説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】バッテリへ充電するか否かのユーザの意向をバッテリの残量制御に直接的に反映させることにより燃費悪化を抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】燃料の燃焼によって作動するエンジン2と、バッテリ4に充電された電力を利用して作動するモータジェネレータ3とを備え、バッテリ4に対して外部電源から充電できるように構成されたハイブリッド車両1に適用される。電子制御装置10はユーザにて設定された目的地に到着したときにバッテリ4の残量が目標残量となるように、エンジン2及びモータジェネレータ3の動作を制御するとともに、目的地で充電する旨のユーザの意向があったときはその意向がない場合と比べて目標残量を低下させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の燃焼によって作動する一動力源としてのエンジンとバッテリに充電された電力を利用して作動する他の動力源とを備え、バッテリに対して外部電源から充電できるように構成されたハイブリッド車両に適用される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザによって設定された目的地がバッテリを充電できる充電可能地である場合、その目的地に到着した際に可能な限りバッテリを使い切るようにバッテリの蓄電量の目標残量を設定してエンジン及び電動機の動作を制御するハイブリッド車両の制御装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−7969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制御装置は、次回の充電の際までにバッテリを使い切ることが低公害、小エネルギの観点から理想的とし、目的地が充電可能地である場合にはバッテリを使い切るようにしている。しかし、ユーザにて目的地で必ず充電されるとは限らないし、状況によってはユーザが充電を望まないこともある。そのため、充電可能な目的地において充電が行われないと、その後に充電が行われるまではバッテリの蓄電量が不足してエンジンのみによる走行を余儀なくされるため、却って燃費が悪化して低公害、小エネルギの理想に反する結果を招く。
【0005】
そこで、本発明は、バッテリへ充電するか否かのユーザの意向をバッテリの残量制御に直接的に反映させることにより燃費悪化を抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は、燃料の燃焼によって作動する一動力源としてのエンジンと、バッテリに充電された電力を利用して作動する他の動力源とを備え、前記バッテリに対して外部電源から充電できるように構成されたハイブリッド車両に適用され、設定された目的地に到着したときに前記バッテリの残量が目標残量となるように、前記エンジン及び前記他の動力源の動作を制御するバッテリ残量制御手段と、前記バッテリを前記目的地で充電するか否かのユーザの意向を充電意向情報として入力する意向入力手段と、を備え、前記バッテリ残量制御手段は、前記バッテリを前記目的地で充電する旨のユーザの意向が前記充電意向情報として前記意向入力手段にて入力された場合は当該充電意向情報が入力されない場合と比べて前記目標残量を低下させることにより、上述した課題を解決する(請求項1)。
【0007】
この制御装置によれば、バッテリを目的地で充電する旨のユーザの意向があるときには、その意向がないときと比べて目標残量が低下するので、目的地に到達するまでにより多くのバッテリの電力が使用される。目的地においてユーザが充電する意向がない場合には、仮に目的地が充電可能な場所であってもバッテリの容量を使い切ることはないので、その後、エンジンのみによる走行が余儀なくされることがない。このように、バッテリの充電に対するユーザの意向が目標残量の設定に反映されて効率的にバッテリの電力が使用されるので、エンジンの燃料消費が抑えられて燃費悪化を抑制できる。また、制御装置が予め充電可能地の位置情報を網羅的に保持していなくても、目的地が実際に充電可能な充電可能地であるか否かに関するユーザの知識によって充電可能地に関する情報不足を補うことも可能である。