説明

ハロゲン−リチウム交換反応を用いる有機化合物の製造法

【課題】医薬品、農薬、液晶、電子写真や染料等の分野で有用な化合物のハロゲン−リチウム交換反応による有機化合物の製造法を、マイクロリアクターを用いることにより、特別な冷却装置が不要な、安価で安全、かつ公害の問題を生じない製造方法を提供する。
【解決手段】ハロゲン化合物とリチウム試薬とを、反応温度が−10〜40℃かつ滞留時間が0.001〜10秒の条件下でマイクロリアクターを用いて反応させて下記一般式(I)で表されるリチウム化合物(式中、Aで表される環は、芳香環、飽和環、部分飽和環又はヘテロ環を表す)を製造し、引き続きマイクロリアクターを用いて連続して求電子化合物と反応させて、Li基を求電子基に交換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロリアクターを用いたハロゲン−リチウム交換反応により、医薬品、農薬、液晶、電子写真や染料等の分野で有用な化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン置換有機化合物のハロゲン原子を他の求電子基に変換する合成手法の一つとして、ハロゲン−金属交換反応が知られている(非特許文献1、2参照)。ここで用いられるメタル化試薬には、グリニヤール試薬、リチウムマグネシウムアート錯体やリチウム銅アート錯体、及び有機リチウム試薬等が挙げられる。
【0003】
グリニヤール試薬は一般に反応性が低く、例えばアリールクロリドやアリールブロミドを用いる場合には反応可能な基質が限定されたり、試薬を過剰量使用したり、長い反応時間を必要とする等の問題がある(非特許文献3参照)。アリールヨージドを使用する場合は反応性が高いが、原料へのヨード基の導入はコストが高く、工業的には好ましくない。
有機リチウムマグネシウムアート錯体(特許文献1参照)や有機リチウム銅アート錯体(非特許文献4参照)は、適度な反応性と安定性を有する試薬として知られている。これらは、反応活性の異なる反応基質に対して、アート錯体の置換基のアルキル鎖の種類や反応温度を工夫することで反応性を調節することができ、極低温条件を必要としないため工業的に有用である。しかし、反応の度にアート錯体を調整する必要があり、製造工程が1工程増えるため製造が煩雑になる。
【0004】
これに対して、有機リチウム試薬は反応性が高く、基質の適用範囲が広いので有用性が高い。しかし、この方法で生成するリチウム中間体もまた反応性が高く且つ熱安定性が低いことから、副反応を避ける為に超低温下で反応を行う必要があり、また結晶状態にして反応性を低下させる等の対策を取らなければならない。また、ハロゲン−リチウム交換反応及び生成したリチウム中間体と求電子試薬との反応はどちらも発熱反応であり、仕込み時に長時間の滴下を必要とする。特に工業的規模では、禁水性危険物である有機金属化合物の大量使用や発熱反応の暴走といった安全性リスクの面や、設備建設やその維持にかかるコストの面で問題が多い(非特許文献5参照)。
更に、上記リチウム中間体の中でもリチオピリジンに代表されるヘテロ芳香族リチウム化合物は特に不安定であり、リチオ化反応並びに求電子化合物との反応を−80℃で行った場合でも目的物の収率が極めて低い。不安定なリチウム化合物を用いる方法として、イン・サイト・クエンチ法が報告されている(非特許文献6、7参照)。これは、予めハロゲン化合物と求電子化合物を共存させた溶液にリチウム試薬を滴下し、リチウム中間体を発生させると同時に反応系中で求電子化合物との捕捉反応を行う方法である。しかし、この方法は求電子化合物とリチウム中間体との反応速度よりリチオ化反応の反応速度が大きい場合に限られ、原料基質の種類と反応温度設定によって反応が大きく影響するという欠点がある。
【0005】
このような種々の課題があるにも関わらず、上記のハロゲン−リチウム交換反応で得られる化合物は、医薬品、農薬、液晶、電子写真や染料等の分野で合成中間体として有用性が高い。一例を挙げると、2−ブロモピリジンを原料とする2−リチオピリジンは、ファルマコアとして有用な2,4'−ビピリジン誘導体の合成中間体である。この2,4'−ビピリジン誘導体は、例えばtetrabenazine antagonist(非特許文献8参照)、α1A receptor antagonist(特許文献2参照)、5-HT1A receptor antagonist(特許文献3参照)、α1A receptor antagonist(特許文献4参照)等の合成中間体に用いられている。
【0006】
有機リチウム試薬を用いた反応の種々の問題を解決する手段として、連続流通反応装置を使用した製造方法が報告されている(特許文献5、6参照)。連続流通反応器は器内の容積が小さく、数千リットルの大容量反応釜と比較して反応器内の原料の濃度分布や温度分布を均一にできる。また、熱に不安定なリチウム中間体を大量に保管することなく連続して次工程に進めるので、収率低下のリスクが低減され、この方法のメリットは大きい。しかし、特許文献5では攪拌機に徐熱能力が十分ではないスタティックミキサーを使用しており、リチウム中間体の熱劣化の問題は解決されていない。また、この方法ではバッチ反応と同様に−70〜−35℃の極低温条件下で行なわれており、特殊な冷却装置が必要であるため、製造コストは高い。特許文献6では連続流通反応装置の具体的な構成は記載されていないが、−35℃の低温条件下で行なわれており、工業的規模で行なうにはコスト的に問題がある。
【0007】
最近、マイクロリアクターを用いた合成反応に関する研究が盛んに行われている(非特許文献9、10参照)。マイクロリアクターは正確な流れの制御、温度制御や迅速な混合が可能と考えられ、従来実施されているバッチ反応と比較して収率の向上や選択性の拡大が期待できるので、高効率な生産方法として注目されている。
マイクロリアクターによるリチオ化反応の実験例も幾つか報告されており、例えば、脱プロトン化によるリチウム中間体およびそれを経由するホウ素化合物の合成法(特許文献7参照)、ハロゲン−リチウム交換反応を用いたTramadolの合成(非特許文献11参照)3−リチオアニソールの合成およびそれとN,N−ジメチルホルムアミド(以下DMFと略記する)との反応(非特許文献12参照)等が挙げられる。これらの例では、マイクロリアクターを使用しない従来のバッチ反応に比べていずれも収率が向上しているが、しかし、特許文献7や非特許文献11では実際には、やはり−30℃や−14℃といった低温条件下で反応が行われている。非特許文献12では、マイクロリアクターを2個直列に接続した装置を用い、第一反応のリチオ化を0℃、滞留時間0.19分の条件で行い、次いで第二反応のDMFとの反応を0℃、滞留時間0.15分の条件で行っている。この方法は、これまでの方法に比べて取扱いの容易な反応温度で目的物が88%の高収率で得られており、画期的な方法である。しかし、この条件では、特に不安定なヘテロ芳香族リチウム化合物に適しているとはいえず、更なる方法が模索されている。
【特許文献1】国際公開第01/57046号公報
【特許文献2】国際公開第99/07695号公報
【特許文献3】国際公開第99/03847号公報
【特許文献4】米国特許第6159990号公報
【特許文献5】特開2000−229981号公報
【特許文献6】特開2000−239282号公報
【特許文献7】特開2003−113185号公報
【非特許文献1】“ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(The Journal of Organic Chemistry)"、 1982年 47巻 p.331
