説明

バルブを有するマイクロ流体デバイス

【課題】 バルブを開いた状態から閉じる時の応答速度を向上させることにより、その時の逆流量を減少させ、該バルブをダイヤフラム式ポンプ機構やプランジャ式ポンプ機構の吐出側逆流防止バルブとして用いた場合に、吐出量の低下や、該ポンプ機構の駆動周波数に対する吐出量の直線性の低下を抑制すること。
【解決手段】 毛細管状の流路を有するマイクロ流体デバイスであって、前記流路の途中に該流路を遮断するための堰状構造を有し、該堰状構造部及び該堰状構造を含む近傍の領域が固着しておらず且つ流路内の流体圧力により流路を開放して流体を流通する流路開放部が設けられてなり、該流路開放部に相対する流路外部に該流路開放部を圧迫するように圧迫部材が設けられてなることを特徴とするマイクロ流体デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路を開閉するバルブが設けられたマイクロ流体デバイスに関し、より詳細には、常態では流路を遮断していて、その少なくとも一方の側の流路中の流体圧力が特定値以上になると開き、流体を流通させるバルブを有するマイクロ流体デバイス、及び、該バルブをポンプ機構の逆流防止バルブとして組み込んだマイクロ流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
流路を開閉するバルブが設けられたマイクロ流体デバイスとしては、毛細管状の流路の途上に該流路を遮断する堰状構造を設け、該堰状構造の一面は可撓性を有する部材と当接しているが固着していない構造を形成し、この構造を、常態では閉じているが、該堰状構造の少なくとも一方の側(流入側)の流路が特定値以上の圧力になると、前記可撓性を有する部材が撓んで、前記当接しているが接着していない部分に間隙が生じて、開くバルブとして機能させ得ることが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
このようなバルブは、例えばマイクロ流体デバイスに組み込まれたダイヤフラムポンプ機構やプランジャーポンプ機構の一部である吐出側逆流防止バルブとして好ましく使用され、又、マイクロ流体デバイスに接続されたポンプや圧力気体によって流体の圧力のを制御してバルブの開閉を行い、例えばマイクロ流体デバイス内のある流路から他の流路へ流体を吐出して混合する場合に好ましく使用される。
【0004】
しかしながら、該バルブの流入側流路の圧力を特定値以上にして流体を通過させた後、該圧力を常態に戻しても、流出側流路の圧力が常態に戻るためにはいくらかの時間を要するため、該バルブを即時に閉じることが出来なかった。そのため、この間に流体の一部が逆流する場合があった。従って、該バルブをマイクロ流体デバイスに組み込まれたダイヤフラム式ポンプ機構やプランジャ式ポンプ機構の吐出側逆流防止バルブとして用いた場合に、該逆流や低い応答性が原因となって、吐出量の低下や、前記バルブの駆動周波数に対する吐出量の直線性の大きな低下が生じがちであった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−139660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、バルブを開いた状態から閉じる時の応答速度を向上させることにより、その時の逆流量を減少させ、該バルブをダイヤフラム式ポンプ機構やプランジャ式ポンプ機構の吐出側逆流防止バルブとして用いた場合に、吐出量の低下や、該ポンプ機構の駆動周波数に対する吐出量の直線性の低下を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決する方法について鋭意検討した結果、毛細管状の流路を有するマイクロ流体デバイスであって、前記流路の途中に該流路を遮断するための堰状構造を有し、該堰状構造部及び該堰状構造の近傍を含む範囲が固着しておらず且つ流路内の流体圧力により流路を開放して流体を流通する流路開放部が設けられてなり、該流路開放部に相対する流路外部に該流路開放部を圧迫するように圧迫部材が設けられてなることを特徴とするマイクロ流体デバイスを提供することにより上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマイクロ流体デバイスによれば、常態では流路を遮断していて、その少なくとも一方の側の流路中の流体圧力が特定値以上になると開き、流体を流通させるバルブに流体を通過させた状態から、該流体圧力を常態に戻してバルブを閉じた状態に戻すときに、閉じるために要する時間を短縮することが出来る。これにより、バルブを開いた状態から閉じる際に、該バルブを通過した流体の一部が流入側流路に逆流する量を減少させることができる。特に、該バルブをポンプ機構の吐出側逆流防止バルブとして組み込んだマイクロ流体デバイスにおいては、流体の吐出量の向上と該ポンプの駆動周波数に対する吐出量の直線性の向上が図れる。また、マイクロ流体デバイスが特定圧力以上で開くバルブを有する場合において、マイクロ流体デバイスに接続した外部ポンプなどによる流体圧力の制御によって、ある流路から上記バルブを通して他の流路へ流体を吐出する場合には、定量性の向上が図れる上、該バルブの開く圧力を高く設定した場合にも、該圧力を掛けた際に通過の圧力損失が小さく、大きな流量で流体を通過させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のマイクロ流体デバイスの基本構造を図1に示す。本発明のマイクロ流体デバイス(101)は、毛細管状の流路(5)を有し、該流路の途中に流路を遮断するための堰状構造(6)を有する。また、該堰状構造(6)及び該堰状構造(6)を含む近傍領域が固着しておらず且つ流体内の流体圧力により流路を開放して流体を流通する流路開放部(15)が設けられてなり、該流路開放部に相対する流路外部に該流路開放部を圧迫するように圧迫部材(51)が設けられてなるものである。
【0010】
前記圧迫部材(51)は、堰状構造(6)方向に弾性力を付勢するものであり、該圧迫部材(51)が装着されたバルブを有する本発明のマイクロ流体デバイス(101)は、常態においては堰状構造(6)により、流路(5)は流路(5a)と流路(5b)に分断されており、流路(5a)と流路(5b)との間に流体は流通しない。
しかし、流路の少なくとも一方、例えば流路(5a)の流体圧力を特定値以上とすることにより、圧迫部材(51)の押圧力に抗して流路開放部(15)が開放されて流路(5a)と流路(5b)が連絡し、流路(5)中を流体が流通するものである。
【0011】
本発明のマイクロ流体デバイスは、前記流路開放部(15)に相対する流路外部に圧迫部材(51)を設けることにより、流路開放部(15)の開放圧力や、流路(5)中を流通する流体の流量を適宜調節することが可能である。
【0012】
