説明

プレート式反応器及び反応生成物の製造方法

【課題】温度差の大きな二種以上の熱媒を用いたときの熱媒の温度差による応力を抑制することができるプレート式反応器を提供する。
【解決手段】第一の伝熱プレート3aと第一の伝熱プレート3aに隣り合う第二の伝熱プレート3bとこれらの間に形成される熱媒が供給されないスペーサ部3cとを含む伝熱プレート3がケーシング1に並んで配置され、第一の伝熱プレート3aに隣接して熱媒を供給する第一の熱媒収容部4と、第二の伝熱プレート3b及びスペーサ部3cに隣接して第二の伝熱プレート3bに熱媒を供給する第二の熱媒収容部5とを配置し、第二の熱媒収容部5内のスペーサ部3cに隣接する部位に、第二の熱媒収容部5内における熱媒の流動を規制する熱遮蔽板12を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレート式反応器及びそれを用いる反応生成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパン、プロピレン、又はアクロレインの気相接触酸化反応のような、発熱又は吸熱を伴い、粒状の固体触媒が用いられる気相反応に用いられる反応器としては、例えば、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の前記伝熱管を含み、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなプレート式反応器は、一般に、隣り合う伝熱プレート間の隙間に形成される複数の触媒層を有し、また伝熱プレートと触媒との接触性に優れていることから、前記気相反応による生成物を大量に効率よく製造する観点で優れている。
【0004】
一方でプロパン又はプロピレンの気相接触酸化反応によってアクロレインを製造する場合では、酸素の存在下におけるアクロレインの自己酸化を防止する観点から、反応生成ガスは、350〜400℃程度の反応温度から250℃以下に速やかに冷却される。反応温度の制御及び反応生成ガスの冷却には、それぞれ異なる温度の熱媒が用いられる。
【0005】
プレート式反応器において異なる温度の熱媒を用いる場合では、熱媒の温度差が大きくなるに連れて、反応容器内におけるこれらの熱媒の流路の境界部において発生する応力も大きくなる。このため、プレート式反応器におけるこのような応力への対策が望まれている。
【0006】
それ以外にも、例えば酸化反応であれば、反応後において未反応の酸素を含む高温の反応生成ガスが燃焼性組成物を形成する場合や、反応温度が一般的に高温の場合には、後反応によって副生成物の増加を防ぐ必要性に迫られることがある。プレート式反応器から排出された原料ガス及び反応生成物(反応混合物)を速やかに冷却して後反応を防止するための手段として、プレート式反応器に直結した熱交換器が用いられることがあり、この熱交換器によって、高温の反応混合物を冷却し、あるいは高温の反応混合物からの熱を回収する。
【0007】
この場合には、反応温度を制御するための熱媒と熱交換器に供給される熱媒との温度差は、70℃以上であることが多く、100〜200℃にもなることがあり、設備構造上、温度差による熱応力の集中には十分な対応が必要なことが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−202430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、温度差の大きな異なる温度の熱媒を用いるときの熱媒の温度差による応力を抑制することができるプレート式反応器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、互いに隣接する熱媒収容部の境界部の反応容器の壁において、この境界部の壁に隣接する熱媒収容部における熱媒の流動を抑えることによって、前記壁における反応容器内の通気方向への温度変化が緩和されるプレート式反応器を提供する。
【0011】
すなわち本発明は、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する熱媒供給装置と、を有し、前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の前記伝熱管を含み、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒を含む充填物が充填されるプレート式反応器において、前記伝熱プレートは、一連の伝熱管で構成される第一の伝熱管群と、反応容器内の通気方向に沿って第一の伝熱管群に並んで配置される、一連の伝熱管で構成される第二の伝熱管群と、第一及び第二の伝熱管群の間に配置され、熱媒が供給されないスペーサ部とを含み、前記熱媒供給装置は、前記第一の伝熱管群に伝熱管の開口端で隣接し、第一の伝熱管群の伝熱管に供給される第一の温度の熱媒を収容する第一の熱媒収容部と、前記第二の伝熱管群に伝熱管の開口端で隣接し、第二の伝熱管群の伝熱管に供給される第二の温度の熱媒を収容する第二の熱媒収容部とを有し、前記第一の温度と前記第二の温度との差は70℃以上であり、前記第一及び第二の熱媒収容部の一方又は両方は、伝熱管の開口端を含む伝熱プレートの端縁で前記スペーサ部にも隣接し、スペーサ部に隣接する熱媒収容部内において、スペーサ部に隣接する部位に、熱媒の流動を規制する熱媒規制部材をさらに有するプレート式反応器を提供する。
