説明

ハイブリッド駆動装置

【課題】低コスト化及びコンパクト化が図れ、且つ、車輌をパーキング状態とすることができると共に牽引も可能とする構造を実現する。
【解決手段】エンジンの出力軸と動力伝達装置の入力部材との間の動力を断接可能なクラッチと、クラッチの断接を制御する制御装置と、を有する。クラッチと車輪との間は、シフトセレクタのモード及びシステムスイッチのオン、オフに拘らず動力が切断されずに駆動連結される。制御装置は、システムスイッチがオン(SSWon)、かつ、ニュートラルモード(N)である場合には、クラッチを切断状態として、牽引を可能とする。一方、システムスイッチがオフ(SSWoff)、かつ、停車中である場合には、モードに拘らずクラッチを接続状態として、パーキング状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンと電気モータとで車輪を駆動し得るハイブリッド駆動装置に係り、詳しくは電気モータと、エンジンの出力を車輪に伝達する動力伝達装置とを一体に組込んだハイブリッド駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンと電気モータとで車輪を駆動するハイブリッド駆動装置にあって、1個の電気モータと無段変速装置とを組合せたものが知られている。一般に、該ハイブリッド駆動装置用の無段変速装置として、1対のプーリとこれらプーリに巻掛けられる金属製ベルト(又はチェーン)からなり、プーリの有効径を変更することにより無段に変速するベルト式無段変速装置が用いられている。
【0003】
一方、1対の円錐状の摩擦車とこれら摩擦車の間に介在する金属製のリングとからなり、リングを、前記両摩擦車との接触部を変更するように移動することにより無段に変速するコーンリング式の無段変速装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2006−501425号公報(JP2006−501425A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のハイブリッド駆動装置の場合、車輌をパーキング状態とするためのパーキング機構を設けていた。このために、例えば、無段変速装置の摩擦出力部にパーキングギヤを駆動連結し、このギヤとパーキングポールを係合させてパーキング状態としていた。ハイブリッド駆動装置は、低コスト化及びコンパクト化が望まれるが、このようなパーキング機構を設ける分、装置の大型化及びコスト増大が避けられない。一方、車輌の安全上、パーキング機構を省略するなどしてパーキング状態を実現できなくすることは好ましくない。また、エンジンなどの故障時に車輌を牽引できる状態とする必要もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、低コスト化及びコンパクト化が図れ、且つ、車輌をパーキング状態とすることができると共に牽引も可能とする構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エンジンの出力軸(5)に駆動連結される入力部材(10)と、車輪に駆動連結される出力部材(4)と、を有し、前記入力部材(10)の回転を遮断することなく連続して前記出力部材(4)に伝達する動力伝達装置と、
前記エンジンの出力軸(5)と前記入力部材(10)との間の動力を断接可能なクラッチ(6)と、
前記動力伝達装置に駆動連結される電気モータ(2)と、
前進モード(D)、後進モード(R)、ニュートラルモード(N)のうちの何れかのモードの選択、及び、システムスイッチ(24)のオン、オフに基づき、前記クラッチ(6)の断接を制御する制御手段(25)と、を備え、
前記クラッチ(6)の入力部材側クラッチ部材(6b)と前記車輪との間は、前記モード及び前記システムスイッチ(24)のオン、オフに拘らず動力が切断されずに駆動連結され、
前記制御手段(25)は、前記システムスイッチ(24)がオン、かつ、前記モードが前記ニュートラルモード(N)である場合には、前記クラッチ(6)を切断状態とし、前記システムスイッチ(24)がオフ、かつ、前記車輪の回転が停止した状態である場合には、前記モードに拘らず前記クラッチ(6)を接続状態とする、
ことを特徴とするハイブリッド駆動装置にある。
【0008】
