説明

ハイブリッド車両およびその制御方法

【課題】目標充電電力と実充電電力との差に応じて内燃機関の目標運転ポイントを変更するときの振動や騒音の発生を抑制する。
【解決手段】バッテリ50の実充放電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として大きく、充放電要求パワーPb*と実充放電電力Pbとの差がなくなるように両者の差(Pb*−Pb)に応じてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とからなる目標運転ポイントを変更するときには、エンジン22を効率よく動作させる運転ポイントを規定するように予め定められた動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の回転数の変化が抑制されると共にエンジン22の出力トルクが低下するように目標運転ポイントが変更される(ステップS110−S150)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と、内燃機関からの動力の少なくとも一部を用いて発電可能な電動機と、電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段とを備えたハイブリッド車両およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のハイブリッド車両として、エンジン、第1モータおよび駆動輪に連結された駆動軸とに接続された遊星歯車機構と、駆動軸に変速機を介して接続された第2モータと、第1および第2モータと電力をやり取り可能なバッテリとを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド車両では、変速機の変速段が変更されない定常走行中にバッテリの目標充放電電力と実充放電電力との差がなくなるようにフィードバック制御の関係式を用いて目標充放電電力が設定されると共に当該目標充放電電力と走行に要求される要求トルクとに基づいて内燃機関に要求される要求パワーが設定され、当該要求パワーと内燃機関を効率よく動作させる運転ポイントを規定するように予め定められた動作ライン(最適燃費ライン)とから内燃機関の目標運転ポイントすなわち目標回転数および目標トルクが設定される。そして、内燃機関が目標運転ポイントで運転されると共にバッテリが目標充放電電力で充放電されるように内燃機関と第1および第2モータとが制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−106176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、バッテリの目標充放電電力と実充放電電力との差がなくなるように目標充放電電力を設定(補正)すると共に当該目標充放電電力に基づいて内燃機関の要求パワーを設定すれば、内燃機関から実際に出力されるパワーと要求パワーとのズレを抑制することができる。しかしながら、目標充放電電力と実充放電電力との差がなくなるように設定された目標充放電電力に基づく要求パワーと動作ラインとから内燃機関の目標運転ポイントを設定すると、目標充放電電力と実充放電電力との差が大きくなったときに内燃機関の目標運転ポイントが上記動作ラインに沿って回転数が比較的大きく変化するように変更されることから、内燃機関の回転数の変化に伴う振動や騒音が問題となるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明のハイブリッド車両およびその制御方法は、目標充電電力と実充電電力との差に応じて内燃機関の目標運転ポイントを変更するときの振動や騒音の発生を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるハイブリッド車両およびその制御方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0007】
本発明によるハイブリッド車両は、
内燃機関と、前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を用いて発電可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、前記内燃機関を効率よく動作させる運転ポイントを規定するように予め定められた動作ラインを用いて前記蓄電手段の目標充電電力と実充電電力との差がなくなるように前記内燃機関の目標運転ポイントを設定する目標運転ポイント設定手段と、前記内燃機関が前記目標運転ポイントで運転されると共に前記蓄電手段が前記目標充電電力で充電されるように該内燃機関と前記電動機とを制御する制御手段とを含むハイブリッド車両において、
前記目標運転ポイント設定手段は、前記目標充電電力と前記実充電電力との差に応じて前記目標運転ポイントを変更するときに、前記動作ラインに沿って前記目標運転ポイントを変更する場合に比べて前記内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に該内燃機関の出力トルクが変化するように前記目標運転ポイントを変更することを特徴とする。
【0008】
このハイブリッド車両では、蓄電手段の目標充電電力と実充電電力との差がなくなるように目標充電電力と実充電電力との差に応じて内燃機関の目標回転数と目標トルクとからなる目標運転ポイントを変更するときに、内燃機関を効率よく動作させる運転ポイントを規定するように予め定められた動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べて内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に内燃機関の出力トルクが変化するように目標運転ポイントが変更される。そして、内燃機関が目標運転ポイントで運転されると共に蓄電手段が目標充電電力で充電されるように内燃機関と電動機とが制御される。これにより、目標充電電力と実充電電力との差に応じて内燃機関の目標運転ポイントを変更して内燃機関から出力されるパワーを要求値に近づける際に、内燃機関の回転数の変化に伴う振動や騒音の発生を抑制することが可能となる。
【0009】
また、前記目標運転ポイント設定手段は、前記実充電電力が前記目標充電電力よりも大きいときに、前記内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に該内燃機関の出力トルクが低下するように前記目標運転ポイントを変更するものであってもよい。すなわち、蓄電手段の実充電電力が目標充電電力よりも大きい場合には、内燃機関から実際に出力されているパワーが要求値を上回っており、内燃機関から実際に出力されているトルクも目標値を上回っている。従って、このような場合に上記動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べて内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に内燃機関の出力トルクが低下するように目標運転ポイントを変更すれば、内燃機関の出力トルクを低下させることで内燃機関から比較的高いトルクが出力されることに起因した振動やそれに伴う騒音を低減しつつ内燃機関から実際に出力されるパワーを要求値に近づけると共に、変更後の目標運転ポイントに対応した内燃機関の実際の運転ポイントを動作ラインにより近づけて内燃機関の燃費を向上させることが可能となる。
