説明

フィルムコンデンサの製造方法

【課題】多数のフィルムコンデンサを、十分に低い製造コストで、より効率的に製造可能な方法を提供する。
【解決手段】加圧装置38に取り付けられて、圧縮変形させられたコンデンサ素子12の互いに対向する一対の端面にメタリコン電極29をそれぞれ形成した後、コンデンサ素子12を加圧装置38に取り付けたままで、コンデンサ素子12に対して熱エージング処理を施した後、コンデンサ素子12を加圧装置38から取り外した状態で、コンデンサ素子12に対して更に熱エージング処理を施すことにより、コンデンサ素子12の圧縮変形状態を固定するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサの製造方法に係り、特に、コンデンサ素子の互いに対向する一対の端面にメタリコン電極をそれぞれ形成してなるフィルムコンデンサを有利に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器に使用されるフィルムコンデンサとして、例えば、特開平10−208972号公報(特許文献1)や特開2007−220720号公報(特許文献2)等に記載される如き積層タイプや巻回タイプのフィルムコンデンサが知られている。これらのフィルムコンデンサは、一般に、樹脂フィルム等からなる誘電体フィルムと金属蒸着膜とが交互に位置するように積層して、積層形のコンデンサ素子を作製した後、或いはかかる積層体を巻回して、巻回形のコンデンサ素子(複数の金属蒸着膜を有する)を作製した後、それらのコンデンサ素子の互いに対向する一対の端面に、メタリコン電極をそれぞれ形成することによって、製造されている。
【0003】
また、そのようなフィルムコンデンサを製造する際には、例えば、特開2009−21411号公報(特許文献3)等に記載されるように、コンデンサ素子の両端面へのメタリコン電極の形成前に、コンデンサ素子を圧縮変形させる工程(ここでは、扁平形状とする工程)が実施される一方、かかるメタリコン電極の形成後に、コンデンサ素子に対して、それを予め定められた温度で所定時間加熱する、所謂熱エージング処理が実施される場合がある。このような手法では、コンデンサ素子を圧縮変形させることによって、フィルムコンデンサの小型化と、それによる体積効率の向上とが図られる。また、熱エージング処理を実施することによって、巻回形コンデンサ素子では、巻き緩みが解消され、積層形コンデンサ素子では、メタリコン電極形成時の熱による樹脂フィルムの収縮に起因した層間の密着性の低下が解消される。更に、コンデンサ素子内部の水分が除去されて、コンデンサ素子、ひいてはフィルムコンデンサの耐電圧が高められると共に、高電圧・高周波使用時の「うなり音」の低減化が図られるのである。
【0004】
しかしながら、上記の公報に記載されるフィルムコンデンサの製造手法では、コンデンサ素子を圧縮変形する際に、コンデンサ素子に対する熱プレスが実施されていた。そのため、コンデンサ素子を圧縮変形するのに、大がかりな熱プレス装置が使用されており、それによって、目的とするフィルムコンデンサの製造コストが高くなってしまうことが避けられなかった。
【0005】
一方、フィルムコンデンサを製造する際に、熱プレス装置よりも小型で且つ単純な構造の加圧装置を用いて、コンデンサ素子を圧縮変形させる手法も、従来より実施されている。そこで使用される加圧装置は、例えば、互いに接近又は離隔可能に対向配置された一対の加圧板と、それら一対の加圧板のうちの少なくとも何れか一方を、それらのうちの少なくとも何れか他方に対して接近させる方向の任意の位置まで変位させて、かかる任意の位置で固定する変位機構とを備えた構造を有している。
【0006】
このような加圧装置を用いる場合には、先ず、一対の加圧板の間にコンデンサ素子を配置した状態で、一対の加圧板を変位機構により任意の位置まで接近させて、それら一対の加圧板の位置を、かかる任意の位置で固定する。これにより、コンデンサ素子が加圧装置に取り付けられると共に、コンデンサ素子が、誘電体フィルムと金属蒸着膜との積層方向(巻回形のコンデンサ素子では、中心軸に対して直角な方向に相当する。以下、同一の意味とする。)の両側から一対の加圧部材にて加圧されて、扁平状に圧縮変形させられる。次いで、圧縮変形したコンデンサ素子の互いに対向する一対の端面(積層形のコンデンサ素子では、誘電体フィルムと金属蒸着膜との積層方向に対して直角な方向において互いに対向する一対の側面に相当する。以下、同一の意味とする。)に金属を溶射して、メタリコン電極を形成する。その後、コンデンサ素子の圧縮変形状態からの復元によってメタリコン電極が損傷したり破壊したりすることがないように、コンデンサ素子を加圧装置に取り付けたままで、それらコンデンサ素子と加圧装置とを一緒に、公知のエージング炉内に収容して、コンデンサ素子に対する熱エージング処理を実施するのである。
【0007】
かくの如き加圧装置を用いた従来のフィルムコンデンサの製造方法によれば、コンデンサ素子を圧縮変形させるために大がかりな熱プレス装置を用いた特別な工程を何等実施することなく、熱エージング処理中に、小型且つ単純な構造の加圧装置による加圧力と熱エージング炉の熱とが巧みに利用されて、コンデンサ素子の圧縮変形状態が固定される。それによって、目的とするフィルムコンデンサの生産効率の向上と製造コストの低減化とが図られるのである。
【0008】
ところが、加圧装置を用いた従来手法では、加圧装置をコンデンサ素子に取り付けたままで、コンデンサ素子に対する熱エージング処理が実施される。それ故、多数のフィルムコンデンサを製造する際には、加圧装置に取り付けられたコンデンサ素子に対する熱エージング処理が終了して、コンデンサ素子が加圧装置から取り外されるまで、別のコンデンサ素子に対するメタリコン電極の形成操作を行うことができなかった。従って、コンデンサ素子に対する熱エージング処理と、別のコンデンサ素子に対するメタリコン電極の形成操作とを同時進行で行うことができず、そのため、フィルムコンデンサの生産効率の更なる向上を図ることが極めて困難であった。
【0009】
なお、多数の加圧装置を用いれば、コンデンサ素子に対する熱エージング処理と、別のコンデンサ素子に対するメタリコン電極の形成操作とを同時進行で行うことができる。しかしながら、その場合には、多数の加圧装置を準備するのに設備コストが嵩み、それによって、フィルムコンデンサの製造コストが圧迫されることとなるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−208972号公報
【特許文献2】特開2007−220720号公報
