説明

バーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置

【課題】減圧弁のレイアウトの自由度を高めることができるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】アンチロックブレーキ制御が可能なバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置1であって、ブレーキ液路が形成された基体10と、マスタシリンダMと基体10とを接続するブレーキ配管50に設けられ、マスタシリンダM側のブレーキ液圧と基体10側のブレーキ液圧との液圧差によって弁体が作動することで、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体10に入力されるブレーキ液圧の増加率を低減させる減圧弁40と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
主として自動二輪車、自動三輪車、オールテレーンビークル(ATV)などのバーハンドルタイプの車両(以下、単に「バーハンドル車両」という)に用いられるブレーキ液圧制御装置は、マスタシリンダと車輪ブレーキのホイールシリンダとを接続するブレーキ液路が形成された基体と、この基体に取り付けられた制御部と、を備えている。そして、制御部がホイールシリンダに入力されるブレーキ液圧を適宜制御することで、ホイールシリンダのアンチロックブレーキ制御が可能になっている。
【0003】
前記したブレーキ液圧制御装置では、アンチロックブレーキ制御において、ホイールシリンダに入力されるブレーキ液圧を増圧すべきであると判断された場合には、基体に設けられた入口弁を開弁し、マスタシリンダのブレーキ液圧とホイールシリンダのブレーキ液圧との差圧に基づいて、ホイールシリンダのブレーキ液圧を増圧している。
【0004】
このような従来のブレーキ液圧制御装置では、マスタシリンダで過大なブレーキ液圧が発生したときに、マスタシリンダから基体に入力されるブレーキ液圧を減圧する電磁式の減圧弁を備えているものがある(例えば、特許文献1参照)。
この構成では、マスタシリンダで過大なブレーキ液圧が発生したときに、制御部が減圧弁を閉弁することで、基体に過大なブレーキ液圧が入力されるのを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−283989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した特許文献1に記載されたブレーキ液圧制御装置では、基体内の液圧回路に減圧弁が組み込まれており、このように、基体の内部に減圧弁を設けた場合には、基体の内部構造が複雑になるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明では、前記した問題を解決するため、減圧弁のレイアウトの自由度を高めることができるバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、アンチロックブレーキ制御が可能なバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であって、ブレーキ液路が形成された基体と、マスタシリンダと前記基体とを接続するブレーキ配管に設けられ、前記マスタシリンダ側のブレーキ液圧と前記基体側のブレーキ液圧との液圧差によって弁体が作動することで、前記マスタシリンダで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、前記基体に入力されるブレーキ液圧の増加率を低減させる減圧弁と、を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成では、マスタシリンダと基体とを接続するブレーキ配管に減圧弁を設けることで、減圧弁のレイアウトの自由度が高くなっており、基体の内部構造を変更することなく、ブレーキ系統に減圧弁を設けることができる。そして、マスタシリンダで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体に入力されるブレーキ液圧の増加率が低減されるため、ブレーキ制御の安定性を高めることができる。
また、マスタシリンダ側のブレーキ液圧と基体側のブレーキ液圧との液圧差によって弁体が作動する機械式の減圧弁が用いられており、減圧弁を電気的に制御する必要がないため、ブレーキ制御を簡略化することができる。
また、減圧弁に対して電気的な接続が不要となるので、減圧弁のレイアウトの自由度が大きくなる。したがって、減圧弁を基体の外部に配置することができ、基体を小型化することができる。
【0010】
前記したバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置において、前輪のホイールシリンダに対応する前輪ブレーキ系統と、後輪のホイールシリンダに対応する後輪ブレーキ系統と、を備え、前記減圧弁は、前記前輪ブレーキ系統および前記後輪ブレーキ系統の少なくとも一方において、前記マスタシリンダと前記基体とを接続する前記ブレーキ配管に設けられているように構成することができる。前記した本発明の減圧弁は、電気的な接続が不要でレイアウトの自由度が大きいため、前輪ブレーキ系統および後輪ブレーキ系統の中に組み込み易くなっている。
【0011】
前記したバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記減圧弁は、前記基体の一面と、前記基体から前記基体の一面に沿って延設されたブレーキ配管との間に形成されたスペースに配置されていることが望ましい。基体の一面とブレーキ配管との間に形成されたデッドスペースに減圧弁を配置すると、車両内部のスペースを有効に利用することができる。
【0012】
前記した課題を解決するため、本発明の他の構成としては、バーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であって、前輪のホイールシリンダに対応する前輪ブレーキ系統と、後輪のホイールシリンダに対応する後輪ブレーキ系統と、を備え、前記前輪ブレーキ系統および前記後輪ブレーキ系統の少なくとも一方のアンチロックブレーキ制御が可能なバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であって、ブレーキ液路が形成された基体と、前記マスタシリンダで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、前記基体に入力されるブレーキ液圧の増加率を低減させる減圧弁と、を備え、前記減圧弁および前記基体は、前記前輪ブレーキ系統および前記後輪ブレーキ系統の少なくとも一方において、前記マスタシリンダと前記基体とを接続する前記ブレーキ配管に設けられていることを特徴としている。
