説明

プロピレン系重合体組成物、その製造方法及びそれを用いた発泡成形体

【課題】発泡成形に好適な溶融特性を有するプロピレン系重合体組成物、その製造方法及びそれを用いた発泡成形体を提供する。
【解決手段】上記プロピレン系重合体組成物を、太さが0.2ミクロン以下の繊維状物を含有し、かつ繊維状物が長さ10ミクロンの間に少なくとも1個の枝分かれ点を有するものとする。上記繊維状物は、エチレン系重合体(E)より構成され、その極限粘度が15dl/g以上であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系重合体組成物とその発泡成形体に関する。更に詳しくは、発泡成形に好適な溶融特性を有するプロピレン系重合体組成物、その工業的な製造方法及びそれを用いてなる、発泡特性に優れ、かつ外観の良好である発泡成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂は、機械的性質、耐薬品性等に優れ、また経済性とのバランスにおいて極めて有用なため各成形分野に広く用いられている。しかしながら、ポリプロピレン樹脂は、結晶性であるために溶融時の粘度及び溶融張力が小さい。これらのために、中空成形、押出成形、押出発泡成形、射出発泡成形等の発泡性、成形性が十分満足できるものではないのが実状である。
【0003】
ポリプロピレン樹脂から発泡体を製造する方法として、発泡剤を含有したポリプロピレン樹脂を溶融し、あるいは溶融したポリプロピレン樹脂にガスを注入し、その後、押出成形して発泡シートを成形する押出発泡成形、また射出成形型内へ射出すると同時に発泡させる射出発泡成形方法が多く行なわれている。
【0004】
発泡シートは、例えば、押出機により溶融させたポリオレフィン系樹脂に各種発泡剤を加圧下にて混練した押出機先端に取り付けられたダイスより大気圧下に押出発泡することにより得られる。しかしながら、従来の発泡シートでは、生じるガス分圧を有する個々の気泡(以下、セルと言う場合もある。)を、溶融樹脂中に保持させておくことが困難であり、個々のセルが破裂して連続気泡を生じやすくなるという問題があった。具体的には、容器成型の場合は、発泡シートを再度加熱し半溶融状態で、金型にて賦型するが、その再加熱時に、連続気泡が多いと、気泡が再度膨張し、破泡し、容器の表面に凹凸が発生したり、穴あきが発生したりする。また、超音波シールの場合は、均一な超音波の伝播が行われず、接着強度が発現しなくなるという問題が生じる。
【0005】
そこで、連続気泡が少ない(独立気泡性に優れた)、発泡性の改良された発泡シートを得る方法として、ポリプロピレン樹脂の溶融張力を高くしてセルの保持力を高める様々な手法が提案されている。
例えば、溶融状態下において、ポリプロピレンに有機過酸化物と架橋助剤を反応させる方法(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)、ポリプロピレンに架橋助剤として有機過酸化物を反応させる方法(例えば、特許文献3参照。)、半結晶性ポリプロピレンに分解温度の低い過酸化物を酸素非存在下で反応させて、自由端長鎖分岐を有しゲルを含まないポリプロピレンを製造する方法(例えば、特許文献4参照。)などがある。
しかしながら、一般に、これらの方法では溶融張力の向上は認められるものの、有機過酸化物や架橋助剤により臭気が残留する問題や、リサイクル加工しようとすればその工程でMFRが上昇するため、それによって熱安定性が低下するなどの点で改善すべき問題を有していた。また、このような方法は、ポリプロピレンの生産効率の点でも十分満足できるものではなかった。
【0006】
溶融張力等の溶融粘弾性を向上させる他の方法としては、ポリプロピレンと、これとは極限粘度もしくは分子量の異なるポリエチレン若しくはポリプロピレンとを含む組成物を、配合或いは多段階重合によって製造する方法が提案されている。例えば、超高分子量ポリプロピレン2〜30重量部を通常のポリプロピレン100重量部に添加し、融点以上210℃以下の温度範囲で押し出す方法(例えば、特許文献5参照。)が知られている。しかしながら、このような組成物では、要求される所望の溶融張力を十分満足するまでには至っておらず、また、超高分子量ポリプロピレンを別途調製する必要等のため、生産性も低下せざるを得なかった。
【0007】
これらの方法以外に、担持型チタン含有固体触媒成分および有機アルミニウム化合物触媒成分にポリエチレンとポリエン化合物が予備重合されてなる予備重合触媒を用いてプロピレンを重合することにより、高溶融張力を有するポリプロピレンを製造する方法(例えば、特許文献6参照。)や、同様の触媒成分を用いて予備重合をエチレンの単独で行って得られる極限粘度が20dl/g以上のポリエチレン含有予備重合触媒を用いて高溶融張力を有するエチレン・αオレフィン共重合体を製造する方法(例えば、特許文献7参照。)等が知られている。しかし、これらの方法では、第3成分としてポリエン化合物を新たに準備する必要が生じ、最終的に得られるポリオレフィン重合体への予備重合されたポリエチレン等の分散性が不均一になる結果、ポリオレフィン重合体の品質が不安定になりやすいなどの問題があった。また、高分子領域に分岐ポリマーを使用することで、押出成形により発泡体が得られることも知られているが、自由末端長鎖分岐を有するため空気酸化による影響を受けやすく、リサイクル性に問題がある(例えば、特許文献特許文献8及び9参照。)。
【0008】
さらに、超高分子量成分を添加して溶融張力を高める方法が提案されている(例えば、特許文献10参照。)が、一般に溶融張力の高い樹脂を用いると、セルの保持力は上昇するものの、粘度が高すぎて、添加する発泡剤の量に見合った発泡倍率が得られず、また、押出機での負荷が大きくなり、高生産性を維持しようとする場合には押出機にかかる負荷が増大し、押出成形性が低下する、更にはせん断発熱により樹脂の温度があがってしまい、セルの成長が冷却により抑制できず、連続気泡となってしまうという問題があった。
このように、従来のポリプロピレン樹脂では、種々の方法で発泡はさせうるものの、賦形時に破泡するなどして発泡体としての性能を低下させるなど、溶融特性に優れ、且つ、独立気泡性や押出成形性に優れるといった充分な性能は得られず、更なる改良技術の開発が望まれている。
【0009】
【特許文献1】特開昭59−93711号公報
【特許文献2】特開昭61−152754号公報
【特許文献3】特開2002−206034号公報
【特許文献4】特開平2−298536号公報
【特許文献5】特公昭61−28694号公報
【特許文献6】特開平5−222122号公報
【特許文献7】特開平4−55410号公報
【特許文献8】特開平8−67759号公報
【特許文献9】特開平9−249763号公報
【特許文献10】WO97/14725
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、発泡成形に好適な溶融特性を有するプロピレン系重合体組成物、その工業的な製造方法及びそれを用いてなる、発泡特性に優れ、かつ外観の良好である発泡成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、プロピレン系重合体組成物において、組成物中に特定の繊維状物の形成されたものが発泡成形に好適な溶融特性を有すること、また、この繊維状物は、プロピレン系重合体を製造する重合(本重合)に先立って、特定の条件下でエチレンを予備重合することで発現することを見出し、これらの知見に基づいて本発明をなすに到った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、プロピレン系重合体と、太さが0.2ミクロン以下の繊維状物とを含有し、かつ繊維状物が10ミクロンの長さの間に少なくとも1個の枝分かれ点を有することを特徴とするプロピレン系重合体組成物が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、繊維状物がエチレン系重合体(E)より構成され、その極限粘度が15dl/g以上であることを特徴とするプロピレン系重合体組成物が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、下記の工程(Ep)に引き続き、工程(Pp)を行うことを特徴とする第1または2の発明のプロピレン系重合体組成物の製造方法が提供される。
工程(Ep):
(I)チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分とする固体成分と(II)有機アルミニウム化合物と(III)電子供与体とから形成されてなるオレフィン重合用触媒の存在下に、−40〜40℃の範囲で、0.1〜5MPaの圧力となるように徐々に昇圧しながら、エチレンを重合するか或いはエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合して固体成分(I)1gに対して0.01〜2000gのエチレン系重合体(E)を製造する予備活性化工程。
工程(Pp):
工程(Ep)で得られたエチレン系重合体(E)を含むオレフィン重合用触媒の存在下に、プロピレンを重合するか或いはプロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合してプロピレン系重合体を製造する工程。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば、第3の発明において、前記工程(Ep)において、0.1MPa以下の低圧状態から反応を開始し、0.04〜0.2MPa/hの速度で徐々に昇圧することを特徴とするプロピレン系重合体組成物の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第5の発明によれば、第3または4の発明において、工程(Ep)に先立って、下記の工程(Ap)を行うことを特徴とするプロピレン系重合体組成物の製造方法が提供される。
工程(Ap):(I)チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分とする固体成分と(II)有機アルミニウム化合物と(III)電子供与体とから形成されてなるオレフィン重合用触媒の存在下に、プロピレンを重合して、固体成分(I)1gに対して0.01〜100gのポリプロピレンを製造する予備重合工程。
【0017】
また、本発明の第6の発明によれば、第3〜5のいずれかの発明において、プロピレン系重合体100重量部に対する工程Epで得られたエチレン系重合体の割合が0.2〜5.0重量部であることを特徴とするプロピレン系重合体組成物の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第7の発明によれば、第1または2の発明のプロピレン系重合体組成物を用いて発泡成形させてなる発泡成形体が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明のプロピレン系重合体組成物によれば、溶融特性及び発泡性能に優れるという顕著な効果が奏される。
本発明のプロピレン系重合体組成物は、ブロー成形、中空成形、押出発泡成形、射出発泡成形等に用いられるが、特に発泡シートに代表される押出発泡成形用途に好適に用いることができる。
また、本発明のプロピレン系重合体組成物は、自由末端長鎖分岐を有しないためリサイクル性に優れるという利点がある。
本発明のプロピレン系重合体組成物を用いてなる発泡成形体は、発泡倍率、二次発泡倍率、独立気泡率等の発泡特性に優れ、かつ外観が良好であり、プロピレン系重合体の高い品質が維持されており、生鮮食品や加工食品用の包装材、特にカップラーメンやアイスクリーム等用の容器、魚、肉等用のトレー等や、自動車用部品、例えばドアトリム、インストルメントパネル等の自動車内装部品、サイドプロテクトモール、バンパー、ソフトフェイシア、マッドガード等の自動車外装部品として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を、以下、プロピレン系重合体組成物の成分構成等、その工業的な製造方法、およびこのプロピレン系重合体組成物を用いて発泡成形させてなる発泡成形体について、詳細に説明する。
