説明

プラズマ表面処理方法、プラズマ処理装置及び目的物

【目的】一部に真空アークプラズマを用いて、ドロップレットの影響を受けることなく高純度に、かつ円滑に単一膜、混合膜及び積層膜を成膜するプラズマ表面処理方法、プラズマ処理装置及びこれらを用いて処理された目的物を提供する。
【構成】2種類の第1プラズマ16及び第2プラズマ17を使用する。各プラズマは、第1プラズマ発生部2、第2プラズマ発生部3において真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って発生させる真空アークプラズマであり、第1と第2プラズマ導入路22、23を介して共通輸送ダクト10に導入される。このとき、第1及び第2プラズマ16、17を共通輸送ダクト10に導入するタイミングを制御して、プラズマ処理部1内のワークW表面に対して積層膜形成等の表面処理加工が行われる。各プラズマ導入路のプラズマ導入角度は共通輸送ダクト10の輸送方向に対して鋭角に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電(陰極アーク放電)を行って発生させたプラズマを少なくとも処理用プラズマとして使用するプラズマ表面処理方法、プラズマ処理装置及びそのプラズマ処理装置を用いて表面処理加工された目的物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、表面処理とは、固体表面の美観、性能、耐久度を改善するための手法である。表面処理の中でも、表面コーティングは、製品の美観/装飾性(色、光沢)の向上・付与、耐食性の向上・付与、耐摩耗性の向上・付与、耐疲労性の向上・付与、光学特性の向上・付与(反射防止膜、反射膜、光学フィルタ膜など)、導電性の制御(絶縁性膜、半導体性膜、導電性膜、透明導電膜)、熱伝導性の制御(熱伝導性膜、熱絶縁性膜)、磁性の付与、触媒性の付与、摺動性の付与、などとして有用なものである。一般に、表面コーティングは,湿式法と乾式法とに分類される。表面コーティングとして有用な、金属(Siを含む)と非金属との結合体の金属間化合物(窒化物、酸化物、炭化物、硫化物、ケイ化物、ホウ化物,水素化物、など)は、人工的に形成されるものがほとんどで、ファインセラミックとか、ニューセラミックなどと呼ばれている。これらのセラミック薄膜は、乾式法や真空蒸着などのような反応性の低い乾式法では形成が困難であり、もっぱら、高い反応性が利用可能なプラズマを用いて形成される。例えば、工具の分野では、工具の長寿命化のため、工具基材の表面に各種のセラミック薄膜コーティングが施されている。主な例としては、窒化チタン(TiN),窒化クロム(CrN),炭化チタン(TiC)膜などである。また、TiNは金色を呈するため、腕時計のハウジング・バンド、ブレスレット、眼鏡フレームなどのような装飾品、包丁、ナイフ、はさみなどの台所用品や文房具など、金に変わる素材として利用されつつある。
【0003】
TiN膜は鋼や超硬合金との密着性が良く、加工相手材と焼付きにくいなどの特性を呈しているが、若干耐酸化性に劣る。そのため、TiNにアルミニウムを混ぜたTiAl((Ti, Al)Nと記述される場合もある)が利用される場合もある。尚、上記のTiAlNや他の金属間化合物の組成比(X、Y、Z、・・・)は、特に明記しない限り省略する。前記TiAlNは、硬度や摩擦係数はTiNと同程度であるが、高温酸化特性ははるかに優れており、大気中での無変質耐熱温度は800℃くらいであるという特徴を呈する。TiAlN膜は、重加工用切削工具や各種金型(プレス金型、プラスチック成形用金型、ダイカスト用金型、ガラスレンズ成形用金型など)への適用が進んできている。又、TiNにクロムを混ぜたTiCrN((Ti, Cr)Nと記述される場合もある)も、硬さや摩接係数はTiNと同程度であるが、高温酸化特性ははるかに優れている。高温酸化特性はTiAlNより若干劣るが、耐食性に優れており、プラスチック成形用金型やダイカスト用金型に使用される場合も多い。また、CrAlNやCrVNも高耐酸化性、高硬度材料としてドライ加工用工具(高硬度材)の皮膜として利用される。このように2種類の異種金属と非金属との金属間化合物セラミックの需要も高い。更にまた、より機能性を高めるため、3種以上の異種金属と非金属との金属間化合物セラミックの開発も行なわれつつある。
【0004】
ところで、金属イオンや非金属固体イオン(主に、炭素C)を含むプラズマを発生する方法として、真空アーク(あるいは陰極アークとも呼ばれる)放電法がある。この真空アーク放電法には、陰極物質を蒸発させる陰極アーク放電法と陽極物質を蒸発させる陽極アーク放電法があるが、一般に陽極物質を蒸発させることは困難であり、本願明細書に記載される真空アーク放電法とは特に断らない限り陰極アーク放電法を示している。同様に、真空アークと称した場合も断らない限り陰極アークを示している。上記真空アークプラズマは、アーク放電において陰極と陽極の間に生起するアーク放電で形成され、陰極表面上に存在する陰極点から陰極材料が蒸発し、この陰極蒸発物質により形成されるプラズマである。一般に、陽極は不活性であり、蒸発しない。また、雰囲気ガスとして反応性ガス又は/及び不活性ガス(例えば、希ガス)を導入した場合には、反応性ガス又は/及び不活性ガスも同時にイオン化される。このようなプラズマを用いて、固体表面への薄膜形成やイオンの注入を行って表面処理加工を行うことができる。
【0005】
しかしながら、真空アーク成膜装置においては、プラズマの発生時に陰極から副生する陰極材料粒子(以下、「ドロップレット」という)による表面処理上の固有の問題がある。一般に、真空アーク放電では、陰極点から陰極材料イオン、電子、陰極材料中性粒子(原子及び分子)といった真空アークプラズマ構成粒子が放出されると同時に、サブミクロン以下から数百ミクロン(0.01〜500μm)の大きさのドロップレットも放出される。しかし、表面処理における問題となるのは、前記ドロップレットの発生であり、ドロップレットが基材表面に付着すると、基材表面に形成される薄膜の均一性が失われ、薄膜の欠陥品となる。このために基材にドロップレットが付着しない方法が開発されなければならない。
【0006】
前記ドロップレットの問題を解決する一方法として、P.J.Martin, R.P.Netterfield and T.J.Kinder, Thin Solid Films 193/194 (1990)77(非特許文献1)に記載される磁気フィルタ法がある。この磁気フィルタ法は、真空アークプラズマを湾曲したドロップレット捕集ダクトを通して処理部に輸送するものである。この方法によれば、発生したドロップレットは、ダクト内周壁に付着捕獲(捕集)され、ダクト出口ではドロップレットをほとんど含まないプラズマ流が得られる。また、ダクトに沿って配置された電磁石により湾曲磁界を形成し、この湾曲磁界によりプラズマ流を屈曲させ、プラズマを効率的にプラズマ加工部に移動させるようになっている。
【非特許文献1】P.J.Martin, R.P.Netterfield and T.J.Kinder, Thin Solid Films 193/194 (1990)77
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
異種金属元素と非金属元素との金属間化合物であるTiAlN膜はほとんどの場合真空アーク蒸着法で形成されている。現状は、真空アーク蒸発源である陰極蒸発物材料(またはターゲットとも呼ぶ)に、溶解法あるいは粉末法で形成されたTiAl合金を用いている。しかしながら、この場合、TiとAlの混合比を変えた膜を合成するためには、その組成を持つ陰極材料をその都度準備する必要があり、材料そのものが高価であるため、製造コストがアップする問題を生じていた。また、真空アーク蒸着装置のプラズマ加工室(成膜チャンバ)の内壁に、アーク蒸発源であるTi陰極とAl陰極を近接配置して行うことができるが、Ti陰極とAl陰極から発生するプラズマが別々の位置から発生し、それらのプラズマによりワーク(被処理物、被加工物)を表面処理するため、ワークの位置を変えながら成膜を行なっても、TiN膜とAlN膜の交互積層膜が形成されてしまい、原子・分子レベル、ナノレベルで混合したTiAlN混合膜を形成することが困難であった。しかも、Ti陰極とAl陰極からのプラズマの直射配置により、ドロップレットの理想的な除去が困難であった。ドロップレットの除去のためには、前記の磁気フィルタ法を適用した磁気フィルタ型真空アーク源を用いることも可能であるが、この場合も、Ti用磁気フィルタ型真空アーク源とAl用磁気フィルタ型真空アーク蒸発源の2個を用いると、上記と同様に、ワーク上に形成される膜は積層膜になってしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、複数の物質からなる金属間化合物膜(合金膜、混合膜、セラミック膜)・多層膜、あるいは単一物質からなる金属膜を、ドロップレットの影響を受けることなく高純度に、適切に組成制御され、かつ円滑に形成することのできるプラズマ表面処理方法及びプラズマ処理装置を提供することを目的とする。また、例えば、所望の表面特性・機能を被処理物に付与する金属膜用、および/あるいは、2種以上の金属を含む金属間化合物用の真空アーク成膜装置を成膜チャンバに対してコンパクトに配設して、高純度の金属膜、および/あるいは、金属間化合物膜を、単一膜・混合膜・多層膜として円滑に形成できるプラズマ表面処理方法およびプラズマ処理装置を提供することを目的とする。更に、係るプラズマ処理装置を用いて表面処理された、例えば、金属膜、合金膜、セラミック膜(窒化物、酸化物、炭化物、硫化物、ケイ化物、ホウ化物,水素化物、など)を備えた目的物の提供を目的とする。この表面処理により、前記目的物には、製品の美観/装飾性(色、光沢)の向上・付与、耐食性の向上・付与、耐摩耗性の向上・付与、耐疲労性の向上・付与、光学特性の向上・付与(反射防止膜、反射(ミラー)膜、光学フィルタ膜など)、導電性の制御(絶縁性膜、半導体性膜、導電性膜、透明導電膜)、熱伝導性の制御(熱伝導性膜、熱絶縁性膜)、磁性の付与、触媒性の付与、摺動性の付与、などが行なわれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、本発明の第1の形態は、真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電(陰極アーク放電)を行って第1プラズマを発生させ、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2プラズマを発生させ、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように電磁気的に導入した後、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトを経由してプラズマ処理部に電磁気的に誘導し、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物を表面処理加工するプラズマ表面処理方法である。
【0010】
本発明の第2の形態は、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとしてプラズマを発生させるプラズマ発生部において第1プラズマ、第2プラズマ、及び第3プラズマを発生させ、かつ、これらの第1〜第3プラズマのうち少なくとも1つが真空雰囲気下に設定されたアーク放電部における真空アーク放電(陰極アーク放電)に基づいて発生させたものであり、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマを共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように電磁気的に導入した後、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマを前記共通輸送ダクトを経由してプラズマ処理部に電磁気的に誘導し、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物を表面処理加工するプラズマ表面処理方法である。
【0011】
本発明の第3の形態は、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとしてプラズマを発生させるプラズマ発生部において第1プラズマ、第2プラズマ、第3プラズマ、及び第4プラズマを発生させ、かつ、これらの第1〜第4プラズマのうち少なくとも1つが真空雰囲気下に設定されたアーク放電部(陰極アーク放電)における真空アーク放電に基づいて発生させたものであり、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを合流させる第1のプラズマ導入路を介して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように電磁気的に導入し、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを合流させる第2のプラズマ導入路を介して、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように電磁気的に導入した後、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトを経由してプラズマ処理部に電磁気的に誘導し、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物を表面処理加工するプラズマ表面処理方法である。