【特許文献3】特開2009−21411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、多数のフィルムコンデンサを、十分に低い製造コストで、より効率的に製造し得るフィルムコンデンサの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明にあっては、上記の課題を解決するために、(a)誘電体フィルムと金属蒸着膜とが交互に位置するように積層されてなる積層体を用いて構成したコンデンサ素子を準備する工程と、(b)前記コンデンサ素子を前記誘電体フィルムと前記金属蒸着膜との積層方向の両側から加圧する加圧装置に該コンデンサ素子を取り付けて、かかるコンデンサ素子を圧縮変形させる工程と、(c)前記加圧装置に取り付けられて、圧縮変形せしめられた前記コンデンサ素子の互いに対向する一対の端面に対して金属の溶射を行い、該両端面にメタリコン電極をそれぞれ形成する工程と、(d)前記両端面にメタリコン電極が形成された前記コンデンサ素子を前記加圧装置に取り付けたままで、かかるコンデンサ素子に対して熱エージング処理を施す工程と、(e)前記熱エージング処理が施されたコンデンサ素子を前記加圧装置から取り外した後、該コンデンサ素子に対して、更に熱エージング処理を施すことにより、該コンデンサ素子の圧縮変形状態を固定させる工程とを含むことを特徴とするフィルムコンデンサの製造方法を、その要旨とするものである。
【0013】
なお、本発明の好ましい態様の一つによれば、前記コンデンサ素子を前記加圧装置に取り付けたままで、かかるコンデンサ素子に対して施される熱エージング処理が、該コンデンサ素子の圧縮変形状態からの復元により前記メタリコン電極に生ずる引張応力を、該メタリコン電極の引張強度よりも小さくするまでの間において実施される。
【0014】
また、本発明の有利な態様の一つによれば、前記加圧装置として、(a)互いに対向配置された平坦な加圧面をそれぞれ有し、且つそれら加圧面同士を互いに接近又は離隔させる方向において変位可能とされた一対の加圧部材と、(b)該一対の加圧部材の該加圧面間に配置される少なくとも一つの中間板と、(c)該加圧面同士を互いに接近させる方向の任意の位置まで、該一対の加圧部材のうちの少なくとも何れか一方を変位させて、該少なくとも何れか一方の加圧部材の位置を該任意の位置で固定する変位機構とを備えたものを用いて、かかる加圧装置における前記一対の加圧部材の加圧面間に、前記コンデンサ素子の複数を、前記誘電体フィルムと前記金属蒸着膜との積層方向において互いに重なり合う向きで積層配置すると共に、該積層された複数のコンデンサ素子のうちの互いに隣り合うものの間に前記中間板をそれぞれ介在させた状態で、該一対の加圧部材のうちの少なくとも何れか一方を、前記変位機構にて、前記加圧面同士を接近させる方向の任意の位置まで変位させて、該少なくとも何れか一方の加圧部材の位置を固定することにより、該加圧装置に該複数のコンデンサ素子が取り付けられると共に、それら複数のコンデンサ素子が前記誘電体フィルムと前記金属蒸着膜との積層方向の両側から該一対の加圧部材と該中間板とにて加圧されて、該複数のコンデンサ素子がそれぞれ圧縮変形させられることとなる。
【発明の効果】
【0015】
上記のように、本発明に従うフィルムコンデンサの製造方法においては、コンデンサ素子に対して、加圧装置による加圧により圧縮変形した状態を固定するために実施される熱エージング処理の途中で、コンデンサ素子が加圧装置から取り外される。それ故、圧縮変形状態の固定のための熱エージング処理の完了前に、熱エージング処理中のコンデンサ素子から取り外された加圧装置を、熱エージング処理での不具合を何等発生させることなく、未だ熱エージング処理されていない別のコンデンサ素子に取り付けることができる。それによって、そのような別のコンデンサ素子に対するメタリコン電極の形成操作を、かかる操作に先立って行われている熱エージング処理の終了を待たずして、開始することが可能となる。
【0016】
すなわち、本発明手法では、熱エージング処理の開始から終了まで、コンデンサ素子が加圧装置に取り付けられたままとされる従来手法とは異なって、限られた数の加圧装置を効率的に使い回しつつ、コンデンサ素子に対する熱エージング処理の途中から、かかる熱エージング処理と、熱エージング処理進行中のコンデンサ素子とは別のコンデンサ素子に対するメタリコン電極の形成操作とを、何等の不具合を生じさせることもなしに、同時進行で実施することができる。それ故、そのような本発明手法によれば、多数のフィルムコンデンサを製造する際に、加圧装置の数を無駄に増やすことなく、しかも、安定した品質性能を十分に確保しつつ、多数のフィルムコンデンサの製造サイクルが、従来手法を実施する場合よりも有利に短縮化され得る。
【0017】
従って、かくの如き本発明に従うフィルムコンデンサの製造方法にあっては、安定した品質性能を有する多数のフィルムコンデンサを、十分に低い製造コストで、より効率的に製造することができるのである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明手法に従って製造されたフィルムコンデンサの一実施形態を示す斜視説明図である。
【図2】図1のII−II断面における部分拡大説明図である。
【図3】図1に示されたフィルムコンデンサを構成する基本素子を示す縦断面説明図である。
【図4】図3のIV矢視説明図である。
【図5】図1に示されたフィルムコンデンサを製造する際に実施される一工程例を示す説明図であって、(a)は、図3に示された基本素子の二つを積層する前の状態を示し、(b)は、それら二つの基本素子を積層して、積層体を形成した状態を示している。
【図6】図5の(b)におけるVI矢視説明図である。
【図7】図5の(b)に示された工程例に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、積層体を巻回して、コンデンサ素子を形成している状態を示している。
【図8】図7に示された工程例に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、コンデンサ素子を加圧装置にセットした状態を示している。
【図9】図8のIX矢視説明図である。
【図10】図8に示された工程例に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、加圧装置にセットされたコンデンサ素子を加圧して、圧縮変形させた状態を示している。
【図11】図10に示された工程例に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、コンデンサ素子の両端面に、メタリコン電極をそれぞれ形成している状態を示している。
【図12】図11に示された工程例に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、両端面にメタリコン電極が形成されたコンデンサ素子を加圧装置に取り付けたままの状態で、かかるコンデンサ素子に対して熱エージング処理を施している状態を示している。
【図13】図12に示された工程例に引き続いて実施される工程例を示す説明図であって、熱エージング処理がある程度進行したコンデンサ素子を加圧装置から取り外した状態で、かかるコンデンサ素子に対して更に熱エージング処理を施している状態を示している。
【図14】本発明手法に従ってフィルムコンデンサを製造するのに用いられる基本素子の図3に示されるものとは別の例を示す縦断面説明図である。
【図15】本発明手法に従ってフィルムコンデンサを製造する際に実施される一工程例を示す説明図であって、図14に示される基本素子を積層して、積層体を形成した状態を示している。
