説明

フッ素化合物による洗浄方法

【課題】フッ素化合物を用いて高度な洗浄効果が得られるようにした洗浄方法を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくともフッ素化合物を含有する洗浄液(フッ素系溶剤)3に、被洗浄物1を浸す浸漬工程を有する洗浄方法であって、浸漬工程における、洗浄液3の温度tが、洗浄液3に含まれるフッ素化合物の1気圧における標準沸点または100℃のいずれか低い方の温度以上であり、かつ雰囲気圧力が温度tにおいてフッ素化合物が液体状態となる圧力であることを特徴とする洗浄方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)や大規模集積回路(LSI)等の各種基板の製造工程において好適に用いられる洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LSIやMEMSを製作するためには微細パターンが必要となる。このような微細パターンは、露光、現像、リンスを経て形成されるレジストパターンをマスクとして、エッチングを行い、その後洗浄を行って形成されるエッチングパターンである。エッチングには主としてフッ素系ガスを用いたプラズマエッチングが使用される。プラズマエッチングにおいてパターン寸法精度を向上させるには、プラズマ重合膜をパターン側壁に堆積させながら、エッチングを施すことが必要である。これにより、エッチングの際に生じるサイドエッチングを防止することができる。サイドエッチングとは、ガスプラズマで生じた反応種(例えばフッ素ラジカル)が横方向に拡散してパターン寸法を大きくする現象である。
例えば、シリコン酸化膜エッチングではCFガスプラズマ中に添加したハイドロトリフルオロカーボンCHFによりCFフラグメントが生じて(CFからなる構造を有するプラズマ重合膜が生じる。シリコンエッチングでは六フッ化イオウSFと、(CF源になるCのプラズマを交互に生じさせることにより、エッチングとプラズマ重合膜堆積を繰り返してサイドエッチングを防止できる。
【0003】
以上のように、プラズマエッチングではプラズマ重合膜の堆積が不可欠であるが、エッチング終了後には該プラズマ重合膜を除去することが必要である。すなわち、エッチングが終了したときには、例えば図7(a)に示すように、パターン53の側面にプラズマ重合膜54が堆積しているため、それを除去して図7(b)の状態とすることが不可欠である。図中符号51は基板、52は下地膜を示す。
プラズマ重合膜が残存していると、欠陥、汚染、パーティクルの原因となり、製造歩留まりの低下を引き起こすが、プラズマ重合膜の除去は容易ではない。またプラズマ重合膜は、詳細には上記(CFからなる重合体だけで構成されるわけではなく、シリコン等のエッチング反応物や被エッチング膜の下地膜成分(例えばタングステン等の金属)が包含されており、これらのエッチング残渣成分の存在がプラズマ重合膜の除去を一層難しくしている。
【0004】
また、かかるプラズマ重合膜は、プラズマエッチングを行う装置の内壁にも付着する。従来、装置内壁上のプラズマ重合膜の洗浄は、洗浄液に浸けてブラシ等で擦り落とす方法で行われていた。
【0005】
フッ素系溶剤を用いた洗浄方法としては、これまでクロロフルオロカーボン(CFC)を用いて油脂類等を洗浄除去する方法がよく知られているが、最近では、フッ素含量が多く、表面張力の小さいハイドロフルオロエーテル(HFE)やハイドロフルオロカーボン(HCFC)を用いて、基板の洗浄が行われている。その洗浄プロセスとしては、例えば図8(a)に示すように、フッ素系溶剤61の中に常温で基板62を浸すととともに、超音波振動子からなる超音波発信器63でフッ素系溶剤61および基板62を振動させる。この後、図8(b)に示すように、基板62をリンス液64に浸してリンスを行う。リンス液として通常では2−プロパノール等のアルコールが使用される。最後に、図8(c)に示すように、ヒーター65でリンス液を加熱することによってリンス液を気化させ、これによって生じたリンス蒸気66を基板62にあてて基板62を乾燥させる。
【0006】
下記特許文献1は、デバイス基板に付着しているレジストを含フッ素溶剤で洗浄する方法に関するもので、常温または30℃の含フッ素溶剤にデバイス基板を浸漬させる方法、予め超臨界状態とした含フッ素溶剤にデバイス基板を接触させる方法、常温または30℃の含フッ素溶剤にデバイス基板を浸漬させた後、該含フッ素溶剤を超臨界状態とする方法が記載されている。
【特許文献1】国際公開第2007/114448号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フッ素系溶剤を用いた従来の洗浄方法では、プラズマ重合膜を良好に除去できる程度の、高度な洗浄効果は得られない。
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、フッ素化合物を用いて高度な洗浄効果が得られるようにした洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明の洗浄方法は、少なくともフッ素化合物を含有する洗浄液に、被洗浄物を浸す浸漬工程を有する洗浄方法であって、浸漬工程における、前記洗浄液の温度tが、該洗浄液に含まれるフッ素化合物の1気圧における標準沸点または100℃のいずれか低い方の温度以上であり、かつ雰囲気圧力が該温度tにおいて該フッ素化合物が液体状態となる圧力であることを特徴とする。
前記浸漬工程を、密閉容器内で行うことが好ましい。
前記被洗浄物を、液体状態の前記洗浄液に浸す浸漬工程を行った後、該洗浄液を超臨界流体にする工程を有することが好ましい。
前記フッ素化合物が、炭素数4以上の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキル基を有することが好ましい。
前記被洗浄物が、少なくともフッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合物を含む場合に好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の洗浄方法は、フッ素化合物を含有する洗浄液を用いる方法であって、高度な洗浄効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
<フッ素化合物を含有する洗浄液>
