説明

ヘッドレストを備える椅子

【課題】傾動可能なヘッドレストを備える椅子において、ヘッドレストに対する頭部の位置ズレの抑制効果の向上を図る。
【解決手段】椅子1は、着座者Pの背部を支えるバックレスト4と、着座者Pの頭部Paを支えるヘッドレスト5と、ヘッドレスト5を傾動可能に支持すると共にバックレスト4に対してヘッドレスト5を傾動させる傾動機構と、該傾動機構を制御する制御装置40とを備える。制御装置40は、着座者Pが着座姿勢と仰臥姿勢との間で姿勢を変える過程で、頭部Paの解剖学的な傾動に倣う倣い傾動をヘッドレスト5に行わせるように、前記傾動機構を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バックレストに対して傾動可能なヘッドレストを備える椅子に関する。そして、該椅子は、例えば歯科診療において使用される歯科用椅子である。
【背景技術】
【0002】
ヘッドレストを備える椅子、例えば診療を目的として使用される椅子においては、歯科用椅子に代表されるように、ヘッドレストは、着座している人(着座者)の頭部を、診療しやすい位置で、しかも着座者にとって楽な姿勢で支える必要がある。この要請に応える椅子として、着座者の頸椎を仮想回動中心として回動するヘッドレストを備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭59−42024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、着座者の頭部の傾動は、着座者の身体的特徴(例えば、頸骨、身長、首の長さなど)に応じて異なるため、単に頸椎に位置する仮想回動中心を中心とした円弧運動をヘッドレストに行わせるだけでは、ヘッドレストの傾動が必ずしも実際の頭部の傾動に対応せず、頭部が傾動する過程で頭部とヘッドレストとの間に位置ズレが発生する。
【0005】
また、傾動可能なバックレストを備える椅子が使用される場合、着座姿勢の着座者に仰臥姿勢での頭部の傾倒位置(歯科では、顎を突き上げて開口させた位置)を取らせることは、着座者に無理な姿勢を強いることになる。一方、着座者が着座姿勢と仰臥姿勢との間で姿勢を変える際に、姿勢を変える度にヘッドレストの位置を設定し直すのでは、椅子の使い勝手が悪くなる。
【0006】
さらに、ヘッドレストが傾動するとき、ヘッドレストに対する頭部の位置ズレを抑制するためには、着座者の頭部に対するヘッドレストの初期位置決めが重要である。しかしながら、この初期位置決めに手間がかかると、やはり椅子の使い勝手が悪くなる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、傾動可能なヘッドレストを備える椅子において、ヘッドレストに対する頭部の位置ズレの抑制効果の向上を図ることを目的とする。
そして、本発明は、さらに、ヘッドレストの倣い傾動(すなわち、着座者の頭部の解剖学的な傾動に倣った傾動)の設定の容易化を図ることを目的とする。
本発明は、さらに、頭部の位置ズレを抑制するためのヘッドレストの初期の位置決めの容易化を図り、または、ヘッドレストまたはバックレストの所望の位置への移動の容易化を図り、以てヘッドレストを備える椅子の使い勝手を良好にすることを目的とする。
本発明は、さらに、バックレスト内に支持装置が収納される椅子において、椅子のバックレストを厚さ方向で小型化しながら、ヘッドレストの傾動範囲の拡大が容易な支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、座部(3)に着座した着座者(P)の背部を支えるバックレスト(4)と、前記着座者(P)の頭部(Pa)を支えるヘッドレスト(5)と、前記ヘッドレスト(5)を傾動可能に支持すると共に前記バックレスト(4)に対して前記ヘッドレスト(5)を傾動させる支持装置(7)と、前記支持装置(7)を制御する制御装置(40)とを備える椅子において、前記制御装置(40)は、前記頭部(Pa)の解剖学的な傾動に倣う倣い傾動を前記ヘッドレスト(5)に行わせるように、前記支持装置(7)を制御する椅子である。
これによれば、制御装置が制御する支持装置は、頭部の解剖学的な傾動に沿った傾動である倣い傾動を行うようにヘッドレストを駆動するので、ヘッドレストが傾動するときに、ヘッドレストに対する頭部の位置ズレを抑制できる。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の椅子において、前記バックレスト(4)は傾動可能であり、前記ヘッドレスト(5)は、傾動する前記バックレスト(4)に連動して傾動し、前記倣い傾動は、前記着座者(P)が着座姿勢と仰臥姿勢との間で姿勢を変える過程での前記解剖学的な傾動に倣うものである。
これによれば、着座者の姿勢を着座姿勢と仰臥姿勢との間で変えるためにバックレストが傾動する過程でヘッドレストがバックレストと共に傾動するとき、ヘッドレストは、着座姿勢と仰臥姿勢との間で姿勢を変える過程での解剖学的な頭部の傾動に沿って傾動する。この結果、着座者の頸椎に負担をかけることなく、着座者を、着座姿勢での自然な状態から仰臥姿勢での自然な状態に誘導することができる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の椅子において、前記倣い傾動は、人(H)の頭部(Ha)が解剖学的に傾動するときの前記人(H)の頭部(Ha)の所定部位の移動軌跡に基づいて設定される運動であり、前記所定部位は、前記着座者(P)の前記頭部(Pa)における前記ヘッドレスト(5)との接触部位(Pc)に相当する部位である。
