説明

ナビサーバ、ナビ装置、ナビシステム

【課題】一のリンクから他の各リンクへの遷移コストを精度よく評価し、当該評価結果に基づいてナビ装置による移動体の誘導を支援することができるナビサーバ等を提供する。
【解決手段】ナビサーバ100により、基準リンクから一のノードを経由した第kリンク(k=1〜n)のそれぞれへの遷移コストδkが、当該第kリンクのそれぞれにおける単位長さ当たりの1次移動コストc1kと、当該第kリンクのすべてにおける単位長さ当たりの1次移動コストc1kの最小値との偏差に基づいて評価される。また、各リンクにおける1次移動コストc1kと、基準リンクから当該各リンクへの遷移コストとに基づき、当該各リンクにおける正味の移動コストに相当する2次移動コストc2kが評価されうる。そして、当該評価結果または当該評価結果に基づく道路交通情報がナビ装置に対して提供されることにより、実際の道路交通状況に鑑みて適当なナビルートにしたがってナビ装置に自動車2を誘導させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナビ装置との通信に基づき、当該ナビ装置による移動体の誘導を支援するナビサーバ等に関する。
【背景技術】
【0002】
フローティングカー(またはプローブカー)により収集される位置情報等のデータ(FCD)を解析し、当該解析結果を用いて多数の車両の円滑な走行を支援するシステムが提案されている。また、分岐点等のノードにおける分岐方向ごとの交通情報をナビ装置に対して提供する手法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−283480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
少なくとも3つのリンクが交わるノードにおいてユーザが一のリンクから他のリンクに遷移する際のコストは当該ノード付近における交通状況に応じて変動する。たとえば、図5(a)に示されているように第1〜前リンクが交わるノードにおいて前リンクにいる先行車両Q1および後続車両Q2の対向車線の交通量が多い場合、車両Q1はなかなか右折できず、車両Q2は前の車両Q1がつかえてなかなか直進できない。この場合、前リンクから第1および第2リンクのそれぞれへの遷移コストが高くなる。一方、図5(b)に示されているように同じノードにおいて先行車両Q1および後続車両Q2の対向車線の交通量が少ない場合、車両Q1はすぐに右折でき、車両Q2は前に車両がつかえていないので円滑に直進することができる。この場合、前リンクから第1および第2リンクのそれぞれへの遷移コストが低くなる。さらに、第1および第2リンクのそれぞれに分岐する車両のために前リンクに2つの車線がある場合、前記のように車両Q1がなかなか右折できない状況において、車両Q2は当該車両Q1とは無関係に第2リンクに遷移することができるので、前リンクから第1リンクへの遷移コストは高いが、前リンクから第2リンクへの遷移コストは低くなる。
【0004】
したがって、一のリンクから他の各リンクへの遷移コストが精度よく評価されていない場合、ユーザが複数のリンクを経由する際の移動コストの総合評価が実際の交通状況から乖離し、さらにはユーザの誘導態様が移動コストの観点から不適当になる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明は、一のリンクから他の各リンクへの遷移コストを精度よく評価し、当該評価結果に基づいてナビ装置による移動体の誘導を支援することができるナビサーバ等を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための第1発明のナビサーバは、ナビ装置との通信に基づき、該ナビ装置による移動体の誘導を支援するナビサーバであって、第1移動体が有するプローブ装置との通信に基づき、該プローブ装置により測定された該第1移動体の移動履歴を表すプローブ情報を認識し、道路交通情報センターとの通信に基づいてセンター情報を認識し、該プローブ情報および該センター情報のうち一方または両方に基づいて各リンクにおける移動方向ごとの1次移動コストを評価する第1支援処理部と、第2移動体が有する前記ナビ装置との通信に基づき、該第1支援処理部による評価結果または該評価結果に基づく道路交通情報を該ナビ装置に認識させる該第2支援処理部とを備え、前記第1支援処理部が、第1偏差に基づいて一の基準リンクから一のノードを介した第kリンク(k=1〜n)のそれぞれへの遷移コストをさらに評価し、かつ、当該第kリンクにおける前記1次移動コストと該遷移コストとに基づいて2次移動コストをさらに評価し、前記第1偏差は、前記ノードから離れる方向について前記第kリンクのそれぞれにおける単位長さ当たりの前記1次移動コストと、前記第kリンクのすべてにおける単位長さ当たりの前記1次移動コストの最小値との偏差であることを特徴とする。