【0013】
この構成では、マスタシリンダと基体とを接続するブレーキ配管に減圧弁を設けることで、減圧弁のレイアウトの自由度が高くなっており、基体の内部構造を変更することなく、ブレーキ系統に減圧弁を設けることができる。そして、マスタシリンダで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体に入力されるブレーキ液圧の増加率が低減されるため、ブレーキ制御の安定性を高めることができる。
また、前輪ブレーキ系統と後輪ブレーキ系統とを個別に制御するように減圧弁を配置することができ、ブレーキ制御の精度を高めることができる。
【0014】
前記したバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記減圧弁の弁体の着座位置よりも前記マスタシリンダ側のブレーキ液路には、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧を吸収するマスタシリンダ側液圧吸収機構を設けることできる。前記マスタシリンダ側液圧吸収機構は、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、前記減圧弁の作動開始液圧以上に大きくなったときに作動するように構成されている。
【0015】
ここで、減圧弁が作動したときには、弁体の着座位置よりもマスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧の上昇により、ブレーキ操作子の操作反力が減圧弁を設けていない場合に比べて大きくなる。
前記した構成では、マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が減圧弁の作動開始液圧以上に大きくなった場合に、マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧がマスタシリンダ側液圧吸収機構によって低減されるため、ブレーキ操作子の操作反力の急増を緩和することができる。つまり、減圧弁の作動によるブレーキ操作子の操作フィーリングの変化を低減することができ、良好な操作フィーリングを得ることができる。
また、マスタシリンダ側液圧吸収機構は、マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、減圧弁の作動開始液圧以上に大きくなったときに作動するため、減圧弁が作動していないブレーキ操作時に、マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が必要以上に低減されるのを防ぐことができる。
【0016】
前記したバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記マスタシリンダ側液圧吸収機構は、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路に通じる連通口が形成された装着穴と、前記装着穴に内挿されたピストンと、前記ピストンを前記連通口側に付勢する付勢部材と、を備え、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、前記減圧弁の作動開始液圧に達したときに、前記ピストンが前記付勢部材の弾性力に抗して、前記連通口から離れる方向に移動するように、前記付勢部材に初期荷重を付与することができる。
【0017】
この構成では、マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が減圧弁の作動開始液圧に達したときに、マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が低減され始めるため、減圧弁の作動開始時にブレーキ操作子の操作フィーリングに違和感を生じさせることなく、良好な操作フィーリングを得ることができる。
なお、前記した構成では、ブレーキ操作子の操作反力が減圧弁を設けていない場合に近似するように、付勢部材の撓み始めからの変化量(収縮量)を設定することで、従来のブレーキ操作子の操作フィーリングとの違和感を無くすことが好ましい。
【0018】
前記したバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記減圧弁の弁体の着座位置と前記基体に設けられたポンプの吐出側とを接続するブレーキ液路には、前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧を吸収するポンプ側液圧吸収機構を設けることができる。前記ポンプ側液圧吸収機構は、前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧以上に大きくなったときに作動するように構成されている。
【0019】
この構成では、アンチロックブレーキ制御において、リザーバ内のブレーキ液をポンプによって基体の入力側に還流させるときに、ポンプから吐出されたブレーキ液の脈動をポンプ側液圧吸収機構に吸収させることができる。
また、弁体の着座位置よりもポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧がポンプ側液圧吸収機構によって低減され、基体の入力側でブレーキ液圧の上昇が抑制されるため、リザーバ内のブレーキ液を基体の入力側に還流させ易くなり、ポンプを小型化することができる。
また、ポンプ側液圧吸収機構は、ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧以上に大きくなったときに作動するため、通常のブレーキ操作時に、ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧がポンプ側液圧吸収機構に吸収されるのを防ぐことができる。
なお、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧とは、乾燥路面において車輪がロックしたり、後輪がリフトしたりすると想定されるブレーキ液圧である。すなわち、乾燥路面の状況下において、制御部によってアンチロックブレーキ制御が開始されると想定されるブレーキ液圧である。この作動開始液圧の具体的な数値は、各種の車両に応じて適宜に設定される。
【0020】
前記したバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置において、前記ポンプ側液圧吸収機構は、前記ポンプ側のブレーキ液路に通じる連通口が形成された装着穴と、前記装着穴に内挿されたピストンと、前記ピストンを前記連通口側に付勢する付勢部材と、を備え、前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧に達したときに、前記ピストンが前記付勢部材の弾性力に抗して、前記連通口から離れる方向に移動するように、前記付勢部材に初期荷重を付与することができる。
