説明

ハイブリッド自動車

【課題】昇降圧コンバータを備えたハイブリッド自動車において、昇降圧コンバータのスイッチング素子の過熱を良好に抑制しながら、内燃機関の始動要求がなされたときに当該内燃機関をより確実に始動する。
【解決手段】昇降圧コンバータ55の上アームトランジスタT31の温度Tuが所定温度以上であってバッテリ50の入力制限Winに制限が課されているときに、モータMG1によりエンジン22をクランキングしたときの発電電力Pm1のモータMG2で消費される消費電力Pm2に対する余剰分である余剰電力Pexが入力制限Winの範囲内でない場合、エンジン22の始動要求がなされたときに、余剰電力Pexのうちの少なくとも入力制限Winを超える分の電力が駆動力の出力に用いられることなくモータMG1およびMG2の少なくとも何れか一方で消費されるようにインバータ41,42を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスイッチング素子を有すると共に蓄電手段とそれぞれモータを駆動をする第1および第2インバータとの間で電圧を変換する昇降圧コンバータを備えるハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車に搭載される電力制御装置として、二次電池と、二次電池からの直流電力を交流電力に変換すると共に当該交流電力をトラクションモータに供給するトラクションインバータと、力行走行時には二次電池の出力電圧を昇圧してトラクションインバータ側に供給すると共に、回生制動時にはトラクションモータにより回生された電力を降圧して二次電池を充電するDC/DCコンバータとを備え、DC/DCコンバータのスイッチング素子の検出温度または推定温度に基づいてスイッチング素子の通過電力を制限するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この電力制御装置は、電気自動車の力行走行時に、当該力行走行時に通電されるDC/DCコンバータのスイッチング素子の温度に基づいてスイッチング素子の通過電力を制限すると共に、電気自動車の回生制動時には、当該回生制動時に通電されるスイッチング素子の温度に基づいてスイッチング素子の通過電力を制限することにより、スイッチング素子の通過電力の制限を最適化している。また、この種の電気自動車に搭載される電力制御装置としては、蓄電装置と、リアクトルと上アーム側のスイッチング素子と下アーム側のスイッチング素子とを有する電圧変換器と、インバータユニットとを備え、電圧変換器のリアクトルの温度に応じて蓄電装置の入力電圧Winおよび出力電圧Woutを制限することによりリアクトルの温度上昇を抑制するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−204032号公報
【特許文献2】特開2009−254209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来、内燃機関と、第1および第2電動機と、これらが接続される遊星歯車機構とを備えたハイブリッド自動車が知られているが、この種のハイブリッド自動車では、第1電動機により内燃機関をクランキングすると共に当該クランキングに伴って車軸側に出力されるトルクを第2電動機からのトルクによりキャンセルしながら内燃機関を始動させることがある。ここで、この種のハイブリッド自動車であってDC/DCコンバータを備えたものにおいて、DC/DCコンバータを構成するスイッチング素子の過熱を抑制するために、特許文献1に記載されたもののようにスイッチング素子の通過電力を制限すると、エンジンの始動要求がなされたときに二次電池を充電する方向の電流の流れが制限されることから、エンジンをクランキングする第1電動機による発電が制限され、それにより第1電動機のクランキングによりエンジンを始動させ得なくなるおそれがある。
【0005】
本発明のハイブリッド自動車は、複数のスイッチング素子を有すると共に蓄電手段とそれぞれモータを駆動する第1および第2インバータとの間で電圧を変換する昇降圧コンバータを備えたハイブリッド自動車において、昇降圧コンバータのスイッチング素子の過熱を良好に抑制しながら内燃機関の始動要求がなされたときに当該内燃機関をより確実に始動することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド自動車は、内燃機関と、動力を入出力可能な第1電動機と、3つの回転要素に対して車軸に連結された駆動軸と前記内燃機関の出力軸と前記第1電動機の回転軸とが共線図上で該駆動軸、該出力軸、該回転軸の順に並ぶように接続された遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な第2電動機と、前記第1および第2電動機と電力のやり取りが可能な蓄電手段と、前記蓄電手段の充電に許容される電力である充電許容電力を設定する充電許容電力設定手段と、前記第1電動機を駆動する第1インバータと、前記第2電動機を駆動する第2インバータと、複数のスイッチング素子を有すると共に前記蓄電手段と前記第1および第2インバータとの間で電圧を変換する昇降圧コンバータと、前記複数のスイッチング素子のうちの前記第1および第2インバータ側から前記蓄電手段側へと電流が流れるときにオンされるスイッチング素子の温度を取得する温度取得手段と、前記設定された充電許容電力の範囲内で車両に要求される駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記内燃機関と前記第1および第2インバータとを制御する制御手段とを含むハイブリッド自動車において、
