説明

プロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法

【課題】 反応器から未反応ガスを取り出し、その一部を凝縮させて液化炭化水素の蒸発潜熱にて重合熱の除去をおこなうプロピレン系ブロック共重合体の気相重合方法において、高い流動性を有し、かつ高い耐衝撃性を有するプロピレン系ブロック共重合体の生産速度を大きく低下させることなく、安定して、且つ塊等の異常粒子の発生/反応器壁面および攪拌翼への粒子付着を抑制することができる製造方法の提供。
【解決手段】 液化炭化水素の蒸発潜熱により重合熱が除去される方法にてプロピレン系ブロック共重合体の連続気相重合を行うにあたり、炭素数3乃至5の飽和炭化水素を、特定の場所に、反応器内のパウダーの温度と反応器内に供給される該飽和炭化水素を含む反応ガスの露点との温度差が7℃以上となるに十分な添加量だけ添加することによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法に関し、更に詳しくは、液化炭化水素の蒸発潜熱にて重合熱の除去を行なう気相重合方法において、高い流動性を有し、かつ高い耐衝撃性を有するプロピレン系ブロック共重合体の生産速度を大きく低下させることなく、安定して、且つ塊等の異常粒子の発生や反応器壁面および攪拌翼への粒子付着を抑制して製造することができるプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂は比較的安価で、優れた熱的及び機械的特性を有することから今日では多岐の分野にわたり使用されている。特にプロピレン系ブロック共重合体は、プロピレンホモポリマーの高い剛性とプロピレンとα−オレフィンとの共重合体の耐衝撃性、特に低温での耐衝撃性の両方の特性を兼ね備えたポリマーであり、自動車、家電分野等を始めとして各産業分野に広く採用されている。特に、自動車分野では成形品の大型化およびより高い耐衝撃性の要求に伴い、安価で高流動性かつ多量の共重合体成分を含むプロピレン系ブロック共重合体が望まれている。
一方、ポリプロピレンの製造プロセスに関しては、工程の簡略化と生産コストの低減及び生産性の向上などの観点で技術改良が続けられてきた。ポリプロピレンが工業的に製造され始めた当時は触媒の性能が低く、得られたポリプロピレンから触媒残さやアタクチックポリマーを除去する工程が必要であり、溶媒を用いたスラリー法などのプロセスが主体であった。その後触媒性能が格段に進歩するにつれ、現在では気相法プロセスが主流となっている。各種気相法プロセスの中でも液化プロピレンの潜熱を利用して重合熱を除去する方法は、小さな設備で大きな除熱能力を持つ事が出来る点で優位性のあるものである。
【0003】
プロピレン系ブロック共重合体の高流動化に関しては、主としてプロピレン系ブロック共重合体のMFRを高くすることで成される。プロピレン系ブロック共重合体の流動性を向上させるためには、プロピレンホモポリマー成分のMFRを高くすることが一般的である。
【0004】
プロピレンホモ成分の高MFR化のためには、例えば一般に分子量調節剤として用いられる水素の反応系内への導入量を多くすることで成されるが、液化プロピレンの蒸発潜熱を利用して重合熱の除去を行う気相重合プロセスにおいては、未反応ガスを回収し、その一部または全部を液化させる必要がある。水素等の低分子量成分が多く含まれた未反応ガスは露点が低下し、凝縮工程での効率が大きく低下する。凝縮工程で除熱能力が低下した場合、重合圧力の制御が困難となり、プロセスの安定運転に支障を来たす。そのため、液化プロピレンの蒸発潜熱を利用して重合熱の除去を行うプロセスにて、高いMFRを有するポリプロピレンの製造においては、その生産速度を凝縮工程の能力に合わせ大きく低下しなければならないという問題があった。生産速度の低下は、その生産性を低下させるだけでなく、第1重合工程における触媒の滞留時間が延びることにより、第2重合工程での触媒活性が低下する。そのため、所望のプロピレンと他のαオレフィンとの共重合体成分の量を得ることが困難となりプロピレン系ブロック共重合体の必要な耐衝撃性付与が困難となる。更には、主に壁面や攪拌翼へのパウダー付着を防止するために導入される電子供与化合物の添加量が極端に減少し、壁面への付着が増加するなどの問題があった。
【0005】
上記問題の解決のために、原料プロピレンの蒸発潜熱で重合熱の除去を主体とするプロセスにおいては,凝縮機自体の能力を高くせしめる方法もあるが、このためには多大なコストが必要となる。
【0006】
一方、重合プロセスが本発明と異なるが、凝縮工程での凝縮(液化)を促進させる方法としては、流動床を有する反応器において、反応帯域内に重合用オレフィンより炭素数が1〜4大きい不活性炭化水素を気相状態で共存させて、この反応帯域の気相を外部気相循環系の冷却帯域で液化させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、冷却帯域で回収された液化生成物の一部または全量を、昇温気化させて反応器に再循環させる必要がある。この液化生成物を反応器に直接供給した場合は、反応器壁の供給口付近が液化生成物により湿潤な状態となり、そこに反応器内の活性な粒子が付着し閉塞してしまうという問題がある。
【0007】
また、反応器内部に攪拌翼を有するプロセスの例では、易揮発性炭化水素の存在下もしくは不存在下にチタン含有触媒成分と有機アルミニウム触媒成分とからなる触媒の存在下に、オレフィンを気相重合もしくは共重合するに際し、反応系内にガス状もしくは液状の易揮発性炭化水素を導入することを提案している(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法では良好な除熱を行うためには、反応系に吹き込むガス状の易揮発性炭化水素の吹き込み速度を最小流動化速度付近とすることが必要であり、少なからずエントレインメント防止/安定生産という点においては、まだ改善の余地がある。
【0008】
このプロセスにおけるエントレイメント防止の提案としては、プロピレンブロック共重合体の製造において、第1段階の反応系および第2段階の反応系において槽内空塔速度を最小流動化速度以下にして、機械的攪拌を行い、かつ第2反応器のみに炭素数3ないし5個の飽和炭化水素を供給することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法では確かに該発明が所望するエントレインメントの減少は達成されるものの、第2段階の反応系におけるα−オレフィンのモノマー分圧が低下し、重合活性が低下する。これにより必要な共重合体成分量を製造することが困難となるばかりか、第2段階の反応器内の壁面や攪拌翼への付着防止のために添加される電子供与成分が減少し、多量の共重合体成分を含むプロピレン系ブロック共重合体の製造においては、付着が増大する等の問題が残る。
【0009】
【特許文献1】特開昭55−45744号公報
【特許文献2】特開昭56−34709号公報
【特許文献3】特開平4−331219号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術の問題点に鑑み、液化炭化水素の蒸発潜熱にて重合熱の除去を行なう気相重合方法において、高い流動性を有し、かつ高い耐衝撃性を有するプロピレン系ブロック共重合体の生産速度を大きく低下させることなく、安定して、且つ塊等の異常粒子の発生や反応器壁面および攪拌翼への粒子付着を抑制して製造することができるプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、重合熱の除去を主に液化させた炭化水素の蒸発潜熱で行いながら気相法により二段工程でプロピレン系ブロック共重合体を連続的に製造する際に、少なくとも第1重合工程において、炭素数3乃至5の飽和炭化水素を、反応器から未反応ガスの一部を取り出す未反応ガス抜出し配管に特定の位置に、反応器内のパウダーの温度(以下、「重合温度」ともいう。)と、反応器内に供給される該飽和炭化水素を含む反応ガスの露点との温度差が特定の温度以上となるに十分な添加量だけ添加すると、高流動性を有するプロピレン系ブロック共重合体の生産性を大きく低下させることなく、且つ重合装置へのポリマーの付着、異常粒子の発生を抑制して製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、内部に撹拌機を有する反応器を用いて、重合熱の除去を主に液化させた炭化水素の蒸発潜熱で行い、槽内空塔速度を最小流動化速度以下に保ちながら気相法により二段工程でプロピレン系ブロック共重合体を連続的に製造する方法であって、
