説明

ハイブリッド走行制御装置

【課題】動力循環を低減すると共に、エンジンの熱効率を悪化を低減することが可能なハイブリッド走行制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両(1)の走行制御を行うハイブリッド走行制御装置(10)において、燃費を優先するエンジン動作点及び回転電機の動作点がそれぞれ決められた走行モードで走行する燃費優先走行手段と、一方の回転電機(11)によって発電された電力の少なくとも一部が他方の回転電機(12)によって消費される動力循環状態になり易い高速巡航走行時に、バッテリ(21)の目標SOCを通常より高めに設定することで発電を行う回転電機(11)の回転数が0回転近傍になるように充電要求パワーを上乗せする充電制御手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
バッテリからの電力により少なくとも一つの回転電機及びエンジンから駆動力を得て、走行制御を行うハイブリッド走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両にはシリーズ方式とパラレル方式があり、この中間であるいわゆるシリーズ・パラレル併用方式のハイブリッド車両では、バッテリによる電気エネルギーで駆動する第1及び第2のモータジェネレータとエンジンとが遊星歯車機構を用いて接続されている。また、モータジェネレータは電気エネルギーが与えられモータとして動作するだけでなく、回転エネルギーが与えられて発電機として電気エネルギーを出力する。遊星歯車機構のサンギアは第1モータジェネレータに接続され、リングギアは第2モータジェネレータに接続される。リングギヤとサンギアとはピニオンギアを介して噛み合い、ピニオンギアを指示するキャリアがエンジン出力軸に接続されている。
【0003】
ハイブリッド車両では、燃費を向上させるためエンジンが最高効率領域で駆動するように回転数が定められ、この回転数を維持できるように車速に応じて回転するリングギアに対し、サンギアに接続されている第1モータジェネレータの回転数を制御する。この第1モータジェネレータの回転数を制御するには、第1モータジェネレータで発電される電力を制御する。
【0004】
車速をある一定速度以上に上げて高速巡航走行をすると、エンジン回転数を所定の回転数に維持したままでは、サンギアに接続されている第1モータジェネレータは回転数が負回転となる。このため、エンジントルクと駆動力のバランスを保つため、サンギアに接続された第1モータジェネレータは力行動作を行い、他方、リングギアに接続されている第2モータジェネレータは発電動作を行うことになる。このような動作は動力循環と呼ばれ、燃費が悪化する。
【0005】
そこで、特許文献1には、高速走行時に燃費を改善させるためのシフト切換機構を有し、シフト切換機構は高速走行時にサンギアを停止状態に固定する構成が示されている。また、特許文献2には、従来の動力循環回避法として、動力循環領域においてエンジンの動作点をエンジンの熱効率最良線から高回転・低トルク側へシフトしてシステム効率(=熱効率×伝達効率)が最良となる運転点を選択することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−291439号公報
【特許文献2】特開2007−099155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の方法では、シフト切換機構が必要となる。また、特許文献2の方法では、動力循環量は低減されるため伝達効率は向上するが、エンジン動作点が熱効率最良線より軽負荷側へシフトするため、実際の運転点での熱効率は低下して燃費が悪化する。そこで、本発明では、動力循環を低減すると共に、エンジンの熱効率を悪化を低減することが可能なハイブリッド走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような目的を達成するために、本発明に係るハイブリッド走行制御装置は、遊星歯車機構の動作共線特性によってエンジン出力と複数の回転電機出力との配分関係が定められ、バッテリからの電力により少なくとも一つの回転電機及びエンジンから駆動力を得て、走行制御を行うハイブリッド走行制御装置において、燃費を優先するエンジン動作点及び回転電機の動作点がそれぞれ決められた走行モードで走行する燃費優先走行手段と、一方の回転電機によって発電された電力の少なくとも一部が他方の回転電機によって消費される動力循環状態になり易い高速巡航走行時に、バッテリの目標SOCを通常より高めに設定することで発電を行う回転電機の回転数が0回転近傍になるように充電要求パワーを上乗せする充電制御手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明を用いることにより、動力循環による高速巡航時の燃費悪化を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る走行制御装置を備えたハイブリッド車両の構成を示す構成図である。
【図2】本実施形態における動力分配機構の特性の一例を説明する共線図である。
【図3】本実施形態におけるエンジンの動作特性の一例を説明する説明図である。
【図4】本実施形態におけるバッテリの目標SOCの時間変化を説明する説明図である。
【図5】本実施形態における走行制御装置の処理の流れを示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0012】