前記温度取得手段により取得された前記スイッチング素子の温度が所定温度以上であるときに前記設定された充電許容電力に制限を課す充電許容電力制限手段と、
前記充電許容電力制限手段により前記充電許容電力に制限が課されているときに、前記第1電動機により前記内燃機関をクランキングしたときの発電電力の前記第2電動機の消費電力に対する余剰分である余剰電力が前記充電許容電力の範囲内であるか否かを判定する判定手段とを備え、
前記制御手段は、前記内燃機関の停止中に該内燃機関の始動要求がなされたときに前記判定手段により前記余剰電力が前記充電許容電力の範囲内でないと判定される場合には、該余剰電力のうちの少なくとも前記充電許容電力を超える分の電力が前記駆動力の出力に用いられることなく前記第1および第2電動機の少なくとも何れか一方で消費されるように前記第1および第2インバータを制御することを特徴とする。
【0008】
本発明のハイブリッド自動車では、昇降圧コンバータを構成するスイッチング素子のうちの第1および第2インバータ側から蓄電手段側へと電流が流れるときにオンされるスイッチング素子の温度が所定温度以上であるときに、蓄電手段の充電許容電力に制限が課される。これにより、蓄電手段を充電する際にオンされるスイッチング素子の通電量が制限されるため、当該スイッチング素子の過熱を良好に抑制することができる。また、こうして充電許容電力に制限が課されているときには、第1電動機により内燃機関をクランキングしたときの発電電力の第2電動機の消費電力に対する余剰分である余剰電力が充電許容電力の範囲内であるか否か判定され、内燃機関の停止中に内燃機関の始動要求がなされたときに余剰電力が充電許容電力の範囲内でないと判定される場合には、余剰電力のうちの少なくとも充電許容電力を超える分の電力が駆動力の出力に用いられることなく第1および第2電動機の少なくとも何れか一方で消費されるように第1および第2インバータが制御される。このように、蓄電手段の充電許容電力に制限を課したことによって第1電動機により内燃機関をクランキングしたときの発電電力の第2電動機の消費電力に対する余剰分である余剰電力を蓄電手段に充電しきれないときには、当該余剰電力のうちの少なくとも充電許容電力を超える分の電力を駆動力の出力に供することなく第1および第2電動機の少なくとも一方で消費させることにより、蓄電手段の充電許容電力が制限されていたとしても、内燃機関の始動要求がなされたときに内燃機関をより確実に始動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。
【図2】本発明の実施例に係るハイブリッド自動車20の昇降圧コンバータ55の概略構成図である。
【図3】実施例のハイブリッドECU70により実行される上アーム過熱抑制ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の実施例に係るハイブリッド自動車20の概略構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、ガソリンや軽油などを燃料とするエンジン22と、エンジン22を駆動制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続されたプラネタリギヤ30と、プラネタリギヤ30に接続された発電可能なモータMG1と、プラネタリギヤ30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに連結された減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、リングギヤ軸32aにギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して接続された駆動輪39a,39bと、電力ライン54に接続された例えばリチウムイオン二次電池あるいはニッケル水素二次電池であるバッテリ50と、モータMG1と電力ライン54との間に介設されたインバータ41と、モータMG2と電力ライン54との間に介設されたインバータ42と、バッテリ50とインバータ41,42との間で電圧を変換する昇降圧コンバータ55と、インバータ41,42を介してモータMG1およびMG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52と、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52と通信しながら車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70とを備える。
【0012】