従って、充電可能地に関する情報の整備状況に拘わらず、ユーザの意向が反映された目標残量が設定されるので、効率的にバッテリの電力を使用することができる。なお、意向入力手段がユーザの意向を充電意向情報として入力する前提として、ユーザはどのような態様で意向を表明してもよい。例えば、意向入力手段とユーザとの間に押しボタン、タッチパネル、音声認識装置等の操作手段を介在させ、ユーザによる充電をするか否かの意向が反映された所定の操作を操作手段が受け付けることにより、意向入力手段がユーザの意向を充電意向情報として入力することもできる。
【0008】
本発明の制御装置の一態様においては、前記バッテリを充電できる充電可能地を位置情報として記憶する充電可能地記憶手段と、前記目的地が前記充電可能地に該当するか否かを前記位置情報に基づいて判定する充電可否判定手段と、前記バッテリを前記目的地で充電するか否かのユーザの意向を確認するための意向確認情報を出力する情報出力手段と、前記充電可否判定手段にて前記目的地が前記充電可能地に該当すると判定された場合に前記意向確認情報が出力されるように前記情報出力手段を制御する意向確認制御手段と、を更に備えてもよい(請求項2)。この態様によれば、目的地において充電をするか否かの意向を確認するための確認出力が目的地が充電可能地に該当するときに限って行われ、目的地が充電可能地に該当しないときには確認出力が行われない。そのため、目的地が充電可能地か否かに拘わらず目的地が設定される度にユーザに対して確認出力が行われる煩わしさを解消することができる。
【0009】
この態様においては、前記バッテリを前記目的地で充電するか否かのユーザの意向が反映された操作を前記意向確認情報が出力されたことを条件として受け付ける操作手段を更に備え、前記意向入力手段は、前記操作手段が受け付けた操作に応じて前記バッテリを前記目的地で充電するか否かのユーザの意向を充電意向情報として入力してもよい(請求項3)。この場合、ユーザの意向を受け付ける操作手段は意向確認情報が出力されたことを条件としてその操作を受け付けるので、ユーザに対してタイミング良く操作を促すことができ、またユーザによる誤操作を防止できる利点もある。
【0010】
本発明の一態様においては、前記バッテリを充電できる充電可能地を位置情報として記憶するとともに、前記充電可能地にて実際に充電できる可能性を示す情報を前記位置情報に対応付けて記憶する充電可能地記憶手段を更に備え、前記バッテリ残量制御手段は、前記目的地が前記充電可能地に該当し、かつ前記目的地で充電する旨のユーザの意向が前記充電意向情報として前記意向入力手段にて入力された場合、前記充電可能地に対応付けられた前記可能性が高いほど前記目標残量を低下させてもよい(請求項4)。例えば、充電可能地の状況によっては、外部電源の数が限られていてユーザの意向に反して充電を行えないこともある。この態様によれば、そのような不確定な要素を考慮して充電可能地で充電できる可能性を示す情報を記憶し、その可能性が高いほど目標残量を低下させる。従って、仮に、ユーザの意向に反して目的地で充電ができない場合でも、その可能性が低い目的地では高い目的地よりもバッテリの残量が確保されるので、その後エンジンのみによる走行が余儀なくされる機会を減らすことができる。これにより燃費悪化の抑制効果が向上する。なお、この態様においては、各充電可能地の状況変化に対応するため、各充電可能地におけるバッテリへの充電履歴に基づいてその可能性を順次更新して学習することにより、その可能性が実態に合うようにその精度を高めるようにしてもよい。
【0011】
