説明

ドラム式洗濯機

【課題】インバータ回路に供給する直流電圧を、ドラムモータの目標回転数Ntと現在回転数Npの差に応じた適切な条件で昇圧制御することが可能なモータ駆動装置を備える。
【解決手段】ドラムモータ7を駆動制御する第1インバータ回路25には、整流回路36から平滑用コンデンサ37、38を介して出力される直流電圧Vdが印加される。第1インバータ回路を駆動する制御部30は、少なくとも脱水工程の一部期間において、短絡制御素子を導通させる短絡信号を交流電源電圧のゼロクロス検出点を起点として生成し、短絡信号のパルス幅Twを、ドラムモータの目標回転数Ntと現在回転数Npの差に応じて設定された直流電圧Vdの目標電圧Vt、及び直流電圧Vdの検出値に基づいて設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯物を収容した回転ドラムを洗濯、脱水等の各工程に応じた回転数で駆動するために、インバータ回路によりドラムモータを駆動するドラム式洗濯機に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプによる除湿乾燥方式を用いたドラム式洗濯乾燥機の構造の一例を、図8及び図9に示す。図8は、ドラム式洗濯機の要部構成を示す断面図、図9は、その内部背面図である。
【0003】
この洗濯機では、洗濯機本体1内に、図示しないサスペンション構造によって水槽2が宙吊り状態に支持されている。水槽2内には、有底円筒形に形成された回転ドラム3が、その軸心方向を正面側から背面側に向けて下向きに傾斜させて支持されている。水槽2の正面側には回転ドラム3の開口端に通じる衣類出入口4が形成され、洗濯機本体1の正面側の上向き傾斜面に設けられた開口部を開閉可能に閉じる扉5を開くことにより、衣類出入口4を通じて回転ドラム3内に対して洗濯物を出し入れすることができる。
【0004】
回転ドラム3には、その周面に水槽2内に通じる多数の透孔6が形成され、内周面の複数位置に攪拌突起(図示せず)が設けられている。この回転ドラム3は、水槽2の背面側に取り付けられたドラムモータ7によって正転及び逆転方向に回転駆動される。また、水槽2には、注水管路8及び排水管路9が配管接続され、図示しない注水弁及び排水弁の制御によって水槽2内への注水及び排水がなされる。
【0005】
扉5を開き回転ドラム3内に洗濯物及び洗剤を投入して、洗濯乾本体1の例えば前面上部に設けられた操作パネル10での操作により運転を開始させると、水槽2内には注水管路8から所定量の注水がなされ、ドラムモータ7により回転ドラム3が回転駆動されて洗濯工程が開始される。回転ドラム3の回転により、回転ドラム3内に収容された洗濯物は回転ドラム3の内周壁に設けられた攪拌突起によって回転方向に持ち上げられ、持ち上げられた適当な高さ位置から落下する攪拌動作が繰り返されるので、洗濯物には叩き洗いの作用が及んで洗濯がなされる。
【0006】
所要の洗濯時間の後、汚れた洗濯液は排水管路9から排出され、回転ドラム3を高速回転させる脱水動作により洗濯物に含まれた洗濯液を脱水し、その後、水槽2内に注水管路8から注水してすすぎ工程が実施される。このすすぎ工程においても、回転ドラム3内に収容された洗濯物は、回転ドラム3の回転により攪拌突起により持ち上げられて落下する攪拌動作が繰り返されてすすぎ洗いが実施される。
【0007】
このドラム式洗濯乾燥機には、回転ドラム3内に収容した洗濯物を乾燥する機能が設けられ、循環送風経路11により、水槽2内の空気を排気して除湿し、加熱して乾燥させた空気を再び水槽2内に送風する。この循環送風経路11の途中には蒸発器12などの除湿手段、凝縮器13などの加熱手段からなるヒートポンプ、及び送風手段である循環ファン14が設けられている。蒸発器12と凝縮器13は図8に示すように、循環空気との熱交換部15をなして循環送風経路11の最低位部に配置されている。
【0008】
この循環ファン14を回転駆動することにより、循環送風経路11に空気の流れが発生して洗濯物を収容した回転ドラム3内の空気は透孔6を通じて水槽2から循環ファン14側への循環空気導入管路16に排気され、循環ファン14の上流に位置する蒸発器12に水分を結露させて除湿することと、凝縮器13との熱交換により加熱することとで常に乾燥した高温の空気とされる。
