バルブタイミング調整システム
【課題】 ベーンロータのロック解除不良およびロック不良を防止可能なバルブタイミング調整システムを提供する。
【解決手段】S102において、吸気弁の開閉タイミングを所望の開閉タイミングとする指示がECUに入力された第1時刻と圧力調整弁により油圧を調整する予定の時刻との時間差が所定時間より小さいと判定される場合、S103において、圧力調整弁による調整前後におけるオイルの圧力を調整前油圧および調整後油圧として算出する。次にS104において、調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さいか否かを判定する。次にS205において、圧力調整弁による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいか否かを判定する。調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さく、かつ調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいと判定される場合、S106において油圧を調整する予定の時刻を第1時刻に対して所定時間遅らせる。
【解決手段】S102において、吸気弁の開閉タイミングを所望の開閉タイミングとする指示がECUに入力された第1時刻と圧力調整弁により油圧を調整する予定の時刻との時間差が所定時間より小さいと判定される場合、S103において、圧力調整弁による調整前後におけるオイルの圧力を調整前油圧および調整後油圧として算出する。次にS104において、調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さいか否かを判定する。次にS205において、圧力調整弁による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいか否かを判定する。調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さく、かつ調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいと判定される場合、S106において油圧を調整する予定の時刻を第1時刻に対して所定時間遅らせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸排気弁を開閉するタイミングを変更可能なバルブタイミング調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのクランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変更することにより、カムシャフトが開閉駆動する吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整システムが公知である。バルブタイミング調整システムは、クランクシャフトの回転駆動力が、ハウジング、ベーンロータ、およびカムシャフトを経由し、吸気弁または排気弁の一方または両方に伝達される。ハウジングとベーンロータとにより形成される進角室、および遅角室に供給する作動油の圧力を制御することにより、吸排気弁の開閉タイミングを調整する。
【0003】
吸排気弁の開閉タイミングを進角するとき、進角室に遅角室より多くの作動流体を供給し、吸排気弁の開閉タイミングを遅角するとき、遅角室に進角室より多くの作動流体を供給する。また、吸排気弁の開閉タイミングを保持するとき、進角室および遅角室にそれぞれ同程度の作動流体を供給する。進角室および遅角室に供給される作動流体の圧力は、作動流体の供給先を進角室または遅角室を選択する切換弁および圧力調整弁によって調整される。圧力調整弁は、ポンプが吐出する作動流体の圧力を切換弁に供給される前に調整する。特許文献1には、エンジンの回転数に応じて切換弁に供給される作動油の圧力を調整するオイル供給装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−58458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のオイル供給装置では、エンジンの回転数に基づいて作動流体の圧力を調整するため、エンジンの回転数が高いとバルブタイミング調整装置において高圧を必要としないときであっても、オイル供給装置は高圧の作動油を供給する。このため、ハウジングに対してベーンロータの相対回動を可能にするロック解除中またはハウジングに対してベーンロータをロックするロック進行中において、エンジンの回転数に応じて作動流体の圧力が変化するとロック解除不良またはロック不良が発生するおそれがある。また、バルブタイミング調整装置に高圧を必要としないときに高圧の作動流体を供給するため、オイルの消費量が多くなる。
【0006】
本発明の目的は、ベーンロータのロック解除不良およびロック不良を防止可能なバルブタイミング調整システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置、ポンプ、切換弁、圧力調整弁、第1制御手段、圧力算出手段などを備える。ポンプが切換弁に向けて吐出する作動流体は、切換弁によってバルブタイミング調整装置のハウジングとベーンロータとにより形成されている進角室または遅角室に選択的に供給される。バルブタイミング調整装置では、切換弁が供給する作動流体によって駆動軸に対する従動軸の回転位相を変更する。ポンプと切換弁との間に設けられている圧力調整弁では、切換弁に供給される作動流体の圧力を調整する。第1制御手段では、駆動軸に対する従動軸の目標位相が入力され、入力される目標位相に応じた信号を切換弁および圧力調整弁に出力する。圧力算出手段では、圧力調整弁が調整する作動流体の圧力を算出する。
【0008】
バルブタイミング調整システムが備える圧力算出手段では、圧力調整弁によって調整される作動流体の圧力を実際に調整する前に事前に算出する。駆動軸に対する従動軸の回転位相の変更処理では、算出された圧力に基づいて進角室または遅角室に供給する作動流体の圧力を最適な圧力に調整する。これにより、バルブタイミング調整装置での駆動軸に対する従動軸の回転位相の変更をスムーズに行うことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、作動流体圧検出手段および第1記憶手段をさらに備える.作動流体圧検出手段は、遅角室または進角室に供給される作動流体の圧力を検出し、遅角室または進角室に供給される作動流体の圧力に応じた信号を出力する。第1記憶手段は、圧力調整弁が調整する前の作動流体の調整前圧力および圧力調整弁が調整した後の作動流体の調整後圧力と、作動流体圧検出手段が検出する作動流体の圧力との関係を表す第1マップを記憶する。圧力算出手段は、作動流体圧検出手段により検出される遅角室または進角室に供給される作動流体の圧力および第1マップに基づいて調整前圧力および調整後圧力を算出する。
【0010】
請求項3に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、第1制御手段に駆動軸に対する従動軸の目標位相が入力される第1タイミングと圧力調整弁により切換弁に供給される作動流体の圧力が調整される第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定する時間差判定手段をさらに備える。時間差判定手段により第1タイミングと第2タイミングとの差が所定の時間より小さいと判定される場合、圧力算出手段は調整前圧力および調整後圧力を算出する。
【0011】
請求項4に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、規制部材が嵌合孔に嵌合しているか否かを判定するロックモード判定手段をさらに備える。ロックモード判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していると判定される場合、時間差判定手段は第1タイミングと第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定する。
【0012】
請求項5から7に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、調整前圧力判定手段、調整後圧力判定手段、および第2制御手段をさらに備える。調整前圧力判定手段は、圧力算出手段により算出される調整前圧力が所定の第1圧力より小さいか否かを判定する。調整後圧力判定手段は、圧力算出手段により算出される調整後圧力が所定の第2圧力より小さいか否かを判定する。第2制御手段は、調整前圧力判定手段、および調整後圧力判定手段による判定結果に基づいて、第3タイミングと第2タイミングとの前後関係を調整する。
【0013】
バルブタイミング調整システムでは、内燃機関の始動直後に吸排気弁の開閉タイミングを進角する際規制部材の嵌合孔との嵌合を解除するため、バルブタイミング調整装置に作動流体を供給する。規制部材の嵌合を解除している最中に圧力調整弁により作動流体の圧力が調整されると、規制部材の嵌合がスムーズに解除されないため、ベーンロータの規制がスムーズに解除されないおそれがある。そこで、請求項5から7に記載のバルブタイミング調整システムでは、規制部材によるベーンロータの規制を解除する際、圧力調整弁による作動流体の圧力を調整する前の調整前圧力、および圧力を調整した後の調整後圧力を算出する。算出される調整前圧力および調整後圧力は規制部材によるロック解除が不良となる作動流体の圧力領域と比較され、第2制御手段は圧力調整弁により切換弁に供給される作動流体の圧力が調整される第2タイミングと切換弁が作動流体の流路を切り換える第3タイミングとの前後関係を調整する。これにより、規制部材によるベーンロータの規制を解除している最中にバルブタイミング調整装置に供給される作動流体の圧力が突然変更されることがなくなるため、内燃機関始動時の規制部材によるロックをスムーズに解除することができる。
【0014】
また、調整前圧力が低圧であって調整後圧力が高圧である場合、切換弁が作動流体の流路を切り換える前に圧力調整弁により切換弁に供給される作動流体の圧力が調整されると、バルブタイミング調整装置に高圧の作動流体が供給される。供給される高圧の作動流体は、ハウジングに対するベーンロータの回転位相を迅速に変更するため、駆動軸に対する従動軸の回転位相が短時間で目標位相に到達する。これにより、吸排気弁の開閉タイミングの変更における応答性が向上する。
【0015】
請求項8に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、作動流体温度検出手段および第2記憶手段をさらに備える。作動流体温度検出手段は、作動流体の温度を検出し、作動流体の温度に応じた信号を出力する。第2記憶手段は、圧力調整弁が調整する低圧設定圧力および高圧設定圧力と作動流体の温度との関係を示す第2マップを記憶する。圧力算出手段は、作動流体温度検出手段が検出する作動流体の温度および第2マップに基づいて、低圧設定圧力および高圧設定圧力を算出する。
バルブタイミング調整システムの圧力調整弁では、作動流体の圧力を低圧側とする低圧設定圧力、および作動流体の圧力を高圧側とする高圧設定圧力の2つの圧力設定が可能である。請求項8に記載のバルブタイミング調整装置の第2記憶手段は、現在の作動流体の温度に基づいて、圧力調整弁が調整可能な低圧設定圧力および高圧設定圧力を算出することができる第2マップを記憶している。
【0016】
請求項9に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、内燃機関がアイドル状態であるか否かを判定するアイドル状態判定手段をさらに備える。アイドル状態判定手段により内燃機関がアイドル状態であると判定される場合、圧力算出手段は、低圧設定圧力および高圧設定圧力を算出する。
【0017】
請求項10に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、内燃機関の停止を指示する信号が入力されたか否かを判定する内燃機関停止判定手段、および低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する低圧設定圧判定手段をさらに備える。内燃機関停止判定手段により内燃機関の停止を指示する信号が入力されたと判定される場合、低圧設定圧判定手段は、低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する。
請求項11に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、パーキングブレーキ検出手段、シフトレンジ検出手段、パーキング判定手段、および低圧設定圧判定手段をさらに備える。パーキング判定手段によりパーキングブレーキがオンされていると判定される場合、または、シフトレンジがパーキングレンジであると判定される場合、低圧設定圧判定手段は、低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する。
【0018】
請求項12に記載の発明によると、低圧設定圧判定手段により低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいと判定される場合、圧力調整弁は切換弁に供給される作動流体の圧力を低圧設定圧力に調整する。
請求項13に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、高圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する高圧設定圧判定手段をさらに備える。低圧設定圧判定手段により低圧設定圧力が所定の第3圧力以下と判定される場合、高圧設定圧判定手段は高圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する。
請求項14に記載の発明によると、高圧設定圧判定手段により高圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいと判定される場合、圧力調整弁は切換弁に供給される作動流体の圧力を低圧設定圧力に調整する。
【0019】
請求項15に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、規制部材が嵌合孔に嵌合しているか否かを判定するロックモード判定手段をさらに備える。高圧設定圧判定手段により高圧設定圧力が所定の第3圧力以下であると判定される場合、ロックモード判定手段は規制部材が嵌合孔に嵌合しているか否かを判定する。
請求項16および17に記載の発明によると、ロックモード判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していると判定される場合、圧力調整弁は切換弁に供給される作動流体の圧力を低圧設定圧力に調整し、ロックモード判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していないと判定される場合、圧力調整弁は切換弁に供給される作動流体の圧力を高圧設定圧力に調整する。
【0020】
請求項10から17に記載のバルブタイミング調整システムでは、内燃機関を停止するタイミングを検出することにより、ベーンロータの相対回動が規制されるように規制部材をハウジングの嵌合孔に嵌合する。このとき、規制部材に作用する作動流体の圧力の大きさを考慮して、バルブタイミング調整システムでは事前に圧力調整弁で設定可能な低圧設定圧力および高圧設定圧力を算出する。作動流体の温度に基づいて算出される低圧設定圧力および高圧設定圧力と規制部材が嵌合可能な圧力領域とを比較することにより、規制部材が確実にロックされるように作動流体の圧力を最適な圧力に調整する。これにより、内燃機関停止時の規制部材によるロックを確実に行うことができる。
【0021】
また、バルブタイミング調整システムでは規制部材によりベーンロータをハウジングにロックするとき、高圧設定圧力が必要ない場合低圧設定圧力を供給する。これにより、規制部材によるロックを確実に行うために必要な作動流体の消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムが適用される駆動力伝達系の模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムの位相調整部の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムの位相調整部と油圧制御部との関係を示す模式図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける位相調整部のストッパピン付近の拡大断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける進角油圧および遅角油圧とストッパピンのロック状態との関係を説明する断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける説明図であって、(a)油圧制御弁に供給される油圧とストッパピンのロックを解除するために必要な時間との関係を説明する説明図、(b)油圧制御弁に供給される油圧切換前後の油圧とストッパピンのロック解除不良領域との関係を説明する説明図、である。
【図7】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおけるオイルの圧力制御処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける吸気弁進角指示入力タイミングに対する吸気弁進角指示出力タイミングおよび油圧切換指示出力タイミングとの関係を示す説明図である。
【図9】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける実験結果を説明する説明図である。
【図10】本発明の第2実施形態によるバルブタイミング調整システムにおけるオイルの圧力制御処理を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける油温と油圧との関係を説明する説明図である。