【非特許文献2】“ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(The Journal of Organic Chemistry)"、 1986年 52巻 p.473
【非特許文献3】“アンゲバンテ ヘミィ インターナショナル イングリッシュ エディション(Angewante Chemie International English Ed.)"、 2000年 39巻 p.4414
【非特許文献4】“アンゲバンテ ヘミィ インターナショナル イングリッシュ エディション(Angewante Chemie International English Ed.)"、 2002年 41巻 p.3263
【非特許文献5】“ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー(The Journal of Medicinal Chemistry)" 、 1999年 42巻 p.1088
【非特許文献6】“ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(The Journal of Organic Chemistry)"、 2002年 67巻 p.5394
【非特許文献7】“ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサエティ(Journal of the American Chemical Society)"、 1983年 105巻 p.1983
【非特許文献8】“ジャーナル オブ メディシナル ケミストリー(The Journal of Medicinal Chemistry)" 、 1984年 27巻 p.1182
【非特許文献9】“チミア(Chimia)" 、 2002年 56巻 p.636
【非特許文献10】“テトラヘドロン(Tetrahedron)" 、 2002年 58巻 p.4735
【非特許文献11】“オーガニック プロセス リサーチ アンド デベロップメント(Organic Process Research and Development)"、 2004年 8巻 p.455
【非特許文献12】“オーガニック プロセス リサーチ アンド デベロップメント(Organic Process Research and Development)"、 2004年 8巻 p.440
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、医薬品、農薬、液晶、電子写真や染料等の分野で有用な化合物のハロゲン−リチウム交換反応による有機化合物の製造法を、マイクロリアクターを用いることにより、特別な冷却装置が不要な、安価で安全、かつ公害の問題を生じない製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、種々検討の結果、本発明の上記目的は以下の方法により達成される。
(1)ハロゲン化合物とリチウム試薬とを、反応温度が−10〜40℃かつ滞留時間が0.001〜10秒の条件下でマイクロリアクターを用いて反応させることを特徴とする下記一般式(I)で表されるリチウム化合物の製造方法。
【0010】
【化1】

【0011】
(式(I)中、Aで表される環は、芳香環、飽和環、部分飽和環又はヘテロ環を表す。)
(2)滞留時間が0.001〜5秒である上記(1)のリチウム化合物の製造方法。
(3)滞留時間が0.001〜3秒である上記(1)のリチウム化合物の製造方法。
(4)Aで表される環がヘテロ環である上記(1)のリチウム化合物の製造方法。
(5)上記(1)の方法により製造したリチウム化合物を、引き続きマイクロリアクターを用いて連続して求電子化合物と反応させることを特徴とする下記一般式(II)で表される化合物の製造方法。
【0012】
【化2】

【0013】
(式(II)中、Aで表される環は、前記と同じ意味を有する。Yは求電子基を表す。)
【0014】
マイクロリアクターの利用は、従来のバッチ法では反応装置に滞留する間に反応は進んでしまうために取り出しが不可能であった一次生成物の製造が可能なこと、反応温度分布と溶液中の物質濃度分布を精密制御できること、定常状態の連続反応を効率良く行うことができること等の点から、反応活性が高く熱安定性の低いリチウム化合物の合成に非常に有効である。
【0015】
更に、高い発熱を伴う反応では反応熱の蓄熱防止が重要であり、従来のバッチ製造装置や既存のスタティックミキサーを用いる連続合成装置ではホットスポットの発生防止等の温度制御は不十分であったが、本発明者らは鋭意検討を行った結果、反応温度と反応時間(滞留時間)との最適な組み合わせを選択することにより、マイクロリアクターを用い且つ室温程度の穏やかな温度条件でリチウム化合物の合成を高収率で行うことが可能となった。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、化学工業の分野、特に医薬品、農薬、液晶、電子写真や染料等の分野で有用な中間体であるリチウム化合物を、超低温冷却設備を使用することなく、効率良く低コストで得ることが可能である。更に、得られたリチウム化合物を連続して求電子化合物と反応させることにより、目的物を高収率で得ることが可能となり、本発明の製造方法は合成的に極めて高い実用性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明を更に詳しく説明する。
本発明は、特定の反応温度および滞留時間の条件下でハロゲン−リチウム交換反応によるリチウム化合物の合成反応(第1反応)をマイクロリアクターを用いて行い、次いでリチウム化合物と求電子化合物による捕捉反応(第2反応)を連続して行う方法である。
以下に、ハロゲン化合物に2,6−ジブロモピリジンを、有機リチウム試薬にn−ブチルリチウムを、求電子化合物にDMFを用い、第1反応、第2反応共にマイクロリアクターを用いた本発明の一例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
【化3】

【0019】
次に本発明で用いるマクロリアクターについて説明する。
マイクロリアクターは、通常数mm以下、好ましくは500μmより小さな等価直径の微小流路(マイクロチャンネル)を有し、その微小流路内で反応を行う装置として定義され、小型流動反応器、または静的マイクロミキサー(スタティックマイクロミキサー)を使用して定常状態で反応を実施するための反応装置である。ここで、等価直径とは流路断面を円形に換算した場合の直径である。静的マイクロミキサーとは、例えばWO96/30113号に記載されているような、混合のための微細な流路を有しているミキサーに代表される装置であり、また「“マイクロリアクターズ” 第3章、W.Ehrfeld、V.Hessel、H.Lowe著、Wiley−VCH社刊」に記載されている混合機(ミキサー)である。
【0020】
微小流路がマイクロスケールであるマイクロリアクターの世界においては、寸法及び流速の何れも小さくレイノルズ数は200以下であり、層流支配の流れとなる。反応を行う流体同士は流路内を層流状態となって流れながら、分子の自発的挙動だけで拡散しながら反応を行う。マイクロリアクターでは反応はフローで行うため、マイクロリアクター内の滞留時間により反応時間のコントロールがし易く、且つ比表面積(反応に関与する流体の単位体積当たりの表面積)が大きいことから熱収支を効率的に管理でき、反応を行う際の温度制御を精密且つ効率良く行うことができる。そのため、反応、特に高速反応の選択性を格段に向上させることができる。また、拡散理論に従うと熱交換(熱伝達)時間(t)はd2/α(d:微小流路幅、α:液の熱拡散率)に比例するので、微小流路幅を小さくすればするほど熱交換効率は向上する。