【図16】本発明手法に従ってフィルムコンデンサを製造するのに用いられる基本素子の図3及び図14に示されるものとは更に別の例を示す縦断面説明図である。
【図17】本発明手法に従ってフィルムコンデンサを製造する際に実施される一工程例を示す説明図であって、図16に示される基本素子を積層して、積層体を形成した状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0020】
先ず、図1及び図2には、本発明手法によって製造されたフィルムコンデンサの一実施形態が、その斜視形態と縦断面形態とにおいて、それぞれ示されている。それら図1及び図2から明らかなように、本実施形態のフィルムコンデンサ10は、巻回タイプであって、1個のコンデンサ素子12を備えている。そして、このコンデンサ素子12が、従来より公知の巻回形構造を有している。
【0021】
すなわち、コンデンサ素子12は、誘電体フィルムとしての樹脂フィルム14aの一方の面に金属蒸着膜16aが積層されてなる構造の基本素子18aと、誘電体フィルムとしての樹脂フィルム14bの一方の面に金属蒸着膜16bが積層されてなる構造の基本素子18bとを有している。それら各基本素子18a,18bを構成する樹脂フィルム14a,14bは、ここでは、ポリプロピレン製の延伸フィルムからなり、1〜10μm程度の薄い厚さを有している。なお、樹脂フィルム14a,14bの形成材料は、ポリプロピレンに何等限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート等、従来のフィルムコンデンサの樹脂フィルムの形成材料として使用される絶縁性(非導電性)の樹脂材料が、ポリプロピレンに代えて、適宜に用いられ得る。
【0022】
また、樹脂フィルム14a,14bと共に各基本素子18a,18bを構成する金属蒸着膜16a,16bは、コンデンサ素子10の内部電極膜として、公知の手法に従って、樹脂フィルム14a,14bの一方の面上に積層形成されるものである。つまり、金属蒸着膜16a,16bは、従来品と同様に、フィルムコンデンサの内部電極膜を形成する導電性の金属材料(例えば、アルミニウムや亜鉛等)を蒸着材として用いて、PVDやCVDの範疇に属する、従来から公知の真空蒸着法を実施することにより、樹脂フィルム14の一方の面上に成膜される。このような金属蒸着膜16a,16bの膜抵抗値は1〜50Ω/cm2 程度とされ、また、その膜厚は、膜抵抗値等によって適宜に決定される。
【0023】
そして、二つの基本素子18a,18bが、樹脂フィルム14a,14bと金属蒸着膜16a,16bとを交互に一つずつ位置させるように互いに重ね合わされて、一緒に巻回されることにより、巻回形のコンデンサ素子12が構成されているのである。なお、図2には、コンデンサ素子12の構造の理解を容易とするために、コンデンサ素子12が、二つの基本素子18a,18bを一緒に4重に巻回してなる構造において示されていたが、実際には、それよりも多重巻きの構造とされていることが、理解されるべきである。
【0024】
また、かかるコンデンサ素子12では、一つの基本素子18aの樹脂フィルム14aの一方の面における幅方向(図1の左右方向で、コンデンサ素子12の長さ方向)の一端部に、金属蒸着膜16aが積層されていないマージン部20aが設けられている。一方、別の一つの基本素子18bの樹脂フィルム14bの一方の面における幅方向の他端部にも、マージン部20bが設けられている。これによって、マージン部20a,20bが、樹脂フィルム14a,14bと金属蒸着膜16a,16bの積層方向において、コンデンサ素子12の第一端面22aの側と第二端面22bの側とにそれぞれ互い違い位置するように、配置されている。
【0025】
また、二つの基本素子18a,18bにおいては、その長さ方向の一端側部分にも、樹脂フィルム14a,14b上に金属蒸着膜16a,16bが何等積層されていない部分が存在している(図3参照)。即ち、各基本素子18a,18bにおいて、それらを重ね合わせて一緒に巻回する際の始端部や終端部となる部分が、樹脂フィルム14a,14bのみからなっている。このため、そのような基本素子18a,18bが互いに重ね合わされて巻回されたコンデンサ素子12の中心部分と外周部分とが、金属蒸着膜16a,16が積層されていない樹脂フィルム14a,14b部分のみからなっている。そうして、金属蒸着膜16aが積層されていない樹脂フィルム14a部分のみからなるコンデンサ素子12の中心部分が、絶縁部24とされている一方、金属蒸着膜16bが積層されていない樹脂フィルム14b部分のみからなコンデンサ素子12の外周部分が、保護部26とされているのである。
【0026】
また、コンデンサ素子12の第一及び第二の二つの端面22a,22bのうちの第一端面22a上には、第一メタリコン電極28が、第二端面22b上には、第二メタリコン電極29が、それぞれ、外部電極として形成されている。それら第一メタリコン電極28と第二メタリコン電極29は、コンデンサ素子12の第一端面22aと第二端面22a,22bとに対して、それぞれ、亜鉛等の導電性の金属を溶射することによって形成されている。
【0027】
そして、そのような第一メタリコン電極28には、二つの基本素子18a,18bのうち、一方の基本素子18aの金属蒸着膜16aのみが、マージン部20aの形成側とは反対側の端面において固着して、電気的に接続されている。一方、第二メタリコン電極29には、他方の基本素子18bの金属蒸着膜16bのみが、マージン部20bの形成側とは反対側の端面において固着して、電気的に接続されている。
【0028】
また、第一メタリコン電極28と第二メタリコン電極29には、バスバー等からなる外部接続用の端子30,31が、例えば半田付け等によりそれぞれ固着されて、電気的に接続される。これによって、それらの端子30,31がそれぞれ接続された第一及び第二メタリコン電極28a,28bのうちの何れか一方が陽極とされ、更に、それらのうちの何れか他方が陰極とされて、巻回形のフィルムコンデンサ10が構成されているのである。なお、図示されてはいないものの、かかるフィルムコンデンサ10は、必要に応じて、所定のコンデンサケース内に収容され、コンデンサケースとの隙間に非導電性樹脂等の充填材を充填されて、封止された状態で、使用に供されることとなる。
【0029】
ところで、かくの如き構造とされた本実施形態に係る巻回形のフィルムコンデンサ10は、例えば、以下に記載する手順に従って製造される。
【0030】
すなわち、先ず、図3に示されるように、樹脂フィルム14aの一方の面上に金属蒸着膜16aが積層された基本素子18aを公知の手法により作製して、準備する。なお、図4に示されるように、基本素子18aにおける樹脂フィルム14aの長さ方向の一端側部分と、かかる長さ方向一端側部分を除く幅方向一端側部分とには、金属蒸着膜16aが、積層形成されていない。これにより、かかる基本素子18aにおける金属蒸着膜16aの非形成部分が、それぞれ、樹脂フィルム14a部分のみからなる単層部32a,32aとされている。また、図示されてはいないものの、基本素子18aと同じ構造を有する別の基本素子18bも、公知の手法により作製して、準備する。この基本素子18bも、その長さ方向一端側部分と幅方向一端側部分とに対して、樹脂フィルム14b部分のみからなる単層部32b,32bが形成される。
