説明

ヘッドカバー固定構造

【課題】ヘッドカバーの幅方向の中心位置をボルトで締結する形式であっても、センタリング機能と良好なシール性とを同時に実現し得るようにしたヘッドカバー固定構造を提供する。
【解決手段】ヘッドカバー1の幅方向の中心位置をボルト2によりシリンダヘッド3側へ締結したヘッドカバー固定構造であって、前記ボルト2のボルトヘッド2a下部に備えた防振ゴム8に、下方向きに縮径するテーパ形状の凸部8aを形成すると共に、該防振ゴム8を受けるヘッドカバー1側の座面に、前記凸部8aに対応したテーパ形状の凹部1aを形成し、前記防振ゴム8の凸部の円周方向にリップ部8bをリング状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダヘッド上面を被覆するヘッドカバー固定構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンのシリンダヘッド上面を被覆してエンジンオイルの飛散を防ぐヘッドカバーは、シリンダヘッドから振動が伝達されることで騒音を発してしまうため、シリンダヘッドとヘッドカバーとの間にゴムのガスケットを介在させ、これによりシリンダヘッドに対しヘッドカバーを浮かせて振動の伝達を遮断するようにしている。
【0003】
しかも、シリンダヘッドに対しヘッドカバーをボルトで締結するにあたっては、該ボルトを介してシリンダヘッドからの振動が伝わらないように、ボルトのヘッドカバー側への当接面に防振ゴムを装備し、該防振ゴムの介在により前記ボルトとヘッドカバーとを縁切り(いわゆるフローティング)の状態としている。
【0004】
例えば、図4に示す如く、ヘッドカバー1の外周をボルト2で締結する形式の場合には、シリンダヘッド3上にガスケット4を介しヘッドカバー1を浮かせて振動の伝達を遮断すると共に、このガスケット4より外側へ張り出すシリンダヘッド3及びヘッドカバー1のフランジ5,6相互をボルト2によりスリーブ状のスペーサ7を介して締結するようにしており、しかも、このボルト2のボルトヘッド2a下部に防振ゴム8を装着し、該防振ゴム8の介在により前記ボルト2及びスペーサ7とヘッドカバー1とを縁切りの状態としている。
【0005】
また、図5に示す如く、部品点数の削減や組立時間の短縮を図るために、ヘッドカバー1の幅方向(図5中の左右方向)の中心位置をボルト2で締結する形式の場合には、シリンダヘッド3上にガスケット4を介しヘッドカバー1を浮かせて振動の伝達を遮断すると共に、該ヘッドカバー1の幅方向の中心位置に開口したボルト孔9を通してボルト2及びスペーサ7を挿入し、該スペーサ7により決まる所定の締め込み位置までボルト2をシリンダヘッド3側の締結部3aに対し締め込んで締結するようにしており、しかも、このボルト2のボルトヘッド2a下部に防振ゴム8を装着し、該防振ゴム8の介在により前記ボルト2及びスペーサ7とヘッドカバー1とを縁切りの状態としている。
【0006】
ここで、図4のように、ヘッドカバー1の外周をボルト2で締結する形式においては、ボルト2がガスケット4よりも外側に配置されているため、特に防振ゴム8にシール性が要求されることはなく、防振ゴム8に下方向きに縮径するテーパ形状を付し且つこれを受けるフランジ5,6側の座面にも同様のテーパ形状を付してセンタリング機能(位置決め機能)を持たせることがある。
【0007】
一方、図5のように、ヘッドカバー1の幅方向の中心位置をボルト2で締結する形式においては、ヘッドカバー1内のエンジンオイルに対するシール性を確保しなければならないため、防振ゴム8の下部を平坦面とし且つヘッドカバー1のボルト孔9周囲の座面も平坦面として平面同士で当接するようにし、両者の接触面積を大きくとってシール性を確保するようにしている。
【0008】
この場合、シリンダヘッド3とヘッドカバー1との位置決めは、ボルト2締結箇所以外の場所で行われることになるが、適当な位置決めのための構造が存在しない場合には、防振ゴム8に下方向きに縮径するテーパ形状を付し且つこれを受けるヘッドカバー1側の座面にも同様のテーパ形状を付してセンタリング機能(位置決め機能)を持たせたいという要望がある。
【0009】
尚、この種のヘッドカバー固定構造に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−246152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、ヘッドカバー1の幅方向の中心位置をボルト2で締結する形式において、防振ゴム8に下方向きに縮径するテーパ形状を付し且つこれを受けるヘッドカバー1側の座面にも同様のテーパ形状を付してセンタリング機能を持たせようとすると、防振ゴム8側と座面側とでテーパ面同士の密着によりシールが行われることになるため、両者のテーパ面の角度のバラツキ等によりシールの面圧分布が不均一になり易く、防振ゴム8側と座面側の接触が片当たりの状態となって良好なシール性が確保できない虞れがあった。
【0012】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、ヘッドカバーの幅方向の中心位置をボルトで締結する形式であっても、センタリング機能と良好なシール性とを同時に実現し得るようにしたヘッドカバー固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ヘッドカバーの幅方向の中心位置をボルトによりシリンダヘッド側へ締結したヘッドカバー固定構造であって、前記ボルトのボルトヘッド下部に備えた防振ゴムに、下方向きに縮径するテーパ形状の凸部を形成すると共に、該防振ゴムを受けるヘッドカバー側の座面に、前記凸部に対応したテーパ形状の凹部を形成し、前記防振ゴムの凸部の円周方向にリップ部をリング状に形成したことを特徴とするものである。
【0014】
而して、このようにすれば、ボルトヘッド下部の防振ゴムに、下方向きに縮径するテーパ形状の凸部が形成され、ヘッドカバー側の座面に、前記凸部に対応したテーパ形状の凹部が形成されているので、ボルトの締結の際にセンタリング機能が発揮されてヘッドカバーの位置決めが成される。
【0015】