【0007】
第1発明のナビサーバによれば、各リンクにおける移動方向ごとの1次移動コストは、移動体がリンクの一のノード(端点)から他のノードに移動するのに要する予測または推定時間を表している。しかるに、1次移動コストには正味の移動コストのほか、当該一のノードにおける無視できない程度の滞留時間等が含まれている可能性がある。
【0008】
そこで、基準リンクから一のノードを経由した第kリンク(k=1〜n)のそれぞれへの遷移コストが、当該第kリンクのそれぞれにおける単位長さ当たりの1次移動コストと、当該第kリンクのすべてにおける単位長さ当たりの1次移動コストの最小値との偏差に基づいて評価される。単位長さ当たりの1次移動コストが最小になる第iリンクは、移動体が当該第iリンクを円滑に移動しうることのほか、移動体が基準リンクから当該第iリンクに円滑に遷移しうることを表していると推察される。当該推察に鑑みると、基準リンクと第iリンクとの接続ノードにおける滞留時間等が長くなるほど、当該偏差が大きくなる。したがって、当該偏差の大小に基づいて、基準リンクから第jリンク(j≠i)のそれぞれへの遷移コストの高低が評価されうる。このため、各リンクにおける1次移動コストと、基準コストから当該各リンクへの遷移コストとに基づき、当該各リンクにおける正味の移動コストに相当する2次移動コストが評価されうる。
【0009】
そして、当該評価結果または当該評価結果に基づく道路交通情報がナビ装置に対して提供されることにより、実際の道路交通状況に鑑みて適当なナビルートにしたがってナビ装置に移動体を誘導させることができる。たとえば、遷移コストが高かったために見かけ上の移動コスト(1次移動コスト)が高く評価されているものの、正味の移動コスト(2次移動コスト)が低いリンクを優先して移動するように移動体が誘導されうる。
【0010】
第2発明のナビサーバは、第1発明のナビサーバにおいて、前記第1支援処理部が、前記基準リンクからの遷移先である前記第kリンクの別に応じて、当該基準リンクにおける前記1次移動コストを個別に評価する場合、前記第1偏差に代えて第2偏差に基づいて前記遷移コストをさらに評価し、前記第2偏差は、前記基準リンクから前記第kリンクに遷移する方向について、前記基準リンクと前記第kリンクとの第k組み合わせ経路のそれぞれにおける単位長さ当たりの前記1次移動コストと、該第k組み合わせ経路のすべてにおける単位長さ当たりの前記1次移動コストの最小値との偏差であることを特徴とする。
【0011】
第2発明のナビサーバによれば、基準リンクにおける1次移動コストが、遷移先となる第kリンクの別に応じて個別に評価される場合、基準リンクから第kリンクのそれぞれへの遷移コストが、当該基準リンクおよび第kリンクの第k組み合わせ経路のそれぞれにおける単位長さ当たりの1次移動コストと、当該第k組み合わせ経路のすべてにおける単位長さ当たりの1次移動コストの最小値との偏差に基づいて評価される。単位長さ当たりの1次移動コストが最小になる第i組み合わせ経路は、移動体が当該基準リンクおよび第kリンクを円滑に移動しうることのほか、移動体が基準リンクから当該第kリンクに円滑に遷移しうることを表していると推察される。当該推察に鑑みると、基準リンクと第kリンクとの接続ノードにおける滞留時間等が長くなるほど、当該偏差が大きくなる。したがって、当該偏差の大小に基づいて、基準リンクから第jリンク(j≠i)のそれぞれへの遷移コストの高低が評価されうる。このため、各リンクにおける1次移動コストと、基準コストから当該各リンクへの遷移コストとに基づき、当該各リンクにおける正味の移動コストに相当する2次移動コストが評価されうる。そして、当該評価結果または当該評価結果に基づく道路交通情報がナビ装置に対して提供されることにより、実際の道路交通状況に鑑みて適当なナビルートにしたがってナビ装置に移動体を誘導させることができる。
【0012】
第3発明のナビサーバは、第1または第2発明のナビサーバにおいて、前記第1支援処理部が、前記プローブ情報に基づいて第1種リンクにおける前記1次移動コストを評価し、前記センター情報に基づいて第2種リンクにおける前記1次移動コストを評価することを特徴とする。
【0013】