以下、本発明のマイクロ流体デバイスについて、詳細に説明する。
[マイクロ流体デバイス本体]
本発明のマイクロ流体デバイスの外形は任意であり、例えば、板状、シート状、棒状、塊状などであり得るが、板状またはシート状であることが、本発明の構造を形成しやすく、又使用も容易であるため、好ましい。「シート状」には、類似の構造、例えばフィルム状やリボン状を含むものとする。
【0013】
該マイクロ流体デバイスは、毛細管状の流路を有する。該毛細管状の流路は、マイクロ流体デバイスを構成する部材表面に略平行に設けられていることが好ましい。当該毛細管状の流路を有する構造としては、流路となる溝を有する板状の部材の溝形成面に、シート状の部材が固着された構造、流路となる溝を有するシート状の部材の溝形成面に、板状の部材が固着された構造、または、流路となる溝を有するシート状の部材の溝形成面に、シート状の部材が固着された構造であることが製造が容易であり好ましい。
【0014】
マイクロ流体デバイスの素材は、後述の流路開放部以外は特に制約はなく、使用可能なものとしては、例えば、有機重合体(以下、単に[重合体」又は「樹脂」と称する。又、これにはシリコン樹脂も含める)、ガラス、石英の如き結晶、岩石やセラミックなどの多結晶或いは非晶性無機物、シリコンの如き半導体、金属などが挙げられるが、これらの中でも、易成形性、高生産性、低価格などの点から重合体が特に好ましい。
【0015】
重合体は、単独重合体であっても、共重合体であっても良く、また、熱可塑性重合体であっても、熱硬化性重合体であっても良い。生産性の面から、前記重合体は、熱可塑性重合体又はエネルギー線硬化性の架橋重合体であることが好ましい。
【0016】
好ましく使用できる重合体としては、例えば、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、ポリスチレン/マレイン酸共重合体、ポリスチレン/アクリロニトリル共重合体の如きスチレン系重合体;ポルスルホン、ポリエーテルスルホンの如きポリスルホン系重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルの如き(メタ)アクリル系重合体;ポリマレイミド系重合体;ビスフェノールA系ポリカーボネート、ビスフェノールF系ポリカーボネート、ビスフェノールZ系ポリカーボネートなどのポリカーボネート系重合体;
【0017】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1の如きポリオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデンの如き塩素含有重合体;酢酸セルロース、メチルセルロースの如きセルロース系重合体;ポリウレタン系重合体;ポリアミド系重合体;ポリイミド系重合体;ポリ−2,6−ジメチルフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイドの如きポリエーテル系又はポリチオエーテル系重合体;ポリエーテルエーテルケトンの如きポリエーテルケトン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレートの如きポリエステル系重合体;エポキシ樹脂;ウレア樹脂;フェノール樹脂;ポリ四フッ化エチレン、PFA(四フッ化エチレンとパーフロロアルコキシエチレンの共重合体)などのフッ素系重合体、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン系重合体;本発明で使用するエネルギー線硬化性組成物の硬化物等が挙げられる。
【0018】
マイクロ流体デバイスを複数の部材を固着して形成する場合には、これらの中でも、接着性が良好な点などから、スチレン系重合体、(メタ)アクリル系重合体、ポリカーボネート系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリエステル系重合体が好ましい。また、流路を構成する部材(後述する部材(A)(3))は、エネルギー線硬化性樹脂の硬化物であることも好ましい。該流路を構成する部材は、ポリマーブレンドやポリマーアロイで構成されていても良いし、積層体その他の複合体であっても良い。さらに、任意の添加剤の添加や表面処理を行っても良い。
【0019】
マイクロ流体デバイスやその部材の形成方法は任意であり、例えば、フォトリソグラフ法、エネルギー線硬化性組成物を用いたパターン露光法、射出成形、溶融レプリカ法、溶液キャスト法、エネルギー線硬化性組成物を用いたエネルギー線硬化性組成物を用いたキャスト成型法、欠損部を有するシートの積層固着法、光造形法などにより製造できる。光造形法とは、エネルギー線硬化性組成物の未硬化層にレーザー光線などの活性エネルギー線をパターニング照射し、未照射部分の未硬化の活性エネルギー線硬化性組成物を除去すること無く、その上に活性エネルギー線硬化性組成物の第2層を置き(或いは活性エネルギー線硬化性組成物の液面下に、第2層の厚みとなる深さだけ第1層を沈め)第2層に活性エネルギー線をパターニング照射し、この工程を繰り返して立体構造を形成する方法を言う。
【0020】
マイクロ流体デバイスはいくつかの部材を固着して作製することも出来る。例えば、流路となる溝を有する部材をフォトリソグラフ法、射出成型法などの上記の方法で作製し、該部材の溝形成面に、シート状の部材を固着する方法も好ましい。又、上記溝を有する部材は、特許文献1に記載されているように、エネルギー線硬化性組成物を用いたパターン露光法により、溝の底となる層や溝の側壁となる層を順次積層して形成することも好ましい。
【0021】
[流路]
流路は、少なくともバルブとなす部分付近において、部材表面に略平行に設けられている。該流路は、バルブとされる部分付近において、マイクロ流体デバイスの外部から流路壁を構成する部材が圧迫されることによって、流路の断面積が減少しうる深さに形成される。該流路の断面積は任意であるが、好ましくは1μm〜10mm、さらに好ましくは10μm〜1mm、最も好ましくは100μm〜0.1mmである。流路断面の形状も任意であり、円、矩形、台形、半円形、スリット状など(但し、上記の内、角のある実施態様は角の丸まった実施態様を含む。以下同じ)であり得る。流路は、マイクロ流体デバイスの他の機構の流路と連続して形成することが出来る。
【0022】
該流路は、堰状構造部や流路開放部の設計や製造が容易であることから、後述のように、流路となる溝(凹部)を有する部材と部材を固着することにより、該溝と蓋となる部材とで形成することが出来る。
【0023】
[堰状構造、流路開放部]
本発明のマイクロ流体デバイスは、流路途中に該流路を遮断するための堰状構造、及び該堰状構造部及び該堰状構造部近傍の範囲に流路内の流体圧力により流路を開放して流体を流通する流路開放部を有する。また、該流路開放部に相対する流路外部に流路開放部を圧迫するように圧迫部材が設けられている。以下、該堰状構造と流路開放部とから構成される部分をバルブ本体、該バルブ本体と圧迫部材とから構成される部分をバルブと称する。