これによれば、ヘッドレストの倣い傾動は、人の頭部が解剖学的に傾動するときの、該人の頭部の解剖学的な傾動を反映しているので、ヘッドレストの傾動時における着座者の頭部の位置ズレを効果的に抑制することができる。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の椅子において、前記所定部位は盆の窪(Hb)であるものである。
これによれば、倣い傾動を設定する際に指標となる人の頭部の所定部位が盆の窪であることにより、着座者の盆の窪およびその付近の領域である盆の窪領域は、ヘッドレストに対する頭部の位置ズレが少ない部位になる。そして、盆の窪領域は、頭部において判別しやすい部位であることから、盆の窪領域内での部位とヘッドレストとが接触していることの確認が容易になって、着座者に対するヘッドレストの初期の位置決めが容易になり、ヘッドレストを備える椅子の使い勝手が良好になる。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載の椅子において、前記支持装置(7)は前記バックレスト(4)内に収納され、前記支持装置(7)は、前記ヘッドレスト(5)を支持するステー(11)に固定された被案内部(13)と、前記被案内部(13)が円弧運動を含む前記倣い傾動をするように前記被案内部(13)を案内する案内部(12)と、アクチュエータにより駆動されて前記バックレスト(4)に沿って移動する被動部材(18)と、前記被案内部(13)および前記被動部材(18)とを連結する1つのリンク体(19)とを備え、前記被案内部(13)は、前記ステー(11)の移動経路よりも径方向外方に前記移動経路に隣接して位置するものである。
これによれば、ヘッドレストの傾動範囲を規定する案内部および被案内部は、ステーの移動経路の径方向外方に配置されるので、案内部および被案内部がステーの移動経路の径方向内方に位置する場合に比べて、被案内部の移動範囲を大きくできて、ヘッドレストの傾動範囲の拡大が容易な支持装置が得られる。
しかも、被案内部とステーの移動経路とが径方向で隣接して配置されるので、バックレストの厚さ方向で案内部および被案内部とステーとをコンパクトに配置することができて、支持装置を収納するバックレストを厚さ方向で小型化できる。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項記載の椅子において、前記支持装置(7)は、前記ヘッドレスト(5)を前記バックレスト(4)に対して昇降させる昇降機構(20)を備えるものである。
これによれば、首の長さや身長などの身体的特徴が大きく異なる着座者に対しても、昇降機構によりヘッドレストを昇降させてその位置を調整することで、ヘッドレストの倣い傾動による頭部の位置ズレ抑制に関して良好な効果が得られる。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項記載の椅子において、前記バックレスト(4)を傾動させると共に前記制御装置(40)により制御されるバックレスト用傾動機構(8)と、前記ヘッドレスト(5)および前記バックレスト(4)のうちの少なくとも1つの部材の位置を設定位置として前記制御装置(40)に記憶させる位置設定スイッチ(61,62)と、位置操作スイッチ(54,55)とを備え、前記制御装置(40)は、前記位置操作スイッチ(54,55)の操作に基づいて、前記少なくとも1つの部材を前記設定位置に移動させるように、前記支持装置(7)および前記バックレスト用傾動機構(8)を制御するものである。
これによれば、位置設定スイッチおよび位置操作スイッチにより、ヘッドレストまたはバックレストの位置を簡単に所望の位置に設定することができて、ヘッドレストを備える椅子の使い勝手が良好になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、傾動可能なヘッドレストを備える椅子において、ヘッドレストに対する頭部の位置ズレの抑制効果の向上が可能になる。
また、本発明によれば、頭部の位置ズレを抑制するためのヘッドレストの初期の位置決めの容易化、および、ヘッドレストまたはバックレストの所望の位置への移動の容易化が可能になって、ヘッドレストを備える椅子の使い勝手を良好することができる。
さらに、本発明によれば、支持装置がバックレスト内に収納される椅子において、椅子のバックレストを厚さ方向で小型化しながら、ヘッドレストの傾動範囲の拡大が容易な支持装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る椅子の、着座位置での要部側面図であり、一部が模式的に示されている。
【図2】図1の椅子のバックレストの一部を破断した要部斜視図である。
【図3】図2の要部背面図である。
【図4】図3の主にIV−IV線矢視での椅子の傾動機構の図である。
【図5】人の頭部の傾動、およびそれに伴う頸椎の動きを説明する図である。
【図6】図1の椅子の、仰臥位置での要部側面図である。
【図7】図1の椅子において、着座者の姿勢が着座姿勢から仰臥姿勢に移行するときのヘッドレストおよび着座者の頭部の傾動の様子を示す図である。
【図8】本発明の実施例に係る傾動機構の他の構成を示す断面図である。
【図9】本発明の実施例に係る傾動機構における直線移動を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図1〜図7を参照して説明する。
