説明

ハイブリッド金型

【課題】金型用鋼材の高強度と非鉄金属体(銅合金体)の高熱伝導の特徴を兼ね備えたハイブリッド金型を提供する。
【解決手段】金型用鋼材から成る成形金型1の少なくとも熱交換範囲を非鉄金属体3(銅合金体3A)にて形成し、該非鉄金属体にキャビティEと製品関連部7を備え、該キャビティの製品形成面の損傷しやすい負荷集中範囲と、該製品関連部のパーテイングラインPLのキャビティ連続部3aを数mm以内の厚さで薄肉化し、その薄肉化した肉欠部13に高エネルギ密度の熱源を用いて該非鉄金属体より溶融温度の高い鉄系材を肉盛溶接し、鉄系肉盛部4で覆い、該鉄系肉盛部表面に仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、該鉄材層で該非鉄金属体の損傷しやすい負荷集中範囲を保護していることを特徴とする。該成形金型を、鋼材型と非鉄金属体から成る入れ子型とで構成する場合も同様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種製品の成形に用いる金型に関するもので、成形金型の母材として、又はその一部として非鉄金属材、特に銅合金材を用いたハイブリッド金型に関する。
【背景技術】
【0002】
金型として、合成樹脂成形用金型、ゴム成形用金型、ダイカスト金型、ガラス金型等が知られている。
また、これらの金型の製作には高価な工作機械と専門のオペレーターが必要とされ、特に、最後の仕上げ加工では、熟練工による手磨きが必要であるため、多額のコストと製作日数が必要となることも知られている。
一方、金型材料として、特に合成樹脂成形用金型の多くは金型用鋼材が使用されており、金型用鋼材以外の非鉄金属を用いることは極めて限定的である。
その理由として、金型用鋼材の使用歴史があり、その技術と経験が豊富で、高強度、多種類、安価、高品質(特に日本製)等が挙げられる。
【0003】
しかし、成形金型において、熱伝導性もまた重要な必須要素(金型は樹脂製品の成形のみならず、高温樹脂を冷却固化するための熱交換器でもある)であるが、金型用鋼材は非鉄金属金型に比べて高強度である反面、熱伝導率が格段に劣る。
その結果、金型用鋼材内に射出された溶融樹脂が「均一」に素早く「冷却・固化」せず、冷却時間が長くなり、成形サイクルが非鉄金属金型に比べて長くなると言う欠点がある。
このことは、金型用鋼材の冷却速度に起因する製品成形速度の低下と、それに付随するコスト競争力の低下、及び製品の外観への悪影響等をもたらすので、製造現場で大きな課題となっている。
更に、熱バランスが取り難いために金型温度が安定せず、結果として成形品の変形、ヒケが発生し、品質問題や生産性に大きな課題を抱えている(金型は熱交換器と言える)。
そのため、金型用鋼材を用いた成形金型の設計では、冷却回路をいかに充実させるかが重要視されているが、鋼材の熱伝導率が亜鉛合金、アルミ合金、銅合金等の非鉄金属に比べて数段劣るので、熱伝導率を十分にカバーすることは容易でない。
従って、設計変更、加工ミス、成形段階での事故による破損、摩耗等の劣化に対処するには部分的又は全体を作り変える他に選択技がなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−118049号公報
【特許文献2】特開平10−85972号公報
【特許文献3】特開2000−153380号公報
【特許文献4】特開2008−80388号公報
【特許文献5】特開2009−6191号公報
【特許文献6】特許第2509125号公報
【特許文献7】実公平07−19667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで熱伝導性に優れた高強度銅合金が開発され、金型の一部または全体を高強度銅合金に置き換えて使用されるようになった。
しかし、高強度銅合金と言えども、金型用鋼材に匹敵する強度は無く、金型寿命が劣るのが現状である。
更に、金型用鋼材では一般に行われているTIG熔接による肉盛が、銅合金では非常に難しく不可能に近いことが知られている。
一方、肉盛熔接として、最近YAGレーザー熔接(イットリウム、アルミニウム、ガーネットレーザー)が注目され、著しい発展を見せており、これにより金型修復技術は格段の進歩を見るに至っている。
銅合金体に対する異種材の鋼材を接合する技術は未だ確立されておらず、その技術が確立できれば熱伝導と強度に優れた銅合金と、耐久性に優れた鋼材から成るハブリッド金型の製造が可能となり、新しい産業として世に送り出せる。
即ち、熱伝導に優れた銅合金と、強度とコストに優れた鋼材の特徴を兼ね備えたハイブリッド金型が出来れば革新的な技術となる。
【0006】
発明者は、かねてより亜鉛金属製金型の研究に取組み、金型用材料としての高熱伝導性の効果を確認していたが、高強度化の工夫には充分な成果を得るに至っていなかった。
近年、レーザー熔接の導入に伴い、亜鉛、アルミ、銅合金に対する熔接を試みた所、銅合金に対して極めて健全な熔接効果を得ることができたことから、本発明の着想を得て、「鋼材の高強度」と「銅合金の高熱伝導」の特徴を兼ね備えたハイブリッド金型を、必要に応じて任意に作り出すことを可能としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のハイブリッド金型は、請求項1として、成形金型の少なくとも熱交換範囲を非鉄金属体にて形成し、非鉄金属体に少なくともキャビティを備え、キャビティの製品形成面の少なくとも損傷しやすい負荷集中範囲に正規寸法よりも薄肉化した肉欠部を形成し、肉欠部に高エネルギー密度の熱源を用いて非鉄金属体より溶融温度の高い鉄系材を肉盛熔接し、鉄系肉盛部にて覆い、該鉄系肉盛部に仕上げ加工した鉄材層を設け、鉄材層にて製品形成面の損傷しやすい負荷集中範囲を保護していることを特徴とする。
請求項2は、請求項1記載のハイブリッド金型において、非鉄金属体に製品関連部を備え、製品関連部の一つがキャビティに連続しパーテイングラインを形成するキャビティ連続部であり、そのキャビティ連続部は正規寸法よりも数mm以内の切込み深さで薄肉化した肉欠部を形成し、肉欠部に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材を肉盛熔接し、鉄系肉盛部にて覆い、該鉄系肉盛部に仕上げ加工した鉄材層を設け、鉄材層にてキャビティ連続部を保護していることを特徴とする。
【0008】
ここでハイブリッド金型とは、熱伝導の良い非鉄金属体と、耐久力のある鉄系材とから構成した金型を言い、金型全体を非鉄金属体にて形成し、少なくとも溶湯に触れる所を鉄材層にて覆うものも含まれるし、従来と同様の金型用鋼材に、非鉄金属体の入れ子型を施し、入れ子型にキャビティを形成するものも含まれる。
ここでキャビティとは、成形金型内に設ける成形品を形成するための空部、溶湯樹脂を入れる空部、溶湯樹脂が通過する空部等を言い、キャビティ雌部とキャビティ雄部との間の空部を言う。
ここで鉄系肉盛部とは、鉄系材の肉盛熔接により形成された部位を言い、仕上げ加工とは、鉄系肉盛部の表面に対する切削や研磨加工等を言い、鉄材層とは、仕上げ加工が終わった鉄系肉盛部を言う。
ここで熱交換範囲とは、加熱状態と冷却状態が交互に繰り返される範囲で、特に短時間で熱交換を頻繁に行なう必要がある範囲(熱の影響を受けやすい範囲で、例えば、キャビティ、ゲート等)を言い、損傷しやすい負荷集中範囲とは、ゲート部及びキャビティにおけるダイレクトゲートの相対向側製品形成面、溶湯が強く当るキャビティ角部や形状及び流路急変化部等を言う。
【0009】
請求項3は、請求項1または2記載のハイブリッド金型において、成形金型はキャビティに向けて往復動する摺動体と、その摺動体をスライド自在にガイドする摺動体受部を備え、少なくとも摺動体受部は非鉄金属体から成り、摺動体受部は少なくとも受部入口側に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さで薄肉化した肉欠部を形成し、肉欠部に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材を肉盛熔接し、鉄系肉盛部にて覆い、該鉄系肉盛部に仕上げ加工した鉄材層を設け、鉄材層にて摺動体受部の入口側を保護していることを特徴とする。
請求項4は、請求項3記載のハイブリッド金型において、摺動体は非鉄金属体にて形成され、少なくともキャビティ内への露出部に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さで薄肉化した肉欠部を形成し、肉欠部に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材を肉盛熔接し、鉄系肉盛部にて覆い、該鉄系肉盛部に仕上げ加工した鉄材層を設け、鉄材層にて摺動体露出部を保護していることを特徴とする。
