説明

パウダー状乾燥食肉

【課題】食肉本来の栄養成分や風味を残したまま、アミノ酸やペプチドなどが増加し呈味性が増強され、各種食品素材中での分散性や溶解性に優れたパウダー状乾燥食肉及びその製造方法、並びに前記パウダー状乾燥食肉を含有する食品やサプリメントを提供すること。
【解決手段】豚肉、牛肉、鶏肉等の食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させて、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を調製し、得られるゲル状酵素処理肉を、フリーズドライ法、減圧乾燥法、熱風乾燥法、スプレードライ法等により乾燥して粉末化してパウダー状乾燥食肉を製造する。また、このパウダー状乾燥食肉を添加配合した食品やサプリメントを調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉にエンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させ、失活させたゲル状酵素処理肉を、粉末化してなるパウダー状乾燥食肉の製造方法、及びかかるパウダー状乾燥食肉を含有する食品やサプリメントに関する。
【背景技術】
【0002】
食肉は栄養学的に優れた食品でありながら、その食感の硬さから乳幼児や高齢者、さらには病人などの咀嚼や嚥下が困難な人達にとっては摂取しづらい素材である。この問題を解決するために、食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得ることができ、その10重量%水懸濁液を4時間放置したときの浮遊率が80%以上である優れた分散性を示し、かつ、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、このようにして得られたゲル状酵素処理肉は、腐敗防止のために冷蔵や冷凍保存等が必要となる上に、食品に添加した場合に添加量が多くなるとか、食品の形態が液状やペースト状に限られる等の問題があった。
【0003】
他方、パウダー状乾燥食肉に関しては、獣鳥鯨肉および魚介類の肉類を細断と同時またはその後に酵素処理を行うことで、等外品、加工残屑の肉類からでも、均一な肉類加工食材のペースト状製品,サイコロ状製品,フレーク状製品,パウダ状製品などを生成する方法(例えば、特許文献2参照)や、食肉類を食品軟化酵素で処理し、油分を抽出、乾燥して粉砕したミート・パウダーを食品に混入して製造するミート・パウダー入食品の製造法(例えば、特許文献3参照)や、食肉を乾燥して粉砕した肉粉末に牛乳、脱脂乳又は全脂粉乳、脱脂粉乳と油脂及び乳化剤などを加えて均質に乳化させ、次に乳酸菌を添加して乳酸度1.2〜1.6%程度に発酵させ、これを冷却して凝固させたのちクリーム状に発泡させてパン類の生地に混捏し、以下常法により成型、焙焼する肉汁、肉粉末を混和したパン類の製法(例えば、特許文献4参照)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特許第3817125号公報
【特許文献2】特開2001−69950号公報
【特許文献3】特開昭62−86859号公報
【特許文献4】特開昭52−148644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、食肉本来の栄養成分や風味を残したまま、アミノ酸やペプチドなどが増加し呈味性が増強され、各種食品素材中での分散性や溶解性に優れたパウダー状乾燥食肉及びその製造方法、並びに前記パウダー状乾燥食肉を含有する食品やサプリメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、食肉にエンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させ、失活させたゲル状酵素処理肉を乾燥して粉末化したパウダー状乾燥食肉が、食肉本来の栄養成分や風味を残したまま、アミノ酸やペプチドなどの含有割合が増加し呈味性が増強され、さらに各種食品素材中での分散性や溶解性に優れ、かつ常温で長期保存可能なことを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、(1)食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させて、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を調製し、得られるゲル状酵素処理肉を乾燥して粉末化することを特徴とするパウダー状乾燥食肉の製造方法に関する。
【0008】
