説明

ナノワイヤを用いた微細流路の製造方法

【課題】簡易かつ量産性に優れたマイクロ流路/ナノ流路などの微細流路の製造方法を提供する。
【解決手段】基板上にナノワイヤの成長核となる金属ナノ微粒子をパターン蒸着した後、プラズマCVD若しくは熱CVDを用いて、基板上にパターン配置された金属ナノ微粒子を成長核として、ナノワイヤを垂直成長させて、マイクロ流路やナノ流路の微細流路を製造する。親水性基板上に形成させた触媒パターン位置に、撥水性を有するナノワイヤを垂直成長させて、微細流路を製造する。撥水性ナノワイヤを成長させた部分を微細流路の(溝部の)側壁とし、親水性基板が露出した部分を微細流路の(溝部の)底部とする。或は、撥水性基板上に形成させた触媒パターン位置に、親水性を有するナノワイヤを垂直成長させて、微細流路を製造し、親水性ナノワイヤを成長させた部分を微細流路における流路空間(溝部自体)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブなどのナノワイヤを用いて、微量化学分析やマイクロリアクター等に用いられるマイクロ流路またはナノ流路などの微細流路を製造する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロデバイスは、数ナノメートル〜数十ナノメートルという極めて微細な大きさの物質(例えば、タンパク質などの生体分子)を分離できるデバイスとして期待されている(例えば特許文献1参照)。このマイクロデバイスは、内部にマイクロ流路を有し、内部で化学反応を行うことで、試薬や廃液の量、それに伴うコストの低減、反応時間の短縮、温度即応性の向上といったメリットがある。かかるマイクロデバイスは、複雑な3次元構造物であり、かつ、ナノオーダレベルの微小構造を有するマイクロ流路やナノ流路の製造方法が研究・開発されている。
【0003】
このようなマイクロ流路やナノ流路を作製するにあたり、従来においては放射光を用いたLIGAプロセスなどの装置を用いている。LIGAプロセスは、X線リソグラフィーと電鋳およびモールディングを組合せ、アスペクト比(加工幅に対する深さ(高さ)の比)の大きな形状を作る製法であり、厚さ数百μm以上のレジスト(感光性材料)に直進性の優れたシンクロトロン放射(SR)光装置から発生するX線を用いて、X線マスクを介してパターンを転写することにより、数百μm以上の深さ(高さ)で横方向に任意の形状を持った複雑な3次元構造物の製造が可能である。しかしながら、LIGAプロセスなどの装置は、シンクロトロン放射(SR)光装置などの大掛かりな装置を必要である。装置が大型・高価であり、ランニングコストも高い。
【0004】
また、光や電子線を用いて描画などを行うリソグラフィー技術は、半導体などを作製するための2次元加工技術として知られているもので、数十ナノメートルから数ナノメートルまでパターンを微細化することが可能である。しかし、マイクロ流路やナノ流路といった複雑な3次元構造物を加工するには、加工速度や解像度が不足している。
【0005】
また、マイクロ流路やナノ流路の材料として、通常、シリコン、ガラス等が用いられており、パターン形成方法として、異方性のドライエッチング、フッ酸などを用いたウェットエッチング等が用いられている。一方で、マイクロ流路やナノ流路の材料として、コストや量産性を考慮し、材料としてアクリル等の樹脂材料が検討されており、樹脂材料を用いたパターン形成方法として、ソフトリソグラフィ法、光ナノインプリント法、ホットエンボス法などが知られている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
上述した技術は、いずれも、マイクロ流路またはナノ流路などの微細流路のパターンを形成するにあたり、基板上もしくは基板上に形成させた薄膜層に、溝状の流路を形成するものである。
【0007】
【特許文献1】特開2001−4628号公報
【特許文献2】特開2005−42073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来においては、加工精度の高いマイクロ流路やナノ流路を製造する方法として、放射光を用いたLIGAプロセスなど大掛かりな装置を必要としており、装置導入コスト、ランニングコストが高く、量産性に問題があった。