プラネタリギヤ30は、モータMG1の回転軸に接続されるサンギヤ31と、リングギヤ軸32aや減速ギヤ35を介してモータMG2の回転軸に接続されるリングギヤ32と、サンギヤ31と噛合すると共にリングギヤ32と噛合する複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持し、かつエンジン22のクランクシャフト26に接続されるキャリア34とを有する。従って、プラネタリギヤ30の3つの回転要素に対しては、駆動軸としてのリングギヤ軸32aとエンジン22のクランクシャフト26とモータMG1の回転軸とが共線図上でリングギヤ軸32a、クランクシャフト26、モータMG1の回転軸の順に並ぶように接続される。
【0013】
昇降圧コンバータ55は、バッテリ50と接続されており、図2に示すように、2つのトランジスタT31およびトランジスタT32と、トランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32と、リアクトルLとを含む。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれインバータ41,42の正極母線54aと負極母線54bとに接続されており、両者の接続点にリアクトルLが接続されている。また、リアクトルLと負極母線54bとには、バッテリ50の正極端子と負極端子とが接続されると共に、昇降圧コンバータ55のバッテリ50側の電圧を平滑化する平滑コンデンサ57が接続されている。更に、平滑コンデンサ57の端子間には電圧センサ57aが設置されており、この電圧センサ57aの検出値を用いて昇降圧コンバータ55の昇圧前電圧VLが取得される。これにより、トランジスタT31(以下、「上アームトランジスタT31」という)をオフとすると共に,トランジスタT32(以下、「下アームトランジスタT32」という)をスイッチング制御することによりバッテリ50側からの直流電力の電圧(昇圧前電圧VL)を昇圧してインバータ41,42に供給することができる。この場合、インバータ41,42に印加され得る昇降圧コンバータ55による昇圧後電圧VHは、平滑コンデンサ58の端子間に設置された電圧センサ58aの検出値を用いて取得される。また、昇降圧コンバータ55の下アームトランジスタT32をオフとすると共に,上アームトランジスタT31をスイッチング制御することにより、正極母線54aと負極母線54bとに作用している直流電圧を降圧してバッテリ50を充電することもできる。更に、昇降圧コンバータ55の上アームトランジスタT31および下アームトランジスタT32には、それぞれの温度Tu,Tlを検出する温度センサ59,60が取付けられている。なお、上アームトランジスタT31および下アームトランジスタT32の何れか一方に温度センサを取付けると共に、当該温度センサにより検出される温度に基づいて他方のトランジスタの温度を推定してもよく、温度センサ59,60を省略してバッテリ50を流れるバッテリ電流等に基づいて上アームトランジスタT31,下アームトランジスタT32の双方の温度を推定してもよい。
【0014】
インバータ41,42および昇降圧コンバータ55は、いずれもモータECU40により制御され、これによりモータMG1,MG2が駆動制御される。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や電圧センサ57aからの平滑コンデンサ57の昇圧前電圧VL、電圧センサ58aからの平滑コンデンサ58の昇圧後電圧VH,温度センサ59,60からの温度Tu,Tlなどが入力される。モータECU40からは、インバータ41,42のトランジスタへのスイッチング制御信号や昇降圧コンバータ55のトランジスタへのスイッチング制御信号が出力される。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。また、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために、バッテリ50の残容量SOCを算出したり、残容量SOCと所定の充放電制約とに基づいてバッテリ50の充放電要求パワーを算出したり、バッテリ50の残容量SOCとバッテリ50の温度とに基づいてバッテリ50の充電に許容される電力である充電許容電力としての入力制限Winとバッテリ50の放電に許容される電力である放電許容電力としての出力制限Woutを算出したりする。
【0015】
上述のように構成された実施例のハイブリッド自動車20においてイグニッションスイッチ80がオンされると共にエンジン22が運転されている場合、ハイブリッドECU70は、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速Vに基づいて要求トルクTr*を設定すると共に、設定した要求トルクTr*に基づいてエンジン22から出力すべき要求パワーPe*を設定し、要求パワーPe*に基づいてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する。更に、目標トルクTe*等に基づいてバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内でモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると共に、トルク指令Tm1*,Tm2*等に基づいて目標昇圧後電圧VH*といった指令信号を生成し、生成した信号をエンジンECU24やモータECU40に送信する。エンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とからなる運転ポイントでエンジン22が運転されるようにエンジン22に対する吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火制御などを行なう。モータECU40は、昇圧後電圧VHが目標昇圧後電圧VH*となるように昇降圧コンバータ55のスイッチング制御を行うと共に、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようにインバータ41,42のスイッチング制御を行なう。また、実施例のハイブリッド自動車20においてエンジン22の運転が停止されている場合、ハイブリッドECU70は、要求トルクTr*に応じたトルクがリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG2のトルク指令Tm2*を設定すると共に、トルク指令Tm2*等に基づいて目標昇圧後電圧VH*を設定し、モータECU40に送信する。この場合、モータECU40は、昇圧後電圧VHが目標昇圧後電圧VH*となるように昇降圧コンバータ55のスイッチング制御を行うと共に、トルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0016】
更に、ハイブリッドECU70は、エンジン22の運転が停止されているときに、要求パワーPe*や車速V、残容量SOCといったパラメータとそれぞれについて設定される閾値とを比較するエンジン始動判定を実行する。そして、ハイブリッドECU70は、エンジン始動判定の結果、エンジン22を始動すべきと判断した場合には、エンジン22をクランキングするようにモータMG1のトルク指令Tm1*を設定すると共にエンジン22のクランキングに伴ってリングギヤ軸32aに作用する駆動トルクに対する反力としてのトルクをキャンセルしつつ要求トルクTr*に基づくトルクがリングギヤ軸32aに出力されるようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し、更に設定したトルク指令Tm1*,Tm2*等に基づいて目標昇圧後電圧VH*を設定し、当該トルク指令Tm1*,Tm2*や目標昇圧後電圧VH*をモータECU40に送信する。モータECU40は、昇圧後電圧VHが目標昇圧後電圧VH*となるように昇降圧コンバータ55のスイッチング制御を行うと共に、ハイブリッドECU70により設定されたトルク指令Tm1*,Tm2*に従ってインバータ41,42をスイッチング制御し、エンジンECU24は、所定のタイミングで燃料噴射および点火が開始されるようにエンジン22を制御する。
【0017】
次に、実施例のハイブリッド自動車20において、昇降圧コンバータ55を構成する複数のトランジスタ(スイッチング素子)T31およびT32のうちのバッテリ50を充電する際にオンされる上アームトランジスタT31の過熱を抑制するための制御について説明する。図3は、昇降圧コンバータ55の上アームトランジスタT31の温度Tuが所定温度以上であるときに、ハイブリッドECU70により所定時間毎(例えば、8msec毎)に繰り返し実行される上アーム過熱抑制ルーチンの一例を示すフローチャートである。なお、実施例では、温度センサ59により検出された上アームトランジスタT31の温度Tuが所定温度以上になると、上アーム過熱抑制ルーチンの実行を指示するための信号がモータECU40からハイブリッドECU70に送信され、この信号をモータECU40から受け取ると、ハイブリッドECU70は、上アーム過熱抑制ルーチンを開始する。
【0018】
上アーム過熱抑制ルーチンの開始に際して、実施例のハイブリッドECU70は、まず、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2、バッテリ50の入力制限Winといった上アーム過熱抑制ルーチンの実行に必要なデータを入力する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、モータECU40から通信により入力されるものであり、バッテリ50の入力制限Winは、バッテリECU52から通信により入力される。続いて、入力した入力制限Win(負の値)と制限値Wins(負の値)との大きい方(絶対値が小さい方)を新たな入力制限Winに設定することにより入力制限Winを制限する(ステップS120)。ここで、制限値Winsは、昇降圧コンバータ55の上アームトランジスタT31の過熱を抑制可能な上アームトランジスタT31の通電量に基づいて実験・解析等により予め定められる。なお、実施例のハイブリッド自動車20では、上アームトランジスタT31の温度Tuが所定温度以上であるときに、バッテリ50の入力制限Winのみが制限され、バッテリ50の出力制限Woutが制限されることはない。
【0019】
