」とはワックス状供給原料の異性化によって作られた基油のことである。
【0015】
本明細書で使用される「ワックス状供給原料」は、少なくとも40重量%のn−パラフィンを含む。一実施態様では、同ワックス状供給原料は50重量%を越えるn−パラフィンを含む。別の実施態様では、75重量%を越えるn−パラフィンを含む。一実施態様では、同ワックス状供給原料は更に窒素及び硫黄を極めて低い濃度、例えば合計で25重量ppm未満、含み、又は他の実施態様では20重量ppm未満含む。ワックス状供給原料の例として、スラックワックス、脱油スラックワックス、精製脚油(refined foots oils)、ワックス状潤滑剤ラフィネート、n−パラフィンワックス、NAOワックス、化学プラント過程で生成されたワックス、脱油石油由来ワックス、微結晶質ワックス、フィッシャー−トロプシュワックス、及びこれらの混合物が挙げられる。一実施態様では、同ワックス状供給原料は50°Cを越える流動点を有し、別の一実施態様では60°Cを越える流動点を有する。
【0016】
本明細書で使用される「流動点降下ブレンド成分」とは、比較的高分子量及び特定の分子内アルキル系分岐度を有する異性化ワックス状生成物のことであり、それを含有する潤滑剤基油の流動点を降下させる。同流動点降下ブレンド成分の例は、米国特許番号6,150,577、7,053,254及び米国特許公開番号2005−0247600A1に開示されている。流動点降下ブレンド成分は、1)異性化されたフィッシャー−トロプシュ由来の塔底生成物、2)異性化された高度にワックス状の鉱油から得られた塔底生成物、又は3)ポリエチレン系プラスチックから作られた少なくとも約8mm/sの100°Cに於ける動粘度を有する異性化油、であり得る。
【0017】
「動粘度」とは、mm/sの単位を有する重力下での流体の流動に対する抵抗を示すものであり、ASTM D445−06により測定される。
【0018】
「粘度指数(VI)」とは、温度変化の油の動粘度に対する効果を示す経験的な無次元数である。VIが高い程、その油は温度に対する粘度変化が少ない。粘度指数はASTM D2270−04により測定される。
【0019】
基油の「沸点範囲分布(SIMDIST TBP)」とは、ASTM D6352−04「174〜700°Cの沸点範囲を有する石油留出物のガスクロマトグラフィにより測定される沸点範囲分布」に基づいて実施される模擬蒸留により測定され、重量%の単位を有する。
【0020】
「ノアック揮発度」は、油中に一定流量で60分間空気を導入し、その油を250℃に加熱したときに失われる、重量%で表される油の質量として定義され、ASTM D5800−05、手順Bに則って測定される。他の用いられる方法はTGAノアックであり、これはASTM D6375−05により測定される。TGAノアックが用いられる場合には、そのように表示される。
【0021】
「ブルックフィールド粘度」とは、低温操作の際の潤滑剤の内部流動抵抗を決めるために用いられ、これはASTM D2983−04により測定され得る。
【0022】
「流動点」とは基油試料が注意深く制御されたある種の条件下で流動を開始する温度測定値であり、これはASTM D5950−02により測定され得る。
【0023】
「Ln」とは底「e」での自然対数のことである。
【0024】
「トラクション係数」とは潤滑剤固有の性質を示すもので、摩擦力Fと法線方向の力Nとの無次元比で表示され、摩擦とは滑り又は回転表面間の移動に抵抗又は阻害する機械的な力である。トラクション係数はPCS Instrument社のMTMトラクション測定システムで測定され得るものであり、同システムは、平坦で46mm径の研磨した円盤(SAE AISI52100鋼製)に対して220の角度をなす19mm径の研磨した球体(SAE AISI52100鋼製)で構成される。同鋼製の球及びディスクは3m/秒の平均転がり速度、滑り/転がり比40%及び20ニュートンの負荷の下で独立して測定される。滑り/転がり比は球及びディスク間の滑り速度の差をこれらの平均速度で除したもの、すなわち(速度1−速度2)/((速度1+速度2)/2)で定義される。
【0025】
本明細書で使用される「連続した数の炭素原子」とは、基油が、ある範囲の炭素数の炭化水素分子の分布を有しその範囲中の全炭素数を有することを意味する。例えば、基油は、C22〜C36又はC30〜C60の範囲の炭化水素分子であってその範囲の全炭素数を有してもよい。ワックス状供給原料もまた連続した炭素数を有する結果、基油中の炭化水素分子は連続した炭素原子数によって互いに異なっている。例えば、フィッシャー−トロプシュ炭化水素合成反応では、炭素原子源はCOであり、それと水素の反応により炭化水素分子を生成する。石油由来のワックス状供給原料は連続した数の炭素原子を有する。ポリアルファオレフィン(「PAO」)系の油とは対照的に、異性化基油内の分子はより線形の構造を有しており、比較的長い幹部と比較的短い分岐鎖を有する。古典的なテキストブックの記載によればPAOは星型の分子であり、特にトリデカンでは3個のデカン分子が中心点で互いに結合している。星型分子は仮想的なものではあるが、それでもPAO分子は、本明細書で使用される異性化基油を作り上げる炭化水素分子より少なく長い分岐鎖を有している。
【0026】
「シクロパラフィン官能性を有する分子」は、モノシクロもしくは縮環したマルチシクロ炭化水素基である、又はこれを1個若しくは複数個の置換基として含有する、あらゆる分子を意味する。
【0027】
「モノシクロパラフィン官能性を有する分子」は、3から7個の環の炭素のモノシクロ飽和炭化水素基である、又は3〜7個の環の炭素のモノシクロ飽和炭化水素基で置換されたものである、あらゆる分子を意味する。
【0028】
「マルチシクロパラフィン官能性を有する分子」は、2個以上の縮環の縮環マルチシクロ飽和炭化水素環基であるあらゆる分子、1若しくは複数の、2個以上の縮環の縮環マルチシクロ飽和炭化水素環基で置換されているあらゆる分子、又は3〜7個の環の炭素の1を超えるモノシクロ飽和炭化水素基で置換されているあらゆる分子、を意味する。
【0029】
シクロパラフィン官能性を有する分子、モノシクロパラフィン官能性を有する分子及びマルチシクロパラフィン官能性を有する分子は重量%で報告され、電界イオン化質量分析(FIMS)、芳香族分析のための紫外線検出器装備の高速液体クロマトグラフィ(HPLC−UV)、オレフィン類分析のためのプロトンNMRの組み合わせで測定される、これは本明細書でより詳細に記載されている。
【0030】
「オキシデーターBN」は想定適用における潤滑油の応答性を測定する。1Lの酸素を吸着するための高値(長時間)は高安定性を意味する。オキシデーターBNによる測定は、Dornte式の酸素吸着装置(R.W.Dornte、「白油の酸化」、インダストリアル・アンド・エンジニアリング・ケミストリー、28巻、26頁、1936)の使用により実施できる。この装置は100gの油が1気圧、340°Fの条件下で1000mLの純酸素を吸着するに要する時間を測定する。オキシデーターBN試験においては、油100g当たり0.8mLの触媒が使用される。同触媒は、可溶性のナフテン酸金属塩の混合物であり、使用済みのクランクケース油の平均的な金属分析をシミュレートする。同添加剤パッケージは、油100g当たり80ミリモルのリン酸ビスポリプロピレンフェニル亜鉛から成る。
【0031】