【0010】
ここで成形金型とは、固定金型と可動金型とから構成されるもの、更にコア金型を組み込むものを言い、主に合成樹脂製品の射出成形やブロー成形に用いる金型を言うが、圧縮成形、押出し成形等にも応用し得るし、金属製品の製造金型等にも応用し得る。
ここでパーテイングラインとは、固定金型と可動金型の型閉め時に当接する相対向面、或は固定金型と可動金型を構成する非鉄金属体の型閉め時に当接する相対向面を言う。
ここで製品関連部とは、キャビティに関連する例えばパーテングライン(以下、PLとする。)のキャビティ連続部を言い、摺動体とは、キャビティに向けて往復動する突き出しピンとスライドコア等を言い、摺動体露出部とは、キャビティ内に突出する範囲と、それに続く一定範囲を言う。
ここで摺動体受部とは、突き出しピン挿入孔とコアガイドを言い、摺動体受部の受部入口側とは、キャビティに面している側を言う。
【0011】
請求項5は、請求項1,2,3または4記載のハイブリッド金型において、成形金型はキャビティの一部を形成する部分成形体の保持部を備え、少なくとも保持部は非鉄金属体から成り、保持部はキャビティに向けて開口し、その少なくとも保持部入口側に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さで薄肉化した肉欠部を形成し、肉欠部に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材を肉盛熔接し、鉄系肉盛部にて覆い、該鉄系肉盛部に仕上げ加工した鉄材層を設け、鉄材層にて保持部入口側を保護していることを特徴とする。
請求項6は、請求項5に記載のハイブリッド金型において、部分成形体は非鉄金属体にて形成され、少なくともキャビティE内への露出部に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さで薄肉化した肉欠部を形成し、肉欠部に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材を肉盛熔接し、鉄系肉盛部にて覆い、該鉄系肉盛部に仕上げ加工した鉄材層を設け、鉄材層にて露出部を保護していることを特徴とする。
請求項7は、請求項1に記載のハイブリッド金型において、成形金型が左金型と右金型から成るブロー成形金型であり、左右金型の少なくとも熱交換範囲を非鉄金属体にて各々形成し、非鉄金属体の突合せ部に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さで薄肉化した肉欠部を形成し、肉欠部に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材を肉盛熔接し、鉄系肉盛部にて覆い、該鉄系肉盛部に仕上げ加工した鉄材層を設け、鉄材層にてバリ食い切り部を形成していることを特徴とする。
【0012】
ここで部分成形体とは、インサート体とゲート体と微細成形体と中子体等を言い、保持部とは、キャビティに向けて開口していて、部分成形体やコア金型をしっかり保持する部位を言う。
但し、インサート体は、型開きの祭に、保持部から離反する。
ここでブロー成形金型の左金型と右金型とは、例えば、射出成形金型の固定金型と可動金型に相当し、バリ食い切り部とは、ブロー成形金型の離型時に、ブロー成形金型に形成された製品のバリ(食み出し)を切断する部位を言う。
ここで非鉄金属体とは、銅合金体、アルミ合金体、ニッケル合金体等を言い、具体的には、銅合金体として商品名のHITMAX、HIT75、HR750、AMPCO等を用いる。
ここで鉄系材とは、例えば肉盛り熔接に用いる鋼材(鋼材ワイヤ)等を言い、具体的には、商品名のNAK80、SKD61、或はステンレス系鋼材のSTAVAX「スターバックス」等を言う。
【0013】
請求項8は、請求項1〜7の内の1に記載のハイブリッド金型において、肉欠部に設ける鉄系肉盛部は、鉄系材を高エネルギー密度の熱源を用いて単層又は多層に熔接したものであり、鉄材層は鉄系肉盛部に仕上げ加工したものであり、該鉄系肉盛部の肉盛厚さが平均3mm以内であることを特徴とする。
請求項9は、請求項2〜8の内の1に記載のハイブリッド金型において、製品関連部の一つがキャビティに連続するゲート部であり、ゲート部は、非鉄金属体にキャビティに連続する切欠部を設け、その切欠部に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材を肉盛熔接し、ゲート用鉄系肉盛部を形成した後、該ゲート用鉄系肉盛部にゲート路を設けると共に、仕上げ加工したゲート用鉄材層を形成していることを特徴とする。
請求項10は、請求項1〜9の内の1に記載のハイブリッド金型において、成形金型の母材が金型用鋼材であり、鉄系材は熔接用の鋼材ワイヤであり、非鉄金属体は鉄系材より溶融温度が低く、熱伝導の良好な銅合金体であることを特徴とする。
請求項11は、請求項1〜10の内の1に記載のハイブリッド金型において、鉄系材の肉盛熔接に用いる高エネルギー密度の熱源は、レーザー熔接(YAGレーザー熔接)、パルス熔接、電子ビーム熔接、超音波熔接中の少なくも1手段であることを特徴とする。
【0014】
ここで肉盛厚さとは、肉欠部の切込み深さと同じであり、採用し得る範囲は最大3mm、望ましい範囲は1mmである。
ここで切欠部とは、肉欠部より深く切欠加工する部位で、他の部材を組み込んだり、嵌着する部位を言う。
ここでゲート路とは、サイドゲート、トンネルゲート、ダイレクトゲートを言う。
ここで高エネルギー密度の熱源とは、アーク熔接、レーザー熔接、パルス熔接、電子ビーム熔接、超音波熔接を言い、レーザー熔接として、例えばYAGレーザー熔接やマイクロYAGレーザー熔接を用いる。
これらの熔接は、一般に、一つの手段で全熔接を行なうが、複数の手段を用いて熔接することも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のハイブリッド金型は上記の通りであるから、次に記載する効果を奏する。
請求項1のハイブリッド金型は、成形金型の熱交換範囲に非鉄金属体を用い、非鉄金属体にキャビティを備え、キャビティの少なくとも負荷集中範囲に肉欠部を設け、肉欠部に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材を肉盛熔接し、その鉄系肉盛部から成る鉄材層を設けているので、熱伝導性に優れた非鉄金属体でありながら、「鋼製の鎧」を纏った強度のハイブリッド金型が得られる。
その結果、高機能複合化による金型製造が可能となる。
成形金型の少なくとも50%以上を金型用鋼材で作り、特に熱交換を必要とする範囲を非鉄金属体から成る入れ子とし、非鉄金属体から成る入れ子の損耗しやすい部分(高温の溶湯が触れる部分)を鉄材層でカバーすることで、熱交換の効率を向上しながら、非鉄金属体の弱点を補い、生産性を向上することができる。
このことは、成形金型を作る側と、その成形金型を使う側の双方にとって極めて実用的な技術であり、周辺技術の整備と熟成を伴えば夢の技術と言っても過言ではない。
鉄材層は、初めから正確(正規寸法)に鉄系材を肉盛熔接して形成することも可能であるが、初めから正規寸法に熔接するには高度の熟練を要するので、正規寸法より僅かに大きく肉盛熔接し、余分な所を後加工により切削(仕上げ加工)すれば、従来技術で簡単に加工し得る。
【0016】
請求項2のハイブリッド金型は、請求項1の特徴に加えて、製品関連部であるPLのキャビティ連続部に非鉄金属体を用いているので、連続成形によるキャビティ連続部の加熱上昇を抑え、高速成形を可能にする。
しかも、キャビティ連続部は非鉄金属体に形成されているが、肉欠部を設け、その肉欠部に鉄材層を形成し、鉄材層にて保護されているので、金型の開閉による損傷(型締め時の衝突、衝撃によることが多い)が抑えられ、従来の金型用鋼材と略同様の耐久力を有する。
請求項3のハイブリッド金型は、請求項1,2の特徴に加えて、成形金型はキャビティに向けて往復動する摺動体の摺動体受部を非鉄金属体にて構成しているので、摺動体受部の加熱上昇を抑え、高速成形を可能にする。
しかも、摺動体受部を非鉄金属体にて形成しても、少なくとも受部入口側に肉欠部を設け、その肉欠部に鉄材層を形成し、鉄材層にて保護されているので、摺動体のスライドによる損傷、及び溶湯による損傷等は、従来の金型用鋼材と略同様に抑えることができる。
請求項4のハイブリッド金型は、請求項3の特徴に加えて、摺動体に非鉄金属体を用いるので、摺動体の加熱上昇を抑え、高速成形を可能にする。