図1は、走行制御装置10を備えたハイブリッド車両1の構成を示している。ハイブリッド車両1は動力伝達系と電力伝達系及び電気系とに分けられる。動力伝達系には、エンジン13と、エンジン13の出力軸に接続された動力分配機構14と、動力分配機構14に接続された発電可能なモータ・ジェネレータMG1(11)と、動力源として機能するモータ・ジェネレータMG2(12)と、動力分配機構14に接続されている減速ギア19と、減速ギア19に接続されている車輪18と、が設けられている。また、電力伝達系及び電気系は、バッテリ21に接続されたインバータ(22,23)と、アクセルペダル24からの操作指示によりインバータ(22,23)とエンジン13を制御する走行制御装置10と、エンジン13やモータジェネレータ(11,12)などの回転数を検出する回転センサ(15,16,17)が設けられている。
【0013】
動力分配機構14は、外側歯車のサンギア(S)と、サンギア(S)と同心上に配列された内歯歯車のリングギア(R)と、サンギア(S)に噛み合うと共にリングギア(R)に噛み合う複数のピニオンギアと、複数のピニオンギアを自転かつ公転自在に保持するキャリア(C)とを備えている。図1の動力分配機構14では、キャリア(C)にはエンジン13のクランクシャフトが接続され、サンギア(S)にはモータジェネレータMG1(11)が接続され、リングギア(R)には減速ギア19をを介してモータジェネレータMG2(12)が接続されており、各軸の回転数は回転センサ(15,16,17)で検出され、その情報が走行制御装置10へ送られる。モータジェネレータMG1(11)及びモータジェネレータMG2(12)は、インバータ23とインバータ22により発電機として使用することができると共に、電動機としても使用することができる。
【0014】
通常、ハイブリッド車両1は、運転者によるアクセルペダル24の踏み込み量に対応するアクセル開度と車速Vとに基づいて駆動軸であるリングギア(R)に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギア(R)に出力されるように、エンジン13、モータジェネレータMG1(11)及びモータジェネレータMG2(12)が走行制御装置10によって制御される。
【0015】
走行制御装置10の運転モードとしてはエンジンの出力を車輪に伝達させるためのトルク変換運転モード、バッテリの充放電を伴って運転させる充放電運転モード、エンジンを停止してモータのみで走行させるモータ運転モード等がある。ここでは、トルク変換運転モードについて説明する。
【0016】
走行制御装置10は、アクセル開度と車速Vとに基づいてハイブリッド車両に要求される要求トルクTrとエンジン13に要求される要求パワーPeを求める。要求パワーPeは、要求トルクTrにリングギア(R)の回転数Nrを乗じたものからバッテリ21の残容量(SOC)に基づいて要求される充放電要求パワーPbを減じたものである。
【0017】
次に、走行制御装置10は要求パワーPeに基づいて、エンジン13の目標回転数Neと目標トルクTeとからなる目標運転ポイントを設定する。この設定では、エンジン13を効率良く作動させる動作ラインと要求パワーPeとに基づいて目標回転数Neと目標トルクTeとを設定する。目標回転数Neと駆動軸としてのリングギア(R)の回転数Nrと動力分配機構14のギア比ρと車速Vの換算係数kとを用いてモータジェネレータMG1(11)の目標回転数(Nm1=Ne*(1+ρ)/ρ−V・k/ρ)を計算する。
【0018】
図2は動力分配機構の特性の一例を示す共線図である。図2(A)は、本発明を理解する上で参考となる共線図であり、図2(B)は、本実施形態に係る共線図である。図中左側のS軸はモータジェネレータMG1(11)の回転数Nm1であるサンギア(S)の回転数を示し、中間のC軸はエンジン12の回転数Neであるキャリア(C)の回転数を示し、右側のR軸はモータジェネレータMG2(12)の回転数Nrであるリングギア(R)の回転数を示している。
【0019】
最初に参考となる共線図について示す。図2(A)の破線の状態では、リングギア(R)に出力される動力は、エンジン13から出力される動力とモータジェネレータMG1(11)から出力される動力との和となり、過剰な動力の出力を是正するためにモータジェネレータMG2(12)は発電機として機能することになる。このとき、エンジン13とモータジェネレータMG1(11)から出力された動力の一部をモータジェネレータMG2(12)により電力として回生し、この回生した電力をモータジェネレータMG1(11)により消費して動力として出力することになり、一部のエネルギーに対して動力−電力−動力の循環が生じる。このような動力循環はモータジェネレータMG1(11)やモータジェネレータMG2(12)の効率が何度も掛けられることになるから、車両としての伝達効率が低下することになる。
【0020】
そこで、図2(A)では、要求パワーPeを一定に保ちながら、エンジン動作点を高回転、低トルク側に移すことによりモータジェネレータMG1(11)を発電機として機能させ、エンジン12から出力される動力の一部をモータジェネレータMG1(11)により電力に変換し、変換した電力の一部または全部をモータジェネレータMG2(12)で消費させることで、伝達効率を改善させていた。
【0021】