【0021】
1.プロピレン系重合体組成物
本発明のプロピレン系重合体組成物は、プロピレン系重合体と太さが0.2ミクロン以下、中でも0.02〜0.2ミクロンの繊維状物とを含有し、かつ繊維状物が10ミクロンの長さの間に少なくとも1個の枝分かれ点を有するもの、或いはさらにエチレン系重合体を含有するものである。
【0022】
2.プロピレン系重合体組成物の製造方法
本発明のプロピレン系重合体組成物は、高分子量成分を有するエチレン系重合体の存在下にプロピレン系重合体を重合反応により生成させるという反応器内混合操作によって製造することができる。
以下、この本発明方法において用いられるオレフィン重合用触媒、本発明方法の各製造工程等について詳述する。
(2−1)オレフィン重合用触媒
本発明において使用されるオレフィン重合用触媒は、(I)チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分とする固体成分と、(II)有機アルミニウム化合物と、(III)電子供与体とから形成されてなるものである。このオレフィン重合用触媒を形成する各成分について、以下に詳説する。
【0023】
(I)チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分とする固体成分
本発明において、(I)チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分とする固体成分(以下、「チタン含有固体成分」ともいう。)としては、チタン(I−1)、マグネシウム(I−2)、ハロゲン(I−3)を必須成分として含有し、任意成分として電子供与体(I−4)を用いることができる。ここで、「必須成分として含有する」ということは、挙示の三成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で任意の成分を任意の形態で含んでもよいということを示すものである。チタン、マグネシウム、ハロゲンを必須成分として含有する固体成分自体は公知のものであり、以下に詳述する。
【0024】
(I−1)チタン
チタン源となるチタン化合物としては、任意のものを用いることができる。代表的な例としては特開平3−234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。チタンの価数に関しては、4価、3価、2価、0価の任意の価数を持つチタン化合物を用いることができるが、好ましくは4価および3価のチタン化合物、更に好ましくは4価のチタン化合物を用いることが望ましい。
【0025】
4価のチタン化合物の具体例としては、四塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類、テトラブトキシチタンに代表されるアルコキシチタン化合物類、テトラブトキシチタンダイマー(BuO)Ti−O−Ti(OBu)に代表されるTi−O−Ti結合を有するアルコキシチタンの縮合化合物類、ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロライドに代表される有機金属チタン化合物類、などを挙げることができる。
【0026】
好ましい4価のチタン化合物としては、一般式Ti(OR)4−p(ここで、Rは炭化水素基、好ましくは炭素数1〜10程度のものであり、Xはハロゲンを示し、pは0≦p≦4である。)で表される化合物が挙げられる。中でもハロゲンを含む4価のチタン化合物がより好ましい。
【0027】
ハロゲンを含む4価のチタン化合物の具体例としては、TiCl、TiBr、Ti(OC2H)Cl、Ti(OCCl、Ti(OCCl、Ti(O−nCCl、Ti(O−nCCl、Ti(OC)Cl、Ti(O−iCCl、Ti(O−nC、Ti(O−iC、Ti(O−nC13、Ti(O−nC17などが挙げられる。
【0028】
また、TiX’(ここで、X’はハロゲンを示す。)に後述する電子供与体を反応させた分子化合物をチタン源として用いることもできる。そのような分子化合物の具体例としては、TiCl・CHCOC、TiCl・CHCO、TiCl・CNO、TiCl・CHCOCl、TiCl・CCOCl、TiCl・CCO、TiCl・ClCOC、TiCl・COなどが挙げられる。
これらの中で、四塩化チタンとテトラブトキシチタンが特に好ましい。
【0029】
3価のチタン化合物の具体例としては、三塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類を挙げることができる。三塩化チタンは、水素還元型、金属アルミニウム還元型、金属チタン還元型、有機アルミニウム還元型、など、公知の任意の方法で製造された化合物を用いることができる。
上記のチタン化合物類は単独で用いるだけではなく、複数の化合物を併用することも可能である。
【0030】
(I−2)マグネシウム
マグネシウム源となるマグネシウム化合物としては、任意のものを用いることができる。代表的な例としては、特開平3−234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、塩化マグネシウムに代表されるハロゲン化マグネシウム化合物類、ジエトキシマグネシウムに代表されるアルコキシマグネシウム化合物類、金属マグネシウム、酸化マグネシウムに代表されるオキシマグネシウム化合物類、水酸化マグネシウムに代表されるヒドロキシマグネシウム化合物類、ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール化合物類、ブチルエチルマグネシウムに代表される有機金属マグネシウム化合物類、炭酸マグネシウムやステアリン酸マグネシウムに代表される無機酸及び有機酸のマグネシウム塩化合物類、及びそれらの混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Mg(OEt)mCl−m;0<m<2などの化合物)、などを用いることができる。この中で特に好ましいのは、塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウム、金属マグネシウム、ブチルマグネシウムクロライドである。
【0031】
(I−3)ハロゲン
ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、及びそれらの混合物を用いることができる。この中で塩素が特に好ましい。
ハロゲンは上記のチタン化合物類及び/又はマグネシウム化合物から供給されるのが一般的であるが、その他の化合物より供給することもできる。代表的な例としては、四塩化ケイ素に代表されるハロゲン化ケイ素化合物類、塩化アルミニウムに代表されるハロゲン化アルミニウム化合物類、1,2−ジクロロエタンやベンジルクロライドに代表されるハロゲン化有機化合物類、トリクロロボランに代表されるハロゲン化ボラン化合物類、五塩化リンに代表されるハロゲン化リン化合物類、六塩化タングステンに代表されるハロゲン化タングステン化合物類、五塩化モリブデンに代表されるハロゲン化モリブデン化合物類、などを挙げることができる。これらの化合物は単独で用いるだけでなく、併用することも可能である。この中で、四塩化ケイ素が特に好ましい。
【0032】
(I−4)電子供与体
本発明の固体成分(I)には、上記のチタン、マグネシウム、ハロゲンの他、触媒の性能を妨げない範囲で、必要に応じて、電子供与体(内部ドナー)を含むことができる。後述するが、本発明で任意成分として用いられる化合物(I−4)が電子供与体(III)(外部ドナー)と同一であっても異なってもよい。
電子供与体の代表的な例としては、特開2004−124090号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、有機酸及び無機酸並びにそれらの誘導体(エステル、酸無水物、酸ハライド、アミド)化合物類、エーテル化合物類、ケトン化合物類、アルデヒド化合物類、アルコール化合物類、アミン化合物類、などを用いることが望ましい。
【0033】
電子供与体として用いることのできる有機酸化合物としては、フタル酸に代表される芳香族多価カルボン酸化合物類、安息香酸に代表される芳香族カルボン酸化合物類、2−n−ブチル−マロン酸の様な2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸や2−n−ブチル−コハク酸の様な2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸に代表される脂肪族多価カルボン酸化合物類、プロピオン酸に代表される脂肪族カルボン酸化合物類、ベンゼンスルホン酸やメタンスルホン酸に代表される芳香族及び脂肪族のスルホン酸化合物類、などを例示することができる。これらのカルボン酸化合物類及びスルホン酸化合物類は、芳香族・脂肪族に関わらず、マレイン酸のように分子中の任意の場所に任意の数だけ不飽和結合を有してもよい。具体的には、特開2008−120842を用いることができる。
【0034】
これらの電子供与体は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。これらの中で好ましいのは、フタル酸ジブチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチルに代表されるフタル酸エステル化合物類、フタロイルジクロライドに代表されるフタル酸ハライド化合物類、2−n−ブチル−マロン酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸エステル化合物類、2−n−ブチル−コハク酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸エステル化合物類、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパンや2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパンの様な2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3−ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物類、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物類、などである。
【0035】
本発明における固体成分(I)を構成する各成分の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次の範囲内が好ましい。
チタン化合物類の使用量は、使用するマグネシウム化合物類の使用量に対してモル比(チタン化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.0001から1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.01から10の範囲内が望ましい。
ハロゲンの使用量は、マグネシウム化合物類及びチタン化合物類の各々がハロゲンを含むか含まないかに関わらず、使用するマグネシウム化合物類の使用量に対してモル比(ハロゲン源となる化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.01から1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1から100の範囲内が望ましい。 電子供与体を用いる場合の使用量は、使用するマグネシウム化合物の量に対してモル比(電子供与体のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.001から10の範囲内であり、特に好ましくは0.01から5の範囲内が望ましい。