【0021】
本発明で用いるマイクロリアクターは、既知のものや市販品、目的とする反応のために新規に設計し試作されたものを使用することができる。市販されているマイクロリアクターとしては、例えばインターディジタルチャンネル構造体を備えるマイクロリアクター、インスティチュート・フュール・マイクロテクニック・マインツ(IMM)社製シングルミキサーおよびキャタピラーミキサー;ミクログラス社製ミクログラスリアクター;CPCシステムス社製サイトス;山武社製YM−1、YM−2型ミキサー;島津GLC社製ミキシングティーおよびティー(T字コネクタ);マイクロ化学技研社製IMTチップリアクター;東レエンジニアリング開発品マイクロ・ハイ・ミキサー等が挙げられ、いずれも本発明で使用することができる。
【0022】
本発明で用いるマイクロリアクターの最小構成単位は、マイクロミキサーとチューブリアクターである。また、マイクロミキサー、チューブリアクターを複数個接続し、多段反応用マイクロリアクターを構築することもできる。合成反応では、マイクロリアクターを組み込んだフロー反応装置を構築する必要があり、その場合の装置構成は、マイクロミキサー、チューブリアクター、マイクロリアクターに原料薬液を供給するための供給ポンプ、恒温槽及び循環サーキュレータ、温度調整のための熱交換器、温度センサー、流量センサー、配管内圧力を測定するための圧力センサー、生成品溶液を貯蔵するための製品タンク、等である。
【0023】
本発明で用いるマイクロミキサーは、液体または溶液状の化合物を互いに混合する小さな流路を有することが好ましく、また2つのサブストリームを混合させる単純なT字型流路のティーを用いても、縮流効果や高流速での流れの乱れを利用することで十分な混合・反応性能が得られる。マイクロミキサーの内部では混合により反応が開始され、同時に反応による発熱が発生する。流路断面積が大きい従来サイズのケニック型スタティックミキサーは、流路サイズが広いために混合反応において十分な混合性能が得られず、また反応時に発生する発熱量の徐熱能力も不十分であり、本発明で用いるマイクロミキサーとは区別される。2つのサブストリームを混合させて反応を行う場合、通常、サブストリームの断面積は用いるミキサーの流路の断面積で決定される。本発明のマイクロミキサーの流路は通常は100μm2〜16mm2、好ましくは1000μm2〜4.0mm2、より好ましくは10000μm2〜2.1mm2、特に好ましくは190000μm2〜1mm2の断面積を有する。また、流路の断面形状は特に限定されるものではなく、円形でも、矩形、半円、三角でも構わない。
【0024】
マイクロミキサーの後部に接続されるチューブは、原料の拡散混合および混合反応、反応熱除去の機能を有する。チューブ内径はより小さい方が拡散距離が短くなるため反応速度は大きくなり、反応時間を短縮するには有利である。また、チューブ内径のより小さい方が熱交換能力が大きくなり、大きな発熱を伴う反応にも有効である。しかし、チューブ内径が小さい程液体を流す際の圧力損失が増加するため、使用するポンプを特別な高耐圧仕様のものにしなければならず、また送液流量が制限されるのでマイクロミキサーの構造をも制限することになり、不都合を生じる。本発明におけるチューブの内径は、通常100μm〜4mm、好ましくは250μm〜3mm、より好ましくは300μm〜2mm、特に好ましくは500μm〜1mmの等価直径を有する。
本発明のマイクロミキサーやチューブの材質は、耐熱、耐圧及び耐溶剤性、加工容易性等の要求に応じて、ステンレス鋼、チタン、銅、ニッケル、アルミニウムなどの金属、ガラス、フォチュランガラス、各種セラミックス、ピーク樹脂、プラスチック、シリコン、及びPFA、TFAAなどのテフロン樹脂等を好適に使用できる。
【0025】
マイクロリアクターは微細加工技術によって製作されるが、マイクロリアクターに適した微細加工技術としては次のようなものがある。
(a)X線リソグラフィと電気メッキを組み合わせたLIGA技術
(b)EPON SU8を用いた高アスペクト比フォトリソグラフィ法
(c)機械的マイクロ切削加工(ドリル径がマイクロオーダのドリルを高速回転するマイクロドリル加工等)
(d)Deep RIEによるシリコンの高アスペクト比加工法
(e)Hot Emboss加工法
(f)光造形法
(g)レーザー加工法
(h)イオンビーム法
本発明で用いるマイクロリアクターは上記のどの微細加工技術を用いていても良く、特に制限されない。
【0026】
本発明に用いられるマイクロリアクターに送液される原料溶液の流速は、マイクロミキサーの混合方式、構造、及び流路及びチューブの等価直径によって好ましい流速は異なるが、例えばミキシングティー(内径Φ0.8mm)と内径Φ0.8mmのチューブを用いる場合、通常は0.1μl/分〜1000ml/分であり、好ましくは0.1ml/分〜100ml/分、より好ましくはlml/分〜50ml/分、特に好ましくは5ml/分〜30ml/分の範囲である。また、複数個ある原料の、マイクロリアクターに供給される流速は各々が同じ流量であっても異なる流量であっても良い。送液用のポンプは工業的に使用される送液ポンプの何れでも使用可能だが、できるだけ送液時に脈動を生じない機種が望ましい。好ましくは、プランジャーポンプ、ギアーポンプ、ロータリーポンプ、ダイヤフラムポンプ等である。
【0027】
マイクロリアクター内では、液体または溶液状の化合物が流動液体および溶液の運動エネルギーによって混合され反応するが、必要に応じてマイクロリアクター外部から振動エネルギーなどの混合促進のためのエネルギーを加えても良い。混合は、流速・流速と反応器の形状(接液部分の三次元形状や流路の屈曲などの形状、壁面の粗さ、等)によって、静的混合(層流)から動的混合(乱流)へと変化させることができ、乱流または層流の何れで混合しても良い。
【0028】
本発明では、マイクロリアクターによる第1反応の後、第2反応であるリチウム中間体と求電子化合物との反応は連続して行う必要がある。第2反応は生成したリチウム化合物が分解しないような条件であれば、生成したリチウム化合物をフラスコや反応槽等へ送り、そこで求電子化合物を添加するバッチ反応でも良いが、好ましくはマイクロリアクターを用いる連続反応である。第2反応をマイクロリアクターで行なう場合、2個のマイクロリアクターを直列に接続して構築した連続反応装置を用いてもよいし、または2個のマイクロリアクターの機能を1個のマイクロリアクターチップに組み込んだマイクロ構造物を使用しても良い。2個のマイクロリアクターを直列に接続したタイプ(直列2段型マイクロリアクター)は、マイクロミキサー/チューブ・リアクター、またはミキサー・アンド・ループ・リアクターと呼ばれる。第1段目のマイクロミキサーで第1反応の混合が始まり、第2段のミキサーへ向かう途中で混合しつつ反応し、次に2段目のマイクロミキサーで求電子化合物と混合され、ミキサー出口に接続されたチューブ中で混合しつつ第2反応が行われる。出発原料と生成するリチウム中間体、および求電子試薬の反応性に応じて、目的生成物の収率が高くなるようにリアクター構造や寸法をその都度最適化することが好ましい。
【0029】