【図12】本発明の第3実施形態によるバルブタイミング調整システムの位相調整部と油圧制御部との関係を示す模式図である。
【図13】本発明の第3実施形態によるバルブタイミング調整システムにおけるオイルの圧力制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態のバルブタイミング調整システムについて図面に基づいて説明する。
【0024】
(第1実施形態)
第1実施形態によるバルブタイミング調整システムを図1から図9に示す。本実施形態のバルブタイミング調整システムは、作動流体としてオイルを用いる油圧制御式である。バルブタイミング調整システムは、エンジンのクランクシャフトの回転角度に対するカムシャフトの回転角度(以下、「カムシャフト位相」という)を調整することにより吸排気弁の開閉タイミングを調整する位相調整部と、位相調整部に供給されるオイルの圧力を制御する油圧制御部とを備える。
【0025】
バルブタイミング調整システム10の位相調整部100が設けられる駆動力伝達系では、図1に示すように、エンジン1の「駆動軸」としてのクランクシャフト2に固定されるギア3と、「従動軸」としてのカムシャフト4、5に固定されるギア191、6にチェーン7が巻き掛けられ、クランクシャフト2からカムシャフト4、5に駆動力が伝達される。一方のカムシャフト4はカム機構を経由して吸気弁8を開閉駆動し、他方のカムシャフト5はカム機構を経由して排気弁9を開閉駆動する。第1実施形態のバルブタイミング調整システム10では、ギア191に対する回転位相が変更可能なベーンロータ20(図2参照)にカムシャフト4が接続しており、ベーンロータ20の位相を変更することにより吸気弁8の開閉タイミングを調整する。カムシャフト4にはカムシャフト4の回転角度を検出するカム角センサ41が取り付けられている。また、クランクシャフト2にはクランクシャフト2の回転角度を検出するクランク角センサ42が取り付けられている。位相調整部100は、特許請求の範囲に記載の「バルブタイミング調整装置」に相当する。
【0026】
図2および図3に示すように、位相調整部100は、ハウジング11、ベーンロータ20、およびストッパピン30等を備えている。
ハウジング11は、環状の周壁12および仕切り部材としてのシュウ13、14、15、16と一体に形成されたシュウハウジング17、フロントプレート18、並びにスプロケット19等から構成されている。略台形に形成されたシュウ13、14、15、16は、周壁12から径方向内側へ延びており、周壁12の周方向に略等間隔に設けられている。周方向に隣接するシュウ同士の間隙には略扇状の圧力室50が形成されている。
【0027】
スプロケット19は、径外側にギア191を備え、周壁12の回転軸方向の一方に設けられている。スプロケット19は、軸方向にカムシャフト4を通す軸孔192を有している。
【0028】
フロントプレート18は、略円盤状に形成され、周壁12の回転軸方向の他方に設けられている。フロントプレート18は、円盤の中心に板厚方向に通じる円孔181を有している。
【0029】
シュウハウジング17、フロントプレート18およびスプロケット19は、ボルト111によって同軸上に固定されている。
【0030】
ベーンロータ20は、ハウジング11と略同軸に設けられ、ハウジング11の内側に相対回転可能に収容されている。ベーンロータ20は、略円筒状のロータ21、およびこのロータ21から径外方向に突出する4個のベーン22、23、24、25を有している。ベーンロータ20とカムシャフト4とはボルト26によって固定されている。ベーンロータ20とカムシャフト4とは、ノックピン27によって周方向の位置決めがされている。これにより、ベーンロータ20は、カムシャフト4とともに回転する。各ベーン22、23、24、25は、各圧力室50を、それぞれ遅角室51、52、53、54と進角室55、56、57、58とに仕切っている。
【0031】
遅角室51、52、53、54に油圧を供給する遅角通路61、62は、ベーンロータ20のロータ21に形成されている。進角室55、56、57、58に油圧を供給する進角通路63、64は、ロータ21のスプロケット19側の外壁に形成されている。遅角通路61、62および進角通路63、64は、それぞれカムシャフト4に形成された遅角通路65および進角通路66に連通している。
【0032】
シール部材28、29は、例えば樹脂で形成されている。各ベーン22、23、24、25の径外方向の外壁に嵌合するシール部材28は、板ばね281の弾性力により周壁12に押し付けられている。各シュウ13、14、15、16の径内方向の内壁に嵌合するシール部材29は、板ばね291の弾性力によりロータ21に押し付けられている。このため、シール部材28、29は、遅角室51、52、53、54と進角室55、56、57、58との間のオイルの漏れを抑制している。
【0033】
「規制部材」としてのストッパピン30は、有底円筒状に形成され、ベーン22を回転軸方向に通じる収容孔221の軸方向に往復移動可能に収容されている。図3に示すように、スプロケット19にはベーンロータ20が最遅角に位置している状態でストッパピン30に対応する位置に嵌合孔31が形成されている。この嵌合孔31にはブッシュ32が設けられている。ストッパピン30は、一方の端部にブッシュ32の径内側に嵌合する嵌合部33を有している。
【0034】
ストッパピン30の他方の端部には、嵌合孔31側に凹む凹部34が設けられている。この凹部34には、付勢部材としてのコイルスプリング35が収容されている。コイルスプリング35は、一端が凹部34の内壁に当接し、他端がフロントプレート18の内壁に当接する圧縮コイルスプリングであり、ストッパピン30をスプロケット19側へ付勢している。
【0035】
ストッパピン30が収容される収容孔221を形成するベーン22には、遅角室51と収容孔221とを連通する遅角通路221が形成されている(図4参照)。遅角通路221によって、遅角室51のオイルの圧力(以下、「遅角油圧」という)が収容孔221に供給される。また、スプロケット19には、進角室55と収容孔221とを連通する進角通路193が形成されている。進角通路193によって、進角室55のオイルの圧力(以下、「進角油圧」という)が収容孔221に供給される。ストッパピン30は、進角室55および遅角室51に供給されるオイルの圧力の大きさに応じて、ブッシュ32と嵌合、または嵌合を解除する。ストッパピン30のロック解除時における油圧とストッパピン30の動作の関係については、後述する。
【0036】
バルブタイミング調整システム10の油圧制御部200は、図3に示すように、ポンプ90、油圧制御弁92、圧力調整弁99、ECU91などを備える。
【0037】
ポンプ90は、例えば、エンジン1が発生する回転トルクによって駆動する機械式ポンプである。ポンプ90は、オイルパン95に貯留されるオイルを吸引、昇圧する。昇圧されたオイルは、ポンプ90から吐出され、油路902を流れる。
【0038】
油路902は、逆止弁901を介して油圧制御弁92に接続する。また、油路902は、ポンプ90と逆止弁901との間で油路903の一端と接続する。油路903の他端は、圧力調整弁99に接続する。
【0039】
圧力調整弁99は、リリーフ部991および油圧供給部992を備える。油路903が接続するリリーフ部991では、油圧供給部992が供給する油圧によってリリーフ圧が決定される。リリーフ部991に所定のリリーフ圧以上の圧力が油路903から作用する場合、リリーフ部991は開弁し、油路902を流れるオイルの一部がリリーフ部991を通ってオイルパン95に還流される。油圧供給部992は、リニアソレノイド弁であって、ECU91が出力する電流の大きさに応じてリリーフ部991のリリーフ圧力を決定する。第1実施形態の圧力調整弁99では、リリーフ圧が高く設定される高圧設定およびリリーフ圧が低く設定される低圧設定の2つの圧力設定が可能である。
【0040】
油圧制御弁92は、リニアソレノイド弁であって、電気的に接続するECU91が出力する電流の大きさに応じてポンプ90が吐出するオイルの圧力を調整するとともに、供給されるオイルを進角室55、56、57、58および遅角室51、52、53、54を選択して供給する。油圧制御弁92は、油路902と接続する一方、進角室55、56、57、58に接続する進角通路93および遅角室51、52、53、54に接続する遅角通路94と接続している。また、図示しない油路を介して、オイルパン95とも接続している。
【0041】
ECU91は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁の燃料噴射量や点火プラグの点火時期を制御する。ECU91には、油温センサ96が検出するオイルの温度、油圧センサ97が検出する進角通路93および遅角通路94を流通するオイルの圧力、スロットルセンサ98が検出する図示しないスロットルバルブの回転角度が入力される。また、ECU91には、カム角センサ41が検出するカムシャフト4の回転角度、およびクランク角センサ42が検出するクランクシャフト2の回転角度が入力される。ECU91は、特許請求の範囲に記載の「第1制御手段」、「圧力算出手段」、「第1記憶手段」、「時間差判定手段」、「ロックモード判定手段」、「調整前圧力判定手段」、「調整後圧力判定手段」、「第2制御手段」に相当する。
【0042】
次に、バルブタイミング調整システム10の作動を説明する。
<エンジン始動時>
エンジン1を始動した直後の状態では、遅角室51、52、53、54および進角室55、56、57、58にポンプ90から十分にオイルが供給されない。このとき、図3に示すようにストッパピン30は嵌合孔31のブッシュ32に嵌合している(以下、ストッパピン30がブッシュ32に嵌合している状態を「ストッパピン30がロックしている」という)。これにより、カムシャフト位相は最遅角位置に保持されたまま、ハウジング11に対するベーンロータ20の相対回動は規制されている。
【0043】
<エンジン始動直後の進角作動時>
エンジン1が始動してから所定時間が経過すると、位相調整100を進角制御するため、遅角室51、52、53、54および進角室55、56、57、58にオイルが十分に供給される。このとき、進角室55および遅角室51に滞留するオイルがストッパピン30に作用することにより、ストッパピン30のロックが解除される。以下にストッパピン30のロック解除における油圧の作用について図4〜図8に基づいて説明する。
【0044】
バルブタイミング調整システム10におけるストッパピン30周辺の拡大断面図を図4に示す。
ストッパピン30がロックしているとき、ベーンロータ20は、最遅角に位置している。このとき、進角油圧が進角通路193を介してストッパピン30に作用すると、ストッパピン30はコイルスプリング35の付勢力に抗して図4の上方に移動する。一方、遅角油圧が遅角通路222を介してストッパピン30に作用すると、ストッパピン30は、進油圧が作用するときと同じようにコイルスプリング35の付勢力に抗して図4の上方に移動する。すなわち、バルブタイミング調整システム10におけるストッパピン30のロック状態は、進角油圧または遅角油圧のいずれによっても解除される。なお、図4中の矢印は、進角室55から収容孔221に供給されるオイルの流れる方向、および、遅角室51から供給されるオイルの流れる方向を示している。
【0045】
ストッパピン30のロックを解除するとき、進角油圧および遅角油圧の大きさによって次の3つのパターンが予想される。これら3つのパターンにおけるストッパピン30とブッシュ32との関係を図5に示す。
【0046】
図5(a)は、進角油圧によってストッパピン30のロックが解除される様子を示したものである。このときの進角油圧および遅角油圧は比較的小さく、進角油圧によってストッパピン30のロックは解除される。これにより、ベーンロータ20の進角作動はスムーズに行われる。
【0047】
図5(b)は、図5(a)と同様に進角油圧によってストッパピン30の嵌合が解除される様子を示したものである。しかしながら、図5(b)における進角油圧は、図8(a)における進角油圧に比べて大きい。このとき、進角室55に供給される油圧によってベーン22は進角方向に移動する。これにより、ベーン22の収容孔221に収容されているストッパピン30は、進角方向に偏心する。偏心したストッパピン30は、嵌合孔31に設けられているブッシュ32に当接し、ストッパピン30とブッシュ32との間に図5(b)の矢印に示すような摩擦力が発生する。これにより、図5(a)に比べて大きい進角油圧が供給される図5(b)の状態では、ストッパピン30のロックは解除されにくくなる。したがって、図5(b)の状態ではベーンロータ20の進角作動はスムーズに行われない。
【0048】
さらに油圧制御弁92に供給される油圧が大きくなると、ベーン22が進角方向に進角する前に、遅角油圧によってストッパピン30のロックが解除される(図5(c))。これにより、進角室55にオイルが供給される前にストッパピン30の嵌合は解除されているため、ベーンロータ20の進角作動はスムーズに行われる。
【0049】
図6(a)に、油圧制御弁92に供給される油圧とストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間との関係を示す。図5において説明したように、進角油圧および遅角油圧として油圧制御弁92に供給される油圧が比較的小さい場合、および油圧制御弁92に供給される油圧が比較的大きい場合、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間は短い。しかしながら、油圧制御弁92に供給される油圧が中間程度である場合、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間は長くなる。
【0050】
ここで、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間が長くなる領域での油圧の上下限とバルブタイミング調整システム10での油圧の調整前後での油圧との関係を図6(b)に示す。前述したように、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間が長くなる領域をロック解除不良領域とし、その下限油圧を起動不良下限油圧P1とする。また、ロック解除不良領域の上限油圧を起動不良上限油圧P2とする。起動不良下限油圧P1は、特許請求の範囲に記載の「第1圧力」に相当する。起動不良上限油圧P2は、特許請求の範囲に記載の「第2圧力」に相当する。
【0051】
バルブタイミング調整システム10では、油圧の調整前後において油圧制御弁92に供給される油圧がロック解除不良領域の油圧となってしまう場合がある。そこで、第1実施形態によるバルブタイミング調整システム10では、調整前後の油圧と起動不良下限油圧P1および起動不良上限油圧P2との大小関係を判定することにより、ストッパピン30のロックを解除するのに最適な油圧を選択する圧力制御処理を行う。第1実施形態によるバルブタイミング調整システム10におけるオイルの圧力制御処理のフローを図7に示す。
【0052】
最初のステップ(以下、「ステップ」を省略し、単に記号Sで示す)101において、ストッパピン30がロック状態であるか否かを判定する。ECU91には、外部の電子制御装置から吸気弁8の開閉タイミングを制御する指令が入力される。これにより、油圧制御弁92に電流が出力され、ベーンロータ20の位相を変更する。そこで、S101では吸気弁8を進角する指令がECU91に入力されているか否かを判定する。当該指令が入力されていない場合、ストッパピン30はロック状態であり、ベーンロータ20はスプロケット19にロックされていると判定する。一方、当該指令が入力されている場合、ストッパピン30のロック状態は解除されており、ベーンロータ20はスプロケット19に対して相対回動可能であると判定する。ストッパピン30がロック状態であると判定される場合、S102に移行する。ストッパピン30のロック状態は解除されていると判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0053】
次にS102において、吸気弁8の開閉タイミングを所望の開閉タイミングとするカムシャフト目標位相がECU91に入力された時刻と油圧制御弁92に供給される油圧が調整される予定の時刻との時間差が所定時間より小さいか否かを判定する。ECU91は、図示しない外部の電子制御装置から吸気弁8の開閉タイミングを所望の開閉タイミングとする指令が入力された第1時刻t1を記憶するとともに、圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を事前に算出する。ECU91では、第1時刻t1と圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻との差を算出する。第1時刻t1と圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻との差が所定の時間より小さいと判定される場合、S103に移行する。第1時刻t1と圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻との差が所定の時間以上であると判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。第1時刻t1は、特許請求の範囲に記載の「第1タイミング」に相当する。圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻は、特許請求の範囲に記載の「第2タイミング」に相当する。
【0054】
次にS103において、圧力調整弁99により調整される前後の油圧を算出する。ECU91には、位相調整部100に供給される油圧と圧力調整弁99により調整される調整前油圧および調整後油圧との関係を示す第1マップが記憶されている。そこで、現時点で油圧制御弁92に供給されている油圧に基づいて、圧力調整弁99により調整される前の調整前油圧および圧力調整弁99により調整された後の調整後油圧を算出する。調整前油圧および調整後油圧は、ECU91に記憶される。
【0055】