【0036】
本発明における固体成分(I)は、上記の構成する各成分を上記の量比で接触して得られる。各成分の接触条件は、酸素を存在させないことが必要であるものの、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
接触温度は、−50から200℃程度、好ましくは0から100℃である。接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、並びに、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。
【0037】
固体成分(I)の調製の際には、中間及び/又は最後に不活性溶媒で洗浄を行ってもよい。好ましい溶媒種としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素化合物、トルエンなどの芳香族炭化水素化合物、及び、1,2−ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素化合物、などを例示することができる。
【0038】
(II)有機アルミニウム化合物
得られたチタン含有固体成分(I)は、更に有機アルミニウム化合物(II)及び電子供与体(III)と組み合わせて、オレフィン重合用触媒として使用することができる。
有機アルミニウム化合物(II)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。一般的には、下記一般式(1)にて表される化合物を用いることが望ましい。
AlX(OR …(1)
(一般式(1)中、Rは炭化水素基を表す。Xはハロゲン若しくは水素を表す。Rは炭化水素基若しくはAlによる架橋基を表す。a≧1、0≦b≦2、0≦c≦2、a+b+c=3である。)
【0039】
一般式(1)中、Rは炭化水素基であり、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から8、特に好ましくは炭素数1から6のものを用いることが望ましい。Rの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、などを挙げることができる。この中で、メチル基、エチル基、イソブチル基、が最も好ましい。
一般式(1)中、Xはハロゲン若しくは水素である。Xとして用いることのできるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、などを例示することができる。この中で、塩素が特に好ましい。
一般式(1)中、Rは炭化水素基若しくはAlによる架橋基である。また、有機アルミニウム化合物としてメチルアルモキサンに代表されるアルモキサン化合物類を用いることも可能である。
【0040】
有機アルミニウム化合物(II)として用いることのできる化合物の例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムエトキサイド、メチルアルモキサン、などを挙げることができる。中でも、トリエチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムが好ましい。
有機アルミニウム化合物(II)は単独の化合を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0041】
(III)電子供与体
電子供与体(III)として用いることのできる化合物の例としては、たとえば、エーテル類、アルコール類、エステル類、アルデヒド類、脂肪酸類、ケトン類、ニトリル類、アミン類、アミド類、尿素およびチオ尿素類、イソシアネート類、アゾ化合物、ホスフィン類、ホスファイト類、ホスフィナイト類、硫化水素およびチオエーテル類、ネオアルコール類、シラノール類などの分子中に酸素、窒素、硫黄、燐のいずれかの原子を有する有機化合物および分子中にSi−O−C結合を有する有機ケイ素化合物などが挙げられる。
【0042】
エーテル類の具体例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジ−i−アミルエーテル、ジ−n−ペンチルエーテル、ジ−n−ヘキシルエーテル、ジ−i−ヘキシルエーテル、ジ−nオクチルエーテル、ジ−i−オクチルエーテル、ジ−n−ドデシルエーテル、ジフェニルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等が、アルコール類としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、アリルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、グリセリン等が、またフェノール類として、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、ナフトール等が挙げられる。
【0043】
エステル類の具体例としては、メタクリル酸メチル、ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル、酢酸エチル、酢酸ビニル、酢酸−n−プロピル、酢酸−i−プロピル、ギ酸ブチル、酢酸アミル、酢酸−n−ブチル、酢酸オクチル、酢酸フェニル、プロピオン酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸オクチル、安息香酸−2−エチルヘキシル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、アニス酸メチル、アニス酸エチル、アニス酸プロピル、アニス酸フェニル、ケイ皮酸エチル、ナフトエ酸メチル、ナフトエ酸エチル、ナフトエ酸プロピル、ナフトエ酸ブチル、ナフトエ酸−2−エチルヘキシル、フェニル酢酸エチル等のモノカルボン酸エステル類、コハク酸ジエチル、メチルマロン酸ジエチル、ブチルマロン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、ブチルマレイン酸ジエチル等の脂肪族多価カルボン酸エステル類、フタル酸モノメチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−プロピル、フタル酸モノ−n−ブチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジ−i−ブチル、フタル酸ジ−n−ヘプチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジ−n−オクチル、i−フタル酸ジエチル、i−フタル酸ジプロピル、i−フタル酸ジブチル、i−フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジプロピル、テレフタル酸ジブチル、ナフタレンジカルボン酸ジ−i−ブチル等の芳香族多価カルボン酸エステル類が挙げられる。
【0044】
アルデヒド類の具体例としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド等が、カルボン酸類として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、修酸、コハク酸、アクリル酸、マレイン酸、吉草酸、安息香酸などのモノカルボン酸類および無水安息香酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸などの酸無水物が、ケトン類として、アセトン、メチルエチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、ベンゾフェノン等が例示される。
【0045】
窒素含有化合物の具体例としては、アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、メチルアミン、ジエチルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、β(N,N−ジメチルアミノ)エタノール、ピリジン、キノリン、α−ピコリン、2,4,6−トリメチルピリジン、2,2,5,6−テトラメチルピペリジン、2,2,5,5,テトラメチルピロリジン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、アニリン、ジメチルアニリン等のアミン類、ホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N,N,N’,N’,N”−ペンタメチル−N’−β−ジメチルアミノメチルリン酸トリアミド、オクタメチルピロホスホルアミド等のアミド類、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素等の尿素類、フェニルイソシアネート、トルイルイソシアネート等のイソシアネート類、アゾベンゼン等のアゾ化合物類が例示される。
【0046】
燐含有化合物の具体例としては、エチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリ−n−オクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィン類、ジメチルホスファイト、ジ−n−オクチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィン類、ジメチルホスファイト、ジ−n−オクチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリ−n−ブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト等のホスファイト類が例示される。
【0047】
硫黄含有化合物の具体例としては、ジエチルチオエーテル、ジフェニルチオエーテル、メチルフェニルチオエーテル等のチオエーテル類、エチルチオアルコール、n−プロピルチオアルコール、チオフェノール等のチオアルコール類が挙げられる。
【0048】
本発明で用いられる有機ケイ素化合物としては、下記一般式にて表される化合物を用いることが望ましい。
Si(OR …(2)
(式中、Rは2級の炭素原子を有する鎖状炭化水素基であり、RはRと同一もしくは異なる脂肪族炭化水素基又はヘテロ原子含有炭化水素基であり、Rは炭化水素基である。)
【0049】
一般式(2)中、Rは2級の炭素原子を有する鎖状炭化水素基を表す。Rとして用いることのできる2級の炭素原子を有する炭化水素基は、一般に炭素数1から20、好ましくは炭素数3から10のものであり、具体的な例としては、とりわけ、i−プロピル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、i−ペンチル基、i−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基などを用いることが望ましい。
【0050】
一般式(2)中、Rは炭化水素基若しくはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。Rとして用いることのできる炭化水素基は、一般に炭素数1から20、好ましくは炭素数3から10のものである。Rとして用いることのできる炭化水素基の具体的な例としては、n−プロピル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。より好ましくは、Rとして分岐状脂肪族炭化水素基若しくは脂環式炭化水素基を用いることが望ましく、とりわけ、i−プロピル基、i−ブチル基、t−ブチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いることが望ましい。Rがヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、ヘテロ原子が、窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素から選ばれることが望ましく、とりわけ、窒素又は酸素であることが望ましい。Rのヘテロ原子含有炭化水素基の骨格構造としては、Rが炭化水素基である場合の例示から選ぶことが望ましい。とりわけ、N,N−ジエチルアミノ基、キノリノ基、イソキノリノ基、などが好ましい。
