フラーレン誘導体ならびにそれを用いたフラーレン膜の製造方法および電界効果トランジスタの製造方法
【課題】 置換基が結合していないフラーレンの膜を、蒸着法を用いることなく形成できる新規な方法、およびその方法に用いることができるフラーレン誘導体を提供する。
【解決手段】 フラーレンの膜の製造するための本発明の方法は、(i)環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体と、当該フラーレン誘導体が溶解された溶媒とを含む溶液を調製する工程と、(ii)当該溶液の膜を形成する工程と、(iii)当該膜中のフラーレン誘導体を加熱することによって、フラーレン誘導体のフラーレン骨格に結合した原子団を脱離させてフラーレンとする工程とを含む。
【解決手段】 フラーレンの膜の製造するための本発明の方法は、(i)環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体と、当該フラーレン誘導体が溶解された溶媒とを含む溶液を調製する工程と、(ii)当該溶液の膜を形成する工程と、(iii)当該膜中のフラーレン誘導体を加熱することによって、フラーレン誘導体のフラーレン骨格に結合した原子団を脱離させてフラーレンとする工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒に対する溶解性が高いフラーレン誘導体、およびそれを用いたフラーレン膜の製造方法に関する。また、本発明は、フラーレン膜を能動層とする電界効果トランジスタおよびそれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
C60に代表されるフラーレンは、電子伝導性、半導体性、光導電性等の特性を活かした様々な用途開発が行われている。フラーレンは炭素原子のみから構成された分子であり、水や有機溶媒への溶解性が極めて低い。そのため、フラーレンを溶媒中で別の分子と反応させる場合や、溶液にして膜を塗布形成するような場合に必要とされる濃度の溶液を実現することが難しい。フラーレンの溶解度を高めるために、官能基を導入したフラーレン誘導体が検討されてきた(たとえば特許文献1〜3)。
【0003】
一方、電界効果トランジスタは、アクティブマトリクス型ディスプレイなど、様々な電子機器で用いられている。このような電子機器においてプラスティック基板を用いることによって、軽量でフレキシブルな機器が得られる。しかし、プラスティック基板を用いるためには、低温で半導体層を形成する必要がある。低温形成が可能な半導体材料として、有機半導体が検討されているが、高い特性が得られているものはp形に限られ、n形のもので安定に動作するものはまだ見出されていない。ただし、蒸着によって形成されたフラーレンの薄膜は、n形半導体層として優れた特性を示すことが報告されている。
【特許文献1】特開平8−73426号公報
【特許文献2】特開平9−25246号公報
【特許文献3】特開2004−210773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の方法で形成される膜はフラーレン誘導体の膜であり、純粋なフラーレンの膜と比較して本来の特性が損なわれる場合がある。特に、隣り合うフラーレン分子のπ電子の相互作用によって発揮される導電性については、官能基の影響でその特性が著しく劣化する場合がある。一方、置換基が結合していないフラーレンの膜を形成する方法は、従来、蒸着法に限られており、真空装置が必要である、大面積化が難しい、といった制限があった。
【0005】
このような状況を考慮し、本発明は、置換基が結合していないフラーレンの膜を、蒸着法を用いることなく形成できる新規な方法、およびその方法に用いることができるフラーレン誘導体を提供することを目的の1つとする。また、本発明は、上記方法を用いて電界効果トランジスタを製造する方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のフラーレン誘導体は、環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の前記共役ジエン系と、フラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体である。このフラーレン誘導体は、加熱によって簡単にフラーレンにすることができる。そのため、本発明のフラーレン膜の製造方法に好ましく用いられる。なお、この明細書において、「フラーレン」とは、フラーレン骨格に他の原子団が結合していないフラーレン(たとえばC60、C70、C80)を意味し、「フラーレン誘導体」とは、フラーレン骨格に他の原子団が結合しているフラーレンを意味する。
【0007】
また、フラーレン膜を製造するための本発明の方法は、
(i)環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の前記共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体と、前記フラーレン誘導体が溶解された溶媒とを含む溶液を調製する工程と、
(ii)前記溶液の膜を形成する工程と、
(iii)前記膜中の前記フラーレン誘導体を加熱することによって、前記フラーレン誘導体のフラーレン骨格に結合した原子団を脱離させてフラーレンとする工程とを含む。この製造方法によれば、蒸着法でしか形成することができなかったフラーレン膜を、塗布法などによって形成できる。このような製造方法を用いることによって、フラーレンによって構成される半導体層を、低温で大面積に簡単に形成できる。
【0008】
また、電界効果トランジスタを製造するための本発明の方法は、基板上に、チャネル領域として機能する半導体層を備える電界効果トランジスタを製造する製造方法であって、上記本発明の製造方法によって前記半導体層となるフラーレン膜を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフラーレン誘導体およびフラーレン膜の製造方法によれば、置換基が結合していないフラーレンの膜を塗布プロセスによって形成できる。また、本発明のフラーレン膜の製造方法を用いることによって、半導体層としてフラーレン膜を含む半導体素子を簡単に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、以下の説明では、特定の機能を発揮する化合物として具体的な化合物を例示する場合があるが、本発明はそれらの化合物に限定されない。また、以下で説明する化合物は、通常、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。また、以下の説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
【0011】
<フラーレン誘導体>
本発明のフラーレン誘導体は、環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の共役ジエン系と、フラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体である。以下、上記環式化合物を「環式化合物A」という場合がある。本発明のフラーレン誘導体では、環式化合物Aに由来する原子団がフラーレン骨格に結合しているため、有機溶媒に対する溶解度が、原子団(置換基)が結合していないフラーレンよりも高い。また、フラーレン骨格に結合している原子団は、比較的低い温度での加熱によって簡単に脱離させることができる。そのため、本発明のフラーレン誘導体は、塗布法によってフラーレン膜を形成する場合の材料に適している。
【0012】
環式化合物Aと反応するフラーレンの二重結合は、通常、フラーレンの2つの6員環に共有されている二重結合である。この二重結合(π結合)は、ディールス・アルダー反応(Diels−Alder reaction)によって共役ジエン系と容易に反応し、橋かけ構造を有する6員環を形成する。換言すれば、本発明のフラーレン誘導体は、環式化合物Aの共役ジエン部分のπ結合が切れて、フラーレンに[6,6]付加することによって得られるフラーレン誘導体である。
【0013】
フラーレンとしては、C60、C70、C80などのフラーレンを用いてもよい。また、これらのフラーレンの内部に金属が添加された金属内包フラーレンを用いてもよい。これらの中でも、C60をベースとしたものは、C60の大量合成法が発見され比較的安価に入手可能であることから工業利用上の利点がある。
【0014】
環式化合物Aは、単環式化合物の化合物であってもよい。また、環式化合物Aは、多環式の化合物であってもよい。環式化合物Aが多環式の化合物である場合、その環は縮合環であってもよいし、縮合環でなくてもよい。
【0015】
環式化合物Aの環状構造は、フラーレンの二重結合と反応しやすいものである限り特に限定はない。環式化合物Aの環状構造は、たとえば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、といった環式化合物の環状構造であってもよい。
【0016】