【0024】
流路を遮断するための堰状構造は、圧迫部材により圧迫された状態、且つ流路内の流体がマイクロ流体デバイスが設置された雰囲気の圧力である状態(以下、該状態を常態と称する。)で流路を分断して流路を遮断する構造であり、流路の内表面と一体化された部分と、圧迫部材により圧迫された状態で流路の内表面に当接しているが固着していない部分(以下、該部分を当接部と称する。)を有するものである。
【0025】
また、流路開放部は、上記堰状構造の当接部とその周囲に形成された非固着部とからなり、該非固着部は、圧迫部材により圧迫された状態で、常態においては間隙寸法がゼロの空隙部である。上記流路開放部は、常態では圧迫部材により流路を遮断している状態であるが、流路内の流体の加圧により堰状構造及び/又は流路構成部材を変形させ、前記当接部および前記非固着部に間隙を生じて流路を開放して流体を流通する部分である。
【0026】
上記流路開放部の具体例としては、流路となる凹部と、該凹部の途中に形成された流路を遮断する堰状構造となる凸部とを有する部材(A)と、前記凹部の蓋となる部材(B)とが、前記凸部及び凸部の近傍領域が固着しないように張合わされることにより形成された構造が好ましい例として挙げられる。該構造の場合には、部材(A)中の凸部は形成された流路を途切れさせて2つに分ける堰状構造を形成する。また、前記部材(B)の流路と対向する外壁面及び/又は部材(A)の前記堰状構造およびその近傍領域に相対する外壁面に、前記圧迫部材を有することによりマイクロ流体デバイスにバルブが構成される。該流路開放部は、圧迫部材により圧迫された状態で流路を遮断すればよく、圧迫部材が無い状態では当接していても、空隙を有していてもよい。
【0027】
上記構造においては、前記部材(B)の流路と対向する外壁面に圧迫部材を有する場合には、部材(A)の弾性率と厚みの積を、部材(B)の弾性率と厚みの積より高くし、バルブを開とする際、部材(B)側を変形させる。一方、部材(A)の前記堰状構造およびその近傍領域に相対する外壁面に圧迫部材を有する場合には、部材(A)の弾性率と厚みの積を、部材(B)の弾性率と厚みの積より低くし、バルブを開とする際、部材(A)側を変形させる。
【0028】
上記部材のうち弾性率と厚みの積を低くする部材の引っ張り弾性率は1MPa〜10GPaが好ましく、10MPa〜1GPaがさらに好ましく、10MPa〜300MPaが最も好ましい。該部材の厚みは、好ましくは1〜3000μm、更に好ましくは5〜1000μm、最も好ましくは10〜500μmである。この範囲未満では製造が困難となり、この範囲を越えると、マイクロでデバイスとしての利点が減少する。また、該部材は、引っ張り弾性率と厚みの積が、1kPa・m〜300kPa・mが好ましく、2kPa・m〜100kPa・mがさらに好ましく、5kPam〜50kPamが最も好ましい。この範囲とすることで、本発明の効果が十分に発揮される。
【0029】
一方、上記部材のうち他方の部材の引っ張り弾性率、厚み、及び引っ張り弾性率と厚みの堰については任意であるが、張り弾性率を300MPa〜100GPa、厚みを0.1mm〜10mm、引っ張り弾性率と厚みの積が、1MPa・m〜1GPa・mとすることも好ましい。この範囲とすることで該他方の部材及びマイクロ流体デバイスが剛直となり、マイクロ流体デバイスの取り扱い性が向上する。
【0030】
マイクロ流体デバイス表面から見た、堰状構造の当接部の面積は、好ましくは1μm〜10mm、さらに好ましくは10μm〜1mmである。堰状構造の寸法は、流路の寸法により好適な寸法が異なるが、この範囲とすることによって、本発明の硬化を発揮させることが出来る上、製造も容易となる。
【0031】
上記堰状構造の当接部を含む流路開放部の面積は、上記当接部の面積の2〜100倍であることが好ましく、2〜30倍であればさらに好ましく、3〜10倍であれば最も好ましい。流路開放部の面積を上記範囲の下限以上とすることにより、バルブが開の状態にある時に、流れる流量が多くなる。また、流路開放部の面積を上記範囲の上限以下とすることにより、バルブが閉じる速度を速くすることが出来る。
【0032】
また、前記堰状構造近傍の流路の幅は、その他の部分と同じであっても良いし、変化していても良い。堰状構造付近で幅を広げることによって、開となる圧力を低下させることができ、また、バルブ開時に生じる間隙を流れる流体の剪断速度を低下させることができるため、タンパク質などの生化学物質の溶液に適用する場合に好ましい。また、前記流路の高さも、前記堰状構造付近でその他の部分と同じであっても良いし、変化しても良い。
【0033】
ここで、上記バルブ本体の好ましい態様の具体例につき、本発明のマイクロ流体デバイスに組み込んだ態様で以下に例示する。
〔第一実施態様〕
図2に示されるように、該堰状構造(6)が、圧迫部材(51)により圧迫される部材表面(11)に最も近い側の流路内面(13)に於いて該流路内面(13)に当接しているが固着していない場合(以下、これを「バルブ本体の第一実施態様」と称することにする)には、流路(5)の途中に該流路(5)を遮断する堰状構造(6)が設けられており、該堰状構造(6)の頂部(6a)が流路内面(13)に当接している。さらに、該当接部及びその近傍領域において、堰状構造(6)が形成された部材(A)と流路内面(13)が形成された部材(B)は、当接しているが固着していない流路開放部(15)を形成している。
【0034】
部材(A)と部材(B)の固着が接着や粘着である場合には、部材(A)と部材(B)は、前記流路開放部(15)となす部分において、硬化した接着剤層、或いは粘着力を喪失した粘着剤層を介して互いに当接していることになるが、これらを介さず直接固着している場合と実質的に同等であるため、本発明においては厳密に区別せずに説明する。流路開放部(15)の面積は、前記堰状構造(6)の面積以上であり、好ましくは前記堰状構造(6)の面積の2〜100倍、さらに好ましくは2〜30倍、最も好ましくは3〜10倍である。流路開放部(15)の面積を上記範囲の下限以上とすることにより、バルブが開の状態にある時に、流れる流量が多くなる。また、流路開放部(15)の面積を上記範囲の上限以下とすることにより、バルブが閉じる速度を速くすることが出来る。
【0035】
流路内面(13)を構成する部材は少なくとも流路開放部(15)付近において、撓み得る硬度と厚みを有しており、堰状構造(6)の少なくとも一方の側の流路内の圧力が高くなると、流路内面(13)を構成する部材は、流路(5)の直径を増す側に撓んでふくらみ、堰状構造(6)の頂部(6a)と当接部(12a)間に間隙を生じ、堰状構造(6)の両側の流路が連絡して、流体を流通させることができる。固着部(15)が堰状構造(6)の頂部(6a)と当接部(12a)の近傍領域を含む場合にも、同様に、流路開放部(15)に間隙を生じ、堰状構造(6)の両側の流路が連絡して、流体を流通させることができる。