【0010】
更に、前記目標運転ポイント設定手段は、走行に要求される要求トルクと前記目標充電電力とに基づいて設定される前記内燃機関に要求される要求パワーと、前記目標充電電力と前記実充電電力との差がなくなるように前記要求パワーを補正して得られる指令パワーとの大きい方に対応した前記動作ライン上の回転数を前記内燃機関の目標回転数として設定すると共に、前記指令パワーと前記目標回転数とから前記内燃機関の目標トルクを設定するものであってもよい。これにより、蓄電手段の実充電電力が目標充電電力よりも大きいときに、内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に内燃機関の出力トルクが低下するように目標運転ポイントを変更して内燃機関から実際に出力されるパワーを要求パワーに近づけると共に、変更後の目標運転ポイントに対応した内燃機関の実際の運転ポイントを動作ラインにより近づけて内燃機関の燃費を向上させることが可能となる。
【0011】
また、前記ハイブリッド車両は、前記電動機の回転軸に接続される第1要素と、駆動輪に連結される駆動軸に接続される第2要素と、前記内燃機関の出力軸に接続される第3要素とを有する遊星歯車機構と、前記第2要素に連結される第2の電動機とを更に備えるものであってもよい。このようなハイブリッド車両では、遊星歯車機構の第1要素に接続される電動機により内燃機関の回転数が制御されることになる。従って、このようなハイブリッド車両において目標充電電力と実充電電力との差に応じて目標運転ポイントを変更するときに、動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べて内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に内燃機関の出力トルクが変化するように目標運転ポイントを変更すれば、電動機による内燃機関の回転数制御を容易にすることができる。
【0012】
更に、前記電動機の回転軸の一端は、前記内燃機関の出力軸に接続されるものであってもよく、前記ハイブリッド車両は、前記電動機の前記回転軸の他端に接続される入力軸と、駆動輪に連結される出力軸とを有する無段変速機を更に備えるものであってもよい。また、前記ハイブリッド車両は、前記電動機とは異なる第2の電動機の回転軸に接続される第1要素と、前記電動機の回転軸および前記内燃機関の出力軸に接続される第2要素と、駆動輪に連結される駆動軸に接続される第3要素とを有する遊星歯車機構を更に備えるものであってもよい。
【0013】
本発明によるハイブリッド車両の制御方法は、
内燃機関と、前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を用いて発電可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段とを備えたハイブリッド車両の制御方法において、
(a)前記蓄電手段の目標充電電力と実充電電力との差がなくなるように該目標充電電力と該実充電電力との差に応じて前記内燃機関の目標運転ポイントを変更するときに、前記内燃機関を効率よく動作させる運転ポイントを規定するように予め定められた動作ラインに沿って前記目標運転ポイントを変更する場合に比べて前記内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に該内燃機関の出力トルクが変化するように前記目標運転ポイントを変更するステップと、
(b)前記内燃機関が前記目標運転ポイントで運転されると共に前記蓄電手段が前記目標充電電力で充電されるように該内燃機関と前記電動機とを制御するステップと、
を含むものである。
【0014】
この方法によれば、目標充電電力と実充電電力との差に応じて内燃機関の目標運転ポイントを変更して内燃機関から出力されるパワーを要求値に近づける際に、内燃機関の回転数の変化に伴う振動や騒音の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例に係るハイブリッド車両であるハイブリッド自動車20の概略構成図である。
【図2】充放電要求パワー設定用マップの一例を示す説明図である。
【図3】実施例のハイブリッドECU70により実行されるエンジン運転時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図4】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図5】エンジン22の動作ラインの一例を示す説明図である。
【図6】ハイブリッド自動車20が走行するときのプラネタリギヤ30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を示す説明図である。
【図7】図3のエンジン運転時駆動制御ルーチンが実行された際のエンジン22の目標運転ポイントと実際の運転ポイントとの関係を例示する説明図である。
【図8】変形例に係るエンジン運転時駆動制御ルーチンの要部を示すフローチャートである。
【図9】変形例に係るハイブリッド自動車120の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の実施例に係るハイブリッド車両であるハイブリッド自動車20の概略構成図である。同図に示すハイブリッド自動車20は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料を用いて動力を出力するエンジン(内燃機関)22と、エンジン22を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24と、サンギヤ(第1要素)31、駆動軸としてのリングギヤ軸32aに接続されたリングギヤ(第2要素)32、および複数のピニオンギヤ33を支持すると共にダンパ28を介してエンジン22のクランクシャフト(出力軸)26に接続されたプラネタリキャリア(第3要素)34を有するシングルピニオン式のプラネタリギヤ30と、プラネタリギヤ30のサンギヤ31に接続されたモータMG1と、減速ギヤ機構35およびリングギヤ軸32aを介してリングギヤ32に接続されたモータMG2と、リングギヤ軸32aにギヤ機構37やデファレンシャルギヤ38を介して連結された駆動輪39a,39bと、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、インバータ41,42に接続されたリチウムイオン二次電池あるいはニッケル水素二次電池であるバッテリ50と、インバータ41,42を介してモータMG1およびMG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40と、バッテリ50を管理するバッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52と、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52等と通信しながら車両全体を制御するハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「ハイブリッドECU」という)70とを備える。
