説明

ピラゾロピリミジン化合物のメタンスルホン酸塩、その結晶およびその製造方法

新規な8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩、その結晶、その製造方法およびその中間体の製造方法。
8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩は熱安定性に大変優れた化合物である。また、新規な製造方法によると中間体である一般式(I)


(Arは置換基を有していてもよいベンゼン環等を表わし、RはC1〜8アルキル、2〜8アルケニル、C2〜8アルキニル等を表わす。)で示される化合物を効率的かつ高収率で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩、その結晶、その製造方法またはその中間体の製造方法に関する。
【背景技術】
コルチコトロピン放出因子(Corticotropin Releasing Factor:CRF)は、1981年にヒツジ視床下部から単離された41個のアミノ酸ペプチドである。このCRFは視床下部から放出され、脳下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌調節を担っていることが示唆された[Science,218,377−379(1982)]。
CRFの刺激によって分泌されたACTHは、副腎皮質からのコルチゾールの分泌を刺激しており、生殖、成長、胃腸機能、炎症、免疫系、神経系等に対する全身的な作用に関連する。よって、CRFはこれらの機能の調節因子として働くと考えられている。これらよりCRFの中枢神経系や精神神経系疾患、また末梢臓器の疾患への関与が注目されている。
WO02/053565号には、一般式(A)

(式中、XおよびYはそれぞれ独立して、炭素原子または窒素原子を表わし(ただし、二つは同時に窒素原子を表わさない。)、Wは炭素原子または窒素原子を表わし、UおよびZはそれぞれ独立して、CR2A、NR13A、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、C=OまたはC=Sを表わし、
2Aは(i)水素原子、(ii)C1〜8アルキル、(iii)C2〜8アルケニル、(iv)C2〜8アルキニル、(v)ハロゲン原子、(vi)トリフルオロメチル、(vii)シアノ、(viii)ニトロ、(ix)NR9A10A、(x)OR11A、(xi)SH、(xii)S(O)nA12A、(xiii)COR11A、(xiv)COOR11A、(xv)CONR9A10A、(xvi)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、(xvii)1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環、または(xviii)置換されているC1〜4アルキルを表わし、
−−−−は単結合または二重結合を表わし、

フルオロメチルから選ばれる基1〜3個で置換されているか、もしくは無置換のC4〜6炭素環、または窒素原子、酸素原子または硫黄原子を少なくとも1個含有する4〜6員の複素環を表わし、
1Aは(i)置換もしくは無置換のC1〜8アルキル、(ii)置換もしくは無置換のC2〜8アルケニル、(iii)置換もしくは無置換のC2〜8アルキニル、(iv)NR4A5A、(v)OR6A、(vi)SH、(vii)S(O)7A、(viii)COR6A、(ix)COOR6A、(x)CONR4A5A、(xi)NR8ACOR6aA、(xii)NR8ACOOR6A、(xiii)NR8ACONR4A5A、(xiv)置換もしくは無置換のC3〜15の単環もしくは二環式炭素環、または(xv)置換もしくは無置換の1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜15員の単環もしくは二環式複素環を表わす。)で示される化合物が、CRF拮抗作用を有する旨の記載がある(WO02/053565号参照)。
さらに上記パンフレット中に、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン塩酸塩が記載されている。
一方、上記パンフレットには一般式(A)で示される化合物の中間体として、一般式(B)

(式中、R2A−aは(i)水素原子、(ii)C1〜8アルキル、(iii)C2〜8アルケニル、(iv)C2〜8アルキニル、(v)ハロゲン原子、(vi)トリフルオロメチル、(vii)シアノ、(viii)ニトロ、(ix)NR9A10A、(x)OR11A、(xi)SH、(xii)S(O)12A、(xiii)COR11A、(xiv)COOR11A、(xv)CONR9A10A、(xvi)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、(xvii)1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環、または(xviii)置換されているC1〜4アルキルを表わすが、OH、シアノ、=N−OR11Aまたはそれらを含有する基は表わさず、R3A−aは(i)置換されているC5〜10の単環もしくは二環式炭素環、または(ii)置換されている1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する5〜10員の単環もしくは二環式複素環を表わすが、それらの基中にOH、シアノ、=N−OR11Aまたはそれらを含有する基を表わさない。)で示される化合物が記載されている。
一般式(B)で示される化合物のうち、1−シアノ−1−(2−メチル−4−メトキシフェニル)プロパン−2−オン(化合物B−1)、および1−シアノ−1−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)プロパン−2−オン(化合物B−2)が参考例として記載され、またそれらは以下の反応工程式AおよびBに示す方法により製造されることが示されている。

[工程a]は、四塩化炭素中、1,2−ジメチル−4−メトキシベンゼンと、N−ブロモスクシイミドおよび2,2’−アゾビスイソブチロニトリルとを反応させ、その後さらにシアン化ナトリウムと反応させて行われる。
[工程b]は、酢酸エチル中、工程aで得た化合物と金属ナトリウムとを反応させて行われる。
[工程c]は、テトラヒドロフラン中、n−ブチルリチウムの存在下、3−クロロ−4−ブロモアニソールと、ホウ酸トリイソプロピルとを反応させて行われる。
[工程d]は、ジメトキシエタン/水の混合溶媒中、炭酸水素ナトリウムおよびテトラキストリフェニルホスフィンパラジウムの存在下、工程cで得た化合物と4−ヨード−5−メチルイソキサゾールとを反応させて行われる。
[工程e]は、メタノール中、工程dで得た化合物とナトリウムメトキシドとを反応させて行われる。
WO02/053565号には、具体的な化合物として8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン塩酸塩が記載されている。しかし、この塩酸塩化合物は熱安定性が悪く、ある温度以上で塩酸の脱離が起こった。また、結晶性も悪く、その結晶取得率は大変低いものであった。
このように熱安定性に劣り、かつ結晶取得率が低い塩酸塩化合物は、安定供給が困難であり、その製剤の製造過程において加熱が必要な場合には問題を生じるため、医薬品原薬としては望ましくないものであった。
一方、上記パンフレットに記載されている一般式(B)で示される中間体の製造方法のうち、反応工程式A中の[工程b]の金属ナトリウムを用いる反応は、強アルカリでの反応のため特殊な設備を必要とし、工業的生産には不向きである。また、[工程a]および[工程b]の2工程での、化合物B−1の合計収率は59%と低いものであった。
反応工程式Bに示される反応中、[工程d]で用いている4−ヨード−5−メチルイソキサゾールは、その合成原料のメチルイソキサゾールを大量に入手することが困難であり、工業的生産には不適当な化合物であった。また化合物B−2の製造には3工程を要し、その合計収率は27%と低いものであった。
このように上記パンフレットに記載の製造方法は工程数の多さ、目的物の収率の低さおよび工業的生産性に劣ること等の問題を有するものであった。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、新規な8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩およびその新規な結晶が目的を達成することを見出した。
さらに、本発明者らは、均一系触媒下、一般式(II)

(式中、全ての記号は後記と同じ意味を表わす。)で示される化合物と、一般式(III)

(式中、全ての記号は後記と同じ意味を表わす。)で示される化合物を反応させる1工程の反応で効率よく、かつ高い収率で医薬品として有用な8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の製造中間体である一般式(I)