本発明の一態様においては、前記目的地においてユーザが実際に充電する可能性を示す情報を記憶する充電可能性記憶手段を更に備え、前記バッテリ残量制御手段は、前記目的地で充電する旨のユーザの意向が前記充電意向情報として前記意向入力手段にて入力された場合、ユーザが実際に充電する前記可能性が高いほど前記目標残量を低下させてもよい(請求項5)。ユーザが目的地において充電するつもりであっても、目的地までの道のりが長い等の種々の要因によって、目的地に到着した後にバッテリへの充電をユーザが失念することも考えられる。この態様によれば、ユーザが実際に充電を行う可能性を示す情報を記憶し、その可能性が高いほど目標残量を低下させる。従って、仮にユーザが目的地で充電を失念した場合でも、実際に充電する可能性が高い場合は低い場合よりもバッテリの残量が確保されるので、その後エンジンのみによる走行が余儀なくされる機会を減らすことができる。これにより燃費悪化の抑制効果が向上する。ユーザにて実際に充電される可能性はユーザの性格やそのユーザが置かれている環境等の諸要因に左右される。そこで、バッテリへの充電履歴に基づいてユーザが実際に充電する可能性を順次更新して学習することにより、その可能性が実態に合うようにその精度を高めるようにしてもよい。
【0012】
本発明の一態様においては、前記燃料の劣化の程度を判定する燃料劣化判定手段を更に備え、前記バッテリ残量制御手段は、前記燃料劣化判定手段にて前記燃料の劣化の程度がが許容レベルを超えたと判定された場合、前記充電意向情報の入力の有無に拘わらず、前記エンジンによる前記燃料の消費が促進されるように前記目標残量を設定してもよい(請求項6)。近距離移動が多いユーザの場合、エンジンによる燃料の消費が十分に図られずに燃料が保持される期間が長くなるので、燃料が劣化するおそれがある。そのような状況で目標残量を低下させてバッテリの電力を積極的に使用すると燃料の劣化が進行する。この態様によれば、燃料の劣化が許容レベルを超えた場合にはユーザの意向に拘わらず燃料の消費が促進されるようにバッテリの目標残量が設定される。これにより、燃料を早期に消費することができるため、燃料の劣化の進行を食い止めることができる。
【0013】
本発明の一態様においては、前記バッテリの寿命を延ばす必要性を判定する寿命延長要否判定手段を更に備え、前記バッテリ残量制御手段は、前記寿命延長要否判定手段にて前記バッテリの寿命を延ばす必要があると判定された場合、前記充電意向情報の入力の有無に拘わらず、前記バッテリの容量を使い切らないように前記目標残量を設定してもよい(請求項7)。バッテリを使い切り充電を繰り返すよりも、バッテリの残量が全容量の半分位で推移するように使用するほうがバッテリへのダメージが少なく寿命を延ばすことができる。バッテリの寿命に近づいたときにはバッテリが突然使用不能になる事態を避けてその前にバッテリを交換できるようにバッテリの寿命を延ばすことが望ましい。この態様によれば、バッテリの寿命を延ばす必要性がある場合には、バッテリの容量を使い切らないように目標残量が設定される。これにより、バッテリへのダメージを低減できバッテリの寿命を延ばすことが可能になる。
【0014】
なお、本発明に係る他の動力源には、電動機としての機能と発電機としての機能とを兼備するモータジェネレータも含まれる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、バッテリを目的地で充電する旨のユーザの意向があるときには、その意向がないときと比べて目標残量が低下するので、目的地に到達するまでにより多くのバッテリの電力が使用される。目的地においてユーザが充電する意向がない場合には、仮に目的地が充電可能な場所であってもバッテリの容量を使い切ることはないので、その後、エンジンのみによる走行が余儀なくされることがない。これにより、バッテリの充電に対するユーザの意向が目標残量の設定に反映されて効率的にバッテリの電力が使用されるので、エンジンの燃料消費が抑えられて燃費悪化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されたハイブリッド車両の要部を示す概念図である。ハイブリッド車両1は一動力源としての内燃機関であるエンジン2と、他の動力源としてのモータジェネレータ(MG)3とを備えている。エンジン2は燃料としてガソリンを使用し、ガソリンの燃焼によって作動するガソリンエンジンとして構成されている。MG3は不図示のインバータを介してバッテリ4に接続され、そのバッテリ4に充電された電力を利用して作動する一方で、状況に応じて発電した電力をバッテリ4に充電することができる。バッテリ4にはその蓄電量、言い換えればバッテリの残量を検出するためのSOCセンサ5が接続されている。ハイブリッド車両1には外部充電装置6が設けられており、この外部充電装置6と住宅等に設置された外部電源(不図示)とをユーザが接続することによりバッテリ4に対して充電できるように構成されている。このようなハイブリッド車両1は、外部電源による充電が不能なものと区別してプラグインハイブリッド車両と呼ばれることがある。エンジン2とMG3とはそれぞれの出力軸が動力分割機構7に接続されており、エンジン2及びMG3のそれぞれの出力は動力分割機構7及びトランスアクスル8を介して駆動輪9に伝達される。ハイブリッド車両1ではエンジン2とMG3とのそれぞれの駆動力配分が動力分割機構7により操作されて適正な運転が行われる。
