説明

トラクタ

【課題】ボンネットの後端部と、ダッシュボードの前端部との間に隙間を塞ぐための部品の点数および当該部品を取り付けるための工数(手間)を削減可能なトラクタを提供する。
【解決手段】機体前部に配置されてエンジンを覆うボンネット5と、ボンネット5の後端部に配置されて前部で燃料タンクを覆い、後部上に操作パネル9が配置されるダッシュボード20と、を備え、ダッシュボード20は、燃料タンクを覆う前部ダッシュボード21と、操作パネル9が配置される後部ダッシュボード22と、に前後分割され、前部ダッシュボード21の前部には、ボンネット5の後端部の下方へ延出する前縁部23が設けられるトラクタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタにおけるダッシュボードの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機体前部に配置されたエンジンの後部に燃料タンクが配置され、前記エンジンはボンネットにより覆われ、前記燃料タンクはボンネットの後部に配置されたダッシュボード(タンクカバー)により覆われるように構成したトラクタは公知となっている。(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載のトラクタにおいて、ボンネットおよびタンクカバー(ダッシュボード)は、比較的大きな部品であるため、プレス成形や射出成形等で製造すると、その製造誤差や組立誤差により、ボンネットの後部とタンクカバーの前端部との間に隙間が生じる。そこで、特許文献1に記載のトラクタにおいては、当該隙間をなくすため、当該隙間を合成樹脂製のシール材およびカバー体によって塞ぐ構成としていた。また、特許文献1に記載のトラクタにおいては、燃料タンクとタンクカバーとの製造誤差や組立誤差を吸収するために、燃料タンクの給油口部分には油受け皿が別体で設けられるとともに、上記隙間を埋める構成としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−74128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のトラクタにおいては、上記隙間を塞ぐための部品として、シール材、カバー体、および、油受け皿が必要となる。また、ボンネットおよびダッシュボードを取り付ける際に、上記隙間を塞ぐための作業工程(上記部品を取り付けるための取付工程)が別途必要である。そのため、特許文献1に記載のトラクタにおいては、部品の点数および部品を取り付けるための工数(手間)が増えるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ボンネットの後端部と、ダッシュボードの前端部との間に隙間を塞ぐための部品の点数および当該部品を取り付けるための工数(手間)を削減可能なトラクタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上であり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、第1の発明は、機体前部に配置されてエンジンを覆うボンネットと、前記ボンネットの後端部に配置されて前部で燃料タンクを覆い、後部上に操作パネルが配置されるダッシュボードと、を備えるトラクタにおいて、前記ダッシュボードは、前記燃料タンクを覆う前部ダッシュボードと、前記操作パネルが配置される後部ダッシュボードと、に前後分割され、前記前部ダッシュボードの前部には、前記ボンネットの後端部の下方へ延出する前縁部が設けられるものである。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記前部ダッシュボードの上面には、下方に凹んだ受け皿部が形成され、前記受け皿部には、前記燃料タンクの燃料給油口を挿通するための挿通孔と、燃料を排出するための排出孔とが形成されるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0011】
第1の発明においては、ダッシュボードの前縁部がボンネットの後端部に覆われる状態(ダッシュボードの前縁部とボンネットの後端部とが重なった状態)にとなるため、ボンネットの後端部とダッシュボードの前端部との間に生じる隙間を、ウエザストリップ等の隙間を塞ぐための部品を用いることなく塞ぐことができる。そのため、部品の点数および部品を取り付けるための工数(手間)を削減することができる。
また、上記隙間を塞ぐための部品を取り付ける必要がなくなるため、ボンネットへのダッシュボードの取り付けが容易に行えるとともに、上記隙間周辺の構造が簡素化できる。
さらに、ダッシュボードを前後に分割して成形するため、ダッシュボードの金型を小さくでき、ダッシュボードの製作を容易に行うことができる。
【0012】
