説明

ハイブリッド電気自動車の制御装置

【課題】バッテリの消耗を抑制した上で、バッテリの充放電能力を余すことなく有効に利用して電動機の作動によりエンジン側の負担を軽減でき、もって、燃費や排ガス特性面でのハイブリッド電気自動車の特徴を十分に活かすことができるハイブリッド電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】アクセル・ブレーキ頻度算出部46で運転者の癖や道路状況、ひいてはバッテリへの負担を示す指標としてアクセル及びブレーキの頻度を検出し、アクセル及びブレーキの頻度に基づきSOCレンジ学習部47でバッテリのSOCレンジを学習し、学習したSOCレンジに基づきSOCモード選択部43でSOCモードを選択し、SOCモードに対応するトルク配分マップに基づきトルク配分設定部45でエンジン側と電動機側とのトルク配分を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイブリッド電気自動車の制御装置に関し、詳しくは、パラレル式ハイブリッド型電気自動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンと電動機とを車両に搭載し、エンジンの駆動力と電動機の駆動力とをそれぞれ車両の駆動輪に伝達可能とした、いわゆるパラレル型ハイブリッド電気自動車が開発され実用化されている。このようなパラレル型ハイブリッド電気自動車では、アクセル操作に基づく運転者の要求トルクやバッテリの充電率(SOC:State Of Charge)などに基づき、エンジン側と電動機側とのトルク配分を設定し、トルク配分に従ってエンジンと電動機とを制御している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
当該特許文献1の技術では、予め設定されたバッテリのSOCレンジ(例えば40〜60%)内を低SOCモード、中SOCモード及び高SOCモードに区分して、現在のバッテリのSOCに該当するSOCモードを選択し、そのSOCモードに対応するトルク配分マップを複数のトルク配分マップの中から選択して、このトルク配分マップに基づき、要求トルクや電動機の回転速度からトルク配分を決定している。
【0004】
中SOCモードのトルク配分マップではエンジンの燃費が最良となるトルク配分が設定され、低SOCモードのトルク配分マップではエンジン主体のトルク配分によりSOCを増加方向に制御するトルク配分が設定され、高SOCモードのトルク配分マップでは電動機主体のトルク配分によりSOCを減少方向に制御するトルク配分が設定される。中SOCモードのSOC領域内からSOCが増加側或いは低下側に逸脱したときには、低SOCモードや高SOCモードが実行されてSOCが中モードの領域に復帰し、これによりSOCを上記SOCレンジ内に保持しながら、中SOCモードを主体としてエンジン側と電動機側とのトルク配分が制御される。
【0005】
逆に、高SOCモードでは、電動機による回生を少なく、ないし中止し、SOCの上昇を低減するように、回生トルク配分が設定され、低SOCモードのトルク配分マップでは電動機主体のトルク配分によりSOCを増加方向に制御するトルク配分が設定され、高SOCモードのトルク配分マップではエンジンブレーキ主体のトルク配分によりSOCを減少方向に制御するトルク配分が設定される。中SOCモードのSOC領域内からSOCが増加側或いは低下側に逸脱したときには、低SOCモードや高SOCモードが実行されてSOCが中モードの領域に復帰し、これによりSOCを上記SOCレンジ内に保持しながら、中SOCモードを主体としてエンジン側と電動機側とのトルク配分が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−246009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1などの従来技術では、上記したSOCレンジを以下の観点に基づき固定値として予め設定している。
まず、バッテリのSOCレンジを拡大するほど電動機がモータ作動や発電機作動する機会が増加し、それに応じてエンジン側の負担が軽減することから、燃費や排ガス特性面でのハイブリッド電気自動車の特徴を有効に活かす意味で望ましい。その反面、SOCレンジが拡大するほどSOCの変動幅が増大することから、バッテリの消耗が激しくなって寿命が短縮してしまう。
【0008】
このような観点の下に、従来技術においては、バッテリの負担が最も増大する最悪の運転条件、例えばアクセルやブレーキの頻度が高くてバッテリが頻繁に充放電を繰り返す運転条件を設定し、この運転条件で、例えば車体寿命に相当する距離だけ走行してもバッテリが消耗限界に到達しない値としてSOCレンジを設定している。
しかしながら、このように設定されたSOCレンジでは、一般的な運転条件においてバッテリは充放電能力に過剰な余裕を残した状態で使用されることになる。従って、バッテリの充放電能力からは、電動機をモータ作動や発電機作動させてエンジン側の負担を軽減できるだけのバッテリの充放電能力が残存しているにも拘わらず、狭いSOCレンジに基づきモータ作動や発電機作動が早期に中断されてしまう場合があり、このときにはエンジン側の負担を軽減することができず、燃費や排ガス特性面でのハイブリッド電気自動車の特徴を十分に活かすことができないという問題が生じた。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、バッテリの消耗を抑制した上で、バッテリの充放電能力を余すことなく有効に利用して電動機の作動によりエンジン側の負担を軽減でき、もって、燃費や排ガス特性面でのハイブリッド電気自動車の特徴を十分に活かすことができるハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、車両の駆動輪に駆動力を伝達可能なエンジンと、バッテリの電力により駆動輪に駆動力を伝達可能な電動機と、バッテリの充電率を所定の使用領域内に保持しながら、運転者の要求トルクに基づきエンジン側と電動機側とのトルク配分を設定するトルク配分設定手段と、トルク配分設定手段により設定されたトルクに基づき、エンジン及び電動機をそれぞれ制御して車両を走行させる制御手段と、所定の学習期間における運転者の運転操作状態に基づき、バッテリの消耗を抑制した上で許容可能なバッテリの充電率の使用領域を学習し、学習した使用領域をトルク配分設定手段によるトルク配分の設定に適用する学習手段とを備えたものである。
【0011】
バッテリの使用領域を拡大するほど電動機がモータ作動や発電機作動する機会が増加し、それに応じてエンジン側の負担が軽減することから、燃費や排ガス特性面でのハイブリッド電気自動車の特徴を有効に活かす意味で望ましいが、その反面、使用領域が拡大するほど充電率の変動幅が増大することから、バッテリの消耗が激しくなって寿命が短縮してしまう。
