説明

パワーモジュール用基板、パワーモジュール用基板の製造方法及びパワーモジュール

【課題】比較的面積の大きくても、セラミック基板の反り、割れの発生を抑制することが可能なパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法及び、このパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを提供する。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金の板材からなる金属層13と、この金属層13の一方の面に配設されたセラミックス基板と、このセラミックス基板の上に配設され、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる回路層と、を備え、金属層13は、セラミックス基板よりも面積が大きく設定されており、金属層13には、前記一方の面側部分において、アルミニウムの母相中に第2相が分散した硬化層31と、アルミニウムの単一相からなる軟質層32と、が設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法及びこのパワーモジュール基板を備えたパワーモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは発熱量が比較的高いため、これを搭載する基板としては、例えば、AlN(窒化アルミ)からなるセラミックス基板上にAl(アルミニウム)の金属板がAl−Si系のろう材を介して接合されたパワーモジュール用基板が用いられる。
この金属板は回路層として形成され、その金属板の上には、はんだ材を介してパワー素子の半導体チップが搭載される。
【0003】
また、セラミックス基板の下面にも放熱のためにAl等の金属板が接合されて金属層とされ、この金属層を介して冷却器が接合された冷却器付パワーモジュール用基板が提案されている。このような冷却器付パワーモジュール用基板においては、電子部品から発生した熱を効率的に放散することが可能となる。
ここで、セラミックス基板は、回路層と金属層との間の絶縁性を確保するとともに、パワーモジュール用基板全体の剛性を確保する役割を有している。
【0004】
さらに、近年では、パワーモジュールユニットにおいて、電子部品の高集積化、高密度化が進められており、例えば特許文献2、3に記載されているように、ひとつのセラミックス基板に複数の回路層を形成したパワーモジュール用基板が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−148451号公報
【特許文献2】特開平10−65075号公報
【特許文献3】特開2007−194256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数の回路層を形成するために、比較的サイズの大きなセラミックス基板を用いた場合には、回路層や金属層の接合時や熱サイクル負荷時において、セラミックス基板に比較的大きな反りが発生し、割れが生じるおそれがあった。つまり、面積の大きなパワーモジュール用基板を構成する際には、その剛性を確保するために大きな面積のセラミックス基板を用いる必要があるが、大きなセラミックス基板を用いると割れや反りが発生してしまうことになるのである。
【0007】
特に、例えば特許文献1の図4に示すように、パワーモジュール用基板を冷却器の天板部に直接接合した冷却器付パワーモジュール用基板では、パワーモジュール用基板の熱膨張係数はセラミックス基板に依存して比較的小さく、冷却器の天板部はアルミニウム等で構成されていて熱膨張係数が比較的大きいため、冷却器付パワーモジュールに熱サイクルが負荷された際に、熱膨張率の差によって熱応力が生じ、セラミックス基板に割れや反りが発生してしまう危険性がさらに高くなる。
【0008】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、比較的面積の大きくても、セラミック基板の反り、割れの発生を抑制することが可能なパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法及び、このパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明のパワーモジュール用基板は、アルミニウム又はアルミニウム合金の板材からなる金属層と、この金属層の一方の面に配設されたセラミックス基板と、このセラミックス基板の上に配設され、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる回路層と、を備え、前記金属層は、前記セラミックス基板よりも面積が大きく設定されており、前記金属層には、前記一方の面側部分において、アルミニウムの母相中に第2相が分散されてなる硬化層と、アルミニウムの単一相からなる軟質層と、が設けられていることを特徴としている。
【0010】