(式中、全ての記号は後記と同じ意味を表わす。)で示される化合物を得ることができる製造方法を見出した。
【図面の簡単な説明】
図1は、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の示差走査熱量測定チャートを示す。
図2は、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン塩酸塩の示差走査熱量測定チャートを示す。
図3は、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の結晶の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。
図4は、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の結晶の赤外線吸収(IR)スペクトルチャートを示す。
図5は、化合物1の単結晶X線構造解析データを示す。
図6は、化合物1の単結晶X線構造解析データを示す。
【発明の開示】
すなわち、本発明は、
1.8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩、
2.8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の結晶、
3.粉末X線回折スペクトルが図3に示される粉末X線回折スペクトルである前記2に記載の結晶、
4.粉末X線回折スペクトルにおける回折角2θが、8.96、12.70、13.69、14.98、15.74、16.38、17.63、18.98、19.71、20.49、21.37、22.26、22.88、23.76、24.70、25.79、26.57度である前記2に記載の結晶、
5.赤外吸収スペクトルが図4に示される赤外吸収スペクトルである前記2に記載の結晶、
6.赤外吸収スペクトルにおいて、1652、1595、1549、1220、1168、1141、1115、1034、790、766、548、533、522cm−1に吸収を有する前記2に記載の結晶、
7.8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジンと、メタンスルホン酸とを反応させることを特徴とする8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の製造方法、
8.前記1に記載の化合物を有効成分として含有してなる医薬組成物、
9.前記2乃至6のいずれかに記載の結晶を有効成分として1%以上含有してなる医薬組成物、
10.CRF拮抗剤である前記8に記載の医薬組成物、
11.CRF介在性疾患の予防および/または治療剤である前記8に記載の医薬組成物、
12.CRF介在性疾患が精神神経系疾患または消化器系疾患である前記11に記載の医薬組成物、
13.精神神経系疾患が気分障害、不安障害、ストレス関連障害、摂食障害、精神作用物質使用による症状もしくはその依存症、器質性精神障害、統合失調症、または注意欠陥多動性障害である前記12に記載の医薬組成物、
14.消化器系疾患が過敏性腸症候群またはストレスに伴う胃腸機能障害である前記12に記載の医薬組成物、
15.気分障害がうつ病、単一エピソードうつ病、再発性うつ病、分娩後うつ病、小児虐待誘発性うつ病、双極性感情障害、または月経前不快気分障害である前記13に記載の医薬組成物、
16.8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩と、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害薬、セロトニン選択的再取り込み阻害薬、セロトニン再取り込み阻害薬、精神刺激薬、抗不安薬、抗精神病薬、ミトコンドリアベンゾジアゼピン受容体リガンド、NK1拮抗薬、消化管機能調整薬、5−HT拮抗薬、5−HT作動薬、抗コリン薬、止痢薬、緩下剤および自律神経調整薬から選ばれる少なくとも1種以上と組み合わせてなる医薬、
17.8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩を有効成分として含有してなるCRF拮抗剤、
18.8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩を含有する注射剤、
19.溶解補助剤および/またはpH調整剤を含有する前記18に記載の注射剤、
20.8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とするCRFを拮抗する方法、
21.CRF拮抗剤を製造するための8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の使用、
22.均一系触媒の存在下、一般式(II)

(式中、Arは置換基を有していてもよいベンゼン、ナフタレン、ピリジン、1,3−ジオキサインダンまたはベンゾチアジアゾール環を表わし、Xはハロゲン原子を表わす。)で示される化合物と、一般式(III)

(式中、Rは(i)C1〜8アルキル、(ii)C2〜8アルケニル、(iii)C2〜8アルキニル、(iv)トリフルオロメチル、(v)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、(vi)1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含む3〜10員の単環もしくは二環式複素環、(vii)トリフルオロメチル、NR(基中、RおよびRはそれぞれ独立して、(i)水素原子、(ii)C1〜4アルキル、(iii)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、(iv)1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環、または(v)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環で、または1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環で置換されたC1〜4アルキルを表わす。)、OR(基中、Rは(i)水素原子、(ii)C1〜4アルキル、(iii)C5〜6の炭素環、(iv)1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環、または(v)C5〜6の炭素環もしくは1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環で置換されたC1〜4アルキルを表わす。)、S(O)(基中、nは0、1または2を表わし、Rは(i)C1〜4アルキル、(ii)C5〜6の炭素環、(iii)1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環、または(iv)C5〜6の炭素環もしくは1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環で置換されたC1〜4アルキルを表わす。)、COR、COOR、CONR、C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、および1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環から選ばれる基1〜2個で置換されたC1〜4アルキルを表わし、Mは金属原子を表わす。)で示される化合物とを反応させることを特徴とする一般式(I)