次にS104において、圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さいか否かを判定する。前述したように起動不良下限油圧P1は、ロック解除不良領域の下限油圧である。圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さいと判定される場合、S105に移行する。圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1以上であると判定される場合、S108に移行する。
【0056】
次にS105において、圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいか否かを判定する。前述したように起動不良上限油圧P2は、ロック解除不良領域の上限油圧である。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいと判定される場合、S106に移行する。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2以上であると判定される場合、S107に移行する。
【0057】
次にS106において、ECU91は圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を変更する。S106では、S104およびS105での判定によって調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さく、かつ調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいと判定されている。図6(b)に示すように油圧調整後にロック解除不良が発生するおそれがある(図6(b)パターン1に該当)。そこで、S106では、図8(a)に示すように第1時刻t1に対して、圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を所定時間遅らせる。具体的には、ECU91が圧力調整弁99に対して油圧を調整する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる。
【0058】
また、S105において圧力調整弁99の調整後油圧が起動不良上限油圧P2以上であると判定された場合、S107において、ECU91は圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を変更するか、または「第3タイミング」としてのベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を変更する。S107では、S104およびS105での判定によって調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さく、調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいと判定されている。この状態であっても、図5(b)で示したようにストッパピン30が偏心するため、ストッパピン30のロックが解除されないおそれがある。そこで、S107では図8(a)または(b)に示すように、第1時刻t1に対して圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を所定時間遅らせるか、もしくは第1時刻t1に対してベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を所定時間遅らせる。具体的には、圧力調整弁99での油圧の調整時刻を所定時間遅らせる場合、ECU91が圧力調整弁99に対して油圧を調整する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる(図8(a))。また、ベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を所定時間遅らせる場合、ECU91が油圧制御弁92に対して油圧制御弁92での油路の切換を指示する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる(図8(b))。
【0059】
また、S104において圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1以上であると判定された場合、次にS108において、圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいか否かを判定する。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいと判定される場合、S109に移行する。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2以下であると判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0060】
次にS109において、ECU91はベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を変更する。S109では、S104およびS105での判定によって調整前油圧が起動不良下限油圧P1より大きく、調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいと判定されているので、油圧調整前にロック解除不良が発生するおそれがある(図6(b)パターン3参照)。そこで、図8(b)に示すように、第1時刻t1に対してベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を所定時間遅らせる。具体的には、ECU91が油圧制御弁92に対して油圧制御弁92での油路の切換を指示する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる(図8(b))。
【0061】
第1実施形態のバルブタイミング調整システム10では、このようにしてエンジン始動直後の進角作動時にストッパピン30のロックを解除する。
【0062】
<進角作動時>
位相調整部100を進角制御するとき、ECU91は、油圧制御弁92および圧力調整弁99に供給する駆動電流を制御する。油圧制御弁92は、ポンプ90と進角通路93とを接続し、遅角通路94とオイルパン95とを接続する。ポンプ90が吐出するオイルは、進角通路93、66、63、64を経由し、進角室55、56、57、58に供給される。一方、遅角室51、52、53、54のオイルは、遅角通路61、62、65、94を経由し、オイルパン95に排出される。進角室55、56、57、58の油圧はベーン22、23、24、25に作用し、ベーンロータ20を進角方向に付勢するトルクを発生する。これにより、ベーンロータ20は、ハウジング11に対して進角方向に回転する。このとき、圧力調整弁99では、油圧制御弁92に供給されるオイルの圧力を調整する。
【0063】
<遅角作動時>
位相調整部100を遅角制御するとき、ECU91は、油圧制御弁92に供給する駆動電流を制御する。油圧制御弁92は、ポンプ90と遅角通路94とを接続し、進角通路93とオイルパン95とを接続する。ポンプ90から吐出されるオイルは、遅角通路94、65、61、62を経由し、遅角室51、52、53、54に供給される。一方、進角室55、56、57、58のオイルは進角通路63、64、66、93を経由し、オイルパン95に排出される。遅角室51、52、53、54の油圧がベーン22、23、24、25に作用し、ベーンロータ20を遅角方向に付勢するトルクを発生する。これにより、ベーンロータ20は、ハウジング11に対して遅角方向に回転する。このとき、圧力調整弁99では、油圧制御弁92に供給されるオイルの圧力を調整する。
【0064】
<中間保持状態>
ベーンロータ20が目標位相に到達すると、ECU91は油圧制御弁92および圧力調整弁99に出力する駆動電流のデューティ比を制御する。油圧制御弁92は、ポンプ90と、遅角通路94および進角通路93との接続を遮断し、遅角室51、52、53、54および進角室55、56、57、58に滞留するオイルがオイルパン95に排出されることを規制する。このため、ベーンロータ20は目標位相に保持される。このとき、圧力調整弁99では、油圧制御弁92に供給されるオイルの圧力を調整する。
なお、進角作動時、遅角作動時および中間保持状態では、ポンプ90から位相調整部100の進角室55、56、57、58および遅角室51、52、53、54に供給される油圧はコイルスプリング35がストッパピン30に作用する力よりも大きいので、ストッパピン30のロック状態は解除されている。
【0065】
(実験)
本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおいて、吸気弁を進角作動する指示が入力される時刻に対して油圧調整の時刻または吸気弁の進角作動を開始する時刻を遅らせた場合のストッパピンのロックが解除されるのに必要な時間の変化を実験により確認した。
実験結果を示す図9によると、吸気弁を進角作動する指示が入力される時刻(図9の横軸における原点)に対して油圧調整を所定時間遅らせると、ストッパピンのロックが解除されるのに必要な時間が短くなること明らかである(図9(a))。また、吸気弁を進角作動する指示が入力される時刻に対して、吸気弁の進角作動を開始する時刻を所定時間遅らせると、ストッパピンのロックが解除されるのに必要な時間が短くなること明らかである(図9(b))。
【0066】
(効果)
次に第1実施形態でのバルブタイミング調整システム10の効果について説明する。
(A)第1実施形態のバルブタイミング調整システム10では、ストッパピン30のロックを解除するとき、ECU91が圧力調整弁99によって調整される作動流体の圧力を位相調整部100に作用させる前に算出する。ECU91では、ストッパピン30のロック解除が不良となるロック解除不良領域の起動不良下限油圧P1および起動不良上限油圧P2に対する調整前圧力および調整後圧力の大きさを判定することにより、ストッパピン30のロック解除時の圧力を選択する。特に、ストッパピン30のロック解除中の圧力変更を避けるため、ECU91がベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻と、圧力調整弁99に対して油圧を調整する信号を出力する時刻との前後関係を調整する。これにより、ストッパピン30のロック解除不良の発生を防止することができる。
【0067】
(B)また、調整前圧力が比較的低圧であって調整後圧力が比較的高圧である場合、S107またはS109においてベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を第1時刻から所定時間遅らせることにより、位相調整部100に供給される油圧が高圧となる。これにより、ベーンロータ20のハウジング11に対する回転位相の変更が迅速に行われるため、吸気弁8の開閉タイミングを変更する際の応答性を向上することができる。
【0068】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態によるバルブタイミング調整システムを図10および図11に基づいて説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対してエンジン停止時にもオイルの圧力制御処理を実行する点が異なる。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0069】
第2実施形態によるバルブタイミング調整システム10では、第1実施形態で説明したエンジン始動直後でのストッパピン30のロック解除のときだけでなく、エンジン1を停止するときにもストッパピン30を確実にロックするためのオイルの圧力制御処理が行われる。以下にその圧力制御処理のフローを説明する。
【0070】
最初のステップであるS201において、エンジン1がアイドル状態であるか否かを判定する。エンジン1がアイドル状態になると、クランク角センサ42によって検出されるクランクシャフト2の回転角度から単位時間あたりの回転数が所定の回転数となる。そこで、S201では、クランク角センサ42が検出するクランクシャフト2の回転角度に基づいて、ECU91はエンジン1がアイドル状態であるか否かを判定する。エンジン1がアイドル状態である場合、S202に移行する。エンジン1がアイドル状態でない場合、S201においてエンジン1がアイドル状態となるまで判定を続ける。第2実施形態のECU91は、特許請求の範囲に記載の「第2記憶手段」、「アイドル状態判定手段」、「内燃機関停止手段」、「低圧設定圧判定手段」、「高圧設定圧判定手段」、「ロックモード判定手段」に相当する。
【0071】
次にS202において、圧力調整弁99によって調整される油圧を算出する。圧力調整弁99は、リリーフ圧が高く設定される高圧設定およびリリーフ圧が低く設定される低圧設定の2つの圧力設定を行う。このとき、低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧は、油温によって変化する。図11に示すように、油温が高くなると、低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧ともに油圧が低下する。そこで、S202では、「作動流体温度検出手段」としての油温センサ97によって検出された油温、および油温と低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧との関係を示す第2マップに基づいて、油圧制御弁92が位相調整部100に供給することが可能な低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧を算出する。算出された低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧の数値は、ECU91に記憶される。
【0072】
次にS203において、エンジン1の停止を指示する信号が外部の電子制御装置に入力されたか否かを検出する。ECU91は、エンジン1の駆動を制御する外部の電子制御装置にエンジン1の停止を指示する信号が入力されたか否かを検出する。エンジン1の停止を指示する信号が外部の電子制御装置に入力されたことを検出した場合、S204に移行する。エンジン1の停止を指示する信号が外部の電子制御装置に入力されたことを検出しなかった場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0073】
次にS204において、低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2より大きいか否かを判定する。低圧設定時の油圧と最適油圧領域との関係を図11に示す。図11に示すように、ストッパピン30がロックするときにロック不良が発生しない油圧領域として最適油圧領域が存在する。これは、図11では、「所定の第3圧力」としての起動不良上限油圧P2と最適油圧領域の下限油圧P3とに挟まれる油圧領域である。S203においてエンジン1の停止を指示する信号が外部の電子制御装置に入力されたことを検出したとき、位相調整部100に供給されているオイルの圧力が最適油圧領域内であればロック不良は発生しない。そこで、S204では、起動不良上限油圧P2に対して、S202において算出された低圧設定時の油圧が大きいか否かを判定する。低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2により大きい場合、例えば、図11において油温T1の場合、S205に移行する。S202において算出された低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2以下である場合、S206に移行する。
【0074】
S204において低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2により大きいと判定された場合、S205において、圧力調整弁99はリリーフ圧を低く設定し、油圧制御弁92に低圧設定の油圧を供給する。これにより、ストッパピン30はスムーズにロックされ、ベーンロータ20のハウジング11に対する相対回動は規制される。
【0075】
また、S204において低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2以下であると判定された場合、S206において、高圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2より大きいか否かを判定する。S206では、起動不良上限油圧P2に対して、S202において算出された高圧設定時の油圧が大きいか否かを判定する。S202において算出された高圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2により大きい場合、S205に移行する。S205における圧力制御処理は前述の通りである。また、S202において算出された高圧設定時の油圧の大きさが起動不良上限油圧P2以下である場合、S207に移行する。
【0076】
S206において高圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2以下であると判定された場合、S207において、ストッパピン30がロック状態であるか否かを判定する。S207では、ECU91にストッパピン30をロックする指示が入力されているか否かによってストッパピン30がロック状態であるか否かを判定する。ストッパピン30がロック状態であると判定される場合、S205に移行する。S205における圧力制御処理は前述の通りである。また、ストッパピン30がロック状態ではないと判定される場合、S208に移行する。
【0077】
S207においてストッパピン30がロック状態でないと判定された場合、S208において、圧力調整弁99は、リリーフ圧を高く設定し、油圧制御弁92に高圧設定時の油圧を供給する。これにより、ストッパピン30はスムーズにロックされ、ベーンロータ20のハウジング11に対する相対回動は規制される。
【0078】