第3発明のナビサーバによれば、プローブ情報に基づいて1次移動コストが評価された第1種リンクとは別の第2種リンクについては、道路交通情報センターから得られるセンター情報に基づいて1次移動コストが評価されうる。このため、第1種リンクのみならず、第2種リンクについても遷移コストおよび2次移動コストが評価されうる。
【0014】
第4発明のナビサーバは、第1〜第3発明のうちいずれか1つのナビサーバにおいて、支援マップ情報が格納されている支援マップ格納部を備え、前記第2支援処理部が、前記ナビ装置との通信に基づいて前記第2移動体の出発位置および目的位置を認識し、該支援マップ格納部に格納されている該支援マップ情報と、前記第1支援処理部による前記評価結果とに基づき、前記移動コストの総和が最小となる、該出発位置と該目的位置とを結ぶルートを設定し、該ルートの一部を構成するリンクを識別するための識別情報を前記道路交通情報として該ナビ装置に認識させることを特徴とする。
【0015】
第4発明のナビサーバによれば、正味の移動コストに鑑みて好ましい支援ルートの一部をナビ装置に認識させ、これにより当該ナビ装置に実際の道路交通状況に鑑みて好ましい形態で移動体を誘導させることができる。
【0016】
第5発明のナビ装置は、ナビサーバとの通信に基づいて移動体を誘導するナビ装置であって、ナビマップ情報が格納されているナビマップ格納部と、前記ナビサーバとの通信に基づき、該ナビサーバにより評価された各リンクにおける1次移動コストと、基準リンクから一のノードを介した第kリンク(k=1〜n)への遷移コスト、または該ナビサーバによる当該評価結果に基づく道路交通情報を認識する第1処理部と、該第1処理部により認識された該評価結果または該道路交通情報と、該ナビマップ格納部に格納されているナビマップ情報とに基づきナビルートを設定し、該ナビルートを出力する第2処理部とを備えていることを特徴とする。
【0017】
第5発明のナビ装置によれば、基準リンクから各リンクへの遷移コストが考慮されることにより、当該各リンクにおける2次移動コスト(正味の移動コスト)に鑑みて適当なナビルートにしたがって移動体を誘導することができる。
【0018】
第6発明のナビシステムは、第1〜第4発明のうちいずれか1つのナビサーバと、第5発明のナビ装置とにより構成されていることを特徴とする。
【0019】
第6発明のナビシステムによれば、遷移コストが高かったために見かけ上の移動コスト(1次移動コスト)が高く評価されているものの、ナビサーバにより評価された正味の移動コスト(2次移動コスト)が低いリンクを優先して移動するように移動体が誘導される等、実際の道路交通状況に鑑みて適当なナビルートにしたがってナビ装置に移動体を誘導させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のナビシステムの実施形態について図面を用いて説明する。
【0021】
本発明のナビシステムの構成について図1を用いて説明する。ナビシステムはナビサーバ100と、自動車2に搭載されているナビ装置200とにより構成されている。なお、ナビ装置200は自動車以外の移動装置に搭載されてもよいし、ユーザによって携帯されていてもよい。
【0022】
自動車2にはプローブ装置20が搭載されている。プローブ装置20は車両位置を測定し、所定時間間隔ごとに当該測定位置をナビサーバ100に送信する。自動車2にはプローブ装置20およびナビ装置200の両方が搭載されているので、自動車2は「第1移動体」および「第2移動体」の両方に該当する。
【0023】
ナビサーバ100は、一または複数のサーバコンピュータにより構成されている。ナビサーバ100は第1道路交通情報格納部101と、第2道路交通情報格納部102と、気象状況格納部103と、支援マップ格納部104と、第1支援処理部110と、第2支援処理部120とを備えている。
【0024】
第1道路交通情報格納部101にはプローブカーまたはフローティングカーとしての自動車2に搭載されているナビ装置200からナビサーバ100に送信またはアップロードされたプローブ情報(各時刻における個々のプローブカーの位置)に基づく第1道路交通情報(各リンクにおける移動所要時間や交通渋滞の有無など)が格納されている。
【0025】
第2交通情報格納部102には、道路交通情報センターのサーバ等からナビサーバ100に送信されたセンター情報(各リンクにおける移動所要時間や交通渋滞の有無のほか、各リンクにおける交通規制の有無を表す情報、各リンク周辺のイベントの有無およびイベントの種類を表す情報など)が格納されている。
【0026】