この構成のパワーモジュール用基板においては、金属層の一方の面側部分に、アルミニウムの母相中に第2相が分散した硬化層が設けられているので、金属層の剛性が向上することになり、パワーモジュール用基板自体の剛性を確保することが可能となる。よって、比較的面積の大きなパワーモジュール用基板を形成したとしても、セラミックス基板を分割して比較的面積を小さくすることが可能となり、セラミックス基板の反りや割れを抑制することができる。
また、アルミニウムの単一相からなる軟質層を有しているので、熱サイクル負荷時や接合時において発生する熱応力をこの軟質層によって吸収することができる。
【0011】
ここで、前記セラミックス基板が、前記金属層の一方の面に複数配設され、これら複数のセラミックス基板に回路層がそれぞれ形成されている構成とすることが好ましい。
この場合、金属層の上に、複数のセラミックス基板が配設され、このセラミックス基板の上に回路層が形成されていることから、セラミックス基板自体が分割されて比較的面積が小さくすることができ、セラミックス基板の反りや割れを抑えることが可能となる。よって、複数の回路層が形成された大型のパワーモジュール用基板を構成することが可能となる。
【0012】
また、前記金属層が純度99.9%以上のアルミニウム(いわゆる3Nアルミ)の板材からなることが好ましい。
この場合、金属層が純度99.9%以上のアルミニウムで構成されていることから、金属層の変形抵抗が小さく、アルミニウムとセラミックス基板との熱膨張係数の差に起因する熱応力(ひずみ)を金属層で効率的に吸収することが可能となり、セラミックス基板の反りや割れを確実に抑えることができる。
なお、純度99.9%以上のアルミニウムによって金属層を構成した場合には剛性が低くなるが、金属層の一方の面側に硬化層を形成することによって、金属層全体の剛性を確保することができる。
【0013】
また、前記金属層の面積が、4000mm以上10000mm以下とされていることが好ましい。
この場合、前記金属層の面積が、4000mm以上とされているので、例えば複数のセラミックス基板を金属層上に配設することが可能となる。また、前記金属層の面積が、10000mm以下とされているので、硬化層によって金属層の剛性を確保することができる。
【0014】
さらに、前記セラミックス基板の面積が、100mm以上2000mm以下とされていることが好ましい。
この場合、前記セラミックス基板の面積が、100mm以上とされているので、セラミックス基板の上に回路層を形成することができる。また、前記セラミックス基板の面積が、2000mm以下とされているので、セラミックス基板の反りや割れを確実に抑制することができる。
【0015】
さらに、前記金属層が、冷却器の天板部とされることが好ましい。
この場合、金属層が冷却器の天板部としても役割を有することから、金属層の一方の面に配設されたセラミックス基板及び回路層を効率的に冷却することが可能となる。よって、回路層上に配設される電子部品から発生する熱を冷却器によって効率的に冷却することができ、電子部品が高集積、高密度に配設されたパワーモジュールユニットに適用することができる。
【0016】
また、本発明のパワーモジュール用基板の製造方法は、前述のパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、前記金属層となるアルミニウム板の一方の面の全面に、前記第2相を構成する元素を含有したアルミ合金からなるろう材を配設し、このろう材の上に前記セラミックス基板を積層し、このセラミックス基板上に回路層となる金属板を積層して、積層体を形成する積層工程と、前記積層体を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板の一方の面に溶融アルミニウム層を形成する溶融工程と、冷却によって前記溶融アルミニウム層を凝固させる凝固工程と、を有し、前記溶融工程及び前記凝固工程により、前記金属層の一方の面側部分に、アルミニウムの母相中に第2相が分散されてなる硬化層を形成することを特徴としている。
【0017】
この構成のパワーモジュール用基板の製造方法によれば、金属層となるアルミニウム板の一方の面の全面に、前記第2相を構成する元素を含有したアルミ合金からなるろう材を配設し、このろう材を溶融・凝固させていることから、金属層の一方の面側に、第2相を構成する元素の濃度が高い部分を生じさせて、アルミニウムの母相中に第2相が分散されてなる硬化層を形成することが可能となる。なお、硬化層における第2相の分散状態は、ろう材に含まれる前記第2相を構成する元素量、溶融工程の温度及び時間、前記凝固工程の凝固速度等によって調整されることになる。
【0018】
本発明のパワーモジュールは、前述のパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される電子部品と、を備えることを特徴としている。
この構成のパワーモジュールによれば、高集積、高密度のパワーモジュールユニットを構成することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、比較的面積の大きくても、セラミック基板の反り、割れの発生を抑制することが可能なパワーモジュール用基板、このパワーモジュール用基板の製造方法及び、このパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板及びパワーモジュールの上面図である。