(式中、全ての記号は前記と同じ意味を表わす。)で示される化合物の製造方法、および
23.均一系触媒がパラジウム系の均一系触媒である前記22に記載の製造方法に関する。
本発明の8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩(以下、化合物(1)と略す。)は、新規化合物である。
また、驚くべきことに化合物(1)は、図1に示すDSC(示差走査熱量測定)チャートにおいて196.1℃に吸熱ピークを有することからわかるように、熱安定性に大変優れた化合物である。
一方、WO02/053565号に記載の8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン塩酸塩のDSCチャートを図2に示す。図2は、図1のように安定したDSC曲線を示すことがなく、40℃付近で一度大きな変化を生じ、50℃を越えて徐々に変化を生じている。
上記の結果から、塩酸塩は熱に不安定な化合物であるが、本発明のメタンスルホン酸塩は熱安定性に大変優れた化合物であることがわかる。塩の違いが、熱安定性にこのように大きく影響することは大変驚くべきことであり、容易に想到できるものではなかった。
さらに、本化合物は溶解性、体内動態にも大変優れる。また、後述する実施例において98%という高い取得率で得られているように、その結晶取得率が大変高い化合物でもあり、医薬品原薬として工業的生産に大変適した化合物である。
このような優れた特性を有する本発明化合物(1)は、安定的に供給することが可能であり、工業的生産に適し、また製剤形成性にも大変優れた化合物である。
[毒性]
化合物(1)の毒性は十分に低いものであり、医薬品として使用するために十分安全であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
[医薬品への適用]
化合物(1)は、CRF受容体に結合し、拮抗作用を示すため、CRF介在性疾患、例えば、精神神経系疾患、消化器系疾患、呼吸器系疾患、内分泌性疾患、代謝性疾患、循環器系疾患、皮膚疾患、尿路性器系疾患、眼疾患、筋骨格系疾患の予防および/または治療剤として有用であると考えられる。
より具体的には、精神神経系疾患としては、例えば気分障害(例えば、うつ病、単一エピソードうつ病、再発性うつ病、分娩後うつ病、小児虐待誘発性うつ病、双極性感情障害、月経前不快気分障害)、不安障害(全般性不安障害、パニック障害、強迫性障害、恐怖症性不安障害(高所恐怖症、閉所恐怖症、広場恐怖症、社会恐怖症等))、ストレス関連障害(例えば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、ストレス誘導性免疫抑制、ストレス誘発性頭痛、ストレス誘発性熱、ストレス誘発性疼痛、手術襲撃ストレス、ストレスに伴う胃腸機能障害、過敏性腸症候群)、摂食障害(例えば、神経性食欲不振症、過食症、神経性嘔吐症)、精神作用物質使用による症状もしくはその依存症(例えば、アルコールの禁断症状、アルコール依存症、薬物中毒、薬物依存症)、器質性精神障害(例えば、アルツハイマー型老人性痴呆、多梗塞性痴呆症)、統合失調症、注意欠陥多動性障害、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病、筋萎縮性側索硬化症)、疼痛、けいれん性疾患(例えば、痙攣、筋痙攣)、発作性障害(例えば、てんかん、発作、片頭痛)あるいは睡眠障害(例えば、非器質性睡眠障害、繊維筋痛性睡眠障害)が挙げられ、消化器系疾患としては、例えば消化性潰瘍、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)、過敏性腸症候群、ストレスに伴う胃腸機能障害、下痢あるいは便秘が挙げられ、呼吸器系疾患としては、例えば喘息、気管支炎、慢性閉塞性肺疾患あるいはアレルギー性鼻炎が挙げられ、内分泌性疾患としては、例えば甲状腺機能障害症候群、クッシング病あるいは抗利尿ホルモン不適合分泌症候群が挙げられ、代謝性疾患としては、例えば肥満症あるいは低血糖が挙げられ、循環器系疾患としては、例えば高血圧、虚血性心疾患、頻脈、うっ血性心不全あるいは脳血管疾患が挙げられ、皮膚疾患としては、例えばアトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎あるいは乾癬が挙げられ、尿路性器系疾患としては、例えば排尿障害、頻尿あるいは尿失禁が挙げられ、眼疾患として、例えばブドウ膜炎が挙げられ、または筋骨格系疾患として、例えば慢性関節リウマチ、変形性骨関節症または骨粗鬆症が挙げられる。
化合物(1)は、
1)その化合物の予防および/または治療効果の補完および/または増強、
2)その化合物の動態・吸収改善、投与量の低減、および/または
3)その化合物の副作用の軽減のために他の薬剤と組み合わせて、併用剤として投与してもよい。
化合物(1)と他の薬剤の併用剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、化合物(1)を先に投与し、他の薬剤を後に投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、化合物(1)を後に投与してもよい。それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。
上記併用剤により、予防および/または治療効果を奏する疾患は特に限定されず、化合物(1)の予防および/または治療効果を補完および/または増強する疾患であればよい。
化合物(1)の気分障害に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬剤としては、例えば、抗うつ薬(例えば、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ(MAO)阻害薬、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、セロトニン選択的再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン再取り込み阻害薬)、精神刺激薬、抗不安薬、抗精神病薬、ミトコンドリアベンゾジアゼピン受容体(MBR)リガンド、NK1拮抗薬等が挙げられる。
化合物(1)の不安障害に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬剤としては、例えば、抗不安薬(例えば、ベンゾジアゼピン系、チエノジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系)、MBRリガンドが挙げられる。
化合物(1)の過敏性腸症候群に対する予防および/または治療効果の補完および/または増強のための他の薬剤としては、例えば、消化管機能調整薬、5−HT拮抗薬、5−HT作動薬、抗コリン薬、止痢薬、緩下剤、自律神経調整薬、抗うつ薬、抗不安薬が挙げられる。
抗うつ薬としては、例えば三環系抗うつ薬(例えば、塩酸アミトリプチリン、塩酸イミプラミン、塩酸クロミプラミン、塩酸ドスレピン、塩酸ノルトリプチリン、塩酸ロフェプラミン、マレイン酸トリミプラミン、アモキサピン)、四環系抗うつ薬(例えば、塩酸マプロチリン、塩酸ミアンセリン、マレイン酸セチプチリン)、MAO阻害薬(塩酸サフラジン)、SNRI(例えば、塩酸ミルナシプラン、塩酸ベンラファキシン)、SSRI(例えば、マレイン酸フルボキサミン、塩酸パロキセチン、塩酸フルオキセチン、塩酸シタロプラム)、セロトニン再取り込み阻害薬(例えば、塩酸トラゾドン)が挙げられる。
抗不安薬としては、例えばベンゾジアゼピン系(例えば、アルプラゾラム、オキサゼパム、オキサゾラム、クロキサゾラム、クロラゼプ酸二カリウム、クロルジアゼポキシド、ジアゼパム、トフィソパム、トリアゾラム、プラゼパム、フルジアゼパム、フルタゾラム、フルトプラゼパム、ブロマゼパム、メキサゾラム、メダゼパム、ロフラゼプ酸エチル、ロラゼパム)、チエノジアゼピン系(例えば、エチゾラム、クロチアゼパム)、非ベンゾジアゼピン系(例えば、クエン酸タンドスピロン、塩酸ヒドロキシルジン)が挙げられる。
精神刺激薬としては、例えば塩酸メチルフェニデート、ペモリンが挙げられる。
抗精神病薬としては、スルピリド、塩酸トラゾドン、セロトニン・ドパミン拮抗薬(例えば、リスペリドン、塩酸ペロスピロン水和物、フマル酸クエチアピン、オランザピン)が挙げられる。
消化管機能調整薬としては、例えば、マレイン酸トリメブチン、ポリカルボフィルカルシウムが挙げられる。
5−HT拮抗薬としては、例えばアロセトロンが挙げられる。
5−HT作動薬としては、例えばテガセロド、シサプリド、クエン酸モサプリド、が挙げられる。
化合物(1)と他の薬剤の質量比は特に限定されない。
他の薬剤は、任意の2種以上を組み合わせて投与してもよい。
また、化合物(1)の予防および/または治療効果を補完および/または増強する他の薬剤には、上記したメカニズムに基づいて、現在までに見出されているものだけでなく今後見出されるものも含まれる。
製剤としては、例えば、経口投与のための内服用固形剤、内服用液剤および、非経口投与のための注射剤、外用剤、坐剤等が挙げられる。
経口投与のための内服用固形剤には、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。カプセル剤には、ハードカプセルおよびソフトカプセルが含まれる。
このような内服用固形剤においては、活性物質はそのままか、または賦形剤(ラクトース、マンニトール、グルコース、微結晶セルロース、デンプン等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等)、崩壊剤(繊維素グリコール酸カルシウム等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム等)、安定剤(例えば、酸化防止剤(例えば、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸))、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート類(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80)、マクロゴール類(例えば、マクロゴール200、マクロゴール400、マクロゴール1000、マクロゴール1500、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000)、エタノール、グリセリン、カルボキシメチルセルロース)等と混合され、常法に従って製剤化して用いられる。また、必要によりコーティング剤(白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)で被覆していてもよいし、また2以上の層で被覆していてもよい。さらにゼラチンのような吸収されうる物質のカプセルも包含される。
経口投与のための内服用液剤は、薬剤的に許容される水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含む。このような液剤においては、活性物質が、一般的に用いられる希釈剤(精製水、エタノールまたはそれらの混液等)に溶解、懸濁または乳化される。さらにこの液剤は、湿潤剤、懸濁化剤、乳化剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、保存剤、緩衝剤等を含有していてもよい。
非経口投与のための注射剤としては、溶液、懸濁液、乳濁液および用時溶剤に溶解または懸濁して用いる固形の注射剤を包含する。注射剤は、活性物質を溶剤に溶解、懸濁または乳化させて用いられる。溶剤としては、例えば注射用蒸留水、生理食塩水、植物油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エタノールのようなアルコール類等およびそれらの組み合わせが用いられる。さらにこの注射剤は、安定剤(例えば、酸化防止剤(例えば、亜硫酸塩、ピロ亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸))、溶解補助剤(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、ポリソルベート類(例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80)、マクロゴール類(例えば、マクロゴール200、マクロゴール400、マクロゴール1000、マクロゴール1500、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000)、エタノール、グリセリン、カルボキシメチルセルロース)、pH調整剤(例えば、塩酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸、酒石酸、コハク酸、アルギニン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メグルミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム)、懸濁化剤、乳化剤、無痛化剤(例えば、クロロブタノール、クレアチニン、イノシトール)、緩衝剤(例えば、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム)、保存剤(例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル)等を含んでいてもよい。これらは最終工程において滅菌するか無菌操作法によって製造される。また無菌の固形剤、例えば凍結乾燥品を製造し、その使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶剤、例えば生理食塩水、5%グルコース溶液等に溶解して使用することもできる。
非経口投与のための外用剤としては、例えば、軟膏剤、ゲル剤、クリーム剤、湿布剤、貼付剤、リニメント剤、噴霧剤、吸入剤、スプレー剤、点眼剤、および点鼻剤等が含まれる。これらは活性物質を含み、公知の方法または通常使用されている処方により製造、調製される。
非経口投与のためその他の剤形としては、ひとつまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される直腸内投与のための坐剤および腟内投与のためのペッサリー等が含まれる。
本発明の化合物(1)は、以下のデータによって特徴づけられる新規な結晶である。
すなわち、その結晶は、Cu−Kα線を照射して得られた粉末X線回折スペクトルが図3に示され、また、以下の表1で示される回折角(2θ)および相対強度のデータによって特徴づけられる。

また、ATR法で測定された赤外吸収(IR)スペクトルは図4に示され、また1652、1595、1549、1220、1168、1141、1115、1034、790、766、548、533、522cm−1の吸収ピークによっても特徴づけられる。
さらに、そのDSCチャートは図1に示され、196.1℃の吸熱ピークによっても特徴づけられる。
化合物(1)の結晶は、本明細書に記載の物理化学的性質によって特定されるものであるが、各分析データはその性質上多少変わり得るものであるから、厳密に解されるべきではない。
例えば、粉末X線回折スペクトルデータの性質上、結晶の同一性の認定においては、回折角(2θ)や全体的なパターンが重要であり、相対強度は結晶成長の方向、粒子の大きさ、測定条件によって多少変わり得る。IRスペクトルにおいても、結晶の同一性の認定においては、全体的なパターンが重要であり、測定条件によって多少変わり得る。また、DSCチャートにおいても、結晶の同一性の認定においては、全体的なパターンが重要であり、測定条件によって多少変わり得る。
したがって、本発明の化合物(1)の結晶の粉末X線回折スペクトル、IRスペクトルまたはDSCチャートのデータとパターンが全体的に類似するものは、本発明の化合物(1)の結晶に含まれるものである。
本発明で示される化合物(1)の結晶は、図3で示される粉末X線回折スペクトルおよび/または図4に示される赤外吸収スペクトルを有する結晶形が好ましいが、今後見出されるであろう異なる結晶形との混合物であっても構わないし、化合物(1)の非結晶質との混合物であっても構わない。
本発明の化合物(1)の結晶は熱以外に、湿度および光に対しても安定である。
一方、一般式(I)で示される化合物は、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩を製造する上で、重要な中間体化合物である。
本発明の一般式(I)で示される化合物の製造方法は、先行技術が有する問題点を解決した効率的で、かつ高収率で目的化合物を得ることができる製造方法である。以下に本発明の製造方法を反応工程式1として示す。