図1を参照すると、本発明の実施形態に係る椅子1は、医療用椅子として歯科診療に使用される歯科用椅子であり、台座2と、該台座2に支持されると共に人が着座する座部3と、台座2に支持されると共に座部3に着座した人としての患者(以下、「着座者P」という。)の背部を支えるバックレスト4と、バックレスト4に支持されると共に着座者Pの頭部Paを支えるヘッドレスト5と、着座者Pの脚部を支えるレッグレスト6と、バックレスト4に対してヘッドレスト5を傾動可能に支持する支持装置7(図2も参照)と、座部3に対してバックレスト4を傾動可能に支持するバックレスト用傾動機構8(図1に模式的に示されている。)と、座部3の高さを調整する高さ調整機構9(図1に模式的に示されている。)と、支持装置7、傾動機構8および高さ調整機構9を制御する制御装置40と、操作者(例えば、医師)により操作されて座部3、バックレスト4およびヘッドレスト5の位置を設定するための操作部Sとを備える。
ここで、高さ調整機構9、傾動機構8および支持装置7は、座部3、バックレスト4およびヘッドレスト5を駆動する駆動装置を構成する。
【0018】
座部3を上下方向に移動させる高さ調整機構9は、台座2内に配置されて制御装置40により制御されるアクチュエータ9a(例えば、油圧シリンダ)を備える。座部3は、該アクチュエータ9aにより駆動されて、着座者Pの身長に合うように、台座2に対して上下方向で位置調整される。
【0019】
バックレスト4は、座部3に対して延伸方向に延伸していると共に、その内部にバックレスト4の骨格となる基体4a(図2参照)を有する。延伸方向は、座部3からヘッドレスト5に向かってバックレスト4に沿う方向に平行な方向であり、左右方向から見て(以下、「側面視」という。)、板状の基体4aが有する主要平面4bに平行な方向である。
【0020】
バックレスト4を傾動させる傾動機構8は、台座2内に配置されて制御装置40により制御されるアクチュエータ8a(例えば、油圧シリンダ)を備える。バックレスト4は、アクチュエータ8aにより駆動されて、着座者Pが着座姿勢(代表的には、図1に示される姿勢である。)をとる着座位置と、着座者Pが仰臥姿勢(代表的には、図6に実線で示される椅子1の仰臥位置での姿勢である。)をとる仰臥位置との間で連続的に傾動可能である。
【0021】
椅子1における座部3、バックレスト4およびヘッドレスト5の位置に関し、この実施形態では、着座位置は、着座者Pが椅子1に着座して診療の準備が完了したときの位置であり、仰臥位置は診療位置であり、したがって仰臥姿勢は診療姿勢であるとする。また、導入位置は、着座者Pが椅子1に着座するときの位置であって、着座位置になる前の位置であり、退出位置は、診療が終了して着座者Pが椅子1から離座するときの位置であるとする。
着座位置では、頭部Paが接触する凹状の支持面5a(図4,図7参照)を有するヘッドレスト5は、バックレスト4よりも前方に位置する。また、診療姿勢では、着座者Pは、顎を突き上げた開口状態を、楽にとることができる。
【0022】
図2,図3を参照すると、バックレスト4に設けられてヘッドレスト5を支持する支持装置7は、基体4aに設けられてヘッドレスト5を傾動させるヘッドレスト用傾動機構10と、基体4aに設けられると共に傾動機構10をバックレスト4に対して支持する支持機構としての昇降機構20とを備える。昇降機構20は、バックレスト4に対して、傾動機構10を移動可能に支持すると共に該傾動機構10を駆動して延伸方向に昇降させる。傾動機構10および昇降機構20は、後記するステー11と、各支持フレーム21aの一部とを除いて、その大部分においてバックレスト4内に収納されている。
【0023】
図4を併せて参照すると、傾動機構10は、バックレスト4から延出していてヘッドレスト5と一体化されて該ヘッドレスト5を支持するステー11と、昇降機構20の1対の支持フレーム21aにそれぞれ設けられたカムとしてのカム溝12aを有する案内部としての1対の案内部材12と、各カム溝12aに係合するカムフォロアとしての1対のローラ13aを有すると共にステー11に設けられた被案内部としての1対の被案内部材13と、1対の被案内部材13を駆動するアクチュエータとしての傾動用電動モータ14と、支持フレーム21aに固定されて設けられる電動モータ14の駆動力を被案内部材13に伝達する傾動用伝達機構15とを備える。したがって、各被案内部材13はカム溝12aに案内されて移動する。
【0024】
ヘッドレスト5とバックレスト4との間で延びている円弧状のステー11は、基端部11aで1対の被案内部材13と結合されて固定され、先端部11bでヘッドレスト5と結合されて固定される。一体化されたヘッドレスト5、ステー11および各被案内部材13のそれぞれの移動経路を規定するカム溝12aは、後記する仮想回動中心Cを中心とする円弧状に形成されることから、1対の案内部材12は、ヘッドレスト5、ステー11および各被案内部材13に、後記倣い傾動である円弧運動を行わせる。そして、該円弧運動は、この実施形態では、仮想回動中心Cを中心とすると共に後記距離D(図7参照)が一定の回動運動である。なお、別の例として、被案内部材13は、カム機構以外の構造を通じて案内部材12により案内されてもよい。
【0025】
伝達機構15は、1対の支持フレーム21aに固定されたホルダ16に回転可能に支持されると共に電動モータ14により回転駆動される駆動部材としてのネジ棒17と、該ネジ棒17に螺合することでネジ棒17により駆動されてネジ棒17の軸方向に移動する被動部材としてのスライダ18と、スライダ18と被案内部材13とを連結するリンク機構である1つのリンク体を構成する1対のリンク19を備える。各リンク19は、その両端部で、枢軸19aにより被案内部材13およびスライダ18にそれぞれ枢着される。そして、カム溝12aおよび1対のリンク19により、スライダ18の運動である延伸方向での直線運動が、各被案内部材13の円弧運動、したがって該被案内部材13と一体のステー11およびヘッドレスト5の円弧運動に変換される。