【0012】
また本発明は、前記第一の温度は前記第二の温度よりも高く、前記第二の熱媒収容部は前記スペーサ部に隣接し、前記熱媒規制部材は第二の熱媒収容部に設けられる前記のプレート式反応器を提供する。
【0013】
また本発明は、前記第一の温度が300〜390℃であり、前記第二の温度が200〜280℃である前記のプレート式反応器を提供する。
【0014】
また本発明は、前記スペーサ部の高さが5〜300mmである前記のプレート式反応器を提供する。
【0015】
また本発明は、前記の本発明のプレート式反応器を用いて、このプレート式反応器の伝熱プレート間の隙間に充填された触媒の存在下でガス状の原料から反応生成物を製造する方法であって、前記原料に、エチレン;炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種;炭素数4以上の炭化水素;キシレン及びナフタレンの一方又は両方;ブテン;又はエチルベンゼンを用い、酸化エチレン;炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸の少なくとも一方;マレイン酸;フタル酸;ブタジエン;又はスチレンである反応生成物を製造する、反応生成物の製造方法を提供する。
【0016】
また本発明は、前記原料が、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記反応生成物が、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸、の少なくとも一方である前記の反応生成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプレート式反応器では、前記スペーサ部と熱媒規制部材とを有することから、第一及び第二の熱媒収容部の境界部における反応容器の壁の、反応容器の通気方向への温度変化が緩和され、温度差の大きな異なる温度の熱媒を用いるときの熱媒の温度差による応力を抑制することができる。
【0018】
また本発明では、第一の温度は第二の温度よりも高く、第二の熱媒収容部はスペーサ部に隣接し、熱媒規制部材は第二の熱媒収容部に設けられることが、熱媒の温度差による応力を抑制するする観点からより一層効果的である。
【0019】
また本発明は、前記第一の温度が300〜390℃であり、前記第二の温度が200〜280℃であることが、前記スペーサ部と熱媒規制部材とによる大きな応力抑制効果を得る観点からより一層効果的である。
【0020】
また本発明は、前記スペーサ部の高さが5〜300mmであることが、スペーサ部を通過する反応生成ガスの望ましくない反応を抑制する観点からより一層効果的である。
【0021】
また本発明では、本発明のプレート式反応器を用いて、エチレン;炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種;炭素数4以上の炭化水素;キシレン及びナフタレンの一方又は両方;ブテン;又はエチルベンゼンから、酸化エチレン;炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸の少なくとも一方;マレイン酸;フタル酸;ブタジエン;又はスチレンを製造することが、このような反応生成物を生成する接触反応における後反応を防止し、かつ、高温の反応生成ガスから熱回収を行う観点からより一層効果的である。
【0022】
また本発明では、前記原料が、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記反応生成物が、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸、の少なくとも一方であることが、反応生成ガスを急冷し、反応で生成した不飽和脂肪族アルデヒドの自己酸化を防止する観点からより一層効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のプレート式反応器の一実施の形態における構成を概略的に示す図である。
【図2】図1のプレート式反応器をA−A’線に沿って切断したときの断面を示す図である。
【図3】図1のプレート式反応器をB−B’線に沿って切断したときの断面を示す図である。
【図4】伝熱プレート3を示す図である。
【図5】本発明のプレート式反応器におけるスペーサ部及び熱媒規制部材の一例を示す図である。
【図6】本発明のプレート式反応器におけるスペーサ部及び熱媒規制部材の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明のプレート式反応器は、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する熱媒供給装置と、熱媒規制部材とを有する。
【0025】
前記反応容器には、並列する複数の伝熱プレートと、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されてなる複数の触媒層とが形成される。反応容器には、例えば、通気方向に対する横断面の形状が矩形であるケーシングや、前記横断面の形状が円形であるシェルが用いられる。
【0026】