【図2】図1におけるX−X断面図である。
【図3】図1に示すパワーモジュール用基板の金属層の拡大説明図である。
【図4】図3に示す金属層に形成された硬化層の説明写真である。
【図5】本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【図6】図5に示すパワーモジュール用基板の製造方法において、アルミニウム板(金属層)の一方の面近傍の拡大説明図である。。
【図7】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の概略説明図である。
【図8】図7に示すパワーモジュール用基板の金属層に形成された硬化層の説明図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるパワーモジュール用基板の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1、図2に本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板及びパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の表面にはんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、を備えている。ここで、はんだ層2は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12とはんだ層2との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0022】
パワーモジュール用基板10は、金属層13と、この金属層13の一方の面(図2において上面)に複数配設されたセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の上にそれぞれ配設された回路層12と、を備えている。本実施形態においては、ひとつの金属層13の上に、2つのセラミックス基板11及び回路層12が配設されている。
【0023】
ここで、金属層13の面積(一方の面の面積)は、4000mm以上10000mm以下とされており、本実施形態では、140mm×60mmの矩形平板状をなしている。
また、セラミックス基板11の面積(一方の面の面積)は、100mm以上2000mm以下とされている。
【0024】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、本実施形態では、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2mm以上1.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0025】
回路層12は、図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面に導電性を有する金属板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.9%以上のアルミニウムの圧延板からなる金属板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。ここで、セラミックス基板11と金属板22の接合には、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材箔24を用いている。ここで、回路層12の厚さは0.2mm以上2.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、1.0mmに設定されている。
【0026】
金属層13は、図5に示すように、純度99.9%以上のアルミニウム板23からなり、この金属層13の一方の面にセラミックス基板11が接合されている。ここで、金属層13をなすアルミニウム板23とセラミックス基板11との接合には、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材箔25を用いている。ここで、金属層13の厚さは0.2mm以上2.5mm以下の範囲内に設定されており、本実施形態では、1.0mmに設定されている。
【0027】
そして、金属層13には、図3に示すように、アルミニウムの母相中に第2相が分散されてなる硬化層31と、アルミニウムの単一相からなる軟質層32と、が設けられている。硬化層31は、金属層13の一方の面側に形成されており、その厚さtpが5μm以上1200μm以下とされている。
硬化層31においては、図4に示すように、アルミニウムの母相35中に第2相36が分散されている。本実施形態では、ろう材箔25に含有されたSiが濃縮してなる第2相36が分散されている。
【0028】
以下に、前述したパワーモジュール用基板10の製造方法について説明する。
図5に示すように、純度99.9%以上のアルミニウム板23の一方の面の上に、厚さ10μm以上100μm以下(本実施形態では50μm)のAl−Si系のろう材箔25を、アルミニウム板23の一方の面の全面を覆うように配置する。ここで、本実施形態では、Al―7.5wt%Si合金からなるろう材箔25を用いている。
