説明

ポリイミドフィルム、ポリイミド金属積層体及びその製造方法

【課題】金属層の密着性が高く、高密度回路基板材料に適するポリイミド金属積層体を提供する。
【解決手段】過マンガン酸塩含むアルカリ性水溶液によって表面処理されたことを特徴とするポリイミドフィルム。好ましくは、該アルカリ性水溶液には水酸化物が含まれる。また、該ポリイミドフィルムの表面に熱可塑性ポリイミド層を設け、該熱可塑性ポリイミド層の外側に金属層を形成したことを特徴とするポリイミド金属積層体、ならびに該ポリイミド金属積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルム、ならびに該ポリイミドフィルムを用いたポリイミド金属積層体およびその製造方法に関する。詳しくは、ポリイミドフィルムと金属層との接着層を介する密着性が良好で、高密度回路基板材料に適するポリイミド金属積層体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド金属積層体は、主として回路基板材料として使用され、プリント配線板用基材、一体型サスペンション基材、ICパッケージ用配線基材、面状発熱体、LCD用配線基材等に用いられている。近年、電子機器が小型化、高密度化されるに伴い、部品・素子の高密度実装が可能な、ポリイミド金属積層体の利用が増大している。さらに、回路を高密度化するため、回路パターンの線幅を10μm〜50μmとする微細化が図られており、そのため金属層のポリイミドフィルムへの密着性の優れたポリイミド金属積層体が望まれていた。この回路基板材料の用途においては、通常、種々の接着剤を介してポリイミドフィルムと金属箔(例えば、銅箔)とが接着されて用いられている。ところが、ポリイミドフィルムはその化学構造及び高度な耐薬品(溶剤)安定性により、接着剤を介したとしても銅箔との接着性が不十分な場合が多いことから、現状ではポリイミドフィルムに各種の表面処理(たとえばカップリング剤塗布処理、サンドブラスト処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、アルカリ処理など)を施した後、接着剤を介して金属箔を接着している。
【0003】
カップリング剤塗布処理により表面処理されたポリイミドフィルムは、Si残渣により電気特性が低下する可能性がある。また、サンドブラスト処理はポリイミドフィルムに付着した研磨剤を除くための洗浄工程に問題を残す。一方、コロナ放電処理、およびプラズマ処理は、その装置の簡便さからフィルム製膜装置への組み込み(インライン化)も可能であり、有利な処理であって若干の密着性の改善が認められている。しかし、コロナ放電またはプラズマ処理されたポリイミドフィルムに、接着剤としてポリイミド系の接着剤を用いて金属箔を接着した場合には、密着性の改善は全く認められず、実用的な処理として問題があった。
【0004】
また、ポリイミドフィルムの表面をアルカリエッチングすることで、金属層との密着性を改善できる技術も知られている(特許文献1等参照)。しかし、密着性に関して特許文献1に記載されている内容は、単純なアルカリ性水溶液でポリイミドフィルムを処理するだけで密着性が良くなるとの記載のみであり、そのアルカリエッチング液組成について何ら検討されておらず、場合によっては密着性が低下する場合があった。
【特許文献1】特表2004−533723号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポリイミド系接着剤によって金属箔が高い密着性で接着されうるポリイミドフィルムを提供すること、および該ポリイミドフィルム上に形成されたポリイミド系接着剤からなる層上に、金属層を配置することにより、金属層とポリイミドフィルムの密着性に優れたポリイミド金属積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を改善するために鋭意検討した結果、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液によって表面処理されたポリイミドフィルムが、ポリイミド系の接着剤によって密着性よく金属箔と接着することを見いだして本発明にいたった。
さらに、ポリイミドフィルム、ポリイミドフィルムに接する熱可塑性ポリイミドを含む層、および熱可塑性ポリイミドを含む層の外側に配置された金属層を有するポリイミド金属積層体に、このポリイミドフィルムを適用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明にいたった。
【0007】
すなわち、本発明の第一は、以下のポリイミドフィルムに関する。
[1] ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムであって、過マンガン酸塩含むアルカリ性水溶液によって表面処理されたポリイミドフィルム。
[2] 前記アルカリ性水溶液はさらに水酸化物を含む、[1]に記載のポリイミドフィルム。
[3] 前記アルカリ性水溶液に含まれる過マンガン酸塩と水酸化物の重量比率は、9:1〜2:8である、[2]に記載のポリイミドフィルム。
[4] 前記過マンガン酸塩が、過マンガン酸カリウムおよび過マンガン酸ナトリウムの少なくともいずれか一方であり、かつ前記水酸化物が、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムの少なくともいずれか一方である、[2]または[3]に記載のポリイミドフィルム。
[5] 前記ポリイミドフィルムは、酸二無水物成分とジアミン成分の重縮合体であるポリイミドを含み、該酸二無水物成分の50モル%以上は下記一般式(1)で示される酸二無水物であり、かつ該ジアミン成分の50モル%以上は下記一般式(4)で示されるジアミンである、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0008】
【化1】