反応工程式1中、すべての記号は前記と同じ意味を表わす。
本発明の製造方法によると、一般式(II)で示される化合物から1工程で一般式(I)で示される化合物を製造することができる。
工程[1]は、有機溶媒中(例えば、1,2−ジメトキシエタン、ジグリム、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン)中、塩基(例えば、ナトリウムt−ブトキシド、カリウム t−ブトキシド、リチウム t−ブトキシド、水素化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム)存在下、ヨウ化物の存在下または非存在下、均一系触媒を用いて、70〜120℃で行われる。
本発明の製造方法は、各試薬の入手の容易さ、反応が1工程、高収率で目的化合物を取得できることから、今までにない工業的生産性に大変優れた方法である。
本発明で用いる均一系触媒としては、パラジウム系の均一系触媒が好ましく、例えば、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、酢酸パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、塩化パラジウムが挙げられる。またその使用量は触媒量であり、好ましくは原料に対して0.1〜20mol%であり、より好ましくは0.25〜10mol%であり、特に好ましくは0.25〜5mol%の量である。
また、本発明で用いる均一系触媒は均一系触媒のみ、もしくは均一系触媒と配位子とを組み合わせ使用してもよい。配位子としては、トリフェニルホスフィン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、9,9’−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)キサンテン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、トリ−2−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリ−o−トリルホスフィン、トリス(2−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(3−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシフェニル)ホスフィン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)ベンゼン、トリメチルシリルホスフィン、トリス(4−フルオロフェニル)ホスフィン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホスフィン、シクロヘキシルジフェニルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリス(3−スルホフェニル)ホスフィン 3塩酸塩、ビス(2−ジフェニルホスフィノフェニル)エーテル、シス−1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エチレン、ジフェニル ペンタフルオロフェニル ホスフィン、2−(ジ−t−ブチルホスフィノ)ビフェニル、2−(ジシクロヘキシルホスフィノ)ビフェニル、2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’−(N,N−ジメチルアミノ)ビフェニルが挙げられる。好ましい配位子は、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、トリ−2−m−トリルホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチルである。
本発明で用いる均一系触媒、もしくは均一系触媒と配位子との組み合わせとしては、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム単独、酢酸パラジウムと1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、酢酸パラジウムとトリ−2−m−トリルホスフィン、酢酸パラジウムとトリ−p−トリルホスフィン、酢酸パラジウムと2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムと1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムとトリ−2−m−トリルホスフィン、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムとトリ−p−トリルホスフィン、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムと2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチルが好ましい。
本発明で用いるヨウ化物とは、反応溶液中でヨウ化物イオンを生成する化合物を意味する。具体的には、例えば、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化マンガン、ヨウ化鉄、ヨウ化コバルト、ヨウ化ニッケル、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛、ヨウ化銀、ヨウ化4級アンモミニウム塩類(テトラ−n−ブチルアンモニウムイオダイド等)、ヨウ素等が挙げられる。反応に用いるヨウ化物は、一般式(II)で示される化合物に対して0.3〜2.0当量用いる。好ましくは0.3〜1.0当量である。
本発明中、水酸基、カルボキシル、SHまたはアミノを置換基として有する化合物を用いて反応を行なう場合は、相応しい保護基で保護された水酸基、カルボキシル、SHまたはアミノを有する化合物を用い、脱保護反応を使い分けることにより目的の化合物を製造しても構わない。
カルボキシル基の保護基としては、例えばメチル基、エチル基、アリル基、tert−ブチル基、トリクロロエチル基、ベンジル(Bn)基、フェナシル基、p−メトキシベンジル基、トリチル基、2−クロロトリチル基またはそれらの構造が結合した固相担体等が挙げられる。
水酸基の保護基としては、例えば、メチル基、トリチル基、メトキシメチル(MOM)基、1−エトキシエチル(EE)基、メトキシエトキシメチル(MEM)基、2−テトラヒドロピラニル(THP)基、トリメチルシリル(TMS)基、トリエチルシリル(TES)基、tert−ブチルジメチルシリル(TBDMS)基、tert−ブチルジフェニルシリル(TBDPS)基、アセチル(Ac)基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ベンジル(Bn)基、p−メトキシベンジル基、アリルオキシカルボニル(Alloc)基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル(Troc)基等が挙げられる。
アミノ基およびアミジノ基の保護基としては、例えばベンジルオキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル(Alloc)基、1−メチル−1−(4−ビフェニル)エトキシカルボニル(Bpoc)基、トリフルオロアセチル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基、ベンジル(Bn)基、p−メトキシベンジル基、ベンジルオキシメチル(BOM)基、2−(トリメチルシリル)エトキシメチル(SEM)基等が挙げられる。
チオール基の保護基としては、例えばベンジル基、メトキシベンジル基、メトキシメチル(MOM)基、2−テトラヒドロピラニル(THP)基、ジフェニルメチル基、アセチル(Ac)基が挙げられる。
カルボキシル基、水酸基、またはアミノ基の保護基としては、上記した以外にも容易にかつ選択的に脱離できる基であれば特に限定されない。例えば、T.W.Greene,P.G.M.Wuts,Protective Groups in Organic Synthesis,Wiley,New York,1999に記載されたものが用いられる。
本発明中、「置換基を有していてもよいベンゼン、ナフタレン、ピリジン、1,3−ジオキソインダンまたはベンゾチアジアゾール環」における「置換基」としては、(a)C1〜8アルキル、(b)C2〜8アルケニル、(c)C2〜8アルキニル、(d)ハロゲン原子、(e)トリフルオロメチル、(f)トリフルオロメトキシ、(g)シアノ、(h)ニトロ、(j)NR、(k)OR、(l)SH、(m)S(O)、(n)COR、(o)COOR、(p)CONR、(q)NRCOR、(r)NRCOOR、(s)NRCONR、(t)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、(u)1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環、(v)ハロゲン原子、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、シアノ、ニトロ、NR、OR、=N−OR、SH、S(O)、COR、COOR、CONR、C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、および1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環から選ばれる基1〜2個で置換されているC1〜4アルキルが挙げられる。
、R、R、Rおよびnは前記と同じ意味を表わす。
は(i)水素原子、(ii)C1〜8アルキル、(iii)C2〜8アルケニル、(iv)C2〜8アルキニル、(v)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、(vi)1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環、または(vii)ハロゲン原子、トリフルオロメチル、OCF、シアノ、ニトロ、NR、OR、=N−OR、SH、S(O)、COR、COOR、CONR、C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、および1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環から選ばれる基1〜2個で置換されているC1〜4アルキルを表わす。
本発明中、「置換基を有していてもよいベンゼン、ナフタレン、ピリジン、1,3−ジオキソインダンまたはベンゾチアジアゾール環」における好ましい置換基としては、C1〜8アルキル、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、シアノ、NR3a4a、(基中、R3aおよびR4aはそれぞれ独立して、水素原子またはC1〜4アルキルを表わす。)、OR5a(基中、R5aは水素原子またはC1〜4アルキルを表わす。)、S(O)6a(基中、R6aはC1〜4アルキルを表わす。)、CHO、COOR5a、CONR3a4a、C3〜7シクロアルキル、フェニル、ナフチル、フリル、チエニル、ピロリル、ピリジル、またはハロゲン原子、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、シアノ、NR3a4a、OR5a、CHO、COOR5a、CONR3a4a、C3〜7シクロアルキル、フェニル、ナフチル、フリル、チエニル、ピロリルおよびピリジルから選ばれる基1〜2個で置換されているC1〜4アルキルが挙げられる。
本発明中、好ましいArは上記置換基を有していてもよいベンゼン、ピリジンまたはベンゾチアジアゾール環である。
本発明中、Xが表わすハロゲン原子とは塩素、臭素、フッ素およびヨウ素であり、塩素または臭素が好ましい。
本発明中、Mが表わす金属原子としては、ナトリウム、カリウム、リチウムが挙げられ、ナトリウムが好ましい。
本発明中、好ましいRは(i)C1〜8アルキル、(ii)C2〜8アルケニル、(iii)C2〜8アルキニル、(iv)トリフルオロメチル、NR、OR、S(O)、COR、COOR、CONR、C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、および1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環から選ばれる基1〜2個で置換されたC1〜4アルキルある。
特に、Rは−CH−Rで表わされる基が好ましい。基中、Rは(i)C1〜7アルキル、(ii)C2〜7アルケニル、(iii)C2〜7アルキニル、(iv)トリフルオロメチル、NR3a4a、OR5a、S(O)6a、COR5a、COOR5a、CONR3a4a、C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、あるいは1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環、またはそれらによって置換されたメチレン基を表わす。特に、Rとして(i)C1〜7アルキル、(ii)トリフルオロメチル、OR5a、S(O)6a、C3〜7シクロアルキル、フェニル、フリル、チエニル、ピロリルあるいはピリジル、またはそれらによって置換されたメチレン基が好ましい(基中、R3a、R4a、R5aおよびR6aは前記と同じ意味を表わす。)。
本明細書中で用いるC1〜4アルキルとは、メチル、エチル、プロピル、ブチル基およびこれらの異性体を意味する。
本明細書中で用いるC1〜8アルキルとは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基およびこれらの異性体を意味する。
本明細書中で用いるC2〜8アルケニルとは、1〜3個の二重結合を有するエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基およびこれらの異性体を意味する。例えば、ビニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘキサジエニル、ヘプテニル、ヘプタジエニル、オクテニル、オクタジエニル基等が挙げられる。
本明細書中で用いるC2〜8アルキニルとは、1〜3個の三重結合を有するエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基およびこれらの異性体を意味する。例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘキサジエニル、ヘプチニル、ヘプタジエニル、オクチニル、オクタジエニル基等が挙げられる。
本明細書中で用いるハロゲン原子とはフッ素、塩素、臭素およびヨウ素である。
本明細書中で用いるC5〜6炭素環とは、C5〜6の炭素環アリール、またはその一部もしくは全部が飽和したものが含まれる。例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ベンゼン環等が挙げられる。
本明細書中で用いるC3〜7シクロアルキルとはシクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン環である。
本明細書中で用いるC3〜10の単環もしくは二環式炭素環には、C3〜10の単環もしくは二環式炭素環アリール、またはその一部もしくは全部が飽和したものが含まれる。例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、ペンタレン、インデン、ナフタレン、アズレン、パーヒドロペンタレン、インダン、パーヒドロインデン、テトラヒドロナフタレン、パーヒドロナフタレン、パーヒドロアズレン環等が挙げられる。
本明細書中で用いる1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環には、1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環アリール、またはその一部もしくは全部が飽和したものが含まれる。例えば、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、フラン、ピラン、チオフェン、チアイン(チオピラン)、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ピロリン、ピロリジン、ピペリジン、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾリン、ピラゾリジン、ピペラジン、パーヒドロピリミジン、パーヒドロピリダジン、ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジヒドロチオフェン、テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチアイン、モルホリン、チオモルホリン等が挙げられる。
本明細書中で用いる1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環には、1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環アリール、またはその一部もしくは全部飽和したものが含まれる。
前記した1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環アリールとしては、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、アゼピン、ジアゼピン、フラン、ピラン、オキセピン、チオフェン、チアイン(チオピラン)、チエピン、オキサゾール、イソオキサゾール、オキサジアゾール、オキサジン、オキサジアジン、オキサゼピン、オキサジアゼピン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール、チアジン、チアジアジン、チアゼピン、チアジアゼピン、インドール、イソインドール、インドリジン、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ベンゾチオフェン、イソベンゾチオフェン、インダゾール、キノリン、イソキノリン、キノリジン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾフラザン、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール環等が挙げられる。
前記した1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環アリールの一部もしくは全部飽和したものとしては、アジリジン、アゼチン、アゼチジン、ピロリン、ピロリジン、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾリン、ピラゾリジン、トリアゾリン、トリアゾリジン、テトラゾリン、テトラゾリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジヒドロピリジン、テトラヒドロピリジン、ジヒドロピラジン、テトラヒドロピラジン、ジヒドロピリミジン、テトラヒドロピリミジン、パーヒドロピリミジン、ジヒドロピリダジン、テトラヒドロピリダジン、パーヒドロピリダジン、ジヒドロアゼピン、テトラヒドロアゼピン、パーヒドロアゼピン、ジヒドロジアゼピン、テトラヒドロジアゼピン、パーヒドロジアゼピン、オキシラン、オキセタン、ジヒドロフラン、テトラヒドロフラン、ジヒドロピラン、テトラヒドロピラン、ジヒドロオキセピン、テトラヒドロオキセピン、パーヒドロオキセピン、チイラン、チエタン、ジヒドロチオフェン、テトラヒドロチオフェン、ジヒドロチアイン(ジヒドロチオピラン)、テトラヒドロチアイン(テトラヒドロチオピラン)、ジヒドロチエピン、テトラヒドロチエピン、パーヒドロチエピン、オキサゾリン(ジヒドロオキサゾール)、オキサゾリジン(テトラヒドロオキサゾール)、ジヒドロイソオキサゾール、テトラヒドロイソオキサゾール、オキサジアゾリン(ジヒドロオキサジアゾール)、オキサジアゾリジン(テトラヒドロオキサジアゾール)、チアゾリン(ジヒドロチアゾール)、チアゾリジン(テトラヒドロチアゾール)、ジヒドロイソチアゾール、テトラヒドロイソチアゾール、モルホリン、チオモルホリン、インドリン、イソインドリン、ジヒドロベンゾフラン、パーヒドロベンゾフラン、ジヒドロイソベンゾフラン、パーヒドロイソベンゾフラン、ジヒドロベンゾチオフェン、パーヒドロベンゾチオフェン、ジヒドロイソベンゾチオフェン、パーヒドロイソベンゾチオフェン、ジヒドロインダゾール、パーヒドロインダゾール、ジヒドロキノリン、テトラヒドロキノリン、パーヒドロキノリン、ジヒドロイソキノリン、テトラヒドロイソキノリン、パーヒドロイソキノリン、ジヒドロフタラジン、テトラヒドロフタラジン、パーヒドロフタラジン、ジヒドロナフチリジン、テトラヒドロナフチリジン、パーヒドロナフチリジン、ジヒドロキノキサリン、テトラヒドロキノキサリン、パーヒドロキノキサリン、ジヒドロキナゾリン、テトラヒドロキナゾリン、パーヒドロキナゾリン、ジヒドロシンノリン、テトラヒドロシンノリン、パーヒドロシンノリン、ジヒドロベンゾオキサゾール、パーヒドロベンゾオキサゾール、ジヒドロベンゾチアゾール、パーヒドロベンゾチアゾール、ジヒドロベンゾイミダゾール、パーヒドロベンゾイミダゾール、ジオキソラン、ジオキサン、ジオキサジン、ジオキサインダン、クロマン、イソクロマン環等が挙げられる。
本発明において、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジンのメタンスルホン酸塩以外の熱安定性に優れた塩としては、トシル酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩(D,L,またはDL)がある。
[本発明化合物の製造方法]
本発明の化合物(1)は、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジンと、メタンスルホン酸とを反応させることにより得ることができる。
詳しくは、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジンを、有機溶媒(例えば、酢酸エチル、メタノール、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、イソプロピルアルコール、アセトニトリル)に溶解し、20〜60℃でメタンスルホン酸を加え、析出した結晶をろ取し、乾燥させることによって得ることができる。
一方、原料の8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジンは以下の反応工程式2に示す方法により製造することができる。

