説明

ポリイミドフィルムの製造法

ポリアミック酸溶液に、脱水反応剤を添加し、次いで、得られた溶液を支持体上に流延してフィルムを得、フィルムを支持体とともに槽内の気体が槽外に漏れることを防ぐ機構を施した反応凝固槽に導入し、水の濃度1・2000ppmの雰囲気下加熱してポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドもしくはポリイソイミドに変換されたゲル状フィルムを得、得られたゲル状フィルムを支持体から分離して必要に応じ洗浄した後、同時二軸延伸または逐次二軸延伸し、得られた二軸延伸フィルムを、必要に応じ洗浄して溶媒を除去した後、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成して、ポリイミドフィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は高度に機械特性の改善されたポリイミドフィルムの製造方法およびそれから得られる二軸延伸ポリイミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
全芳香族ポリイミドはその優れた耐熱性や機械物性から幅広く工業的に利用され、特にそのフィルムは電子実装用途をはじめとする薄層電子部品の基材として重要な位置を占めるにいたっている。近年電子部品の小型化への強い要請から、より厚さの薄いポリイミドフィルムが要求されているが、厚みの減少にともない高い剛性を有することがフィルムの実用上あるいはハンドリング上不可欠の条件となる。全芳香族ポリイミドフィルムは剛直な構造を有するものの、例えば全芳香族ポリアミドフィルムと比較して必ずしも高ヤング率が実現されているとはいえず、市販される最高のヤング率のポリイミドフィルムでさえたかだか9GPaのレベルにとどまるのが現状である。
全芳香族ポリイミドフィルムで高ヤング率を実現する方法として、(1)ポリイミドを構成する分子骨格を剛直かつ直線性の高い化学構造とすること、(2)ポリイミドを物理的な方法で分子配向させること、が考えられる。(1)の化学構造としては酸成分としてピロメリット酸あるいは3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、アミン成分としてパラフェニレンジアミン、ベンジジンあるいはそれらの核置換体のさまざまな組合せで素材検討がなされてきた。このなかでポリパラフェニレンピロメリットイミドは最も理論弾性率が高く(例えば田代ら著 「繊維学会誌43巻」 1987年、78項)かつ原料が安価であることから高ヤング率フィルム素材として最も期待される素材である。しかしそのポテンシャルにもかかわらず、ポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムとしては極めて脆いものしか得られない、またバランスのとれた高ヤング率フィルムとしても実現にいたっていないなどの問題があった。
この問題を解決する方法として、パラフェニレンジアミンとピロメリット酸無水物の反応で得られたポリアミック酸溶液を化学環化することによる方法が提案されたが、これで得られたポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムのヤング率は高々8.5GPaにすぎなかった(特開平1−282219号公報)。また、核置換パラフェニレンジアミンとピロメリット酸無水物の反応で得られたポリアミック酸溶液に無水酢酸を大量に添加したドープを流延し、低温で減圧下に乾燥したのち熱処理することにより、ヤング率20.1GPaのフィルムが得られることが記載されているが、この方法は低温で数時間の乾燥処理を必要とすることから工業的には非現実的な技術であり、またこの技術をポリパラフェニレンピロメリットイミドに適用した場合には機械測定すら不可能な脆弱なフィルムしか得られないことが記載されており、その効果は限定されたものであった(特開平6−172529号公報)。
したがって、剛直な芳香族ポリイミドに広く適用可能な高ヤング率フィルムの実現技術は未完成であり、特に高ヤング率かつ実用的な靭性を有するポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムは知られていなかったが、これらを解決する方法として、我々はキャストしたゲル状フィルムを脱水反応剤である無水酢酸と脱水反応触媒である有機アミン化合物と溶媒からなるイソイミド化溶液中に浸漬し、次に膨潤状態で二軸延伸してイミド化する製造方法、いわゆる湿式製膜法を開示した(WO01/81456号)。
また、キャストして得られたゲル状フィルムを乾式製膜法によりドラムまたはエンドレスベルト上で溶媒を飛ばしながら固化させた後、膨潤状態で二軸延伸してイミド化する製造方法が開示されているが(特開平5−237928号公報)、本乾式製膜方法を剛直な芳香族ポリイミド、特にポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムに用いると、脆弱なフィルムしか得られず、またはイソイミド化反応を十分行わせるため大過剰の脱水反応剤と脱水反応触媒をポリアミック酸溶液中に混入しなくてはならないなどの問題が残され、現状では剛直なポリイミド製造に広く適用可能な湿式製膜法より工業化に有利な乾式製膜方法は知られていなかった。
【発明の開示】
本発明の目的は、剛直なポリイミド製造に広く適用可能であり工業化に有利なポリイミドフィルムの製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、該製造方法により高ヤング率のポリパラフェニレンピロメリットイミドフィルムを提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