【0017】
エンジン2、MG3及び動力分割機構7のそれぞれの動作は電子制御装置(HVECU)10にて制御される。HVECU10はハイブリッド車両1の運転を適正に制御するためのコンピュータとして構成されており、上述したSOCセンサ5等の各種センサからの出力信号が入力される他、ハイブリッド車両1の運転者であるユーザに対して目的地までの経路を案内するためのナビゲーション装置11からの情報も入力される。HVECU10に接続されるセンサ等の周辺機器は多数存在するが、ここではそれらの図示及び説明を省略する。ナビゲーション装置11は、ハイブリッド車両1の現在地を把握するためのGPS及びジャイロセンサ(いずれも不図示)等の位置検出手段を内蔵し、現在地からユーザが設定した目的地までの経路及びその距離を演算して出力できるように構成されている。また、ナビゲーション装置11には、位置検出手段が検出した現在位置を内部記憶装置に保持した地図上に示しつつユーザが設定した目的地までの経路を案内する画像を表示するモニタ装置12と、各種の情報をユーザに音声で提供するためのスピーカ13とがそれぞれ接続されている。モニタ装置12は、ユーザが画面に触れることでユーザによる目的地の入力操作等の各種の操作を受け付け得るタッチパネルとして構成されており、その操作を受け付けた場合には操作に応じた信号がナビゲーション装置11に入力される。
【0018】
HVECU10は、現在位置からユーザが設定した目的地までの経路及び走行距離をナビゲーション装置11から取得した上で、その目的地に到着したときにバッテリ4の残量が目標残量となるようにエンジン2及びMG3の動作を制御する。以下の説明ではこの制御をSOC制御と称する。図2及び図3はSOC制御の制御ルーチンの一例を示すフローチャートであり、図2はそのメインルーチンを、図3はサブルーチンをそれぞれ示している。ハイブリッド車両1はHVECU10による目標残量の設定方法に特徴を有している。図2に示すように、HVECU10はステップS1において、ナビゲーション装置11からの信号に基づいて、現在地からユーザにて設定された目的地までの経路及びその距離を取得する。次に、ステップS2において、目的地が、例えば外部電源を備えた自宅や勤務先等のバッテリを充電できる充電可能地であるか否かを判定する。HVECU10はROMやハードディスク等の記憶装置(不図示)を備えており、その記憶装置には図4に示した充電可能地に関する情報が記憶されている。図4から明らかなように、その位置情報は、緯度及び経度で特定された充電可能地の位置情報がn個記憶されており、その位置情報のそれぞれに対して後述する充電可能性が数値化された情報が関連付けられて記憶されている。HVECU10は、ユーザにて設定された目的地と合致するものを図4の充電可能地の中から検索する。その検索の結果、目的地が充電可能地に該当する場合にはステップS3に進み、そうでない場合はステップS3及びステップS4をスキップしてステップS5に進む。
【0019】
ステップS3では、HVECU10はバッテリ4を目的地で充電するか否かのユーザの意向を確認するための意向確認情報がモニタ装置12から出力されるようにナビゲーション装置11を制御する。図5は意向確認情報の出力例を示している。この図に示すように、モニタ装置12には「目的地で充電しますか?」という文字が表示され、その表示と同時にスピーカー13にて所定の音声が出力される。更にモニタ装置12には「充電する」及び「充電しない」という表示が画面に現れ、かつ意向確認情報の出力を条件としてこれらの表示のいずれか一方にユーザが触れるタッチ操作を受け付けることができるようになっている。つまり、ユーザによるモニタ装置12へのタッチ操作はバッテリ4を目的地で充電するか否かのユーザの意向が反映された操作に該当する。