前記動力伝達装置は、前記入力部材(10)に駆動連結される摩擦入力部(13)と、前記出力部材(4)に駆動連結される摩擦出力部(14)と、を有し、これら摩擦入力部(13)と摩擦出力部(14)との接触位置を変更することにより、前記摩擦入力部(13)の回転を無段に変速して前記摩擦出力部(14)に伝達する摩擦式無段変速装置(3)を有する。
【0009】
前記摩擦式無段変速装置(3)は、前記摩擦入力部(13)及び前記摩擦出力部(14)がその軸線を互いに平行かつ径大部と径小部が軸方向に逆になるように配置された円錐形状の摩擦車からなり、これら両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリング(15)を軸方向に移動して無段に変速するコーンリング式無段変速装置である。
【0010】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲記載の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る本発明によると、別途パーキング機構を設ける必要がないため、低コスト化及びコンパクト化を図れる。即ち、車輪の回転が停止した状態(即ち、車輌の停止状態)で、システムスイッチがオフであれば、モードに拘らずクラッチが接続される。クラッチと車輪との間は、モード及びスイッチのオン、オフに拘らず駆動連結されるため、これによりエンジンと車輪とが駆動連結され、パーキング状態が実現される。この結果、ハイブリッド駆動装置に別途パーキング機構を設ける必要がなく、低コスト化及びコンパクト化を図れる。一方、システムスイッチがオン、モードがニュートラルモードである場合に、クラッチが切断されるため、車輌の牽引が可能となる。
【0012】
請求項2に係る本発明によると、摩擦式無段変速装置を組み込んだハイブリッド駆動装置で、低コスト化及びコンパクト化を図れる。
【0013】
請求項3に係る本発明によると、摩擦車の軸方向に比較的大型化してしまうコーンリング式無段変速装置を適用した構造であっても、パーキング機構を別途設ける必要がない分、軸方向寸法を小さくし易く、コンパクト化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るハイブリッド駆動装置のスケルトン図。
【図2】本実施形態のクラッチの係合表。
【図3】本実施形態の制御に係るフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面に沿って、本発明を適用したハイブリッド駆動装置を説明する。ハイブリッド駆動装置1は、図1に示すように、電気モータ2と、コーンリング式無段変速装置(摩擦式無段変速装置)3と、ディファレンシャル装置4と、図示しないエンジンの出力軸5とコーンリング式無段変速装置3との間の動力を断接するクラッチ6と、ギヤ伝動装置7とを有する。
【0016】
電気モータ2は、モータ出力軸2aの両端部を、不図示のケースにベアリング8を介して回転自在に支持されている。また、モータ出力軸2aの一方側(図1の右側)には、歯車(ピニオン)からなるモータ出力ギヤ2bが形成されている。該モータ出力ギヤ2bは、アイドラギヤ(歯車)9を介して、入力部材である入力軸10に設けられた入力ギヤである中間ギヤ(歯車)11に噛合している。
【0017】
アイドラギヤ9の軸9aは、両端部をケースにベアリング12を介して回転自在に支持されている。また、アイドラギヤ9は、側面視(軸方向から見た状態)、電気モータ2と一部径方向にオーバラップした状態で配置されている。即ち、ピニオンからなるモータ出力ギヤ2bが小径からなり、入力軸10の中間ギヤ11が大径からなり、出力ギヤ(歯車)2bからアイドラギヤ9を介して中間ギヤ11に伝達されるギヤ比を大きくする(大きな減速比)ことが可能となる。
【0018】
コーンリング式無段変速装置3は、摩擦入力部である円錐形状の摩擦車13と、摩擦出力部である同じく円錐形状の摩擦車14と、金属製のリング15とからなる。両摩擦車13,14は、互いに平行にかつ径大部と径小部が軸方向に逆になるように配置されており、リング15が、これら両摩擦車13,14の対向する傾斜面に挟持されるようにかつ両摩擦車のいずれか一方例えば入力側摩擦車13を取囲むように配置されている。両摩擦車の少なくとも一方には大きなスラスト力が作用しており、リング15はこのスラスト力に基づく比較的大きな挟圧力により挟持されている。具体的には、出力側摩擦車14と出力軸16との間には軸方向で対向する面に波状のカム面を有する押圧機構17が形成されており、この押圧機構17により、出力側摩擦車14に、伝達トルクに応じた矢印D方向のスラスト力を発生させる。そして、該スラスト力に対向する方向に支持されている入力側摩擦車13との間でリング15に大きな挟圧力が生じる。