【0012】
本発明の第4の形態は、真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電(陰極アーク放電)を行って第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを電磁気的に導入する共通輸送ダクトと、前記共通輸送ダクトを経由して電磁気的に導入された前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより被処理物を表面処理加工するプラズマ処理部と、前記第1プラズマ発生手段から前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第1プラズマ導入路と、前記第2プラズマ発生手段から前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第2プラズマ導入路と、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御する制御手段と、を有し、前記第1プラズマ導入路及び前記第2プラズマ導入路の、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定したプラズマ処理装置である。
【0013】
本発明の第5の形態は、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとしてプラズマを発生させる第1〜第3プラズマ発生手段において、それぞれ第1プラズマ、第2プラズマ、及び第3プラズマを発生させ、かつ、これらの第1〜第3プラズマ発生手段のうち、少なくとも第1プラズマ発生手段が真空雰囲気下に設定されたアーク放電部における真空アーク放電(陰極アーク放電)に基づくプラズマ発生手段からなる第1〜第3プラズマ発生手段と、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、及び前記第3プラズマを電磁気的に導入する共通輸送ダクトと、前記共通輸送ダクトを経由して電磁気的に導入された前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、及び前記第3プラズマにより被処理物を表面処理加工するプラズマ処理部と、前記第1プラズマ発生手段から前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第1プラズマ導入路と、前記第2のプラズマ発生手段から前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第2プラズマ導入路と、前記第3プラズマ発生手段から前記第3プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第3プラズマ導入路と、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御する制御手段と、を有し、前記第1プラズマ導入路、前記第2プラズマ導入路及び前記第3プラズマ導入路の、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定したプラズマ処理装置である。
【0014】
本発明の第6の形態は、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとしてプラズマを発生させる第1〜第4プラズマ発生手段において、それぞれ第1プラズマ、第2プラズマ、第3プラズマ、及び第4プラズマを発生させ、かつ、これらの第1〜第4プラズマ発生手段のうち、少なくとも第1プラズマ発生手段が真空雰囲気下に設定されたアーク放電部における真空アーク放電に基づくプラズマ発生手段からなる第1〜第4プラズマ発生手段と、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを合流させる第1のプラズマ導入路と、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを合流させる第2のプラズマ導入路と、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを導入する共通輸送ダクトと、前記共通輸送ダクトを経由して導入された前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマにより被処理物を表面処理加工するプラズマ処理部と、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御する制御手段とを有し、前記第1のプラズマ導入路及び前記第2のプラズマ導入路の、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定したプラズマ処理装置である。
【0015】
本発明の第7の形態は、前記第4の形態において、前記第1プラズマ導入路、前記第2プラズマ導入路及び前記共通輸送ダクトが平面上に投影したとき略Y字形をなすプラズマ処理装置である。
【0016】
本発明の第8の形態は、前記の第4〜第7のいずれかの形態において、前記制御手段は前記各プラズマ導入路から前記共通輸送ダクトへのプラズマの導入を同時に、あるいは時間的に別々に、又は部分的に同時に行うタイミングで制御するプラズマ処理装置である。
【0017】
本発明の第9の形態は、前記の第4〜第8のいずれかの形態において、前記第1プラズマに含有される前記アーク放電部の陰極から発生する陰極材料粒子(以後、ドロップレットという)が前記第1プラズマの進行方向に進行することを阻止する阻止部材を前記第1プラズマ導入路及び/又は前記共通輸送ダクトの内面又はその内面の近傍に設けたプラズマ処理装置である。
【0018】
本発明の第10の形態は、前記の第4〜第9のいずれかの形態において、前記各プラズマ導入路から前記共通輸送ダクトに導入されたプラズマを混合するための回転磁界を発生する回転磁界発生手段を前記共通輸送ダクトに設けたプラズマ処理装置である。
【0019】
本発明の第11の形態は、前記の第4〜第10のいずれかの形態において、固体から直接プラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させるプラズマ処理装置である。
【0020】
本発明の第12の形態は、前記の第4〜第10のいずれかの形態において、固体を蒸発させてプラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させるプラズマ処理装置である。
【0021】
本発明の第13の形態は、前記の第4〜第10のいずれかの形態において、気体、又は気化あるいはミスト化した液体によりプラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させるプラズマ処理装置である。
【0022】
本発明の第14の形態は、前記の第4〜第13のいずれかの形態において、少なくとも1つのプラズマ発生手段及び/又は前記共通輸送ダクトの一部又は全体又は部分部分に、同一若しくは異なる波形及び又は値のバイアス電圧を印加するバイアス電圧印加手段を有するプラズマ処理装置である。
【0023】
本発明の第15の形態は、前記の第4〜第14のいずれかの形態において、少なくとも1つのプラズマ発生手段の陽極を電気的にバイアスするバイアス手段を有するプラズマ処理装置である。
【0024】
本発明の第16の形態は、前記の第4〜第15のいずれかの形態において、前記共通輸送ダクトの最終部のプラズマ進行方向をz軸方向、垂直な平面をxy平面とし、前記共通輸送ダクトに、プラズマをx方向及び/又はy方向に走査する偏向コイルを配設したプラズマ処理装置である。
【0025】
本発明の第17の形態は、前記の第4〜第16のいずれかの形態に係る請求項4〜16のいずれかに記載のプラズマ処理装置により発生されたプラズマを用いて前記プラズマ処理部内で表面処理加工された目的物である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の第1の形態によれば、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように導入し、また前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物に対し表面処理加工を行う。プラズマ源が2個あるため、プラズマ源が1個の場合より、単一金属膜あるいは1種類の金属を含んだ金属間化合物膜の高速成膜を円滑に行なうことができる。また、第1プラズマと第2プラズマとが異なる物質を蒸発させる場合、それぞれの蒸発速度を制御することにより、希望どおりに組成を制御した混合膜(合金、金属間化合物膜)の成膜を円滑に行なうことができる。更に又、それぞれのプラズマがダクトに導入されるタイミングを制御できるので、金属や,合金,金属間化合物の積層膜としての多層膜や超多層膜の成膜を円滑に行うことができる。ここで、多層膜とは数百nm〜数μmの層が積層されたもので、超多層膜とは数十nm〜数百nmの層が積層されたものを言う。ドロップレットを除去した第1プラズマと第2プラズマとをタイミングを制御して同一方向から成膜チャンバに導入するので、原子・分子レベル/ナノレベルの制御が提供され、従来の真空アーク蒸着装置(アークイオンプレーティング装置)では困難であった1nm以下〜数十nmの層が積層された超々多層膜の形成も可能となる。
また、前記共通輸送ダクトにより前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記プラズマ処理部に導入するため、記第1プラズマ及び前記第2プラズマによる各成膜機能を備えたプラズマ処理装置のコンパクト化を実現することができる。
更に、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流させるので、前記アーク放電部において発生するドロップレットが直進して前記共通輸送ダクトの合流口内壁付近に衝突する。したがって、前記ドロップレットが前記共通輸送ダクトを通過して前記プラズマ処理部内に進入することを防止できるため、ドロップレット除去効率を向上させ、より高純度な成膜処理を行うことができる。ドロップレット除去だけでいえば、プラズマ流を直角以上に交差させて合流させることも考えられるが、プラズマの輸送効率が低下してしまう。一方、本形態においては、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流させるので、輸送効率を低下させることなく、ドロップレットを除去したプラズマを用いて高純度な成膜処理を行うことができる。
【0027】
本発明の第2の形態によれば、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び第3プラズマを前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように導入し、また前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ、第2プラズマ及び前記第3プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物に対し表面処理加工を行うことができる。プラズマ源が3個あるため、少なくとも2つのプラズマ源により、単一金属膜あるいは1種類の金属を含んだ金属間化合物膜の高速成膜を円滑に行なうことができる。また、前記プラズマ発生部において、2種類又は3種類の物質を蒸発させ、少なくとも1つのプラズマが他のプラズマと異なる蒸発物質から形成される第1〜第3プラズマを生成した場合、それぞれの蒸発速度を制御することにより、所望の組成を有する混合膜(合金、金属間化合物膜)を円滑に成膜することができる。更に、それぞれのプラズマがダクトに導入されるタイミングを制御できるので、前述の積層膜(多層膜,超多層膜,超々多層膜)の成膜を円滑に行うことができる。ドロップレットが除去された第1プラズマ、第2プラズマ及び第3プラズマのタイミングを制御して同一方向から成膜チャンバに導入するので、前記多層膜の成膜を原子・分子レベル/ナノレベルで制御することができ、従来の真空アーク蒸着装置(アークイオンプレーティング装置)では困難であった超々多層膜の形成も可能となる。
更に、前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流させるので、前記アーク放電部において発生するドロップレットが直進して前記共通輸送ダクトの合流口内壁付近に衝突する。したがって、前記ドロップレットが前記共通輸送ダクトを通過して前記プラズマ処理部内に進入することを防止できるため、ドロップレット除去効率を向上させ、より高純度な成膜処理を行うことができる。
【0028】