【0021】
この構成では、ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧がアンチロックブレーキ制御の作動開始液圧に達したときに、ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧がポンプ側液圧吸収機構に吸収され始めるため、アンチロックブレーキ制御の作動開始に合わせて、ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧をポンプ側液圧吸収機構に効率良く吸収させることができる。
【0022】
前記したバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置では、前記減圧弁の弁体の着座位置よりも前記マスタシリンダ側のブレーキ液路に、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、前記減圧弁の作動開始液圧以上に大きくなったときに、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧を吸収するマスタシリンダ側液圧吸収機構を設けるとともに、前記減圧弁の弁体の着座位置と前記基体に設けられたポンプの吐出側とを接続するブレーキ液路に、前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧以上に大きくなったときに、前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧を吸収するポンプ側液圧吸収機構を設けることができる。そして、前記マスタシリンダ側液圧吸収機構と前記ポンプ側液圧吸収機構とは、共通した構造の部品によって構成することが好ましい。
【0023】
このように、マスタシリンダ側液圧吸収機構を構成する部品と、ポンプ側液圧吸収機構を構成する部品とを共通した構造にすることで、生産性や組み付け性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置では、基体の内部構造を変更することなく、ブレーキ系統に減圧弁を設けることができ、マスタシリンダで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体に入力されるブレーキ液圧の増加率が低減されるため、ブレーキ制御の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第一実施形態のブレーキ液圧制御装置の全体構成を示した模式図である。
【図2】第一実施形態のブレーキ液圧制御装置を示した斜視図である。
【図3】第一実施形態の減圧弁を示した図で、(a)は開弁された状態の断面図、(b)は閉弁された状態の断面図である。
【図4】第一実施形態のブレーキ液圧制御装置において、基体に入力されるブレーキ液圧の変動状態を示したグラフである。
【図5】第二実施形態のブレーキ液圧制御装置の減圧弁および液圧吸収機構を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、各実施形態の説明において、同一の構成要素に関しては同一の符号を付し、重複した説明は省略するものとする。
【0027】
[第一実施形態]
第一実施形態のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置1(以下、単に「ブレーキ液圧制御装置」という)は、図1に示すように、マスタシリンダMと車輪ブレーキのホイールシリンダSとの間に介設されるものであり、前輪の車輪ブレーキのホイールシリンダSとそれを作動させる前輪側のマスタシリンダMに対応する前輪ブレーキ系統Fと、後輪の車輪ブレーキのホイールシリンダとそれを作動させる後輪側のマスタシリンダに対応する後輪ブレーキ系統(図示せず)と、を有している。
ブレーキ液圧制御装置1は、電磁弁や圧力センサなどの電気部品やポンプが組み付けられる基体10と、基体10に組み付けられるモータ30と、電磁弁の開閉やモータ30の作動を制御する制御部20と、マスタシリンダMと基体10とを接続するブレーキ配管50の途中に設けられた減圧弁40と、を備えている。
【0028】
ブレーキ液圧制御装置1では、車輪に設けられた車輪速センサからの情報に基づいて、制御部20が電磁弁やモータ30を作動させ、車輪ブレーキのホイールシリンダSに入力されるブレーキ液圧を適宜制御することで、ホイールシリンダSのアンチロックブレーキ制御が可能となっている。
【0029】
基体10は、図2に示すように、略直方体に形成された金属部品であり、その内部にはブレーキ液路が形成されている。
基体10の前面12には、ポンプの駆動源であるモータ30が固着されている。また、前面12の左右上隅部には入口ポートが形成されており、各入口ポートにはマスタシリンダMに至るブレーキ配管50,50が接続されている。また、基体10の後面13には制御部20が固着されている。
基体10の上面11の左右前部には出口ポートが形成されており、各出口ポートにはホイールシリンダSに至るブレーキ配管60,60が接続されている。ブレーキ配管60は、基体10の上面11から垂直方向に延設された後に、直角に折れ曲がることで、上面11に沿って後方(制御部20側)に延設されている。
【0030】
制御部20は、車輪に設けられた車輪速センサからの情報や、予め記憶させておいたプログラムに基づいて、電磁弁の開閉やモータ30の作動を制御するものである。制御部20は、樹脂製の箱体であるハウジング21と、ハウジング21内に収容された制御基板と、を備えており、ハウジング21の前縁部が基体10の後面13に固着されている。
【0031】
ここで、ブレーキ液圧制御装置1におけるアンチロックブレーキ制御について、図1に示す前輪のホイールシリンダSのアンチロックブレーキ制御を例として説明する。
【0032】
まず、制御部20において、ホイールシリンダSに入力されるブレーキ液圧を減圧すべきであると判断された場合には、制御部20が基体10内の電磁弁を作動させて、ブレーキ液を基体10内のリザーバに流入させることで、ホイールシリンダSに入力されるブレーキ液圧が減圧される。
【0033】
また、制御部20において、ホイールシリンダSに入力されるブレーキ液圧を一定に保持すべきであると判断された場合には、制御部20が基体10内の電磁弁を作動させて、ホイールシリンダSに至るブレーキ液路とリザーバに至るブレーキ液路とを遮断し、ブレーキ液を基体10内に閉じ込めることで、ホイールシリンダSに入力されるブレーキ液圧が一定に保持される。
【0034】
