説明

プラズマビームによる基体の被覆及び表面処理のための方法及び装置

【課題】プラズマビームにより基体を被覆及び表面処理する。
【解決手段】プラズマトーチ(4)を具えた加工室(2)を利用できるようにし、プラズマガスを前記プラズマトーチ(4)を通って送り、その中で電気ガス放電、電磁気誘導又はマイクロ波により加熱して、プラズマビーム(5)を生成させ、前記プラズマビーム(5)を、加工室中に導入した基体(3)上に送り、前記利用できるようにしたプラズマトーチ(4)が固体材料粒子をプラズマ溶射するための電力を有し、前記被覆及び/又は表面処理の間、前記加工室(2)中の圧力が0.01〜10mbになり、液状又はガス状の少なくとも一種類の反応性成分を前記プラズマビーム(5)中に注入し、前記基体(3)の表面を被覆し又はそれを処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に従いプラズマビームにより基体を被覆及び/又は表面処理するための方法、そのような方法を用いて製造された基体、及びそのような方法を遂行するための請求項11の前文に従うプラズマ被覆装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被覆装置、例えば、真空蒸着プラント、スパッタリングプラント、化学蒸着及び溶射(thermal spraying)装置のためのプラント、例えば、プラズマ溶射(thermal plasma spraying)装置のような被覆装置は、今日工業的製造の多くの分野で基体を被覆するために用いられている。典型的な基体には、例えば、内燃機関の器具又はシリンダー作動表面のような湾曲した表面を有する加工品、例えば、溶射法により腐食に対する保護が適用される多数の部品及び半製品のみならず、被覆が適用されるウエーハ及び箔のような本質的に平らな基体、例えば太陽電池のような半導体のための伝導性又は絶縁性層が適用される基体が含まれる。適用された層は、幾つかの典型的な用途を挙げれば、例えば、その表面を機械的及び/又は化学的、特に腐食性の影響に対し抵抗性のあるものにするため、且つ/又は表面の摩擦及び/又は接着性を低下するため、且つ/又は表面を電気的及び/又は熱的に絶縁性にするか、又はもし必要ならば伝導性にするため、且つ/又は表面を食品に適したもの及び/又は血液又は組織と両立するものにするため、且つ/又は密封部及び拡散障壁を形成するために用いることができる。
【0003】
プラズマ源を有するプラントが、プラズマにより表面を反応性処理するため、及び薄い層を反応蒸着するために開発された。対応する方法はプラズマ表面処理、プラズマエッチング、プラズマ被覆、又はプラズマ促進化学蒸着(プラズマ促進CVD)と言う用語によって知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】そのような方法のためのプラントは、文献EP 0297637Alに記載されている。そこに記載されているプラントは、1kWまでの電力のプラズマトーチを有する室及び処理すべき基体の入った減圧可能な処理室を含む。反応性処理剤は、ガス状又は液状でプラズマトーチへ供給される。処理室中の圧力は、処理中50mb未満までになる。この種のプラントを用いて1又は2μm厚までの薄層を0.01m2までの面積の基体に適用することができる。一層大きな基体の場合、又は一層厚い層を適用する場合、EP 0297637Alに記載されたプラントは、そのための蒸着速度が低過ぎるため適さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、プラズマビームによる基体の被覆及び/又は表面処理のための方法及び被覆装置で、例えば、2μm厚の反応製造された層又は0.05m以上の比較的大きな表面積の基体に反応製造された層を適用することができるのみならず、もし必要ならば、例えば、50μm以上の厚い層を適用することができる方法及び被覆装置を得ることができるようにすることである。さらに別の目的は、そのような方法で製造された基体又は加工品を得ることができるようにすることである。
【0006】
この目的は、本発明に従い、請求項1に規定した方法、請求項10に規定した基体又は加工品、及び請求項13に規定したプラズマ被覆装置により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
