説明

ネットワークシステム、情報端末、サーバ、検出装置、およびデジタルコンテント配布方法

【課題】不法コピー防止に考慮したコンテント配布技術を提供する。
【解決手段】デジタルコンテントがPC4のような情報端末にロードされた後、そのPC4のビュアまたはユーザに固有のID情報がそのコンテントに埋め込まれる。ID情報はコンテントの所定位置に埋め込まれる。または、空間周波数の形でコンテント全体にわたって埋め込まれてもよい。IDの埋め込まれたコンテントは以降端末で利用可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、デジタルコンテントに識別情報(ID)を埋め込み、この情報を読み出す方法を用いたコンテント配布方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
1991年、米国においてインフォメーション・スーパーハイウェイ構想が提唱された後、インターネットに代表されるごとく、ネットワークによる情報の流通が新たな社会基盤を形成しつつある。この新しいネットワーク社会の中で、エレクトロニック・コマースなどの分野を中心に取引の安全に対する関心が高まり、破りにくい暗号や認証の研究が盛んに行われている。
【0003】
しかし、その一方、静止画、動画、音楽などのデジタルコンテント(以下、単に「コンテント」という)の流通において、インターネットでは「フリー(無料)」の情報公開が原則である。このため、文化的価値をもつ作品のように貴重なコンテントであっても、現在のところ、無断コピーや再配布が容易である。インターネット上のコンテントの利用に対する課金、不法コピーや改変の防止、および著作物に関する権利の保護は、注目され、解決されるべき問題である。これらは今後のネットワーク社会と文化の健全な相互発展において、きわめて重要な課題である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした背景から、不法にコピーされたデジタルコンテントを追跡する汎用的な方法の設計が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、既存のコンテントに対して適用可能な識別情報(ID)を埋め込んで配布する方法を提供することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、コンテントにおいて役割を担わないリザーブ領域やコメント領域を持たないコンテントについてもIDを埋め込むことのできるID埋込方法によるコンテント配布方法を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、IDの埋込によるコンテントの質の大幅な低下を抑えることの可能なID埋込方法によるコンテント配布方法を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、埋め込まれたIDの検出が容易なID埋込方法によるコンテント配布方法を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、コンテントに埋め込まれたIDを容易に検出してそのID情報を解釈するID読出方法を利用するコンテント配布方法を提供することにある。
【0010】
本発明の実施の形態に係る方法は、コンテントを利用する情報端末にそのコンテントをロードする工程と、ロードされたコンテントの知覚可能な部分の所定位置に、前記情報端末またはそのユーザに関連づけられたID情報を埋め込む工程とを含む。(コンテントはデジタルデータのいかなる集合体であってもよいし、データ値の配列の形をとっていてもよい。知覚可能な部分は、コンテントにおいて役割を担わないリザーブ領域またはコメント領域ではなく、コンテントにおいて役割を果たすデータを含む。)
【0011】
コンテントはまず情報端末にロードされる。つづいて、ID情報がコンテントの所定位置に埋め込まれる。そのコンテントの不法コピーを作成したユーザは、そのコンテントに埋め込まれたID情報によって特定される。ID情報は所定位置に埋め込まれるから、文字列の探索も不要である。特殊なデータブロックを予め準備する必要がないため、この方法は既存のコンテントに対して適用可能である。以上の態様を用いてコンテントを配布する。
【0012】