前記反応容器は、供給されたガスが隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、通常、一対の通気口を有する。前記一対の通気口は、一方が反応容器に供給される原料ガスの供給口となり、他方が反応容器で生成した生成ガスの排出口となる。通気口の形態は、反応容器へのガスの供給と反応容器からのガスの排出とが行われる形状であれば特に限定されない。一対の通気口は、対向して設けられていることが好ましい。このような通気口としては、例えば、ケーシングやシェルの両端に設けられる一対の通気口や、シェルの中心軸を含む中心部とシェルの内周部とにそれぞれ円筒状に形成され、シェルの横断面において放射状にガスを通気させる一対の通気口が挙げられる。
【0027】
前記伝熱プレートは、断面形状における周縁又は端縁で一方向に連結している複数の伝熱管を含む板状に形成される。
【0028】
このような伝熱プレートは、特許文献1に開示されているように、円弧、楕円弧、矩形等のパターンが連続して形成された二枚の波板を、両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成することができる。又は伝熱プレートは、複数の前記伝熱管を周縁又は端縁で連結して形成することができる。又は伝熱プレートは、複数の前記伝熱管を反応容器において周縁又は端縁で接するように積み重ねて形成することができる。
【0029】
伝熱プレートの形状は、反応容器の形状や大きさに応じて決められるが、一般に矩形である。また伝熱プレートの大きさは、必要な触媒を収容する反応容器の形状や大きさに応じて決められるが、例えば矩形の伝熱プレートである場合には、縦(すなわち伝熱管の連結高さ)が0.5〜10mであり、好ましくは1〜6mであり、より好ましくは1〜3mであり、横(すなわち伝熱管の長さ)が0.05〜20mであり、好ましくは3〜15mであり、より好ましくは6〜10mである。また伝熱プレートの枚数は、例えば矩形の伝熱プレートである場合には、好ましくは10〜300枚である。
【0030】
反応容器において隣り合う伝熱プレートは、伝熱プレートの表面の凸縁が互いに対向するように並べられてもよいし、一方の伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の凹縁に対向するように並べられてもよい。隣り合う伝熱プレート間の距離は、伝熱管の横断方向において伝熱プレート間に5〜50mmの幅の隙間が形成されるように設定されることが好ましく、20〜35mmの幅の隙間が形成されるように設定されることがより好ましい。又は、隣り合う伝熱プレート間の距離は、隣り合う伝熱プレートにおける伝熱管の幅(伝熱プレートの軸から突出している伝熱管の表面の最大の高さ)の半値の和の1.1〜5倍の範囲で設定することができる。
【0031】
伝熱プレートにおける伝熱管は、反応容器内の通気方向に対して平行な方向に延出するように形成されていないことが、伝熱管中の熱媒の温度の調整によって原料の反応を制御する観点から好ましく、反応容器内の通気方向に対して直交する方向に延出するように形成されていること、すなわち伝熱管を流れる熱媒の方向が反応容器内の通気方向に対して直交する方向であること、がより好ましい。
【0032】
前記伝熱管は、伝熱管内の熱媒と伝熱管に外接する触媒層との間で熱が交換される伝熱性を有する材料で形成される。このような材料としては、例えばステンレス及びカーボンスチールが挙げられる。伝熱管の断面形状は、円形でもよいし、楕円形やラグビーボール
型等の略円形でもよいし、矩形でもよい。伝熱管の断面形状における周縁とは、円形における周縁を意味し、伝熱管の断面形状における端縁とは、略円形における長軸端の縁や、矩形における一角の縁を意味する。
【0033】
一枚の伝熱プレート中の複数の伝熱管のそれぞれにおける断面の形状及び大きさは、一定であってもよいし異なっていてもよい。伝熱管の断面形状の大きさは、例えば、伝熱管の幅が3〜50mm、好ましくは5〜30mm、より好ましくは10〜20mmであり、伝熱管の高さが10〜100mm、好ましくは20〜50mmである。
【0034】
前記伝熱プレートは、一連の伝熱管で構成される第一の伝熱管群と、反応容器内の通気方向に沿って第一の伝熱管群に並んで配置される、一連の伝熱管で構成される第二の伝熱管群と、第一及び第二の伝熱管群の間に配置され、熱媒が供給されないスペーサ部とを含む。
【0035】
第一及び第二の伝熱管群は、一連の伝熱管で構成され、反応容器内の通気方向において、互いに並んで配置される伝熱管群である。第一及び第二の伝熱管群は、それぞれ、一枚の伝熱プレート中の伝熱管群であってもよいし、それぞれ独立した伝熱プレートによって構成されていてもよい。
【0036】
伝熱プレートにおける第一及び第二の伝熱管群のそれぞれの割合は、それぞれの伝熱管群による反応容器内の所望の作用に応じて決められる。例えば、第一の伝熱管群において気相接触酸化反応を行わせ、第二の伝熱管群において反応生成物の冷却を行わせる場合では、伝熱プレートにおける全伝熱管における第一の伝熱管群の割合は60〜90%であり、伝熱プレートにおける全伝熱管における第二の伝熱管群の割合は5〜35%である。
【0037】
