説明

ハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置

【課題】 簡単かつ低コストな構成でありながら、車両の駆動を補助する運転領域における電動機の出力特性と、内燃機関の始動の際における電動機の出力特性と、を両立させ、以って始動時及び広い運転領域で良好な電動機の出力特性を実現することができるようにしたハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置を提供する。
【解決手段】 このため、本発明に係るハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置は、内燃機関1と電動機2とを駆動源として備えたハイブリッド車両の電動機2の駆動制御装置であって、運転状態に応じて、各相(U相、V相、W相)毎に複数備わる電動機2の界磁巻線2C1〜2C3、2C4〜2C6、2C7〜29の接続状態を、直列接続と、並列接続と、の間で切り替えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動機を駆動源として搭載した所謂ハイブリッド車両の制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両(Hybrid Vehicle)には内燃機関及び電動発電機が搭載され、当該車両の走行の際には、内燃機関からの動力で車両を駆動すると共に、走行条件(車速、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)、内燃機関の運転状態、走行路面状況、変速段位置、バッテリ残量など)に応じて電動発電機を電動機(電動モータ)として動作させ、当該電動機としての電動発電機から出力される動力で車両の駆動を補助(アシスト)することなどが行われている。
【0003】
このような電動発動機の一例を示すと、例えば電動発電機は交流回転機であり、当該回転機と蓄電装置(バッテリやコンデンサなど)との間に、蓄電装置の出力直流電流を回転機に必要な交流電流に変換するインバータが設けられる。当該インバータは制御装置により制御され、制御装置は走行条件に応じて回転機に供給する交流の周波数を制御することにより、電動発電機を電動機として動作させることができるようになっている。
【0004】
そして、電動発電機が走行アシスト用の電動機として動作されている際には、その多相交流の周波数を制御することにより、電動機の発生トルクを制御して、運転者により要求される車両駆動トルク(目標車両駆動トルク、例えば運転者のアクセルペダル操作等に基づいて求められる)に対する内燃機関と電動機の負担割合(当該負担割合は走行条件等に基づいて定められる)に応じて、電動機が負担すべきトルク(アシストトルク)を発生させることができるように構成される(特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−252904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、ハイブリッド車両に搭載される内燃機関を始動する際に従来備えられていた専用のスターターモータを省略して、上述した電動発電機における電動機をスターターモータとして機能させるようなことも提案されている。
【0007】
しかしながら、電動機による走行アシストが要求される運転領域(〜約4000rpm)において良好な運転特性を達成することができるように、電動発電機の電動機の巻線仕様は設定されているため、例えば、外気温が低く機関が所定温度以下に冷えているような状態での機関始動時は、通常温度での始動時や運転停止後短時間で再始動する再始動時に比べ、オイル粘度等が高くなるために、始動に必要なクランキング運転を達成するためには、大きな駆動トルクが要求されることになる。
【0008】
また、外気温度が低い状態では、バッテリ出力が低下するため、走行アシストに適合された電動発電機の電動機では、良好な始動性能を達成することができなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、簡単かつ低コストな構成でありながら、内燃機関と電動機を駆動源として搭載したハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置であって、車両の駆動を補助(アシスト)する運転領域における電動機の出力特性と、内燃機関の始動の際における電動機の出力特性と、を両立させ、以って始動時及び広い運転領域で良好な電動機の出力特性を実現することができるようにしたハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本発明は、