本発明の別の態様では、情報端末にロードされたコンテント全体にID情報が空間周波数情報の形で埋め込まれる。「空間周波数情報」とは、なんらかの形で空間周波数に関連する情報である。この態様では、例えばID情報が逆直交変換によって空間周波数情報に変換され、これがコンテントのデータに反映される。逆直交変換は、逆高速フーリエ変換(IFFT)、逆離散コサイン変換(IDCT)などでもよい。この方法も既存のコンテントに適用可能である。
【0013】
本発明のID読出手順によれば、まずコンテントがたとえばネットワーク経由で取得され、そのコンテントの所定位置からID情報が読み出される。このID情報は情報端末またはそのユーザと一意に関連づけられている。別の態様では、取得されたコンテントから空間周波数情報が抽出され、直交変換が施される。この変換をとおし、コンテントに埋め込まれたID情報が復元される。直交変換は高速フーリエ変換(FFT)、離散コサイン変換(DCT)などでもよい。以上の方法を用いてコンテントを配布する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、図1のごとく、サーバ2およびネットワーク9に接続されたクライアント側の装置からなるネットワークシステムに適用することができる。同図では、クライアント側の装置として、情報端末であるPC4、8やパーソナルデジタルアシスタンス(PDA)6が含まれる。
【0015】
コンテントはサーバ2からクライアント装置に供給され、IDの埋込はクライアント側で行われる。ここでは一例として、PC4がIDの埋込機能をもつとする。
【0016】
図2はPC4がコンテントを受け取ったときの動作を示すフローチャートである。PC4はまず、ネットワーク9を介してサーバ2からコンテントをダウンロードする(S0)。このとき、そのコンテントをデコード(復号)またはデクリプト(復号)するプログラムもサーバからダウンロードする。このプログラムは、ダウンロードされたビュアまたはブラウザに含まれていてもよく、これが暗号化されていたコンテントを利用可能な形に戻す。PC4またはそのユーザにユニークなユーザID情報は、前記のビュアに埋め込まれている。IDは、このビュアでコンテントを復号するとき、コンテントに埋め込まれる(S2)。ID埋込後、このコンテントを画面に表示したり、コピーするなどの利用が許可される。
【0017】
図3はPC4のうち、IDの埋込に関連する構成を示している。以下の例ではコンテントは画像と考える。まずユーザは、サーバ2を運用するコンテント管理者または提供者(図示せず)に対してコンテントの配信を要求する。コンテント管理者はユーザを認証した後、図3のごとく、そのPC4にネットワーク経由でコンテントとビュア12を送る。これらはPC4の通信部10で受け取られる。
【0018】
PC4内に受けとられたビュア12は、受信したコンテントを復号し、表示するために利用される。図3のごとく、コンテントはビュア12に入力される。ビュア12は、PC4への送信の前にコンテント管理者によって圧縮され、または暗号化された画像を復号する画像復号部14と、IDを記憶しているID保持部16と、ID保持部16からIDを読み出し、これを復号化画像に埋め込むID埋込部18をもつ。画像復号部14は復号化アルゴリズムを内蔵している。コンテント管理者は、ビュア12を送信する際、コンテントを要求したユーザに固有のIDをID保持部16に格納して提供する。ビュア12は、例えばインターネットの既存のブラウザに対するプラグインタイプのデバイスとして提供できる。
【0019】
ID埋込前の画像が読み出されて利用されることがないよう、例えばIDの埋め込まれていない画像を格納するPC4のメモリ領域はID埋込部18によってプロテクトされ、IDのないコンテントの読出が阻止される。IDのないコンテントが格納されているメモリ領域に対してリードアクセスが発生すると、例えばシステムに割込やリセットがかかる構成とする。IDの埋込が完了したとき、このプロテクトは外され、画像の自由な利用が許可される。
【0020】
図3のごとく、IDの入った画像は表示制御部20へ送られる。画像はここでディスプレイ24のための表示フォーマットに変換される。記憶装置制御部22は、データをハードディスクユニットなどの記憶装置26に書き込むもので、復号化画像を記憶装置26に格納する。
【0021】