分子特性は、例えば電界イオン化質量分析(FIMS)やn−d−M分析(規格化されたASTM D3238−95(2005年に再承認))といった当業界で既知の方法により決めることができる。FIMS分析では、基油はアルカン類及び異なった不飽和数を有する分子として同定される。異なった不飽和数を有する分子は、シクロパラフィン、オレフィン及び芳香環で構成されてもよい。芳香族が潤滑基油において相当量で存在する場合、これらはFIMS分析で4−不飽和として同定されよう。オレフィンが相当量で存在する場合、これらは1−不飽和として同定されよう。FIMS分析の結果、1−不飽和、2−不飽和、3−不飽和、4−不飽和、5−不飽和及び6−不飽和の合計からプロトンNMRによるオレフィン重量%を差し引き及びHPLC−UVによる芳香族重量%を差し引いた値がシクロパラフィン官能性を有する分子全量の重量%である。もし芳香族濃度が測定されなかった場合には、これは0.1重量%未満と仮定し、シクロパラフィン官能性を有する全分子濃度の計算から除外した。シクロパラフィン官能性を有する全分子濃度(重量%)はモノシクロパラフィン官能性を有する分子とマルチシクロパラフィン官能性を有する分子の合計量の濃度である。
【0032】
分子量はASTM D2503−92(2002年に再承認)により決める。同方法は蒸気圧(VPO)の熱電測定を用いる。試料量が不十分な場合にはASTM D2502−04を代案として用いてよい。この方法を用いた場合にはそのように表示される。
【0033】
密度はASTM D4052−96(2002年に再承認)により決める。試料を振動している管内に導入し、管質量の変化に起因する振動周期の変化を較正データと共に用いて試料密度を決める。
【0034】
オレフィンの重量%は、本明細書内に規定される手順に従ってプロトンNMRにより決定できる。大半の試験では、オレフィンは通常型のものである。すなわち、例えば、アルファ、ビニリデン、シス、トランス及びトリ置換の、二重結合炭素に付いた水素を有するこれらのオレフィンタイプの分布混合物であり、この場合の検出可能なアリル基/オレフィンの積分比は1〜2.5である。同比率が3を越える場合には、トリ又はテトラ位に置換したオレフィンの濃度がより高いことを示し、分析技術では知られた他の前提条件を用いて試料内の二重結合数を計算できる。同手順を以下に述べる。A)5〜10%テスト炭化水素の重クロロホルム溶液を準備する。B)少なくとも12ppmのスペクトル幅を有する標準プロトンスペクトルを取得し、正確に化学シフト(ppm)軸を参照する。この場合に使用する分析器はレシーバー/ADCに過負荷をかけることなく信号を取得するために十分なゲイン範囲を有する。例えば、30度パルスをかける場合、同分析器は少なくとも65,000のデジタル処理のためのダイナミックレンジを有する。C)以下の範囲での積分強度を測定する:6.0〜4.5ppm(オレフィン)、2.2〜1.9ppm(アリル基)、及び1.9〜0.5ppm(飽和分子)。D)ASTM D2503−92(2002年に再承認)によって決められる試料分子量を用いて以下を計算する。1.飽和炭化水素の平均分子式;2.オレフィンの平均分子式;3.全積分強度(=全ての積分強度の合計値);4.試料水素当たりの積分強度(=全積分強度/分子式内の水素数);5.オレフィン水素数(オレフィン積分強度/1水素当たりの積分強度);6.二重結合数(=オレフィン水素×オレフィン分子式内の水素数/2);及び7.プロトンNMRで決められるオレフィン濃度(重量%)=100×二重結合数×典型的なオレフィン分子内の水素数/典型的な試料分子内の水素数。同試験では、手順D)でのプロトンNMRによるオレフィン濃度(重量%)は、それが低い場合(15重量%未満)に特にうまく働く。
【0035】
一実施態様での芳香族の重量パーセントはHPLC−UVによって測定できる。一実施態様では、同試験はHP Chem−stationに接続したHP 1050 Diode−Array UV−Vis検出器と結合したヒューレット・パッカード1050シリーズ4段勾配高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムを使用して実施される。高度に飽和したフィッシャー−トロプシュ誘導潤滑基油中の個々の芳香族クラスの同定は、これらのUVスペクトルパターン及びこれらの溶出時間を基準に行うことができる。この分析のために使用されるアミノカラムは、これらの環数(又は更に正確には、二重結合数)を基準に主に芳香族分子を識別する。したがって、単環芳香族含有分子が最初に溶出し、続いて1分子当たりの二重結合数の増加の順にポリシクロ芳香族が溶出する。類似する二重結合の特徴を有する芳香族では、環上にアルキル置換体だけを有する分子はナフテン置換体を有する分子より早く溶出する。UV吸光度スペクトルに基づく基油中の各種芳香族炭化水素の明確な同定は、ピーク電子遷移は純粋なモデル化合物類似体に比べて全てレッドシフトする(red−shifted)ということを認識して達成できる。シフト度合いは環システム上のアルキル基及びナフテン基の置換度合いによって変わる。溶出芳香族化合物の定量化は、各々の一般的な化合物種に対して最適化された波長から求めたクロマトグラムをその化合物の適切な溶出時間帯にわたって積分することにより達成できる。各々の芳香族化合物種に関する溶出時間帯の制約は、溶出化合物の異なった時間での個々の吸光度スペクトルを手作業で評価し、それらをモデル化合物の吸光度スペクトルに対する定性的類似性に基づいて同化合物種に割り当てることにより決めることができる。
【0036】
芳香族炭素(Ca)の重量パーセント、ナフテン系炭素(Cn)の重量パーセント、及びパラフィン系炭素(Cp)の重量パーセントは、一実施態様では、規格化されたASTM D3238−95(2005年に再承認)により測定できる。ASTM D3238−95(2005年に再承認)は、n−d−M法による石油系油での炭素分布の計算及び構造基分析に関する標準試験法(the Standard Test Method for Calculation of Carbon Distribution and Structural Group Analysis of Petroleum Oils by the n−d−M Method)である。同方法は、「オレフィンフリー」供給原料のためのものである。同供給原料は、本発明に対する適用においては、オレフィン濃度は2重量%未満と仮定していることを意味する。規格化プロセスは、以下の構成からなる:A)もしCa値がゼロ未満であれば、それをゼロに設定し、Cn値とCp値を比例的に増加させて、合計を100%にする;B)もしCn値がゼロ未満であれば、それをゼロに設定し、Ca値とCp値を比例的に増加させて、合計を100%にする;そしてC)もしCn値及びCa値が両方ともゼロ未満であれば、それらをゼロに設定し、Cp値を100%に設定する。
【0037】