気象情報格納部103には、気象情報センターのサーバ等からナビサーバ100に送信された各リンク周辺の気象情報等が格納されている。
【0027】
支援マップ格納部104には支援マップ情報が格納されている。支援マップ情報において、道路を構成する各リンクの位置、形状および姿勢等が、座標((緯度、経度)または(緯度、経度、高度))の列により表現されている。また、各リンクには当該各リンクを識別するためのリンク識別情報や、道路種類を表すデータが付されている。
【0028】
第1支援処理部110は自動車(第1移動体)2が有するプローブ装置20との間接的または直接的な通信に基づき、当該プローブ装置20により測定された第1種リンクのそれぞれにおける自動車2のプローブ情報を認識する。第1支援処理部110は道路交通情報センター22から配信される第2種リンクのそれぞれにおける移動コスト等を「センター情報」として認識する。第2種リンクは第1種リンクとは異なるリンクである。第1支援処理部110はプローブ情報に基づいて第1種リンクにおける1次移動コストc1を評価し、センター情報に基づいて第1種リンクにおける1次移動コストc1を評価する。第1支援処理部110は一の基準リンクから一のノードを介した第kリンク(k=1〜n)のそれぞれへの遷移コストδiをさらに評価する。第1支援処理部110は当該第iリンクにおける1次移動コストc1iと遷移コストδiとに基づいて2次移動コストc2をさらに評価する。
【0029】
第2支援処理部120は自動車(第2移動体)2が有するナビ装置200との通信に基づき、第1支援処理部110による評価結果または当該評価結果に基づく道路交通情報をナビ装置200に認識させる。第2支援処理部120はナビ装置200との通信に基づき、当該ナビ装置200が搭載されている自動車2の出発位置(または現在位置)p1および目的位置p2を認識する。第2支援処理部120は支援マップ格納部104に格納されている支援マップ情報と、第1支援処理部110により認識された各リンクにおける1次移動コストc1または第2移動コストc2等とに基づき、出発位置p1および目的位置p2を結ぶ支援ルートRを設定する。第2支援処理部120はナビ装置200との通信に基づき、支援ルートRの一部を構成するリンクをナビ装置200に認識させる。
【0030】
ナビ装置200は自動車2に搭載されたハードウェアとしてのECUまたはコンピュータと、メモリに格納され、当該コンピュータに諸機能を付与するソフトウェアとしてのナビプログラムにより構成されている。なお、ナビプログラムは最初から車載コンピュータのメモリ(ROM)に格納されていてもよいが、車載コンピュータからのリクエストがあったとき等の任意のタイミングでこのプラグラムの一部または全部がサーバ(図示略)からネットワークや衛星放送を介して当該車載コンピュータにダウンロードまたは放送され、そのメモリ(EEPROM,RAM)等に格納されてもよい。
【0031】
ナビ装置200は入力装置201と、出力装置202と、ナビマップ格納部204と、第1処理部210と、第2処理部220とを備えている。
【0032】
入力装置201は自動車2のセンターコンソール等に配置された操作ボタンやマイクロフォンにより構成されており、ユーザの操作または発話による種々の設定を可能とする。出力装置202は自動車2のセンターコンソールに配置されたディスプレイ装置であり、ナビマップ情報等を表示または出力する。ナビップ格納部204には出力装置202に出力されるナビマップ情報等が格納されている。ナビマップ情報において、道路を構成する各リンクの位置、形状および姿勢等が、座標列により表現され、かつ、各リンクには当該各リンクを識別するためのリンク識別情報が付されている。ナビマップ情報と支援マップ情報とのスペックやデータ構造が異なるため、各マップ情報における座標列の定義等が異なっていても、同一のリンクに共通のリンク識別情報が付されることにより、リンクのマッチングが可能とされている。
【0033】
第1処理部210はナビサーバ100との通信に基づき、自動車2の出発位置p1およびユーザにより入力装置201を通じて入力された目的位置p2を当該ナビサーバ100に認識させる。第2処理部220はナビサーバとの通信に基づき、ナビサーバ100により設定された、出発位置p1および目的位置p2を結ぶ支援ルートRの一部を構成するリンクを道路交通情報として認識する。
【0034】
第2処理部220は第1処理部210により認識された道路交通情報と、ナビマップ格納部204に格納されているナビマップ情報とに基づきナビルートrを設定し、かつ、当該ナビルートrを出力装置202に出力させる。