【0018】
エンジン22を制御するエンジンECU24は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されている。エンジンECU24には、エンジン22に対して設けられて当該エンジン22の運転状態を検出する各種センサからの信号が入力され、エンジンECU24からは、エンジン22の吸入空気量や燃料噴射量、点火時期等の制御するための制御信号等が出力される。そして、エンジンECU24は、ハイブリッドECU70と通信し、ハイブリッドECU70からの信号や上記センサからの信号等に基づいてエンジン22を制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0019】
プラネタリギヤ30は、モータMG1がエンジン22からの動力の少なくとも一部を用いて発電する発電機として機能するときにはプラネタリキャリア34に伝達されるエンジン22からの動力をサンギヤ31とリングギヤ32とにそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはプラネタリキャリア34に伝達されるエンジン22からの動力とサンギヤ31に伝達されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して最終的に駆動輪39a,39bに出力される。
【0020】
モータMG1およびMG2は、周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやり取りを行う。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1およびMG2の何れか一方により発電される電力を他方のモータで消費可能とする。従って、バッテリ50は、モータMG1,MG2により発電される電力に応じて充放電され、モータMG1およびMG2間で電力収支のバランスをとれば充放電されないことになる。
【0021】
モータECU40は、図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されている。モータECU40には、モータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や、図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流等が入力され、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号等が出力される。また、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44から入力した信号に基づいてモータMG1,MG2の回転子の回転数Nm1,Nm2を計算する。更に、モータECU40は、ハイブリッドECU70と通信し、ハイブリッドECU70からの信号等に基づいてモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。
【0022】
バッテリECU52も図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されている。バッテリECU52には、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧Vb、バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に設置された図示しない電流センサからの充放電電流Ib、バッテリ50に設置された温度センサ51からのバッテリ温度Tb等が入力される。また、バッテリECU52は、ハイブリッドECU70と通信し、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータをハイブリッドECU70に出力する。更に、バッテリECU52は、電流センサにより検出された充放電電流Ibの積算値に基づいてバッテリ50の充電割合を示す残容量SOCを算出したり、残容量SOCとバッテリ温度Tbとに基づいてバッテリ50の充電に許容される電力である許容充電電力としての入力制限Winとバッテリ50の放電に許容される電力である許容放電電力としての出力制限Woutとを算出したりする。
【0023】
そして、バッテリECU52は、残容量SOCに基づいてバッテリ50の目標充放電電力としての充放電要求パワーPb*を算出する。実施例では、残容量SOCと充放電要求パワーPb*との関係を予め定めた充放電要求パワー設定用マップがバッテリECU52の図示しないROMに記憶されており、バッテリECU52は、当該マップから与えられた残容量SOCに対応した充放電要求パワーPb*を導出・設定する。図2に充放電要求パワー設定用マップの一例を示す。図2に例示する充放電要求パワー設定用マップに従って、バッテリECU52は、残容量SOCが予め定められた強制充電開始値SL(例えば40%)未満になると、バッテリ50が強制的に充電されるように、充放電要求パワーPb*を一定の充電電力(負の値)Pcに設定すると共に、残容量SOCが強制充電開始値SLから当該強制充電開始値SHよりも大きい制御中心S0(例えば50%)までの範囲にあるときには充放電要求パワーPb*を残容量SOCに比例する充電電力(負の値)に設定する。また、バッテリECU52は、図2の充放電要求パワー設定用マップに従って、残容量SOCが制御中心S0から当該制御中心S0よりも大きい所定値SHまでの範囲にあるときに充放電要求パワーPb*を残容量SOCに比例する放電電力(正の値)に設定すると共に、残容量SOCが当該所定値SHを超えると充放電要求パワーPb*を一定の放電電力(正の値)Pdに設定する。
【0024】
ハイブリッドECU70は、CPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に処理プログラムを記憶するROMや、データを一時的に記憶するRAM、図示しない入出力ポートおよび通信ポート等を備える。ハイブリッドECU70は、上述したようにエンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52等と通信し、エンジンECU24やモータECU40、バッテリECU52等と各種信号やデータのやり取りを行う。また、ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ(スタートスイッチ)80からのイグニッション信号、シフトレバー81の操作位置(シフトポジション)に対応したシフトレンジSRを検出するシフトレンジセンサ82からのシフトレンジSR、アクセルペダル83の踏み込み量(アクセル操作量)を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルストロークセンサ86からのブレーキペダルストロークBS、車速センサ87からの車速V等が入力ポートを介して入力される。