プラズマビームにより基体を被覆及び表面処理するための本発明の方法では、プラズマトーチを具えた加工室を利用することができるようにし、プラズマガスをプラズマトーチを通って送り、その中で電気ガス放電及び/又は電磁気誘導及び/又はマイクロ波により加熱することによりプラズマビームを生成させ、そのプラズマビームを、加工室へ導入された基体上に送る。この方法は、利用できるようにされたプラズマトーチが固体材料粒子をプラズマ溶射するための電力を有し、その方法中加工室中の圧力は0.01〜10mbになり、少なくとも一種類の液状又はガス状の反応性成分を前記プラズマビーム中に注入し、基体表面を被覆し且つ/又はそれを処理し、そして層又は被覆を製造し且つ/又は基体表面を処理し、そしてこのやり方で製造された層又は被覆又はこのやり方で処理された基体表面が、夫々0.01μm〜10μmの厚さを有することを特徴とする。
【0008】
プラズマトーチは、10kW〜200kW、又は20kW〜100kWの最大電力を有するのが有利であり、或はプラズマトーチの最大電力は少なくとも30kW、又は少なくとも50kW、又は少なくとも70kWになり、20kW〜150kWに存在する。このように、固体材料粒子のプラズマ溶射のためのプラズマトーチが、通常実際に用いられている。更に、処理中の加工室中の圧力は、例えば、0.02mb〜5mb、又は0.05mb〜2mbになっていてもよい。もし必要ならば、反応性成分をプラズマトーチ中、プラズマビーム中へ注入し、且つ/又は遊離プラズマビーム中へ注入する。
【0009】
有利な変更法として、粉末状固体材料粒子の形又は懸濁物の形の被覆材料をプラズマビーム中に付加的に導入する。更に別の有利な変更法として、上記方法又は上記変更法により製造された層又は被覆、又はこのやり方で処理させれた基体表面は、0.01%〜5%、又は0.02%〜2%の気孔率を有する。
【0010】
異なった構造の少なくとも二つの層を有する被覆を、前記方法の特別な態様により適用することができ、この場合、以下の記載では薄層法と呼ぶ上記方法を用いてそれら層の少なくとも一つを製造し、或は上記変更法の一つを用いて製造し、更に少なくとも一つの層を固体材料粒子のプラズマ溶射により適用し、両方の層を同じプラズマトーチを用いて適用する。
【0011】
プラズマ溶射中の加工室内の圧力は、0.3mb〜1b、又は0.5mb〜500mb、又は1mb〜200mbになるのが有利である。プラズマ溶射により適用された少なくとも一つの層は、例えば、1μm〜2000μm、又は10μm〜1000μmの厚さを有することができる。
【0012】
更に、本発明は、上記薄層法又は上記変更法を用いて製造された少なくとも一つの層を有するか、又はその方法の上記特別の態様を用いて製造した異なった構造の少なくとも二つの層を有する基体又は加工品を包含する。後者の場合、基体又は加工品は、例えば、固体材料粒子のプラズマ溶射により適用された少なくとも一つの層、及び上記薄層法又は上記変更法を用いてカバー層として製造された少なくとも一つの層を含むことができる。有利な変更法として、固体材料粒子のプラズマ溶射により適用された層は、一種類以上の酸化物セラミック成分を含むか、又は一種類以上の酸化物セラミック成分からなり、且つ/又は上記薄層法か又は上記変更法を用いて製造した層は、本質的にSiOからなる。
【0013】
基体の被覆及び/又は表面処理のための本発明によるプラズマ被覆装置は、プラズマビームを発生させるためのプラズマトーチを有する加工室、前記加工室に接続された制御されたポンプ装置、及び基体を保持するための基体ホールダーを含み、前記プラズマトーチは固体材料粒子のプラズマ溶射のための電力を有し、前記加工室内の圧力は前記制御されたポンプ装置により0.01mb〜1b、又は0.02mb〜0.2bの値に調節することができ、前記プラズマ被覆装置は、更に液状又はガス状の少なくとも一種類の反応性成分を前記プラズマビーム中に注入するための注入機構を有する。
【0014】
有利な変更として、プラズマ被覆装置は、更に、プラズマビームの方向を制御し、基体からプラズマトーチの間隔を0.2m〜2m、又は0.3m〜1mの範囲に制御するため、プラズマトーチのための制御された設定機構を含む。更に、有利な変更として、プラズマトーチは、DCプラズマトーチとして作られている。