本発明は、簡易かつ量産性に優れたマイクロ流路/ナノ流路などの微細流路の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、長年カーボンナノチューブなどのナノワイヤに関する研究を行っており、マイクロ流路/ナノ流路などの微細流路の形成にあたり、従来のように溝を掘ることを行わずに、ナノワイヤを応用して流路の形成を行うといった着想に至り、本発明のナノワイヤを用いた微細流路の製造方法を完成したものである。
【0010】
本発明の微細流路の製造方法は、基板上にナノワイヤの成長核となる金属ナノ微粒子をパターン蒸着した後、化学気相蒸着(CVD: Chemical Vapor Deposition)、特に、プラズマCVD若しくは熱CVDを用いて、基板上にパターン配置された金属ナノ微粒子を成長核としてナノワイヤを垂直成長させ、マイクロ流路やナノ流路の微細流路を製造するものである。かかる製造方法によれば、簡易かつ一度に大量のマイクロ流路やナノ流路を製造することができる。
【0011】
本発明の第1の観点からは、親水性基板上に所定の触媒パターンを形成させる工程と、親水性基板上に撥水性ナノワイヤを略垂直成長させる工程と、を備えた微細流路の製造方法が提供される。
本発明において、親水性基板とは、基板表面に水酸基等の親水基を有するものであり、具体的には、ガラス板、石英ガラス板などを挙げることができる。本発明においては、ガラス板は、酸化ケイ素などをコートしたものであってもかまわない。また、使用する基板の大きさは、分析機器、分析対象等により適切に選択すればよい。
【0012】
また、所定の触媒パターンを形成させるとは、基板上にナノワイヤの成長核となる金属ナノ微粒子をパターン蒸着させることをいう。ここで、成長核は、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)等の金属超微粒子で、特に数nm〜数10nmの粒径を有する超微粒子が好ましい。成長核として金属超微粒子を用いる場合、ガス中蒸発法などで作成した超微粒子を基体表面に付着させる方法、金属超薄膜を蒸着してから還元雰囲気中で300〜1000℃でアニールすることにより作成することが可能である。
【0013】
また、本発明におけるナノワイヤとは、太さが数ナノメータから数十ナノメータ程度であって、アスペクト比(太さに対する長さの比)が10以上の線条状構造体をいう。
【0014】
本発明の第1の観点では、親水性基板上に形成させた触媒パターン位置に、撥水性を有するナノワイヤを略垂直成長させて、微細流路を製造する。撥水性ナノワイヤを成長させた部分を微細流路の(溝部の)側壁とし、親水性基板が露出した部分を微細流路の(溝部の)底部とするのである。
【0015】
また、本発明の第1の観点において、好ましくは、撥水性ナノワイヤを加熱させる工程と、該撥水性ナノワイヤの上に熱軟化性樹脂材を載置させる工程と、を更に備える。
ここで、熱軟化性樹脂材とは、例えば、アクリル樹脂で形成されるアクリル板などである。撥水性ナノワイヤを略垂直成長させた後、加熱して、その上部に熱軟化性樹脂材を載せると熱軟化性樹脂材に熱が伝わり軟化し、熱軟化性樹脂材を撥水性ナノワイヤに密着させることができ、水などの液体を封入できることになる。
【0016】
ここで、上記の撥水性ナノワイヤは、カーボンナノチューブであることが好ましい。カーボンナノチューブは、超撥水性および化学的安定性を有する撥水性ナノワイヤであり、またカーボンナノチューブの場合、触媒パターン位置に垂直成長させることが可能である。カーボンナノチューブは広く研究されているナノ材料であり、金属性のナノワイヤとは異なり、カーボンナノチューブは例えナノスケールでも良好な導電性を示し、電導効率も高く、鉄よりも強くて軽いといった特性を有する。
【0017】
このカーボンナノチューブの成長核となる触媒金属としては、グラファイトの生成において触媒としての機能を果たす金属材料であり、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Fe(鉄)等の遷移金属材料又はこれらを含む合金材料等である。
なお、本発明におけるカーボンナノチューブは、その種類は制限されず、単層カーボンナノチューブであっても、多層カーボンナノチューブであっても、それらの混合体であってもよい。