【0025】
上述のように構成された実施例のハイブリッド自動車20では、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*が計算され、この要求トルクTr*に応じたトルクがリングギヤ軸32aに出力されるようにエンジン22とモータMG1とモータMG2とが制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の制御モードとしては、要求トルクTr*に見合うパワーがエンジン22から出力されるようにエンジン22を制御すると共にエンジン22から出力されるパワーのすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求トルクTr*とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合うパワーがエンジン22から出力されるようにエンジン22を制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力されるパワーの全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求トルクTr*に基づくトルクがリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22を停止して要求トルクTr*に基づくトルクをリングギヤ軸32aに出力するようにモータMG2を駆動制御するモータ運転モード等がある。また、実施例のハイブリッド自動車20では、トルク変換運転モードや充放電運転モードのもとで所定条件が成立した場合、エンジン22を自動的に停止・始動させる間欠運転が実行される。
【0026】
次に、エンジン22が運転された状態で上述のハイブリッド自動車20が走行するときの動作について説明する。図3は、エンジン22が運転された状態で運転者によりアクセルペダル83が踏み込まれているときに実施例のハイブリッドECU70により所定時間毎(例えば、数msec毎)に実行されるエンジン運転時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【0027】
図3のルーチンの開始に際して、ハイブリッドECU70のCPUは、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや、車速センサ87からの車速V、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2、バッテリ50の充放電要求パワーPb*や実充放電電力Pb、入出力制限Win,Woutといった制御に必要なデータの入力処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、モータECU40から通信により入力されるものである。また、バッテリ50の充放電要求パワーPb*や実充放電電力Pb、入出力制限Win,Woutは、バッテリECU52から通信により入力されるものであり、実充放電電力Pbは、電圧センサにより検出される端子間電圧Vbと電流センサにより検出される充放電電流Ibとの積としてバッテリECU52により計算されるものである。
【0028】
ステップS100のデータ入力処理の後、図4に例示する要求トルク設定用マップからステップS100にて入力したアクセル開度Accおよび車速Vとに対応したリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を導出・設定した上で、エンジン22に要求される要求パワー(要求値)Pereqを設定する(ステップS110)。実施例において、要求パワーPereqは、要求トルクTr*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(モータMG2の回転数Nm2/減速ギヤ機構35のギヤ比Gr、または車速V×換算係数k)との積から充放電要求パワーPb*を減じた値に損失分Lossを加算することにより計算される。
【0029】
ここで、充放電要求パワーPb*として充電電力(負の値)が設定されているときに実充電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として大きく(絶対値が大きく)なっている場合には、エンジン22から実際に出力されているパワーが要求値としての用要求パワーPereqよりも大きいことになる。また、充放電要求パワーPb*として充電電力が設定されているときに実充電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として小さく(絶対値が小さく)なっている場合には、エンジン22から実際に出力されているパワーが要求パワーPereqよりも小さいことになる。このため、実施例のハイブリッド自動車20では、次式(1)に従ってエンジン22から実際に出力されるパワーが要求パワーPereqに一致するように充放電要求パワーPb*と実充放電電力Pbとの差(Pb*−Pb)に応じて当該要求パワーPereqを補正することによりエンジン22に対する指令パワーPe*を設定する(ステップS120)。式(1)は、充放電要求パワーPb*と実充放電電力Pbとの差がなくなるように要求パワーPereqを補正するためのフィードバック制御における関係式であり、式(1)中、右辺第2項の「kb1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「kb2」は積分項のゲインである。式(1)に従ってエンジン22の指令パワーPe*を設定することにより、充放電要求パワーPb*として充電電力が設定されているときに実充電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として大きく(絶対値が大きく)なっている場合には、指令パワーPe*が要求パワーPereqよりも小さく設定される。また、充放電要求パワーPb*として充電電力が設定されているときに実充電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として小さく(絶対値が小さく)なっている場合には、指令パワーPe*が要求パワーPereqよりも大きく設定される。これにより、エンジン22から実際に出力されるパワーを要求パワーPereqにより近づけて、バッテリ50の充電電力に過不足が生じてしまうのを抑制することが可能となる。
【0030】
Pe*=Pereq-[kb1・(Pb*-Pb)+kb2・∫(Pb*-Pb)dt] …(1)
【0031】