本発明における反応時間は、原料液体がマイクロミキサーで混合開始し、マイクロミキサー後部に接続されたチューブを通って出口から外へ出るまでの滞留時間で表わされる。第1反応と第2反応共にマイクロリアクターを用いる場合、反応時間は第1のマイクロミキサーで原料液体が混合を開始し、第2のマイクロミキサーで求電子試薬と混合が開始される迄の滞留時間(第1反応区間)と、第2マイクロミキサーで混合開始し、マイクロミキサー後部に接続されたチューブを通って出口から外へ出るまでの滞留時間(第2反応区間)の総和で表わされる。本発明では、供給する原料の流量を変えて反応時間を調節することもできるが、マイクロミキサーは混合に適した流量範囲が予め設定されていることが多いので、マイクロリアクターに供給する原料溶液液の流量に応じて、適切な滞留時間が得られる様にチューブの長さと等価直径を変える方法で反応時間を設定した方が好ましい。マイクロリアクター内での滞留時間は、ハロゲン化合物や有機リチウム試薬の反応性、試薬濃度、反応温度、リチウム化合物の安定性等のパラメーターによって異なる。ハロゲン−リチウム交換反応は極めて速い反応であり、且つ生成するリチウム中間体は熱安定性が低いことから、第1反応の滞留時間は0.001秒〜10秒、好ましくは0.001秒〜5秒、より好ましくは0.001秒〜3秒、特に好ましくは0.01〜3秒である。なお、第1反応の滞留時間は、必ずしもハロゲン−リチウム交換反応の完結に必要な時間を設定する必要はなく、第1反応が未達の状態でも次の第2反応の求電子試薬を混合しても良い。ハロゲン−リチウム交換反応は非常に高速な反応であるため、求電子試薬の共存する状態ではリチウム試薬はハロゲン化合物と求電子試薬との競争反応となる。現在ハロゲン−リチウム交換反応の正確な終了点を判断する手段が無いため、第1反応に必要十分な滞留時間は第2反応を行った最終生成物の収率で評価される。
【0030】
第2反応は第1反応よりも反応速度は遅いが、しかしリチウム中間体の熱安定性が低いため、滞留時間は第1反応と同じか、または多少長い時間に設定するのが好ましい。リチウム化合物と求電子化合物との反応の滞留時間は0.001秒〜10分、好ましくは0.005秒〜5分、より好ましくは0.01秒〜1分、特に好ましくは0.1秒〜30秒である。
第1反応と第2反応全体の滞留時間としては、好ましくは0.002秒〜10分、より好ましくは0.005秒〜5分、特に好ましくは0.01秒〜1分である。
【0031】
本発明で用いられるマイクロリアクターは冷却や加熱が可能であり、マイクロリアクターの後部に接続されるチューブも冷却および加熱が可能なものが好ましい。本発明におけるマイクロリアクターの温度調節方法は特に限定されず、例えば、マイクロリアクター全体を温度調節可能な恒温槽に浸して行なう方法、マイクロリアクター構造体に古典的な熱交換器を付加する方法、マイクロ流路とマイクロ流路から形成されるマイクロ熱交換機を有するマイクロリアクター構造体を用いる方法、等が挙げられる。
従来の方法、例えばバッチ生産方式ではリチオ化反応は−75〜−40℃の超低温条件下で行なわれており、近年報告されたマイクロリアクターを使用したリチオ化反応でもその殆どが0℃未満の低温条件で行なわれている。これに対し、本発明では滞留時間と反応温度を調節することにより、室温程度の温和な条件でも効率良くリチオ中間体、特にヘテロ芳香環リチオ化合物を合成することが可能である。
本発明の第1反応の反応温度は−10〜40℃、好ましくは−10℃〜35℃、より好ましくは0〜35℃、特に好ましくは5〜35℃である。第2反応の反応温度は、リチウム化合物が分解されない温度であれば特に制限されないが、通常は−20〜70℃、好ましくは−10〜50℃、より好ましくは0〜40℃、特に好ましくは0〜35℃の範囲である。
【0032】
本発明では、反応の経過は公知の種々の分析機器を使用してモニターすることができる。反応率は、例えば高速液体クロマトグラフィー、キャピラリーガスクロマトグラフィー等で確認することができる。また、オンラインFT−IR分光分析計やオンラインNIR分光分析計を用いて吸光度の変化を追跡することにより、反応をオンラインでモニタリングすることが可能である。
【0033】
次に本発明で使用する化合物について説明する。本発明で用いるハロゲン化合物は、塩素化合物、臭素化合物、ヨウ素化合物等が挙げられるが、その中でも臭素化合物、ヨウ素化合物が反応性が高く好ましい。
本発明の一般式(I)で表されるリチウム化合物において、Aで表される環は具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の単環式または多環式の6〜10員の芳香環;シクロプロパン、シクロブタン、シクロヘプタン、シクロヘキサン、シクロオクタン等の単環式または多環式の3〜10員の飽和環;シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、インダン等の単環式または多環式の3〜10員の部分飽和環;チオフェン、フラン、ピラン、ピリジン、ピロール、ピラジン、アゼピン、アゾシン、アゾニン、アゼシン、オキサゾール、チアゾール、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、イミダゾール、ピラゾール、モルホリン、チオモルホリン、ピペリジン、ピペラジン、キノリン、イソキノリン、インドール、イソインドール、キノキサリン、フタラジン、キノリジン、キナゾリン、キノキサリン、ナフチリジン、クロメン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン等の5〜10員の単環式または多環式の窒素、酸素および硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環を表す。好ましくはフェニル基、ヘテロ環であり、より好ましくはヘテロ環であり、更に好ましくは5または6員環のヘテロ環であり、特に好ましくはピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、フラン、オキサゾール、チオフェン、チアゾールである。
【0034】
また、Aで表される環は更に置換基を有していても良く、置換基の数や種類は特に制限されない。置換基は具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル等の直鎖、分岐または環状の炭素数1〜20のアルキル基(シクロアルキルによって置換されたアルキルも含む);ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、イコセニル、ヘキサジエニル、ドデカトリエニル等の直鎖、分岐、または環状の炭素数2〜20のアルケニル基;エチニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、シクロオクチニル、シクロノニニル、シクロデシニル等の直鎖、分岐または環状の炭素数2〜20のアルキニル基;フェニル、ナフチル、アントラニル等の5〜10員の単環式または複環式アリール基;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、オクタデシルオキシ等の炭素数1〜20のアルコキシ基;フェノキシ、ナフチルオキシ等のアリールオキシ基;メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ、ブチルチオ、ペンチルチオ、ヘキシルチオ、ヘプチルチオ、オクチルチオ、ノニルチオ、デシルチオ、ドデシルチオ、ヘキサデシルチオ、オクタデシルチオ等の炭素数1〜20のアルキルチオ基;フェニルチオ、ナフチルチオ等のアリールチオ基;アセチル、プロパノイル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、ヘプタノイル等の炭素数2〜20のアシル、およびベンゾイル、ナフトイル等の置換カルボニル基;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル、n−デシルオキシカルボニル、フェノキシカルボニル等の置換オキシカルボニル基;アセチルオキシ、プロパノイルオキシ、ブタノイルオキシ、ペンタノイルオキシ、ヘキサノイルオキシ、ヘプタノイルオキシ等の炭素数2〜20のアシルオキシ、およびベンゾイルオキシ、ナフトイルオキシ等の置換カルボニルオキシ基;メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、ブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、ヘキシルスルホニル、ヘプチルスルホニル、オクチルスルホニル、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル等の置換スルホニル基;N−メチルカルバモイル、N,N−ジフェニルカルバモイル等のアルキル、アルケニルおよびアリールから選択される1または2個の基によって置換されたカルバモイル基;N−フェニルスルファモイル、N,N−ジエチルカルバモイル等のアルキル、アルケニルおよびアリールから選択される1または2個の基によって置換されたスルファモイル基;アセチルアミノ、tert−ブチルカルボニルアミノ、n−ヘキシルカルボニルアミノ等の炭素数2〜20のアシルアミノ、およびベンゾイルアミノ、ナフトイルアミノ等の置換カルボニルアミノ基;N−メチルウレイド、N,N−ジエチルウレイド等のアルキル、アルケニルおよびアリールから選択される1または2個の基によって置換されたウレイド基;メチルスルホニルアミノ、tert−ブチルスルホニルアミノ、n−オクチルスルホニルアミノ等の炭素数1〜20のスルホニルアミノ、およびフェニルスルホニルアミノ、ナフチルスルホニルアミノ等の置換スルホニルアミノ基;メチルアミノ、フェニルアミノ、tert−ブトキシカルボニルアミノ、ピバロイルアミノ、ベンジルアミノ、フタロイルアミノ、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、N−メチル−N−フェニルアミノ基等のモノ置換またはジ置換アミノ基;ニトロ基;シアノ基;トリメチルシリル、トリエチルシリル等の置換シリル基;フッ素、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン原子;チオフェン、フラン、ピラン、ピリジン、ピロール、ピラジン、アゼピン、アゾシン、アゾニン、アゼシン、オキサゾール、チアゾール、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、イミダゾール、ピラゾール、モルホリン、チオモルホリン、ピペリジン、ピペラジン、キノリン、イソキノリン、インドール、イソインドール、キノキサリン、フタラジン、キノリジン、キナゾリン、キノキサリン、ナフチリジン、クロメン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン等の5〜10員の単環式または多環式の窒素、酸素および硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環残基等が挙げられる。
【0035】
好ましくは、炭素数2〜16のアルキル基、炭素数2〜16のアルケニル基、炭素数2〜16のアルキニル基、アリール基、炭素数2〜16のアルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数2〜16のアルキルチオ基、アリールチオ基、炭素数2〜17の置換カルボニル基、炭素数2〜17の置換オキシカルボニル基、炭素数2〜17の置換カルボニルオキシ基、炭素数1〜16の置換スルホニル基、炭素数2〜17のモノ置換またはジ置換カルバモイル基、炭素数1〜16のモノ置換またはジ置換スルファモイル基、炭素数2〜17の置換カルボニルアミノ基;炭素数2〜17のモノ置換またはジ置換ウレイド基;炭素数1〜16の置換スルホニルアミノ基;炭素数1〜16のモノ置換またはジ置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜16の置換シリル基、ハロゲン原子、ヘテロ環残基が挙げられる。
【0036】
より好ましくは、炭素数2〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基、アリール基、炭素数2〜8のアルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数2〜8のアルキルチオ基、アリールチオ基、炭素数2〜9の置換カルボニル基、炭素数2〜9の置換オキシカルボニル基、炭素数2〜9の置換カルボニルオキシ基、炭素数1〜8の置換スルホニル基;炭素数2〜9のモノ置換またはジ置換カルバモイル基、炭素数1〜8のモノ置換またはジ置換スルファモイル基、炭素数2〜9の置換カルボニルアミノ基、炭素数2〜9のモノ置換またはジ置換ウレイド基、炭素数1〜8の置換スルホニルアミノ基、炭素数1〜8のモノ置換またはジ置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜8の置換シリル基、ハロゲン原子、ヘテロ環残基等が挙げられる。
【0037】
特に好ましくは、炭素数2〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数2〜8のアルキニル基、アリール基、炭素数2〜8のアルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数2〜8のアルキルチオ基、アリールチオ基、炭素数5〜9の置換カルボニル基、炭素数5〜9の置換オキシカルボニル基、炭素数5〜9の置換カルボニルオキシ基、炭素数4〜8の置換スルホニル基、炭素数5〜9のモノ置換またはジ置換カルバモイル基、炭素数4〜8のモノ置換またはジ置換スルファモイル基、炭素数5〜9の置換カルボニルアミノ基;炭素数5〜9のモノ置換またはジ置換ウレイド基、炭素数4〜8の置換スルホニルアミノ基、炭素数4〜8のモノ置換またはジ置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜8の置換シリル基、ハロゲン原子、ヘテロ環残基である。
【0038】
なお、アリール基に直接結合したメチル基、メトキシ基、メチルチオ基等の炭素数1の炭化水素は、ブチルリチウム等の強塩基によってプロトンを引き抜く反応が生じ易く、副生成物が生成する恐れがある。また、メトキシ基はラジカル反応を引き起こし易く、炭素ラジカルの生成によるビスアリール等の副生成物を生じる恐れがある。このため、Aで表される環が芳香環であり且つその置換基がアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基等である場合は、その置換基は炭素数2以上であるのが好ましい。
また、Aで表される環の置換基がカルボニル基の場合、リチウム試薬との反応の際に副反応の進行を防止できることから、tert−ブチル基の如き炭素数4以上の嵩高い、立体障害が大きい基が置換していることが好ましい。
【0039】
これらの置換基は更に置換基を有していてもよく、反応に関与しないものであれば特に制限されない。更なる置換基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル等の低級アルキル基やフェニル、ナフチル等のアリール基、塩素、フッ素等のハロゲン原子が挙げられる。
【0040】