前記スペーサ部は、第一及び第二の伝熱管群の間において熱媒が供給されない層を形成する。このようなスペーサ部としては、例えば板、棒材、熱媒の供給が遮断されている一以上の伝熱管、及びこのような伝熱管の二以上からなる伝熱プレート等が挙げられる。スペーサ部は伝熱管と同じ材料で形成することができ、またセラミックやガラス等の不燃性の材料で形成することもできる。
【0038】
前記スペーサ部の高さ、すなわち反応容器内の通気方向におけるスペーサ部の長さは、第一の伝熱管に供給される熱媒の温度(第一の温度)と第二の伝熱管に供給される熱媒の温度(第二の温度)との差や、スペーサ部における反応生成ガスの滞在時間に応じて決めることができる。例えばスペーサ部の高さは、温度差による応力の発生を抑制する観点から、第一の温度と第二の温度との差が70℃以上である場合では5mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましく、50mm以上であることがさらに好ましい。一方で、スペーサ部の高さは、スペーサ部における反応生成ガスの滞在時間を小さくする(例えば0.2秒以下)観点から、300mm以下であることが好ましく、200mm以下であることがより好ましく、100mm以下であることがさらに好ましい。これらの観点から、スペーサ部の高さは5〜300mmであることが好ましい。
【0039】
前記熱媒供給装置は、前記第一の伝熱管群に伝熱管の開口端で隣接して第一の伝熱管群の伝熱管に供給される第一の温度の熱媒を収容する第一の熱媒収容部と、前記第二の伝熱管群に伝熱管の開口端で隣接して第二の伝熱管群の伝熱管に供給される第二の温度の熱媒を収容する第二の熱媒収容部とを有する。このような熱媒収容部は、反応容器に周設されるか、又は反応容器を挟んで対向する一対のジャケットを利用して構成することができる。例えば第一及び第二の熱媒収容部は、それぞれ独立した熱媒収容部として構成することができ、又は、伝熱管の開口端を含む伝熱プレートの端縁に隣接して設けられる一体の熱媒収容部を前記スペーサ部の位置で仕切ることによって構成することができる。
【0040】
前記熱媒供給装置は、前記第一及び第二の熱媒収容部を有し、前記伝熱管に熱媒を供給する装置であればよい。このような熱媒供給装置としては、例えば、複数の伝熱管の全てに一方向に熱媒を供給する装置や、複数の伝熱管の一部に一方向に熱媒を供給し、複数の伝熱管の他の一部には逆方向に熱媒を供給する装置が挙げられる。熱媒供給装置は、前記伝熱管を介して反応管内外で熱媒を循環させる装置であることが好ましい。前記熱媒供給装置は、熱媒の温度を調整する装置を有することが、反応容器における反応を制御する観点から好ましい。
【0041】
前記第一及び第二の熱媒収容部の一方又は両方は、伝熱管の開口端を含む伝熱プレートの端縁で前記スペーサ部にも隣接する。スペーサ部に隣接する熱媒収容部内におけるスペーサ部に隣接する部位には、熱媒収容部内における熱媒の流動を規制する熱媒規制部材が設けられる。熱媒規制部材は一つでも二つ以上でもよく、通液性(例えば孔)を有していてもよい。このような熱媒規制部材としては、例えば水平又は屈曲した板が挙げられる。
【0042】
熱媒規制部材の設置形態は、温度差による応力の発生を抑制する観点から、熱媒規制部材が設けられる熱媒収容部の端部において、熱媒の温度が平均して、第一の温度及び第二の温度の中間の温度となるように熱媒を滞留させる形態であることが好ましく、第一の温度及び第二の温度のそれぞれに対する差が50℃以下である温度となるように熱媒を滞留させる形態であることが好ましい。このような熱媒規制部材の設置形態としては、例えば板を、熱媒収容部における熱媒の対流方向を横断する向きであって、伝熱管への熱媒の供給方向に対して平行又は斜めに設ける形態が挙げられる。
【0043】
熱媒規制部材の設置態様は、例えば試験機による実験の結果、実機による試験運転の結果、又はコンピュータシミュレーションの結果から求めることができ、熱媒規制部材の数、形状、及び向きによって調整することができる。
【0044】
第一の熱媒収容部には第一の温度の熱媒が収容され、第二の熱媒収容部には第二の温度の熱媒が収容される。第一の温度と第二の温度との差は70℃以上である。第一の温度は300〜390℃であり、第二の温度は200〜280℃であることが好ましく、第一の温度は310〜380℃であり、第二の温度は210〜270℃であることがより好ましく、第一の温度は320〜370℃であり、第二の温度は220〜260℃であることがさらに好ましい。熱媒には、所望の温度に応じて通常の熱媒を用いることができる。
【0045】
前記第一の温度が前記第二の温度よりも高い場合では、第二の熱媒収容部の熱媒の温度を高めることによって、第一の温度と第二の温度との間の温度の熱媒を、スペーサ部に隣接する熱媒収容部内に収容することが、反応容器の通気方向に沿った反応容器の壁の温度変化を緩和させる観点から好ましい。したがって、前記第一の温度が前記第二の温度よりも高い場合では、第二の熱媒収容部がスペーサ部に隣接し、熱媒規制部材が第二の熱媒収容部に設けられることが好ましい。
【0046】
隣り合う伝熱プレート間の隙間には、触媒を含む充填物が充填される。前記触媒には、気相反応で管又は伝熱プレート間の隙間に充填される通常の粒状の触媒を用いることができる。触媒は一種でも二種以上でもよい。このような触媒としては、例えば粒径(最長径)が1〜20mmである触媒が挙げられる。また触媒の形状としては、例えば球状、円柱状、ラシヒリング状、及び星型が挙げられる。