【0031】
そして、図5の(a)と(b)に示されるように、基本素子18aと基本素子18bを互いに積層して、積層体34を得る。このとき、基本素子18bの金属蒸着膜16bに対して、基本素子18aの樹脂フィルム14aを重ね合わせる。これにより、積層体34を、樹脂フィルム14a,14bと金属蒸着膜16a,16bとが交互に一つずつ位置するように積層された構造とする。
【0032】
また、二つの基本素子18a,18bを互いに積層する際には、図5及び図6に示されるように、基本素子18aの長さ方向一端部に設けられた単層部32aを、基本素子18の単層部32bが設けられていない長さ方向一端部から長さ方向にはみ出させると共に、基本素子18bの長さ方向他端部に設けられた単層部32bを、基本素子18aの単層部32aが設けられていない長さ方向他端部から長さ方向にはみ出させて、配置する。これにより、長さ方向の一端部に基本素子18aの単層部32aが配置される一方、長さ方向他端部に基本素子18bの単層部32bが配置された状態で、積層体34を形成する。
【0033】
次に、図7に示されるように、積層体34を巻芯36の周りに巻回して、巻回形のコンデンサ素子12を作製する。このとき、積層体34の巻き始めの部位を、樹脂フィルム14a部分のみからなる単層部32aとする。これにより、コンデンサ素子12の中心部分を、金属蒸着膜16aが何等積層されていない樹脂フィルム14a部分のみの単層部分32aからなる絶縁部(24)とする一方、コンデンサ素子12の外周部分を、金属蒸着膜16bが何等積層されていない樹脂フィルム14b部分のみの単層部分32bからなる保護部(26)とする(図2参照)。
【0034】
また、積層体34を巻回してなるコンデンサ素子12では、その第一端面22a側の幅方向端部に、基本素子18bの幅方向端部に設けられた樹脂フィルム14b部分のみの単層部分32bが位置させられる。これにより、かかる単層部分32bにて、マージン部(20b)が形成される。一方、コンデンサ素子12の第二端面22b側の幅方向端部には、基本素子18aの幅方向端部に設けられた樹脂フィルム14a部分のみの単層部分32aが位置させられる。これにより、かかる単層部分32aにて、マージン部(20a)が形成される(図2参照)。なお、ここでは、金属蒸着膜16a,16bが極めて薄い肉厚とされていると共に、コンデンサ素子12が、後工程で圧縮変形させられるため、マージン部(20a,20b)が形成される樹脂フィルム14a,14b部分上に、それに積層される別の樹脂フィルム14a,14b部分が密接する。それ故、各マージン部(20a,20b)上に隙間(空気層)が形成されることがない。なお、マージン部(20a,20b)は、例えば、二つの基本素子18a,18bを、それらの幅方向の一方側に所定寸法ずらして重ね合わせた状態で一緒に巻回することによっても、容易に形成される。
【0035】
積層体34の巻回が完了して、コンデンサ素子12が完成したら、コンデンサ素子12の中心孔内から巻芯36を引き抜く。そして、上記の如きコンデンサ素子12の形成操作を繰り返し行って、円筒状乃至は中心孔を有する円柱状のコンデンサ素子12の複数を得る。その後、図8及び図9に示されるように、コンデンサ素子12の複数個(ここでは、3個)を加圧装置38にセットする。
【0036】
図8及び図9から明らかなように、ここで用いられる加圧装置38は、枠体状の装置本体40を有している。この装置本体40は、上下方向において所定距離を隔てて対向配置された上板42及び下板44と、それら上板42と下板44を相互に連結する四つの連結ロッド46,46,46,46とを、更に有している。上板42と下板44は、何れも、金属製で、剛性の高い矩形平板からなっており、各連結ロッド46も、金属の丸棒材からなっている。そして、ここでは、下板44が、一対の加圧部材の一つとして構成されており、その上面が、平坦な下側加圧面47とされている。各連結ロッド46は、上板42と下板44の対向面間において上下方向に延び出して、上下の端部が、各対向面の四隅にそれぞれ固定されている。これによって、上板42と下板44とが、何れも、位置固定とされている。
【0037】
そのような上板42と下板44との間には、一対の加圧部材の別の一つとしての加圧板48が、上板42及び下板44とそれぞれ対向して、配置されている。この加圧板48は、金属製で剛性の高い矩形平板からなり、下板44の上面からなる下側加圧面47と対向する下面が、平坦な上側加圧面50とされている。また、かかる加圧板48の四隅には、貫通孔52がそれぞれ設けられており、それら各貫通孔52に対して、連結ロッド46が各々遊挿されている。これにより、加圧板48が、上板42と下板44との対向面間を、四つの連結ロッド46,46,46,46にて案内されつつ、上下方向に変位(移動)可能とされている。
【0038】
さらに、加圧板48と下板44との間には、上側中間板54と下側中間板55とが、互いに対向し、且つ加圧板48と下板44にも対向する状態で配置されている。それら上側及び下側中間板54,55は、何れも、金属製で剛性の高い矩形平板からなり、その上面及び下面が、それぞれ平坦な中間加圧面56a,56bとされている。また、上側及び下側中間板54,55の四隅には、貫通孔58が、加圧板48の四隅に形成された貫通孔52とそれぞれ同軸的に位置するように設けられており、それら各貫通孔58に対して、連結ロッド46が各々遊挿されている。これにより、上側中間板54と下側中間板55とが、加圧板48の上側加圧面50と下板44の下側加圧面47との間を、四つの連結ロッド46,46,46,46にて案内されつつ、上下方向に変位(移動)可能とされている。
【0039】
一方、上板42の中心部には、雌ネジ孔60が設けられている。また、この雌ネジ孔60には、長尺な締付ボルト62が螺合されている。締付ボルト62は、その先端面が平坦な押圧面64とされており、かかる押圧面64において、加圧板48の平坦な上面に接触可能とされている。
【0040】
そして、本工程では、かくの如き構造とされた加圧装置38が用いられて、下板44と下側中間板55との間、下側中間板55と上側中間板54との間、及び上側中間板54と加圧板48との間に、コンデンサ素子12が、それぞれ1個ずつ挟まれた状態で配置されることにより、それら3個のコンデンサ素子12,12,12が、加圧装置38にセットされるのである。また、そのような加圧装置38に対するセット状態下では、各コンデンサ素子12が、それぞれの外周面を、上板42の上側加圧面50や上側及び下側中間板54,55の中間加圧面56a,56b、下板44の下側加圧面47に、それぞれ接触させて、配置される。換言すれば、3個のコンデンサ素子12,12,12が、下板44の下側加圧面47と加圧板48の上側加圧面50との間に、外周面同士が互いに重なり合う向きで積層されると共に、それら積層された3個のコンデンサ素子12,12,12のうちの最も下側と中間に位置するものの間に、下側中間板55が介装され、また、最も上側と中間に位置するものの間に、上側中間板54が介装されて、加圧装置38にセットされるのである。