【0036】
圧迫部材(51)は流路内面(13)を構成する部材側から前記流路開放部を圧迫するように固定される。よって、流路開放部(15)付近において、流路壁(12)の内面(13)の裏側の表面(11)側は、流路壁(12)が撓み得る空間となっているか、或いは、マイクロ流体デバイスの外表面となっている。該空間や外表面には、圧迫部材(51)が装着される。
【0037】
部材表面(11)から流路(5)までの距離、即ち、流路壁(12)の厚みは、流路内の圧力によって流路壁(12)が撓み、堰状構造を越えて流体を流通させることが出来れば特に限定する必要はないが、該流路壁(12)を構成する素材の引っ張り弾性率が高い場合には薄く、低い場合には厚くすることが好ましい。
【0038】
流路壁(12)を構成する素材の引っ張り弾性率は1MPa〜10GPaが好ましく、10MPa〜1GPaがさらに好ましく、10MPa〜300MPaが最も好ましい。該流路壁(12)の厚みは、好ましくは1〜3000μm、更に好ましくは5〜1000μm、最も好ましくは10〜500μmである。この範囲未満では製造が困難となり、この範囲を越えると、マイクロでデバイスとしての利点が減少する。そして、流路壁(12)は、引っ張り弾性率と厚みの積が、1kPa・m〜300kPa・mが好ましく、2kPa・m〜100kPa・mがさらに好ましく、5kPam〜50kPamが最も好ましい。この範囲とすることで、本発明の効果が十分に発揮される。
【0039】
上記のような流路壁(12)は、少なくとも上記流路開放部(15)付近で上記の範囲であればよいが、流路壁(12)を含むような、マイクロ流体デバイスの外面の少なくとも一つの面全体を形成していることが、製造の工程数が少なくなり好ましい。
【0040】
上記の、バルブ本体が第一実施態様である場合の典型的な具体例としては、溝(5)を有する剛直な部材(以下、部材(A)と称する)の溝形成面に、柔軟な流路壁(12)を有する部材(以下、部材(B)と称する)が固着された構造を示すことが出来る。該溝(5)は、前記堰状構造(6)となる部分、即ち、溝(5)が形成されていない部分でもって途切れ、二つの部分、溝(5a)と溝(5b)に分けられている。ている。そして、前記部材(B)は、堰状構造(6)に当接している部分(及びその近傍領域)において、部材(A)と接触しているが固着していない流路開放部(15)とされ、それ以外の部分において部材(A)と固着されていて、前記溝(5)は毛細管状の流路(5)とされている。そして、これらの流路(5)、堰状構造(6)、流路開放部(15)、および流路壁(12)によってバルブ本体が形成されている。
【0041】
〔第二実施態様〕
一方、前記堰状構造(6)が、圧迫部材(51)により圧迫されている部材表面(11)から最も遠い側の流路内面(14)に当接しているが固着していない場合(以下、これを「バルブ本体の第二実施態様」と称することにする)には、流路(5)内の流体の圧力によって撓むのは、堰状構造が当接している流路壁ではなく、堰状構造(6)が設けられている部材であるところが、前記第一実施態様とは異なる。
【0042】
従って、本第二実施態様の典型的な具体例においては、部材(B)が、少なくとも流路開放部(15)付近において撓み得る硬度と厚みを有するような、例えばシート状の部材であり、堰状構造(6)は部材(B)に固着して形成される。一方、部材(A)は例えば板状のように剛直な部材とされ、堰状構造(6)は部剤(5)に当接している。そして、前記引っ張り弾性率や厚みなど、変形する側と変形しない側について記述した内容は、変形する側の部材に堰状構造(6)が形成されていること以外は、前記第一実施態様の説明と同様である。本第二実施態様の典型的においても、圧迫部材(51)は部材(B)側に装着される。
【0043】
〔第三実施態様〕
さらに、部材表面から最も近い側と遠い側の両方の流路内面に於いて流路内表面に当接しているが固着していない場合(以下、これを「バルブ本体の第三実施態様」と称することにする)の構造は、上記バルブ本体の第一実施態様と第二実施態様の双方を併せ持つ実施態様である。
【0044】
このようなバルブ本体の第三実施態様の典型的な構造は、シート状の部材[以下、部材(B’)と称する]とシート状の部材[以下、部材(B”)と称する]でもって、部材の表裏を貫通する流路となる欠損部と堰状構造となる非欠損部を有する板状の部材[以下、部材(A’)と称する]を挟持して、前記堰状構造部分(及びその近傍領域)以外の部分においてこれら3部材が固着された構造を示すことが出来る。この場合は、前記堰状構造が形成された部材(B’)および部材(B”)の、堰状構造に相当する部分及びその近傍領域が流路開放部となること以外は前記の場合と同様である。本第三実施態様の典型的においては、圧迫部材(51)は部材(B’)側と部材(B”)側の両方に装着される。
【0045】
勿論、上記の各実施態様に於いて挙げた構造は一例であって、その他に、部材(B)、(B’)、(B”)が、部材全体がシート状ではなく、堰状構造(6)と当接する部分(及びその近傍領域)のみにシート状部分を持つ部材である場合、全構成部材(A)がシート状などの柔軟なものである場合等があり得る。
【0046】
[圧迫部材]
本発明のマイクロ流体デバイスは、流路開放部に相対する位置に、該部分を弾性力で押圧している状態で固定された圧迫部材を有する。
【0047】
本発明においては、流路開放部に相対する位置に該圧迫部材を装着することによって、常態において、前記堰状構造の当接部の当接圧力をゼロを超える任意の圧力に調節することが出来る。これにより、マイクロ流体デバイスが置かれた雰囲気圧力を超える任意の圧力で開くバルブを構成することが出来るし、流入側流路の圧力を常態に戻した際、当接部の間隙が小さくなるにつれ当接圧力もちいさくなりゼロに近づくことを避けられるため、バルブを素早く閉じることが出来る。
【0048】
圧迫部材は、固定部、弾性部、及び押圧部を有する。これらは互いを兼ねていても良い。
【0049】
固定部は、マイクロ流体デバイスの前記流路開放部以外の部分に於いてマイクロ流体デバイスに固定される部分である。固定部をマイクロ流体デバイスのどの位置に固定するかは任意であり、流路開放部を圧迫する表面を持つ部材に固定されることが好ましいが、他の部分でも良い。固定部の形状も任意であり、例えば、流路開放部を囲む枠状や筒状、流路開放部を囲むU字状やコの字状、その他矩形や円などであり得る。固定部は複数の部分でマイクロ流体デバイスに固定されていても良い。
【0050】