図3はエンジンの動作特性の一例であり、横軸にはエンジン回転数、縦軸にはエンジントルクを示している。通常、エンジン運転は、燃費優先動作線上で作動させることが望ましい。図中Peの等出力線で高回転、低トルク側に移すと熱効率が低下し、図2(A)のような制御では、動作点の燃費低下により熱効率は低下するため、伝達効率は向上するものの、システム効率(=熱効率×伝達効率)の向上はわずかな値となっていた。
【0022】
そこで、本実施形態に係る走行制御装置は、図2(B)において、モータジェネレータMG1(11)が0回転近傍となるようにバッテリー充電パワーを上乗せすると共に、図3の燃費優先動作線上で高回転、高トルク側(Pe+Pchg)に移動させることでエンジンの熱効率を悪化させず、かつ、動力循環を回避させる制御を行う。この制御方法は、バッテリ21の残容量(SOC)の目標値を高めに変更することで充放電要求パワーPbとして充電に使用させると共に、エンジン12から出力される動力の一部をモータジェネレータMG1(11)により電力に変換し、変換した電力に一部または全部をモータジェネレータMG2(12)によって消費させることなくシステム効率を向上させている。
【0023】
図4は走行制御装置からの目標出力であるバッテリSOCの時間変化を示し、高速巡航走行時の動力循環が発生する場合には、バッテリの残容量の目標値を高めに設定するものである。
【0024】
図5は走行制御装置の処理の流れを示している。この処理で特徴的な事項は、高速巡航走行領域においてモータジェネレータMG1(11)の回転数が負の値になった場合、モータジェネレータMG1(11)が0回転近傍となるように電池充電パワーを上乗せすることでエンジンの熱効率を悪化させずに動力循環を回避することであり、動力循環相当のエネルギーを電池に充電することでシステム効率(=熱効率×伝達環境)の向上を実現するものである。
【0025】
走行制御装置は、運転者によるアクセルペダル24の踏み込み量、車速V等の情報を取得して、燃費優先走行処理を実行する。燃費優先走行処理は、車両情報を入力(ステップS10)後、車両情報からエンジン要求パワーを計算する(ステップS12)。
【0026】
次に、走行制御装置は、ステップS14にて車両が動力循環領域にあるか否かをモータジェネレータMG1(11)の回転数の極性で判定する。もし、負の極性を示し、かつ、動力循環領域であれば、ステップS16に進み、バッテリの目標SOCのかさ上げ処理を実行する。この処理では、例えば、目標SOCが60%であった場合には、80%までかさ上げすることになる。もし、動力循環領域でなければ、ステップS20へ進み、通常どおりエンジン動作点を計算して図示しないメインルーチンへ戻る。
【0027】
ステップS16の目標SOCのかさ上げ処理は、動力循環量に相当するパワーを電池に充電できるようにするために電池の目標SOCを通常より高く設定して電池の受入れ性を確保する処理である。このため、ステップS18では、バッテリの雰囲気温度や入出力電流量による制限によってもSOCのかさ上げ量は変動し、適時最適な値を設定することになる。
【0028】
次のステップS20では、ステップS12で求めたエンジン要求パワーに対し動力循環量に相当するパワー分だけエンジン要求パワーを高く設定し、その時のエンジン動作点を求めている。この処理により、エンジンの熱効率は最良線上を維持しつつ動力循環を回避することが可能となる。
【0029】
以上、上述したように、本実施形態に係る走行制御装置を用いることにより、シフト切換機構を必要とせず、動力循環を低減すると共にエンジン動作点が熱効率最良線より軽負荷側へシフトすることによって発生する熱効率の低下を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るハイブリッド走行制御装置は、ハイブリッド車両における燃費悪化の改善に利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ハイブリッド車両、10 走行制御装置、11,12 モータジェネレータ、13 エンジン、14 動力分配機構、15,16,17 回転センサ、18 車輪、19 減速ギア、21 バッテリ、22,23 インバータ、24 アクセルペダル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星歯車機構の動作共線特性によってエンジン出力と複数の回転電機出力との配分関係が定められ、バッテリからの電力により少なくとも一つの回転電機及びエンジンから駆動力を得て、走行制御を行うハイブリッド走行制御装置において、
燃費を優先するエンジン動作点及び回転電機の動作点がそれぞれ決められた走行モードで走行する燃費優先走行手段と、
一方の回転電機によって発電された電力の少なくとも一部が他方の回転電機によって消費される動力循環状態になり易い高速巡航走行時に、バッテリの目標SOCを通常より高めに設定することで発電を行う回転電機の回転数が0回転近傍になるように充電要求パワーを上乗せする充電制御手段と、
を有することを特徴とするハイブリッド走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−167843(P2010−167843A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10530(P2009−10530)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】