[フッ素化合物]
フッ素化合物を含有する洗浄液(以下、フッ素系溶剤ということもある)に用いられるフッ素化合物としては、パーフルオロアルキル基を有するものが好ましい。
パーフルオロアルキル基を有するフッ素化合物は、パーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、およびハイドロフルオロカーボンからなる群から選ばれる1種以上が好ましい。これらのうちでもハイドロフルオロエーテルおよびハイドロフルオロカーボンから選ばれる1種以上が、地球温暖化係数が小さく、環境負荷が小さい点で好ましい。
フッ素化合物におけるパーフルオロアルキル基(以下、Rf基ということもある。)は、C2n+1(nは整数)で表される鎖状または分岐状のアルキル基(エーテル結合性の酸素原子を含んでもよい)の炭素原子に結合している全ての水素原子がフッ素原子によって置換されている基(C2n+1(nは整数))である。フッ素化合物は炭素数(n)が4以上のRf基を有していることが、良好な洗浄効果が得られやすい点で好ましく、炭素数が5以上のRf基を有していることがより好ましい。
フッ素化合物が一分子内にRf基を2個以上有する場合、少なくとも1個が炭素数(n)4以上、より好ましくは5以上であることが好ましく。より好ましくは、全てのRf基が炭素数(n)4以上、好ましくは5以上である。
また、Rf基はエーテル結合性の酸素原子を含んでいてもよい。すなわちRf基は、C2p+1−O−C2q−(p、qはそれぞれ独立に1以上の整数である。)で表される基であってもよい。この場合のRf基の炭素数はpとqの合計(p+q)となる。上記p、qのうち、少なくとも一方が4以上であることが好ましく、特にpが4以上であることが好ましい。
該Rf基の炭素数の上限は、洗浄後の乾燥性の問題や、液体としてハンドリングするための融点や粘性などの点からは10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましい。
フッ素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0011】
ハイドロフルオロエーテルの具体例としては、
メチルパーフルオロブチルエーテル(COCH)、
エチルパーフルオロブチルエーテル(COCHCH)、
メチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCH)、
エチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCHCH)、
メチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCH)、
エチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCHCH)、
メチルパーフルオロヘプチルエーテル(C15OCH)、
エチルパーフルオロへプチルエーテル(C15OCHCH)、
メチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCH)、
エチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCHCH)、
メチルパーフルオロノニルエール(C19OCH)、
エチルパーフルオロノニルエーテル(C19OCHCH)、
メチルパーフルオロデシルエーテル(C1021OCH)、
エチルパーフルオロデシルエーテル(C1021OCHCH)、
1,1,1,2−テトラフルオロエチル−1,1,1−トリフルオロエチルエーテル(CHOCHCF)、
1,1,2,2,3,3、−ヘキサフルオロ−1−(1,2,2,2,−テトラフルオロエトキシ)プロピル−パーフルオロプロピルエーテル(COCOCFHCF)、
1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−(メトキシ)ペンタン(CFCF(CF)CF(OCH)CFCF)、
1,1,1,2,3,4,4,5,5,5−デカフルオロ−2−(トリフルオロメチル)−3−(エトキシ)ペンタン(CFCF(CF)CF(OC)CFCF)、
1,1,2,2,−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(CF(OCHCF)CFH)、
1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)プロパン(CF(OCHCF)CFHCF)、
1,1,2,2,−テトラフルオロ−1−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)エタン(CF(OCHCFCFH)CFH)、
1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−1−(2,2,3,3−テトラフルオロプロポキシ)プロパン(CF(OCHCFCFH)CFHCF)等が挙げられる。
【0012】
これらのハイドロフルオロエーテルのうちでも、パーフルオロアルキル基とアルキル基がエーテル結合を介して結合されているものが好ましい。
特に、洗浄剤としての使いやすさ(洗浄後の乾燥性、室温で低粘性の液体として扱うことができる等)の観点から、メチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCH)、エチルパーフルオロペンチルエーテル(C11OCHCH)、メチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCH)、エチルパーフルオロヘキシルエーテル(C13OCHCH)、メチルパーフルオロヘプチルエーテル(C15OCH)、エチルパーフルオロへプチルエーテル(C15OCHCH)、メチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCH)、エチルパーフルオロオクチルエーテル(C17OCHCH)が好ましい。
【0013】
ハイドロフルオロカーボンの具体例としては、
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(CFCHCFCH)、
1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(CFCFCFHCFHCF)、
1H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、
3H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、
1H−トリデカフルオロヘキサン(C13H)、
1H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、
3H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、
1H−ヘプタデカフルオロオクタン(C17H)、
1H−ノナデカフルオロノナン(C19H)、
1H−パーフルオロデカン(C1021H)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン(CCHCH)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6、−トリデカフルオロオクタン(C13CHCH)、
1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6、7,7,8,8−ヘプタデカフルオロデカン(C17CHCH)等が挙げられる。
【0014】
これらのハイドロフルオロカーボンのうちでも、Cn+m2n+12m+1(ただし、nは4〜9の整数であり、mは0〜2の整数である。)で表わされるものが好ましい。
特に、洗浄剤としての使いやすさ(洗浄後の乾燥性、室温で低粘性の液体として扱うことができる等)の観点から、1H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、3H−モノデカフルオロペンタン(C11H)、1H−トリデカフルオロヘキサン(C13H)、1H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、3H−ペンタデカフルオロヘプタン(C15H)、1H−ヘプタデカフルオロオクタン(C17H)、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロオクタン(C13CHCH)が好ましい。
【0015】
パーフルオロカーボンとしては、鎖状または分岐状の炭化水素の全ての水素原子をフッ素原子に置換した化合物(全フッ素化炭化水素);鎖状または分岐状のアルキルアミンのアルキル基の全ての水素原子をフッ素原子に置換した化合物(全フッ素化アルキルアミン);
鎖状または分岐状のアルキルエーテルの全ての水素原子をフッ素原子に置換した化合物(全フッ素化アルキルエーテル)等が挙げられる。
該炭化水素、アルキルアミンのアルキル基、およびアルキルエーテルにおける好ましい炭素数は、上記Rf基の好ましい炭素数と同じである。
洗浄液における、フッ素化合物の含有量は、50質量%超が好ましく、80質量%超がより好ましい。
【0016】
[他のフッ素化合物]
パーフルオロアルキル基を有するフッ素化合物を用いるとともに、これに含まれない他のフッ素化合物を併用してもよい。
他のフッ素化合物としては、ハイドロクロロフルオロカーボン類(例えば、ジクロロペンタフルオロプロパン、ジクロロフルオロエタン等);含フッ素ケトン類;含フッ素エステル類、含フッ素不飽和化合物;含フッ素芳香族化合物等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
浸漬工程における温度および圧力条件において液状であるものを選択して用いることが好ましい。
洗浄液(フッ素系溶剤)中における、これらの他のフッ素化合物の含有量は、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0017】
[分解物を発生する化合物]
また、浸漬工程における温度および圧力条件下において、加熱により分解されて分解物が発生する化合物を洗浄液に含有させてもよい。例えば、フッ素化合物の中には高温で加熱されると分解してフッ化水素を発生するものがある。具体的には、COCHCHは200℃以上で熱分解されてフッ化水素を発生する。このような化合物を洗浄液に含有させた場合には、浸漬工程でシリコン酸化膜をエッチングすることが可能となり、その結果、シリコン酸化膜表面のパーティクルをリフトオフ除去することができる。このような分解物を発生する化合物を洗浄液に含有させる場合、その添加量は洗浄液(フッ素系溶剤)100質量%中10〜50質量%の範囲が好ましい。
【0018】
[含フッ素アルコール]
本発明における洗浄液(フッ素系溶剤)は、含フッ素アルコールを含有してもよい。含フッ素アルコールとはフッ素原子およびヒドロキシ基を有する化合物を意味する。含フッ素アルコールは公知の化合物の中から、浸漬工程における温度および圧力条件において液状であるものを選択して用いることが好ましい。また洗浄液に含まれるフッ素化合物と共沸混合物を構成することがより好ましい。
含フッ素アルコールの具体例としては2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブタノール、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エタノール、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロパノール等が挙げられる。
洗浄液(フッ素系溶剤)中における、含フッ素アルコールの含有量は、後述する有機溶剤との合計量が5〜20質量%程度となる範囲が好ましい。
【0019】
[フッ素原子を有しない有機溶剤]
本発明における洗浄液(フッ素系溶剤)は、さらにフッ素原子を有しない有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は公知のものから、浸漬工程における温度および圧力条件において液状であるものを選択して用いることが好ましい。また洗浄液に含まれるフッ素化合物と共沸混合物を構成することがより好ましい。
有機溶剤の具体例としては、エタノール、2−プロパノール等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸塩類;ジメチルエタノールアミン、アリルアミン、アミノベンジルアミン等のアミン類等が挙げられる。
これらの有機溶剤はpH調整剤として用いることもでき、これらの添加によって、パーティクル再付着を防ぐために必要なゼータ電位を調整できる。
【0020】