【0026】
図4に示されるように、被案内部材13およびカム溝12aは、ステー11の移動経路よりも、仮想回動中心Cを中心とする径方向で外方に、かつ移動経路に隣接して位置し、着座位置の前後方向で後方に位置する。そして、円弧運動による傾動範囲は、傾倒位置において、着座位置でヘッドレスト5が最も前方に位置する最小傾倒位置(例えば、図1,図4に実線で示される位置であり、バックレスト4から最も延出するステー11の最大進出位置でもある。)と、ヘッドレスト5が最も後方に位置する最大傾倒位置(例えば、図4に二点鎖線で、図6に実線で、それぞれ示される位置であり、ステー11がバックレスト4内に最も後退した最小進出位置でもある。)とにより規定される。そして、バックレスト4が最小傾倒位置から傾動したときの角度である傾倒角度は、最大傾倒位置において最大角度となる。
各リンク19の全体は、前記傾動範囲において、側面視で、ほぼ、各支持フレーム21a内のみで移動し、支持フレーム21a外にほとんど突出しないので、着座位置にある椅子1の前後方向でのバックレスト4の厚みが、傾動機構10に起因して大きくなることが防止される。
【0027】
図2を参照すると、昇降機構20は、傾動機構10を支持すると共に基体4aに対して移動可能な支持部材21(図3も参照)と、基体4aに固定されて設けられると共に支持部材21を駆動するアクチュエータとしての昇降用電動モータ22と、電動モータ22の駆動力を支持部材21に伝達する昇降用伝達機構23とを備える。
支持部材21は、1対の支持フレーム21aと、1対の支持フレーム21aの間に配置された案内部材12、被案内部材13および伝達機構15を背後から覆うカバー(図示されず)とを備える。1対の支持フレーム21aは、左右方向で1対のリンク19および1対の被案内部材13を挟んで配置される。
【0028】
伝達機構23は、軸受24を介して基体4aに回転可能に支持されると共に電動モータ22により回転駆動される駆動部材としてのネジ棒25と、両支持フレーム21aを挟んで配置されると共に基体4aに固定されて設けられる案内部材である1対の案内ロッド26と、各案内ロッド26に移動可能に支持されると共に両支持フレーム21aにそれぞれ連結された1対の可動ホルダ27と、一方の可動ホルダ27に一体に結合されると共にネジ棒25に螺合することで該ネジ棒25により駆動されてネジ棒25の軸方向に移動する被動部材としてのスライダ28とを備える。
各支持フレーム21a、各ネジ棒25および各案内ロッド26は、延伸方向に平行に配置される。
【0029】
図1,図2を参照すると、高さ調整機構9および傾動機構8により、座部3およびバックレスト4がそれぞれ位置調整された後に、ヘッドレスト5が傾動機構10および昇降機構20の各電動モータ14,22により駆動されて、盆の窪Pb(図7参照)およびその上方付近および下方付近を含む領域である所定領域としての盆の窪領域における部位が、頭部Paにおける接触部位Pcとして、ヘッドレスト5と接触部Aで接触するように、着座者Pの身体的特徴(例えば、首の長さ、身長および座高)に応じて位置調整されることで、着座位置、したがって着座姿勢が得られる。
前記盆の窪領域は頭部Paにおいて判別しやすい部位であることから、該盆の窪領域内での前記接触部位Pcがヘッドレスト5と接触していることの確認は、椅子1の位置調整を行う操作者(例えば、医師)にとって容易である。
【0030】
次に、仮想回動中心Cについて説明する。
図1,図6に示されるように、着座者Pが着座姿勢(図1参照)から仰臥姿勢(図6参照)まで姿勢を変える過程において、頭部Paは着座者Pの後側に傾動する。
一方、図5を参照すると、一般に、人Hがその頭部Haを後側または前側に傾動させるとき、該頭部Haの傾動が外部の物体(例えば、ヘッドレスト付き椅子に着座しているときの該ヘッドレスト)により妨げられない状態(以下、「自然状態」という。)のときには、頸椎30に支えられた頭部Haは、頸椎30が後側または前側に湾曲することに伴って、後側または前側に傾動する。
以下、前記自然状態での人H(着座者Pも含まれる。)の頭部Ha(頭部Paも含まれる。)のこの傾動を頭部Haおよび頭部Paの「解剖学的な傾動」という。
【0031】
そして、頭部Haが解剖学的に傾動するとき、図5に示されるように、頭部Haの所定部位としての盆の窪Hbの移動軌跡は、特定位置としての仮想中心Chを中心とした円弧R上に位置する。なお、図5には、一例として、頭部Haが解剖学的に傾動する過程の一部での5つの盆の窪Hbの位置が示され、頭部Haおよび頸椎30については、図の煩雑化を避けるために、代表して2つの位置(実線および二点鎖線でそれぞれ示される。)が示されている。
ここで、前記所定部位は、着座者P(図1参照)の頭部Paの接触部位Pcに相当する部位であり、盆の窪Hbは、盆の窪Pb(図7参照)に相当する部位である。
【0032】
このことから、仮想中心Chを仮想回動中心Cとする円弧運動をヘッドレスト5に行わせると共に、着座者Pを、その頭部Paとヘッドレスト5との接触部Aにおいて、前記盆の窪領域の接触部位Pcがヘッドレスト5と接触する着座姿勢に導くことにより、後記連動選択スイッチ63を通じてバックレスト4とヘッドレスト5との連動が選択された状態で、バックレスト4の傾動に応じて着座者Pが着座姿勢(図1参照)から仰臥姿勢(図6参照)まで姿勢を変える過程の全体において、ヘッドレスト5に対する頭部Paの位置ズレを抑制すること、最良には該位置ズレをほぼなくすことが可能になる。
【0033】