ここで、運転操作状態は、現在の運転者が有する固有の癖を表すだけでなく、現在車両が走行中の道路状況も表し、ひいては充放電に伴うバッテリへの負担の大きさを示す指標と見なせる。本発明では、このような運転者の運転操作状態に基づき、過大な使用領域の適用によるバッテリの消耗を抑制した上で許容可能な充電率の使用領域が学習され、学習された使用領域内にバッテリの充電率を保持しながらエンジン側と電動機側とのトルク配分が設定される。
【0012】
結果として、バッテリを消耗させない範囲内で可能な限りバッテリの充電率の変動幅を拡大するように、運転操作状態の学習結果に基づきバッテリの使用領域が可変されるため、バッテリの消耗を未然に抑制した上で、電動機の作動によりエンジン側の負担を軽減可能となる。
請求項2の発明は、請求項1において、学習手段が、運転者の運転操作状態として、運転者により操作されるアクセル及びブレーキの頻度に基づきバッテリの充電率の使用領域を学習するものである。
【0013】
従って、例えば無用なアクセルの煽りやブレーキの踏込みを繰り返す運転者であれば、電動機が頻繁にモータ作動と発電機作動を繰り返してバッテリの充放電も頻繁に行われるため、バッテリへの負担が大となり、逆に不必要なアクセル操作やブレーキ操作を極力控える運転者であれば、電動機のモータ作動と発電機作動との頻度が低下してバッテリの充放電も頻繁でなくなることから、バッテリへの負担は小となる。
また、道路状況、例えば交通状況や路面の起伏状況に応じてアクセル操作やブレーキ操作は自ずと行われ、加減速が多い市街地の走行、或いは路面の起伏が激しい山坂道の走行では、電動機の作動頻度が増加してバッテリが頻繁に充放電されることから、バッテリへの負担が大となり、逆に加減速が少ない高速道路の走行、或いは路面の起伏が緩やかな平地の走行では、電動機の作動頻度が減少してバッテリの充放電も頻繁でなくなることから、バッテリへの負担は小となる。
【0014】
このようなアクセル及びブレーキの頻度に基づき使用領域を学習することから、バッテリを消耗させない範囲内で可能な限りバッテリの充電率の使用領域を拡大可能となる。
請求項3の発明は、請求項1または2において、学習手段が、アクセル及びブレーキの頻度が高いほど、バッテリの充電率の使用領域を縮小方向に学習し、アクセル及びブレーキの頻度が低いほど、使用領域を拡大方向に学習するものである。
従って、アクセル及びブレーキの頻度が高いほどバッテリへの負担は大となるが、それに応じてバッテリの充電率の使用領域が縮小方向に学習されるため、バッテリの消耗が抑制され、一方、アクセル及びブレーキの頻度が低いほどバッテリへの負担は小となるが、それに応じて充電率の使用領域が拡大方向に学習されるため、バッテリの充放電能力が有効に利用される。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1乃至3において、学習手段により学習された使用領域をキャンセルするキャンセル手段を備え、トルク配分設定手段が、キャンセル手段により使用領域がキャンセルされたときには、学習手段より学習された使用領域を所定期間に亘って無効化し、学習された使用領域に代えて予めデフォルト値として設定された使用領域に基づき、エンジン側と電動機側とのトルク配分を設定するものである。
従って、キャンセル手段が操作されると、学習された使用領域が所定期間に亘って無効化されてデフォルト値の使用領域がトルク配分に適用される。これにより、不適切な使用領域の適用によりトルク配分が不適切に設定される事態が未然に防止される。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1乃至4において、バッテリの充電率の使用領域を運転者が任意に設定可能な使用領域設定手段を備え、トルク配分設定手段が、使用領域設定手段により使用領域が設定されたときには、学習手段より学習された使用領域を所定期間に亘って無効化し、学習された使用領域に代えて使用領域設定手段により設定された使用領域に基づき、エンジン側と電動機側とのトルク配分を設定するものである。
従って、使用領域設定手段によりバッテリの充電率の使用領域が設定されると、学習された使用領域が所定期間に亘って無効化されて設定された使用領域がトルク配分に適用される。これにより、不適切な使用領域の適用によりトルク配分が不適切に設定される事態が未然に防止される。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1乃至5において、使用領域の学習期間を運転者が任意に設定可能な学習期間設定手段を備え、学習手段が、車両のイグニションスイッチのオンからオフまでの期間、または予め設定された所定期間を学習期間として使用領域の学習を実行する一方、学習期間設定手段により学習期間が設定されたときには、設定された学習期間において使用領域の学習を実行するものである。
従って、学習期間設定手段により学習期間が設定されると、イグニションスイッチのオン・オフ期間や所定期間などの通常の学習期間とは別に、設定された学習期間において使用領域の学習が実行され、学習された使用領域がトルク配分に適用される。これにより、不適切な使用領域の適用によりトルク配分が不適切に設定される事態が未然に防止される。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように請求項1の発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、現在の運転者が有する固有の癖を表すだけでなく、現在車両が走行中の道路状況、ひいては充放電に伴うバッテリへの負担の大きさを示す運転者の運転操作状態に基づき、バッテリの消耗を抑制した上で許容可能な充電率の使用領域を学習し、学習した使用領域に基づきエンジン側と電動機側とのトルク配分を設定するようにしたため、バッテリの消耗を未然に抑制できると共に、バッテリの充放電能力を余すことなく有効に利用して電動機の作動によりエンジン側の負担を軽減でき、もって、燃費や排ガス特性面でのハイブリッド電気自動車の特徴を十分に活かすことができる。
【0019】
請求項2の発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、請求項1に加えて、バッテリへの負担を明確に表すアクセル及びブレーキの頻度に基づきバッテリの充電率の使用領域を学習することから、バッテリを消耗させない範囲内で可能な限りバッテリの充電率の使用領域を拡大でき、もって、より適切なトルク配分を設定することができる。
請求項3の発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、請求項1または2に加えて、アクセル及びブレーキの頻度が高くてバッテリへの負担が大であるほど、バッテリの充電率の使用領域を縮小方向に学習してバッテリの消耗を抑制し、一方、アクセル及びブレーキの頻度が低くてバッテリへの負担が小であるほど、充電率の使用領域を拡大方向に学習してバッテリの充放電能力を有効に利用するため、バッテリの充電率の使用領域を一層適切に設定でき、もって、より適切なトルク配分を設定することができる。
【0020】