また、本発明におけるカーボンナノチューブは、配向性のもの、無配向のもの、どちらでもかなわない。なお、配向性の方が、空気を保ちやすく、撥水性が向上できる可能性がある。一方、無配向のものは、パターニングした場合、配向性のものよりアスペクト比が小さくなり、流路として流体を流したときにオーバーフローが生じるおそれがある。
【0018】
次に、本発明の第2の観点からは、本発明の第1の観点と異なり、撥水性基板上に所定の触媒パターンを形成させる工程と、撥水性基板上に親水性ナノワイヤを略垂直成長させる工程と、を備えた微細流路の製造方法が提供される。
【0019】
本発明において撥水性基板とは、基板自体が撥水性を有するものだけでなく、撥水処理が施された基板、撥水膜が積層(コーティング)された基板が含まれる。グラファイトや撥水ガラス以外にも、樹脂,プラスチック,セラミックス,金属の基板で撥水性を有するものでよい。
また、本発明において親水性ナノワイヤとは、例えばシリコンナノワイヤやフッ素化疎水性ナノワイヤなどをいう。
【0020】
本発明の第2の観点では、撥水性基板上に形成させた触媒パターン位置に、親水性を有するナノワイヤを略垂直成長させて、微細流路を製造する。本発明の第1の観点と同様に、親水性ナノワイヤを成長させた部分を微細流路の(溝部の)側壁とし、撥水性基板が露出した部分を微細流路の(溝部の)底部とするのではなく、本発明の第2の観点では、親水性ナノワイヤを成長させた部分を微細流路における流路空間(溝部自体)とするのである。
【0021】
次に、本発明の第1の観点又は第2の観点の微細流路の製造方法において、基板上に所定の触媒パターンを形成させる工程は、パターン形成されたメタルマスクを用いてナノワイヤの成長核となる金属ナノ微粒子を基板上にパターン蒸着するものである。
かかる方法による触媒パターン形成により、ナノオーダの線幅の微細流路を精度よく、簡易に構築することができる。
【0022】
この他、基板上に所定の触媒パターンを形成させる工程は、スパッタリング法や、イオンビーム描画またはリソグラフィーを用いて基板表面の任意の位置にナノワイヤの成長核となる金属ナノ微粒子をパターニングして塗布するものでもかまわない。例えば、フォトリソグラフィー方法の場合は、フォトレジストの薄膜をコーティングした基板を、マスクを通して光で露光し、マスク形状に応じたパターンを、基板上に形成する方法である。光としては、通常、紫外光(UV)などを用いる。マスクを通して露光する方法として、電子線を用いる電子線描画法、X線などによる露光方法も採用できる。
【0023】
フォトリソグラフィー方法は、紫外線等の光を照射することによりフォトマスクのパターンを基板に転写するが、電子線描画は電子線を照射することによりパターンを描く。電子線描画法によればフォトリソグラフィーを用いる手法と比較してより微小なパターンを描くことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の微細流路の製造方法によれば、微細流路の溝を掘るのではなく、カーボンナノチューブなどのナノワイヤを垂直成長させて溝を形成させ、撥水性ナノワイヤと親水性基板、或は、親水性ナノワイヤと撥水性基板を組合せて、ナノワイヤ部分を撥水領域や流路にすることで、簡易かつ量産性に優れたマイクロ流路/ナノ流路などの微細流路の製造することができるといった効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。
【実施例1】
【0026】
実施例1では、カーボンナノチューブを用いた微細流路の製造方法について説明する。実施例1の微細流路の製造方法は、親水性を有する酸化シリコン基板上に形成させた触媒パターン位置に、撥水性を有するカーボンナノチューブを垂直成長させて、微細流路を製造するものである。
図1(1)に、実施例1の微細流路のイメージ図を示す。図1(2)に示すように、親水性を有する酸化シリコン基板10上に形成させた触媒パターン位置(3a,3b)に、撥水性を有するカーボンナノチューブを垂直成長させて、配向性カーボンナノチューブ群(1a,1b)を土手として利用し、微細流路を形成している。
また、図1(2)は、作製した微細流路の流路部分、すなわち、配向性カーボンナノチューブ群(1a,1b)で形成した土手で挟まれた部分に、水(あるいは液体)2を流し込んだ様子を示している。酸化シリコン基板10は親水性を有し、また配向性カーボンナノチューブ群(1a,1b)は撥水性を有することから、水(あるいは液体)2は毛細管現象により流路部分をスムーズに流れることとなる。