【0015】
本発明による方法及びプラズマ被覆装置は、例えば0.05m以上の比較的大きな基体面積に反応製造した層、例えば、厚さ2μm以下の薄い層を与えることができ、この場合、処理又は被覆しようとする基体表面は、複数の一層小さな基体表面から組立てることができる。更に、例えば長さ2m以上の長い箔又は基体を準連続的方法例えば「ロール・トウ・ロール(roll to roll)」法で処理及び/又は被覆することもできる。本発明による方法を用いて、例えば、厚さ及び/又は組成に関して比較的均一で、且つ/又は、例えば、0.01%〜5%、又は0.02%〜2%の気孔率を有する高品質の薄層を製造することができる。もし必要ならば、例えば、厚さ50μm以上の厚い層を、固体材料粒子のためのプラズマ溶射法により製造することができる。このことは、反応製造した薄層及び一層厚い層の両方を含む被覆を、同じプラズマ被覆装置で適用することができる利点を有し、それらの層は、次々に直接適用することができる。
【0016】
態様及び変更したものについての上の記述は、単なる例として役立つ。更に、従属項及び図面から有利な態様を知ることができる。更に本発明の文脈から、記載又は例示した態様及び変更したものからの個々の特徴を互いに組合せて新しい態様を形成することもできる。
【0017】
次に本発明を態様及び図面に関連して一層詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明によるプラズマ被覆装置の一つの態様を示す図である。
【図2】図2は、液状又はガス状の反応性成分をプラズマビーム中へ注入することについての種々の変更を示す図である。
【図3】図3において、図3Aは、本発明による方法を用いて製造した基体被覆の一つの態様を示す図であり、図3Bは、本発明による方法を用いて製造した基体被覆の一つの態様を示す図であり、図3Cは、本発明による方法を用いて製造した基体被覆の一つの態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明による基体の被覆及び/又は表面処理のためのプラズマ被覆装置の一つの態様を示す図である。プラズマ被覆装置1は、プラズマビーム5を発生させるためのプラズマトーチ4を有する加工室2、図1には示されていないが加工室内の圧力を設定するために加工室2に接続された制御されたポンプ装置、及び基体3を保持するための基体ホールダー8を含み、前記プラズマトーチ4は固体材料粒子をプラズマ溶射するための電力を有し、前記加工室2内の圧力は前記制御されたポンプ装置により0.01mb〜1b、又は0.02mb〜0.2bの値に設定することができ、前記プラズマ被覆装置1は、更に液状又はガス状の少なくとも一種類の反応性成分を前記プラズマビーム5中に注入するための注入機構6.1〜6.3を有する。プラズマトーチ4は、DCプラズマトーチとして作られているのが有利である。
【0020】
もし必要ならば、基体ホールダー8は、基体を予備室からシールロック(seal lock)9を通って加工室2へ移動させるため、変位可能な棒状ホールダーとして製作してもよい。棒状ホールダーは、もし必要ならば、更に、処理中及び/又は被覆過程中、基体を回転することができる。
【0021】
プラズマトーチは、10kW〜200kW、特に20kW〜100kWの最大電力を有するのが有利であり、或は最大電力は、少なくとも30kW、又は少なくとも50kW、又は少なくとも70kWになる。実際には、固体材料粒子のプラズマ溶射のためのプラズマトーチが、このように通常用いられている。プラズマトーチは、典型的には電源、例えば、DCプラズマトーチのためにはDC電源、及び/又は冷却装置、及び/又はプラズマガス供給源に接続され、もし必要ならば、液状及び/又はガス状反応性成分のための供給源、及び/又は噴霧粉末又は懸濁物のための搬送装置が配備されている。
【0022】
溶射するための電源を有する慣用的プラズマトーチ、例えば、溶射のための慣用的プラズマトーチは、例えば、電気放電を発生させるためのアノード及びカソードを含み、そのアノード及びカソードは通常溶射に必要な電力範囲で、例えば、冷却水により冷却されている。プラズマガスとも呼ばれているプラズマトーチへの処理供給ガスは電気放電中でイオン化され、20,000Kまでの温度を有するプラズマビームを生ずる。それらガス、即ち、プラズマの熱膨張の結果として、プラズマビームは、典型的には200m/秒〜4000m/秒の速度でプラズマトーチを出る。処理ガス又はプラズマガスは、例えば、アルゴン、窒素、ヘリウム、及び/又は水素、又は希ガスと窒素及び/又は水素との混合物にすることができ、即ち、それらガスの一種類以上のからなっていてもよい。