さらに、制御部20において、ホイールシリンダSに入力されるブレーキ液圧を増圧すべきであると判断された場合には、制御部20が基体10内の電磁弁を作動させて、ホイールシリンダSに至るブレーキ液路を開放するとともに、リザーバに至るブレーキ液路を遮断し、さらに、ポンプを作動させてリザーバ内のブレーキ液を基体10の入力側(マスタシリンダM側)のブレーキ液路に還流させると、マスタシリンダMのブレーキ液圧をホイールシリンダSに作用させることができるようになるので、ホイールシリンダSに入力されるブレーキ液圧を増圧させることができる。すなわち、マスタシリンダMのブレーキ液圧とホイールシリンダSのブレーキ液圧との差圧に基づいて、ホイールシリンダSに入力されるブレーキ液圧が増圧される。
【0035】
減圧弁40は、図1に示すように、マスタシリンダMから基体10に至るブレーキ配管50の途中に設けられており、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧P1以上に設定された設定液圧P2(図4参照)以上になったときに、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体10に入力されるブレーキ液圧の増加率を低減させるものである。本実施形態では、基体10の上面11とブレーキ配管60との間に形成されたデッドスペースに減圧弁40が配置されている。
【0036】
なお、図4に示す作動開始液圧P1は、乾燥路面において車輪がロックしたり、後輪がリフトしたりすると想定されるブレーキ液圧である。すなわち、乾燥路面の状況下において、制御部によってアンチロックブレーキ制御が開始されると想定されるブレーキ液圧である。この作動開始液圧P1の具体的な数値は、各種の車両に応じて適宜に設定される。
【0037】
減圧弁40は、図3(a)に示すように、シリンダ穴42が形成されたハウジング41と、シリンダ穴42内に挿入された弁体43と、シリンダ穴42内に収納されたコイルばね44と、を備え、マスタシリンダM側のブレーキ液圧と基体10側のブレーキ液圧との液圧差によって作動するものである。
この減圧弁40は、前輪および後輪に作用するブレーキ液圧の配分を調整するために用いられるプロポーショニングバルブ(PCV)である。本実施形態では、基体10に入力されるブレーキ液圧が増大されるのを防ぐために、プロポーショニングバルブである減圧弁40を、マスタシリンダMから基体10に至るブレーキ配管50の途中に設けている。
【0038】
ハウジング41は、その内部にシリンダ穴42が形成された金属部品である。シリンダ穴42は、円形断面の穴部であり、大径穴部42aと、小径穴部42bとが形成されている。
【0039】
ハウジング41には、外面から大径穴部42aに通じるマスタシリンダ側接続液路45が形成されている。本実施形態のマスタシリンダ側接続液路45は、シリンダ穴42の軸方向に直交する方向に形成されている。
また、ハウジング41には、外面から小径穴部42bに通じる基体側接続液路46が形成されている。本実施形態の基体側接続液路46は、シリンダ穴42の軸方向と同じ方向に形成されている。
【0040】
マスタシリンダ側接続液路45には、マスタシリンダMから基体10に至るブレーキ配管50の上流側配管51が接続され、基体側接続液路46には、マスタシリンダMから基体10に至るブレーキ配管50の下流側配管52が接続されている。
【0041】
大径穴部42aにおいて、小径穴部42b側(図3(a)の右側)の一端には、環状のシート部材42cが内嵌されている。シート部材42cは柔軟な弾性部材であり、その内径は小径穴部42bよりも小さく形成されている。
また、大径穴部42aの他端(図3(a)の左側の端部)には、底部材42dが内嵌されている。底部材42dの中心部には、後記する弁体43が摺動可能に挿入される支持穴42eが形成されている。
【0042】
弁体43は、シリンダ穴42内に収容される円形断面の金属部品であり、大径穴部42aに収容される大径ピストン部43aと、小径穴部42bに収容される小径ピストン部43bと、大径ピストン部43aと小径ピストン部43bとを連結する連結ピストン部43cと、が形成されている。この弁体43は、シリンダ穴42内で軸方向に移動可能となっている。
【0043】
大径ピストン部43aにおいて、小径ピストン部43b側(図3(a)の右側)の一端には、フランジ部43dが形成されている。また、大径ピストン部43aの他端(図3(a)の左側の端部)は、底部材42dの支持穴42e内に摺動可能に挿入されている。
【0044】
小径ピストン部43bは、小径穴部42b内に挿入されており、弁体43が小径穴部42b側の反対側(図3(a)の左側)に移動したときに、小径ピストン部43bの外周縁部がシート部材42cの開口縁部に密接する(図3(b)参照)。
【0045】
連結ピストン部43cは、大径ピストン部43aと小径ピストン部43bとを連結させている部位であり、シート部材42cの中心部に挿通されている。連結ピストン部43cの外周面とシート部材42cの内周面との間には隙間が形成されており、この隙間を通じて大径穴部42aと小径穴部42bとが連通している。
【0046】
コイルばね44は、弁体43の大径ピストン部43aに囲繞されており、一端は大径ピストン部43aのフランジ部43dに当接し、他端は底部材42dに当接しており、コイルばね44は、シリンダ穴42内に圧縮状態で収容されている。
コイルばね44によって、弁体43は小径穴部42b側(図3(a)の右側)に付勢されており、小径ピストン部43bがシート部材42cの開口縁部から離れて、小径穴部42bの内面に当接した状態に保たれている。
また、大径ピストン部43aのフランジ部43dに作用したブレーキ液圧が、設定液圧P2(図4参照)に達したときに、弁体43がコイルばね44の弾性力に抗して、底部材42d側に移動するように、コイルばね44に初期荷重が付与されている。
【0047】
このような減圧弁40において、弁体43の基体側接続液路46側(以下、「B室側」という)の受圧面積は、小径ピストン部43bとシート部材42cとの有効シール径D1を直径とする円の面積である。また、弁体43の大径穴部42a側(以下、「A室側」という)の受圧面積は、有効シール径D1を直径とする円の面積から大径ピストン部43a(直径D2)の断面積を引いた面積である。有効シール径D1は大径ピストン部43aの直径D2よりも大きく形成されており、D1>(D1−D2)となるため、弁体43の受圧面積は、A室側よりもB室側の方が大きくなっている。
減圧弁40の非作動時には、弁体43はコイルばね44のばね力によって小径穴部42b側に付勢され、小径ピストン部43bがシート部材42cの開口縁部から離れた状態となっているため、大径穴部42aと小径穴部42bとが連通しており、マスタシリンダ側接続液路45(A室)のブレーキ液圧が基体側接続液路46(B室)にも伝達される。このとき、弁体43のA室側とB室側との受圧面積の差により、弁体43にはB室側からA室側に向けた押圧力が作用している。