そこで、図1,図2,図4に示されるように、椅子1においては、制御装置40が傾動機構10(図2参照)を制御することで、着座者Pの頭部Paとヘッドレスト5との接触部Aが頭部Paの解剖学的な傾動に倣って傾動するように、傾動機構10がヘッドレスト5を駆動して、頭部Paの解剖学的な傾動に倣った傾動(以下、「倣い傾動」という。)をヘッドレスト5に行わせている。
したがって、前記倣い傾動は、人Hの頭部Haが解剖学的に傾動するときの該頭部Haの所定部位の移動軌跡に基づいて設定される運動である。
ここで、「倣う」には、解剖学的な傾動に「ほぼ倣う」または「近似的に倣う」ことが含まれる。
なお、人Hの頭部Ha(図5参照)の解剖学的な傾動は、人Hが起立している場合および着座している場合で、ほぼ同様の動きになるが、本発明においては、倣い傾動が、着座している人における頭部Haの解剖学的な傾動の移動軌跡に基づいて設定される方が好ましい。
【0034】
このように、ヘッドレスト5に、前記倣い傾動、この実施形態では仮想回動中心Cを中心とした円弧運動を行わせることにより、図6,図7に示されるように、バックレスト4の傾動による着座姿勢から中間姿勢を経て仰臥姿勢までの姿勢の変化の過程(または、椅子1が着座位置から中間位置を経て仰臥位置まで変化する過程)において、傾動するバックレスト4と連動して傾動するヘッドレスト5に対して接触部Aをほぼ一定の位置に維持することができて、着座者Pには、頭部Paが自然に傾倒する感覚を持たせることができる。なお、中間姿勢(中間位置)(図6に二点鎖線で示される。)は、着座姿勢(着座位置)と仰臥姿勢(仰臥位置)との間での姿勢(位置)である。
【0035】
そして、図7に示されるように、この椅子1において、盆の窪Pbがヘッドレスト5と接触部Aで接触する場合に、その場合の接触部Aと仮想回動中心Cとの距離Dは、好ましくは、115mm〜140mmの範囲内の値に設定される。ここで、距離Dは、大多数の人が該当することになる普通人として、身長が150cmから180cmの人を想定したときの値として設定され、身長が150cmの人に対応した距離Dは115mm、身長が180cmの人に対応した距離Dは140mmである。
したがって、この普通人に該当しない人に対しては、距離Dを115mm〜140mmの範囲以外の値に設定することにより、本発明が適用されることになる。
また、仮想中心Chは、頸椎30(図5参照)を構成する第1〜第7頸椎31〜37のうちの、第2〜第6頸椎32〜36またはその近傍に位置し、そのうち第3頸椎33またはその近傍に位置することがある。
【0036】
図1を参照すると、基体4aに取り付けられてバックレスト4内に配置される制御装置40(図1には模式的に示されている。)は、コンピュータから構成される制御部41および記憶装置42と、位置検出手段43とを備える。
制御部41は、位置検出手段43および操作部Sから入力される信号に基づいて各電動モータ14,22(図2参照)を駆動する駆動制御手段を備える。
位置検出手段43は、バックレスト4の傾動位置を検出する傾動位置検出手段44と、ヘッドレスト5の傾動位置を検出する傾動位置検出手段45と、ヘッドレスト5の昇降位置を検出する昇降位置検出手段46とを含む。各位置検出手段44〜46は、例えば、ロータリエンコーダ、リニアエンコーダまたはホール素子を利用した磁気センサにより構成される。
【0037】
操作部Sは、診療器具などが置かれる器具載置用テーブル(図示されず)に設けられる位置操作スイッチ50および位置設定スイッチ60と、ヘッドレスト5に設けられるヘッドレスト用位置操作スイッチ70とを含む。
位置操作スイッチ50は、椅子1を導入位置および退出位置である初期位置に戻すために操作される初期位置スイッチ51と、初期位置にある座部3の高さを調整するための座部調整スイッチ52と、初期位置にあるバックレスト4の傾動位置を調整するためのバックレスト調整スイッチ53と、着座者Pがうがいをする際にバックレスト4およびヘッドレスト5をうがい位置(この実施形態では、着座位置である。)に移動させるうがい位置スイッチ54と、うがいが終了したときにバックレスト4およびヘッドレスト5を元の診療位置に戻すための診療戻りスイッチ55とを含む。この実施形態では、うがい位置スイッチ54および診療戻りスイッチ55は、1つの2位置スイッチにより構成される。
【0038】
図2,図3を参照すると、ヘッドレスト5を昇降および傾動させる十字スイッチである操作スイッチ70は、傾動スイッチおよび昇降スイッチを構成する。具体的には、上端部および下端部を択一的に押すことにより、電動モータ22により駆動された1対の支持フレーム21aが昇降し、左端部および右端部を択一的に押すことにより、電動モータ14により駆動されたステー11が支持フレーム21aに対して進退して傾動する。
【0039】
図1を参照すると、座部3、バックレスト4およびヘッドレスト5の各位置を設定位置として記憶装置42への記憶と該記憶装置42からの消去を行う位置設定スイッチ60は、着座者P毎に着座位置を設定することが可能な着座位置設定スイッチ61と、例えば診療しやすい位置に医師が設定することが可能な診療位置設定スイッチ62と、バックレスト4とヘッドレスト5の連動および非連動を選択する連動選択スイッチ63とを含む。
【0040】
着座位置設定スイッチ61により、着座者Pの頭部Paの前記盆の窪領域での接触部位Pcが接触部Aでヘッドレスト5に接触するときのヘッドレスト5の位置であるヘッドレスト初期設定位置(傾倒位置および昇降位置が含まれる。)と、そのときのバックレスト4および座部3の各位置との記憶および消去が行われる。そして、うがい位置スイッチ54が操作されたときの位置は、着座位置設定スイッチ61により設定された着座位置である。
【0041】
