説明

ポリオレフィン微多孔膜

【課題】透過性及び強度に優れたポリオレフィン微多孔膜の提供。
【解決手段】ポリプロピレン10質量部以上98質量部以下とポリエチレン90質量部以上2質量部以下とからなるポリオレフィン樹脂組成物100質量部と、無機粒子3質量部以上300質量部以下とを含み、該ポリエチレンの分子量分布(Mw/Mn)が6以上であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子を含有するポリオレフィン微多孔膜、その製造方法及びそれを用いた非電解液電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系微多孔膜は、精密濾過膜、電池用セパレータ、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料などに使用されており、特にリチウムイオン2次電池用セパレータとして使用されている。近年、リチウムイオン2次電池は、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの小型電子機器、さらには電気自動車、小型電動バイクなどへの応用も図られている。又パーソナルコンピューターや携帯電話用途では、高容量化に重点が置かれてきおり、電池さらにはセパレータにも従来よりはるかに厳しい性能が要求されている。
現在リチウムイオン2次電池用セパレータにはポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン微多孔膜が使用されている。
【0003】
これらの膜は、例えば樹脂と抽出可能な溶剤を混練後、押出成形にてシート化し、前記抽出可能な溶剤を、適当な溶剤で抽出することにより多孔化し成形する方法によって製造される。前記抽出の前後に、延伸や熱処理を施す事も多い。また、樹脂のみ、または樹脂組成物と炭酸カルシウム等の無機粒子の混合物を溶融押出しし、冷却後にフィルムを少なくとも1軸方向に延伸することで、多孔化せしめる延伸開孔法も用いられている。延伸開孔法において原料が樹脂のみの場合は、押出し後に高ドラフト比で縦方向に伸張せしめる事により開孔核を形成し、原料が樹脂組成物と無機粒子との混合物の場合は無機粒子と樹脂の界面近傍が開孔核になるとされている。
【0004】
ポリエチレン製微多孔膜のセパレータとしての利点は、透過性や機械的強度、電気絶縁性に優れているとともに、電池の安全性確保の面で優れる点にある。ポリエチレン製微多孔膜は、熱暴走等により電池が加熱された際、130℃〜150℃程度に達すると、電流をシャットダウンする機能を有する。シャットダウンとは、微多孔膜の孔が溶融した樹脂によって閉塞され、膜の電気抵抗が増大することにより、リチウムイオンの流れを遮断する機能である。ポリエチレン微多孔膜を電池セパレータとして使用する場合、安全性確保の観点から、一般にシャットダウン温度ができるだけ低いことが望ましい。また、ポリエチレン微多孔膜は、開孔性がよくリチウムイオン等の透過性が良いという利点も有している。
【0005】
また一方で、セパレータの機能として、孔閉塞後もフィルム形状を維持し、電極間の絶縁性を保持する必要がある。セパレータがシャットダウンしても、電池の熱暴走等が続き温度が更に上昇すると、セパレータが溶融して破膜し、電極が短絡する状態となる。この状態を一般にはショートやメルトダウンと称し、そのような状態となる温度をショート温度等とよぶ。ポリエチレン微多孔膜は融解温度が一般に低い為、ショート温度は低く不十分であることが多い。また、ポリエチレン製のセパレータは、電池にした状態で高電圧かつ高温下で保存した際に、その表面が酸化する場合があり、その結果として、膜の強度低下や、黒色化する問題を有していた。
【0006】
特に、昨今は高容量化のため、高電圧仕様の電池が志向されており、それに用いられるセパレータにも高電圧への対応が要求されてようになってきた。例えば4.25V以上の高電圧下で高温保存する場合、従来の一般のセパレータでは、保存後の容量が低下する傾向にあった。この原因は、従来のセパレータは、低電圧や常温では全く問題無いが、高温・高電圧化では酸化劣化しやすくなるためである。このような、高電圧且つ高温保存下での、従来のセパレータの問題点を解決する技術として、ポリプロピレン製のセパレータや、無機粒子を含有するセパレータが紹介されている。
ポリプロピレン製のセパレータは特に高温保存時の耐酸化性に優れる。しかしポリプロピレンからなる微多孔膜は、耐熱酸化性には優れているものの、ポリエチレンに比べ多孔化が困難であり、透過性に劣っていた。また、機械的強度も不十分であった。また融点が高い為、シャットダウン特性にも劣っている。
【0007】
それを補う為に、ポリプロピレンとポリエチレンを混合するセパレータも提案されている(特許文献1)。
更に電池の高容量化時の、安全確保の要望からポリプロピレンの融点以上の耐熱性を求められるケースも増えており、そのために実質的に融点を持たない無機粒子等をポリオレフィン等に含有するセパレータも報告されている(特許文献2)。