図4は本発明のひとつの実施の形態に従い、図3のID埋込部18の内部構成を示す。ID埋込部18は、ID保持部16からIDを読み込むID読込部30と、復号化画像を読み込む復号化画像読込部32と、復号化画像のデータ列の所定位置、例えばデータ列の先頭、中央、末尾などにIDを埋め込む合成部34をもつ。いま仮にIDがnビット、各画素の輝度がマルチスケールで表現されるとき、一例として合成部34では、先頭画素からn画素にわたり、輝度の最下位ビット(LBS)をIDの各ビットに順に置き換えていく。
【0022】
実動作において、まず、PC4のユーザがコンテント管理者のもつサーバ2に対し、あるコンテントの配信を要求する。コンテントはサーバ2の側で暗号化された後、ビュア12とともにネットワークを介してPC4に送付される。PC4の通信部10が送信されたコンテントを受信し、これが、これもネットワークから受信されたビュア12に渡される。ビュア12内では、画像復号部14がコンテントを復号し、これをID埋込部18に渡す。ID埋込部18のID読込部30は、IDをID保持部16から読み出し、これを合成部34に与える。復号化画像は復号化画像読込部32で読み込まれ、合成部34に渡される。IDと復号化画像を受け取った後、合成部34は前述の方法により、輝度のLSBを置き換えることで画像にIDを埋め込む。ID付の画像はディスプレイ24に表示される。また、記憶装置26に送られてもよい。以降、もし記憶装置26に格納されたID付の画像に対し、不正な改変や複製が行われるとすれば、それら改変後または複製後のコピーは、記憶装置26に格納されている画像に埋め込まれているID情報を含むことになる。
【0023】
図5は本発明の別の実施の形態に係るID埋込部18の別の構成である。同図において図4同等の部材には同一の符号を与え、説明を省く。図5の構成は、IDを表す信号に対して逆高速フーリエ変換(IFFT)を施すIFFT部40と、変換後のID(すなわち、IFFT部40の出力)を復号化画像に合成する合成部42を含む。
【0024】
この実施の形態において、ID情報は周波数領域における信号として表される。そのようなIDの埋込に際し、ID情報を示す周波数信号に対して逆直交変換が施され、コンテント領域にビットパターンが形成される。このビットパターンがデジタルコンテントに埋め込まれるのである。本明細書において「コンテント領域」ということばは、デジタルコンテントに含まれるデータを表す領域を指し、「周波数領域」はコンテント領域に直交変換を施して得られる写像領域を指すものとする。コンテントが二次元画像(後に例示する)の場合、コンテント領域は二次元空間領域になり、対応する周波数領域は二次元空間周波数領域になる。コンテントがオーディオの場合、コンテント領域はたとえば時間領域になり、周波数領域はたとえば一次元周波数領域になる。
【0025】
図6はID情報を周波数領域における信号として表した例を示している。コンテントの例として二次元画像を用いる。長方形52はその二次元空間領域に対応する二次元空間周波数領域を表す。矢印54a、54bはそれぞれ空間領域のx、y方向を表し、矢印56a、56bはそれぞれ、空間領域のx、y方向に対応する周波数領域について、周波数が増す方向を示している。この周波数領域において、3人のユーザA、B、CのID情報を示す信号が、それぞれ(xa,ya)、(xb,yb)、(xc,yc)にプロットされている。例えばユーザAの場合、周波数信号は(xa,ya)を中心に急峻なピークをとる。急峻なピークは有限な幅をもってもよいし、デルタ関数でもよい。このように、ユーザのID情報が二次元周波数領域の一点によって表される。
【0026】
図7は、IFFT部40によって、ユーザAのID情報が空間領域における実際のビットパターンに変換された状態を示している。図7のビットパターンの画素の値は、斜線部で「1」、それ以外で「0」である。この例では、ユーザAのID情報を示す周波数信号がx、y方向ともスペクトル領域のほぼ中央にあるため(図6)、図7の斜線部とそれ以外の部分の空間周波数は、x、y方向でほぼ等しい値になる。ユーザBの場合、ID情報を示す周波数信号が両方向についてより高い周波数をもつため、結果的に斜線部とそれ以外の部分で形成されるビットパターンが細くなる(図示せず)。
【0027】