しかも、摺動体を非鉄金属体にて形成しても、少なくともキャビティへの露出部に肉欠部を設け、その肉欠部に鉄材層を設けているので、露出部が高温の溶湯に触れるとしても、溶湯による損傷は従来の金型用鋼材と略同様に抑えることができる。
【0017】
請求項5のハイブリッド金型は、請求項1,2,3,4の特徴に加えて、キャビティの一部を形成する部分成形体の保持部に非鉄金属体を用いるので、保持部の加熱上昇を抑え、高速成形を可能にする。
しかも、保持部を非鉄金属体にて形成しても、保持部は少なくとも入口側に肉欠部を設け、肉欠部に鉄材層を設け、鉄材層で保持部入口側を保護しているので、従来の保持部と略同様の耐久力を有する。
即ち、保持部入口側が高温の溶湯に触れても、溶湯よる損傷は従来の金型用鋼材と略同様に抑えることができる。
請求項6のハイブリッド金型は、請求項5の特徴に加えて、部分成形体に非鉄金属体を用いるので、部分成形体の加熱上昇を抑え、高速成形を可能にする。
しかも、部分成形体を非鉄金属体にて形成しても、部分成形体は少なくともキャビティへの露出部に肉欠部を形成し、肉欠部に鉄系材を肉盛熔接し、鉄系肉盛部にて覆い、その鉄系肉盛部に仕上げ加工した鉄材層で保護しているので、従来の部分成形体と略同様の耐久力を有する。
【0018】
請求項7のハイブリッド金型は、請求項項1〜6の内の1の特徴に加えて、ブロー成形金型の熱交換範囲、特に金型突合せ部に非鉄金属体を用いるので、熱交換範囲の加熱上昇を抑え、高速ブロー成形を可能にする。
しかも、金型突合せ部を非鉄金属体にて形成しても、金型突合せ部は、非鉄金属体の肉欠部に鉄系材を肉盛熔接し、鉄系肉盛部を設け、鉄材層にてバリ食い切り部を形成しているので、従来のブロー成形金型のバリ食い切り部と略同様の耐久力を有する。
請求項8のハイブリッド金型は、請求項1〜7の内の1の特徴に加えて、肉欠部に対する鉄系材の肉盛熔接を単層とすれば、その分、鉄材層の形成は容易になる。
しかし、単層では十分な肉厚と耐久力が得られない場合、多層に肉盛熔接し、肉盛厚さを最大3mmにすれば、十分な耐久力が得られる。
但し、層を重ねる毎に肉盛熔接に時間を要する。
【0019】
請求項9のハイブリッド金型は、請求項2の特徴に加えて、高温の溶湯が通過するゲート部に、熱伝導に優れた非鉄金属体を用いるので、ゲート部の加熱上昇を抑え、高速成形を可能にする。
しかも、ゲート部を非鉄金属体にて形成しても、ゲート部は、非鉄金属体に切欠部を設け、その切欠部に鉄系材を肉盛熔接し、ゲート用鉄系肉盛部にゲート路を設けているので、従来の金型用鋼材のゲート部と略同様の耐久力を有する。
請求項10のハイブリッド金型は、請求項1〜9の内の1の特徴に加えて、非鉄金属体として銅合金体を、鉄系材として鋼材ワイヤを用い、鋼材ワイヤを肉盛熔接する高エネルギー密度の熱源にレ−ザ熔接(YAGレ−ザ熔接)、又はレ−ザ熔接とパルス熔接を用いることで、非鉄金属体に対する鉄系材の肉盛熔接と、鉄系肉盛部から成る鉄材層の形成をより効率的に行うことができる。
即ち、銅合金体の肉欠部に鉄系材を単層又は多層に肉盛熔接し、その鉄系肉盛部に仕上げ加工し、鉄材層で保護(覆う)することにより、銅合金体でも高温の溶湯から十分に守ることができる。
請求項11のハイブリッド金型は、請求項1〜10の内の1の特徴に加えて、非鉄金属体に対する鉄系材を肉盛熔接する高エネルギー密度の熱源として、レ−ザ熔接、特にYAGレ−ザ熔接を用いることで、非鉄金属体に対する鉄系材の肉盛熔接を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るハイブリッド金型の第一実施形態を示す型締め前の断面図(イ)と、型締め状態の断面図(ロ)である。
【図2】(イ)(ロ)は、第一実施形態における鉄材層の形成範囲例を示す断面図である。
【図3】本発明の第ニ実施形態に用いる摺動体の要部断面図である。
【図4】本発明の第三実施形態に用いるコア金型組込部の断面図である。
【図5】本発明の第四実施形態に用いる部分成形体(インサート体)と、その保持部の関係を示す要部断面図である。
【図6】本発明の第五実施形態における鋼材型と入れ子型の関係を示す断面図である。
【図7】本発明の第六実施形態におけるブロー成形金型の型開き状態における要部断面図(イ)と、型締め状態における断面図(ロ)である。
【図8】ゲート用鉄系肉盛部の形成例を示す要部断面図(イ)(ロ)と、ゲート路の形成を示す要部断面図(ハ)(ニ)である。
【図9】(イ)(ロ)は、鉄系肉盛部の積層例を示す拡大断面図である。
【図10】(イ)(ロ)(ハ)は、ゲート体の形成例を示す断面図である。
【図11】中子体を用いた本発明ハイブリッド金型の要部断面図である。
【図12】テストピース母材(銅合金体)の正面図と左右側面図と底面図である。
【図13】テストピース母材の肉欠部に対する肉盛状態を示す正面図(イ)と要部拡大側面図(ロ)である。
【図14】テストピースの正面写真(イ)と側面拡大写真(ロ)である。
【図15】(イ)(ロ)は鉄材層の形成例を示す要部拡大写真である。
【図16】(イ)(ロ)は鉄材層の形成例を示す要部拡大写真である。
【図17】(イ)(ロ)は鉄材層の形成例を示す要部拡大写真である。
【図18】鉄材層の形成例を示す要部拡大写真である。
【図19】棒状テストピース母材と棒状テストピースの斜視図である。
【図20】歯車状鉄系肉盛部の形成例を示す要部平面図である。
【図21】波状鉄系肉盛部の形成例を示す要部平面図である。
【図22】試作金型の固定金型(イ)と可動金型(ロ)における銅合金体及び鋼材型の配置例を示す平面図である。
【図23】(イ)(ロ)(ハ)は鋼材ワイヤを熔接したテストピースの要部拡大写真である。
【図24】テストピースの肉欠部隅角における欠陥例を示す要部拡大写真である。
【図25】テストピースの肉欠部隅角を示す要部拡大写真である。
【図26】(イ)(ロ)(ハ)(ニ)はSEMによる分析例を示すテストピースの要部拡大写真である。
【図27】試作金型による製品の写真である。
【図28】鋼材ワイヤ(STAVA)と銅合金の肉盛熔接による硬度測定結果を示す。
【図29】冷却時間と製品の寸法変化の関係を示す。
【図30】冷却時間と金型温度の関係を示す。
【図31】冷却時間と成形品温度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明によるハイブリッド金型の第一実施形態を合成樹脂用射出成形金型において説明すると、図1の如く成形金型1は熱伝導の良好な非鉄金属体3にて形成され、非鉄金属体3から成る成形金型1にキャビティEと製品関連部7を備え、キャビティEと製品関連部7の少なくとも負荷集中範囲に、例えばキャビティEにあっては製品形成面e、製品関連部7にあってはPLのキャビティ連続部3aを3mm以内の切込み深さtで薄肉化し、連続部3aに肉欠部13を設け、該肉欠部13に図13(ロ)の如く高エネルギー密度の熱源を用いて非鉄金属体3より耐久力の強い鉄系材Fを肉盛熔接し、肉欠部13を図13(イ)の如く鉄系肉盛部4にて覆い、その肉盛部表面4aに仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aで負荷集中範囲を保護して適正寸法となるキャビティEと、鉄材層4Aで保護したPLのキャビティ連続部3aを形成する。
【0022】
第一実施形態では、非鉄金属体3として銅合金体3Aを、鉄系材Fとして鋼材ワイヤWを用い、且つ高エネルギー密度の熱源としてレ−ザ熔接、特にYAGレ−ザ熔接を用い、銅合金体3Aにて成形金型1の固定金型1Aと可動金型1Bを構成し、固定金型1Aにキャビティ雌部E1を、可動金型1Bにキャビティ雄部E2を備えている。
キャビティ雌部E1とキャビティ雄部E2は、摩耗しやすい負荷集中範囲に切込み深さtの肉欠部13を設け、肉欠部13に鋼材ワイヤWをYAGレ−ザ熔接し、鉄系肉盛部4より成る鉄材層4Aを形成し、鉄材層4Aで銅合金体3Aの肉欠部13を覆い、保護する。
負荷集中範囲を除く平坦部や緩変化部は銅合金体3Aのままとし、固定金型1Aと可動金型1Bの型閉め状態でキャビティEを形成する。
キャビティ雌部E1とキャビティ雄部E2の摩耗しやすい負荷集中範囲として、例えば成形材料の圧力が強く作用する図2の如く角部や形状の変化部、或はゲート部及びダイレクトゲートの相対向側製品形成面eが挙げられる。
鉄材層4Aは、肉欠部13に鋼材ワイヤWを単層又は多層に肉盛熔接し、肉盛厚さtを平均3mm以上の鉄系肉盛部4を形成し、該鉄系肉盛部4に仕上げ加工(切削加工、グラインダー又はやすり等による研磨等)して形成する。
ここで3mm以内の切込み深さtで薄肉化するのは後の鉄系肉盛部の厚みを考慮したものであり、鉄材層が厚すぎると銅合金体を用いた効果が少なくなり鉄材層が薄すぎると強度や保護効果が小さくなる。