【0023】
図2には、液状又はガス状の反応性成分をプラズマビーム5の中に注入するための三つの変更が示されている。図2に示したように、プラズマビーム5はプラズマトーチ4中で生成する。その変更により、注入器6.1はプラズマビーム中に反応性成分を注入するためにプラズマトーチに配備されている。注入器6.1は、例えば、プラズマトーチ中にプラズマビームを形成するために与えられたノズルの領域内に配置することができる。しかし、反応性成分は注入器6.2、6.3により遊離プラズマビーム中へ注入することもでき、例えば、プラズマトーチのノズル出口開口から数cmの間隔の所に配置された注入器6.2により、又はプラズマトーチから0.1m〜0.6mの距離の所に配置された注入器6.3により注入することができる。プラズマビームが僅かな程度にしか吹き出されていない限り、注入器はプラズマビームの実質的に中心部に配置されるのが有利である。もしプラズマビームがもっと強く吹き出されているならば、例えば、典型的にはプラズマトーチから0.1mより長い距離で吹き出されているならば、例えば、環状注入器を用いることもできる。
【0024】
更に有利な変更として、プラズマ被覆装置1は、図1には示されていないプラズマトーチ4のための制御された設定機構で、プラズマビームの方向及び/又は基体3からのプラズマトーチの間隔を、例えば0.2m〜2m、又は0.3m〜1mの範囲に制御するための設定機構を含む。もし必要ならば、異なった方向に一つ以上の回転軸を設定機構中に与えてもよい。更に、設定機構は、基体3の異なった領域を覆うようにプラズマトーチ4を配置するため一つ又は二つの付加的線状調節軸を含んでいてもよい。プラズマトーチの線状運動及び回転運動は、基体を全表面に亙って均一に予熱するため、又は基体表面上の層の均一な厚さ及び/又は層の品質を達成するための基体処理及び基体被覆の制御を可能にする。
【0025】
有利な態様として、プラズマトーチ4には、粉末状固体材料粒子の形態及び/又は懸濁物の形態の被覆材料を供給するため、またプラズマ溶射により層を適用するために、一つ以上の供給部7を与える。供給部(単数又は複数)7は、例えば、粉末状固体材料粒子及び/又は懸濁物を、プラズマビーム5中にこの時点で導入するため、プラズマトーチ中にプラズマビームを形成するために与えられたノズルまで及びその領域中に送ることができる。粉末状固体材料粒子は、通常搬送用ガスにより供給する。
【0026】
プラズマビームにより基体の被覆及び/又は表面処理をするための本発明の方法の一つの態様を、図1、2、及び3A〜Cを参照して次に記述する。この方法では、加工室2をプラズマトーチ4と共に利用できるようにし、プラズマビーム5は、プラズマガスをプラズマトーチを通って送り、電気ガス放電及び/又は電磁気誘導及び/又はマイクロ波により後者の中で加熱することにより発生させ、そのプラズマビーム5を、加工室2中に導入した基体3の上へ送る。この方法は、利用できるようにしたプラズマトーチ4が固体材料粒子のプラズマ溶射のための電力を有すること、この方法中の加工室2内の圧力が0.01mb〜10mbになること、液状又はガス状の少なくとも一種類の反応性成分をプラズマビーム5中へ注入し、基体を被覆及び/又は処理すること、及び層11、11’又は被覆10を製造し且つ/又は基体表面を処理し、このやり方で製造された層又は被覆、又はこのやり方で処理された基体表面が、夫々0.01μm〜10μmの厚さを有することを特徴とする。
【0027】
基体3の表面の可能な処理には、プラズマビームによる、例えば、加熱、クリーニング、、エッチング、酸化、又は窒化が含まれる。上記方法を用いて製造された被覆の幾つかの態様を、図3A〜Cの記述に関連して次に一層詳細に説明する。
【0028】