本発明の上記目的および利点は、(1)ポリアミック酸溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミン成分が40モル%以上100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上60モル%以下からなる芳香族ジアミン成分と、ピロメリット酸成分が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になり、そしてポリアミック酸溶液の溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記工程(1)で調製したポリアミック酸溶液にさらに脱水反応剤として無水酢酸、および脱水反応触媒として有機アミン化合物を添加してなるポリアミック酸組成物を、支持体上に流延して、これに加温・加熱処理を施すことより脱水反応せしめポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドもしくはポリイソイミドに変換されたゲルフィルムを形成し;
(3)得られたゲルフィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し;
(4)得られた二軸延伸ゲルフィルムを、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成するポリイミドフィルムの製造方法であって、工程(2)の反応雰囲気における水の濃度が1〜2000ppmであることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法によって達成される。本方法により脱水反応剤と脱水反応触媒の使用量を各固化温度で最小化できる乾式製膜製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1
反応凝固槽の一例の概略図である。
【符号の説明】
1.反応凝固槽(斜線部)
2.シール槽
3.Tダイ
4.支持体
5.ロール
6.ポリイミドフィルム
7.大気圧露点−8℃以下の気体
発明の好ましい実施態様
本発明のポリイミドの製造法は(1)ポリアミック酸溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミン成分が40モル%以上100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上60モル%以下からなる芳香族ジアミン成分と、ピロメリット酸成分が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になり、そしてポリアミック酸溶液の溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記工程(1)で調製したポリアミック酸溶液にさらに脱水反応剤として無水酢酸および脱水反応触媒として有機アミン化合物を添加してなるポリアミック酸組成物を、支持体上に流延して、これに加温・加熱処理を施すことより脱水反応せしめポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドもしくはポリイソイミドに変換されたゲルフィルムを形成し;
(3)得られたゲルフィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し;
(4)得られた二軸延伸ゲルフィルムを、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成するポリイミドフィルムの製造方法であって、工程(2)の反応雰囲気の水の濃度を1〜2000ppmとすることを特徴とする。
本発明のポリイミドを構成するジアミン成分はp−フェニレンジアミンおよびそれとは異なる芳香族ジアミンである。
p−フェニレンジアミンと異なる芳香族ジアミン成分としては、例えばm−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノアントラセン、2,7−ジアミノアントラセン、1,8−ジアミノアントラセン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノ(m−キシレン)、2,5−ジアミノピリジン、2,6−ジアミノピリジン、3,5−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノトルエンベンジジン、3,3’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルメタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、1,4−ビス(3−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルチオエーテル)ベンゼン、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、ビス(4−アミノフェニル)アミンビス(4−アミノフェニル)−N−メチルアミンビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミンビス(4−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、1,1−ビス(3−アミノフェニル)エタン、1,1−ビス(4−アミノフェニル)エタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−クロロ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジメチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[3−メチル−4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等およびそれらのハロゲン原子あるいはアルキル基による芳香核置換体が挙げられる。