環式化合物Aの環には、置換基が結合していてもよい。適切な置換基を導入することによって、有機溶媒に対するフラーレン誘導体の溶解度を高めることができる。置換基は、たとえば、アルキル基(1級、2級、3級アルキル基)、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、エーテル基、およびエステル基から選ばれる少なくとも1つの基であってもよい。これらの基には、1つまたは複数の官能基が導入されていてもよい。官能基は、たとえば、ヒドロキシル基、3級アミンおよびスルフィドから選ばれる少なくとも1つの官能基であってもよい。一例では、置換基の鎖長は、0.5nm〜2.2nm(たとえば1nm〜2nm)の範囲であってもよい。また、一例では、置換基に含まれる炭素数は、5〜20(たとえば9〜16)の範囲であってもよい。一般的に、置換基の鎖長が長いほど、有機溶媒へのフラーレン誘導体の溶解性が増す傾向がある。置換基の鎖長が長いと、フラーレン誘導体から脱離させた環式化合物をフラーレン膜から除去しにくくなる。そのため、それらを考慮して置換基を選択することが好ましい。
【0017】
置換基の具体例としては、たとえば、(CH2)nCH3、CH2Si[(CH2)nCH3]3、CH2(OCH2CH2)nOCH3、CH2CH2(CF2)nCF3などが挙げられる(nは、たとえば4〜18の範囲)。上述した環状構造の具体例にこれらの置換基を導入し、環式化合物Aとして用いることができる。
【0018】
<フラーレン膜の製造方法>
本発明のフラーレン膜の製造方法は、以下の工程を含む。なお、この製造方法で形成されるフラーレン膜は、フラーレン骨格に原子団が結合していないフラーレンを主要構成要素とする膜であるが、脱離した原子団の残渣や、少量のフラーレン誘導体を含んでもよい。本発明の製造方法で製造されるフラーレン膜のうち、フラーレン骨格に原子団が結合していないフラーレンの割合は、通常50質量%以上であり、たとえば60質量%以上、または70質量%以上、または80質量%以上、または90質量%以上、または95質量%以上、または99質量%以上である。
【0019】
工程(i)では、フラーレン誘導体と、フラーレン誘導体が溶解された溶媒とを含む溶液を調製する。このフラーレン誘導体は、上述したフラーレン誘導体、すなわち、環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体である。溶媒には、フラーレン誘導体を溶解できる有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、たとえば、キシレンやトルエンなどの芳香族、クロロベンゼンやクロロホルムなどのハロゲン系炭化水素類、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテルを用いてもよい。
【0020】
次に、上記溶液の膜を形成する(工程(ii))。この膜の形成方法に特に限定はなく、たとえば溶液を物体(たとえば基板)に塗布することによって形成できる。溶液の塗布の方法に限定はなく、たとえばスピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法を用いてもよい。その際、フラーレン誘導体の溶液の濃度は、塗布方法や、形成する膜の厚さに応じて調整すればよい。
【0021】
次に、上記膜中のフラーレン誘導体を加熱することによって、フラーレン誘導体のフラーレン骨格に結合した原子団を脱離させてフラーレンとする(工程(iii))。フラーレン誘導体を加熱すると、レトロ・ディールス・アルダー反応(retro Diels−Alder reaction)が生じ、フラーレン骨格に結合した原子団が脱離する。この原子団は、通常、フラーレン骨格から脱離して環式化合物Aとなる。レトロ・ディールス・アルダー反応は比較的低温で起こさせることができる。そのため、工程(iii)における加熱温度は、60℃〜200℃(たとえば60℃〜80℃)程度であってもよい。加熱処理は、たとえば、膜が形成されている物体ごと加熱することによって行えばよい。
【0022】
本発明の製造方法では、原子団の脱離が生じる温度よりも溶媒の沸点の方が高くてもよい。その場合、(iii)の工程ののちに、膜から溶媒を除去する工程をさらに含んでもよい。この構成では、原子団が脱離してから溶媒が除去される。そのため、フラーレン膜に含まれるフラーレン以外の物質(たとえば環式化合物A)の割合を低減できる。
【0023】
また、本発明の製造方法では、(iii)の工程における加熱によって膜から溶媒を除去してもよい。この場合、レトロ・ディールス・アルダー反応と、溶媒の除去とが同時に行われる。
【0024】
また、本発明の製造方法では、(iii)の工程の前に、膜から溶媒を除去する工程を含んでもよい。この場合、固体状の膜においてレトロ・ディールス・アルダー反応を生じさせる。
【0025】
本発明の製造方法では、上記(i)の工程の前に、環式化合物(環式化合物A)の共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによってフラーレン誘導体を形成する工程をさらに含んでもよい。この反応は、Diels−Alder反応であり、比較的簡単に起こさせることができる。たとえば、環式化合物Aとフラーレンとを溶媒(分散媒)中で混合することによって両者を反応させることができる。溶媒には、たとえば、キシレンやトルエンなどの芳香族、クロロベンゼンやクロロホルムなどのハロゲン系炭化水素類、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテルを用いることができる。なお、環式化合物Aを溶解させた溶液中に、フラーレンを徐々に加えていってもよい。
【0026】
一例では、環式化合物Aとフラーレンとをクロロホルムに混入し、室温で48時間還流させる。未反応のフラーレンはクロロホルムに溶解せずに沈殿するため、未反応のフラーレンを除去することによって、フラーレン誘導体が溶解した溶液が得られる。その後、フラーレン誘導体がレトロ・ディールス・アルダー反応を起こす温度よりも低い温度でクロロホルムを蒸発させればよい。
【0027】
フラーレン誘導体を合成する場合、通常、1つの環式化合物Aと反応するフラーレン、複数の環式化合物Aと反応するフラーレン、および環式化合物Aと反応しないフラーレンが存在する。フラーレンと環式化合物Aとの混合比を変えることによって、1つのフラーレンと反応する環式化合物Aの平均個数を変化させることができる。
【0028】
<電界効果トランジスタの製造方法>
本発明の電界効果トランジスタの製造方法は、基板上に、チャネル領域として機能する半導体層(能動層)を備える電界効果トランジスタを製造する方法である。この製造方法では、上記本発明のフラーレン膜の製造方法によって、半導体層(能動層)となるフラーレン膜を形成する工程を含む。
【0029】
本発明の製造方法では、上記基板が高分子材料からなる基板であってもよい。本発明の方法では、蒸着法を用いずにフラーレン膜を形成できるため、耐熱性が低い高分子材料からなる基板を用いることが可能である。高分子材料としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(以下PETという場合がある)、ポリエチレンナフタレート(以下PENという場合がある)、ポリイミドなどが挙げられる。
【0030】
なお、本発明のフラーレン膜の製造方法は、電界効果トランジスタ以外の半導体素子の半導体層の形成に適用することが可能である。半導体素子の種類に限定はなく、たとえば、センサー、太陽電池、生体機能素子などが挙げられる。
【0031】
<フラーレン誘導体の例>
本発明のフラーレン誘導体の例を図1(a)〜(d)に示す。図1(a)〜(d)のフラーレン誘導体は、トルエンやキシレン等の芳香族化合物や、クロロベンゼンやクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類や、テトラヒドロフランやジエチルエーテル等のエーテル類等の有機溶媒に対して、溶媒1cm3あたり5mg以上の溶解度を示す。
【0032】
図1(a)〜(d)のフラーレン誘導体は、それぞれ図2(a)〜(d)に示すDiels−Alder反応によって合成できる。たとえば、図1(a)のフラーレン誘導体は、置換基R1が導入されたシクロペンタジエンとフラーレンとを室温下で反応させることによって合成できる。具体的には、フラーレンと図2(a)の環式化合物Aとを、クロロホルムに混入し、室温で48時間還流させればよい。この反応では、シクロペンタジエンの共役ジエン系と、フラーレンのπ結合とが反応して6員環が形成される。図1(b)〜(d)のフラーレン誘導体も、図1(a)のフラーレン誘導体と同様の方法で合成できる。
【0033】
図2(a)〜(d)に示す環式化合物Aは、公知の方法によって合成できる。たとえば、図1(a)のシクロペンタジエン誘導体は、図3(a)に示す反応によって合成できる。図3(a)の反応の出発材料はアルドリッチから入手できる。上段の反応は公知の反応である(Organometallics, 22(4)877-878, 2002)。下段の反応も公知の反応である(Chemische Berichte, 121(9)1541-52, 1988)。
【0034】
環式化合物Aの共役ジエン系とフラーレンとの反応を図3(b)に模式的に示す。なお、図3(b)には、環式化合物Aの環状部分と、フラーレンの二重結合のみを示す。環式化合物AのRは、環の一部を示す。環式化合物Aの共役ジエン系とフラーレンの二重結合31とが反応すると、6員環が形成される。この6員環の一部、具体的には反応前に共役ジエン系が存在した部分の中央の結合部には、二重結合が存在する。また、この6員環には、「−R−」で表される橋かけ構造が存在する。このように、環式化合物Aとフラーレンの二重結合とを反応させることによって、橋かけ構造を有する6員環が形成される。
【0035】