プラズマトーチ4は、10kW〜200kW、特に20kW〜150kW、又は20kW〜100kWの最大電力を有するのが有利であり、最大電力は少なくとも30kW、又は少なくとも50kW、又は少なくとも70kWになる。更に、方法中の加工室2内の圧力は、例えば、0.02mb〜5mb、又は0.05mb〜2mbになることができる。もし必要ならば、反応性成分をプラズマトーチに注入しプラズマビーム中に入れ、且つ/又は遊離プラズマビーム中に入れる。図2は、液状又はガス状の反応性成分をプラズマビーム5中に注入することについて、三つの変更した場合を示している。それら三つの変更は、既に上記プラズマ被覆装置の記載に関連して一層詳細に説明してある。
【0029】
もし必要ならば、プラズマビーム5は、処理中又は被覆中、基体の表面に亙ってスイングし、均一な処理又は被覆を達成し、高いビーム電力で一定して向けられたプラズマビームにより生ずることがある基体表面又は基体の局部的加熱及び/又は損傷が起きる可能性を無くす。
【0030】
有利な変更として、粉末状固体材料粒子の形態又は懸濁物の形態の被覆材料を、付加的にプラズマビーム5中に導入する。更に有利な変更として、上記方法又は上記変更法を用いて製造された層11、11’、又は被覆10、又はそのように処理された基体表面は、0.01%〜5%、又は0.02%〜2%の気孔率を有する。
【0031】
異なった構造の少なくとも二つの層を有する被覆を、本方法の特別な態様により、それら層の少なくとも一つを、以下で薄層法と呼ぶ上記方法を用いて製造し、或は上記変更法を用いて製造し、更に別の少なくとも一つの層を固体材料粒子のプラズマ溶射により適用し、両方の層を同じプラズマトーチ4を用いて適用する。
【0032】
加工室2の圧力は、プラズマ溶射中、0.3mb〜1mb、又は0.5mb〜500mb、又は1mb〜200mbになるのが有利である。プラズマ溶射により適用される少なくとも一つの層は、例えば、1μm〜2000μm、又は10μm〜1000μmの厚さを持つことができる。
【0033】
更に、本発明は、上記薄層法又は上記変更法を用いて少なくとも一つの層を有するように製造された、或は上記本方法の特別な態様により異なった構造の少なくとも二つの層を有するように製造された基体3又は加工品を包含する。後者の場合、この基体又は加工品は、例えば、固体材料粒子のプラズマ溶射により適用された少なくとも一つの層、及び上記薄層法又は上記変更法によりカバー層として製造された少なくとも一つの層を含んでいていもよい。有利な変更として、固体材料粒子のプラズマ溶射により適用された層は、例えば、Al、TiO、Cr、ZrO、Y、又はAl・Mgスピネルのような一種類以上の酸化物セラミック成分を含んでいてもよく、或は一種類以上の酸化物セラミック成分からなっていてもよく、且つ/又は上記薄層法又は上記変更法により製造された層は、SiOから本質的になっている。
【0034】
上記方法の特別な態様により製造された異なった構造の少なくとも二つの層を有する基体の典型的な用途には、例えば次のものが含まれる:
− 固体材料粒子のプラズマ溶射により電気絶縁層及び/又は熱絶縁層として適用されたAl又はAl・Mgスピネル層、及び上記薄層法により適用されたシールとしてのSiOのカバー層;
− 固体材料粒子のプラズマ溶射により光学的吸収性層として、例えば、太陽熱成分の効率を改善するために適用されたTiO、Al/TiO、又はCrの層、及び上記薄層法により黒色反射に対する保護として適用されたSiOのカバー層;
− 固体材料粒子のプラズマ溶射により電子用途のため及び/又は絶縁層として適用されたZrO及び/又はYの層、及び上記薄層法によりシールとして適用されたZrO又はSiOのカバー層。
【0035】
図3A〜Cは、本発明の上記特別な態様を用いて製造した基体被覆10の三つの態様を示している。図3Aに示した態様では、基体3は、先ずプラズマ溶射により、典型的には、2μm〜1000μmの厚さの層12が与えられ、次に0.1μm〜1μm厚のカバー層11が反応性熱低圧プラズマ(ractive thermal low pressure plasma)により適用された。図3Bに示した態様では、基体3に先ず反応性熱低圧プラズマにより、典型的には、0.1μm〜1μmの厚さの層11’を与え、それは、例えば結合層又は拡散障壁層として形成することができ、次に、例えば、典型的には2μm〜1000μm厚の層12をプラズマ溶射により適用した。図3Cに示した第三の態様では、基体3に、反応性熱低圧プラズマにより、典型的には0.1μm〜1μm厚の第一層11’を与え、プラズマ溶射法により典型的には2μm〜1000μm厚の第二層12を与え、次に0.1μm〜1μmの厚さのカバー層11を反応性熱低圧プラズマにより適用した。