弾性部の形状や付勢方式は任意であり、弾性体の曲げ、延び、縮み、ねじり変形などの弾性力や、ゴムなどの圧縮変形の弾性力、空気バネなどの体積弾性力を使用したものであり得る。弾性素材としては、金属、重合体、ガラスなどを好ましく用い得るが、金属又は重合体がさらに好ましい。弾性部の構造も任意であり、弾性体を利用した構造としては、コイルバネ、タケノコバネ、ゼンマイ状のバネ、板バネ、棒バネ、皿バネ、トーションバー等であり得る。これらの中で、重合体製の板バネが、押圧する圧力を好適な範囲に調節することが容易な上、構造が簡単で製造が容易なため好ましい。また、弾性部のストロークを大きく採り、流路開放部が変形する範囲で、押圧部材が押圧する圧力の変化はなるべく小さいことが、本バルブが効果を発揮する上で好ましい。
【0051】
押圧部は流路開放部の流路壁に接触して、該流路壁を押圧する部位である。押圧部の素材は任意であるが、ゴムやエラストマーなどの柔軟な素材を用いることも、本押圧部材の製造精度の許容量が広くなり好ましい。押圧部の形状は任意であり、例えば平面状、凸面状など、であり得るが、ゴムやエラストマーなどの柔軟な素材を使用した場合には、流路開放部の変形形状に応じて自動的に変形するため、形状の製作誤差は大きくても良い。また、押圧部の寸法は、前記流路開放部を圧迫することが出来る寸法であれば任意であり、前記流路開放部全体を圧迫可能な寸法が好ましいが、それよりやや小さくても良い。
【0052】
ここで、上記圧迫部材の具体例を以下に例示する。圧迫部材の具体例としては、図2や図5に示されるような板バネ状の部材、あるいは図6に示されるようなコイルバネ状の部材などが挙げられる。図3の圧迫部材(51)は、金属板や樹脂板からなるものであり、平面視で周部が固定部(52)となっており、中心部(54)の円形部分に、円板から成る押圧部(55)が接着されている。この押圧部(55)と固定部(52)との中間部(53)はスリット状の切れ込みが設けられ、板の弾性を利用したバネ(板バネ)(53)となっている。
【0053】
また、図5の圧迫部材(51)も金属板や樹脂板により形成されており、一端が固定部(52)となっており、他端(56)に、円板(55)が接着され、押圧部(55)とされている。この他端(56)と固定部(52)の中間部(53)はアーム状であり、板の弾性を利用したバネ(板バネ)(53)となっている。
【0054】
また、図6は、圧迫部材(51)は、固定部(52)が上面に蓋の付いた円筒状であり、押圧部(55)となる円板(55)は、ピアノ線等によるバネ(コイルバネ)(53)により、固定部(52)の蓋を支点として、下方に付勢する構造となっている。
【0055】
押圧部が流路開放部を圧迫する範囲は、流路開放部の面積より小さくても、同じでも、大きくても良く、目的により任意に設定できるが、流路開放部の面積より大きく、流路開放部を含む範囲であることが、バルブを閉じた際のリークが少なくなり好ましく、流路開放部よりやや広い範囲であることが、無駄が無く、さらに好ましい。
【0056】
押圧部を押圧する圧力はゼロを超える値であれば任意であり、その下限は、好ましくは20kPa以上、さらに好ましくは50kPa以上、最も好ましくは100kPa以上であり、押圧圧力の上限は、目的に応じて、マイクロ流体デバイスの破壊を招かない範囲で任意の値とすることが出来るが、一般には10MPa以下が好ましく、5MPa以下がさらに好ましく、2MPa以下が最も好ましい。特に、マイクロ流体デバイスが重合体で形成されている場合には、3MPa以下が好ましく、1MPa以下がさらに好ましく、500kPa以下が最も好ましい。なお、ここで言う押圧圧力とは、押圧する力を前記流路開放部(15)の面積で除した値とする。圧迫部材の押圧圧力をこのように設定することにより、本発明のバルブが開く圧力を、例えば10kPa〜10MPaとすることが出来る。
【0057】
[製造方法]
以下、バルブ本体が前記第一実施態様の場合について説明する。第二実施態様の場合や第三実施態様の場合についても同様の方法により製造が可能である。このような構造のマイクロ流体デバイスの製造方法として、部材(A)と部材(B)を固着する方法は任意であり、例えば接着剤による接着、融着、粘着、半硬化状態とした部材(A)及び/又は部材(B)を接触させた状態で完全硬化させることによる固着などであり得る。
【0058】
前記半硬化した状態で固着する方法は、例えば、前記特許文献1に記載されている。即ち、板状の基材の上に塗布したエネルギー線硬化性組成物の塗膜に流路となる部分を除いて紫外線を不十分な量だけパターン照射することによって、該塗膜の照射部を、流動性は喪失するが接着性は残存している半硬化物とし、該半硬化した塗膜の堰状構造となる部分に選択的に紫外線を照射して照射部分の前記組成物を完全硬化させて非接着性とした部材(A)を作製する。他方、シート状の一時的な支持体上に前記流路開放部を完全硬化、それ以外の部分を半硬化させた部材(B)を形成し、前記部材(A)に位置を合わせて積層し、さらにエネルギーを照射して、両部材を硬化させると共に互いに固着し、前記流路開放部(15)のみを非接着部位として残したマイクロ流体デバイスを形成することができる。
【0059】
部材(A)と部材(B)を固着するにあたり、当接しているが接着していない部分を形成する方法は任意であるが、例えば、接着を抑制する物質を非接着とする部分に塗布しておく方法、接着剤としてエネルギー線硬化性の接着剤を用い、非接着とする部分のみにあらかじめエネルギー線を照射して硬化させ、接着性を喪失させておく方法、エネルギー線硬化性樹脂で形成した半硬化状態の部材(A)及び/又は部材(B)の、非接着とする部分のみにあらかじめエネルギー線を照射して接着性を喪失させておき、積層後エネルギー線照射により部材(A)と部材(B)を互いに固着する方法、などにより実施できる。
【0060】
上記の接着を抑制する物質としては、粘稠液体(溶液を含む)や、溶解洗浄可能な固体やワックス状物質を挙げることができる。粘稠液体としては、例えば、液状ポリエチレングリコール、グリセリン、界面活性剤、ポリエチレングリコール水溶液、ポリビニルピロリドン水溶液、ポリビニルアルコール水溶液など等の親水性液体、流動パラフィン、ワックス、シリコングリースなどの疎水性液体を例示できる。
【0061】
前記部材(A)と部材(B)を接着剤により接着する場合に接着剤を塗布する方法としては、部材(A)の欠損部として漏洩のない流路を形成でき、かつ、接着剤により流路が閉塞しない方法であれば任意であり、例えば、スピンコート、ディッピング、スプレー、刷毛塗り、印刷法、他の支持体上に塗布した接着剤の転写法などを利用できるが、薄い接着剤層が形成可能で、部材表面に欠損部があってもそれを閉塞しないスピンコート法が好ましく、また、接着剤を溶剤で希釈する方法が好ましい。
【0062】