工程[2]は、有機溶媒(例えば、トルエン、メタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド)中、酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸)の存在下、ヒドラジン、ヒドラジン1水和物、あるいはヒドラジンもしくはヒドラジン1水和物の60〜80質量%の水溶液を用いて、10〜60℃あるいは加熱還流下で行われる。
工程[3]は、酸(例えば、酢酸、硫酸、メタンスルホン酸)を溶媒として用いて、50〜100℃あるいは加熱還流下で行われる。または、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、トルエン、ジメチルホルムアミド、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトニトリル等)中、酸(例えば、酢酸、硫酸、メタンスルホン酸、トシル酸)の存在下、50〜100℃あるいは加熱還流下で行われる。
上記反応中、有機溶媒を用いる場合の酸使用量は、酸を溶媒として反応させるときの使用量よりも、より少ない量で反応を行なうことができるため、その除去が簡便であり、かつ安全に反応することができる。
工程[4]は、有機溶媒(例えば、トルエン、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン)中、塩基(例えば、ピリジン、トリエチルアミン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジメチルアミノピリジン、ジイソプロピルエチルアミン、2,6−ルチジン、2−ピコリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン)の存在下、オキシ塩化リンを用いて、70〜120℃で行われる。
工程[5]は、有機溶媒(例えば、トルエン、キシレン、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアミン、ジメチルスルホキシド、2−プロパノール、アセトニトリル)中もしくは無溶媒で、塩基(例えば、トリエチルアミン、トリメチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン等)の存在下もしくは非存在下、80〜150℃で行われる。
本発明工程でメタンスルホン酸を用いる場合は、原料をそのまま用いてもよいし、より安全を確保するため相応しい有機溶媒(例えば、酢酸エチル、メタノール、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、n−ヘプタン)に溶解してから滴下してもよいが、メタンスルホン酸は腐食性が高く、操作に注意を要する。
メタンスルホン酸の使用量は、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジンに対して、0.5〜2.2当量、好ましくは0.95〜1.2当量である。
メタンスルホン酸を加えた後、さらに有機溶媒(例えば、酢酸エチル、n−ヘプタン)を加え撹拌してから、上記結晶を得てもよい。
本発明の化合物(1)は、水を含有していてもよい低級アルコール系溶媒およびエステル系溶媒から選ばれる少なくとも一種の溶媒を用いるか、または1種もしくはそれ以上の前記溶媒と、水を含有していてもよい直鎖アルカン系溶媒、エステル系溶媒、鎖状エーテル系溶媒およびケトン系溶媒から選ばれる少なくとも1種の溶媒を混用して再結晶を行なうことよって精製することができる。
本明細書中、低級アルコール系溶媒とは、その構造中に水酸基を有する炭素数1〜4のアルカンである溶媒を意味する。具体例としては、メタノール、エタノール、および2−プロパノール等が挙げられる。
本明細書中、エステル系溶媒とは、その構造中にエステル結合を有する溶媒を意味する。具体例としては、酢酸エチル等が挙げられる。
本明細書中、直鎖アルカン系溶媒とは、その構造が直鎖のアルカンである溶媒を意味する。具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、およびn−ヘプタン等が挙げられる。
本明細書中、鎖状エーテル系溶媒とは、その構造中にエーテル結合を有し、かつ鎖状構造をとる溶媒を意味する。エーテル結合を構成する炭素置換基は、鎖状でも環状でもかまわない。具体例としては、1,2−ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、およびメチル−t−ブチルエーテル等が挙げられる。
本明細書中、ケトン系溶媒とは、その構造中にケトン基を有する溶媒を意味する。具体例としては、アセトン等が挙げられる。
再結晶に用いる溶媒量は、化合物(1)1gに対して、溶媒約1〜100mLが好ましく、約2〜50mLがより好ましく、約5〜20mLがさらに好ましい。
再結晶に用いる溶媒は、水を含有していてもよい。溶媒に対する水の含有量は、その溶媒によって異なるが、0から該溶媒に対して水が飽和する量の範囲である。具体的には、例えば溶媒が酢酸エチルの場合、水の含有量は、0〜3.3%である。
再結晶によって得られた結晶は、常温、加温または加熱下、必要に応じて減圧下または常圧下、適宜乾燥してもよい。
本明細書中の各反応において、加熱を伴う反応は、当業者にとって明らかなように、水浴、油浴、砂浴またはマイクロウェーブを用いて行なうことができる。
本明細書中の各反応において、反応生成物は通常の精製手段、例えば、常圧下または減圧下における蒸留、シリカゲルまたはケイ酸マグネシウムを用いた高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、イオン交換樹脂、スカベンジャー樹脂あるいはカラムクロマトグラフィーまたは洗浄、再結晶などの方法により精製することができる。精製は各反応ごとに行なってもよいし、いくつかの反応終了後に行なってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:1−シアノ−1−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)プロパン−2−オン