そこで0.3〜3mmの範囲で薄肉化し、この薄肉化した肉欠部の深さと仕上げ加工量を合せた厚みに肉盛熔接する。
【0023】
本発明によるハイブリッド金型の第二実施形態を図1と図3に基づき説明すれば、キャビティEに向けて往復動する摺動体5の突き出しピン51と、摺動体受部6の突き出しピン挿入孔61とを備え、摺動体受部6を非鉄金属体3の銅合金体3Aに形成している。
銅合金体3Aから成る摺動体受部6は、少なくとも受部入口側6a、即ち、突き出しピン51の挿入孔入口側61aを3mm以内の切込み深さtで薄肉化し、肉欠部13を設け、該肉欠部13にYAGレ−ザ熔接を用いて鋼材ワイヤWを単層又は多層に肉盛熔接し、平均肉盛厚さtが3mm以上(切込み深さより少し厚く)の鉄系肉盛部4にて覆い、その肉盛部表面4aに仕上げ加工した所定寸法の鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aで挿入孔入口側61aを保護する。
【0024】
本発明によるハイブリッド金型の第三実施形態を、第二実施形態と相違する点について説明すれば、第三実施形態のハイブリッド金型は、図4の如くコア金型1Cを用いて成形金型1を構成するもので、コア金型1Cは、キャビティEに向けて往復動する摺動体5のスライドコア52と、摺動体5をスライド自在にガイドする摺動体受部6のコアガイド62から成り、このコア金型1Cを組み込むために、成形金型1を構成する非鉄金属体3の銅合金体3AにキャビティEに向けて開口する保持部9、具体的にはコア金型保持部92を備える。
そのため、保持部9の少なくとも入口側9a、第三実施形態にあっては、コア金型保持部92の入口側92a(キャビティ側)を3mm以内の切込み深さtで薄肉化し、肉欠部13を設け、該肉欠部13にYAGレ−ザ熔接を用いて鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、鉄系肉盛部4にて覆い、その肉盛部表面4aに仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aにて保持部入口側92aを保護する。
【0025】
コア金型1Cのコアガイド62を非鉄金属体3の銅合金体3Aに形成する場合、コアガイド62のガイド入口側62aを3mm以内の切込み深さtで薄肉化し、肉欠部13を儲け、該肉欠部13にYAGレ−ザ熔接を用いて鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、鉄系肉盛部4にて覆い、その肉盛部表面4aに仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aにてガイド入口側62aを保護する。
摺動体5を非鉄金属体3の銅合金体3Aに形成する場合、少なくともキャビティEへの露出部5aに肉欠部13を設け、該肉欠部13に鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、鉄系肉盛部4にて覆い、その肉盛部表面4aに仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aにて露出部5aを保護する。
摺動体5がスライドコア52である場合、コア露出部52aに肉欠部13を設け、該肉欠部13に鉄材層4Aを設け、摺動体5が突き出しピン51である場合、ピン露出部51aに鉄材層4Aを設け、保護する。
【0026】
本発明によるハイブリッド金型の第四実施形態を、第一乃至第三実施形態と相違する点について説明すれば、第四実施形態のハイブリッド金型は、キャビティEに向けて突出する部分成形体8と、キャビティEに向けて開口する保持部9とを備え、その保持部9を銅合金体3Aに形成する場合、該保持部9の少なくとも入口側9aを3mm以内の切込み深さtで薄肉化し、肉欠部13を設け、該肉欠部13にYAGレ−ザ熔接を用いて鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、鉄系肉盛部4にて覆い、その肉盛部表面4aに仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aで保持部入口側9aを保護する。
また、部分成形体8を銅合金体3Aに形成する場合、少なくともキャビティE内への露出部8aに肉欠部13を設け、該肉欠部13に鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、鉄系肉盛部4にて覆い、肉盛部表面4aに仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aで露出部8aを保護する。
部分成形体8が図5の如くインサート材81か微細成形体83である場合、インサート材81か微細成形体83の部分成形体保持部91を銅合金体3Aに設ける。
即ち、銅合金体3Aから成る保持部91の少なくとも入口側91aに鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aで保持部入口側91aを保護する。
【0027】
本発明によるハイブリッド金型の第五実施形態を、第一乃至第四実施形態と相違する点について説明すれば、第五実施形態のハイブリッド金型は、図6の如く成形金型1を鋼材型10と、鋼材型10に組み込む入れ子型20とから構成し、鋼材型10に金型用鋼材を、入れ子型20に非鉄金属体3の銅合金体3Aを用い、この銅合金体3Aから成る入れ子型20にキャビティEを形成し、第一実施形態の如くキャビティEの負荷集中範囲とPLのキャビティ連続部3aに肉欠部13を設け、肉欠部13にYAGレ−ザ熔接を用いて鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、鉄系肉盛部4より成る鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aにて銅合金体3Aから成る入れ子型20を保護する。
また、銅合金体3Aから成る入れ子型20に、第ニ実施形態の如く摺動体5の突き出しピン51と、摺動体受部6の突き出しピン挿入孔61を設けることも可能である。
更に、第三実施形態の如く、コア金型1Cを用いて成形金型1を構成したり、第四実施形態の如く部分成形体8と、その保持部9を形成することも可能である。
【0028】
本発明によるハイブリッド金型の第六実施形態を、第一乃至第五実施形態と相違する点について説明すれば、第六実施形態のハイブリッド金型は、図7の如く成形金型1が左金型11Aと右金型11Bから成るブロー成形金型11であり、左右金型11A,11Bの少なくとも熱交換範囲を非鉄金属体3,3にて各々形成し、非鉄金属体3,3の少なくとも突合せ部を3mm以内の切込み深さtで薄肉化し、肉欠部13,13を設け、該肉欠部13,13にYAGレ−ザ熔接を用いて鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、鉄系肉盛部4にて覆い、その肉盛部表面4aに仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aでバリ食い切り部24,24を形成し、離型時に製品のバリを切断し得るようにしている。
【0029】
<基礎実験の進め方>
異種合金接合による剥離、割れ等の有無を組織観察・硬度測定・超音波試験等を用いて確認し、問題が生じれば追加試験に必要と思われる条件を策定し、最適な金型材料の組み合わせと条件を選ぶための試験と検査を繰り返し行なった。
第一ステップ:基礎試験
第二ステップ:適切な肉盛厚さtの検証
第三ステップ:表面硬さの調査
第四ステップ:熔接条件の変化に伴う接合界面の健全性調査と、肉盛熔接した鉄材層4Aの接合面の強度および物性評価
第五ステップ:鉄系材F(鉄材層4A)の熱処理効果の確認
第六ステップ:ヒートサイクル試験
第七ステップ:熱影響部の材質調査
第八ステップ:試作金型Gによる検証
【0030】
第一ステップ・基礎試験(非鉄金属体3と、これに熔接する鉄系材Fの適切な組み合わせの検証)
金型として用いることのできる非鉄金属体3として銅合金体3Aを、銅合金体3Aの肉欠部13を埋める鉄系材Fとして、金型用鋼材と同様の鋼材Sを選択する。
更に、金型用の銅合金体3Aとして何種類もあるが、熱伝導率、熔接性、金型材としての一定硬度を有している商品名HIT75、HITMAX、HR750、AMPCOの4種類を候補とし、以下、これらを説明の便宜上、第一銅合金体31A、第二銅合金体32A、第三銅合金体33A、第四銅合金体34Aとする。