このように、バッテリ50の入力制限Winを制限値Winsで制限することにより、充電電力として小さく制限されたWinを用いて各駆動制御が実行されるため、昇降圧コンバータ55を構成するトランジスタのうちのバッテリ50を充電する際にオンされる上アームトランジスタT31の通電量が制限され、当該上アームトランジスタT31の過熱が抑制される。また、上アームトランジスタT31の温度Tuが所定温度以上であるときにバッテリ50の入力制限Winのみを制限して出力制限Woutを制限しないことにより、出力制限WoutすなわちモータMG2からのトルク出力の制限に起因してエンジン22の運転停止中に必要以上にエンジン22が始動されてしまうのを抑制し、それによりエミッションやドライバビリティの悪化を抑えることができる。ただし、このようにバッテリ50の入力制限Winを制限すると、例えば所定の高車速領域でエンジン22の運転を停止してモータMG2から出力される駆動力のみで走行している最中にエンジン22の始動要求がなされ、モータMG1によりエンジン22をクランキングしてエンジン22を始動させる際に、クランキングに伴ってモータMG1で発電される発電電力のモータMG2で消費される消費電力に対する余剰分の電力がバッテリ50の入力制限Winを超えやすくなる。そして、このような場合には、モータMG1からのトルクの出力が制限されるため、モータMG1のクランキングによりエンジン22を始動し得なくなるおそれがある。そこで、実施例の上アーム過熱抑制ルーチンでは、バッテリ50の入力制限Winが制限されている場合であってもエンジン22をより確実に始動可能とするために、引き続き以下の処理が実行される。
【0020】
すなわち、ステップS110にてバッテリ50の入力制限Winを制限したならば、エンジン22が停止中か否かを判定し(ステップS120)、エンジン22が停止中であれば、更にエンジン22の始動要求がなされているか否かを判定する(ステップS130)。エンジン22の始動要求は、上述したエンジン始動判定の結果、エンジン22を始動すべきと判断されているときになされるものである。そして、エンジン22の始動要求がなされている場合には、エンジン22を始動するためにモータMG1でエンジン22をクランキングすることによりモータMG1で発電される発電電力Pm1(負の値)と、モータMG1によるエンジン22のクランキングに伴ってリングギヤ軸32aに作用する駆動トルクに対する反力としてのトルクをキャンセルしつつ要求トルクTr*に基づくトルクをリングギヤ軸32aに出力することによりモータMG2で消費される消費電力Pm2(正の値)との和である余剰電力Pexを計算する(ステップS140)。ここで、発電電力Pm1は、実施例では、モータMG1の回転数Nm1と、モータMG1のトルク指令Tm1*すなわちエンジン22のフリクショントルク等に基づいて予め定められるエンジン22をクランキングするためにモータMG1から出力すべきクランキングトルクとを乗じた値として計算される。また、消費電力Pm2は、実施例では、モータMG2の回転数Nm2と、モータMG2のトルク指令Tm2*とを乗じた値として計算される。なお、例えば車速センサ88から入力される車速Vと余剰電力Pexとの関係を図示しない余剰電力設定用マップとして予め定めておき、与えられた車速Vに対応する余剰電力Pexを当該マップから導出してもよい。
【0021】
次に、計算した余剰電力PexがステップS110にて制限されたバッテリ50の入力制限Winよりも小さい(絶対値が大きい)か否か、すなわち、余剰電力Pexのすべてをバッテリ50に充電可能であるか否かを判定し(ステップS150)、余剰電力Pexが入力制限Winよりも小さく(絶対値が大きく)余剰電力Pexのすべてをバッテリ50に充電し得ないと判定されたときには、無効電力増加制御の実行指令をモータECU40に送信して(ステップS160)、再度ステップS100以降の処理を実行する。無効電力増加制御は、モータMG1およびMG2の少なくとも一方でトルクの発生に寄与しないd軸電流を増加させることにより、余剰電力Pexのうちの少なくとも入力制限Winを超える分の電力をトルクの出力に用いることなく当該モータMG1およびMG2の少なくとも一方で消費させるようにインバータ41,42を制御するものである。そして、ハイブリッドECU70から無効電力増加制御の実行指令を受け取ったモータECU40は、予め定められた制約に従って余剰電力Pexのうちの入力制限Winを超える分の電力の大きさに応じてモータMG1およびMG2の少なくとも一方でトルクの発生に寄与しないd軸電流を増加させる。一方、ステップS120にてエンジン22が運転中であると判定された場合、ステップS130にてエンジン22の始動要求がなされていないと判定された場合、ステップS150にて余剰電力Pexがバッテリ50の入力制限Winよりも大きい(絶対値が小さい)と判定された場合には、無効電力増加制御の実行指令をモータECU40に送信することなく再度ステップS100以降の処理を実行する。
【0022】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20では、昇降圧コンバータ55を構成するスイッチング素子のうちのインバータ41,42側からバッテリ50側へと電流が流れるときにオンされる(スイッチング制御される)上アームトランジスタT31の温度Tuが所定温度以上であるときに、バッテリ50の入力制限Winに制限が課される(ステップS110)。これにより、バッテリ50を充電する際にオンされる上アームトランジスタT31の通電量が制限されるため、当該上アームトランジスタT31の過熱を良好に抑制することができる。