ジアミン成分は、p−フェニレンジアミン単独からなるかあるいはp−フェニレンジアミンおよび上記の如きそれと異なる芳香族ジアミンとの組合せからなる。後者の組合せの場合、p−フェニレンジアミンは、全ジアミン成分に基づき、40モル%以上の割合、好ましくは60モル%以上の割合であり、それと異なる芳香族ジアミンが60モル%以下、好ましくは40モル%以下からなる。
また、ポリイミドを構成するテトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸およびそれと異なる芳香族テトラカルボン酸である。
ピロメリット酸と異なる芳香族テトラカルボン酸成分としては、例えば1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3’,3,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,6,7−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,9,10−フェナンスレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−テトラクロロナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ピリジン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物等が挙げられる。
テトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸単独からなるかあるいはピロメリット酸および上記の如きそれと異なる芳香族テトラカルボン酸との組合せからなる。後者の組合せの場合、ピロメリット酸は、全テトラカルボン酸成分に基づき、80モル%を超える割合すなわちそれと異なる芳香族テトラカルボン酸が20モル%未満からなる。
とくにp−フェニレンジアミン成分が100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%からなるポリイミドからなる本発明のフィルムは、より好ましいヤング率を発現する。
(ポリイミドフィルム製造方法)
本発明のポリイミドフィルムを製造する方法を詳述する。
本発明の第1製造法は下記の工程(1)〜(4)からなる。
(1)ポリアミック酸溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミン成分が40モル%以上100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上60モル%以下からなる芳香族ジアミン成分と、ピロメリット酸成分が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になり、そしてポリアミック酸溶液の溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記工程(1)で調製したポリアミック酸溶液にさらに脱水反応剤として無水酢酸、および脱水反応触媒として有機アミン化合物を添加してなるポリアミック酸組成物を、支持体上に流延して、これに水の濃度が1〜2000ppmの反応雰囲気において加温・加熱処理を施すことより脱水反応せしめポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドもしくはポリイソイミドに変換されたゲルフィルムを形成し;
(3)得られたゲルフィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し;
(4)得られた二軸延伸ゲルフィルムを、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
工程(1)では、まずポリアミック酸の溶液が調製される。ポリアミック酸は、上記の如きジアミン成分とテトラカルボン酸成分からなる。ジアミン成分を構成するp−フェニレンジアミンと異なる芳香族ジアミンおよびピロメリット酸と異なる芳香族テトラカルボン酸としては、ポリイミドについて前記したと同じ具体例を挙げることができる。ポリアミック酸のジアミン成分は、p−フェニレンジアミン単独からなるかあるいはp−フェニレンジアミンおよび上記の如きそれと異なる芳香族ジアミンとの組合せからなる。後者の組合せの場合、p−フェニレンジアミンは、全ジアミン成分に基づき、40モル%以上の割合、好ましくは60モル%以上の割合であり、それと異なる芳香族ジアミンが60モル%以下、好ましくは40モル%以下からなる。
また、ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分は、ピロメリット酸単独からなるかあるいはピロメリット酸および上記の如きそれと異なる芳香族テトラカルボン酸との組合せからなる。後者の組合せの場合、ピロメリット酸は、全テトラカルボン酸成分に基づき、80モル%を超える割合であり、それと異なる芳香族テトラカルボン酸が20モル%未満からなる。
また、ポリアミック酸を製造する際、これらのジアミンと酸無水物は、ジアミン対酸無水物のモル比として好ましくは0.90〜1.10、より好ましくは0.95〜1.05で、用いることが好ましい。
このポリアミック酸の末端は封止されることが好ましい。末端封止剤を用いて封止する場合、その末端封止剤としては、例えば無水フタル酸およびその置換体、ヘキサヒドロ無水フタル酸およびその置換体、無水コハク酸およびその置換体、アミン成分としてはアニリンおよびその置換体が挙げられる。
溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンからなる群から選ばれる少なくとも一種が用いられる。これらの溶媒は、単独であるいは2種以上組合せて使用することができる。用いられる溶媒は可能な限り乾燥されていることが好ましい。溶媒中に水分が多く含まれている場合、所望の重合度のポリアミック酸を得ることが困難となる場合がある。具体的には、溶媒に含まれる水分率として0.1〜1000ppmであることが好ましい。好ましくは500ppm以下であり、更に好ましくは100ppm以下であり、50ppmであることが特に好ましい。溶媒に含まれる水分率が0.1ppm未満の場合、このような水分率を維持管理するには設備的負荷が大きくなる。
工程(1)によれば、好ましくは、固形分濃度0.5〜30重量%、より好ましくは2〜15重量%のポリアミック酸の溶媒中溶液が調製される。
次いで工程(2)において、上記工程(1)で調製したポリアミック酸溶液に脱水反応剤として無水酢酸、および脱水反応触媒として有機アミン化合物を連続またはバッチで添加混合する。無水酢酸は脱水反応剤として用いられる。有機アミン化合物は無水酢酸とポリアミック酸の反応触媒として働くものであり、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチレンジアミンといった三級脂肪族アミン;N,N−ジメチルアニリン、1,8−ビス(N,N−ジメチルアミノ)ナフタレンの如き芳香族アミン、ピリジンおよびその誘導体、ピコリンおよびその誘導体、ルチジン、キノリン、イソキノリン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、N,N−ジメチルアミノピリジンの如き複素環式化合物を用いることができる。このなかで経済性からはピリジンおよびピコリンが好ましい。またトリエチレンジアミンおよびN,N−ジメチルアミノピリジンは無水酢酸との組合せにおいて、極めて高いイミド基分率が実現可能であり、水に対する耐性の高いゲルフィルムを与えることから好ましく用いられる。これらのなかでもピリジンが好ましい。
ポリアミック酸溶液への添加の順番は特に限定されないが、添加順序が、まず、有機アミン化合物を添加・混合し、次いで無水酢酸を添加・混合する順序であることが好ましい。
またポリアミック酸組成物に酢酸を含むことが好ましい。ポリアミック酸溶液に含まれる酢酸は、有機アミン化合物と錯塩を形成し、存在することで有機アミン化合物の揮発を抑制する効果がある。ポリアミック酸溶液に含まれる酢酸の量としては、特に限定するものではないが、有機アミン化合物1モルに対して好ましくは0.0001モル以上4.0モル以下、好ましくは0.001モル以上1.0モル以下である。
添加量は、無水酢酸がポリアミック酸繰り返し単位1モルに対して1〜30倍モル、好ましくは1〜8倍モル、さらに好ましくは2〜4倍モル、有機アミン化合物がポリアミック酸繰り返し単位1モルに対して0.01〜25倍モル、好ましくは0.01〜8倍モル、さらに好ましくは0.04〜4倍モルである。添加の順番は特に規定しないが、有機アミン化合物、無水酢酸の順で行うことが好ましい。
添加方法としては、ニーダーなどの回転式混合機、スタティックミキサーなどの静的混合機により連続的に添加混合する方法や混合釜内でアンカー翼、ヘリカルリボン翼などによりバッチで添加混合する方法があげられる。また、無水酢酸および有機アミン化合物混合後は、安定した送液を確保するために速やかに支持体上に流延することが好ましく、また、ポリアミック酸の閉環反応による著しい粘度増加が原因で起こる配管内での閉塞および流延時の閉塞・流延不良を防ぐために溶液温度を室温以下にすることが好ましく、−20〜0℃に保つことがさらに好ましい。
次いで、脱水反応剤を添加して調製したポリアミック酸組成物を支持体上に流延してフィルムを得る。支持体上に流延する製膜方法としては、ダイ押し出しによる工法、アプリケーターを用いたキャスティング、コーターを用いる方法などが例示される。ポリアミック酸の流延に際して支持体として金属性のベルト、キャスティングドラムなどを用いることができる。またポリエステルやポリプロピレンのような有機高分子フィルム上に流延しそのまま反応凝固槽に送ることもできる。
これらの工程は低湿度雰囲気下で行うことが好ましく、工程(2)中の流延処理において、ポリアミック酸組成物を水の濃度1〜4000ppmの雰囲気下にて、支持体上に流延することが好ましい。
流延する際のポリアミック酸溶液の温度は−30〜40℃の範囲であることが好ましい。−30℃未満の場合、ポリアミック酸の粘性が著しく高くなったり、溶液が固化したりする為に、著しく成形加工性が低下したり、流延できなくなる場合がある。40℃より高い場合、ポリアミック酸溶液の化学的安定性が失われ、流延前に一部ゲル化したり、成型加工性が低下したりして、流延できなくなる場合がある。好ましくは、−25〜30℃であり、更に好ましくは−20〜20℃の範囲である。−15〜15℃の範囲が特に好ましい。
工程(2)のゲルフィルム形成を水分濃度が特定範囲である雰囲気下において行い、ポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドもしくはポリイソイミドに変換されたゲルフィルムを形成する。この反応雰囲気の水の濃度は1〜2000ppm、より好ましくは、水の濃度が1〜300ppmとする。水の濃度1〜2000ppmとはすなわち、大気圧露点が−8℃以下である。水の濃度1〜300ppmとはすなわち、大気圧露点が−30℃以下である。これより水分濃度が高い雰囲気となると化学イミド化反応が十分進まなくなり、得られるフィルムは脆くなることがある。
ゲル状フィルムの形成反応における温度条件としては、ポリイソイミド化反応の活性の観点からできる限り高温に設定することが望ましいが、好ましくは150℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。150℃より高いと設備負荷が増すだけでなく、無水酢酸および有機アミン化合物の蒸発が顕著になるため無水酢酸および有機アミン化合物が反応に十分寄与できなくなることがある。工程(2)のゲル状フィルム形成温度は好ましくは20〜150℃、より好ましくは20〜110℃、さらに好ましくは35〜60℃である。