本発明で用いる有機リチウム試薬は、従来公知の有機リチウム化合物を使用することができる。例えば、メチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム、メトキシメチルリチウム、エトキシメチルリチウム等のアルキルリチウム;ビニルリチウム、アリルリチウム、プロペニルリチウム、ブテニルリチウム等のアルケニルリチウム;エチニルリチウム、ブチニルリチウム、ペンチニルリチウム、ヘキシニルリチウム等のアルキニルリチウム;ベンジルリチウム、フェニルエチルリチウム等のアラルキルリチウム等が挙げられる。この中で好ましくはアルキルリチウム、アルケニルリチウム、アルキニルリチウムであり、その中でもメチルリチウム、エチルリチウム、プロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、iso−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、n−ヘキシルリチウム、n−オクチルリチウム、n−デシルリチウム、ビニルリチウム、アリルリチウム、メトキシメチルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、2−チエニルリチウム、トリ(n−ブチル)マグネシウムリチウムが好ましく、更にはn−ブチルリチウムが好ましい。
有機リチウム試薬の使用量は、用いるハロゲン化合物の種類によって異なるが、ハロゲン化合物1モルに対して通常0.01〜20モル、好ましくは0.1〜2.0モル、より好ましくは0.5〜1.3モル、更に好ましくは0.9〜1.1モルである。
【0041】
本発明で使用することができる求電子化合物は、電子受容能を有する官能基をもつ化合物であれば特に制限されないが、電子密度の大きい官能基や非共有電子対と反応する化合物が好ましい。また当該化合物には既知の有機リチウム試薬を使用したハロゲン−金属交換反応で使用される求電子化合物が全て含まれる。
本発明で用いる求電子化合物は、具体的には、塩素分子、臭素分子、ヨウ素分子等のハロゲン分子;固体状硫黄、二酸化硫黄、酸素等の無機物類;二酸化炭素;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ベンゾフェノンイミン、アセトフェノンイミン等のイミン類;クロロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン等のハロゲン化シリコン類;ニ塩化ジブチルスズ、ニ臭化ジフェニルスズ等のスズ化合物類;パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アクリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、ニコチンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、2−ブタノン、ベンゾフェノン、アセトフェノン、DMF、tert−ブチル−4−オキソ−1−ピペリジンカルボキシレート等のケトン類;クロロ蟻酸エチル、クロロ蟻酸フェニル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸オクチル、酢酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル等のエステル類;無水酢酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水マレイン酸等の酸無水物類;アセチルクロライド、ベンゾイルクロライド、2−ピリジンカルボニル クロライド等のハロゲン化アシル類;オキシラン、2−メチル−オキシラン等のオキシラン類;6−アザビシクロ[3,1,0]ヘキサン、7−アザビシクロ[4,1,0]ヘプタン等のアジリジン類;3−オキソ−1,3−ジフェニル−1−プロペン、2−メチル−3−オキソ−3−ジフェニル−1−プロペン等のα、β−不飽和ケトン類;ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化ブチル、臭化メチル、臭化エチル、臭化ヘキシル、臭化オクチル、1,2−ジヨードエタン、1,2−ジブロモエタン、1,6−ジヨードヘキサン、1,8−ジブロモオクタン、1,2−ジブロモシクロペンテン等のハロゲン化アルキル類;N−ブロモコハク酸イミド、N−ヨードコハク酸イミド、N−クロロコハク酸イミド、N−ブロモフタル酸イミド等の酸イミド類;ジメチルジスルフィド、ジフェニルジスルフィド等のジスルフィド類;クロロジフェニルホスフィン、クロロジメチルホスフィン等のホスフィン類;クロロジフェニルホスフィンオキシド、クロロジメチルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類が挙げられる。これらの中で好ましくは、クロロトリメチルシラン、ベンズアルデヒド、DMFである。
これら求電子化合物の使用量は、ハロゲン化合物1モルに対して、通常0.01〜20モル、好ましくは0.1〜2.0モル、より好ましくは0.5〜1.3モル、更に好ましくは0.9〜1.1モルである。
【0042】
以下に、本発明の方法により得られる一般式(II)で表される化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0043】
【化4】

【0044】
【化5】

【0045】
【化6】

【0046】
本発明の製造方法では、使用するハロゲン化合物、有機リチウム試薬および求電子化合物は液体又は溶液状態であることが必要である。従って、これらの化合物が液体でない場合には、事前に反応に不活性な溶媒に溶解させる必要がある。使用する溶媒としては、公知のハロゲン−金属交換反応に用いられる溶媒はいずれも使用できる。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、デュレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ジイソプロピルベンゼン、ジフェニルメタン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン等の芳香族炭化水素化合物類;ピリジン、アセトニトリル、DMF、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の極性溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン、デカン、パラフィン等のアルカン類、及びパーフルオロアルカン類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、石油エーテル、テトラヒドロフラン(THFと略記する)、ジオキサン、トリオキサン、ジグリム等のエーテル類;N,N−ジメチルイミダゾリジノン等のウレア類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N,N‘,N’−テトラメチルエチレンジアミン等の3級アミン類;塩化メチレン、ジクロロエタン等のハロゲン化アルカン類等、極性、非極性溶媒を問わずいずれも利用し得る。好ましくは、THF、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、トルエン、キシレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンであり、より好ましくはTHF、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、トルエンである。これらの溶媒は単独または2種以上の溶媒を混合して用いることができ、混合使用の際の混合比は任意に定めることができる。溶媒の使用量は基質である各々の化合物1モルに対し、通常1〜10000mlの範囲で用いられ、好ましくは300〜6000ml、より好ましくは600〜3000mlである。
【0047】
