説明

プラズマ増強化学蒸着法による耐摩耗性被膜

大気圧グロー放電蒸着により、有機ポリマー基板の表面に複層被膜を調製する方法であって、
上記方法の段階は、下記;
プラズマ重合され、光学的に透明な、有機ケイ素化合物の層(第一の層)を蒸着させる段階、そしてその後;
第二の段階において、ポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の実質的に均一な層(第二の層)を、前記第一の層の露出面に蒸着させる段階:
を含み、上記複層被膜は、少なくとも2.0μmの厚さを有し、そしてASTM D1044、CS10Fホイール、500g加重に従って測定した500回のテーバサイクル後に、ヘイズの差分が20単位以下の変化を示す耐摩耗性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧又は大気圧に近い条件下で、プラズマ増強化学蒸着法(PECVD)(「グロー放電化学蒸着法」とも称される。)を用いて、基板の露出面を有機ケイ素化合物の耐摩耗性層を用いて被膜することに関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ケイ素層を蒸着することにより、表面エネルギーが望ましくなく低いポリオレフィン等のポリマーの表面を修飾して、表面の濡れ性又は付着又はその両方を改良することが以前から知られている。同様に、ポリカーボネート等他のポリマーも、耐薬品性の改良、ガスバリアの増強、付着、曇り防止性、耐摩耗性、静電気放電の改良、又は屈折率の変更のために修飾されている。
【0003】
米国特許第5,576,076号明細書では、ポリオレフィンフィルムの濡れ性と付着とが、シラン、担体ガス、及び酸化剤の存在下で大気圧において基板をコロナ放電で処理して酸化ケイ素の蒸着物を生成させて改良することができることが教示されている。米国特許第5,527,629号明細書には、コロナ放電処理の際に残留空気の形で酸素が存在する同様の方法が教示されている。残念なことに、どちらの方法でも好ましいシラン、SiH4が容易に酸化されるため、火災の防止、又は酸化ケイ素粒子の生成を防止するために注意深く監視する必要がある。
【0004】
米国特許第6,106,659号明細書には、RF共鳴励起モード又はパルス電圧励起モードのどちらかでプラズマ放電を発生させる円筒スリーブ電極アセンブリ装置が記載されている。この装置は、作動ガス圧力が約10〜約760トル(1〜100kPa)の範囲にある低真空で運転される。処理に用いるのに好適な化合物は、アルゴンやヘリウム等の不活性ガス;酸素、空気、NO、N2O、NO2、N24、CO、CO2及びSO2等の酸化剤;及び、窒素、六フッ化イオウ、テトラフルオロメタン、ヘキサフルオロエタン、パーフルオロプロパン、アクリル酸、シラン、及び置換されたシラン、例えば、ジクロロシラン、四塩化ケイ素、及びテトラエチルオルソシリケート等である。
【0005】
米国特許第5,718,967号明細書には、シラン、シロキサン、及びシラザン、特にテトラメチルシロキサン(TMDSO)等の一つ以上の有機ケイ素化合物及び酸素を含むバランスガスを用いて、ポリカーボネート等の有機ポリマー基板を処理するための減圧下における操作方法が開示されている。酸素の不在下又は実質的な不在下で、有機ケイ素化合物のプラズマ重合によって形成される接着増進層を最初に調製し、続いて、保護被膜層を、もっと高濃度の酸素、好ましくは化学量論的に過剰な酸素の存在下で生成させる。同様の方法及びそれらの方法で用いられる装置の開示は、米国特許第5,298,587号明細書、同5,320,875号明細書、及び同5,433,786号明細書に含まれている。
【0006】
2003年8月14日に公開された国際公開第2003/066932号パンフレットには、揮発性の有機ケイ素化合物を用いる、ポリマー基板、特にポリカーボネート又はポリプロピレンの表面修飾のためのコロナ放電方法が開示されている。例4では、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)を用いる付着有機ケイ素層の蒸着、それに続くテトラエチルオルソシリケート(TEOS)の蒸着の2段階蒸着が開示されている。両方の段階において用いられる酸化剤は、空気である。
【0007】
上記の参照文献に開示されているこの分野の進歩にもかかわらず、ポリマー基板、特にポリ(メタ)アクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、及びポリカーボネートを含む基板等の極性基を含む有機ポリマー基板への、きわめて付着が高い耐摩耗性被膜を提供することが依然として必要である。
【0008】
Jin−Kyung Choiら,Surface and Coating Technology,131(1〜3),pg.136〜140(2000)には、真空PECVD方法においてN2O酸化剤を使用することにより、二酸化ケイ素被膜の蒸着速度が増加することが開示されている。Wardら,Langmuir,19,2110〜2114(2003)には、大気圧PECVD法によって調製されるいくつかのポリマーシロキサン被膜が開示されている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一及び第二の表面を有する有機ポリマー基板の表面に、大気圧グロー放電蒸着によって複層被膜を調製する方法であって、
この方法は、
第一の段階において、プラズマ重合され、光学的に透明な、有機ケイ素化合物の層(第一の層)を、ケイ素含有試薬と所望により酸化剤とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより、有機ポリマー基板の表面に蒸着させる段階、そしてその後
第二の段階において、ポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の実質的に均一な層(第二の層)を、酸化剤とケイ素含有試薬とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより前記第一の層の露出面に蒸着させる段階
を含み、この複層被膜の厚さは少なくとも2.0μmであり、ASTM D1044、CS10Fホイール、500g加重に従って測定した500回のテーバ(Tabor)サイクルの後に、ヘイズの差分が20単位以下(20 delta haze units)の変化を示す耐摩耗性を有する。
【0010】
本発明はさらに、第一及び第二の表面を有する有機ポリマー基板の表面に、大気圧グロー放電蒸着によって複層被膜を調製する方法を提供し、この方法は、
1)プラズマ重合され、きわめて付着の高い有機ケイ素化合物の層(第一の層)を、ケイ素含有試薬と所望により酸化剤とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより、有機ポリマー基板の表面に蒸着させる段階、そしてその後
2)ポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の均一な層(第二の層)を、酸化剤とケイ素含有試薬とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより、前記第一の層の露出面に蒸着させる段階を含み、その後
段階1)及び2)を少なくともさらに一回繰り返して、複層の耐摩耗性被膜を調製する。
【0011】
別の実施形態では、本発明は、第一及び第二の表面を有する有機ポリマー基板の表面に、大気圧グロー放電蒸着により複層被膜を調製する方法を提供し、この方法は、
1)プラズマ重合され、付着性が非常に高い、化学式SiNwxyzの有機ケイ素化合物の層(第一の層)を、ケイ素含有試薬と所望により酸化剤とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより、有機ポリマー基板の表面に蒸着させる段階、及びその後、
2)化学式SiNw’x’y’z’のポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の均一な層(第二の層)を、酸化剤とケイ素含有試薬とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより、前記第一の層の露出面に蒸着させる段階を含み、ここで:
wは0〜1.0の数であり、
xは0.1〜3.0の数であり、
yは0.5〜5.0の数であり、
zは0.1〜5.0の数であり、
w’は0〜1.0の数であり、
x’は0〜1.0の数であり、
y’は1.0〜5.0の数であり、
z’は0.1〜10.0の数であり、
複層被膜は、少なくとも2.0μmの厚さと、酸化ケイ素だけの単一層被膜と比べて高い基板への付着と、ASTM D1044、CS10Fホイール、500g加重に従って測定した500回のテーバサイクルの後に、ヘイズの差分が20単位以下の変化を示す耐摩耗性とを有する。