本発明の第3の形態によれば、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを合流させる第1のプラズマ導入路を介して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように導入し、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを合流させる第2のプラズマ導入路を介して、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように導入し、また前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物に対し表面処理加工を行う。プラズマ源が4個あるため、プラズマ源が1個の場合より、単一金属膜あるいは1種類の金属を含んだ金属間化合物膜のより高速成膜を円滑に行なうことができる。また、それぞれのプラズマ源で異なる物質を蒸発させる場合、それぞれの蒸発速度を制御することにより、希望どおりに組成を制御した混合膜(合金、金属間化合物膜)の成膜を円滑に行なうことができる。更に又、それぞれのプラズマがダクトに導入されるタイミングを制御できるので、金属や,合金,金属間化合物の多層膜・超多層膜・超々多層膜の成膜を円滑に行うことができる。
また、前記共通輸送ダクトにより前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記プラズマ処理部に導入するため、これらのプラズマによる各成膜機能を備えたプラズマ処理装置のコンパクト化を実現することができる。
更に、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを、あるいは前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流させるので、いずれかのプラズマ発生に伴って生ずるドロップレットが直進して前記共通輸送ダクトの合流口内壁付近に衝突する。したがって、かかるドロップレットが前記共通輸送ダクトを通過して前記プラズマ処理部内に進入することを防止できるため、ドロップレット除去効率を向上させ、より高純度な成膜処理を行うことができる。また、本形態においても、前記第1の形態と同様に、各プラズマ流を前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流させるので、輸送効率を低下させることなく、ドロップレットを除去したプラズマを用いて高純度な成膜処理を行うことができる。
【0029】
本発明の第4の形態に係るプラズマ処理装置によれば、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの複数のプラズマ発生源に対して、前記第1プラズマ導入路及び前記第2プラズマ導入路の、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定し、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを、前記共通輸送ダクトを経由して前記プラズマ処理部に導入し、かつその導入タイミングを制御可能にした構造であるため、成膜チャンバなどの前記プラズマ処理部周辺におけるスペースを制約することなく、複数のプラズマ発生源をコンパクトに配設してプラズマ処理装置の構造を簡素化することができる。また、前記アーク放電部において発生するドロップレットが直進して前記共通輸送ダクトの合流口内壁付近に衝突する。したがって、前記ドロップレットが前記共通輸送ダクトを通過して前記プラズマ処理部内に進入することを防止してドロップレット除去効率を向上させた、真空アークプラズマからなる前記第1プラズマを、前記共通輸送ダクトを経由して導入することにより、高純度の単一膜の高速形成、高純度の混合膜・化合物膜、又は積層膜(多層膜・超多層膜・超々多層膜)の形成を円滑に行うことができる。
【0030】
本発明の第5の形態に係るプラズマ処理装置によれば、第1、第2及び第3プラズマ発生手段を具備するから、2つ又は3つのプラズマ発生手段により、単一金属膜又は1種類の金属を含んだ金属間化合物膜の高速成膜を円滑に行なうことができる。更に、第1〜第3プラズマ発生手段に2種類又は3種類のプラズマ源を夫々配設又は供給し、異なる物質から形成される第1〜第3プラズマを生成することができる。従って、それぞれの生成速度を制御することにより、所望の組成を有する合金膜又は金属間化合物膜などの混合膜を円滑に成膜することができる。更に、それぞれのプラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御できるから、前述の積層膜(多層膜、超多層膜、超々多層膜)の成膜を円滑に行うことができる。また、前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流させるから、前記アーク放電部において発生するドロップレットを直進させて前記共通輸送ダクトの合流口内壁付近に衝突させることができる。従って、前記ドロップレットが前記プラズマ処理部内に進入することを防止できるため、より高純度な成膜処理を行うことができる。更に、ドロップレットが除去された第1プラズマと、第2プラズマ及び第3プラズマのタイミングを制御し、これらのプラズマが前記共通輸送ダクトを介して同一方向から成膜チャンバに導入されるから、前記積層膜の成膜を原子・分子レベル/ナノレベルで制御することができる。従って、従来の真空アーク蒸着装置(アークイオンプレーティング装置)では困難であった超々多層膜の形成も可能となる。
【0031】
本発明の第6の形態に係るプラズマ処理装置によれば、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマのプラズマ発生源あるいは、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマのプラズマ発生源に対して、前記第1のプラズマ導入路と、前記第2のプラズマ導入路の、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定し、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを、前記共通輸送ダクトを経由して前記プラズマ処理部に導入し、かつその導入タイミングを制御可能にした構造であるため、成膜チャンバなどの前記プラズマ処理部周辺におけるスペースを制約することなく、上記複数のプラズマ発生源をコンパクトに配設してプラズマ処理装置の構造を簡素化することができる。また、いずれかのプラズマ発生部において発生するドロップレットが直進して前記共通輸送ダクトの合流口内壁付近に衝突する。したがって、かかるドロップレットが前記共通輸送ダクトを通過して前記プラズマ処理部内に進入することを防止してドロップレット除去効率を向上させ、さらにドロップレットを除去した複数のプラズマ流を前記共通輸送ダクトを経由して導入することによって、単一膜のより高速な成膜、および、より複合的かつ高純度の混合膜・化合物膜、積層膜(多層膜・超多層膜・超々多層膜)の成膜を円滑に行うことができる。
【0032】
本発明の第7の形態によれば、前記第4の形態において、前記第1プラズマ導入路、前記第2プラズマ導入路及び前記共通輸送ダクトが平面上に投影したとき略Y字形をなすので、前記第1プラズマ導入路及び前記第2プラズマ導入路の、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定した構造とすることができるため、複数のプラズマ発生源をコンパクトに配設され、簡素化された構造のプラズマ処理装置を実現することができる。なお、この形態には、前記第1プラズマ導入路及び前記第2プラズマ導入路を一平面上に略Y字形に配置した場合と、3次元的に配置して一平面上に投影したとき略Y字形になる場合を含む。
【0033】
本発明の第8の形態によれば、前記の第4〜7のいずれかの形態において、前記ドロップレットを除去した前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの前記共通輸送ダクトへの導入を同時に、あるいは時間的に別々に、又は部分的に同時に行うタイミングで制御する前記制御手段を有するから、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの前記共通輸送ダクトへの導入のタイミングを成膜仕様・条件に応じて調整することができ、少なくとも真空アークプラズマによる蒸発物質を含む単一膜、混合膜、多層膜、または超多層膜、または超々多層膜の形成を円滑に行うことができる。
【0034】
本発明の第9の形態によれば、前記の第4〜8のいずれかの形態において、前記第1プラズマの発生時に生ずる前記ドロップレットが前記第1プラズマの進行方向に進行することを阻止する阻止部材を前記第1プラズマ導入路及び/又は前記共通輸送ダクトの内面又はその内面の近傍に設けたので、前記共通輸送ダクト内のドロップレットを効率的に除去して、高純度のプラズマによる単一膜,混合膜、または積層膜(多層膜・超多層膜・超々多層膜)の形成を円滑に行うことができる。
【0035】
本発明の第10の形態によれば、前記の第4〜9のいずれかの形態において、前記共通輸送ダクトに導入された前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを混合するための回転磁界を発生する回転磁界発生手段を前記共通輸送ダクトに設けたので、前記回転磁界発生手段により発生された回転磁界の回転作用により前記第1プラズマ及び前記第2プラズマのプラズマ流の回転を生じさせて、その回転により拡散されたプラズマ流を前記プラズマ処理部内に導入して、より均一膜生成が可能となり、高品質な成膜処理を行うことができる。
【0036】
本発明の第11の形態によれば、前記の第4〜10のいずれかの形態において、前記第2プラズマの発生を、固体から直接プラズマを得るプラズマ発生方法により行うので、例えば、真空アーク放電方法(陰極アーク放電法,または陽極アーク放電法)、シャンティングアーク方法、または各種スパッタ(例えば、セルフスパッタ、アンバランスドマグネトロンスパッタ、V字型スパッタ)を利用する方法を用いて前記第2プラズマを発生させて各種成膜仕様に応じた単一膜,混合膜、または積層膜(多層膜・超多層膜・超々多層膜)の成膜を行うことができる。
【0037】
本発明の第12の形態によれば、前記の第4〜10のいずれかの形態において、前記第2プラズマの発生を、固体を蒸発させてプラズマを得るプラズマ発生方法により行うので、例えば、ホローカソードアーク、電子ビーム励起プラズマ、各種スパッタ(例えば、高周波スパッタ、中周波スパッタ、直流スパッタ、交流スパッタ、マグネトロンスパッタ)、抵抗蒸発又は電子ビーム蒸発の方法で蒸発させた蒸発物を、ホローカソードアーク、電子ビーム励起プラズマ、直流放電、低周波・中周波・高周波プラズマ(誘導結合型又は容量結合型)、パルスプラズマ、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマ、又は電子シャワープラズマなどでプラズマ化する方法を用いて前記第2プラズマを発生させて各種成膜仕様に応じた単一膜,混合膜、または積層膜(多層膜・超多層膜・超々多層膜)の成膜を行うことができる。
【0038】
本発明の第13の形態によれば、前記の第4〜10のいずれかの形態において、前記第2プラズマの発生を、気体又は気化あるいはミスト化した液体によりプラズマを得るプラズマ発生方法により行うので、直流放電、低周波・中周波・高周波プラズマ、パルスプラズマ、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマ又は電子シャワープラズマなどを利用する方法を用いて前記第2プラズマを発生させて各種成膜仕様に応じた単一膜,混合膜、または積層膜(多層膜・超多層膜・超々多層膜)の成膜を行うことができる。
【0039】
本発明の第14の形態によれば、前記の第4〜13のいずれかの形態において、バイアス電圧印加手段により、前記第1プラズマ発生手段、及び/又は前記第2プラズマ発生手段、及び/又は前記共通輸送ダクトの一部または全体に、好ましくはプラズマ電位と同電位又は略同電位のバイアス電圧を印加するので、前記第1プラズマ及び/又は前記第2プラズマのプラズマ発生部側へのプラズマ流の発生を抑制ないし排除して、発生プラズマの前記プラズマ処理部への輸送効率を高め、成膜速度の向上を図ることができる。また、輸送効率を好適にするために、前記第1プラズマ発生手段、及び/又は前記第2プラズマ発生手段、及び/又は前記共通輸送ダクトの一部または全体または部分部分に、異なる波形及び/又は値のバイアス電圧をそれぞれ印加しても良い。
【0040】
本発明の第15の形態によれば、前記の第4〜14のいずれかの形態において、前記第1プラズマ発生手段の陽極及び/又は前記第2プラズマ発生手段の陽極を電気的にバイアスするバイアス手段を有するので、この陽極バイアスにより見掛け上の陽極抵抗が大きくなり、発生プラズマの前記プラズマ処理部への輸送効率及び成膜速度の向上を図ることができる。
【0041】
本発明の第16の形態によれば、前記の第4〜15のいずれかの形態において、高純度プラズマ流を前記偏向コイルによりxy方向に走査することによって、プラズマ流を被処理物表面全体に一様に照射することができ、高品質の被膜を被処理物に形成できる。
【0042】