内燃機関と電動機とを駆動源として備えたハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置であって、
運転状態に応じて、各相毎に複数備わる電動機の界磁巻線の接続状態を、直列接続と、並列接続と、の間で切り替えることを特徴とする。
【0011】
本発明において、前記切り替えは、電動機を内燃機関のスターターモータとして利用する内燃機関の始動の際に直列接続とされ、内燃機関の始動後に並列接続とされることを特徴とすることができる。
【0012】
本発明において、内燃機関の温度が所定以上である場合の始動の際には、前記切り替えを行わず、電動機の各相毎に複数備わる界磁巻線の接続状態を並列状態に固定することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単かつ低コストな構成でありながら、内燃機関と電動機を駆動源として搭載したハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置であって、車両の駆動を補助(アシスト)する運転領域における電動機の出力特性と、内燃機関の始動の際における電動機の出力特性と、を両立させ、以って始動時及び広い運転領域で良好な電動機の出力特性を実現することができるようにしたハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るハイブリッド車両(HV)の駆動系を概略的に示す全体構成図である。
【図2】同上実施の形態に係るハイブリッド自動車(HV)の電動発電機の電動機の通常運転時における界磁巻線の接続状態(並列接続)を説明するための図である。
【図3】図2の接続状態(並列接続)の概略結線図と出力トルクを求める演算式を示す図である。
【図4】同上実施の形態に係るハイブリッド自動車(HV)の電動発電機の電動機の始動時における界磁巻線の接続状態(直列接続)を説明するための図である。
【図5】図4の接続状態(並列接続)の概略結線図と出力トルクを求める演算式を示す図である。
【図6】同上実施の形態に係るハイブリッド自動車(HV)の電動発電機の電動機の界磁巻線の接続状態(並列接続、直列接続)毎の出力特性の一例を示す図である。
【図7】同上実施の形態に係るハイブリッド自動車(HV)の電動発電機の電動機の界磁巻線の接続状態(並列接続、直列接続)を切り替える制御の一例を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る実施の形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0016】
本発明に係るハイブリッド車両(HV)の電動機の駆動制御装置の一実施の形態を、図1〜図6に基づいて説明する。
図1は、本実施の形態に係るハイブリッド車両の駆動系を概略的に示す全体構成図である。
【0017】
本実施の形態に係るハイブリッド車両の駆動系は、ディーゼル燃焼機関等の内燃機関1の出力軸に、電動発電機(MG)2が所定に回転連結され、この電動発電機2が電動機として動作するときに、内燃機関1と電動機とが共通の出力軸に対して出力トルクを出力するように構成されている。
【0018】
なお、図1に示すように、内燃機関1の出力回転軸と、電動発電機2の出力回転軸と、の間には、機械式のクラッチ機構(摩擦板を接離させて両者間での回転連結を接断可能に構成されたクラッチ機構:CL1)6Aが介装されると共に、電動発電機2の出力回転軸と、自動変速機7と、の間には、クラッチ機構6Aと同様の機械式のクラッチ機構(CL2)6Bが介装されている。
【0019】
そして、本実施の形態に係るハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置として機能する制御装置5では、内燃機関1の始動の際には、クラッチ機構6Aを接続状態とする一方で、クラッチ機構6Bを切断状態として、電動発電機2を電動機として機能させて内燃機関1をクランキング運転し、このクランキング運転中に圧縮された空気に燃料を噴射供給して初爆から完爆を経て内燃機関1の燃焼運転を開始させるようになっている。
【0020】
本実施の形態では、電動発電機2の界磁巻線はインバータ4の交流側端子に接続され、インバータ4の直流側端子は蓄電装置(この例ではバッテリ)3に接続されている。前記インバータ4は、CPU、ROM、RAM、A/D変換器等を含んで構成される制御装置5により制御されるようになっている。
【0021】
本実施の形態では、電動発電機2の界磁巻線に供給される三相交流の位相回転速度(周波数)は、制御装置5によりリアルタイムに制御される。例えば、この位相回転速度が内燃機関1の回転速度より大きいときには、電動発電機2は電動機となる。このとき蓄電装置3の電気エネルギが電動発電機2に供給される。
【0022】