(式(1)において、Aは下記式(2)または下記一般式(3)を示す。)
【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
【化4】


(式(4)において
nは0もしくは1の整数を示し、
−X−は−O−、−NHC(=O)−、または直接結合を示し、
Rは水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、または低級アルコキシ基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【0012】
[6] 前記ポリイミド系接着剤は、熱可塑性ポリイミドもしくは熱可塑性ポリイミド前駆体、および下記一般式(5)で示されるビスマレイミドを含む、[1]〜[5]のいずれかに記載のポリイミドフィルム。
【0013】
【化5】


(式(5)において
mは0〜4の整数を示し、
−Y−は−O−、−SO−、−S−、−CO−、または直接結合を示し、複数のYがある場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
R1は水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、かつベンゼン環を構成するそれぞれ別個の炭素に結合している。)
【0014】
[7] 前記ビスマレイミドは下記一般式(5’)で示される、[6]に記載のポリイミドフィルム。
【0015】
【化6】


(式(5’)において
mは0〜4の整数を示し、
−Y−は−O−、−SO−、−S−、−CO−、または直接結合を示し、複数のYがある場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
R1は水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、かつベンゼン環を構成するそれぞれ別個の炭素に結合している。)
【0016】
本発明の第二は、以下のポリイミド金属積層体、およびその製造方法に関する。
[8] [1]に記載のポリイミドフィルム、前記ポリイミドフィルムの両面または片面に配置された、熱可塑性ポリイミドを含む層、および前記熱可塑性ポリイミドを含む層の外側に配置された金属層を含む、ポリイミド金属積層体。
[9] [1]に記載のポリイミドフィルムを用意する工程、前記ポリイミドフィルムの片面または両面にポリイミド系接着剤を塗布して熱可塑性ポリイミドを含む層を形成する工程、および前記熱可塑性ポリイミドを含む層の外側に金属層を形成する工程、を含むポリイミド金属積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、ポリイミド系接着剤を介して接着された金属箔との密着性が高いポリイミドフィルムを得ることができる。また、そのポリイミドフィルムを用いることで、高密度回路の基板材料に適するポリイミド金属積層体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下において、本発明のポリイミドフィルム、ならびにポリイミド金属積層体、およびポリイミド金属積層体の製造方法を詳細に説明する。
【0019】
1.本発明のポリイミドフィルム
本発明のポリイミドフィルムは、その片面または両面が、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液によって表面処理されていることを特徴とする。
【0020】
本発明のポリイミドフィルムの材質は、特に限定されるものではないが、非熱可塑性ポリイミドフィルムを含む樹脂組成物からなるフィルムであることが好ましい。樹脂組成物に含まれる非熱可塑性ポリイミドは、酸二無水物成分とジアミン成分を含む原料組成物の重縮合体である。原料組成物に含まれる酸二無水物成分とジアミン成分のモル比率は、酸二無水物成分:ジアミン成分が、0.95:1.00〜1.00:0.95であることが好ましく、より好ましくは1.00:1.00〜0.985:1.00である。
【0021】
非熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれる酸二無水物成分には、下記一般式(1)で示される酸二無水物が含まれることが好ましい。より好ましくは、酸二無水物成分の50モル%以上が、一般式(1)で示される酸二無水物である。一般式(1)において、Aは下記式(2)または一般式(3)で示される基である。
【0022】
【化7】

【0023】
【化8】

【0024】
【化9】

【0025】
一般式(1)で示される酸二無水物の好ましい例には、ピロメリット酸二無水物およびビフェニルテトラカルボン酸二無水物などが含まれる。
【0026】
非熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれる酸二無水物成分は、一種類の酸二無水物であってもよいが、二種以上の酸二無水物の組み合わせであってもよい。また、原料組成物に含まれる酸二無水物成分は、一般式(1)で示される酸二無水物以外の酸二無水物をも含むことができる。その含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であって、酸二無水物成分の50モル%未満であることが好ましい。
【0027】
一方、非熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれるジアミン成分には、下記一般式(4)で示されるジアミンが含まれることが好ましい。より好ましくは、ジアミン成分の50モル%以上が、一般式(4)で示されるジアミンである。一般式(4)において、nは0または1の整数を示す。−X−は−O−,−NHC(=O)−、または直接結合を示す。Rは水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基を示し、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0028】
【化10】