【0041】
そして、上記のようにして、3個のコンデンサ素子12,12,12を加圧装置38にセットしたら、図10に示されるように、締付ボルト62を締め付けてゆき、下方に変位させる。これにより、加圧板48を締付ボルト62の押圧面64にて下方に押圧して、加圧板48を下板44に接近させるように、下方に変位(移動)させる。
【0042】
かくして、加圧板48と下板44との間に積層配置された3個のコンデンサ素子12,12,12のうち、最も下側に位置するコンデンサ素子12を、下板44の下側加圧面47と下側中間板55の下面からなる中間加圧面56bとにて、軸直角方向の両側から加圧して、軸直角方向断面が略楕円乃至は長円形状を呈する扁平状となるように圧縮変形させる。また、中間に位置するコンデンサ素子12も、下側中間板55の上面からなる中間加圧面56aと上側中間板54の下面からなる中間加圧面56bとにて、軸直角方向の両側から加圧して、扁平状に圧縮変形させる。更に、最も上側に位置するコンデンサ素子12も、上側中間板54の上面からなる中間加圧面56aと加圧板48の上側加圧面50とにて、軸直角方向の両側から加圧して、扁平状に圧縮変形させる。なお、ここでは、加圧板48と上側及び下側中間板54,55とが、何れも、高剛性の平板材からなり、また、各連結ロッドの案内で、上下方向に自由に移動可能とされているため、3個のコンデンサ素子12,12,12が、均一な力で加圧されて、同じ大きさの扁平形状とされる。
【0043】
そして、締付ボルト62の締付により、加圧板48を、所定の位置に到達するまで下板44に接近移動させて、3個のコンデンサ素子12,12,12を所望の扁平形状とした時点で、締付ボルト62の締付を停止し、加圧板48の位置を固定する。これによって、上記の如き加圧板48と上側及び下側中間板54,55と下板44とによる各コンデンサ素子12の加圧状態を維持させた状態で、加圧装置38に3個のコンデンサ素子12,12,12を取り付ける。このことから明らかなように、本実施形態では、締付ボルト62と上板42に設けられた雌ネジ孔60とにて、変位機構が構成されている。なお、加圧装置38にセットされるコンデンサ素子12の個数は、例示のものに何等限定されるものではなく、1個又は2個、或いは4個以上であっても良い。また、そのようなコンデンサ素子12のセット数に応じて、下板44と加圧板48との間に配置される中間板54,55の数も、適宜に変更されることとなる。
【0044】
次に、図11に示されるように、加圧装置38に取り付けられた3個のコンデンサ素子12,12,12のそれぞれの第一端面22aと第二端面22bとに対して、金属の溶射を行う(図11には、第一端面22aに対して金属の溶射を行っている状態のみを示した)。この金属溶射は、例えば、公知の構造を有する3個の溶射ガン66,66,66と溶射材料としての亜鉛製のワイヤ68の複数とを用いて、従来手法に従って実施される。これにより、加圧装置38による加圧により扁平形状とされた各コンデンサ素子12の第一端面22aに対して、その全面を覆う亜鉛被膜からなる第一メタリコン電極28を、また、第二端面22bに対して、その全面を覆う亜鉛被膜からなる第二メタリコン電極29を、それぞれ形成する(図2参照)。このような金属溶射の実施に際しては、その実施条件が、例えば、形成されるべき第一及び第二メタリコン電極28,29の材質や厚さ等に応じて、適宜に決定される。
【0045】
その後、コンデンサ素子12を加圧装置38に取り付けたままで、かかるコンデンサ素子12に対して、熱エージング処理(一次熱エージング処理)を施す。
【0046】
本工程での熱エージング処理の実施に際しては、例えば、図12に示されるようなエージング炉70が用いられる。このエージング炉70は、雰囲気が大気である恒温室72と、かかる恒温室72内に温風を送り込む温風発生装置(図示せず)とを有し、かかる恒温室72内の温度が、温風発生装置から送り込まれる温風等により、予め定められた温度にまで高められて、その温度で維持され得るように構成された公知の構造を有している。
【0047】
そして、そのようなエージング炉70の恒温室72内の温度を、例えば80〜120℃程度にまで上昇させて、その温度で維持させた状態で、かかる恒温室72内に、加圧装置38に取り付けられたままのコンデンサ素子12を収容する。その後、コンデンサ素子12を、加圧装置38に取り付けられたままの状態で、80〜120℃程度の温度に維持された恒温室72内に1〜15時間程度の間、放置する。なお、図12に示されるように、本実施形態では、3個のコンデンサ素子12,12,12をそれぞれ取り付けた3組の加圧装置38,38,38が、エージング炉70の恒温室72内に収容されているが、恒温室72内に収容されるコンデンサ素子12や加圧装置38の数は、適宜に変更可能である。また、加圧装置38に取り付けられたままのコンデンサ素子12を恒温室72に収容した後、かかる恒温室72内の温度を80〜120℃程度にまで上昇させるようにしても、勿論良い。
【0048】
かくして、加圧装置38による加圧により扁平状に圧縮変形させられていると共に、第一及び第二端面22a,22bに第一及び第二メタリコン電極28,29がそれぞれ形成されたコンデンサ素子12に対して、80〜120℃程度の温度で1〜15時間程度加熱する熱エージング処理を実施する。そして、このような熱エージング処理の実施によって、例えば、加圧装置38から取り外されたときのコンデンサ素子12の圧縮変形状態からの復元により第一及び第二メタリコン電極28,29に生ずる引張応力を、それら第一及び第二メタリコン電極28,29の引張強度よりも小さな値となるまで、低下させるのである。
【0049】
加圧装置38に取り付けられたままのコンデンサ素子12に対する上記の如き熱エージング処理によって、第一及び第二メタリコン電極28,29に生ずる引張応力を、それら第一及び第二メタリコン電極28,29の引張強度よりも小さくできるのは、以下の理由によるものと考えられる。
【0050】
すなわち、加圧装置38にて加圧されて、扁平状に圧縮変形させられたコンデンサ素子12は、コンデンサ素子12を構成する各基本素子18a,18bの樹脂フィルム14a,14bの復元力に基づいて、加圧装置38による加圧力に抗して、扁平状の圧縮変形状態から、圧縮される前の円筒状に近い形状に復元しようとする。このとき、コンデンサ素子12の第一及び第二端面22a,22bに既に形成された第一及び第二メタリコン電極28,29に対して、コンデンサ素子12の復元力に基づく引張力が作用して、それら第一及び第二メタリコン電極28,29に引張応力が生ずる。一方、樹脂フィルム14a,14bは、延伸フィルムからなっている。この延伸フィルムは、延伸する際にかけた温度を超える熱量がかかると収縮する性質を有している。しかも、樹脂フィルム14a,14bは、熱可塑性樹脂を用いて形成されている。
【0051】