【0020】
ステップS4では、ユーザによるタッチ操作の有無を判定し、操作が無い場合はステップS3に戻り、ユーザによるタッチ操作が行われるまで意向確認情報の出力が続行される。タッチ操作があった場合はステップS5に進む。ユーザによるタッチ操作があったときは、ナビゲーション装置11がその操作に応じてユーザの意向を充電意向情報として出力し、その充電意向情報がHVECU10に入力される。なお、充電意向情報は数値化されて扱われ、ユーザが充電する旨の意向に対応した数値とユーザが充電しない旨の意向に対応した数値とによって構成される。
【0021】
ステップS5では、SOC制御で使用する目標残量を設定する。目標残量の設定の詳細な説明は後述するが、その設定は、バッテリ4を目的地で充電する旨のユーザの意向が充電意向情報としてナビゲーション装置11にて入力された場合はバッテリ4を目的地で充電しない旨の充電意向情報が入力された場合と比べて目標残量を低下させることを主たる特徴とする。ステップS5で目標残量が設定された場合は、続くステップS6にて、HVECU10はバッテリ4の残量が目的地に到着したときにステップS5で設定した目標残量となるようにエンジン2及びMG3の動作を制御する。
【0022】
ここで、図2に示したステップS5の目標残量設定処理の詳細を説明する。まず、この処理を具体的に説明する前提として、目標残量に関する考え方について図6を参照しながら簡単に説明する。図6はハイブリッド車両1の走行距離に対する満充電状態のバッテリ4の蓄電量(SOC)の変化の一例を示している。一般に、バッテリを使い切り充電を繰り返して使用するよりも、バッテリの残量が全容量の半分位で推移するように使用するほうがバッテリへのダメージが少なく寿命を延ばせることが知られている。ただ、ハイブリッド車両の場合、後者のように半分位の残量を残すようにしてバッテリを使用するとバッテリの電力消費量が減る分だけエンジンへの負担が増えるので燃費が悪化する。つまり、ハイブリッド車両の場合、バッテリの寿命を延ばすことと燃費悪化を抑制することとは背反の関係にある。そのため、外部電源からの充電が不能な一般的なハイブリッド車両では、走行中にバッテリを使い切ることがないようにバッテリの残量を制御している。
【0023】
本形態のハイブリッド車両1はプラグイン式であるため、バッテリを使い切っても外部電源から充電できるので燃費向上を追求できる。そのため、図6に示すように、目的地Aに到着するまでの間に、バッテリ4に優しい中間残量fSOC1で推移する期間をできるだけ長くしつつ、目的地到着時にバッテリ4を使い切った状態の最終残量fSOC2とするストラテジーを採用することがバッテリの寿命への影響を抑えつつ燃費向上を図るために理想的である。しかし、バッテリ4へ充電するのはユーザであるので、ユーザの都合も考えるべきである。またバッテリ4及びエンジン2の状態等の種々の要因を考慮してバッテリの寿命を延ばすことと、燃費悪化を抑制することとの優先度を決めて、目的地に到着時における目標残量を設定することが実用性を向上させる上で重要である。このような考え方に基づいて、ハイブリッド車両1では次の式1を利用して目的地到着時の目標残量SOCtrgを設定している。
【0024】
SOCtrg=fSOC2×K+fSOC1×(1−K) ……1
【0025】
ここで、fSOC2<fSOC1である。また、Kは0≦K≦1を満足し、かつバッテリ4に実際に充電される可能性(確率)を示す変数であり、その可能性が高いほどKの値は大きくなる。
【0026】
式1から理解できるように、Kの値が大きいほど目標残量SOCtrgが低下する。つまり充電される可能性が高いほど目標残量が低下して燃費向上が優先されることになる。従って、Kの値を状況に応じて適宜設定することにより、状況に応じた目標残量を決定することができる。
【0027】
図3は目標残量の設定ルーチンの一例を示している。HVECU10は、まずステップS51でハイブリッド車1に使用される燃料の劣化の程度を判定し、その劣化の程度が許容レベルを超えたと判定した場合にはステップS57に進み、そうでない場合はステップS52に進む。燃料の劣化は給油されてからの経過時間とともに進行するため、この判定では直近の給油時からの経過時間、給油量及び燃料消費量の積算値に基づいて劣化の程度が推定され、その推定結果が予め設定した閾値を超えたときにその劣化の程度が許容レベルを超えたものとしている。