分岐度とは炭化水素中のアルキル基分岐の数のことである。分岐及び分岐位置は、以下の9ステップから成るプロセスに従って炭素13(13C)NMR分析により決定できる:1)DEPT パルス・シーケンスを使用してCH分岐中心及びCH側鎖末端点を同定する(Doddrell,D.T.、Pegg,M.R.、D.T.Bendall、Jounal of Magnetic Resonance, 1982,48,323以降)。2)APTパルス・シーケンスを使用して複数の分岐の出発点となる炭素の不存在(第4級炭素)を検証する(Patt,S.L.;J.N.Shoolery,Jounal of Magnetic Resonance,1982,46,535以降)。3)当技術分野では既知の一覧化された計算値を使用して各種の分岐炭素共鳴をアサインし分岐位置及び長さを特定する(Lindeman,L.P.,Journal of Qualitative Analytical Chemistry, 43, 1971,1245以降;Netzel, D.A.,Fuel, 60, 1981,307以降)。4)メチル基/アルキル基の特定の炭素の積分強度とある単一の炭素の強度を比較することにより、異なった炭素位置での相対的分岐密度(これは、全積分強度/混合物中の1分子当たりの炭素数に等しい)を推定する。2−メチル分岐(ここでは末端及び分岐両方でのメチル基は同じ共鳴位置にある)に関しては、強度は2で除して分岐密度を推定する。5)平均炭素数を計算する。試料の分子量を14(CHの式量)で除して平均炭素数を決める。6)1分子当たりの分岐数はステップ4で求められる分岐数の合計値である。7)100炭素原子当たりのアルキル分岐数は、(ステップ6の)1分子当たりの分岐数と100/平均炭素数の積から計算される。この測定は、なんらかのフーリエ変換NMR分光計、例えば、磁束強度が7.0T以上の磁石を装備した分光計、を用いて実施できる。質量分析による検証後、UV又はNMR分析により芳香族炭素の不存在を調べ、13CNMR分析のためのスペクトル幅を飽和炭素領域である、0〜80ppm(vs.TMS(テトラメチルシラン))に制限できる。25〜50重量%のクロロホルム−d1溶液を30度パルスにより励起し、次いでアクイジションタイムを1.3秒とする。非一様な強度データを最小化するために、励起パルス前の6秒遅れ期間中及びアクイジション期間中に広帯域プロトン逆ゲートデカップリングを使用する。試料は0.03〜0.05Mの緩和剤としてのCr(acac)(トリス(アセチルアセトナトクロム(III))でドープされて全体強度観測を確保する。DEPT及びAPTシーケンスは、バリアン(Varian)やブルッカー(Bruker)の運転マニュアルに記載される軽微の偏移と共に文献記載の方法に従って実施できる。DEPTとは、分極移動による無歪感度増大法(Distortionless Enhancement by Polarization Transfer)である。DEPT45シーケンスはプロトンに結合した全炭素のシグナルを与える。DEPT90シーケンスはCH炭素のみを示す。DEPT135シーケンスはCH及びCHを上方向に及びCHを180度反対の位相に(下方向に)示す。APTはAttached Proton Testであり、当技術分野で既知である。これにより、全ての炭素が観測でき、もしCH及びCHが上方向なら4級及びCHは下方向である。試料の分岐性質は、試料全体がイソパラフィンとの仮定下での計算により、13C NMRにより測定できる。不飽和分は電界イオン化質量分析(FIMS)により測定してもよい。
【0038】
一実施態様では、トラクター用油圧流体組成物は、任意に選択可能な添加剤を含有する、数多くの成分を基油マトリックスに含む。
【0039】
[基油マトリックスの成分]
一実施態様では、基油(又はそれのブレンド)は少なくとも異性化基油を含み、生成物、留分又は供給原料は、フィッシャー−トロプシュプロセスから由来する又はフィッシャー−トロプシュプロセスのワックス状供給原料の異性化のいずれかの段階で製造される(「フィッシャー−トロプシュ由来基油」)。別の実施態様では、同基油は、少なくとも、実質的にパラフィン系のワックス供給原料(「ワックス状供給原料」)から作られる異性化基油を含む。
【0040】
フィッシャー−トロプシュ由来の基油は、例えば米国特許番号6,080,301、6,090,989及び6,165,949並びに米国特許公開番号US2004/0079678A1、US2005/0133409及びUS2006/0289337を包含する多くの特許文献に開示されている。フィッシャー−トロプシュプロセスは一酸化炭素と水素が触媒の存在下で反応して各種構造の液体炭化水素を生成するプロセスである。液体炭化水素の例として軽質の反応生成物及びワックス状反応生成物(いずれも実質的にパラフィンから成る)が挙げられる。
【0041】
一実施態様では、異性化基油は、連続した数の炭素原子及び規格化されたn−d−Mで測定される7.5重量%未満のナフテン系炭素を有する。別の実施態様では、異性化基油は、連続した数の炭素原子及び規格化されたn−d−Mで測定される5重量%未満のナフテン系炭素を有する。一実施態様では、ワックス状供給原料の異性化基油は、1.5〜3.5mm/sの100°Cに於ける動粘度を有する。
【0042】
一実施態様では、異性化基油は、水素の存在下での異性化/脱ワックスプロセスによって製造される。同プロセスは、a)0.30重量%未満の、少なくとも一種の芳香族官能性を有する全分子、b)10重量%を越える、少なくとも一つのシクロパラフィン官能性を有する全分子、c)20を越える、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子重量%に対するモノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比率、及びd)28×Ln(100°Cに於ける動粘度)+80を越える粘度指数、を有する基礎油を与える条件下で、運転される。
【0043】
別の実施態様では、異性化基油は、貴金属系の水素化成分を含む形状選択的で中程度の細孔径を有するモレキュラーシーブを用いて高度にパラフィン系のワックスを水素の存在下600〜750°F(315〜399°C)の温度で異性化する。同プロセスでは、水素存在下での異性化条件は、ワックス供給原料内に存在する700°F(371°C)を越える沸点を有する化合物の700°F(371°C)未満の沸点を有する化合物への転化率を10〜50重量%に維持するように制御される。その結果生成する異性化基油は1.0〜15mm/sの100°Cに於ける動粘度及び50重量%未満のノアック揮発度を有する。
【0044】
一実施態様では、異性化基油は次式で計算される値未満のノアック揮発度を有する:1000×(100°Cに於ける動粘度)−2.7。別の実施態様では、異性化基油は次式で計算される値未満のノアック揮発度を有する:900×(100°Cに於ける動粘度)−2.8
【0045】
一実施態様では、異性化基油は、高度にパラフィン系のワックス状供給原料を130を越える粘度指数を有する基油を与える条件下で水素存在下異性化するプロセスにより生成する。
【0046】
一実施態様では、異性化基油は比較的低いトラクション係数を有する。具体的には、同トラクション係数は次式で計算される値未満である:トラクション係数=Ln0.009×(動粘度、mm/s)−0.001。同式での動粘度は、トラクション係数測定中の値であり、また2〜50mm/sの範囲にある。一実施態様では、異性化基油は、動粘度15mm/s及び滑り/転がり比40%の条件で測定されたトラクション係数0.023(又は0.021)を有する。
【0047】
一実施態様では、基油は、10重量%を越え70重量%未満のシクロパラフィン官能性を有する全分子を含み、及び15を越える、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%に対するモノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%の比率、を有する。
【0048】
一実施態様では、異性化基油は、高度にパラフィニックなワックス状供給原料を水素/供給原料比率が712.4〜3562の下で処理して以下の性質を有する基油を与える条件下で異性化するプロセスにより生成する:シクロパラフィン官能性を有する全分子の濃度が10重量%を越え、マルチシクロパラフィン官能性を有する分子に対するモノシクロパラフィン官能性を有する分子の重量%比率が15を越える。別の実施態様では、基油は次式で計算される値を越える粘度指数を有する:Ln(100°Cに於ける動粘度)+95。
【0049】