さらに好ましい実施形態では、前記方法の段階1)及び2)を少なくともさらに一回繰り返して、可撓性、耐久性、並びに表面の平坦さ及び均一性が改良された、複層の、耐摩耗性被膜を調製する。
【0012】
本発明のさらに別の実施形態では、第一及び第二の表面を有する有機ポリマー基板の表面に、大気圧グロー放電蒸着によって複層被膜を調製する方法を提供し、この方法は、プラズマ重合され、光学的に透明な、きわめて付着の高い有機ケイ素化合物の層を、ケイ素含有試薬と所望により酸化剤とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより、有機ポリマー基板の表面に蒸着させる段階を含み、蒸着の条件は、蒸着された有機ケイ素化合物の層の平均厚さが少なくとも2.0μmになることである。有機ケイ素化合物の層を、有機ポリマー支持体の表面に、少なくとも10cm/分、好ましくは10〜1000cm/分の線形蒸着速度(すなわち、基板がプラズマを通過する速度)で蒸着することがきわめて好ましい。
【0013】
別の実施形態は、上記方法のいずれかにおいて、被膜を、有機ポリマー基板の第一及び第二の表面に適用するものである。
【0014】
上記蒸着条件の下で有機ケイ素化合物の層を基板に蒸着させて、基板へのフィルムの付着を改良する。上記考え方に束縛されることを望まないが、この結果は、上記方法の際、下地のポリマー基板の表面劣化が、小さくなるためであろう。この方法の間、不活性ガス、窒素、又は大気気体の存在により、プラズマから生ずる荷電生成物の平均自由行程が減少し、その結果、基板表面の劣化が減少し、特に荷電粒子又はフリーラジカルによる鎖の切断が減り、オゾン等の反応性化学分子種及び試薬が生成して、表面の官能化が増す可能性がある。さらに、得られる有機ケイ素生成物の組成の変化、特に極性の官能基の導入により、得られるフィルムの可撓性が高くなり、そしてポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、及びポリアクリル酸ポリマー等の極性ポリマー基板との適合性が高くなる。
【0015】
上記一部の実施形態におけるように、複層を用いることによって、一層のみ含む同様の厚さのフィルムと比較して、得られたフィルムはより均一であり、そしてより高い表面平坦性及びより高い光学透明性を有する。さらに、個々の層の欠陥が、複合体の残りの層の存在によりマスクされ、あるいは補われることによって、得られる構造体の均一性がより高い。
【0016】
好ましい実施形態では、二層の繰り返し構造における第一の層は、粒子が凝集しにくい有機シロキサンであり、それにより複層フィルムの平坦性が改良される結果となる。さらに、当該組成物は、従来の組成物と比較して多くの極性官能基を含み、かつ架橋密度が低いので、極性官能基を有する基板との高い結合強度と、改良された可撓性及び伸長性が同時に付与される。さらに、最終的に露出表面を含む第二の層は、有機質部分が実質的になく、そして好ましくは、硬度、靱性、及び耐摩耗性が高いポリマーシロキサン又は酸化ケイ素の層である。
【0017】
本発明の別の実施形態では、ポリマー基板及び一層又は二層以上の蒸着された有機ケイ素化合物の層と、一層又は二層以上のポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の層とを含む最終複合構造体は、新規な組成物を含む。好ましい組成物は、改良された耐摩耗性を有し、温室、窓、その他の商業製品に用いられるプラスチックグレージング構造の露出層に用いるのに理想的である構造体が得られる。さらに、複層構造、すなわち、一層超の有機ケイ素層が、一層超のポリマーシロキサン又は酸化ケイ素層と交互に入れ替わる構造は、硬いポリマーシロキサン又は酸化ケイ素層内の可撓性を向上させ、耐摩耗性は実質的に低下させることはない。有益なことには、これにより、ポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の単一層に比べて表面平坦性が高く、そして均一であり、歪みによる破壊や層間剥離が生じにくく、厚い耐摩耗性の層、特に全体の厚さが2μmを超える層を蒸着させることが可能になる。
【0018】
本発明のある好ましい実施形態は、第一及び第二の表面を有する一層又は二層以上の層を含むポリマー基板を含む複合体であり、第一及び第二の表面は、独立して、一層又は二層以上の蒸着された有機ケイ素化合物の層、及び独立して、一層又は二層以上のポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の層を有し、蒸着された有機ケイ素及びポリマーシロキサン又は酸化ケイ素の層は、厚さが全体で2μmを超える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
米国特許の目的において、本明細書で参照された特許、特許出願、又は刊行物の内容は、特に合成方法、原料、及び当業者の一般的知識に関する内容に関して、参照により全体を本明細書に組み入れる(又はその対応するUS版を、参照により本明細書に組み入れる)。そうでないと明記されるか、文脈から黙示的であるか、又は当業者における慣行である場合を除き、全ての部及びパーセントは、重量に基づく。
【0020】
本明細書で用いられる場合、「含む」の用語及びその派生語は、さらなる成分、段階、又は手順の存在を、それが本明細書に開示されているかどうかに関わりなく排除するものではない。任意の疑念を避けるため、「含む」の用語を用いて本明細書で主張された全ての組成物は、そうでないことが言明されていない限り、任意の添加物、補助剤、又は化合物を含むことができる。一方、「から本質的に成る」の用語は、本明細書で用いられる場合、実施可能性に本質的ではないものを除き、任意の他の成分、段階、又は手順を、続く詳説の範囲から排除する。「から成る」の用語は、用いられる場合、具体的に特定して記述又は列挙されていない任意の成分、段階、又は手順も排除する。
【0021】
本明細書で用いられる場合、「モノリシック」の用語は、亀裂、クラック、及びピットが実質的にない中実(solid)層を指す。当該中実層は、表面から固体層の厚さの10パーセントを超えて伸びる欠陥がないことがきわめて望ましい。「実質的に均一」の用語は、平均厚さが最大厚さの80パーセント以上である固体層であって、表面から固体層の厚さの25パーセントを超えて伸びる変形部がない固体層を指す。「酸化ケイ素」の用語は、少なくともいくつかのケイ素−酸素結合を含む化合物を指し、化学量論的な量より少ない酸素を含有するポリマー酸化ケイ素を含む。「有機ケイ素化合物」の用語は、ケイ素と、ケイ素に直接、又は一つ以上の酸素、窒素、又は他の非炭素原子を介して結合した一つ又は二つ以上の脂肪族、環式脂肪族、又は芳香族の基との両方を含む化合物を指す。ここで調製される有機ケイ素及びポリマーシロキサン又は酸化ケイ素フィルム組成物の化学式は、実験式であって分子式ではないことは当業者に理解されるであろう。
【0022】
「付着性が高い層」又は「付着層」の用語は、有機ポリマー基板に、所望によりポリマーシロキサン又は酸化ケイ素表面層と組み合わせて蒸着される有機ケイ素フィルムを指す。この複層組成物は、ASTM D3359−87クロスカットテープ剥離テスト(1〜5のスケールで、数字が大きいほど、付着が強い)によると、付着が良好である。好ましくは、65℃の水に1時間、さらに好ましくは24時間、最も好ましくは10日間浸漬した後に、基板表面からの層間剥離や損失が見られないことが好ましい。また、標準QUV−B耐候性試験において、1000時間後、層間剥離が観察されない。有機ポリマー基板は、ポリカーボネート、ポリオレフィン、又はポリ(アルキル)アクリレートポリマーを含むことがきわめて望ましい。「ポリマー」又は「ポリマーの」の用語は、任意の分子量又は任意の鎖分岐形態(ブロック又はランダムコポリマーを含む)の、ホモポリマー又はコポリマーを指す。
【0023】
本発明では、大気圧プラズマ増強化学蒸着法を実行するために好適な任意の装置を用いることができる。例には、前述の米国特許第5,433,786号明細書、国際公開第2003/066933号パンフレット、Wardら,Langmuir,2003 19,2110〜2114等が含まれる。前述の装置の全てにおいて、有機ケイ素試薬を、電極付近において(好ましくは、電極表面を通過させるか又は電極上を通す)、蒸気として、ガス(担体ガス)流に供給し、電極と対電極との間の放電によってプラズマが生成する。有機ケイ素試薬の量は、加熱を用いて蒸気圧を高めるか、又は噴霧化、例えば、超音波アトマイザーを用いて増やすことができる。有機ケイ素試薬の十分な蒸気圧を達成するための後者の方法は、ガス状混合物の自然発火温度に近づく可能性がある高温を回避できるので好ましい。この方法は大気圧で動作すると言われるが、大気圧より少し上又は下の圧力(±20kPa)でも動作できることが理解されるであろう。好ましくは、動作圧力は、大気圧、又は一若しくは複数の電極を通過する所望のガス流を得るために必要なだけ十分に大気圧よりも高い圧力である。