それ故、加圧装置38が取り付けられたままのコンデンサ素子12に対して、上記の加熱条件(温度と時間)で加熱する熱エージング処理が施されると、樹脂フィルム14a,14の熱収縮が惹起されると共に、加熱による軟化により、樹脂フィルム14a,14bの巻回形状を円筒形状から扁平形状に近い形状に変形し、それによって、樹脂フィルム14a,14bの復元力が低下する。その結果、コンデンサ素子12の復元により第一及び第二メタリコン電極28,29に対して作用する引張力が低下し、それら第一及び第二メタリコン電極28,29に生ずる引張応力の低減化が図られて、かかる引張応力が、第一及び第二メタリコン電極28,29の引張強度よりも小さくされるものと考えられるのである。そして、そのように、第一及び第二メタリコン電極28,29に生ずる引張応力が、それら第一及び第二メタリコン電極28,29の引張強度よりも小さくされることで、コンデンサ素子12が加圧装置38から取り外されたときのコンデンサ素子12の復元により、第一及び第二メタリコン電強28,29が損傷乃至は破壊されることが未然に防止され得るようになるのである。
【0052】
すなわち、加圧装置38が取り付けられたままのコンデンサ素子12に対する上記の加熱条件での熱エージング処理は、加圧装置38から取り外されたときのコンデンサ素子12の復元力を、第一及び第二メタリコン電極28,29の強度よりも小さくさせるもの、つまり、第一及び第二メタリコン電極28,29を損傷乃至は破壊しない程度の大きさにまで低下させるものである。更に換言すれば、かかる熱エージング処理は、加圧装置38による加圧力が解消されたときのコンデンサ素子12の復元力に基づいて第一及び第二メタリコン電極28,29に作用する引張力を、それら第一及び第二メタリコン電極28,29の引張強度よりも小さくするものなのである。
【0053】
このようなコンデンサ素子12に対する熱エージング処理の加熱温度と加熱時間は、上記のように、一般には、加圧装置38から取り外されたときのコンデンサ素子12の圧縮変形状態からの復元により第一及び第二メタリコン電極28,29に生ずる引張応力を、それら第一及び第二メタリコン電極28,29の引張強度よりも小さく為すのに必要な加熱温度と加熱時間、具体的には、例えば、樹脂フィルム14a,14bの熱収縮や加熱による軟化を惹起させるのに必要な加熱温度と加熱時間によって決定されるところであるが、好ましくは、加熱温度が80〜120℃の範囲内の温度で、加熱時間が1〜24時間とされる。
【0054】
何故なら、80℃未満の温度や1時間未満の加熱条件で熱エージング処理を実施しても、温度が低過ぎるため、或いは加熱時間が短過ぎるために、樹脂フィルム14a,14bの熱収縮や加熱軟化が十分に惹起されず、その結果、コンデンサ素子12の圧縮変形状態からの復元により第一及び第二メタリコン電極28,29に生ずる引張応力を十分に低下させることが困難となるからである。また、120℃を超える温度で熱エージング処理が実施されると、温度が余りにも高いために、コンデンサ素子12の樹脂フィルム14a,14bに熱ダメージが生じて、コンデンサ素子12の電気的特性が低下する恐れがあるからである。更に、24時間を超える条件で熱エージング処理を実施しても、コンデンサ素子12の圧縮変形状態からの復元により第一及び第二メタリコン電極28,29に生ずる引張応力を更に低減させることができず、却って、熱エージング処理を無駄に長期化させて、目的とするフィルムコンデンサ10の製造サイクルを長くするといった不具合を生ずる可能性があるからである。
【0055】
そして、加圧装置38を取り付けたままでのコンデンサ素子12に対する熱エージング処理が完了したら、つまり、かかる熱エージング処理の開始から(80〜120℃程度の範囲内の温度にまで高められた恒温室72内に、コンデンサ素子12を収容してから)、好ましくは1〜15時間が経過した時点で、恒温室72内のコンデンサ素子12とそれに取り付けられた加圧装置38の全てを、一旦、恒温室72内から取り出した後、全てのコンデンサ素子12を加圧装置38から取り外す。
【0056】
その後、図13に示されるように、加圧装置38から取り外されたコンデンサ素子12を再びエージング炉70の恒温室72内に収容して、コンデンサ素子12に対する熱エージング処理(二次熱エージング処理)を続行する。つまり、先の熱エージング処理(加圧装置38を取り付けたままのコンデンサ素子12に対して施される熱エージング処理)の実施時と同じ温度である80〜120℃程度の範囲内にまで、昇温されて、維持された恒温室72内に、加圧装置38から取り外されて、加圧装置38による加圧力が解消されたコンデンサ素子12を再び収容して、1〜15時間程度の間、更に放置するのである。これにより、コンデンサ素子12の加圧装置38の加圧により扁平状とされた変形状態を固定する。つまり、コンデンサ素子12を、軸直角方向断面が楕円乃至は長円状とされた扁平形状と為すのである。なお、加圧装置38から取り外されたコンデンサ素子12の恒温室72内での配置形態は、例示のものに何等限定されるものでないことは、言うまでもないところである。
【0057】
このように、本工程における再度の熱エージング処理によってコンデンサ素子12を扁平形状に固定できるのは、先の熱エージング処理と同様に、コンデンサ素子12に対する加熱により、樹脂フィルム14a,14bの熱収縮や加熱による軟化が更に進行して、樹脂フィルム14a,14bの復元力が実質的に消失することによるものと考えられる。
【0058】
従って、本操作でのコンデンサ素子12に対する熱エージング処理の加熱温度と加熱時間は、コンデンサ素子12を扁平形状に固定するのに必要な加熱温度と加熱時間、具体的には、例えば、樹脂フィルム14a,14bの熱収縮や加熱による軟化を更に進行させて、樹脂フィルム14a,14bの圧縮変形状態からの復元力を実質的に消失させるのに必要な加熱温度と加熱時間によって決定されるところであるが、一般的には、加熱温度が80〜120℃の範囲内の温度で、加熱時間が1〜24時間とされる。
【0059】
何故なら、80℃未満の温度や1時間未満の加熱条件で熱エージング処理を実施しても、温度が低過ぎるため、或いは加熱時間が短過ぎるために、樹脂フィルム14a,14bの熱収縮や加熱軟化が十分に進行せず、その結果、コンデンサ素子12を扁平形状に固定することが困難となるからである。また、120℃を超える温度で熱エージング処理が実施されると、温度が余りにも高いために、コンデンサ素子12の樹脂フィルム14a,14bに熱ダメージが生じて、コンデンサ素子12の電気的特性が低下する恐れがあるからである。更に、24時間を超える条件で熱エージング処理を実施しても、コンデンサ素子12の扁平形状の固定状態は変化せず、却って、熱エージング処理を無駄に長期化させて、目的とするフィルムコンデンサ10の製造サイクルを長くするといった不具合を生ずる可能性があるからである。なお、上述の記載から明らかなように、加圧装置38に取り付けた状態で実施される熱エージング処理と、加圧装置38からコンデンサ素子12を取り外した状態で実施される熱エージング処理の合計時間は、好ましくは2〜48時間の範囲内とされる。