一実施態様では、トラクター用油圧流体組成物は基油はn−d−Mで測定されるナフテン系炭素を2〜7.5重量%含有する。一実施態様では、基油は1.5〜3.0mm/sの100°Cに於ける動粘度を有し、ナフテン系炭素を2〜3重量%含む。別の実施態様では、基油は1.8〜3.5mm/sの100°Cに於ける動粘度を有し、ナフテン系炭素を2.5〜4重量%含む。第三の実施態様では、基油は3〜6mm/sの100°Cに於ける動粘度を有し、ナフテン系炭素を2.7〜5重量%含む。第四の実施態様では、基油は10〜15mm/sの100°Cに於ける動粘度を有し、ナフテン系炭素を5.2重量%を越え7.5重量%未満含む。
【0050】
一実施態様では、トラクター用油圧流体組成物は、上述の異性化基油の少なくとも1種から成る基油を使用する。別の実施態様では、同組成物は本質的に少なくとも1種のフィッシャー−トロプシュ基油から成る。更に別の実施態様では、同組成物は少なくともフィッシャー−トロプシュ基油を使用し、及び5〜95重量%の少なくとも別のタイプの潤滑剤基油を任意に使用してもよい。前記別のタイプの潤滑剤基油の例として、API交換指針により規定されるグループI、II、III、IV及びV並びにそれらの混合物から選ばれる潤滑剤基油が挙げられる。例は、その使用目的によっては通常使用される鉱油、合成炭化水素油、合成エステル油又はこれらの混合物を包含する。鉱油系潤滑油のべースストックは、パラフィン系、ナフテン系原油及びこれらの混合物から得られる通常の方法で精製されたいかなるものであってよい。本発明のために使用可能な合成潤滑油の例として、グリコールエステルと複合エステルが挙げられる。他の使用可能な合成潤滑油の例として、例えばポリアルファオレフィンのような炭化水素;例えばベンゼンをテトラポリプロピレンと反応させるアルキル化プロセスからのアルキレート残油又はエチレン及びプロピレンの共重合体等のアルキルベンゼン;例えばエチルフェニルポリシロキサン、メチルポリシロキサン等のシリコーン油、例えばブチルアルコールを酸化プロピレンで縮合させることによって得られる油等のポリグリコール油が挙げられる。その他の適切な合成油の例として、例えば、3〜7個のエーテル連鎖及び4〜8個のフェニル基を有する化合物等のポリフェニルエーテルが挙げられる。更にその他の適切な合成油の例として、ポリイソブテン、及び例えばアルキル化ナフタレン等のアルキル化芳香族が挙げられる。
【0051】
[粘度調整剤成分]
一実施態様では、本発明のトラクター用油圧流体組成物は、粘度調整剤の使用量を低下すると同時に移動機器に関する目標とする動粘度及び低温ブルックフィールド粘度仕様値を依然として満たしている。一実施態様では、使用量が低下された同調整剤濃度は0〜10重量%の範囲にある。別の実施態様では、同濃度は0.5〜5重量%の範囲にある。第三の実施態様では、同濃度は1〜3重量%の範囲にある。第四の実施態様では、同濃度は0.5〜2重量%の範囲にある。
【0052】
一実施態様では、使用量が低下した状態で使用される粘度調整剤は、ポリアクリレート又はポリメタクリレートから選ばれる粘度調整剤、並びにビニル系芳香族ユニット及びエステル化カルボキシル含有ユニットを含むポリマー、の混合物である。一実施態様では、第一の粘度調整剤は平均分子量が10,000〜60,000のポリアクリレート又はポリメタクリレートである。別の実施態様では、第二の粘度調整剤は、100,000〜200,000の平均分子量を有する、ビニル系芳香族ユニット及びエステル化カルボキシル含有ユニットを含む。
【0053】
更に別の実施態様では、使用量が低下した状態で使用される粘度調整剤は重量平均分子量が25,000〜150,000でせん断安定性指数が5未満のポリメタクリレート系粘度調整剤と重量平均分子量が500,000〜1,000,000でせん断安定性指数が25〜60のポリメタクリレート系粘度調整剤のブレンドである。
【0054】
更に別の実施態様では、粘度調整剤はエチレン/プロピレン共重合体、スチレン/イソプレン共重合体、水和スチレン/イソプレン共重合体、ポリアルキル(メタ)アクリレート、官能基化ポリアルキル(メタ)アクリレート、及びそれらの混合物から成る群から選ばれる。
【0055】
[添加剤パッケージ成分]
本発明のトラクター用油圧流体組成物は、少なくとも1種の添加剤パッケージを含む。「添加剤パッケージ」とは、トラクター用油圧流体に対して特定の性能を付与するように設計された複数の化学物質から成る混合物のことである。
【0056】
一実施態様では、添加剤パッケージは、少なくとも1種の界面活性剤(分散剤としても知られている)を含む。これは、アニオン性、両性イオン性及び非イオン性に一般的に分類される。いくつかの実施態様では、1種の分散剤が単独で使用されるか、又は1若しくは複数の種若しくはタイプの分散剤と共に使用される。このような分散剤の例として、スクシンイミド分散剤、コハク酸エステル分散剤、コハク酸エステル−アミド分散剤、マンニッヒ塩基分散剤、それらのリン酸化物形態、及びそれらのホウ素化物形態、から成る群から選ばれる油溶性分散剤が挙げられる。分散剤は二級アミノ基と反応できる酸性分子で覆われていてもよい。ヒドロカルビル基の分子量は600〜3,000の範囲であろうし、例えば、750〜2,500、更には900〜1,500であろう。一実施態様では、分散剤は、アルケニルスクシンイミド、他の有機化合物で改質されたアルケニルスクシンイミド、エチレン・カーボネート又はホウ酸を使用した後処理により改質されたアルケニルスクシンイミド、ペンタエリスリトール、フェネート−サリチレート、後処理されたそれの同類物、ポリアミド無灰分散剤及びそれらの混合物からなる分散剤から成る群から選ばれる。
【0057】
いくつかの実施態様では、無灰分散剤は、例えばトリエチレンテトラミン又はテトラエチレンペンタミン等のポリエチレンポリアミンと炭化水素置換カルボン酸又は無水物との反応の生成物を含んでもよく、前記炭化水素置換カルボン酸又は無水物は、例えばポリイソブテン等の適切な分子量のポリオレフィンと不飽和ポリカルボン酸若しくは無水物との反応により得られ、前記不飽和ポリカルボン酸若しくは無水物は、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。2種以上のこれらの化合物から成る混合物もこれらの分散剤に含まれる。別の実施態様では、無灰分散剤はホウ素化されている。ホウ素化分散剤は分子中に塩基性窒素及び/又は少なくとも1種の水酸基を有する無灰分散剤をホウ素化によって生成できる。このような無灰分散剤の例として、スクシンイミド分散剤、スクシンアミド分散剤、コハク酸エステル分散剤、コハク酸エステル−アミド分散剤、マンニッヒ塩基分散剤、又はヒドロカルビルアミン若しくはポリアミン系の分散剤が挙げられる。
【0058】
一実施態様では、添加剤パッケージは更に1種又は複数種の金属系洗浄剤を含む。このような洗浄剤は、有機酸の金属塩のことである。有機酸(又はそれの混合物)は無機塩基(金属酸化物、金属水酸化物及び/又は金属炭酸塩)と反応される。金属系洗浄剤の例として、以下の酸性物質(又はそれらの混合物)の1種又は複数種を有するアルカリ又はアルカリ土類金属の油溶性で中性又は過塩基塩を含有する:(1)スルホン酸、(2)カルボン酸、(3)サリチル酸、(4)アルキルフェノール、(5)硫化アルキルフェノール及び(6)少なくとも1個の直接的炭素−リン結合鎖によって特徴付けられる、ホスホネート等の有機亜リン酸。このようなリン酸の例として、オレフィンポリマー(例えば分子量が1,000のポリイソブチレン)とリン処理剤(例えば、三塩化リン、七硫化リン、五硫化リン、三塩化リン及び硫黄、白リン及びハロゲン化硫黄、又は塩化ホスホロチオ)で処理することによって準備されるものが包含される。更に別の実施態様では、金属系洗浄剤は、硫化又は非硫化のアルキル又はアルケニルフェノラート、有機スルホン酸アルキル又はアルケニル、ボレート化スルホネート、多水酸基のアルキル又はアルケニル有機化合物の硫化又は非硫化のアルキル又はアルケニル金属塩、硫化又は非硫化のアルキル又はアルケニルヒドロキシ有機スルホネート、硫化又は非硫化のアルキル又はアルケニルナフテネート、アルカン酸の金属塩、アルキル又はアルケニル多酸の金属塩、及びこれらの化学的又は物理的な混合物から成る群から選ばれる。