【0035】
なお、ハードウェアとしての構成要素が情報を「認識する」とは、当該構成要素が情報を受信すること、情報をデータベースやメモリから探索または読み出すこと、受信等した基礎情報に基づいて演算処理によって情報を算定、推定、設定、決定、探索等すること、パケットをデコードして情報を顕在化させること、さらには算定等した情報をメモリに保存すること等、他の情報処理のために当該情報を準備しておくためのあらゆる情報処理を実行することを意味する。また、ハードウェアとしての構成要素が情報を「出力する」とは、当該情報の表示、音声出力、振動出力等、人間がその視覚、聴覚、触覚等、五感を通じて認識しうるあらゆる形態で情報を出力することを意味する。
【0036】
前記構成のナビシステムの機能について説明する。
【0037】
ナビサーバ100において、第1支援処理部110が、複数の自動車(第1移動体)2のそれぞれが有するプローブ装置20との通信に基づき、当該プローブ装置20により測定された複数の第1種リンクのそれぞれにおける自動車2の移動履歴を「プローブ情報」として認識する(図2/S002)。プローブ情報は、たとえば自動車2の所定時間ごとの座標と、必要に応じて当該座標を包含するリンクのリンク識別情報により特定される。
【0038】
また、第1支援処理部110が、道路交通情報センター22との通信に基づき、第2種リンクにおける自動車2の移動状況を「センター情報」として認識する(図2/S004)。センター情報は、たとえば主要道路の各リンクにおける移動方向ごとの、異なる時間帯における自動車2の移動コストにより特定される。
【0039】
さらに、第1支援処理部110が、プローブ情報およびセンター情報のそれぞれに基づき、第1種および第2種リンクのそれぞれにおける移動方向ごとの1次移動コストc1を評価する(図2/S006)。各リンクにおける1次移動コストc1は、一のリンクにおける複数のプローブ情報の、測定時刻からの経過時間の長さに応じた重みが付された平均値算出等、統計的手法にしたがって評価される。
【0040】
また、第1支援処理部110が、一の基準リンクから一のノードを介した第kリンク(k=1〜n)のそれぞれへの遷移コストδiを評価する(図2/S008)。例として、図3に示されているように位置の基準リンクから第1または第2リンクへの遷移が可能なノードにおける遷移コストδk(k=1,2)の評価方法について考える。なお、基準リンクから一のノードを介して遷移可能なリンクが3つ以上あってもよい。
【0041】
基準リンクにおいて第1または第2リンクに向かう方向の車線が1つである場合、基準リンクにおける当該方向についての1次移動コストc10は1つの値をとる。この場合、基準リンクから、単位長さ当たりの1次移動コストc1k/dkが最小になる第iリンクへの遷移コストδiは、第iリンクにおける1次移動コストc1iおよび第iリンクの長さdiに基づき、式(1)にしたがって評価される。
【0042】


【0043】
式(1)においてγ(di)はdiの減少関数としての係数である。したがって、第iリンクが長くなるほど(diが大きくなるほど)基準リンクからの遷移コストδiが低く評価される。これは、第iリンクが長くなるほど、1次移動コスト(見かけ上の移動コスト)c1iに占める遷移コストδiの割合が低くなるという推察または知見に基づいている。
【0044】
また、基準リンクから第jリンク(j≠i)への遷移コストδjは、第iおよび第jリンクのそれぞれにおける1次移動コストc1iおよびc1j、ならびに、第iおよび第jリンクの長さdiおよびdjに基づき、式(2)にしたがって評価される。
【0045】


【0046】
式(2)においてα(0<α<1)は、第jリンクにおける1次移動コストc1jと、最小の1次移動コスト(第iリンクにおける1次移動コスト)c1iとの偏差(第1偏差)に対する、基準リンクから第iリンクおよび第jリンクのそれぞれへの遷移コストの偏差δj−δiの比率を表す係数である。
【0047】
基準リンクにおいて第1または第2リンクに向かう方向の車線が別個である場合、基準リンクにおける当該方向についての1次移動コストc10は遷移先となるリンクまたは車線ごとに評価される。
【0048】
この場合、単位長さ当たりの1次移動コスト(c10k+c1k)/(d0+dk)が最小になる、基準リンクおよび第iリンクの第i組み合わせ経路における、基準リンクから第iリンクへの遷移コストδiは、第iリンクにおける1次移動コストc1iおよび第iリンクの長さdiに基づき、式(1)にしたがって評価される。