【0060】
そして、そのようなコンデンサ素子12に対する熱エージング処理が完了したら、公知の手法に従って、第一メタリコン電極28と第二メタリコン電極29とに対して、バスバー等の端子30,31を半田付け等によりそれぞれ固着する。かくして、図1及び図2に示される如き構造を有する、目的とするフィルムコンデンサ10を得るのである。なお、必要に応じて、かかるフィルムコンデンサ10は、コンデンサケース内に収容され、更に、かかるコンデンサケースとの間の隙間に、非導電性樹脂等からなる充填材が充填されることにより封止されることとなる。また、端子30,31が接続された第一及び第二メタリコン電強28,29を有する複数のコンデンサ素子12を用い、それらを並列的に並べた上で、それら各コンデンサ素子12の各端子30,31をそれぞれバスバー等にて連結して、1個のフィルムコンデンサ10として構成しても良い。
【0061】
このように、本実施形態のフィルムコンデンサ10を製造する際には、コンデンサ素子12の扁平状の圧縮変形状態の固定を目的として、コンデンサ素子12に対して施される熱エージング処理が、終始、コンデンサ素子12を加圧装置38に取り付けたままで実施される従来手法とは異なって、同じ目的でコンデンサ素子12に対して施される熱エージング処理の途中で、コンデンサ素子12が加圧装置38から取り外される。
【0062】
このため、かかる本実施形態手法においては、熱エージング処理の途中でコンデンサ素子12が取り外された加圧装置38を、未だ熱エージング処理がされていない別のコンデンサ素子12に取り付けて、それを加圧することができる。また、それによって、かかる加圧装置38に取り付けられた別のコンデンサ素子12の第一及び第二端面22a,22bに対して、金属の溶射を行って、第一及び第二メタリコン電極28,29を形成することもできる。即ち、コンデンサ素子12に対する熱エージング処理の終了を待たずして、加圧装置38を使い回しつつ、別のコンデンサ素子12に対する第一及び第二メタリコン電極28,29の形成操作を、熱エージング処理と同時進行で実施することが可能となる。しかも、熱エージング処理の途中で、コンデンサ素子12を加圧装置38から取り外したときに、第一及び第二メタリコン電極28,29の損傷や破損が生ずるような不具合は、何等惹起されることがない。
【0063】
従って、このような本実施形態手法によれば、加圧装置38の数を無駄に増やすこともなしに、限られた数の加圧装置38を効率的に使い回すことによって、多数のフィルムコンデンサ10を製造する際の製造サイクルを効果的に短縮することができ、しかも、製造される個々のフィルムコンデンサ10の第一及び第二メタリコン電強28,29の品質の安定化も十分に図られ得る。そして、その結果として、安定した品質性能を有する多数のフィルムコンデンサ10を、十分に低い製造コストで、より効率的に製造することが可能となるのである。
【0064】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0065】
例えば、加圧装置38の構造は、例示のものに何等限定されるものではない。コンデンサ素子12の1個又は複数個が、それぞれ軸直角方向の両側から加圧された状態で取り付けられ得るのであれば、如何なる構造のものも採用可能である。
【0066】
なお、加圧装置38として、例示の構造を有するものを用いる場合にあっても、例えば、加圧部材として、上板42と加圧板48に代えて、平坦な加圧面を備えたブロック形状を呈するものも使用可能である。また、加圧装置が有する変位機構も、締付ボルト62と雌ネジ孔60からなるものに代えて、公知のリンク機構等を採用しても良い。
【0067】
さらに、加圧装置38の構成部品(上及び下板42,44、連結ロッド46、加圧板48、上側及び下側中間板54,55)の材質は、熱エージング処理の加熱温度に耐え得るものであれば、金属以外のものであっても良い。
【0068】
また、コンデンサ素子12を加圧装置38に取り付ける前に、コンデンサ素子12を、常温で、予備的に圧縮変形させて、ある程度、扁平状に押し潰された形状とした後、かかるコンデンサ素子12を加圧装置38に取り付けるようにしても良い。そうすれば、積層体34を巻回して、円筒形状乃至は中心孔を有する円柱形状において形成されたコンデンサ素子12を、そのまま、加圧装置38に取り付ける場合とは異なって、コンデンサ素子12のサイズをある程度小さくした状態で、加圧装置38に取り付けることができる。それによって、加圧装置38の小型化や、限られた大きさの加圧装置38へのコンデンサ素子12の取付数の増大が、有利に図られ得る。なお、コンデンサ素子12を常温で予備的に圧縮変形させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、単に、適当な重量の錘をコンデンサ素子12に載置する方法や、簡略な構造のプレス加工装置を用いる方法等が、適宜に採用される。勿論、それらの方法を実施する際に用いられる装置や治具の具体的な構造も、何等限定されるものではない。
【0069】
前記実施形態では、巻回形のコンデンサ素子12に対して熱エージング処理が施されていたが、基本素子18a,18bを積層してなる積層形のコンデンサ素子に対して熱エージング処理を施す際にも、本発明手法が採用され得る。
【0070】
また、前記実施形態では、加圧装置38から取り外されたときのコンデンサ素子12の圧縮変形状態からの復元により第一及び第二メタリコン電極28,29に生ずる引張応力が、それら第一及び第二メタリコン電極28,29の引張強度よりも小さくなるまで、加圧装置38に取り付けられたコンデンサ素子12に対する熱エージング処理(一次熱エージング処理)が実施されていた。しかしながら、そのような一次熱エージング処理の終了のタイミング(熱エージング処理の途中で、コンデンサ素子12を加圧装置38から取り外すタイミング)は、何等これに限定されるものではなく、様々な条件によって、適宜に決定される。
【0071】
フィルムコンデンサ10を構成する基本素子18a,18bの構造(例えば、樹脂フィルム14a,14bと金属蒸着膜16a,16bの積層数や、基本素子18a,18bの積層数等)も、適宜に変更可能である。
【0072】
例えば、図14に示されるように、樹脂フィルム14aの少なくとも一方の面(ここでは、両面)に蒸着重合膜19が積層形成されてなる複合誘電体フィルム21を有すると共に、かかる蒸着重合膜19の少なくとも一方のものの樹脂フィルム14a側とは反対側の面に金属蒸着膜16aが積層形成されてなる構造の基本素子23aを用いても良い。この場合には、例えば、図15に示されるように、上記の構造を有する二つの基本素子23a,23aが、複合誘電体フィルム21と金属蒸着膜19とが交互に位置するように積層されて、積層体35が形成される。そして、この積層体35が、積層形のコンデンサ素子として構成されるか、或いはかかる積層体35が巻回されて、巻回形のコンデンサ素子として構成されることとなる。
【0073】