また、診療位置設定スイッチ62により、着座者Pに対して診療が行われるときのヘッドレスト5、バックレスト4および座部3のそれぞれの位置の記憶および消去が行われる。そして、診療戻りスイッチ55が操作されたときの位置は、診療位置設定スイッチ62により設定された診療位置である。
【0042】
連動選択スイッチ63によりバックレスト4およびヘッドレスト5の連動が選択されたとき、ヘッドレスト5の傾動とバックレスト4の傾動とが所定の連動関係で、例えば比例関係を有する連動関係(例えば、ヘッドレスト5の傾動角度の変化量に対するバックレスト4の傾動角度の変化量の比が一定になる連動関係)で、連動する。これにより、図6,図7に示されるように、椅子1が着座位置から仰臥位置に移行する過程で、バックレスト4の傾動量が連続的に大きくなるほど、ヘッドレスト5の傾動量が連続的に大きくなる。
また、連動選択スイッチ63によりバックレスト4およびヘッドレスト5の非連動が選択されたとき、バックレスト4およびヘッドレスト5の互いに独立した傾動が可能になる。
【0043】
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
バックレスト4に対してヘッドレスト5を傾動させる傾動機構10を制御する制御装置40を備え椅子1において、制御装置40は、着座者Pの頭部Paの解剖学的な傾動に倣う倣い傾動をヘッドレスト5に行わせるように、傾動機構10を制御する。
この構造により、制御装置40に制御された支持装置7の傾動機構10が、倣い傾動を行うようにヘッドレスト5を駆動するので、ヘッドレスト5が傾動するときに、ヘッドレスト5に対する頭部Paの位置ズレを抑制できる。
【0044】
バックレスト4は傾動可能であり、ヘッドレスト5は傾動するバックレスト4に連動して傾動し、倣い傾動は、着座者Pが着座姿勢と仰臥姿勢との間で姿勢を変える過程での解剖学的な頭部Paの傾動に倣う。
これにより、着座者Pの姿勢を着座姿勢と仰臥姿勢との間で変えるためにバックレスト4が傾動する過程でヘッドレスト5がバックレスト4と共に傾動するとき、ヘッドレスト5は、着座姿勢と仰臥姿勢との間で姿勢を変える過程での解剖学的な頭部Paの傾動に沿って傾動する。この結果、着座者Pの頸椎30に負担をかけることなく、着座者Pを、着座姿勢での自然な状態から仰臥姿勢での自然な状態に誘導することができる。
【0045】
倣い傾動は、人Hの頭部Haが解剖学的に傾動するときの該頭部Haの所定部位の移動軌跡に基づいて設定される運動であり、前記所定部位は、着座者Pの頭部Paにおけるヘッドレスト5との接触部位Pcに相当する部位である。
これにより、ヘッドレスト5の倣い傾動は、人Hの頭部Hが解剖学的に傾動するときの、該人Hの頭部Haの解剖学的な傾動を反映しているので、ヘッドレスト5の傾動時における着座者Pの頭部Paの位置ズレを効果的に抑制することができる。
【0046】
倣い傾動は、傾動する頭部Haの盆の窪Hbの移動軌跡に基づいて設定される仮想中心Chを仮想回動中心Cとする円弧運動であることにより、ヘッドレスト5の倣い傾動の基準点である仮想回動中心Cを頭部Haの解剖学的な傾動を盆の窪Hbの移動軌跡に基づいて容易に設定することができる。また、仮想回動中心Cを、頸椎30の位置に限定することなく、頸椎30以外の位置にも設定することが可能になるので、バックレスト4およびヘッドレスト5の設計の自由度が大きくなる。さらに、ヘッドレスト5の倣い傾動が円弧運動であることにより、ヘッドレスト5に倣い傾動を行わせる支持装置7の構造が簡単になり、椅子1のコストを削減できる。
【0047】
仮想回動中心Cを設定する際に指標となる前記所定部位が人Hの盆の窪Hbであることにより、着座者Pの盆の窪Pbおよびその付近の領域である前記盆の窪領域は、ヘッドレスト5に対する頭部Paの位置ズレが少ない部位になる。そして、前記盆の窪領域は、頭部Paにおいて判別しやすい部位であることから、前記盆の窪領域内での部位(すなわち、接触部位Pc)とヘッドレスト5とが接触していることの確認が容易になって、着座者Pに対するヘッドレスト5の初期の位置決めが容易になり、ヘッドレスト5を備える椅子1の使い勝手が良好になる。
【0048】
盆の窪Pbとヘッドレスト5との接触部Aと、仮想回動中心Cとの距離Dは、115mm〜140mmであることにより、着座者Pの身体的特徴である身長が異なる場合にも、ヘッドレスト5に対する頭部Paの位置ズレ抑制に関して良好な効果が得られる。
【0049】
支持装置7はバックレスト4内に収納され、支持装置7は、ヘッドレスト5を支持するステー11に固定された被案内部材13と、被案内部材13が円弧運動含む前記倣い傾動をするように被案内部材13を案内する案内部材12と、電動モータ14により駆動されてバックレスト4に沿って延伸方向に移動するスライダ18と、被案内部材13およびスライダ18とを連結する1つのリンク体を構成する1対のリンク19とを備え、被案内部材13は、円弧運動をするときのステー11の移動経路よりも径方向外方に該移動経路に隣接して位置する。
この構造により、ヘッドレスト5の傾動範囲を規定する案内部材12および被案内部材13は、ステー11の移動経路の径方向外方に配置されるので、案内部材12および被案内部材13がステー11の移動経路の径方向内方に位置する場合に比べて、被案内部材13の移動範囲を大きくできる。この結果、バックレスト4内に支持装置7が収納される椅子1において、ヘッドレスト5の傾動範囲の拡大が容易な傾動機構10が得られる。
しかも、被案内部材13とステー11の移動経路とが径方向で隣接して配置されるので、バックレスト4の厚さ方向で案内部材12および被案内部材13とステー11とをコンパクトに配置することができて、傾動機構10を備える支持装置7を収納するバックレスト4を厚さ方向で小型化できる。