【0059】
一実施態様では、同添加剤パッケージは、更に少なくともチアゾール、トリアゾール及びチアジアゾールから成る群から選ばれる防食剤を含む。この種の化合物の例として、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、オクタトリアゾール、デシルトリアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−ヒドロカルビルチオ−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−ヒドロカルビルジチオ−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(ヒドロカルビルチオ)−1,3,4−チアジアゾール、及び2,5−ビス(ヒドロカルビルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールが挙げられる。適切な化合物の例として1,3,4−チアジアゾールが挙げられる。多くのこの種の化合物が商業製品として、またトリアゾ−ルとの組み合わせで入手可能である。これらの例として、トリアゾ−ルと例えば2,5−ビス(アルキルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール等の1,3,5−チアジアゾールの組み合わせが挙げられる。1,3,4−チアジアゾールは、一般的には、既知の方法によりヒドラジンと二硫化炭素から合成される。このような例として、米国特許番号2,765,289、2,749,311、2,760,933、2,850,453、2,910,439、3,663,561、3,862,798及び3,840,549を参照されたい。
【0060】
別の例として、同添加剤パッケージは更に防錆剤又は防食剤を含有する。これらの添加剤は、モノカルボン酸及びポリカルボン酸から成る群から選ばれる。適切なモノカルボン酸の例として、オクタン酸、デカン酸及びドデカン酸が挙げられる。適切なポリカルボン酸として、トールオイル脂肪酸、オレイン酸、リノール酸等から生成される二量体及び三量体が包含される。別の有用な防錆剤の例として、アルケニルコハク酸及びそれの無水物(例えば、テトラプロペニルコハク酸及びそれの無水物、テトラデセニルコハク酸及びそれの無水物、ヘキサデセニルコハク酸及びそれの無水物など)が挙げられる。アルケニル基中に8〜24個の炭素原子を有するアルケニルコハク酸とポリグリコールのようなアルコールとのハーフエステルもまた有用である。他の有用な防錆剤又は防食剤の例として、エーテルアミン、酸ホスフェート、アミン、ポリエトキシ化化合物(例えば、エトキシ化アミン、エトキシ化フェノール及びエトキシ化アルコール);イミダゾリン;アミノコハク酸;並びにそれらの誘導体などが挙げられる。このような防錆剤又は防食剤の混合物も使用できる。他の防錆剤の例として、ポリエトキシ化フェノール、中性スルホン酸カルシウム及び塩基性スルホン酸カルシウムが挙げられる。
【0061】
一実施態様では、同添加剤パッケージは、更に少なくとも1種の摩擦調整剤を含む。この種の添加剤は、スクシンイミド、ビス−スクシンイミド、アルキル化脂肪族アミン、エトキシ化脂肪族アミン、アミド、グリセロールエステル、イミダゾリン、脂肪族アルコール、脂肪酸、アミン、ホウ素化エステル、その他のエステル、ホスフェート、ホスファイト、ホスホネート及びこれらの混合物から成る群から選ばれる。
【0062】
一実施態様では、同添加剤パッケージは、更に少なくとも1種の摩耗防止剤を含む。この種の添加剤は、ホスフェート、カーバメート、エステル、アルカリ金属及び混合アルカリ金属のボレート、アルカリ土類金属のボレート、水和アルカリ金属ボレートの分散物、モリブデン錯体、及びこれらの混合物から成る群から選ばれるが、これらに限られない。一実施態様では、摩耗防止剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)、アルキル亜リン酸、トリアルキル亜リン酸、及びジアルキル及びモノアルキルのアミン塩から成る群から選ばれる。
【0063】
一実施態様では、同添加剤パッケージは、更に少なくとも1種の酸化防止剤を含有してよい。この種の添加剤は、フェノール系、芳香族アミン系、硫化フェノール系の酸化防止剤及び有機ホスファイトなどから成る群から選ばれる。フェノル系酸化防止剤の例として、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、三級のブチル化フェノールの液状混合物、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、混合メチレン架橋ポリアルキルフェノール、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(2,6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデン−ビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチル−フェノール、2,6−ジ−tert−1−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、ジメチルアミノ−p−クレゾール、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、硫化ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−10−ブチルベンジル)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)、2,2’−5−メチレン−ビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、N,N’−ジ−sec−ブチルフェニレンジアミン、4−イソプロピルアミノジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、及び環がアルキル化されたジフェニルアミンが挙げられる。これらの例は、立体障害の三級ブチル化フェノール、ビスフェノール、桂皮酸誘導体及びそれらの組み合わせを包含する。更に別の実施態様では、同酸化防止剤は少なくとも1個の直接的に結合した炭素−リン連鎖を有する有機ホスホネートである。ジフェニルアミン型の酸化防止剤の例として、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン及びアルキル化アルファ−ナフチルアミンが挙げられるが、これらに限らない。他の種類の酸化防止剤の例として、金属ジチオカーバメート(例えば亜鉛ジチオカーバメート)、及び15−メチレンビス(ジブチルジチオカーバメート)が挙げられる。
【0064】
一実施態様では、同添加剤パッケージは、更に少なくとも1種の極圧摩耗防止剤(EP/AW添加剤)を含む。これらの例として、ジアルキル−1−ジチオリン酸亜鉛(一級及び二級アルキル、並びにアリール型)、硫化ジフェニル、トリクロロステアリン酸メチル、塩素化ナフタレン、フロロアルキルポリシロキサン、ナフテン酸鉛、中和化ホスフェート、ジチオホスフェート及び硫黄不含有ホスフェートが挙げられる。