そして、このろう材箔25が配置されたアルミニウム板23の上に、2つのセラミックス基板11が積層され、このセラミックス基板11の一方の面に、回路層12となる金属板22が、5μm以上50μm以下(本実施形態では14μm)のろう材箔24を介して積層され、積層体20が形成される(積層工程)。
【0029】
このようにして形成された積層体20を、一対のカーボン板51、51によって積層方向に挟み込む。このとき、セラミックス基板11及び金属板22が積層されていないアルミニウム板23の周縁部に、スペーサ52を介装させる。
そして、カーボン板51、51を互いに近接する方向に押圧することにより、積層体20をその積層方向に加圧(圧力0.5〜5kgf/cm)する。
【0030】
このように積層体20を加圧した状態で真空炉内に装入して加熱し、ろう材箔24、25を溶融する(溶融工程)。ここで真空炉内の真空度は、10−3Pa〜10−5Paとされている。また、加熱条件は、630〜650℃×0.1〜0.5時間とされている。
この溶融工程によって、ろう材箔24、25が溶融し、アルミニウム板23とセラミックス基板11との界面、セラミックス基板11と金属板22との界面に、それぞれ溶融アルミニウム層が形成されることになる。また、図6に示すように、アルミニウム板23の一方の面全体に溶融アルミニウム層28が形成される。
【0031】
次に、積層体20を冷却することによって溶融アルミニウム層を凝固させる(凝固工程)。このときの冷却速度は、0.5〜2℃/minとされている。
ここで、金属層13の一方の面上に配設されたろう材箔25が溶融・凝固することにより、金属層13の一方の面近傍には、ろう材箔25に含まれたSiの濃度が高い部分が生じることになり、このSi濃度が高い部分において、Si元素が濃縮した第2相36が晶出し、硬化層31が形成されることになる。なお、硬化層31における第2相36のサイズ、分布は、ろう材箔25におけるSiの含有量、溶融工程における加熱温度、凝固工程における冷却速度によって調整されることになる。
【0032】
このようにして、ひとつの金属層13(面積4000mm以上10000mm以下)の上に、複数(2つ)のセラミックス基板11が配設され、このセラミックス基板11のそれぞれに回路層12が形成されたパワーモジュール用基板10が製造される。
【0033】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10及びパワーモジュール1においては、純度99.9%以上のアルミニウム板23からなる金属層13に、アルミニウムの母相35中に第2相36が分散されてなる硬化層31が形成されているので、金属層13自体の剛性が向上することになり、セラミックス基板11を分割しても、パワーモジュール用基板10全体の剛性を確保することができる。また、金属層13がアルミニウムの単一相からなる軟質層32を備えているので、金属層13によって熱応力を吸収することができ、セラミックス基板11の反り、割れを確実に抑制することができる。
【0034】
また、面積4000mm以上10000mm以下とされた金属層13の上に、複数のセラミックス基板11が配設され、このセラミックス基板11の上にそれぞれ回路層12が形成されているので、セラミックス基板11の面積が100mm以上2000mm以下と比較的小さくなり、セラミックス基板11の反り及び割れの発生を抑えることができる。
【0035】
さらに、金属層13の面積が、4000mm以上10000mm以下とされているので、金属層13の上に複数のセラミックス基板11及び回路層12を形成することが可能となるとともに、硬化層31によって金属層13の剛性を確実に確保することができる。
さらに、セラミックス基板11の面積が、100mm以上2000mm以下とされているので、セラミックス基板11の上に回路層12を確実に形成することができるとともに、セラミックス基板11に負荷される熱応力を抑制でき、反りや割れを確実に抑制することができる。
【0036】
また、金属層13が純度99.9%以上のアルミニウム板23で構成されているので、金属層13の変形抵抗が小さく、熱応力(ひずみ)を金属層13で効率的に吸収することが可能となり、セラミックス基板11の反りや割れを確実に抑えることができる。また、純度99.9%以上のアルミニウム板23は比較的剛性が低いが、硬化層31によって金属層13全体の剛性を確保することができる。
【0037】
また、前述のパワーモジュール用基板10の製造方法によれば、第2相36を構成する元素(本実施形態ではSi)を含むろう材箔25を用いることにより、金属層13に、硬化層31と軟質層32とを比較的容易に、かつ、確実に形成することができる。なお、硬化層31における第2相36の分散状態は、ろう材箔25に含まれるSi量、溶融工程の温度及び時間、凝固工程の凝固速度等によって調整することが可能である。
【0038】