【0009】
この乾燥した高温の空気は循環ファン14から水槽2への送風管路17に送り出されて水槽2内に送風される。水槽2内に送風された高温の乾燥空気は透孔6を通じて回転ドラム3内に入って衣類などの洗濯物に曝されながら水槽2へと抜け、再度循環空気導入管路16へと導入され、以上の循環送風経路11での空気の循環の繰り返しにより乾燥工程が実施される。
【0010】
この循環送風経路11を利用した乾燥工程では、循環送風経路11を循環される空気中に主として衣類などの洗濯物から発生する糸くずなどの異物が混じって循環し、蒸発器や凝縮器の目詰まり、循環ファン14の回転部への噛み込み、循環ファン14の内面への堆積といった乾燥工程を実施するのに支障を来し易いので、循環送風経路11の途中に、循環空気中の異物を除去するフィルタ18が設けられている。
【0011】
以上のような構成のドラム式洗濯乾燥機のモータ駆動装置は、回転ドラム3を回転駆動するドラムモータ7用のインバータ回路と、ヒートポンプ用の圧縮機モータを駆動するインバータ回路の直流電圧の供給源を共用している。そのため、圧縮機モータの運転状態、あるいは、脱水運転とヒートポンプ乾燥運転を同時に行う脱水乾燥運転工程においては、交流電源電流が増加してコンセント容量をオーバーするおそれがある。
【0012】
そのため、例えば特許文献1には、洗濯乾燥機の最大消費電力となる脱水乾燥運転時におけるドラムモータと圧縮機モータのそれぞれの入力、あるいは出力電力をそれぞれのモータ電流より推定演算することにより、交流電源電流がコンセント容量上限値以上にならないように制御することが開示されている。それにより、インバータ回路の直流電圧を安定して供給することができる。
【0013】
また、特許文献2には、モータ駆動用のインバータ回路に直流電圧Vdを供給するための整流回路と交流電源の間に、交流電源に直列に接続したリアクタを介して交流電源を短絡する手段を設けたモータ駆動回路が開示されている。短絡手段は、交流電源のゼロクロス時から所定のディレイ時間Tdを起点として、制御信号のパルス幅Twによって設定される期間に短絡動作を行う。電源電圧Vsの半周期に一回もしくは複数回、電源を短絡して力率を改善することにより、電源電圧変動が生じても電源装置の力率を最大値に保ちながら、インバータ回路に供給される直流電圧Vdを一定に制御できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−54811号公報
【特許文献2】特開2004−72806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
洗濯乾燥機の機能向上を実現するために、例えば、脱水工程におけるドラムモータの回転をより高速化して、例えば、最高回転数を従来の1200min-1から1600min-1へ向上させることが要望されている。但し、コストの増大や、省エネルギーを考慮すると、モータを大型化することなく高速回転を可能にすることが望まれる。
【0016】
しかし、モータを大型化することなく回転をより高速化させるためには、モータに対する供給電力を増大させる必要がある。一方、供給電力を増大させるとインバータ回路に供給する直流電圧の低下が伴う。特に、脱水工程と乾燥工程とを含む運転時における脱水工程において、ドラムモータ及び圧縮機モータを同時に駆動する並行駆動期間には、直流電源電圧の低下は非常に大きくなる。
【0017】
このような直流電圧の低下を回避して十分なレベルの直流電圧を維持し、ドラムモータ等に十分な電力を供給するために、昇圧回路により直流電圧を昇圧制御することを検討した。しかし不必要に昇圧回路を動作させると、スイッチング素子のロスが増大するため、ドラムモータの回転に応じて昇圧回路を動作させる必要がある。特許文献1及び2に開示された技術は、このような要求に応じるものではない。
【0018】