【特許文献1】特許3507092号公報
【特許文献2】特開2004−288614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術によっても、透過性、強度、電池の高温・高電圧下での耐酸化性、耐熱性に優れ、さらにフィッシュアイ状の欠点の少ない、セパレータに適したポリオレフィン系微多孔膜は存在しなかった。
例えば、上記特許文献1の方法ではいまだ透過性が不十分で、電池サイクル性が悪く、また強度の低下の問題があった。本発明者等の検討によれば、特許文献2のようにポリプロピレンに無機粒子を混合し押出成形したフィルムは、無機粒子が分散不良を起こし、製膜されたフィルムにフィッシュアイ状の、欠点が発生するという欠点を有していた。この欠点の部分はイオンの透過性が悪いばかりか、大きくなると、セパレータの破れに繋がり、電池の信頼性を低下させるという問題があった。
本発明は、透過性及び強度に優れ、更にはフィッシュアイ状の欠点の少ないポリオレフィン微多孔膜、その製造方法及びそれを用いた非水電解液電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ね、微多孔膜を構成する樹脂組成を詳細に検討した結果、特定のポリエチレンをポリプロピレンと無機粒子に混入することでポリオレフィン組成物中の無機粒子の分散性を向上することができ、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)ポリプロピレン10質量部以上98質量部以下とポリエチレン90質量部以上2質量部以下とからなるポリオレフィン樹脂組成物100質量部と、無機粒子3質量部以上300質量部以下とを含み、該ポリエチレンの分子量分布(Mw/Mn)が6以上であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
(2)ポリエチレンの分子量分布(Mw/Mn)が11以上である上記(1)のポリオレフィン微多孔膜。
(3)ポリエチレンが分子量分布(Mw/Mn)が30以上の高密度ポリエチレン(PEA)と分子量分布(Mw/Mn)が10以下の高密度ポリエチレン(PEB)の混合物からなり、該混合物の合計質量を100とした時の、PEAの質量が3以上である上記(1)又は(2)のポリオレフィン微多孔膜。
(4)無機粒子の一次粒子径が100nm以下である上記(1)〜(3)いずれかのポリオレフィン微多孔膜。
(5)一次粒子径が100nm以下の無機粒子を、3質量部以上100質量部以下含む上記(1)〜(3)いずれかのポリオレフィン微多孔膜。
(6)厚みが0.5μm以上10μm以下である上記(1)〜(5)いずれかのポリオレフィン微多孔膜。
(7)厚みが0.5μm以上4.5μm以下であり、厚み1μm換算の透気度が10sec/100cc以上300sec/100cc以下である上記(1)〜(5)いずれかのポリオレフィン微多孔膜。
(8)上記(1)〜(7)いずれかのポリオレフィン微多孔膜(A)と、ポリオレフィンを主体とし、微多孔膜(A)とは異なる微多孔膜(B)とを含み、全体の厚みが5μm以上45μm以下である、2層以上の構造を有するポリオレフィン微多孔膜。
(9)微多孔膜(B)が100質量部のポリオレフィン樹脂と、40質量部以下の無機粒子を含む、上記(8)のポリオレフィン微多孔膜。
(10)上記(1)〜(9)いずれかのポリオレフィン微多孔膜を用いた非水電解質電池用セパレータ。
(11)ポリプロピレン10〜98質量部とポリエチレン90〜2質量部からなるポリオレフィン樹脂組成物100質量部と、無機粒子3〜300質量部とを含む混合物を、予め混合した後、溶融混練し、押出成形してシートを得る工程、該シートを1軸以上で延伸する工程、可塑剤を抽出する工程を含むポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
(12)前記ポリオレフィン微多孔膜が積層膜であって、前記押出成形を共押出ダイを用いて行ない、共押出しにより積合する上記(11)のポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は透過性及び強度に優れる。特にリチウムイオン2次電池に使用した際、透過性、更にはフィッシュアイ状の欠点が少ないという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明のポリオレフィン系微多孔膜、およびその製造方法を説明する。
本発明はポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)および無機粒子を特定量で配分したポリオレフィン微多孔膜であって、該ポリエチレンのMw/Mn(分子量分布)が6以上であることにより、本発明の目的を達成する。従来の技術では、無機粒子が分散不良を起こし、粒状の欠点となっていたが、本発明の要件を満たすことで、この課題を解決する。