第2実施形態によるバルブタイミング調整システム10では、エンジン停止時に圧力調整弁99における低圧設定時での油圧および高圧設定時での油圧を事前に算出する。ストッパピン30のロック不良が発生しない最適油圧領域の上限値である起動不良上限油圧P2と算出された低圧設定時での油圧および高圧設定時での油圧との大小関係に基づいて圧力調整弁99を制御することにより、ストッパピン30をスムーズにロックすることができる。これにより、エンジン停止時に位相調整部100に供給される油圧によってロック不良が発生するおそれがなくなる。したがって、第2実施形態のバルブタイミング調整システム10では、第1実施形態の効果(A)および(B)に加えて、エンジン停止時におけるロック不良の発生を防止することができる。
【0079】
また、第2実施形態のバルブタイミング調整システム10では、低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧いずれもが起動不良上限油圧P2より大きい場合、低圧設定時の油圧を位相調整部100に供給する。これにより、高圧設定時の油圧を使用する場合に比べて、位相を調整するために必要なオイルの消費量を低減することができる。
【0080】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態によるバルブタイミング調整システムを図12および図13に基づいて説明する。第3実施形態は、第2実施形態に対してオイルの圧力制御処理を実行する際の判定手段が異なる。なお、第2実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0081】
第3実施形態のバルブタイミング調整システム101は、図12に示すように、パーキングブレーキのオンオフを検出する「パーキングブレーキ検出手段」としてのパーキングブレーキスイッチ981、および図示しないシフトレンジ装置のシフトレンジを検出する「シフトレンジ検出手段」としてのシフトレンジセンサ982を備えている。パーキングブレーキスイッチ981は、検出するパーキングブレーキのオンオフに応じた信号をECU91に出力する。シフトレンジセンサ982は、運転者により選択されるシフトレンジに応じた信号をECU91に出力する。第3実施形態のECU91は、特許請求の範囲に記載の「パーキング判定手段」に相当する。
【0082】
第3実施形態によるバルブタイミング調整システム101におけるオイルの圧力制御処理のフローを図13に示す。
S202における低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧の算出後、S303において、パーキングブレーキスイッチ981がオン検出しているか否か、またはシフトレンジセンサ982がパーキングレンジを検出しているか否かを判定する。パーキングブレーキスイッチ981がオン検出している場合、または、シフトレンジセンサ982がパーキングレンジを検出している場合、S204に移行する。S204では、低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2より大きいか否かを判定する。また、パーキングブレーキスイッチ981がオフ検出しており、かつシフトレンジセンサ982がパーキングレンジ以外のシフトレンジを検出している場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0083】
第3実施形態によるバルブタイミング調整システム101では、パーキングブレーキの作動状態をパーキングブレーキスイッチ981によって検出、またはシフトレンジセンサ982によって選択されているシフトレンジを検出する。パーキングブレーキがオンである場合、またはシフトレンジがパーキングレンジである場合、その後にエンジン1が停止されることが考えられる。そこで、第3実施形態のバルブタイミング調整システム101では、これら2つのスイッチが検出する信号に基づいてストッパピン30をロックするための圧力制御処理を実行する。これにより、第1実施形態の効果(A)および(B)に加えて、エンジン1の停止前にストッパピン30を確実にロックすることができる。したがって、ストッパピン30のロック不良の発生をさらに防止することができる。
【0084】
(他の実施形態)
(ア)上述の実施形態では、オイルの圧力および温度は、それぞれ油圧センサおよび油温センサが検出するとした。しかしながら、オイルの圧力および温度の検出方法は,これに限定されない。エンジンを冷却する冷却水の温度を検出する水温センサによって検出された冷却水の水温から油圧および油温を算出してもよい。
【0085】
(イ)上述の第2実施形態では、エンジンのアイドル状態をクランク角センサが検出するクランクシャフトの回転角度により判定するとした。しかしながら、エンジンのアイドル状態の判定方法は、これに限定されない。アクセル装置のアクセル開度から判定してもよいし、また前述のクランクシャフトの回転角度とアクセル装置のアクセル開度を併用して判定してもよい。
【0086】
(ウ)上述の実施形態では、圧力調整弁は、低圧設定および高圧設定の2つの油圧設定が可能であるとした。しかしながら、設定できる油圧はこれに限定されない。リリーフ圧を調整することにより、3つ以上の複数の油圧設定が可能であってもよい。この場合、第2実施形態のバルブタイミング調整システムでは、位相調整部に供給する油圧を連続的に変化させ、起動不良上限油圧より大きく、かつ起動不良上限油圧に近い値にすることにより、オイルの消費量を減少させることができる。
【0087】
(エ)上述の実施形態では、ポンプはエンジンの駆動力によって作動する機械式ポンプであるとした。しかしながら、ポンプの駆動源はこれに限定されない。電動ポンプでもあってもよい。この場合、第2実施形態のバルブタイミング調整システムでは、位相調整部に供給する油圧を連続的に変化させ、起動不良上限油圧より大きく、かつ起動不良上限油圧に近い値にすることにより、オイルの消費量を減少させることができる。
【0088】
(オ)上述の実施形態では、バルブタイミング調整システムでは作動流体としてオイルを用いるとした。しかしながら、作動流体は、オイルに限定されない。バルブタイミング調整システムを作動可能な流体であればよい。
【0089】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 ・・・エンジン(内燃機関)、
2 ・・・クランクシャフト(駆動軸)、
4、5 ・・・カムシャフト(従動軸)、
8 ・・・吸気弁、
9 ・・・排気弁、
10、101 ・・・バルブタイミング調整システム、
11 ・・・ハウジング、
20 ・・・ベーンロータ、
22、23、24、25・・・ベーン、
221 ・・・収容孔、
30 ・・・ストッパピン(規制部材)、
31 ・・・嵌合孔、
41 ・・・カム角センサ(従動角検出手段)、
42 ・・・クランク角センサ(駆動角検出手段)、
51、52、53、54・・・遅角室、
55、56、57、58・・・進角室、
90 ・・・ポンプ、
91 ・・・ECU(第1制御手段、圧力算出手段、第1記憶手段、時間差判定手段、ロックモード判定手段、調整前圧力判定手段、調整後圧力判定手段、第2制御手段、第2記憶手段、アイドル状態判定手段、内燃機関停止手段、低圧設定圧判定手段、高圧設定圧判定手段、ロックモード判定手段、パーキング判定手段)
92 ・・・油圧制御弁(切換弁)、
96 ・・・油温センサ(作動流体温度検出手段)、
97 ・・・油圧センサ(作動流体圧検出手段)、
98 ・・・スロットルセンサ(バルブ角度検出手段)、
981 ・・・パーキングブレーキスイッチ(パーキングブレーキ検出手段)、
982 ・・・シフトレンジセンサ(シフトレンジ検出手段)、
99 ・・・圧力調整弁、
100 ・・・位相調整部(バルブタイミング調整装置)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸排気弁を開閉するタイミングを変更可能なバルブタイミング調整システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのクランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変更することにより、カムシャフトが開閉駆動する吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整システムが公知である。バルブタイミング調整システムは、クランクシャフトの回転駆動力が、ハウジング、ベーンロータ、およびカムシャフトを経由し、吸気弁または排気弁の一方または両方に伝達される。ハウジングとベーンロータとにより形成される進角室、および遅角室に供給する作動油の圧力を制御することにより、吸排気弁の開閉タイミングを調整する。
【0003】
吸排気弁の開閉タイミングを進角するとき、進角室に遅角室より多くの作動流体を供給し、吸排気弁の開閉タイミングを遅角するとき、遅角室に進角室より多くの作動流体を供給する。また、吸排気弁の開閉タイミングを保持するとき、進角室および遅角室にそれぞれ同程度の作動流体を供給する。進角室および遅角室に供給される作動流体の圧力は、作動流体の供給先を進角室または遅角室を選択する切換弁および圧力調整弁によって調整される。圧力調整弁は、ポンプが吐出する作動流体の圧力を切換弁に供給される前に調整する。特許文献1には、エンジンの回転数に応じて切換弁に供給される作動油の圧力を調整するオイル供給装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−58458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のオイル供給装置では、エンジンの回転数に基づいて作動流体の圧力を調整するため、エンジンの回転数が高いとバルブタイミング調整装置において高圧を必要としないときであっても、オイル供給装置は高圧の作動油を供給する。このため、ハウジングに対してベーンロータの相対回動を可能にするロック解除中またはハウジングに対してベーンロータをロックするロック進行中において、エンジンの回転数に応じて作動流体の圧力が変化するとロック解除不良またはロック不良が発生するおそれがある。また、バルブタイミング調整装置に高圧を必要としないときに高圧の作動流体を供給するため、オイルの消費量が多くなる。
【0006】
本発明の目的は、ベーンロータのロック解除不良およびロック不良を防止可能なバルブタイミング調整システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、吸気弁および排気弁の少なくとも一方の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置、ポンプ、切換弁、圧力調整弁、第1制御手段、圧力算出手段などを備える。ポンプが切換弁に向けて吐出する作動流体は、切換弁によってバルブタイミング調整装置のハウジングとベーンロータとにより形成されている進角室または遅角室に選択的に供給される。バルブタイミング調整装置では、切換弁が供給する作動流体によって駆動軸に対する従動軸の回転位相を変更する。ポンプと切換弁との間に設けられている圧力調整弁では、切換弁に供給される作動流体の圧力を調整する。第1制御手段では、駆動軸に対する従動軸の目標位相が入力され、入力される目標位相に応じた信号を切換弁および圧力調整弁に出力する。圧力算出手段では、圧力調整弁が調整する作動流体の圧力を算出する。
【0008】
バルブタイミング調整システムが備える圧力算出手段では、圧力調整弁によって調整される作動流体の圧力を実際に調整する前に事前に算出する。駆動軸に対する従動軸の回転位相の変更処理では、算出された圧力に基づいて進角室または遅角室に供給する作動流体の圧力を最適な圧力に調整する。これにより、バルブタイミング調整装置での駆動軸に対する従動軸の回転位相の変更をスムーズに行うことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、作動流体圧検出手段および第1記憶手段をさらに備える.作動流体圧検出手段は、遅角室または進角室に供給される作動流体の圧力を検出し、遅角室または進角室に供給される作動流体の圧力に応じた信号を出力する。第1記憶手段は、圧力調整弁が調整する前の作動流体の調整前圧力および圧力調整弁が調整した後の作動流体の調整後圧力と、作動流体圧検出手段が検出する作動流体の圧力との関係を表す第1マップを記憶する。圧力算出手段は、作動流体圧検出手段により検出される遅角室または進角室に供給される作動流体の圧力および第1マップに基づいて調整前圧力および調整後圧力を算出する。
【0010】
請求項3に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、第1制御手段に駆動軸に対する従動軸の目標位相が入力される第1タイミングと圧力調整弁により切換弁に供給される作動流体の圧力が調整される第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定する時間差判定手段をさらに備える。時間差判定手段により第1タイミングと第2タイミングとの差が所定の時間より小さいと判定される場合、圧力算出手段は調整前圧力および調整後圧力を算出する。
【0011】
請求項4に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、規制部材が嵌合孔に嵌合しているか否かを判定するロックモード判定手段をさらに備える。ロックモード判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していると判定される場合、時間差判定手段は第1タイミングと第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定する。
【0012】
請求項5から7に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、調整前圧力判定手段、調整後圧力判定手段、および第2制御手段をさらに備える。調整前圧力判定手段は、圧力算出手段により算出される調整前圧力が所定の第1圧力より小さいか否かを判定する。調整後圧力判定手段は、圧力算出手段により算出される調整後圧力が所定の第2圧力より小さいか否かを判定する。第2制御手段は、調整前圧力判定手段、および調整後圧力判定手段による判定結果に基づいて、第3タイミングと第2タイミングとの前後関係を調整する。
【0013】
バルブタイミング調整システムでは、内燃機関の始動直後に吸排気弁の開閉タイミングを進角する際規制部材の嵌合孔との嵌合を解除するため、バルブタイミング調整装置に作動流体を供給する。規制部材の嵌合を解除している最中に圧力調整弁により作動流体の圧力が調整されると、規制部材の嵌合がスムーズに解除されないため、ベーンロータの規制がスムーズに解除されないおそれがある。そこで、請求項5から7に記載のバルブタイミング調整システムでは、規制部材によるベーンロータの規制を解除する際、圧力調整弁による作動流体の圧力を調整する前の調整前圧力、および圧力を調整した後の調整後圧力を算出する。算出される調整前圧力および調整後圧力は規制部材によるロック解除が不良となる作動流体の圧力領域と比較され、第2制御手段は圧力調整弁により切換弁に供給される作動流体の圧力が調整される第2タイミングと切換弁が作動流体の流路を切り換える第3タイミングとの前後関係を調整する。これにより、規制部材によるベーンロータの規制を解除している最中にバルブタイミング調整装置に供給される作動流体の圧力が突然変更されることがなくなるため、内燃機関始動時の規制部材によるロックをスムーズに解除することができる。
【0014】
また、調整前圧力が低圧であって調整後圧力が高圧である場合、切換弁が作動流体の流路を切り換える前に圧力調整弁により切換弁に供給される作動流体の圧力が調整されると、バルブタイミング調整装置に高圧の作動流体が供給される。供給される高圧の作動流体は、ハウジングに対するベーンロータの回転位相を迅速に変更するため、駆動軸に対する従動軸の回転位相が短時間で目標位相に到達する。これにより、吸排気弁の開閉タイミングの変更における応答性が向上する。
【0015】
請求項8に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、作動流体温度検出手段および第2記憶手段をさらに備える。作動流体温度検出手段は、作動流体の温度を検出し、作動流体の温度に応じた信号を出力する。第2記憶手段は、圧力調整弁が調整する低圧設定圧力および高圧設定圧力と作動流体の温度との関係を示す第2マップを記憶する。圧力算出手段は、作動流体温度検出手段が検出する作動流体の温度および第2マップに基づいて、低圧設定圧力および高圧設定圧力を算出する。
バルブタイミング調整システムの圧力調整弁では、作動流体の圧力を低圧側とする低圧設定圧力、および作動流体の圧力を高圧側とする高圧設定圧力の2つの圧力設定が可能である。請求項8に記載のバルブタイミング調整装置の第2記憶手段は、現在の作動流体の温度に基づいて、圧力調整弁が調整可能な低圧設定圧力および高圧設定圧力を算出することができる第2マップを記憶している。
【0016】
請求項9に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、内燃機関がアイドル状態であるか否かを判定するアイドル状態判定手段をさらに備える。アイドル状態判定手段により内燃機関がアイドル状態であると判定される場合、圧力算出手段は、低圧設定圧力および高圧設定圧力を算出する。
【0017】
請求項10に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、内燃機関の停止を指示する信号が入力されたか否かを判定する内燃機関停止判定手段、および低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する低圧設定圧判定手段をさらに備える。内燃機関停止判定手段により内燃機関の停止を指示する信号が入力されたと判定される場合、低圧設定圧判定手段は、低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する。