ゲル状フィルムを反応凝固槽において形成させる場合の反応凝固槽としては、槽内の気体が槽外に漏れることを防ぐ機構を施したものであることが好ましい。槽内の気体が槽外に漏れることを防ぐ機構を施した反応凝固槽を用いることにより、各固化温度で、とくに高温の反応条件下でも反応凝固させることが可能となり、反応時間を短縮できる。
また、特に限定されるものではないが、反応凝固槽内に揮発し得る各成分、例えば脱水反応剤である無水酢酸、有機アミン化合物や有機溶媒の反応凝固槽内の分圧は飽和状態圧近くに保たれている方が好ましい。特にゲル状フィルムの形成反応温度が高い場合、反応脱水剤の揮発を最小限に抑え、ゲル状フィルムの形成反応効率低下を防止し、反応率の安定化といった効果がある。
反応凝固槽内の気体が槽外に漏れることを防ぐ機構として、例えば、槽内と槽外の間に、フィルム面に垂直に気体を吹付ける気体カーテンを設置する方法やフィルム上限面に接触するようにロールやプレートを設置する方法が挙げられるが、反応凝固槽において、水の濃度が1〜2000ppmである気体を反応凝固槽内に向かって流し、かつ該気体が反応凝固槽に入る近傍に該気体を排気するシール槽を設置することが好ましい。
水の濃度が1〜2000ppmの気体としては乾燥窒素または乾燥空気などが挙げられる。該気体のより好ましい水の濃度は1〜300ppmである。
さらに水の濃度が1〜2000ppmの気体を反応凝固槽内に向かってフィルム進行方向に平行に、すなわちフィルム進行方向垂直面に対して平均流速0.01〜1.0m/sで流すことが好ましい。
またフィルム進行方向垂直面での平均流速と吹込み距離の積が10cm/s以上、さらに5000cm/s以下で流すことが好ましい。ここで吹込み距離とはシール槽外側入口面と排気口中央の流れに対する垂直面の面間距離である。シール槽を設置することにより、反応凝固槽内は脱水反応剤および脱水反応触媒の飽和蒸気圧下または飽和蒸気圧下に近い状態となる。また、該平均流速が上記範囲を外れるまたは該平均流速と吹込み距離の積が10cm/sより小さいと出来上がるフィルムはイソイミド化溶液を過剰に入れない限り脆弱になることがある。該流速と吹込み距離の積が5000cm/sより大きいと、設備が冗長化するため好ましくない。
反応凝固槽内に向かって気体を流す該シール槽の設置は、図1に示すように該シール槽はフィルム面の上下に排気口を持ちかつ反応凝固槽の両端に設置する方法が採用され得る。両端に設置する場合は、両端シール槽排気口が均圧であることが好ましい。キャスティングドラムを工程(2)に使用する場合は、図1とは異なりシール槽は反応凝固槽からのフィルム出側のみで良い。同様に、キャスティング後のフィルムを反応凝固槽内でリターンして反応凝固槽の入側と出側を同じにする場合もシール槽は一ヶ所で良い。
さらに、反応凝固槽およびシール槽の幅および高さは最小限にすることが好ましい。幅および高さが不必要に大きいとイソイミド化溶液が無駄に蒸発・拡散してしまう。
また工程(2)の反応凝固槽において、水の濃度が1〜2000ppmである気体を反応凝固槽外に向かって流すガスシールを設置することが好ましい。このような機構により反応凝固槽内の気体が槽外に漏れるばかりか、槽外からの水分の進入を防ぐことが可能となる。上記の水の濃度が1〜2000ppmである気体を反応凝固槽内に向かって流し、かつ該気体が反応凝固槽に入る近傍に該気体を排気するシール槽と、水の濃度が1〜2000ppmである気体を反応凝固槽外に向かって流すガスシールとは併用することがさらに好ましい。
ガスシールにおける流速等の条件は反応凝固槽内への気体流入と実質同等で良い。すなわち水の濃度が1〜2000ppmの気体を反応凝固槽内に向かってフィルム進行方向垂直面に対して平均流速0.01〜1.0m/sで流すことが好ましい。
またフィルム進行方向垂直面での平均流速と吹込み距離の積が10cm/s以上、さらに5000cm/s以下で流すことが好ましい。該ガスシールは反応槽凝固槽の水濃度雰囲気と異なる雰囲気にフィルムが露出される境界に設置することが好ましい。
また、本工程で得られるゲル状フィルムのイソイミド基分率は0%を超え80%以下であるとき高い延伸倍率が得られ好ましく、さらに好ましくは、3%以上50%以下である。イソイミド基分率が0%では十分な延伸を行うことができず、イソイミド基分率が80%を超えると自己支持性が悪くなりかつ延伸による配向効果が小さくなる。
工程(3)では、工程(2)で得られた未延伸ゲル状フィルムを支持体から分離したのち二軸延伸に付す。二軸延伸は、未延伸フィルムを支持体から分離したのち、洗浄してから行っても、未洗浄のまま行ってもよい。洗浄には、例えば工程(1)で用いられた溶媒と同様の溶媒が用いられる。
延伸は、縦横それぞれの方向に1.1〜6.0倍の倍率で行うことができる。延伸温度は、特に限定するものではないが、溶剤が揮発し延伸性が低下しない程度であればよく、例えば−20℃〜+80℃が好ましい。なお、延伸は逐次あるいは同時二軸延伸のいずれの方式で行ってもよい。延伸は溶剤中、空気中、不活性雰囲気中、また低温加熱した状態でもよい。
工程(3)で二軸延伸に付すゲル状フィルムは100〜5,000%の膨潤度を持つことが好ましい。これにより高い延伸倍率が得られる。100%以下では延伸性が不十分となり延伸過程でフィルムが破断し易く、5,000%以上ではゲルの強度が低下しハンドリングが困難となる。
最後に、工程(4)では、工程(3)で得られた二軸延伸フィルムを熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成する。
工程(4)において、フィルムは最後まで定長ないし緊張下の拘束条件下で処理されても良い。また、途中まで拘束下にて処理し、その後非拘束下で処理されても良く、さらには、途中まで縦横両方向拘束下にて処理し、その後、例えば縦のみ拘束下といった片側拘束下で処理されても良い。このような場合、拘束下でフィルムに残存する溶媒量がポリマー重量に対し10%以下となるまで乾燥した後、非拘束下又は片側拘束下で熱処理することが好ましい。