また鋼材Sとして、従来から熔接に使用されていた鋼材ワイヤWの内、代表的な商品名STAVAX、NAK80、SKD61の3種類を候補とし、以下、これらを説明の便宜上、第一鋼材ワイヤW1、第二鋼材ワイヤW2、第三鋼材ワイヤW3とし、且つワイヤ径φとして0.3〜0.6mmを用い、それらの適切な組み合わせを検証する。
鋼材ワイヤWの熔接手段としてドイツ製100ワット、200ワットのYAGレーザー熔接機を用いる。
【0031】
<テストピースにて実証し、基礎解析し、最適素材を選定する>
図12の如く縦幅h=10mm、横幅k=10mm、高さd=10mmの大きさの銅合金体3Aを用い、その一面の半巾分5mmに切削加工を施し、切込み深さt=0.5mmの肉欠部13を設け、各面と肉欠部13に磨き加工し、平滑に仕上げたテストピース母材(以下、母材Mと略す。)を形成する。
次いで母材Mの肉欠部13に鋼材ワイヤWをYAGレーザー熔接し、鉄系肉盛部4を形成し、該肉盛部4の各面を再度精密に磨き加工し、肉欠部13を鉄材層4Aにて保護した図14の如く一辺が10mmのサイコロ型テストピース(以下、テストピースPとする。)を形成する。
テストピースPは、4種類の銅合金体3A(31A,32A,33A,34A)×(3種類の鋼材ワイヤW(W1,W2,W3)×2種類のワイヤ径φ)=24の組み合わせとなり、組み合わせ毎の試料番号をNo.1〜No.24とし、同じ試料番号のテストピースPを各々5個づつ(24×5)=120個を形成し、各テストピースPに試料番号と枝番号を、例えばNo.1−1,No.1−2,No.1−3,No.1−4,No.1−5を刻印し、鉄材層4Aの定性分析と顕微鏡組織観察を行うと共に、並行して走査型電子顕微鏡(以下、SEMとする。)で熔接境界面に金属間化合物の発生が無いかを確認し、最適なものを選択する。
【0032】
<銅合金体3Aと肉盛熔接した鉄材層4Aの界面の定性分析と状況観察>
目視観察では、鉄材層4Aと銅合金体3Aとが積層状態にあり、鉄材層4Aと銅合金体3Aの間に境界線が見える。
顕微鏡観察(300倍)及びSEMでは、YAGレーザー熔接の条件によっては図15〜図18の如く鉄材層4Aに亀裂を生じたり、気穴を生じるし、銅合金体3Aとの境界線に乱れ生じたが、実用レベルの品質を得られる可能性が極めて高いことが判明した。
尚、図15の線状跡は、磨きによって生じたものである。
YAGレーザーのエネルギーにより銅合金体3Aの極く表面が溶融され、該溶融部にYAGレーザーのエネルギーによって溶融された鋼材ワイヤWが流れ込み、凝固して銅合金体3Aの表面に鉄系肉盛部4が形成されると思われるが、顕微鏡では銅合金体3Aの表面が溶融された形跡は発見できなかった。
しかし、鉄材層4Aと銅合金体3Aは、恰も糊や接着剤で着接しているように衝撃を与えても剥がれることはなかった。
鋼材ワイヤW(W1、W2,W3)における金属間化合物の兆候は見られなかった。
しかし意外にも鉄材層4Aによる出来栄えの差が大きく、図23で明らかなように第一鋼材ワイヤW1を熔接した銅合金体3Aの界面が極めて健全であるのに比べて、第二鋼材ワイヤW2と第三鋼材ワイヤW3の鉄材層4Aではクラック、ピンホール等の欠陥が目立った。
この欠陥自体は、致命的であるとは断言できないが(熔接条件を厳密に精査してその鋼種に適した熔接法を解明することは十分可能と推察できる。)、今回の実験では明確に差が生じた。
【0033】
第二ステップ:適切な肉盛厚さtの検証。
<実験条件>
銅合金体3Aとして第一銅合金体31Aを用いる。
鋼材Sとして第一鋼材ワイヤW1の0.3mmφを用いる。
母材Mの肉欠部13は、肉盛厚さtに応じて薄肉化し、肉欠部13にYAGレーザーを用いて第一鋼材ワイヤW1を肉盛熔接した後、鉄系肉盛部4の表面を適正寸法になるまで仕上げ加工を施した。
試料No.49=肉盛厚さt=0・1mm
試料No.50=肉盛厚さt=0.3mm
試料No.51=肉盛厚さt=0・5mm
試料No.52=肉盛厚さt=1・0mm
各テストピースPを各々5個ずつ(4×5)=20個形成し、
各テストピースPに試料番号と枝番号を、例えばNo.49−1,No.49−2,No.49−3,No.49−4,No.49−5を刻印し、鉄材層4Aの定性分析と顕微鏡組織観察を行うと共に、並行してSEMで熔接境界面に金属間化合物の発生が無いか等を確認する。
その結果、銅合金体3Aの表面に鋼材ワイヤWを熔接して強度を補完するのであるから、肉盛厚さtが厚い方が良く、他方、熱伝導率はその物体の厚みに比例するから、薄いほうが良い。
加えて、健全な金属組織を得るためには、正確な熔接技術を用いて慎重に鉄材層4Aを形成する必要があり、肉盛厚さtを厚くするに従って熔接時間が長くなることが判明した。
【0034】
第三ステップ:表面硬さの調査(マイクロビッカース硬さ測定)
母材Mの肉欠部13に熔接した鉄材層4Aの高強度性、並びに健全性をマイクロビッカース硬度計で測定し、硬度の変化が最も顕著に観られる事が予想される肉盛厚さtの違いで決定する。
母材Mの肉欠部13に鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、肉盛厚さtが0.3mm、0.6mmの鉄系肉盛部4を形成し、該鉄系肉盛部4の各面を再度精密に磨き加工し、肉欠部13を鉄材層4Aにて保護しているテストピースPを形成した。
即ち、3種類の鋼材ワイヤW(W1、W2,W3)×2種類の鉄系肉盛部4(0.3mm、0.6mm)=6の組み合わせとなり、組み合わせ毎の試料番号をNo.53〜No.58とし、同じ試料番号のテストピースPを各々5個づつ(6×5)=30個を形成し、各テストピースPに試料番号と枝番号を、例えばNo.53−1,No.53−2,No.53−3,No.53−4,No.53−5を刻印した。
測定方法は、テストピースPを形成する第一銅合金体31Aと鉄材層4Aの境界から適切な寸法でポイント取りして測定を行った。
【0035】
鉄材層4Aの形成部断面を顕微鏡観察により確認した所、0.3mmの肉盛厚さtではクラックの入る例が多く観られる事から、一応0.6mm辺りが適切と結論付けた(一応というのは対象製品の大きさや金型構造によって事情が変化するので、その都度肉盛厚さtを選定することになるが、最低限の肉盛厚さtに当たりを付けた。)。
多少硬度にバラつきはあるが肉盛厚さt0.3mmと0.6mmによる違いは硬度測定に限っては観られず、全体的に500HVのラインを保持し、横這いの水準を保っている事から、強度を高め健全な熔接が行われている事が確認された。
第一銅合金体31Aに比べ第一鋼材ワイヤW1に上下のバラつきが多少有り、通常の硬さ(第一鋼材ワイヤW1本来の硬度)より低い理由として、熔接時にかかる応力で部分的にマイクロクラックが発生し硬度の低下に繋がっていると推察される。
加えて、部分的補強の修理等も視野に入れ、熔接部での硬度比較として、第一鋼材ワイヤW1による熔接と、一般的な銅合金熔接棒を用いた熔接(試料番号No.59)とを比較した所、図28のグラフに示す如く結果が得られた。
【0036】
第四ステップ:熔接条件の変化に伴う接合界面の健全性調査、(断面組織の光顕観察、EPMA分析)と、肉盛熔接した鉄材層4Aの接合面の強度および物性評価(ピンホール及び界面相の形成の有無、熔接割れ等)とその調査(断面組織の光顕観察、EPMA分析)
一般的には熔接の際に電圧(V)、周波数(Hz)等の設定値を変化させ、より健全なレーザー熔接を施せる条件を探し出す。
本試験では銅合金体3Aに鋼材ワイヤWを熔接するという目的の中で、様々な条件でレーザー熔接を繰り返した。
例えば、電圧として一層目のレーザー熔接を225(V)、二層目のレーザー熔接を212(V)とし、周波数として8(Hz/sec)、11(Hz/sec)を用い、クラック、ピンホール等の欠陥のない熔接条件を模索し、いくつかの好条件を見つけた。
好条件による熔接接合界面の断面をSEMにより定性分析を行った結果、図26で示すように、一般的な鋼材同士の熔接で観られる合金層や金属間化合物は認められなかった。
銅合金体3Aと鉄材層4Aの接合界面は明らかに分かれているにもかかわらず、接合がなされているのは金属結合等によると想定されるが明確には解らない。
【0037】
第五ステップ:鉄系材Fの熱処理効果の確認(マイクロビッカース硬さ測定)。
第一銅合金体31Aの母材Mを6グループに分け、各グループの試料番号をNo.60〜No.65とし、各母材Mを各々5個づつ(6×5)=30個を形成し、各母材Mに試料番号と枝番号を、例えばNo.60−1,No.60−2,No.60−3,No.60−4,No.60−5を刻印し、これらを熱処理炉に入れ、150〜400℃の範囲で予熱し、予熱されたテストピースPをグループ毎に50℃間隔で取出し、その肉欠部13に第一鋼材ワイヤW1を肉盛熔接し、鉄系肉盛部4を形成し、該鉄系肉盛部4の各面を再度精密に磨き加工し、肉欠部13を鉄材層4Aにて保護しているテストピースPを形成する。