図1(a)〜(d)のフラーレン誘導体を60〜80℃程度の比較的低い温度で加熱処理すると、retro Diels−Alder反応が起こり、図2で導入した環式化合物Aがフラーレン誘導体から脱離する。その結果、フラーレン誘導体をフラーレンに戻すことができる。
【0036】
なお、図1および図2には、1つのフラーレンに対して1つの環式化合物Aが反応した場合を示しているが、1つのフラーレンに対して複数の環式化合物が付加してもよい。
【0037】
<フラーレン膜の製造例>
以下に、図1(a)〜(d)で示したフラーレン誘導体を用いてフラーレン膜を形成する例について具体的に説明する。なお、本発明は以下の具体例に限定されない。
【0038】
まず、図1(a)のフラーレン誘導体をキシレンに1cm3あたり10mgの割合で溶解する。次に、乾燥窒素雰囲気下において、ガラス基板上に上記溶液をスピンコート法で塗布し、膜を形成する。次に、そのガラス基板をホットプレート上において80℃で1時間加熱して乾燥させる。このようにして、フラーレンの薄膜をガラス基板上に形成する。同様に、図1(b)〜図1(d)のフラーレン誘導体を出発材料として、フラーレンの薄膜を形成できる。
【0039】
<電界効果トランジスタの一例>
以下、本発明の電界効果トランジスタおよびそれを用いたCMOSについて説明する。これらの素子の能動層は、フラーレン膜を製造するための上記本発明の方法を用いて形成される。なお、以下の図では、能動層以外のハッチングを省略する。
【0040】
図4(a)〜(d)は、本発明の電界効果トランジスタ(FET)の代表的な例を模式的に示す断面図である。図4(a)〜(d)に示すように、電界効果トランジスタには様々な構成が存在する。図4(a)〜(d)のFET300a〜300dは、基板31、ゲート電極32、ゲート絶縁層33、半導体層34、ソース電極35、およびドレイン電極36を備える。半導体層34は能動層として機能する。ソース電極35およびドレイン電極36は、通常、半導体層34に直接接触しているが、両者の界面に、接続抵抗を低減するための層などが配置されていてもよい。
【0041】
ゲート電極32は、通常、ゲート絶縁層33を挟んで半導体層34と対向している。ゲート電極32は、少なくともチャネル領域、すなわちソース電極35とドレイン電極36との間の半導体層34に電界を印加する電極である。ゲート電極32によって半導体層34に印加される電界により、ソース電極35とドレイン電極36との間を流れる電流が制御される。
【0042】
電界効果トランジスタは、図5(a)および(b)のような縦型の構造であってもよい。図5(a)のFET300eおよび図5(b)のFET300fでは、ソース電極35とドレイン電極36とが半導体層34を膜厚方向に挟んで対向している。
【0043】
基板31を構成する材料に特に限定はない。基板31として、高分子材料からなるフィルム、たとえば、PETや、PEN、ポリイミドなどからなるフィルムを用いてもよい。高分子材料からなる基板を用いることによって、フレキシブルで軽量な電界効果トランジスタが得られる。ただし、ガラス基板やシリコン基板などの無機材料からなる基板を用いてもよい。
【0044】
ゲート電極32は、導電性材料で形成でき、たとえば、Niなどの金属や導電性の高分子材料で形成してもよい。ソース電極35およびドレイン電極36は、導電性材料で形成でき、たとえば、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Pdといった金属や、導電性の高分子材料で形成してもよい。ゲート電極32、ソース電極35およびドレイン電極36は公知の方法で形成でき、たとえばマスクを用いた蒸着法や、フォトリソ・エッチング法によって形成してもよい。また、上記電極は、導電性高分子を印刷することによって形成してもよい。
【0045】
ゲート絶縁層33は、絶縁性の材料で形成でき、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリイミドといった有機材料や、SiO2やTa2O5といった絶縁性の無機酸化物で形成してもよい。ゲート絶縁層33は、スピンコート法や蒸着法といった公知の方法で形成できる。
【0046】
半導体層34は、本発明のフラーレン膜形成方法によって形成される。半導体層34は、C60、C70、C80などのフラーレンや、金属内包フラーレン等で形成される。
【0047】
以下に、図4(b)のFET300bを例に挙げて、本発明の電界効果トランジスタの製造方法について、実施可能な例を説明する。なお、以下で説明する各部分の材料および形成方法は一例であり、本発明は以下の例に限定されない。
【0048】
まず、PETからなる基板31(厚みがたとえば100μm)上に、マスク蒸着によってNiからなるゲート電極32(厚みがたとえば100nm)を形成する。次に、ポリビニルアルコールの水溶液をスピンコート法によって塗布したのち乾燥させ、ゲート絶縁層33(厚みがたとえば500nm)を形成する。次に、ゲート絶縁層33上に、マスク蒸着によって、Auからなるソース電極35およびドレイン電極36(それぞれ厚みがたとえば100nm)を形成する。
【0049】
次に、上述した本発明の方法によって半導体層(フラーレン膜)34を形成する。まず、最初に図1(a)のフラーレン誘導体をクロロホルムに1cm3あたり5mgの割合で溶解させる。次に、乾燥窒素雰囲気下において、ゲート絶縁層33、ソース電極35およびドレイン電極36を覆うように、上記溶液をスピンコート法によって塗布する。クロロホルムは揮発性が高いので、溶液の塗布終了時にクロロホルムはほぼ蒸発して除去され、フラーレン誘導体の膜が形成される。次に、フラーレン誘導体の膜が形成された基板を、ホットプレート上において80℃で1時間加熱することによって、ジエン化合物を脱離させてフラーレン誘導体をフラーレンとする。このようにして、フラーレン膜である半導体層34を形成し、FET300bを得る。
【0050】
<電界効果トランジスタを用いたCMOSの一例>
以下に、p形MOSトランジスタとn形MOSトランジスタとを組み合わせたCMOSの代表的な例について説明する。n形MOSトランジスタは、上述した電界効果トランジスタであり、フラーレンの膜を能動層として含む。
【0051】
図6(a)は、CMOSインバータを模式的に示す断面図であり、図6(b)は、その回路図である。図6(a)のCMOSインバータ600は、nMOS610とpMOS620とによって構成されている。
【0052】
CMOSインバータ600は、基板61、ゲート電極62、ゲート絶縁層63、nMOS610の半導体層64n、pMOS620の半導体層64p、電極65、66および67を備える。図6(a)において、nMOS610のゲート電極62とpMOS620のゲート電極62とは分離しているが、図6(b)に示すように接続されてインバータの入力線に接続される。電極65はnMOS610のソース電極として、図6(b)に示すように接地される。電極67は、nMOS610のドレイン電極とpMOS620のドレイン電極を兼ね、図6(b)に示すようにインバータの出力線に接続される。電極66はpMOS620のソース電極として、図6(b)に示すようにインバータのバイアス電圧供給線に接続される。半導体層64nはn形の能動層として、半導体層64pはp形の能動層としてそれぞれ機能する。電極65、66および67は、通常、半導体層64n、64pに直接接触しているが、両者の界面に、接続抵抗を低減するための層などが配置されていてもよい。
【0053】
ゲート電極62は、通常、ゲート絶縁層63を挟んで半導体層64nおよび64pと対向している。ゲート電極62は、少なくともチャネル領域、すなわち電極65と電極67との間の半導体層64n、および電極66と電極67との間の半導体層64pに電界を印加する電極である。半導体層64n、64pに印加される電界によって、各電極間に流れる電流が制御される。
【0054】
基板61、ゲート電極62、電極65、66および67、ゲート絶縁層63、および半導体層64nを構成する材料、形成方法は、電界効果トランジスタについて説明した材料、形成方法から選択できる。半導体層64pは、塗布によって形成可能なp形半導体で形成できる。例えば、ポリ(3−アルキルチオフェン)や、ポリ(9,9’−ジオクチルフルオレンコビチオフェン)、ポリアセチレン、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)などの高分子系材料で形成してもよい。また、ペンタセンなどの低分子系材料に官能基を導入して有機溶媒に可溶とした化合物などで形成してもよい。
【0055】
図6(a)の本発明のCMOSインバータの製造方法について、以下に、実施可能な例を説明する。
【0056】
まず、PETからなる基板61(厚みがたとえば100μm)上に、マスク蒸着によってNiからなるゲート電極62(厚みがたとえば100nm)を形成する。次に、ポリビニルアルコールの水溶液をスピンコート法によって塗布したのち乾燥させ、ゲート絶縁層63(厚みがたとえば500nm)を形成する。次に、ゲート絶縁層63上に、マスク蒸着によって、Auからなる電極65、66、67(それぞれ厚みがたとえば100nm)を形成する。
【0057】
次に、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)をキシレンに1cm3あたり10mgの割合で溶解させた溶液と、図1(b)のフラーレン誘導体をキシレンに1cm3あたり10mgの割合で溶解させた溶液とを用意し、ディスペンサーを用いてそれぞれの溶液を所定の位置に塗布し、成膜する。次いで、基板ごと、ホットプレート上において1時間80℃で加熱する。この熱処理によって、キシレンを蒸発させてポリ(3−ヘキシルチオフェン)膜を形成するとともに、フラーレン誘導体から、図2(b)に示す原子団を除去してフラーレンの膜を形成する。