【0051】
一般式(2)中、Rは炭化水素基を表す。Rとして用いることのできる炭化水素基は、一般に炭素数1から20、好ましくは炭素数1から10、更に好ましくは炭素数1から5のものである。Rとして用いることのできる炭化水素基の具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、などを挙げることができる。中でも、メチル基とエチル基が最も好ましい。
【0052】
本発明で用いられる有機ケイ素化合物の好ましい具体例としては、i−PrSi(OMe)、i−BuSi(OMe)、sec−BuSi(OMe)、i−PenSi(OMe)、i−Pr(i−Bu)Si(OMe)、i−Pen(i−Bu)Si(OMe)、i−Pr(Me)Si(OMe)、i−Bu(Me)Si(OEt)、sec−BuMeSi(OMe)、i−Pr(EtN)Si(OMe)、i−Bu(EtN)Si(OEt)、などを挙げることができる。
【0053】
(2−2)オレフィン重合用触媒の予備重合及び予備活性化
本発明のプロピレン系重合体組成物の製造方法において、主要成分であるプロピレン系重合体の製造(本重合)に先立って、オレフィン重合用触媒の存在下に、エチレン単独またはそれと炭素数3から12のα−オレフィンからなる群から選ばれる1以上のコモノマー(但し、ポリマー中のエチレンを95重量%以上とする)とを重合して、オレフィン重合用触媒中の固体成分1gに対して0.01〜2000gのエチレン系重合体を製造する予備活性化工程(Ep)を行う。
さらに、前記予備活性化工程(Ep)に先立って、オレフィン重合用触媒の存在下に、プロピレンを重合してオレフィン重合用触媒中の固体成分1gに対して0.01〜100gのポリプロピレンを製造し担持させる予備重合工程(Ap)を行うことが好ましい。
【0054】
(2−2−1)プロピレンによる予備重合(Ap)
予備重合工程の重合条件は、本重合のそれよりも温和であるのが普通である。予備重合モノマーとしては、α−オレフィンが使用でき、好ましくはエチレンまたはプロピレンである。また予備重合触媒を使用して重合を行う場合には、追加の成分を使用することもできる。上記の各成分の接触の際もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン等の重合体、シリカ、チタニア等の無機酸化物の固体を共存させるか、または、接触させてもよい。
【0055】
本発明の製造方法における予備重合工程の具体的な工程としては、チタン含有固体触媒成分(I)1gに対して0.01〜100gのポリプロピレンを製造し担持させる工程(工程(Pa))が好ましく、例えば、チタン含有固体触媒成分(I)中のチタン原子1モルに対して有機アルミニウム化合物(II)を0.01〜100モル、好ましくは0.1〜50モル、およびチタン原子1モルに対して有機ケイ素化合物(III)を0〜50モル、好ましくは0〜20モル組み合わせてなるオレフィン重合用触媒に、極限粘度が15dl/gより小さいポリプロピレンを、チタン含有固体触媒成分(I)1g当たり0.01〜100g担持させることによって行う。
この予備重合を行わないと、パウダーBD(嵩密度)及び粉体特性が低下する場合がある。
【0056】
(2−2−2)エチレンによる予備活性化(Ep)
予備活性化工程は、エチレン系重合体を製造し、これをチタン含有固体成分(I)に担持させる工程である。この予備活性化工程について具体的に例示する。
予備活性化触媒は、エチレン系重合体を、チタン含有固体成分(I)に担持したものである。チタン含有固体成分(I)1g当たり0.01〜2,000g、好ましくは0.05〜1,000g、さらに好ましくは0.1〜500gの割合で生成するような条件で行う限り、特に制限はないが、通常、−40〜40℃、好ましくは−40〜30℃、さらに好ましくは−40〜20℃程度の比較的低温度下において、0.1〜5MPa、好ましくは0.2〜4MPa、特に好ましくは0.3〜3MPaの圧力下で反応を行う。昇圧方法としては、1分〜24時間、好ましくは5分〜18時間、特に10分〜12時間に渡って所定の圧力となるよう0.04〜0.2MPa/hの速度で徐々に昇圧することが好ましい。反応開始時は、通常0〜0.1MPa、好ましくは0〜0.05MPa、特に好ましくは0〜0.02MPaの低圧状態から反応を開始することが好ましい。低圧状態より反応を開始することによりプロピレン系重合体100重量部に対してエチレン系重合体0.1〜20重量部、中でも0.2〜5重量部、更に好ましくは0.3〜3重量部を含むプロピレン系重合体組成物中に太さが0.2ミクロン以下の繊維状物を有し、かつ繊維状物が長さ10ミクロンの間に少なくとも1個の枝分かれ点が存在する構造を取り得る。一方、反応開始時に高圧下で反応を開始すると、プロピレン系重合体100重量部に対してエチレン系重合体0.1〜20重量部、中でも0.2〜5重量部、更に好ましくは0.3〜3重量部を含むプロピレン系重合体組成物中に太さが0.2ミクロン以下の繊維状物を有し、かつ繊維状物が10ミクロンの間に少なくとも1個の枝分かれ点が存在することは難しくなり、エチレン重合時の急激な反応によりモルフォロジーが悪化し、所望の繊維状の構造を取り難くなる。また、パウダーBD(嵩密度)及び粉体特性が低下する懸念がある。また、所定圧力到達後は、所定圧力以上で反応しない限りにおいては任意に重合を行ってもよい。予備活性化は、水素の存在下で実施してもよいが、極限粘度が15〜100dl/gのエチレン系重合体を得るためには、水素を用いないほうが望ましい。
【0057】
予備重合および予備活性化において、有機アルミニウム化合物(II)の使用量が少なすぎると重合反応速度が遅くなりすぎる恐れがある。また、その使用量が多すぎると、重合反応速度の改善効果が頭打ちとなるほか、また、最終的に得られるプロピレン系重合体組成物中に有機アルミニウム化合物(II)の残渣が多くなる恐れがある。また、電子供与体(II)の使用量が多すぎると、重合反応速度が低下する恐れがある。
【0058】
予備重合および予備活性化は、たとえば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、他にガソリン留分や水素化ジーゼル油留分等の不活性溶媒、オレフィン自身を溶媒とした液相中で行うことができ、また溶媒を用いずに気相中で行うことも可能である。溶媒使用量が多すぎると、大きな反応容器を必要とするばかりでなく、効率的な重合反応速度の制御および維持が困難となる。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。予備重合を終了した後に、触媒の使用形態に応じ、そのまま使用することが可能であるが、必要ならば乾燥を行ってもよい。さらに、上記各成分の接触の際、もしくは接触の後に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの重合体やシリカ、チタニアなどの無機酸化物固体を共存させることも可能である。
【0059】
得られた予備活性化触媒は、必要に応じて、新たに有機アルミニウム化合物(II’)および電子供与体(III’)と組み合わせて、オレフィン重合体の生成速度および/または立体規則性を制御することを目的として、これをプロピレン系重合体の製造に使用することもできる。新たに加える有機アルミニウム化合物(II’)および電子供与体である例えば有機ケイ素化合物(III’)は、既述の有機アルミニウム化合物(II)および有機ケイ素化合物(III)と同様のものを使用することができ、これらの化合物を単独であるいは2種以上を混合して用いることもできる。新たに加える有機アルミニウム化合物(II’)および電子供与体である例えば有機ケイ素化合物(III’)は、それぞれ独立に、予備活性化に用いた有機アルミニウム化合物(II)および有機ケイ素化合物(III)と同一のものであってもよい。
【0060】
(2−3)プロピレン系重合体組成物の製造方法
本発明のプロピレン系重合体組成物は、プロピレンによる予備重合でプロピレン系重合体を付されたオレフィン重合用触媒に、エチレン系重合体を担持させることで得られた予備活性化触媒の存在下で、プロピレンを重合させることによって、溶融特性に優れ、発泡性能の好適なものとして製造することができる。
【0061】
(2−3−1)重合法
本発明のプロピレン系重合体組成物の製造方法において、重合法としては、スラリー重合法、バルク重合法、気相重合法、液相重合法及びこれらを組み合わせた方法等の公知のオレフィン重合プロセスが使用可能である。
具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、他にガソリン留分や水素化ジーゼル油留分等の不活性溶媒中で、オレフィンの重合を実施するスラリー重合法、オレフィン自身を溶媒として用いるバルク重合法、オレフィンの重合を気相中で実施する気相重合法、さらに重合して生成するポリオレフィンが液状である液相重合法、あるいはこれらのプロセスを2つ以上組み合わせた重合プロセスを使用することができる。
【0062】
スラリー重合では、重合温度が20〜120℃、好ましくは30〜100℃、特に好ましくは40〜100℃の温度下で、重合圧力が0.1〜5MPa、好ましくは0.3〜5MPaの圧力下で、連続式、半連続式、若しくはバッチ式で、重合時間が5分間〜12時間の条件で実施される。
【0063】
気相重合では、重合温度が20〜100℃、好ましくは30〜100℃、特に好ましくは40〜90℃の温度下で、重合圧力が1.2〜5MPa、好ましくは1.6〜4.2MPaの圧力下が好ましい。気相重合においては連続式、半連続式で、重合時間が5分間〜12時間の条件で実施される。
【0064】
バルク重合では、重合温度が20〜100℃、好ましくは30〜100℃、特に好ましくは40〜90℃の温度下で、重合圧力が1.5〜5.0MPa、好ましくは1.8〜4.0MPaの圧力下が好ましい。バルク重合においては連続式、半連続式で、重合時間が5分間〜12時間の条件で実施される。
【0065】
本発明の製造方法においては、低いコストで製造できることから、連続重合が可能な1つの重合装置を用いた重合法が好ましい。すなわち、2〜3槽から成る連続槽による連続重合工程により製造することが好ましい。
【0066】
(2−3−2)プロピレン系重合体製造工程(Pp)
プロピレン系重合体製造工程(Pp)は、工程(Ep)で得られたエチレン系重合体(E)を含むオレフィン重合用触媒の存在下に、プロピレンを重合させる方法、および/またはプロピレンと、エチレン及び炭素数4から8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1以上のコモノマーとを共重合させる方法によりプロピレン系重合体を製造する工程である。
【0067】
本発明の製造方法は、前述したオレフィン重合用触媒のもとで、プロピレン単独重合体(H)を製造するか、あるいは第1工程においてプロピレン単独重合体(H)を製造し、この工程に引き続き第2工程としてエチレン及び炭素数4から8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1以上のコモノマーとプロピレンとを共重合しオレフィンランダム共重合体を製造することにより、プロピレン系ブロック共重合体(B)を製造する方法のいずれも含むものである。プロピレン単独重合体(H)の製造においては、発泡成形体の外観向上を目的として、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、少量のコモノマーとの共重合体とすることも可能である。具体的には、使用するコモノマーとして、エチレン及び炭素数4〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1以上のモノマーを5重量%以下の含量で含むことができる。好ましくはプロピレン以外のコモノマーは、エチレン及び/又は1−ブテンであることが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。炭素数9以上のα−オレフィンでは、触媒活性が著しく低下して好ましくない。また、成分(B−1)中のプロピレン以外のコモノマー含量が5重量%を超えると、溶融張力及び発泡性能が著しく低下して、好ましくない。これら、いずれの方法も当該事業所には周知である。