即ち、6種類の温度で予熱して鉄材層4Aを設けた。
レーザー熔接に於いては母材Mを広範囲で溶かし込むことはしないので、普通は適用しないが、銅合金体3Aと鋼材Sというアブノーマルな組み合わせにおいて、有利に働くことを期待して予熱を行った(一般的な熔接では、熔接前に適切な温度で予熱を行い、熔接後に後熱処理を行う。)。
【0038】
鉄材層4Aの定性分析と顕微鏡組織観察を行うと共に、並行してSEMで熔接境界面に金属間化合物の発生が無いか等を確認する。
熱処理炉(熔接による溶け込み不足、歪みや割れ等異なる熱収縮によるストレスの分散)を使用し、割れや剥離が生じない条件を見出す。
<結果>
熔接性:溶け込みが非常に良くビード形成が安定している。
接合部:150℃〜250℃の範囲では欠陥は認められないが、肉欠部13の隅角を直角に加工すると、肉欠部13に肉盛りした鋼材Sに図24で示すようにクラックが発生しやすいが、肉欠部13の隅角をアール加工して鋼材Sを肉盛りすると、図25に示すように鋼材Sにクラックの発生が生じにくい。
加えて、熱膨張係数が銅合金体3Aと鋼材Sでは約2倍の差があることから、高温度域で金型を使用した際に、接合部界面にせん断応力が発生することが容易に想定できる。
【0039】
第六ステップ:ヒートサイクル試験
金型の最高使用温度ゾーンを300℃と想定して、常温〜300℃のヒートサイクル試験を行った。
試験方法として、図19で示すように第一銅合金体31Aから成る120mm×15mm×15mmの角棒状テストピース母材(以下、角棒状母材SMとする。)を用い、該角棒状母材SMの一面の長手方向に幅5mmの切削加工を施し、切込み深さt=0.5mmの肉欠部13を設け、肉欠部13に第一鋼材ワイヤW1をYAGレーザ熔接で肉盛し、鉄系肉盛部4を形成し、該鉄系肉盛部4に磨き加工を施して棒状テストピースSPを形成する。
次いで角棒状テストピースSPの両端から20mmをカットし、残りの中心部を20回サイクルで昇温(300℃)と冷却(20℃)を繰り返す。
ヒートサイクル後、更に両端から20mmをカットし、ヒートサイクル前と後で断面を比較する。
熔接内部の組織をエッチングし顕微鏡観察を行った。
結果、初期サンプル(ヒートサイクル前とヒートサイクル後)の接合部近傍における欠陥の発生など、異常は特に認められなかった。
実際にはヒートサイクル+500Kg/cmの加重が数万回以上同時に負荷される成形作業において確認するしかないが、ストレスが発生していれば、少ないサイクルにおいても鋼種選定試験で観察されたような、せん断方向の亀裂が発生することはあり得る。
【0040】
第七ステップ:熱影響部(HAZ)の材質調査(相変態の有無、結晶粒径の変化と物性変化)
接合界面近傍の金属学的考察には特に強い関心があるが、SEMによる組織観察及び分析結果から異常な様子を認めることは無かった。
<接合界面の健全性>
接合界面を顕微鏡写真で確認した結果、全てのテストピースPにおいてクラックやピンホール等の欠陥はいくつか認められたが、接合界面に沿っての剥離は皆無であった。
これは熔接の接合性において大変望ましい形であり、銅合金体3Aと鉄系材Fの異種金属でありながら健全な熔接が可能であることを証明している。
【0041】
第八ステップ:試作金型Gによる検証(当該技術を使用した金型製作、修理、改造のシステム考察)。
<試作金型Gの製造>
試作金型Gは、現在量産を行っている図27の歯車状キャップをベースにして製造ラインで条件を揃えて実施する。
1.鋼材型10にて固定金型1Aと可動金型1Bを作成する。
2.その固定金型1Aにキャビティ雌部E1を、可動金型1Bにキャビティ雄部E2を設け、固定金型1Aと可動金型1Bの型閉め状態においてキャビティEを形成する。
2a,可動金型1Bには、一般の金型に使用されている鋼材型10を用い、その可動金型1Bの4箇所に図22(イ)の如くCATを入れ子とする。
具体的には、図22(イ)の如く上側左右の雄部用入れ子を商品名NAKの鋼材とし、下側左右の雄部用入れ子を商品名HITの銅合金とする。
2b,固定金型1Aは、可動金型1Bと同様に一般の金型に使用されている鋼材型10を用い、その固定金型1Aの4箇所(可動金型1Bの雌部用入れ子と相対する位置)に図22(ロ)の如くCORを入れ子とする。
具体的には、図22(ロ)CORの如く上左側の雌部用入れ子を商品名NAKの鋼材とし、上右側の雌部用入れ子を商品名HITの銅合金とし、下側左右の雌部用入れ子を商品名HIT(B)、HIT(A)の銅合金とする。
図22(イ)(ロ)におけるHITは、第一銅合金体31Aを含む類似品であり、HIT(B)、HIT(A)は、第一銅合金体31A以外のHITの類似品を示す。
2c.HITから成る銅合金体3Aの入れ子にキャビティ雌部E1及びキャビティ雄部E2を設ける場合、キャビティ雌部E1及びキャビティ雄部E2の適正寸法から鋼材ワイヤWの肉盛厚さt=約0.6mmに相当する肉欠部13を設け、該肉欠部13に第一鋼材ワイヤW1を肉盛り熔接し、鉄系肉盛部4を形成し、該鉄系肉盛部4の各面を再度精密に磨き加工し、肉欠部13を鉄材層4Aにて保護する(即ち、本発明のハイブリッド金型とする。)。
2d.NAKから成る入れ子に設けるキャビティ雌部E1及びキャビティ雄部E2は、適正寸法で形成する。
試作品のキャビティEは歯車状キャップであるため、図20に示すように歯部の肉盛厚さtは更に0.7mm上乗せしたことになる。
CORも同様に螺子が切ってあるので、被覆層で第一鋼材ワイヤW1が0.6mm熔接されており、螺子山の部分は更に2mm程度厚くなっている(これは形状の要因によるもので、通常は図21で示すように成品形状に沿って忠実にオフセットされた形状に盛り上げることが望ましい)。
【0042】
<試作金型Gの性能試験>
1.上記成形金型1を用いて樹脂製品の成形を試みる。
2.成形品の品質を調査し、問題点に改善策を講じる。
3.試作金型Gと従来金型(金型用鋼材)とを用いて量産試験を行い、両者を比較してその優位性を明らかにする。
<成形トライ>
成形サイクル及び成形品の品質検査を行い、従来金型によるものと比較し、総合評価を行う。
問題が生じれば金型を返却し、修正後再度確認のための成形を行う。
<試験>
成形トライ時のデータを基に量産型としての耐久性、製品の安定、コスト削減の可能性を観察、データ収集を行なった。
【0043】
<成形試作>
試作金型Gを量産時の成形条件で、冷却時間のみを変化させて成形試験を行った。
通常、冷却時間を長くすれば『寸法精度』、『変形の程度』共に品質は安定するが、生産性が落ちてコスト増加に直結する。
又結晶性の樹脂(PP,PE,PO等)においてはその傾向が更に顕著となり製造現場においては最大の関心事である。
試作金型Gでは、冷却時間を通常の成形時間から、第一鋼材ワイヤW1が試作に耐えない限界まで短縮し、性能比較と評価を行った。
量産時の成形条件(通常の成形サイクル):34秒
(射出7秒、冷却17秒、エジェクト・開閉等10秒、合計34秒)
冷却時間:最大時間17秒〜最小時間5秒までとし、3秒ずつ5段階(17秒、14秒、11秒、8秒、5秒)に分けた。
【0044】
<試験内容>
(1)50ショット(4個*50ショット=200個)を成形し、内20ショット(80個)を24時間後に測定。
(2)形品温度測定:40ショット目から1ショット毎に取り出し機から落下直前の1個を採取し(型開から13秒後)天面中央の温度を8個分(各キャビ2回)測定。
(3)金型温度測定:50ショット成形後、キャビ・コア夫々の温度を測定。
【0045】
<試作結果>
(1)結論
本発明のハイブリッド金型(試作金型G)では、従来金型に比べて20%以上のサイクル短縮の可能性を認めることができた。
(2)データの解析
(2−1)寸法測定結果
図29のグラフに示す如く冷却時間を短縮するに従って第一鋼材ワイヤW1の後収縮が大きくなり、製品が小さくなる傾向を示した。
図29のグラフにて縦軸はn数を示し、寸法変化のヒストグラムを曲線グラフにしたものである。
【0046】
(2−2)温度測定結果
試作金型Gの表面温度は、図30のグラフに示すように冷却時間の短縮に伴って高くなるが、NAKは特に顕著に温度上昇する。
それに比べて第一銅合金体31Aは、冷却能力が高く、温度上昇は緩やかで、その差は極めて大きかった。
成形品温度も図31のグラフに示すように冷却時間の短縮に伴って高くなり、NAKは8秒及び5秒では固化が完了しない状態で取り出されることになる。
成形品の温度は、70℃近くまで上昇し、自動落下に耐えない程軟らかい状態にあった。
一方、第一銅合金体31Aは、冷却時間の短縮に伴って温度は上昇するがNAKの比ではなく、8秒でも充分固化しており、成形サイクルの短縮の可能性はこの時点の冷却能力で決定される。