【0029】
一般式(4)で示されるジアミンの好ましい例には、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノ-2,2'-ジメチルビフェニル、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルビフェニル、2-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド等が含まれる。
【0030】
非熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれるジアミン成分は、一種類のジアミンであってもよいが、二種以上のジアミンの組み合わせであってもよい。また、原料組成物に含まれるジアミン成分には、一般式(4)で示されるジアミン以外のジアミンをも含まれうる。その含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であって、ジアミン成分の50モル%未満であることが好ましい。
【0031】
これらの原料組成物から得られるポリイミドフィルムを使用することによって、より本発明の効果を享受することが可能である。
【0032】
本発明において表面処理されるポリイミドフィルムは、市販されているポリイミドフィルムであってもよく、例えば、ユーピレックス(登録商標)S、ユーピレックス(登録商標)SGA、ユーピレックス(登録商標)SN(宇部興産株式会社製、商品名)、カプトン(登録商標)H、カプトン(登録商標)V、カプトン(登録商標)EN(東レ・デュポン株式会社製、商品名)、アピカル(登録商標)AH、アピカル(登録商標)NPI、アピカル(登録商標)NPP、アピカル(登録商標)HP((株)カネカ製、商品名)等が挙げられる。
【0033】
本発明のポリイミドフィルムの厚みは、特に制限はなく、それから製造されるポリイミド金属積層体の用途などに応じて適宜選択すればよいが、5〜250μmであることが好ましい。
【0034】
前述の通り本発明のポリイミドフィルムは、その表面を、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液により処理されていることを特徴とするが、処理されるポリイミドフィルムの表面は、片面または両面のいずれでもよい。
【0035】
ポリイミドフィルムの表面処理に用いられるアルカリ性水溶液は、過マンガン酸塩を含み、かつアルカリ性であればよい。アルカリ性水溶液のpHは9以上であることが好ましい。アルカリ性水溶液に含まれる過マンガン酸塩の好ましい例には、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウムなどが含まれ、これらを単独で、または二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
またアルカリ性水溶液は、過マンガン酸塩および水酸化物を含む水溶液であることが好ましい。水酸化物の好ましい例には、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが含まれるが、これらを単独で、または二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
アルカリ性水溶液に含まれる過マンガン酸塩と水酸化物の重量比率は、9:1〜2:8の範囲であることが好ましく、8:2〜3:6の範囲であることがより好ましく、7:3〜6:4の範囲であることがさらに好ましい。
【0038】
ポリイミドフィルムの表面処理に用いられるアルカリ性水溶液における過マンガン酸塩と水酸化物の含有量は、その合計重量が、水溶液全体の重量に対して、3%以上であることが好ましく、4%〜30%の範囲であることが好ましく、5%〜20%の範囲であることが好ましく、6%〜15%であることがよりさらに好ましい。
【0039】
アルカリ性水溶液には、さらにその他の任意の成分が含まれていてもよい。
【0040】
ポリイミドフィルムの表面をアルカリ性水溶液で処理する手段は特に限定されないが、例えば、該ポリイミドフィルムをバッチ式の槽などに入れられたアルカリ性水溶液に浸漬する方法;該ポリイミドフィルムにアルカリ性水溶液をスプレーまたはシャワーによって噴霧または吹きつける方法が挙げられる。また、搬送可能なロール・トゥ・ロール方式で連続的に処理してもよい。
【0041】
過マンガン酸は酸化作用により燃焼または爆発する危険を有するため、ポリイミドフィルムを処理するとき、アルカリ性水溶液の温度を80℃以下とすることが望ましく、50℃〜80℃の範囲とすることが好ましく、70℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
処理時間は、処理に用いられるアルカリ性水溶液の温度などに応じて適宜選択される。アルカリ性水溶液の温度を上げることにより、処理能力が向上して処理時間は短縮される。例えば液の温度が50℃以上であれば0.5分〜20分程度であり、50℃以下であれば5分〜40分程度でありうる。いずれにしても、処理されたポリイミドフィルムの表面には、ポリイミド系接着剤が塗布されうるので、塗布された接着剤が接着性よく接着するように処理されればよい。処理時間が過剰に長いと、接着剤による接着性が低下するなどの不具合が生じることがある。水溶液の温度は処理装置によって調整されることが好ましい。
【0042】
本発明のポリイミドフィルムは、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液によって表面処理される前に、膨潤処理されていてもよい。膨潤処理は、アルカリ性の溶液によってなされうる。膨潤処理により、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液による表面処理の処理能力が向上されうる。
また本発明のポリイミドフィルムは、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液によって表面処理された後に、還元処理をされていてもよい。還元処理は、還元剤を含む溶液によってなされうる。還元処理により、フィルム表面に残留した過マンガン酸や反応副生物が除去されうる。
【0043】
本発明のポリイミドフィルムの表面は、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液による表面処理に加えて、プラズマ処理、コロナ放電処理などを施されていてもよい。プラズマ処理、コロナ放電処理などは、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液による表面処理の前もしくは後、または同時に行ってもよい。
【0044】
本発明のポリイミドフィルムは任意の用途で用いられるが、その表面処理されたフィルム面は、その面上に配置されるポリイミド系接着剤との接着性が高いという特徴を有する。ポリイミド系接着剤とは、少なくとも熱可塑性ポリイミドまたは熱可塑性ポリイミド前駆体を含む。したがって、本発明のポリイミドフィルムは、その少なくとも一方の面にポリイミド系接着剤を塗布されるなどして熱可塑性ポリイミドを含む層(接着層)を形成され、さらに金属層を形成されることによって、ポリイミド金属積層体とされることが好ましい。
【0045】
2.本発明のポリイミド金属積層体
本発明のポリイミド金属積層体は、前述の本発明のポリイミドフィルム;前記ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に設けられた熱可塑性ポリイミドを含む層(以下において、この層を「熱可塑性ポリイミド層」と称することがある);および熱可塑性ポリイミド層の外側に配置された金属層を含む。本発明のポリイミド金属積層体は、前記ポリイミドフィルムの表面処理された面に、熱可塑性ポリイミド層および金属層が積層されていればよく、片面だけに積層されていても、両面に積層されていてもよい。
【0046】
本発明のポリイミド金属積層体に含まれる熱可塑性ポリイミド層は、フィルムと金属層との密着性を高める接着層となりうる。本発明のポリイミド金属積層体は、少なくとも一層の熱可塑性ポリイミド層を有していればよく、二層以上の熱可塑性ポリイミド層を有していてもよい。熱可塑性ポリイミド層の厚み(複数の熱可塑性ポリイミド層がある場合は、それらの層の厚みの合計)は、製造されるポリイミド金属積層体の使用目的により選択され制限はないが、0.5μm〜10μmの範囲が好ましい。