[他の成分]
本発明における洗浄液(フッ素系溶剤)は、上記に上げた各成分の他に、必要に応じて、フッ素原子を有しない他の成分を含有することができる。
例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸アミド、アルキルモノグリセリルエーテル等のノニオン界面活性剤;アルキルジメチルアミンオキシド等の両性界面活性剤;モノアルキル硫酸塩等のアニオン界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウム塩等のカチオン界面活性剤等の界面活性剤を、単独でもしくは2種類以上組み合わせて添加してもよい。
界面活性剤を添加する場合、その添加量は洗浄液(フッ素系溶剤)中0.01〜5質量%が好ましい。
【0021】
洗浄液(フッ素系溶剤)の調製方法は、特に限定されず、上記フッ素化合物および必要に応じて添加される成分を均一に混合することにより得られる。
【0022】
<被洗浄物>
本発明の洗浄方法において、洗浄の対象である被洗浄物は特に限定されず、従来の含フッ素溶剤を用いた方法が適用可能であるものは、本発明の洗浄方法で洗浄することができ、従来法よりも高い洗浄効果を得ることができる。
特にプラズマ重合物は、フッ素系溶剤を用いた従来の洗浄方法では良好な洗浄が難しかったが、本発明の洗浄方法を用いることにより、良好に除去することができる。
本発明におけるプラズマ重合物は、フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチングにおいて工程で発生する堆積物であり、フッ素含有ガスに、(CF源になるCFフラグメントを形成し得る化合物(例えばC、CHF)が含まれている場合に多く形成される。また、レジストパターンがプラズマエッチング中に分解されて生成するCHフラグメント等もプラズマ重合物の形成に関与する場合もある。プラズマ重合物は、エッチング残渣成分を含有するものも含む。本明細書では、膜状に堆積したプラズマ重合物をプラズマ重合膜という。
【0023】
例えば、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)や大規模集積回路(LSI)を初めとする各種基板の製造工程において、基板上に堆積したプラズマ重合膜や、プラズマエッチングを行う装置の内壁に付着したプラズマ重合膜の除去に適用することが好ましい。
またプラズマ重合膜の他にも、例えばIC等の電子部品、精密機械部品、ガラス基板等の物質に付着する油脂類、プリント基板等のフラックスなどの汚れを被洗浄物として適用することが好ましい。
【0024】
<洗浄方法>
本発明の洗浄方法の一実施形態を、図を用いて説明する。ここでは、被洗浄物として基板上のプラズマ重合膜を例に挙げて説明する。
[浸漬工程]
まず図1に示すように、基板1をフッ素系溶剤(洗浄液)3に浸す(浸漬工程)。このとき、フッ素系溶剤3の温度tが、フッ素系溶剤3に含まれているフッ素化合物の標準沸点または100℃のいずれか低い方の温度以上となるように制御するとともに、雰囲気圧力を、該温度tにおいてフッ素系溶剤3に含まれているフッ素化合物が液体状態となる圧力とする。標準沸点とは1気圧における沸点である。
(1)フッ素系溶剤3に含まれているフッ素化合物の標準沸点が100℃以上である場合、フッ素系溶剤3の温度tは100℃以上とする。雰囲気圧力はフッ素化合物が液体状態となればよい。該液体状態には煮沸状態も含まれる。温度tが100℃以上、標準沸点以下である場合は、浸漬工程を開放系で行ってもよく、密閉系で行ってもよい。密閉系で行うことが好ましい。温度tが標準沸点を超える場合は密閉系で行う。
(2)フッ素系溶剤3に含まれているフッ素化合物の標準沸点が100℃未満の場合、フッ素系溶剤3の温度tは標準沸点以上とする。雰囲気圧力をフッ素化合物が液体状態となる圧力とするために、浸漬工程を密閉系で行うことが好ましい。
フッ素系溶剤3に2種以上のフッ素化合物が含まれている場合は、フッ素系溶剤3の温度tが、該フッ素系溶剤3に含まれている2種以上のフッ素化合物の各標準沸点のうち、少なくとも1種の標準沸点(共沸混合物の場合は共沸点、以下同様。)以上となればよく、全部の標準沸点以上であることが好ましい。
雰囲気圧力は、該温度tにおいてフッ素系溶剤3に含まれている2種以上のフッ素化合物の少なくとも1種が液体状態となる圧力であればよく、全部が液体状態となる圧力であることが好ましい。
【0025】
浸漬工程におけるフッ素系溶剤3の温度tの上限は特に限定されないが、200℃以下で充分な洗浄効果が得られる。温度tを必要以上に高くするとコスト的に不利になる。
また、後述のプラズマ重合膜除去の試験例に示されるように、フッ素化合物の種類に応じて、良好な洗浄効果が得られる最適温度範囲が存在する。したがって、浸漬工程におけるフッ素系溶剤3の温度tは、該フッ素系溶剤に含まれるフッ素化合物の標準沸点以上200℃以下の範囲で、フッ素化合物の種類および被洗浄物の種類に応じて、良好な洗浄効果が得られる最適温度範囲に設定することが好ましい。
該最適温度範囲は、浸漬工程におけるフッ素系溶剤3の温度tと、浸漬工程後における被洗浄物の残留量との関係を測定することによって得ることができる。
【0026】
浸漬工程は密閉容器2内で行うことが好ましい。
具体的には、まず基板(被洗浄物)1を密閉容器2に入れ、フッ素系溶剤3を導入して密閉状態とする。密閉状態とした後に外部からフッ素系溶剤3を導入してもよい(導入手段は図示せず)。浸漬工程では、少なくとも基板1の洗浄面(被洗浄物が付着している面)がフッ素系溶剤3と接触するように浸漬させる。
密閉容器2は、内部を気密に保持できる耐圧構造を有するものであればよく特に限定されない。上述のように、本発明で使用する容器は耐圧構造を有する密閉容器が好ましい。例えば簡単に蓋をして加熱する容器は、耐圧構造を有しないため、洗浄液が沸点に達すると気化してしまい、沸点以上の高温で液体状態とすることができない。また蓋の上に水冷パイプを施した容器は、水冷によって気化を防止できるが、沸点以上の液体を得ることはできない。すなわち沸点以上の温度で液化させるためには、ある程度の高圧を保持できる耐圧性を有する容器が必要である。その耐圧レベルは洗浄液を所定の温度で液化できればよい。例えば、図2の気液平衡曲線に示されるように、C13CHCH(後記試験例7)の場合、170℃のときに気液平衡となる圧力(蒸気圧)は0.45MPaであるため、0.5MPaを保持できる程度の耐圧性があれば充分である。