【0049】
また、基準リンクから第jリンク(j≠i)への遷移コストδjは、基準リンクにおける遷移先の別に応じた個別の1次移動コストc10iおよびc10j、基準リンクの長さd0、第iおよび第jリンクのそれぞれにおける1次移動コストc1iおよびc1jならびに第iおよび第jリンクの長さdiおよびdjに基づき、式(3)にしたがって評価される。
【0050】


【0051】
式(3)においてβ(0<β<1)は、第j組み合わせ経路における1次移動コストc10j+c1jと、最小の1次移動コスト(第i組み合わせ経路における1次移動コスト)c10i+c1iとの偏差(第2偏差)に対する、基準リンクから第iリンクおよび第jリンクのそれぞれへの遷移コストの偏差δj−δiの比率を表す係数である。
【0052】
さらに、第1支援処理部110が、第kリンクにおける1次移動コストc1kと遷移コストδkとに基づき、2次移動コストc2kを評価する(図2/S010)。たとえば、2次移動コストc2kは、1次移動コストc1kおよび遷移コストδkに基づき、式(4)にしたがって評価される。
【0053】


【0054】
自動車(第2移動体)2のナビ装置200において、第1処理部210が通信機器により受信されたGPS信号や、自動車2に搭載されている加速度センサおよびレートセンサ等の出力に基づき、自動車2の現在位置ptが測定される(図2/S022)。現在位置ptの累積的な測定結果はプローブ装置20によるプローブ情報に相当しうる。また、ユーザによって入力装置201を通じて、自動車2の目的位置p2が入力される(図2/S024)。第1処理部210が、自動車2の目的位置p2と、当該目的位置p2の入力時刻における自動車2の現在位置pt(出発位置p1)を、ナビ装置200を識別するためのナビ識別情報とともにナビサーバ100に対して送信する。
【0055】
これに応じて、ナビサーバ100において、第2支援処理部120が、自動車2の出発位置p1および目的位置p2、さらにはナビ装置200のナビ識別情報を認識する(図2/S012)。また、第2支援処理部120が、第1支援処理部110により評価された1次移動コストc1および2次移動コストc2と、気象情報格納部103に格納されている各リンク周辺の気象情報と、支援マップ格納部104に格納されている支援マップ情報に基づき当該自動車2の出発位置p1および目的位置p2を結ぶ支援ルートRを設定する(図2/S014)。これにより、たとえば図4に示されているように3つの支援ルートR1〜R3が設定され、当該支援ルートR1〜R3のうち支援ルートR3が最終的な支援ルートRとして設定される。支援ルートRは、目的位置p2までの移動距離もしくは予測移動所要時間が最短である、または、目的位置p2までの走行に際して自動車2の燃費が最良である等の条件下で設定される。なお、ナビ装置200からナビサーバ100に送信またはアップロードされた、ユーザによる選択条件(最短距離、最短時間、燃費良好(エコ)など)にしたがって、支援ルートRが設定されてもよい。
【0056】
また、第2支援処理部120が、支援ルートRの一部を構成するリンクが抽出される(図2/S016)。これにより、たとえば図4に黒矢印で示されている、支援ルートRの一部を構成する所定個数以下のリンクが抽出される。出発位置p1を基準とする第1範囲S1または目的位置p2を基準とする第2範囲S2に包含されるリンクは抽出リンクから除外される。第2支援処理部120が、抽出リンクのリンク識別情報を、ナビ識別情報により識別されるナビ装置200に宛てて送信する。当該リンク識別情報は、第1支援処理部110による評価結果または当該評価結果に基づく道路交通情報に該当する。これに応じて、ナビ装置200において、第2処理部220が、当該リンクを認識する(図2/S026)。
【0057】
なお、ナビ装置200からナビサーバ100に対してナビマップ情報のバージョンを示す情報が送信またはアップロードされ、これに応じてナビサーバ100において当該バージョンのナビマップ情報に各リンクが含まれているか否かが判定され、当該判定結果が否定的である場合、リンクが再び抽出されてもよい。また、ナビサーバ100において支援マップ格納部104に格納されている複数のバージョンの支援マップ情報のうち、当該ナビマップ情報のバージョンに合致するバージョンの支援マップ情報が選定され、当該選定支援マップ情報からリンクが抽出されてもよい。
【0058】