さらに、本実施形態では、金属層13を構成するアルミニウム板23の一方の面に配設されたろう材箔25の厚さが5μm以上50μm以下とされている。このろう材箔25の厚さが5μm未満である場合には、硬化層31を確実に形成することができなくなり、金属層13の剛性向上を図ることができなくなるおそれがある。また、ろう材箔25の厚さが50μmを超えると、セラミックス基板11との接合信頼性を確保することができなくなる。このため、本実施形態のように、ろう材箔25の厚さを5μm以上50μm以下とすることが好ましい。
【0039】
次に、本発明の第2の実施形態について図7〜図9を参照して説明する。
この第2の実施形態であるパワーモジュール用基板110においては、図7に示すように、金属層113の他方の面側に、冷却器用部材である放熱フィン162が設けられており、金属層113が冷却器160の天板部161として利用されているのである。
また、図8に示すように、硬化層131においては、アルミニウムの母相135中に、第2相としてMgSiからなる析出物粒子136が分散されている。
【0040】
以下に、このパワーモジュール用基板110の製造方法について説明する。
図9に示すように、純度99.9%以上のアルミニウム板123の一方の面の上に、厚さ5μm以上50μm以下(本実施形態では25μm)のAl−Si−Mg系のろう材箔125を、アルミニウム板123の一方の面の全面を覆うように配置する。
【0041】
そして、このろう材箔125が配置されたアルミニウム板123の上に、2つのセラミックス基板111を積層し、このセラミックス基板111の一方の面に、回路層112となる金属板122を、5μm以上50μm以下(本実施形態では14μm)のろう材箔124を介して積層する。
さらに、セラミックス基板111が積層されない部分に、ろう材箔125の上にさらにろう材箔126を重ねて配置する。このろう材箔125とろう材箔126との合計厚さは100μm以下に設定されており、本実施形態では、50μmとされている。このようにして積層体120が形成される(積層工程)。
【0042】
このようにして形成された積層体120を、一対のカーボン板51、51によって積層方向に挟み込む。このとき、セラミックス基板111及び金属板122が積層されていないアルミニウム板123の周縁部に、スペーサ52を介装させる。
そして、カーボン板51、51を互いに近接する方向に押圧することにより、積層体120をその積層方向に加圧(圧力0.5〜5kgf/cm)する。
【0043】
このように積層体120を加圧した状態で真空炉内に装入して加熱し、ろう材箔124、125を溶融する(溶融工程)。ここで真空炉内の真空度は、10−3Pa〜10−5Paとされている。また、加熱条件は、630〜650℃×0.1〜0.5時間とされる。
この溶融工程によって、ろう材箔124、125が溶融し、アルミニウム板123とセラミックス基板111との界面、セラミックス基板111と金属板122との界面に、それぞれ溶融アルミニウム層が形成されることになる。また、アルミニウム板123の一方の面においても溶融アルミニウム層が形成される。
【0044】
次に、積層体120を冷却することによって溶融アルミニウム層を凝固させる(凝固工程)。このときの冷却速度は、0.5〜2℃/minとされている。
ここで、金属層113の一方の面上に配設されたろう材箔125が溶融・凝固することにより、金属層113の一方の面近傍には、ろう材箔125に含まれたSi、Mgの濃度が高い部分が生じることになる。
ここで、MgとSiとが反応し、第2相として金属間化合物MgSiを形成することになる。このMgSiは、アルミニウムの母相135中に固溶することなく、析出物粒子136として分散され、硬化層131が形成されることになる。なお、硬化層131における析出物粒子136(第2相)のサイズ、分布は、ろう材箔125におけるSi、Mgの含有量、溶融工程における加熱温度、凝固工程における冷却速度によって調整されることになる。
【0045】
そして、金属層113の他方の面に複数の放熱フィン162を接合し、金属層113を冷却器160の天板部161として利用する。
このようにして、ひとつの金属層113(面積4000mm以上10000mm以下)の上に、複数(2つ)のセラミックス基板111が配設され、このセラミックス基板111のそれぞれに回路層112が形成されたパワーモジュール用基板110が製造される。
【0046】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板110においては、金属層113の他方の面に、放熱フィン162が配設され、金属層113が冷却器160の天板部161として利用されているので、金属層113の一方の面に配設されたセラミックス基板111及び回路層112を効率的に冷却することが可能となる。よって、回路層112上に配設される電子部品から発生する熱を冷却器160によって効率的に冷却することができ、電子部品が高集積、高密度に配設されたパワーモジュールユニットに適用することができる。
【0047】