【0047】
本発明のポリイミド金属積層体に含まれる熱可塑性ポリイミド層は、熱可塑性ポリイミドを含有する樹脂組成物からなる層である。樹脂組成物には、熱可塑性ポリイミドに加えて、ビスマレイミドが含有されていてもよい(ビスマレイミドについては後述)。
【0048】
熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分とを含む原料組成物を重縮合反応させて得られる。原料組成物に含まれるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分のモル比率は、テトラカルボン酸二無水物成分:ジアミン成分=0.90〜1.10の範囲が好ましく、更に好ましくは0.95〜1.00、特に好ましくは0.97〜1.00の範囲である。熱可塑性ポリイミドは、主鎖にイミド構造を有するポリマーであって、ガラス転移温度が130℃〜350℃の範囲内にあり、この温度領域では弾性率が急激に低下するポリマーであることが好ましい。公知の熱可塑性ポリイミドを使用してもよい。
【0049】
熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれるテトラカルボン酸二無水物成分は特に限定されず、公知のテトラカルボン酸二無水物成分が使用可能であるが、その具体例には、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、オキシ-4,4'-ジフタル酸二無水物、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、エチレングリコールビストリメリット酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-へキサフルオロプロパン二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシベンゾイル)ベンゼン二無水物、2,2'-ビス((3,4-ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、2,3'-ビス((3,4-ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、2,4'-ビス((3,4-ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、3,3'-ビス((3,4-ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、3,4'-ビス((3,4-ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物、4,4'-ビス((3,4−ジカルボキシ)フェノキシ)ベンゾフェノン二無水物等が含まれる。
好ましくは3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物から選ばれる少なくとも一種のテトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。
【0050】
熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれるテトラカルボン酸二無水物成分は、一種類のテトラカルボン酸二無水物であってもよく、二種以上のテトラカルボン酸二無水物の組み合わせであってもよい。
【0051】
熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれるジアミン成分の具体例には、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3-ビス(3-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、ビス(3-(3-アミノフェノキシ)フェニル)エーテル、ビス(3-(3-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)フェニル)エーテル、o-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、4,4'-ジアミノベンゾフェノン、3,4'-ジアミノベンゾフェノン、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(3-アミノフェニル)スルフィド、ビス(4-アミノフェニル)スルフィド、1,3-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)-α,α-ジメチルベンジル)ベンゼン、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン、1,3-ビス(1-(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)-1-メチルエチル)ベンゼン、1,4-ビス(1-(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)-1-メチルエチル)ベンゼン、1,4-ビス(1-(4-(3-アミノフェノキシ)フェニル)-1-メチルエチル)ベンゼン、2,2-ビス(3-(3-アミノフェノキシ)フェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-(4-アミノフェノキシ)フェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン等が含まれる。
好ましくは1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、および1,3-ビス(3-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)ベンゼンから選ばれる少なくとも一種のジアミンを用いることが好ましい。
【0052】
熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれるジアミン成分は、一種類のジアミンであってもよく、二種以上のジアミンの組み合わせであってもよい。
【0053】
熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれる酸二無水物成分とジアミン成分との好ましい組み合わせは、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼンと、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物;あるいは4,4'-ジアミノジフェニルエーテルおよび/または3,4'-ジアミノジフェニルエーテルおよび/または3,3'-ジアミノジフェニルエーテルと、ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物である。熱可塑性ポリイミドの原料組成物に含まれるジアミン成分と酸二無水物成分の合計の50モル%以上が、これらのジアミンと酸二無水物であることが好ましい。
【0054】
前述の熱可塑性ポリイミド層を構成する樹脂組成物には、熱可塑性ポリイミドに加えてビスマレイミドが配合されていてもよい。該樹脂組成物に含まれるビスマレイミドの含有量は、0.1重量%〜50重量%程度であればよく、1〜40重量%程度であることが好ましく、5〜30重量%程度であることがさらに好ましい。
【0055】
配合されるビスマレイミドは、下記一般式(5)で示されることが好ましい。一般式(5)において、mは0〜4の整数を示し;−Y−は−O−,−SO−,−S−,−CO−,または直接結合を示し、複数のYがある場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく;R1は水素原子,ハロゲン原子,または炭化水素基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。各R1は、ベンゼン環を構成するそれぞれ別個の炭素に結合している。
【0056】
【化11】