【0058】
以上のようにして得られるCMOSインバータは図6(b)中のINへの1,0の信号入力に対し、OUTへの0,1の信号出力をするインバータ回路として動作する。
【0059】
なお、ここではCMOSを用いた論理回路としてインバータ回路(NOT)を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。NANDやNORなどのその他の論理回路を構成することも可能であるし、これらを組み合わせた回路を構成することも可能である。
【0060】
<電子機器>
上記本発明の製造方法で製造される電界効果トランジスタは、電気回路に組み込むことができる。その電気回路は、電界効果トランジスタを製造するための本発明の製造方法を含む製造工程によって製造できる。その電気回路は、電子機器などに用いられる。その電子機器に特に限定はなく、たとえば、PDA端末や、ウエアラブルなAV機器、ポータブルなコンピュータ、腕時計タイプの通信機器、ディスプレイ、無線IDタグ、および携行用機器が挙げられる。以下に、アクティブマトリクス型ディスプレイ、無線IDタグ、および携行用機器の一例について説明する。
【0061】
アクティブマトリクス型ディスプレイの一例として、表示部に有機ELを用いたディスプレイについて説明する。ディスプレイの構成を模式的に示す一部分解斜視図を、図7に示す。
【0062】
図7に示すディスプレイは、プラスティック基板71上にアレイ状に配置された駆動回路70を備える。駆動回路70はスイッチング用FETを含み、画素電極に接続されている。駆動回路70の上には、有機EL層72、透明電極73および保護フィルム74が配置されている。有機EL層72は、電子輸送層、発光層および正孔輸送層といった複数の層が積層された構造を有する。各FETの電極に接続されたソース電極線75とゲート電極線76とは、それぞれ、ソースドライバ、ゲートドライバ(図示せず)へ接続される。
【0063】
ソースドライバ、ゲートドライバ用のシフトレジスタとして上述した説明したCMOSを用いた論理回路が適用される。
【0064】
このように、上述したCMOSを用いた論理回路を用いてアクティブマトリクス型のディスプレイを構成することによって、ドライバ回路も含めてフレキシブル基板上に形成することができ、シートライクなディスプレイを実現できる。
【0065】
次に、無線IDタグの一例について説明する。無線IDタグの一例の斜視図を、図8に模式的に示す。
【0066】
図8に示すように、無線IDタグ80は、フィルム状のプラスティック基板81を基板として使用している。この基板81上には、アンテナ部82、メモリーIC部83、電源再生回路84、メモリレジスタ85、および制御回路86が設けられている。メモリレジスタ85は、上述したCMOSを用いた論理回路を利用して構成されている。無線IDタグ80は、基板の裏面に粘着効果を持たせることによって、菓子袋やドリンク缶のような平坦でないものに貼り付けることが可能である。なお、無線IDタグは、基板上に形成するのではなく、インクジェット印刷のような方法を用いて対象物に直接形成してもよい。その場合も、本発明の製造方法を用いることによって、様々な素材へ無線IDタグを直接、低コストで製造できる。
【0067】
次に、携行用機器の例として、3つの携行用機器を図9〜図11に示す。図9に示す携帯テレビ90は、表示装置91、受信装置92、側面スイッチ93、前面スイッチ94、音声出力部95、入出力装置96、記録メディア挿入部97を備える。CMOSを用いた論理回路を含む集積回路は、携帯テレビ90を構成する演算素子や記憶素子やスイッチング素子などの素子を含む回路として使用される。
【0068】
図10に示す通信端末100は、表示装置101、送受信装置102、音声出力部103、カメラ部104、折りたたみ用可動部105、操作スイッチ106、および音声入力部107を備える。CMOSを用いた論理回路を含む集積回路は、通信端末100を構成する演算素子や記憶素子やスイッチング素子などの素子を含む回路として使用される。
【0069】
図11に示す携帯用医療機器110は、表示装置111、操作スイッチ112、医療的処置部113、および経皮コンタクト部114を備える。携帯用医療機器110は、例えば腕115などに巻き付けられて携行される。医療的処置部113は、経皮コンタクト部114から得られる生態情報を処理し、それに応じて経皮コンタクト部114を通じて薬物投与などの医療的処置を行う部分である。本発明によるCMOSを用いた論理回路を含む集積回路は、携帯用医療機器110を構成する演算素子や記憶素子やスイッチング素子などの素子を含む回路として使用される。
【0070】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、フラーレンの膜の形成に適用できる。また、本発明のフラーレン膜製造方法は、電界効果トランジスタなどの半導体素子の製造に適用できる。本発明は、さらに、CMOSを用いた論理回路、およびそれらの論理回路を備えた各種の電子機器に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のフラーレン誘導体の一例の構造を示す図である。
【図2】本発明のフラーレン誘導体の合成方法の一例を示す図である。
【図3】(a)本発明の製造方法で用いられる環式化合物Aの合成方法の一例を示す図、および(b)環式化合物Aの反応を模式的に示す図である。
【図4】本発明の電界効果トランジスタの一例の構成を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の電界効果トランジスタの他の例の構成を模式的に示す断面図である。
【図6】(a)本発明のCMOSの構成を模式的に示す断面図、および(b)本発明のCMOSの構成を示す回路図である。
【図7】アクティブマトリクス型ディスプレイの一例を模式的に示す一部分解斜視図である。
【図8】無線IDタグの一例の構成を模式的に示す斜視図である。
【図9】携帯テレビの一例の構成を模式的に示す斜視図である。
【図10】通信端末の一例の構成を模式的に示す斜視図である。
【図11】携帯用医療機器の一例を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
31 基板
32、62 ゲート電極
33、63 ゲート絶縁層
34、64n、64p 半導体層
35 ソース電極
36 ドレイン電極
61 基板
65、66、67 電極
80 無線IDタグ
90 携帯テレビ
190 通信端末
100 携帯用医療機器
110 表示装置
300a〜f FET
600 CMOS
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒に対する溶解性が高いフラーレン誘導体、およびそれを用いたフラーレン膜の製造方法に関する。また、本発明は、フラーレン膜を能動層とする電界効果トランジスタおよびそれを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
C60に代表されるフラーレンは、電子伝導性、半導体性、光導電性等の特性を活かした様々な用途開発が行われている。フラーレンは炭素原子のみから構成された分子であり、水や有機溶媒への溶解性が極めて低い。そのため、フラーレンを溶媒中で別の分子と反応させる場合や、溶液にして膜を塗布形成するような場合に必要とされる濃度の溶液を実現することが難しい。フラーレンの溶解度を高めるために、官能基を導入したフラーレン誘導体が検討されてきた(たとえば特許文献1〜3)。
【0003】
一方、電界効果トランジスタは、アクティブマトリクス型ディスプレイなど、様々な電子機器で用いられている。このような電子機器においてプラスティック基板を用いることによって、軽量でフレキシブルな機器が得られる。しかし、プラスティック基板を用いるためには、低温で半導体層を形成する必要がある。低温形成が可能な半導体材料として、有機半導体が検討されているが、高い特性が得られているものはp形に限られ、n形のもので安定に動作するものはまだ見出されていない。ただし、蒸着によって形成されたフラーレンの薄膜は、n形半導体層として優れた特性を示すことが報告されている。
【特許文献1】特開平8−73426号公報
【特許文献2】特開平9−25246号公報
【特許文献3】特開2004−210773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の方法で形成される膜はフラーレン誘導体の膜であり、純粋なフラーレンの膜と比較して本来の特性が損なわれる場合がある。特に、隣り合うフラーレン分子のπ電子の相互作用によって発揮される導電性については、官能基の影響でその特性が著しく劣化する場合がある。一方、置換基が結合していないフラーレンの膜を形成する方法は、従来、蒸着法に限られており、真空装置が必要である、大面積化が難しい、といった制限があった。
【0005】