【0024】
本発明に用いるのに適した有機ケイ素試薬には、有機シラン及びシリコーン化合物、特に有機シロキサンが含まれる。本明細書で用いられる「シリコーン化合物」の用語は、ケイ素−炭素結合とケイ素−酸素結合との両方を含む化合物を指す。化合物は、ケイ素を含む化合物を揮発させるために過剰な熱を用いて混合物の自然発火温度に近づけることなく十分な量のカルシウムを担体ガスに含ませることができるように、好適な蒸気圧を有することが望ましい。
本発明に用いるのに好ましい有機ケイ素試薬には、次の化学式:
4Si[OSi(R’)]r
(式中、R及びR’は、各存在において独立して、水素、ヒドロキシル、C1〜10ヒドロカルビル、又はC1〜10ヒドロカルビルオキシであり、rは0〜10の数である。)
の化合物が含まれる。
【0025】
さらに好ましい有機ケイ素試薬には、次の化学式:
2Si(R’’2)OSi(R’)2、HsSi(OR’’)4-s、又は(R’’O)3Si[OSi(OR’’)2t
(式中、R’’は、各存在において独立して、C1〜4ヒドロカルビル、好ましくはC1〜4アルキル、最も好ましくはメチル又はエチルであり、s及びtは、各存在において独立して、0〜4の数である。)
に対応する。
きわめて好ましい有機ケイ素試薬は、テトラC1〜4アルキルジシロキサン及びテトラC1〜4アルキルオルソシリケート、特にテトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、及びテトラエチルオルソシリケート(TEOS)である。最も好ましいケイ素含有化合物には、線状及び環状有機シロキサン、例えば、テトラアルキルジシロキサン、ヘキサアルキルジシロキサン、テトラアルキルシクロテトラシロキサン及びオクタアルキルシクロテトラシロキサンが含まれる。ここで試薬として用いるのにきわめて好ましいケイ素含有化合物は、テトラメチルジシロキサンである。
【0026】
所望の生成物、すなわち、第一の層としてのポリマー有機ケイ素化合物を生成させるために、あるいは第二の層としてのポリマーシロキサン又は酸化ケイ素を生成させるため(酸化剤の濃度を高めることによる)に、十分な量の酸化剤を、バランスガスの形で反応器に入れる前の担体ガスに混合するか、又は別に反応器に加える。ガス状混合物のさらなる成分には、ヘリウムやアルゴン等の不活性物質がある。好適な酸化剤には、O2,O3,NO,NO2,N2O,N23、及びN24が含まれる。好ましい酸化剤は酸素である。必要に応じて、CO2及びN2のさらなるガスを含ませることができる。好ましいガス状混合物は空気、又は酸素と窒素との混合物である。
【0027】
第一の段階では、有機ケイ素化合物の酸化しやすさによって決まる酸化剤の量は、程度の差はあるが、厳しく制限される。好ましくは、作動ガス(担体ガス及びバランスガス)中の酸化剤の量は、1.0モルパーセント未満であり、さらに好ましくは0.1モルパーセント未満であり、きわめて好ましくは0.01モルパーセント未満である。第一の段階が、酸化剤の実質的な不在下で行われることが最も望ましい。反応混合物中には外因的量の酸素が、周囲大気からの侵入、用いるガスに含まれる不純物、又は基板表面での物理的吸着等によって不可避的に存在することが理解されるであろう。ガス状混合物中に存在する有機ケイ素化合物の量は、少なくとも50ppmから、好ましくは少なくとも200ppmから、さらに好ましくは少なくとも500ppmから:そして10000ppm以下、好ましくは8000ppm以下、さらに好ましくは7000ppm以下の範囲に維持されることが望ましい。反応混合物中の有機ケイ素化合物の量が少ないと被膜蒸着速度が低くなり、濃度が高くなると気相の核生成が起こってフィルムの質が低下し、被膜に粉末が形成することさえある。
【0028】
第一の層が残留する有機及び/又は極性の官能基、例えば、ヒドロキシル又はヒドロカルビルオキシ官能基を含むことがきわめて望ましい。上記官能基が、付着ポリマー層の0.1〜10モルパーセントを含むことが望ましい。さらに十分に酸化した層と比較して、得られる生成物は架橋度が低いので、被膜層に高い可撓性が付与される。第一の層は、複層フィルム構造の付着を改良する。さらに、第二の層は、そして第一の層のある程度まで、少量であるが化学量論的量より少ない窒素を、例えば、窒化ケイ素官能基等の状態で含むことが望ましい。好ましくは、0<w≦10及び0<w’≦1である。得られる複層被膜は、モノリシックであって透明度が高いことがきわめて望ましい。
【0029】
本発明の方法では、十分な電力密度及び周波数が電極/対電極のペアに適用され、グロー放電が、電極及び対電極の間のスペースに生成して維持される。電力密度(プラズマにさらされる電極表面積に基づく)は、好ましくは少なくとも1w/cm2、さらに好ましくは少なくとも5w/cm2、最も好ましくは少なくとも10w/cm2であり;好ましくは200w/cm2未満、さらに好ましくは100w/cm2未満、最も好ましくは50w/cm2以下である。周波数は、好ましくは少なくとも2kHz、さらに好ましくは少なくとも5kHz、最も好ましくは少なくとも10kHzであり;好ましくは100kHz以下、さらに好ましくは60kHz以下、最も好ましくは40kHz以下である。電極に適用される電流は、10〜50,000ボルト、好ましくは100〜20,000ボルトの電圧において、10〜10,000ワット、好ましくは100〜1,000ワットで変化する。
【0030】
電極及び対電極の間の間隔は、目に見えるプラズマ(グロー放電)を生成して維持するのに十分な間隔であり、好ましくは少なくとも0.1mm、さらに好ましくは少なくとも1mmであり、好ましくは50mm以下、さらに好ましくは20mm以下、最も好ましくは10mm以下である。電極、対電極、又は電極と対電極との両方には、必要に応じて、誘電体のスリーブを取りつけることができる。実施形態の一つでは、電極及び対電極のペアは、セラミック等耐高温性の誘電体のケース内に入れる。被膜すべき基板を、対電極によって支持又は輸送されるか、あるいは電極及び対電極によって生成するプラズマの少なくとも一部が接触又は衝突するようにプラズマの近傍に支持する。
【0031】
本発明の目的において、電極及び対電極の用語は、第一の電極及び第二の電極を指すものとして用いられ、そのどちらかを分極させ、そして他方を反対に分極又は接地することができる。電極付近で生成したプラズマと共に担体ガス/バランスガスの流れにより、プラズマ重合された生成物を、対電極に取りつけられた又は電極対の付近に配置された基板の表面に蒸着する。担体ガス、副産物、及び未付着の生成物を排出するために基板及び電極(単数又は複数)の間に好適なギャップを設ける。過剰量の汚染ガス、特に空気の流入を防止するためにギャップの幅を調整する。
【0032】
好ましくは、電極又は電極対を通るガス状混合物全体の速度は、安定なプラズマが形成し、重合生成物の均一な蒸着を可能にする速度である。望ましくは、出口ポートを通過するガスの速度は、少なくとも約0.05m/s、さらに好ましくは少なくとも約0.1m/s、最も好ましくは少なくとも約0.2m/sであり;好ましくは約1000m/s以下、さらに好ましくは約500m/s以下、最も好ましくは約200m/s以下である。
【0033】
本明細書において規定される用語「電極」は、通電させた際に安定なプラズマを形成するのに十分なガス流を備えた反応器内部の単一の導体素子、又は十分に間隔をおいた複数の導体素子を指す。好ましくは、電極は中空であるか、又はその表面の一つ以上の開口部を通して作動ガスを供給するための導管を備えている。従って、「電極を通り過ぎて」の用語は、単一又は複数のエレメントの付近における一つ以上の入口を通過し、対電極の表面を通り過ぎ又は接近し、そして一つ又は二つ以上の出口を通過して被膜すべき基板を通り過ぎる又は基板上のガス流を指す。大気圧プラズマ蒸着方法では、上記のようなガス流があるので、電極又は反応器の壁から削られた物質が、もしある場合には、実質的に排出されるので、得られたフィルムの表面欠陥が減少し、そして平面性が改良される点が有利である。
【0034】
本発明の方法で行われるプラズマ重合により、概して、基板の表面に光学的に透明な被膜が生ずる。「光学的に透明な」の用語は、本明細書において、少なくとも70パーセント、さらに好ましくは少なくとも90パーセント、最も好ましくは少なくとも98パーセントの光学的透明度を有し、ヘイズ値が、好ましくは10パーセント以下、さらに好ましくは2パーセント以下、最も好ましくは1パーセント以下である被膜を記載するために用いられる。光学的透明度は、透過−非散乱光の、透過−非散乱光及び透過−散乱光(<2.5°)の和に対する比である。ヘイズは、透過−散乱光(<2.5°)の全透過光に対する比である。これらの値は、ASTM D1003−97に従って決定される。