第1重合工程において、チタン、マグネシウム、ハロゲン及び電子供与体を必須成分とする固体触媒成分と有機アルミニウム化合物とを含む触媒の存在下に、プロピレンまたはプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させて、2.16kg荷重下、230℃におけるMFRが50以上であるプロピレンの単独重合体、またはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体を製造し、引き続き、第2重合工程において、第1重合工程で得られた重合反応混合物の存在下に、プロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを供給してプロピレンと他のαオレフィンとを共重合させてプロピレン系ブロック共重合体を製造し、
その際、第1重合工程または第1重合工程および第2重合工程において、炭素数3乃至5の飽和炭化水素を、反応器から未反応ガスの一部を取り出す未反応ガス抜出し配管における、反応器取り出し口からガス凝縮機入り口までの間の任意の位置に、反応器内のパウダーの温度と、反応器内に供給される該飽和炭化水素を含む反応ガスの露点との温度差が7℃以上となるに十分な添加量だけ添加することを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の気相連続製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記飽和炭化水素が、未反応ガス抜出し配管のガス凝縮機の入り口付近に添加されることを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1または第2の発明において、前記温度差が、10℃以上であることを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれか1項の発明において、第1重合工程で製造されるプロピレンの単独重合体またはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体の2.16kg荷重下、230℃におけるMFRが、100以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれか1項の発明において、第1重合工程と第2重合工程の重合比が、85/15乃至20/80であることを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれか1項の発明において、前記反応器内のパウダーの温度が、設定温度に対し、±1℃以内で制御されることを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれか1項の発明において、前記飽和炭化水素が、ブタンまたはイソブタンであるプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれか1項の発明において、前記反応器が、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応器であることを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体の気相連続製造方法によれば、第1の発明においては、第1重合工程または第1重合工程および第2重合工程において、炭素数3乃至5の飽和炭化水素を、反応器から未反応ガスの一部を取り出す未反応ガス抜出し配管における、反応器取り出し口からガス凝縮機入り口までの間の任意の位置に、反応器内のパウダーの温度と、反応器内に供給される該飽和炭化水素を含む反応ガスの露点との温度差が7℃以上となるに十分な添加量だけ添加することを特徴とする製造方法であるので、生産速度を低下させることなく、かつ塊等の異常粒子の発生を抑制して、高流動かつ高い耐衝撃性を有するプロピレン系ブロック共重合体を得られることから、外観の優れた射出成形品を得ることが可能である。加えて、反応器壁面および攪拌翼への粒子付着が抑制されることから、効率的な製造が可能である。また、生産速度が低下せず、パウダー中の塊量も少ないことから、安価で、かつ品質的に安定したプロピレン系ブロック共重合体の供給が可能となる。
【0021】
また、第2の発明においては、飽和炭化水素が未反応ガス抜出し配管のガス凝縮機の入り口付近に添加されると特定しているので、配管内で飽和炭化水素が凝縮して微粉粒子等の付着が起こらないという効果がある。
【0022】
また、第3の発明においては、温度差が10℃以上であると特定しているので、重合温度の制御性の低下を招かないという効果がある。
【0023】
また、第4の発明においては、第1重合工程で製造されるプロピレンの単独重合体またはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体の2.16kg荷重下、230℃におけるMFRが100以上であると特定しているので、ポリマーの流動性が低下し成形性が低下することがないという効果がある。
【0024】
また、第5の発明においては、第1重合工程と第2重合工程の重合比が85/15乃至20/80であると特定しているので、ゴム状重合体が過小で十分な衝撃強度が得られないということがなく、しかも、ゴム状重合体が過大でプロピレン系ブロック共重合体のパウダー流動性が悪化し、系内への付着が発生することがないという効果がある。
【0025】
また、第6の発明においては、反応器内のパウダーの温度が設定温度に対し、±1℃以内で制御されると特定しているので、重合温度が大きく変動して、安定運転に支障を来たしたり、ポリマーの分子量分布が拡大し、プロピレン系ブロック共重合体の成形品の外観を著しく低下させたりすることがないという効果がある。
【0026】
また、第7の発明においては、飽和炭化水素がブタンまたはイソブタンであると特定しているので、未反応ガスの露点の調節がし易い、生成パウダーからの飽和炭化水素の除去がし易い、およびプロピレン回収系におけるプロピレンと飽和炭化水素の分離がし易いという効果がある。
【0027】
また、第8の発明においては、反応器が内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応器であると特定しているので、ショートパス粒子が少なく、より高い耐衝撃性を有するプロピレン系ブロック共重合体を安定して製造することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体の気相連続製造方法を、触媒、第1重合工程及び第2重合工程について、以下に、具体的かつ詳細に説明する。
【0029】
1.触媒
(1)固体触媒成分
本発明で用いられる固体触媒成分は、チタン、マグネシウム、ハロゲン及び電子供与体を必須成分として含有してなるα−オレフィンの立体規則性重合用固体触媒成分である。ここで「必須成分として含有し」ということは、挙示の四成分以外に合目的的な他元素を含んでいてもよいこと、これらの元素はそれぞれが合目的的な任意の化合物として存在してもよいこと、ならびにこれら元素は相互に結合したものとして存在してもよいことを示すものである。
【0030】
チタン、マグネシウムおよびハロゲンを含む固体成分そのものは公知のものである。例えば、特開昭53−45688号、同54−3894号、同54−31092号、同54−39483号、同54−94591号、同54−118484号、同54−131589号、同55−75411号、同55−90510号、同55−90511号、同55−127405号、同55−147507号、同55−155003号、同56−18609号、同56−70005号、同56−72001号、同56−86905号、同56−90807号、同56−155206号、同57−3803号、同57−34103号、同57−92007号、同57−121003号、同58−5309号、同58−5310号、同58−5311号、同58−8706号、同58−27732号、同58−32604号、同58−32605号、同58−67703号、同58−117206号、同58−127708号、同58−183708号、同58−183709号、同63−108008号、同63−264607号、同63−264608号、特開平1−79203号、同1−98603号、同7−258328号、同8−269125号、同11−21309号各公報等に記載のものが使用される。
【0031】
本発明において使用されるマグネシウム源となるマグネシウム化合物としては、金属マグネシウム、マグネシウムジハライド、ジアルコキシマグネシウム、アルコキシマグネシウムハライド、マグネシウムオキシハライド、ジアルキルマグネシウム、アルキルマグネシウムハライド、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムのカルボン酸塩等が挙げられる。これらの中でもマグネシウムジハライド、ジアルコキシマグネシウム等のMg(OR2−m(ここで、Rは炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10程度のものであり、Xはハロゲンを示し、mは0≦m≦2である。)で表されるマグネシウム化合物が好ましい。
【0032】