【0027】
次いで、密閉容器2に備え付けられたヒーター4により、フッ素系溶剤3の温度が所定の温度となるように昇温するとともに、密閉容器内が所定の雰囲気圧力となるように、必要に応じて調整する。ヒーター4による加熱に伴って密閉容器2内の圧力は自発的に上昇する。圧力の調整は、例えば背圧弁、各種バルブ等を用いて行うことができる。
フッ素系溶剤3の量に対して、密閉容器2の容積が充分に大きい場合は、フッ素系溶剤3の温度と密閉容器2内の温度が短時間で平衡に達するため、フッ素系溶剤3を導入する前にヒーター4で密閉容器2内を所定の温度まで加熱しておいて、フッ素系溶剤3を導入する方法によっても、フッ素系溶剤3を所定の温度に加熱することができる。
【0028】
ヒーター4は、フッ素系溶剤3の温度を所定の温度に昇温できるものであればよく、特に限定されない。シースヒーター、カートリッジヒーター、フィルムヒーター、誘導加熱方式のヒーター等を用いることができる。また、ヒーター4は密閉容器2の壁内に埋め込んでもよいし、フッ素系溶剤3中への投げ込み式としても何ら問題ではない。
【0029】
浸漬工程において、所定の雰囲気圧力中で所定温度tのフッ素系溶剤3に基板を浸漬させる時間(浸漬時間)は、短すぎると洗浄効果が不充分となり、長すぎると効率が低下するため、これらの不都合が生じない範囲に設定すればよい。例えば浸漬時間は1分間〜120分間程度が好ましく、10分間〜60分間がより好ましい。
また必要であれば、浸漬工程中にフッ素系溶剤を1回以上交換してもよい。フッ素系溶剤を交換する場合、フッ素系溶剤の種類、フッ素系溶剤の温度(t)、および/または雰囲気圧力を変えてもよい。
浸漬工程は、バッチ式でなく、フッ素系溶剤を適宜の流量で流し続ける連続式で行ってもよい。
【0030】
[超臨界工程]
浸漬工程において、液体状態のフッ素系溶剤3中に基板を所定の浸漬時間だけ浸漬させた(浸漬工程)後、該フッ素系溶剤の温度を臨界温度以上とし、かつ雰囲気圧力を臨界圧力以上とすることにより、基板が浸漬されているフッ素系溶剤を超臨界流体とする工程(超臨界工程)を行ってもよい。
超臨界状態にすることにより拡散速度が上がるため、超臨界流体となったフッ素系溶剤が微細領域にまで浸透して、細部にわたっての洗浄が可能となる。これにより洗浄効果をより向上させることができる。また、超臨界流体となった状態で乾燥させると、超臨界状態では表面張力が作用しないために不要な応力がかからず、基板上に形成されたパターン等の構造体を壊すことなく乾燥させることができる。
【0031】
超臨界工程において、超臨界状態のフッ素系溶剤に基板を接触させる時間(接触時間)は、短すぎると洗浄効果が充分に向上せず、長すぎると効率が低下するため、これらの不都合が生じない範囲に設定すればよい。例えば接触時間は1分間〜120分間程度が好ましく、10分間〜60分間がより好ましい。
【0032】
表1は、透過光強度を測定する方法によって、各種のフッ素化合物からなるフッ素系溶剤の臨界点(臨界温度、臨界圧力)を測定した例の結果である。具体的には、各溶剤を窓付き高圧セルに入れた後、温度と圧力を上昇させて、透過光強度が変化したときの温度および圧力を、それぞれ臨界温度および臨界圧力とした。
超臨界工程においては、密閉状態で臨界温度(200℃前後)まで昇温すると、圧力は臨界圧力付近まで自発的に上昇するため、簡単に超臨界状態を作り出すことができる。
【0033】
【表1】

【0034】
所定の浸漬時間が終了したら、超臨界工程を行った場合は所定の接触時間が終了したら、密閉容器2から熱せられたフッ素系溶剤3を排出し(排出機構は図示せず)、密閉容器2を開放して大気圧とし、最後に基板1を取り出す。フッ素系溶剤は標準沸点以上に熱せられた状態、または超臨界状態となっているため、基板表面に付着していたフッ素系溶剤は瞬時に乾燥して、基板1は乾燥状態になる。したがって、特定の乾燥手段を必要としない。
こうして、フッ素系溶剤で洗浄された基板が得られる。
【0035】
[リンス工程]
浸漬工程および必要に応じて超臨界工程を行った後、密閉容器2を開放して乾燥させる前に、フッ素系溶剤3をリンス液で置換し、該リンス液に浸漬させるリンス工程を行ってもよい。
リンス液としては標準沸点が100℃以下である低沸点の有機溶剤であればよい。例えば、アルコール、ケトン、エーテル等が代表である。リンス液は、基板がより乾燥しやすいように低沸点のフッ素化合物を用いてもよい。
リンス工程におけるリンス液の温度および雰囲気圧力は、密閉容器2内でリンス液が液状となる温度および圧力とする。必要であれば、浸漬工程および必要に応じて超臨界工程を行った後、ヒーター4をOFFにして密閉容器2内の温度および基板1の温度を、リンス液の標準沸点未満に降下させる。温度の降下に伴って密閉容器内の圧力も降下する。
リンス液への浸漬時間(リンス時間)は、短すぎるとリンス効果が不充分となり、長すぎると効率が低下するため、これらの不都合が生じない範囲に設定すればよい。例えば1分間〜120分間が好ましく、10分間〜60分間がより好ましい。必要に応じてリンス工程中にリンス液を1回以上交換してもよい。
所定のリンス時間が終了したら密閉容器からリンス液を排出し(排出機構は図示せず)、密閉容器を開放する。この後、基板1に付着しているリンス液をその沸点以上に加熱してリンス液を気化させ、基板1を乾燥させる。
こうして、フッ素系溶剤で洗浄され、さらにリンス液でリンスされた基板が得られる。
【0036】
<プラズマ重合膜除去の試験例>
表2は、プラズマ重合膜を各種のフッ素化合物からなるフッ素系溶剤を用いて洗浄したときの洗浄効果を示したものである。フッ素系溶剤(洗浄液)は表に示すフッ素化合物の100質量%からなる。被洗浄物としては、Cガスプラズマを用いてシリコン基板上に堆積させた厚さ800〜900nmのプラズマ重合膜(パターニングされていないベタ膜)を用いた。
【0037】
[洗浄条件]
(1)30℃:大気圧中、30℃に温度調整したフッ素系溶剤に60分間浸漬させた後、120℃のオーブンで1時間加熱乾燥した。
(2)煮沸:大気圧中で、標準沸点以上に加熱し、沸騰状態としたフッ素系溶剤に1時間浸漬して取り出した。
(3)100〜200℃:密閉された空間中にフッ素系溶剤を導入し、所定の各温度(t=100、130、150、200℃)に加熱するとともに、該フッ素系溶剤が液体状態となる雰囲気圧力とした。この状態のフッ素系溶剤に基板を1時間浸漬して取り出した。