マスタシリンダMからのブレーキ液圧が上昇し、マスタシリンダ側接続液路45(B室側)のブレーキ液圧が設定液圧P2(図4参照)に達すると、弁体43に対してB室側からA室側に向けて作用している押圧力がコイルばね44の付勢力よりも大きくなり、図3(b)に示すように、弁体43がシリンダ穴42内で、小径穴部42b側の反対側(A室側)に移動する。そして、小径ピストン部43bの外周縁部がシート部材42cの開口縁部に密接し、大径穴部42aと小径穴部42bとが不通になることで閉弁状態となる。
マスタシリンダ側接続液路45のブレーキ液圧が増圧され続けると、大径穴部42a(A室)内のブレーキ液圧は大きくなるが、基体側接続液路46(B室)内のブレーキ液圧は保たれているため、弁体43に対してA室側からB室側に向けて作用する押圧力が大きくなり、弁体43がシリンダ穴42内で、小径穴部42b側(B室側)に押し出される。これにより、図3(a)に示すように、小径ピストン部43bがシート部材42cの開口縁部から離れて、大径穴部42aと小径穴部42bとが連通して開弁状態となり、マスタシリンダ側接続液路45(A室側)のブレーキ液圧と基体側接続液路46(B室側)のブレーキ液圧とが同じ液圧になる。
さらに、マスタシリンダMからのブレーキ液圧が大きくなると、前記したように、弁体43のA室側とB室側との受圧面積の差により、B室側からA室側に向けた押圧力がコイルばね44の付勢力よりも大きくなり、弁体43がシリンダ穴42内でA室側に移動して再び閉弁され、その後、大径穴部42a(A室)内のブレーキ液圧が大きくなることで、開弁が繰り返される。
このように、減圧弁40では、マスタシリンダM側のブレーキ液圧と基体10側のブレーキ液圧との液圧差によって弁体43が作動して開閉を繰り返すことで、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体10に入力されるブレーキ液圧の増加率を低減させることができる(図4参照)。
【0048】
以上のような第一実施形態のブレーキ液圧制御装置1は、次のように動作して本発明の作用効果を奏する。
図1に示すブレーキ液圧制御装置1の制御部20では、車輪に設けられた車輪速センサからの情報に基づいて、車輪がロックされたと判断すると、ホイールシリンダSのアンチロックブレーキ制御を開始する。このとき、マスタシリンダMから基体10に入力されるブレーキ液圧は作動開始液圧P1(図4参照)に達していると想定されている。
マスタシリンダMから基体10に入力されるブレーキ液圧が設定液圧P2(図4参照)よりも小さい場合には、図3(a)に示す減圧弁40のシリンダ穴42の大径穴部42aと小径穴部42bとが連通した状態であるため、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧と基体10に入力されるブレーキ液圧とが同じ液圧になる。
【0049】
そして、ブレーキレバーへの過大な入力により、マスタシリンダMで過大なブレーキ液圧が発生し、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧が設定液圧P2(図4参照)に達すると、図3(b)に示すように、減圧弁40の弁体43に対してB室側からA室側に向けて作用している押圧力がコイルばね44の付勢力よりも大きくなり、弁体43がシリンダ穴42内でA室側に移動し、小径ピストン部43bの外周縁部がシート部材42cの開口縁部に密接する。これにより、大径穴部42aと小径穴部42bとが不通になる。また、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧が増圧され続けると、A室内のブレーキ液圧は大きくなるが、B室内のブレーキ液圧は保たれているため、弁体43に対してA室側からB室側に向けて作用する押圧力が大きくなり、弁体43がシリンダ穴42内でB室側に押し出され、図3(a)に示すように、小径ピストン部43bがシート部材42cの開口縁部から離れた状態となり、大径穴部42aと小径穴部42bとが連通し、A室のブレーキ液圧がB室にも伝達されて、その後は、同様にして、閉弁と開弁とが繰り返される。
このように、減圧弁40がマスタシリンダM側のブレーキ液圧と基体10側のブレーキ液圧との液圧差によって開閉を繰り返すことで、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体10に入力されるブレーキ液圧の増加率が低減される(図4参照)。
【0050】
第一実施形態のブレーキ液圧制御装置1では、図1に示すように、マスタシリンダMと基体10とを接続するブレーキ配管50に減圧弁40を設けることで、減圧弁40のレイアウトの自由度が高くなっており、基体10の内部構造を変更することなく、ブレーキ系統に減圧弁40を設けることができる。そして、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体10に入力されるブレーキ液圧の増加率が低減されるため、ブレーキ制御の安定性を高めることができる。
また、前輪ブレーキ系統Fのブレーキ配管50に減圧弁40が設けられており、前輪ブレーキ系統Fと後輪ブレーキ系統とが個別に制御されるため、ブレーキ制御の精度を高めることができる。
【0051】
また、第一実施形態のブレーキ液圧制御装置1では、図3に示すように、ブレーキ液圧によって弁体43が作動する機械式の減圧弁40が用いられており、減圧弁40を電気的に制御する必要がないため、ブレーキ制御を簡略化することができる。
【0052】
また、減圧弁40に対して制御部20との電気的な接続が不要となるので、減圧弁40のレイアウトの自由度が大きくなるため、図2に示すように、減圧弁40を基体10の外部に配置して、基体10を小型化することができる。さらに、基体10の上面11とブレーキ配管60との間に形成されたデッドスペースに減圧弁40を配置することで、車両内部のスペースを有効に利用することができる。
【0053】
以上、本発明の第一実施形態について説明したが、本発明は前記第一実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
例えば、第一実施形態では、図2に示すように、減圧弁40を基体10の上面11の近傍に配置しているが、減圧弁40の配置は限定されるものではなく、マスタシリンダMの近傍に配置することもでき、車両内部のスペースを有効に利用して、減圧弁40を配置することができる。
【0054】
また、第一実施形態では、図1に示すように、前輪のホイールシリンダSに対応する前輪ブレーキ系統Fのみに減圧弁40を設けているが、後輪のホイールシリンダに対応する後輪ブレーキ系統に減圧弁を設けることもでき、前輪ブレーキ系統Fおよび後輪ブレーキ系統の両方に減圧弁40を設けることができる。
【0055】
また、第一実施形態では、減圧弁40が開閉を繰り返すことで、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体10に入力されるブレーキ液圧の増加率が低減される減圧弁40を用いているが、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧が設定液圧P2(図4参照)以上に大きい場合に、減圧弁の閉弁状態が保たれるように構成してもよい。この場合には、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体10に入力されるブレーキ液圧の増加率は0となる。