【0068】
公知のオレフィン重合方法と同様に、重合時に水素等を用いることにより、得られるポリプロピレン系重合体の分子量を調整することができる。また、プロピレン系ブロック共重合体(B)の製造は、第1工程でプロピレン系重合体(H)を第2工程でオレフィンランダム共重合体を製造する工程であり、この成分比を調節する為には、第1工程と第2工程の製造量比を制御すればよい。重合温度や滞留時間を変化させることにより両者の製造量比を制御できることは、当該事業者には周知である。各工程における触媒の活性は使用する触媒種、プロセス、滞留時間等にも影響するが、チタン含有固体触媒成分(I)1g当たり1,000〜500,000g−PPである。
【0069】
3.プロピレン系重合体組成物の分析
(3−1)重合体成分
本発明の製造方法により製造されるプロピレン系重合体組成物は、以下の各重合体成分からなるものである。以下、重合体成分について詳細に説明する。
【0070】
(3−2)エチレン系重合体(E)
本発明の製造方法により製造されるプロピレン系重合体組成物の構成成分であるエチレン系重合体(E)は、135℃のテトラリン中で測定した極限粘度が15dl/g以上の範囲の値を有する。
エチレン系重合体(E)の極限粘度が15dl/g未満であると、プロピレン系重合体組成物あるいはエチレン系重合体(E)とプロピレン系重合体の混合物を溶融混練して得られるプロピレン系重合体組成物の溶融張力の向上効果が不十分となる恐れがある。
エチレン系重合体(E)の極限粘度の上限は特に限定されないが、プロピレン系重合体とエチレン系重合体(E)との極限粘度の差が大きすぎると、得られる組成物は、プロピレン系重合体とエチレン系重合体(E)の均一分散性が低下したものとなり、その結果、安定した高溶融張力を有するプロピレン系重合体組成物が得られにくくなる恐れがある。また、高い極限粘度のポリエチレン系重合体(E)を得ようとすればするほど、その重合温度をより低温に設定しなければならない点を考慮すれば、ポリエチレン系重合体(E)の生産性の点からも、そのエチレン系重合体(E)の極限粘度の上限は100dl/g程度とするのがよい。エチレン系重合体(E)の極限粘度は、好ましくは17dl/g以上80dl/g以下、更に好ましくは17dl/g以上50dl/g以下の範囲である。
【0071】
また、エチレン系重合体(E)は、その極限粘度を15dl/g以上とする必要があるため、高分子量化の効率上の理由から、エチレン単独重合体であるか、もしくは、共重合体の重量基準で、ポリエチレン単位を50重量%以上含有するポリエチレンと炭素数3〜12のオレフィンとのエチレン/オレフィン共重合体であるのが好ましい。さらに好ましいのは、エチレン単独重合体、もしくは、共重合体の重量基準で、エチレン単位を70重量%以上含有するエチレンと炭素数3〜12のオレフィンとのエチレン/オレフィン共重合体である。また、特に好ましいのは、エチレン単独重合体、もしくは、共重合体の重量基準でエチレン単位を90重量%以上含有するエチレンと炭素数3〜12のオレフィンとのエチレン/オレフィン共重合体である。
【0072】
エチレン系重合体(E)がエチレン/オレフィン共重合体である場合、エチレンと共重合させる炭素数3〜12のオレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン,3−メチル−1−ペンテン等が挙げられ、これらのオレフィンを2種以上使用してもよい。
【0073】
また、エチレン系重合体(E)中には、コモノマーとして少量の炭素数4〜12のジエン成分を使用してもよい。その例として、1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、6−メチル−1,6−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、6−エチル−1,6−オクタジエン、6−プロピル−1,6−オクタジエン、6−ブチル−1,6−オクタジエン、6−メチル−1,6−ノナジエン、7−メチル−1,6−ノナジエン、6−エチル−1,6−ノナジエン、7−エチル−1,6−ノナジエン、6−メチル−1,6−デカジエン、7−メチル−1,6−デカジエン、6−メチル−1,6−ウンデカジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン等を挙げることができる。これらジエン成分から導かれる構成単位は、エチレン系重合体(E)中に2モル%以下、好ましくは1%モル以下の割合に調整されていることが望ましい。
【0074】
本発明において、エチレン系重合体(E)は、プロピレン系重合体100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.1〜5.0重量部、さらに好ましくは0.1〜2.0重量部含むのが好ましい。
エチレン系重合体(E)の含まれる量が、プロピレン系重合体100重量部に対して0.1重量部未満であると、発泡成形時の気泡の抑制効果が働かず、発泡時に破泡する恐れや得られるプロピレン系重合体組成物の溶融張力の向上効果が少なくなる恐れがあり、また20.0重量部を超えると、発泡性能の面で発泡成形時に気泡が膨らみ難くなる恐れや樹脂全体の粘度が低くなり流動特性が低下する恐れや、エチレン系重合体(E)を含有する効果が飽和する恐れがあるほか、エチレン系重合体(E)とプロピレン系重合体の均一分散性が損なわれる恐れがある。
【0075】
プロピレン系重合体に対するエチレン系重合体(E)の定量方法は、任意の公知の方法により求めることができる。具体的には、プロピレン系重合体(B)とエチレン系重合体(E)の結晶性の差を利用して、TREF(昇温溶出分別法)、赤外分光分析法(IR)、製造量比等により分析することができる。
【0076】
(3−3)プロピレン系重合体
以下に各プロピレン系重合体について述べる。
(3−3−1)プロピレン系重合体(H)
本発明におけるプロピレン系重合体(H)は、エチレン系重合体(E)を、プロピレン系重合体100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜5重量部、さらに好ましくは0.3〜3重量部含むのが好ましい。MFRは、1〜100g/10分であり、好ましくは1〜50g/10分、更に好ましくは1〜30g/10分である。MFRが1g/10分未満であると樹脂全体の粘度が低くなり流動特性が低下する恐れがある。100g/10分を越えると溶融張力などの物性に悪影響を与え、発泡性能が悪化する。
本発明の主旨を逸脱しない範囲で、エチレン及び炭素数4から8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1以上のコモノマーとプロピレンとのランダム共重合体とすることも可能である。好ましくは、プロピレン以外のコモノマーはエチレン及び/又は1−ブテンであることが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。炭素数9以上のα−オレフィンでは、触媒活性が著しく低下して好ましくない。エチレン及び炭素数4から8のα−オレフィンの含量は5重量%以下である。この範囲を外れると、溶融張力、発泡性能が低下して好ましくない。より好ましくは、エチレン及び炭素数4から8のα−オレフィンの含量が3%以下であり、特に好ましくは2%以下であることが望ましい。
【0077】
(3−3−2)プロピレン系重合体(B)
本発明の製造方法によって製造されるプロピレン系重合体(B)は、オレフィン重合用触媒を用いて、第1工程で、プロピレン系重合体(B1)を重量基準で30〜95重量%の範囲で製造したのち、引き続く第2工程で、オレフィンランダム重合体(B2)をプロピレン系重合体(B)の重量基準で70〜5重量%の範囲で製造して得られる。
成分(B1)と成分(B2)の重合体の重量比を調節するには、第1工程と第2工程の製造量比を制御することより可能である。重合温度や滞留時間を変化させることにより両者の製造量比を制御できることは、当該事業者には良く知られたことである。
【0078】
オレフィンランダム重合体(B2)もエチレン系重合体(E)と同様に発泡成形時の発泡気泡の成長を抑制する効果を有する。すなわち連立気泡率を低下させるためのものであるとともに、樹脂全体の耐衝撃性、粘度調整、容器成形時の延展性などを確保するために必要である。成分(B2)の含有量は、プロピレン系重合体(B)の重量基準で5〜70重量%であることが好ましく、より好ましくは7〜50重量%、更に好ましくは10〜30重量%である。5重量%以下であると発泡成形時において気泡成長の抑制効果が低下、70重量%以上であると気泡の成長の阻害、及び流動特性悪化により成形性が低下する。
【0079】
プロピレン系重合体(B1)と成分(B2)の重量比は、任意の公知の方法により求めることができる。具体的には、第一重合工程と第二重合工程の生産量の割合から求めることができる。また、プロピレン系重合体(B)とオレフィンランダム重合体の結晶性の差を利用して、TREF(昇温溶出分別法)、CFC(クロス分別法)、モノマー単位含有量を測定する赤外分光分析法(IR)により分析することもできる。
【0080】
プロピレン系重合体(B)のMFRは、主としてプロピレンからなる重合体成分(B1)のMFR、プロピレンとその他のコモノマーとのオレフィンランダム重合体(B2)のMFR、成分(B1)と成分(B2)の量比、の3つの因子により一義的に決まる。従って、ブロック共重合体のMFRはこの3つの因子を調整することにより制御することができる。本発明における、流動特性と溶融特性とのバランスを良くするには、このうち成分(B1)のMFRを調整することによりブロック共重合体のMFRを調整することが望ましい。本発明の主旨を逸脱しない成分(B1)または成分(B2)の極限粘度[η](詳細は後述)の範囲において、成分(B1)のMFRは、MFRが5g/10分以上であることが好ましく、より好ましくはMFRが10g/10分以上150g/10分以下、更に好ましくは20g/10分以上100g/10分以下、最も好ましくは20g/10分以上75g/10分以下である。成分(B)のMFRが150g/10分以上であると、プロピレン系重合体(B)のMFRが高くなり、流動特性は上がるが、溶融張力の低下により独立気泡率の低下を引き起こす。一方、MFRが5g/10分以下であると、プロピレン系重合体(B)のMFRが低くなり、溶融張力は上がるが、流動特性悪化により成形性が低下する。
【0081】
本発明におけるプロピレン系重合体(B)は、プロピレン系重合体(H)と同様に、エチレン系重合体(E)を、プロピレン系重合体100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.2〜5重量部、さらに好ましくは0.3〜3重量部含むのが好ましい。MFRは、1〜100g/10分であり、好ましくは1〜50g/10分、更に好ましくは1〜30g/10分である。MFRが1g/10分以下であると樹脂全体の粘度が低くなり流動特性が低下する恐れがある。100g/10分を越えると溶融張力などの物性に悪影響を与え、発泡性能が悪化する。
【0082】