【0027】
次に、実施例1の微細流路の製造方法について、図2を参照しながら、下記(a),(b)の2工程に分けて説明する。
(a)親水性基板上に所定の触媒パターンを形成させる工程
先ず、カーボンナノチューブを配向させるための基板として親水性を有する酸化シリコン基板を用意する。酸化シリコン基板は、例えば、Si(100)を用いる。これは表面が平坦であること、また真空材料でもあり基板として広く使われているためものである。酸化シリコン基板の前処理として、始めにSiを約8mm四方の形になるよう切り出し、次に切り出した基板をエタノ−ル、純水の順に各々5分間超音波洗浄を行っている。その後、SiO膜作製のために酸化を行う。酸化の条件は100%酸素雰囲気中で加熱温度800℃、加熱時間120分である。
【0028】
その後、酸化シリコン基板10上に、メタルマスク(2a〜2c)を用いて触媒となる鉄(Fe)の金属微粒子のパターン(3a〜2d)を形成する(図2の(1)と(2)を参照)。鉄の触媒金属微粒子は、真空蒸着法により、例えば膜厚3nm相当の触媒金属微粒子を堆積後、アニール処理によって触媒金属微粒子を凝集させ形成する。なお、酸化シリコン基板上に形成する触媒金属微粒子の密度は、アニール条件(温度、処理時間)により制御できる。
【0029】
鉄の触媒金属微粒子を凝集させるためのアニール条件は、例えば、反応ガスとして水素を用い、水素の流量を50sccm、圧力を20Pa、基板温度を700℃、反応時間30分とする。
【0030】
(b)親水性基板上に撥水性ナノワイヤを垂直成長させる工程
次に、鉄の触媒金属微粒子のパターン(3a〜2d)を形成した酸化シリコン基板10上に、カーボンナノチューブ(1a〜1d)を成長させる。カーボンナノチューブは、熱CVD法により、例えば反応ガスとしてアセチレンと水素との混合ガスを用い、アセチレンの流量を50sccm、水素の流量を100sccm、圧力を1.0×10Pa、基板温度を700℃、反応時間30分とした条件で成長させる。
【0031】
上記の(a)工程において、真空蒸着装置は、例えば、JEOL社製JEE−400を用いることができ、酸化シリコン基板に鉄の触媒金属微粒子を真空蒸着させている。また、生成するカーボンナノチューブの位置を制御するために、メタルマスクを用いてパターニングを行っている。メタルマスクは、ステンレス製のマスクを使用している。また触媒金属の蒸着量を調べるため、水晶振動子微小天秤(Quartz
Crystal Microbalance ; QCM)により膜圧として測定している。
【0032】
ここで、真空蒸着法は、金属、合金などを真空容器内で加熱蒸発し、あらかじめ容器内に置いた基板の表面に凝結させることによって薄膜を製作する方法である。真空蒸着法を、他の薄膜製作法、化学的沈殿法や気相反応法、スパッタリング法と比較すると、膜および基板は金属非金属を問わない点、基板温度が高くならない点、蒸発分子の直進性のため薄膜の分布は主として蒸発源と基板との幾何学的配置によって決まる点でメリットがある一方、小さな曲率を持った表面や複雑な形状を持った表面に一様な膜を作製するのが難しい点、残留ガス圧力が10−4Torr程度以下の真空度を必要とする点、基板物質の蒸発ないしはガス放出が必要な真空度を保ち膜の付着を害さない程度でなければならない点、簡単な装置や操作で膜を作製できる合金や化合物は限られる点のデメリットがある。
【0033】
また、図3に、上記熱CVD法を用いるのに使用した熱CVDの装置構成図を示す。加熱装置としてマッフル炉を使用している。導入ガスはC、H、Arを用いており、すべてのガスは流量計により流量を制御できるようにしている。ここで、熱CVD法とは、気体もしくは液体原料を高温にて気化し、その蒸気の気相中、あるいは基材表面での化学反応により薄膜を形成する手法であり、この化学反応を熱エネルギーによって励起するものをいう。作製する膜材料を含む元素で構成される揮発性化合物を気化し、水素、アルゴン、窒素などのキャリアガスを用いて、高温に加熱した基板上になるべく均一に供給すると、基板上で分解、還元、置換といった化学反応が発生し薄膜が形成できる。熱CVD法は比較的装置が簡易で量産性に優れるものとして利便性が高い製法として知られているものである。
【0034】