請求項11に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、パーキングブレーキ検出手段、シフトレンジ検出手段、パーキング判定手段、および低圧設定圧判定手段をさらに備える。パーキング判定手段によりパーキングブレーキがオンされていると判定される場合、または、シフトレンジがパーキングレンジであると判定される場合、低圧設定圧判定手段は、低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する。
【0018】
請求項12に記載の発明によると、低圧設定圧判定手段により低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいと判定される場合、圧力調整弁は切換弁に供給される作動流体の圧力を低圧設定圧力に調整する。
請求項13に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、高圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する高圧設定圧判定手段をさらに備える。低圧設定圧判定手段により低圧設定圧力が所定の第3圧力以下と判定される場合、高圧設定圧判定手段は高圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する。
請求項14に記載の発明によると、高圧設定圧判定手段により高圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいと判定される場合、圧力調整弁は切換弁に供給される作動流体の圧力を低圧設定圧力に調整する。
【0019】
請求項15に記載の発明によると、バルブタイミング調整システムは、規制部材が嵌合孔に嵌合しているか否かを判定するロックモード判定手段をさらに備える。高圧設定圧判定手段により高圧設定圧力が所定の第3圧力以下であると判定される場合、ロックモード判定手段は規制部材が嵌合孔に嵌合しているか否かを判定する。
請求項16および17に記載の発明によると、ロックモード判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していると判定される場合、圧力調整弁は切換弁に供給される作動流体の圧力を低圧設定圧力に調整し、ロックモード判定手段により規制部材が嵌合孔に嵌合していないと判定される場合、圧力調整弁は切換弁に供給される作動流体の圧力を高圧設定圧力に調整する。
【0020】
請求項10から17に記載のバルブタイミング調整システムでは、内燃機関を停止するタイミングを検出することにより、ベーンロータの相対回動が規制されるように規制部材をハウジングの嵌合孔に嵌合する。このとき、規制部材に作用する作動流体の圧力の大きさを考慮して、バルブタイミング調整システムでは事前に圧力調整弁で設定可能な低圧設定圧力および高圧設定圧力を算出する。作動流体の温度に基づいて算出される低圧設定圧力および高圧設定圧力と規制部材が嵌合可能な圧力領域とを比較することにより、規制部材が確実にロックされるように作動流体の圧力を最適な圧力に調整する。これにより、内燃機関停止時の規制部材によるロックを確実に行うことができる。
【0021】
また、バルブタイミング調整システムでは規制部材によりベーンロータをハウジングにロックするとき、高圧設定圧力が必要ない場合低圧設定圧力を供給する。これにより、規制部材によるロックを確実に行うために必要な作動流体の消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムが適用される駆動力伝達系の模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムの位相調整部の断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムの位相調整部と油圧制御部との関係を示す模式図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける位相調整部のストッパピン付近の拡大断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける進角油圧および遅角油圧とストッパピンのロック状態との関係を説明する断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける説明図であって、(a)油圧制御弁に供給される油圧とストッパピンのロックを解除するために必要な時間との関係を説明する説明図、(b)油圧制御弁に供給される油圧切換前後の油圧とストッパピンのロック解除不良領域との関係を説明する説明図、である。
【図7】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおけるオイルの圧力制御処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける吸気弁進角指示入力タイミングに対する吸気弁進角指示出力タイミングおよび油圧切換指示出力タイミングとの関係を示す説明図である。
【図9】本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける実験結果を説明する説明図である。
【図10】本発明の第2実施形態によるバルブタイミング調整システムにおけるオイルの圧力制御処理を示すフローチャートである。
【図11】本発明の第2実施形態によるバルブタイミング調整システムにおける油温と油圧との関係を説明する説明図である。
【図12】本発明の第3実施形態によるバルブタイミング調整システムの位相調整部と油圧制御部との関係を示す模式図である。
【図13】本発明の第3実施形態によるバルブタイミング調整システムにおけるオイルの圧力制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態のバルブタイミング調整システムについて図面に基づいて説明する。
【0024】
(第1実施形態)
第1実施形態によるバルブタイミング調整システムを図1から図9に示す。本実施形態のバルブタイミング調整システムは、作動流体としてオイルを用いる油圧制御式である。バルブタイミング調整システムは、エンジンのクランクシャフトの回転角度に対するカムシャフトの回転角度(以下、「カムシャフト位相」という)を調整することにより吸排気弁の開閉タイミングを調整する位相調整部と、位相調整部に供給されるオイルの圧力を制御する油圧制御部とを備える。
【0025】
バルブタイミング調整システム10の位相調整部100が設けられる駆動力伝達系では、図1に示すように、エンジン1の「駆動軸」としてのクランクシャフト2に固定されるギア3と、「従動軸」としてのカムシャフト4、5に固定されるギア191、6にチェーン7が巻き掛けられ、クランクシャフト2からカムシャフト4、5に駆動力が伝達される。一方のカムシャフト4はカム機構を経由して吸気弁8を開閉駆動し、他方のカムシャフト5はカム機構を経由して排気弁9を開閉駆動する。第1実施形態のバルブタイミング調整システム10では、ギア191に対する回転位相が変更可能なベーンロータ20(図2参照)にカムシャフト4が接続しており、ベーンロータ20の位相を変更することにより吸気弁8の開閉タイミングを調整する。カムシャフト4にはカムシャフト4の回転角度を検出するカム角センサ41が取り付けられている。また、クランクシャフト2にはクランクシャフト2の回転角度を検出するクランク角センサ42が取り付けられている。位相調整部100は、特許請求の範囲に記載の「バルブタイミング調整装置」に相当する。
【0026】
図2および図3に示すように、位相調整部100は、ハウジング11、ベーンロータ20、およびストッパピン30等を備えている。
ハウジング11は、環状の周壁12および仕切り部材としてのシュウ13、14、15、16と一体に形成されたシュウハウジング17、フロントプレート18、並びにスプロケット19等から構成されている。略台形に形成されたシュウ13、14、15、16は、周壁12から径方向内側へ延びており、周壁12の周方向に略等間隔に設けられている。周方向に隣接するシュウ同士の間隙には略扇状の圧力室50が形成されている。
【0027】
スプロケット19は、径外側にギア191を備え、周壁12の回転軸方向の一方に設けられている。スプロケット19は、軸方向にカムシャフト4を通す軸孔192を有している。
【0028】
フロントプレート18は、略円盤状に形成され、周壁12の回転軸方向の他方に設けられている。フロントプレート18は、円盤の中心に板厚方向に通じる円孔181を有している。
【0029】
シュウハウジング17、フロントプレート18およびスプロケット19は、ボルト111によって同軸上に固定されている。
【0030】
ベーンロータ20は、ハウジング11と略同軸に設けられ、ハウジング11の内側に相対回転可能に収容されている。ベーンロータ20は、略円筒状のロータ21、およびこのロータ21から径外方向に突出する4個のベーン22、23、24、25を有している。ベーンロータ20とカムシャフト4とはボルト26によって固定されている。ベーンロータ20とカムシャフト4とは、ノックピン27によって周方向の位置決めがされている。これにより、ベーンロータ20は、カムシャフト4とともに回転する。各ベーン22、23、24、25は、各圧力室50を、それぞれ遅角室51、52、53、54と進角室55、56、57、58とに仕切っている。
【0031】
遅角室51、52、53、54に油圧を供給する遅角通路61、62は、ベーンロータ20のロータ21に形成されている。進角室55、56、57、58に油圧を供給する進角通路63、64は、ロータ21のスプロケット19側の外壁に形成されている。遅角通路61、62および進角通路63、64は、それぞれカムシャフト4に形成された遅角通路65および進角通路66に連通している。
【0032】
シール部材28、29は、例えば樹脂で形成されている。各ベーン22、23、24、25の径外方向の外壁に嵌合するシール部材28は、板ばね281の弾性力により周壁12に押し付けられている。各シュウ13、14、15、16の径内方向の内壁に嵌合するシール部材29は、板ばね291の弾性力によりロータ21に押し付けられている。このため、シール部材28、29は、遅角室51、52、53、54と進角室55、56、57、58との間のオイルの漏れを抑制している。
【0033】
「規制部材」としてのストッパピン30は、有底円筒状に形成され、ベーン22を回転軸方向に通じる収容孔221の軸方向に往復移動可能に収容されている。図3に示すように、スプロケット19にはベーンロータ20が最遅角に位置している状態でストッパピン30に対応する位置に嵌合孔31が形成されている。この嵌合孔31にはブッシュ32が設けられている。ストッパピン30は、一方の端部にブッシュ32の径内側に嵌合する嵌合部33を有している。
【0034】
ストッパピン30の他方の端部には、嵌合孔31側に凹む凹部34が設けられている。この凹部34には、付勢部材としてのコイルスプリング35が収容されている。コイルスプリング35は、一端が凹部34の内壁に当接し、他端がフロントプレート18の内壁に当接する圧縮コイルスプリングであり、ストッパピン30をスプロケット19側へ付勢している。
【0035】
ストッパピン30が収容される収容孔221を形成するベーン22には、遅角室51と収容孔221とを連通する遅角通路221が形成されている(図4参照)。遅角通路221によって、遅角室51のオイルの圧力(以下、「遅角油圧」という)が収容孔221に供給される。また、スプロケット19には、進角室55と収容孔221とを連通する進角通路193が形成されている。進角通路193によって、進角室55のオイルの圧力(以下、「進角油圧」という)が収容孔221に供給される。ストッパピン30は、進角室55および遅角室51に供給されるオイルの圧力の大きさに応じて、ブッシュ32と嵌合、または嵌合を解除する。ストッパピン30のロック解除時における油圧とストッパピン30の動作の関係については、後述する。
【0036】
バルブタイミング調整システム10の油圧制御部200は、図3に示すように、ポンプ90、油圧制御弁92、圧力調整弁99、ECU91などを備える。
【0037】
ポンプ90は、例えば、エンジン1が発生する回転トルクによって駆動する機械式ポンプである。ポンプ90は、オイルパン95に貯留されるオイルを吸引、昇圧する。昇圧されたオイルは、ポンプ90から吐出され、油路902を流れる。
【0038】
油路902は、逆止弁901を介して油圧制御弁92に接続する。また、油路902は、ポンプ90と逆止弁901との間で油路903の一端と接続する。油路903の他端は、圧力調整弁99に接続する。
【0039】
圧力調整弁99は、リリーフ部991および油圧供給部992を備える。油路903が接続するリリーフ部991では、油圧供給部992が供給する油圧によってリリーフ圧が決定される。リリーフ部991に所定のリリーフ圧以上の圧力が油路903から作用する場合、リリーフ部991は開弁し、油路902を流れるオイルの一部がリリーフ部991を通ってオイルパン95に還流される。油圧供給部992は、リニアソレノイド弁であって、ECU91が出力する電流の大きさに応じてリリーフ部991のリリーフ圧力を決定する。第1実施形態の圧力調整弁99では、リリーフ圧が高く設定される高圧設定およびリリーフ圧が低く設定される低圧設定の2つの圧力設定が可能である。
【0040】
油圧制御弁92は、リニアソレノイド弁であって、電気的に接続するECU91が出力する電流の大きさに応じてポンプ90が吐出するオイルの圧力を調整するとともに、供給されるオイルを進角室55、56、57、58および遅角室51、52、53、54を選択して供給する。油圧制御弁92は、油路902と接続する一方、進角室55、56、57、58に接続する進角通路93および遅角室51、52、53、54に接続する遅角通路94と接続している。また、図示しない油路を介して、オイルパン95とも接続している。
【0041】
ECU91は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁の燃料噴射量や点火プラグの点火時期を制御する。ECU91には、油温センサ96が検出するオイルの温度、油圧センサ97が検出する進角通路93および遅角通路94を流通するオイルの圧力、スロットルセンサ98が検出する図示しないスロットルバルブの回転角度が入力される。また、ECU91には、カム角センサ41が検出するカムシャフト4の回転角度、およびクランク角センサ42が検出するクランクシャフト2の回転角度が入力される。ECU91は、特許請求の範囲に記載の「第1制御手段」、「圧力算出手段」、「第1記憶手段」、「時間差判定手段」、「ロックモード判定手段」、「調整前圧力判定手段」、「調整後圧力判定手段」、「第2制御手段」に相当する。
【0042】
次に、バルブタイミング調整システム10の作動を説明する。
<エンジン始動時>
エンジン1を始動した直後の状態では、遅角室51、52、53、54および進角室55、56、57、58にポンプ90から十分にオイルが供給されない。このとき、図3に示すようにストッパピン30は嵌合孔31のブッシュ32に嵌合している(以下、ストッパピン30がブッシュ32に嵌合している状態を「ストッパピン30がロックしている」という)。これにより、カムシャフト位相は最遅角位置に保持されたまま、ハウジング11に対するベーンロータ20の相対回動は規制されている。
【0043】
<エンジン始動直後の進角作動時>
エンジン1が始動してから所定時間が経過すると、位相調整100を進角制御するため、遅角室51、52、53、54および進角室55、56、57、58にオイルが十分に供給される。このとき、進角室55および遅角室51に滞留するオイルがストッパピン30に作用することにより、ストッパピン30のロックが解除される。以下にストッパピン30のロック解除における油圧の作用について図4〜図8に基づいて説明する。
【0044】
バルブタイミング調整システム10におけるストッパピン30周辺の拡大断面図を図4に示す。
ストッパピン30がロックしているとき、ベーンロータ20は、最遅角に位置している。このとき、進角油圧が進角通路193を介してストッパピン30に作用すると、ストッパピン30はコイルスプリング35の付勢力に抗して図4の上方に移動する。一方、遅角油圧が遅角通路222を介してストッパピン30に作用すると、ストッパピン30は、進油圧が作用するときと同じようにコイルスプリング35の付勢力に抗して図4の上方に移動する。すなわち、バルブタイミング調整システム10におけるストッパピン30のロック状態は、進角油圧または遅角油圧のいずれによっても解除される。なお、図4中の矢印は、進角室55から収容孔221に供給されるオイルの流れる方向、および、遅角室51から供給されるオイルの流れる方向を示している。
【0045】
ストッパピン30のロックを解除するとき、進角油圧および遅角油圧の大きさによって次の3つのパターンが予想される。これら3つのパターンにおけるストッパピン30とブッシュ32との関係を図5に示す。
【0046】
図5(a)は、進角油圧によってストッパピン30のロックが解除される様子を示したものである。このときの進角油圧および遅角油圧は比較的小さく、進角油圧によってストッパピン30のロックは解除される。これにより、ベーンロータ20の進角作動はスムーズに行われる。
【0047】
図5(b)は、図5(a)と同様に進角油圧によってストッパピン30の嵌合が解除される様子を示したものである。しかしながら、図5(b)における進角油圧は、図8(a)における進角油圧に比べて大きい。このとき、進角室55に供給される油圧によってベーン22は進角方向に移動する。これにより、ベーン22の収容孔221に収容されているストッパピン30は、進角方向に偏心する。偏心したストッパピン30は、嵌合孔31に設けられているブッシュ32に当接し、ストッパピン30とブッシュ32との間に図5(b)の矢印に示すような摩擦力が発生する。これにより、図5(a)に比べて大きい進角油圧が供給される図5(b)の状態では、ストッパピン30のロックは解除されにくくなる。したがって、図5(b)の状態ではベーンロータ20の進角作動はスムーズに行われない。
【0048】
さらに油圧制御弁92に供給される油圧が大きくなると、ベーン22が進角方向に進角する前に、遅角油圧によってストッパピン30のロックが解除される(図5(c))。これにより、進角室55にオイルが供給される前にストッパピン30の嵌合は解除されているため、ベーンロータ20の進角作動はスムーズに行われる。