このような状況を考慮し、本発明は、置換基が結合していないフラーレンの膜を、蒸着法を用いることなく形成できる新規な方法、およびその方法に用いることができるフラーレン誘導体を提供することを目的の1つとする。また、本発明は、上記方法を用いて電界効果トランジスタを製造する方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のフラーレン誘導体は、環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の前記共役ジエン系と、フラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体である。このフラーレン誘導体は、加熱によって簡単にフラーレンにすることができる。そのため、本発明のフラーレン膜の製造方法に好ましく用いられる。なお、この明細書において、「フラーレン」とは、フラーレン骨格に他の原子団が結合していないフラーレン(たとえばC60、C70、C80)を意味し、「フラーレン誘導体」とは、フラーレン骨格に他の原子団が結合しているフラーレンを意味する。
【0007】
また、フラーレン膜を製造するための本発明の方法は、
(i)環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の前記共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体と、前記フラーレン誘導体が溶解された溶媒とを含む溶液を調製する工程と、
(ii)前記溶液の膜を形成する工程と、
(iii)前記膜中の前記フラーレン誘導体を加熱することによって、前記フラーレン誘導体のフラーレン骨格に結合した原子団を脱離させてフラーレンとする工程とを含む。この製造方法によれば、蒸着法でしか形成することができなかったフラーレン膜を、塗布法などによって形成できる。このような製造方法を用いることによって、フラーレンによって構成される半導体層を、低温で大面積に簡単に形成できる。
【0008】
また、電界効果トランジスタを製造するための本発明の方法は、基板上に、チャネル領域として機能する半導体層を備える電界効果トランジスタを製造する製造方法であって、上記本発明の製造方法によって前記半導体層となるフラーレン膜を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明のフラーレン誘導体およびフラーレン膜の製造方法によれば、置換基が結合していないフラーレンの膜を塗布プロセスによって形成できる。また、本発明のフラーレン膜の製造方法を用いることによって、半導体層としてフラーレン膜を含む半導体素子を簡単に形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明する。なお、以下の説明では、特定の機能を発揮する化合物として具体的な化合物を例示する場合があるが、本発明はそれらの化合物に限定されない。また、以下で説明する化合物は、通常、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。また、以下の説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
【0011】
<フラーレン誘導体>
本発明のフラーレン誘導体は、環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の共役ジエン系と、フラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体である。以下、上記環式化合物を「環式化合物A」という場合がある。本発明のフラーレン誘導体では、環式化合物Aに由来する原子団がフラーレン骨格に結合しているため、有機溶媒に対する溶解度が、原子団(置換基)が結合していないフラーレンよりも高い。また、フラーレン骨格に結合している原子団は、比較的低い温度での加熱によって簡単に脱離させることができる。そのため、本発明のフラーレン誘導体は、塗布法によってフラーレン膜を形成する場合の材料に適している。
【0012】
環式化合物Aと反応するフラーレンの二重結合は、通常、フラーレンの2つの6員環に共有されている二重結合である。この二重結合(π結合)は、ディールス・アルダー反応(Diels−Alder reaction)によって共役ジエン系と容易に反応し、橋かけ構造を有する6員環を形成する。換言すれば、本発明のフラーレン誘導体は、環式化合物Aの共役ジエン部分のπ結合が切れて、フラーレンに[6,6]付加することによって得られるフラーレン誘導体である。
【0013】
フラーレンとしては、C60、C70、C80などのフラーレンを用いてもよい。また、これらのフラーレンの内部に金属が添加された金属内包フラーレンを用いてもよい。これらの中でも、C60をベースとしたものは、C60の大量合成法が発見され比較的安価に入手可能であることから工業利用上の利点がある。
【0014】
環式化合物Aは、単環式化合物の化合物であってもよい。また、環式化合物Aは、多環式の化合物であってもよい。環式化合物Aが多環式の化合物である場合、その環は縮合環であってもよいし、縮合環でなくてもよい。
【0015】
環式化合物Aの環状構造は、フラーレンの二重結合と反応しやすいものである限り特に限定はない。環式化合物Aの環状構造は、たとえば、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、といった環式化合物の環状構造であってもよい。
【0016】
環式化合物Aの環には、置換基が結合していてもよい。適切な置換基を導入することによって、有機溶媒に対するフラーレン誘導体の溶解度を高めることができる。置換基は、たとえば、アルキル基(1級、2級、3級アルキル基)、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、エーテル基、およびエステル基から選ばれる少なくとも1つの基であってもよい。これらの基には、1つまたは複数の官能基が導入されていてもよい。官能基は、たとえば、ヒドロキシル基、3級アミンおよびスルフィドから選ばれる少なくとも1つの官能基であってもよい。一例では、置換基の鎖長は、0.5nm〜2.2nm(たとえば1nm〜2nm)の範囲であってもよい。また、一例では、置換基に含まれる炭素数は、5〜20(たとえば9〜16)の範囲であってもよい。一般的に、置換基の鎖長が長いほど、有機溶媒へのフラーレン誘導体の溶解性が増す傾向がある。置換基の鎖長が長いと、フラーレン誘導体から脱離させた環式化合物をフラーレン膜から除去しにくくなる。そのため、それらを考慮して置換基を選択することが好ましい。
【0017】
置換基の具体例としては、たとえば、(CH2)nCH3、CH2Si[(CH2)nCH3]3、CH2(OCH2CH2)nOCH3、CH2CH2(CF2)nCF3などが挙げられる(nは、たとえば4〜18の範囲)。上述した環状構造の具体例にこれらの置換基を導入し、環式化合物Aとして用いることができる。
【0018】
<フラーレン膜の製造方法>
本発明のフラーレン膜の製造方法は、以下の工程を含む。なお、この製造方法で形成されるフラーレン膜は、フラーレン骨格に原子団が結合していないフラーレンを主要構成要素とする膜であるが、脱離した原子団の残渣や、少量のフラーレン誘導体を含んでもよい。本発明の製造方法で製造されるフラーレン膜のうち、フラーレン骨格に原子団が結合していないフラーレンの割合は、通常50質量%以上であり、たとえば60質量%以上、または70質量%以上、または80質量%以上、または90質量%以上、または95質量%以上、または99質量%以上である。
【0019】
工程(i)では、フラーレン誘導体と、フラーレン誘導体が溶解された溶媒とを含む溶液を調製する。このフラーレン誘導体は、上述したフラーレン誘導体、すなわち、環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体である。溶媒には、フラーレン誘導体を溶解できる有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、たとえば、キシレンやトルエンなどの芳香族、クロロベンゼンやクロロホルムなどのハロゲン系炭化水素類、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテルを用いてもよい。
【0020】
次に、上記溶液の膜を形成する(工程(ii))。この膜の形成方法に特に限定はなく、たとえば溶液を物体(たとえば基板)に塗布することによって形成できる。溶液の塗布の方法に限定はなく、たとえばスピンコート法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法を用いてもよい。その際、フラーレン誘導体の溶液の濃度は、塗布方法や、形成する膜の厚さに応じて調整すればよい。
【0021】
次に、上記膜中のフラーレン誘導体を加熱することによって、フラーレン誘導体のフラーレン骨格に結合した原子団を脱離させてフラーレンとする(工程(iii))。フラーレン誘導体を加熱すると、レトロ・ディールス・アルダー反応(retro Diels−Alder reaction)が生じ、フラーレン骨格に結合した原子団が脱離する。この原子団は、通常、フラーレン骨格から脱離して環式化合物Aとなる。レトロ・ディールス・アルダー反応は比較的低温で起こさせることができる。そのため、工程(iii)における加熱温度は、60℃〜200℃(たとえば60℃〜80℃)程度であってもよい。加熱処理は、たとえば、膜が形成されている物体ごと加熱することによって行えばよい。
【0022】
本発明の製造方法では、原子団の脱離が生じる温度よりも溶媒の沸点の方が高くてもよい。その場合、(iii)の工程ののちに、膜から溶媒を除去する工程をさらに含んでもよい。この構成では、原子団が脱離してから溶媒が除去される。そのため、フラーレン膜に含まれるフラーレン以外の物質(たとえば環式化合物A)の割合を低減できる。