【0057】
配合されるビスマレイミドは、下記一般式(5’)で示されることがさらに好ましい。一般式(5’)において、mは0〜4の整数を示し;−Y−は−O−,−SO−,−S−,−CO−,または直接結合を示し、複数のYがある場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく;R1は水素原子,ハロゲン原子,または炭化水素基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。各R1は、ベンゼン環を構成するそれぞれ別個の炭素に結合している。
【0058】
【化12】

【0059】
配合されるビスマレイミドの具体例には、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、ビス(3-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル)エーテル、1,3-ビス(3-(3-マレイミドフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、ビス(3-(3-(3-マレイミドフェノキシ)フェノキシ)フェニル)エーテル、1,3-ビス(3-(3-(3-マレイミドフェノキシ)フェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、N,N'-p-フェニレンビスマレイミド、N,N'-m-フェニレンビスマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、N,N'-4,4'-ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N'-3,4'-ジフェニルエーテルビスマレイミド、N,N'-3,3'-ジフェニルケトンビスマレイミド、2,2-ビス(4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル)プロパン、4,4'-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル)ケトン、ビス(4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4-(3-マレイミドフェノキシ)フェニル)スルホン等が含まれるが、これらに限定されるものではない。より好ましくは1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼンである。
【0060】
本発明のポリイミド金属積層体に含まれる金属層は、熱可塑性ポリイミド層の外側に配置される。「熱可塑性ポリイミド層の外側に配置される」とは、熱可塑性ポリイミド層に直接接触して配置されること、または中間層を介して配置されることを含む。「中間層」は、例えば樹脂層であり、接着性の層であっても非接着性の層であってもよい。前記金属層は、好ましくは熱可塑性ポリイミド層上に直接接触して配置されている。
【0061】
金属層を構成する金属の種類は特に限定されないが、銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、チタン、または鉄などが挙げられる。金属層はエッチング加工されて電子回路となりうるため、導電率の高い金属で構成されることが好ましい。かかる観点より、金属層は銅からなる層であることが好ましい。
【0062】
金属層の厚みは、テープ状にして利用できる厚みであれば制限はないが、2μm〜150μmの範囲であることが好ましい。
【0063】
本発明のポリイミド金属積層体は、金属層のポリイミドフィルムへの密着性に優れる。密着性に優れるとは、例えば金属層のピール強度が高いことを含む。このことは、後述の実施例にも示される。そのため、本発明のポリイミド金属積層体は回路材料基板として好適に使用される。
【0064】
金属層のポリイミドフィルムへの密着性が高まるメカニズムは必ずしも明確ではないが、ポリイミドフィルム表面のポリイミド基の一部分が加水分解して、部分的にアミド基が発生し;該ポリイミドフィルムに塗布されたポリイミド系接着剤に含まれる熱可塑性ポリイミド又は熱可塑性ポリイミド前駆体が、キュアされたときに、ポリイミドフィルム表面に発生したアミド基との間のアンカー効果を得て、ポリイミドフィルムと熱可塑性ポリイミド層との接着性が高まり;さらに、熱可塑性ポリイミド層上に配置された金属層と、ポリイミドフィルムとの密着性も高まり、本発明の効果が奏されるものと推定される。
【0065】
3.本発明のポリイミド金属積層体の製造方法
本発明の金属積層体は任意の方法で製造されうるが、例えば、前述の表面処理されたポリイミドフィルムを用意し;前記ポリイミドフィルムの表面処理された面に、ポリイミド系接着剤を塗布、乾燥させて、熱可塑性ポリイミド層を形成し;形成された熱可塑性ポリイミド層に金属箔を加熱圧着させて金属層を形成する、ことにより製造されうる。
【0066】
また、本発明の金属積層体は、ポリイミドフィルムの片面だけに金属層を設け、もう一方の面には任意の樹脂層だけを設けることによっても製造されうる。
【0067】
一方、本発明の金属積層体は、前述の表面処理されたポリイミドフィルムを用意し;前述の熱可塑性ポリイミド層に対応するポリイミドフィルムを用意し、それを表面処理されたポリイミドフィルムの表面処理された面に加熱圧着する事により、熱可塑性ポリイミド層を形成し;形成された熱可塑性ポリイミド層に金属箔を加熱圧着させて金属層を形成する、ことにより製造されてもよい。また、表面処理されたポリイミドフィルム、熱可塑性ポリイミド層に対応するポリイミドフィルム、および金属箔を同時に加熱圧着して本発明の金属積層体を製造してもよい。
【0068】
さらに、表面処理されたポリイミドフィルム、および金属箔にあらかじめ少なくとも一層の熱可塑性ポリイミド層を塗布することにより作製した積層体を用意し;作製した積層体の熱可塑性ポリイミド層を、前記ポリイミドフィルムの表面処理された面に加熱圧着する事により、本発明の金属積層体を製造してもよい。
【0069】