本発明の第17の形態によれば、前記の第4〜16のいずれかの形態に係るプラズマ処理装置により発生された前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの高純度プラズマを用いて前記プラズマ処理部内で表面処理加工され、例えばAlTiN、TiCrN、CrAlN,CrVN、TiSiN、CrSiNのような高性能混合膜を組成比制御して被膜した目的物を提供することができる。また、AlとTiの蒸発量を時間的に変化させることにより、組成が膜厚方向に変化したAlTiN膜を被膜した目的物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明に係るプラズマ表面処理方法を適用したプラズマ処理装置の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るプラズマ処理装置の断面構成図である。本発明に係るプラズマ処理装置は、被処理物(ワーク)を設置するプラズマ処理部と一体化されることによりプラズマ加工装置として組み立てられるものである。このプラズマ加工装置を用いるプラズマ表面処理方法においては、2種類の第1プラズマ16及び第2プラズマ17を使用する。各プラズマは、第1プラズマ発生部2、第2プラズマ発生部3において真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って発生させる真空アークプラズマである。第1プラズマ16は第1プラズマ発生部2に連結された第1プラズマ導入路22を介して共通輸送ダクト10に導入される。第2プラズマ17は第2プラズマ発生部3に連結された第2プラズマ導入路23を介して共通輸送ダクト10に導入される。
【0044】
第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23のプラズマ導入角度は共通輸送ダクト10の輸送方向に対して鋭角に設定されている。第1プラズマ16及び第2プラズマ17はそれぞれ、第1プラズマ導入路22、第2プラズマ導入路23を介して共通輸送ダクト10に合流する。このとき、各プラズマ導入角度が共通輸送ダクト10の輸送方向に対して鋭角に設定されていることにより、各プラズマ発生に伴って生じるドロップレットが直進して共通輸送ダクト10の合流口内壁付近に衝突する。したがって、ドロップレットが共通輸送ダクト10を通過してプラズマ処理部1内に進入することを防止することができる。このようにしてドロップレットを除去した第1プラズマ16及び第2プラズマ17のプラズマ流が共通輸送ダクト10を経由してプラズマ処理部1に誘導される。このとき、第1プラズマ16及び第2プラズマ17を共通輸送ダクト10に導入するタイミングを制御することにより、プラズマ処理部1内のワークW表面に対して単一膜、混合膜、あるいは積層膜(多層積,超多層膜,超々多層膜)形成等の表面処理加工が行われる。第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23のプラズマ発生部側の各始端には、それぞれ第1プラズマ16の引き出し用コイル25、第2プラズマ17の引き出し用コイル31が配設されている。なお、本実施形態におけるプラズマ表面処理に際しては必要に応じて反応性ガス又は非反応性ガス(不活性ガス)を導入することもできる。
【0045】
プラズマ処理部1は、内部にワークWを載置するための、自公転機構を持つワーク配設テーブル7を有する角型の成膜チャンバであり、真空チャンバ4によって構成されている。真空チャンバ4には圧力計及び真空制御装置5、処理用ガスの導入制御系開閉装置6及び真空排気口8が配設されている。真空排気口8に接続されるべき真空排気制御装置、開閉バルブ、真空ポンプなどは図示してない。なお、処理用ガスの導入は、プラズマ発生部から行なってもよい。真空チャンバ4の一側面にはプラズマ導入口34が開口配置されている。プラズマ導入口34は、2つのプラズマ発生部2、3から発生するプラズマを導くプラズマ共通輸送ダクト10と連通している。真空チャンバ4と共通輸送ダクト10の最終部との間に、プラズマをチャンバ内でスキャンするための電磁コイルからなるスキャナー装置18が設けられている。スキャナー装置18にはスキャナーコイル28と補正コイル29が含まれる。補正コイル29は、スキャナーコイル28によるプラズマの偏向方向を補正するものである。この補正コイル29は、スキャナーコイル28とプラズマ輸送ダクトとの間に配設してもよい。なお、成膜チャンバは必ずしも角型である必要はなく、円柱形やベルジャー形またはそれらの変形でもよく,被処理物を収められる容器形状であればよい。
【0046】
共通輸送ダクト10及びスキャナー装置18はプラズマ導入口34に対して、換言すればチャンバの中心部に向けて直線状に配設されている。共通輸送ダクト10の始端側には第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23が平面視略Y字形に接続されている。本実施形態では、第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23の導入角度は前記共通輸送ダクトに対して略45°に設定されている。換言すれば、第1プラズマ導入路22と共通輸送ダクト10との成す角、および第2プラズマ導入路23と共通輸送ダクト10との成す角は、略135°に設定されている。
【0047】
図2は共通輸送ダクト10の周辺のY字状プラズマ輸送ダクト構成例を示す。共通輸送ダクト10の途中が拡径されており、その拡径部19に後述のミキサーコイル(電磁コイル)21が配設されている。
【0048】
図3は拡径部19を設ける場合(3B)と、拡径部19を設けずに一定のダクト断面径からなるY字形輸送路35(3A)とを比較するための図である。図3において、図2と同一部材には同一の符号を付している。真空アークの陰極から副生するドロップレットは、陰極表面に形成される陰極点からあらゆる方向にから放出され、放出後は直進的に運動する。ドロップレットのほとんどは、固体に衝突するとその固体表面に付着し吸収されるが、ドロップレットの一部には固体表面で反射するものもある。この反射ドロップレットは、反射時に運動エネルギーを失いながら反射を繰り返し、やがて固体の表面に付着し吸収される。この反射ドロップレットが被処理物に到達すると、表面処理が施された目的物表面の平面度を低下させ、組成均一性を失い、膜質を低下させることになる。第1プラズマ導入路22又は第2プラズマ導入路23方向に放出されたドロップレットは、矢印33に示すように、共通輸送ダクト10の内壁に向かって直進していく。共通輸送ダクト10が拡径されていないときは、矢印36に示すように、内壁に反射したドロップレットがスキャナー装置18側、つまりプラズマ処理部1方向に進入していく割合が多くなる。図3の(3B)に示す拡径部19を設けると、拡径部19においてドロップレットを、矢印37に示すように逆戻り方向等に反射方向を変更させることができ、スキャナー装置18側に進入していく割合を減少させ、ドロップレット除去効率を向上させることができる。本実施形態では図2に示すように、拡径部19を共通輸送ダクト10の途中に設けている。
【0049】
更に、ドロップレットの除去効率を高めるために、ドロップレットが第1プラズマ16又は第2プラズマ17の進行方向に進行することを阻止するための阻止部材を設けるのが好ましい。図2に阻止部材としてのオリフィス32を示す。オリフィス32は、中空部の内径がダクト内径より小さい穴あき円板からなる。オリフィス32を共通輸送ダクト10、第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23の内面側に取り付けることにより、輸送ダクトの局所的な縮径を生じ、プラズマ処理部1方向へ進行するドロップレットの量をより一層少なくすることができる。
【0050】
本実施形態では、オリフィス32を第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23の内面側および共通輸送ダクト10の内面に取り付けている。また、第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23の内面側および共通輸送ダクト10内面には、別の阻止部材として穴あきディスク状のバッフル38をひだ状に取り付けている。バッフル38は通常複数の板状片からなり、ドロップレットを捕捉あるいは反射し、ドロップレットがプラズマ処理部1方向へ進行しないようにする働きを有する。1片のバッフル38の内外径の差は約3〜15mmである。第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23の内面側のバッフル38は、ダクト壁に垂直に取り付けられている。一方、共通輸送ダクト10の拡径部9の内面のバッフル38は、ドロップレットの進行に対向する向きに前傾する傾斜角度でダクト内に取り付けられている。バッフル38のダクト壁に対する傾斜角度は30〜150°に設定され、ダクトの場所・位置に応じて効率よくドロップレットが除去できる角度にするのがよい。バッフル38を内壁に接触させず、内壁面と0.5〜5mm程度離間させて取着してもよい。なお、オリフィス32はバッフル38より内径が小さく、その内径は約30〜80mmであり、板厚は0.5〜3mmである。また、バッフル38はダクト内壁への汚れを防止するための取り外し可能な防着管(プラズマ輸送ダクトの内壁を覆うように配設:防着筒、防着板とも呼ぶ)に取り付けるのが装置のメンテナンス上好ましい。
【0051】
第1プラズマ導入路22の始端側に第1プラズマ発生部2が配設され、第2プラズマ導入路23の始端側に第2プラズマ発生部3が配設されている。第1プラズマ発生部2は、陽極(アノード)12と陰極(カソード)13からなる真空アーク放電部を有する。同様に、第2プラズマ発生部3も、陽極14と陰極15からなる真空アーク放電部を有する。各アーク放電部には、カソード及びアノード電極の他に、トリガ電極(図示略)やアーク安定化磁界発生器(電磁コイル若しくは永久磁石)24、30等も備えている。トリガ電極は、陰極と陽極の間に真空アークを誘起するための電極である。アーク安定化磁界発生器24、30は、アーク放電部における真空チャンバの外周あるいは陰極背後(アークソース部内部又は外部)に配置され、真空アークの陰極点及びアーク放電により発生したプラズマを安定化させるためのものである。なお、各アーク放電部の電源には、直流電源、パルス電源、パルス重畳直流電源などを使用することができる。
【0052】
陰極13、15は、プラズマの主構成物質を供給するソースであり、その形成材料は、導電性を有する固体ならば特に限定されない。金属単体、合金、無機単体、無機化合物(金属酸化物・窒化物)等、特に問わず、それらは単独又は2種以上混合して使用することができる。プラズマの構成粒子は、アーク放電部の陰極13、15からの蒸発物質、若しくは蒸発物質と導入ガスを起源(ソース)とするプラズマ化した荷電粒子(イオン、電子)ばかりでなく、プラズマ前状態の分子、原子の中性粒子をも含む。プラズマ加工法(真空アーク蒸着法)における蒸着条件は、電流:1〜600A(望ましくは5〜500A、さらに望ましくは10〜150A)である。更に、電圧:5〜100V(望ましくは10〜80V、更に望ましくは10〜50V)、圧力:10−10〜10Pa(望ましくは10−6〜10Pa、更に望ましくは10−5〜10Pa)である。金属単体としては、典型金属および遷移金属のすべてが利用可能である。中でも、Al、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、Pt、Au、Hg、Pb、Nd等が利用しやすい。また、合金又は金属間化合物としては、TiAl、TiCr、TiSi、AlSi、AlCr、NdFe等がある。また、無機単体としては、C等がある。また、無機化合物(セラミックス)としては、TiO、ZnO、SnO、ITO(Indium-Tin-0xide :スズ混入酸化インジウム)、In、CdSnO、CuO等の酸化物がある。更に、TiN、TiAlC、TiC、CrN、TiCN等の炭化物・窒化物等も、それぞれ挙げることができる。金属および合金膜の合成、あるいは陰極材料の組成の膜を形成するには、ガスを導入しないか、または後述の各種不活性ガスを用いる。また、前述の反応性ガスを導入することによって、上記陰極物質との組成と反応性ガスの組成とが混合した膜として、窒化物(例えば,AlN、TiN、CrN、CuN、ZnN、HfN、TaN、TiAlN、TiCrN、CrAlN、CrVN、など)、酸化物(例えば、Al、TiO、CrO、CuO、ZnO、ZrO、InZnO、TiAlO、ZrAlOなど)、窒化酸化物(例えば、AlNO、TiNO、CrNO、など)、炭化物(例えば、AlC、TiC、CrC、HfC、TaC、WCoC、WNiCrC、TiMoC、WTiTaC、WTiC/TiMoなど)、炭化窒化物(例えば、AlCN、TiCN、CrCN、WTiCN、WTiTaCN、MoCN、など)、炭酸化物(TiAlCO、ZrNbCOなど)、炭化水素化物(例えば、AlCH、など)、酸化水素化物(例えば、TiOH、など)、ケイ化物(シリサイド;例えば,FeSi、FeSi、NiSi、TiSi、MoSi、CoSi、TaSi、WSiなど)、ケイ化窒化物(例えば、AlSiN、TiSiN、CrSiNなど)、ホウ化物(例えば、TiBN、など)、硫化物(例えば、MoS、など)、フッ化物、塩化物、などの皮膜を得ることができる。また,陰極に黒鉛(C)を用いた場合、ダイヤモンドライクカーボン膜,水素含有ダイヤモンドライクカーボン膜、金属含有ダイヤモンドライクカーボン膜、Si含有ダイヤモンドライクカーボン膜、あるいはフッ素化ダイヤモンドライクカーボン膜の合成も可能である。
【0053】
本発明に係るプラズマ処理装置により成膜されるITO、ATO、AZO、ZnO等は透明導電膜として用いられ、FeTbCo、FeGdCo、NdDyCo合金等は光磁気記録用膜として、CoCr、CoNi、FeNi合金等は垂直磁気記録用膜として、Si、SiC、AlN、Al23、SiO2等は絶縁保護膜として、Cr、SiO、Al、MgF2等は光学利用(反射膜、反射防止膜、フィルター膜など)として、MoSi、TaSi2、WSi、TiSi等は摺動性膜として、TiC、TiN、TiB2、ZrB2、LaB6等は機能性膜として、ZnS:Mn、ZnS:REはエレクトロルミネセンス用発光素子として、好適な特徴を有している。