【0047】
また前記充填物には、気相反応で管又は伝熱プレート間の隙間に充填される、触媒と同等の形状や大きさを有する不活性な粒を用いることができる。このような不活性粒子としては、例えば、アルミナ、シリコンカーバイド、シリカ、酸化ジルコニア、及び酸化チタ
ン等の、反応原料及び反応生成物と反応性を有さない物質で形成された粒子が挙げられる。
【0048】
前記充填物は、触媒のみであってもよいし、不活性粒子のみであってもよいし、これらの混合物であってもよい。また、伝熱プレート間の隙間に充填される充填物は、一種でもよいし、各伝熱管群に応じた二種以上であってもよい。例えばアクロレインを生成する気相接触酸化反応では、第一の伝熱管群間の隙間には触媒又は触媒と不活性粒子の混合物が充填され、第二の伝熱管群間の隙間には不活性粒子が充填される。スペーサ部には、熱媒が供給されないことから、通常は不活性粒子が充填される。
【0049】
本発明のプレート式反応器は、前述した構成以外の他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成としては、例えば仕切り、仕切り用係止部、及び通気栓が挙げられる。
【0050】
前記仕切りは、隣り合う伝熱プレート間の隙間に、反応容器内の通気方向に沿って設けられ、前記隙間に複数の区画を形成する部材である。前記仕切りは、各区画に充填物が充填されたときに、各区画に充填物を保持することができる部材が用いられる。このような仕切りとしては、例えば、ステンレス製の板、角棒、丸棒、網、グラスウール、及びセラミック板が挙げられる。
【0051】
前記仕切りは、前記隙間への充填物の充填を区画単位で行い、充填物の正確かつ容易な充填を行う観点で好ましい。このような観点から、前記仕切りは、仕切りの容積が既知であることが好ましく、1〜100Lの容積の区画を形成することが好ましく、形成される全ての区画が2〜3種類の容積の区画からなることが好ましく、また形成される全ての区画が同一容積であることが好ましい。
【0052】
区画の容積は、プレート式反応器の設計時に決定されて一般に既知である。しかしながら、区画の容積は、通気方向に沿って測定される伝熱プレート間の隙間の距離、通気方向に沿った前記隙間の長さ、及び仕切り間又は仕切りと反応容器の壁面との距離、から計算によって求めることができる。また、区画の容積は、例えば区画に十分な大きさのビニル袋を挿入する等して水密な区画を形成し、形成された水密な区画に水を供給し、水の供給量を測定することによって求めることができる。
【0053】
前記仕切りは、仕切りの性状に応じて適宜に伝熱プレート間の隙間に設けることができる。例えば可撓性を有する仕切りや、伝熱プレート間の最短距離の幅を有する形状の仕切りは、予め反応容器に設置されている複数の伝熱プレートにおける隣り合う伝熱プレート間の隙間に挿入することによって伝熱プレート間の隙間に設けることができる。また、伝熱プレートの表面に密着する形状の仕切りは、反応容器に伝熱プレートを設置する際に、伝熱プレートと仕切りとを交互に設置することによって伝熱プレート間の隙間に設けることができる。
【0054】
プレート式反応器が前記仕切りをさらに有する場合は、充填物の充填は区画単位で行うことができる。この場合、前記充填物は、各区画と同量の充填物を各区画に連続して又は所定量の充填物を断続的に充填することによって行うことができる。
【0055】
なお、充填物の適切な充填状態は、例えば各隙間又は区画に充填された触媒(触媒層)の天面の位置の対比や、各隙間又は区画における前記天面の実測値と計算値との比較によって判断することができる。
【0056】
前記仕切り用係止部は、可撓性を有する仕切りを、形成される区画から充填物が漏れな
いように前記隙間に保持するために、仕切りの端部を各区画の端部に係止する部材である。このような仕切り用部材としては、例えばフック、フックを係止するための輪、孔、窪み等が挙げられる。
【0057】
前記通気栓は、各区画の通気性と充填物の保持とを両立する部材であって、各区画の端部に着脱自在に固定される部材である。通気栓は、前記隙間から区画単位で充填物を抜き出す観点から好ましい。通気栓は、例えば孔とこの孔に進出する方向に付勢されている爪、及び、孔とボルト及びナット、等の対となる係止部を用いて、各区画の端部に着脱自在に固定することができる。
【0058】
本発明では、第一の伝熱管群及び第二の伝熱管群のそれぞれにおいて、さらに一連の伝熱管からなるさらなる伝熱管群を配置し、第一の温度と第二の温度との差が70℃以上である条件を満たす範囲において、異なる温度の熱媒をさらなる伝熱管群に供給してもよい。
【0059】
前記プレート式反応器は、流体の原料と固体の触媒とを接触させて原料の接触反応によって反応生成物を製造する方法に利用することができる。このような利用は、例えば気相接触酸化反応のような、一般に高温での接触反応におけるプレート式反応器での熱による応力の発生を抑制し、また反応生成物の自己酸化等の望ましくない変質を抑制する観点から効果的である。
【0060】