また、チタン源となるチタン化合物としては、一般式Ti(OR4−n、ここで、Rは炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10程度のものであり、Xはハロゲンを示し、nは0≦n≦4である。)で表される化合物が挙げられる。具体例としては、TiCl、TiBr、TiI、Ti(OC)Cl、Ti(OCCl、Ti(OCCl、Ti(O−i−C)Cl、Ti(O−n−C)Cl、Ti(O−n−CCl、Ti(OC)Br、Ti(OC)(O−n−CCl、Ti(O−n−CCl、Ti(OC)Cl、Ti(O−i−CCl、Ti(OC11)Cl、Ti(OC13)Cl、Ti(OC、Ti(O−n−C、Ti(O−n−C、Ti(O−i−C、Ti(O−n−C13、Ti(O−n−C17、Ti(OCHCH(C)C等が挙げられる。
【0033】
また、TiX’(ここで、X’はハロゲンである。)に後述する電子供与体を反応させた分子化合物をチタン源として用いることもできる。そのような分子化合物の具体例としては、TiCl・CHCOC、TiCl・CHCO、TiCl・CNO、TiCl・CHCOCl、TiCl・CCOCl、TiCl・CCO、TiCl・ClCOC、TiCl・CO等が挙げられる。
【0034】
また、TiCl(TiClを水素で還元したもの、アルミニウム金属で還元したもの、あるいは有機金属化合物で還元したもの等を含む)、TiBr、Ti(OC)Cl、TiCl、ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロライド、シクロペンタジエニルチタニウムトリクロライド等のチタン化合物の使用も可能である。これらのチタン化合物の中でもTiCl、Ti(OC、Ti(OC)Cl等が好ましい。
【0035】
ハロゲンは、上述のマグネシウムおよび(または)チタンのハロゲン化合物から添加されるのが普通であるが、他のハロゲン源、例えばAlCl、AlBr、AlI等のアルミニウムのハロゲン化物、BCl、BBr、BI等のホウ素のハロゲン化物、SiCl等のケイ素のハロゲン化物、PCl、PCl等のリンのハロゲン化物、WCl等のタングステンのハロゲン化物、MoCl等のモリブデンのハロゲン化物といった公知のハロゲン化剤から添加することもできる。触媒成分中に含まれるハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素またはこれらの混合物であってもよく、特に塩素が好ましい。
【0036】
電子供与体としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸または無機酸類のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類のような含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアネートのような含窒素電子供与体、スルホン酸エステルのような含硫黄電子供与体などを例示することができる。
【0037】
より具体的には、
(イ)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ドデカノール、オクタデシルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、イソプロピルベンジルアルコールなどの炭素数1ないし18のアルコール類、
(ロ)フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、ノニルフェノール、ナフトールなどのアルキル基を有してよい炭素数6ないし25のフェノール類、
(ハ)アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノンなどの炭素数3ないし15のケトン類、
(ニ)アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、オクチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、ナフトアルデヒドなどの炭素数2ないし15のアルデヒド類、
(ホ)ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸プロピル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、酢酸セロソルブ、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、吉草酸エチル、ステアリン酸エチル、クロル酢酸メチル、ジクロル酢酸エチル、メタクリル酸メチル、クロトン酸エチル、シクロへキサンカルボン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸オクチル、安息香酸シクロヘキシル、安息香酸フェニル、安息香酸ベンジル、安息香酸セロソルブ、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、トルイル酸アミル、エチル安息香酸エチル、アニス酸メチル、アニス酸エチル、エトキシ安息香酸エチル、γ−ブチロラクトン、α−バレロラクトン、クマリン、フタリドなどの有機酸モノエステル、または、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、コハク酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、1,2−シクロヘキサンカルボン酸ジエチル、炭酸α−オレフィン、ノルボルナンジエニル−1,2−ジメチルカルボキシラート、シクロプロパン−1,2−ジカルボン酸−n−ヘキシル、1,1−シクロブタンジカルボン酸ジエチルなどの有機酸多価エステルの炭素数2ないし20の有機酸エステル類、
(ヘ)ケイ酸エチル、ケイ酸ブチルなどのケイ酸エステルのような無機酸エステル類、
(ト)アセチルクロリド、ベンゾイルクロリド、トルイル酸クロリド、アニス酸クロリド、塩化フタロイル、イソ塩化フタロイルなどの炭素数2ないし15の酸ハライド類、
(チ)メチルエーテル、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、アミルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール、ジフェニルエーテル、2,2−ジメチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−s−ブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−t−ブチル−2−メチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−t−ブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジフェニル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジメチル−1,3−ジエトキシプロパン、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジエトキシプロパンなどの炭素数2ないし20のエーテル類、
(リ)酢酸アミド、安息香酸アミド、トルイル酸アミドなどの酸アミド類、
(ヌ)メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリブチルアミン、ピペリジン、トリベンジルアミン、アニリン、ピリジン、ピコリン、テトラメチルエチレンジアミンなどのアミン類、
(ル)アセトニトリル、ベンゾニトリル、トルニトリルなどのニトリル類、
(ヲ)2−(エトキシメチル)−安息香酸エチル、2−(t−ブトキシメチル)−安息香酸エチル、3−エトキシ−2−フェニルプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシ−2−s−ブチルプロピオン酸エチル、3−エトキシ−2−t−ブチルプロピオン酸エチルなどのアルコキシエステル化合物類、
(ワ)2−ベンゾイル安息香酸エチル、2−(4’−メチルベンゾイル)安息香酸エチル、2−ベンゾイル−4,5−ジメチル安息香酸エチルなどのケトエステル化合物類、
(カ)ベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸エチル、p−トルエンスルホン酸イソプロピル、p−トルエンスルホン酸−n−ブチル、p−トルエンスルホン酸−s−ブチルなどのスルホン酸エステル類、
(ヨ)RSi(OR(OR4−p−q−r(ここで、RおよびRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい炭素数1〜20の分岐、環状または直鎖炭化水素基であり、Rは炭素数1から10の炭化水素基であり、Rは炭素数1から4の炭化水素基であり、p、q、rはそれぞれ1≦p≦2、0≦q≦1、0≦r≦2であり、かつp+q+r≦3である。)で表される有機ケイ素化合物
等を挙げることができる。
【0038】
(2)有機アルミニウム化合物