また、拘束方法としては、従来公知の方法を用いることが可能であり、特に限定するものではないが、例えば、縦方向拘束には、クローバーロール、ニップロール、真空吸引式サクションロール、巻取りロールなどによりフィルムに張力を発生させて拘束する方法、縦横両方向拘束または横方向拘束にはフィルムエッジ部分をクリップにより固定する方法や、ピンを突き刺すことにより拘束する方法が挙げられる。また、カレンダロールなどによりそのニップ圧力で縦横同時に拘束する方法も挙げられる。カレンダロールなどにより拘束する場合は、拘束と同時に極短時間で、ロール加熱温度にて、熱処理も施される。
熱処理方法としては熱風加熱、真空加熱、赤外線加熱、マイクロ波加熱の他、熱板を用いた接触・非接触加熱、ホットロールを用いた接触加熱などが例示され、これらの方法を段階的にまたは同時に組み合わせて用いることもできる。
熱処理温度は少なくとも2段階で、最初に60〜300℃、より好ましくは100〜250℃、最後に300〜550℃、より好ましくは450〜550℃の温度で段階的に温度を上げて実施する。これにより配向緩和を抑制して95%を超えるイミド基分率を実現しうる。
なお、熱処理前に二軸延伸フィルムを洗浄して溶媒を除去することができる。洗浄には、溶媒を溶解しうる例えばイソプロパノールの如き低級アルコール、オクチルアルコールの如き高級アルコール、トルエン、キシレンの如き芳香族炭化水素、ジオキシサンの如きエーテル系溶媒およびアセトン、メチルエチルケトンの如きケトン系溶媒等を挙げることができる。
上記の如くして得られた二軸配向ポリイミドフィルムは、分子鎖がフィルム面内に強く配向し、面内のバランスに優れた高ヤング率ポリイミドフィルムとなる。本発明の二軸配向ポリイミドフィルムは、面内の直交するニ方向に測定したヤング率の値が5GPa、好ましくは8GPa、さらに好ましくは10GPaを超え、かつ延伸配向により特殊な微細構造が形成されることにより強度の改善されたフィルムである。このような高ヤング率ポリイミドフィルムは剛性の高さから厚みが10μm以下の薄いフィルムであっても電子用途、例えば銅薄が積層された電気配線板の支持体などに好適に用いることができる。またフレキシブル回路基板、TAB(テープオートメイテッドボンディング)用テープ、LOC(リードオンチップ)用テープの支持体としても用いることができる。また磁気記録テープのベースフィルムとして用いることができる。
【実施例】
以下、実施例により本発明方法をさらに詳しく具体的に説明する。ただしこれらの実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
分析方法
1)ポリアミック酸の対数粘度
NMP中ポリマー濃度0.5g/100mlを35℃で測定した。
2)膨潤度
膨潤した状態と乾燥した状態の重量の比から算出した。すなわち、乾燥状態の重さをW1、膨潤時の重さをW2とした場合
膨潤度=( W2 / W1 − 1) × 100
として算出した。
3)強伸度
測定は50mm×10mmのサンプルを用い、引張り速度5mm/minで行いオリエンテックUCT−1Tによって測定を行った。
4)イソイミド基分率およびイミド基分率
フーリエ変換赤外分光計(Nicolet Magna 750)を使用し、吸収法により測定したピーク強度比から以下のように決定した。
イソイミド基分率(%)=(A920/A1024)/11.3 × 100
920:サンプルの920cm−1イソイミド結合由来ピークの吸収強度
1024:サンプルの1024cm−1ベンゼン環由来ピークの吸収強度
イミド基分率(%)=(A720/A1024)/5.1 × 100
720:サンプルの720cm−1イミド結合由来ピークの吸収強度
1024:サンプルの1024cm−1ベンゼン環由来ピークの吸収強度
【実施例1】
−15℃に冷却した反応容器に、窒素雰囲気下モレキュラーシーブスで水分率32ppmに脱水しN−メチル−2−ピロリドン(NMP)20Lを入れ、さらにパラフェニレンジアミン(水分率は3370ppm)276gを加え完全に溶解した後、無水ピロメリット酸二無水物557gを添加し1時間反応させ、さらに約5℃で2時間反応させた後、無水フタル酸0.76gを添加して反応を終了させた。得られたポリアミック酸溶液の対数粘度は4.10であった。次にこのアミック酸溶液をギアポンプにより26.8ml/分で−10℃に冷却された配管内を送液し、反応容器とTダイ間の送液配管途中に設置したエレメント数48段のφ6.5のスタティックミキサーに対して反応容器側を0段、Tダイ側を48段として、0段目にピリジン(水分率19ppm)を1.1ml/分で添加し、次いで24段目に無水酢酸を1.9ml/分で添加混合し(モル比:ドープ中ポリアミック酸繰り返し単位/無酢/ピリジン=1/6/4)、−10℃の本混合液を水分濃度40ppmの窒素雰囲気の流延槽内にてリップ開度1500μ、幅320mmのTダイより、PETフィルム上に流延しフィルムを得た。
次に本フィルムをPETフィルムとともに0.05m/分で反応凝固槽内に導入した。反応凝固槽内温度は40℃であり、水の濃度40ppm(大気圧露点−50℃)の乾燥窒素を反応凝固槽の両端外側から反応凝固槽両端に取り付けた該乾燥窒素の吹込み距離が7.5cmの排気口に向かって同一の流速で、かつ、フィルム進行方向垂直面に対して平均流速が20cm/秒で流した。該乾燥窒素流速と吹込み距離の積は150cm/秒である。また、反応時間は30分である。凝固反応雰囲気における水分濃度は40ppmであった。得られたゲル状フィルムのイソイミド基分率は95%であり、イミド基は検出できなかった。
次に得られたゲルフィルムの両端をチャックで固定し、室温(25℃)下、二軸方向に各1.8倍に5mm/秒の速度で同時ニ軸延伸した。延伸開始時のゲルフィルムの膨潤度は1110%であった。