【0036】
本発明の方法の次の態様では、反応性熱低圧プラズマによる薄いSiO層の製造及び使用を一層詳細に説明する。製造については、プラズマ溶射のための電力を有する商業的に通常のプラズマトーチを用いることができ、例えば、三つのカソード及びカスケード型アノードを有するプラズマトーチで、水冷を具えたトーチを用いることができる。プラズマガスとしてアルゴンと水素又はアルゴンとヘリウムの混合物を用いることができ、プラズマビーム中に注入される反応性成分は、例えば、ガス状ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と酸素との混合物からなっていてもよい。HMDSO/O混合物中の酸素の割合は、ガス流に関し約2%〜3%になるのが典型的である。大きなガス収率を達成するためには、反応性成分は、基体表面から比較的短い距離でプラズマビーム中に通常注入され、例えば、基体表面から数cmの距離の所に構成された環状注入器により注入される。基体からのプラズマトーチの距離は、例えば0.3m〜0.6mにすることができ、加工室中の圧力は、例えば0.2mb〜1mbにすることができ、プラズマトーチに適用される電力は8kW〜16kWにすることができる。
【0037】
このやり方で、2μmまでの高品質SiO層を適用することができる。30cm×30cmの基体上の堆積速度は、典型的には10nm/秒以上であり、供給されたHMDSOガスに関し、大きなガス収率を達成することができる。例えば、水蒸気及び酸素に対する拡散障壁層として、典型的には0.1μm厚以下のSiO層が実装工業で用いられている。更に、そのような層の用途は、織物工業にも存在する。
【0038】
本発明の方法の更に別の態様として、電気絶縁被覆の製造を一層詳細に説明する。被覆のレイアウトは、図3Aに示した態様の場合に相当し、即ち、被覆すべき基体3に、先ずプラズマ溶射により、典型的には、20μ〜40μmの厚さを有するAl層12を与え、次に0.1μm〜0.2μmの厚さのSiOカバー層11を反応性熱低圧プラズマにより適用する。もし必要ならば、被覆の結合を強くするため、被覆前に基体表面をクリーニングする。この態様では、被覆すべき表面を、例えば、アルコールで先ずクリーニングし、次に微細な粉末でサンドブラストに掛ける。
【0039】
プラズマ溶射のための商業的に慣用的なプラズマトーチは、例えば、被覆10の製造に用いることができる。この例では、アルゴンと4%〜10%の水素との混合物をプラズマガスとして用いる。第一層12をプラズマ溶射するため、プラズマトーチ4と基体3との間隔は、例えば、0.8m〜1.2mにし、加工室内の圧力を、例えば、0.5mb〜2mbにすることができる。これにより比較的広いプラズマビームを与える結果になり、それを用いて0.05m以上の大きな基体を被覆することもできる。プラズマ溶射のためのプラズマトーチへ供給される電力は、60kW〜100kWになるのが典型的であり、プラズマトーチは水冷されるので、電力の一部は冷却水に奪われる。
【0040】
被覆する前に、基体3を通常予熱し、基体上の第一層12の結合を改善する。基体の予熱は、第一層を適用するのと同じプラズマパラメーターを用いて行うことができ、通常、被覆粉末も反応性成分も含まないプラズマビーム5を予熱のため基体の上を数回スイング運動するように移動させることで充分である。典型的には、基体表面を200℃〜500℃の温度へ加熱するのに、20〜30回のスイング運動で充分である。
【0041】
溶融すべき被覆粉末の種類及び量により、それは、エンタルピーが比較的大きいプラズマトーチ4中の一つ以上の供給部により供給することができ、或は被覆粉末をトーチの外部からプラズマビーム5中へ注入してもよい。本態様では、例えば、Al粉末をプラズマトーチ中のプラズマビームに対し二つの相対して配置された供給部から供給する。アルゴンは、例えば、Al粉末のための供給ガスとして用いることができる。基体表面を予熱した後、第一層の適用を開始し、溶融した被覆粉末を含むプラズマビーム5は、基体3の上のスイング運動により誘導する。もし必要ならば、基体を更に棒状ホールダー8により移動させてもよく、或はプラズマビームを回転する代わりに基体を移動させてもよい。プラズマビームの約100〜200回のスイング運動で、2〜5分以内で20μm〜40μmの厚さのAl層を適用することができる。