従って、本発明は、インバータ回路に供給する直流電圧を、ドラム回転数の状況に応じた適切な条件で昇圧制御することが可能なモータ駆動装置を備えたドラム式洗濯機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明のドラム式洗濯機は、水平方向または傾斜方向に回転中心軸を有する回転ドラムと、前記回転ドラムを回転可能に保持している水槽と、前記回転ドラムを回転駆動するドラムモータと、交流電源からの交流を整流する整流回路と、前記整流回路の出力端子に接続された平滑用コンデンサと、前記平滑用コンデンサに並列に接続され、前記ドラムモータを駆動制御する第1インバータ回路と、前記交流電源の一端と前記整流回路の一端に直列に接続されたリアクタ、及び前記リアクタの一端と前記整流回路入力側の一端との間に一端が接続され、他端が前記交流電源の他端に接続された短絡制御素子を有する短絡回路と、前記第1インバータ回路を駆動するとともに、一連の洗濯動作を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記交流電源の電圧のゼロクロスを検出するゼロクロス検出回路と、前記ドラムモータの回転数を検知する回転数検知部と、前記平滑用コンデンサの両端に出力される直流電圧Vdを検知する直流電圧検知部と、前記短絡制御素子を導通させる短絡信号を生成する短絡信号生成部を具備し、前記短絡信号生成部は、少なくとも脱水工程の一部期間において、前記短絡信号を前記交流電源電圧のゼロクロス検出点を起点として生成し、前記短絡信号のパルス幅Twを、前記ドラムモータの目標回転数Ntと現在回転数Npの差に応じて設定された前記直流電圧Vdの目標電圧Vt、及び前記直流電圧Vdの検出値に基づいて設定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のドラム式洗濯機によれば、短絡信号が交流電源のゼロクロス検出点を起点として生成され、短絡信号のパルス幅Twが、前記目標回転数Ntと前記現在回転数Npに応じて設定された目標電圧Vt、及び直流電圧Vdの検出値に基づいて設定されるので、インバータ回路に供給する直流電圧を、ドラム回転数に応じた適切な条件で昇圧制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施の形態におけるドラム式洗濯乾燥機のモータ駆動装置を示すブロック図
【図2】同モータ駆動装置の短絡回路による短絡時の動作を示す図
【図3】(A)同モータ駆動装置の短絡回路の動作による全波整流回路への入力電流の変化を示す図(B)短絡回路の無い従来例のモータ駆動装置における全波整流回路への入力電流を示す図
【図4】同モータ駆動装置において出力される直流電圧が異なるときの、入力電力に対する全波整流回路への入力電流を示す図
【図5】同モータ駆動装置においてドラムモータの目標回転数Ntと現在回転数Npの差に応じた昇圧制御のフローチャートを示す図
【図6】脱水工程の各段階における目標回転数を説明するための図
【図7】同モータ駆動装置においてドラムモータが定常回転に到達後の昇圧制御のフローチャートを示す図
【図8】従来例のヒートポンプによる除湿乾燥方式を用いたドラム式洗濯乾燥機の構造を示す断面図
【図9】同ドラム式洗濯乾燥機の内部背面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のドラム式洗濯機は、上記構成を基本として以下のような態様をとることができる。
【0023】
上記構成において、少なくとも圧縮機を具備し、前記水槽内の空気を循環経路を通じて導入して除湿及び加熱する乾燥手段と、前記圧縮機を駆動する圧縮機モータと、前記平滑用コンデンサに並列に接続され、前記圧縮機モータを駆動制御する第2インバータ回路とを更に備え、前記制御部は、前記第1インバータ回路とともに前記第2インバータ回路を駆動するように構成され、前記制御部は、脱水工程と乾燥工程とを含む運転を行うために前記ドラムモータ及び前記圧縮機モータを同時に並行駆動する際及び、脱水工程では、前記目標回転数Ntと前記現在回転数Npを比較し、Nt−Np≦0の期間は前記短絡回路による前記直流電圧Vdの昇圧制御を行わず、Nt−Np>0の期間は前記直流電圧Vdの昇圧制御を行うことにより、昇圧制御の回数を減らし、昇圧制御部品のロスを低減することができる。
【0024】