指令パワーPe*を設定したならば、ステップS110にて設定した要求パワーPereqとステップS120にて設定した指令パワーPe*との大きい方を目標回転数設定用パワーPcalに設定し(ステップS130)、設定した目標回転数設定用パワーPcalに基づいてエンジン22の目標運転ポイントとしての目標回転数Ne*を設定する(ステップS140)。実施例では、目標回転数Ne*を設定するために、エンジン22を効率よく動作させる運転ポイントを規定するように予め定められた動作ライン(最適燃費ライン)が用意されており、ステップS140では、目標回転数設定用パワーPcalに対応した動作ライン上の回転数が目標回転数Ne*として導出・設定される。図5にエンジン22の動作ラインの一例を示す。同図に示すように、充放電要求パワーPb*として充電電力が設定されているときに実充電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として大きく(絶対値が大きく)なり、指令パワーPe*が要求パワーPereqよりも小さく設定された場合には、動作ラインと目標回転数設定用パワーPcalすなわち要求パワーPereqに対応した等パワーラインとの交点における回転数が目標回転数Ne*として設定される。これにより、実充電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として大きい場合には、上記動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の回転数の変化が抑制されるように目標回転数Ne*が設定されることになる。これに対して、充放電要求パワーPb*として充電電力が設定されているときに実充電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として小さく(絶対値が小さく)なり、指令パワーPe*が要求パワーPereqよりも大きく設定された場合には、動作ラインと目標回転数設定用パワーPcalすなわち指令パワーPe*に対応した等パワーラインとの交点における回転数が目標回転数Ne*として設定される。
【0032】
ステップS140の処理の後、指令パワーPe*を目標回転数Ne*で除することによりエンジン22の目標運転ポイントとしての目標トルクTe*を設定する(ステップS150)。すなわち、ステップS150では、動作ラインと指令パワーPe*に対応した等パワーラインとの交点におけるトルクが目標トルクTe*として設定される。これにより、実充電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として大きい場合には、上述のようにエンジン22の回転数の変化が抑制されるように目標回転数Ne*が設定されることに起因して、上記動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の出力トルクが低下するように目標回転数Ne*が設定されることになる。続いて、目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(Nm2/Grまたはk・V)とプラネタリギヤ30のギヤ比ρ(サンギヤ31の歯数/リングギヤ32の歯数)とを用いて次式(2)に従いモータMG1の目標回転数Nm1*を計算した上で、目標回転数Nm1*や現在の回転数Nm1等を用いて次式(3)に従いモータMG1に対するトルク指令Tm1*を設定する(ステップS160)。ここで、式(2)は、プラネタリギヤ30の回転要素に対する力学的な関係式であり、図6に例示するプラネタリギヤ30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図から容易に導出されるものである。そして、式(3)は、モータMG1をエンジン22の目標回転数Ne*に対応した目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(3)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。なお、式(3)の右辺第1項は、エンジン22が回転数設定用パワーPcalを出力すると共に回転数Ne*で回転したとしたときにエンジン22からモータMG1の回転軸に付与されるトルクを示す。
【0033】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/(Gr・ρ) …(2)
Tm1*=-ρ/(1+ρ)・Pcal/Ne*+k1・(Nm1*-Nm1)+k2・∫(Nm1*-Nm1)dt …(3)
【0034】
モータMG1に対するトルク指令Tm1*を設定したならば、バッテリ50の入出力制限Win,Woutとトルク指令Tm1*とモータMG1,MG2の現在の回転数Nm1,Nm2とを用いてモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを次式(4)および(5)に従い計算する(ステップS170)。更に、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*とプラネタリギヤ30のギヤ比ρと減速ギヤ機構35のギヤ比Grとを用いてモータMG2から出力すべきトルクの仮の値である仮モータトルクTm2tmpを次式(6)に従い計算する(ステップS180)。そして、モータMG2に対するトルク指令Tm2*をトルク制限Tmin,Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値に設定する(ステップS190)。このようしてモータMG2に対するトルク指令Tm2*を設定することにより、リングギヤ軸32aに出力するトルクをバッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内に制限することができる。なお、式(6)は、図6の共線図から容易に導出され得るものである。
【0035】
こうしてモータMG1,MG2に対するトルク指令Tm1*,Tm2*を設定したならば、エンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40にそれぞれ送信し(ステップS200)、再度ステップS100以降の処理を実行する。ハイブリッドECU70から目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、目標回転数Ne*と目標トルクTe*とに基づいて吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火時期制御等を実行する。また、ハイブリッドECU70からトルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*に従ってモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*に従ってモータMG2が駆動されるようにインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0036】
Tmin=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 …(4)
Tmax=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 …(5)