【0019】
入力側摩擦車13は、その径大部側(図1の左側)端部がローラベアリング18aを介してケースに支持されると共に、その径小部側(図1の右側)端部がテーパードローラベアリング19aを介してケースに支持されている。入力側摩擦車13にリング15を介して作用する出力側摩擦車14からの矢印D方向のスラスト力は、テーパードローラベアリング19aにより担持される。
【0020】
出力側摩擦車14は、その径小部側(図1の左側)端部がローラベアリング18bを介してケースに支持されると共に、その径大部側(図1の右側)端部がローラベアリング18cを介してケースに支持されている。出力側摩擦車14に上述した矢印D方向のスラスト力を付与した出力軸16は、出力側摩擦車14と反対側端がテーパードローラベアリング19bを介してケースに支持されている。出力軸16には、出力側摩擦車14に作用するスラスト力の反力が反矢印D方向に作用し、該スラスト反力がテーパードローラベアリング19bにより担持される。
【0021】
リング15は、モータにより回転駆動するボールスクリュ等の電動アクチュエータ20(A、軸方向移動手段)により軸方向に移動して、入力側摩擦車13及び出力側摩擦車14の接触位置を変更して、入力側摩擦車13と出力摩擦車14との間の回転比を無段に変速する。上述の伝達トルクに応じたスラスト力Dは、上記両テーパードローラベアリング19a,19bを介して一体的なケース内にて互いに打消され油圧等の外力としての平衡力を必要としない。
【0022】
出力部材であるディファレンシャル装置4はデフケース4aを有しており、該デフケース4aの内部には、軸方向に直交するシャフトが取付けられており、該シャフトにデフキャリヤとなるベベルギヤ4b,4bが係合されており、また左右の車輪にそれぞれ駆動連結されるアクスル軸4cl,4crが支持され、これらアクスル軸に上記デフキャリヤと噛合するベベルギヤ4d,4dが固定されている。更に、上記デフケース4aの外部には大径のデフリングギヤ(歯車)4eが取付けられている。デフリングギヤ4eは、ディファレンシャル装置4の中心軸(アクスル軸4cl,4crの回転軸)を中心として回転する。無段変速装置出力軸16には歯車(ピニオン)16aが形成されており、該歯車16aはデフリングギヤ4eが噛合している。したがって、出力側摩擦車14は、押圧機構17、出力軸16、出力歯車16a、ディファレンシャル装置4を介して車輪に駆動連結される。
【0023】
モータ出力ギヤ(ピニオン)2b、アイドラギヤ9及び中間ギヤ(歯車)11、並びに無段変速装置出力ギヤ(ピニオン)16a及びデフリングギヤ(歯車)4eが、ギヤ伝動装置7を構成している。モータ出力ギヤ2bとデフリングギヤ4eとが、軸方向でオーバラップするように配置されており、更に中間ギヤ11及び無段変速装置出力ギヤ16aが、モータ出力ギヤ2b及びデフリングギヤ4eと軸方向でオーバラップするように配置されている。なお、ギヤとは、歯車及びスプロケットを含む噛合回転伝達手段を意味するが、本実施形態においては、ギヤ伝動装置は、すべて歯車からなる歯車伝動装置を意味する。
【0024】
入力軸10は、中間部をケースにベアリング21により回転自在に支持され、その一端にて無段変速装置3の入力側摩擦車13にスプライン係合などにより駆動連結しており、かつその他端側は、クラッチ6を介してエンジンの出力軸5に連動している。したがって、入力側摩擦車13は、入力軸10及びクラッチ6を介して出力軸5に駆動連結される。
【0025】
電気モータ2のモータ出力軸2a、同軸状に配置されている入力軸10及び入力側摩擦車13、出力側摩擦車14及びその出力軸16、左右アクスル軸4cl,4cr(ディファレンシャル装置5の中心軸)、アイドラギヤ軸9aの各軸は、すべて平行に配置されてケースに支持されていると共に、ギヤ伝動装置7のギヤ(歯車)2b,9,11,16a,4eがそれぞれ配置されている。該ギヤ伝動装置7に対して、電気モータ2及び無段変速装置3が軸方向一方に配置され、他方にてエンジンが連結される。本実施形態の場合、無段変速装置3とギヤ伝動装置7とで動力伝達装置を構成している。この動力伝達装置は、上述のような構成により、入力軸10の回転を遮断することなく連続してディファレンシャル装置4に伝達する。