第2の発明においては、ダッシュボードに、燃料タンクの燃料給油口から溢れた燃料を受け止める機能および溢れた燃料を排出する機能を設けることができる。そのため、当該溢れた燃料を受け止めるための受け皿および当該燃料を排出するための排出孔を別途設ける必要がなく、部品の点数および部品を取り付けるための工数(手間)を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】トラクタの全体的な構成を示す側面図。
【図2】ボンネットおよびダッシュボードの平面図。
【図3】ボンネットおよびダッシュボードの分解斜視図。
【図4】(a)前部ダッシュボードの平面図。(b)前部ダッシュボードの側面図。(c)前部ダッシュボードの正面図。
【図5】(a)前部ダッシュボードの正面図。(b)図5(a)のZ−Z視断面図。
【図6】図2のX−X視断面図。
【図7】図2のY−Y視断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の一実施形態に係るトラクタ1の全体構成について説明する。
【0015】
図1に示すように、トラクタ1においては、機体フレーム2が長手方向を前後方向として配置される。機体フレーム2の前部には左右一対の前輪3・3が設けられる。機体フレーム2の後部には、左右一対の後輪4・4が設けられる。
機体フレーム2の前部であって、トラクタ1の前部のボンネット5内にはエンジン6が設けられる。ボンネット5の後方にはダッシュボード20が設けられる。
ダッシュボード20の内の前部には燃料タンク8が配設される。燃料タンク8は、その上部に燃料給油口8aを有する。燃料給油口8aは、筒状として上端が開口され、キャップ8bにより閉じられる。
【0016】
また、ダッシュボード20の後部上には操作パネル9が配置される。さらに、ダッシュボード20の後部には、図示せぬステアリングコラムが設けられ、当該ステアリングコラムより上方にステアリングハンドル10が設けられる。ステアリングハンドル10の後方には運転座席11が設けられる。運転座席11の左右両側方には、作業レバーや変速レバーや後輪4・4の上方を覆うフェンダ12・12等が配設される。
【0017】
エンジン6は、メインクラッチ13を介してミッションケース14内のトランスミッションと連動連結される。ミッションケース14内で変速された動力は、左右の駆動車軸15・15を介して後輪4・4、および、図示しない伝動軸を介して前輪3・3に伝達される。
ミッションケース14の後方左右両側面には、ロプス(転倒時防護フレーム)16を支持するためのロプス支持フレーム17・17が固設される。
【0018】
次に、ボンネット5について説明する。
【0019】
図1、図2および図3に示すように、ボンネット5は、後方および下方を開放して略箱状に形成され、後端面は略逆U状に形成されて、トラクタ1の前部の機体フレーム2上に載置したエンジン6やバッテリ等を覆うものである。ボンネット5の後端上部は、図示しない支持軸によって機体フレーム2の後部に設けた支持フレームに上下回動自在に支持される。
【0020】
次に、ダッシュボード20について説明する。
図1に示すように、ダッシュボード20は、前記ボンネット5の後方であってトラクタ1の前後方向中央部に配置される。ダッシュボード20の後部には図示せぬステアリングコラムが付設され、当該ステアリングコラムにハンドル軸が支持され、当該ハンドル軸の上部にステアリングハンドル10が取り付けられる。但し、ステアリングコラムは、ダッシュボード20と一体的に構成することも可能である。
【0021】
ダッシュボード20の内部には、燃料タンク8が配置される。また、ダッシュボード20の後部上には操作パネル9が配置される。
図3に示すように、ダッシュボード20は、前部ダッシュボード21と、後部ダッシュボード22と、から構成され、前後に分割される。
【0022】
図3および図4(c)に示すように、前部ダッシュボード21は、所定幅の板体により正面視略逆U字状に形成される。前部ダッシュボード21の前端部は、ボンネット5の後端部の形状と略一致させている。
【0023】
図3および図4に示すように、前部ダッシュボード21の前端部には、前方へ延出するように前縁部23が形成されている。
図5に示すように、前縁部23は断面視略L字状に構成され、斜面部23aと、前平面部23bと、から構成される。
【0024】
斜面部23aの長さAは、ボンネット5の板厚よりも長くしている。前平面部23bの長さBは、ボンネット5と前部ダッシュボード21の前後方向の長さの誤差を吸収できる長さとしている。
このように構成することで、前部ダッシュボード21の上面はボンネット5の上面より高くなり、前部ダッシュボード21の側面は、ボンネット5の側面よりも外側方に位置する。そのため、前縁部23は、ボンネット5の後部内側に入り込むようになり、ダッシュボード20とボンネット5の重複部分が確保され、隙間ができず、外観も悪化することがない。また、前縁部23は、ボンネット5の開閉に対しては干渉しないように構成される。