【0023】
また、本発明の製造方法では、(iii)の工程における加熱によって膜から溶媒を除去してもよい。この場合、レトロ・ディールス・アルダー反応と、溶媒の除去とが同時に行われる。
【0024】
また、本発明の製造方法では、(iii)の工程の前に、膜から溶媒を除去する工程を含んでもよい。この場合、固体状の膜においてレトロ・ディールス・アルダー反応を生じさせる。
【0025】
本発明の製造方法では、上記(i)の工程の前に、環式化合物(環式化合物A)の共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによってフラーレン誘導体を形成する工程をさらに含んでもよい。この反応は、Diels−Alder反応であり、比較的簡単に起こさせることができる。たとえば、環式化合物Aとフラーレンとを溶媒(分散媒)中で混合することによって両者を反応させることができる。溶媒には、たとえば、キシレンやトルエンなどの芳香族、クロロベンゼンやクロロホルムなどのハロゲン系炭化水素類、テトラヒドロフランやジエチルエーテルなどのエーテルを用いることができる。なお、環式化合物Aを溶解させた溶液中に、フラーレンを徐々に加えていってもよい。
【0026】
一例では、環式化合物Aとフラーレンとをクロロホルムに混入し、室温で48時間還流させる。未反応のフラーレンはクロロホルムに溶解せずに沈殿するため、未反応のフラーレンを除去することによって、フラーレン誘導体が溶解した溶液が得られる。その後、フラーレン誘導体がレトロ・ディールス・アルダー反応を起こす温度よりも低い温度でクロロホルムを蒸発させればよい。
【0027】
フラーレン誘導体を合成する場合、通常、1つの環式化合物Aと反応するフラーレン、複数の環式化合物Aと反応するフラーレン、および環式化合物Aと反応しないフラーレンが存在する。フラーレンと環式化合物Aとの混合比を変えることによって、1つのフラーレンと反応する環式化合物Aの平均個数を変化させることができる。
【0028】
<電界効果トランジスタの製造方法>
本発明の電界効果トランジスタの製造方法は、基板上に、チャネル領域として機能する半導体層(能動層)を備える電界効果トランジスタを製造する方法である。この製造方法では、上記本発明のフラーレン膜の製造方法によって、半導体層(能動層)となるフラーレン膜を形成する工程を含む。
【0029】
本発明の製造方法では、上記基板が高分子材料からなる基板であってもよい。本発明の方法では、蒸着法を用いずにフラーレン膜を形成できるため、耐熱性が低い高分子材料からなる基板を用いることが可能である。高分子材料としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(以下PETという場合がある)、ポリエチレンナフタレート(以下PENという場合がある)、ポリイミドなどが挙げられる。
【0030】
なお、本発明のフラーレン膜の製造方法は、電界効果トランジスタ以外の半導体素子の半導体層の形成に適用することが可能である。半導体素子の種類に限定はなく、たとえば、センサー、太陽電池、生体機能素子などが挙げられる。
【0031】
<フラーレン誘導体の例>
本発明のフラーレン誘導体の例を図1(a)〜(d)に示す。図1(a)〜(d)のフラーレン誘導体は、トルエンやキシレン等の芳香族化合物や、クロロベンゼンやクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類や、テトラヒドロフランやジエチルエーテル等のエーテル類等の有機溶媒に対して、溶媒1cm3あたり5mg以上の溶解度を示す。
【0032】
図1(a)〜(d)のフラーレン誘導体は、それぞれ図2(a)〜(d)に示すDiels−Alder反応によって合成できる。たとえば、図1(a)のフラーレン誘導体は、置換基R1が導入されたシクロペンタジエンとフラーレンとを室温下で反応させることによって合成できる。具体的には、フラーレンと図2(a)の環式化合物Aとを、クロロホルムに混入し、室温で48時間還流させればよい。この反応では、シクロペンタジエンの共役ジエン系と、フラーレンのπ結合とが反応して6員環が形成される。図1(b)〜(d)のフラーレン誘導体も、図1(a)のフラーレン誘導体と同様の方法で合成できる。
【0033】
図2(a)〜(d)に示す環式化合物Aは、公知の方法によって合成できる。たとえば、図1(a)のシクロペンタジエン誘導体は、図3(a)に示す反応によって合成できる。図3(a)の反応の出発材料はアルドリッチから入手できる。上段の反応は公知の反応である(Organometallics, 22(4)877-878, 2002)。下段の反応も公知の反応である(Chemische Berichte, 121(9)1541-52, 1988)。
【0034】
環式化合物Aの共役ジエン系とフラーレンとの反応を図3(b)に模式的に示す。なお、図3(b)には、環式化合物Aの環状部分と、フラーレンの二重結合のみを示す。環式化合物AのRは、環の一部を示す。環式化合物Aの共役ジエン系とフラーレンの二重結合31とが反応すると、6員環が形成される。この6員環の一部、具体的には反応前に共役ジエン系が存在した部分の中央の結合部には、二重結合が存在する。また、この6員環には、「−R−」で表される橋かけ構造が存在する。このように、環式化合物Aとフラーレンの二重結合とを反応させることによって、橋かけ構造を有する6員環が形成される。
【0035】
図1(a)〜(d)のフラーレン誘導体を60〜80℃程度の比較的低い温度で加熱処理すると、retro Diels−Alder反応が起こり、図2で導入した環式化合物Aがフラーレン誘導体から脱離する。その結果、フラーレン誘導体をフラーレンに戻すことができる。
【0036】
なお、図1および図2には、1つのフラーレンに対して1つの環式化合物Aが反応した場合を示しているが、1つのフラーレンに対して複数の環式化合物が付加してもよい。
【0037】
<フラーレン膜の製造例>
以下に、図1(a)〜(d)で示したフラーレン誘導体を用いてフラーレン膜を形成する例について具体的に説明する。なお、本発明は以下の具体例に限定されない。
【0038】
まず、図1(a)のフラーレン誘導体をキシレンに1cm3あたり10mgの割合で溶解する。次に、乾燥窒素雰囲気下において、ガラス基板上に上記溶液をスピンコート法で塗布し、膜を形成する。次に、そのガラス基板をホットプレート上において80℃で1時間加熱して乾燥させる。このようにして、フラーレンの薄膜をガラス基板上に形成する。同様に、図1(b)〜図1(d)のフラーレン誘導体を出発材料として、フラーレンの薄膜を形成できる。
【0039】
<電界効果トランジスタの一例>
以下、本発明の電界効果トランジスタおよびそれを用いたCMOSについて説明する。これらの素子の能動層は、フラーレン膜を製造するための上記本発明の方法を用いて形成される。なお、以下の図では、能動層以外のハッチングを省略する。
【0040】
図4(a)〜(d)は、本発明の電界効果トランジスタ(FET)の代表的な例を模式的に示す断面図である。図4(a)〜(d)に示すように、電界効果トランジスタには様々な構成が存在する。図4(a)〜(d)のFET300a〜300dは、基板31、ゲート電極32、ゲート絶縁層33、半導体層34、ソース電極35、およびドレイン電極36を備える。半導体層34は能動層として機能する。ソース電極35およびドレイン電極36は、通常、半導体層34に直接接触しているが、両者の界面に、接続抵抗を低減するための層などが配置されていてもよい。
【0041】
ゲート電極32は、通常、ゲート絶縁層33を挟んで半導体層34と対向している。ゲート電極32は、少なくともチャネル領域、すなわちソース電極35とドレイン電極36との間の半導体層34に電界を印加する電極である。ゲート電極32によって半導体層34に印加される電界により、ソース電極35とドレイン電極36との間を流れる電流が制御される。
【0042】
電界効果トランジスタは、図5(a)および(b)のような縦型の構造であってもよい。図5(a)のFET300eおよび図5(b)のFET300fでは、ソース電極35とドレイン電極36とが半導体層34を膜厚方向に挟んで対向している。
【0043】
基板31を構成する材料に特に限定はない。基板31として、高分子材料からなるフィルム、たとえば、PETや、PEN、ポリイミドなどからなるフィルムを用いてもよい。高分子材料からなる基板を用いることによって、フレキシブルで軽量な電界効果トランジスタが得られる。ただし、ガラス基板やシリコン基板などの無機材料からなる基板を用いてもよい。
【0044】
ゲート電極32は、導電性材料で形成でき、たとえば、Niなどの金属や導電性の高分子材料で形成してもよい。ソース電極35およびドレイン電極36は、導電性材料で形成でき、たとえば、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Pdといった金属や、導電性の高分子材料で形成してもよい。ゲート電極32、ソース電極35およびドレイン電極36は公知の方法で形成でき、たとえばマスクを用いた蒸着法や、フォトリソ・エッチング法によって形成してもよい。また、上記電極は、導電性高分子を印刷することによって形成してもよい。
【0045】
ゲート絶縁層33は、絶縁性の材料で形成でき、たとえば、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリイミドといった有機材料や、SiO2やTa2O5といった絶縁性の無機酸化物で形成してもよい。ゲート絶縁層33は、スピンコート法や蒸着法といった公知の方法で形成できる。