請求項4の発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、請求項1乃至3に加えて、学習されたバッテリの充電率の使用領域が不適切なときには、キャンセル手段の操作を条件として、学習された使用領域に代えてデフォルト値の使用領域をトルク配分に適用するようにしたため、不適切な使用領域の適用によりトルク配分が不適切に設定される事態を未然に防止することができる。
【0021】
請求項5の発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、請求項1乃至4に加えて、学習されたバッテリの充電率の使用領域が不適切なときには、使用領域設定手段による使用領域の設定を条件として、学習された使用領域に代えて設定された使用領域をトルク配分に適用するようにしたため、不適切な使用領域の適用によりトルク配分が不適切に設定される事態を未然に防止することができる。
請求項6の発明のハイブリッド電気自動車の制御装置によれば、請求項1乃至5に加えて、学習されたバッテリの充電率の使用領域が不適切なときには、学習期間設定手段による学習期間の設定を条件として、通常の学習期間とは別に使用領域を学習してトルク配分に適用するようにしたため、不適切な使用領域の適用によりトルク配分が不適切に設定される事態を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態であるハイブリッド型電気自動車の制御装置を示す全体構成図である。
【図2】第1から第4実施形態のトルク配分を決定するための車両ECUの制御ブロック図である。
【図3】第5実施形態のトルク配分を決定するための車両ECUの制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[第1実施形態]
以下、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の制御装置の第1実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態であるハイブリッド型電気自動車の制御装置を示す全体構成図である。
ハイブリッド型電気自動車1はパラレル式ハイブリッド型電気自動車であり、ディーゼルエンジン(以下エンジンという)2の出力軸にはクラッチ4の入力軸が連結されており、クラッチ4の出力軸には例えば永久磁石式同期電動機のように発電も可能な電動機6の回転軸を介して変速機8の入力軸が連結されている。また、変速機8の出力軸はプロペラシャフト10、差動装置12及び駆動軸14を介して左右の駆動輪16に接続されている。
【0024】
従って、クラッチ4が接続されているときには、エンジン2の出力軸と電動機6の回転軸の両方が変速機8を介して駆動輪16と機械的に接続され、クラッチ4が切断されているときには電動機6の回転軸のみが変速機8を介して駆動輪16と機械的に接続される。
電動機6は、バッテリ18に蓄えられた直流電力がインバータ20によって交流電力に変換されて供給されることによりモータとして作動し、その駆動力が変速機8によって適切な速度に変速された後に駆動輪16に伝達されるよう構成されている。また、車両減速時には電動機6が発電機(ジェネレータ)として作動し、駆動輪16から逆に伝達される駆動力により電動機6が交流電力を発電すると共に、このとき電動機6が発生する回生トルクにより駆動輪16に減速抵抗が付与される。そして、この交流電力はインバータ20によって直流電力に変換された後、バッテリ18に充電され、駆動輪16の回転による運動エネルギが電気エネルギとして回収される。
【0025】
一方、エンジン2の駆動力は、クラッチ4が接続されているときに電動機6の回転軸を経由して変速機8に伝達され、適切な速度に変速された後に駆動輪16に伝達される。従って、エンジン2の駆動力が駆動輪16に伝達されているときに電動機6がモータとして作動する場合には、エンジン2の駆動力と電動機6の駆動力とがそれぞれ変速機8を介して駆動輪16に伝達されることになる。即ち、車両の駆動のために駆動輪16に伝達されるべき駆動力の一部がエンジン2から供給されると共に、不足分が電動機6から供給されアシストされる。
また、バッテリ18の充電率(以下、SOCという)が低下してバッテリ18を充電する必要があるときには、車両の走行中であっても、電動機6が発電機として作動すると共に、エンジン2の駆動力の一部を用いて電動機6を作動することにより発電が行われ、発電された交流電力をインバータ20によって直流電力に変換した後にバッテリ18に充電するようにしている。
【0026】
車両ECU22は、車両やエンジン2の運転状態、及びエンジンECU24、インバータECU26並びにバッテリECU28からの情報などに応じて、クラッチ4の接続・切断制御及び変速機8の変速段切換制御を行うと共に、これらの制御状態や車両の発進、加速、減速など様々な運転状態に合わせてエンジン2や電動機6を適切に運転するための統合制御を行う。
【0027】
そして、車両ECU22は、このような制御を行うために、アクセルペダル30の開度を検出するアクセル開度センサ32、車両の走行速度を検出する車速センサ34、電動機6を検出する回転速度センサ36、エンジン2の回転速度を検出する回転速度センサ37、ブレーキペダル39(以下、補助ブレーキに対してサービスブレーキという)の操作を検出するサービスブレーキスイッチ40、補助ブレーキ41の作動を検出する補助ブレーキスイッチ42などの検出情報を入力する。これらの検出情報に基づき、車両ECU22は、運転者の要求トルクをエンジン2側と電動機6とに配分して、それぞれの駆動力を設定している。
【0028】
なお、補助ブレーキ41としては、エンジン2の排気通路を強制閉鎖してブレーキ作用を得る排気ブレーキ、或いはエンジン2の各気筒の圧縮上死点直前で排気弁の強制開弁により圧縮空気を排出してブレーキ作用を得るパワータードなどがある。図1では単一の補助ブレーキ41として示しているが、実際にはそれぞれの補助ブレーキ41毎に補助ブレーキスイッチ42が設けられている。
【0029】
エンジンECU24は、エンジン2自体の運転に必要な各種制御を行うと共に、車両ECU22によって設定されたエンジン2に必要とされる駆動力をエンジン2が発生するよう、エンジン2の燃料の噴射量や噴射時期などを制御する。
インバータECU26は、車両ECU22によって設定された電動機6が発生すべき駆動力に基づきインバータ20を制御することにより、電動機6をモータ作動または発電機作動させて運転制御する。本実施形態では、このようにエンジン2を運転制御するときのエンジンECU24、及び電動機6を運転制御するときのインバータECU26が本発明の制御手段として機能する。
バッテリECU28は、バッテリ18の温度、バッテリ18の電圧、インバータ20とバッテリ18との間に流れる電流などを検出すると共に、これらの検出結果からバッテリ18のSOCを求め、求めたSOCを検出結果と共に車両ECU22に送っている。
【0030】