さらに、第2処理部220が、リンク識別情報(道路交通情報)と、ナビマップ格納部202に格納されているナビマップ情報と、自動車2の現在位置ptおよび目的位置p2とに基づき、ナビルートrを設定し、かつ、出力装置202を通じて出力する(図2/S028)。これにより、たとえば図4に示されている抽出リンクを包含する、支援ルートRと同一または類似するナビルートrが出力装置202に表示される。
【0059】
前記機能を発揮するナビシステムによれば、ナビサーバ100により評価された各リンクにおける1次移動コストc1は、自動車2がリンクの一のノードから他のノードに移動するのに要する時間を表している。しかるに、1次移動コストc1には正味の移動コストのほか、当該一のノードにおける無視できない程度の滞留時間等が含まれている可能性がある。
【0060】
そこで、基準リンクから一のノードを経由した第kリンク(k=1〜n)のそれぞれへの遷移コストδkが、当該第kリンクのそれぞれにおける単位長さ当たりの1次移動コスト(c1k/dk)と、当該第kリンクのすべてにおける単位長さ当たりの1次移動コストの最小値との偏差(第1偏差)に基づいて評価される(式(2)参照)。また、基準リンクにおける1次移動コストc1kが、遷移先となる第kリンクの別に応じて個別に評価される場合、基準リンクから第kリンクのそれぞれへの遷移コストが、当該基準リンクおよび第kリンクの第k組み合わせ経路のそれぞれにおける単位長さ当たりの1次移動コスト{(c10k+c1k)/(d0+dk)}と、当該第k組み合わせ経路のすべてにおける単位長さ当たりの1次移動コストの最小値との偏差(第2偏差)に基づいて評価される(式(3)参照)。
【0061】
単位長さ当たりの1次移動コスト(c1k/dk)が最小になる第iリンク、または、単位長さ当たりの移動コストは{(c10k+c1k)/(d0+dk)}が最小になる第i組み合わせ経路に包含される第iリンクは、自動車2が当該第iリンクを円滑に移動しうることのほか、自動車2が基準リンクから当該第iリンクに円滑に遷移しうることを表していると推察される。当該推察に鑑みると、基準リンクと第iリンクとの接続ノードにおける滞留時間等が長くなるほど、第1偏差または第2偏差が大きくなる。したがって、当該偏差の大小に基づいて、基準リンクから第iリンクのそれぞれへの遷移コストδkの高低が評価されうる。このため、各リンクにおける1次移動コストc1kと、基準コストから当該各リンクへの遷移コストδkとに基づき、当該各リンクにおける正味の移動コストに相当する2次移動コストc2kが評価されうる(式(4)参照)。
【0062】
そして、当該評価結果または当該評価結果に基づく道路交通情報がナビ装置200に対して提供されることにより、実際の道路交通状況に鑑みて適当なナビルートrにしたがってナビ装置200にユーザを誘導させることができる(図2/S028参照)。たとえば、遷移コストδkが高かったために見かけ上の移動コスト(1次移動コストc1k)が高く評価されているものの、正味の移動コスト(2次移動コストc2k)が低いリンクを優先して移動するようにユーザが誘導されうる。
【0063】
なお、前記実施形態ではナビサーバ100により設定された支援ルートRの一部を構成するリンク(またはそのリンク識別情報)が道路交通情報としてナビ装置200により認識された(図4参照)。他の実施形態として、支援マップを分割する複数のメッシュのうち、支援ルートRを包含するメッシュに包含される各リンクのそれぞれにおける第1移動コストc1または第2コストc2が道路交通情報としてナビ装置200により認識され、さらに、当該道路交通情報に基づいてナビルートrが設定かつ出力されてもよい。また、支援ルートRの設定が省略され、各リンクにおける第1移動コストc1または第2移動コストc2の評価結果の一部または全部がナビ装置200により認識され、当該評価結果に基づいてナビルートrが設定かつ出力され、さらには当該評価結果が出力装置202に表示されてもよい。
【0064】
前記実施形態では式(1)〜(3)にしたがって遷移コストδkが評価されたが(図2/S008参照)、他の実施形態として、第1偏差または第2偏差そのもの、あるいは、第1偏差の平均値または第2偏差の平均値等が遷移コストとして評価されてもよい。式(1)における係数γが0または正の定数に設定されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明のナビシステムの構成説明図
【図2】本発明のナビシステムの機能説明図
【図3】一の基準リンクと複数のリンクとの関係説明図
【図4】ナビサーバにより設定される支援ルートの説明図
【図5】道路交通状況および遷移リンクの関係説明図
【符号の説明】