【0054】
陽極12、14の形成材料は、プラズマの温度でも蒸発せず、非磁性の材料で導電性を有する固体ならば特に限定されない。金属単体、合金、無機単体、無機化合物(金属酸化物・窒化物)等、特に問わず、それらは単独又は2種以上混合して使用することができる。前述の陰極に使用した材料を適宜選択して使用することができる。本実施形態において、陽極はステンレス鋼、銅又は炭素材(黒鉛:グラファイト)等から形成され、この陽極には水冷式又は空冷式などの冷却機構を付設するが望ましい。また、陽極の形状はアークプラズマの全体の進行を遮るものでなければ、特に限定されず、筒状体(円筒、角筒を問わない)、コイル状、U字形、更には、上下・左右に一対平行に配置したり、上下左右のどこか1箇所、又は複数箇所に配置したりして形成してもよい。
【0055】
プラズマ処理部1のチャンバ内には、ガス導入を行わない場合もあるが、ガス導入システム(図示略)及びガス排出システム(図示略)を接続してもよい。これらのシステムとしては汎用のものを使用できる。ガス導入流量が一定に制御され、かつ排気流量を制御することにより容器全体の真空度(圧力)が一定に制御されるものとする。導入ガスは、アーク放電部から導入してもよく、プラズマ処理部1とアーク放電部の両方から導入してもよい。プラズマ処理部1とプラズマ発生部の両方から導入する場合、ガスの種類が異なってもよく、導入ガスとしては、反応性ガスを使用しない場合に、圧力を一定に保持するための希ガス(通常、Ar、He)等の非反応性ガスを適宜使用する。反応性ガスを使用すると、陰極材料等をソースとする蒸発粒子(プラズマ粒子)と反応して、複化合物膜を容易に形成できる。反応性ガスとしては、N,O,空気,水蒸気,H,炭酸ガス(CO,CO),脂肪族炭化水素ガス(CH,C,C,C,C,C,C,C,C,C10など)、芳香族炭化水素蒸気(C,C,C10,C10など)、フッ素ガス(CF,CHF,C6,C,C,など)、フッ素元素含有液体蒸気(C,C14,C14,C16,C16,C1018,C,C1728など)、シラン系ガス(SiH,など)、窒化系ガス(アミン系ガス、イミン系ガス、アミド系ガスなど)、塩化ガス,硫化ガス、アンモニア、ホウ素含有ガス(3フッ化ホウ素、シボラン、ペンタボランなど)、ハロゲンガス、など、およびこれらの混合ガスが利用でき、特に限定されるものではない。非反応性ガスとしては、He,Ne,Ar,Kr,Xeなどがある。ここで、反応性を制御するために希ガスを混合して反応性ガスの濃度を調整してもよい。又、アルコールの蒸気、有機金属ガス、又は有機金属液体(各種金属アルコキシドなど)の蒸気等を反応性ガスとして用いることができる。
【0056】
上記のように、共通輸送ダクト10、第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23は一平面上にY字形に接続され、第1プラズマ16及び第2プラズマ17が共通輸送ダクト10に対して鋭角に合流する。図4の(4A)は各プラズマ流の合流方向を模式的に示す。矢印aで示す第1プラズマ16のプラズマ流16aと、矢印bで示す第2プラズマ17のプラズマ流17aが合流して、矢印A2で示す共通輸送ダクト10の輸送方向に輸送されていく。
なお、共通輸送ダクト10は、第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23が形成する平面から−90〜90°の範囲A1で屈曲して接続されても良い。このような3次元的Y字状ダクトの場合、プラズマ発生部から成膜位置への全屈曲角が増加するので、よりドロップレット除去効率が増加する。
【0057】
また、このような3次元的Y字状ダクトを応用して、4個のプラズマ発生源を2個の3次元的Y字状ダクトで接続し、それをまた、Y字状ダクトで接続する構成も可能となる。その一例を図4の(4B)に示す。固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとしてプラズマを発生させる第1〜第4のプラズマ発生部(図示せず)において、それぞれ第1プラズマ40、第2プラズマ41、第3プラズマ44、及び第4プラズマ45を発生させる。これらの第1〜第4のプラズマ発生部のうち、少なくとも1つが真空雰囲気下に設定されたアーク放電部における真空アーク放電に基づくプラズマを発生させる。第1輸送ダクト部B1は、プラズマ輸送路C1、C2及び第1のプラズマ導入路C3の始端部から構成され、第1プラズマ40及び第2プラズマ41はそれぞれプラズマ輸送路C1、C2を通じて第1のプラズマ導入路C3の始端部で合流し、合流プラズマ42となる。第2輸送ダクト部B2は、プラズマ輸送路D1、D2及び第2のプラズマ導入路D3の始端部から構成され、第3プラズマ44及び第4プラズマ45はそれぞれプラズマ輸送路D1、D2を通じて第2のプラズマ導入路D3の始端部で合流し、合流プラズマ43となる。
【0058】
プラズマ輸送路C1、C2のプラズマ導入角度は第1のプラズマ導入路C3の輸送方向に対して一平面に投影したとき鋭角を形成する3次元的配置に設定されている。また、プラズマ輸送路D1、D2のプラズマ導入角度は第2のプラズマ導入路D3の輸送方向に対して一平面に投影したとき鋭角を形成する3次元的配置に設定されている。第1プラズマ40、第2プラズマ41、第3プラズマ44、及び第4プラズマ45の各プラズマ導入路への導入段階でドロップレットが除去される。
【0059】
前記合流プラズマ42と合流プラズマ43は、第1のプラズマ導入路C3の終端部、第2のプラズマ導入路D3の終端部及び共通輸送ダクトEから構成される共通輸送ダクト部B3に導入され、前記合流プラズマ42と合流プラズマ43が更に合流して合流プラズマ46となる。即ち、第1プラズマ40及び第2プラズマ41の合流プラズマ42は第1のプラズマ導入路C3を通じて、プラズマ処理部(図示せず)に連通する共通輸送ダクトEに導入される。同様に、第3プラズマ44及び第4プラズマ45の合流プラズマ43は第2のプラズマ導入路D3を通じて共通輸送ダクトEに導入され、第1プラズマ40、第2プラズマ41、第3プラズマ44、及び第4プラズマ45は最終的に合流プラズマ46となる。第1のプラズマ導入路C3及び第2のプラズマ導入路D3のプラズマ導入角度は共通輸送ダクトEの輸送方向に対して、一平面に投影したとき鋭角を形成する3次元的配置に設定されており、この合流プラズマ42、43の導入段階においてもドロップレットが除去されるため、4個のプラズマ発生源を用いたプラズマ処理装置全体におけるドロップレット除去をより高効率で行え、成膜速度の向上が実現可能となる。
【0060】
前記プラズマ発生部やプラズマ導入路の数は、生成膜の構造(多層膜、超多層膜、超々多層膜など)、組成比(単一膜、混合膜、化合物膜など)、成膜速度に応じて設計される。3個のプラズマ発生部を有するプラズマ処理装置の場合においても、第1〜第3プラズマを発生させる夫々のプラズマ発生部にプラズマ導入路が連接され、各プラズマ導入路の共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度が鋭角に設定されている。ここで、少なくとも第1プラズマを発生させるプラズマ発生部は、真空アーク放電部からなるプラズマ発生手段を具備している。3個のプラズマ発生部を有するプラズマ処理装置の1つの実施例は、図1のプラズマ処理装置における共通輸送ダクト10の長さを延長し、この延長された共通輸送ダクト10の中段にプラズマを導入する第3のプラズマ導入路を連接して構成されるものである。この場合、前記共通輸送ダクト10の中段に接続されるプラズマ発生部を、真空アークプラズマを発生させる図1の第1プラズマ発生部に置き換えることができ、第1と第3又は全てのプラズマ発生部に真空アーク放電部からなるプラズマ発生手段を配設することもできる。
【0061】
3個のプラズマ発生部を有するプラズマ処理装置の別の実施例としては、図4の(4B)において、第1プラズマを発生させるプラズマ発生手段が真空アーク放電部から構成される場合、第2〜第4プラズマのいずれか1つのプラズマ発生手段を取外した形態がある。また、第1〜第3プラズマ導入路を共通輸送ダクトの異なる位置に連接し、前記共通輸送ダクトの始端位置に連接されたプラズマ導入路から順にプラズマを共通輸送ダクトに導入させることができる。即ち、前記第1〜第3プラズマが、夫々、共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に導入されれば良く、第1〜第3プラズマ導入路を全て同一平面上に配設する必要はなく、上記条件(導入角度が鋭角)を満たす前記共通輸送ダクトの任意の位置及び方向に第1〜第3プラズマ導入路を連接することができる。
【0062】
図5は共通輸送ダクト10の拡径部19外周に設けたミキサーコイル21による回転磁場付与部19Aを示す。図5の(5A)に示すように、拡径部19のプラズマ導入口側には第1プラズマ16と第2プラズマ17の合流プラズマ50を共通輸送ダクト10側に誘引するガイドコイル26からなるガイドコイル部20が、また出口側には、プラズマ流を収束させる収束コイル27からなる収束コイル部27Aが配設されている。合流プラズマ50はダクト内径に応じたプラズマ流径51でガイドコイル部20に導入され、拡径部19を通過した後、ダクト内径に応じたプラズマ流径53で収束コイル部27Aから排出される。
【0063】
図5の(5B)に示すように、ミキサーコイル21は2組の対コイルからなる。一方は互いに対向配置され、直列若しくは並列接続された第1の回転磁界コイル54、55からなり、他方は第1の回転磁界コイル54、55と直交して配置され、かつ互いに対向配置され、直列若しくは並列接続された第2の回転磁界コイル56、57からなる。これらの磁界コイルは共通輸送ダクト10内部に輸送方向と直交する向きに磁界Bを発生させる。図6に示すように、第1の回転磁界コイル54、55及び第2の回転磁界コイル56、57に半周期ずらした交播電流R1、R2を流すと、図5の(5B)に示すように、2次元的に回転する回転磁界Brが発生する。拡径部19に誘導されたプラズマ58はこの回転磁界Brの回転作用を受けて、ダクト内部で回転し、拡径部19内部で一旦拡散・拡径され、その後、収束コイル部27Aにより縮径されることにより、均一に混合された混合プラズマ59となる。混合プラズマ59を収束コイル部27Aにより排出してプラズマ処理部1のチャンバ内に導入することによって、より均一に混合された高純度のプラズマを用いた成膜処理を行うことができる。
【0064】
図7はミキサーコイル21の他の例を示す。この例は3相のミキサーコイル21を用いた場合である。図8はミキサーコイル21を使用しない比較例を示す。図7及び図8において、図5と同一部材には同一符号を付している。図7及び図8の拡径部19の外周には、同軸並進用コイル19Bを配設している。同軸並進用コイル19Bは共通輸送ダクト10の直進方向(輸送方向)に沿った磁界Bzを発生する。図7の場合、同図(7B)に示すように、3組の対コイルからなるミキサーコイル21を用いている。各組は互いに対向配置され、直列接続された第1の回転磁界コイル21Aと21D、第2の回転磁界コイル21Bと21E、第3の回転磁界コイル21Cと21Fからなる。これらの対磁界コイルは互いに60°分離して配設されている。
【0065】
図9に示すように、第1〜第3の回転磁界コイルに120°ずらした交播電流R、R、Rを流すと、同軸並進用コイル19Bによる磁界Bzと合成されて、図7の(7A)に示すように、3次元的に回転する回転磁界Brが発生する。ダクト内に導入された第1プラズマ16及び第2プラズマ17はこの回転磁界Brの回転作用を受けて、ダクト内部で回転し、拡径部19内部で拡散、混合された混合プラズマ53Aとなる。混合プラズマ53Aは3次元的に回転する回転磁界Brの作用によって、より一層、均一に拡散された混合度の高いプラズマ流となる。上記第1〜第3の回転磁界コイル及び、図5の第1及び第2の回転磁界コイルへの通電制御は、商用電源から単相、三相又は多相交流電流を生成し、その電流に対して電圧可変調整器を用いて電圧を調整して行われる。商用三相電源から電圧可変調整器を介して電力供給する方法が、電源供給の容易さおよびプラズマの回転拡散効率の面から、最も有効である。
【0066】
図8に示すように、ミキサー機構を持たない場合、プラズマ16とプラズマ17が混合せず、分離したプラズマ53Bとして輸送されてしまう。
なお、ミキサー部では、ミキサー部前後のダクト内のプラズマ径よりもプラズマが拡散するため、ミキサー部前後の共通輸送ダクトの径よりもミキサー部の径を拡径する必要がある。つまり、共通輸送ダクト10の拡径部19は、ドロップレット除去およびミキサー空間確保の2つの機能・意味を有する。
【0067】