また、前記制御部は、脱水工程と乾燥工程とを含む運転を行うために前記ドラムモータ及び前記圧縮機モータを同時に並行駆動する際、前記短絡回路を動作させて前記直流電圧Vdを昇圧させるように制御を行うことができ、前記制御部は、前記直流電圧Vdが、前記ドラムモータの目標回転数Ntを得るために必要な一定の大きさになるように、前記短絡信号のパルス幅Twを制御することができる。
【0025】
さらに上記構成において、前記ドラムモータが定常回転になり、昇圧制御を行っていた際、前記目標回転数Ntと前記現在回転数NpがNt=Npを維持できる、前記直流電圧Vdまで低下させる制御を行うことにより、定常回転に必要な分だけの電圧を供給することにより、部品のロスを低減することができる。
【0026】
さらに上記構成において、全てのインバータ回路の停止時に、前記短絡信号のパルス幅Twを徐々に大きくし、前記直流電圧Vdの電圧が前記短絡信号生成前の前記直流電圧Vdより大きくなった際の前記パルス幅Twの大きさTwsを記憶することにより、Twsのパルス幅からの昇圧を可能とし、素早く目標電圧Vtに到達することができる。
【0027】
さらに上記構成において、脱水工程と乾燥工程とを含む運転を行うために前記ドラムモータ及び前記圧縮機モータを同時に並行駆動する際及び、脱水工程において、昇圧制御が必要な前記ドラムモータの回転数になった場合、前記パルス幅Twsから昇圧制御を行うことにより、ドラムモータの回転数が低下する時間を少なくすることで、ドラムモータの回転数を早く目標回転数に到達することができる。
【0028】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態におけるドラム式洗濯乾燥機のモータ駆動装置を示すブロック図である。なお、本実施の形態におけるドラム式洗濯乾燥機の全体構造は、図8及び図9に示したものと同様である。
【0030】
図1のモータ駆動装置は、ドラムモータ7、循環ファン14(図8参照)駆動用のファンモータ、及び熱交換部15(図9参照)用の圧縮機モータの駆動を制御する機能を有するが、図には、ドラムモータ7及び圧縮機モータ20の駆動に関与する部分のみを示す。ドラムモータ7及び圧縮機モータ20はそれぞれ、3相巻線を有するステータと、2極の永久磁石を有するロータとを備えた永久磁石同期モータである。
【0031】
ドラムモータ7には、ロータ位置を検出する3つのロータ位置検出素子21a、21b、21cが設けられている。ロータ位置検出素子21a〜21cは、ロータ磁極位置に対応して電気角60度毎のロータ位置信号を出力する。ドラムモータ7は、第1インバータ回路22により回転駆動される。第1インバータ回路22は、6個のスイッチング素子23を3相ブリッジ接続して構成され、各スイッチング素子23に並列にフライホイールダイオード24が接続されている。各スイッチング素子23のオン/オフ状態は、第1駆動回路25によりPWM制御される。
【0032】
一方、圧縮機モータ20は、第2インバータ回路26により回転駆動される。圧縮機モータ20にはロータ位置検出素子はなく、例えば、電流検出手段からの信号に基づいて位置センサレス正弦波駆動制御される。第2インバータ回路26は、第1インバータ回路22と同様、6個のスイッチング素子27を3相ブリッジ接続して構成され、各スイッチング素子27に並列にフライホイールダイオード28が接続されている。各スイッチング素子27のオン/オフ状態は、第2駆動回路29によりPWM制御される。
【0033】
なお、実際にはこのモータ駆動装置には、循環ファン14用のファンモータを駆動するための第3インバータ回路及び第3駆動回路も設けられているが、その構成および動作は、第2インバータ回路26及び第2駆動回路と同様であるため、図示及び説明は省略する。
【0034】
第1駆動回路25及び第2駆動回路29は、制御部30による制御を受けて動作する。制御部30には、ドラムモータ7のロータ位置検出素子21a〜21cが出力するロータ位置信号が入力される。このロータ位置信号に基づき、第1駆動回路25が各スイッチング素子23のオン/オフ状態をPWM制御することにより、ドラムモータ7のステータの3相巻線に対する通電が制御され、ロータが同期回転駆動される。制御部30はさらに、図示しないが、3つのロータ位置検出素子21a〜21cからのロータ位置信号に基づき、ロータの回転数、すなわちドラムモータ7の回転数Ndを検出する回転数検知部を有する。回転数検知部は、3つのロータ位置信号の状態が変わるたびにその周期を検出し、その周期からドラムモータ7の回転数Ndを算出する。