【0046】
半導体層34は、本発明のフラーレン膜形成方法によって形成される。半導体層34は、C60、C70、C80などのフラーレンや、金属内包フラーレン等で形成される。
【0047】
以下に、図4(b)のFET300bを例に挙げて、本発明の電界効果トランジスタの製造方法について、実施可能な例を説明する。なお、以下で説明する各部分の材料および形成方法は一例であり、本発明は以下の例に限定されない。
【0048】
まず、PETからなる基板31(厚みがたとえば100μm)上に、マスク蒸着によってNiからなるゲート電極32(厚みがたとえば100nm)を形成する。次に、ポリビニルアルコールの水溶液をスピンコート法によって塗布したのち乾燥させ、ゲート絶縁層33(厚みがたとえば500nm)を形成する。次に、ゲート絶縁層33上に、マスク蒸着によって、Auからなるソース電極35およびドレイン電極36(それぞれ厚みがたとえば100nm)を形成する。
【0049】
次に、上述した本発明の方法によって半導体層(フラーレン膜)34を形成する。まず、最初に図1(a)のフラーレン誘導体をクロロホルムに1cm3あたり5mgの割合で溶解させる。次に、乾燥窒素雰囲気下において、ゲート絶縁層33、ソース電極35およびドレイン電極36を覆うように、上記溶液をスピンコート法によって塗布する。クロロホルムは揮発性が高いので、溶液の塗布終了時にクロロホルムはほぼ蒸発して除去され、フラーレン誘導体の膜が形成される。次に、フラーレン誘導体の膜が形成された基板を、ホットプレート上において80℃で1時間加熱することによって、ジエン化合物を脱離させてフラーレン誘導体をフラーレンとする。このようにして、フラーレン膜である半導体層34を形成し、FET300bを得る。
【0050】
<電界効果トランジスタを用いたCMOSの一例>
以下に、p形MOSトランジスタとn形MOSトランジスタとを組み合わせたCMOSの代表的な例について説明する。n形MOSトランジスタは、上述した電界効果トランジスタであり、フラーレンの膜を能動層として含む。
【0051】
図6(a)は、CMOSインバータを模式的に示す断面図であり、図6(b)は、その回路図である。図6(a)のCMOSインバータ600は、nMOS610とpMOS620とによって構成されている。
【0052】
CMOSインバータ600は、基板61、ゲート電極62、ゲート絶縁層63、nMOS610の半導体層64n、pMOS620の半導体層64p、電極65、66および67を備える。図6(a)において、nMOS610のゲート電極62とpMOS620のゲート電極62とは分離しているが、図6(b)に示すように接続されてインバータの入力線に接続される。電極65はnMOS610のソース電極として、図6(b)に示すように接地される。電極67は、nMOS610のドレイン電極とpMOS620のドレイン電極を兼ね、図6(b)に示すようにインバータの出力線に接続される。電極66はpMOS620のソース電極として、図6(b)に示すようにインバータのバイアス電圧供給線に接続される。半導体層64nはn形の能動層として、半導体層64pはp形の能動層としてそれぞれ機能する。電極65、66および67は、通常、半導体層64n、64pに直接接触しているが、両者の界面に、接続抵抗を低減するための層などが配置されていてもよい。
【0053】
ゲート電極62は、通常、ゲート絶縁層63を挟んで半導体層64nおよび64pと対向している。ゲート電極62は、少なくともチャネル領域、すなわち電極65と電極67との間の半導体層64n、および電極66と電極67との間の半導体層64pに電界を印加する電極である。半導体層64n、64pに印加される電界によって、各電極間に流れる電流が制御される。
【0054】
基板61、ゲート電極62、電極65、66および67、ゲート絶縁層63、および半導体層64nを構成する材料、形成方法は、電界効果トランジスタについて説明した材料、形成方法から選択できる。半導体層64pは、塗布によって形成可能なp形半導体で形成できる。例えば、ポリ(3−アルキルチオフェン)や、ポリ(9,9’−ジオクチルフルオレンコビチオフェン)、ポリアセチレン、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)などの高分子系材料で形成してもよい。また、ペンタセンなどの低分子系材料に官能基を導入して有機溶媒に可溶とした化合物などで形成してもよい。
【0055】
図6(a)の本発明のCMOSインバータの製造方法について、以下に、実施可能な例を説明する。
【0056】
まず、PETからなる基板61(厚みがたとえば100μm)上に、マスク蒸着によってNiからなるゲート電極62(厚みがたとえば100nm)を形成する。次に、ポリビニルアルコールの水溶液をスピンコート法によって塗布したのち乾燥させ、ゲート絶縁層63(厚みがたとえば500nm)を形成する。次に、ゲート絶縁層63上に、マスク蒸着によって、Auからなる電極65、66、67(それぞれ厚みがたとえば100nm)を形成する。
【0057】
次に、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)をキシレンに1cm3あたり10mgの割合で溶解させた溶液と、図1(b)のフラーレン誘導体をキシレンに1cm3あたり10mgの割合で溶解させた溶液とを用意し、ディスペンサーを用いてそれぞれの溶液を所定の位置に塗布し、成膜する。次いで、基板ごと、ホットプレート上において1時間80℃で加熱する。この熱処理によって、キシレンを蒸発させてポリ(3−ヘキシルチオフェン)膜を形成するとともに、フラーレン誘導体から、図2(b)に示す原子団を除去してフラーレンの膜を形成する。
【0058】
以上のようにして得られるCMOSインバータは図6(b)中のINへの1,0の信号入力に対し、OUTへの0,1の信号出力をするインバータ回路として動作する。
【0059】
なお、ここではCMOSを用いた論理回路としてインバータ回路(NOT)を例に説明したが、本発明はこれに限定されない。NANDやNORなどのその他の論理回路を構成することも可能であるし、これらを組み合わせた回路を構成することも可能である。
【0060】
<電子機器>
上記本発明の製造方法で製造される電界効果トランジスタは、電気回路に組み込むことができる。その電気回路は、電界効果トランジスタを製造するための本発明の製造方法を含む製造工程によって製造できる。その電気回路は、電子機器などに用いられる。その電子機器に特に限定はなく、たとえば、PDA端末や、ウエアラブルなAV機器、ポータブルなコンピュータ、腕時計タイプの通信機器、ディスプレイ、無線IDタグ、および携行用機器が挙げられる。以下に、アクティブマトリクス型ディスプレイ、無線IDタグ、および携行用機器の一例について説明する。
【0061】
アクティブマトリクス型ディスプレイの一例として、表示部に有機ELを用いたディスプレイについて説明する。ディスプレイの構成を模式的に示す一部分解斜視図を、図7に示す。
【0062】
図7に示すディスプレイは、プラスティック基板71上にアレイ状に配置された駆動回路70を備える。駆動回路70はスイッチング用FETを含み、画素電極に接続されている。駆動回路70の上には、有機EL層72、透明電極73および保護フィルム74が配置されている。有機EL層72は、電子輸送層、発光層および正孔輸送層といった複数の層が積層された構造を有する。各FETの電極に接続されたソース電極線75とゲート電極線76とは、それぞれ、ソースドライバ、ゲートドライバ(図示せず)へ接続される。
【0063】
ソースドライバ、ゲートドライバ用のシフトレジスタとして上述した説明したCMOSを用いた論理回路が適用される。
【0064】
このように、上述したCMOSを用いた論理回路を用いてアクティブマトリクス型のディスプレイを構成することによって、ドライバ回路も含めてフレキシブル基板上に形成することができ、シートライクなディスプレイを実現できる。
【0065】
次に、無線IDタグの一例について説明する。無線IDタグの一例の斜視図を、図8に模式的に示す。
【0066】
図8に示すように、無線IDタグ80は、フィルム状のプラスティック基板81を基板として使用している。この基板81上には、アンテナ部82、メモリーIC部83、電源再生回路84、メモリレジスタ85、および制御回路86が設けられている。メモリレジスタ85は、上述したCMOSを用いた論理回路を利用して構成されている。無線IDタグ80は、基板の裏面に粘着効果を持たせることによって、菓子袋やドリンク缶のような平坦でないものに貼り付けることが可能である。なお、無線IDタグは、基板上に形成するのではなく、インクジェット印刷のような方法を用いて対象物に直接形成してもよい。その場合も、本発明の製造方法を用いることによって、様々な素材へ無線IDタグを直接、低コストで製造できる。
【0067】
次に、携行用機器の例として、3つの携行用機器を図9〜図11に示す。図9に示す携帯テレビ90は、表示装置91、受信装置92、側面スイッチ93、前面スイッチ94、音声出力部95、入出力装置96、記録メディア挿入部97を備える。CMOSを用いた論理回路を含む集積回路は、携帯テレビ90を構成する演算素子や記憶素子やスイッチング素子などの素子を含む回路として使用される。
【0068】