【0035】
本発明で用いられる基板は、任意の形態の有機ポリマーを含む。基板の例には、熱可塑性プラスチック、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びエチレン、プロピレンの共重合混合物等のポリオレフィン、並びに/又はC4〜8α−オレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸、及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、及び上記ポリマーで用いられるモノマーのインターポリマー等のフィルム、シート、ファイバー、及び織布又は不織布等がある。本発明の有機ポリマー基板は、一層又は二層以上の層を有することができ、第一及び第二の表面を有する。本発明の方法では、有機ポリマー基板の第一及び/又は第二の表面を被膜することができる。
【0036】
被膜された基板を、ここでは複合体と称する。好ましい基板は、ポリカーボネートである。基板に関して「フィルム」の用語は、任意の所望の長さ又は幅の材料であって、厚さが0.001〜0.1cmまでの材料を意味する。「シート」の用語は、任意の所望の長さ又は幅で、厚さが0.1〜10cmのものを意味する。上記の構造は、基板の露出面が一つ又は二つ以上の有機ポリマーを含むという条件で、同一又は異なる有機ポリマーの一層又は二層以上の積層物を含むことができ、そして他の好適な材料、例えば、木材、紙、金属、布、又は一つ以上の金属又はメタロイドの酸化物、例えば、粘土、タルク、シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、又は石等を複層構造の一つ以上の層として、又は一つ以上の層の成分として含むことができることが理解されるであろう。
【0037】
積層物は、当業者に公知の任意の方法によって、例えば、それだけに限定されないが、共押出、熱によるラミネーション、接着剤によるラミネーション等によって作ることができる。好ましい積層物は、ポリカーボネートシート及びポリカーボネートフィルム等であり、フィルムを構成するポリカーボネートには、UV吸収体が含まれる。別の好ましい積層物は、第一及び第二の表面を有するポリカーボネートシートであって、UV吸収体を含むポリカーボネートフィルムがポリカーボネートシートの第一及び第二の表面に積層されている;上記ポリカーボネートフィルムは、同一又は異なる組成を有することができる。あるいは、UV吸収体を含むフィルムは、好ましくはポリ(メタ)クリレートである。ある実施形態では、UV吸収体を、有機ポリマーにグラフト、共重合、又はその他の方法で結合させる。
【0038】
きわめて望ましい形では、第一の層(ここでは、互換的に「付着層」と称する)が被膜される基板の表面に直接蒸着され、それを洗浄又は水洗して表面から異物が除去されるが、スパッターされた金属等の中間層を被膜して表面を改質せず、また表面の性質を変える処理、例えば、コロナ放電、UV線、電子線、オゾン、酸素等を用いる処理を行わず、ケイ素化合物の不在下で表面を酸化する他の化学的又は物理的な処理を行わないことが望ましい。
【0039】
本発明は、(メタ)アクリル酸の一つのエステルのホモポリマー、(メタ)アクリル酸の一つ超のエステルのコポリマー、及び一つ又は二つ以上の共重合可能なコモノマーをさらに含む上記ポリマーの共重合誘導体を含む基板で用いるのに特に適合している。(メタ)アクリル酸のきわめて好ましいエステルには、ヒドロカルビルエステル、特にアルキルエステルであって、各エステル基に1〜10個の炭素原子、さらに好ましくは1〜8個の炭素原子が含まれる。きわめて好ましいエステルには、ブチルアクリレート及びメチルメタアクリレートが含まれる。さらに、これらのポリマーは、共重合可能なコモノマーを含むことができ、特に二価の架橋形成コモノマー(「架橋ポリ(メタ)アクリレートポリマー」と称される。)を含むことができる。例には、特にジアルコールのジ(メタ)アクリレートエステル、特にアルキレングリコール及びポリ(アルキレン)グリコールが含まれる。
【0040】
前述の架橋ポリマー組成物は、架橋形成重合等、特に二相の重合条件下における重合を含む重合により形成される硬いセグメント又は不均一領域(ゲル等)を含むことが好ましい。そのような反応条件の好適な一例は、化学的特性又は物理的特性に差異がある別個のポリマーセグメントを生じ、得られたポリマーが均質性を有しない逐次(sequential)、懸濁、又は乳濁重合条件を用いることによる重合を含む。そのようなポリマーは当業者に公知であり、購入可能である。
【0041】
例には、アクリル酸及びメタクリル酸のアルキルエステルの逐次懸濁重合された架橋ポリマーが含まれる。そのようなポリマーを、まず2〜8個の炭素原子を含むアルキル基を有するアクリル酸のアルキルエステルを、水性懸濁媒質中の0.1〜5パーセント、好ましくは0.5〜1.5パーセントの架橋モノマーと反応させることによって生成させる。架橋モノマーは、アルキルアクリレートを架橋させる能力をもつ二官能又は多官能化合物である。好適な架橋モノマーは、エチレングリコールジアクリレート及び1,3−ブチレングリコールジアクリレートである。その後の重合段階で、1〜4個の炭素原子のアルキルメタクリレートの比率を上げ、得られるポリマーは、不均一な硬いセグメントの領域を含む。
【0042】
好適な乳化剤及びフリーラジカル開始剤が用いられる。好適なポリマーはまた、少量の共重合されたアクリル酸及びメタクリル酸を含むことができる。例えば、ある有用なポリマーは、所望により、当該ポリマーに共重合された少量のアクリレート、アクリル酸、又はメタクリル酸を含む、大部分のメタクリレートポリマーの連続相に分散された、ゴム状の架橋ポリ(アルキルアクリレート)であることができる。上記ポリマーは、米国特許第3,562,235号明細書、同3,812,205号明細書、同3,415,796号明細書、同3,654,069号明細書及び同3,473,99号明細書及びその他に記載されている。
【0043】
好ましいポリ(メタ)アクリレートは、第一の(メタ)アクリレートと第二の(メタ)アクリレートとのブレンド及び/若しくはコポリマー並びに/又は相互侵入網目であって、少なくとも二相が存在し、一つの相は連続相であり、もう一つの相は分散相であり、連続相が分散相よりも高いTgを有し、好ましくは連続相がメチルメタクリレートに富み、分散相がn−ブチルアクリレートに富むようなポリ(メタ)アクリレートである。
【0044】
本明細書において、基板の少なくとも表層に用いるのに好ましいポリマーは、Spartech PEPから市販され、KORAD(商標)の商品名で称される架橋ポリ(メタ)アクリレートポリマー、又はArkemaから市販され、SOLARCOAT(商標)の商品名で称される架橋ポリ(メタ)アクリレートポリマーである。特に好ましい実施形態では、フィルム状の上記製品のポリマー層がポリカーボネートシート又はフィルムに、あるいはポリ(メタ)アクリレートポリマーのシート又はフィルム層に積層され、それがさらに別のポリマーシート又はフィルム層、特にポリカーボネート層に積層される。得られる二層又は三層構造物は、プラスチックグレージング材料として使用するのにきわめて望ましく、特に、Cibaから提供されているTINUVIN等有機ベンゾトリアゾール等のUV吸収物質、有機錫化合物、酸化亜鉛、又は同様の物質が表面層に導入される場合に望ましい。
【0045】
上記グレージング材料がUV吸収層、特にUV吸収物質(特に有機ベンゾトリアゾール)を0.01〜10パーセント含む全(メタ)アクリレートポリマーで構成され、大気又は他のUV線源に露出する構造は、露出条件下での耐劣化性が改良されるが、本発明の耐摩耗層は、改良された耐クレージング性、耐摩耗性、及び耐擦り傷性を有する。本明細書で用いられるポリマー積層物を形成するのに好適な方法には、シアヌレート化合物、低分子量ポリブチルアクリレート等の接着剤、又はその他の好適な接着剤によってそれぞれの層を貼りあわせて積層する方法が含まれる。同様に、それぞれのポリマーの溶融積層法を用いることもできる。
【0046】
本発明の独自の実施形態では、上記基板には、一層又は二層以上のポリ(メタ)アクリレートポリマー層と、一層又は二層以上のポリカーボネートホモポリマー又はコポリマー層とを、耐衝撃性が得られる厚さに重ねた積層物が含まれる。好ましい構造は、第一及び第二の表面を有するポリカーボネート層で、第一又は第二の表面のどちらかの表面にポリ(メタ)アクリレートポリマー層が積層された積層物である。別の好ましい構造は、第一及び第二の表面を有するポリカーボネート層であって、ポリ(メタ)アクリレート層がポリカーボネート層の第一及び第二の表面の両方に積層されたものである。ポリカーボネート層に二つ以上のポリ(メタ)アクリレート層が積層される場合、それらの層は同じポリ(メタ)アクリレートポリマーであっても、異なるポリ(メタ)アクリレートポリマーであってもよい。