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr …(6)
【0037】
図7は、上述のエンジン運転時駆動制御ルーチンが実行された際のエンジン22の目標運転ポイント(目標回転数Ne*および目標トルクTe*)と実際の運転ポイント(実際の回転数および出力トルク)との関係を例示する説明図である。
【0038】
同図に示すように、充放電要求パワーPb*として充放電電力(負の値)が設定されると共に図3のエンジン運転時駆動制御ルーチンを経て設定された要求パワーPereqと指令パワーPe*とが概ね一致しているときに指令パワーPe*等に基づいて設定されたエンジン22の目標運転ポイント(図中白丸印参照)に対してエンジン22から実際に出力されたトルクが目標トルクTe*よりも大きく(エンジン22から実際に出力されたパワーが要求パワーPereqよりも大きく)図中黒丸印で示す運転ポイントでエンジン22が運転されていると仮定する。更に、このような状態で充放電要求パワーPb*として充放電電力(負の値)が設定されると共に上述のエンジン運転時駆動制御ルーチンが再度実行された際に設定された要求パワーPereqが前回の指令パワーPe*と概ね一致したと仮定する。このような場合、エンジン22から実際に出力されるパワーが要求パワーPereqよりも大きいことに起因して実充放電電力Pbが充放電電力として充放電要求パワーPb*よりも大きくなることから、図7に示すように、図3のステップS120にて指令パワーPe*(図7における今回Pe*)が要求パワーPereqよりも小さく設定される。
【0039】
ここで、充放電要求パワーPb*と実充放電電力Pbとの差(Pb*−Pb)がなくなるようにエンジン22の目標運転ポイントを設定するに際しては、上述の動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更すること、すなわち指令パワーPe*(今回Pe*)に対応した等パワーラインと動作ラインとの交点(図7における白抜き四角印参照)をエンジン22の今回の目標運転ポイントとすることも考えられる。しかしながら、図7に示すような状態では、エンジン22の実際の出力トルクが目標トルクTe*よりも大きくエンジン22の実際の運転ポイントが目標運転ポイントから外れてしまっていることから、動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更して目標運転ポイントを今回Pe*に対応した等パワーラインと動作ラインとの交点(図中白い四角印参照)に設定すると、エンジン22の実際の運転ポイントは図中二点鎖線に沿って回転数が比較的大きく変化するように変更されて図中黒い四角印で示すポイント付近になると考えられる。従って、エンジン22から実際に出力されるパワーが要求パワーPereqよりも大きく実充放電電力Pbが充電電力として充放電要求パワーPb*よりも充電電力として大きいときに動作ラインに沿ってエンジン22の目標運転ポイントを変更すると、エンジン22から実際に出力されるパワーが要求パワーPereqに近づいたとしても、図7に示すようにエンジン22の実際の出力トルクは依然として目標トルクTe*よりも大きくなってしまう。このため、エンジン22の出力トルクが比較的高いままに保たれることに起因した振動やそれに伴う騒音が問題となったり、回転数の低下により却って振動や騒音が顕在化してしまったりするおそれがある。
【0040】
これを踏まえて、実施例のハイブリッド自動車20では、上述のステップS110−S150の処理を実行することにより、実充放電電力Pbが目標充放電電力Pb*よりも充電電力として大きいときに上記動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の回転数の変化が抑制されるように目標回転数Ne*が設定される。すなわち、上記実施例では、実充放電電力Pbが目標充放電電力Pb*よりも充電電力として大きくステップS120にて指令パワーPe*が要求パワーPereqよりも小さく設定されると、エンジン22の回転数の変化が抑制されるように(できるだけ変化(低下)しないように)指令パワーPe*よりも大きい要求パワーPereqに対応した動作ライン上の回転数がエンジン22の目標回転数Ne*として設定される(ステップS130,S140)。そして、エンジン22から実際に出力されるパワーを要求パワーPereqに近づけるように設定された指令パワーPe*を目標回転数Ne*で除することにより動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の出力トルクが低下するようにエンジン22の目標トルクTe*が設定される(ステップS150)。このようにしてエンジン22の目標運転ポイント(図7における白い星印参照)を設定することで、エンジン22の実際の運転ポイントは図7において黒い星印で示すポイントへと移動し、それによりエンジン22の出力トルクが比較的高いままに保たれることに起因した振動やそれに伴う騒音を低減すると共に、エンジン22の回転数の低下による振動や騒音の顕在化を抑制することができる。更に、図7に示すように、エンジン22から実際に出力されるパワーを要求パワーPereqに近づけると共に、変更後の目標運転ポイント(図7における白い星印参照)に対応したエンジン22の実際の運転ポイント(図7における黒い星印参照)を動作ラインにより近づけることができるので、それによりエンジン22の燃費を向上させることが可能となる。
【0041】
なお、上記実施例において、充放電要求パワーPb*として充電電力が設定されているときに実充電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として小さく(絶対値が小さく)なっている場合には、ステップS120にて指令パワーPe*が要求パワーPereqよりも大きく設定され、ステップS130にて指令パワーPe*が目標回転数設定用パワーPcalに設定される。従って、この場合には、エンジン22の目標運転ポイントは動作ラインに沿って変更され、指令パワーPe*に対応した等パワーラインと動作ラインとの交点がエンジン22の目標運転ポイント(目標回転数Ne*および目標トルクTe*)として設定されることになる。
【0042】