【0028】
ステップS52ではバッテリ4の寿命を延ばす必要性を判定し、その必要性がある場合はステップS57に進み、そうでない場合はステップS53に進む。バッテリ4の寿命を延ばす必要性は、バッテリ4の交換時期に近づいたか否かを基準に判定される。
【0029】
ステップS53では、ユーザが目的地で充電する旨の充電意向情報がナビゲーション装置11から入力されたか否かを判定し、その充電意向情報が入力された場合はステップS54に進み、そうでない場合、つまりユーザが目的地で充電しない旨の充電意向情報が入力された場合はステップS57に進む。
【0030】
以後、ステップS54からステップS57の処理を実行することにより、上述した変数Kの値が算出され、ステップS58でその変数Kの値を式1に代入することにより目標残量が設定されて目標残量設定処理が終了する。
【0031】
次に、変数Kの算出に関して詳細に説明する。ステップS51及びステップS52において肯定的判定がなされた場合には、ステップS57で変数Kに0(ゼロ)が代入される。これにより、ユーザの意向に拘わらず目標残量が大きく具体的にはfSOC1と等しくなる。よって、エンジン2の負担が増加するので、ユーザの意向に拘わらず燃料消費が促進されるように目標残量が設定される。換言すれば、バッテリ4へのダメージが低減されるので、ユーザの意向に拘わらずバッテリ4の寿命が延びるように目標残量が設定されることになる。
【0032】
ステップS53で肯定的判定がなされた場合、つまりバッテリ4へ充電する旨の充電意向情報があったときには、HVECU10はステップS54でユーザが充電を失念する可能性を示す変数k1(0≦k1≦1)の値を記憶装置から読み出す。この変数k1の値は過去のバッテリ4への充電履歴に基づいて順次更新されている。つまり、充電を失念する機会が少ないユーザの場合はその機会が多いユーザよりも変数k1の値は小さくなる。なお、言うまでもないが、1−k1はそのユーザが実際に充電する可能性を意味することになる。
【0033】
続くステップS55では、HVECU10は目的地である充電可能地で実際に充電できる可能性を示す変数k2(0<k2≦1)の値を、記憶装置が記憶する図4の充電可能地に関する情報を参照して読み出す。この変数k2の値は、各充電可能地の外部電源の数や混雑具合などの現地調査によって設定される。各充電可能地の状況の変化に対しては、定期的な情報の書き換えを行うことにより対応することができる。なお、各充電可能地の状況変化に機動的に対応するため、各充電可能地におけるバッテリへの充電履歴に基づいてこの変数k2の値を順次更新して学習することもできる。
【0034】
次にステップS56では、上記の処理で読み出した変数k1及び変数k2のそれぞれの値を以下の式2に代入して変数Kの値を決定する。
【0035】
K=1×(1−k1)×k2 …………2
【0036】
式2から明らかなように、ユーザが充電を失念する可能性及び充電可能地で充電できる可能性がそれぞれ考慮されて実際に充電が行われる可能性が見積もられるため、現実に即した充電可能性を決定することができる。また、この上述した式1と式2とから明らかなように、ユーザが実際に充電する可能性が高いほど目標残量が低下するようになり、また充電可能地において実際に充電できる可能性が高いほど目標残量が低下するようになる。
【0037】
以上の形態によれば、バッテリ4を目的地で充電する旨のユーザの意向が無いとき、つまり充電しない旨の充電意向情報が入力されたときは変数Kがゼロとなり、目標残量がfSOC1となる。従って、その後エンジン2のみによる走行が余儀なくされることはない。一方、バッテリ4を目的地で充電する旨のユーザの意向があるとき、つまり充電する旨の充電意向情報が入力されたときは変数Kがゼロよりも大きくなり、目標残量がfSOC1よりも低下する。そのため、目的地に到達するまでにより多くのバッテリの電力を使用することができるので燃費が向上する。
【0038】