例えば、標準沸点が80℃以下のフッ素化合物からなるフッ素系溶剤を用い、温度t=150℃で洗浄する場合は0.5〜0.8MPaの雰囲気圧力とした。標準沸点が98〜121℃のフッ素系溶剤を用い、t=100〜130℃の場合は、0.1MPaの圧力で液体状態となるため、雰囲気圧力を0.1MPaとした。すなわち、フッ素系溶剤の、温度tにおける気液平衡曲線より上の(高い)圧力とした。
【0038】
[評価]
各条件で洗浄した基板を目視で観察し、プラズマ重合膜が全面にわたって残留しているものは×、プラズマ重合膜の一部は除去できたが完全には除去できなかったものは△、完全に除去できたものは○とした。
【0039】
【表2】

【0040】
表2の結果より、30℃ではプラズマ重合膜の溶解速度が著しく低いため除去できなかった。
煮沸または密閉系で100〜200℃に加熱した場合は、30℃の場合と比べてプラズマ重合膜の溶解性が向上し、完全除去も可能となる。
特に沸点よりも高い温度で液体状態となる雰囲気圧力にしたときに、完全除去されることが多い。沸点が100℃以上の場合には、密閉系で100℃に加熱した洗浄液で除去効果が現れるものもある。
また、フッ素系溶剤が、炭素数4以上(n≧4)のRf基(C2n+1)を有していると、プラズマ重合膜の完全除去が可能となる。これは、プラズマ重合膜は(CFからなる構造を有しており、フッ素系溶剤中のRf基(C2n+1)の炭素鎖がより長い(nがより大きい)方がプラズマ重合膜が膨潤しやすく、この結果溶解しやすくなると考えられる。さらにRf基の炭素数が6以上(n≧6)であるとプラズマ重合膜を完全除去できる最適温度範囲が広くなり、より好ましい。
【0041】
図3および図4は、SFガスプラズマとCガスプラズマの交互処理によりエッチングしたシリコンパターン(幅100μm、深さ30μm)の側面を、C13H(試験例9)およびC13CHCH(試験例7)をそれぞれ用い、温度条件を変えて洗浄したときの、洗浄の程度を調べた結果を示すグラフである。SFガスプラズマはエッチングを、Cガスプラズマはサイドエッチング防止のためのパターン側壁保護(プラズマ重合膜形成)を担っている。
洗浄の程度は、パターン側面の上部と下部における残留フッ素濃度をオージェ分光分析により検出する方法で評価した。
洗浄条件は、フッ素系溶剤の温度を、横軸に示す各温度に加熱するとともに、フッ素系溶剤が液体状態となる雰囲気圧力とした。この状態のフッ素系溶剤にシリコンパターンを10分間浸漬して取り出した。
図3はC13H(試験例9)の結果であり、図4はC13CHCH(試験例7)の結果である。洗浄前の状態におけるフッ素濃度は30℃処理後とほぼ同じである。
いずれのグラフにおいても、150〜170℃の温度で残留するフッ素濃度が最小になり、この温度が溶解除去に最適であることがわかる。
なお表2において、例9の100℃は○であるのに、図3においては、フッ素系溶剤が100℃のときのパターン下部のフッ素濃度が高い。これはプラズマ重合膜のベタ膜よりも、パターン側面のプラズマ重合膜の方が除去され難いことを意味する。
【0042】
図5、6は、SFガスプラズマとCガスプラズマの交互処理によりエッチングしたシリコンパターン(図5は幅100μm、図6は幅20μm、深さは両者とも40μm)の側面を、C13CHCH(試験例7)で洗浄したときの、洗浄の程度を調べたオージェ分光分析結果を示すグラフである。
洗浄は、170℃に加熱したC13CHCH(試験例7)に、該フッ素系溶剤が液体状態となる雰囲気圧力で、パターンを30分間浸漬して取り出した。
この図の結果より、パターン幅やパターン深さに依存せずに、洗浄後は検出限界以下までフッ素濃度が低下している、すなわちプラズマ重合膜が完全に除去されていることがわかる。
【0043】
このように、本発明の洗浄方法によれば、フッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合膜を有する被洗浄物を、良好に洗浄して該プラズマ重合膜を除去できる。
したがって、例えばフッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程に用いられたエッチング装置の内壁カバーに付着したプラズマ重合膜や、該エッチング工程で加工されたパターン内壁のプラズマ重合膜を効率良く除去することができる。かかるプラズマ重合膜はエッチング残渣成分を含む場合が多いが、その場合でも良好にプラズマ重合膜を除去することができる。
【0044】
また、プラズマ重合膜の他にも、例えばIC等の電子部品、精密機械部品、ガラス基板等の物質に付着する油脂類、プリント基板等のフラックスなどの汚れを除去することもできる。
これらの油脂類や汚れは、プラズマ重合膜よりも除去が容易であり、後述の実施例に示されるように、フッ素系溶剤におけるRe基の炭素数が3以下であっても、良好に除去することができる。またフッ素系溶剤の標準沸点以上の温度で液体状態となる雰囲気圧力で洗浄するため、より高い洗浄効果が得られ、効率良く洗浄を行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
シリコン基板上に公知のフォトリソグラフィを用いて50〜300nm幅のレジストパターンを形成した。このシリコン基板をSFガスプラズマとCガスプラズマの交互処理でエッチング加工して、シリコンからなるパターンを形成した。
この後、基板を密閉可能な容器に移載し、容器内にC13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を導入し、基板を該フッ素系溶剤中に浸漬させた。
容器を密閉し、容器内およびフッ素系溶剤の温度を170℃に昇温するとともに、容器を密閉して容器内の圧力が0.5MPaになるように背圧弁で調整した。これによりフッ素系溶剤は標準沸点以上の高温の液体(以下、高温液体という。)となった。30分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0046】
[実施例2]
実施例1と同様にして基板をフッ素系溶剤中に30分間浸漬させた後、密閉容器のヒーターをOFFにするとともに、フッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。取り出した基板を0.1Paの真空下で100℃に加熱し、基板表面に残存しているフッ素系溶剤を気化させて乾燥させた。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0047】