また、この位相回転速度が内燃機関1の回転速度より小さいときには、この電動発電機2は発電機となる。このときには、自動変速機7およびクラッチ機構(CL2)6Bを介して与えられる機械エネルギ(電気制動)、または内燃機関1から与えられる機械エネルギ(自己充電)により電気エネルギが発生され、当該電気エネルギはインバータ4により直流に変換され蓄電装置3を充電することになる。
【0023】
制御装置5では、ブレーキペダル12の操作情報、アクセルペダル14の操作情報、内燃機関1の回転情報11、車速情報18等に基づき定められる車両走行条件(例えば、予めROMなどに記憶されている走行テーブルなど)に従って、電動発電機2を電動機として動作させたり、発電機として動作させることが可能に構成される。
【0024】
また、制御装置5は、車両走行条件に従って、運転者により要求される車両駆動トルク(目標車両駆動トルク、例えば運転者のアクセルペダル14の操作情報、車速情報18、車両重量等に基づいて定められる)に対する内燃機関1と電動機の負担割合(内燃機関:電動機=100:0(アシスト停止)も含む)を定め、当該負担割合に応じて、内燃機関1が負担すべき発生トルクを実現するように内燃機関1の燃料供給制御を実行すると共に、電動機が負担すべきトルク(アシストトルク)を発生或いはアシストを停止させることができるようにインバータ4を制御する。
【0025】
ここで、本実施の形態においては、インバータ4から供給される三相交流(U相、V相、W相)を受ける電動発電機2の端子部2Aと、電動発電機2の界磁巻線(コイル)2C群と、の間にリレー部2Bが設けられている。
【0026】
そして、電動発電機2の電動機の通常運転時(通常時)は、上述したような電動機が負担すべきトルクを広い運転領域で良好に発生させることができるように、リレー部2Bは、制御装置5からの指令に従って、各相のコイル2C1〜2C3、2C4〜2C6、2C7〜2C9の接続状態を制御する。なお、リレー部2Bは、例えば、機械的に接断される接点を複数含んで構成され、その複数の接点の接断状態を切り替え操作することで、各相のコイル2C1〜2C3、2C4〜2C6、2C7〜2C9を所望の接続状態に制御可能に構成されている。
【0027】
すなわち、図2に示すように、電動発電機2の電動機の通常運転時(通常時)は、リレー部2Bは、各相のコイル2C1〜2C3、2C4〜2C6、2C7〜2C9が並列接続となるように各接点が形成されるように制御される(図3の概略結線図を参照)。
【0028】
このように各相のコイルを直列結線した場合(電動発電機2の電動機の通常運転時(通常時))は、図3の各演算式に示したように、理論上のトルク定数KT1は3Kとなり、誘起電圧定数KE1は3Kとなるため、比較的広い運転領域(回転速度)で高い出力を達成して電動発電機2を電動機として運転させることができることになる。
【0029】
一方、内燃機関1をクランキング運転して始動させる始動時には、上述した通常運転時の運転特性を変更して、低回転領域において比較的大きなトルクを出力することができるように、リレー部2Bは、制御装置5からの指令に従って、各コイル2C1〜2C9の接続状態を制御するようになっている。
【0030】
すなわち、図4に示すように、電動発電機2の電動機により内燃機関1を始動させる時には、リレー部2Bは、各相のコイル2C1〜2C3、2C4〜2C6、2C7〜2C9が直列接続となるように各接点が形成されるように制御される(図5の概略結線図を参照)。
【0031】
このように各相のコイルを並列結線した場合(電動発電機2の電動機により内燃機関1を始動させる時)は、図5の各演算式に示したように、理論上のトルク定数KT2は9Kとなり、誘起電圧定数KE2は9Kとなり、例えば、低速回転域においては、直列結線した通常運転時に比べて、同一印加電流であれば3倍のトルクを出力することができる(1/3の印加電流で通常運転時と同等の出力トルクを得ることができる)。
【0032】
すなわち、本実施の形態によれば、始動時には各相のコイル2C1〜2C3、2C4〜2C6、2C7〜2C9が直列結線となるようにリレー部2Bの接続を切り替え制御することで、図6において破線で示すように、低回転速度域(始動時のクランキング回転速度域)で高トルクを発生させることができるようにして、以って内燃機関1の機関温度や外気温が低い始動時においても電動発電機2の電動機によって良好に内燃機関1を始動させることができる。
【0033】
また、本実施の形態によれば、通常アシスト運転時には各相のコイル2C1〜2C3、2C4〜2C6、2C7〜2C9を並列結線となるようにリレー部2Bの接続を切り替え制御することで、図6において実線で示すように、比較的高回転速度な領域まで効率良く高トルクを出力できるようにして、電動発電機2の電動機による円滑で良好なアシスト運転を実現可能にすることができる。