アルゴン雰囲気下、1−ブロモ−2−クロロ−4−メトキシベンゼン(54g)、シアノアセトンナトリウム(28.2g)およびナトリウム t−ブトキシド(51.5g)の1,2−ジメトキシエタン(243mL)懸濁液に、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(7.04g)を加え、10時間半加熱還流した。25℃まで冷却した反応溶液に、トルエン(21.6mL)を加え、内温20〜30℃で1時間撹拌した。反応溶液をろ過し、固体をトルエンで洗浄した。得られた固体を2mol/L塩酸/トルエン混合溶媒に溶解し、分液して有機層(300.7g)を得た。
有機層中の標題化合物はHPLCを用いた内部標準法により定量した。
定量値:71%;
収量:38.7g;
TLC:Rf 0.29(n−ヘキサン:酢酸エチル=3:1);
NMR(300MHz,CDCl):δ 7.38(d,J=8.4Hz,1H),7.01(d,J=2.7Hz,1H),6.90(dd,J=8.4,2.7Hz,1H),5.12(s,1H),3.83(s,3H),2.29(s,3H)。
実施例2:1−シアノ−1−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)プロパン−2−オン
アルゴン雰囲気下、1−ブロモ−2−クロロ−4−メトキシベンゼン(120g)のジグリム(230mL)−1,2−ジメトキシエタン(90mL)溶液に、撹拌下室温で、シアノアセトンナトリウム(62.6g)、ナトリウム t−ブトキシド(114.6g)およびヨウ化ナトリウム(81.2g)を加え、懸濁液を調製した。別の容器にアルゴン雰囲気下、ジグリム(40mL)、酢酸パラジウム(426mg)、トリフェニルホスフィン(1.99g)を加え、110℃に加熱し約30分撹拌して溶解させた。先に準備した懸濁液に調製した溶液を滴下し、アルゴン雰囲気下、内温110〜115℃まで昇温し、7時間撹拌した。反応液を冷却後、酢酸エチル(480mL)で希釈し、硫酸水溶液(濃硫酸101g/水660mL)で洗浄した。有機層を10%飽和食塩水(360mL)で2回洗浄した。有機層に活性炭(3.6g)を加え、1時間撹拌した後ろ過し、酢酸エチル(240mL)で洗浄し1−シアノ−1−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)プロパン−2−オンの溶液(971.7g)を得た。
実施例1記載のHPLCを用いた内部標準法により定量したところ、標題化合物の収量は101.7gであった。
実施例3:5−アミノ−3−メチル−4−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)ピラゾール
アルゴン雰囲気下、実施例1で製造した化合物(38.7g)のトルエン溶液に、内温10〜30℃で酢酸(14.5mL)およびヒドラジン1水和物の60%水溶液(17.7mL)を順次加えた。混合液を内温45〜55℃で7時間撹拌した。内温10〜30℃に冷却した反応溶液に、2mol/Lの塩酸を加えて分液した。水層を25%wt水酸化ナトリウムでpH6.5〜7.5にした。調整した水層に酢酸イソプロピル(216mL)を加えた。分液した有機層を減圧濃縮した。残渣を加熱し、n−ヘプタンを加えた。溶液を内温10〜30℃まで冷却して、結晶が析出してから30分撹拌した。さらにn−ヘプタンを加え、1時間撹拌した。得られた結晶をろ取し、約50℃で14時間以上減圧乾燥して、以下の物性値を有する標題化合物(35.5g(94.8area%);取得率61%(2工程))を得た。
TLC:Rf 0.34(クロロホルム:メタノール=10:1);
NMR(300MHz,CDCl):δ 7.19(d,J=8.1Hz,1H),7.04(d,J=2.7Hz,1H),6.86(dd,J=8.1,2.7Hz,1H),3.83(s,3H),2.14(s,3H)。
実施例4:8−ヒドロキシ−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン
アルゴン雰囲気下、実施例3で製造した化合物(26.0g)のエタノール(109mL)溶液に、2−オキソシクロペンタンカルボン酸エチルエステル(17.3mL)を内温10〜30℃で加え、さらに酢酸(18.7mL)を加えた。混合溶液を内温80〜90℃で7時間加熱還流した。反応溶液を内温55〜65℃に冷却し、トルエン(109mL)を加えた。希釈液を内温40〜65℃で30分以上撹拌後、10〜30℃に冷却した。析出した結晶をろ取し、約50℃で14時間以上減圧下乾燥して、以下の物性値を有する標題化合物(33.3g(98.6area%);取得率92.8%)を得た。
TLC:Rf 0.59(クロロホルム:メタノール:酢酸:水=50:10:1:1);
NMR(300MHz,DMSO−d):δ 12.04(s,1H),7.31(d,J=8.4Hz,1H),7.18(d,J=2.4Hz,1H),7.00(dd,J=8.4,2.4Hz,1H),3.81(s,3H),2.82(t,J=7.5Hz,2H),2.66(t,J=6.9Hz,2H),2.11(s,3H),2.03(m,2H)。
実施例5:8−クロロ−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン
アルゴン雰囲気下、実施例4で製造した化合物(300g)のトルエン(910mL)懸濁液に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(141g)を加え、続いてオキシ塩化リン(419g)を滴下した。混合液を内温80〜95℃で9時間撹拌した。内温20〜30℃に冷却した反応溶液を、酢酸エチルおよび水の混合溶媒に注ぎ、15分間撹拌した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液および飽和食塩水で洗浄し、活性炭(30g)を入れて、1時間撹拌後ろ過した。ろ液にN,N−ジメチルアセトアミド(600mL)を加え、減圧濃縮した。以下の物性値を有する標題化合物(316.9g;100%換算)のN,N−ジメチルアセトアミド溶液は、精製することなく次工程に用いた。
TLC:Rf 0.42(n−ヘキサン:酢酸エチル=2:1);
NMR(300MHz,CDCl):δ 7.28(d,J=8.7Hz,1H),7.07(d,J=2.4Hz,1H),6.90(dd,J=8.7,2.4Hz,1H),3.84(s,3H),3.06(m,4H),2.43(s,3H),2.23(m,2H)。
実施例6:8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン
アルゴン雰囲気下、実施例5で製造した化合物(177.6g)のN,N−ジメチルアセトアミド溶液(355mL)、トリエチルアミン(103.2g)および3−アミノペンタン(88.9g)のイソプロピルアルコール(178mL)溶液を、内温95〜105℃で4時間撹拌した。内温70〜80℃に冷却した反応溶液に、水を注いだ。希釈液を内温50〜60℃に冷却し、結晶が析出後30分撹拌した。さらに水を注ぎ、内温20〜30℃で1時間撹拌した。析出した結晶をろ取し、得られた結晶を約50℃で14時間以上減圧下乾燥して、標題化合物の粗結晶(174g(97.4area%);取得率85%(2工程))を得た。
得られた粗結晶(1.0g)のエタノール/水(3/1;2mL)溶液を、オイルバス下で加熱還流した。さらにエタノール/水(3/1;5mL)を加えた。オイルバスを外し、一晩放置した。析出した結晶をろ取し、エタノール/水(3/1)で洗浄後、約50℃で14時間以上減圧下乾燥して、以下の物性値を有する標題化合物(920mg)を得た。
TLC:Rf 0.45(n−ヘキサン:酢酸エチル=2:1);
NMR(300MHz,CDCl):δ 7.31(d,J=8.4Hz,1H),7.05(d,J=2.7Hz,1H),6.88(dd,J=8.4,2.7Hz,1H),6.22(brd,J=10.5Hz,1H),3.82(s,3H),3.80(m,1H),3.08(t,J=7.2Hz,2H),2.90(t,J=7.5Hz,2H),2.34(s,3H),2.14(m,2H),1.52−1.82(m,4H),1.01(t,J=7.5Hz,3H)。
実施例7:8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩

実施例6で得られた粗結晶(71.6g)を酢酸エチル(250mL)に加熱溶解した。内温50℃に冷却した溶液に、99.3%メタンスルホン酸(17.3g)を滴下した。内温30℃まで冷却した混合溶液に、n−ヘプタンを加えて25℃で30分間撹拌した。得られた結晶をろ取し、約50℃で14時間以上減圧下乾燥して、以下の物性値を有する標題化合物(87.1g(97.4area%);取得率98%)を粉末結晶で得た。
TLC:Rf 0.17(n−ヘキサン:酢酸エチル=2:1);
融点:196〜197℃(未補正、金属製加熱ブロック方式);
NMR(300MHz,CDCl):δ 7.36(d,J=8.4Hz,1H),7.23(d,J=10.5Hz,1H),7.08(d,J=2.4Hz,1H),6.97(dd,J=8.4,2.4Hz,1H),4.03−3.90(m,1H),3.85(s,3H),3.63−3.35(m,2H),3.13(t,J=7.2Hz,2H),2.42(s,3H),2.35−2.25(m)and 2.34(s)total 5H,1.90−1.50(m,4H),1.06(t,J=7.5Hz)and 1.05(t,J=7.5Hz)total 6H。
[結晶の物性データ]
実施例7で製造した化合物の、下記の条件で測定した粉末X線回折スペクトルを図3に、赤外線吸収(IR)スペクトルを図4に、示差走査熱量測定(DSC)のチャートを図1にそれぞれ示す。
(1)粉末X線回折スペクトル
装置:BRUKER製 BRUKER DISCOVER with GADD(C2)、
ターゲット:Cu、
フィルター:なし、
電圧:40kV、
電流:40mA、
露光時間:5min。
(2)赤外線吸収(IR)スペクトル
装置:日本分光製 FTIR−660Plus/SENSIR製 DURASCOPE、
測定方法:ATR法で結晶試料をそのまま測定、
分解能:4cm−1
スキャン回数:16回。
(3)示差走査熱量測定(DSC)
装置:SEIKO INSTRUMENT DSC6200、
試料量:6.35mg、
試料セル:アルミニウムオープンセル、
窒素ガス流量:20mL/min、
昇温速度:5℃/min。
実施例7(1):
実施例7で製造した化合物(500mg)をスクリュー管(直径18mm、高さ40mm)に量り取り、メタノール(0.5mL)及び酢酸エチル(0.5mL)を加え、蓋をして70℃のオイルバスにつけて加熱した。固体の溶解を確認後、すぐに室温遮光条件で放冷し、そのまま室温遮光条件で放置して、8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の単結晶を得た。
化合物(1)の単結晶X線構造解析データを、図5および図6に示す。
[測定条件]
装置:(株)リガク製R−AXIS RAPID型単結晶X線回折装置、
解析ソフト:(株)リガク製Crystal Structure、
測定温度:室温、
ターゲット:CuKα(λ=1.54187Å)、
R=0.059。
結晶学的データは次の通りである。
格子定数:a=8.165(2)Å,b=38.140(8)Å,c=7.947(2)Å,
β=94.32(2)°、
空間群 :P2/c。
実施例8:8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン トシル酸塩
実施例6で得られた粗結晶(100mg)をテトラヒドロフラン(0.5mL)に加熱溶解した。60℃に冷却した溶液に、トシル酸(47.7mg)を加えた。約25℃まで冷却した混合物に、メチルt−ブチルエーテル(2.5mL)を加え、析出した結晶をろ取した。得られた結晶を約50℃で14時間以上減圧下乾燥して、以下の物性値を有する標題化合物(105mg(97.6area%);取得率71.1%)を粉末結晶で得た。
TLC:Rf 0.38(n−ヘキサン:酢酸エチル=2:1);
NMR(200MHz,CDCl):δ 7.51(d,J=8.4Hz,2H),7.31(d,J=8.6Hz,1H),7.30−7.20(m,1H),7.09(d,J=8.4Hz,2H),6.93(d,J=2.6Hz,1H),6.69(dd,J=8.6,2.6Hz,1H),4.10−3.90(m,1H),3.80−3.35(m)and 3.72(s)total 5H,3.14(t,J=7.2Hz,2H),2.40−2.20(m,2H),2.35(s,3H),2.33(s,3H),1.90−1.60(m,4H),1.06(t,J=7.5Hz)and 1.05(t,J=7.5Hz)total 6H。
薬理実験例
化合物(1)がCRF受容体拮抗活性を有することは、以下の実験で確認された。
実験例1:バインディングアッセイ
[膜調製]
ヒトCRF受容体1型強制発現細胞株(親株はCHO−K1細胞)をコンフレントになるまで培養した後、スクレイパーを用いて回収した。回収した細胞をPBSで2回洗浄した後、氷冷したバインディングアッセイ緩衝液(Tris−HCl(50mM、pH7.0)、EDTA(2mM、pH8.0)、MgCl(10mM))で懸濁した。懸濁した細胞をダウンス型のホモジナイザーを用いて破砕した後、10000gで遠心し、膜画分を回収した。回収した膜画分を少量のバインディングアッセイ緩衝液で再懸濁した後、濃度が1mg/mLになるようバインディングアッセイ緩衝液で希釈した。以上を膜画分としてバインディングアッセイに用いた。
[バインディングアッセイ]
125I−CRFを0.5nMになるようにバインディングアッセイ緩衝液で希釈し、シリコナイズした1.5mLチューブに50μL加えた。次に適当倍希釈した被検薬、DMSO(総結合用)、または100μMのCRF(非特異的用)を1μLチューブに加えた。最後に50μLの膜画分を加え、反応を開始させた(125I−CRFの最終濃度は0.25nM)。チューブを室温で2時間インキュベートした。反応終了後、膜画分を回収するため20000gで遠心した後、上清を捨て、氷冷したPBS/0.01%トリトン X−100で2回洗浄した。膜結合カウントは、ガンマカウンターを用いて測定した。
特異的結合は、測定カウントから非特異的結合のカウントを引いて求めた。
その結果、化合物(1)は強い受容体結合活性(IC50値<1μM)を有することがわかった。
実験例2:受容体拮抗活性(サイクリックAMPアッセイ)
ヒトCRF受容体1型強制発現細胞株は、10%ウシ胎児血清および1%抗生物質−抗真菌剤を含むハムF−12培地(F−12 nutrient mixture)を用いて、37℃、二酸化炭素5%、空気95%の条件下で培養した。サイクリックAMPを測定する前日に、1×10細胞/ウェルとなるように96穴プレートへ播種した。測定当日、ハムF−12培地で2回洗浄後、ハムF−12培地/1mMの3−イソブチル−1−メチルキサンチン(アッセイ培地)(178μL)を、各ウェルに添加した。37℃で10分間インキュベーションした後、種々濃度の被験薬溶液(2μL)またはCRF群とブランク群にはDMSO(2μL)を添加した。37℃で15分間インキュベーションした後、化合物群およびCRF群のウェルに10nMのヒト/ラットCRFを含むアッセイ培地(20μL)を添加した。ブランク群には0.00001%酢酸を含むアッセイ培地(20μL)を添加した。さらに、37℃で15分間インキュベーションした。上清を除き、氷冷して反応を停止した。なお全ての反応は3ウェルずつ行った。細胞内サイクリックAMP蓄積量の測定は、サイクリックAMP Biotrak酵素免疫測定システム(Amersham Biosciences社製)を用いて行った。サイクリックAMP蓄積量は、3ウェルの平均値から対応する3ウェルのブランク群の平均値を引いて算出した。IC50値は、化合物の対数濃度を独立変数、サイクリックAMP蓄積量を従属変数として非線形回帰分析によって算出した。
その結果、化合物(1)はCRFに対して強い拮抗活性(IC50値<1μM)を有することがわかった。
製剤例1:
以下の各成分を常法により混合した後打錠して、一錠中に10mgの活性成分を含有する錠剤100万錠を得た。
・8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩 …… 10kg
・カルボキシメチルセルロースカルシウム(崩壊剤) …… 2kg
・ステアリン酸マグネシウム(潤滑剤) …… 1kg
・微結晶セルロース …… 87kg
製剤例2:
以下の各成分を常法により混合した後、除塵フィルターでろ過し、5mLずつアンプルに充填し、オートクレーブで加熱滅菌して、1アンプル中20mgの活性成分を含有するアンプル100万本を得た。
・8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩 …… 20kg
・マンニトール ……200kg
・蒸留水 …… 5kl
・1N塩酸 …… 20〜30mL
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩。
【請求項2】
8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の結晶。
【請求項3】
粉末X線回折スペクトルが図3に示される粉末X線回折スペクトルである請求の範囲2に記載の結晶。
【請求項4】
粉末X線回折スペクトルにおける回折角2θが、8.96、12.70、13.69、14.98、15.74、16.38、17.63、18.98、19.71、20.49、21.37、22.26、22.88、23.76、24.70、25.79、26.57度である請求の範囲2に記載の結晶。
【請求項5】
赤外吸収スペクトルが図4に示される赤外吸収スペクトルである請求の範囲2に記載の結晶。
【請求項6】
赤外吸収スペクトルにおいて、1652、1595、1549、1220、1168、1141、1115、1034、790、766、548、533、522cm−1に吸収を有する請求の範囲2に記載の結晶。
【請求項7】
8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジンと、メタンスルホン酸とを反応させることを特徴とする8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の製造方法。
【請求項8】
請求の範囲1に記載の化合物を有効成分として含有してなる医薬組成物。
【請求項9】
請求の範囲2乃至6のいずれかに記載の結晶を有効成分として1%以上含有してなる医薬組成物。
【請求項10】
CRF拮抗剤である請求の範囲8に記載の医薬組成物。
【請求項11】
CRF介在性疾患の予防および/または治療剤である請求の範囲8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
CRF介在性疾患が精神神経系疾患または消化器系疾患である請求の範囲11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
精神神経系疾患が気分障害、不安障害、ストレス関連障害、摂食障害、精神作用物質使用による症状もしくはその依存症、器質性精神障害、統合失調症、または注意欠陥多動性障害である請求の範囲12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
消化器系疾患が過敏性腸症候群またはストレスに伴う胃腸機能障害である請求の範囲12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
気分障害がうつ病、単一エピソードうつ病、再発性うつ病、分娩後うつ病、小児虐待誘発性うつ病、双極性感情障害、または月経前不快気分障害である請求の範囲13に記載の医薬組成物。
【請求項16】
8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩と、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害薬、セロトニン選択的再取り込み阻害薬、セロトニン再取り込み阻害薬、精神刺激薬、抗不安薬、抗精神病薬、ミトコンドリアベンゾジアゼピン受容体リガンド、NK1拮抗薬、消化管機能調整薬、5−HT拮抗薬、5−HT作動薬、抗コリン薬、止痢薬、緩下剤および自律神経調整薬から選ばれる少なくとも1種以上と組み合わせてなる医薬。
【請求項17】
8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩を有効成分として含有してなるCRF拮抗剤。
【請求項18】
8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩を含有する注射剤。
【請求項19】
溶解補助剤および/またはpH調整剤を含有する請求の範囲18に記載の注射剤。
【請求項20】
8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の有効量を哺乳動物に投与することを特徴とするCRFを拮抗する方法。
【請求項21】
CRF拮抗剤を製造するための8−(3−ペンチルアミノ)−2−メチル−3−(2−クロロ−4−メトキシフェニル)−6,7−ジヒドロ−5H−シクロペンタ[d]ピラゾロ[1,5−a]ピリミジン メタンスルホン酸塩の使用。
【請求項22】
均一系触媒の存在下、一般式(II)