【0047】
特に、上記構造の一部は、弾丸の衝撃に耐えられるほど衝撃に対する十分な耐衝撃性を有し、防弾グレージング用途に用いられることが知られている。ある独自の適用では、上述のポリ(メタ)アクリレート/ポリカーボネート構造の二層化版が、積層物のポリ(メタ)アクリレート面にぶつかる弾丸の貫通には抵抗できるが、そのポリカーボネート側にぶつかる弾丸は容易に貫通することが知られている。
【0048】
従って、上記積層グレージングをポリ(メタ)アクリレート層が外側に向くように備えた自動車等の構造物は、自動車の外から発射された弾丸に対して高い防護能力を有するが、攻撃を受けた場合に車の内部から発射される反撃の弾丸を用いて防衛することができる(一方向の防弾能力)。本発明の耐摩耗性被膜を上記構造の外側表面に、所望により架橋したポリ(メタ)アクリレートポリマー、特にKORAD(商標)の上に施すと、防弾能力、特に一方向の防弾能力を損なうことなくそのグレージング材料に高い耐摩耗性を付与することができる。さらに、UV保護層又は成分を、望ましくは架橋ポリ(メタ)アクリレートポリマー層又はポリ(メタ)アクリレートポリマー層に導入することによって取り入れると、得られた構造にUV線への曝露の下での寿命の延長及び耐劣化性が付与される。
【0049】
本発明の耐摩耗性被膜は、他のポリマー材料と積層物を形成する前又は後にポリマー基板のフィルム又はシートに施される。ある好ましい実施形態では、耐摩耗性被膜は、鋳造若しくは押出シート又はフィルム形成プラスチックの最終段階として施される。被膜された製品を、その後必要なサイズにカットし、耐摩耗性被膜の損失や劣化を生ずることなく、所望の形に成形する;又は固形物に積層する。
【0050】
本発明のある好ましい実施形態は、第一及び第二の表面を有する一つ又は二つ以上の層を含むポリマー基板を含む複合構造体であって、第一及び第二の表面は、独立して、一層又は二層以上の蒸着された有機ケイ素化合物の層を有し、そして独立して、一層又は二層以上のポリマーシロキサン又は酸化ケイ素の層を有し、上記蒸着された有機ケイ素及びポリマーシロキサン又は酸化ケイ素の層の全体の厚さが2μmを超える。
【0051】
上記耐摩耗性被膜を適用するために用いる方法の装置は、不活性な環境に配置することができるが、周辺大気条件の下で運転されることが好ましい。当該方法は、作動ガスの十分な体積流量を用いて、又は作動ガスの組成の変化をもたらすような周辺ガスの侵入を減らすためのシール、減圧ポート、その他の好適な手段を用いて、大気圧で運転する。作動ガス(有機ケイ素化合物、担体ガス、酸化剤、及びバランスガスを含む)の体積流量は、電極面積1cm2あたり10〜1,500cc/分の範囲にあることが好ましい。
【0052】
本発明の方法では、任意の好適な電極幾何形状及び反応器デザインを用いることができる。シート材料等の厚い基板の場合、電極及び対電極とは、両方共被膜される基板の同じ側に配置されることが望ましいであろう。プラズマによって生成した反応生成物が、電極のそばを通った後に基板の表面にぶつかる。反応器の出口ポートは、基板表面の近くに、電極から空間的に離して配置され、プラズマ又は少なくともその中で生成された反応生成物が反応器から排出される前に基板表面と接触できるようにする。
【0053】
必要に応じて、生ずるコロナ放電の形状を、当業者に以前に開示されているように磁場を用いて変えることができる。薄い基板の場合、対電極は導電性の表面であって、その上にターゲット又は基板を支持するか、あるいはその他の方法で電極から基板の反対面に支持することができる。電極及び対電極は、多孔質の非導電性ケースに入れて、被膜される基板表面のすぐ近くに向けることがきわめて望ましい。特に連続処理方法では、基板又は基板を含む対電極全体が動くことがある。
【0054】
図1は、可撓性のフィルム基板を用いて、本発明の方法を実施する際に用いられる装置の一つを具体的に説明するものである。図1では、有機ケイ素化合物(10)を、有機ケイ素化合物が含まれた揮発性液体(10a)のヘッドスペースから発生させ、担体ガス(12)によってヘッドスペースから運び、バランスガス(14)と混合してから電極(16)に輸送する。担体ガス(12)及びバランスガス(14)により、有機ケイ素化合物(10)が電極(16)を通り抜け、詳しくは電極(16)の少なくとも一つの入口(18)及び出口(20)を通り抜ける。出口(20)は、通常、複数の導体素子の間のスリット、若しくは孔、又はギャップの形状をしている。
【0055】
電力を電極(16)に適用し、電極(16)及び対電極(24)の間にグロー放電(22)を生成させる。対電極には、所望により誘電体層(26)が取りつけられている。電極(16)をまた、又はその代わりに、誘電体スリーブ(図示せず)を取りつけることができることが理解されるであろう。基板(28)を誘電体層(26)に沿って連続的に通し、ポリマーシロキサン又は酸化ケイ素生成物を被膜する。
【0056】
図2は、電極(16)、対電極(24)、誘電体(26)、及びグロー放電領域(22)の側面図である。基板が非導電性であるところでは、誘電体層(26)を省くことができる。
【0057】
図3は、電極出口(20)の好ましい実施形態を示す図であり、ほぼ電極の長さ方向に伸びる平行又は実質的に平行な、実質的に均等な間隔のスリットの形状をしている。スリットの幅は、好ましくは0.1mm以上、さらに好ましくは0.2mm以上、最も好ましくは0.5mm以上であり;好ましくは10mm以下、さらに好ましくは5mm以下、最も好ましくは2mm以下である。
【0058】
図4は、電極出口(20)の別の好ましい幾何形状及び間隔を示す図である。この電極出口(20)は、実質的に円形のオリフィスの形状をしている。本発明の方法を実施するためにこの幾何形状を用いる場合、出口の直径は、0.05mm以上、さらに好ましくは0.1mm以上、最も好ましくは0.2mm以上であり;好ましくは10mm以下、さらに好ましくは5mm以下、最も好ましくは1mm以下である。
【0059】
図5は、大気圧プラズマ蒸着方法を示す概略図であり、有機ケイ素試薬(30)の供給手段、静止電極(16a)及び対電極(24a)に結合された電源(32)が含まれ、静止電極(16a)及び対電極(24a)の間にプラズマが発生する。基板(28a)を、ローラー(34)等の輸送メカニズムによって支持し、プラズマ(22a)の少なくとも一部分を通過させる。
【0060】
驚くべきことに、第一に基板表面上の有機ケイ素物質と第二にパウダーを含まない又は実質的に含まない隣接するポリマーシロキサン又は酸化ケイ素被膜とを含む複層被膜が、本発明に従う基板に迅速に蒸着することを見出した。さらに、得られたフィルムは、単一層フィルムに比べて、改良された耐摩耗性、より大きな表面なめらかさ、均一性、及び改良された付着、耐変形性、並びに構造特性を有する。望ましくは、有機ケイ素及びシロキサン又は酸化ケイ素層は、それぞれ、0.01μm〜1.0μmの厚さを有する。本発明の耐摩耗性複層フィルムは全体で、好ましくは2.0〜10.0μm、好ましくは2.0〜6.0μm、最も好ましくは2.0〜4.5μmの厚さを有する。また、好ましくは、上記被膜方法を、少なくとも2回、さらに好ましくは少なくとも3回繰り返す。得られるフィルムが光学的に透明であり、きわめて平坦であり、ヘイズが減少していることがきわめて望ましい。さらに、500回のテーバサイクル(ASTM D1044,CS10Fホイール,500g加重)の後に測定されたヘイズの増加(ヘイズ差分)は、20以下、好ましくは10以下、最も好ましくは5以下である。
【実施例】
【0061】
本発明を以下の例によってさらに説明するが、本発明を制限するものとみなすべきではない。
【0062】
例1−複層耐摩耗性被膜を有するポリカーボネート基板
ポリカーボネート基板に、実質的に図1に示されているような装置を用いてポリマー有機ケイ素フィルムを被膜した。電極及び電源は、Corotech Industries,Farmington,CT,から入手した。当該装置は、放電領域の上にガス入口を有するように設計され、表面に基板を保持する回転する対電極ドラムの上の1cmの高さの放電ゾーンの上に位置する水平に配置された長さ10cmの電極上に作動ガスを噴射する。上記装置を、通常の大気環境に置き、そして大気圧よりも少し高い圧力(1.02kPa)で運転して、対電極の表面の近くの放出ポートからガス生成物を放出させた。
【0063】
7mil(0.18mm)の厚さの基板をメタノール洗浄して表面の汚染を除去するが、それ以外には処理をせずに電極アセンブリの下に支持させた。テトラメチルジシロキサン(TMDSO)を窒素担体ガスと20℃で混合した。TMDSO/N2混合物の調整流量は、1000 standard cm3/分(sccm)であり、バランスガスの流量は、N2(30 standard ft3/分(scfm)(850,000sccm))と空気(10scfm,280,000sccm)との混合物であった。電力供給を、非熱的アーク放電を供給するため1分間300ワットに調整し、有機シラン被膜を基板の露出面に均一に蒸着させた。