【0049】
図6(a)に、油圧制御弁92に供給される油圧とストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間との関係を示す。図5において説明したように、進角油圧および遅角油圧として油圧制御弁92に供給される油圧が比較的小さい場合、および油圧制御弁92に供給される油圧が比較的大きい場合、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間は短い。しかしながら、油圧制御弁92に供給される油圧が中間程度である場合、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間は長くなる。
【0050】
ここで、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間が長くなる領域での油圧の上下限とバルブタイミング調整システム10での油圧の調整前後での油圧との関係を図6(b)に示す。前述したように、ストッパピン30のロックが解除されるのに必要な時間が長くなる領域をロック解除不良領域とし、その下限油圧を起動不良下限油圧P1とする。また、ロック解除不良領域の上限油圧を起動不良上限油圧P2とする。起動不良下限油圧P1は、特許請求の範囲に記載の「第1圧力」に相当する。起動不良上限油圧P2は、特許請求の範囲に記載の「第2圧力」に相当する。
【0051】
バルブタイミング調整システム10では、油圧の調整前後において油圧制御弁92に供給される油圧がロック解除不良領域の油圧となってしまう場合がある。そこで、第1実施形態によるバルブタイミング調整システム10では、調整前後の油圧と起動不良下限油圧P1および起動不良上限油圧P2との大小関係を判定することにより、ストッパピン30のロックを解除するのに最適な油圧を選択する圧力制御処理を行う。第1実施形態によるバルブタイミング調整システム10におけるオイルの圧力制御処理のフローを図7に示す。
【0052】
最初のステップ(以下、「ステップ」を省略し、単に記号Sで示す)101において、ストッパピン30がロック状態であるか否かを判定する。ECU91には、外部の電子制御装置から吸気弁8の開閉タイミングを制御する指令が入力される。これにより、油圧制御弁92に電流が出力され、ベーンロータ20の位相を変更する。そこで、S101では吸気弁8を進角する指令がECU91に入力されているか否かを判定する。当該指令が入力されていない場合、ストッパピン30はロック状態であり、ベーンロータ20はスプロケット19にロックされていると判定する。一方、当該指令が入力されている場合、ストッパピン30のロック状態は解除されており、ベーンロータ20はスプロケット19に対して相対回動可能であると判定する。ストッパピン30がロック状態であると判定される場合、S102に移行する。ストッパピン30のロック状態は解除されていると判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0053】
次にS102において、吸気弁8の開閉タイミングを所望の開閉タイミングとするカムシャフト目標位相がECU91に入力された時刻と油圧制御弁92に供給される油圧が調整される予定の時刻との時間差が所定時間より小さいか否かを判定する。ECU91は、図示しない外部の電子制御装置から吸気弁8の開閉タイミングを所望の開閉タイミングとする指令が入力された第1時刻t1を記憶するとともに、圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を事前に算出する。ECU91では、第1時刻t1と圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻との差を算出する。第1時刻t1と圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻との差が所定の時間より小さいと判定される場合、S103に移行する。第1時刻t1と圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻との差が所定の時間以上であると判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。第1時刻t1は、特許請求の範囲に記載の「第1タイミング」に相当する。圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻は、特許請求の範囲に記載の「第2タイミング」に相当する。
【0054】
次にS103において、圧力調整弁99により調整される前後の油圧を算出する。ECU91には、位相調整部100に供給される油圧と圧力調整弁99により調整される調整前油圧および調整後油圧との関係を示す第1マップが記憶されている。そこで、現時点で油圧制御弁92に供給されている油圧に基づいて、圧力調整弁99により調整される前の調整前油圧および圧力調整弁99により調整された後の調整後油圧を算出する。調整前油圧および調整後油圧は、ECU91に記憶される。
【0055】
次にS104において、圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さいか否かを判定する。前述したように起動不良下限油圧P1は、ロック解除不良領域の下限油圧である。圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さいと判定される場合、S105に移行する。圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1以上であると判定される場合、S108に移行する。
【0056】
次にS105において、圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいか否かを判定する。前述したように起動不良上限油圧P2は、ロック解除不良領域の上限油圧である。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいと判定される場合、S106に移行する。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2以上であると判定される場合、S107に移行する。
【0057】
次にS106において、ECU91は圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を変更する。S106では、S104およびS105での判定によって調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さく、かつ調整後油圧が起動不良上限油圧P2より小さいと判定されている。図6(b)に示すように油圧調整後にロック解除不良が発生するおそれがある(図6(b)パターン1に該当)。そこで、S106では、図8(a)に示すように第1時刻t1に対して、圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を所定時間遅らせる。具体的には、ECU91が圧力調整弁99に対して油圧を調整する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる。
【0058】
また、S105において圧力調整弁99の調整後油圧が起動不良上限油圧P2以上であると判定された場合、S107において、ECU91は圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を変更するか、または「第3タイミング」としてのベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を変更する。S107では、S104およびS105での判定によって調整前油圧が起動不良下限油圧P1より小さく、調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいと判定されている。この状態であっても、図5(b)で示したようにストッパピン30が偏心するため、ストッパピン30のロックが解除されないおそれがある。そこで、S107では図8(a)または(b)に示すように、第1時刻t1に対して圧力調整弁99によって油圧を調整する予定の時刻を所定時間遅らせるか、もしくは第1時刻t1に対してベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を所定時間遅らせる。具体的には、圧力調整弁99での油圧の調整時刻を所定時間遅らせる場合、ECU91が圧力調整弁99に対して油圧を調整する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる(図8(a))。また、ベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を所定時間遅らせる場合、ECU91が油圧制御弁92に対して油圧制御弁92での油路の切換を指示する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる(図8(b))。
【0059】
また、S104において圧力調整弁99による調整前油圧が起動不良下限油圧P1以上であると判定された場合、次にS108において、圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいか否かを判定する。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいと判定される場合、S109に移行する。圧力調整弁99による調整後油圧が起動不良上限油圧P2以下であると判定される場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0060】
次にS109において、ECU91はベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を変更する。S109では、S104およびS105での判定によって調整前油圧が起動不良下限油圧P1より大きく、調整後油圧が起動不良上限油圧P2より大きいと判定されているので、油圧調整前にロック解除不良が発生するおそれがある(図6(b)パターン3参照)。そこで、図8(b)に示すように、第1時刻t1に対してベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を所定時間遅らせる。具体的には、ECU91が油圧制御弁92に対して油圧制御弁92での油路の切換を指示する信号を出力する時刻を所定時間遅らせる(図8(b))。
【0061】
第1実施形態のバルブタイミング調整システム10では、このようにしてエンジン始動直後の進角作動時にストッパピン30のロックを解除する。
【0062】
<進角作動時>
位相調整部100を進角制御するとき、ECU91は、油圧制御弁92および圧力調整弁99に供給する駆動電流を制御する。油圧制御弁92は、ポンプ90と進角通路93とを接続し、遅角通路94とオイルパン95とを接続する。ポンプ90が吐出するオイルは、進角通路93、66、63、64を経由し、進角室55、56、57、58に供給される。一方、遅角室51、52、53、54のオイルは、遅角通路61、62、65、94を経由し、オイルパン95に排出される。進角室55、56、57、58の油圧はベーン22、23、24、25に作用し、ベーンロータ20を進角方向に付勢するトルクを発生する。これにより、ベーンロータ20は、ハウジング11に対して進角方向に回転する。このとき、圧力調整弁99では、油圧制御弁92に供給されるオイルの圧力を調整する。
【0063】
<遅角作動時>
位相調整部100を遅角制御するとき、ECU91は、油圧制御弁92に供給する駆動電流を制御する。油圧制御弁92は、ポンプ90と遅角通路94とを接続し、進角通路93とオイルパン95とを接続する。ポンプ90から吐出されるオイルは、遅角通路94、65、61、62を経由し、遅角室51、52、53、54に供給される。一方、進角室55、56、57、58のオイルは進角通路63、64、66、93を経由し、オイルパン95に排出される。遅角室51、52、53、54の油圧がベーン22、23、24、25に作用し、ベーンロータ20を遅角方向に付勢するトルクを発生する。これにより、ベーンロータ20は、ハウジング11に対して遅角方向に回転する。このとき、圧力調整弁99では、油圧制御弁92に供給されるオイルの圧力を調整する。
【0064】
<中間保持状態>
ベーンロータ20が目標位相に到達すると、ECU91は油圧制御弁92および圧力調整弁99に出力する駆動電流のデューティ比を制御する。油圧制御弁92は、ポンプ90と、遅角通路94および進角通路93との接続を遮断し、遅角室51、52、53、54および進角室55、56、57、58に滞留するオイルがオイルパン95に排出されることを規制する。このため、ベーンロータ20は目標位相に保持される。このとき、圧力調整弁99では、油圧制御弁92に供給されるオイルの圧力を調整する。
なお、進角作動時、遅角作動時および中間保持状態では、ポンプ90から位相調整部100の進角室55、56、57、58および遅角室51、52、53、54に供給される油圧はコイルスプリング35がストッパピン30に作用する力よりも大きいので、ストッパピン30のロック状態は解除されている。
【0065】
(実験)
本発明の第1実施形態によるバルブタイミング調整システムにおいて、吸気弁を進角作動する指示が入力される時刻に対して油圧調整の時刻または吸気弁の進角作動を開始する時刻を遅らせた場合のストッパピンのロックが解除されるのに必要な時間の変化を実験により確認した。
実験結果を示す図9によると、吸気弁を進角作動する指示が入力される時刻(図9の横軸における原点)に対して油圧調整を所定時間遅らせると、ストッパピンのロックが解除されるのに必要な時間が短くなること明らかである(図9(a))。また、吸気弁を進角作動する指示が入力される時刻に対して、吸気弁の進角作動を開始する時刻を所定時間遅らせると、ストッパピンのロックが解除されるのに必要な時間が短くなること明らかである(図9(b))。
【0066】
(効果)
次に第1実施形態でのバルブタイミング調整システム10の効果について説明する。
(A)第1実施形態のバルブタイミング調整システム10では、ストッパピン30のロックを解除するとき、ECU91が圧力調整弁99によって調整される作動流体の圧力を位相調整部100に作用させる前に算出する。ECU91では、ストッパピン30のロック解除が不良となるロック解除不良領域の起動不良下限油圧P1および起動不良上限油圧P2に対する調整前圧力および調整後圧力の大きさを判定することにより、ストッパピン30のロック解除時の圧力を選択する。特に、ストッパピン30のロック解除中の圧力変更を避けるため、ECU91がベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻と、圧力調整弁99に対して油圧を調整する信号を出力する時刻との前後関係を調整する。これにより、ストッパピン30のロック解除不良の発生を防止することができる。
【0067】
(B)また、調整前圧力が比較的低圧であって調整後圧力が比較的高圧である場合、S107またはS109においてベーンロータ20の位相を目標位相とする信号を出力する時刻を第1時刻から所定時間遅らせることにより、位相調整部100に供給される油圧が高圧となる。これにより、ベーンロータ20のハウジング11に対する回転位相の変更が迅速に行われるため、吸気弁8の開閉タイミングを変更する際の応答性を向上することができる。
【0068】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態によるバルブタイミング調整システムを図10および図11に基づいて説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対してエンジン停止時にもオイルの圧力制御処理を実行する点が異なる。なお、第1実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0069】
第2実施形態によるバルブタイミング調整システム10では、第1実施形態で説明したエンジン始動直後でのストッパピン30のロック解除のときだけでなく、エンジン1を停止するときにもストッパピン30を確実にロックするためのオイルの圧力制御処理が行われる。以下にその圧力制御処理のフローを説明する。
【0070】
最初のステップであるS201において、エンジン1がアイドル状態であるか否かを判定する。エンジン1がアイドル状態になると、クランク角センサ42によって検出されるクランクシャフト2の回転角度から単位時間あたりの回転数が所定の回転数となる。そこで、S201では、クランク角センサ42が検出するクランクシャフト2の回転角度に基づいて、ECU91はエンジン1がアイドル状態であるか否かを判定する。エンジン1がアイドル状態である場合、S202に移行する。エンジン1がアイドル状態でない場合、S201においてエンジン1がアイドル状態となるまで判定を続ける。第2実施形態のECU91は、特許請求の範囲に記載の「第2記憶手段」、「アイドル状態判定手段」、「内燃機関停止手段」、「低圧設定圧判定手段」、「高圧設定圧判定手段」、「ロックモード判定手段」に相当する。
【0071】
次にS202において、圧力調整弁99によって調整される油圧を算出する。圧力調整弁99は、リリーフ圧が高く設定される高圧設定およびリリーフ圧が低く設定される低圧設定の2つの圧力設定を行う。このとき、低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧は、油温によって変化する。図11に示すように、油温が高くなると、低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧ともに油圧が低下する。そこで、S202では、「作動流体温度検出手段」としての油温センサ97によって検出された油温、および油温と低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧との関係を示す第2マップに基づいて、油圧制御弁92が位相調整部100に供給することが可能な低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧を算出する。算出された低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧の数値は、ECU91に記憶される。