このような製造方法における原料としては、流体の状態での接触反応に適用することができる公知の原料を用いることができる。このような原料としては、例えば、エチレン;炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種;炭素数4以上の炭化水素(例えばn−ブタンやベンゼン);キシレン及びナフタレンの一方又は両方;ブテン;及び、エチルベンゼンが挙げられる。また、これらの原料に対応する前記反応生成物としては、それぞれ、酸化エチレン;炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸の少なくとも一方;マレイン酸;フタル酸;ブタジエン;及び、スチレンが挙げられる。前述の温度制御を利用して前記の原料から対応する反応生成物を製造することは、爆発範囲から外れた濃度で反応生成ガスをプレート式反応器から排出させる観点、反応生成物の後反応を防止する観点、及び、高温の反応生成ガスから熱回収を行う観点から効果的である。
【0061】
特に、前記反応原料が、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記反応生成物が、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸の少なくとも一方であるとき、反応生成ガスの急冷によって不飽和脂肪族アルデヒドの自己酸化を防止する観点からより効果的である。
【0062】
前記製造方法において、充填物の種類、充填層の温度、及び原料の供給量等の諸条件は、例えば、多管式反応器やプレート式反応器を用いる前記反応生成物の公知の製造方法における条件の採用、コンピュータによるシミュレーション等による計算、又は、公知の条件や計算値に基づく実験による条件の検討、によって決めることができる。
以下、本発明のプレート式反応器を、図面を用いてより具体的に説明する。
【0063】
本発明のプレート式反応器は、例えば図1〜3に示すように、矩形のケーシング1と、伝熱管2を有し、ケーシング1内に対向して並んで設けられる複数の伝熱プレート3と、伝熱管2に供給される熱媒を収容する第一及び第二の熱媒収容部4、5と、伝熱プレート
3の上部及び下部に設けられる穴あき板6、7と、第一の熱媒収容部4の熱媒を循環させるための第一のポンプ8aと、第二の熱媒収容部5の熱媒を循環させるための第二のポンプ8bと、循環する第一の熱媒収容部4の熱媒の温度を調整するための第一の温度調整装置9aと、循環する第二の熱媒収容部5の熱媒の温度を調整するための第二の温度調整装置9bとを有する。
【0064】
ケーシング1は、断面形状が矩形の通気路を形成しており、前記反応容器に相当する。ケーシング1は、ケーシング1の上端及び下端に、対向する一対の通気口10、10’を有しており、通気口10を含むケーシング端部11と、通気口10’を含むケーシング端部11’と、伝熱プレート3が収容されるケーシング本体とから構成されている。ケーシング端部11、11’は、ケーシング本体に対して着脱自在にそれぞれ接続されている。
【0065】
伝熱管2は、例えば長径が10〜100mmであり短径が5〜50mmの断面形状が楕円形の管である。
【0066】
伝熱プレート3は、図4に示すように、複数の伝熱管2が断面形状の端縁で連結した形状の第一及び第二の伝熱プレート3a、3bと、これらの間に形成されるスペーサ部3cとを有している。第一及び第二の伝熱プレート3a、3bはそれぞれ、楕円弧が連続して形成された二枚の波板を両波板の弧の端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成されており、ケーシング1内の通気方向に沿って並んで設けられる。第一及び第二の伝熱プレート3a、3bは、それぞれ第一及び第二の伝熱管群に相当する。第一の伝熱プレート3aの高さと第二の伝熱プレート3bの高さとの比(a:b)は、例えば8:3である。
【0067】
スペーサ部3cは、例えば第一及び第二の伝熱プレート3a、3bの端部のそれぞれの接合板部が一部で重なり合って形成されている。スペーサ部3cの高さは例えば50mmである。
【0068】
隣り合う伝熱プレート3は、表面の凸縁同士が対向するように並列していてもよいが、図1のプレート式反応器では、図3に示すように、一方の伝熱プレート3の表面の凸縁と、他方の伝熱プレート3の表面の凹縁とが対向するように並列している。また伝熱プレート3は、反応容器全体において異なる間隔で並列していてもよいが、図1のプレート式反応器では、同じ間隔(例えば図4の伝熱管2aの外壁間の最短距離が14mm(各伝熱プレート3の伝熱管の長軸間の距離が30mm))で並列している。
【0069】
第一の伝熱プレート3aは、例えば図4に示すように、断面の大きさが異なる三種の伝熱管2a〜2cを上部、中部、及び下部のそれぞれにおいて含んでいる。第一の伝熱プレート3aは、伝熱管2a〜2cの長軸が一直線上に配置されるように形成されている。例えば伝熱管2aは、第一の伝熱プレート3aの高さの20%分の第一の伝熱プレート3aを形成し、伝熱管2bは第一の伝熱プレート3aの高さの30%分の第一の伝熱プレート3aを形成し、伝熱管2cは第一の伝熱プレート3aの高さの40%分の第一の伝熱プレート3aを形成している。そして例えば、第一の伝熱プレート3aの高さの10%分は、スペーサ部を含む、第一の伝熱プレート3aの上端部及び下端部の接合板部で形成されている。
【0070】