【0026】
クラッチ6は、エンジンの出力軸5に駆動連結されたエンジン側クラッチ部材6aと、入力軸10に駆動連結された変速機側クラッチ部材(入力部材側クラッチ部材)6bとを対向配置してなり、レバー6cを駆動することにより、両クラッチ部材6a,6bの摩擦部材の当接及び離隔を行い、動力の断接を可能としている。また、両クラッチ部材6a,6bは、不図示のばねにより当接する方向に付勢されている。レバー6cの駆動は、電動アクチュエータ22により行われる。電動アクチュエータ22は、モータと、モータの出力軸に形成されたウォームと、該ウォームと噛合するウォームホイールと、ウォームホイールの一部に連結されたロッドとを備える。ロッドは、レバー6cに連結される。レバー6cを駆動する場合には、モータを回転させてウォームとウォームホイールとの噛合によりウォームホイールを回転させる。そして、ウォームホイールに連結されたロッドを移動させ、ロードに連結されたレバー6cを駆動する。
【0027】
クラッチ6を接続状態とする場合には、電動アクチュエータ22によりレバー6cを駆動させ、ばねの付勢力により両クラッチ部材6a,6bの摩擦部材を当接させる。これにより、エンジンの出力軸5と入力軸10とが駆動連結される。一方、クラッチ6を切断状態とする場合には、電動アクチュエータ22によりレバー6cを駆動させ、ばねの付勢力に抗して両クラッチ部材6a,6bの摩擦部材を離隔させる。これにより、エンジンの出力軸5と入力軸10との間で動力が切断される。また、ウォームとウォームホイールとの噛合により、モータへの電力供給が停止してもこの切断状態が維持される。
【0028】
また、クラッチ6の断接を行う電動アクチュエータ(A)22は、制御手段である制御装置(C)25により制御される。制御装置25は、前進モード(Dレンジ)、後進モード(Rレンジ)、ニュートラルモード(Nレンジ)が選択可能なモード選択手段であるシフトセレクタ23により選択されたモードと、車輌のイグニッションスイッチやスタートボタンなどのシステムスイッチ(SSW)24のオン、オフとに基づき、クラッチ6の断接を制御する。
【0029】
また、上述の説明及び図1から明らかなように、クラッチ6と車輪との間にはクラッチなどの動力を切断する機構は設けてない。したがって、クラッチ6の変速機側クラッチ部材6bと車輪との間では、上述のシフトセレクタ23により選択したモード及びシステムスイッチ24のオン、オフに拘らず、動力が切断されずに駆動連結される。
【0030】
ついで、上述したハイブリッド駆動装置1の作動について説明する。本ハイブリッド駆動装置1は、ケースの他方を内燃エンジンに結合され、かつ該エンジンの出力軸5をクラッチ6を介して入力軸10に連動して用いられる。エンジンからの動力が伝達される入力軸10の回転は、スプラインを介してコーンリング式無段変速装置3の入力側摩擦車13に伝達され、更にリング15を介して出力側摩擦車14に伝達される。
【0031】
この際、両摩擦車13,14とリング15との間は、出力側摩擦車14に作用する矢印D方向のスラスト力により大きな接触圧が作用し、かつこれら各部材が存在する空間はトラクション用オイルが充填されているので、上記両摩擦車とリングとの間には、該トラクション用オイルの油膜が介在した極圧状態となる。この状態では、トラクション用オイルは大きな剪断力を有するので、該油膜の剪断力により両摩擦車とリングとの間に動力伝達が行われる。これにより、金属同士の接触でありながら、摩擦車及びリングが摩耗することなく、所定のトルクを滑ることなく伝達し得、かつリング15を軸方向に滑らかに移動することにより、両摩擦車との接触位置を変更して無段に変速する。
【0032】
該無段変速された出力側摩擦車14の回転は、出力側摩擦車14に押圧機構17などにより駆動連結された出力軸16、出力ギヤ16a及びデフリングギヤ4eを介してディファレンシャル装置4のデフケース4aに伝達され、左右のアクスル軸4cl,4crに動力分配されて、車輪(前輪)を駆動する。