本発明の製造方法では、有機リチウム試薬および有機リチウム化合物を活性化するために3級アミン等のキレート化剤を添加することが可能である。キレート化剤の使用量は有機リチウム試薬および有機リチウム化合物1モルに対し、通常0.01〜10モルの範囲で用いられ、好ましくは0.1〜2.0モル、より好ましくは0.9〜1.1モルである。
【0048】
本発明の方法で得られる、一般式(II)で表される化合物は、公知の方法で単離することができる。例えば、有機溶剤を用いた抽出法、蒸留法、有機溶媒や水または有機溶媒と水の混合物を用いた再沈殿法、またはカラムクロマトグラフィーを、必要に応じて単独または適宜組み合わせて用いて単離精製することが可能である。
尚、本発明の変換法は公知のハロゲン−金属交換反応の改良方法であることから、本発明の該工程に用いられる製造条件は、有機リチウム試薬などのハロゲン−金属交換反応および求電子試薬との反応に使用されている反応生成物の精製法を含め、反応温度以外の製造条件を全て採用することができる。
【実施例】
【0049】
次に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、生成物の構造はNMR、IR、ミリマス測定により同定を行った。また、標準物質が市販されているものについては、目的物の反応率は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により標準物質との面積比から算出して定量分析を行った。標準物質が市販されていないものは、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで目的物を分取して標準物質を得た後に収率を求めた。
【0050】
実施例1 〈マイクロリアクターによる2−ブロモ−6−ホルミルピリジンの合成〉
n−ブチルリチウムと2,6−ジブロモピリジンによる6−ブロモ−2−リチオピリジンの合成、およびそれに続くDMFとの反応を図1に示すマイクロリアクターを用いて行った。マイクロミキサーM1、マイクロミキサーM2には共にミキシングティー(ジーエルサイエンス製、内径0.8mmΦ、断面積0.50mm2)を使用した。区間5→9は、滞留時間が0.1秒以上では内径0.5mm(外径1/16インチ)、滞留時間が0.02〜0.1秒では内径0.25mm、0.01秒以下の場合は内径0.1mmのステンレス製チューブを各々使用した。区間8→10は、内径1.0mm(外径1/16インチ)ステンレス製チューブを使用した。第1反応部(5→8)と第2反応部(8→10)の滞留時間は、流量を変えずにステンレス製チューブの長さを変えて調節した。また、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させて、所定の反応温度に設定した。
【0051】
2,6−ジブロモピリジンをTHFで希釈し、0.316モル/lの溶液に調整した。n−ブチルリチウムは市販されている1.58モル/lのn−ヘキサン溶液を購入し、含量を滴定で求めて使用した。DMFをTHFで希釈し、3.16モル/lの溶液に調整した。2,6−ジブロモピリジン溶液とn−ブチルリチウム溶液は、各々ステンレス製シリンジに吸い上げた後、古江サイエンス社製JP−H−3型高圧マイクロフィーダーを用いて、またN,N−ジメチルホルムアミド溶液はフロム製243−13型ダブルプランジャーポンプを用いて、マイクロリアクターに送液した。2,6−ジブロモピリジン溶液とn−ブチルリチウム溶液、DMF溶液の送液速度は、各々5.0ml/分、1.0ml/分、1.0ml/分に設定した。混合した反応溶液は反応が安定化するまでの数分間は廃棄し、その後メタノールの入ったサンプリング管に採取した。得られた反応溶液はHPLCで標準物質を用いる内部標準法により定量分析を行い、反応率を求めた。
【0052】
実施例2〜36
実施例1において、反応温度及び滞留時間を表1に示す条件に変更した他は、実施例1と同様の操作で合成を行った。
【0053】
比較例1〈バッチによる2−ブロモ−6−ホルミルピリジンの合成〉
アルゴンガスで置換した100ml二口フラスコに2,6−ジブロモピリジンの0.316モル/lTHF溶液を5ml仕込み、ドライアイス−アセトン浴に浸して−78℃に冷却した。磁気攪拌機を用いて攪拌しながら、n−ブチルリチウムの1.58モル/ln−ヘキサン溶液をマイクロシリンジポンプで1.0ml/分の速度で5ml滴下し、−78℃で15分間攪拌した。次に、DMFの3.16モル/lTHF溶液をシリンジポンプで1.0ml/分の速度で5ml滴下し、−78℃で30分間攪拌した後、徐々に室温まで30分間かけて昇温した。得られた反応液を定量分析した結果、目的物の収率は36%だった。反応液に0℃で10%酢酸水溶液を加え、30分間攪拌した後、分離した水層を除去し、有機層を水で洗浄し、有機層をロータリーエバポレータで蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物はシリカゲルカラムクロマトにより精製し、結晶を得た。結晶の融点、NMR、IRスペクトルは市販標準試薬と一致した。
【0054】
比較例2および3
反応温度を−40℃および0℃とした以外は、比較例1と同じ条件で実施した。
【0055】
比較例4および5
滞留時間を“Org.Process Res.Dev.,2004年8巻440頁”に記載の条件に、また反応温度を表1に記載の条件に変更した以外は実施例1と同様の操作で合成を行った。
実施例1〜36および比較例1〜5の結果を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
表1の結果から、以下のことが明らかである。中間体である6−ブロモ−2−リチオピリジンは特に熱不安定な化合物であり、バッチ合成法では−78℃の温度条件で3割程度の収率しか得られない。マイクリアクターを用いた合成法でも、滞留時間と反応温度を最適化しない場合、収率は0℃の温度条件で70%以下、10℃の温度条件でも40%以下と低い。しかしマイクロリアクターを用い且つ滞留時間と反応温度を最適化することにより、20℃や35℃といった温度条件でも目的物を高収率で得ることができる。
【0058】
実施例37 〈(3−エトキシフェニル)トリメチルシランの合成〉
n−ブチルリチウムを用いた3−ブロモフェネトールのハロゲン−リチウム交換反応をインスティチュート・フュール・マイクロテクニック・マインツ(IMM)社製シングルミキサー(流路断面積12,000μm2、ニッケル オン カッパー インレイ)を用いた定常マイクロ反応器内で行った。このシングルミキサーは分割された流路から得られる多数の副流を接触させることにより混合を行う方式のものであり、定常マイクロ反応器の出口には外径Φ1.58mm、内径Φ0.8mmのSUS316製キャピラリーをHPLCコネクターを用いて接続し、キャピラリーの出口は一方にドレン流路の付いた三方バルブを介し、クロロトリメチルシランのTHF溶液を入れてあるアルゴンガス置換済みの100ml二口フラスコに導いた。また定常反応器とSUSキャピラリー、二口フラスコの温度は恒温冷却水槽の冷媒中で0℃に温度設定した。
【0059】
3−ブロモフェネトール2.64gをTHFで全量50mlに希釈し、濃度0.26mol/lの溶液に調整した。n−ブチルリチウムは市販の1.58mol/ln−ヘキサン溶液を購入し、含量を滴定で求めて使用した。100ml二口フラスコにクロロトリメチルシラン1.5gとTHF9mlを加え、攪拌した。3−ブロモフェネトール溶液とn−ブチルリチウム溶液はガラスシリンジに吸い上げた後、それぞれHARVARD APPARATUS INC.社製PHD2000型計量ポンプ、Kd Scientific社製Model100型計量ポンプを用い、IMM社製シングルミキサー(流路断面積12,000μm2、ニッケル オン カッパー インレイ)を用いた定常マイクロ反応器に送液した。3−ブロモフェネトール溶液とn−ブチルリチウム溶液の送液速度は、各々5.0ml/分、1.0ml/分に設定した。混合した反応溶液は始めの1分間はドレン側に捨て、その後三方バルブを切り替えて100ml二口フラスコ側に7分間送液し、そこで10分間攪拌した。得られた反応液をHPLCで標準物質を用いる内部標準法により定量分析した結果、目的物の反応率は95%だった。