【0025】
図4(a)(b)に示すように、前部ダッシュボード21の上面には、受け皿部25が一体的に設けられる。
受け皿部25は、燃料タンク8の燃料給油口8aの位置に合わせて設けられる。受け皿部25には、前部ダッシュボード21の上面において左右一側に偏った位置に、平面視略円形の凹部25aが形成される。また、凹部25aの中央部には挿通孔25bが形成される。受け皿部25は、本実施形態では前部ダッシュボード21の上面の右側(図4(a)の左側)に設けられる。なお、受け皿部25は、前部ダッシュボード21の上面の右側に設けても構わない。
【0026】
図6に示すように、受け皿部25は、断面視において、中央部が下方に凹む凹部25aとし、凹部25aの中央には、平面視円形状の挿通孔25bが開口され、挿通孔25bの周囲は、凹部25aの底面よりも高く、かつ前部ダッシュボード21の上面よりも低く形成される。
【0027】
挿通孔25bは、燃料タンク8の燃料給油口8aが挿通される部分であり、燃料給油口8aが挿通可能な程度に開口している。挿通孔25bは、受け皿部25の凹部25aの略中央部に設けられる。
また、図4(a)および図7に示すように、受け皿部25の凹部25aの底面の最も低い部分(本実施形態では右側)には排出孔25cが形成される。
【0028】
排出孔25cは、給油時に溢れたり零れたりした燃料を受け皿部25の凹部25aで受けて、排出するための部分である。図7に示すように、排出孔25cの下部には、ドレインパイプ41が接続され、凹部25aに溜まった燃料を外部に排出できるようにしている。
【0029】
前記後部ダッシュボード22は、図2および図3に示すように、ダッシュボード20の後部を構成する部分であり、側面視略五角形の箱状に形成され、その内部に燃料タンク8の後部分が収納される。また、後部ダッシュボード22の後部上には操作パネル9が配置される。
【0030】
ここで、前部ダッシュボード21と、後部ダッシュボード22との配置について説明する。
【0031】
上述のように、後部ダッシュボード22は、前部ダッシュボード21の後端部に配置される。この時、図6に示すように、後部ダッシュボード22の前端部は、前部ダッシュボード21の後端部の内側に潜り込むように配置される。すなわち、後部ダッシュボード22の前端部が前部ダッシュボード21の後端部によって覆われた状態となる。これにより、前部ダッシュボード21の後端部と、後部ダッシュボード22の前端部とが重なった状態となるため、前部ダッシュボード21の後端部と、後部ダッシュボード22の前端部との間に生じる隙間を目立たなくすることができる。また、当該隙間を塞ぐための部材を別途準備する必要がない。
【0032】
次に、ボンネット5と、前部ダッシュボード21との配置について説明する。
【0033】
上述のように、前部ダッシュボード21は、ボンネット5の後側に配置される。この時、図6に示すように、前部ダッシュボード21の前縁部23は、ボンネット5の後端部の内側に潜り込むように配置される。すなわち、前縁部23の外側面(上面)が、ボンネット5の後端部によって覆われた状態となる。これにより、ダッシュボード20(前部ダッシュボード21)の前端部と、ボンネット5の後端部とが重なった状態となるため、ダッシュボード20(前部ダッシュボード21)の前端部と、ボンネット5の後端部との間に生じる隙間を目立たなくすることができる。また、当該隙間を塞ぐための部材を別途準備する必要がない。
ボンネット5の後端部は、支持部材40によって支持される。支持部材40は、側面断面視で略U字状の部材であり、ボンネット5の内側面に沿って正面視逆U字状に配置される。
【0034】
次に、燃料タンク8と、ダッシュボード20との配置について説明する。
【0035】
図1、図6および図7に示すように、燃料タンク8は、ダッシュボード20内に配置される。すなわち、燃料タンク8は、前部ダッシュボード21および後部ダッシュボード22によって覆われる位置に配置される。このように配置することで、前部ダッシュボード21および後部ダッシュボード22は、燃料タンク8を保護するタンクカバーとして機能する。
【0036】
図6および図7に示すように、燃料タンク8は、燃料給油口8aを前部ダッシュボード21の下方から挿通孔25bへ挿通した状態で、前部ダッシュボード21および後部ダッシュボード22内に収納される。
【0037】
図6に示すように、燃料給油口8aは、挿通孔25bに挿通されることで、受け皿部25の略中央部から突出した状態となる。すなわち、燃料給油口8aの先端部は、受け皿部25の凹部25aより上方に位置する。上述のように、受け皿部25は前部ダッシュボード21の上面から下方に凹んで形成されるため、挿通孔25bに挿通された燃料給油口8aの周辺部には、燃料給油口8aから溢れた燃料を受け止めるように受け皿部25が形成される。すなわち、受け皿部25は、燃料給油口8aから溢れた燃料を受け止めるための受け皿として機能する。このため、燃料給油口8aから燃料タンク8へ燃料を供給する際に燃料が燃料給油口8aから溢れた場合であっても、当該溢れた燃料は、受け皿部25の凹部25aに溜まる。