【0050】
支持装置7は、ヘッドレスト5をバックレスト4に対して昇降させる昇降機構20を備えることにより、首の長さや身長などの身体的特徴が大きく異なる着座者Pに対しても、昇降機構20によりヘッドレスト5を昇降させてその位置を調整することで、ヘッドレスト5の倣い傾動による頭部Paの位置ズレ抑制に関して良好な効果が得られる。
【0051】
椅子1が、ヘッドレスト5およびバックレスト4の位置を設定位置として制御装置40に記憶させる位置設定スイッチ60としての着座位置設定スイッチ61および診療位置設定スイッチ62と、位置操作スイッチ50としてのうがい位置スイッチ54および診療戻りスイッチ55とを備え、制御装置40は、うがい位置スイッチ54および診療戻りスイッチ55の操作に基づいて、ヘッドレスト5およびバックレスト4を設定位置としてのうがい位置および診療位置にそれぞれ移動させるように、各傾動機構8,10を制御する。
この構造により、着座位置設定スイッチ61および診療位置設定スイッチ62およびうがい位置スイッチ54および診療戻りスイッチ55で、ヘッドレスト5およびバックレスト4の位置を簡単に所望の位置に設定することができて、ヘッドレスト5を備える椅子1の使い勝手が良好になる。
【0052】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態について、変更した構成に関して説明する。
前記実施形態では、昇降機構20は制御装置40により制御されて、着座位置が設定されたが、制御装置40によることなく、操作者のマニュアル操作により着座位置が設定され、その後、制御装置40が、倣い傾動をヘッドレスト5に行わせるように、傾動機構10の電動モータ14を制御してもよい。
ヘッドレスト5およびバックレスト4が連動して運動することなく、互いに独立に運動してもよい。したがって、バックレスト4が固定された状態にあるとき、ヘッドレスト5のみが傾動するものであってもよい。
仮想回動中心Cを設定するときの人Hの頭部Haの所定部位は、盆の窪Hb以外の部位であってもよい。この場合、前記盆の窪領域に相当する部位は、頭部Haの解剖学的な傾動において盆の窪Hbに近似した動きをすることから、前記所定部位として、より好ましい。
人Hの頭部Haの前記所定部位によっては、頭部Haの解剖学的な傾動時の該所定部位が、1つの仮想回動中心Cを中心とする円弧R上に位置せずに、複数の円弧を含む複合曲線上または1以上の直線および1以上の円弧を含む複合曲線上に位置することがある。この場合、倣い傾動は、1つの仮想回動中心Cおよび一定の距離Dを中心とする円弧運動以外の運動、例えば、距離Dおよび仮想回動中心Cの位置の少なくとも一方が変化する複数の円弧運動を含む複合運動(例えば、楕円の一部である円弧運動)であってもよく、また、1以上の直線運動および1以上の円弧運動を含む複合運動であってもよい。このような複合運動は、ヘッドレスト用傾動機構の案内部(例えば、カム溝)の構造、または、該案内部と昇降機構との組合せにより実現可能である。
椅子1には、座部調整スイッチ52、バックレスト調整スイッチ53、うがい位置スイッチ54および診療戻りスイッチ55のいずれか1つまたは複数が設けられてもよく、また着座位置設定スイッチ61および診療位置設定スイッチ62のいずれか1つが設けられてもよく、さらに着座位置設定スイッチ61または診療位置設定スイッチ62は、ヘッドレスト5およびバックレスト4のいずれかの位置を設定するものでもよい。
本発明に係る椅子は、医療用以外の椅子であってもよい。
【0053】
前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態(変形例)において、頭部Haの解剖学的な傾動時の該所定部位が、直線運動と円弧運動を組み合わせた運動をする場合の具体的な実施例について、さらに図8と図9を参照しながら詳細に説明する。
図8は、本実施例を説明するための図であり、傾動時の所定部位が直線運動と円弧運動を組み合わせた運動をする場合の椅子の傾動機構の構成を示す断面図である。図9は、本実施例に係る直線移動の長さを説明するための概念図であり、バックレストを着座姿勢(図1参照)から仰臥姿勢(図7参照)まで傾動させる場合におけるヘッドレストと頭部とのずれを説明するための概念図である。
【0054】
前述した実施形態では、図4に示すように、頭部Haの解剖学的な傾動時の該所定部位(例えば、図5に示す盆の窪Hb)が、1つの仮想回動中心Cを中心とする円弧R(図5参照)上に位置するのに対し、本実施例では、図8に示すように、ヘッドレスト5で支持する着座者Pの盆の窪Pbが、ヘッドレスト5で支持したままバックレスト4(図1参照)に対して直線L上を下方に移動してから仮想回動中心Cを中心とする円弧R上を移動する点で相違する。
【0055】
以下、この相違点について説明し、前記した実施形態と共通する点については詳細な説明を省略する。本実施例では、図8に示すように、支持フレーム21a′に形成されたカム溝12a′は、バックレスト4に沿う方向(図8の上下方向)に直線状に形成された直線部12a1′と、この直線部12a1′から下方に連接し仮想回動中心Cを中心とする円弧状に形成された円弧部12a2′と、を備えている。
かかる構成により、ローラ13aは直線部12a1′と円弧部12a2′に沿って移動するため、ヘッドレスト5は、バックレスト4(図1参照)に対して、直線部12a1′に沿って下方(バックレスト4に沿う方向)に直線移動してから、円弧部12a2′に沿って仮想回動中心Cを中心として円弧移動する。
【0056】