また、入力制限Winに制限が課されているときにエンジン22の始動要求がなされた場合には、モータMG1によりエンジン22をクランキングしたときに発電される発電電力Pm1のモータMG2で消費される消費電力Pm2に対する余剰分である余剰電力Pexが入力制限Winの範囲内であるか否か判定され(ステップS120−S150)、エンジン22の停止中にエンジン22の始動要求がなされたときに余剰電力Pexが入力制限Winの範囲内でないと判定された場合には、モータMG1およびMG2の少なくとも一方でトルクの発生に寄与しないd軸電流を増加させる無効電力増加制御の実行が指示される(ステップS160)。これにより、エンジン22の停止中にエンジン22の始動要求がなされたときに余剰電力Pexが制限された入力制限Winの範囲内でない場合、余剰電力Pexのうちの少なくとも入力制限Winを超える分の電力が駆動力の出力に用いられることなくモータMG1およびMG2の少なくとも何れか一方で消費されるようにモータECU40によりインバータ41,42が制御されることになる。このように、バッテリ50の入力制限Winに制限を課したことによってモータMG1によりエンジン22をクランキングしたときの発電電力Pm1のモータMG2の費消費電力Pm2に対する余剰分である余剰電力Pexをバッテリ50へと充電しきれないときには、当該余剰電力Pexのうちの少なくとも入力制限Winを超える分の電力を駆動力の出力に供することなくモータMG1およびMG2の少なくとも一方で消費させることにより、バッテリ50の入力制限Winが制限されていたとしても、エンジン22の始動要求がなされたときにエンジン22をより確実に始動させることができる。
【0023】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ハイブリッド自動車の製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0025】
20 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、34 キャリア、35 減速ギヤ、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41 インバータ、42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、54a 正極母線、54b 負極母線、55 昇降圧コンバータ、57,58 平滑コンデンサ、57a,58a 電圧センサ、59,60 温度センサ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、80 イグニッションスイッチ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、88 車速センサ、D31,D32 ダイオード、L リアクトル、MG1,MG2 モータ、T31 上アームトランジスタ、T32 下アームトランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、動力を入出力可能な第1電動機と、3つの回転要素に対して車軸に連結された駆動軸と前記内燃機関の出力軸と前記第1電動機の回転軸とが共線図上で該駆動軸、該出力軸、該回転軸の順に並ぶように接続された遊星歯車機構と、前記駆動軸に動力を入出力可能な第2電動機と、前記第1および第2電動機と電力のやり取りが可能な蓄電手段と、前記蓄電手段の充電に許容される電力である充電許容電力を設定する充電許容電力設定手段と、前記第1電動機を駆動する第1インバータと、前記第2電動機を駆動する第2インバータと、複数のスイッチング素子を有すると共に前記蓄電手段と前記第1および第2インバータとの間で電圧を変換する昇降圧コンバータと、前記複数のスイッチング素子のうちの前記第1および第2インバータ側から前記蓄電手段側へと電流が流れるときにオンされるスイッチング素子の温度を取得する温度取得手段と、前記設定された充電許容電力の範囲内で車両に要求される駆動力が前記駆動軸に出力されるよう前記内燃機関と前記第1および第2インバータとを制御する制御手段とを含むハイブリッド自動車において、
前記温度取得手段により取得された前記スイッチング素子の温度が所定温度以上であるときに前記設定された充電許容電力に制限を課す充電許容電力制限手段と、
前記充電許容電力制限手段により前記充電許容電力に制限が課されているときに、前記第1電動機により前記内燃機関をクランキングしたときの発電電力の前記第2電動機の消費電力に対する余剰分である余剰電力が前記充電許容電力の範囲内であるか否かを判定する判定手段とを備え、
前記制御手段は、前記内燃機関の停止中に該内燃機関の始動要求がなされたときに前記判定手段により前記余剰電力が前記充電許容電力の範囲内でないと判定される場合には、該余剰電力のうちの少なくとも前記充電許容電力を超える分の電力が前記駆動力の出力に用いられることなく前記第1および第2電動機の少なくとも何れか一方で消費されるように前記第1および第2インバータを制御することを特徴とするハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−51515(P2012−51515A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197073(P2010−197073)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】