また本発明の金属積層体は、前記熱可塑性ポリイミド層上に一または二以上の中間層を形成し、その中間層に金属箔を加熱圧着させて金属層を形成する、ことにより製造されてもよい。中間層は例えば樹脂層であり、形成された熱可塑性ポリイミド層にポリイミド接着層もしくはフィルムを加熱圧着することにより形成されうる。
さらに、金属層にあらかじめ少なくとも一層以上の熱可塑性ポリイミド層および少なくとも一または二以上の上記中間層を塗布することにより積層体を形成し;形成された積層体の熱可塑性ポリイミド層を、前記ポリイミドフィルムの表面処理された面に加熱圧着することにより、本発明の金属積層体を製造してもよい。
【0070】
ポリイミドフィルムや金属箔等に塗布されるポリイミド系接着剤には、熱可塑性ポリイミドまたは熱可塑性ポリイミド前駆体(例えばポリアミック酸)を含むことが好ましく、さらにビスマレイミドを含むことがより好ましい。
ポリイミド系接着剤は、ポリイミドフィルムに塗布されて熱可塑性ポリイミド層を形成するか;または予め薄膜とされるかもしくは金属箔に塗布されて積層体とされてポリイミドフィルムに加熱圧着されて熱可塑性ポリイミド層を形成する。好ましくは、ポリイミド系接着剤はポリイミドフィルムに塗布されて熱可塑性ポリイミド層を形成する。ポリイミド系接着剤を塗布する手段は特に制限されないが、溶媒に溶解して、ダイコーター、コンマコーター、ロールコーター、グラビアコーター、カーテンコーター、スプレーコーター等の公知の方法を採用して塗布すればよい(以下において、溶媒に溶解されたポリイミド系接着剤の溶液を「ワニス」と称することがある)。塗布する手段は、形成する熱可塑性ポリイミド層の厚み、ワニスの粘度などに応じて適宜選択して利用できる。
ワニスに含まれるポリイミドまたはポリイミド前駆体の濃度は、溶液であるワニスの全重量に対して、3〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは5〜30重量%、更に好ましくは10〜20重量%である。
【0071】
テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分と溶媒とを含む原料組成物を重縮合反応させて得られるポリイミド前駆体溶液、またはその溶液に含まれるポリイミド前駆体をイミド化反応させて得られるポリイミド溶液を、ワニスとして用いてもよい。
【0072】
塗布されたワニスは乾燥され、必要に応じてキュアされる。乾燥とはワニスに含まれる溶媒を除去することを含み、キュアとはポリイミド前駆体を(例えばポリアミック酸)をイミド化することを含む。塗布したワニスの乾燥およびキュアは、通常の加熱乾燥炉を利用して行うことができる。乾燥炉の雰囲気は、空気、イナートガス(窒素、アルゴンなど)などで満たしておくことが好ましい。乾燥およびキュアの温度は、溶媒の沸点などに応じて適宜選択されるが、60℃〜600℃の範囲にあることが好ましい。乾燥およびキュアの時間は、形成される熱可塑性ポリイミド層の厚み、ワニスの固形分濃度、溶媒の種類により適宜選択されるが、0.05分〜500分程度であることが望ましい。
【0073】
本発明のポリイミド金属積層体は、前記ポリイミドフィルムの表面処理された面に設けられた熱可塑性ポリイミド層に、金属箔を加熱圧着することにより製造されるか;もしくは金属箔に塗布形成された熱可塑性ポリイミド層等を、前記ポリイミドフィルムの表面処理された面に加熱圧着することが好ましい。加熱圧着される金属箔には、公知の金属箔を用いることができる。公知の金属箔の例には、圧延銅箔、電解銅箔、銅合金箔、Al箔、Ni箔、ステンレス箔、チタン箔、鉄箔等が含まれるが、好ましくは圧延銅箔または電解銅箔である。
【0074】
熱可塑性ポリイミド層に金属箔を加熱圧着する手段に制限はないが、例えば代表的方法として、加熱プレス法及び/又はラミネート法が挙げられる。
【0075】
加熱プレス法とは、例えば、ポリイミドフィルム上の熱可塑性ポリイミド層と金属箔、または金属箔上の熱可塑性ポリイミド層と前記ポリイミドフィルムとを、それぞれプレス機のプレス部分のサイズにあわせて切り出して重ねあわせを行い、加熱プレスにより加熱圧着する方法である。加熱温度としては150℃〜600℃の範囲が望ましい。加圧力としては、制限はないが、好ましくは0.1〜500kg/cmの範囲である。加圧時間は、特に制限はない。
【0076】
熱ラミネート法とは、特に制限はないが、ロールとロール間に、熱可塑性ポリイミド層を設けたポリイミドフィルムと金属箔、または熱可塑性ポリイミド層を設けた金属箔とポリイミドフィルムとを挟み込み、貼り合わせを行う方法である。ロールは金属ロール、ゴムロールなどが利用できる。ロールの材質に制限はないが、金属ロールとしては鋼材やステンレス材が使用されうる。表面にクロムメッキ等が処理されたロールを使用することが好ましい。ゴムロールとしては、金属ロールの表面に耐熱性のあるシリコンゴム、フッ素系のゴムを配置したロールを使用することが好ましい。ラミネート温度は、100℃〜300℃の範囲であることが好ましい。加熱方式は、伝導加熱方式の他、遠赤外等の輻射加熱方式、誘導加熱方式等も利用できる。
【0077】
熱ラミネート後、加熱アニールすることも好ましい。加熱装置として、通常の加熱炉、オートクレーブ等を利用することができる。加熱アニールは、空気またはイナートガス(窒素、アルゴン)等の雰囲気下でなされうる。加熱方法としては、フィルムを連続的に加熱する方法またはフィルムをコアに巻いた状態で加熱炉に放置する方法のどちらの方法も好ましい。加熱方式としては、伝導加熱方式、輻射加熱方式、及び、これらの併用方式等が好ましい。加熱温度は、200℃〜600℃の範囲であることが好ましい。加熱時間は、0.05分〜5000分の範囲であることが好ましい。
【実施例】
【0078】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、これらにより本発明の範囲が限定されることはない。なお、実施例および比較例における、ポリイミド金属積層体の金属層とポリイミドフィルムとの密着性(ピール強度)の評価は、以下の方法による。
[ピール強度の評価]