以上説明したように、実施例のハイブリッド自動車20では、バッテリ50の実充放電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として大きく、充放電要求パワーPb*と実充放電電力Pbとの差がなくなるように両者の差(Pb*−Pb)に応じてエンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*とからなる目標運転ポイントを変更するときに、動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の回転数の変化が抑制されると共にエンジン22の出力トルクが変化するように目標運転ポイントが変更される(ステップS110−S150)。そして、エンジン22が目標運転ポイントで運転されると共にバッテリ50が充放電要求パワーPb*で充放電されるようにエンジン22とモータMG1およびMG2とが制御される(ステップS160−S200)。これにより、充放電要求パワーPb*と実充放電電力Pbとの差(Pb*−Pb)に応じてエンジン22の目標運転ポイントを変更してエンジン22から出力されるパワーを要求パワーPereqに近づける際に、エンジン22の回転数の変化に伴う振動や騒音の発生を抑制することが可能となる。すなわち、バッテリ50の実充放電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも充電電力として大きい場合には、エンジン22から実際に出力されているパワーが要求パワーPereqを上回っており、エンジン22から実際に出力されているトルクも目標トルクTe*も上回っている。従って、このような場合に動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の回転数の変化が抑制されると共にエンジン22の出力トルクが変化するようにエンジン22の目標運転ポイントを変更すれば、エンジン22の回転数の変化に伴う振動や騒音の発生を抑制すると共にエンジン22の出力トルクを低下させることでエンジン22から比較的高いトルクが出力されることに起因した振動やそれに伴う騒音を低減しつつエンジン22から実際に出力されるパワーを要求パワーPereqに近づけることが可能となり、更に変更後の目標運転ポイントに対応したエンジン22の実際の運転ポイントを動作ラインにより近づけてエンジン22の燃費を向上させることができる。
【0043】
更に、上記実施例では、走行に要求される要求トルクTr*と充放電要求パワーPb*とに基づいて設定されるエンジン22に要求される要求パワーPereqと、充放電要求パワーPb*と実充放電電力Pbとの差(Pb*−Pb)がなくなるように要求パワーPereqを補正して得られる指令パワーPe*との大きい方に対応した動作ライン上の回転数がエンジン22の目標回転数Ne*として設定されると共に(ステップS140)、指令パワーPe*と目標回転数Ne*とからエンジン22の目標トルクTe*が設定される(ステップS150)。これにより、バッテリ50の実充放電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも大きいときに、エンジン22の回転数の変化が抑制されると共にエンジン22の出力トルクが低下するように目標運転ポイントを変更すると共に、変更後の目標運転ポイントに対応したエンジン22の実際の運転ポイントを動作ラインにより近づけてエンジン22の燃費を向上させることが可能となる。
【0044】
ただし、図8に示すように、図3のステップS130の処理の実行前に実充放電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも大きいか否かを判定し(ステップS125)、充放電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも大きいときには上述のステップS130の処理を実行すると共に、充放電電力Pbが充放電要求パワーPb*以下であるときにステップS110にて設定した要求パワーPereqとステップS120にて設定した指令パワーPe*との小さいを目標回転数設定用パワーPcalに設定し(ステップS135)、その後、上述のステップS140の処理を実行してもよい。これにより、バッテリ50の実充放電電力Pbが充放電要求パワーPb*よりも小さいときに、動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の回転数の変化が抑制されると共にエンジン22の出力トルクが変化するようにエンジン22の目標運転ポイントを変更することができる。
【0045】
また、上記実施例のハイブリッド自動車20は、モータMG1の回転軸に接続されるサンギヤ31と、駆動輪39a,39bに連結されるリングギヤ軸32aに接続されるリングギヤ32と、エンジン22のクランクシャフト26に接続されるプラネタリキャリア34とを有するプラネタリギヤ30と、リングギヤ32に連結されるモータMG2とを含むものであり、プラネタリギヤ30のサンギヤ31に接続されるモータMG1によりエンジン22の回転数が制御されることになる。従って、充放電要求パワーPb*と実充放電電力Pbとの差(Pb*−Pb)に応じて目標運転ポイントを変更するときに、動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の回転数の変化が抑制されると共にエンジン22の出力トルクが変化するように目標運転ポイントを変更すれば、モータMG1によるエンジン22の回転数制御を容易にすることができる。ただし、プラネタリギヤ30の回転要素に対して上述のようにエンジン22やモータMG1およびMG2を接続する代わりに、プラネタリギヤ30のサンギヤ(第1要素)31にモータMG2の回転軸を接続し、リングギヤ(第2要素)32にモータMG1の回転軸およびエンジン22のクランクシャフト26を接続し、かつプラネタリキャリア(第3要素)34に駆動輪39a,39bに連結される駆動軸を接続してもよい。
【0046】
なお、図3あるいは図8に示すエンジン運転時駆動制御ルーチンは、振動や騒音が顕在化しやすいエンジン22の負荷が小さいとき(要求パワーPereqあるいは指令パワーPe*が所定値以下となるとき)や、モータMG2の出力トルク(トルク指令Tm2*)が値0となるときに実行されてもよい。また、上記実施例では、充放電要求パワーPb*と実充放電電力Pbとの差(Pb*−Pb)を要求パワーPereqとエンジン22から実際に出力されているパワーとの差を示す値として用いているが、エンジン22から実際に出力されているパワーを精度よく推定可能である場合には、図3のステップS120にてエンジン22から実際に出力されるパワーが要求パワーPereqに一致するように要求パワーPereqとエンジン22の推定出力パワーとの差に応じて当該要求パワーPereqを補正することによりエンジン22に対する指令パワーPe*を設定してもよい。すなわち、要求パワーPereqとエンジン22の推定出力パワーとの差に応じてエンジン22の目標運転ポイントを変更するときに、動作ラインに沿って目標運転ポイントを変更する場合に比べてエンジン22の回転数の変化が抑制されると共にエンジン22の出力トルクが変化するように目標運転ポイントを変更してもよい。更に、本発明は、エンジン22の運転ポイントを任意に変更可能なハイブリッド車両に適用可能なものである。従って、本発明は、エンジン(内燃機関)22と、エンジン22のクランクシャフト26に接続されたモータMGと、モータMGの回転軸に接続される入力軸131(プライマリシャフト)を有すると共にデファレンシャルギヤ38を介して駆動輪39a,39bに連結される出力軸132とを有する機械式の無断変速機(例えばベルト式CVT)130と、インバータ45を介してモータMGと電力をやり取りするバッテリ50とを備えた図9に示すハイブリッド自動車120に適用されてもよい。また、減速ギヤ機構35の代わりに、例えばHi,Loの2段の変速段あるいは3段以上の変速段を有したモータMG2の回転数を変速してリングギヤ軸32aに伝達する変速機を採用してもよい。