図10は図7のミキサー機能を有する共通輸送ダクトを用いた成膜実験結果を示す。これは、第1プラズマ16及び第2プラズマ17に真空アークを用いた場合である。第1プラズマ発生部2及び第2プラズマ発生部3の陰極は、ともにCu(無酸素銅)を用いた。各プラズマ発生部における真空アークのアーク電流はともに直流100Aとした。装置内(真空アーク部から成膜チャンバまでの全体)の圧力は0.005〜0.01Paとし、雰囲気ガスは導入しなかった。また、ミキサーコイル21によるミキサー効果だけを確認するためスキャナー装置18は動作させていない。図10の比較例ではミキサーコイル21を使用せず、つまり第1〜第3の回転磁界コイルを作動させていない場合であり、それによる成膜結果を図10の(10A)に示す。ミキサーを有効にしない場合には、第1真空アークの第1プラズマ発生部2から輸送されるプラズマビーム(第1プラズマ16)と、第2真空アークの第2プラズマ発生部3から輸送されるプラズマビーム(第1プラズマ17)は同軸並進用コイル19Bによる並進磁界Bzの作用を受けたプラズマ流53Bとなるだけで、拡散されずに分離しているため、それぞれのビームが成膜に対応してしまい、生成膜の中心が2箇所になっている。これに対し、ミキサーを有効にした場合、図10の(10B)に示すように、ダクト内に導入された第1プラズマ16及び第2プラズマ17は3次元回転磁界Brの回転作用を受けて、共通輸送ダクト10から排出されたプラズマビームは第1プラズマ16及び第2プラズマ17が一つに結合したプラズマ流53Aとなっているため、生成膜の中心は1箇所となった。以上の比較実験から、ミキサーコイル21の回転磁界によるプラズマ流の混合効果が良好な成膜結果に結びつくことが明らかとなった。
【0068】
上記構成のプラズマ処理装置は、第1プラズマ及び/又は第2プラズマの発生時期、あるいは共通輸送ダクト10への導入時期を調整することにより、例えば共通輸送ダクト10への導入を同時に、あるいは時間的に別々に、又は部分的に同時に行うタイミングで制御して、ワークの成膜仕様・使用条件に応じた真空アークプラズマによる生成膜を含む単一膜(第1アーク陰極及び第2アーク陰極が同種の場合に生成される膜)、混合膜(第1アーク陰極及び第2アーク陰極が異種の場合に生成される膜)、又は積層膜(多層膜,超多層膜、超々多層膜)の形成を円滑に行うことができる。また、本実施形態に係るプラズマ処理装置は、共通輸送ダクト10を経由して、2種類の第1及び第2プラズマ16、17を成膜仕様・使用条件に応じてプラズマ処理部1に供給することができ、プラズマ加工装置の装置構造のコンパクト化を実現することができる。
【0069】
本発明の構造特長を明確にするために、本発明に至る段階で検討したプラズマ加工装置の装置構造例と上記実施形態を比較する。図11及び図12はその比較例を示すが、本発明の実施形態と同様の部材については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0070】
図11は、比較例として示すプラズマ処理装置の断面構成図である。真空アーク(陰極アーク)を蒸発源・プラズマ源とした第1プラズマ発生部101及び第2プラズマ発生部102を真空の成膜チャンバ100の側面に直接取り付けた場合である。第1プラズマ発生部101及び第2プラズマ発生部102はそれぞれ、陰極103、陽極104及び安定化電磁コイル105からなるアーク放電部を有し、それぞれ第1プラズマ106、第2プラズマ107を発生する。この場合、蒸発源である真空アークの陰極がチャンバ内のワークWに直面するため、各陰極から放出されるドロップレット108、109がワークWに容易に付着する。また、第1プラズマ発生部101及び第2プラズマ発生部102を成膜チャンバ100に直付けしているため、チャンバ側面にそれらが占める割合が多くなり、装置構造が複雑になっている。
【0071】
図12は、比較例として示す、他のプラズマ処理装置の断面構成図である。第2プラズマ発生部201にプラズマ輸送コイル205を配置したトーラス型プラズマ磁気輸送ダクト209を設け、フィルタードアークを蒸発源として配設した例である。第2プラズマ203はトーラス(ドーナツ状ダクトの一部)型の磁気フィルタを接続した真空アーク蒸発源を用いている。このトーラス型フィルタードアークはCrやAlなど、溶融したドロップレットを放出する陰極の場合に有効である。溶融したドロップレット206は固体に接すると固着するため、主にトーラスダクトの外周部内壁で捕集可能となる。第1プラズマ発生部202には、ドロップレット207を捕集するドロップレット捕集部を兼ねたT字形状プラズマ輸送ダクト208が接続されている。しかし、この場合、ドロップレットの分離や捕集は可能であるが、第1プラズマ204と第2プラズマ203のプラズマ流の成膜チャンバ200への接続口が個々に存在するため、それらを複数個配設しようとすると、成膜チャンバの壁面積の制約が一層生じることになり、実際上実施は困難となる。
【0072】
殊に、図11及び図12の場合には、ワークWが成膜チャンバ100、200内の一箇所に配設して処理すると、第1プラズマによる処理と第2プラズマによる処理を複合的に同時の又は同方向からのプロセスで行えないという欠陥がある。一方、本実施形態では、共通輸送ダクト10を経由して各プラズマを導入する構造であるため、成膜チャンバにおけるスペースを制約することなく、複数のプラズマ発生源をコンパクトに配設して構造の簡素化を実現することができる。また、共通輸送ダクト10、第1プラズマ導入路22及び第2プラズマ導入路23を一平面上において略Y字形に接続されているため、共通輸送ダクト10を経由して導入されるプラズマはドロップレットが除去された高純度のものであり、単一膜・混合膜・積層膜(多層膜、超多層膜、超々多層膜)形成を円滑かつ高精度に行うことができる。したがって、図11及び図12に示した、ドロップレットの除去、成膜チャンバの壁面積の制約、単一膜・混合膜・積層膜(多層膜、超多層膜、超々多層膜)の精密形成などの問題を一挙に解決して、プラズマ加工装置のコンパクト化と、単一膜・混合膜・積層膜(多層膜、超多層膜、超々多層膜)成膜の円滑実施及び精密形成を実現している。
【0073】
以下、本発明に係るプラズマ処理装置を用いた成膜工程の制御性について説明する。図13は、本発明に係るプラズマ処理装置を用いて成膜された目的物の概略断面図を示している。(13A)の実施例では、ワークWの表面に単一膜又は混合膜L9が成膜されている。この単一膜又は混合膜L9は、前記第1プラズマと第2プラズマを同時に発生させ、前記共通輸送ダクトを介して成膜チャンバ内に導入することにより、均一な単一膜又は混合膜が成膜される。例えば、第1プラズマがTiをプラズマ源とし、第2プラズマがAlをプラズマ源とし、成膜チャンバ内に反応ガスとして窒素ガスを導入した場合、前記混合膜L9として金属間化合物のTiAl膜がワークW表面に成膜される。組成比X、Y、Zは、例えば、第1プラズマを一定の条件で発生させ、第2プラズマの発生方法を制御すれば、所望の組成比X、Yを有する混合膜が得られる。第2プラズマが真空アークの場合、アーク電流を調整して所望の組成比X、Yを有するTiAl膜を成膜することができる。
【0074】
(13B)は、膜厚の異なる生成膜L10、L11が形成された目的物の概略断面図である。図14の(14A)には、(13B)に示した生成膜L10、L11に対する成膜プロセスのタイミングチャートが示されている。(14A)の下段は、生成膜L11のタイミングチャートを示しており、このタイミングチャートに従って、生成膜L11を形成するプラズマが発生され、プラズマ処理部に導入されることによりワークW表面に生成膜L11が成膜される。更に、(14A)の上段には、生成膜L10に対する成膜プロセスのタイミングチャートが示されており、このタイミングチャートに従って生成膜L10を形成するプラズマを発生させて、このプラズマを成膜チャンバに導入することにより生成膜L11の表面に更に生成膜L10が成膜されて積層膜(多層膜、超多層膜、超々多層膜)がワークW表面に形成される。また、成膜チャンバに反応性ガスなどを導入することにより、生成膜L10、L11は金属膜、炭素膜、珪素膜,又は金属間化合物から形成され、例えば、窒素を成膜チャンバ内に導入し、1つのプラズマ源がTiからなり、もう1つのプラズマ源がAlからなる2つのプラズマ源を用いることにより、TiN膜とAlN膜を生成膜L10、L11としてワークW表面上に積層することができる。このような2種類の生成膜を交互に積層していくことにより、図13の(13C)に示す積層膜を形成することができ、積層膜形成における成膜プロセスのタイミングチャートが図14の(14B)に示されている。また、前記生成膜L10、L11として組成比の異なる2種類の生成膜を交互に積層し、積層膜を形成することができる。
【0075】
図15は、遷移混合膜L3、L6又は境界層L8を有する積層膜が形成された目的物の概略断面図である。(15A)では、遷移混合膜L3が層形成されており、図16の(16A)はその成膜プロセスおけるタイミングチャートを示している。ワークW表面に、まず生成膜L2を成膜し、その上に遷移混合膜L3を形成して所望の生成膜L1を成膜する。例えば、前記生成膜L2としてTiN膜を成膜し、遷移混合膜L3としてTiAlN膜を成膜して、その上に生成膜L1としてAlN膜を成膜することにより、TiN膜とAlN膜との応力の差を緩和し、密着性の良い金属間化合物からなる積層膜を形成することができる。図16の(16A)下段に示すように、生成膜L2の成膜は第2プラズマの定常導入状態にして行う。TiN膜、AlN膜、TiAlN膜を成膜する場合は、常時、窒素ガスが成膜チャンバ内に導入されている。ついで、第1プラズマ及び第2プラズマを交互に共通輸送ダクトに送り出す状態にする。これにより、遷移混合膜L3が形成される。形成後、第2プラズマの供給を停止し、第1プラズマの定常導入状態にする。このとき、予め、遷移混合膜L3が中間下地層として形成されているので、生成膜L1を安定して積層形成することができる。
【0076】
図15の(15B)は、(15A)の生成膜を交互に積層した多層膜を示す。図16の(16B)はその多層成膜プロセスのタイミングチャートを示す。(16A)と同様のプロセスを繰り返すことにより、生成膜L5の上に、遷移混合膜L6を介在させて生成膜L4を形成した多層積層構造成膜を行うことができる。図15の(15C)は上記遷移混合膜の形成プロセスを利用して、生成膜L8上に、遷移混合膜L7を厚く形成した場合である。図16の(16C)のタイミングチャートに示すように、この場合、第1プラズマを定常導入状態にせずに、遷移混合膜L7のみを形成する。なお、多層積層成膜プロセス実行の際、プラズマ導入タイミング制御に必要なプラズマ発生部の駆動制御等は図示しないシーケンス制御装置又はコンピュータ制御装置によって管理される。また、TiAlN膜等の金属間化合物からなる生成膜の組成比を調整する場合、プラズマ発生部における電流値やその波形を可変し、蒸発速度や単位時間当りの蒸発時間を変化させて行う。また、第1プラズマと第2プラズマとの成膜を切り換える境界の時間で同時にプラズマを発生させれば、生成膜間で組成が傾斜した傾斜膜を形成することもできる。
【0077】
図17は、本発明に使用するプラズマ発生方法を説明するための模式図である。第2プラズマの発生方式は、成膜仕様・条件に応じて適宜選択されてよい。適用可能なプラズマ発生方式として、例えば、固体から直接プラズマを得るプラズマの発生方法がある。(17A)に示す真空アーク放電(本実施形態で採用した陰極アーク放電(又は陽極アーク放電も可)、(17B)に示すような高圧パルス電流源90を接続し、高電圧大電流パルス電流によりターゲット材91からプラズマを誘起させるシャンティングアークがある。また、各種スパッタ(セルフスパッタ、マグネトロンスパッタ、V字型スパッタ)を利用してもよい。
【0078】
図18は、本発明に使用する他のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。(18A)に示すように、前記マグネトロンスパッタにはアンバランスドマグネトロンスパッタがあり、永久磁石92の近傍に配置したスパッタターゲット94をスパッタ蒸発源96として固体を蒸発させ,その固体蒸発物をアンバランスドマグネトロン自体のプラズマ化機能や誘導結合RFプラズマ源コイル93によりプラズマ化してプラズマ流を誘起させる。また、(18B)に示すように、V字型スパッタでは、一組または複数組の永久磁石95をV字型に配置したスパッタ蒸発源97を備える。V字型スパッタの場合も、アンバランスドマグネトロンの場合と同様に、バランスしていない磁場に起因してスパッタ領域から漏れる電子によって、蒸発物がプラズマ化される。
【0079】
図19は、本発明に使用する他のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。更に、別の適用可能なプラズマ発生方式として、固体を蒸発した後でプラズマ化するプラズマ発生方法がある。この場合、ホローカソードアーク、電子ビーム励起プラズマ、各種スパッタ(高周波スパッタ、中周波スパッタ、直流スパッタ、交流スパッタ、マグネトロンスパッタ)の他に、抵抗蒸発や電子ビーム蒸発などを利用できる。抵抗蒸発法は、(19A)に示すように、抵抗蒸発源80として蒸発用ボート81に収容した蒸発材料82を用い、また容量結合プラズマ源電極83により支援して、プラズマを誘起させる。電子ビーム蒸発法は、図19の(19B)に示すように、電子ビーム蒸発源84として蒸発ターゲット86に電子ビーム85を照射し、また誘導結合プラズマ源コイル87により支援して、プラズマを誘起させる。これらの方法で蒸発させた蒸発物をプラズマ化するプラズマとして、ホローカソードアーク、電子ビーム励起プラズマ、直流放電、低周波・中周波・高周波プラズマ(誘導結合型の例は図18を参照。容量結合型の例は図19の(19A)を参照)、パルスプラズマ、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマ、又は電子シャワープラズマなどを利用できる。
【0080】