【0066】
2‥自動車(第1移動体、第2移動体)、20‥プローブ装置、22‥道路交通情報センター、100‥ナビサーバ、104‥支援ナビマップ格納部、110‥第1支援処理部、120‥第2支援処理部、200‥ナビ装置、204‥ナビマップ格納部、210‥第1処理部、220‥第2処理部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナビ装置との通信に基づき、該ナビ装置によるユーザの誘導を支援するナビサーバであって、
第1移動体が有するプローブ装置との通信に基づき、該プローブ装置により測定された該第1移動体の移動履歴を表すプローブ情報を認識し、道路交通情報センターとの通信に基づいてセンター情報を認識し、該プローブ情報および該センター情報のうち一方または両方に基づいて各リンクにおける移動方向ごとの1次移動コストを評価する第1支援処理部と、
第2移動体が有する前記ナビ装置との通信に基づき、該第1支援処理部による評価結果または該評価結果に基づく道路交通情報を該ナビ装置に認識させる該第2支援処理部とを備え、
前記第1支援処理部が、第1偏差に基づいて一の基準リンクから一のノードを介した第kリンク(k=1〜n)のそれぞれへの遷移コストをさらに評価し、かつ、当該第kリンクにおける前記1次移動コストと該遷移コストとに基づいて2次移動コストをさらに評価し、
前記第1偏差は、前記ノードから離れる方向について前記第kリンクのそれぞれにおける単位長さ当たりの前記1次移動コストと、前記第kリンクのすべてにおける単位長さ当たりの前記1次移動コストの最小値との偏差であることを特徴とするナビサーバ。
【請求項2】
請求項1記載のナビサーバにおいて、
前記第1支援処理部が、前記基準リンクからの遷移先である前記第kリンクの別に応じて、当該基準リンクにおける前記1次移動コストを個別に評価する場合、前記第1偏差に代えて第2偏差に基づいて前記遷移コストをさらに評価し、
前記第2偏差は、前記基準リンクから前記第kリンクに遷移する方向について、前記基準リンクと前記第kリンクとの第k組み合わせ経路のそれぞれにおける単位長さ当たりの前記1次移動コストと、該第k組み合わせ経路のすべてにおける単位長さ当たりの前記1次移動コストの最小値との偏差であることを特徴とするナビサーバ。
【請求項3】
請求項1または2記載のナビサーバにおいて、
前記第1支援処理部が、前記プローブ情報に基づいて第1種リンクにおける前記1次移動コストを評価し、前記センター情報に基づいて第2種リンクにおける前記1次移動コストを評価することを特徴とするナビサーバ。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか1つに記載のナビサーバにおいて、
支援マップ情報が格納されている支援マップ格納部を備え、
前記第2支援処理部が、前記ナビ装置との通信に基づいて前記第2移動体の出発位置および目的位置を認識し、該支援マップ格納部に格納されている該支援マップ情報と、前記第1支援処理部による前記評価結果とに基づき、前記移動コストの総和が最小となる、該出発位置と該目的位置とを結ぶルートを設定し、該ルートの一部を構成するリンクを識別するための識別情報を前記道路交通情報として該ナビ装置に認識させることを特徴とするナビサーバ。
【請求項5】
ナビサーバとの通信に基づいてユーザを誘導するナビ装置であって、
ナビマップ情報が格納されているナビマップ格納部と、
前記ナビサーバとの通信に基づき、該ナビサーバにより評価された各リンクにおける1次移動コストと、基準リンクから一のノードを介した第kリンク(k=1〜n)への遷移コスト、または該ナビサーバによる当該評価結果に基づく道路交通情報を認識する第1処理部と、
該第1処理部により認識された該評価結果または該道路交通情報と、該ナビマップ格納部に格納されているナビマップ情報とに基づきナビルートを設定し、該ナビルートを出力する第2処理部とを備えていることを特徴とするナビ装置。
【請求項6】
請求項1〜4のうちいずれか1つに記載のナビサーバと、請求項5記載のナビ装置とにより構成されていることを特徴とするナビシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−19978(P2009−19978A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182493(P2007−182493)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】