本発明の微多孔膜は単層として用いてもよいし、積層フィルムの一層として用いてもよい。好ましくは、積層フィルムの何れかの特定層、更に好ましくはいずれかの表層に用いることで、過去に無かった高機能のセパレータが得られる。
【0013】
本発明の微多孔膜は、ポリプロピレン10〜98質量部とポリエチレン90〜2質量部とからなるポリオレフィン樹脂組成物を含む。
ポリオレフィン樹脂組成物におけるPPとPEの質量比(PP/PE)は、セパレータとして使用する際の耐酸化性の点から10/90以上であり、耐酸化性及び高温保存性の点から20/80以上が好ましく、55/45以上がより好ましく、65/35以上が最も好ましい。一方、延伸成形性(製膜時の破れの抑制など)や膜としての強度の点から、PPとPEの質量比(PP/PE)は98/2以下であり、95/5以下が好ましく、92/8以下が最も好ましい。Tダイ成形を用いて膜を製造する場合には、PPとPEの質量比(PP/PE)は98/2以下(好ましくは95/5以下、最も好ましくは92/8以下)であると、幅方向の膜厚分布が良好となるため、膜厚みが薄くても強度が維持できる、多層フィルムとした際に他層との接着性が向上する等の効果も奏する。耐酸化性が更に良くなり、層厚みを薄くすることもできる点から、PPとPEの質量比(PP/PE)は20/80以上95/5以下であることが好ましく、より好ましくは55/45以上95/5以下、最も好ましくは65/35以上92/8以下である。
【0014】
本発明で用いられるポリプロピレンの例としては、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン等のホモ重合体で、好ましくはアイソタクティックポリプロピレンが用いられる。又、エチレンやブテンとの共重合による、ランダム共重合体やブロック共重合体、ターポリマーも用いられるし、本発明の効果を逸脱しない範囲で、その他のプロピレンや炭素数が5以上のα−オレフィンを共重合したものでも良い。使用触媒は、チーグラー系、メタロセン系等問わない。
ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)は、溶融混練が容易となり、その結果、膜としたときにフィッシュアイ状の欠陥が改善される点から、好ましくは100万以下であり、好ましくは70万以下、更に好ましくは60万以下である。ここで、ポリプロピレンの重量平均分子量(Mw)とは、GPC法により測定したもの(ポリスチレン換算)である。
【0015】
本発明におけるポリエチレンとしては、例えば高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、高圧法低密度ポリエチレン、及びこれらの混合物等が挙げられる。セパレータとした際の熱収縮を低減できる点から、セパレータ用としては、イオン重合による線状の高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、あるいはこれらを主体とするポリエチレン混合物が好ましい。ここで、主体とするとは、ポリエチレン混合物中での質量割合が40%以上、好ましくは60%以上であることをいう。
ポリエチレンの重量平均分子量Mwは、微多孔膜の強度の点から、好ましくは20万以上であり、更に好ましくは30万以上である。
【0016】
ポリエチレンの分子量分布(Mw/Mn)は、無機粒子の混練性が向上し、無機粒子が二次凝集した粒状の欠点が解消される点から6以上である。好ましくは8以上であり、更に好ましくは11以上、最も好ましくは20以上である。ここでMnは数平均分子量である。分子量分布(Mw/Mn)は後述の方法により測定される。
また本発明の実施の最も好ましい形態としては、ポリエチレンはMw/Mnが20以上であるが、30以上のポリエチレン(PEA)と、Mw/Mnが10未満のポリエチレン(PEB)の混合物を用いることがより好ましい。Mw/Mnの広いポリエチレンを用いると、それに含まれる分子量1万未満の低分子量成分の効果で、溶融混練時の部分的発熱を抑えることができ成形物の熱劣化が防止される。それにより、ダイス等の中で溶融状樹脂の流動性が安定し、厚みムラが解消される。また(PEA)はMwが1,000,000以上の成分も有しており、この成分がフィルムに強度を付与する。(PEB)はMw/Mnが狭いために配向が掛かり易く、延伸時の倍率を大きくとることができ、フィルムの強度が向上できる。(PEA)と、(PEB)の混合質量比(PEA/PEB)は好ましくは3/97以上100/0以下、さらに好ましくは5/95以上95/5以下、最も好ましくは8/92以上60/40である。この範囲であると、強度と無機粒子の混練性が両立され好ましい。
【0017】
Mw/Mnが20以上であるポリエチレンを用いる場合には、ポリエチレンに含まれる分子量1万未満の低分子量成分の効果で、溶融混練時の部分的発熱を抑えることができ成形物の熱劣化が防止され、その結果、ダイス等の中で溶融状樹脂の流動性が安定し、厚みムラが解消されるので好ましい。