【0065】
同添加剤パッケージは、上記の他に通常型の添加剤を含有してよい。これらの例として、シール膨潤剤、着色剤、消泡(脱泡)剤(例えば、アルキルポリメタクリレート系ポリマー及びジメチルシリコーン系ポリマー)、及び/又は空気排除剤が挙げられる。これらの添加剤は、例えば多機能を与えるために添加されてもよい。
【0066】
一実施態様では、追加的な複数の成分が完全に処方されたパッケージとして添加される。同パッケージは、例えばベンチ試験及び動力計試験に合格する能力を同流体に与えること等の、トラクター用油圧流体に対する機器製造業者の当初の要求事項を満足させるために完全に処方されている。使用すべきパッケージは、部分的には、特定の機器に潤滑剤組成物を供給するといった要求事項によって変化する。トラクター用油圧流体に使用される添加剤及び添加剤パッケージの例は米国特許番号5,635、459及び5,843,873に開示されている。トラクター用油圧流体に使用される他の添加剤パッケージの例としてルブリゾール社製の例えばLubrizol 9990シリーズ、ユニバーサルトラクタートランスミッションオイル(UTTO)パッケージ及びスーパートラクタオイルユニバーサル(STOU)パッケージといった商品が挙げられるが、これらに限られない。スーパートラクタオイルユニバーサル(STOU)とユニバーサルトラクタートランスミッションオイル(UTTO)の主な相違は、STOUはトラクターのエンジン油として使用できると同時に変速機、最終ドライブ及び湿式ブレーキ用油圧流体としても使用できる点にある。これに加えて、これら2種類の流体は同一形式の車両及び機器に使用される。一実施態様では、同添加剤は以下の性状を有する物質を含む。粘度:208mm/s(25°Cに於いて)、107mm/s(40°Cに於いて)及び17.8mm/s(100°Cに於いて);流動点:−40°C;及び引火点:180°C。別の実施態様では、他の物質と共に金属含有洗浄剤を含む。これらの洗浄剤の例として、1〜2重量%(例えば1.41重量%)のカルシウムで過塩基化されたスルホネート;酸化防止剤又は摩耗防止剤(例えば1〜2重量%(例えば1.69重量%)のジアルキルジチオリン酸亜鉛;0.5〜2重量%(例えば1.03重量%)の摩擦調整剤;及び0.1〜2重量%(例えば0.25重量%)の窒素含有分散剤(スクシンイミド系分散剤等)が挙げられる。そうすることが望ましいのであれば、他の通常型の成分も含有してよい。
【0067】
[流動点降下剤]
一実施態様では、同トラクター用油圧流体は流動点降下剤を含む。同添加剤は、トラクター用油圧流体ブレンドがそれを使用しない場合に比べて流動点を少なくとも3°C降下させるに十分な濃度に添加される。流動点降下剤は当業界では既知であり、それらの例として無水マレイン酸とスチレン共重合体のエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ハロパラフィンワックス及び芳香族化合物の縮合生成物、カルボン酸ビニルポリマー、ジアルキルフマレートのターポリマー、脂肪酸のビニルエステル、エチレン/酢酸ビニル共重合体、アルキルフェノール及びホルムアルデヒドの縮合樹脂、アルキルビニルエーテル、オレフィン共重合体、及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限られない。
【0068】
[流動点降下ブレンド成分]
一実施態様では、潤滑油基油は流動点降下ブレンド成分を含有する。一実施態様では、同流動点降下ブレンド成分は異性化されたフィッシャー−トロプシュ由来の減圧蒸留塔底生成物であり、これは分子内に特定の度合いのアルキル分岐を与えるために制御された条件下で異性化された高沸点合成原油留分である。フィッシャー−トロプシュプロセスにより製造された合成原油は、各種の固体状、液体状及び気体状の炭化水素の混合物である。フィッシャー−トロプシュ・ワックスが水素処理や蒸留等の各種のプロセスによりフィッシャー−トロプシュ基油に転化された場合、同基油留分はことなる狭い粘度範囲の留分となる。減圧塔から回収された潤滑油基油留分の残りの生成物は一般的には潤滑油基油そのものとして使用するには不適切であるので、一般的には水素化分解装置に再循環され、そこで分子量が低下した生成物に転化される。
【0069】
一実施態様では、流動点降下ブレンド成分は平均分子量が600〜1100、分子内平均分岐度が100炭素原子当たり6.5〜10のアルキル分岐数を有する異性化されたフィッシャー−トロプシュ由来の減圧蒸留塔底生成物である。一般的には、より高い分子量を有する炭化水素は、より低い分子量のものに比べてより流動点降下ブレンド成分としてより効果的である。一実施態様では、より高沸点の塔底生成物を与えることになる減圧蒸留でのより高いカットポイントが流動点降下ブレンド成分を製造するために用いられる。カットポイントの上昇は、留出基油留分の収率上昇という利点をももたらす。一実施態様では、流動点降下ブレンド成分は、それとブレンドされる留出基油留分の流動点よりも少なくとも3°C高い流動点を有する異性化されたフィッシャー−トロプシュ由来の減圧蒸留塔底生成物である。
【0070】
別の実施態様では、流動点降下ブレンド成分は約1050°Fよりも高い沸点範囲を有する物質を含有する異性化石油由来基油である。一実施態様では、異性化塔底物質は溶剤脱ワックスされた後に流動点降下ブレンド成分として使用される。脱ワックス処理期間中に流動点降下ブレンド成分から更に分離されるワックス状生成物は、脱ワックス処理後に回収された油状生成物よりも優れかつ改善された流動点降下性質を発揮することが観察された。
【0071】
一実施態様では、流動点降下ブレンド成分は、分子内平均分岐度が100炭素原子当たり6.5〜10のアルキル分岐数を有する。別の実施態様では、流動点降下ブレンド成分は600〜1100の平均分子量を有する。第三の実施態様では、平均分子量が700〜1000である。
【0072】
別の実施態様では、流動点降下ブレンド成分は、ポリエチレン・プラスチックから得られる少なくとも8mm/sの100°Cに於ける動粘度を有する異性化油である。別の実施態様では、流動点降下ブレンド成分は白色プラスチックから製造される。更に別の実施態様では、流動点降下ブレンド成分は以下の工程を含むプロセスによって製造される:ポリエチレン・プラスチックの熱分解、重質留分を分離すること、同重質留分を水素化処理すること、同水素化処理された重質留分を接触異性化すること、及び少なくとも8mm/sの100°Cに於ける動粘度を有する流動点降下ブレンド成分を回収すること。一実施態様では、ポリエチレン・プラスチックから製造される流動点降下ブレンド成分は、約1050°F(565°C)よりも高い沸点範囲、又は1200°F(649°C)よりも高い沸点範囲すら有する。
【0073】
[製造方法]
同組成物の処方のために使用される添加剤は、個別に又は各種の下位の組み合わせで基油マトリックスにブレンドできる。一実施態様では、添加剤濃縮物(すなわち、すなわち添加剤プラス炭化水素系溶剤のような希釈剤)を用いて、全ての成分を同時にブレンドする。添加剤は添加剤濃縮物の形で用いられると、異なる成分の組み合わせによって得られる相互の親和性を活用してブレンドできる。
【0074】
別の実施態様では、同トラクター用油圧流体組成物は、基油マトリックスを約60°C等の適当な温度で個々の複数添加剤又は1種又は複数種の添加剤パッケージと均一化するまで混合することによって得られる。
【0075】
[性質]