(式中、Arは置換基を有していてもよいベンゼン、ナフタレン、ピリジン、1,3−ジオキサインダンまたはベンゾチアジアゾール環を表わし、Xはハロゲン原子を表わす。)で示される化合物と、一般式(III)

(式中、Rは(i)C1〜8アルキル、(ii)C2〜8アルケニル、(iii)C2〜8アルキニル、(iv)トリフルオロメチル、(v)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、(vi)1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含む3〜10員の単環もしくは二環式複素環、(vii)トリフルオロメチル、NR(基中、RおよびRはそれぞれ独立して、(i)水素原子、(ii)C1〜4アルキル、(iii)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、(iv)1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環、または(v)C3〜10の単環もしくは二環式炭素環で、または1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環で置換されたC1〜4アルキルを表わす。)、OR(基中、Rは(i)水素原子、(ii)C1〜4アルキル、(iii)C5〜6の炭素環、(iv)1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環、または(v)C5〜6の炭素環もしくは1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環で置換されたC1〜4アルキルを表わす。)、S(O)(基中、nは0、1または2を表わし、Rは(i)C1〜4アルキル、(ii)C5〜6の炭素環、(iii)1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環、または(iv)C5〜6の炭素環もしくは1〜2個の窒素原子、1個の酸素原子および/または1個の硫黄原子を含有する5〜6員の複素環で置換されたC1〜4アルキルを表わす。)、COR、COOR、CONR、C3〜10の単環もしくは二環式炭素環、および1〜4個の窒素原子、1〜2個の酸素原子および/または1〜2個の硫黄原子を含有する3〜10員の単環もしくは二環式複素環から選ばれる基1〜2個で置換されたC1〜4アルキルを表わし、Mは金属原子を表わす。)で示される化合物とを反応させることを特徴とする一般式(I)

(式中、全ての記号は前記と同じ意味を表わす。)で示される化合物の製造方法。
【請求項23】
均一系触媒がパラジウム系の均一系触媒である請求の範囲22に記載の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/113344
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507336(P2005−507336)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009263
【国際出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】