図8は、図7に示すような、ID情報を含むビットパターンを復号化画像(デジタルコンテント)に埋め込む方法を説明する図である。この例では、復号化画像の画素の輝度が8ビットの2進データで表される。ID情報を含むビットパターン中の対応画素の値で復号化画像の輝度のLSBを置き換えることにより、ID情報が復号化画像に埋め込まれる。したがってこの例では、ある画素が復号化画像において図7の斜線部に存在するなら、そのLSBは「1」、それ以外の部分に存在するなら「0」に置き換えられる。ピクセルの輝度のLSB以外の7ビットは復号化画像のもとのデータのまま残される。このように、この実施の形態によれば、IDを画像全体、またはその中のある広がりをもつ部分に埋め込むことができる。この方法はコンテントの一部切り落としへの対抗措置として有効である。なぜなら、IDを埋め込むべき前述のある広がりをもつ部分を適切にとることにより、仮にその部分を切り落としても、事実上コンテントの利用性が損なわれる状態にできるためである。本発明のID情報埋込に関し、具体的な実施の形態を説明した。これらの実施の形態にはいろいろな変形技術が考えられる。以下、それらのいくつかを示す。
【0028】
第一に、上述の実施の形態ではコンテントの配布をネットワークによったが、CD−ROM、フレキシブルディスクなど、記憶媒体に格納して配布し、PCにロードしてもよい。上述の実施の形態は、コンテントの配布に関してそのような別の方法を利用する場合にも適用可能である。
【0029】
第二に、上述の実施の形態ではデジタルコンテントの例として静止画を考えたが、本発明の方法は動画像(たとえばビデオ)やオーディオなど、他の種類のデジタルコンテントにも適用可能である。動画像の場合、ID情報を複数部分に分割し、それぞれ異なる部分を別の画像フレームに埋め込んでもよい。オーディオコンテントの場合、図3の画像復号部14をオーディオ復号部に、表示制御部20をオーディオ出力制御部に、ディスプレイ24をスピーカに、それぞれ変更すればよい。オーディオは画像と違って一次元データであるから、IFFTは一次元でよい。画像の場合、輝度に関するビットにID情報を入れたが、オーディオの場合は周波数データのLSBなどに入れればよい。
【0030】
第三に、IDを入れる箇所はコンテントのLSBに限る必要はない。量子化されたデータのうち、知覚されるコンテントの質にさしたる影響を与えない範囲であれば、どのようなビットに入れてもよい。なお、目に見えるウォーターマークとして、あえて認識可能に埋込を行う方法も採用できる。
【0031】
第四に、上述の実施の形態では上位ビットと無関係に下位ビットにIDを入れたが、上位ビットも含めたデータ全体がIDを含む状態になるよう下位ビットにオフセットを加えてもよい。
【0032】
図13は画像などのコンテントにおける3×3の画素領域の例で、それら各画素の輝度は「10,8,0…」である。図14はこれらと同じ3×3の画素領域の輝度を示すが、ここでは輝度を3の剰余系で示している。この剰余系により、例えば輝度「10」の画素に対応する値は「1」となる。図15は、既述の方法で生成された、ID情報を表すサンプルのデータパターンで、図14の3×3の画素領域に埋め込むべきものである。このIDパターンも3の剰余系で表されている。この例では、は第一行に「0」、第二行に「1」、第三行に「2」を入れたいと考える。図16は、図15に示す3×3の画素領域の各画素値を得るために、図14に示す3×3の画素領域の各画素の輝度にオフセット−1、0または1を加える様子を示している。実際には、図16に示す計算に従って各画素にオフセット−1,0,1のいずれかが加えられ、図13に示す画像の3×3の画素領域にID情報が埋め込まれる。すなわちこの方法では、輝度データ全体に対してオフセットが加わるため、上位ビットも含んだデータ全体がIDを含む。
【0033】
この方法によれば、下位ビットにIDを埋め込む場合のごとく、データの下位ビットに直接IDが見えてしまう状態を回避することができるため、安全性が高まる。「0」「1」のみでなく、「2」などのデータを埋め込むことができる点も有利である。ここでは3の剰余系を考えたが、これは他の数字であってもよい。また他のいかなる数学的、ブール代数的、または暗号学的な方法を採用してもよい。
【0034】
第五に、上述の実施の形態では、合成部34(図4)はデータ列の先頭などの所定位置にIDを埋め込んだ。しかしこの所定位置は、コンテントのデータのうち、データ値に与えられた微妙なずれの影響が認識しにくいような位置であってもよい。その場合、コンテントの質(静止画や動画像、音、テキスト等の質)はさしたる影響を受けない。
【0035】
第六に、図3に示す実施の形態では画像復号部14とID埋込部18を別の構成とした。これらの構成を一体化し、画像の復元と同時にIDを埋め込んでもよい。