このような構造の基本素子23a(コンデンサ素子)を用いてなるフィルムコンデンサでは、樹脂フィルム14aが薄肉とされていても、それに積層形成された蒸着重合膜19の存在により、複合誘電体フィルム21において、高い誘電率と高い耐電圧との両立が有利に達成され得る。しかも、複合誘電体フィルム21の表面の平滑性が、容易に且つ効果的に高くされ、これによっても、複合誘電体フィルム21の耐電圧が有利に高められ得る。従って、かかるフィルムコンデンサにおいては、十分な耐電圧を確保しつつ、小型化と大容量化とが、共に有利に図られ得る。
【0074】
さらに、図16に示されるように、樹脂フィルム14aの少なくとも一方の面(ここでは、両面)に金属蒸着膜16a,16bが積層形成されると共に、それらの金属蒸着膜16a,16bのうちの少なくとも何れか一方(ここでは、金属蒸着膜16aのみ)の樹脂フィルム14a側とは反対側の面に蒸着重合膜19が積層形成されてなる構造の基本素子25aを用いても良い。この場合には、例えば、図17に示されるように、上記の構造を有する二つの基本素子25a,25aが、樹脂フィルム14aや蒸着重合膜19からなる誘電体フィルムと金属蒸着膜19とが交互に位置するように積層されて、積層体37が形成される。そして、この積層体37が、積層形のコンデンサ素子として構成されるか、或いはかかる積層体37が巻回されて、巻回形のコンデンサ素子として構成されることとなる。
【0075】
このような構造の基本素子25a(コンデンサ素子)を用いてなるフィルムコンデンサでは、樹脂フィルム14aを二つの金属蒸着膜16a,16bの間に挟んでなるA構造だけでなく、極めて薄く且つ均一な膜厚を有すると共に、膜中の不純物量が極めて少ない蒸着重合膜19を二つの金属蒸着膜16a,16bの間に挟んでなるB構造をも有している。それ故、かかるフィルムコンデンサにあっては、樹脂フィルム14aを二つの金属蒸着膜16a,16bの間に挟んでなるA構造のみを有するフィルムコンデンサとは異なって、B構造の存在により、樹脂フィルム14を極端に薄肉化したり、樹脂フィルム14の材料中の不純物を低減させたりすることなく、コンデンサ全体の小型化と静電容量の増大とが、効果的に達成され得る。
【0076】
従って、基本素子25aを用いてなるフィルムコンデンサにあっては、必ずしも、薄肉化や不純物の残存量の低減等による樹脂フィルム14aの高機能化を図らなくとも、また、樹脂フィルム14aの薄肉化による問題を発生させることもなしに、十分な耐電圧を確保しつつ、小型・大容量化による高性能化が、極めて有利に実現され得るのである。
【0077】
なお、図14や図16に示される如き構造を有する基本素子23a,25aを用いて形成されるコンデンサ素子は、例えば、図14や図16に示される如き構造を有する基本素子23a,25aの何れか一方と、図3に示される如き構造を有する基本素子18aとを互いに積層することによって、或いはそれらの積層体を巻回することによっても得られる。また、図14に示される如き構造を有する基本素子23aと、図16に示される如き構造を有する基本素子23aとを互いに積層することによって、或いはそれらの積層体を巻回することによっても、コンデンサ素子が形成される。
【0078】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0079】
10 フィルムコンデンサ 12 コンデンサ素子
14a,14b 樹脂フィルム 16a,16b 金属蒸着膜
18a,18b,23a,25a 基本素子
28 第一メタリコン電極
29 第二メタリコン電極 34,35,37 積層体
38 加圧装置 42 上板
47 下側加圧面 48 加圧板
50 上側加圧面 54 上側中間板
55 下側中間板 56a,56b 中間加圧面
60 雌ネジ孔 62 締付ボルト
70 恒温装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムと金属蒸着膜とが交互に位置するように積層されてなる積層体を用いて構成したコンデンサ素子を準備する工程と、
前記コンデンサ素子を前記誘電体フィルムと前記金属蒸着膜との積層方向の両側から加圧する加圧装置に該コンデンサ素子を取り付けて、かかるコンデンサ素子を圧縮変形させる工程と、
前記加圧装置に取り付けられて、圧縮変形せしめられた前記コンデンサ素子の互いに対向する一対の端面に対して金属の溶射を行い、該両端面にメタリコン電極をそれぞれ形成する工程と、
前記両端面にメタリコン電極が形成された前記コンデンサ素子を前記加圧装置に取り付けたままで、かかるコンデンサ素子に対して熱エージング処理を施す工程と、
前記熱エージング処理が施されたコンデンサ素子を前記加圧装置から取り外した後、該コンデンサ素子に対して、更に熱エージング処理を施すことにより、該コンデンサ素子の圧縮変形状態を固定させる工程と、
を含むことを特徴とするフィルムコンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記コンデンサ素子を前記加圧装置に取り付けたままで、かかるコンデンサ素子に対して施される熱エージング処理が、該コンデンサ素子の圧縮変形状態からの復元により前記メタリコン電極に生ずる引張応力を、該メタリコン電極の引張強度よりも小さくするまでの間において実施される請求項1に記載のフィルムコンデンサの製造方法。
【請求項3】
前記加圧装置として、(a)互いに対向配置された平坦な加圧面をそれぞれ有し、且つそれら加圧面同士を互いに接近又は離隔させる方向において変位可能とされた一対の加圧部材と、(b)該一対の加圧部材の該加圧面間に配置される少なくとも一つの中間板と、(c)該加圧面同士を互いに接近させる方向の任意の位置まで、該一対の加圧部材のうちの少なくとも何れか一方を変位させて、該少なくとも何れか一方の加圧部材の位置を該任意の位置で固定する変位機構とを備えたものを用い、
かかる加圧装置における前記一対の加圧部材の加圧面間に、前記コンデンサ素子の複数を、前記誘電体フィルムと前記金属蒸着膜との積層方向において互いに重なり合う向きで積層配置すると共に、該積層された複数のコンデンサ素子のうちの互いに隣り合うものの間に前記中間板をそれぞれ介在させた状態で、該一対の加圧部材のうちの少なくとも何れか一方を、前記変位機構にて、前記加圧面同士を接近させる方向の任意の位置まで変位させて、該少なくとも何れか一方の加圧部材の位置を固定することにより、該加圧装置に該複数のコンデンサ素子を取り付けると共に、それら複数のコンデンサ素子を前記誘電体フィルムと前記金属蒸着膜との積層方向の両側から該一対の加圧部材と該中間板とにて加圧して、該複数のコンデンサ素子をそれぞれ圧縮変形させるようにした請求項1又は請求項2に記載のフィルムコンデンサの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−60032(P2012−60032A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203591(P2010−203591)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(308013436)小島プレス工業株式会社 (386)
【Fターム(参考)】