一実施態様での同トラクター用油圧流体組成物は、優れたせん断安定性を有することで特徴付けられる。すなわち、同組成物はせん断応力不存在の状態で少なくとも9.1mm/sの100°Cに於ける動粘度、せん断応力存在の状態で少なくとも7.1mm/sの100°Cに於ける動粘度、20,000mPa.s未満の−40°Cに於けるブルックフィールド粘度を有する。せん断安定性はせん断安定性指数(SSI)によって表すことができ、同指数は、トラクター用油圧流体組成物がせん断応力下で濃厚となる能力と粘度を維持する能力が劣化し低下する傾向の度合いを表す。せん断応力は、ポンプ、ギア、エンジンなどによって発生する。同指数はASTM D5621−01([音波によるせん断試験法])で規定される次式:SSI=(μ−μ)×100/(μ−μ)(式中、μは未処理でせん断応力不存在の状態でのトラクター用油圧流体組成物の初期粘度、μは試験後の同流体の粘度、μは粘度調整剤以外の全ての添加剤不存在の状態での同流体の粘度であり、ここで、粘度は100°Cで測定され、単位はmm/sである)により決めることができる。
【0076】
一実施態様では、トラクター用油圧流体組成物は70,000mPa.s未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度を有する。第二の実施態様では、それの−35°Cに於けるブルックフィールド粘度は50,000mPa.s未満である。第三の実施態様では、それの−35°Cに於けるブルックフィールド粘度は40,000mPa.s未満である。第四の実施態様では、それの−35°Cに於けるブルックフィールド粘度は22,000mPa.s未満である。第五の実施態様では、それの−35°Cに於けるブルックフィールド粘度は18,000mPa.s未満である。
【0077】
[使用目的]
一実施態様では、同トラクター用油圧流体組成物は潤滑すべき機器内の同流体を貯める容器内に供給され、そこから同機器自身の可動部品に供給される。前記機器はトラクター及び/又はオフハイウェイ移動機器を包含するがこれらに限定されない。可動部品は、変速機、静圧変速機、ギアボックス、最終ドライブ、油圧システム等を包含する。
【0078】
以下に本発明を説明する例を記載するが、本発明はこれらに限られない。
【実施例】
【0079】
他に特段の記載がなければ、これらの例は表示される量の成分を混合することにより実施した。混合はビーカー又は機械的撹拌器付きの反応容器によって実施した。他に特段の記載がなければ、以下の成分が例で使用された。
【0080】
フィッシャー−トロプシュ(FT)基油はサンラモン(カリフォルニア州)に本拠を置くシェブロン社製のFTBO−XL、FTBO−L、FTBO−M及びFTBO−Hである。例で使用されたこれらのFTBO基油の性状を表2及び5に示している。
【0081】
シェブロンUCBO 4R及びUCBO 7Rはシェブロン社のAPIグループIIIの基油である。
【0082】
Viscoplex(商標)1−604及びViscoplex(商標)1−3006はドイツのデグッサの流動点降下剤である。
【0083】
Viscoplex(商標)8−220及びViscoplex(商標)8−944はデグッサの粘度調整剤である。
【0084】
218−3は発泡防止剤である。
【0085】
OLOA(商標)A、OLOA(商標)B及びOLOA(商標)Cはカリフォルニア州サンラモンに本拠を置くシェブロン・オロナイト・カンパニーLLCの添加剤パッケージである。
【0086】
[例1〜6]
表1に例1〜6での組成物成分と異なったFT基油(表2に示す性質を有する)を用いて処方したブレンドを示している。同試料は、John Deere J20C仕様に基づいて試験した。同仕様は、トラクター用油圧流体は70,000mPa.s未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度と9.1mm/s未満の100°Cに於ける動粘度を有することを規定している。例1では、同J20C仕様の要求事項は3重量%の粘度調整剤の添加により容易に達成できた。例2では、依然としてJ20C仕様を満たしつつ基油粘度を上昇でき、それによって粘度調整剤使用量を1.5重量%まで低下できた。例3は、粘度調整剤の使用なしではブルックフィールド粘度要求値を満たせないことを示した。例4〜6は、以下の条件を除き例1〜3と同一条件下で試験した。すなわち、例4〜6はFTBO−LとFTBO−Hの組み合わせのブレンドを使用し、例1〜3はFTBO−MとFTBO−Hの組み合わせのブレンドを使用した。
【表1】


【表2】

【0087】
図1はトラクター用油圧流体の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度とブレンドに用い基油の100°Cに於ける粘度の関係を示している。同図はAPIグループI又はIIの基油の典型的なデータを例1〜6で得られた異性化基油態様(FTBO)を含有して処方したトラクター用油圧流体の結果と比較している。同図に示されているように、ある与えられた基油粘度では、FTBOを用いたブレンドはAPIグループI又はII基油を用いたいずれのブレンドよりも遥かに良好な低温粘度を有している。これにより、FTBOを用いた流体の処方のためにより高粘度の基油を用いることが可能になり、その結果、最終ブレンド製品の100°Cでの粘度仕様を満足させるための粘度調整剤の使用量を低下できる。粘度調整剤使用量低下による経済性及びこれによる処方コストの低減の他に、同添加剤の使用量低下は最終製品のせん断安定性の改善という利点をももたらす。
【0088】
[例7]
表3にブレンド成分とJohn Deere J20C仕様値(−40°Cに於けるブルックフィールド粘度が20,000cP未満及び100°Cに於ける動粘度が少なくとも7.0mm/s)を満たすために処方した低粘度ブレンドの性質を示している。
【表3】

【0089】
[例8〜10]
表4に例8〜10で用いられたブレンド成分と処方されたブレンド性状を示しており、ここでは先行技術で用いられた基油とFT基油(それらの性状を表5に示している)を用いて処方したブレンドの性質を比較している。同表に示されるように、FT基油を用いて処方したブレンドはJohn Deere J20C及びJ20Dの両方の仕様値を満たしており、これらのブレンドは、低温(−40°C)及び高温(100°C)の両方において例外的な粘度を有しているので、非常に広い周囲温度範囲で使用可能である。これらのタイプのトラクター用油圧流体は「全気候型」又は「全天候型」流体と称される。例8は市場から入手したAPIグループIII基油を用いた「全気候型」流体を用いて実施した。例9及び10はブレンド用に先行技術での基油(例8)よりは高い粘度を有する基油を用いた(5.2対5.0mm/s)。より高い粘度の基油の使用により、最終製品ブレンド粘度である、100°Cに於いて約9.4mm/sを達成するための粘度上昇度合いを低下でき、従って粘度調整剤の使用量を低下できる。同調整剤使用量の低下により製品のせん断安定性は向上する。なぜならば、粘度調整剤はせん断破壊に対しては低い安定性を示すブレンド成分だからである。
【表4】


【表5】

【0090】
本明細書及びそれに添付されている特許請求項の目的から、他に特段の記載がなければ、これらに記載される量、パーセンテージ、割合その他の数値を表す全ての数値は、全ての場合において「約」という言葉で修飾されることを理解されたい。従って、そうではないことが記載されていない限り、以下に示す本明細書及びそれに添付されている特許請求項で用いられる数値パラメーターは近似値であり、達成すべき望ましい性状次第では、及び/又はこれらの値を測定する計器の精度次第では、変化する可能性がある。更に、本明細書で用いられている範囲の記載はそれらの終点をも包含し、独立して組み合わせ可能である。一般的には、一般性を失うことなく、単数表示と複数表示は互いに交換可能である。本明細書で用いられている「含有する・包含する・含む(include)」という言葉及びそれの文法的な変形は発明を制限しようと意図したものではない。従って、リスト中に記述される項目は、同項目とは交換できる、又はそれに追加できる他の同様な項目を除外するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラクター用油圧流体組成物であって、