【0047】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、エンジン22からの動力の少なくとも一部を用いて発電可能なモータMG1,MGが「電動機」に相当し、モータMG1と電力をやり取り可能なバッテリ50が「蓄電手段」に相当し、図3のステップS110ーS150の処理を実行するハイブリッドECU70が「目標運転ポイント設定手段」に相当し、ならびにS160−S200の処理を実行するハイブリッドECU70、エンジンECU24およびモータECU40の組み合わせが「制御手段」に相当し、プラネタリギヤ30が「遊星歯車機構」に相当し、モータMG2が「第2の電動機」に相当し、無断変速機130が「無段変速機」に相当する。
【0048】
ただし、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0049】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ハイブリッド車両の製造産業等において利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
20,120 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 プラネタリギヤ、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 プラネタリキャリア、35 減速ギヤ機構、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、39a,39b 駆動輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42,45 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトレンジセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルストロークセンサ、87 車速センサ、130 無断変速機、131 入力軸、132 出力軸、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を用いて発電可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段と、前記内燃機関を効率よく動作させる運転ポイントを規定するように予め定められた動作ラインを用いて前記蓄電手段の目標充電電力と実充電電力との差がなくなるように前記内燃機関の目標運転ポイントを設定する目標運転ポイント設定手段と、前記内燃機関が前記目標運転ポイントで運転されると共に前記蓄電手段が前記目標充電電力で充電されるように該内燃機関と前記電動機とを制御する制御手段とを含むハイブリッド車両において、
前記目標運転ポイント設定手段は、前記目標充電電力と前記実充電電力との差に応じて前記目標運転ポイントを変更するときに、前記動作ラインに沿って前記目標運転ポイントを変更する場合に比べて前記内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に該内燃機関の出力トルクが変化するように前記目標運転ポイントを変更することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両において、
前記目標運転ポイント設定手段は、前記実充電電力が前記目標充電電力よりも大きいときに、前記内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に該内燃機関の出力トルクが低下するように前記目標運転ポイントを変更することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項2に記載のハイブリッド車両において、
前記目標運転ポイント設定手段は、走行に要求される要求トルクと前記目標充電電力とに基づいて設定される前記内燃機関に要求される要求パワーと、前記目標充電電力と前記実充電電力との差がなくなるように前記要求パワーを補正して得られる指令パワーとの大きい方に対応した前記動作ライン上の回転数を前記内燃機関の目標回転数として設定すると共に、前記指令パワーと前記目標回転数とから前記内燃機関の目標トルクを設定することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載のハイブリッド車両において、
前記電動機の回転軸に接続される第1要素と、駆動輪に連結される駆動軸に接続される第2要素と、前記内燃機関の出力軸に接続される第3要素とを有する遊星歯車機構と、
前記第2要素に連結される第2の電動機とを更に備えることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
請求項1から3の何れか一項に記載のハイブリッド車両において、
前記電動機の回転軸の一端は、前記内燃機関の出力軸に接続されており、
前記電動機の前記回転軸の他端に接続される入力軸と、駆動輪に連結される出力軸とを有する無段変速機を更に備えることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項6】
請求項1から3の何れか一項に記載のハイブリッド車両において、
前記電動機とは異なる第2の電動機の回転軸に接続される第1要素と、前記電動機の回転軸および前記内燃機関の出力軸に接続される第2要素と、駆動輪に連結される駆動軸に接続される第3要素とを有する遊星歯車機構を更に備えることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項7】
内燃機関と、前記内燃機関からの動力の少なくとも一部を用いて発電可能な電動機と、前記電動機と電力をやり取り可能な蓄電手段とを備えたハイブリッド車両の制御方法において、
(a)前記蓄電手段の目標充電電力と実充電電力との差がなくなるように該目標充電電力と該実充電電力との差に応じて前記内燃機関の目標運転ポイントを変更するときに、前記内燃機関を効率よく動作させる運転ポイントを規定するように予め定められた動作ラインに沿って前記目標運転ポイントを変更する場合に比べて前記内燃機関の回転数の変化が抑制されると共に該内燃機関の出力トルクが変化するように前記目標運転ポイントを変更するステップと、
(b)前記内燃機関が前記目標運転ポイントで運転されると共に前記蓄電手段が前記目標充電電力で充電されるように該内燃機関と前記電動機とを制御するステップと、
を含むハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−131384(P2012−131384A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285457(P2010−285457)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】