【0035】
第1及び第2インバータ回路22、26に対する電力の供給は、交流電源31、短絡回路32及び整流部33により行なわれる。すなわち、交流電源31から供給される交流電圧Vsから、短絡回路32及び整流部33により直流電圧Vdが生成されて、第1及び第2インバータ回路22、26に印加される。
【0036】
短絡回路32は、交流電源31と整流部33の間に直列に接続されたリアクタ34と、リアクタ34を介して交流電源31に並列に接続された短絡制御素子35により構成される。短絡制御素子35は、例えば、ダイオードブリッジとIGBTもしくは、バイポーラトランジスタ、MOSFETなどの電力半導体スイッチング素子で構成することができる。
【0037】
整流部33は、全波整流回路36を備え、全波整流回路36には、平滑コンデンサ37、38の直列回路が並列に接続されている。平滑コンデンサ37、38の両端の直流電圧Vdが、第1インバータ回路22及び第2インバータ回路26に印加され、直流電力が3相交流電力に変換されて、ドラムモータ7及び圧縮機モータ20に供給される。
【0038】
また、ゼロクロス検出回路39が設けられ、交流電源31の両端の交流電圧Vsが入力される。ゼロクロス検出回路39は、交流電圧Vsがゼロクロス点を通過し極性が変わるタイミングで、High信号からLow信号に、もしくはLow信号からHigh信号に切り替わるゼロクロス検出信号を出力し、制御部30に供給する。
【0039】
制御部30はまた、平滑コンデンサ37、38の両端の直流電圧Vd、従って、第1及び第2インバータ回路22、26に印加される直流電圧Vdを検出する直流電圧検知部を備えている。さらに制御部30は短絡信号生成部を備え、少なくとも脱水工程の一部期間において、短絡回路32の短絡制御素子35を導通させるための短絡信号Psを生成する。
【0040】
以上の構成を有するモータ駆動装置は、短絡回路32の動作に特徴を有する。短絡回路32は、短絡制御素子35が導通することにより、リアクタ34を介して交流電圧Vsを短絡させる。その短絡状態では交流電圧Vsの電力がリアクタ34に蓄積され、短絡制御素子35がオフとなったときに、蓄積された電力が整流部33に供給される。供給された電力は全波整流回路36により直流に変換され平滑コンデンサ37、38を充電して、出力直流電圧Vdを上昇させる。
【0041】
このような、昇圧動作を効果的に行うために、制御部30の短絡信号生成部は、ゼロクロス検出回路39が検出するゼロクロス検出点を起点として、電源電圧Vsの半周期毎に短絡信号Psを生成する。また、ドラムモータ7の目標回転数Ntと現在回転数Npの差に応じて、直流電圧Vdに対する目標電圧Vtが設定され、短絡信号Psのパルス幅Twは、目標電圧Vt、及び直流電圧Vdの検出値に基づいて設定される。例えば、直流電圧Vdが、ドラムモータ7の目標回転数Ntを得るために必要な一定の大きさになるように、パルス幅Twを制御する。
【0042】
短絡回路32の動作の例を、図2に示す。交流電源31の電圧Vsのゼロクロス検出点を起点として半周期毎に、パルス幅Twの短絡信号Psが生成される。短絡信号PsのHigh期間に短絡制御素子35が導通して交流電圧Vsによる短絡電流が流れ、リアクタ34に電力が蓄積される。短絡信号PsがLowになると、リアクタ34に蓄積された電力に基づく補助入力電流Iaが、全波整流回路36に流される。交流電圧Vsによる電流に補助入力電流Iaが重畳されて全波整流回路36への入力電流が形成される。補助入力電流Iaを重畳させることにより、平滑用コンデンサ37、38の両端の直流電圧Vdを上昇させることができる。
【0043】
図3(A)には、補助入力電流Iaにより、全波整流回路36への入力電流Ibが増大する様子を示す。図3(B)には比較のため、短絡回路32を動作させない場合の全波整流回路36への入力電流Ibを示す。
【0044】