また本発明は、(2)食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得ることができるゲル状酵素処理肉の乾燥粉末であって、前記ゲル状酵素処理肉の破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であることを特徴とするパウダー状乾燥食肉に関する。
【0009】
さらに本発明は、(3)上記(2)記載のパウダー状乾燥食肉が添加配合されていることを特徴とする食品又は食品素材や、(4)上記(2)記載のパウダー状乾燥食肉が添加配合されていることを特徴とするサプリメントに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のパウダー状乾燥食肉の製造法によれば、獣臭がなく、食肉本来の風味や栄養成分を残したまま、アミノ酸やペプチドなどの呈味成分が豊富な食肉製品が得られる。また、このパウダー状乾燥食肉を食品に利用した場合には、食品中で容易に均一に分散懸濁することから、各種食品の調味、品質の安定性が得られる。さらに、製品の保管や流通においては、常温での保存及び流通が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のパウダー状乾燥食肉の製造方法としては、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させて、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を調製し、得られるゲル状酵素処理肉を乾燥して粉末化する方法であれば特に制限されず、また、本発明のパウダー状乾燥食肉としては、食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得ることができる、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉の乾燥粉末であれば特に制限されるものでなく、かかるパウダー状乾燥食肉の粒径は特に制限されないが、10〜100μm、好ましくは30〜40μmの粉末とすることが好ましい。
【0012】
本発明に用いられる食肉とは、畜肉及び家禽肉をいい、魚肉は含まれず、かかる食肉としては、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉、猪肉、鶏肉、合鴨肉等を具体的に例示することができ、畜種あるいは部位で限定されるものではないが、入手のしやすさ、処理のしやすさなどを考慮すると、豚や牛のモモ肉や鶏のササ身が好ましい。そして、本発明のパウダー状乾燥食肉の製造には、好ましくは脂肪組織及び結合組織を除去した食肉が用いられ、かかる脂肪組織及び結合組織を除去した食肉は次いで粉砕されることになるが、この食肉の粉砕処理としては、常法により行うことができ、肉塊が残らない程度に破砕、粉砕又は磨砕することができれば特に制限されるものではなく、例えば、グラインダーによる挽肉処理及び/又はサイレントカッターによる破砕処理等を例示することができる。かかる粉砕処理に際して、食塩等の調味料などを添加してもよく、また破砕処理の際にプロテアーゼを添加してもよい。
【0013】
上記脂肪組織及び結合組織を除去した食肉の粉砕物は、エンド型プロテアーゼやエキソ型プロテアーゼにより酵素処理される。エンド型プロテアーゼやエキソ型プロテアーゼとしては、特に制限されるものではなく、市販のものを使用することができ、これらは単独あるいは組み合わせて使用することができ、これら酵素を組み合わせて使用する場合、同時に併用してもよく、また順次作用させてもよい。かかる酵素の使用条件、すなわちプロテアーゼの種類、作用温度、作用pH、反応時間、使用量等は、かかるプロテアーゼ処理に引き続いて実施される加熱処理後のゲル状物における破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%となる条件であれば、特に制限されるものではないが、50℃付近に至適作用温度を有するプロテアーゼや、食肉自体が弱酸性側のpHを有することから弱酸性側に至適pHを有するプロテアーゼが好ましく、また反応時間としては温和な反応が好ましいことから1〜5時間、特に2〜4時間程度が好ましく、反応温度としては45〜55℃が好ましい。上記破断応力の測定にはレオメーターが用いられ、サンプル厚15mm、プランジャー径10mm、テーブルスピード60mm/分の測定条件で測定した値が用いられる。
【0014】