熱CVD法の詳細手順は下記の通りである。
(1)金属触媒を蒸着した酸化シリコン基板試料を石英管内に導入する。試料導入後、ロ−タリ−ポンプによりチャンバ−内を約2Paまで減圧する。
(2)マッフル炉の温度を700℃に設定し、H2雰囲気中で所定時間、基板表面のアニ−ルを行う。
(3)混合ガス(C、H、Ar)を予め定めた混合比と圧力になるようバルブを調整して導入し、カーボンナノチューブの生成を行う。
(4)反応後、混合ガスの導入を止め反応炉内の圧力を約2Paまで下げ、自然冷却する。
(5)試料を取り出し、その後、SEMによって試料のモフォロジ−観察を行う。
【0035】
次に、上記製法により作製した微細流路に対して、ガラス基板などの透明な基板を蓋とした封入装置を用意する。
図4は、作製した微細流路に対して、シリンジを用いて流路に水を注入する様子を示したものである。シリンジ注入法では導入する水の圧力、速度、体積等が一定でないため定量的測定および比較による性能の評価はできないものの、微細流路として水を導入する機能性を確認することができる。
図4に示すように、作製した微細流路5を、ガラス基板などの透明な基板を蓋とした封入装置に取り付けた状態で、シリンジ針43を酸化シリコン基板10上に形成されている微細流路5の端から水を導入するのである。なお、図4では微細流路として連続屈折を行う蛇行回路図形を例に挙げている。
【0036】
図5は、作製した微細流路に対してアクリル板で蓋をする手順を示している。鉄の触媒金属微粒子のパターンを形成した酸化シリコン基板10上に、カーボンナノチューブ(1a,1b)を成長させたものは、図5(1)に示すように、カーボンナノチューブ(1a,1b)の先端部は各々のカーボンナノチューブで異なっている。従って、ガラス基板のようなものを押し付けたものでは、流路内の水などの液体を封入できない場合がある。
そこで、微細流路を形成するカーボンナノチューブを加熱し、熱軟化性樹脂材であるアクリル板を蓋と用いることとする。
先ず、カーボンナノチューブ(1a,1b)を垂直成長させた後、酸化シリコン基板10を加熱して、カーボンナノチューブ(1a,1b)を加熱する。そして、カーボンナノチューブ(1a,1b)の上部に熱軟化性樹脂材であるアクリル板45を載せると、アクリル板45に熱が伝わり表面部が軟化する。図5(2)のように、アクリル板45の表面部の軟化により、アクリル板45をカーボンナノチューブ(1a,1b)に密着させることができ、水などの液体を封入できることになる。
【0037】
図6に実施例1で用いたメタルマスクの形状を示す。図6で示したメタルマスクは、数mm角のなかに、1mm幅の直線図形、枝状分岐図形、合流を行うY字状図、連続屈折を行う蛇行回路図形、フェルマー螺旋図形の透過孔をパターン形成したものである(図6(1)〜(5)参照)。
ここで、枝状分岐図形の流路は、分岐先の一方の底面を親水性、もう一方の底面を疎水性に加工することで水油を効率よく分離できることが知られており、また、合流を行うY字状図形の流路と組み合わせることで、油水二相の相合流・相分離流路等を構築することが可能である。
【0038】
また、連続屈折を行う蛇行回路図形の流路は、流体に対して、影響を与えることのできる単位体積あたりの表面積が大きいため、カーボンナノチューブを電極として加熱、または凹凸構造にヒーター等を導入すれば非常に微小な空間で流体を効果的に加熱、冷却等が可能になる。
【0039】
また、図7は、酸化シリコン基板上に、上記のメタルマスクを用いて触媒となる鉄(Fe)の金属微粒子をパターン形成し、酸化シリコン基板の触媒金属微粒子のパターン上に、カーボンナノチューブを成長させた結果を光学顕微鏡で観察したものである(図7(1)〜(5)参照)。
【0040】
上述した実施例1の微細流路の製造方法で得られたものが、実際に微細流路として機能する様子を、フェルマー螺旋の流路パターンを形成した微細流路で例にして説明する。ここで、フェルマー螺旋の流路パターンは、時計回りに回転構造をもち、中心において反転して半時計回りに回転する構造を備える。上述したような連続屈折を行う蛇行回路図形の流路と異なり、カーブの曲率が大きく流体に大きな負荷をかけることなく単位体積辺りの表面積を大きくすることが可能である。
【0041】
図8は、フェルマー螺旋の流路パターンを形成した微細流路に、シリンジを用いて水を導入した様子を顕微鏡用デジタルマイクロスコープ(島津理化製、Moticam2000)で観察したものである。