図4には、整流部33からの出力電圧である直流電圧Vdが260V、280V、300Vの場合の各々の場合について、交流電源31からの入力電力に対する整流部33の入力電流Ibの大きさを示す。同じ入力電力でも、直流電圧Vdが高い程、入力電流Ibが大きくなる。例えば、入力電力600W時において、直流電圧Vdを300Vに昇圧するよりも、260Vに昇圧する方が電流が減少する。
【0045】
従って、必要以上に直流電圧Vdを昇圧させるのではなく、最適な電圧に設定することで、同じ入力電力でも入力電流Ibを減少させて、スイッチング素子やリアクタのロスを減少させることができる。すなわち、脱水工程で目標電圧Vtを一律に設定するのではなく、モータの回転に必要な目標電圧Vtに設定することが望ましい。
【0046】
脱水工程では、図5に示すように、ドラムモータの目標回転数Ntと現在回転数Npの差に応じた昇圧制御が行われる。脱水回転が開始すると、ドラムモータの目標回転数Ntと現在回転数Npの差に応じて前記直流電圧Vdの目標電圧Vt、及び前記直流電圧Vdの検出値に基づいて設定する。例えば、Nt−Np≦0の期間は前記短絡回路による前記直流電圧Vdの昇圧制御を行わず、Nt−Np>0の期間は目標電圧Vtを現在の直流電圧Vd+1V(増加分は例である)に設定し、前記直流電圧Vdの昇圧制御を行う。Nt−Np>0の場合、昇圧制御を行い、目標電圧Vtと直流電圧Vdが等しくなれば、再度ドラムモータの目標回転数Ntと現在回転数Npの差を検知し、昇圧制御を続けるかを判断する。
【0047】
また図6は、脱水工程の各段階における目標回転数Ntを示す。横軸が工程の各段階を示し、予備脱水、布はがし、本脱水の順に処理が行なわれる。
【0048】
本脱水の段階では、漸次回転数を上昇させる制御が行われ、最終的に一定回転となる定常回転に達する。定常回転に達し、昇圧制御を行っていると、図7に示すように、目標電圧Vtを減少させ、前記目標回転数Ntと前記現在回転数NpがNt=Npであれば、さらに目標電圧Vtを減少させ、Nt=Npを維持できる目標電圧Vtまで減少させる。前記目標回転数Ntと前記現在回転数NpがNt<Npならば、目標電圧Vtを増加させ、それらを繰り返し、フィードバック制御を行うことが望ましい。
【0049】
また、図6に示す本脱水開始前や、布はがし開始前などの、インバータ回路の停止時に、前記短絡信号のパルス幅Twを徐々に大きくし、前記直流電圧Vdの電圧が前記短絡信号生成前の前記直流電圧Vdより大きくなった際の前記パルス幅Twの大きさTwsを記憶し、脱水工程と乾燥工程とを含む運転を行うために前記ドラムモータ及び前記圧縮機モータを同時に並行駆動する際及び、脱水工程において、昇圧制御が必要な前記ドラムモータの回転数になった場合、前記パルス幅Twsから昇圧制御を行うことが望ましい。
【0050】
以上のように、本実施の形態のドラム式洗濯乾燥機は、リアクタ34と短絡制御素子35からなる短絡回路32を備え、短絡制御素子35を導通させる短絡信号を、交流電源31の電圧のゼロクロス検出点を起点として生成する。そして、短絡信号のパルス幅Twは、ドラムモータ7の目標回転数Ntと現在回転数Npの差に応じて設定された直流電圧Vdの目標電圧Vt、及び直流電圧Vdの検出値に基づいて設定される。これにより、インバータ回路22、29に供給する直流電圧Vdを、状況に応じた適切な条件で昇圧制御することが可能であり、ドラムモータ7、循環ファン14駆動用のファンモータ、及び熱交換部用の圧縮機モータ20の駆動を、低消費電力でかつ安定して制御することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のドラム式洗濯機によれば、インバータ回路に対して直流電圧を安定して供給することが可能であり、ヒートポンプによる除湿乾燥方式を用いた洗濯乾燥機に有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 洗濯機本体
2 水槽
3 回転ドラム
4 衣類出入口
5 扉
6 透孔
7 ドラムモータ
8 注水管路
9 排水管路
10 操作パネル
11 循環送風経路
12 蒸発器
13 凝縮器
14 循環ファン
15 熱交換部
16 循環空気導入管路
17 送風管路
18 フィルタ
20 圧縮機モータ
21a、21b、21c ロータ位置検出素子
22 第1インバータ回路
23、27 スイッチング素子