本発明におけるプロピレンとその他のコモノマーとのオレフィンランダム重合体(B2)は、エチレン及び炭素数4から8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1以上のコモノマーとプロピレンとのランダム共重合体である。好ましくは、プロピレン以外のコモノマーはエチレン及び/又は1−ブテンであることが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。炭素数9以上のα−オレフィンでは、触媒活性が著しく低下して好ましくない。成分(B2)中のプロピレンの含量は10重量%以上70重量%以下である。プロピレンの含量がこの範囲を外れると、ランダム共重合体成分が溶融張力、発泡性能が低下して好ましくない。より好ましくは、プロピレンの含量が15重量%以上65重量%以下であり、特に好ましくは20重量%以上60重量%以下であることが望ましい。最も好ましくは、プロピレン単位の含量が30重量%以上55重量%以下である。
成分(B2)中のプロピレンの含量を調節する為には、成分(B2)の重合を行う反応器における各モノマーの濃度を変えればよい。成分(B2)中のプロピレンの含量は、成分(B2)中のその他のモノマー成分と同様の手法により分析することができる。
【0083】
連続して製造する場合のプロピレン系重合体(B)、成分(B2)の定量方法は、任意の公知の方法により求めることができる。具体的には、プロピレン系重合体(B)と成分(B2)の結晶性の差を利用して、TREF(昇温溶出分別法)、赤外分光分析法(IR)により分析することができる。
【0084】
本発明におけるプロピレンとその他のコモノマーとのオレフィンランダム重合体(B2)は、エチレン及び炭素数4から8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1以上のコモノマーとプロピレンとのランダム共重合体である。好ましくは、プロピレン以外のコモノマーはエチレン及び/又は1−ブテンであることが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。炭素数9以上のα−オレフィンでは、触媒活性が著しく低下して好ましくない。例えば、炭素数4から8のα−オレフィンとして、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン,3−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。成分(B2)中のプロピレンの含量は10重量%以上70重量%以下である。プロピレンの含量がこの範囲を外れると、プロピレン系重合体(B)の溶融張力、発泡性能が低下して好ましくない。より好ましくは、プロピレンの含量が15重量%以上65重量%以下であり、特に好ましくは20重量%以上60重量%以下であることが望ましい。最も好ましくは、プロピレン単位の含量が20重量%以上55重量%以下である。
【0085】
4.発泡成形用プロピレン系重合体組成物
本発明のプロピレン系重合体組成物は、溶融混練することによって発泡成形体に好適な材料を得ることができる。本発明において、「溶融混練」とは、本発明の重合体組成物を、押出造粒機などを用いて、溶融状態となる条件で、加熱しながら混練することを意味する。また、溶融混練時に、一般的に公知の添加剤などを添加してもよく、例えば酸化防止剤,着色剤,紫外線吸収剤,帯電防止剤,可塑剤、および脂肪酸金属塩,脂肪酸アミド等のスリップ剤、無機添加剤としてタルク、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、ゼオライト、フィラー等を必要に応じ添加してもよい。
【0086】
本発明の製造方法にて得られるプロピレン系重合体組成物(以下、「樹脂組成物」ともいう。)は、公知の押出発泡成形、射出発泡成形、また、超臨界発泡成形等に利用できる。
【0087】
5.プロピレン系重合体組成物を用いた発泡成形体
押出発泡成形体の製造方法としては、本発明のプロピレン系重合体組成物に発泡剤を添加し、溶融混練したのち、Tダイもしくはサーキュラーダイを通して低圧下に押し出す等の公知の押出発泡法を採用することができる。発泡成形体は、押出機から直接シート状もしくは円筒状に押出した後、押出方向に切断することにより製造することができる。
【0088】
押出発泡成形により得られた、発泡シート状の成形体は容器などの成形品に2次成型するのに極めて好適である。2次成型に用いられる成形法には、通常任意の公知の方法である真空圧空成形法、真空成形法、プラグ成形法、プレス成形法、両面真空成形法などがある。
【0089】
射出発泡成形体の基本的な製造方法は、重合体組成物に発泡剤を配合した発泡性の重合体組成物を射出成形金型中へ射出充填する工程と、その後引き続き発泡成形する工程の少なくとも二段階から構成されている。その具体的な方法は特に限定されるものではない。
【0090】
射出発泡成形特、高い機械的強度と良好な外観を有する発泡成形体の製造を目的にする場合には、成形体表面に未発泡のスキン層が形成するような成形方法を選択することが望ましい。そのためには、キャビティー容積が可変である金型を備えた射出成形機を用いた方法が好ましく、射出充填工程とそれに引き続くキャビティーを拡大する発泡工程とから一般的に発泡成形が行なわれるが、本発明では特にその成形方法は限定されない。
【0091】
使用される発泡剤として、揮発性発泡剤としては、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン等の脂環式炭化水素類、クロロジフルオロメタン、トリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン等のハロゲン化炭化水素類、炭酸ガス、二酸化炭素、アルゴン、空気等の無機ガス、水等を例示できる。
【0092】
溶剤型発泡剤は、成形機のホッパーあるいはシリンダー部分から一般に注入して溶融原料樹脂に吸収ないし溶解させ、その後射出成形金型中で蒸発して発泡剤として機能する物質である。プロパン、ブタン、ネオペンタン、ヘプタン、イソヘキサン、ヘキサン、イソヘプタン、ヘプタン等の低沸点脂肪族炭化水素や、フロンガスに代表される低沸点のフッ素含有炭化水素等が使用できる。
【0093】
分解型発泡剤は、原料重合体組成物に予め配合されてから成形機へと供給され、成形機のシリンダー温度条件下で発泡剤が分解して炭酸ガス、窒素ガス等の気体を発生する化合物である。それは、無機系の発泡剤であってもよいし有機系の発泡剤であってもよく、また気体の発生を促すクエン酸のような有機酸やクエン酸ナトリウムのような有機酸金属塩等を発泡助剤として併用添加してもよい。
【0094】
分解型発泡剤の具体例として、次の化合物をあげることができる。
1)無機系発泡剤:重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウム
2)有機系発泡剤:
(a)N−ニトロソ化合物:N,N’−ジニトロソテレフタルアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン
(b)アゾ化合物:アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジアミノベンゼン、バリウムアゾジカルボキシレート
(c)スルフォニルヒドラジド化合物:ベンゼンスルフォニルヒドラジド、トルエンスルフォニルヒドラジド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルフェニルヒドラジド)、ジフェニルスルフォン−3,3’−ジスルフォニルヒドラジド
(d)アジド化合物:カルシウムアジド、4,4’−ジフェニルジスルフォニルアジド、p−トルエンスルフォニルアジド
【0095】
これらの発泡剤は、それ単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。そして、発泡剤は、樹脂組成物に予め配合しておくこともできるし、発泡成形する際にシリンダーの途中から注入することもできる。気体状発泡剤は、超臨界状態で用いてもよい。また、発泡剤や発泡助剤等を予め重合体に配合してマスターバッチを作っておき、それを樹脂組成物に配合してもよい。
【0096】
発泡剤の添加量は、発泡成形体の要求物性に応じて、発泡剤からの発生ガス量および望ましい発泡倍率等を考慮して選択されるが、樹脂組成物100重量部に対して、0.1〜6重量部、好ましくは0.5〜2重量部に調整するのが望ましい。この範囲内にある発泡性樹脂組成物からは、気泡径が揃い、かつ気泡が均一分散した発泡成形体を得ることができる。
【0097】
本発明に係わる発泡体は、独立気泡率が、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上である。そのような独立気泡率を有する発泡体は、優れた耐熱性と外力からの緩衝性を示し、また高い圧縮強度を有する。
【0098】
また、本発明に係わる発泡体は、発泡倍率が、好ましくは1.3〜10倍、より好ましくは1.6〜6倍の範囲にあって、密度が、好ましくは0.09〜0.6(g/cm)、より好ましくは0.15〜0.3(g/cm)にあることが望ましい。この範囲にあると、発泡体は、軽量性、断熱性、外部からの応力の緩衝性に優れ、また高い圧縮強度を有する。
【0099】
従って、本発明の発泡体は、表面特性に優れ、軽量で、剛性および耐衝撃性に優れ、耐薬品性を有し、食品衛生性も良好である。また、形状が整っており、外観が美麗である。また原料樹脂組成物は、ポリプロピレンが主体になっているので、焼却しても有害なガスを発生することがほとんどなく、そしてリサイクル性に優れている。
また、本発明の発泡体は、文房具ファイル、食品容器、飲料カップ、ディスプレイ筺体、工業産業用部品、トレーなどあらゆる分野の成形品に適用可能である。
【実施例】
【0100】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。
【0101】
本発明におけるプロピレン系重合体組成物中の繊維状物の観察方法を以下に示す。
プレス成形機を用いて200℃、5MPa/cmの条件にて重合体組成物1gを1分間加圧した。加圧には厚さ400μmのステンレス製スペーサーを用いた。加圧後、直ちに30℃のプレス成形機に移し、0.1MPa以下の圧力で1分間冷却した。冷却後、スペーサーから取り出した厚さが400μmの板状の重合体組成物を1cm×5cmの長方形に切断し、手巻き延伸器を用いて150〜160℃のオイルバス中で2〜5倍に延伸した。延伸された重合体組成物は、直ちに室温のオイル中に浸して30秒以上冷却した。冷却された重合体組成物を撹拌されたアセトン中に10分以上浸してオイルを除去した。2〜5倍に延伸された部分を切り取り、室温下で延伸方向に引き裂いた。この引き裂き面を走査型電子顕微鏡:SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製S800走査型電子顕微鏡)を用いて、4,000〜60,000倍の拡大倍率で観察した。SEMによる観察は、予め重合体組成物を金パラジムで被着したものを用いた。
【0102】
本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
(1)MFR:タカラ社製メルトインデクサーを用い、JIS−K7210に規定された方法に基づき、230℃、0.216N(単位:g/10min)の条件で評価した。
【0103】
(2)極限粘度[ηA]:オスヴァルト粘度計(三井東圧化学(株))製)を用い、135℃のテトラリン中で測定した(単位:dl/g)。
【0104】
(3)プロピレン系重合体組成物中のエチレン系重合体(E)含量の定量:平均エチレン系重合体(E)含量については、下記の手順に従って核磁気共鳴分光計または赤外分光光度計を用いて測定した。
(3−1)核磁気共鳴分光計:NMRを用いた定量
(i)サンプルの調製
試料(予備活性化によるエチレン系重合体を含むプロピレン系重合体(H,B1))500mgを10mm径のNMR専用のガラス管に投入し、これに20容量%の重水素化ベンゼンと極微量のヘキサメチルジシロキサンを含むo−ジクロルベンゼン2.5mlを加えて、130℃にて溶解させた。溶解後、試料が均一となるように溶液を撹拌した。均一となった溶液をNMR試料とした。
(ii)核磁気共鳴分光計によるエチレン系重合体(E)の定量