また、本実施形態であるパワーモジュール用基板110の製造方法によれば、セラミックス基板111が配設されていない部分に、ろう材箔126をさらに配置しているので、セラミックス基板111が配設されない部分に形成される硬化層131において、析出物粒子136(第2相)を数多く分散させて高強度化を図ることが可能となり、金属層113の剛性をさらに向上させることができる。また、ろう材箔125、126の合計厚さが100μm以下とされているので、金属層113自体が変形してしまうことを防止することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、硬化層を構成する第2相を、Si濃縮相又はMgSiからなる析出物粒子として説明したが、これに限定されることはない。
【0049】
また、金属層の一方の面に配設するろう材箔をAl−Si系、Al−Mg系のものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えばAl−Si−Mg系、Al−Ge系、Al−Si−Cu系等の他のろう材であってもよい。
【0050】
また、金属層の一方の面に、2つのセラミックス基板を配設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、金属層の大きさ、セラミックス基板の大きさ等を考慮して適宜設計変更してもよい。
さらに、セラミックス基板の厚さ、材質、回路層の厚さ、材質については、本実施形態に限定されることはなく、適宜設計変更してもよい。
【0051】
また、第2の実施形態において、冷却器として天板部にフィンを立設したものとして説明したが、これに限定されることはなく、冷却媒体の流路を有するものであってもよく、冷却器の構造に特に限定はない。
【符号の説明】
【0052】
1 パワーモジュール
2 半導体チップ(電子部品)
10、110 パワーモジュール用基板
11、111 セラミックス基板
12、112 回路層
13、113 金属層
23、123 アルミニウム板
25、125 ろう材箔
126 ろう材箔
31、131 硬化層
32 軟質層
35、135 母相
36 第2相
136 析出物粒子(第2相)
160 冷却器
161 天板部
162 放熱フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金の板材からなる金属層と、この金属層の一方の面に配設されたセラミックス基板と、このセラミックス基板の上に配設され、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる回路層と、を備え、
前記金属層は、前記セラミックス基板よりも面積が大きく設定されており、
前記金属層には、前記一方の面側部分において、アルミニウムの母相中に第2相が分散されてなる硬化層と、アルミニウムの単一相からなる軟質層と、が設けられていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記セラミックス基板が、前記金属層の一方の面に複数配設され、これら複数のセラミックス基板に回路層がそれぞれ形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記金属層は、前記セラミックス基板に純度99.9%以上のアルミニウムの板材を接合することで構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項4】
前記金属層の面積が、4000mm以上10000mm以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項5】
前記セラミックス基板の面積が、100mm以上2000mm以下とされていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項6】
前記金属層が、冷却器の天板部とされることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板を製造するパワーモジュール用基板の製造方法であって、
前記金属層となるアルミニウム板の一方の面の全面に、前記第2相を構成する元素を含有したアルミ合金からなるろう材を配設し、このろう材の上に前記セラミックス基板を積層し、このセラミックス基板上に回路層となる金属板を積層して、積層体を形成する積層工程と、
前記積層体を積層方向に加圧するとともに加熱し、前記アルミニウム板の一方の面に溶融アルミニウム層を形成する溶融工程と、
冷却によって前記溶融アルミニウム層を凝固させる凝固工程と、を有し、
前記溶融工程及び前記凝固工程により、前記金属層の一方の面側部分に前記第2相が分散した硬化層を形成することを特徴とするパワーモジュール用基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のパワーモジュール用基板と、前記回路層上に搭載される電子部品と、を備えたことを特徴とするパワーモジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−238964(P2010−238964A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86069(P2009−86069)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】