ポリイミド金属積層体の試料(長さ100mm、幅3.2mm)について、JIS C−6471に規定される方法に従い、短辺の端から熱可塑性ポリイミド層とポリイミドフィルム層とを剥離し、その応力を測定し、その測定値をピール強度の指標とした。剥離角度を90゜、剥離速度を50mm/minとした。
【0079】
<熱可塑性ポリイミド前駆体の合成例>
1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン69.16gと、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物75.85gを秤量し、これらを1000mlのセパラブルフラスコの中でN,N'-ジメチルアセトアミド822gに、窒素気流下にて溶解させた。溶解後、60℃にて6時間攪拌を続けて重合反応を行ない、ポリアミック酸溶液を得た。ポリアミック酸溶液のポリアミック酸含有率が15重量%であった。得られたワニスの一部500gに、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン13.24gを加え、室温にて撹拌溶解させたものをビスマレイミド化合物含有熱可塑性ポリイミド前駆体ワニスとした。
【0080】
実施例1
<ポリイミドフィルムの製造>
市販の非熱可塑性ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製:商品名Kapton(登録商標)80EN、厚み:20μm)に、前処理として、マキュダイザー9221S(450ml/L)およびマキュダイザー9276(50ml/L)(いずれも日本マクダーミッド株式会社製)の水溶液45℃にて3分間膨潤処理を行い、さらに水洗処理を行った。
【0081】
その後、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液による処理として、過マンガン酸カリウム(90g/L)および水酸化ナトリウム(10g/L)からなる水溶液75℃にて5分間浸漬処理および水洗処理を行った。
【0082】
その後、日本マクダーミッド株式会社製マキュダイザー9279(100ml/L)および硫酸(20ml/L)の水溶液45℃にて5分間浸漬して還元処理を行い、さらに水洗処理を行った。
【0083】
<熱可塑性ポリイミド層の形成>
各処理をされたポリイミドフィルムの両面上に、前記合成例で合成した熱可塑性ポリイミド前駆体ワニスを、リバースロールコーターを使用して塗布し、乾燥およびキュアして、熱可塑性ポリイミド層を形成した。形成された熱可塑性ポリイミド層の厚みは2μmであった。なお乾燥およびキュアは、100℃、150℃、200℃、250℃において、各5分間段階的に熱処理して行なった。
【0084】
<金属層の形成>
形成した熱可塑性ポリイミド層に、圧延銅箔(日鉱マテリアルズ(株)製、商品名:BHY-22B-T、厚み:18μm)を重ね合わせたものを、クッション材(金陽社製、商品名:キンヨーボードF200)ではさみ、加熱プレス機で300℃、25kg/cmの条件下で、4時間加熱圧着した。
これにより、「圧延銅箔/熱可塑性ポリイミド/Kapton(登録商標)80EN/熱可塑性ポリイミド/圧延銅箔」からなるポリイミド金属積層体を製造した。
【0085】
実施例2〜4
ポリイミドフィルムを処理するための、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液の組成を、表1に示されるように変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリイミド金属積層体を製造した。
【0086】
比較例1および2
ポリイミドフィルムを処理するための水溶液の組成を、表1に示されるように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリイミド金属積層体を製造した。
【0087】
比較例3
ポリイミドフィルムへの各処理(前処理、過マンガン酸塩を含むアルカリ性水溶液による処理、および還元処理)を行わないこと以外は、実施例1と同様の方法にてポリイミド金属積層体を製造した。
【0088】
<ポリイミド金属積層体の評価>
得られたポリイミド金属積層体を用いて、ピール強度を前述のように測定した。その結果を表1に示す。
【0089】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明方法により製造されるポリイミド金属積層体は、プリント配線板用基材、一体型サスペンション基材、ICパッケージ用配線基材、面状発熱体、LCD用配線基材等して有用に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系接着剤によって接着させられるポリイミドフィルムであって、過マンガン酸塩含むアルカリ性水溶液によって表面処理されたポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記アルカリ性水溶液はさらに水酸化物を含む、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
前記アルカリ性水溶液に含まれる過マンガン酸塩と水酸化物の重量比率は、9:1〜2:8である請求項2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
前記過マンガン酸塩が、過マンガン酸カリウムおよび過マンガン酸ナトリウムの少なくともいずれか一方であり、かつ
前記水酸化物が、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムの少なくともいずれか一方である、請求項2または3に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
前記ポリイミドフィルムは、酸二無水物成分とジアミン成分の重縮合体であるポリイミドを含み、
該酸二無水物成分の50モル%以上は下記一般式(1)で示される酸二無水物であり、かつ該ジアミン成分の50モル%以上は下記一般式(4)で示されるジアミンである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
【化1】