反応液を水と酢酸エチルで抽出し、更に減圧蒸留を行い、目的物の無色液体を得た。ミリマス測定(DI−EI/MS)の結果、目的物の分子量と一致した。
【0060】
実施例38、39
定常マイクロ反応器に、T字型に流体を衝突させる方式のT字型ミキサー(SUS316製、流路内径0.8mm、流路断面積0.5mm2)を用い、実施例38では反応温度を5℃に、実施例39では反応温度を20℃に変更した他は、実施例37と同様の条件で実施した。
【0061】
実施例40〜50
n−ブチルリチウムと3−ブロモフェネトールを用いた3−リチオフェネトールの合成、および引き続きクロロトリメチルシランとの反応を図1に示すマイクロリアクターを用いて行った。マイクロミキサーM1にミキシングティー(ジーエルサイエンス製、内径0.8mmΦ、断面積0.5mm2)又はスエジロック製ティー(内径1.6mmΦ、断面積2.0mm2、および内径3.2mmΦ、断面積3.0mm2)を、マイクロミキサーM2には共にミキシングティー(ジーエルサイエンス製、内径0.8mmΦ、断面積0.5mm2)を使用した。区間5→9は内径0.5mm(外径1/16インチ)のステンレス製チューブを使用し、また、区間8→10は内径1.0mm(外径1/16インチ)ステンレス製チューブを使用した。第1反応部(5→8)と第2反応部(8→10)の滞留時間は流量を変えることで調整した。反応温度はマイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させて用いることにより設定した。その他は実施例37と同じ条件で(3−エトキシフェニル)トリメチルシランを合成した。
【0062】
比較例6 〈バッチによる(3−エトキシフェニル)トリメチルシランの合成〉
アルゴンガスで置換した100ml二口フラスコにn−ブチルリチウム7mlとTHF35mlを仕込み、ドライアイス−アセトン浴に浸して−78℃に冷却した。攪拌下、3−ブロモフェネトール1.85gを滴下して−78℃で30分間攪拌した。次に、この中にクロロトリメチルシラン1.5gとTHF9mlの混合溶液を滴下して−78℃で20分間攪拌した後、徐々に室温まで30分間かけて昇温した。得られた反応液をHPLCで標準物質を用いる内部標準法により定量分析した結果、目的物の反応率は90%だった。
【0063】
比較例7 〈バッチによる(3−エトキシフェニル)トリメチルシランの合成〉
アルゴンガスで置換した100ml二口フラスコに3−ブロモフェネトール1.85gとTHF35mlを仕込み、ドライアイスーアセトン浴に浸して−78℃に冷却した。この中に攪拌下、n−ブチルリチウム7mlを滴下して−78℃で30分間攪拌した。次に、この中にクロロトリメチルシラン1.5gとTHF9mlの混合溶液を滴下して−78℃で20分間攪拌した後、徐々に室温まで30分間かけて昇温した。得られた反応液をHPLCで標準物質を用いる内部標準法により定量分析した結果、目的物の反応率は88%だった。
【0064】
比較例8
反応温度を0℃とした他は、比較例1と同様の条件で合成を行なった。
【0065】
比較例9
反応温度を0℃とした他は、比較例2と同様の条件で合成を行なった。
【0066】
比較例10および11
滞留時間を“Org.Process Res.Dev.,2004年8巻440頁”に記載の条件に、また反応温度を表2に記載の条件に変更した以外は実施例1と同様の操作で合成を行った。
実施例37〜50、比較例6〜11の結果を表2に示す。なお、反応率は全てHPLCで標準物質を用いる内部標準法により測定した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2の結果から、第1反応の反応温度と滞留時間を最適条件に設定することにより、バッチ合成法や公知のマイクロリアクターによる合成法よりも収率が向上することは明らかである。また、第1反応の反応温度と滞留時間を最適化すれば、第2反応がバッチ式であっても効率良く目的物を得ることが可能である。更に、本発明の方法を用いることにより、従来のマイクロリアクターでの合成法よりも滞留時間(反応時間)が短縮されるので、生産性が向上する。
【0069】
実施例51〜81
ハロゲン化合物および求電子化合物を表3、4に記載したものに変えた以外は実施例1と同様の条件で合成を行った。その結果を表3、4に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
【表4】

【0072】
【表5】

【0073】
以上の結果から以下のことが明らかである。
すなわち、熱不安定なリチウム化合物の合成法およびそれを用いた反応においては、バッチプロセスでは−78℃といった超低温冷却が必要であるのに対し、本発明のマイクロリアクターを用いた連続反応では反応温度と滞留時間を最適化することにより、超低温冷却を必要とせず、室温程度の温和な冷却条件で実施することが可能である。本製造方法は、ピリジン誘導体やキシレン誘導体の様なヘテロ環化合物にも適用可能であり、有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、本発明で用いることのできるマイクロリアクターの概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化合物とリチウム試薬とを、反応温度が−10〜40℃かつ滞留時間が0.001〜10秒の条件下でマイクロリアクターを用いて反応させることを特徴とする下記一般式(I)で表されるリチウム化合物の製造方法。
【化1】

式(I)中、Aで表される環は、芳香環、飽和環、部分飽和環又はヘテロ環を表す。
【請求項2】
滞留時間が0.001〜5秒である請求項1記載のリチウム化合物の製造方法。
【請求項3】
滞留時間が0.001〜3秒である請求項1記載のリチウム化合物の製造方法。
【請求項4】
Aで表される環がヘテロ環である請求項1記載のリチウム化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1の方法により製造したリチウム化合物を、引き続きマイクロリアクターを用いて連続して求電子化合物と反応させることを特徴とする下記一般式(II)で表される化合物の製造方法。
【化2】

式(II)中、Aで表される環は、前記と同じ意味を有する。Yは求電子基を表す。

【図1】
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【公開番号】特開2006−241065(P2006−241065A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58851(P2005−58851)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出」プログラムに係る「マイクロ分析・生産システムプロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000175607)富士フイルムファインケミカルズ株式会社 (34)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】