本発明で用いる有機アルミニウム化合物の具体例としては、R3−sAlXまたはR3−tAl(OR(ここで、RおよびRは炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子であり、Rは炭化水素基であり、Xはハロゲンであり、sおよびtはそれぞれ0≦s<3、0<t<3である。)で表されるものがある。
【0039】
具体的には、
(イ)トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−n−ヘキシルアルミニウム、トリ−n−オクチルアルミニウム、トリ−n−デシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム、
(ロ)ジエチルアルミニウムモノクロライド、ジイソブチルアルミニウムモノクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライドなどのアルキルアルミニウムハライド、
(ハ)ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライド、
(ニ)ジエチルアルミニウムエトキシド、ジエチルアルミニウムフェノキシドなどのアルキルアルミニウムアルコキシド
等が挙げられる。
【0040】
これら(イ)〜(ニ)の有機アルミニウム化合物に他の有機金属化合物、例えばR103−uAl(OR11(ここで、R10およびR11は同一または異なってもよい炭素数1〜20の炭化水素基であり、uは0<u≦3である。)で表されるアルミニウムアルコキシドを併用することもできる。例えば、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムエトキシドの併用、ジエチルアルミニウムモノクロライドとジエチルアルミニウムエトキシドとの併用、エチルアルミニウムジクロライドとエチルアルミニウムジエトキシドとの併用、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムエトキシドとジエチルアルミニウムモノクロライドとの併用等が挙げられる。
【0041】
また触媒成分として固体触媒成分、有機アルミニウム化合物に加えて必要に応じて電子供与体を用いることもできる。
【0042】
このような電子供与体としては固体触媒成分中の必須成分として用いることのできるものが挙げられる。このような電子供与体を用いる場合に、固体触媒成分中の化合物と同一であっても、異なっていてもよい。
【0043】
好ましい電子供与体としては、エーテル類、無機酸エステル、有機酸エステル及び有機酸ハライド、有機ケイ素化合物であり、特に好ましいのは無機および有機ケイ酸エステル、フタル酸エステル、酢酸セロソルブエステルおよびフタル酸ハライドである。
【0044】
好ましいケイ酸エステルとしては、一般式R1213Si(OR144−v−w(ただし、R12は分岐を有する炭素数3〜20、好ましくは3〜10の脂肪族炭化水素残基、または炭素数5〜20、好ましくは6〜10の環状脂肪族炭化水素残基を、R13は炭素数1〜20、好ましくは1〜10の分岐または直鎖状の脂肪族炭化水素残基を、R14は炭素数1〜10、好ましくは1〜4の脂肪族炭化水素残基を、vは0≦v≦3、wは0≦w≦3でv+w≦3の数を、それぞれ示す)で表される有機ケイ素化合物である。なお、前記一般式のR12はケイ素原子に隣接する炭素原子から分岐しているものが好ましい。
【0045】
(3)予備重合処理
本発明における固体触媒成分は、本重合で使用する前に予備重合処理して用いることが好ましい。重合プロセスに先立って、予め少量のポリマーを触媒周囲に生成させることによって、触媒がより均一となり、微粉の発生量を抑えることができる。
【0046】
予備重合処理は、本重合に用いる有機アルミニウム化合物と同様の有機アルミニウム化合物の存在下で実施できる。使用する有機アルミニウム化合物の添加量は、使用する重合触媒成分の種類によって異なるが、通常、チタン原子1モルに対して有機アルミニウム化合物を0.1〜40モル、好ましくは0.3〜20モルの範囲で用い、−150℃〜150℃、好ましくは0℃〜80℃で、10分〜48時間かけて固体触媒成分1グラム当たり0.1〜100グラム、好ましくは0.5〜50グラムのα−オレフィンを不活性溶媒中で反応させる。
【0047】
予備重合処理においては、必要に応じて本重合に用いる電子供与体と同様の電子供与体を用いることもできる。電子供与体が有機ケイ素化合物の場合、有機アルミニウム化合物1モルに対して0.01〜10モルの範囲で用いてもよい。
【0048】
固体触媒成分の予備重合処理に用いられるモノマーとしては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることが出来る。具体的な化合物の例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテンなどに代表されるオレフィン類、スチレン、α−メチルスチレン、アリルベンゼン、クロロスチレン、などに代表されるスチレン類似化合物、及び、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,6−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,9−デカジエン、ジビニルベンゼン類、などに代表されるジエン化合物類、などを挙げる事が出来る。中でも、エチレン、プロピレン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、スチレン、ジビニルベンゼン類、などが特に好ましい。
これらは単独のみならず、他のα−オレフィンとの2種以上の混合物であってもよい。また、その重合に際して生成するポリマーの分子量を調節するために水素等の分子調節剤を併用することもできる。
【0049】
反応は、一般的に撹拌下に行うことが好ましく、そのとき不活性溶媒を存在させることもできる。固体触媒成分の予備重合処理に用いられる不活性溶剤は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカンおよび流動パラフィン等の液状飽和炭化水素やジメチルポリシロキサンの構造を持ったシリコンオイル等重合反応に著しく影響を及ぼさない不活性溶剤である。これらの不活性溶剤は1種の単独溶剤または2種以上の混合溶剤のいずれでもよい。これらの不活性溶剤の使用に際しては重合に悪影響を及ぼす水分、イオウ化合物等の不純物を取り除いた後で使用することが好ましい。
【0050】
予備重合処理は複数回行っても良く、この際用いるモノマーは同一であっても異なっていても良い。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行う事も出来る。予備重合を終了した後に、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、必要ならば乾燥を行ってもよい。
さらに、上記各成分の接触の際、もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体を共存させることも可能である。
【0051】
2.重合工程
本発明の重合工程は、第1重合工程および第2重合工程の二段階よりなる。第1重合工程および第2重合工程はこの順序(第1重合工程→第2重合工程)で実施する。
【0052】
(1)重合様式
本発明によるプロピレン系ブロック共重合体の製造は、反応器内部に撹拌機を有し、反応器から未反応ガスを取り出し、その一部もしくは全部を凝縮させて、ふたたび気化させること無く反応器へ供給し、その液化炭化水素の蒸発潜熱により重合熱の除去がなされる各工程で少なくとも1槽、全体として少なくとも2槽以上用いて、連続式によって実施する。
【0053】
撹拌機は撹拌軸が鉛直方向を向いていても、水平方向を向いていても良い。撹拌機の形状としては、パドル翼、ヘリカル翼、ゲート翼等任意のものを用いることが出来る。このうち、撹拌軸を水平方向に向けて、パドル翼を用いる方法(横型反応器)が最も好ましい。
【0054】
ここで横型反応器について図1を用いて詳細に述べる。横型反応器10は細長く、図1に示すように、一般的には水平位置で設置されており、攪拌翼はポリマー粒子を反応器10内でその中へ導入される他物質と混合する。
反応器10の上流部配管1および2より導入された触媒成分は、攪拌翼にてポリマー粒子と混合されながら、重合を開始する。重合の際、発生する重合熱は、頂部配管15から供給される原料液化プロピレンの蒸発潜熱により除去される。未反応のプロピレンガスは配管12にて反応系外へ出され、凝縮機13にてその一部分が凝縮され、気液分離槽11で液相と気相へ分離される。液相部は重合熱除去のため配管15へ導入され、気相部は、分子量調節のための水素等と混合され、反応器10底部に設置された配管16を経由して供給される。
【0055】
横型反応器が他の反応槽と大きく異なるところは、触媒成分が反応槽の上流部へ添加され、それが重合によりパウダー粒子として成長しながら、反応槽の下流側へ移動するという点にある。