【0056】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態のブレーキ液圧制御装置について説明する。第二実施形態のブレーキ液圧制御装置は、図5に示すように、減圧弁40Aのハウジング41内に、マスタシリンダ側液圧吸収機構70およびポンプ側液圧吸収機構80が設けられている点で、第一実施形態のブレーキ液圧制御装置(図1参照)と異なっている。
【0057】
マスタシリンダ側液圧吸収機構70は、シリンダ穴42の大径穴部42aに通じる連通口71aが形成された装着穴71と、装着穴71に内挿されたピストン72と、ピストン72を連通口71a側に付勢するコイルばね73と、を備えている。
【0058】
装着穴71は、減圧弁40Aのハウジング41の一面41aに穿設された円形断面の穴部であり、一端がシリンダ穴42の大径穴部42aに連通し、他端はハウジング41の一面41aに取り付けられた板状の蓋部材90によって塞がれている。装着穴71の軸方向において中間部よりもシリンダ穴42側には小径穴部71dが形成され、ハウジング41の一面41a側には大径穴部71cが形成されている。大径穴部71cの底面71bの中心部に小径穴部71dの一端が開口している。
【0059】
装着穴71の小径穴部71dには、シリンダ穴42の大径穴部42aに通じる連通口71aが形成されている。この連通口71aは、シリンダ穴42の大径穴部42aを介してマスタシリンダ側接続液路45に通じている。
【0060】
ピストン72は、装着穴71に内挿される円形断面の金属部材であり、大径穴部71cに収容される大径ピストン部72aと、小径穴部71dに収容される小径ピストン部72bと、が形成されている。このピストン72は、装着穴71内で軸方向に摺動可能となっている。
また、小径ピストン部72bの下部の外周面には、シール溝72cが全周に亘って形成されている。シール溝72cには、シール部材72dが嵌め込まれており、シール部材72dによって、小径ピストン部72bの外周面と、小径穴部71dの内周面との間が液密にシールされている。
なお、小径ピストン部72bのシール溝72cは、ピストン72が蓋部材90側に移動し、大径ピストン部72aの先端面72eが蓋部材90の内面90aに当接したときに、大径穴部71c内に露出しない位置に形成されている。すなわち、小径ピストン部72bにおけるシール溝72cから大径ピストン部72aまでの距離aは、大径ピストン部72aが大径穴部71cの底面71bに当接した状態における大径ピストン部72aの先端面72eから蓋部材90の内面90aまでの距離b(ピストン72の最大ストローク量)よりも大きくなっている。これにより、ピストン72が最も蓋部材90側に移動した場合であっても、小径ピストン部72bのシール溝72cに嵌め込まれたシール部材72dが大径穴部71c内に露出するのを防ぐことができる。
【0061】
コイルばね73は、ピストン72と蓋部材90との間に圧縮状態で介設される弾性部材であり、一端がピストン72の大径ピストン部72aに当接し、他端が蓋部材90の内面90aに当接している。コイルばね73によって、ピストン72は連通口71a側(図5の下側)に付勢されており、大径ピストン部72aが大径穴部71cの底面71bに当接した状態に保たれている。
【0062】
コイルばね73は、弁体43の着座位置42fよりもマスタシリンダM側のブレーキ液路となるマスタシリンダ側接続液路45および大径穴部42a内のブレーキ液圧が、減圧弁40Aの作動開始液圧、すなわち、設定液圧P2(図4参照)に達したときに、ピストン72がコイルばね73の弾性力に抗して、連通口71aから離れる方向(図5の上側)に移動するように、コイルばね73に初期荷重が付与されている。
なお、減圧弁40Aの弁体43の着座位置42fとは、弁体43の小径ピストン部43bがシート部材42cの開口縁部に密接したときのマスタシリンダM側と基体10側との境界位置である。
【0063】
ポンプ側液圧吸収機構80は、基体側接続液路46に通じる連通口81aが形成された装着穴81と、装着穴81に内挿されたピストン82と、ピストン82を連通口81a側に付勢するコイルばね83と、を備えている。
【0064】
ポンプ側液圧吸収機構80の装着穴81は、マスタシリンダ側液圧吸収機構70の装着穴71に平行して、ハウジング41の一面41aに穿設された穴部であり、マスタシリンダ側液圧吸収機構70の装着穴71と同様に、大径穴部81cおよび小径穴部81dが形成されている。ポンプ側液圧吸収機構80の装着穴81は、小径穴部81dがマスタシリンダ側液圧吸収機構70の装着穴71の小径穴部71dよりも軸方向に大きい点以外は、マスタシリンダ側液圧吸収機構70の装着穴71と同じ形状である。
【0065】
ポンプ側液圧吸収機構80のピストン82は、マスタシリンダ側液圧吸収機構70のピストン72と同じ形状であり、共通の構造の部品を用いて構成されている。ピストン82には、大径ピストン部82aおよび小径ピストン部82bが形成されており、装着穴81内で軸方向に摺動可能となっている。
また、マスタシリンダ側液圧吸収機構70のピストン72と同様に、ポンプ側液圧吸収機構80のピストン82の小径ピストン部82bに形成されたシール溝82cには、シール部材82dが嵌め込まれており、シール部材82dによって、小径ピストン部82bの外周面と、小径穴部81dの内周面との間が液密にシールされている。また、小径ピストン部82bのシール溝82cは、ピストン82が蓋部材90側に移動し、大径ピストン部82aの先端面82eが蓋部材90の内面90aに当接した場合であっても、大径穴部81c内に露出しない位置に形成されている。
【0066】
ポンプ側液圧吸収機構80のコイルばね83は、ピストン82と蓋部材90との間に圧縮状態で介設される弾性部材であり、一端が大径ピストン部82aに当接し、他端が蓋部材90の内面90aに当接している。コイルばね83によって、ピストン82は連通口81a側(図5の下側)に付勢されており、大径ピストン部82aが大径穴部81cの底面81bに当接した状態に保たれている。
【0067】
コイルばね83は、弁体43の着座位置42fと基体10に設けられたポンプの吐出側とを接続するブレーキ液路である基体側接続液路46内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧P1(図4参照)に達したときに、ピストン82がコイルばね83の弾性力に抗して、連通口81aから離れる方向(図5の上側)に移動するように、コイルばね83に初期荷重が付与されている。
【0068】
以上のような第二実施形態のブレーキ液圧制御装置は、次のように動作して本発明の作用効果を奏する。