ところで、バッテリ18のSOCは、電動機6のモータ作動による放電に伴って増加し、電動機6の発電機作動による充電に伴って減少し、このSOCを所定の使用可能な領域(以下、SOCレンジという)内に保持しながら、車両ECU22は運転者の要求トルクをエンジン2側と電動機6側とに駆動力として配分している。
そして、バッテリ18のSOCレンジを拡大するほど電動機6がモータ作動や発電機作動する機会が増加し、それに応じてエンジン2側の負担が軽減することから、燃費や排ガス特性面でのハイブリッド電気自動車の特徴を有効に活かす意味で望ましい。その反面、SOCレンジが拡大するほどSOCの変動幅が増大することから、バッテリ18の消耗が激しくなって寿命が短縮してしまう。そこで、先行技術として述べた特許文献1の技術などでは、バッテリ18の負担が最も増大する最悪の運転条件、例えばアクセルやブレーキの頻度が高くてバッテリ18が頻繁に充放電を繰り返す運転条件を設定し、この運転条件で、例えば車体寿命に相当する距離だけ走行してもバッテリ18が消耗限界に到達しない値としてSOCレンジを設定している。
【0031】
ところが、[発明が解決しようとする課題]でも述べたように、このように設定されたSOCレンジでは、一般的な運転条件においてバッテリ18は充放電能力に過剰な余裕を残した状態で使用されることになり、結果としてハイブリッド電気自動車の燃費や排ガス特性面での利点が有効に生かされないという問題が生じる。
ここで、本発明者は、アクセル及びブレーキの頻度がバッテリ18の負担に影響を及ぼすことに着目し、この要件に応じてSOCレンジを可変することにより、バッテリ18の消耗を抑制した上でその充放電能力を余すことなく有効に利用できることを見出した。以下、当該対策のために車両ECU22が実行するエンジン2側と電動機6とのトルク配分処理について、図2に示す制御ブロック図に基づき説明する。
【0032】
まず、一般的なハイブリッド電気自動車と共通する構成を説明する。
バッテリECU28により算出されたバッテリ18のSOCは車両ECU22のSOCモード選択部43に入力され、SOCモード選択部43では、現在のSOCに基づき予め設定されたモード選択マップに従ってSOCモードを選択する。図中に示すようにSOCモードとしては、上記バッテリ18のSOCレンジ内を3つに区分した低SOCモード、中SOCモード及び高SOCモードが設定されており、モード選択マップの下限(低SOCモードのSOC領域の下限)がSOCレンジの最小SOCと対応し、モード選択マップの上限(高SOCモードのSOC領域の上限)がSOCレンジの最大SOCと対応している。
【0033】
中SOCモードは主体となるSOCモードであり、エンジン2の燃費が最良となるようにエンジン2側と電動機6側とにトルク配分するモードである。これに対して低SOCモードはバッテリ18のSOCを増加方向に制御するモードであり、電動機6を発電機作動させて車両減速時の電力回生をバッテリ18に積極的に充電すると共に、バッテリ18の放電を抑制するためにエンジン2を主体としたトルク配分を行うものである。また、高SOCモードはバッテリ18のSOCを低下方向に制御するモードであり、電動機6をモータ作動させてエンジン2の負担を軽減すると共に、電動機6を主体としたトルク配分を行うものである。即ち、低SOCモードや高SOCモードは、中SOCモードのSOC領域内から増加側或いは低下側に逸脱したバッテリ18のSOCを元に復帰させる作用を奏し、これにより、バッテリ18のSOCを上記SOCレンジ内に保持しながら中SOCモードが主体となって実行される。
【0034】
後述するようにモード選択マップの上下限値はバッテリ18のSOCレンジの学習処理の結果に応じて変更され、変更後のモード選択マップに基づきSOCからSOCモードが選択される。SOCレンジのデフォルト値として、上記した特許文献1の技術のようにバッテリ18への負担が最も増大する最悪の運転条件を前提として設定されるSOCレンジ、例えば40〜60%のSOCレンジが設定されており、学習結果が存在しない工場出荷後に最初に車両が走行するときには、このデフォルト値のSOCレンジに基づきモード選択マップの上下限値が設定される。
また、回転速度センサ37により検出されたエンジン2の回転速度、及びアクセル開度センサ32により検出されたアクセル開度は要求トルク算出部44に入力される。要求トルク算出部44では、予め設定された要求トルクマップに基づきエンジン2の回転速度及びアクセル開度から運転者の要求トルクが算出される。
【0035】
SOCモード選択部43からのSOCモード、要求トルク算出部44からの要求トルク、及び回転速度センサ36により検出された電動機6の回転速度はトルク配分設定部45に入力される。トルク配分設定部45では、入力されたSOCモードに基づき予め設定された複数のトルク配分マップの中からトルク配分マップが選択される。上記したように中SOCモードでは燃費最良のトルク配分がなされる特性のトルク配分マップが選択され、低SOCマップではエンジン2主体のトルク配分がなされる特性のトルク配分マップが選択され、高SOCマップでは電動機6主体のトルク配分がなされる特性のトルク配分マップが選択される。
【0036】
そして、選択されたトルク配分マップに基づき、要求トルク及び電動機6の回転速度からエンジン2側と電動機6側とのトルク配分が決定され、このトルク配分に基づきエンジン2が発生すべき駆動力がエンジンECU24に出力されると共に、電動機6が発生すべき駆動力がインバータECU26に出力され、エンジン2及び電動機6の運転制御により決定したトルク配分が達成される。
本実施形態では、このようにモード選択マップに従ってSOCモードを選択するときのSOCモード選択部43、要求トルクマップに基づき要求トルクを算出するときの要求トルク算出部44、及びトルク配分マップに基づき要求トルクからトルク配分を決定するときのトルク配分設定部45が、本発明のトルク配分設定手段として機能する。
以上が一般的なハイブリッド電気自動車と共通する部分であり、次に本願発明の特徴部分に対応する構成を説明する。当該特徴部分の構成を端的に表現すると、現在の運転者の運転状態に基づきバッテリ18の消耗を促進させることなく許容可能な最大のSOCレンジを学習し、このSOCレンジをエンジン2側と電動機6側とのトルク配分に反映させる処理である。
【0037】
アクセル開度センサ32により検出されたアクセル開度、アイドルスイッチ38のオン・オフ状態、サービスブレーキスイッチ40により検出されたブレーキペダル39の操作状態、及び補助ブレーキスイッチ42により検出された補助ブレーキ41の作動状態は、アクセル・ブレーキ頻度算出部46に入力される。アクセル・ブレーキ頻度算出部46では、これらの検出情報に基づき、所定の学習期間におけるアクセル操作回数、アクセルオフによるコースティング(惰性)運転の回数、サービスブレーキ39の操作回数、補助ブレーキ41の操作回数に基づき、アクセル及びブレーキの頻度が算出される。