そのため横型反応槽は、完全混合槽型の反応槽に比べ、反応槽1台当たりの槽数が高く、特に反応槽出口付近に存在する比較的滞留時間の短い粒子(ショートパス粒子)の濃度は非常に少ないものとなる。ショートパス粒子は通常粒子に比べ第2重合工程における活性が著しく高く、ショートパス粒子の増加は第2重合工程の反応器壁面および攪拌翼への付着を増大させる。よって、より高い耐衝撃性を有するプロピレン系ブロック共重合体を安定して製造することを目的としている本発明においては、横型反応器にて実施することが好ましい。
【0056】
(2)第1重合工程
第1重合工程(第1段重合槽)の重合は、実質気相状態で、プロピレン単独、あるいはプロピレンとエチレンを含むα−オレフィンとの混合物を固体触媒成分、有機アルミニウム化合物および必要に応じて電子供与体の存在下で、連続重合させて、結晶性のプロピレン重合体を製造する工程である。α−オレフィンとしてはエチレンが一般的である。この第1重合工程では、プロピレン単独重合体またはα−オレフィン含量7重量%以下のプロピレン・α−オレフィン共重合体を形成させる。第1重合工程で得られるプロピレン・α−オレフィン重合体中のα−オレフィン含量が7重量%を越えると、最終共重合体の嵩密度が低下し、低結晶性重合体の副生量が大幅に増大する。
【0057】
温度や圧力の様な重合条件は、本発明の効果を阻害しない限り任意に設定する事が出来る。具体的には、重合温度は好ましくは0℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。さらに、重合温度の制御(温度のバラつき)に関しては、設定温度に対し±3℃以内、好ましくは±2℃以内、より好ましくは±1℃以内、さらに好ましくは±0.5℃以内で制御する。重合温度が大きく変動すると、安定運転に支障を来たすばかりでなく、ポリマーの分子量分布が拡大し、プロピレン系ブロック共重合体の成形品の外観を著しく低下させる。
重合熱の除去を、主に液化させた炭化水素の蒸発潜熱で行うプロセスにおいては、反応器内のパウダー層部分に設置された温度計により重合中のパウダー温度(「重合温度」とも言う)を計測し、設定(重合)温度となるように、槽内上部より散布される液化炭化水素の量を調節する。しかしながら、例えば、パウダー層内で局所的な攪拌不良や局所的に(液化炭化水素や飽和炭化水素による)濡れが生じると、温度計により計測される温度が不安定となり(温度の振れ幅が増大)、さらには除熱目的で供給される液化炭化水素の量も追随して変動するため、温度の振れ幅(バラつき)は更に増大する。温度のバラつきとは、パウダー温度(重合温度)に対する温度の振れ幅を意味する。
また、重合圧力は大気圧以上、好ましくは600kPa以上、更に好ましくは1000kPa以上、特に好ましくは1600kPa以上であり、好ましくは4200kPa以下、更に好ましくは3500kPa以下、特に好ましくは3000kPa以下を例示できる。ただし、重合圧力は重合温度におけるプロピレンの蒸圧力より低く設定するべきではない。
滞留時間は重合槽の構成や製品インデックスに合わせて任意に調整する事が出来る。一般的には、30分から10時間の範囲内で設定される。
【0058】
固体触媒成分と有機アルミニウム化合物との使用率は成分(A)中に実質的に含まれるTiグラム原子数を基準にして、Al/Ti=1〜500(原子比)、好ましくは10〜300(原子比)である。
【0059】
また、必要に応じて用いる電子供与体の使用率は、使用する電子供与体の種類によるが、電子供与体が有機ケイ素化合物の場合、有機ケイ素化合物と有機アルミニウム化合物の使用率がAl/Si=0.5(モル比)以上、好ましくは1以上(モル比)であり、20(モル比)以下、好ましくは15(モル比)以下、更に好ましくは10(モル比)以下である。Al/Siモル比が高い場合、製品の剛性を低下させる。また、Al/Siモル比が過小の場合は、触媒活性を著しく低下させるため実用的でない。
【0060】
第1段階重合においては、水素などの分子量調節剤を用いて重合体のメルトフローレート(MFR)を制御することができる。本発明のプロピレン系ブロック共重合体のホモ部のMFRは、通常、50以上、好ましくは80以上、さらに好ましくは100以上、より好ましくは140以上であり、1000以下、好ましくは500以下、さらに好ましくは400以下である。MFRが過小な場合は、ポリマーの流動性が著しく低下し成形性が低下し、また過大な場合は、成形品の引張り特性などが低下する。
【0061】
第1重合工程の反応器での未反応ガスの一部は、反応器上部から取り出され、凝縮機でその一部または全部を凝縮させる。凝縮され液化したオレフィンは再び第1反応器へ戻され、重合熱の除去に供される。本発明においては、炭素数3乃至5の飽和炭化水素を、反応器から未反応ガスの一部を取り出す取り出し口からガス凝縮機の入り口までの間の未反応ガス抜出し配管部に添加することが必須である。添加位置は、反応器出口から凝縮機入り口の間であれば特に限定しないが、凝縮機入り口に近い方が望ましい。凝縮機入り口から遠いほど、配管内で飽和炭化水素が凝縮してしまい、微粉粒子等の付着を招く。
また、直接飽和炭化水素を反応器へ添加した場合は、添加された部分で一部濡れた状態を作るため、重合温度の制御性が著しく低下する。また、濡れ部分の形勢は塊の発生や反応器壁面および攪拌翼付着の原因となる。本発明での飽和炭化水素の添加位置は、凝縮機での凝縮を促進させるばかりでなく、添加された飽和炭化水素が多量の原料プロピレン液で希釈されて反応器へ供給されるため、直接、飽和炭化水素を反応器へ添加した場合に比べ、重合温度の制御性を低下させることはなく、更に塊の発生や反応器壁面および攪拌翼付着を起こし難い特徴を有する。
【0062】
使用される炭素数3乃至5の飽和炭化水素の代表的な例としては、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、シクロペンタンなどをあげることができ、好ましくはプロパン、ブタン、イソブタンである。より好ましくは、反応ガスの露点の調節がし易さ、生成パウダーからの飽和炭化水素の除去のし易さ、およびプロピレン回収系におけるプロピレンと飽和炭化水素の分離がし易さから、ブタンまたはイソブタンであり、更に好ましくは入手のし易さからイソブタンである。
【0063】
第1重合工程の凝縮機入り口に添加される飽和炭化水素の添加量は、重合パウダーの温度と反応槽気相部の露点との差が7℃以上となるように調整する。反応器内のパウダーの温度と、反応器内に添加される該飽和炭化水素を含む反応ガスの露点との温度差を7℃以上とするには、添加される飽和炭化水素の添加量を調整すればよい。具体的には、添加される飽和炭化水素の濃度を調整すればよく、一般的に飽和炭化水素の濃度が高いと露点が上がり、濃度が低いと露点が下がるため、その時点での重合温度により、適宜調節すればよい。なお、本発明において、飽和炭化水素濃度とは、反応器気相部に対する飽和炭化水素濃度のことをいう。
パウダー温度と露点との温度差が7℃未満となった場合、重合温度の制御性が著しく低下する。これは、除熱に供される液状の飽和炭化水素と液状の原料プロピレンとの蒸発速度の違いに起因するものと考えられる。好ましくは10℃以上の温度差をつける。重合パウダーの温度と反応槽気相部の露点との差の上限は、特に規定はしないが、25℃以下、より好ましくは20℃以下である。重合パウダーの温度と反応層気相部の露点との差が大きいと、凝縮機の凝縮能力が低下し、プロピレン系ブロック共重合体の生産速度が大きく低下する。
【0064】
第1重合工程の凝縮帯域で凝縮されなかった、飽和炭化水素を含む原料プロピレンガスは、反応器下部より再び循環される。
本発明において、反応槽内を攪拌した状態で、最小流動化速度以下、好ましくはその0.01ないし0.9倍の槽内空塔速度になるように、反応器下部より供給される循環ガスおよび反応器上部より供給される液化飽和炭化水素を含む液化プロピレンを調節する。
本発明における最小流動化速度とは、粒子層にガスを供給した時に固定層から流動層に変わるガス流速、すなわち粒子が流動化し始める最小ガス流速を言う。また、槽内空塔速度とは、リアクター内気相部のガス流速であり、循環ガス量と重合熱除去により液状から気体へ変化したガス量をリアクターの断面積で割った値を用いる。
最小流動化速度の1.0倍を超える槽内空塔速度では、凝縮帯域へのエントレインメントが増加し、運転操作上好ましくない結果をもたらす。重合粒子の特性により異なるが、通常の重合体粒子の場合には、通常、槽内空塔速度は0.1ないし10cm/秒である。
【0065】
(3)第2重合工程