更に、別の適用可能なプラズマ発生方式として、気体、あるいは気化またはミスト化した液体をプラズマ化する方法を利用できる。直流放電、低周波・中周波・高周波プラズマ、ホローカソードアーク、パルスプラズマ、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマ、又は電子シャワープラズマなどを利用できる。図20は、気体、あるいは気化またはミスト化した液体を、導入管部303を通して輸送しプラズマ発生部300でプラズマ化する方法(図20の(20A))と、気体、あるいは気化またはミスト化した液体をチャンバ302内に配置したプラズマ発生部301でプラズマ化する方法(図20の(20B))を示している。導入管部303が貫通するプラズマ発生部300でプラズマ化する場合、高周波プラズマ(誘導結合型および容量結合型)、マイクロ波プラズマを利用できる。チャンバ302内でプラズマ化する場合、前記の直流放電、低周波・中周波・高周波プラズマ、ホローカソードアーク、パルスプラズマ、マイクロ波プラズマ、表面波プラズマ、又は電子シャワープラズマなどの方法が可能である。真空アークで利用できない材料、例えば、Siなどを組成に含む膜を形成する場合、真空アーク以外の方法を利用するとよい。
【0081】
図21は、本実施形態に用いるスキャナー装置18の概略構成図である。輸送されるプラズマ流の直径は30mm〜70mmである。これは成膜面積に等しい。従って、それ以上の領域に成膜しようとする場合、あるいは,それ以上の領域に複数の被処理物が配置されている場合、プラズマをスキャンすることにより所望の成膜を得ることができる。(21A)に示すように、共通輸送ダクト10の出口付近に、スキャナー装置18が配設されている。(21B)の断面図に示すように、(21A)のスキャナーコイル28は、X方向電磁石63とY方向電磁石64からなり、スキャナー部ダクト外周に取り付けられる。一方向のみのスキャンでよい場合は、X方向電磁石63とY方向電磁石64のいずれか一方の電磁石だけを配設すればよい。
【0082】
図22はスキャナー装置18に用いる駆動電流を示す波形図である。同図(22A)に示すように、スキャナーコイル28の電磁石に交播電流72を流すことにより一方向に振動する交播磁界65によりプラズマ流を周期的に偏向・振動させ、成膜位置を1次元的にスキャンさせることができる。一方、図21の(21B)に示すように、X方向電磁石63とY方向電磁石64を取り付けた場合、図22の(22B)に示すように、X方向電磁石63とY方向電磁石64の各々に、位相差を有し、周期的に変化する電流70、71を流すことにより、X方向電磁石63が発生する磁界BとY方向電磁石64が発生するBとの合成磁界であるBの向きや強さを時間的に変化させてプラズマ流の振れ方向や角度を制御し、成膜位置を2次元的にスキャンさせることができる。交播電流(周期的電流)は、サイン波や三角波などが比較的容易に利用できるが、より実際的には成膜範囲の膜厚が一定になるように、任意波形発生装置やコンピュータ制御・シーケンス制御によって波形を自在に制御するのが望ましい。X方向コイルとY方向コイルに流す前記周期的電流の周期を変えることも可能である。なお、プラズマ流の拡散を抑止するため、並進用(Z方向用,プラズマ流の進行方向用)磁界66を印加する電磁コイルを、スキャナー部に併設することも可能である。
【0083】
図23は、本発明に係るバイアス電圧印加の方法を説明するための模式配線図である。電源504により陽極にバイアス電圧を付加すると、1〜25%プラズマ輸送効率が向上し、成膜速度を増加させることができる。更に、共通輸送ダクト10等のプラズマ輸送経路を介してプラズマ処理部1までプラズマを効率的に輸送するためには、図23に示すように、スキャナー装置18、共通輸送ダクト10及び第2プラズマ導入路23(又は第1プラズマ導入路22)に、それぞれバイアス電源503、502、501によるバイアス電圧を印加するのがよい。バイアス電圧は、−30V〜+30Vが好ましく、特にプラズマ電位と同じ電圧、つまり、+10V〜+20V、殊に+15V±3Vが好適な場合が多い。プラズマ輸送ダクト系統に好適なバイアス電圧を印加すると、プラズマ輸送効率および成膜速度が数倍改善される。プラズマ輸送ダクトにバイアスを印加するためには、成膜チャンバとプラズマ輸送ダクト(スキャナー部も含む)とが個々に絶縁されていなければならない。第1プラズマ発生部2の真空チャンバ自体を陽極とする場合にも適用することができる。
【0084】
陽極をバイアスした場合、見掛け上陽極の抵抗が向上するため、プラズマを維持している電流は他の流れ易い領域へ流れようとする。この場合、流れ易い場所は接地電位であるプラズマ処理部1の成膜チャンバであるため、プラズマの成膜チャンバへの輸送効率が改善されることになる。陽極バイアス電圧は0V〜10Vが適切であり、より好ましくは、0.5V〜5Vである。
【0085】
図24は、本発明に係るバイアス電圧印加の別な方法を説明するための模式配線図である。以下、図23で説明した部材については、説明を省略する。図に示すように、陽極12と直列に抵抗又は電源からなるバイアス装置500が接続されている。このバイアス装置500によって第1プラズマ発生部2(又は第2プラズマ発生部3)の陽極12にバイアス電圧を付加すると、プラズマの輸送効率を更に向上させることができる。前記バイアス装置500が抵抗である場合、その抵抗値は0Ω〜0.2Ω程度が適切であり、より好ましくは、0.005Ω〜0.1Ωである。真空アークの陽極表面は刻々と堆積物が堆積するため、表面抵抗が刻々と変化する。従って、抵抗値を外部制御できる電子負荷を用いるのもよい。
【0086】
図25は、本発明に係るバイアス電圧印加の更に別な方法を説明するための模式配線図である。この図には、第1プラズマ発生部2の真空チャンバ600自体を陽極とし、電源504によるバイアス電圧によりプラズマ輸送ダクトバイアスおよび陽極バイアスを印加する方式の一例の配線図が示されている。プラズマ輸送ダクトとスキャナー部を絶縁し、それぞれ異なるバイアス電圧を印加しても良い。つまり、各位置のプラズマの状態に従って、対応する位置のバイアス電圧を変えても良い。印加するバイアス電圧は,各位置でのプラズマ電位とほぼ等しい電圧を印加するのが好適である。プラズマ輸送方向に従って、更に細分したバイアスを印加するカスケードバイアスを行ってもよい。
【0087】
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に係るプラズマ表面処理方法及びプラズマ処理装置は、主として工業用に用いられるプラズマ加工装置に適用でき、金属製又は非金属製の被処理物表面に被膜を形成することができる。従って、金属、半導体、絶縁体、DLC膜等の単一膜や積層膜、又は複数の物質から形成される混合膜・合金膜、セラミック膜又は化合物半導体膜等の成膜を単一の加工装置で行えるプラズマ表面処理方法及びプラズマ処理装置を実現することができる。更に、複数のプラズマ発生源をコンパクトに配設し簡素化されたプラズマ加工装置を提供することができる。また、少なくとも真空アークプラズマによる膜を含む積層多層膜・混合膜等の形成を円滑に行うことができると共に、高純度のプラズマを用いて、被処理物に対して高性能、高純度被覆膜を形成することができる。また、ドロップレットを除去した、高純度のプラズマを用いて、被処理物に対して高性能、高純度被覆膜を形成するプラズマ加工装置を実現することができる。
【0089】
更に、固体から直接プラズマを得るプラズマ発生手段、固体を蒸発させてプラズマを得るプラズマ発生手段、気体又は気化あるいはミスト化した液体によりプラズマを得るプラズマ発生手段などから選択された手段と真空アークプラズマにより、各種成膜仕様に応じた高純度の単一膜、混合膜、積層膜の成膜を行うプラズマ加工装置を提供することができる。また、膜厚や層構成等の種々の膜仕様・条件に応じた成膜制御を簡易に行う多層成膜形成用プラズマ加工装置を提供することができる。更に、ドロップレットの除去効率やプラズマの輸送効率が高く、高純度のプラズマを用いて高速で成膜できる多層成膜形成用プラズマ加工装置を提供することができる。
【0090】
本発明に係る目的物は、金属膜、合金膜、半導体膜、絶縁体膜、もしくはDLC膜等の非金属膜などから形成される高性能膜、もしくは種々の膜から構成される高性能積層膜を具備し、好適な耐磨耗性、耐熱性、耐食性、耐酸化性、導電性、耐久性等が付与された種々の工業製品として用いることができる。より具体的には、半導体用配線膜、硬質金属切削工具、軟質金属切削工具、ドライ切削用工具、高速切削用工具などの種々の切削工具、樹脂成形金型、半導体成形金型、焼結体・セラミック成形金型、離型性要求金型、プレス金型などの金型、機械部品、摺動部品、撥水要求部品、耐食要求部品など、種々の製造装置、製品及びそれらの構成部材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係るプラズマ処理装置の断面構成図である。
【図2】共通輸送ダクトの周辺のY字状プラズマ輸送ダクト構成図である。
【図3】拡径部を設ける場合と、拡径部を設けない場合を比較するための図である。
【図4】共通輸送ダクト、第1プラズマ導入路及び第2プラズマ導入路の略Y字状接続状態におけるプラズマ流の方向及び3次元ダクトY字状接続例を示す図である。
【図5】ミキサーコイルによる回転磁場付与部を示す図である。
【図6】第1の回転磁界コイル及び第2の回転磁界コイルに供給する交播電流の波形図である。
【図7】ミキサー装置部のコイル配置図である。
【図8】図7との比較例(ミキサーコイルを持たない場合)を示す図である。
【図9】図7の場合に利用する交播電流の波形図である。
【図10】図7のミキサー機能を有する共通輸送ダクトを用いた成膜実験結果を示す図である。
【図11】比較例として示すプラズマ処理装置の断面構成図である。
【図12】比較例として示す、他のプラズマ処理装置の断面構成図である。
【図13】本発明に係るプラズマ処理装置を用いて、ワークに施した成膜例を示す概略断面図である。
【図14】図12の成膜プロセスのタイミングチャートである。
【図15】遷移混合膜及び境界層を形成する成膜例を示す概略断面図である。
【図16】図14の成膜プロセスのタイミングチャートである。
【図17】本発明に使用するプラズマ発生方法を説明するための模式図である。
【図18】本発明に使用する、他のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。
【図19】本発明に使用する、更に他のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。
【図20】本発明に使用する、更に別のプラズマ発生方法を説明するための模式図である。
【図21】本発明に係るスキャナー装置の概略構成図である。
【図22】本発明に係るスキャナー装置に用いる駆動電流の波形の例である。
【図23】本発明に係るバイアス電圧印加の方法を説明するための模式配線図である。
【図24】本発明に係るバイアス電圧印加の別な方法を説明するための模式配線図である。
【図25】本発明に係るバイアス電圧印加の更に別な方法を説明するための模式配線図である。
【符号の説明】
【0092】
1 プラズマ処理部
2 第1プラズマ発生部
3 第2プラズマ発生部
4 真空チャンバ(成膜チャンバ)
5 圧力計及び真空制御系開閉装置
6 処理用ガスの導入制御系開閉装置
7 ワーク配設テーブル
8 真空排気口
9 プラズマ輸送経路
10 共通輸送ダクト
12 陽極
13 陰極
14 陽極
15 陰極
16 第1プラズマ
16a プラズマ流
17 第2プラズマ
17a プラズマ流17a
18 スキャナー装置
19 拡径部
19A 回転磁場付与部
19B 同軸並進用コイル
20 ガイドコイル部(電磁コイル)
21 ミキサーコイル(電磁コイル)
22 第1プラズマ導入路
23 第2プラズマ導入路
24 アーク安定化磁界発生器(電磁コイルまたは永久磁石)
25 第1プラズマ引き出し用コイル(電磁コイル)
26 ガイドコイル(電磁コイル)
27 収束コイル(電磁コイル)
27A 収束コイル部(電磁コイル)
28 スキャナーコイル(電磁コイル)
29 補正コイル(電磁コイル)
30 アーク安定化磁界発生器(電磁コイルまたは永久磁石)
31 引き出し用コイル(電磁コイル)
32 オリフィス
33 矢印
34 プラズマ導入口
35 Y字形輸送路
36 矢印
37 矢印
38 バッフル
40 第1プラズマ
41 第2プラズマ
42 合流プラズマ
43 合流プラズマ
44 第3プラズマ
45 第4プラズマ
46 合流プラズマ
50 合流プラズマ
51 プラズマ流径
53 プラズマ流径
53A 混合プラズマ
53B プラズマ
54 第1の回転磁界コイル(電磁コイル)
55 第1の回転磁界コイル(電磁コイル)
56 第2の回転磁界コイル(電磁コイル)
57 第2の回転磁界コイル(電磁コイル)
58 プラズマ
59 混合プラズマ
63 X方向電磁石(電磁コイル)
64 Y方向電磁石(電磁コイル)
65 交播磁界
66 並進用(Z方向用)磁界
67 偏向プラズマ流
70 電流
71 電流
72 電流
80 抵抗蒸発源
81 蒸発用ボート
82 蒸発材料
83 容量結合プラズマ源電極
84 電子ビーム蒸発源
85 電子ビーム
86 蒸発ターゲット
87 誘導結合プラズマ源コイル
90 高圧パルス電流源
91 ターゲット材
92 永久磁石
93 誘導結合プラズマ源コイル
94 スパッタターゲット
95 永久磁石
96 スパッタ蒸発源