【0042】
図8のデジタルマイクロスコープで観察した写真は、1/488秒毎のコマ送りの観察写真を示している。水の導入の観察結果から、フェルマー螺旋の流路パターンを形成した微細流路は、水の流路として機能していることがわかる。
その他の形状の流路についても、フェルマー螺旋の流路パターンを形成した微細流路と同様に、流体の急激な圧力変化による漏れや破損も見られることなく、水の流れを確認できている。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の微細流路の製造方法は、極微量な液体試薬を反応させる小型分析装置(μTAS)、マイクロマシン、マイクロエレクトロメカニカルシステム、マイクロチップデバイス、ラボオンチップ(Lab−on−a―chip)、バイオチップ、ヘルスケアチップなどに有用である。
既存のマイクロ流路/ナノ流路に置き換わるものであり、超小型・軽量であり大量生産が可能であるので、μTAS(Total Analytical System)をはじめとして、医療、分析、計測など工業的な利用が大きく期待される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1の微細流路のイメージ図
【図2】実施例1の微細流路の作製手順の模式図
【図3】熱CVDの装置構成図
【図4】シリンジで水を導入する様子
【図5】実施例1の微細流路の蓋の作製手順の模式図
【図6】実施例1で用いたメタルマスクの形状
【図7】酸化シリコン基板の触媒金属微粒子のパターン上に、カーボンナノチューブを成長させた結果を光学顕微鏡で観察した写真
【図8】フェルマー螺旋の流路パターンを形成した微細流路に、シリンジを用いて水を導入した様子をデジタルマイクロスコープで観察した写真
【符号の説明】
【0045】
1,1a〜1d カーボンナノチューブ
2 水(あるいは液体)
2a〜2c メタルマスク
3a〜3d 金属触媒
10 酸化シリコン基板
30 試料
31 流量計
32 石英管
33 マッフル炉
34 圧力計
35 ロータリーポンプ
40 封入板
42 シリンジ
43 シリンジ針
45 アクリル板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性基板上に所定の触媒パターンを形成させる工程と、前記親水性基板上に撥水性ナノワイヤを略垂直成長させる工程と、を備えたことを特徴とする微細流路の製造方法。
【請求項2】
前記撥水性ナノワイヤを成長させた部分を微細流路の側壁とし、前記親水性基板が露出した部分を微細流路の底部としたことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流路の製造方法。
【請求項3】
前記撥水性ナノワイヤを加熱させる工程と、該撥水性ナノワイヤの上に熱軟化性樹脂材を載置させる工程と、を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の微細流路の製造方法。
【請求項4】
前記撥水性ナノワイヤは、カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の微細流路の製造方法。
【請求項5】
撥水性基板上に所定の触媒パターンを形成させる工程と、前記撥水性基板上に親水性ナノワイヤを略垂直成長させる工程と、を備えたことを特徴とする微細流路の製造方法。
【請求項6】
前記親水性ナノワイヤを成長させた部分を微細流路における流路空間としたことを特徴とする請求項5に記載の微細流路の製造方法。
【請求項7】
基板上に所定の触媒パターンを形成させる工程は、パターン形成されたメタルマスクを用いてナノワイヤの成長核となる金属ナノ微粒子を基板上にパターン蒸着するものであることを特徴とする請求項1又は5に記載の微細流路の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−85337(P2010−85337A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256893(P2008−256893)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】