また、前記防振ゴムの凸部の円周方向に、リップ部がリング状に形成されているので、防振ゴム側の凸部と座面側の凹部との間でテーパ面の角度等にバラツキがあったとしても、前記凸部の円周方向に形成されているリップ部の張り出しにより前記テーパ面相互の隙間が埋められて前記リップ部が全周に亘り座面側の凹部と接触することになり、しかも、従来の面接触から線接触に変わることでシール面の面圧も高められるので、前記リップ部により良好なシール性が確保されることになる。
【0016】
また、本発明においては、複数のリップ部を同心状に形成することが好ましく、このようにすれば、複数のリップ部で多重にシールが行われることになり、リップ部を一重で形成した場合よりもシール性が大幅に向上される。
【発明の効果】
【0017】
上記した本発明のヘッドカバー固定構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0018】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、ヘッドカバーの幅方向の中心位置をボルトで締結する形式であっても、ボルトの締結の際にセンタリング機能を発揮させてヘッドカバーの位置決めを行うことができ、しかも、防振ゴムの凸部に形成したリップ部を全周に亘り座面側の凹部に接触させ且つシール面の面圧を高めて良好なシール性を確保することができる。
【0019】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、複数のリップ部を同心状に形成し、複数のリップ部で多重にシールを行うようにしているので、リップ部を一重で形成した場合よりもシール性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
【図2】図1の要部の詳細を拡大して示す断面図である。
【図3】図1の防振ゴムの底面図である。
【図4】従来のヘッドカバー固定構造の一例を示す断面図である。
【図5】従来のヘッドカバー固定構造の別の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1〜図3は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図1は本形態例の断面図、図2は図1の要部の詳細を拡大して示す断面図、図3は図1の防振ゴムの底面図を夫々示しており、図5と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0023】
本形態例においては、前述した図5の従来の場合と同様に、ヘッドカバー1の幅方向(図1中の左右方向)の中心位置をボルト2によりシリンダヘッド3側へ締結する形式を採用しており、シリンダヘッド3上にガスケット4を介しヘッドカバー1を浮かせて振動の伝達を遮断すると共に、該ヘッドカバー1の幅方向の中心位置に開口したボルト孔9を通してボルト2及びスペーサ7を挿入し、該スペーサ7により決まる所定の締め込み位置までボルト2をシリンダヘッド3側の締結部3aに対し締め込んで締結するようにしているが、前記ボルト2のボルトヘッド2a下部に備えた防振ゴム8に、下方向きに縮径するテーパ形状の凸部8aを形成すると共に、該防振ゴム8を受けるヘッドカバー1側の座面に、前記凸部8aに対応したテーパ形状の凹部1aを形成しており、しかも、前記防振ゴム8の凸部8aの円周方向にリング状のリップ部8bを同心状に複数形成した構成を新たに採用している。
【0024】
而して、このようなヘッドカバー構造とすれば、ボルトヘッド2a下部の防振ゴム8に、下方向きに縮径するテーパ形状の凸部8aが形成され、ヘッドカバー1側の座面に、前記凸部8aに対応したテーパ形状の凹部1aが形成されているので、ボルト2の締結の際にセンタリング機能が発揮されてヘッドカバー1の位置決めが成される。
【0025】
また、前記防振ゴム8の凸部8aの円周方向に、リップ部8bがリング状に形成されているので、防振ゴム8側の凸部8aと座面側の凹部1aとの間でテーパ面の角度等にバラツキがあったとしても、前記凸部8aの円周方向に形成されているリップ部8bの張り出しにより前記テーパ面相互の隙間が埋められて前記リップ部8bが全周に亘り座面側の凹部1aと接触することになり、しかも、従来の面接触から線接触に替わることでシール面の面圧も高められるので、前記各リップ部8bにより良好なシール性が確保されることになる。
【0026】
従って、上記形態例によれば、ヘッドカバー1の幅方向の中心位置をボルト2で締結する形式であっても、ボルト2の締結の際にセンタリング機能を発揮させてヘッドカバー1の位置決めを行うことができ、しかも、防振ゴム8の凸部8aに形成した各リップ部8bを全周に亘り座面側の凹部1aに接触させ且つシール面の面圧を高めて良好なシール性を確保することができる。
【0027】
また、特に本形態例においては、複数のリップ部8bを同心状に形成し、複数のリップ部8bで多重にシールを行うようにしているので、リップ部8bを一重で形成した場合よりもシール性を大幅に向上させることができる。
【0028】
尚、本発明のヘッドカバー固定構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
1 ヘッドカバー
1a 凹部
2 ボルト
2a ボルトヘッド
3 シリンダヘッド
8 防振ゴム
8a 凸部
8b リップ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッドカバーの幅方向の中心位置をボルトによりシリンダヘッド側へ締結したヘッドカバー固定構造であって、前記ボルトのボルトヘッド下部に備えた防振ゴムに、下方向きに縮径するテーパ形状の凸部を形成すると共に、該防振ゴムを受けるヘッドカバー側の座面に、前記凸部に対応したテーパ形状の凹部を形成し、前記防振ゴムの凸部の円周方向にリップ部をリング状に形成したことを特徴とするヘッドカバー固定構造。
【請求項2】
複数のリップ部を同心状に形成したことを特徴とする請求項1に記載のヘッドカバー固定構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−52585(P2011−52585A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201764(P2009−201764)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】