第一の伝熱プレート3aの上部に形成されている伝熱管2aの断面形状は、長径が50mmであり、短径が20mmの楕円形であり、第一の伝熱プレート3aの中部に形成されている伝熱管2bの断面形状は、長径が40mmであり、短径が16mmの楕円形であり、第一の伝熱プレート3aの下部に形成されている伝熱管2cの断面形状は、長径が30mmであり、短径が10mmの楕円形である。
【0071】
第二の伝熱プレート3bは、一種類の伝熱管2dによって構成されている。伝熱管2dの断面形状は、長径が30mmであり、短径が10mmである。
【0072】
第一及び第二の熱媒収容部4、5は、それぞれケーシング1の対向する一対の壁に設けられる容器である。第一及び第二の熱媒収容部4、5は、一体の熱媒収容部を他の部材と同様にステンレス等の伝熱性を有する仕切り板によって仕切ることによって設けることができる。又は第一及び第二の熱媒収容部4、5は、例えば熱媒収容部間の伝熱を抑制する観点から、伝熱性の小さな部材(例えば雲母の板状成形体)又は微小な隙間(例えば5mm)を介してケーシング1内の通気方向に沿って隣接して設けることができる。第一及び第二の熱媒収容部4、5には、各伝熱管2に熱媒を供給するための供給口が前記壁に形成されており、第一及び第二の伝熱プレート3a、3bとも隣接している。第一及び第二の熱媒収容部4、5は、例えば反応容器全体において、熱媒が伝熱管2を介して一対の各熱媒収容部間を循環するように、所定の高さにおいて複数に区切られている。
【0073】
第二の熱媒収容部5は、図5に示すように、第二の伝熱プレート3bに加えてスペーサ部3cとも隣接している。そして第二の熱媒収容部5には、第一の熱媒収容部4側の端部において、一又は二以上の熱遮蔽板12が設けられている。熱遮蔽板12は、例えば図5に示すように、第二の熱媒収容部5における熱媒の対流を遮断する向きであって、スペーサ3cの隣接部位から第二の伝熱プレート3bの伝熱管2dに向けて傾斜するように設けられている。熱遮蔽板12は熱媒規制部材に相当している。
【0074】
穴あき板6、7は、それぞれ、充填される充填物の最長径に対して0.20〜0.99倍の径を有する孔が20〜99%の開口率で設けられている板である。図1のプレート式反応器では、穴あき板6、7は、最も外側に配置される伝熱プレート3とケーシング1の壁との間の隙間への通気を防止するために、図3に示すように、最も外側に配置されている伝熱プレート3の端縁からケーシング1の壁までの隙間を塞ぐように形成されている。
【0075】
第一及び第二のポンプ8a、8bには、所望の温度の熱媒を移送することができる装置が用いられる。また、第一及び第二の温度調整装置9a、9bには、熱媒の温度を所望の温度に制御することができる熱交換器等の装置が用いられる。第一及び第二の熱媒収容部4、5、第一及び第二のポンプ8a、8b、及び、第一及び第二の温度調整装置9a、9bは熱媒供給装置を構成している。
【0076】
隣り合う伝熱プレート3間の隙間には、充填物が充填される。例えば隣り合う第二の伝熱プレート3b間の隙間及び隣り合うスペーサ部3c間の隙間には、形状が球であり、粒径(最長径)が5mmであり、比重が1.5である不活性粒子が充填され、隣り合う第一の伝熱プレート3a間の隙間には、形状が円柱状であり、粒径(最長径)が4mmであり、比重が0.7である触媒が充填される。
【0077】
図1のプレート式反応器を、プロパン又はプロピレンの気相接触酸化反応によるアクロレインの製造に用いるとする。通気口10からは、プロピレンと酸素とを含有する原料ガスが供給され、第一の伝熱プレート3aの伝熱管2a〜2cには、第一の熱媒収容部4から、例えば温度が350℃に調整された熱媒が供給され、第二の伝熱プレート3bの伝熱管2dには、第二の熱媒収容部5から、例えば温度が200℃に調整された熱媒が供給される。第一の伝熱プレート3a間で生成したアクロレインを含有する反応生成ガスは、スペーサ部3cに沿って速やかに第二の伝熱プレート3b間に供給され、冷却される。
【0078】
第二の熱媒収容部5における第一の熱媒収容部4側の端部では、第二の熱媒収容部5における熱媒の対流が熱遮蔽板12によって妨げられ、また熱遮蔽板12に当たった熱媒が
伝熱管2dに向けて流れ易いことから熱媒が滞留しやすく、また滞留している熱媒はケーシング1からの伝熱により加温される。さらに、加温された熱媒は上昇して前記端部において滞留する。したがって、前記端部においては、第二の熱媒収容部5における第一の熱媒収容部4側ほど熱媒の温度が高くなり、前記端部において熱媒の温度は201〜300℃程度になる。このため、ケーシング1の壁に生じる熱媒の温度差による応力が抑制される。
【0079】
さらに、スペーサ部3cは、第一及び第二の伝熱プレート3a、3bの端部の接合板部の一部の重なりによって形成されていることから、ケーシング1内部における温度差によって各伝熱プレート3a及び3bに生じる応力は、各伝熱プレート3a、3bの接合板部の伸長や収縮によって抑制される。
【0080】
なお、スペーサ部は、図6に示すように、両端又は一端が遮蔽板13で塞がれた伝熱管2dであってもよい。このようにスペーサ部を構成する場合には、伝熱プレート3を一枚の伝熱プレートで構成することが可能となる。
【0081】
また熱遮蔽板12は、図6に示すように、複数枚設けられてもよいし、また水平部と、この水平部から伝熱管2dに向けて下方に傾斜する傾斜部とを有する屈曲した板を含んでいてもよい。このような熱遮蔽板の数や形状によって、熱媒収容部の端部における熱媒の滞留を調整することが可能となり、前記端部における熱媒の温度を調整することが可能となる。