上記にて得られた溶液を用い、以下の条件にてエチレン量を測定した。
装置:ブルカーバイオスピンDRX500
温度:130℃
観測核:13C
観測幅:20,000Hz
パルスモード:1H完全デカップリング
フリップ角:90゜
パルス間隔:15秒
積算回数:1,000回以上
ケミカルシフト基準:ヘキサメチルジシロキサンのシグナル位置を2.03ppmとした
エチレン系重合体(E)の量は、29〜31ppmに観測される長鎖メチレン(−(−CH2−)n−、ここでn≧4)のシグナル面積([E])と19〜24ppmに観測されるメチル(−CH)のシグナル面積([CH])、27〜29ppmに観測されるメチン(−CH−)のシグナルや強度([CH])および44〜46ppmに観測されるメチレン(−CH−)のシグナル強度([CH])から次の式により算出した。
エチレン系重合体(E)(重量%)=28×[E]/(28×[E]/2+42×([CH]+[CH]+[CH])/3)
オレフィンランダム共重合体(B2)にコモノマーとしてエチレンを選択した場合は、成分(B2)に由来する長鎖メチレン(−(−CH−)n−、ここでn≧4)のシグナルが、エチレン系重合体(E)に由来する長鎖メチレン(−(−CH−)n−、ここでn≧4)と同じ位置に観測される。成分(B2)に由来する長鎖メチレンのシグナルの強度は、成分(E)を含まない触媒によるプロピレンエチレン共重合体によって作成した検量線により算出し、観測されたシグナル強度から差し引いた。
【0105】
(3−2)赤外分光光度計を用いた定量
(i)サンプルの調製
試料(予備活性化によるエチレン系重合体を含むプロピレン系重合体(H)、プロピレン系重合体(B)の(B−1)部、)を加熱加圧プレスにより厚さ500μmのシートに成形した。プレス条件は、温度190℃、予熱時間2分、加圧圧力50MPa、加圧時間2分とした。
(ii)赤外分光光度計による吸光度の測定
上記にて得られたシートを用い、以下の条件にて吸収量を測定した。
測定値よりプロピレン系重合体(H)のエチレン系重合体(E)含量の値を得た。
装置:島津FTIR−8300
分解能:4.0cm−1
測定範囲:4,000〜400cm−1
吸光度ピーク面積算出範囲:700〜760cm−1
【0106】
(3−3)プロピレン系重合体(B)中のエチレン含量の定量:平均エチレン含量については、下記の手順に従って赤外分光光度計を用いて測定した。
(i)サンプルの調製
試料(プロピレン系重合体(B))を加熱加圧プレスにより厚さ200μmのシートに成形した。プレス条件は、温度190℃、予熱時間2分、加圧圧力30MPa、加圧時間2分とした。
(ii)赤外分光光度計による吸光度の測定
上記にて得られたシートを用い、以下の条件にて吸収量を測定した。
装置:島津FTIR−8300
分解能:4.0cm−1
測定範囲:4,000〜400cm−1
吸光度ピーク面積算出範囲:700〜760cm−1
(iii)プロピレン系重合体(B)中のエチレン系重合体(E)の計算
予めNMRでエチレン含量を定量してあるサンプルを用いて検量線を作成し、この検量線に基づいて、プロピレン系重合体(B)中のエチレン系重合体(E)含量を計算した。また、プロピレン系ブロック共重合体中(B)にエチレン系重合体(E)を含む場合は、(3−2)で得られたエチレン系重合体(E)含量を引いた値として算出した。
【0107】
(4)プロピレン系重合体(B)中のオレフィンランダム共重合体(B2)の含量の計算
プロピレン系重合体を製造する第1重合工程(B1)と、プロピレンエチレンランダム共重合体成分を製造する第2重合工程(B2)の生産量の値から計算し、重量%として値を得た。
【0108】
(5)オレフィンランダム共重合体(B2)成分中のエチレン含量の計算
プロピレン系重合体(B)中のエチレン含量、及び、オレフィンランダム共重合体中のオレフィンランダム共重合体成分の含量値から計算し、値を得た。
【0109】
(6)発泡倍率:未発泡品の比重(dc0)および発泡体の比重(dc1)を水中置換法によって求め、その値から[dc0/dc1]を算出して発泡倍率とした。なお、発泡体の比重は、スキン層を含む状態で測定した。
【0110】
(7)独立気泡率:重量と水没法により求めた体積とから見かけ密度(D)を算出し、真比重(0.90)をその見かけ密度で除して求めた。独立気泡率=D/0.90(単位:%)
装置:エアーピクノメーター(東芝ベックマン製、型式930)
【0111】
(8)二次発泡倍率:発泡シートを真空成形機に装着し、所定の成形条件で加熱した。加熱前後のシートの厚みより算出した。二次発泡倍率=Δ加熱後の厚み/加熱前の厚み×100
【0112】
(9)外観:発泡成形体の表面を目視で観察し、光沢ムラ、スジ、荒れなどの外観不良につき、その発生の有無や程度を調べ、外観の良否を以下の基準で評価した。
○:外観不良は全く見られない
△:外観不良がわずかに見られる
×:外観不良が表面の一部にはっきり見られる
【0113】
(実施例1)
(1)チタン含有固体成分(I)の調製
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)を200g、TiClを1L添加した。温度を90℃に上げて、フタル酸−n−ブチルを50ml導入した。その後、温度を110℃に上げて3時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。次いで、精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiClを1L添加し、温度を110℃に上げて2時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。更に、精製したn−ヘプタンを用いて、トルエンをn−ヘプタンで置換し、チタン含有固体成分(I)のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分(I)のTi含量は2.7重量%であった。また、固体触媒の平均粒径は33μmであった。
【0114】
(2)予備活性化触媒の調製
内容積30リットルの傾斜羽根付きステンレス製反応器を窒素ガスで置換後、n−ヘキサン20リットル、トリエチルアルミニウム40ミリモル、および前項で調製したチタン含有担持型触媒成分40g(チタン原子換算で40ミリモル)を添加した後、15℃でプロピレン210gを120分間供給して予備重合を行った。反応時間終了後、未反応のプロピレンを反応器外に放出し、反応器の気相部を1回、窒素置換した。別途、同一の条件で行った予備重合後に生成したポリマーを分析した結果、チタン含有担持型触媒成分1g当たり、2.1gのポリプロピレン(W0P)が生成し、このポリプロピレンの極限粘度[η]は2.9dl/gであった。
【0115】
次いで、圧力0.0MPaの状態にした反応器を反応器内の温度を−3℃に保持しながら、昇圧時は0.15MPa/hの昇圧割合でエチレンを反応器に連続的に供給し、その後、0.50MPaとなるように一定に維持するようにエチレンを反応器に連続的に6時間供給して、予備活性化を行った。反応時間終了後、未反応のエチレンを反応器外に放出し、反応器の気相部を1回、窒素置換して、予備活性化触媒のスラリーを得た。予備活性化後に生成していた重合体の生成量は、チタン含有固体触媒成分1g当たり220.9gであり、かつ、この重合体の極限粘度[η0T]は29.3dl/gであった。
【0116】
エチレンによる予備活性化で得られたチタン含有担持型触媒成分1g当たりに含有されているエチレン系重合体(E)の生成量(W)は、予備活性化処理後に生成していたチタン含有担持型触媒成分1g当たりの重合体の生成量(W0T)と予備重合後のチタン含有担持型触媒成分1g当たりのポリプロピレンの生成量(W0P)との差として次式で求められる。
=W0T−W0P
また、エチレンによる予備活性化で生成したエチレン系重合体(E)の極限粘度[η]は、予備重合で生成したポリプロピレンの極限粘度[η0P]、および予備重合工程に引き続く予備活性化工程終了後に生成していた重合体の極限粘度[η0T]から次式により求められる。
[η]=([η0T]×W0T−[η0P]×W0P)/(W0T−W0P
上記の式に従って、エチレンによる予備活性化で生成したエチレン系重合体(E)量は、チタン含有担持型触媒成分1g当たり218g、その極限粘度[η]は29.6dl/gと算出された。
【0117】
(3)重合反応
図1に示す1台の重合槽を備えた重合反応装置を用いて気相重合を行った。重合器10は、内径D:340mm、長さL:1260mm、回転軸の径:90mm、内容積:110dmの攪拌機を備えた連続式横型気相重合器(長さ/直径=3.7)である。重合器10内を窒素で置換後、500μm以下の重合体粒子を除去したポリプロピレン粉末(平均粒径1500μm)を25kg導入し、更に上記で得られた予備活性化触媒を0.49g/h(ただし予備重合ポリマー分は除く)、またトリエチルアルミニウム(15重量%n−ヘキサン溶液形態で)およびジイソプロピルジメトキシシランを触媒成分(A)中のTi原子に対しそれぞれモル比で90および10となるように触媒成分供給配管1,2より連続的に供給した。また、重合器10内のプロピレンに対する水素量の割合がモル比で0.03となるように水素を原料補給配管4から供給し、重合器10内の圧力が2.15MPa、温度が65℃を保つようにプロピレンモノマーを原料プロピレン補給配管3から供給した。反応熱は、原料プロピレン補給配管3から供給される原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器10から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜き出し配管13を通して反応器系外に抜き出し、凝縮器15にてその一部を凝縮させ、気液分離槽11で液相と気相に分離した。液相部は重合熱除去のため原料液化プロピレン補給配管17へ導入され、気相部は、水素が供給される原料補給配管4へ導入されて水素と混合され、圧縮機16で加圧されて重合器10底部に設置された原料混合ガス供給配管18を通して重合器10に還流した。
生成したプロピレン系重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の50容量%となるように重合体抜き出し配管19を通して重合器10から連続的に抜き出した。
重合器10内で生成したプロピレン系重合体(H)を測定した結果、このプロピレン系重合体(H)100重量部に対し、予備活性化で生成したエチレン系重合体(E)の割合は1.16重量%であり、プロピレン系重合体(H)の生産速度は10.1kg/hであった。得られたプロピレン系重合体(H)の分析結果を、表1に示す。
【0118】
得られたプロピレン系重合体1gをプレス成形機により200℃にて5MPa/cmの圧力で1分間加圧した。加圧には厚さ400μmのステンレス製スペーサーを用いた。加圧後、直ちに30℃のプレス成形機に移し、0.1MPa以下の圧力で1分間冷却した。冷却後、スペーサーから取り出した厚さが400μmの板状の重合体を1cm×5cmの長方形に切断し、手巻き延伸器を用いて150〜160℃のオイルバス中で2〜5倍に延伸した。延伸された重合体は、直ちに室温のオイル中に浸して30秒以上冷却した。冷却された重合体を撹拌されたアセトン中に10分以上浸してオイルを除去し、その一部を切り取り、試験片とした。この試験片を室温下で延伸方向に引き裂いた。この引き裂き断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、4,000倍および60,000倍の拡大倍率で観察した。これらのSEM像を図3および4に示す。
得られた重合体混合物100重量部に対して、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール0.1重量部、およびステアリン酸カルシウム0.1重量部を混合して、該混合物をスクリュー径40mmの押出造粒機を用いて、樹脂温度が300℃にて造粒(溶融混練)し、プロピレン系重合体組成物を得た。得られたプロピレン系重合体組成物の分析結果を、表1に示す。
