説明

ハンダ付け方法

【課題】ハンダ付けされる基板と半導体チップの各々の接合面に十分に水素ガスを供給することができ、かつ基板に設けられるハンダ部材の取り扱い性が良好なハンダ付け方法を提供する。
【解決手段】このハンダ付け方法は、平面部13aとこの平面部の周囲に形成された凸部13bを有するハンダシート13を形成するステップと、ハンダシートをモジュール基板11上に載置するステップと、ハンダシートの凸部の上に半導体チップ12を載置するステップと、モジュール基板と半導体チップの間の隙間に水素ガス14を通過させながら、ハンダシートが溶融する温度でモジュール基板と半導体チップを加熱するステップとを有する。これによりモジュール基板と半導体チップをハンダ付け接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハンダ付け方法に関し、特に、水素ガスによる還元反応を利用し、フラックスを使用せずにハンダ付けを行うハンダ付け方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からハンダ付けの際には、ハンダの濡れ性をよくするためにフラックスが使用されている。このフラックスは、リフロー炉内で加熱してハンダが溶融する時に当該リフローの内部や製品基板を汚染することが心配されている。フラックスを使用せずにハンダの濡れ性を高める方法としては、リフロー炉の内部に水素ガスを導入し、この水素を用いた酸素還元反応(2H+O→2HO)を利用して母材の酸化膜を除去する方法が知られている(例えば特許文献1等)。
【0003】
特許文献1に開示されたハンダ付け方法によれば、2つの接合対象物のうちの一方の接合対象物の接合面の上にハンダを配置し、当該接合面と他方の接合対象物の接合面に対して遊離基ガスを供給しながら、2つの接合対象物をハンダの溶融温度で加熱し(第1の加熱工程)、ハンダが溶融した一方の接合対象物の接合面に他方の接合対象物の接合面を重ね合わせ、継続してハンダの溶融温度で加熱し(第2の加熱工程)、その後に冷却する。このハンダ付け方法では、最初の加熱工程で、水素ラジカル等の遊離基ガスを供給することにより、ハンダの溶融でハンダに含まれる酸化物の還元が行われ、同時に接合対象物の接合面も還元して洗浄を行う。これにより、ハンダの濡れ性を良好にする。
【0004】
水素を用いた還元反応によれば、汚染物質を発生させず、水(水蒸気)のみが発生するため、環境にとって好ましい。水素による還元反応を高めるためには、ハンダを溶融させるときにハンダ付けを行う母材面に水素ガスを効率よく流す必要がある。実際上、例えば平らなハンダシートを基板と半導体チップとの間に配置する場合、ハンダシートは基板と半導体チップの各接合面に隙間なく密着するので、基板と半導体チップの各接合面に水素ガスが有効に接触しない。その結果、基板と半導体チップの各接合面で十分な還元効果を得ることができず、当該接合面の酸化物の除去を十分に行うことができないという問題が提起される。
【特許文献1】特開2004−130351公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載されたハンダ付け方法では、一方の接合対象物の接合面に配置される糸ハンダをU字状にし、2つの接合対象物を重ね合わせる時に両者の間に隙間を形成することを可能にし、接合面の還元とハンダの還元とが遊離基ガスにより良好に行われるようにしている。これによってハンダの濡れ性を向上している。しかしながら、ハンダにU字状の糸ハンダを用いているため、接合対象物である基板の所定位置に載置する際、取り扱い性が良くないという問題がある。また真空吸着等のような一般的に多用されている載置状態固定装置(マウンター)での生産設備の使用が困難となるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、ハンダ付けされる基板と半導体チップの各々の接合面に十分に水素ガスを供給することができ、かつ基板に設けられるハンダ部材の取り扱い性が良好なハンダ付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハンダ付け方法は、上記の目的を達成するため、次のように構成される。
【0008】
第1のハンダ付け方法(請求項1に対応)は、平面部とこの平面部の周囲に形成された凸部を有するハンダシートを形成するステップと、ハンダシートを基板上に載置するステップと、ハンダシートの凸部の上に半導体チップを載置するステップと、基板と半導体チップの間の隙間に水素ガスを通過させながら、ハンダシートが溶融する温度で基板と半導体チップを加熱するステップとを有し、基板と半導体チップをハンダ付け接合することを特徴とする。