第2重合工程(第2段重合槽)の重合は、プロピレンとα−オレフィンとの混合物を一つ以上の重合槽で重合させて、ゴム状重合体を製造する工程である。α−オレフィンとしては、エチレンが好ましい。この第2段階重合ではプロピレン/α−オレフィンの重合比(重量比)が85/15〜20/80、好ましくは80/20〜20/80、より好ましくは75/25〜25/75、特に好ましくは70/30〜30/70の割合であるプロピレンのゴム状重合体を製造する。ただし、この工程での重合量は、全重合量の15重量%以上、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは25重量%以上であり、80重量%以下、好ましくは75重量%以下、更に好ましくは50重量%以下である。ゴム状重合体が過小な場合は、十分な衝撃強度が得られず、また過大な場合は、プロピレン系ブロック共重合体のパウダー流動性が著しく悪化し、系内への付着が発生する。第2段階重合では、他のコモノマーを共存させてもよい。
【0066】
例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンを用いることができる。第2重合工程の重合温度は30℃以上、好ましくは50℃以上であり、110℃以下、好ましくは90℃以下である。重合圧力は0.1〜5MPaGの範囲が通常用いられる。第1重合工程から第2重合工程に移る際に、プロピレンガスまたはプロピレン/α−オレフィン混合ガスと水素ガスをパージして次の工程に移ることが好ましい。第2重合工程で、分子量調節剤は、目的に応じて用いても用いなくても良い。
【0067】
第2重合工程においても、第1重合工程と同様、反応ガスの露点調節を目的として炭素数3乃至5の飽和炭化水素を供給しても良い。添加位置は第1重合工程と同様反応器出口から凝縮機入り口の間であれば特に限定しないが、凝縮機入り口に近い方が望ましい。
【0068】
また、第2工程において、第1工程重合槽におけるショートパス粒子を選択的に、かつ効率的に失活させる目的で、電子供与化合物を添加することも出来る。電子供与体化合物の添加箇所は一ヶ所に限定されず、複数箇所から添加しても良い。
【0069】
第2段重合槽(第2重合工程)に添加する電子供与化合物は触媒成分のひとつとして用いられる電子供与体とは異なり、ショートパス粒子を失活させる目的で使用される電子供与体化合物である。電子供与化合物としては、通常は酸素、窒素、リンあるいは硫黄を含有する有機化合物である。
【0070】
具体的には、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、アセタール類、有機酸類、酸無水物類、酸ハライド類、エステル類、エーテル類、アミン類、アミド類、ニトリル類、ホスフィン類、ホスフィルアミド類、チオエーテル類、チオエステル類、Si−O−C結合を含有する有機ケイ素化合物等を挙げることができる。
【0071】
より具体的には、下記1)〜18)の化合物を挙げることができる。
【0072】
1)アルコール類:メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、シクロヘキシルアルコール、オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ドデカノール、オクタデシルアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、クミルアルコール、イソプロピルベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジイソプロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジイソブチル−1,3−プロパンジオール、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、2−イソプロピル−2−s−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−t−ブチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−t−ブチル−2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジシクロペンチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジシクロヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジフェニル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジイソプロピル−1,3−プロパンジオールなどの炭素数1ないし20のアルコール。
【0073】
2)フェノール類:フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、クミルフェノール、ノニルフェノール、ナフトールなどのアルキル基を有してよい炭素数6ないし25のフェノール。
【0074】
3)ケトン類:アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ベンゾキノンなどの炭素数1ないし20のケトン。
【0075】
4)アルデヒド類:アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、オクチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、ナフトアルデヒドなど炭素数2ないし15のアルデヒド。
【0076】
5)アセタール類:ジメチルジメトキシメタン、1,1−ジメトキシシクロヘキサン、1,1−ジメトキシシクロペンタンなど炭素数3ないし24のアセタール。
【0077】
6)有機酸類:ギ酸、酢酸、プロピオン酸、吉草酸、カプリル酸、ピバル酸、アクリル酸、メタクリル酸、モノクロロ酢酸、安息香酸、マレイン酸、フタル酸などのカルボキシル基を二つ以上有してよい炭素数1ないし20のカルボン酸。
【0078】
7)酸無水物類:分子内縮合物、異種分子間縮合物を含む、前記有機酸類から誘導される酸無水物。
【0079】
8)酸ハライド類:前記有機酸類の水酸基を塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子で置換した酸ハライド。
【0080】
9)エステル類:ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸プロピル、酢酸オクチル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、クロル酢酸メチル、メタクリル酸メチル、マレイン酸ジメチル、安息香酸メチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、炭酸メチル、炭酸エチルなど、前記アルコール類と酸類から誘導されるエステル。
【0081】
10)エーテル類:ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、アニソール、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニル−n−ブチルエーテル、1,1−ジメトキシエタン、o−ジメトキシベンゼン、2,2−ジメチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−s−ブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−t−ブチル−2−メチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−t−ブチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジフェニル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジメチル−1,3−ジエトキシプロパン、2,2−ジイソプロピル−1,3−ジエトキシプロパンなどの、前記アルコールまたはフェノールから誘導されるエーテル。
【0082】
11)アミン類:メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピペリジン、トリベンジルアミン、アニリン、ピリジン、ピコリン、テトラメチルエチレンジアミンなどの炭素数1ないし21のアミン。
【0083】
12)アミド類:酢酸アミド、安息香酸アミド、トルイル酸アミドなどの、前記有機酸類及び前記アミン類から誘導されるアミド。
【0084】
13)ニトリル類:アセトニトリル、ベンゾニトリル、トルニトリルなどの炭素数2ないし10のニトリル。
【0085】
14)ホスフィン類:トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン。
【0086】
15)ホスフィルアミド類:ヘキサメチルホスフィルトリアミドなどのホスフィルアミド。
【0087】
16)チオエーテル類:前記エーテル類の酸素原子を硫黄原子に置換したチオエーテル。
【0088】
17)チオエステル類:前記エステル類の酸素原子を硫黄原子に置換したチオエステル。
【0089】