以上の形態において、ナビゲーション装置11が本発明に係る意向入力手段に、モニタ装置12及びスピーカ13が本発明に係る情報出力手段に、モニタ装置12が本発明に係る操作手段に、それぞれ相当する。また、HVECU10は本発明に係る充電可能地記憶手段及び充電可能性記憶手段のそれぞれに相当する。HVECU10は、図2のステップS2を実行することにより本発明に係る充電可否判定手段として、同図のステップS3及びステップS4を実行することにより本発明に係る意向確認制御手段として、同図のステップS5及びステップS6並びに図3のステップS51からステップS58を実行することにより本発明に係るバッテリ残量制御手段として、同図のステップS51を実行することにより本発明に係る燃料劣化判定手段として、同図のステップS52を実行することにより本発明に係る寿命延長要否判定手段として、それぞれ機能する。
【0039】
但し、本発明は上記の形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の形態で実現できる。図2の処理では、ステップS2で目的地が充電可能地であるか否かを判定し、目的地が充電可能地であるときに限り意向確認情報を出力している。この代りに、ステップS2の処理を省略し、目的地が充電可能地であるか否かを問わずに意向確認情報を出力するようにしてもよい。この場合、制御装置にて保持されるべき充電可能地の情報が未整備であったり、あるいは制御装置側で充電可能地の情報を保持していない場合でも、ユーザの実際の経験から得た充電可能地に基づいて充電をするか否かの意向を目標残量の設定に反映させることができる。また、図3のステップS51、ステップS52、ステップS54及びステップS55は任意の構成であり、これらを全部又は一部省略して本発明を実施することも可能である。
【0040】
意向入力手段はいわゆるナビゲーション装置でなくてもよい。つまり、目的地までの経路と距離とを演算できるものであれば、ユーザに対して経路を案内する機能がない場合でも構わない。上記の形態では、目的地をユーザがその都度設定する例を示したが、目的地を設定する方法は特に問わない。本発明に係るハイブリッド車両を、既定ルートを走行しかつ充電する場所も決まっている用途、例えば交通機関や工場内の定期便等に使用する場合には、ハイブリッド車両の運行を開始する際に予め設定された目的地で充電の可否を確認するようにすることもできる。
【0041】
また、本発明に係る情報出力手段を設けることは必須ではなく、また情報出力手段が出力する意向確認情報は人間の五感に訴えるものであればどのようなもので実施してもよい。また、上記の形態では、ユーザからの操作を操作手段が受け付けるタイミングが意向確認情報の出力と関連付けられているが、この出力とは無関係にユーザからの操作を受け付けるものでもよい。例えば、常時操作可能な押しボタン等のスイッチなどで実施してもよい。また、ユーザが行う操作に制限はなく、操作手段として音声認識装置を設けてユーザが音声で操作を行えるようにしてもよい。上記の形態では、モニタ装置12をタッチパネルとして構成することにより情報出力手段及び操作手段としてそれぞれ機能するが、これらの手段を別々の装置で実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る制御装置が適用されたハイブリッド車両の要部を示す概念図。
【図2】SOC制御の制御ルーチンの一例を示したフローチャート。
【図3】図2のサブルーチンに係る目標残量の設定ルーチンの一例を示したフローチャート。
【図4】記憶装置に記憶された充電可能地に関する情報を説明する説明図。
【図5】意向確認情報の出力例を示した説明図。
【図6】ハイブリッド車両の走行距離に対する満充電状態のバッテリの蓄電量の変化の一例を示した説明図。
【符号の説明】
【0043】
1 ハイブリッド車両
2 エンジン(一動力源)
3 MG(他の動力源)
4 バッテリ
10 HVECU(バッテリ残量制御手段、充電可能地記憶手段、充電可否判定手段、意向確認制御手段、燃料劣化判定手段、寿命延長要否判定手段)
11 ナビゲーション装置(意向入力手段)