【0082】
前記プレート式反応器は、第一及び第二の熱媒収容部4、5とスペーサ部3cと熱遮蔽板12とを有することから、温度差が70℃以上の二種の熱媒が供給されるプレート式反応器において、この熱媒の温度差による応力の発生を抑制することができる。
【0083】
また前記プレート式反応器は、第一の伝熱プレート3aと第二の伝熱プレート3bとが、高さが50mm程度のスペーサ部3cを介して接続されていることから、第一の伝熱プレート3a側で生成した生成物を第二の伝熱プレート3b側に迅速に送ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
プレート式反応器は、一般に気相反応による生成物を大量に効率よく製造する観点で優れており、本発明のプレート式反応器は、反応温度とその後の処理温度との温度差の大きな反応に好適に利用することができ、プレート式反応器の汎用性のさらなる拡大が期待される。
【符号の説明】
【0085】
1 ケーシング
2、2a〜2c 伝熱管
3、3a,3b 伝熱プレート
3c スペーサ部
4 第一の熱媒収容部
5 第二の熱媒収容部
6、7 穴あき板
8a 第一のポンプ
8b 第二のポンプ
9a 第一の温度調整装置
9b 第二の温度調整装置
10、10’ 通気口
11、11’ ケーシング端部
12 熱遮蔽板
13 遮蔽板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する熱媒供給装置と、を有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の前記伝熱管を含み、
隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒を含む充填物が充填されるプレート式反応器において、
前記伝熱プレートは、一連の伝熱管で構成される第一の伝熱管群と、反応容器内の通気方向に沿って第一の伝熱管群に並んで配置される、一連の伝熱管で構成される第二の伝熱管群と、第一及び第二の伝熱管群の間に配置され、熱媒が供給されないスペーサ部とを含み、
前記熱媒供給装置は、前記第一の伝熱管群に伝熱管の開口端で隣接し、第一の伝熱管群の伝熱管に供給される第一の温度の熱媒を収容する第一の熱媒収容部と、前記第二の伝熱管群に伝熱管の開口端で隣接し、第二の伝熱管群の伝熱管に供給される第二の温度の熱媒を収容する第二の熱媒収容部とを有し、
前記第一の温度と前記第二の温度との差は70℃以上であり、
前記第一及び第二の熱媒収容部の一方又は両方は、伝熱管の開口端を含む伝熱プレートの端縁で前記スペーサ部にも隣接し、
スペーサ部に隣接する熱媒収容部内において、スペーサ部に隣接する部位に、熱媒の流動を規制する熱媒規制部材をさらに有することを特徴とするプレート式反応器。
【請求項2】
前記第一の温度は前記第二の温度よりも高く、前記第二の熱媒収容部は前記スペーサ部に隣接し、前記熱媒規制部材は第二の熱媒収容部に設けられることを特徴とする請求項1記載のプレート式反応器。
【請求項3】
前記第一の温度が300〜390℃であり、前記第二の温度が200〜280℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレート式反応器。
【請求項4】
前記スペーサ部の高さが5〜300mmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプレート式反応器。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のプレート式反応器を用いて、このプレート式反応器の伝熱プレート間の隙間に充填された触媒の存在下でガス状の原料から反応生成物を製造する方法であって、
前記原料に、エチレン;炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種;炭素数4以上の炭化水素;キシレン及びナフタレンの一方又は両方;ブテン;又はエチルベンゼンを用い、
酸化エチレン;炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド及び炭素数3及び4の不飽和脂肪酸の少なくとも一方;マレイン酸;フタル酸;ブタジエン;又はスチレンである反応生成物を製造することを特徴とする反応生成物の製造方法。
【請求項6】
前記原料が、炭素数3及び4の炭化水素、並びにターシャリーブタノールからなる群から選ばれる少なくとも1種、又は、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記反応生成物が、炭素数3及び4の不飽和脂肪族アルデヒド、及び炭素数3及び4の
不飽和脂肪酸、の少なくとも一方であることを特徴とする請求項5に記載の反応生成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−262135(P2009−262135A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75535(P2009−75535)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】