【0033】
一方、電気モータ2の動力は、モータ出力ギヤ2b、アイドラギヤ9及び中間ギヤ11を介して入力軸10に伝達される。該入力軸10の回転は、先の説明と同様に、コーンリング式無段変速装置3を介して無段に変速され、更に出力ギヤ16a、デフリングギヤ4eを介してディファレンシャル装置4に伝達される。上記モータ出力ギヤ2b,デフリングギヤ4e、各ギヤ9,11,16aからなるギヤ伝動装置7、及び、ベベルギヤ4b,4dは、コーンリング式無段変速装置3が配置された空間と油密状に区画され、潤滑用オイルが充填される単一のギヤ空間に収納されており、各ギヤの噛合に際して潤滑用オイルが介在して滑らかに動力伝達される。この際、ギヤ空間の下方位置に配置されたデフリングギヤ4eは、大径ギヤからなることと相俟って、潤滑用オイルをかき上げ、他のギヤ(歯車)2b,9,11,16aに確実にかつ充分な量の潤滑用オイルを供給する。
【0034】
また、ハイブリッド駆動装置1で、電気モータ1のみにより前進走行する場合には、クラッチ6を切断すると共に、電気モータ2を回転駆動して、各ギヤ2b,9,11,16a,4e及びコーンリング式無段変速装置3を介してディファレンシャル装置4に電気モータ2の動力を伝達し、車輪を前進方向に回転する。一方、後進モードで駆動する場合、クラッチ6を切断すると共に、電気モータ2を前進モードの場合と逆方向に回転駆動して、各ギヤ2b,9,11,16a及びコーンリング式無段変速装置3を介してディファレンシャル装置4に電気モータ2の動力を伝達し、車輪を後進方向に回転する。
【0035】
このようなエンジン及び電気モータの作動形態、即ちハイブリッド駆動装置1としての作動形態は、必要に応じて各種採用可能である。一例として、車輌発進時、クラッチ6を切断すると共にエンジンを停止し、電気モータ2のトルクのみにより発進し、所定速度になると、エンジンを始動すると共にクラッチ6を接続し、エンジン及び電気モータの動力により加速し、巡航速度になると、電気モータをフリー回転又は回生モードとして、エンジンのみにより走行する。減速、制動時は、電気モータを回生してバッテリを充電する。また、クラッチ6を発進クラッチとして使用し、エンジンの動力により、モータトルクをアシストとして用いつつ発進するように用いてもよい。
【0036】
本実施形態におけるクラッチ6の接続(係合)及び切断(非係合)について、図2により説明する。制御装置25は、この図2の係合表に基づいてクラッチ6の断接を制御する。なお、図2で「○」はクラッチ6を係合している状態を、「×」はクラッチ6を非係合としている状態を、それぞれ示す。まず、システムスイッチ24がオン(SSWon)の状態で走行中に、前進モード(Dレンジ)が選択されている場合には、上述のように走行状態に応じてクラッチ6の断接(○or×)を行う。また、この状態でニュートラルモード(Nレンジ)が選択された場合には、クラッチ6を切断してエンジンと車輪との間の動力伝達を行わないようにする。また、後進モード(Rレンジ)を選択して走行する場合にも、クラッチ6を切断し、電気モータ2の駆動により後進する。一方、前進、後進のいずれのモードの走行中の場合で、システムスイッチ24がオフ(SSWoff)された場合には、クラッチ6を切断状態とする。これは、エンジンが停止してエンジンブレーキが急に作用することを防止するためである。ニュートラルモードでシステムスイッチ24がオフされた場合もクラッチ6を切断状態とする。
【0037】
次に、車輌の停車中、即ち、車輪が回転していない場合には、図2の左側の欄のようにクラッチ6の断接を行う。本実施形態では、車輌が停車しているか否かは、車輪の回転速度を検知するセンサ(S)26の信号に基づいて制御装置25が判断している。まず、システムスイッチ24がオン(SSWon)の状態では、すべてのモードでクラッチ6を切断状態とする。特に、システムスイッチ24がオン、かつ、ニュートラルモードが選択された場合には、クラッチ6を切断状態とする。本実施形態の場合、この状態でもシステムスイッチ24がオンであるため、電動アクチュエータ22への電力供給が行われ、クラッチ6の切断状態が確実に維持される。なお、本実施形態の場合、この状態で電動アクチュエータ22への電力供給を停止するようにしても良い。即ち、前述のように、電動アクチュエータ22のクラッチ6のレバーを駆動する駆動機構は、ウォーム及びウォームホイールにより構成されるため、電動アクチュエータ22を構成するモータへの電力供給を停止しても切断状態を維持できる。但し、上述の状態でも電動アクチュエータ22への電力供給を行う構造であれば、上述の駆動機構として、電力供給が停止した場合に切断状態を維持できなくなるような構成を採用することもできる。
【0038】
一方、システムスイッチ24がオフであれば、モードに拘らずクラッチ6を接続状態とする。システムスイッチ24がオフされてクラッチ6を接続状態とした後は、車輌の必要個所への電力供給を除くシステム電源がシャットダウンされ、クラッチ6を駆動する電動アクチュエータ22への電力供給も停止されるが、クラッチ6はばねの付勢力により接続状態が維持される。
【0039】
このような制御のフローについて、図3により説明する。まず、S1でシステムスイッチ24がオフされていない場合(オンの場合)には、シフトセレクタ23がニュートラルモード(Nレンジ)が選択されているか否かを確認する(S2)。ニュートラルモードが選択されていない場合(前進モード又は後進モードが選択されている場合)には、走行制御に従いクラッチ6の断接を行う(S3)。一方、S2でニュートラルモードが選択されている場合には、クラッチ6を切断状態とする(S4)。また、S1でシステムスイッチ24がオフされている場合には、車輌が停止しているか否かを確認する(S5)。車輌が停止していない場合(走行中の場合)には、クラッチ6を切断状態とする(S4)。これに対して、S5で車輌が停止している場合には、クラッチ6を接続状態とする(S6)。そして、クラッチ6の接続状態を維持したままシステム電源をシャットダウンする(S7)。
【0040】
このような本実施形態によると、別途パーキング機構を設ける必要がないため、低コスト化及びコンパクト化を図れる。即ち、車輪の回転が停止した状態(即ち、車輌の停止状態)で、システムスイッチ24がオフであれば、モードに拘らずクラッチ6が接続される。前述したように、クラッチ6と車輪との間は、モード及びスイッチのオン、オフに拘らず駆動連結されるため、これによりエンジンと車輪とが駆動連結され、パーキング状態が実現される。この結果、ハイブリッド駆動装置1に別途パーキング機構を設ける必要がなく、低コスト化及びコンパクト化を図れる。なお、本実施形態の場合、シフトセレクタ23にパーキングレンジを設ける必要がない。一方、システムスイッチ24がオン、モードがニュートラルモードである場合に、クラッチ6が切断されるため、車輌の牽引が可能となる。
【0041】
即ち、本実施形態の場合、車輌を停止してパーキング状態とする場合には、システムスイッチ24をオフすると共に、シフトセレクタ23によりDレンジ、Nレンジ、Rレンジのいずれかを選択する。これにより、車輪とエンジンとが接続されパーキング状態が実現される。言い換えれば、システムスイッチ24をオフにするだけで、パーキング状態にできる。この結果、運転者による操作ミスを生じにくくできる。一方、車輌の牽引を行う場合には、システムスイッチ24をオンにすると共に、シフトセレクタ23によりNレンジを選択する。システムスイッチ24がオンの状態であれば、Nレンジを選択するだけで良い。これにより、車輪とエンジンとが切断され、車輌の牽引が可能となる。システムスイッチ24がオンの状態で電動アクチュエータ22に電力供給が行われれば、前述したように、クラッチ6を駆動する電動アクチュエータ22の駆動機構の構成に拘らず、クラッチ6の切断状態を確実に維持できる。
【0042】
また、本実施形態は、摩擦車13、14の軸方向に比較的大型化してしまうコーンリング式無段変速装置3を組み込んだハイブリッド駆動装置1に本発明を適用しているが、上述のように、パーキング機構を別途設ける必要がない分、軸方向寸法を小さくできる。この結果、コーンリング式無段変速装置3を適用した構造であってもコンパクト化を図れる。
【0043】
なお、上述の実施形態では、ギヤ伝動装置として歯車のみを使用した構造について説明した。但し、ギヤ伝動装置は、歯車以外にスプロケット(鎖歯車)とチェーンを組み合わせた構造であっても良いし、この構造と歯車とを適宜組み合わせたものであっても良い。何れにしても、エンジンの出力軸と動力伝達装置の入力部材との間の動力を断接可能なクラッチを設け、クラッチと車輪との間の動力伝達装置に電気モータを駆動連結する。また、クラッチと車輪との間には動力を切断するクラッチを設けないようにして、シフトセレクタによるモード選択及びシステムスイッチのオン、オフに拘らず動力が切断されないようにする。