【0064】
上記手順を、酸化剤の濃度を上げ(空気単独40scfm、1,100sL/m)、シラン/N2流量を減らし(500sccm)、900ワットの電力で繰り返し、有機シラン被膜上にポリマーシロキサン又は酸化ケイ素を蒸着させた。第二の層の蒸着の暴露時間を増減して、基板を種々の厚さのポリマーシロキサン又は酸化ケイ素の層で被膜した。2μm超の厚さにおいて、有機ケイ素層に続いてポリマーシロキサン又は酸化ケイ素の層を蒸着する上記2段階法を繰り返し、均一性と表面のなめらかさが向上した複層被膜を得た。さらに、当該複層被膜は、可撓性がより高く、その結果、耐久性が高まり、層間剥離しにくくなった。
【0065】
次に、得られた被膜プラークを、テーバ式耐摩耗性(ASTM D1044,500回のサイクル、CS10Fホイール,500g加重)に関して試験した。この試験条件の下で、4μmを超える厚さで被膜されたプラークが優れた耐摩耗性を示した(500回のサイクル後のヘイズ差分が5パーセント未満)。図6に結果を示す。
【0066】
例2〜5:アクリルフィルムの押出
ペレット形状で市販されている4つのアクリル樹脂から押出フィルムを製造した。重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及び分子量分布(Mw/Mn)を、テトラヒドロフラン(THF)中のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって決定した。全ての材料が溶解したわけではなく、溶解性材料のパーセントを、全ての材料が溶解した場合に予期されるGPCシグナル値と比較した、GPCシグナル強度の減少により決定した。ブチルアクリレートのパーセントを、炭素13の核磁気共鳴(NMR)によって決定した。残りは、メチルメタクリレートであった。
【0067】
次のアクリレート樹脂を用いた:
「SOLARKOTE A 200−101」、Arkemaから入手でき、Mwは77,000、Mw/Mnは1.85、ブチルアクリレートのパーセントは18である。
「SOLARKOTE P−600」、Arkemaから入手でき、Mwは144,000、Mw/Mnは2.00ブチルアクリレートのパーセントは42である。
「ACRYLITE PLUS(商標)ZK−6」、Cyroから入手でき、Mwは76,100、Mw/Mnは1.84、ブチルアクリレートのパーセントは17である。
「KORAD 5005」、Spartech PEPから入手でき、Mwは78,000、Mw/Mnは2.05、ブチルアクリレートのパーセントは31である。
【0068】
上記ペレットを、乾燥器中で6時間、200°Fにおいて、−28°Fの露点まで乾燥し、ホイルバッグに封入した。上記ペレットを、押出機の覆われた供給ホッパーに加えられる直前まで封入し続けた。上記押出機は、標準の直径0.75インチのKillion製単一スクリュー押出機で、10インチ幅のフィルムダイ、ロール、エアーナイフ、ニップロール、及び巻取機を備えていた。装置は、3層までの押出が可能であるが、1層だけを製造した。フィルム厚さは、巻き取りローラーのスピードを調整することによって制御した:目標厚さは150μmであり、変動は約±12μmであった。押出機の温度を調整してスクリューモーターの負荷を10amps未満に維持した。フィルムを約8インチの幅で引き出したが、縁の部分は厚さの変動が大きいので内側の6インチ幅の部分だけを用いた。表1に、押出機の運転条件を示す。
【0069】
【表1】

【0070】
例7〜10:ポリカーボネートシートへのアクリルフィルムの積層
例2〜5で製造された150μmの厚さのアクリルフィルムと、市販のフィルム、「KORAD 5001」(Spartech PEPから市販、ブチルアクリレート含有率31%、及びフィルム厚さ100μm)とを、ポリカーボネートシートに積層させた。
【0071】
次のポリカーボネートシートを用いた:
「PC Sheet」は、Dowが製造しているCALIBRE(商標)200−10天然ポリカーボネートシートで、厚さは0.75mmである。
【0072】
アクリルフィルムを、18インチ幅のChemsultants TMベンチトップロールラミネーターを用いてポリカーボネートシートに積層した。底部の未加熱のローラーがモーターによって回転してサンプルを送り、そしてトップの金属ロールを加熱する。ローラー間のギャップを調整して上記層を一緒にしっかりと加圧する。滞留時間を、ボトムロールのスピードによって制御した。ポリカーボネートシートを、幅6インチ、長さ24インチの片にカットした。アクリルフィルムは、収縮を考慮に入れて幅8インチ、長さ28インチであった。アクリルフィルムをポリカーボネートシート上に置き、これを、使い捨ての25μm厚さMYLAR(商標)ポリ(エチレンテレフタレート)保護フィルムで覆った。アクリルフィルムとポリカーボネートシートとの両方が押し出されたのと同じ方向(通常、「マシン方向」と称される)でラミネーターに送った。ローラースピード制御モーターを「13.0」にセットし、毎分1〜2フィートのスピードを与えた。トップロールの温度は、KORAD 5001,5005;及びSOLARKOTE Pを340°Fに;ACRYLITE PLUSを365°Fに;そしてSOLARKOTE Aを375°Fにセットした。
【0073】
表2は、例6〜10、及び例11の複層シートの組成を示している。シートに対して衝撃試験を行った。
表2において:
「衝撃」とは、Instron TM ダート衝撃試験機で行われる衝撃試験である。積層されたアクリルフィルムを有するポリカーボネートシート及びポリカーボネートシートを、4インチ×4インチの試験検体に切断した。当該試験検体を、内径1.5インチのクランプを用いて試験装置に固定した。直径0.5インチの打金を、8000インチ/分のスピードでサンプルに衝突させた。サンプルを、アクリル側とポリカーボネート側との両方にぶつけた。ピークエネルギーと全エネルギー(どちらもインチポンド)とが記録され、全エネルギーを、下記表2に報告する。
【0074】
【表2】

【0075】
複層ポリカーボネート/アクリル積層シートのアクリル面を、実質的に図1に示されている装置を用いてポリマー有機ケイ素フィルムを用いて被膜した。電極及び電源は、Corotech Industries,Farmington,CT,から入手した。装置は、放電領域の上にガス入口を有するように設計され、表面に基板を保持する回転する対電極ドラムの上の高さ1cmの放電ゾーンの上に位置する水平に配置された長さ10cmの電極上に作動ガスを噴射する。当該装置を、通常の大気環境に置き、大気圧より少し高い圧力(1.02kPa)で運転し、対電極ドラムの表面近くにある放出ポートからガス生成物を放出させた。
【0076】
厚さ0.75mmのPCシートと厚さ150μm(厚さが100μmである例7を除く)のアクリルフィルムとを有する基板を、水性石けん溶液で洗浄して、表面の汚染を除去したが、それ以外は何も処理せず、そして電極アセンブリの下に支持させた。蒸気相のテトラメチルシロキサン(TMDSO)を、窒素担体ガスと20℃で混合した。TMDSO/N2混合物の調整流量は、1000,2000,又は3000 standard cm3/分(sccm)であり、バランスガスの流量は、N2(30 standard ft3/分(scfm)(850,000sccm))と空気(10scfm、280,000sccm)との混合物であった。電源を、1分間、300ワット又は900ワットに調整して、非熱的なアーク放電を与え、有機シラン被膜を基板の露出面に蒸着させた。
【0077】
上記の手順を、酸化剤の濃度を上げ(空気単独、40scfm、1,100sL/m)、シラン/N2流量を減らし(500sccm)、900ワットで5分間繰り返し、有機シラン被膜の上にポリマーシロキサン又は酸化ケイ素被膜を蒸着させた。第二の層の蒸着の暴露時間を増減して、基板を、種々の厚さのポリマーシロキサン又は酸化ケイ素層で被膜した。厚さが2μmを超える場合には、有機ケイ素層、続いてポリマーシロキサン又は酸化ケイ素層を蒸着するための上記2段階法を繰り返し、均一性及び表面のなめらかさが増した複層被膜を得た。さらに、当該複層被膜は、可撓性がより高く、その結果、耐久性が高まり、層間剥離しにくくなった。
【0078】
得られた被膜されたプラークを、アクリルフィルム表面へのプラズマハードコートの付着に関して試験した。表3は、アクリルフィルムとポリカーボネートシートとの積層物に大気圧プラズマ法によって被膜した3つの異なる付着層ハードコートの結果を示す。付着力は、ASTM D3359−87クロスカットテープ剥離試験で決定し、0〜5のスケールで評価した。0=付着力ゼロであり、5=優れた付着である。