18)Si−O−C結合を含有する有機ケイ素化合物:テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジエトキシラン、ジフェニルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、γ―クロロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、γ―アミノプロピルトリエトキシシラン、クロルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、トリメチルフェノキシシラン、メチルトリアリロキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、ジメチルテトラエトキシジシロキサンなどの有機ケイ素化合物。これらのうち好ましいのはアルコール類、ケトン類、エステル類であり、特に好ましいのはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、酢酸メチルである。
【0090】
これらの電子供与化合物は、必要に応じて2種類以上を併用しても良いし、異なった位置に、それぞれ別の化合物を添加してもよい。また、特開平4−146912号公報等に記載されているような活性抑制剤を使用しても良い。活性抑制剤としては標準状態で気体である、一酸化炭素、二酸化炭素、酸素、硫化カルボニル、アンモニアなどが挙げられる。
【0091】
図2に本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法において、横型反応槽を第1重合工程と第2重合工程に各1台、計2台使用した場合の好ましい態様のプロセスフローを例示する。
【0092】
3.プロピレン系ブロック共重合体の特性
本発明の製造方法により得られるプロピレン系ブロック共重合体は、高流動性で、かつ高衝撃強度を有するという特性を持つ。そのため、主として射出成形分野で用いられ、特に自動車用材料に好適である。
特に、第1重合工程でのMFRが100g/分以上であることが、流動性の理由から好ましい。第1重合工程でのMFRが100g/分以下であると、プロピレン系ブロック共重合体の流動性が低下するため、好ましくない。
【実施例】
【0093】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
【0094】
1.各種測定法
(1)MFR(単位:g/10分):JIS−K6921の方法に従い、230℃、21.18Nの条件で測定した。
(2)分子量分布:135℃のオルトジクロルベンゼンに溶解した試料について、GPC装置(Gel Permination Chromatograph、150C型、ウォーターズ社製、使用カラム;TSK GEL GMH6−HT)を用いて測定した。
(3)α−オレフィン含有率(重量%):赤外線吸収スペクトル法により測定した。
(4)製品パウダー中の塊(重量%):プロピレン系ブロック共重合体のパウダーを約200gサンプリングし、目開き4750μmの篩にて塊を分離し、その割合を求めた。
(5)重合温度および温度のバラつき:重合槽内に設置された温度計によりパウダー温度を測定し重合温度とした。また温度のバラつきについては、運転期間中のパウダー温度の振れ幅を計測し重合温度に対する温度のバラつきとした。
(6)飽和炭化水素濃度:反応器内での飽和炭化水素濃度を、反応器気相部に対する濃度として計測した。
【0095】
2.実施例および比較例
(実施例1)
1)固体触媒成分の調製
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)を200g、TiClを1L添加した。温度を90℃に上げて、フタル酸−n−ブチルを50ml導入した。その後、温度を110℃に上げて3hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiClを1L添加し、温度を110℃に上げて2hr反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。更に、精製したn−ヘプタンを用いて、トルエンをn−ヘプタンで置換し、固体触媒成分のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体触媒成分のTi含量は2.7wt%、Mg含有量は16.3wt%であった。また、固体触媒成分の平均粒径は33μmであった。
【0096】
2)ポリオレフィン重合触媒成分の予備重合処理
内容積20リットルの傾斜羽根付きステンレス製反応器を窒素ガスで置換した後、ヘキサン17.7リットル、トリエチルアルミニウム135.8mmol、ジイソプロピルジメトキシシラン20.4mmol、前項で調整したポリオレフィン重合触媒(固体触媒成分)120.4gを室温で加えた後、30℃まで加温した。次いで、攪拌しながらプロピレン240.8gを3時間かけて供給し、予備活性化処理を行った。分析の結果、オレフィン重合触媒1g当たりプロピレン1.9gが反応していた。
【0097】
3)第1重合工程
図3に示したフローシートによって説明する。攪拌羽根を有する横形反応器(L/D=3.7、内容積100リットル)に上記予備活性化処理したオレフィン重合触媒を0.69g/hr、有機アルミ化合物としてトリエチルアルミニウムおよび有機ケイ素化合物としてジイソプロピルジメトキシシランを、Al/Mgモル比が6、Al/Siモル比が6となるよう連続的に供給した。反応温度59℃、反応圧力2.15MPa、攪拌速度35rpmの条件を維持しながら、反応器内の気相中の水素濃度を表1に示した水素/プロピレンモル比に維持するように、水素ガスを循環配管4より連続的に供給して、第1段重合体のMFRを調節した。
【0098】
反応熱は配管15から供給する原料液化プロピレンの気化熱により除去した。反応器から排出される未反応ガスは配管12を通して反応器系外で冷却、凝縮させて配管15にて反応器10に還流した。飽和炭化水素としてイソブタンを配管17aより、反応器10内の気相部において7mol%の濃度となるように供給した。即ち、イソブタンは凝縮機11の手前、反応系から取り出された未反応ガスの一部を凝縮させる帯域の入り口へ配管17aから配管12を通して供給された。この時の反応器内の露点は50.8℃であり、重合温度との差は8.2℃であった。
生成した第1段重合の重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の50容量%となる様に配管31を通して反応器10から連続的に抜き出し、第2重合工程の反応器20に供給した。この時、配管31から重合体の一部を間欠的に採取して、MFR、分子量分布および触媒単位重量当たりの重合体収量を測定する試料とした。触媒単位重量当たりの重合体収量は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP法)により測定した重合体中のMg含有量から算出した。
【0099】
4)第2重合工程
攪拌羽根を有する横形反応器20(L/D=3.7、内容積100リットル)に第1段重合槽からのプロピレン重合体、および配管6よりエチレン−プロピレン混合ガスを連続的に供給し、エチレンとプロピレンの共重合を行った。反応条件は攪拌速度25rpm、温度55℃、圧力2.1MPaであり、気相のガス組成を表1に示すエチレン/プロピレンモル比および水素/エチレンモル比に調整した。プロピレン−エチレン共重合体の重合量を調節するための重合活性抑制剤として酸素、およびエチレン/プロピレン共重合体の分子量を調節するための水素ガスを配管7および6よりそれぞれ供給した。
【0100】
反応熱は配管25から供給される原料液化プロピレンの気化熱で除去した。反応器から排出される未反応ガスは配管22を通して反応器系外で冷却、凝縮させて反応器20に還流させた。
第2重合工程で生成したプロピレン系ブロック共重合体組成物は、重合体の保有レベルが反応容積の50容量%となる様に配管33を通して反応器20から連続的に抜き出した。
プロピレン系ブロック共重合体組成物の生産速度は11.2kg/hrであった。
【0101】
抜き出されたプロピレン系ブロック共重合体組成物は未反応モノマーを除去し、一部はMFRの測定、および赤外線吸収スペクトル分析によるエチレン含有量の測定、ICP法による重合体中のMg含量の測定による共重合体の生成量およびパウダー中の塊量の測定に供した。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例2)
第1重合工程での反応器内のイソブタン濃度を5.8mol%、水素/プロピレン比を0.5として重合温度と露点との差を12.7℃とし、第2重合工程でのエチレン量を46.6wt%、第2重合工程の反応比率を34wt%とした以外は実施例1に準拠して実施した。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例3)
第1重合工程での反応器内のイソブタン濃度を10.1mol%、重合温度を65℃として重合温度と露点との差を10.5℃とした以外は実施例1に準拠して実施した。結果を表1に示す。
【0104】