【0044】
また、上述の実施形態では、無段変速装置にコーンリング式の摩擦式無段変速装置を用いたが、これに限らず、2個の円錐形摩擦車の両方を取囲むようにリングを配置する無段変速装置(リングコーン式)、2個の円錐形状の摩擦車の間に、両摩擦車に接触しかつ軸方向に移動する摩擦車を介在する無段変速装置、トロイダル等の球面形状の摩擦車を用いる無段変速装置、並びに入力側及び出力側の摩擦円盤を互いに近づく方向に付勢されている1対のシーブからなるプーリ状摩擦車に挟むように配置し、プーリ状摩擦車を、両摩擦円盤との軸間距離を変更するように移動して変速する無段変速装置等の他の摩擦式無段変速装置を用いてもよい。
【0045】
また、ギヤ伝動装置の伝達経路を、無段変速装置を経由するように構成してあるが、これに限らず、無段変速装置を経由することなく、電気モータの回転をデフリングギヤ4eに伝達するようにしてもよい。例えば、中間ギヤ11が入力軸10に回転自在に支持され、該中間ギヤの回転を、直接又はアイドラギヤを介して無段変速装置出力軸16に伝達するように構成する。即ち、電気モータはクラッチと車輪との間の動力伝達経路に設けられていれば良く、上述のように入力側摩擦車13に接続する構造でなくても良い。
【符号の説明】
【0046】
1 ハイブリッド駆動装置
2 電気モータ
3 摩擦式(コーンリング式)無段変速装置
4 出力部材(ディファレンシャル装置)
5 エンジンの出力軸
6 クラッチ
6b 入力部材側クラッチ部材(変速機側クラッチ部材)
7 ギヤ伝動装置
10 入力部材(入力軸)
13 摩擦入力部(摩擦車)
14 摩擦出力部(摩擦車)
23 シフトセレクタ
24 システムスイッチ
25 制御手段(制御装置)
26 車輪の回転速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、を有し、前記入力部材の回転を遮断することなく連続して前記出力部材に伝達する動力伝達装置と、
前記エンジンの出力軸と前記入力部材との間の動力を断接可能なクラッチと、
前記動力伝達装置に駆動連結される電気モータと、
前進モード、後進モード、ニュートラルモードのうちの何れかのモードの選択、及び、システムスイッチのオン、オフに基づき、前記クラッチの断接を制御する制御手段と、を備え、
前記クラッチの入力部材側クラッチ部材と前記車輪との間は、前記モード及び前記システムスイッチのオン、オフに拘らず動力が切断されずに駆動連結され、
前記制御手段は、前記システムスイッチがオン、かつ、前記モードが前記ニュートラルモードである場合には、前記クラッチを切断状態とし、前記システムスイッチがオフ、かつ、前記車輪の回転が停止した状態である場合には、前記モードに拘らず前記クラッチを接続状態とする、
ことを特徴とするハイブリッド駆動装置。
【請求項2】
前記動力伝達装置は、前記入力部材に駆動連結される摩擦入力部と、前記出力部材に駆動連結される摩擦出力部と、を有し、これら摩擦入力部と摩擦出力部との接触位置を変更することにより、前記摩擦入力部の回転を無段に変速して前記摩擦出力部に伝達する摩擦式無段変速装置を有する、
ことを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド駆動装置。
【請求項3】
前記摩擦式無段変速装置は、前記摩擦入力部及び前記摩擦出力部がその軸線を互いに平行かつ径大部と径小部が軸方向に逆になるように配置された円錐形状の摩擦車からなり、これら両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングを軸方向に移動して無段に変速するコーンリング式無段変速装置である、
ことを特徴とする、請求項2に記載のハイブリッド駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−207296(P2011−207296A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75621(P2010−75621)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】