食肉粉砕物にプロテアーゼを作用させた後に施される加熱処理によりプロテアーゼの失活が行われるが、かかる加熱処理としては、加熱処理後のゲル状物の水分散性、加熱処理後のゲル状物の殺菌、加熱処理効率等の観点からして、85〜95℃で120〜45分間の加熱処理が好ましく、特に90℃で1時間の加熱処理が好ましい。かかる加熱処理により、酵素処理後の食肉粉砕物はゲル状を呈し、該加熱処理後のゲル状物について前記破断応力が測定される。この破断応力をプロテアーゼ未処理の対照と比較して、その値が33〜67%にあるゲル状酵素処理肉が選択される。かかる破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%にある加熱処理後のゲル状酵素処理肉を乾燥して粉末化したパウダー状乾燥食肉は、水に懸濁させた場合、優れた懸濁分散性を示す。プロテアーゼ未処理の対照と比較して、破断応力の値が33%未満である加熱処理後のゲル状物を乾燥して粉末化したパウダーの水懸濁液は、懸濁分散性には優れるものの食肉本来の風味を失い、一方、破断応力の値が67%を越える加熱処理後のゲル状物を乾燥して粉末化したパウダーの水懸濁液は、食肉本来の風味を有するものの懸濁分散性に劣り、共に好ましくない。
【0015】
ゲル状酵素処理肉を乾燥して粉末化する方法としては特に限定されるものではなく、ゲル状酵素処理肉を、フリーズドライ法(凍結乾燥法)、減圧乾燥法、熱風乾燥法、スプレードライ法(噴霧乾燥法)等により乾燥し、必要に応じて粉砕処理を施す方法を挙げることができる。例えば、フリーズドライ法は、ゲル状酵素処理肉をまずできるだけ速やかに予備凍結し、ついで凍結乾燥する方法で、予備凍結時の温度は−30〜−50℃程度が好ましく、凍結乾燥は絶えず水分の昇華が行われるように高真空下(たとえば1Torr以下、殊に0.7Torr以下)で実施するのが好ましい。凍結乾燥後のゲル状酵素処理肉は簡単に粉砕することで粉末とすることができる。また、乾燥処理により、ゲル状酵素処理肉が有する獣臭がパウダー状乾燥食肉には殆ど感じられない。なお、熱風乾燥など加熱乾燥を行った場合、加熱によりメイラード反応などで、パウダー状乾燥食肉に香ばしい風味が発現する。
【0016】
本発明のパウダー状乾燥食肉は、前記食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得ることができる、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%のゲル状酵素処理肉を乾燥して粉末化したものであるが、上記ゲル状酵素処理肉は、冷凍・解凍処理によりその品質が劣化しないことから、冷凍状態で流通・保存したものを使用してパウダー状乾燥食肉を製造することができる。また、このゲル状酵素処理肉について、毛、軟骨、硬骨などの異物を除去する目的で裏漉し処理をすることが好ましい。
【0017】
本発明はまた、上記本発明のパウダー状乾燥食肉が添加配合されている食品や食品素材、あるいは、サプリメントに関する。添加配合される本発明のパウダー状乾燥食肉の形態としては、粉末状、顆粒状の他、懸濁液状等特に制限されるものではない。
【0018】
本発明のパウダー状乾燥食肉の添加配合対象となる食品や食品素材としては特に制限されるものではないが、スープ、栄養飲料、スポーツ飲料、ヨーグルトなどの各種飲料や、プリン、クッキー、パン、ケーキ、ゼリー、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば、パスタ等の麺類や、ソーセージ、ハム、ハンバーグ、ミートボール、つくね等の食肉製品や、かまぼこ、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、カスタードクリームなどのフラワーペースト、佃煮、マヨネーズ、カレールー等のペースト状食品や、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、シーズニングパウダーなどの調味類や、チーズ、バター等の乳製品や、豆腐、こんにゃく、その他フライ用衣、佃煮、餃子、コロッケ、サラダ等の各種総菜を挙げることができる。
【0019】
本発明のサプリメントの形態としては、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、シロップ、懸濁液を挙げることができ、本発明のサプリメントには、パウダー状乾燥食肉の他に種々の成分を添加配合することができる。添加配合される成分として、より具体的には、植物由来等のタンパク質やその部分分解ぺプチド、各種アミノ酸など、澱粉、グルコース等の糖類、ビタミンA、ビタミンB12、ビタミンK、ビタミンE、ビタミンB6、ビタミンD、ビタミンCなどの各種ビタミン、ポリデキストロース、水溶性グアガム等の水溶性食物繊維、鉄、カルシウム、マグネシウムなどの各種ミネラルを挙げることができるほか、可食性の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種サプリメント用配合成分を添加することができる。
【0020】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
[フリーズドライ法によるパウダー状乾燥食肉の調製]