【0042】
更に別の工程として、前の態様に関連して記述したように、反応性熱低圧プラズマにより0.1μm〜0.2μm厚のSiO層11を適用する。このために、プラズマパラメーターを前の態様に従って適合させ、ガス状ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と酸素との混合物を基体表面から比較的僅かな距離の所からプラズマビーム5中に注入する。SiO層を適用する間、被覆粉末の供給は中断したままにする。SiO層を適用した後、絶縁被覆10が完成する。
【0043】
もし基体3が棒状ホールダー8に固定されているならば、冷却するために基体を加工室から取り出し、予備室中に入れることができる。予備室にはアルゴンが充填されているのが便利であり、予備室中の冷却時間及び圧力は、基体の種類及び被覆の種類に適合させることができる。0.5bのアルゴン圧力で10分の冷却時間で、通常冷却中の内部応力及び亀裂が起きないようにするのに充分である。
【0044】
例えば、プラズマ溶射により適用されるAl層のような電気絶縁層は、用いられる被覆法の結果として完全に密封され絶縁されることは決してない。プラズマ溶射法により適用されたAl層と、反応性熱低圧プラズマにより形成されたSiOカバー層を有する上記被覆は、そのカバー層のおかげで水の取り込みが減少し、実質的に一層良い絶縁性を達成することができる利点を有する。
【産業上の利用可能性】
【0045】
上記プラズマ被覆装置及び上記方法、更にはそれらに付随する変更したものにより、例えば、0.05m以上の比較的大きな基体表面に高品質の薄層を反応製造することができ、もし必要ならば、例えば、50μm以上の厚さの比較的厚い層の製造も可能であり、従って、そのような層の工業的使用を可能にする。
【符号の説明】
【0046】
1 プラズマ被覆装置
2 加工室
3 基体
4 プラズマトーチ
5 プラズマビーム
6.1 注入機構
6.2 注入機構
6.3 注入機構
7 供給部
8 基体ホールダー
9 シールロック
10 被覆
11 SiO
11’ 層
12 層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマビームにより基体を被覆及び/又は表面処理するための方法で、然も、
− プラズマトーチ(4)を具えた加工室(2)を利用できるようにし;
− プラズマガスを前記プラズマトーチ(4)を通って送り、その中で電気ガス放電及び/又は電磁気誘導及び/又はマイクロ波により加熱して、プラズマビーム(5)を生成させ;そして
− 前記プラズマビーム(5)を、加工室中に導入した基体(3)上に送る;
方法において、
− 前記利用できるようにしたプラズマトーチ(4)が固体材料粒子をプラズマ溶射するための電力を有すること;
− 前記方法中、前記加工室(2)中の圧力が0.01〜10mbになること;
− 液状又はガス状の少なくとも一種類の反応性成分を前記プラズマビーム(5)中に注入し、前記基体(3)の表面を被覆し、且つ/又はそれを処理すること;及び
− 層(11、11’)又は被覆(10)を製造し、且つ/又は基体表面を処理し、そしてこのやり方で製造された層又は被覆又はこのやり方で処理された基体表面が、夫々0.01μm〜10μmの厚さを有すること;
を特徴とする方法。
【請求項2】
プラズマトーチ(4)が、少なくとも30kW、又は少なくとも50kW、又は少なくとも70kWになるか、且つ/又は20kW〜150kWに存在する最大電力を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
方法中の加工室(2)中の圧力が、0.02mb〜5mb、特に0.05mb〜2mbになる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
反応性成分をプラズマトーチ中でプラズマビーム中へ注入し、且つ/又は遊離プラズマビーム(5)中へ注入する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