部材(A)や部材(B)を構成する素材や、接着剤に紫外線硬化樹脂を使用する場合には、硬化に用いることのできる活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線、レーザー光線、放射光の如き光線;エックス線、ガンマ線、放射光の如き電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線の如き粒子線が挙げられる。これらの中でも、取り扱い性や硬化速度の面から紫外線及び可視光が好ましく、紫外線が特に好ましい。硬化速度を速め、硬化を完全に行う目的で、活性エネルギー線の照射を低酸素濃度雰囲気で行うことが好ましい。低酸素濃度雰囲気としては、窒素気流中、二酸化炭素気流中、アルゴン気流中、真空又は減圧雰囲気が好ましい。
【0063】
形成したマイクロ流体デバイスは、穿孔、切断などの後加工することも可能である。また、一つのマイクロ流体デバイスに、他の機構と一体化して形成することが好ましく、一枚の部材に多数のマイクロ流体デバイスを同時に作成することも生産効率面で好ましい。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「部」は、特に断りがない限り、「質量部」を表す。
【0065】
[実施例1]
本実施例は上記の第一実施態様を実施した例である。
〔マイクロ流体デバイスおよびバルブ本体〕
【0066】
本実施例では、前記した図2に示す態様のマイクロ流体デバイスを作製した。該マイクロ流体デバイス(101)は板状の部材(A)とシート状の部材(B)、および、圧迫部材(51)を主な構成要素とするものである。
【0067】
部材(A)は75mm×25mm×厚さ1.2mmであり、その一面に幅300μmの溝(5)を形成した。溝(5)は、該溝の底面に固着して形成した、堰状構造(6)となる凸部(6)により、長さが各25mmの溝(5a)と溝(5b)に分断される。凸部(6)は、流路方向の長さを300μm、高さを、溝の深さと同じ100μmとし、流路方向に対する幅は流路(5)の幅と同じであり、凸部(6)の側面は流路(5)側壁に固着させる。
【0068】
更に詳細には、部材(A)は、厚み1mmの基板(1)に、厚さ約0.1mmの樹脂層(2)と厚さ約0.1mmの樹脂層(3)が固着した積層体として構成した。樹脂層(3)には流路(5)となる、該樹脂層(3)の表裏を貫通した幅300μmの欠損部(5)を形成した。樹脂層(2)の欠損部(5)は、凸部(6)となる樹脂層(2)の非欠損部(6)により、長さ各25mmの二つの欠損部(5a)、(5b)に分断される。樹脂層(3)を樹脂層(2)と積層して固着することにより、該欠損部(5)を部材(A)の溝(凹部)(5)とし、欠損部(5a)、(5b)を、溝(5a)と溝(5b)とし、非欠損部(6)は堰状構造(6)となる凸部(6)とした。即ち、溝(5)は、底面が樹脂層(2)、側壁が樹脂層(3)で形成し、凸部(6)は底面が樹脂層(2)に固着され、側壁は樹脂層(3)と一体化させた。
【0069】
部材(B)は、厚さ約50μmの、弾性変形可能な紫外線硬化樹脂(引っ張り弾性率約580MPa、破断伸び率約7.2%)で、樹脂層(4)として形成した。部材(B)には、図2に示すように、直径約500μmの貫通孔(7)、(8)を形成し、該貫通孔(7)、(8)をそれぞれ囲む位置に、外径6mm、高さ6mmのポリスチレン製の円管(9)、(10)を接着した。
【0070】
部材(A)と部材(B)とを互いに固着し、溝(5)は幅約300μm、高さ約100μmの毛細管状の流路(5)となし、部材(B)即ち樹脂層(4)の流路(5)に相対する部分は流路壁(12)とした。該流路(5)は堰状構造(6)により約300μmの間隔をあけて、各長さ約25mmの二つの流路(5a)、(5b)に分断した。ただし、堰状構造(6)の頂部(6a)は流路(5)の上部内面(13)に当接しているが固着していない。また、堰状構造(6)を中心とした直径約600μmの円形の近傍部分においては、部材(A)と部材(B)は互いに当接しているが固着されていない流路開放部(15)とした。
【0071】
以下、具体的に上記各工程を説明する。
部材(A)は、以下の製造方法により作製される。厚さ1mmのアクリル樹脂(引っ張り弾性率は約3.5GPa)製の基板(1)の上に、平均分子量約2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(大日本インキ化学工業株式会社製の「ユニディックV−4263」)を60部、ヘキサンジオールンジアクリレート(HDDA,東京化成(株)製)を40部、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(n=17)アクリレート(第一工業製薬株式会社製の「N−177E」)を20部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバガイギー社製の「イルガキュア184」)を5部、及び、重合遅延剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(DMP,関東化学株式会社製)を0.1部を均一に混合したエネルギー線硬化性組成物(X)(硬化物の引っ張り弾性率は約580MPa、破断伸び率約7.2%)をスピンコーターにて塗布し、紫外線照射により半硬化させて樹脂層(2)となす。
【0072】
樹脂層(2)の上に前記組成物(X)をスピンコーターにて塗布し、紫外線をパターン露光して半硬化させて樹脂層(3)となし、未照射部の未硬化の該組成物をエタノールで洗浄除去して、該樹脂層(3)の表裏を貫通する欠損部(5a)および(5b)として、溝(5a)および溝(5b)を形成する。この部材を部材(A)とする。
【0073】
部材(B)の作製、及び部材(A)と部材(B)の固着は下記の方法によりなされる。表面コロナ処理した二軸延伸ポリプロピレン・フィルム(OPPフィルム)製の一時的な支持体(図示略)上に、前記エネルギー硬化性組成物(X)をスピンコーターにて塗布し、紫外線を照射して半硬化させて部材(B)である樹脂層(4)となし、該樹脂層(4)の流路開放部(15)となす部分に紫外線をパターン露光して該部分を完全硬化させて非接着性とし、該流路開放部(15)を前記部材(A)の堰状構造(6)に中心を合わせて積層し、紫外線を照射して、樹脂層(4)を部材(A)に固着し、前記一時的な支持体を剥離除去した。その後、ドリルにて 該貫通孔(7)、(8)を開け、ポリスチレン製の円管(9)、(10)をエポキシ系接着剤にて接着し、バルブ本体を有するマイクロ流体デバイス(100)を得る。なお、本実施例に於いて、マイクロ流体デバイス(100)の部材(B)の厚さとそれを構成する素材の引っ張り弾性率との積は、29kPa・mである。
【0074】
〔圧迫部材〕
圧迫部材(51)は、厚さ0.5mmのハイインパクトポリスチレン(HIPS、大日本インキ化学工業(株)製、引っ張り弾性率3.1GPa、破断伸び率2%)の板で形成したものであり、周部を固定部(52)としており、中心部(54)の直径約2