12 モニタ装置(操作手段、情報出力手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の燃焼によって作動する一動力源としてのエンジンと、バッテリに充電された電力を利用して作動する他の動力源とを備え、前記バッテリに対して外部電源から充電できるように構成されたハイブリッド車両に適用され、
設定された目的地に到着したときに前記バッテリの残量が目標残量となるように、前記エンジン及び前記他の動力源の動作を制御するバッテリ残量制御手段と、前記バッテリを前記目的地で充電するか否かのユーザの意向を充電意向情報として入力する意向入力手段と、を備え、
前記バッテリ残量制御手段は、前記バッテリを前記目的地で充電する旨のユーザの意向が前記充電意向情報として前記意向入力手段にて入力された場合は当該充電意向情報が入力されない場合と比べて前記目標残量を低下させることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記バッテリを充電できる充電可能地を位置情報として記憶する充電可能地記憶手段と、前記目的地が前記充電可能地に該当するか否かを前記位置情報に基づいて判定する充電可否判定手段と、前記バッテリを前記目的地で充電するか否かのユーザの意向を確認するための意向確認情報を出力する情報出力手段と、前記充電可否判定手段にて前記目的地が前記充電可能地に該当すると判定された場合に前記意向確認情報が出力されるように前記情報出力手段を制御する意向確認制御手段と、を更に備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記バッテリを前記目的地で充電するか否かのユーザの意向が反映された操作を前記意向確認情報が出力されたことを条件として受け付ける操作手段を更に備え、
前記意向入力手段は、前記操作手段が受け付けた操作に応じて前記バッテリを前記目的地で充電するか否かのユーザの意向を充電意向情報として入力することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記バッテリを充電できる充電可能地を位置情報として記憶するとともに、前記充電可能地にて実際に充電できる可能性を示す情報を前記位置情報に対応付けて記憶する充電可能地記憶手段を更に備え、
前記バッテリ残量制御手段は、前記目的地が前記充電可能地に該当し、かつ前記目的地で充電する旨のユーザの意向が前記充電意向情報として前記意向入力手段にて入力された場合、前記充電可能地に対応付けられた前記可能性が高いほど前記目標残量を低下させることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記目的地においてユーザが実際に充電する可能性を示す情報を記憶する充電可能性記憶手段を更に備え、
前記バッテリ残量制御手段は、前記目的地で充電する旨のユーザの意向が前記充電意向情報として前記意向入力手段にて入力された場合、ユーザが実際に充電する前記可能性が高いほど前記目標残量を低下させることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記燃料の劣化の程度を判定する燃料劣化判定手段を更に備え、
前記バッテリ残量制御手段は、前記燃料劣化判定手段にて前記燃料の劣化の程度が許容レベルを超えたと判定された場合、前記充電意向情報の入力の有無に拘わらず、前記エンジンによる前記燃料の消費が促進されるように前記目標残量を設定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項7】
前記バッテリの寿命を延ばす必要性を判定する寿命延長要否判定手段を更に備え、
前記バッテリ残量制御手段は、前記寿命延長要否判定手段にて前記バッテリの寿命を延ばす必要があると判定された場合、前記充電意向情報の入力の有無に拘わらず、前記バッテリの容量を使い切らないように前記目標残量を設定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−100645(P2008−100645A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−286213(P2006−286213)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】