24、28 フライホイールダイオード
25 第1駆動回路
26 第2インバータ回路
29 第2駆動回路
30 制御部
31 交流電源
32 短絡回路
33 整流部
34 リアクタ
35 短絡制御素子
36 全波整流回路
37、38 平滑コンデンサ
39 ゼロクロス検出回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向または傾斜方向に回転中心軸を有する回転ドラムと、
前記回転ドラムを回転可能に保持している水槽と、
前記回転ドラムを回転駆動するドラムモータと、
交流電源からの交流を整流する整流回路と、
前記整流回路の出力端子に接続された平滑用コンデンサと、
前記平滑用コンデンサに並列に接続され、前記ドラムモータを駆動制御する第1インバータ回路と、
前記交流電源の一端と前記整流回路の一端に直列に接続されたリアクタ、及び前記リアクタの一端と前記整流回路入力側の一端との間に一端が接続され、他端が前記交流電源の他端に接続された短絡制御素子を有する短絡回路と、
前記第1インバータ回路を駆動するとともに、一連の洗濯動作を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記交流電源の電圧のゼロクロスを検出するゼロクロス検出回路と、前記ドラムモータの回転数を検知する回転数検知部と、前記平滑用コンデンサの両端に出力される直流電圧Vdを検知する直流電圧検知部と、前記短絡制御素子を導通させる短絡信号を生成する短絡信号生成部を具備し、
前記短絡信号生成部は、少なくとも脱水工程の一部期間において、前記短絡信号を前記交流電源電圧のゼロクロス検出点を起点として生成し、前記短絡信号のパルス幅Twを、前記ドラムモータの目標回転数Ntと現在回転数Npの差に応じて設定された前記直流電圧Vdの目標電圧Vt、及び前記直流電圧Vdの検出値に基づいて設定することを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
少なくとも圧縮機を具備し、前記水槽内の空気を循環経路を通じて導入して除湿及び加熱する乾燥手段と、
前記圧縮機を駆動する圧縮機モータと、
前記平滑用コンデンサに並列に接続され、前記圧縮機モータを駆動制御する第2インバータ回路とを更に備え、
前記制御部は、前記第1インバータ回路とともに前記第2インバータ回路を駆動するように構成され、
前記制御部は、脱水工程と乾燥工程とを含む運転を行うために前記ドラムモータ及び前記圧縮機モータを同時に並行駆動する際及び、脱水工程では、前記目標回転数Ntと前記現在回転数Npを比較し、Nt−Np≦0の期間は前記短絡回路による前記直流電圧Vdの昇圧制御を行わず、Nt−Np>0の期間は前記直流電圧Vdの昇圧制御を行う請求項1記載のドラム式洗濯機。
【請求項3】
前記制御部は、前記ドラムモータが定常回転になり、昇圧制御を行っていた際、前記目標回転数Ntと前記現在回転数NpがNt=Npを維持できる、前記直流電圧Vdまで低下させる制御を行う請求項1または2に記載のドラム式洗濯機。
【請求項4】
前記制御部は、全てのインバータ回路の停止時に、前記短絡信号のパルス幅Twを徐々に大きくし、前記直流電圧Vdの電圧が前記短絡信号生成前の前記直流電圧Vdより大きくなった際の前記パルス幅Twの大きさTwsを記憶する請求項1〜3のいずれか1項に記載のドラム式洗濯機。
【請求項5】
前記制御部は、脱水工程と乾燥工程とを含む運転を行うために前記ドラムモータ及び前記圧縮機モータを同時に並行駆動する際及び、脱水工程において、昇圧制御が必要な前記ドラムモータの回転数になった場合、前記パルス幅Twsから昇圧制御を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載のドラム式洗濯機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−196398(P2012−196398A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63826(P2011−63826)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】