【0119】
得られたプロピレン系重合体組成物100重量部に対し、発泡剤としてクラリアント社製発泡剤CF40E(重曹、クエン酸系化学発泡剤)を3.5重量部加えてドライブレンドした後、押出発泡成形を行った。成形する押出機として65φmm(スクリュー先端温度180℃)、750mm幅のTダイ(設定温度180℃)を備えたシート成形機を用い、厚み1mmのシートを得た。その後ポリシングロールで冷却固化を行い、巻き取ることによって発泡シートの成形を行った。シートの発泡倍率、独立気泡率、外観の結果を表2に示す。続いて、そのシートを用い、浅野研究所製真空圧空成形装置を用い、上下ヒーター温度380℃にて、タテ12cm、ヨコ22cm、深さ4cmの箱型容器を作成した。容器成形性、外観を表2に示す。
【0120】
(実施例2)
(1)重合反応
図2に示す2台の重合槽を備えた重合反応装置を用いて気相重合を行った。重合器10では、第1重合工程として、プロピレン系重合体(B1)を、重合器2では、第2重合工程として、オレフィンランダム重合体(B2)の重合反応を行った。2台の重合器10及び重合器20は、内径D:340mm、長さL:1260mm、回転軸の径:90mm、内容積:110dmの攪拌機を備えた連続式横型気相重合器(長さ/直径=3.7)である。
重合器10内を窒素で置換後、500μm以下の重合体粒子を除去したポリプロピレン粉末(平均粒径1500μm)を25kg導入し、実施例1で用いた予備活性化触媒を0.50g/h(ただし予備重合ポリマー分は除く)、またトリエチルアルミニウム(15重量%n−ヘキサン溶液形態で)およびジイソプロピルジメトキシシランを触媒成分(A)中のTi原子に対しそれぞれモル比で90および10となるように触媒成分供給配管1,2より連続的に供給した。また、重合器10内のプロピレンに対する水素量の割合がモル比で0.05となるように水素を原料補給配管4から供給し、重合器10内の圧力が2.15MPa、温度が65℃を保つようにプロピレンモノマーを原料プロピレン補給配管3から重合器10内に供給した。反応熱は、原料プロピレン補給配管3から供給される原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器10から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜き出し配管13を通して反応器系外に抜き出し、凝縮器15にてその一部を凝縮させ、気液分離槽11で液相と気相に分離した。液相部は重合熱除去のため原料液化プロピレン補給配管17へ導入され、気相部は、水素が供給される原料補給配管4へ導入されて水素と混合され、圧縮機16で加圧されて重合器10底部に設置された原料混合ガス供給配管18を通して重合器10に還流した。重合器10内で生成したプロピレン系重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の50容量%となるように重合体抜き出し配管19を通して重合器10から連続的に抜き出し、重合体供給配管50を通して第2重合工程の重合器20に供給した。
その際、重合器10内で生成したプロピレン系重合体の一部を別途抜き出して測定した結果、予備活性化で生成したエチレン系重合体(E)の含有率は1.19重量%であった。
【0121】
重合器20内に、重合器10内からの重合体、プロピレン、エチレンガス、水素ガスを連続的に供給し、オレフィンランダム共重合体(B2)の製造を実施した。反応条件は、攪拌速度25rpm、温度65℃、圧力2.0MPaで行った。また、反応熱は原料プロピレン補給配管5から供給される原料液化プロピレンの気化熱で除去した。重合器20から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜き出し配管23を通して反応器系外に抜き出し、凝縮器25にてその一部を凝縮させ、気液分離槽21で液相と気相に分離した。液相部は重合熱除去のため原料液化プロピレン補給配管27へ導入され、気相部は、水素が供給される原料補給配管6へ導入されて水素と混合され、圧縮機26で加圧されて重合器20底部に設置された原料混合ガス供給配管28を通して重合器20に還流した。
第2重合工程で生成したオレフィンランダム重合体(B2)は、重合体の保有レベルが反応容積の60容量%となるように重合体抜き出し配管29を通して重合器20から連続的に抜き出した。
プロピレン系重合体の生産速度は10.1kg/hであった。得られたプロピレン系重合体組成物の分析結果を表1に示す。
第2重合工程終了後の重合体(本発明でいう「プロピレン系重合体(B)」に該当)、および、第1、2重合工程で得られた分析結果を表1に示す。また、本発明で言う「プロピレン系重合体(B)」の生成量は、第2重合工程終了後の重合体の生成量から、予備重合で得られたポリプロピレンと予備活性化で得られたエチレン系重合体(E)の生成量を差し引くことにより算出した。
【0122】
実施例1と同様に造粒(溶融混練)、発泡成形を行った。実施例1と同様にして得た発泡成形体の分析結果を表2に示す。
【0123】
(実施例3)
実施例2で、第2重合工程での重合器2内への水素ガスの供給を停止した以外は、実施例2と同様に行った。
重合器1内で生成したプロピレン系重合体の一部を抜き出して測定した結果、[η]は0.85dl/gであり、予備活性化で生成したエチレン系重合体(E)の含有率は1.21重量%であった。
【0124】
実施例1と同様に造粒(溶融混練)、発泡成形を行った。実施例1と同様にして得た発泡成形体の分析結果を表2に示す。
【0125】
(比較例1)
比較例1は、実施例1においてチタン含有触媒調製、プロピレンによる予備重合終了後、引き続くエチレンによる予備活性化処理を行わなかった。それ以外は、実施例1に準拠してプロピレン系重合体を得た。また、得られたプロピレン系重合体を用いて、実施例1に準拠して造粒(溶融混練)後、発泡成形体を成形した。該プロピレン系重合体および得られた発泡成形体の分析値を表1及び表2に示す。
【0126】
実施例1と同様にして得た試験片の引き裂き断面をSEMで観察した。このSEM像を図5に示す。
【0127】
(比較例2)
比較例1は、実施例2においてチタン含有触媒調製、プロピレンによる予備重合終了後、引き続くエチレンによる予備活性化処理を行わなかったこと以外は、実施例1に準拠してプロピレン系重合体を得た。また、得られたプロピレン系重合体を用いて、実施例1に準拠して造粒(溶融混練)後、発泡成形体を成形した。該プロピレン系重合体および得られた発泡成形体の分析値を表1及び表2に示す。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
表2より、比較例による発泡成形体は、二次発泡倍率が高すぎたり、或いはさらに独立気泡率が低い上に、外観も良好でないのに対し、実施例による発泡成形体は、二次発泡倍率、独立気泡率及び外観のすべてが良好であることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明のプロピレン系重合体組成物は、発泡成形に好適な溶融特性を有し、種々の用途に用いることができるが、特に押出発泡成形、射出発泡成形などの発泡成形分野に有利に用いることができ、また、本発明の発泡体は、発泡倍率、二次発泡倍率、独立気泡率等の発泡特性に優れ、かつ外観が良好であって、生鮮食品や加工食品用の包装材、特にカップラーメンやアイスクリーム等用の容器、魚、肉等用のトレー等あるいは自動車用部品、例えばドアトリム、インストルメントパネル等の自動車内装部品、サイドプロテクトモール、バンパー、ソフトフェイシア、マッドガード等の自動車外装部品として使用することができるので、産業上大いに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の製造方法に用いる重合反応装置の配置の一例を表す概略図。
【図2】本発明の製造方法に用いる重合反応装置の配置の別の一例を表す概略図。
【図3】実施例1の試験片の引き裂き断面のSEM像(拡大倍率=4000倍)。
【図4】実施例1の試験片の引き裂き断面のSEM像(拡大倍率=60000倍)。
【図5】比較例1の試験片の引き裂き断面のSEM像。
【符号の説明】
【0133】
1、2 触媒成分供給配管
3、5 原料プロピレン補給配管
4、6 原料補給配管
10、20 重合器
11、21 気液分離槽
13、23 未反応ガス抜出し配管
15、25 凝縮機
16、26 圧縮機
17、27 原料液化プロピレン補給配管
18、28 原料混合ガス供給配管
19、29 重合体抜出し配管
50 重合体供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン系重合体と、太さが0.2ミクロン以下の繊維状物とを含有し、かつ繊維状物が10ミクロンの長さの間に少なくとも1個の枝分かれ点を有することを特徴とするプロピレン系重合体組成物。
【請求項2】
繊維状物がエチレン系重合体(E)より構成され、その極限粘度が15dl/g以上であることを特徴とする請求項1記載のプロピレン系重合体組成物。
【請求項3】
下記の工程(Ep)に引き続き、工程(Pp)を行うことを特徴とする請求項1または2記載のプロピレン系重合体組成物の製造方法。
工程(Ep):
(I)チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分とする固体成分と(II)有機アルミニウム化合物と(III)電子供与体とから形成されてなるオレフィン重合用触媒の存在下に、−40〜40℃の範囲で、0.1〜5MPaの圧力となるように徐々に昇圧しながら、エチレンを重合するか或いはエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合して固体成分(I)1gに対して0.01〜2000gのエチレン系重合体(E)を製造する予備活性化工程。
工程(Pp):
工程(Ep)で得られたエチレン系重合体(E)を含むオレフィン重合用触媒の存在下に、プロピレンを重合するか或いはプロピレンとエチレン及び炭素数4〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1種以上のコモノマーとを共重合してプロピレン系重合体を製造する工程。
【請求項4】
前記工程(Ep)において、0.1MPa以下の低圧状態から反応を開始し、0.04〜0.2MPa/hの速度で徐々に昇圧することを特徴とする請求項3記載のプロピレン系重合体組成物の製造方法。
【請求項5】
工程(Ep)に先立って、下記の工程(Ap)を行うことを特徴とする請求項3または4記載のプロピレン系重合体組成物の製造方法。
工程(Ap):(I)チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分とする固体成分と(II)有機アルミニウム化合物と(III)電子供与体とから形成されてなるオレフィン重合用触媒の存在下に、プロピレンを重合して、固体成分(I)1gに対して0.01〜100gのポリプロピレンを製造する予備重合工程。
【請求項6】
プロピレン系重合体100重量部に対する工程Epで得られたエチレン系重合体の割合が0.2〜5.0重量部であることを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のプロピレン系重合体組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2記載のプロピレン系重合体組成物を用いて発泡成形させてなる発泡成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−155921(P2010−155921A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334731(P2008−334731)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】