なお、アクセル及びブレーキの頻度を算出するための検出情報は上記に限ることはなく、何れかの要件を削除したり別の要件を追加したりしてもよい。本実施形態では学習期間として、運転者が走行開始のためにイグニションスイッチをオンしてから走行終了に伴いオフするまでの1ドライブサイクルが設定され、以下に述べるように、この1ドライブサイクルに学習されたSOCレンジが次のドライブサイクルでのトルク配分に反映される。
【0038】
アクセル・ブレーキ頻度算出部46で算出されたアクセル及びブレーキの頻度は、現在の運転者が有する固有の癖を表すだけでなく現在車両が走行中の道路状況も表し、ひいては充放電に伴うバッテリ18への負担の大きさを示す指標と見なせる。例えば、無用なアクセルの煽りやブレーキの踏込みを繰り返す運転者であれば、電動機6が頻繁にモータ作動と発電機作動を繰り返してバッテリ18の充放電も頻繁に行われることから、バッテリ18への負担が大となる。逆に不必要なアクセル操作やブレーキ操作を極力控える運転者であれば、電動機6のモータ作動と発電機作動との頻度が低下してバッテリ18の充放電も頻繁でなくなることから、バッテリ18への負担は小となる。
【0039】
また、道路状況、例えば交通状況や路面の起伏状況に応じてアクセル操作やブレーキ操作は自ずと行われ、加減速が多い市街地の走行、或いは路面の起伏が激しい山坂道の走行では、電動機6の作動頻度が増加してバッテリ18が頻繁に充放電されることから、バッテリ18への負担が大となり、逆に加減速が少ない高速道路の走行、或いは路面の起伏が緩やかな平地の走行では、電動機6の作動頻度が減少してバッテリ18の充放電も頻繁でなくなることから、バッテリ18への負担は小となる。
一方、1ドライブサイクルの学習期間が経過した時点で、アクセル・ブレーキ頻度算出部46で算出されたアクセル及びブレーキの頻度はSOCレンジ学習部47に入力される。SOCレンジ学習部47では、予め設定されたレンジ決定マップに基づきアクセル及びブレーキの頻度からSOCレンジが算出される。図中に破線で示すSOCレンジの下限値(最小のSOCレンジ)は、上記した最悪の運転条件を前提として設定されたデフォルト値のSOCレンジ(40〜60%)として設定され、SOCレンジの上限値(最大のSOCレンジ)はそれよりも遥かに広く、例えば10〜90%に設定されている。
【0040】
そして、アクセル及びブレーキの頻度が低いときには上限値である広いSOCレンジが設定され、アクセル及びブレーキの頻度の増加に従ってSOCレンジは次第に縮小して、最終的に下限値として設定された狭いSOCレンジに漸近する。このようにしてアクセル及びブレーキの頻度に応じて設定されたSOCレンジは、イグニションスイッチのオフにより1ドライブサイクルが終了した時点で学習結果として一旦メモリに保存される。
本実施形態では、このようにアクセル及びブレーキの頻度を算出するアクセル・ブレーキ頻度算出部46、及び算出されたアクセル及びブレーキの頻度に基づきSOCレンジを学習するSOCレンジ学習部47が、本発明の学習手段として機能する。
【0041】
そして、イグニションスイッチのオンにより次のドライブサイクルが開始されると、前回の学習結果として保存されたSOCレンジがメモリから読み出されて上記SOCモード選択部43に入力される。SOCモード選択部43では、入力されたSOCレンジに対応してモード選択マップの上下限値が設定し直される。結果として、次のドライブサイクルでは、前回学習されたSOCレンジに対応するモード選択マップに基づきSOCモードが選択され、そのSOCモードに基づき上記トルク配分設定部45でトルク配分マップが選択されてトルク配分の決定に用いられる。
これと並行して、アクセル・ブレーキ頻度算出部46では次回のドライブサイクルのために再びアクセル及びブレーキの頻度が算出され、算出結果に基づきSOCレンジ学習部47でSOCレンジが学習値として算出される。
【0042】
なお、以上のSOCレンジの学習に関する一連の処理をイグニションスイッチのオフ時にどの段階まで行うかは、上記説明に限ることはない。例えばアクセル及びブレーキの頻度の算出までに留めて、続くSOCレンジの学習処理は次のドライブサイクルの開始と同時に実行してもよい。
以上のようにSOCレンジ学習部47では、アクセル及びブレーキの頻度が著しく高いときにはデフォルト値の狭いSOCレンジが設定されるが、それ以外のときにはより広いSOCレンジが設定されることから、必然的にSOCモード選択部43でモード選択マップの上下限値が拡大方向に設定し直される。これは、モード選択マップ内の中SOCモードのSOC領域が拡大されることを意味し、デフォルト値のSOCレンジに比較して、より広いSOC範囲で中SOCモードに基づき燃費最良のトルク配分を設定可能となり、結果としてバッテリ18の充放電能力を余すことなく有効に利用することができる。
【0043】
例えば登坂路などに際して運転者の要求トルクが増加したとき、現在のバッテリ18のSOCが42%であるとすると、40〜60%のデフォルト値では2%の余地しか残されていないため、ごく僅かな期間しか電動機6をモータ作動できず、それ以降はエンジン2の駆動に頼ることから、エンジン2側の負担を軽減できずに燃費や排ガス特性面での向上はほとんど望めない。これに対してSOCレンジが10〜90%まで拡大されると、SOC換算で32%の余裕を有するため、電動機6を必要な期間に亘ってモータ作動でき、結果としてエンジン2側の負担を軽減して燃費や排ガス特性面でのハイブリッド電気自動車の特徴を活かすことができる。
【0044】
降坂路などに際して運転者の要求トルクが低下したときでも同様であり、バッテリ18のSOCが58%であるとすると、40〜60%のデフォルト値では2%の余地しか残されていないため、ごく僅かな期間しか電動機6を発電機作動できず、降坂路での回生エネルギをエンジンブレーキなどにより無駄に消費してしまう。これに対してSOCレンジが10〜90%まで拡大されると、SOC換算で32%の余裕を有するため、電動機6を必要な期間に亘って発電機作動させることができ、結果としてバッテリ18に充電した回生電力を次回の電動機6の作動に利用することにより、エンジン2側の負担を軽減して燃費や排ガス特性面での向上を達成することができる。
一方、このようにデフォルト値に対してSOCレンジは拡大されるものの、その拡大は、運転者の癖や車両が道路状況と相関するアクセル及びブレーキの頻度、ひいては充放電に伴うバッテリ18の負担への大きさ応じて実行される。
【0045】
即ち、無用なアクセル及びブレーキ操作を繰り返す運転者、或いは加減速が多い市街地や起伏が激しい山坂道の走行時には、バッテリ18の充放電が頻繁に繰り返されてバッテリ18の負担は大となる。しかし、このような場合にはアクセル及びブレーキの頻度が高いことを受けて、デフォルト値若しくはそれに近い狭いSOCレンジが学習され、次回のドライブサイクルでは狭いSOCレンジ幅に基づきバッテリ18のSOCの変動幅が縮小されるため、バッテリ18の消耗を未然に抑制することができる。
【0046】