【0079】
【表3】

【0080】
適切な条件の下で、全てのPC/アクリル積層物に関して優れた付着が達成された。
【0081】
例11:ポリカーボネートシートの、ポリカーボネートフィルムとの共押出
例11は、厚さ0.75mmのPCシート(Dow Chemical社から市販されるCALIBREポリカーボネート200−6 TNT)に12.5μmのUV安定化PCのフィルムをかぶせて生成させた共押出シートである。ALIBREポリカーボネート200−6ポリカーボネートは、300℃及び1.2kgにおいて、メルトフローが6グラム/10分間であり、UV安定化ポリカーボネートは、それらの条件下でメルトフローが7グラム/10分間であった。UV安定剤は、トリアジン系UV安定剤である。
【0082】
CALIBREポリカーボネート200−6ポリカーボネートのペレットは、1000ポンドの容量のステンレス鋼ホッパーを有するConair CD−200H Compu−Dry High Heat Dehumidifying Dryerで250°Fで4時間、露点−20°F及び0.02パーセントの水分濃度まで乾燥させた。濾過して除湿した空気がペレットを通して循環した。乾燥されたペレットを、空気圧でホッパーに運び、主押出機に供給した。
【0083】
UV安定化されたポリカーボネートペレットは、100ポンドの容量のステンレス鋼ホッパーを有するConair CD−30H Compu−Dry High Heat Dehumidifying Dryerで250°Fで4時間、露点−20°F及び0.02パーセントの水分濃度まで乾燥させた。乾燥されたペレットを、ステンレス鋼のバケツによって手作業でホッパーに移し、そこから補助押出機に供給した。
シート共押出システムは、直径2.5インチのHPMの通気された主押出機(30/1 L/D)及び1.25インチ補助押出機を含んでいた。
【0084】
主シート押出システムは、直径2.5インチのHPMの通気された主押出機(30/1 L/D)、Magg EXTREX(商標)36/36 ギアポンプ、CAMILE TG データ取得及び制御システム、及びNASH MHF−120減圧ポンプを含んでいた。当該押出機を水冷し、そして当該押出機は、鋳造ブロンズヒーターを有していた。第一押出機のスクリューは、HPM Corporation製の2段階のDouble Waveスクリューであった。第一段の送り深さは、5.2直径で0.4インチ、移行長さは直径4.4、そして計量部分深さは直径8.5で0.150インチ、0.075インチの深さのらせんバリアを有していた。通気口部分は、0.45インチの深さ、直径3.5の長さであった。第二段階の計量部分は、ダブルウエーブ混合部分であり、主深さ0.26インチ、ピーク深さ0.15インチ、谷深さ0.4インチ、そしてアンダーカット深さ0.15インチであった。第二段階の計量部分の長さは直径8であった。上記押出機を、通気口を閉じて運転した。
【0085】
押出機の下流側にBeringer EA−20スクリーンチェンジャーを設置して不純物を濾過し、押出機の背圧を上げてギアポンプ等下流の設備を損傷から保護した。40/60/80/125メッシュ構成のスクリーンパックを用いた。溶融したポリマーを、濾過した後、長さ25インチの移送ラインでギアポンプに運んだ。ギアポンプは、容積式装置であり、押出機のサージを排除して一定の産出量を与え、シートの均一な厚さを実現した。
【0086】
キャップ層押出システムは、1.25インチの補助押出機を含んでいた。補助押出機のスクリューは、長さが直径24であった。この押出機は空冷であった。上記押出機が、Maagモデル24/24ギアポンプに放出した。当該ギアポンプは、移送ラインによってフィードブロックに接続されていた。
【0087】
二つの押出機が、共押出フィードブロックに供給して二層構造を生成させた。当該フィードブロックは、Cloeren Corporation of Orange,TXによって製造された。フィードブロックで二層構造が作られると、当該材料が押出ダイに送られ、当該材料が所望の幅及び厚さのシートに広がる。
シートダイは、幅が26インチであり、そしてCloeren Corporation of Orange,TXによって製造された。当該ダイは、二つのリップヒーターゾーンに加え、ボディーに10個の温度制御ゾーンを有していた。この実験では、リップゾーンを加熱しなかった。
【0088】
押出速度は、主シートを製造する主押出機に関して100lb/時間であり、キャップ層を製造する補助押出機に関して20lb/時間であった。溶融温度は、580°Fであった。
主押出機、補助押出機、ギアポンプ、移送ライン、及びダイの温度設定を下に示す:
【0089】
【表4】

【0090】
【表5】

【0091】
【表6】

【0092】
複数位置研磨ロールスタックは、Sterling,Davis−Standard,Edison,NJ,の一部門によって製造されている。ロールスタックは、きわめて良好に研磨された鏡面仕上げ(表面粗さが0.5〜1.0マイクロインチ)の三つのクロムロールを有する。各ロールは、直径が16インチ、幅が28インチである。内部のスパイラルバッフルが、上記システム内で循環する熱伝導流体に対して強い乱流を生じさせ、±1°Fの温度許容範囲を維持した。この複数位置ロールスタックを、水平位置で用いた。温度設定は、前方ロール(ダイに最も近い)=260°F、中間ロール=295°F、そして後方ロール=310°Fであった。
【0093】
ダイからの溶融ポリマーを、前方ロール及び中間ロールの間の前方挟み込み点に落下させ、中間ロール及び後方ロールの間で輸送した。当該シートを、一組のプルロールによって水平に運んだ。
中間ロールスピードは、約100インチ/分であり、前方及び後方ロールスピードを、中間ロールスピードに対して0.9〜1.02の比に設定した。プルロールスピードを、後方ロールスピードに対して約0.90の比に設定した。
【0094】
取扱い、輸送、及び貯蔵の際にシートの表面が損傷することを防ぐために、シートの上面及び底面に保護フィルムを用いた。フィルムは、2milの厚さのポリスチレンLDF550を、コロナ処理して付着を高めたものであった。この保護フィルムを、プラズマ被膜の前にはがした。
【0095】
仕上げられたシートを、Famco model E13666−P−1024ギロチンシャーカッターで一定の長さにカットした。24インチ幅の刃は、電気モーターで駆動し、90°の切削エッジを有し、刃先のクリアランスは、0.001インチであった。
【0096】
共押出されたPC基板を、水性石けん溶液で洗浄して表面の汚染を除去したが、それ以外は処理せず、電極アセンブリの下に支持させた。テトラメチルジシロキサン(TMDSO)を、20℃で窒素担体ガスに混合した。TMDSO/N2混合物の調整した流量は、1000 standard cm3/分(sccm)であり、バランスガスの流量は、N2(30 standard Ft3/分(scfm)(850,000sccm)と空気(10scfm,280,000sccm)との混合であった。電力供給を、非熱的なアーク放電を生ずるために1分間300ワットに調整し、有機シラン被膜を基板の露出面に均一に蒸着させた。
【0097】
上記の手順を、酸化剤の濃度を上げ(空気単独、40scfm、1,100sL/m)、シラン/N2流量を減らし(500sccm)、900ワットの電力で繰り返し、有機シラン被膜上にポリマーシロキサン又は酸化ケイ素被膜を蒸着させた。第二の層の蒸着時間を増減させ、基板に異なる厚さのポリマーシロキサン又は酸化ケイ素層を被膜した。2μm超の厚さにおいて、有機ケイ素層、続いてポリマーシロキサン又は酸化ケイ素層を蒸着するための前述の2段階法を繰り返し、均一性及び表面のなめらかさが向上した複層被膜を得た。さらに、当該複層被膜は、可撓性がより高く、その結果として耐久性及び耐剥離性が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、大気圧プラズマ蒸着方法で用いる装置を具体的説明するものである。
【図2】図2は、電極及び対電極の側面図を具体的説明するものである。
【図3】図3は、出口ポートとしてのスリットを有する電極を具体的説明するものである。
【0099】
【図4】図4は、電極出口ポートの配置及び幾何形状を具体的説明するものである。
【図5】図5は、大気圧プラズマ蒸着方法で用いる装置の部品の別の好適な配置を示す概略図である。
【図6】図6は、被膜された基板の500回のテーバサイクル後のヘイズ(ヘイズ差分)値の増加を、厚さの関数として示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一及び第二の表面を有する有機ポリマー基板の表面に、大気圧グロー放電蒸着によって複層被膜を調製する方法であって、
当該方法の段階は、下記;