【0009】
上記において、「平面部」とは一枚状のハンダシートが元々有している平坦形状の形状部分であり、「凸部」とは平面部に対して所要の高さを有する形状部分である。平面部はハンダシートの中央部に存在することが望ましいが、この位置に限定されるものではない。また凸部は平面部の周囲であってハンダシートの周辺部に形成されることが望ましいが、この位置に限定されるものではない。例えば四角のハンダシートにおいて、少なくとも1つの平面部と、当該平面部と高低差を有する少なくとも1つの凸部が形成されており、当該ハンダシートを基板と半導体チップとの間に配置するときに基板と半導体チップとの間に所要の隙間を作ることができるものであれば、任意の形状を選択することができる。
【0010】
上記のハンダ付け方法によれば、ハンダで接合される基板と半導体チップの間に配置されるハンダ部材として、基板と半導体チップの間に隙間を確保することのできる凸部を有するハンダシートを利用するため、基板と半導体チップの接合面に水素ガスを十分に流しながらハンダ溶融温度で加熱処理を行うことができる。基板と半導体チップの接合面で水素による還元反応を確実に行うことができ、これにより、フラックスを使用することなく各接合面を洗浄してフラックスを用いることなくハンダの濡れ性を高めることができる。さらにシート状のハンダ部材であるため、取り扱い性も向上する。
【0011】
第2のハンダ付け方法(請求項2に対応)は、上記の方法において、好ましくは、凸部は、四角形のハンダシートの四隅を断面が円弧状になるように湾曲させて形成され、凸部により基板と半導体チップの間に隙間を設けることを特徴とする。これによれば、ハンダシートが四角形であるので、ハンダシートに関して画像処理等による位置検出を容易に行うことができ、さらに基板上にハンダシートを載置する時に位置決めを容易に行うことができる。また円弧状の凸部を四隅に形成するようにしたため、ハンダシートの剛性を確保することができる。
【0012】
第3のハンダ付け方法(請求項3に対応)は、上記の方法において、好ましくは、凸部は、四角形のハンダシートの4辺の各々の中間部に形成され、凸部により基板と半導体チップの間に隙間を設けることを特徴とする。
【0013】
第4のハンダ付け方法(請求項4に対応)は、上記の方法において、好ましくは、ハンダシートの平面部を吸着してハンダシートを基板上に固定することを特徴とする。ハンダ部材として中央部に平面部を有するハンダシートを用いるため、当該平面部を真空吸着装置のノズルで吸着することにより、ハンダシートの載置状態を固定することができ、取り扱いが極めて容易である。さらに移載性がよく生産性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基板と半導体チップの間に配置されるハンダ部材として中央の平面部と周辺の凸部を有するハンダシートを用いるようにしたため、基板と半導体チップとの間に隙間を確実に確保することができ、基板と半導体チップの接合面に十分に水素ガスを供給することができ、水素ガス還元効果を向上することができる。これにより、フラックスを用いることなく接合面を洗浄することができ、ハンダの濡れ性を高めてハンダの接合性を高めることができる。さらに、ハンダシートの中央の平面部を利用して真空吸着装置で吸着することによりハンダシートの移載作業性を高めることができ、生産性が向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明に係るハンダ付け方法の工程(ステップ)を示している。このハンダ付け方法の工程は、モジュール基板11上に半導体チップ12をハンダ付けする工程であり、ダイボンディング工程である。このダイボンディング工程は、IGBTやダイオード等のパワーディバイスを含むパワーモジュールの生産工程において、モジュール基板11上に半導体チップ12をハンダ付けにより機械的、電気的、熱的に結合させる工程である。モジュール基板11は、電気回路構成、接地端子との絶縁構造、および高放熱構造を備えている。半導体チップ11はIGBTやダイオード等のパワーデバイスである。
【0017】
なお基板はモジュール基板11に限定されない。また半導体チップ12はパワーディバイスに限定されない。通常の基板であっても、通常の半導体チップであってもよい。
【0018】