逆に、不必要なアクセル操作やブレーキ操作を極力控える運転者、或いは加減速が少ない高速道路や路面の起伏が緩やかな平地の走行時には、バッテリ18の充放電はそれほど繰り返されずバッテリ18の負担は小となる。この傾向は、バッテリ18を消耗させることなくSOCの変動幅を拡大可能な余地が存在することを意味する。このときにはアクセル及びブレーキの頻度が低いことを受けて、最大値に近い広いSOCレンジが学習され、次回のドライブサイクルでは広いSOCレンジ幅に基づきバッテリ18のSOCの変動幅が拡大されるため、上記のように必要に応じて電動機6を作動させてエンジン2側の負担を軽減できるという利点が得られ、一方ではバッテリ18の消耗を未然に抑制することができる。
【0047】
このように本実施形態では、バッテリ18を消耗させない範囲内で可能な限りバッテリ18のSOCの変動幅を拡大するように、アクセル及びブレーキの頻度の学習結果に基づきバッテリ18のSOCレンジを可変しているため、バッテリ18の消耗を未然に抑制した上で、バッテリ18の充放電能力を余すことなく有効に利用して電動機6の作動によりエンジン2側の負担を軽減でき、もって、燃費や排ガス特性面でのハイブリッド電気自動車の特徴を十分に活かすことができる。
【0048】
[第2実施形態]
次に、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の制御装置の第2実施形態を説明する。
本実施形態のハイブリッド電気自動車の制御装置は第1実施形態で説明したものに加えて、SOCレンジの学習結果をキャンセルする機能を付加しており、それ以外の構成は第1実施形態のものと同様である。従って、共通する構成の箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に説明する。
【0049】
図1,2に示すように、本実施形態では、上記キャンセル機能のために車両の運転席にキャンセルスイッチ51が備えられており、このキャンセルスイッチ51を運転者が任意に操作できるようになっている。
以下、当該キャンセルスイッチ51に関する機能を説明する。
図2に示すように、キャンセルスイッチ51の操作信号は上記SOCモード選択部43に入力される。上記のように今回のドライブサイクルでは前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジに基づきSOCモード選択部43でSOCモードが選択されているが、キャンセルスイッチ51の操作信号が入力されると、その時点で学習されたSOCレンジが無効化され、これに代えて、第1実施形態で述べたバッテリ18の負担が最も増大する最悪の運転条件を前提としたデフォルト値のSOCレンジがSOCモードの選択に適用されるようになっている。なお、デフォルト値としては最悪の運転条件のSOCレンジに限ることはなく、別の値を適用するようにしてもよい。
【0050】
運転者は前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジが今回のドライブサイクルで適用されると、不適切なSOCモードが選択される虞があると判断した場合に、キャンセルスイッチ51を操作する。
例えば、運転者本人が前回のドライブサイクルの運転者とは別人であり、不必要なアクセル及びブレーキ操作を行う傾向がある場合には、前回のドライブサイクルで学習された広めのSOCレンジでは、SOCの変動幅が過大となってバッテリ18の消耗が促進されてしまう。また、前回のドライブサイクルが加減速の少ない高速道路や路面の起伏が緩やかな平地の走行であったのに対し、今回のドライブサイクルでは加減速が多い市街地や路面の起伏が激しい山坂道の走行であった場合でも、前回のドライブサイクルで学習された広めのSOCレンジでは、SOCの変動幅が過大となってバッテリ18の消耗が促進されてしまう。
【0051】
これらの事態を予測したとき運転者によりキャンセルスイッチ51が操作される。なお、この場合にはドライブサイクルの開始当初よりキャンセルスイッチ51が操作されるが、例えばドライブサイクル中に運転者を交代した場合(イグニションスイッチオンのまま)や走行中に道路状況が急変した場合には、ドライブサイクル中に運転者はキャンセルスイッチ51を操作する。
何れにしても、このような場合には運転者の癖や道路状況と対応しない広いSOCレンジの適用により、SOCの変動幅が過大となってバッテリ18の消耗が促進されてしまうが、この不適切なSOCレンジに代えて最悪の運転条件を前提としたデフォルト値のSOCレンジが適用されるため、バッテリ18の無用な消耗を未然に抑制することができる。
【0052】
[第3実施形態]
次に、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の制御装置の第3実施形態を説明する。
本実施形態のハイブリッド電気自動車の制御装置は第1実施形態で説明したものに加えて、SOCレンジを任意に拡大する機能を付加しており、それ以外の構成は第1実施形態のものと同様である。従って、共通する構成の箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に説明する。
図1,2に示すように、本実施形態では、上記SOCレンジの拡大機能のために車両の運転席にレンジ拡大スイッチが61備えられており、このレンジ拡大スイッチ61を運転者が任意に操作できるようになっている。
【0053】
以下、当該レンジ拡大スイッチ61に関する機能を説明する。
図2に示すように、レンジ拡大スイッチ61の操作信号は上記SOCモード選択部43に入力される。上記のように今回のドライブサイクルでは前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジに基づきSOCモード選択部43でSOCモードが選択されているが、レンジ拡大スイッチ61の操作信号が入力されると、その時点で学習されたSOCレンジが無効化され、これに代えて予め設定された最大値に近い広いSOCレンジがSOCモードの選択に適用されるようになっている。
運転者は運転席に設けられた図示しないディスプレイの表示により、車両走行中に電動機6のモータ作動や発電機作動の頻度を把握している。例えば、不必要なアクセル操作やブレーキ操作を極力控えた運転を行っているとき、或いは加減速の少ない高速道路や路面の起伏が緩やかな平地を走行しているときであるにも拘わらず、電動機6の作動頻度が少ないときには、運転者は前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジが過度に狭いと判断してレンジ拡大スイッチ61を操作する。
【0054】
即ち、このような場合には、バッテリ28を消耗させることなくSOCの変動幅を拡大する余地があるにも拘わらず、その充放電能力が有効利用されていないことを意味する。レンジ拡大スイッチ61の操作に基づくSOCレンジの拡大により、バッテリ18のSOCの変動幅が拡大されるため、結果として電動機6は適切に作動されてエンジン2側の負担を軽減でき、もってハイブリッド電気自動車の特徴を十分に活かした走行を実現すことができる。
【0055】