[実施例3]
ガスプラズマ、またはCHFガスプラズマが使用されたエッチング装置の内壁カバーを密閉可能な容器に移載し、容器内にC13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を導入し、該内壁カバーを該フッ素系溶剤中に浸漬させた。
この状態で、容器内およびフッ素系溶剤の温度を170℃に昇温した。容器内の圧力制御は行わなかったが0.5MPa以上となり、フッ素系溶剤は高温液体の状態を維持していた。30分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から内壁カバーを取り出した。乾燥は不要であった。得られた内壁カバーは、付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0048】
[実施例4]
銅配線が形成され、その上にメチルシルセスキオキサンからなる絶縁膜が形成された基板上に公知のフォトリソグラフィを用いて30〜100nm幅のレジストパターンを形成した。絶縁膜をCHF/CF/Ar混合ガスプラズマによりエッチング加工して絶縁膜パターンを形成した。この後、基板を、温度を170℃にした密閉可能な容器に移載して、密閉状態とした。容器内にC13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を導入し、基板を該フッ素系溶剤中に浸漬させた。この状態で、容器内およびフッ素系溶剤の温度を170℃に保持するとともに、容器内の圧力が2.0MPaになるように背圧弁で調整した。
フッ素系溶剤を毎分100cc/minで流し続けながらパターン側壁に付着しているプラズマ重合膜を溶解・除去した。10分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0049】
[実施例5]
実施例4において、フッ素系溶剤をCOCH(試験例3)に変更し、容器内の温度を150℃とした他は実施例4と同様にして基板をフッ素系溶剤中に浸漬させた。この状態で10分間浸漬した後、容器内の温度を200℃に上げてフッ素系溶剤を超臨界状態とした。この状態を10分間保った後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0050】
[実施例6]
銅配線が形成され、その上にメチルシルセスキオキサンからなる絶縁膜が形成された基板上に、公知のフォトリソグラフィを用いて30〜100nm幅のレジストパターンを形成した。絶縁膜をCHF/CF/Ar混合ガスプラズマによりエッチング加工して絶縁膜パターンを形成した。この後、基板を、温度を170℃にした密閉可能な容器に移載して、密閉状態とした。容器内にC13CHCH(試験例7)90質量%とトリフルオロエタノール(CFCHOH)10質量%の混合液を導入し、容器内および混合液の温度を170℃に保持するとともに、容器内の圧力が0.8MPaになるように背圧弁で調整した。基板が混合液中に浸漬された状態で、混合液を100ml/分の流量で流し続けながらパターン側壁に付着している、CHFで形成されたプラズマ重合膜を溶解・除去した。このとき、パターン底部にあり、エッチング加工の際に形成された銅の酸化物やフッ化物も除去された。この状態を10分間保った後、温度を170℃に保ったままフッ素化合物を密閉容器外部へ排出し、基板を取り出した。得られた基板は、パターン側壁および底部が清浄な状態であった。
【0051】
[実施例7]
実施例1において、フッ素系溶剤を、COCHCH(試験例4)に変更し、容器内の温度を150℃とし、容器内の圧力が1.2MPaになるまで圧送ポンプにより加圧導入した。その後、容器内の温度を150℃とするとともに圧力を1.2MPaになるようにバルブ調整した。その他は実施例1と同様にして基板を高温液体となったフッ素系溶剤中に30分間浸漬させた。この後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0052】
[実施例8]
実施例1において、フッ素系溶剤を、COCH(試験例3)90質量%とトリフルオロエタノール(CFCHOH)10質量%とを混合して酸性とした混合液に変更し、容器内の温度を150℃とし、容器内の圧力が1.5MPaになるように背圧弁で調整した。その他は実施例1と同様にして基板を高温液体となったフッ素系溶剤中に30分間浸漬させた。この後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0053】
[実施例9]
実施例1において、フッ素系溶剤を、C13H(試験例9)90質量%とジメチルエタノールアミン10質量%とを混合してアルカリ性とした混合液に変更し、容器内の温度を100℃とし、容器内の圧力が0.8MPaになるように背圧弁で調整した。その他は実施例1と同様にして基板を高温液体となったフッ素系溶剤中に30分間浸漬させた。この後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。併せて、パターン上部に残っていたレジストも溶解・除去することができた。
【0054】
[実施例10]
実施例1において、フッ素系溶剤(C13CHCH)の温度を150℃に変更した他は同様にして、密閉容器内で基板をフッ素系溶剤(C13CHCH(試験例7))に浸漬させた。30分後、温度を一定に保持したまま、密閉容器内にC4OCHCF(試験例1)を導入して、C13CHCHを別のフッ素系溶剤(C4OCHCF)で置換した。置換し終えたら直ぐに、温度を保持したまま、該別のフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。得られた基板は、パターン側壁に付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0055】
[実施例11]