【0072】
次にS203において、エンジン1の停止を指示する信号が外部の電子制御装置に入力されたか否かを検出する。ECU91は、エンジン1の駆動を制御する外部の電子制御装置にエンジン1の停止を指示する信号が入力されたか否かを検出する。エンジン1の停止を指示する信号が外部の電子制御装置に入力されたことを検出した場合、S204に移行する。エンジン1の停止を指示する信号が外部の電子制御装置に入力されたことを検出しなかった場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0073】
次にS204において、低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2より大きいか否かを判定する。低圧設定時の油圧と最適油圧領域との関係を図11に示す。図11に示すように、ストッパピン30がロックするときにロック不良が発生しない油圧領域として最適油圧領域が存在する。これは、図11では、「所定の第3圧力」としての起動不良上限油圧P2と最適油圧領域の下限油圧P3とに挟まれる油圧領域である。S203においてエンジン1の停止を指示する信号が外部の電子制御装置に入力されたことを検出したとき、位相調整部100に供給されているオイルの圧力が最適油圧領域内であればロック不良は発生しない。そこで、S204では、起動不良上限油圧P2に対して、S202において算出された低圧設定時の油圧が大きいか否かを判定する。低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2により大きい場合、例えば、図11において油温T1の場合、S205に移行する。S202において算出された低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2以下である場合、S206に移行する。
【0074】
S204において低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2により大きいと判定された場合、S205において、圧力調整弁99はリリーフ圧を低く設定し、油圧制御弁92に低圧設定の油圧を供給する。これにより、ストッパピン30はスムーズにロックされ、ベーンロータ20のハウジング11に対する相対回動は規制される。
【0075】
また、S204において低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2以下であると判定された場合、S206において、高圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2より大きいか否かを判定する。S206では、起動不良上限油圧P2に対して、S202において算出された高圧設定時の油圧が大きいか否かを判定する。S202において算出された高圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2により大きい場合、S205に移行する。S205における圧力制御処理は前述の通りである。また、S202において算出された高圧設定時の油圧の大きさが起動不良上限油圧P2以下である場合、S207に移行する。
【0076】
S206において高圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2以下であると判定された場合、S207において、ストッパピン30がロック状態であるか否かを判定する。S207では、ECU91にストッパピン30をロックする指示が入力されているか否かによってストッパピン30がロック状態であるか否かを判定する。ストッパピン30がロック状態であると判定される場合、S205に移行する。S205における圧力制御処理は前述の通りである。また、ストッパピン30がロック状態ではないと判定される場合、S208に移行する。
【0077】
S207においてストッパピン30がロック状態でないと判定された場合、S208において、圧力調整弁99は、リリーフ圧を高く設定し、油圧制御弁92に高圧設定時の油圧を供給する。これにより、ストッパピン30はスムーズにロックされ、ベーンロータ20のハウジング11に対する相対回動は規制される。
【0078】
第2実施形態によるバルブタイミング調整システム10では、エンジン停止時に圧力調整弁99における低圧設定時での油圧および高圧設定時での油圧を事前に算出する。ストッパピン30のロック不良が発生しない最適油圧領域の上限値である起動不良上限油圧P2と算出された低圧設定時での油圧および高圧設定時での油圧との大小関係に基づいて圧力調整弁99を制御することにより、ストッパピン30をスムーズにロックすることができる。これにより、エンジン停止時に位相調整部100に供給される油圧によってロック不良が発生するおそれがなくなる。したがって、第2実施形態のバルブタイミング調整システム10では、第1実施形態の効果(A)および(B)に加えて、エンジン停止時におけるロック不良の発生を防止することができる。
【0079】
また、第2実施形態のバルブタイミング調整システム10では、低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧いずれもが起動不良上限油圧P2より大きい場合、低圧設定時の油圧を位相調整部100に供給する。これにより、高圧設定時の油圧を使用する場合に比べて、位相を調整するために必要なオイルの消費量を低減することができる。
【0080】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態によるバルブタイミング調整システムを図12および図13に基づいて説明する。第3実施形態は、第2実施形態に対してオイルの圧力制御処理を実行する際の判定手段が異なる。なお、第2実施形態と実質的に同一の部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0081】
第3実施形態のバルブタイミング調整システム101は、図12に示すように、パーキングブレーキのオンオフを検出する「パーキングブレーキ検出手段」としてのパーキングブレーキスイッチ981、および図示しないシフトレンジ装置のシフトレンジを検出する「シフトレンジ検出手段」としてのシフトレンジセンサ982を備えている。パーキングブレーキスイッチ981は、検出するパーキングブレーキのオンオフに応じた信号をECU91に出力する。シフトレンジセンサ982は、運転者により選択されるシフトレンジに応じた信号をECU91に出力する。第3実施形態のECU91は、特許請求の範囲に記載の「パーキング判定手段」に相当する。
【0082】
第3実施形態によるバルブタイミング調整システム101におけるオイルの圧力制御処理のフローを図13に示す。
S202における低圧設定時の油圧および高圧設定時の油圧の算出後、S303において、パーキングブレーキスイッチ981がオン検出しているか否か、またはシフトレンジセンサ982がパーキングレンジを検出しているか否かを判定する。パーキングブレーキスイッチ981がオン検出している場合、または、シフトレンジセンサ982がパーキングレンジを検出している場合、S204に移行する。S204では、低圧設定時の油圧が起動不良上限油圧P2より大きいか否かを判定する。また、パーキングブレーキスイッチ981がオフ検出しており、かつシフトレンジセンサ982がパーキングレンジ以外のシフトレンジを検出している場合、位相調整部100に供給される油圧は変更されることなく、圧力制御処理は終了する。
【0083】
第3実施形態によるバルブタイミング調整システム101では、パーキングブレーキの作動状態をパーキングブレーキスイッチ981によって検出、またはシフトレンジセンサ982によって選択されているシフトレンジを検出する。パーキングブレーキがオンである場合、またはシフトレンジがパーキングレンジである場合、その後にエンジン1が停止されることが考えられる。そこで、第3実施形態のバルブタイミング調整システム101では、これら2つのスイッチが検出する信号に基づいてストッパピン30をロックするための圧力制御処理を実行する。これにより、第1実施形態の効果(A)および(B)に加えて、エンジン1の停止前にストッパピン30を確実にロックすることができる。したがって、ストッパピン30のロック不良の発生をさらに防止することができる。
【0084】
(他の実施形態)
(ア)上述の実施形態では、オイルの圧力および温度は、それぞれ油圧センサおよび油温センサが検出するとした。しかしながら、オイルの圧力および温度の検出方法は,これに限定されない。エンジンを冷却する冷却水の温度を検出する水温センサによって検出された冷却水の水温から油圧および油温を算出してもよい。
【0085】
(イ)上述の第2実施形態では、エンジンのアイドル状態をクランク角センサが検出するクランクシャフトの回転角度により判定するとした。しかしながら、エンジンのアイドル状態の判定方法は、これに限定されない。アクセル装置のアクセル開度から判定してもよいし、また前述のクランクシャフトの回転角度とアクセル装置のアクセル開度を併用して判定してもよい。
【0086】
(ウ)上述の実施形態では、圧力調整弁は、低圧設定および高圧設定の2つの油圧設定が可能であるとした。しかしながら、設定できる油圧はこれに限定されない。リリーフ圧を調整することにより、3つ以上の複数の油圧設定が可能であってもよい。この場合、第2実施形態のバルブタイミング調整システムでは、位相調整部に供給する油圧を連続的に変化させ、起動不良上限油圧より大きく、かつ起動不良上限油圧に近い値にすることにより、オイルの消費量を減少させることができる。
【0087】
(エ)上述の実施形態では、ポンプはエンジンの駆動力によって作動する機械式ポンプであるとした。しかしながら、ポンプの駆動源はこれに限定されない。電動ポンプでもあってもよい。この場合、第2実施形態のバルブタイミング調整システムでは、位相調整部に供給する油圧を連続的に変化させ、起動不良上限油圧より大きく、かつ起動不良上限油圧に近い値にすることにより、オイルの消費量を減少させることができる。
【0088】
(オ)上述の実施形態では、バルブタイミング調整システムでは作動流体としてオイルを用いるとした。しかしながら、作動流体は、オイルに限定されない。バルブタイミング調整システムを作動可能な流体であればよい。
【0089】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 ・・・エンジン(内燃機関)、
2 ・・・クランクシャフト(駆動軸)、
4、5 ・・・カムシャフト(従動軸)、
8 ・・・吸気弁、
9 ・・・排気弁、
10、101 ・・・バルブタイミング調整システム、
11 ・・・ハウジング、
20 ・・・ベーンロータ、
22、23、24、25・・・ベーン、
221 ・・・収容孔、
30 ・・・ストッパピン(規制部材)、
31 ・・・嵌合孔、
41 ・・・カム角センサ(従動角検出手段)、
42 ・・・クランク角センサ(駆動角検出手段)、
51、52、53、54・・・遅角室、
55、56、57、58・・・進角室、
90 ・・・ポンプ、
91 ・・・ECU(第1制御手段、圧力算出手段、第1記憶手段、時間差判定手段、ロックモード判定手段、調整前圧力判定手段、調整後圧力判定手段、第2制御手段、第2記憶手段、アイドル状態判定手段、内燃機関停止手段、低圧設定圧判定手段、高圧設定圧判定手段、ロックモード判定手段、パーキング判定手段)
92 ・・・油圧制御弁(切換弁)、
96 ・・・油温センサ(作動流体温度検出手段)、
97 ・・・油圧センサ(作動流体圧検出手段)、
98 ・・・スロットルセンサ(バルブ角度検出手段)、
981 ・・・パーキングブレーキスイッチ(パーキングブレーキ検出手段)、
982 ・・・シフトレンジセンサ(シフトレンジ検出手段)、
99 ・・・圧力調整弁、
100 ・・・位相調整部(バルブタイミング調整装置)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の駆動軸または従動軸の一方とともに回転するハウジングと、前記駆動軸または前記従動軸の他方とともに回転し、前記ハウジング内部を遅角室および進角室に仕切るベーンを有し、前記ハウジングに対して相対回動可能なベーンロータと、前記ベーンロータに形成される収容孔に摺動可能に収容され、前記ハウジングの内壁に形成された嵌合孔に嵌合することで前記ハウジングに対する前記ベーンロータの相対回動を規制する規制部材と、を備え、前記駆動軸の駆動力を前記従動軸に伝達するとともに前記駆動軸に対する前記従動軸の位相を変更することにより、弁の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置と、
作動流体を汲み上げ吐出するポンプと、
前記ポンプの吐出側と前記バルブタイミング調整装置の前記遅角室および進角室との間に設けられ、前記ポンプから吐出された作動流体の流路を前記遅角室または前記進角室に選択的に切換可能な切換弁と、
前記切換弁に供給される作動流体の圧力を調整する圧力調整弁と、
前記駆動軸に対する前記従動軸の目標位相が入力され、入力される前記目標位相に応じた信号を前記切換弁および前記圧力調整弁に出力する第1制御手段と、
前記圧力調整弁が調整する作動流体の圧力を算出する圧力算出手段と、
を備えることを特徴とするバルブタイミング調整システム。
【請求項2】
前記遅角室または前記進角室に供給される作動流体の圧力を検出し、前記遅角室または前記進角室に供給される作動流体の圧力に応じた信号を出力する作動流体圧検出手段と、
前記作動流体圧検出手段が検出する作動流体の圧力と前記圧力調整弁が調整する前の作動流体の調整前圧力および前記圧力調整弁が調整した後の作動流体の調整後圧力との関係を表す第1マップを記憶する第1記憶手段と、
をさらに備え、
前記圧力算出手段は、前記作動流体圧検出手段により検出される前記遅角室または前記進角室に供給される作動流体の圧力および前記第1マップに基づいて前記調整前圧力および前記調整後圧力を算出することを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項3】
前記第1制御手段に前記駆動軸に対する前記従動軸の目標位相が入力される第1タイミングと前記圧力調整弁により前記切換弁に供給される作動流体の圧力が調整される第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定する時間差判定手段をさらに備え、
前記時間差判定手段により前記第1タイミングと前記第2タイミングとの差が所定の時間より小さいと判定される場合、前記圧力算出手段は前記調整前圧力および前記調整後圧力を算出することを特徴とする請求項2に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項4】
前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合しているか否かを判定するロックモード判定手段をさらに備え、
前記ロックモード判定手段により前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合していると判定される場合、前記時間差判定手段は前記第1タイミングと前記第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定することを特徴とする請求項3に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項5】
前記圧力算出手段により算出される前記調整前圧力が所定の第1圧力より小さいか否かを判定する調整前圧力判定手段と、
前記圧力算出手段により算出される前記調整後圧力が所定の第2圧力より小さいか否かを判定する調整後圧力判定手段と、
前記切換弁が作動流体の流路を切り換える第3タイミングと前記第2タイミングとの関係を調整する第2制御手段と、
をさらに備え、
前記調整前圧力判定手段により前記調整前圧力が前記第1圧力より小さいと判定され、かつ前記調整後圧力判定手段により前記調整後圧力が前記第2圧力より小さいと判定される場合、前記第2制御手段は前記第2タイミングを前記第3タイミングの所定時間後に調整することを特徴とする請求項4に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項6】
前記圧力算出手段により算出される前記調整前圧力が所定の第1圧力より小さいか否かを判定する調整前圧力判定手段と、
前記圧力算出手段により算出される前記調整後圧力が所定の第2圧力より小さいか否かを判定する調整後圧力判定手段と、
前記切換弁が作動流体の流路を切り換える第3タイミングと前記第2タイミングとの関係を調整する第2制御手段と、
をさらに備え、
前記調整前圧力判定手段により前記調整前圧力が前記第1圧力より小さいと判定され、かつ前記調整後圧力判定手段により前記調整後圧力が前記第2圧力以上であると判定される場合、前記第2制御手段は、前記第2タイミングを前記第3タイミングの所定時間後に調整、または前記第3タイミングを前記第2タイミングの所定時間後に調整することを特徴とする請求項4に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項7】
前記圧力算出手段により算出される前記調整前圧力が所定の第1圧力より小さいか否かを判定する調整前圧力判定手段と、
前記圧力算出手段により算出される前記調整後圧力が所定の第2圧力より小さいか否かを判定する調整後圧力判定手段と、
前記切換弁が作動流体の流路を切り換える第3タイミングと前記第2タイミングとの関係を調整する第2制御手段と、
をさらに備え、
前記調整前圧力判定手段により前記調整前圧力が前記第1圧力以上であると判定され、かつ前記調整後圧力判定手段により前記調整後圧力が前記第2圧力以上であると判定される場合、前記第2制御手段は、前記第3タイミングを前記第2タイミングの所定時間後に調整することを特徴とする請求項4に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項8】