ゲル状酵素処理肉の調製は、特許第3817125号公報に記載された方法に基づき、一部改良した方法により実施した。すなわち、豚モモ肉、牛モモ肉、鶏ササミ肉から脂肪組織、結合組織を除き、グラインダーにより挽肉とした。得られた挽肉10kgに対し、タンパク質分解酵素プロテアーゼ[アマノP3G]0.5g(天野エンザイム株式会社)、プロテアーゼ[アマノS]0.5g(天野エンザイム株式会社)を添加し、サイレントカッターにて細切した。細切後の挽肉を2kgずつ真空包装し、50℃で3時間酵素反応を進行させた後、90℃で1時間加熱処理し酵素を失活させ速やかに氷水中で急冷した。得られた破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉は、FTSsystems社製「Flexi−Dry MP」を用いてフリーズドライ法によりパウダー化した。
【実施例2】
【0022】
[熱風乾燥法によるパウダー状乾燥食肉の調製]
実施例1と同様に、破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を調製し、この得られたゲル状酵素処理肉を熱風乾燥法によりパウダー化した。熱風乾燥法として、ゲル状酵素処理肉に適量の水を加え、粘度調整を行い回転式ドラム(円筒形)中に噴霧し、熱風により乾燥させる方法を採用した。熱風乾燥法によるパウダー状乾燥食肉の場合、フリーズドライ法によるパウダー状乾燥食肉に比べて、香ばしい風味が発現していた。
【実施例3】
【0023】
[本発明のパウダー状乾燥食肉の評価]
(評価方法)
実施例1で製造されたパウダー状乾燥食肉の評価は、味や香り、色調の官能評価、アミノ酸およびペプチド含量の測定、人工胃液による消化試験により行った。パウダー状乾燥食肉に対する比較例として、官能評価およびアミノ酸およびペプチド含量の測定ではパウダー状乾燥食肉の代わりに、ゲル状酵素処理肉を使用し、品質評価を行った。また、消化性試験の比較例として、加熱食肉及びゲル状酵素処理肉を使用した。
【0024】
(官能評価)
官能評価は、専門のパネラー10名により、味や香り、色調の好ましさについて評価し、最終的には総合的な品質評価として、
◎:非常に良い、○:良い、△:やや悪い、×:悪い
とした。結果を表1に示す。その結果、豚肉、牛肉、鶏肉のいずれにおいても、乾燥前のゲル状酵素処理肉にはやや獣臭が残っていたが、フリーズドライ処理により獣臭が消え、旨味などが強く感じられるようになった。
【0025】
【表1】

【0026】
(アミノ酸およびペプチド含量の測定)
アミノ酸およびペプチド含量測定用試料の前処理は、サンプル5gに20mlの蒸留水を加え、ホモジナイザーにて均一化した後、80℃で30分間加熱処理を行った。氷冷後、10,000rpmで20分間遠心分離して得られる上澄画分を採取し、全量を50mlに調整する。続いて、上澄画分の一部に等量の10%トリクロロ酢酸を加え12,000rpmで10分間遠心分離して得られる上澄画分を0.45μmのメンブランフィルター(ミリポア社製)で濾過した炉液をアミノ酸およびペプチド含量測定用試料とした。
【0027】
アミノ酸分析は株式会社日立ハイテクノロジー製アミノ酸分析計L−8500形を使用した。前処理で得られた試料30μlをアミノ酸分析計に注入し、得られたクロマトグラムの各アミノ酸のピーク強度を標準アミノ酸のピーク強度と比較算出した。なお、試料の分析時間は1試料あたり150分であった。また、ペプチドの分析は、TSKgelG2000Swxlカラムを接続した高速液体クロマトグラフィーにより行った。展開溶媒液には超純水、アセトニトリル、トリフルオロ酢酸を55:45:1の割合で混合したものを使用した。検出器は、waters2690を使用し200nmの吸光度を測定した。試料および標準物質を超純水あるいは展開溶媒で溶解し0.45μmのフィルターでろ過後、流速0.5ml/minで溶出した。標準物質の分子量および溶出時間より、各試料の分子量画分の範囲を求めた。標準物質は、シグマ社製のAlbumin(分子量50,000)、Cytochrome(分子量12,500)、Insuline(分子量5,800)、Bacitracin(分子量1,450)、Tetraglycine(分子量246)、Triglycine(分子量189)、Glycine(分子量75)を使用した。ゲル状酵素処理肉あるいはパウダー状乾燥食肉のアミノ酸分析の結果を表2に、ペプチド分析の結果を表3にそれぞれ示す。なお、豚肉、牛肉、鶏肉のいずれにおいても、パウダー状乾燥食肉の方が、ゲル状酵素処理肉に比べて、アミノ酸含量やペプチド含量が増加しているが、乾物換算値ではアミノ酸含量やペプチド含量は変わらないと考えられる。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
(消化試験)
体内に取り込まれた後の消化性を比較するため、80℃で30分間の加熱処理を行った加熱肉、ゲル状酵素処理肉及びパウダー状乾燥食肉の消化試験を行った。