なお、レンジ拡大スイッチ61の操作によりSOCレンジをどの程度拡大するかは上記説明に限ることはない。例えば最大値のSOCとしてもよいし、最大値と最小値との中間のSOCレンジとしてもよい。また、このように予め設定した固定値のSOCレンジを適用することなく、例えば学習されたSOCレンジをベースとして所定値を加算した値を適用してもよい。また、具体的なSOCレンジを運転者が入力するようにしてもよい。
さらに、本実施形態では、SOCレンジを拡大するレンジ拡大スイッチ61としたが、逆にSOCレンジを縮小するレンジ縮小スイッチとしてもよい。この場合、運転者はディスプレイの表示により現在のアクセル操作やブレーキ操作或いは道路状況に対して、電動機6の作動頻度が多いときには、前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジが過度に広いと判断してレンジ縮小スイッチを操作する。これによりバッテリ18の消耗を抑制することができる。
【0056】
[第4実施形態]
次に、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の制御装置の第4実施形態を説明する。
本実施形態のハイブリッド電気自動車の制御装置は第1実施形態で説明したものに加えて、イグニションスイッチ操作に基づく1ドライブサイクルに代えてSOCレンジの学習を任意に開始する機能を付加しており、それ以外の構成は第1実施形態のものと同様である。従って、共通する構成の箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、相違点を重点的に説明する。
図1,2に示すように、本実施形態では、上記SOCレンジの学習の開始機能のために車両の運転席に学習開始スイッチ71が備えられており、この学習開始スイッチ71を運転者が任意に操作できるようになっている。
【0057】
以下、当該学習開始スイッチ71に関する機能を説明する。
本実施形態のSOCレンジの学習開始機能は、第2実施形態で説明したキャンセル機能と同様の状況、即ち、前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジが今回のドライブサイクルで不適切な場合を想定したものであるが、その対処方法が相違している。第2実施形態では学習結果をキャンセルしてデフォルト値のSOCレンジを適用したが、本実施形態では新たにSOCレンジの学習を開始していち早く今回のドライブサイクルに適用する発想のものである。
従って、運転者は前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジが今回のドライブサイクルでは不適切と判断した場合に学習開始スイッチ71を操作する。勿論、スイッチ操作のタイミングはドライブサイクルの開始当初でも途中でも可能である。
デフォルト値の狭いSOCレンジを適用する対策を講じる第2実施形態では、運転者の交代や道路状況の変化により前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジが広すぎるときだけに対応可能であったが、新たにSOCレンジを学習する本実施形態では、前回のドライブサイクルのSOCレンジが狭すぎる場合でも対応できる。
【0058】
具体的には、前回のドライブサイクルの運転者から不必要なアクセル操作やブレーキ操作を極力控える傾向がある運転者に交代した場合、或いは前回のドライブサイクルが加減速の多い市街地や路面の起伏が激しい山坂道の走行であったのに対し、今回のドライブサイクルでは加減速の少ない高速道路や路面の起伏が緩やかな平地の走行であった場合には、前回のドライブサイクルで学習された狭めのSOCレンジでは、バッテリ18の充放電能力に対してSOCの変動幅が過小となって有効利用できない。第2実施形態で想定した状況に加えて本実施形態ではこのような場合にも対応可能なため、運転者は学習開始スイッチ71を操作する。
【0059】
以上の処理のために、図2に示すように学習開始スイッチ71の操作信号は上記アクセル・ブレーキ頻度算出部46に入力される。上記のように今回のドライブサイクルでは前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジに基づきSOCモード選択部43でSOCモードが選択され、一方、アクセル・ブレーキ頻度算出部46では次回のドライブサイクルのためにアクセル及びブレーキの頻度が算出され、その学習結果に基づきSOCレンジ学習部47でSOCレンジが学習されている。
学習開始スイッチ47が操作されると、アクセル・ブレーキ頻度算出部46では、次回のドライブサイクルのためのアクセル及びブレーキの頻度の算出と並行して、今回のドライブサイクルに用いるアクセル及びブレーキの頻度を算出する。この場合、学習結果を今回のドライブサイクルにいち早く反映することが望ましいため、学習期間としては一般的な1ドライブサイクルに比較してかなり短い所定時間、例えば10分が設定されており、この学習期間が経過した時点でSOCレンジ学習部47でアクセル及びブレーキの頻度からSOCレンジが学習値として設定される。そして、学習したSOCレンジが直ちにSOCモード選択部43に入力されてSOCモードの選択に適用される。
【0060】
以上のように、前回のドライブサイクルで学習されたSOCレンジが不適切と判断した場合には、学習開始スイッチ71の操作により直ちにSOCレンジが学習されてSOCモードの選択に反映される。運転者の交代や道路状況の変化により、運転者の癖や道路状況に対してSOCレンジが広いときにはSOCの変動幅が過大となってバッテリ18の消耗が促進されてしまい、逆に運転者の癖や道路状況に対してSOCレンジが狭いときには、SOCの変動幅が過小となってバッテリ18の充放電能力を有効利用できないが、このような場合でもSOCレンジを学習することによりいち早く適切なSOCレンジに基づく制御に復帰でき、もってバッテリ18の消耗を抑制した上で、ハイブリッド電気自動車の特徴を十分に活かした走行を実現すことができる。
【0061】
なお、本実施形態では、SOCレンジの学習を開始する学習開始スイッチ71とし、SOCが不適切を判断したときに学習開始スイッチ71を操作することによりSOCレンジの学習を開始させるようにしたが、これに限ることはない。例えば学習期間を任意に設定できるような入力手段を設けて、その入力手段により設定された学習期間においてSOCレンジを学習するようにしてもよい。
【0062】
[第5実施形態]
次に、本発明を具体化したハイブリッド電気自動車の制御装置の第5実施形態を説明する。
本実施形態のハイブリッド電気自動車の制御装置は第1実施形態で説明したものに対して、SOCレンジに基づきエンジン2側と電動機6側とのトルク配分を決定するための構成を変更したものであり、それ以外の構成は第1実施形態のものと同様である。従って、共通する構成の箇所は同一部材番号を付して説明を省略し、図3の制御ブロック図に基づき相違点を重点的に説明する。
【0063】