mmの円形部分に、同じくHIPS製の直径約2mmの円板(55)が接着され、押圧部(55)としている。この中心部(54)と固定部(52)の中間部(53)は、図3に示したようなスリット状の切れ込みを設け、HIPS板の弾性を利用したバネ(板バネ)による弾性部(53)としている。
【0075】
上記の圧迫部材(51)は、上記HIPSの板をレーザー加工により切り抜きとスリット形成を行い、同じくHIPSの板をレーザー加工により切り抜いた押圧部(55)をシリコーン系接着剤で接着して作製した。
【0076】
〔バルブを有するマイクロ流体デバイス〕
圧迫部材(51)は、中心部(54)の押圧部材(55)の中心を、マイクロ流体デバイス(101)の流路開放部(15)の中心に合わせて、固定部(52)にて前記部材(B)の表面にエポキシ系接着剤で接着した。このとき、押圧部(55)の下面の高さが部材(B)の表面(11)の位置と一致するようにしているため、前記バネ部(53)は撓んで、押圧部(55)を部材(B)方向に弾性力で付勢した状態で固定されている。なお、圧迫部材(51)が部材(B)を圧迫する力は、約0.076Nでであり、この力を流路開放部(15)の面積で除した圧力は、約270kPaであった。
【0077】
この圧迫部材(51)が装着されたバルブを有するマイクロ流体デバイス(101)は、常態において、堰状構造(6)及びその近接領域が流路開放部(15)において流路壁(12)の内表面(11)に当接して流路(5)を遮断し、流路(5)を流路(5a)と流路(5b)に分断しているため、流路(5a)と流路(5b)との間に流体は流通しない。なお、本実施例に於いて、部材(B)の厚さとそれを構成する素材の引っ張り弾性率との積は、29kPa・mである。
【0078】
[使用試験]
幅12mm、奥行き6mm、高さ30mmの硬質塩化ビニル樹脂製の部材本体(22)に、左右方向の断面が、底辺(上端)12mm、左端の高さが8mm、右端の高さが6.5mmの四角形であり、奥行き方向の断面が、先端部(下端)が半径0.5mmの半球にとなされた底辺(上端)が6mmの先端が丸められた三角形に形成したブチルゴムを接着したダイヤフラムポンプ駆動部材(図示略)を作製した。
【0079】
マイクロ流体デバイスの円管(9)にマイクロシリンジポンプ(図示略)を接続し、該ポンプからメチレンブルーで着色した蒸留水を注入して、徐々に流路(5a)の圧力を上げて行ったところ、圧力約340kPaで該バルブを蒸留水が通過した。
次いで、前記シリンジポンプをはずし、マイクロ流体デバイスの円管(9)に、メチレンブルーで着色した蒸留水を投入した後、上記のダイヤフラムポンプ駆動部材を装着した電磁式アクチュエーター(図示略)を用いて、部材(B)の表面(11)から該面に直角方向に、0.25Hzで流路(5a)の圧迫、解除を繰り返したところ、着色水は流路(5a)を圧迫したときに堰状構造(6)を通過し、圧迫を解除したときの逆流はほとんど見られなかった。該操作を繰り返すことにより、円管(9)に投入された着色水は円管(10)へと移送された。
【0080】
繰り返し圧迫する周波数を0.5Hz、1Hz,2Hz、および3Hzに上昇させたとき、吐出流量は0.25Hzの時のそれぞれ2倍、4倍、7.2倍、9.2倍となった。即ち、比較例1と比べて、同じ条件での吐出流量が大きく、また、バルブの応答速度が高いため、速い繰り返し圧迫周波数まで優れたポンプ機能を有すること分かる。
【0081】
[実施例2]
本実施例は上記の第二実施態様を実施した例である。
〔バルブを有するマイクロ流体デバイス〕
本実施例では、前記した図4に示す態様のマイクロ流体デバイスを作製した。本実施例で作製したバルブ本体を有するマイクロ流体デバイス(102)は、実施例1で作製したバルブ本体を有するマイクロ流体デバイス(100)と比べて、堰状構造(6)を樹脂層(2)に固着する代わりに樹脂層(4)に固着し、また、実施例1では、流路開放部(15)を樹脂層(3)と樹脂層(4)との間に形成したのに対し、樹脂層(2)と樹脂層(3)との間に形成したものである。従って、製造に際し基材(1)と樹脂層(2)から成る部材を部材(A)として作製し、樹脂層(3)と樹脂層(4)から成る部材を部材(B)として作製した。また、圧迫部材(51)も異なったものを使用した。
【0082】
以下、具体的に上記各工程を説明する。
部材(A)は、樹脂層(3)を有さないこと、従って、溝(5)及び堰状構造(6)となる凸部(6)を有さないこと以外は、実施例1の部材(A)と同様である。
【0083】
部材(B)は、樹脂層(3)が樹脂層(4)に積層され、固着されて形成されていること、従って、溝(5)及び堰状構造(6)となる凸部(6)も部材(B)に形成されていること以外は、実施例1の部材(B)と同様である。樹脂層(3)、溝(5)、凸部(6)等の寸法や形状に関しては、実施例1に於ける部材(A)に形成されている場合と同じである。
【0084】
部材(A)と部材(B)とは互いに固着され、溝(5)は流路(5)となされ、上記のように、堰状構造(6)が樹脂層(4)に固着しており、即ち、マイクロ流体デバイスの表面(11)から最も遠い側の流路内面(14)に当接しており、また、流路開放部が樹脂層(2)と樹脂層(3)との間に形成されていること以外は、実施例1と同様のマイクロ流体デバイスとなっている。なお、本実施例に於いて、部材(B)の厚さとそれを構成する素材の引っ張り弾性率との積は、87kPa・mである。
【0085】
部材(A)の作製方法は、樹脂層(3)を形成しないこと以外は、実施例1の場合と同様である。
【0086】
部材(B)の製造方法は、実施例1において樹脂層(2)の上に樹脂層(3)を形成するのと同様にして、樹脂層(4)の上に樹脂層(3)を形成すること以外は、実施例1の場合と同様である。従って、溝(5)及び堰状構造(6)となる凸部(6)も樹脂層(4)の上に固着して形成される。
【0087】
部材(A)と部材(B)の固着も、実施例1に於いて、樹脂層(3)と樹脂層(4)を固着するのと同様にして、樹脂層(2)と樹脂層(3)を固着する。
【0088】
〔圧迫部材〕
圧迫部材(51)は、厚さ1mmの前記HIPS板で形成したものであり、図5に示したように、一端を6×6mmの固定部(52)とし、他端(56)に、厚み1mm、直径2mmのポリジメチルシロキサン(シリコンゴム)製の円板(55)を接着し、押圧部(55)としている。この他端(56)と固定部(52)の中間部(53)は幅2mm、長さ18mmのアーム状であり、HIPS板の弾性を利用したバネ(板バネ)(53)とした。
【0089】
上記の圧迫部材(51)は、上記HIPSの板をレーザー加工により切り抜き、ポリジメチルシロキサン(シリコンゴム)シートをレーザー加工により切り抜いた円板(55)をシリコーン系接着剤で接着して作製した。
【0090】
〔バルブを有するマイクロ流体デバイス(103)〕