前記トラクター用油圧流体組成物は、(i)潤滑油基油、(ii)0〜10重量%の粘度調整剤、及び(iii)0〜10重量%の少なくとも1種の添加剤パッケージを含有し、
前記潤滑油基油は、本質的に、連続した数の炭素原子及びn−d−Mで測定される7.5重量%未満のナフテン系炭素を有する少なくとも1種の異性化基油から成り、
前記トラクター用油圧流体組成物は、70,000mPa.s未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度、及び少なくとも7.0mm/sの100°Cに於ける動粘度を有する、
トラクター用油圧流体組成物。
【請求項2】
130を越える粘度指数及び50,000mPa.s未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度を有する、請求項1に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項3】
150を越える粘度指数及び40,000mPa.s未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度を有する、請求項1〜2のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項4】
20,000mPa.s未満の−40°Cに於けるブルックフィールド粘度を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項5】
粘度15mm/s及び滑り/転がり比40%で測定されたトラクション係数が0.023未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項6】
0.5〜5重量%の粘度調整剤を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項7】
1〜3重量%の粘度調整剤を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項8】
前記潤滑油基油が、1〜15mm/sの100°Cに於ける動粘度及び
式:900×(100°Cに於ける動粘度)−2.8
で規定される値より低いノアック揮発度を有する、
請求項1〜7のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物であって、
前記潤滑油基油が600〜1100の平均分子量及び100炭素原子当たり6.5〜10のアルキル分岐数の分子内平均分岐度の流動点降下ブレンド成分を含む、
トラクター用油圧流体組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物であって、
前記トラクター用油圧流体組成物は、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド、ハロパラフィンワックスと芳香族化合物の縮合生成物、カルボン酸ビニルポリマー、フマル酸ジアルキルと脂肪酸ビニルエステルとアルキルビニルエーテルのターポリマー、及びこれらの混合物、から成る群から選ばれる少なくとも1種の流動点降下剤を含み、
前記添加剤パッケージが、フェノール類、芳香族アミン、硫黄及びリンを含有する化合物、有機硫黄化合物、有機リン化合物、並びにこれらの混合物、から成る群から選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤を含み、並びに、
前記粘度調整剤が、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、水和スチレン−イソプレン共重合体、ポリアルキル(メタ)アクリレート、官能基化ポリアルキル(メタ)アクリレート、700〜2,500の重量平均分子量を有するポリイソブチレン、ポリマー主鎖をN−p−ジフェニルアミンを含む反応剤と反応させることによってグラフトさせたポリマー主鎖を含むグラフト共重合体、1,2,3,6−テトラヒドロフタルイミド、4−アニリノフェニルメタクリルアミド、4−アニリノフェニルマレイミド、4−アニリノフェニルイタコンアミド、4−ヒドロキシジフェニルアミンのアクリレートエステル又はメタクリレートエステル、p−アミノジフェニルアミン又はp−アルキルアミノジフェニルアミンとグリシジルメタクリレートとの反応生成物、p−アミノジフェニルアミンとイソブチルアルデヒドとの反応生成物、p−ヒドロキシジフェニルアミンの誘導体、フェノチアジンの誘導体、ジフェニルアミンのビニル性誘導体、及びこれらの混合物、から選ばれる、
トラクター用油圧流体組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物であって、
前記添加剤パッケージが、(1)スルホン酸、(2)カルボン酸、(3)サリチル酸、(4)アルキルフェノール、(5)硫化アルキルフェノール、(6)少なくとも1個の直接的炭素−リン結合鎖によって特徴付けられた有機亜リン酸、及び(7)これらの混合物、の1種又は複数種から製造されるアルカリ又はアルカリ土類金属の、油溶性の、中性又は過塩基性の塩、から選ばれる少なくとも1種の金属洗浄剤を含む、
トラクター用油圧流体組成物。
【請求項12】
前記異性化基油がフィッシャー−トロプシュ由来基油である、
請求項1〜11のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項13】
前記異性化基油が実質的にパラフィン系のワックス供給原料から作られる、
請求項1〜12のいずれか一項に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項14】
前記添加剤パッケージがユニバーサルトラクタートランスミッションオイル(UTTO)添加剤パッケージ及びスーパートラクタオイルユニバーサル(STOU)添加剤パッケージの少なくとも一つを含む、請求項1に記載のトラクター用油圧流体組成物。
【請求項15】
70,000cP未満の−35°Cに於けるブルックフィールド粘度及び少なくとも7.0mm/sの100°Cに於ける動粘度を有するトラクター用油圧流体組成物を製造する方法であって、
(i)連続した数の炭素原子及びn−d−Mで測定される7.5重量%未満のナフテン系炭素を有する潤滑油基油、(ii)0〜10重量%の粘度調整剤、及び(iii)0〜10重量%の少なくとも1種の添加剤パッケージ、をブレンドする工程を含み、
前記潤滑油基油が5重量%未満のナフテン系炭素を有するフィッシャー−トロプシュ由来であり及び130を越える粘度指数を有する、
方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−540717(P2010−540717A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527011(P2010−527011)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/075758
【国際公開番号】WO2009/042396
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】