消化試験は、『食品酵素高分子学概論(下)−酵素の利用−』、タンパク消化後、除タンパク剤による非沈殿性物質の測定法に準拠して行った。基質として0.5%カゼイン、酵素として人工胃液(0.32重量%ペプシン−0.2重量%NaCl;pH1.2)を使用し、一定時間反応させた後の上澄みに含まれる遊離アミノ酸およびペプチドをFolin法により定量した。豚肉、牛肉、鶏肉の結果をそれぞれ図1〜3に示す。その結果、パウダー状乾燥食肉の消化性は加熱肉より優れ、また、乾燥粉末化処理によっても消化性が低下しないことがわかった。
【実施例4】
【0031】
[スープの素様およびスープ様食品の調製]
実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉25重量部、デキストリン41重量部、食塩18重量部、調味料13.325重量部、香料0.375重量部、酸味料0.3重量部、炭酸カルシウム2重量部を混合しスープの素様食品を得た。このスープの素様食品を熱湯に溶かし、クルトンなどを加えたところ、風味が良好で、たんぱく質を簡単に摂取できる栄養価の高いスープ様食品が得られた。
【実施例5】
【0032】
[シーズニングパウダーの調製]
実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉50重量部、デキストリン25重量部、香辛料5重量部、食塩15重量部、調味料3重量部、炭酸カルシウム2重量部を混合しシーズニングパウダーを得た。得られたシーズニングパウダーは、風味が良好で、たんぱく質を簡単に摂取できる、栄養価の高いシーズニングパウダーであった。
【実施例6】
【0033】
[麺(生パスタ)様食品の調製]
実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉10重量部、デュラムセモリナ粉72重量部、全卵8.3重量部、オリーブオイル7.5重量部、食塩2.2重量部をボールの中で混合し、よく混捏した。生地がまとまったらラップでくるみ2時間冷蔵庫内で静置した後、生地を伸ばし、パスタマシンで製麺した。茹でて得られた麺は、風味、食感が好ましく、たんぱく質を簡単に摂取できる、栄養価の高い生パスタ様食品であった。
【実施例7】
【0034】
[焼き菓子様食品の調製]
無塩バター21重量部を溶かしたものに空気を入れながら混ぜて、クリーム状にし、砂糖15.5重量部、卵2.5重量部を加えてよく混合した。この混合物に、実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉15重量部、薄力粉40重量部、ベーキングパウダー5量部、塩0.35重量部、香辛料0.65重量部を加えてざっくりと混合した。生地をラップに包み、冷蔵庫で2時間静置する。静置後の生地を3mmほどの厚さに伸ばし、型抜き後に天板に並べ、170〜190℃のオーブンで12〜13分ほど焼き、焼き菓子様食品を得た。得られた焼き菓子様食品は、風味、食感が好ましく、たんぱく質を簡単に摂取できる、栄養価の高い焼き菓子様食品であった。
【実施例8】
【0035】
[フライ用衣様食品の調製]
実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉15重量部と小麦粉85重量部を混合し、バッターミックス粉を調製した。このバッターミックスを冷水に溶かしバッターを調製した。得られたバッターを、予め小麦粉により打ち粉をした厚さ1cmの豚ロース肉にバッター付けし、さらにパン粉を付け180℃の大豆白絞油で5分間油調し豚カツを得た。得られた豚カツは、衣の食感および風味が良好であった。
【実施例9】
【0036】
[カレールー様食品の調製]
無塩バター3重量部を溶解し、たまねぎ30重量部、ニンニク1.2重量部、しょうが1.2重量部を加え炒める。たまねぎがあめ色となったら、小麦粉3.6重量部、実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉10重量部を加え、さらに、ホールトマト24重量部、ヨーグルト12重量部、チキンスープ12重量部、香辛料3重量部を加え、水分がなくなるまで炒め、ルー化させた。得られたカレールー様食品は、風味が好ましく、たんぱく質を簡単に摂取できる、栄養価の高いカレールー様食品であった。
【実施例10】
【0037】
[あらびきソーセージ様食肉製品の調製]
豚カタ肉65重量部と豚背脂肪20重量部を混合し、5mm目のチョッパーにて挽肉とした。そこに氷水15重量部、実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉5重量部、水あめ0.7重量部、塩漬剤1.95重量部、調味料0.7重量部を加え、ミキサー内で3分間混練し、一次配合肉を得た。この一次配合肉を、4℃の冷蔵庫内で一晩静置した後、香辛料0.05重量部を加え、再度真空条件下のミキサー内で混練し、ウインナーの生地を得た。この生地をスタッファーを使用して径18mmの羊腸ケーシングに充填し、結紮、懸垂後にスモークハウス内で乾燥、燻煙、蒸気加熱を行い、あらびきタイプのウインナーを得た。上記製造したあらびきウインナーは、風味が良好で、たんぱく質に富む食肉製品であった。