【0036】
第七に、図3に示す実施の形態では、デクリプト(復号)および/またはデコード(復号)のためのプログラムをビュアまたはブラウザに内蔵させた。しかしこのプログラムは、ユーザにとってコンテントを利用しやすいフォーマットに復元できるものであれば、どのような形をとってもよい。
【0037】
第八に、ひとりのユーザのID情報は周波数領域の一点で表したが(図6)、これは他の方法でもよい。例えば、複数の離散的な点の集合、二次元領域などでひとりのユーザのID情報を表してもよい。
【0038】
第九に、図9の2本の直線100、102に示すごとく、参照情報を図6のような周波数領域の表現に入れてもよい。参照情報の位置は固定され、周波数領域内で既知であるため、コンテントからID情報を読み出すとき、この参照情報を利用することができる。参照情報の助けを借りることで、例えば回転、拡大など、コンテントに変形が加えられても、IDの位置をより高い確度で特定し、そのIDが表すユーザを同定することができる。以上がID情報の埋込方法である。つぎに、埋め込まれたID情報の読出方法を説明する。
【0039】
コンテントが不正に複製または改変されたとき(以下これらを不正行為という)、その不正行為主を特定したい。これはコンテントに埋め込まれたID情報を読み出すことで可能となる。IDを読み出す装置(以下「検出装置」という)はネットワークのいずれの箇所に存在してもよく、例えばプロキシーサーバなどが検出装置を備えてもよい。
【0040】
図10は、検出装置の動作を示すフローチャートである。検出装置はコンテントを記憶装置や記憶媒体からロードし(S10)、そこに埋め込まれたID情報を読み出す(S12)。もし不正行為が見つかれば、その行為主をコンテント管理者に通告するなど適当な措置をとる。
【0041】
図11はコンテントに埋め込まれたID情報を読み出す検出装置の実施の形態である。検出装置60(PCに含まれていてもよい)は、ネットワークからコンテントを取得する通信部62と、取得したコンテントからIDを読み出すID読出部64と、読み出したIDを表示するためにディスプレイ68を制御する表示制御部66をもつ。
【0042】
この実施の形態において、ID読出部64は、取得したコンテントのデータ列における所定位置、例えばデータ列の先頭のLSBを抽出し、IDを再構成する。抽出の結果、ユーザを有意に同定できるID情報が現れなければ、そのコンテントがオリジナルであること、すなわち、ユーザのID情報が埋め込まれていないコンテントと判断する。一方、あるユーザのIDが埋め込まれているコンテントがネットワークの上で発見されれば、そのID情報で同定されるユーザが不正にそのコンテントを配布した可能性がある。こうしてIDに基づき不正行為が追跡される。
【0043】
図12は本発明の別の実施の形態に係る別のID読出部を示している。このID読出部は、コンテントに空間周波数情報として埋め込まれたIDを読み出すよう動作する。ID読出部64は、取得されたコンテントのデータのLSBを抽出してビットパターンを形成するLSB抽出部72と、抽出されたLSBをもとに形成されたビットパターンに対して高速フーリエ変換(FFT)を施すFFT部74をもつ。
【0044】
この構成による動作は、図6〜8を逆に辿ることに等しい。まず、埋め込まれたID情報を表すLSBが抽出される(図8)。つづいて、このLSBがコンテント中に形成するビットパターンが検出される(図7)。この後、FFT部74で前記のビットパターンからx、yそれぞれの方向の空間周波数を算出する。図7のビットパターンの場合、FFT計算の結果、図6のユーザAのIDが判明する。これで不正行為主がユーザAと同定される。
【0045】
この方法によれば、IDを検出するために、疑義のあるコンテントとオリジナルのコンテントを対比する必要がない点も有利である。
【0046】
以上のID情報の読出方法には多くの変形技術が考えられる。本明細書ですでに述べたID埋込方法の変形技術は、それぞれ対応するID読出方法の変形技術をもっている。たとえば、図13〜16を参照して説明したような方法によって下位ビットにオフセットが加えられた場合、そのIDを読み出すことができる。また、コンテントの所定位置(たとえばデータ値をシフトしても知覚上さしたる影響を与えないような位置)にIDが埋め込まれている場合、ID埋込方法に整合して同じ位置を検出するID読出方法がある。一般に、埋込装置と読出装置が同じ埋込/読出規則を採用する限り、IDの読出は可能である。