実施例6と同様にして絶縁膜パターンを形成した後、公知のプラズマアッシング法によりレジストパターンを除去した。この後、基板を温度220℃にした容器に移載して密閉状態とした。容器内にC13CHCH(試験例7)80%とCOCHCH(試験例4)20%の混合液(フッ素系溶剤)を導入し、容器内および混合液の温度を220℃に保持するとともに、容器内の圧力が1.5MPaとなるように背圧弁で調整した。基板を混合液に浸漬させた状態で30分間保持した。この工程で、COCHCHは熱分解してフッ素を放出するため、絶縁膜が約10nmエッチングされた。その結果、残っていたプラズマ重合膜が除去されるとともに、絶縁膜表面に残っていたレジストパターン除去残りのパーティクルもリフトオフ剥離された。ヒーターをOFFにするとともにフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。この時の基板の温度は140℃であった。こうして良好な清浄面を有するシリコン基板を得た。
【0056】
[実施例12]
本例では、CHFガスプラズマを用いる反応性イオンエッチング装置の、ステンレス製内壁を洗浄した。
まずステンレス製内壁を密閉可能な容器に移載し、容器内にCOCHCH(試験例4)からなるフッ素系溶剤を満たした。容器を密閉し、容器内およびフッ素系溶剤の温度を150℃に昇温した。液量を調整することにより容器内の圧力が1.2MPaとなった。これによりフッ素系溶剤は高温液体となった。30分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器からステンレス製内壁を取り出した。乾燥は不要であった。
得られたステンレス製内壁は、付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0057】
[実施例13]
本例では、Cガスプラズマを用いる誘導結合プラズマエッチング装置の内部にセットされる、セラミック製の装置部品を洗浄した。
まずセラミック製装置部品を密閉可能な容器に移載し、容器内にC13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を満たした。
容器を密閉し、容器内およびフッ素系溶剤の温度を170℃に昇温した。液量を調整することにより容器内の圧力が1.5MPaとなった。これによりフッ素系溶剤は高温液体となった。30分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器からセラミック製装置部品を取り出した。乾燥は不要であった。
得られたセラミック製装置部品は、付着していたプラズマ重合膜が溶解・除去されていた。
【0058】
[実施例14]
本例では、回路基板に電子部品をはんだ付けした後、過剰のスルダリング・フラックスJS−64ND(製品名、弘輝社製)を除去するために、該基板を密閉可能な容器に移載し、容器内にCHOCHCF(試験例1)からなるフッ素系溶剤を導入し、基板を該フッ素系溶剤中に浸漬させた。
容器を密閉し、容器内およびフッ素系溶剤の温度を100℃に昇温するとともに、容器内の圧力が1.0MPaになるように背圧弁で調整した。これによりフッ素系溶剤は高温液体となった。30分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。
得られた基板は、同じフッ素系溶剤を用い、超音波をかけながら室温で洗浄したものよりも洗浄効果が良好であった。
【0059】
[実施例15]
本例では、表面に油脂が付着した回路基板を密閉可能な容器に移載し、容器内にC13CHCH(試験例7)からなるフッ素系溶剤を導入し、基板を該フッ素系溶剤中に浸漬させた。
容器を密閉し、容器内およびフッ素系溶剤の温度を170℃に昇温するとともに、容器内の圧力が0.5MPaになるように背圧弁で調整した。これによりフッ素系溶剤は高温液体となった。30分後、密閉容器内の温度を一定に保持したままフッ素系溶剤を密閉容器外部へ排出し、容器から基板を取り出した。乾燥は不要であった。
得られた基板は、同じフッ素系溶剤を用い、超音波をかけながら室温で洗浄したものよりも洗浄効果が良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の洗浄方法を実施するのに好適な装置の例を示す概略図である。
【図2】フッ素化合物についての気液平衡曲線の例を示すグラフである。
【図3】本発明の洗浄方法における温度条件とプラズマ重合膜の除去程度の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の洗浄方法における温度条件とプラズマ重合膜の除去程度の関係を示すグラフである。
【図5】本発明の洗浄方法によるプラズマ重合膜の洗浄効果を示す図である。
【図6】本発明の洗浄方法によるプラズマ重合膜の洗浄効果を示す図である。
【図7】プラズマ重合膜の除去工程を説明するための図である。
【図8】従来の基板の洗浄方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0061】
1 基板、
2 密閉容器、
3 フッ素系溶剤(洗浄液)、
4 ヒーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともフッ素化合物を含有する洗浄液に、被洗浄物を浸す浸漬工程を有する洗浄方法であって、
浸漬工程における、前記洗浄液の温度tが、該洗浄液に含まれるフッ素化合物の1気圧における標準沸点または100℃のいずれか低い方の温度以上であり、かつ雰囲気圧力が該温度tにおいて該フッ素化合物が液体状態となる圧力であることを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
前記浸漬工程を、密閉容器内で行うことを特徴とする請求項1記載の洗浄方法。
【請求項3】
前記被洗浄物を、液体状態の前記洗浄液に浸す浸漬工程を行った後、該洗浄液を超臨界流体にする工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
前記フッ素化合物が、炭素数4以上の直鎖または分岐構造のパーフルオロアルキル基を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記被洗浄物が、少なくともフッ素含有ガスを用いたプラズマエッチング工程で発生するプラズマ重合物を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−283651(P2009−283651A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133944(P2008−133944)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】