(式(1)において、Aは下記式(2)または下記一般式(3)を示す。)
【化2】


【化3】


【化4】


(式(4)において
nは0もしくは1の整数を示し、
−X−は−O−、−NHC(=O)−、または直接結合を示し、
Rは水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基、または低級アルコキシ基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記ポリイミド系接着剤は、熱可塑性ポリイミドもしくは熱可塑性ポリイミド前駆体、および下記一般式(5)で示されるビスマレイミドを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリイミドフィルム。
【化5】


(式(5)において
mは0〜4の整数を示し、
−Y−は−O−、−SO−、−S−、−CO−、または直接結合を示し、複数のYがある場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
R1は水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、かつベンゼン環を構成するそれぞれ別個の炭素に結合している。)
【請求項7】
前記ビスマレイミドは下記一般式(5’)で示される、請求項6に記載のポリイミドフィルム。
【化6】


(式(5’)において
mは0〜4の整数を示し、
−Y−は−O−、−SO−、−S−、−CO−、または直接結合を示し、複数のYがある場合はそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
R1は水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基を示し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、かつベンゼン環を構成するそれぞれ別個の炭素に結合している。)
【請求項8】
請求項1に記載のポリイミドフィルム、
前記ポリイミドフィルムの両面または片面に配置された、熱可塑性ポリイミドを含む層、および
前記熱可塑性ポリイミドを含む層の外側に配置された金属層を含む、ポリイミド金属積層体。
【請求項9】
請求項1に記載のポリイミドフィルムを用意する工程、
前記ポリイミドフィルムの片面または両面にポリイミド系接着剤を塗布して熱可塑性ポリイミドを含む層を形成する工程、および
前記熱可塑性ポリイミドを含む層の外側に金属層を形成する工程、を含むポリイミド金属積層体の製造方法。

【公開番号】特開2007−9186(P2007−9186A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−142068(P2006−142068)
【出願日】平成18年5月22日(2006.5.22)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】