【0047】
上述の実施の形態では検出装置がネットワークに接続された。しかし、記憶媒体に記憶されたコンテントのみを検査するなら、この装置はオフラインのスタンドアロンタイプであっても差し支えない。
【0048】
さらに、上述の実施の形態では、IDの埋込はコンテントが利用される情報端末、すなわちユーザ側で行われた。しかし、当業者には明らかなごとく、いままでに述べた、コンテントにID情報を埋め込むための種々の方法は、IDの埋込がコンテントプロバイダー側で行われるようなコンテント配信設計においても同様に適用できる。
【0049】
当然ながら、当業者にとって、本発明の変形例は、本発明をいろいろな角度から見たときに明らかになるであろう。特定の用途に応じて特定の設計が生じるため、他の実施の形態も可能である。したがって、本発明の範囲はここで説明した実施の形態によって制限されるべきではなく、特許請求の範囲のみで決められるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の好適な実施の形態が適用されるネットワークシステムを示す図である。
【図2】IDの埋込に関し、PCがコンテントを受け取ったときの動作を示すフローチャートである。
【図3】PCのうち、IDの埋込に関連する構成を示す図である。
【図4】図3のID埋込部の内部構成図である。
【図5】図3のID埋込部の別の構成を示す図である。
【図6】スペクトル領域を用いた表現によって、IDと空間周波数との関係を示す図である。
【図7】図5のIFFT部によって、あるユーザのIDを実際の画像データパターンに変換した結果を示す図である。
【図8】図7のビットパターンを復号化画像に埋め込む方法を示す図である。
【図9】図6のスペクトル領域に固定的な参照情報を重ねた状態を示す図である。
【図10】コンテントに埋め込まれたIDを読み出す検査装置の動作を示すフローチャートである。
【図11】検出装置のうちID読出部の構成を示す図である。
【図12】図11のID読出部の別の構成を示す図である。
【図13】3×3の画素領域を示す図である。
【図14】図13の3×3の画素の輝度を3の剰余系で示した図である。
【図15】図13の3×3の領域にIDとして埋め込みたいデータパターンを示す図である。
【図16】図14の状態から図15の状態を得るために各画素の輝度にオフセット0または±1を加える様子を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
10 通信部
12 ビュア
14 画像復号部
16 ID保持部
18 ID埋込部
20 表示制御部
22 記憶装置制御部
24 ディスプレイ
26 記憶装置
30 ID読込部
32 復号化画像読込部
34 合成部
40 IFFT部
42 合成部
60 検出装置
62 通信部
64 ID読出部
66 表示制御部
68 ディスプレイ
72 LSB抽出部
74 FFT部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報端末からコンテント管理者に対し、その情報端末またはその使用者が特定される形で、あるデジタルコンテントに対する要求を発行する工程と、
前記の要求に応じてコンテント管理者から送られたコンテントを暗号化されている形で受け取る工程と、
前記の要求に応じてコンテント管理者から送られた復号化のためのプログラムを、それが前記の情報端末または使用者を特定するID情報を内蔵する形で受け取る工程と、
受け取った復号化のためのプログラムを用いて、前記のID情報がコンテントに埋め込まれる形で復号化されたコンテントを生成すべく、コンテントを処理する工程と、を含むことを特徴とするデジタルコンテント配布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−38810(P2009−38810A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−228233(P2008−228233)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【分割の表示】特願2007−174633(P2007−174633)の分割
【原出願日】平成9年11月6日(1997.11.6)
【出願人】(396001980)株式会社モノリス (14)
【Fターム(参考)】