延伸後のゲルフィルムを枠固定し160℃で30分乾燥し、次いで450℃まで段階的に温度を上げ熱処理を行い、ポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの厚みは15μm、面内の直交する二方向に測定した引張り弾性率は17.9GPaおよび16.0GPa、引張り強度は0.39GPaおよび0.35GPa、伸度は5.1%および4.9%であった。また、厚み方向の屈折率nz=1.573、密度は1.508g/cmであった。またイミド基分率は100%であった。結果を表1にも示す。
【実施例2】
反応凝固槽内へ流入する乾燥窒素を水の濃度1000ppmの乾燥空気とする以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを製造得た。結果を表1に示す。
【実施例3】
乾燥窒素を反応凝固槽の両端外側から反応凝固槽両端に取り付けた排気口に向かって0.5m/sで流すこと以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。該乾燥窒素流速と吹込み距離の積は375cm/sである。結果を表1に示す。
比較例1
反応凝固槽内へ流入する乾燥窒素を水の濃度3700ppmの空気とする以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを製造した。ただし、本条件では反応凝固槽での反応が不十分のため乾燥中・熱処理中にフィルムが破断してフィルムを得られなかった。
【実施例4】
製膜前に反応凝固槽内を窒素で置換し、製膜中は乾燥窒素を反応凝固槽の両端外側から反応凝固槽両端に取り付けた排気口に向かって流さない、すなわち実質的にシール槽のない条件で反応凝固させること以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。得られたフィルムは、機械強度測定は可能であったが、伸度が低く脆いものであった。結果を表1に示す。
【実施例5】
乾燥窒素を反応凝固槽の両端外側から反応凝固槽両端に取り付けた排気口に向かって0.009m/sで流すこと以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。該乾燥窒素流速と吹込み距離の積は67.5cm/sである。得られたフィルムは、機械強度測定は可能であったが、伸度が低くやや脆いものであった。結果を表1に示す。
【実施例6】
乾燥窒素を反応凝固槽の両端外側から反応凝固槽両端に取り付けた排気口に向かって1.2m/sで流すこと以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。該乾燥窒素流速と吹込み距離の積は900cm/sである。得られたフィルムは、機械強度測定は可能であったが、伸度が低く脆いものであった。結果を表1に示す。
【実施例7】
乾燥窒素を反応凝固槽の両端外側から反応凝固槽両端に取り付けた排気口に向かって0.06m/sで流すこと以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。該乾燥窒素流速と吹込み距離の積は45cm/sである。結果を表1に示す。
【実施例8】
反応凝固槽両端に取り付けた該乾燥窒素の吹込み距離が1.5cmであること以外は実施例7と全く同様の方法でポリイミドフィルムを製造した。吹込み距離の積は9cm/sである。本条件で得られたフィルムは伸度の低いものであった。結果を表2に示す。
【実施例9】
ピリジンを4.4ml/minで添加し、無水酢酸を3.8ml/minで添加混合(モル比:ドープ中ポリアミック酸繰り返し単位/無酢/ピリジン=1/12/16)すること以外は実施例4と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。結果を表2に示す。
【実施例10】
反応凝固槽内温度を60℃にすること以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。結果を表2に示す。
【実施例11】
リップ開度を350μ、延伸倍率を1.6倍にすること以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。延伸開始時のゲルフィルムの膨潤度は1,150%であった。結果を表2に示す。
【実施例12】
反応凝固槽内温度を90℃にすること、リップ開度を350μにすることおよびPETフィルムの搬送速度を0.1m/minにして反応時間を5分にすること以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。結果を表2に示す。
【実施例13】
反応凝固槽内温度を140℃にし、ピリジンを5.4ml/minで添加し、無水酢酸を8.2ml/minで添加混合(モル比:ドープ/無酢/ピリジン=1/25/20)すること、およびPETフィルムの搬送速度を0.5m/minにして反応時間を1分にすること以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。結果を表2に示す。


【実施例14】
流延槽内および反応凝固槽内へ流入する気体を水の濃度40ppmの窒素から水の濃度1020ppmの乾燥空気へと変更した以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを製造得た。結果を表3に示す。
【実施例15】
Tダイの温度を制御することにより、流延時のポリアミック酸溶液の温度を20℃にすること以外は実施例1と全く同様の方法でポリイミドフィルムを得た。結果を表3に示す。