【0038】
また、図7に示すように、受け皿部25の凹部25aには排出孔25cが形成されているため、燃料給油口8aから溢れた燃料が凹部25aに溜まった場合であっても、当該燃料は、排出孔25cからドレインパイプ41を介して排出される。
【0039】
このように、受け皿部25は、燃料給油口8aから溢れた燃料を受け止めるための受け皿の機能と、当該燃料を排出するための排出孔の機能とを有する。そのため、当該燃料を受け止めるための受け皿および当該燃料を排出するための排出孔を別途設ける必要がない。
【0040】
以上のように、トラクタ1は、機体前部に配置されてエンジン6を覆うボンネット5と、ボンネット5の後端部に配置されて前部で燃料タンク8を覆い、後部上に操作パネル9が配置されるダッシュボード20と、を備えるトラクタ1において、ダッシュボード20は、燃料タンク8を覆う前部ダッシュボード21と、操作パネル9が配置される後部ダッシュボード22と、に前後分割され、前部ダッシュボード21の前部には、ボンネット5の後端部の下方へ延出する前縁部23が設けられるものである。
【0041】
このようにトラクタ1を構成することにより、燃料タンク8を機体フレーム後部に固定した後に後部ダッシュボード22固定して覆い、ボンネット5の後部を支持部材40に取り付けて、その後を前部ダッシュボード20を上方より被せるように取り付けることで、簡単に組み立てることができる。
そして、ダッシュボード20の前縁部23がボンネット5の後端部に覆われる状態(ダッシュボード20の前縁部23とボンネット5の後端部とが重なった状態)にとなるため、ボンネット5の後端部とダッシュボード20の前端部との間に生じる隙間を、ウエザストリップ等の隙間を塞ぐための部品を用いることなく塞ぐことができる。そのため、部品の点数および部品を取り付けるための工数(手間)を削減することができる。
また、上記隙間を塞ぐための部品を取り付ける必要がなくなるため、ボンネット5へのダッシュボード20の取り付けが容易に行えるとともに、上記隙間周辺の構造が簡素化できる。
さらに、ダッシュボード20を前後に分割して成形するため、ダッシュボード20の金型を小さくでき、ダッシュボード20の製作を容易に行うことができる。
【0042】
また、トラクタ1は、前部ダッシュボード21の上面には、下方に凹んだ受け皿部25が形成され、受け皿部25には、燃料タンク8の燃料給油口8aを挿通するための挿通孔25bと、燃料を排出するための排出孔25cとが形成されるものである。
【0043】
このようにトラクタ1を構成することにより、ダッシュボード20に、燃料タンク8の燃料給油口8aから溢れた燃料を受け止める機能および溢れた燃料を排出する機能を設けることができる。そのため、当該溢れた燃料を受け止めるための受け皿および当該燃料を排出するための排出孔を別途設ける必要がなく、部品の点数および部品を取り付けるための工数(手間)を削減することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 トラクタ
5 ボンネット
6 エンジン
8 燃料タンク
8a 燃料給油口
9 操作パネル
20 ダッシュボード
21 前部ダッシュボード
22 後部ダッシュボード
23 前縁部
25 受け皿部
25b 挿通孔
25c 排出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体前部に配置されてエンジンを覆うボンネットと、前記ボンネットの後端部に配置されて前部で燃料タンクを覆い、後部上に操作パネルが配置されるダッシュボードと、を備えるトラクタにおいて、
前記ダッシュボードは、前記燃料タンクを覆う前部ダッシュボードと、前記操作パネルが配置される後部ダッシュボードと、に前後分割され、
前記前部ダッシュボードの前部には、前記ボンネットの後端部の下方へ延出する前縁部が設けられる、
ことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
前記前部ダッシュボードの上面には、下方に凹んだ受け皿部が形成され、
前記受け皿部には、前記燃料タンクの燃料給油口を挿通するための挿通孔と、燃料を排出するための排出孔とが形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載のトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−51518(P2012−51518A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197205(P2010−197205)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】