【実施例11】
【0038】
[ハンバーグ・ミートボール様食肉製品の調製]
脂肪分約20重量部を含む牛バラ肉65重両部を5mmのチョッパーにて挽肉とした。そこに全卵5重量部、2mm角にダイスカットしたタマネギ15.5重量部、パン粉4重量部、実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉10量部、食塩0.7重量部、香辛料0.03重量部を加え、手でよく混練した後、ハンバーグあるいはミートボールの形状に整形し、180℃のオーブンで中心温度が72℃になるまで焼成、あるいは180℃の大豆白絞油で5分間油調し、ハンバーグあるいはミートボールを得た。上記製造したハンバーグやミートボール様食品は、風味が良好で、たんぱく質に富む食肉製品であった。
【実施例12】
【0039】
[つくね様食肉製品の調製]
鶏挽肉67.2重量部、実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉5重量部、全卵3.6重量部、片栗粉11重量部、しょうが絞り汁1.8重量部、酒11重量部、塩0.4重量部を加え、粘りが出るまでよく混捏した後、小判型に整形し、フライパンで中心温度が72℃になるまで焼成した。上記製造したつくね様食品は、風味が良好で、たんぱく質に富む食肉製品であった。
【実施例13】
【0040】
[サプリメント]
実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉を用いて、常法に従って下記の組成の9mmΦ,300mgの錠剤を製造した。得られた錠剤は、ペプチド特有の苦味がなく、摂取し易い錠剤であった。
組成(重量%)
パウダー状乾燥食肉 40
乳糖 50
コーンスターチ 9
グァーガム 1
【実施例14】
【0041】
[粉末飲料]
(1)実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉50gに、粉末フレーバー0.05gを添加しよく混合して粉末飲料とした。この粉末飲料10g当たりのたんぱく質含量は8gだった。
(2)上記(1)で得られた粉末飲料20gに、牛乳200gを加え、撹拌・分散し液状飲料として喫食したところ、ペプチド特有の苦味がなく、美味であった。
【実施例15】
【0042】
[寒天ゼリー]
寒天2.6gを水に浸漬して充分吸水させた後、水洗脱水し、細かくちぎって鍋に入れ、水80mlを加えて加熱混合して寒天を完全に溶解させた。これに実施例1で得られたパウダー状乾燥食肉50gを加えて分散・溶解し、1食分の型に入れ、4℃の冷蔵庫中に2時間静置して寒天ゼリーを製造した。この寒天ゼリーは、1食分当たり40gのたんぱく質を含有していた。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】豚の加熱肉、ゲル状酵素処理肉及びパウダー状乾燥食肉の消化試験の結果を示す図である。
【図2】牛の加熱肉、ゲル状酵素処理肉及びパウダー状乾燥食肉の消化試験の結果を示す図である。
【図3】鶏の加熱肉、ゲル状酵素処理肉及びパウダー状乾燥食肉の消化試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理してプロテアーゼを失活させて、その破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であるゲル状酵素処理肉を調製し、得られるゲル状酵素処理肉を乾燥して粉末化することを特徴とするパウダー状乾燥食肉の製造方法。
【請求項2】
食肉の粉砕物に、エンド型プロテアーゼ及び/又はエキソ型プロテアーゼを作用させた後、85〜95℃で120〜45分間加熱処理することにより得ることができるゲル状酵素処理肉の乾燥粉末であって、前記ゲル状酵素処理肉の破断応力がプロテアーゼ未処理の対照の33〜67%であることを特徴とするパウダー状乾燥食肉。
【請求項3】
請求項2記載のパウダー状乾燥食肉が添加配合されていることを特徴とする食品又は食品素材。
【請求項4】
請求項2記載のパウダー状乾燥食肉の懸濁液が添加配合されていることを特徴とするサプリメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−92815(P2008−92815A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275557(P2006−275557)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000113067)プリマハム株式会社 (72)
【Fターム(参考)】