97 スパッタ蒸発源
100 成膜チャンバ
101 第1プラズマ発生部
102 第2プラズマ発生部
103 陰極
104 陽極
105 安定化電磁コイル(又は永久磁石)
108 ドロップレット
109 ドロップレット
200 成膜チャンバ
201 第2プラズマ発生部
202 第1プラズマ発生部
203 第2プラズマ
204 第1プラズマ
205 プラズマ輸送コイル(電磁コイル)
206 ドロップレット
207 ドロップレット
208 T字形状プラズマ輸送ダクト
209 トーラス型プラズマ磁気輸送ダクト
300 プラズマ発生部
301 プラズマ発生部
302 チャンバ
303 導入管部
500 バイアス装置(抵抗または電源)
501 バイアス電源
502 バイアス電源
503 バイアス電源
504 電源
a 矢印
b 矢印
A1 範囲
A2 矢印
B 磁界
Br 回転磁界
Bz 磁界
磁界
磁界
磁界
B1 第1輸送ダクト部
B2 第2輸送ダクト部
B3 共通輸送ダクト部
C1 プラズマ輸送路
C2 プラズマ輸送路
C3 第1のプラズマ導入路
D1 プラズマ輸送路
D2 プラズマ輸送路
D3 第2のプラズマ導入路
E 共通輸送ダクト
L1 生成膜
L2 生成膜
L3 遷移混合膜
L4 生成膜
L5 生成膜
L6 遷移混合膜
L7 遷移混合膜
L8 生成膜
L9 生成膜
L10 生成膜
L11 生成膜
R1 交播電流
R2 交播電流
R3 交番電流
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って第1プラズマを発生させ、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2プラズマを発生させ、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように電磁気的に導入した後、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトを経由してプラズマ処理部に電磁気的に誘導し、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物を表面処理加工することを特徴とするプラズマ表面処理方法。
【請求項2】
固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとしてプラズマを発生させるプラズマ発生部において第1プラズマ、第2プラズマ、及び第3プラズマを発生させ、かつ、これらの第1〜第3プラズマのうち少なくとも1つが真空雰囲気下に設定されたアーク放電部における真空アーク放電に基づいて発生させたものであり、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマを共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように電磁気的に導入した後、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマを前記共通輸送ダクトを経由してプラズマ処理部に電磁気的に誘導し、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物を表面処理加工することを特徴とするプラズマ表面処理方法。
【請求項3】
固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとしてプラズマを発生させるプラズマ発生部において第1プラズマ、第2プラズマ、第3プラズマ、及び第4プラズマを発生させ、かつ、これらの第1〜第4プラズマのうち少なくとも1つが真空雰囲気下に設定されたアーク放電部における真空アーク放電に基づいて発生させたものであり、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを合流させる第1のプラズマ導入路を介して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように電磁気的に導入し、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを合流させる第2のプラズマ導入路を介して、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトの輸送方向に対して鋭角に合流するように電磁気的に導入した後、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトを経由してプラズマ処理部に電磁気的に誘導し、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御して、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマにより前記プラズマ処理部内の被処理物を表面処理加工することを特徴とするプラズマ表面処理方法。
【請求項4】
真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って第1プラズマを発生させる第1プラズマ発生手段と、固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2プラズマを発生させる第2プラズマ発生手段と、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを電磁気的に導入する共通輸送ダクトと、前記共通輸送ダクトを経由して電磁気的に導入された前記第1プラズマ及び前記第2プラズマにより被処理物を表面処理加工するプラズマ処理部と、前記第1プラズマ発生手段から前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第1プラズマ導入路と、前記第2プラズマ発生手段から前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第2プラズマ導入路と、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御する制御手段と、を有し、前記第1プラズマ導入路及び前記第2プラズマ導入路の、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとしてプラズマを発生させる第1〜第3プラズマ発生手段において、それぞれ第1プラズマ、第2プラズマ、及び第3プラズマを発生させ、かつ、これらの第1〜第3プラズマ発生手段のうち、少なくとも第1プラズマ発生手段が真空雰囲気下に設定されたアーク放電部における真空アーク放電に基づくプラズマ発生手段からなる第1〜第3プラズマ発生手段と、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、及び前記第3プラズマを電磁気的に導入する共通輸送ダクトと、前記共通輸送ダクトを経由して電磁気的に導入された前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、及び前記第3プラズマにより被処理物を表面処理加工するプラズマ処理部と、前記第1プラズマ発生手段から前記第1プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第1プラズマ導入路と、前記第2のプラズマ発生手段から前記第2プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第2プラズマ導入路と、前記第3プラズマ発生手段から前記第3プラズマを前記共通輸送ダクトへ電磁気的に導入する第3プラズマ導入路と、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ及び前記第3プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御する制御手段と、を有し、前記第1プラズマ導入路、前記第2プラズマ導入路及び前記第3プラズマ導入路の、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項6】
固体・液体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとしてプラズマを発生させる第1〜第4プラズマ発生手段において、それぞれ第1プラズマ、第2プラズマ、第3プラズマ、及び第4プラズマを発生させ、かつ、これらの第1〜第4プラズマ発生手段のうち、少なくとも第1プラズマ発生手段が真空雰囲気下に設定されたアーク放電部における真空アーク放電に基づくプラズマ発生手段からなる第1〜第4プラズマ発生手段と、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマを合流させる第1のプラズマ導入路と、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを合流させる第2のプラズマ導入路と、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを導入する共通輸送ダクトと、前記共通輸送ダクトを経由して導入された前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマにより被処理物を表面処理加工するプラズマ処理部と、前記第1プラズマ、前記第2プラズマ、前記第3プラズマ及び前記第4プラズマを前記共通輸送ダクトに導入するタイミングを制御する制御手段とを有し、前記第1のプラズマ導入路及び前記第2のプラズマ導入路の、前記共通輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定したことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記第1プラズマ導入路、前記第2プラズマ導入路及び前記共通輸送ダクトが平面上に投影したとき略Y字形をなす請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記制御手段は前記各プラズマ導入路から前記共通輸送ダクトへのプラズマの導入を同時に、あるいは時間的に別々に、又は部分的に同時に行うタイミングで制御する請求項4〜7のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
前記第1プラズマに含有される前記アーク放電部の陰極から発生する陰極材料粒子(以後、ドロップレットという)が前記第1プラズマの進行方向に進行することを阻止する阻止部材を前記第1プラズマ導入路及び/又は前記共通輸送ダクトの内面又はその近傍に設けた請求項4〜8のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項10】
前記各プラズマ導入路から前記共通輸送ダクトに導入されたプラズマを混合するための回転磁界を発生する回転磁界発生手段を前記共通輸送ダクトに設けた請求項4〜9のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項11】
固体から直接プラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させる請求項4〜10のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項12】
固体を蒸発させてプラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させる請求項4〜10のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
気体、又は気化あるいはミスト化した液体によりプラズマを得るプラズマ発生方法により前記第2プラズマを発生させる請求項4〜10のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項14】
少なくとも1つのプラズマ発生手段及び/又は前記共通輸送ダクトに、バイアス電圧を印加するバイアス電圧印加手段を有する請求項4〜13のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項15】
少なくとも1つのプラズマ発生手段の陽極を電気的にバイアスするバイアス手段を有する請求項4〜14のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項16】
前記共通輸送ダクトの最終部のプラズマ進行方向をz軸方向、垂直な平面をxy平面とし、前記共通輸送ダクトに、プラズマをx方向及び/又はy方向に走査する偏向コイルを配設した請求項4〜15のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項17】
請求項4〜16のいずれかに記載のプラズマ処理装置により発生されたプラズマを用いて前記プラズマ処理部内で表面処理加工されたことを特徴とする目的物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−46144(P2007−46144A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234933(P2005−234933)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【出願人】(501377645)株式会社オンワード技研 (11)
【Fターム(参考)】