基体側接続液路46内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧P1(図4参照)に達している場合において、アンチロックブレーキ制御が開始されて、アンチロックブレーキ制御の減圧制御によって、ホイールシリンダに入力されるブレーキ液圧が減圧されてブレーキ液がリザーバ内に貯溜され、リザーバ内のブレーキ液がポンプによって基体の入力側のブレーキ液路に還流されたときには、ピストン82がコイルばね83の弾性力に抗して、連通口81aから離れる方向に移動する。これにより、ポンプから吐出されたブレーキ液の脈動がポンプ側液圧吸収機構80に吸収される。
【0069】
また、基体側接続液路46内のブレーキ液圧がアンチロックブレーキ制御の作動開始液圧P1(図4参照)に達したときに、基体側接続液路46内のブレーキ液圧がポンプ側液圧吸収機構80に吸収され始めるため、アンチロックブレーキ制御の作動開始に合わせて、基体側接続液路46内のブレーキ液圧をポンプ側液圧吸収機構80に効率良く吸収させることができる。
このように、基体側接続液路46内のブレーキ液圧がポンプ側液圧吸収機構80に吸収されることで、アンチロックブレーキ制御の作動時に基体の入力側でブレーキ液圧の上昇が抑制される。したがって、第二実施形態のブレーキ液圧制御装置では、リザーバ内のブレーキ液を基体10の入力側に還流させ易くなるため、ポンプを小型化することができる。
また、ポンプ側液圧吸収機構80は、基体側接続液路46内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧P1(図4参照)以上に大きくなったときに作動するため、通常のブレーキ操作時など作動開始液圧P1に達していない場合に、基体側接続液路46内のブレーキ液圧がポンプ側液圧吸収機構80に吸収されるのを防ぐことができる。
なお、ポンプ側液圧吸収機構80のコイルばね83は、撓み始めからのストロークを大きくすることで、装着穴81に流入するブレーキ液の液量を大きくすることが好ましい。
【0070】
そして、ブレーキレバーへの過大な入力により、マスタシリンダで過大なブレーキ液圧が発生し、マスタシリンダ側接続液路45内のブレーキ液圧が設定液圧P2(図4参照)に達すると、減圧弁40Aの弁体43がシリンダ穴42内で移動して、減圧弁40Aの作動が開始される。
第二実施形態のブレーキ液圧制御装置では、マスタシリンダ側接続液路45内のブレーキ液圧が減圧弁40Aの作動開始液圧(図4に示す設定液圧P2)以上に大きくなった場合に、ピストン72がコイルばね73の弾性力に抗して、連通口71aから離れる方向に移動することで、マスタシリンダ側接続液路45内のブレーキ液圧が低減される。これにより、ブレーキレバーの操作反力の急増を緩和することができる。
つまり、減圧弁40Aが作動し、減圧弁40Aの閉弁が繰り返されたときには、マスタシリンダ側接続液路45内のブレーキ液圧の上昇により、ブレーキレバーの操作反力が減圧弁40Aを設けていない場合に比べて大きくなるが、第二実施形態のブレーキ液圧制御装置では、減圧弁40Aの作動によるブレーキレバーの操作フィーリングの変化を低減することができ、良好な操作フィーリングを得ることができる。
また、マスタシリンダ側液圧吸収機構70は、マスタシリンダ側接続液路45内のブレーキ液圧が、減圧弁40Aの作動開始液圧である設定液圧P2(図4参照)以上に大きくなったときに作動するため、減圧弁40Aが作動していないブレーキ操作時に、マスタシリンダ側接続液路45内のブレーキ液圧が必要以上に低減されるのを防ぐことができる。
【0071】
また、第二実施形態のブレーキ液圧制御装置では、マスタシリンダ側接続液路45内のブレーキ液圧が減圧弁40Aの作動開始液圧(図4に示す設定液圧P2)に達したときに、マスタシリンダ側接続液路45内のブレーキ液圧が低減され始めるため、減圧弁40Aの作動開始時にブレーキレバーの操作フィーリングに違和感を生じさせることなく、良好な操作フィーリングを得ることができる。
なお、第二実施形態のブレーキ液圧制御装置では、ブレーキレバーの操作反力が減圧弁40Aを設けていない場合の操作反力に近似するように、コイルばね83の撓み始めからの変化量(収縮量)を設定することで、従来のブレーキレバーの操作フィーリングとの違和感を無くすことが好ましい。
【0072】
また、第二実施形態のブレーキ液圧制御装置では、マスタシリンダ側液圧吸収機構70およびポンプ側液圧吸収機構80のピストン72,82およびコイルばね73,83を共通した構造にすることで、生産性や組み付け性を向上させることが好ましい。
なお、マスタシリンダ側液圧吸収機構70およびポンプ側液圧吸収機構80の各コイルばね73,83に付与する初期荷重を変化させることで、マスタシリンダ側液圧吸収機構70およびポンプ側液圧吸収機構80が作動し始めるブレーキ液圧をそれぞれ設定することができる。
【0073】
以上、本発明の第二実施形態について説明したが、本発明は前記第二実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に変更が可能である。
例えば、第二実施形態のブレーキ液圧制御装置では、図5に示すように、マスタシリンダ側液圧吸収機構70およびポンプ側液圧吸収機構80の両方が設けられているが、一方のみを設けてもよい。
【0074】
また、第二実施形態では、減圧弁40Aのハウジング41内にマスタシリンダ側液圧吸収機構70およびポンプ側液圧吸収機構80が設けられているが、マスタシリンダ側液圧吸収機構70およびポンプ側液圧吸収機構80を減圧弁40Aとは別体に構成してもよい。
また、第二実施形態では、マスタシリンダ側液圧吸収機構70の連通口71aがシリンダ穴42を介してマスタシリンダ側接続液路45に通じているが、連通口71aがシリンダ穴42に直接通じるようにマスタシリンダ側液圧吸収機構70を配置してもよい。
【0075】
なお、本発明では、電磁式の減圧弁を制御部によって電気的に制御することで、マスタシリンダMで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、基体10に入力されるブレーキ液圧の増加率を低減させることもできる。
【符号の説明】
【0076】
1 ブレーキ液圧制御装置(第一実施形態)
10 基体
20 制御部
30 モータ
40 減圧弁(第一実施形態)
40A 減圧弁(第二実施形態)
41 ハウジング
42 シリンダ穴
42a 大径穴部
42b 小径穴部
42c シート部材
42d 底部材
42e 支持穴
42f 着座位置
43 弁体
43a 大径ピストン部
43b 小径ピストン部
43c 連結ピストン部
43d フランジ部
45 マスタシリンダ側接続液路
46 基体側接続液路
50 ブレーキ配管
51 上流側配管
52 下流側配管
60 ブレーキ配管
70 マスタシリンダ側液圧吸収機構
71 装着穴
71a 連通口
71c 大径穴部
71d 小径穴部
72 ピストン
72a 大径ピストン部
72b 小径ピストン部