【0034】
なお、図7に電動機出力、内燃機関出力、車速の変化のタイムチャートを示すが、図7に示したように、本実施の形態においては、まず、始動の際には、巻線結線が直列接続された電動機を内燃機関のスターターモータとして機能させて、内燃機関をクランキングして始動させる。
【0035】
そして、クランキングにより内燃機関が始動され、内燃機関が自力で運転している状態(内燃機関出力がある程度上昇した状態)となったら、電動機をOFFしてリレー部を動作させて電動機の巻線結線を並列接続に切り替える。切り替え完了後は、アシスト要求に応じて電動機へ電流を供給するようになっている。
【0036】
このように、本実施の形態によれば、簡単かつ低コストな構成でありながら、内燃機関と電動機(電動発電機における電動機)を駆動源として搭載したハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置であって、車両の駆動を補助(アシスト)する運転領域における電動機の出力特性と、内燃機関の始動の際における電動機の出力特性と、を両立させ、以って始動時及び広い運転領域で良好な電動機の出力特性を実現することができるようにしたハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置を提供することができる。
【0037】
ところで、本実施の形態では、内燃機関の始動時に電動機の各相毎の複数の界磁巻線の接続状態を直列接続とし、始動後に並列接続とする場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば始動時以外にも効率の良い領域(低回転速度域)において直列接続とし、その領域より高回転領域で並列接続に切り替えるような構成とすることもできる。
【0038】
なお、始動時に一律直列接続とし、始動後に並列接続に切り替えるような構成とすることもできるが、始動時における内燃機関1の機関温度(外気温やオイル温度や冷却水温など)に応じて始動に必要な始動トルクは変動するため、始動時における内燃機関1の機関温度(外気温やオイル温度や冷却水温など)を検出し、実際の検出結果に応じて必要始動トルクを求め、その必要始動トルクを達成することができるように、始動時に直列接続しつつ印加電流を制御することで、良好な始動性能を達成しつつバッテリ劣化や消費電力の増大などを抑制することができる。
【0039】
また、再始動時や機関温度が所定に高い場合など、直列接続により始動させなくても所望の始動性能を得ることができる場合には、始動時から並列接続として必要以上にリレー部2Bを切り替えることを抑制し、以って接点摩耗等を抑制するように構成することもできる。
【0040】
以上で説明した実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 内燃機関
2 電動発電機
2A 端子部
2B リレー部
2C 界磁巻線(コイル)
3 蓄電手段(バッテリまたは大容量コンデンサ)
4 インバータ
5 制御装置
6A クラッチ機構(CL1)
6B クラッチ機構(CL2)
7 変速機
11 内燃機関の回転情報
12 ブレーキペダル
13 充電状態情報
14 アクセルセンサ
18 車速情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動機とを駆動源として備えたハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置であって、
運転状態に応じて、各相毎に複数備わる電動機の界磁巻線の接続状態を、直列接続と、並列接続と、の間で切り替えることを特徴とするハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置。
【請求項2】
前記切り替えは、電動機を内燃機関のスターターモータとして利用する内燃機関の始動の際に直列接続とされ、内燃機関の始動後に並列接続とされることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置。
【請求項3】
内燃機関の温度が所定以上である場合の始動の際には、前記切り替えを行わず、電動機の各相毎に複数備わる界磁巻線の接続状態を並列状態に固定することを特徴とする請求項2に記載のハイブリッド車両の電動機の駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−182893(P2012−182893A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43470(P2011−43470)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】