押圧部材(55)の中心を、マイクロ流体デバイス(102)の流路開放部(15)の中心に合わせて、固定部(52)にて圧迫部材(51)を、マイクロ流体デバイス(102)の表面(11)にエポキシ系接着剤で接着した。このとき、押圧部(55)の下面の高さが部材(A)の表面(11)の位置と一致するようにしているため、前記バネ部(53)が撓んで、押圧部(55)を部材(A)方向に弾性力で付勢した状態で固定されている。なお、圧迫部材(51)が部材(B)を圧迫する力は、約0.11Nでであった。この力を流路開放部(15)の面積で除した圧力は、約390kPaであった。
【0091】
この圧迫部材(51)を装着したバルブを有するマイクロ流体デバイス(103)は、常態において、堰状構造(6)は流路(5)の内面(14)、即ち、表面(11)から最も遠い側の流路(5)の内面に当接し、また、その近接領域の流路開放部(15)において樹脂層(2)と樹脂層(3)は互いに当接して流路(5)を遮断し、流路(5)を流路(5a)と流路(5b)に分断しているため、流路(5a)と流路(5b)との間に流体は流通しない。
【0092】
[使用試験]
実施例1と同様にして使用試験を行ったところ、圧力が約290kPaで該バルブを蒸留水が通過した。また、0.25Hzの時の吐出流量は、実施例の約0.88倍であること、および、圧迫周波数を0.5Hz、1Hz,2Hz、および3Hzに変えたとき、それぞれ0.25Hzの時の吐出流量の、それぞれ2倍、3.9倍、7.0倍、8.6倍であること以外は実施例1と同様であった。
【0093】
〔比較例1〕
圧迫部材(51)を装着しなかったこと以外は実施例1と同様のバルブ本体を有するマイクロ流体デバイス(100)を使用し、実施例1と同様の使用試験を行ったところ、繰り返し圧迫する周波数が0.25Hzの時の吐出流量は、実施例1の場合の約0.6倍であり、また、0.5Hz、1Hz,2Hz、および3Hzに上昇させたときの吐出流量0.25Hzの時のそれぞれ1.8倍、3.0倍、2.2倍、1.2倍であった。
【0094】
上記実施例1〜2及び比較例1より明らかなように<施例1と比較例1は圧迫部材の有無のみが異なり、その他の構造が同じ。実施例2は本体の構造が異なるため、。比較例1とは直接比較できない。必要なら、比較例2を作ります。本発明のマイクロ流体デバイスは、逆流が少ないため同じ条件での吐出流量が大きく、また、バルブの応答速度が高いため、速い繰り返し圧迫周波数でも良好に流体の流通が可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明のマイクロ流体デバイスの基本構造の平面模式図、及び、A部における断面図模式図である。
【図2】本発明の実施例1で作製したバルブを有するマイクロ流体デバイスの平面模式図、及び、A部における断面図模式図である。
【図3】本発明の実施例1で作製したの圧迫部材の平面模式図、側面模式図、及び、マイクロ流体デバイスに固定し状態の側面模式図である。
【図4】本発明の実施例2で作製したバルブを有するマイクロ流体デバイスの平面模式図、及び、A部における断面図模式図である。
【図5】本発明の実施例2で作製した圧迫部材の平面模式図および側面模式図である。
【図6】本発明の圧迫部材の他の態様を示す平面図および縦割り断面図である。
【符号の説明】
【0096】
A・・・部材(A)
B・・・部材(B)
1・・・基材
2、3、4・・・樹脂層
5、5a、5b・・・流路(欠損部、溝)
6・・・堰状構造(凸部、非欠損部)
6a・・・堰状構造の頂部
7、8・・・貫通孔
9,10・・・円管
11・・・外表面
12・・・流路壁
13・・・流路の内面(上部内面、表面に最も近い側の流路内面)
14・・・流路の内面(底面、表面から最も遠い側の流路内面)
15・・・流路開放部
51・・・圧迫部材
52・・・圧迫部材の固定部
53・・・圧迫部材の弾性部
54・・・圧迫部材の中心部
55・・・圧迫部材の押圧部(円板)
26・・・圧迫部材の他端
100、102・・・バルブ本体を有するマイクロ流体デバイス
101、103・・・バルブを有するマイクロ流体デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細管状の流路を有するマイクロ流体デバイスであって、
前記流路の途中に該流路を遮断するための堰状構造を有し、該堰状構造部及び該堰状構造を含む近傍の領域が固着しておらず且つ流路内の流体圧力により流路を開放して流体を流通する流路開放部が設けられてなり、該流路開放部に相対する流路外部に該流路開放部を圧迫するように圧迫部材が設けられてなることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
流路となる凹部と、該凹部の途中に形成された流路を遮断する堰状構造となる凸部とを有する部材(A)と、前記凹部の蓋となる部材(B)とが、前記凸部及び凸部の近傍領域が固着しないように張合わされてなり、且つ、前記部材(B)の流路と対向する外壁面及び/又は部材(A)の前記堰状構造およびその近傍領域に相対する外壁面に、前記圧迫部材を有することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記圧迫部材が、プラスチック製の板バネ部分を有する部材である請求項1に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
前記部材(A)と前記部材(B)とが当接するが固着しない前記近傍領域の面積が、前記凸部の面積の2〜100倍である請求項1または2に記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
前記圧迫部材が、前記部材(B)の凸部及び凸部の近傍領域を圧迫する圧力が、10kPa〜10MPaである請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
流路断面積が1μm〜1mmの範囲にある請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
前記部材(B)の及び凸部の近傍領域の厚みと、ヤング率との積が0.1kPa・m〜300kPa・mである請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロ流体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−136990(P2006−136990A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−330395(P2004−330395)
【出願日】平成16年11月15日(2004.11.15)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】