73 コイルばね
80 ポンプ側液圧吸収機構
81 装着穴
81a 連通口
81c 大径穴部
81d 小径穴部
82 ピストン
82a 大径ピストン部
82b 小径ピストン部
83 コイルばね
F 前輪ブレーキ系統
M マスタシリンダ
S ホイールシリンダ
P1 作動開始液圧
P2 設定液圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチロックブレーキ制御が可能なバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
ブレーキ液路が形成された基体と、
マスタシリンダと前記基体とを接続するブレーキ配管に設けられ、前記マスタシリンダ側のブレーキ液圧と前記基体側のブレーキ液圧との液圧差によって弁体が作動することで、前記マスタシリンダで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、前記基体に入力されるブレーキ液圧の増加率を低減させる減圧弁と、を備えていることを特徴とするバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前輪のホイールシリンダに対応する前輪ブレーキ系統と、後輪のホイールシリンダに対応する後輪ブレーキ系統と、を備え、
前記減圧弁は、前記前輪ブレーキ系統および前記後輪ブレーキ系統の少なくとも一方において、前記マスタシリンダと前記基体とを接続する前記ブレーキ配管に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記減圧弁は、前記基体の一面と、前記基体から前記基体の一面に沿って延設されたブレーキ配管との間に形成されたスペースに配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項4】
前輪のホイールシリンダに対応する前輪ブレーキ系統と、後輪のホイールシリンダに対応する後輪ブレーキ系統と、を備え、前記前輪ブレーキ系統および前記後輪ブレーキ系統の少なくとも一方のアンチロックブレーキ制御が可能なバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
ブレーキ液路が形成された基体と、
前記マスタシリンダで発生したブレーキ液圧の増加率に対して、前記基体に入力されるブレーキ液圧の増加率を低減させる減圧弁と、を備え、
前記減圧弁および前記基体は、前記前輪ブレーキ系統および前記後輪ブレーキ系統の少なくとも一方において、前記マスタシリンダと前記基体とを接続する前記ブレーキ配管に設けられていることを特徴とするバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項5】
前記減圧弁の弁体の着座位置よりも前記マスタシリンダ側のブレーキ液路には、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧を吸収するマスタシリンダ側液圧吸収機構が設けられており、
前記マスタシリンダ側液圧吸収機構は、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、前記減圧弁の作動開始液圧以上に大きくなったときに作動することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
前記マスタシリンダ側液圧吸収機構は、
前記マスタシリンダ側のブレーキ液路に通じる連通口が形成された装着穴と、
前記装着穴に内挿されたピストンと、
前記ピストンを前記連通口側に付勢する付勢部材と、を備え、
前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、前記減圧弁の作動開始液圧に達したときに、前記ピストンが前記付勢部材の弾性力に抗して、前記連通口から離れる方向に移動するように、前記付勢部材に初期荷重が付与されていることを特徴とする請求項5に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項7】
前記減圧弁の弁体の着座位置と前記基体に設けられたポンプの吐出側とを接続するブレーキ液路には、前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧を吸収するポンプ側液圧吸収機構が設けられており、
前記ポンプ側液圧吸収機構は、前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧以上に大きくなったときに作動することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項8】
前記ポンプ側液圧吸収機構は、
前記ポンプ側のブレーキ液路に通じる連通口が形成された装着穴と、
前記装着穴に内挿されたピストンと、
前記ピストンを前記連通口側に付勢する付勢部材と、を備え、
前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧に達したときに、前記ピストンが前記付勢部材の弾性力に抗して、前記連通口から離れる方向に移動するように、前記付勢部材に初期荷重が付与されていることを特徴とする請求項7に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項9】
前記減圧弁の弁体の着座位置よりも前記マスタシリンダ側のブレーキ液路には、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、前記減圧弁の作動開始液圧以上に大きくなったときに、前記マスタシリンダ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧を吸収するマスタシリンダ側液圧吸収機構が設けられ、
前記減圧弁の弁体の着座位置と前記基体に設けられたポンプの吐出側とを接続するブレーキ液路には、前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧が、アンチロックブレーキ制御の作動開始液圧以上に大きくなったときに、前記ポンプ側のブレーキ液路内のブレーキ液圧を吸収するポンプ側液圧吸収機構が設けられており、
前記マスタシリンダ側液圧吸収機構と前記ポンプ側液圧吸収機構とは、共通した構造の部品によって構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のバーハンドル車両用ブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−105289(P2011−105289A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19567(P2010−19567)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】