【0047】
(3)試験データ
(3−1)冷却時間と変形量(ゲート方向と反ゲート方向)
円形状の成形品を一点ゲートで射出すると、ゲート方向が長径で反ゲート方向(ゲート方向と90度交差する方向)が短径になることが一般的で、この例でも図29が示すように全ての表にその傾向が如実に現れている。
当該製品の寸法は65.6mmが基準値で、公差は±0.7mmである。
量産時の成形条件(冷却時間:17秒)で比較して第一銅合金体31AとNAKでは中央値で0.1mmずれが出ている。
真円度の観点からは大きな差異は認められないが、収縮においては鋼材Sが大きくなる(製品が小さく仕上がる)。
(3−2)冷却時間と寸法変化及び金型・成形品温度(図30,31)
冷却時間が8秒(量産条件の50%以下)では、第一銅合金体31Aの場合、寸法・真円度共に17秒の場合と大差なく、バラツキ量も小さく分布図の形状も美しい。
一方、第一銅合金体31Aは全体に中央値で0.1〜0.15mm小さいほうにずれており、分布の形も大きく崩れている。
新円度も悪く、既に安定した量産品質とはいえない。
この比較から、第一銅合金体31Aの金型は、冷却時間を50%短縮できる可能性を十分に備えているが、NAKは冷却時間の短縮に耐える可能性は殆ど無いといえる。
【0048】
(3−3)冷却時間とパッキング部の形状安定性
通常の量産では、寸法調整に数ヶ月を要す程微妙な部位であり、限られた時間の中で優位差を検出することは困難であった。
外径及びネジの谷径で優位差が見出せたので、当該部位の検定を省略した。
(3−4)ヒケ等の外観比較(メーカーの品質管理担当)
外観検査において、変形が激しい箱物や反りが大きい薄肉の板と異なり、変形しにくい形状なので、差異は判り難かった。
ヒケについても、特に大きな差異は認められない。
【0049】
鉄材層4Aの形成状態、特に鉄材層4Aの接合状態を検証するために熔接の条件等を変えて実験を実施した。
実験条件:実験例1と同じ。
試料66=YAGレーザー熔接のみにて鉄系肉盛部4を形成する。
試料67=YAGレーザー熔接にて一層目を形成し、残りをパルス熔接にて肉盛する。
試料68=パルス熔接のみにて鉄系肉盛部4を形成する。
試料66〜68の比較
肉盛熔接に要した時間は、試料68<試料67<試料66の関係にある。
鉄系肉盛部4の接着状況を顕微鏡によって観察した所、試料66と試料67は略同様であったが、試料68では、やや乱れが見えた。
【0050】
摺動体5を非鉄金属体3の銅合金体3Aにて形成した場合、図9の如く少なくとも露出部5aを3mm以内の切込み深さtで薄肉化し、肉欠部13にYAGレーザー熔接を用いて鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、鉄系肉盛部4を形成し、その肉盛部表面4aに仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aにて摺動体露出部5aを保護する。
例えば、摺動体5のスライドコア52を銅合金体3Aにて形成する場合、スライドコア52少なくとも摩耗しやすい範囲のコア露出部52aを3mm以内の切込み深さtで薄肉化し、肉欠部13にYAGレーザー熔接を用いて鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、鉄系肉盛部4を形成し、その肉盛部表面4aに仕上げ加工した鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aでコア露出部52aを保護する。
摺動体5の突き出しピン51を銅合金体3Aにて形成する場合、銅合金体3Aから成るスライドコア52と同様に、そのピン露出部51aに鉄材層4Aを設け、鉄材層4Aでピン露出部51aを保護する。
【0051】
キャビティEに連続するゲート部12を図8の如く非鉄金属体3にて形成するものであり、非鉄金属体3にキャビティEに連続する切欠部19を設け、切欠部19にYAGレーザー熔接を用いて鋼材ワイヤWを肉盛熔接し、ゲート用鉄系肉盛部14を形成し、該ゲート用鉄系肉盛部14にゲート路2を加工すると共に、肉盛部表面4aに仕上げ加工したゲート用鉄材層14Aを設け、そのゲート用鉄材層14Aで切欠部19を塞ぐことも可能である。
ゲート路2として、サイドゲート2a、トンネルゲート2b、ダイレクトゲート2cを設けることができる。
【0052】
実施形態では、鋼材ワイヤWによる肉盛熔接にYAGレーザーとパルス熔接を用いたが、YAGレーザー熔接以外のレーザー熔接、電子ビーム熔接、超音波熔接等も使用できると思われる。
また、YAGレーザー熔接にて一層目を形成し、二層目以後をパルス熔接にて鉄系肉盛部4を形成した後、肉盛部表面4aに仕上げ加工し、鉄材層4Aを形成することが好ましい。
実施形態は合成樹脂用射出成形金型とブロー成形金型を例としたが、両金型に限定されるものではなく、例えば圧縮成形金型、押出し成形金型にも応用し得るし、合成樹脂用金型以外の例えばダイカスト金型、ゴム成形用金型、ガラス金型にも応用し得る。
また、部分成形体8が銅合金体3Aから成る図11の如く中子体84で、中子体保持部94も銅合金体3Aに設ける場合、中子体84の全表面に鉄材層4Aを形成し、中子体保持部94も鉄材層4Aで保護することが好ましい。
部分成形体8が図10の如く鋼材Sから成るゲート体82である場合、銅合金体3Aにゲート体保持部93を設け、該ゲート体保持部93にゲート体82を組み込むことも可能である。
尚、成形金型1、又は成形金型1を構成する非鉄金属体3が熱伝導の良好な銅合金体3Aであっても、従来の鋼製金型と同様に冷却水路を設けることが好ましい。
【0053】
0.3φの鋼材ワイヤWをレーザー熔接すると、一回の熔接で約0.2mmの肉盛ができるし、0.6φの鋼材ワイヤWをパルス熔接すると、一回の熔接で約0.4mmの肉盛ができる。
熔接面にYAGレーザーを用いての如く鋼材ワイヤWを一定のピッチで肉盛熔接し、熔接面より僅かに高く広い範囲で鉄系肉盛部4を設けた後、鉄系肉盛部4に仕上げ加工(研磨)し、肉盛厚さtの鉄材層4Aを設けたテストピースPを形成する。
【0054】
第一ステップの実験結果により、銅合金体3Aの第一銅合金体31Aと、鋼材Sの第一鋼材ワイヤW1との組み合わせ(以下、第一組み合わせとする。)が最良な状態であったので、この組み合わせを基本として他の実験を試みた。
他の組み合わせは、第一組み合わせより亀裂や巣の発生にバラツキがあったものの、従来熔接におけ亀裂等の許容範囲内に収まるので、金型の種類によっては採用可能である。
また、他の組み合わせにあっては、高エネルギー密度の熱源(アーク熔接、パルス熔接、電子ビーム熔接、超音波熔接等)の選択、或はレーザーの照射等に工夫をすれば、精度を高め得るものと思われる。
【0055】
第一ステップの基礎試験で、非鉄金属体3の銅合金体3Aとして、第一銅合金体31Aが他の素材より比較的良かったので、第二ステップ以後の実験に第一銅合金体31Aを用いたが、熔接条件を変更することで第二銅合金体32A、第三銅合金体33A、第四銅合金体34Aを用いることも可能である。
また、鋼材ワイヤWとして第一鋼材ワイヤW1を用いたが、第二鋼材ワイヤW2、第三鋼材ワイヤW3のワイヤを用いることも可能である。
更に、ワイヤ径φとして0.3mmと0.6mmを用いたが、0.3mmと0.6mmに限定されるものではない。
【0056】
非鉄金属体3の摩耗しやすい負荷集中範囲に鉄材層4Aを備えている成形金型1、摺動体5、部品成形体8等を加熱炉に入れ、銅合金体3Aの融点より低い温度で一定時間にわたり加熱すれば、加熱により鉄材層4Aの肉盛時に生じた歪み(熔接によって生じた内部応力等)が取除かれる。
その結果、歪みによる損傷や破損が著しく減少する。
摺動体5に設ける肉欠部13、及び部分成形体8に設ける肉欠部13の範囲は、キャビティ内に露出する摺動体露出部5a(具体的には、ピン露出部51aとコア露出部52a),部分成形体露出部8aに限定されるものではなく、キャビティ内に露出する範囲とそれに続く適宜範囲が好ましい。
【符号の説明】
【0057】
1 成形金型
1A 固定金型
1B 可動金型
1C コア金型
2 ゲート路
2a サイドゲート
2b トンネルゲート
2c ダイレクトゲート
3 非鉄金属体
3A 銅合金体
3a パーテングライン(PL)のキャビティ連続部
4 鉄系肉盛部
4A 鉄材層
4a 肉盛部表面
5 摺動体
5a 露出部
6 摺動体受部
6a 受部入口側
7 製品関連部
8 部分成形体(インサート体)
8a 露出部
9 保持部
9a 保持部入口側
10 鋼材型
11 ブロー成形金型
11A 左金型
11B 右金型
12 ゲート部
13 肉欠部