図1において、最初の工程(A)ではハンダ部材としてのハンダシート13が用意される。ハンダシート13は、中央部に平面部13aを有し、かつ当該平面部13aの周囲には4つの角部に凸部13bが形成されるように変形されている。変形前のハンダシート13は、全体がシート状であって、平面形状が四角形の形状を有している。ハンダシート13の四角形状は半導体チップ12の接合面である底面部分とほぼ同じ形状を有している。変形を加えた後のハンダシート13は、中央の1つの平面部13aと角部の4つの凸部13bを備える。ハンダシート13は、平面部13aと凸部13bを備えることによって、平面部13aを基準にして高低差を有している。上記の凸部13bを円弧形状に成形することで、ハンダシート13の凸部13bの剛性を高め、半導体チップを載置した際の上記の高低差を確実に保持することが可能となる。
【0019】
図2〜図4にハンダシート13の実際の例を示す。図2は、ハンダシート13の平面形状を示し、図3は図2中のA−A線断面図を示し、図4は図2中のB方向矢視図を示している。四角のハンダシート13の形状は一辺がaの正方形である。aは例えば11mmである。凸部13bは円弧状の断面を有している。凸部13bに関する寸法bは例えば3mmである。ハンダシート13において、凸部13bの最も高い箇所と平面部13bとの間の寸法、すなわち高さcは例えば1.5mmである。なお図2において、平面部13aの箇所に描かれた仮想線の円13cは後述するマウンターノズルの配置位置を仮想的に示している。円13cの直径dは例えば7mmである。
【0020】
図1において、次の工程(B)では、モジュール基板11上の予め定められた上面平坦部にハンダシート13を載置する。ハンダシート13は、平面部13aがモジュール基板11の平坦部に接触した状態でモジュール基板11上に載置される。モジュール基板11に載置されたハンダシート13は、平面部13aを最下位の位置にして、凸部13bが所要の高さでモジュール基板11の平坦部から立ち上がった状態にある。凸部13bの最高点は、モジュール基板11の平坦部から所要の高さ(c)を保持している。ハンダシート13は、中央部に平面部13bを有しているため、真空吸着のマウンターノズルによる移載を確実に行うことが可能となる。
【0021】
次の工程(C)では、モジュール基板11上に載置されたハンダシート13の上にさらに半導体チップ12が載置される。半導体チップ12の底面部分は、4箇所で、ハンダシート13の凸部13bの頂点部に接触する。実際には、ハンダシート13の凸部13bの上に半導体チップ12を載置する。実際のデバイス例では、図1で示されたものより寸法の大きいモジュール基板11の上面における複数の所定箇所のそれぞれに複数の半導体チップが載置されるが、この実施形態では、説明の便宜上、モジュール基板11の上に1つの半導体チップ12のみを載置した例を示している。モジュール基板11と半導体チップ12との間には、ハンダシート13が配置されているので、例えば1.5mm程度の隙間が形成されている。
【0022】
4つの角部に凸部13bが形成されているハンダシート13は、上側から見た時に四角形状をなしているため、上記ハンダシート13上に半導体チップ12を置く際に画像処理等による形状認識が行いやすく、精度よい位置決めが可能である。
【0023】
図1で次の工程(D)では、リフロー炉内においてモジュール基板11と半導体チップ12とハンダシート13を加熱する。リフロー炉内には、工程(C)で示したセット状態で、モジュール基板11と半導体チップ12とハンダシート13が配置される。リフロー炉内での加熱工程では、モジュール基板11と半導体チップ12の間の隙間に例えば水素ガス14を導入し、当該隙間で水素ガス14を通過させながら、ハンダシート13が溶融する温度でモジュール基板11と半導体チップ12を加熱する。
【0024】
その後、図1の工程(E)に示されるように、ハンダシート13が溶融し、その結果、モジュール基板11と半導体チップ12がハンダ付けされ、接合される。
【0025】
上記のリフロー炉への搬入において、図1の工程(C)で示したセット状態は、実際にはトレイを用いて作られる。すなわち、トレイの上にモジュール基板11を置き、その上に上治具を配置し、上治具に形成された配置孔の箇所に半導体チップ12とハンダシート13を工程(C)に示した配置関係で配置し、その上に錘治具を配置し、さらに錘をセットする。この状態で、トレイはリフロー炉内に搬入される。
【0026】
ハンダシート13をトレイ上の上治具に形成された配置孔の箇所にセットするときには、真空吸着装置のマウンターノズルでハンダシート13の平面部13aを吸着することにより、ハンダシート13を移動する。
【0027】
図5を参照してハンダシートの他の具体的実施例を説明する。図5で、(A)はハンダシート23の平面形状を示し、(B)は(A)中のA1−A1線断面図を示し、(C)はB1方向矢視図を示している。ハンダシート23の平面形状はハンダシート13と同じで、正方形である。ハンダシート23は、中央領域の平面部23aと、平面部23Aの周囲に位置し正方形の4つの辺の各々の中央に形成された凸部23bとを有する。凸部23bは、尾根線の部分が45°の角度で傾斜した三角錐に類似した形状を有している。