作動流体の温度を検出し、作動流体の温度に応じた信号を出力する作動流体温度検出手段と、
作動流体の温度と前記圧力調整弁が調整する低圧設定圧力および高圧設定圧力との関係を示す第2マップを記憶する第2記憶手段と、
をさらに備え、
前記圧力算出手段は、前記作動流体温度検出手段が検出する作動流体の温度および前記第2マップに基づいて、前記低圧設定圧力および前記高圧設定圧力を算出することを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項9】
前記内燃機関がアイドル状態であるか否かを判定するアイドル状態判定手段をさらに備え、
前記アイドル状態判定手段により前記内燃機関がアイドル状態であると判定される場合、前記圧力算出手段は、前記低圧設定圧力および前記高圧設定圧力を算出することを特徴とする請求項8に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項10】
前記内燃機関の停止を指示する信号が入力されたか否かを判定する内燃機関停止判定手段と、
前記低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する低圧設定圧判定手段と、
をさらに備え、
前記内燃機関停止判定手段により前記内燃機関の停止を指示する信号が入力されたと判定される場合、前記低圧設定圧判定手段は、前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定することを特徴とする請求項8または9に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項11】
パーキングブレーキのオンオフを検出し、前記パーキングブレーキのオンオフに応じた信号を出力するパーキングブレーキ検出手段と、
車両の運転者が選択するシフトレンジを検出し、前記シフトレンジに応じた信号を出力するシフトレンジ検出手段と、
前記パーキングブレーキ検出手段が検出する前記パーキングブレーキのオンオフに基づいて前記パーキングブレーキがオンされているか否か、または前記シフトレンジ検出手段が検出する前記シフトレンジに基づいて前記シフトレンジがパーキングレンジであるか否かを判定するパーキング判定手段と、
前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定する低圧設定圧判定手段と、
をさらに備え、
前記パーキング判定手段により前記パーキングブレーキがオンされていると判定される場合、または、前記シフトレンジがパーキングレンジであると判定される場合、前記低圧設定圧判定手段は、前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定することを特徴とすることを特徴とする請求項8または9に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項12】
前記低圧設定圧判定手段により前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいと判定される場合、前記圧力調整弁は前記切換弁に供給される作動流体の圧力を前記低圧設定圧力に調整することを特徴とする請求項10または11に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項13】
前記高圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定する高圧設定圧判定手段をさらに備え、
前記低圧設定圧判定手段により前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力以下であると判定される場合、前記高圧設定圧判定手段は前記高圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定することを特徴とする請求項10または11に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項14】
前記高圧設定圧判定手段により前記高圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいと判定される場合、前記圧力調整弁は前記切換弁に供給される作動流体の圧力を前記低圧設定圧力に調整することを特徴とする請求項13に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項15】
前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合しているか否かを判定するロックモード判定手段をさらに備え、
前記高圧設定圧判定手段により前記高圧設定圧力が前記所定の第3圧力以下であると判定される場合、前記ロックモード判定手段は前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合しているか否かを判定することを特徴とする請求項13または14に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項16】
前記ロックモード判定手段により前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合していると判定される場合、前記圧力調整弁は前記切換弁に供給される作動流体の圧力を前記低圧設定圧力に調整することを特徴とする請求項15に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項17】
前記ロックモード判定手段により前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合していないと判定される場合、前記圧力調整弁は前記切換弁に供給される作動流体の圧力を前記高圧設定圧力に調整することを特徴とする請求項15に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項1】
内燃機関の駆動軸または従動軸の一方とともに回転するハウジングと、前記駆動軸または前記従動軸の他方とともに回転し、前記ハウジング内部を遅角室および進角室に仕切るベーンを有し、前記ハウジングに対して相対回動可能なベーンロータと、前記ベーンロータに形成される収容孔に摺動可能に収容され、前記ハウジングの内壁に形成された嵌合孔に嵌合することで前記ハウジングに対する前記ベーンロータの相対回動を規制する規制部材と、を備え、前記駆動軸の駆動力を前記従動軸に伝達するとともに前記駆動軸に対する前記従動軸の位相を変更することにより、弁の開閉タイミングを調整するバルブタイミング調整装置と、
作動流体を汲み上げ吐出するポンプと、
前記ポンプの吐出側と前記バルブタイミング調整装置の前記遅角室および進角室との間に設けられ、前記ポンプから吐出された作動流体の流路を前記遅角室または前記進角室に選択的に切換可能な切換弁と、
前記切換弁に供給される作動流体の圧力を調整する圧力調整弁と、
前記駆動軸に対する前記従動軸の目標位相が入力され、入力される前記目標位相に応じた信号を前記切換弁および前記圧力調整弁に出力する第1制御手段と、
前記圧力調整弁が調整する作動流体の圧力を算出する圧力算出手段と、
を備えることを特徴とするバルブタイミング調整システム。
【請求項2】
前記遅角室または前記進角室に供給される作動流体の圧力を検出し、前記遅角室または前記進角室に供給される作動流体の圧力に応じた信号を出力する作動流体圧検出手段と、
前記作動流体圧検出手段が検出する作動流体の圧力と前記圧力調整弁が調整する前の作動流体の調整前圧力および前記圧力調整弁が調整した後の作動流体の調整後圧力との関係を表す第1マップを記憶する第1記憶手段と、
をさらに備え、
前記圧力算出手段は、前記作動流体圧検出手段により検出される前記遅角室または前記進角室に供給される作動流体の圧力および前記第1マップに基づいて前記調整前圧力および前記調整後圧力を算出することを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項3】
前記第1制御手段に前記駆動軸に対する前記従動軸の目標位相が入力される第1タイミングと前記圧力調整弁により前記切換弁に供給される作動流体の圧力が調整される第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定する時間差判定手段をさらに備え、
前記時間差判定手段により前記第1タイミングと前記第2タイミングとの差が所定の時間より小さいと判定される場合、前記圧力算出手段は前記調整前圧力および前記調整後圧力を算出することを特徴とする請求項2に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項4】
前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合しているか否かを判定するロックモード判定手段をさらに備え、
前記ロックモード判定手段により前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合していると判定される場合、前記時間差判定手段は前記第1タイミングと前記第2タイミングとの差が所定の時間より小さいか否かを判定することを特徴とする請求項3に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項5】
前記圧力算出手段により算出される前記調整前圧力が所定の第1圧力より小さいか否かを判定する調整前圧力判定手段と、
前記圧力算出手段により算出される前記調整後圧力が所定の第2圧力より小さいか否かを判定する調整後圧力判定手段と、
前記切換弁が作動流体の流路を切り換える第3タイミングと前記第2タイミングとの関係を調整する第2制御手段と、
をさらに備え、
前記調整前圧力判定手段により前記調整前圧力が前記第1圧力より小さいと判定され、かつ前記調整後圧力判定手段により前記調整後圧力が前記第2圧力より小さいと判定される場合、前記第2制御手段は前記第2タイミングを前記第3タイミングの所定時間後に調整することを特徴とする請求項4に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項6】
前記圧力算出手段により算出される前記調整前圧力が所定の第1圧力より小さいか否かを判定する調整前圧力判定手段と、
前記圧力算出手段により算出される前記調整後圧力が所定の第2圧力より小さいか否かを判定する調整後圧力判定手段と、
前記切換弁が作動流体の流路を切り換える第3タイミングと前記第2タイミングとの関係を調整する第2制御手段と、
をさらに備え、
前記調整前圧力判定手段により前記調整前圧力が前記第1圧力より小さいと判定され、かつ前記調整後圧力判定手段により前記調整後圧力が前記第2圧力以上であると判定される場合、前記第2制御手段は、前記第2タイミングを前記第3タイミングの所定時間後に調整、または前記第3タイミングを前記第2タイミングの所定時間後に調整することを特徴とする請求項4に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項7】
前記圧力算出手段により算出される前記調整前圧力が所定の第1圧力より小さいか否かを判定する調整前圧力判定手段と、
前記圧力算出手段により算出される前記調整後圧力が所定の第2圧力より小さいか否かを判定する調整後圧力判定手段と、
前記切換弁が作動流体の流路を切り換える第3タイミングと前記第2タイミングとの関係を調整する第2制御手段と、
をさらに備え、
前記調整前圧力判定手段により前記調整前圧力が前記第1圧力以上であると判定され、かつ前記調整後圧力判定手段により前記調整後圧力が前記第2圧力以上であると判定される場合、前記第2制御手段は、前記第3タイミングを前記第2タイミングの所定時間後に調整することを特徴とする請求項4に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項8】
作動流体の温度を検出し、作動流体の温度に応じた信号を出力する作動流体温度検出手段と、
作動流体の温度と前記圧力調整弁が調整する低圧設定圧力および高圧設定圧力との関係を示す第2マップを記憶する第2記憶手段と、
をさらに備え、
前記圧力算出手段は、前記作動流体温度検出手段が検出する作動流体の温度および前記第2マップに基づいて、前記低圧設定圧力および前記高圧設定圧力を算出することを特徴とする請求項1に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項9】
前記内燃機関がアイドル状態であるか否かを判定するアイドル状態判定手段をさらに備え、
前記アイドル状態判定手段により前記内燃機関がアイドル状態であると判定される場合、前記圧力算出手段は、前記低圧設定圧力および前記高圧設定圧力を算出することを特徴とする請求項8に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項10】
前記内燃機関の停止を指示する信号が入力されたか否かを判定する内燃機関停止判定手段と、
前記低圧設定圧力が所定の第3圧力より大きいか否かを判定する低圧設定圧判定手段と、
をさらに備え、
前記内燃機関停止判定手段により前記内燃機関の停止を指示する信号が入力されたと判定される場合、前記低圧設定圧判定手段は、前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定することを特徴とする請求項8または9に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項11】
パーキングブレーキのオンオフを検出し、前記パーキングブレーキのオンオフに応じた信号を出力するパーキングブレーキ検出手段と、
車両の運転者が選択するシフトレンジを検出し、前記シフトレンジに応じた信号を出力するシフトレンジ検出手段と、
前記パーキングブレーキ検出手段が検出する前記パーキングブレーキのオンオフに基づいて前記パーキングブレーキがオンされているか否か、または前記シフトレンジ検出手段が検出する前記シフトレンジに基づいて前記シフトレンジがパーキングレンジであるか否かを判定するパーキング判定手段と、
前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定する低圧設定圧判定手段と、
をさらに備え、
前記パーキング判定手段により前記パーキングブレーキがオンされていると判定される場合、または、前記シフトレンジがパーキングレンジであると判定される場合、前記低圧設定圧判定手段は、前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定することを特徴とすることを特徴とする請求項8または9に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項12】
前記低圧設定圧判定手段により前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいと判定される場合、前記圧力調整弁は前記切換弁に供給される作動流体の圧力を前記低圧設定圧力に調整することを特徴とする請求項10または11に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項13】
前記高圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定する高圧設定圧判定手段をさらに備え、
前記低圧設定圧判定手段により前記低圧設定圧力が前記所定の第3圧力以下であると判定される場合、前記高圧設定圧判定手段は前記高圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいか否かを判定することを特徴とする請求項10または11に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項14】
前記高圧設定圧判定手段により前記高圧設定圧力が前記所定の第3圧力より大きいと判定される場合、前記圧力調整弁は前記切換弁に供給される作動流体の圧力を前記低圧設定圧力に調整することを特徴とする請求項13に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項15】
前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合しているか否かを判定するロックモード判定手段をさらに備え、
前記高圧設定圧判定手段により前記高圧設定圧力が前記所定の第3圧力以下であると判定される場合、前記ロックモード判定手段は前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合しているか否かを判定することを特徴とする請求項13または14に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項16】
前記ロックモード判定手段により前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合していると判定される場合、前記圧力調整弁は前記切換弁に供給される作動流体の圧力を前記低圧設定圧力に調整することを特徴とする請求項15に記載のバルブタイミング調整システム。
【請求項17】
前記ロックモード判定手段により前記規制部材が前記嵌合孔に嵌合していないと判定される場合、前記圧力調整弁は前記切換弁に供給される作動流体の圧力を前記高圧設定圧力に調整することを特徴とする請求項15に記載のバルブタイミング調整システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−104376(P2013−104376A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249646(P2011−249646)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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