本実施形態ではSOCモード選択部43が廃止され、SOCレンジ学習部47から学習値として出力されたSOCレンジはトルク配分設定部45に入力される。トルク配分設定部45では、第1実施形態で述べたトルク配分マップに基づくトルク配分の決定に代えて、計算式に従ってトルク配分を算出している。計算式としては次式(1)に示すものが用いられる。
Te/m=f(ES,MS,SOC,SOCR,FC,EE)……(1)
ここに、Te/m(Torque eng/mtr)はエンジン2側と電動機6側とのトルク配分、ES(engine speed)はエンジン2の回転速度、MS(motor speed)は電動機6の回転速度、SOCはバッテリ18のSOC、SOCR(SOC available range)はSOCレンジ、FC(fuel consumption)はエンジン2の燃料消費量、EE(exhaust emission)は排ガスの略である。
【0064】
即ち、エンジン2の回転速度、電動機6の回転速度、SOC、SOCレンジ、燃料消費量及び排ガスの関数として、エンジン2側と電動機6側とのトルク配分が算出される。本実施形態では、このように式(1)に従ってトルク配分を算出するときのトルク配分設定部45が、本発明のトルク配分設定手段として機能する。
そして、SOCレンジは、第1実施形態で説明したように前回のドライブサイクルでアクセル及びブレーキの頻度に基づきSOCレンジ学習部47で学習された値であり、このSOCレンジが今回のドライブサイクルでトルク配分の算出に適用される。
【0065】
このように本実施形態では、SOCレンジに基づきSOCモードを設定することなく直接的にトルク配分を算出しているが、第1実施形態で述べた低、中、高の各SOCモードの趣旨と対応するようにトルク配分が算出される。従って、重複する説明はしないが、第1実施形態で述べたものと同様の作用効果が得られる。
勿論、図3中に破線で示すように、第2実施形態で述べたキャンセルスイッチ51、第3実施形態で述べたレンジ拡大スイッチ61、第4実施形態で述べた学習開始スイッチ71を設けてもよく、この場合には各実施形態で述べた作用効果も得られる。
【0066】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記各実施形態では、SOCの学習期間として、イグニションスイッチのオンからオフまでの1ドライブサイクルを設定したが、これに限ることはなく、例えば車両の走行開始から所定時間が経過するまでの期間を学習期間としてもよい。また、所定時間の経過に代えて所定距離を走行した時点で学習期間が終了したものと見なしてもよい。
また、上記第2〜4実施形態では、キャンセルスイッチ51、レンジ拡大スイッチ61及び学習開始スイッチ71を個別に設けたが、これに限ることはなく、何れか2つのスイッチまたは全てのスイッチを設けてもよい。
【符号の説明】
【0067】
2 エンジン
6 電動機
16 駆動輪
18 バッテリ
22 車両ECU(トルク配分設定手段、学習手段)
24 エンジンECU(制御手段)
26 インバータECU(制御手段)
43 SOCモード選択部(トルク配分設定手段)
44 要求トルク算出部(トルク配分設定手段)
45 トルク配分設定部(トルク配分設定手段)
46 アクセル・ブレーキ頻度算出部(学習手段)
47 SOCレンジ学習部(学習手段)
51 キャンセルスイッチ(キャンセル手段)
61 レンジ拡大スイッチ(使用領域設定手段)
71 学習開始スイッチ(学習期間設定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動輪に駆動力を伝達可能なエンジンと、
バッテリの電力により上記駆動輪に駆動力を伝達可能な電動機と、
上記バッテリの充電率を所定の使用領域内に保持しながら、運転者の要求トルクに基づき上記エンジン側と上記電動機側とのトルク配分を設定するトルク配分設定手段と、
上記トルク配分設定手段により設定されたトルクに基づき、上記エンジン及び電動機をそれぞれ制御して車両を走行させる制御手段と、
所定の学習期間における運転者の運転操作状態に基づき、上記バッテリの消耗を抑制した上で許容可能な上記バッテリの充電率の使用領域を学習し、学習した使用領域を上記トルク配分設定手段によるトルク配分の設定に適用する学習手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項2】
上記学習手段は、上記運転者の運転操作状態として、該運転者により操作されるアクセル及びブレーキの頻度に基づき上記バッテリの充電率の使用領域を学習することを特徴とする請求項1記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項3】
上記学習手段は、上記アクセル及びブレーキの頻度が高いほど、上記バッテリの充電率の使用領域を縮小方向に学習し、上記アクセル及びブレーキの頻度が低いほど、上記使用領域を拡大方向に学習することを特徴とする請求項2記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項4】
上記学習手段により学習された使用領域をキャンセルするキャンセル手段を備え、
上記トルク配分設定手段は、上記キャンセル手段により上記使用領域がキャンセルされたときには、上記学習手段より学習された使用領域を所定期間に亘って無効化し、該学習された使用領域に代えて予めデフォルト値として設定された使用領域に基づき、上記エンジン側と上記電動機側とのトルク配分を設定することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項5】
上記バッテリの充電率の使用領域を上記運転者が任意に設定可能な使用領域設定手段を備え、
上記トルク配分設定手段は、上記使用領域設定手段により上記使用領域が設定されたときには、上記学習手段より学習された使用領域を所定期間に亘って無効化し、該学習された使用領域に代えて上記使用領域設定手段により設定された使用領域に基づき、上記エンジン側と上記電動機側とのトルク配分を設定することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。
【請求項6】
上記使用領域の学習期間を上記運転者が任意に設定可能な学習期間設定手段を備え、
上記学習手段は、上記車両のイグニションスイッチのオンからオフまでの期間、または予め設定された所定期間を上記学習期間として上記使用領域の学習を実行する一方、上記学習期間設定手段により上記学習期間が設定されたときには、該設定された学習期間において上記使用領域の学習を実行することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のハイブリッド電気自動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−131830(P2011−131830A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294780(P2009−294780)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】