14 ゲート用鉄系肉盛部
14A ゲート用鉄材層
19 切欠部
20 入れ子型
24 バリ食い切り部
31A,32A,33A,34A 銅合金体
51 突き出しピン
51a ピン露出部
52 スライドコア
52a コア露出部
61 ピン挿入孔
61a 挿入孔入口側
62 コアガイド
62a ガイド入口側
81 インサート体(インモールド体)
82 ゲート体
83 微細成形体
84 中子体
91 部分成形体保持部
91a 保持部入口側
92 コア金型保持部
92a 保持部入口側
93 ゲート体保持部
94 中子体保持部
E 製品形成部(キャビティ)
e 製品形成面
E1 キャビティ雌部
E2 キャビティ雄部
F 鉄系材
G 試作金型
M テストピース母材
P テストピース
R レーザー
R1 YAGレーザー(精密マイクロYAGレーザー)
S 鋼材
SM 棒状テストピース母材(棒状母材)
SP 棒状テストピース
t 肉盛厚さ、薄肉部の切込み深さ
W,W1,W2,W3 鋼材ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形金型(1)の少なくとも熱交換範囲を非鉄金属体(3)にて形成し、非鉄金属体(3)に少なくともキャビティ(E)を備え、キャビティ(E)の製品形成面(e)の少なくとも損傷しやすい負荷集中範囲に正規寸法よりも薄肉化した肉欠部(13)を形成し、
肉欠部(13)に高エネルギー密度の熱源を用いて非鉄金属体(3)より溶融温度の高い鉄系材(F)を肉盛熔接し、鉄系肉盛部(4)にて覆い、該鉄系肉盛部(4)に仕上げ加工した鉄材層(4A)を設け、鉄材層(4A)にて製品形成面(e)の損傷しやすい負荷集中範囲を保護していることを特徴とするハイブリッド金型。
【請求項2】
非鉄金属体(3)に製品関連部(7)を備え、製品関連部(7)の一つがキャビティ(E)に連続しパーテイングライン(PL)を形成するキャビティ連続部(3a)であり、そのキャビティ連続部(3a)は正規寸法よりも数mm以内の切込み深さ(t)で薄肉化した肉欠部(13)を形成し、
肉欠部(13)に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材(F)を肉盛熔接し、鉄系肉盛部(4)にて覆い、該鉄系肉盛部(4)に仕上げ加工した鉄材層(4A)を設け、鉄材層(4A)にてキャビティ連続部(3a)を保護していることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド金型。
【請求項3】
成形金型(1)はキャビティ(E)に向けて往復動する摺動体(5)と、その摺動体(5)をスライド自在にガイドする摺動体受部(6)を備え、少なくとも摺動体受部(6)は非鉄金属体(3)から成り、摺動体受部(6)は少なくとも受部入口側(6a)に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さ(t)で薄肉化した肉欠部(13)を形成し、
肉欠部(13)に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材(F)を肉盛熔接し、鉄系肉盛部(4)にて覆い、該鉄系肉盛部(4)に仕上げ加工した鉄材層(4A)を設け、鉄材層(4A)にて摺動体受部(6)の入口側(6a)を保護していることを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド金型。
【請求項4】
摺動体(5)は非鉄金属体(3)にて形成され、少なくともキャビティ(E)内への露出部(5a)に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さ(t)で薄肉化した肉欠部(13)を形成し、
肉欠部(13)に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材(F)を肉盛熔接し、鉄系肉盛部(4)にて覆い、該鉄系肉盛部(4)に仕上げ加工した鉄材層(4A)を設け、鉄材層(4A)にて摺動体露出部(5a)を保護していることを特徴とする請求項3記載のハイブリッド金型。
【請求項5】
成形金型(1)はキャビティ(E)の一部を形成する部分成形体(8)の保持部(9)を備え、少なくとも保持部(9)は非鉄金属体(3)から成り、保持部(9)はキャビティに向けて開口し、その少なくとも保持部入口側(9a)に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さ(t)で薄肉化した肉欠部(13)を形成し、
肉欠部(13)に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材(F)を肉盛熔接し、鉄系肉盛部(4)にて覆い、該鉄系肉盛部(4)に仕上げ加工した鉄材層(4A)を設け、鉄材層(4A)にて保持部入口側(9a)を保護していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のハイブリッド金型。
【請求項6】
部分成形体(8)は非鉄金属体(3)にて形成され、少なくともキャビティ(E)内への露出部(8a)に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さ(t)で薄肉化した肉欠部(13)を形成し、
肉欠部(13)に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材(F)を肉盛熔接し、鉄系肉盛部(4)にて覆い、該鉄系肉盛部(4)に仕上げ加工した鉄材層(4A)を設け、鉄材層(4A)にて露出部(8a)を保護していることを特徴とする請求項5記載のハイブリッド金型。
【請求項7】
成形金型(1)が左金型(11A)と右金型(11B)から成るブロー成形金型(11)であり、左右金型(11A,11B)の少なくとも熱交換範囲を非鉄金属体(3,3)にて各々形成し、非鉄金属体(3,3)の突合せ部に正規寸法よりも数mm以内の切込み深さ(t)で薄肉化した肉欠部(13)を形成し、
肉欠部(13)に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材(F)を肉盛熔接し、鉄系肉盛部(4)にて覆い、該鉄系肉盛部(4)に仕上げ加工した鉄材層(4A)を設け、鉄材層(4A)にてバリ食い切り部(24,24)を形成していることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド金型。
【請求項8】
肉欠部(13)に設ける鉄系肉盛部(4)は、鉄系材(F)を高エネルギー密度の熱源を用いて単層又は多層に熔接したものであり、
鉄材層(4A)は鉄系肉盛部(4)に仕上げ加工したものであり、該鉄系肉盛部(4)の肉盛厚さ(t)が平均3mm以内であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のハイブリッド金型。
【請求項9】
製品関連部(7)の一つがキャビティ(E)に連続するゲート部(12)であり、
ゲート部(12)は、非鉄金属体(3)にキャビティ(E)に連続する切欠部(19)を設け、その切欠部(19)に高エネルギー密度の熱源を用いて鉄系材(F)を肉盛熔接し、ゲート用鉄系肉盛部(14)を形成した後、該ゲート用鉄系肉盛部(14)にゲート路(2)を設けると共に、仕上げ加工したゲート用鉄材層1(4A)を形成していることを特徴とする請求項2〜8のいずれか一項に記載のハイブリッド金型。
【請求項10】
成形金型(1)の母材が金型用鋼材であり、鉄系材(F)が熔接用鋼材ワイヤ(W)であり、非鉄金属体(3)は鉄系材(F)より溶融温度が低く、熱伝導の良好な銅合金体(3A)であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のハイブリッド金型。
【請求項11】
鉄系材(F)の肉盛熔接に用いる高エネルギー密度の熱源は、レーザー熔接(YAGレーザー熔接)、パルス熔接、電子ビーム熔接、超音波熔接中の少なくも1手段であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のハイブリッド金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【公開番号】特開2013−56447(P2013−56447A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195354(P2011−195354)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(500030013)株式会社キャステム (4)
【Fターム(参考)】