粉末状固体材料粒子の形又は懸濁物の形の付加的被覆材料を、プラズマビーム(5)中に導入する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
製造された層(11、11’)又は被覆(10)、又は処理された基体表面が、0.01%〜5%、特に0.02%〜2%の気孔率を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
異なった構造の少なくとも二つの層(11、11’、12)を有する被覆(10)の製造方法において、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法を用いて少なくとも一つの層(11、11’)を製造し、少なくとも一つの更に別の層(12)を固体材料粒子のプラズマ溶射により適用し、両方の層を同じプラズマトーチ(4)を用いて適用することを特徴とする被覆製造方法。
【請求項8】
プラズマ溶射中の加工室(2)内の圧力が、0.3mb〜1b、特に0.5mb〜500mb、又は1mb〜200mbになる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
プラズマ溶射により適用された少なくとも一つの層(12)が、2μm〜2000μm、特に10μm〜1000μmの厚さを有する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法を用いて製造された少なくとも一つの層(11、11’)を有するか、又は請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法により製造した異なった構造の少なくとも二つの層(11、11’、12)を有する基体又は加工品。
【請求項11】
固体材料粒子のプラズマ溶射により適用された少なくとも一つの層(12)を含めた異なった構造の少なくとも二つの層(11、11’、12)、及びカバー層として請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により製造された少なくとも一つの層(11)を有する、請求項10に記載の基体又は加工品。
【請求項12】
固体材料粒子のプラズマ溶射により適用された層(12)が、一種類以上の酸化物セラミック成分を含むか、又は一種類以上の酸化物セラミック成分からなり、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法を用いて製造した層(11)が、本質的にSiOからなる、請求項11に記載の基体又は加工品。
【請求項13】
プラズマビーム(5)を発生させるためのプラズマトーチ(4)を有する加工室(2)、前記加工室に接続された制御されたポンプ装置、及び基体(3)を保持するための基体ホールダー(8)を含む、基体の被覆及び/又は表面処理のためのプラズマ被覆装置において、前記プラズマトーチ(4)が固体材料粒子をプラズマ溶射するための電力を有すること、前記加工室(2)内の圧力が前記制御されたポンプ装置により0.01mb〜1b、特に0.02mb〜0.2bの値に調節することができること、前記プラズマ被覆装置(1)が、更に液状又はガス状の少なくとも一種類の反応性成分を前記プラズマビーム(5)中に注入するための注入機構(6.1〜6.3)を有することを特徴とする、プラズマ被覆装置。
【請求項14】
プラズマビーム(5)の方向を制御し、且つ/又は基体からプラズマトーチ(4)の間隔を0.2m〜2m、特に0.3m〜1mの範囲に制御するため、プラズマトーチ(4)のための制御された設定機構を更に含む、請求項13に記載のプラズマ被覆装置。
【請求項15】
プラズマトーチ(4)が、DCプラズマトーチとして作られている、請求項13又は14に記載のプラズマ被覆装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−249741(P2009−249741A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−71395(P2009−71395)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(500063790)ズルツァー・メットコ・アクチェンゲゼルシャフト (30)
【氏名又は名称原語表記】Sulzer Metco AG
【Fターム(参考)】