第一の段階において、プラズマ重合され、光学的に透明な、有機ケイ素化合物の層(第一の層)を、ケイ素含有試薬と所望により酸化剤とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより前記有機ポリマー基板の表面に蒸着させる段階;その後
第二の段階において、ポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の実質的に均一な層(第二の層)を、酸化剤とケイ素含有試薬とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより前記第一の層の露出面に蒸着させる段階:
を含み、前記複層被膜は、少なくとも2.0μmの厚さを有し、そしてASTM D1044、CS10Fホイール、500g加重に従って測定した500回のテーバサイクルの後に、ヘイズの差分が20単位以下の変化を示す耐摩耗性を有する。
【請求項2】
第一及び第二の表面を有する有機ポリマー基板の表面に、大気圧グロー放電蒸着によって複層被膜を調製する方法であって、
当該方法の段階は、下記;
1)プラズマ重合され、付着性が高い有機ケイ素化合物の層(第一の層)を、ケイ素含有試薬と所望により酸化剤とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより前記有機ポリマー基板の表面に蒸着させる段階、そしてその後;
2)ポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の均一な層(第二の層)を、酸化剤とケイ素含有試薬とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより前記第一の層の露出面に蒸着させる段階、そしてその後:
段階1)及び2)を少なくともさらに一回繰り返してモノリシックな、複層の耐摩耗性被膜を調製する段階:
を含む。
【請求項3】
第一及び第二の表面を有する有機ポリマー基板の表面に、大気圧グロー放電蒸着によって複層被膜を調製する方法であって、
当該方法の段階は、下記;
1)プラズマ重合され、付着性が高い、化学式SiNwxyzの有機ケイ素化合物の層(第一の層)を、ケイ素含有試薬と所望により酸化剤とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより前記有機ポリマー基板の表面に蒸着させる段階;そしてその後
2)化学式SiNw’x’y’z’のポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の均一な層(第二の層)を、酸化剤とケイ素含有試薬とを含むガス状混合物を大気圧プラズマ蒸着させることにより前記第一の層の露出面に蒸着させる段階:
を含み、ここで:
wは0〜1.0の数であり、
xは0.1〜3.0の数であり、
yは0.5〜5.0の数であり、
zは0.1〜5.0の数であり、
w’は0〜1.0の数であり、
x’は0〜1.0の数であり、
y’は1.0〜5.0の数であり、
z’は0.1〜10.0の数であり、
前記複層被膜は、少なくとも2.0μmの厚さと、前記基板への改良された付着と、ASTM D1044、CS10Fホイール、500g加重に従って測定した500回のテーバサイクル後に、ヘイズの差分が20単位以下の変化を示す耐摩耗性とを有する。
【請求項4】
段階1)及び2)が少なくともさらに一回繰り返されて、可撓性、耐久性及び表面の平坦性及び均一性が改良された複層の耐摩耗性被膜が調製される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第一及び第二の表面を有する有機ポリマー基板の表面に、大気圧グロー放電蒸着によって複層被膜を調製する方法であって、
当該方法の段階は、プラズマ重合され、光学的に透明な、付着性が高い有機ケイ素化合物の層を、ケイ素含有試薬と所望により酸化剤とを含むガス状混合物を大気圧グロー放電蒸着させることにより、前記有機ポリマー基板の表面に蒸着させる段階を含み、
ここで、蒸着の条件は、蒸着された有機ケイ素化合物の層が、少なくとも2.0μmの平均厚さを有するような条件である。
【請求項6】
前記有機ケイ素化合物の層が、少なくとも10cm/分の線形蒸着速度で前記有機ポリマー支持体の表面に蒸着される、請求項6に記載の方法。
【請求項7】
前記第二の層は、有機質部分が実質的にない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
第一及び第二の表面を有する有機ポリマー基板を含む複合構造体であって、
前記第一及び/又は第二の表面は、一層又は二層以上の蒸着された有機ケイ素化合物の層と、一層又は二層以上のポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の層とを有し、
前記蒸着された有機ケイ素及びポリマーシロキサン又は酸化ケイ素の層は、全体の厚さが2μmを超える。
【請求項9】
前記ポリマー基板が、フィルム及び/又はシート状の、一層又は二層以上のポリカーボネート層である、請求項8に記載の複合構造体。
【請求項10】
前記ポリマー基板が、フィルム及び/又はシート状の一層又は二層以上のポリ(メタ)アクリレート層である、請求項8に記載の複合構造体。
【請求項11】
前記ポリマー基板が、フィルム及び/又はシート状の、一層又は二層以上のポリカーボネート層と、一層又は二層以上のポリ(メタ)アクリレート層とを含む積層物であり、そして前記蒸着された有機ケイ素及びポリマーシロキサン又は酸化ケイ素の層が、前記ポリ(メタ)アクリレート層に付着している、請求項8に記載の複合構造体。
【請求項12】
一層又は二層以上の前記ポリ(メタ)アクリレートポリマー層が、架橋されたポリ(メタ)アクリレートポリマーを含む、請求項10又は11に記載の複合構造体。
【請求項13】
一層又は二層以上の前記ポリカーボネート層及び/又は一層又は二層以上のポリ(メタ)アクリレート層が、一種又は二種以上のUV吸収化合物をさらに含む、請求項9,10、11又は12に記載の複合構造体。
【請求項14】
請求項11又は12に記載の複合構造体を含むシート、積層物、押出構造体、又はアセンブリ形状のグレージング材料。
【請求項15】
請求項13に記載の複合構造体を含むシート、積層物、押出構造体、又はアセンブリ形状のグレージング材料。
【請求項16】
請求項14に記載のグレージング材料を含む自動車又は建物。
【請求項17】
請求項15に記載のグレージング材料を含む自動車又は建物。
【請求項18】
前記グレージング材料が、ポリマーシロキサン又は酸化ケイ素被膜の露出面を前記建物又は自動車の外部に向けて配置されている、請求項16に記載の自動車又は建物。
【請求項19】
前記グレージング材料が、ポリマーシロキサン又は酸化ケイ素被膜の露出面を前記建物又は自動車の外部に向けて配置されている、請求項17に記載の自動車又は建物。
【請求項20】
前記UV吸収体が、一層又は二層以上の前記ポリカーボネート層及び/又は一層又は二層以上の前記ポリ(メタ)アクリレート層にグラフト、共重合、又は結合されている、請求項13に記載の複合構造体。
【請求項21】
前記被膜が、前記有機ポリマー基板の前記第一及び第二の表面に適用される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記有機ポリマー基板の前記第一及び第二の表面が、独立して、一層又は二層以上の蒸着された有機ケイ素化合物の層を有し、そして独立して、一層又は二層以上のポリマーシロキサン又は酸化ケイ素化合物の層を有し、
前記蒸着された有機ケイ素及びポリマーシロキサン又は酸化ケイ素の層は、全体の厚さが2μmを超える、
請求項8に記載の複合構造体。
【請求項23】
前記ポリ(メタ)アクリレートが、少なくとも二つの相が存在するように、第一の(メタ)アクリレートと第二の(メタ)アクリレートとのブレンド及び/若しくはコポリマー並びに/又は相互侵入網目であり、一方の相は連続相であり、そして他方の相は分散相であり、そして前記連続相が、前記分散相よりも高いTgを有する、請求項10に記載の複合構造体。
【請求項24】
前記連続相が、メチルメタクリレートに富み、そして前記分散相がn−ブチルアクリレートに富む、請求項23に記載の複合構造体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2008−518109(P2008−518109A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538950(P2007−538950)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【国際出願番号】PCT/US2005/035887
【国際公開番号】WO2006/049794
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】