つまり、本実施例は、例えば、図9に示すように、座部3に対するバックレスト4の回転中心C4と座部3に着座した着座者Pの腰の回転中心CPとがずれている場合には、着座姿勢P1から仰臥姿勢P2までバックレスト4を傾動させると、バックレスト4の回転中心C4を中心として傾動するヘッドレスト5と着座者Pの腰の回転中心CPを中心として傾動する頭部Paとの間にずれδが生じるため、直線部12a1′によりヘッドレスト5をバックレスト4に対して直線移動させることで、仰臥姿勢P2での自然な状態に着座者Pを誘導してずれδから生じる着座者Pの違和感を解消したものである。
なお、図9では、説明の便宜上、ずれδを誇張して表現したが、バックレスト4の回転中心C4と着座者Pの腰の回転中心CPとを合わせるように歯科用椅子1(図1参照)を構成してもよい。
【0057】
このように、本実施例は、図8と図9に示すように、傾動するバックレスト4に連動してヘッドレスト5が傾動する場合において、倣い傾動が、着座姿勢P1と仰臥姿勢P2との間で姿勢を変える過程での解剖学的な傾動に倣うようにヘッドレスト5の移動軌跡を補正したものである。
したがって、本実施例ではヘッドレスト5を直線移動および円弧移動させたが、同様にして必要とする盆の窪Pbの軌跡に倣って、支持フレーム21a′に形成されたカム溝12a′の形状を直線や種々の曲線で組み合わせて適宜設定することで、ヘッドレスト5に対する着座者Pの頭部Paの位置ずれを確実に抑制することができる。
【0058】
なお、本実施例では、バックレスト4の傾動動作に連動させてヘッドレスト5を移動させたが、これに限定されるものではなく、バックレスト4の傾動動作に連動させずに、そのままの安楽状態でまずバックレスト4を傾動させてから、ヘッドレスト5を独立して直線移動および円弧移動させてもよい。また、ヘッドレスト5の直線移動は、着座姿勢P1(図9参照)と仰臥姿勢P2における頭部ずれを解消させることができればよいので、ヘッドレスト5を円弧移動させてから直線移動させてもよく、必要な直線移動を複数回に分割して実施してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 椅子
4 バックレスト
5 ヘッドレスト
7 支持装置
8,10 傾動機構
20 昇降機構
30 頸椎
40 制御装置
50 位置操作スイッチ
60 位置設定スイッチ
S 操作部
P 着座者
Pa 頭部
Pb 盆の窪
Pc 接触部位
H 人
Ha 頭部
Hb 盆の窪
C 仮想回動中心
A 接触部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部に着座した着座者の背部を支えるバックレストと、前記着座者の頭部を支えるヘッドレストと、前記ヘッドレストを傾動可能に支持すると共に前記バックレストに対して前記ヘッドレストを傾動させる支持装置と、前記支持装置を制御する制御装置とを備える椅子において、
前記制御装置は、前記頭部の解剖学的な傾動に倣う倣い傾動を前記ヘッドレストに行わせるように、前記支持装置を制御することを特徴とする椅子。
【請求項2】
前記バックレストは傾動可能であり、
前記ヘッドレストは、傾動する前記バックレストに連動して傾動し、
前記倣い傾動は、前記着座者が着座姿勢と仰臥姿勢との間で姿勢を変える過程での前記解剖学的な傾動に倣うことを特徴とする請求項1記載の椅子。
【請求項3】
前記倣い傾動は、人の頭部が解剖学的に傾動するときの前記人の頭部の所定部位の移動軌跡に基づいて設定される運動であり、
前記所定部位は、前記着座者の前記頭部における前記ヘッドレストとの接触部位に相当する部位であることを特徴とする請求項1または2記載の椅子。
【請求項4】
前記所定部位は盆の窪であることを特徴とする請求項3記載の椅子。
【請求項5】
前記支持装置は前記バックレスト内に収納され、
前記支持装置は、前記ヘッドレストを支持するステーに固定された被案内部と、前記被案内部が円弧運動を含む前記倣い傾動をするように前記被案内部を案内する案内部と、アクチュエータにより駆動されて前記バックレストに沿って移動する被動部材と、前記被案内部および前記被動部材とを連結する1つのリンク体とを備え、
前記被案内部は、前記ステーの移動経路よりも径方向外方に前記移動経路に隣接して位置することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の椅子。
【請求項6】
前記支持装置は、前記ヘッドレストを前記バックレストに対して昇降させる昇降機構を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の椅子。
【請求項7】
前記バックレストを傾動させると共に前記制御装置により制御されるバックレスト用傾動機構と、前記ヘッドレストおよび前記バックレストのうちの少なくとも1つの部材の位置を設定位置として前記制御装置に記憶させる位置設定スイッチと、位置操作スイッチとを備え、
前記制御装置は、前記位置操作スイッチの操作に基づいて、前記少なくとも1つの部材を前記設定位置に移動させるように、前記支持装置および前記バックレスト用傾動機構を制御することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−16583(P2012−16583A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122736(P2011−122736)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000141598)株式会社吉田製作所 (117)
【Fターム(参考)】