【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリアミック酸溶液を調製し、ここでポリアミック酸はp−フェニレンジアミン成分が40モル%以上100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上60モル%以下からなる芳香族ジアミン成分と、ピロメリット酸成分が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%以下からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になり、そしてポリアミック酸溶液の溶媒はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよび1,3−ジメチルイミダゾリジノンよりなる群から選ばれる少なくとも一種からなり;
(2)上記工程(1)で調製したポリアミック酸溶液にさらに脱水反応剤として無水酢酸、および脱水反応触媒として有機アミンを添加してなるポリアミック酸組成物を、支持体上に流延して、これに加温・加熱処理を施すことより脱水反応せしめポリアミック酸の少なくとも一部がポリイミドもしくはポリイソイミドに変換されたゲルフィルムを形成し;
(3)得られたゲルフィルムを支持体から分離し、必要に応じ洗浄した後、二軸延伸し;
(4)得られた二軸延伸ゲルフィルムを、熱処理に付して二軸配向ポリイミドフィルムを形成するポリイミドフィルムの製造方法であって、工程(2)の反応雰囲気の水の濃度を1〜2000ppmとすることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
工程(2)において20〜150℃でゲル状フイルムを形成することを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
工程(2)のゲルフィルム形成を反応凝固槽において実施する場合に、水の濃度が1〜2000ppmである気体を反応凝固槽内に向かって流し、かつ該気体が反応凝固槽に入る近傍に該気体を排気するシール槽を設置する請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
該気体をフィルム進行方向垂直面に対して平均流速0.01〜1.0m/sで流す請求項3に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項5】
フィルム進行方向垂直面での平均流速と吹込み距離の積が10cm/s以上で該気体を流す請求項3に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項6】
該シール槽はフィルム面の上下に排気口を持ちかつ反応凝固槽の両端に設置され、さらに両端シール槽排気口が均圧に保持されている請求項3に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項7】
水の濃度が1〜2000ppmである気体を反応凝固槽外に向かって流すガスシールを設置することを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項8】
該ガスシールは反応槽凝固槽の水濃度雰囲気と異なる雰囲気にフィルムが露出される境界に設置されている請求項7に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項9】
工程(2)中の流延処理において、ポリアミック酸組成物を水の濃度1〜4000ppmの雰囲気下にて、支持体上に流延することを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項10】
工程(2)において流延する際の溶液の温度が−30〜40℃の範囲であることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項11】
用いられる溶媒に含まれる水分率が0.1〜1000ppmの範囲である請求項11に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項12】
工程(3)においてゲル状フィルムを少なくとも一方向に延伸し、工程(4)において拘束下でフィルムに残存する溶媒量がポリマー重量に対し10%以下となるまで乾燥した後、少なくとも一方向が非拘束下で熱処理することを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項13】
工程(2)において用いられる有機アミン化合物がピリジンである請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項14】
工程(2)のポリアミック酸組成物に酢酸を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項15】
p−フェニレンジアミン成分が40モル%を超え100モル%以下そしてp−フェニレンジアミンとは異なる芳香族ジアミン成分が0モル%以上60モル%以下からなるジアミン成分と、ピロメリット酸が80モル%を超えそしてピロメリット酸とは異なる芳香族テトラカルボン酸成分が0モル%以上20モル%未満からなるテトラカルボン酸成分とから実質的になるポリイミドからなり、そしてヤング率がいずれも10GPaを超える直交する2方向がフィルム面内に存在することを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法により得られたポリイミドフィルム。
【請求項16】
ポリイミドがp−フェニレンジアミン成分が100モル%からなるジアミン成分と、ピロメリット酸成分100モル%とからなる請求項15に記載のポリイミドフィルム。
【請求項17】
請求項15に記載のポリイミドフィルムからなる金属配線回路板。
【請求項18】
請求項15に記載のポリイミドフィルムからなるLOC用テープ。

【国際公開番号】WO2004/062873
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−566276(P2004−566276)
【国際出願番号】PCT/JP2003/008845
【国際出願日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】