(比較例1)
第1重合工程にてイソブタンを供給しない以外は実施例1に準拠して実施した。結果を表1に示す。
【0105】
(比較例2)
第1重合工程にてイソブタンを供給しない以外は実施例2に準拠して実施した。結果を表1に示す。
【0106】
(比較例3)
第1重合工程での反応器内のイソブタン濃度を10.1mol%として重合温度と露点との差を3.5℃とした以外は実施例1に準拠して実施した。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例4)
第1重合工程でのイソブタンを配管17bから供給した以外は実施例1に準拠して実施した。結果を表1に示す。
【0108】
【表1】

【0109】
3.評価
表1から明らかなように、実施例1〜3は比較例1〜4と比較して、本発明の製造方法の特定事項である、「炭素数3乃至5の飽和炭化水素を、反応器から未反応ガスの一部を取り出す未反応ガス抜出し配管の、反応器取り出し口からガス凝縮機入り口までの間に、反応器内のパウダーの温度と、反応器内に供給される該飽和炭化水素を含む反応ガスの露点との温度差が7℃以上となるように添加する」との要件を満たさない方法である比較例で得られたものは、生産レートが低下、加えて第1重合工程でのプロピレン重合体の分子量分布が広く、加えて多量の塊を発生させるプロピレン系ブロック共重合体の製造方法であるのに比べて、本発明の製造方法の実施例によるポリプロピレン系ブロック共重合体の製造方法は、プロピレン系ブロック共重合体の生産速度を大きく低下させることなく、加えて第1重合工程でのプロピレン重合体の分子量分布が狭く、加えて塊の発生が少ないプロピレン系ブロック共重合体の製造方法である事が分かる。
【0110】
具体的には実施例1、2と比較例1、2の比較において、飽和炭化水素を第1重合工程で供給した場合、プロピレン系ブロック共重合体の生産レートが低下せず、かつ塊の発生量が少ないことが分かる。これは、第1重合工程における凝縮機の能力が低下せず、かつ第1重合工程での重合において飽和炭化水素の存在によりプロピレンの分圧が低下し、そのため第1重合工程における触媒の活性が抑制されたまま第2重合工程へ供給されるため、十分な活性抑制剤が供給されることとなり、これにより第2重合工程での急激な反応が抑制されたためである。
比較例3と実施例1では、いずれも飽和炭化水素を供給した例であるが、重合温度と露点との差が異なる。重合温度と露点との差が小さくなると、重合温度の制御性が著しく低下して、プロピレン重合体の分子量分布が拡大することが分かる。
比較例4と実施例3では、飽和炭化水素の供給位置が異なる。直接反応器へ飽和炭化水素を供給した場合、たとえ重合温度と露点との差が大きくても、温度の制御性が低下し、プロピレン重合体の分子量分布が拡大することが分かる。
【0111】
以上から、本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法において、その特徴点である、少なくとも第1重合工程において、炭素数3乃至5の飽和炭化水素を、反応器から未反応ガスの一部を取り出す未反応ガス抜出し配管の、反応器取り出し口からガス凝縮機入り口までの間に、反応器内のパウダーの温度と、反応器内に供給される該飽和炭化水素を含む反応ガスの露点との温度差が7℃以上となるように添加することは、生産速度を低下させることなく、かつ塊等の異常粒子の発生を抑制して、高流動のプロピレン系ブロック共重合体を製造するという点で、大きな技術的意義を持つことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の製造方法によれば、生産速度を低下させることなく、かつ塊等の異常粒子の発生を抑制して、高流動のプロピレン系ブロック共重合体を得られることから、外観の優れた射出成形品を得ることが可能である。加えて、生産速度が低下せず、パウダー中の塊量も少ないことから、安価で、かつ品質的に安定したプロピレン系ブロック共重合体の供給が可能となる。そのため、本発明の産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】図1は、本発明の横型反応器を用いた製造方法に用いる装置の配置の一例を表す概略図である。
【図2】図2は、本発明の横型反応器を用いた製造方法に用いる装置の配置の好ましい例を表す概略図である。
【図3】図3は、本発明の実施例及び比較例で用いた横型反応器を用いた製造方法のフローシートを表す概略図である。
【符号の説明】
【0114】
1、2:触媒成分供給配管
3、5:原料プロピレン補給配管
4、6:原料補給配管(水素など)
7:活性抑制剤添加用配管
10:反応器(第1重合工程)
11、21:気液分離槽
12、22:未反応ガス抜出し配管
13、23:凝縮機
14、24:圧縮機
15、25:原料液化プロピレン補給配管
16、26:原料混合ガス供給配管
17、27:飽和炭化水素供給配管
20:反応器(第2重合工程)
30:脱ガス槽
31、33:重合体抜出し配管
32:重合体供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に撹拌機を有する反応器を用いて、重合熱の除去を主に液化させた炭化水素の蒸発潜熱で行い、槽内空塔速度を最小流動化速度以下に保ちながら気相法により二段工程でプロピレン系ブロック共重合体を連続的に製造する方法であって、
第1重合工程において、チタン、マグネシウム、ハロゲン及び電子供与体を必須成分とする固体触媒成分と有機アルミニウム化合物とを含む触媒の存在下に、プロピレンまたはプロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを重合させて、2.16kg荷重下、230℃におけるMFRが50以上であるプロピレンの単独重合体、またはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体を製造し、引き続き、第2重合工程において、第1重合工程で得られた重合反応混合物の存在下に、プロピレンとエチレンを含む他のα−オレフィンとを供給してプロピレンと他のαオレフィンとを共重合させてプロピレン系ブロック共重合体を製造し、
その際、第1重合工程または第1重合工程および第2重合工程において、炭素数3乃至5の飽和炭化水素を、反応器から未反応ガスの一部を取り出す未反応ガス抜出し配管における、反応器取り出し口からガス凝縮機入り口までの間の任意の位置に、反応器内のパウダーの温度と、反応器内に供給される該飽和炭化水素を含む反応ガスの露点との温度差が7℃以上となるに十分な添加量だけ添加することを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体の気相連続製造方法。
【請求項2】
前記飽和炭化水素が、未反応ガス抜出し配管のガス凝縮機の入り口付近に添加されることを特徴とする請求項1記載のプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法。
【請求項3】
前記温度差が、10℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法。
【請求項4】
第1重合工程で製造されるプロピレンの単独重合体またはプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体の2.16kg荷重下、230℃におけるMFRが、100以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法。
【請求項5】
第1重合工程と第2重合工程の重合比が、85/15乃至20/80であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法。
【請求項6】
前記反応器内のパウダーの温度が、設定温度に対し、±1℃以内で制御されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法。
【請求項7】
前記飽和炭化水素が、ブタンまたはイソブタンである請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法。
【請求項8】
前記反応器が、内部に水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応器であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のプロピレン系ブロック共重合体の連続気相製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−70584(P2010−70584A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−236189(P2008−236189)
【出願日】平成20年9月16日(2008.9.16)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】