図10に示す通信端末100は、表示装置101、送受信装置102、音声出力部103、カメラ部104、折りたたみ用可動部105、操作スイッチ106、および音声入力部107を備える。CMOSを用いた論理回路を含む集積回路は、通信端末100を構成する演算素子や記憶素子やスイッチング素子などの素子を含む回路として使用される。
【0069】
図11に示す携帯用医療機器110は、表示装置111、操作スイッチ112、医療的処置部113、および経皮コンタクト部114を備える。携帯用医療機器110は、例えば腕115などに巻き付けられて携行される。医療的処置部113は、経皮コンタクト部114から得られる生態情報を処理し、それに応じて経皮コンタクト部114を通じて薬物投与などの医療的処置を行う部分である。本発明によるCMOSを用いた論理回路を含む集積回路は、携帯用医療機器110を構成する演算素子や記憶素子やスイッチング素子などの素子を含む回路として使用される。
【0070】
以上、本発明の実施形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、フラーレンの膜の形成に適用できる。また、本発明のフラーレン膜製造方法は、電界効果トランジスタなどの半導体素子の製造に適用できる。本発明は、さらに、CMOSを用いた論理回路、およびそれらの論理回路を備えた各種の電子機器に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のフラーレン誘導体の一例の構造を示す図である。
【図2】本発明のフラーレン誘導体の合成方法の一例を示す図である。
【図3】(a)本発明の製造方法で用いられる環式化合物Aの合成方法の一例を示す図、および(b)環式化合物Aの反応を模式的に示す図である。
【図4】本発明の電界効果トランジスタの一例の構成を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の電界効果トランジスタの他の例の構成を模式的に示す断面図である。
【図6】(a)本発明のCMOSの構成を模式的に示す断面図、および(b)本発明のCMOSの構成を示す回路図である。
【図7】アクティブマトリクス型ディスプレイの一例を模式的に示す一部分解斜視図である。
【図8】無線IDタグの一例の構成を模式的に示す斜視図である。
【図9】携帯テレビの一例の構成を模式的に示す斜視図である。
【図10】通信端末の一例の構成を模式的に示す斜視図である。
【図11】携帯用医療機器の一例を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
31 基板
32、62 ゲート電極
33、63 ゲート絶縁層
34、64n、64p 半導体層
35 ソース電極
36 ドレイン電極
61 基板
65、66、67 電極
80 無線IDタグ
90 携帯テレビ
190 通信端末
100 携帯用医療機器
110 表示装置
300a〜f FET
600 CMOS
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の前記共役ジエン系と、フラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体。
【請求項2】
前記二重結合が、前記フラーレンの2つの6員環に共有されている二重結合である請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
前記環式化合物が、単環式の化合物である請求項1または2に記載のフラーレン誘導体。
【請求項4】
前記環式化合物が、多環式の化合物である請求項1または2に記載のフラーレン誘導体。
【請求項5】
前記環式化合物の環に置換基が結合している請求項1〜4のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項6】
フラーレンの膜の製造方法であって、
(i)環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の前記共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体と、前記フラーレン誘導体が溶解された溶媒とを含む溶液を調製する工程と、
(ii)前記溶液の膜を形成する工程と、
(iii)前記膜中の前記フラーレン誘導体を加熱することによって、前記フラーレン誘導体のフラーレン骨格に結合した原子団を脱離させてフラーレンとする工程とを含む、フラーレン膜の製造方法。
【請求項7】
前記(iii)の工程において、前記原子団が前記フラーレン骨格から脱離して前記環式化合物となる請求項6に記載のフラーレン膜の製造方法。
【請求項8】
前記原子団の脱離が生じる温度よりも前記溶媒の沸点の方が高く、
前記(iii)の工程ののちに、前記膜から前記溶媒を除去する工程をさらに含む請求項6または7に記載のフラーレン膜の製造方法。
【請求項9】
前記(iii)の工程における加熱によって前記膜から前記溶媒を除去する請求項6または7に記載のフラーレン膜の製造方法。
【請求項10】
前記(iii)の工程の前に、前記膜から前記溶媒を除去する工程を含む請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記(i)の工程の前に、前記環式化合物の前記共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって前記フラーレン誘導体を形成する工程をさらに含む請求項6または7に記載のフラーレン膜の製造方法。
【請求項12】
基板上に、チャネル領域として機能する半導体層を備える電界効果トランジスタを製造する製造方法であって、
請求項6〜11のいずれか1項に記載の製造方法によって前記半導体層となるフラーレン膜を形成する工程を含む電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記基板が高分子材料からなる基板である請求項12に記載の電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項1】
環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の前記共役ジエン系と、フラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体。
【請求項2】
前記二重結合が、前記フラーレンの2つの6員環に共有されている二重結合である請求項1に記載のフラーレン誘導体。
【請求項3】
前記環式化合物が、単環式の化合物である請求項1または2に記載のフラーレン誘導体。
【請求項4】
前記環式化合物が、多環式の化合物である請求項1または2に記載のフラーレン誘導体。
【請求項5】
前記環式化合物の環に置換基が結合している請求項1〜4のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体。
【請求項6】
フラーレンの膜の製造方法であって、
(i)環内に共役ジエン系を含有する環式化合物の前記共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって得られるフラーレン誘導体と、前記フラーレン誘導体が溶解された溶媒とを含む溶液を調製する工程と、
(ii)前記溶液の膜を形成する工程と、
(iii)前記膜中の前記フラーレン誘導体を加熱することによって、前記フラーレン誘導体のフラーレン骨格に結合した原子団を脱離させてフラーレンとする工程とを含む、フラーレン膜の製造方法。
【請求項7】
前記(iii)の工程において、前記原子団が前記フラーレン骨格から脱離して前記環式化合物となる請求項6に記載のフラーレン膜の製造方法。
【請求項8】
前記原子団の脱離が生じる温度よりも前記溶媒の沸点の方が高く、
前記(iii)の工程ののちに、前記膜から前記溶媒を除去する工程をさらに含む請求項6または7に記載のフラーレン膜の製造方法。
【請求項9】
前記(iii)の工程における加熱によって前記膜から前記溶媒を除去する請求項6または7に記載のフラーレン膜の製造方法。
【請求項10】
前記(iii)の工程の前に、前記膜から前記溶媒を除去する工程を含む請求項6または7に記載の製造方法。
【請求項11】
前記(i)の工程の前に、前記環式化合物の前記共役ジエン系とフラーレンの二重結合とを、橋かけ構造を有する6員環を形成するように反応させることによって前記フラーレン誘導体を形成する工程をさらに含む請求項6または7に記載のフラーレン膜の製造方法。
【請求項12】
基板上に、チャネル領域として機能する半導体層を備える電界効果トランジスタを製造する製造方法であって、
請求項6〜11のいずれか1項に記載の製造方法によって前記半導体層となるフラーレン膜を形成する工程を含む電界効果トランジスタの製造方法。
【請求項13】
前記基板が高分子材料からなる基板である請求項12に記載の電界効果トランジスタの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−290788(P2006−290788A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−113020(P2005−113020)
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年4月11日(2005.4.11)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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