【0028】
さらに、図6を参照してハンダシートの他の具体的実施例を説明する。図6で、(A)はハンダシート33の平面形状を示し、(B)は(A)中のA2−A2線断面図を示し、(C)はB2方向矢視図を示している。ハンダシート33の平面形状はハンダシート13と同じで、正方形である。ハンダシート33は、中央領域の平面部33aと、平面部33Aの周囲に位置し正方形の4つの辺の各々の中央に形成された凸部33bとを有する。凸部23bは、断面が湾曲形状の円弧面を有した凸部である。
【0029】
ハンダシートの他の変形例としては、次のように変形することができる。「平面部」と「凸部」は任意の個数で任意の位置に形成することができる。平面部はハンダシートの中央部に存在することが望ましいが、この位置に限定されるものではない。また凸部は平面部の周囲であってハンダシートの周辺部に形成されることが望ましいが、この位置に限定されるものではない。例えば四角のハンダシートにおいて、少なくとも1つの平面部と、当該平面部と高低差を有する少なくとも1つの凸部が形成されており、当該ハンダシートを基板と半導体チップとの間に配置するときに基板と半導体チップとの間に所要の隙間を作ることができるものであれば、任意の形状を選択することができる。例えば、ハンダシートの全体形状として、断面コの字状、単なる湾曲形状、円筒形状、あるいは球形状等であってもよい。
【0030】
以上の実施形態で説明された構成、形状、大きさおよび配置関係については本発明が理解・実施できる程度に概略的に示したものにすぎず、また数値および各構成の組成(材質)等については例示にすぎない。従って本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るハンダ付け方法は、自動車等に搭載されるパワーモジュールのモジュール基板に半導体チップをハンダ付けする場合に利用される
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るハンダ付け方法の工程(ステップ)を示す工程図である。
【図2】ハンダシートの具体的実施例を示す平面図である。
【図3】図2中のA−A線断面図である。
【図4】図2中のB方向矢視図である。
【図5】ハンダシートの他の具体的実施例を示し、(A)はハンダシートの平面図、(B)は(A)中のA1−A1線断面図、(C)はB1方向矢視図である。
【図6】ハンダシートの他の具体的実施例を示し、(A)はハンダシートの平面図、(B)は(A)中のA2−A2線断面図、(C)はB2方向矢視図である。
【符号の説明】
【0033】
11 モジュール基板
12 半導体チップ
13 ハンダシート
13a 平面部
13b 凸部
14 水素ガス
23 ハンダシート
33 ハンダシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面部とこの平面部の周囲に形成された凸部を有するハンダシートを形成するステップと、
前記ハンダシートを基板上に載置するステップと、
前記ハンダシートの前記凸部の上に半導体チップを載置するステップと、
前記基板と前記半導体チップの間の隙間に水素ガスを通過させながら、前記ハンダシートが溶融する温度で前記基板と前記半導体チップを加熱するステップとを有し、
前記基板と前記半導体チップをハンダ付け接合することを特徴とするハンダ付け方法。
【請求項2】
前記凸部は、四角形の前記ハンダシートの四隅を断面が円弧状になるように湾曲させて形成され、前記凸部により前記基板と前記半導体チップの間に前記隙間を設けることを特徴とする請求項1記載のハンダ付け方法。
【請求項3】
前記凸部は、四角形の前記ハンダシートの4辺の各々の中間部に形成され、前記凸部により前記基板と前記半導体チップの間に前記隙間を設けることを特徴とする請求項1記載のハンダ付け方法。
【請求項4】
前記ハンダシートの前記平面部を吸着して前記ハンダシートを前記基板上に固定することを特徴とする請求項1記載のハンダ付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−272554(P2009−272554A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123703(P2008−123703)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】