Mw/Mnが20以上のポリエチレンとしては、例えば、通常の低圧法イオン重合による高密度ポリエチレンが用いられるが、複数の重合機を用いた、例えば2段重合法ポリエチレンが好適に用いられる。2段重合のポリエチレンは、従来公知の技術で製造されるもので、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で分析すれば、分子量に対するその生分量のチャートにおいて2つのピークが観測されるので、容易に単段重合のポリエチレンと判別できる。ここでいう2段重合ポリエチレンは、ペレットやパウダーの形で供給されるが、混合物とは違い、高分子量部分と低分子量部分が、実際的には分離できない事を特徴とする。即ち、樹脂の寸法的な最小単位であるパウダー原料に時点で、そのGPCのチャートが多段構造を有する物である。
【0018】
ポリエチレンは、Mw/Mnが30以上のポリエチレン(PEA)と、Mw/Mnが10以下のポリエチレン(PEB)の混合物であることが好ましい。上述のとおり、Mw/Mnが30以上のポリエチレン(PEA)は、ポリエチレンに含まれる分子量1万未満の低分子量成分の効果で、溶融混練時の部分的発熱を抑えることができ成形物の熱劣化が防止され、その結果、ダイス等の中で溶融状樹脂の流動性が安定し、厚みムラが解消されるので好ましい。またPEAはMwが1,000,000以上の成分も有しており、この成分がフィルムに強度を付与する。一方、PEBは Mw/Mnが狭いために配向が掛かり易く、延伸時の倍率を大きくとることができ、フィルムの強度を向上できる。PEAとPEBの混合質量比(PEA/PEB)は、無機粒子の混練性の点から、好ましくは3/97以上、より好ましくは5/95以上、最も好ましくは8/92以上である。また強度の点から、好ましくは100/0以下、より好ましくは95/5以下、最も好ましくは60/40以下である。
【0019】
本発明の微多孔膜は、上記のポリオレフィン樹脂組成物100質量部に対し、無機粒子を3質量部以上300質量部以下を含む。3質量部以上であれば、透過性や耐熱性が改善される。また成形性や膜としての強度の点から300質量部以下である。好ましくは11質量部以上乃至200質量部以下であり、更に好ましくは15質量部以上乃至150質量部以下が好ましいである。
本発明の微多孔膜を積層膜の表層として用いる場合、無機粒子の含有率は、表層の無機粒子以外の成分を100質量部とした場合に、10質量部以上200質量部以下が好ましく、より好ましくは10質量部以上100質量部以下、さらに好ましくは20質量部以上70質量部以下である。無機粒子の含有率は、電解液の含浸性の付与、および電池の高温保存特性の観点から10質量部以上が好ましく、機械強度の確保および膜成形のしやすさの観点から200質量部以下が好ましい。
【0020】
使用する無機粒子としては、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の酸の金属塩や、クレイ、マイカ、タルク等が使用可能であり、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びチタンのいずれか一つの酸化物あるいは窒化物が好ましく、特にシリカ、アルミナ、チタニアが好適である。より好ましくは、ポリオレフィンの可塑剤への分散性の観点から表面を疎水処理した無機粒子である。無機粒子は、微多孔化に可塑剤を用いる場合は、使用する可塑剤に対する吸油量が150ml/100g以上が好ましく、より好ましくは150ml/100g以上1000ml/100g以下である。さらに好ましくは150ml/100g以上500ml/100g以下である。吸油量が150ml/100g以上の場合、無機粒子を溶融混練、押出しシート化すると、シート中に凝集物が生じにくく高倍率の延伸が可能であり、高強度かつ薄膜を達し得るので好ましい。また1000ml/100g以下の場合、無機粒子の嵩密度が大きいために生産時における扱いが容易であることに加え、凝集物が生じにくいため、無機粒子の分散がよく、その結果得られる膜の強度が高く、フィッシュアイ状の欠点を抑制できる点から好ましい。これらの無機粒子は市販のものを用いても良いが、もちろん、必要に応じて疎水性処理を施しても良い.
無機粒子の一次粒子径は、分散性の点から1μm未満が好ましく、より好ましくは300nm未満、更に好ましくは150nm未満、最も好ましくは50nm未満である。これらの粒子は単独で用いても良いし、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、2種以上を混合したものでも良い。2種以上の粒子を混合する場合は、例えばアルミナでも平均粒子径の異なる2種のアルミナを添加してもよい。それにより、分散状態を変化させる事もできる。
【0021】
本発明の微多孔膜には、第3成分として酸化防止剤、核剤、帯電防止剤等の添加剤を適当量混合しても良い。
酸化防止剤としては、「イルガノックス1010」、「イルガノックス1076」、「BHT」(いずれも商標、チバスペシャリティーケミカルズ社製)等のフェノール系酸化防止剤や、リン系、イオウ系の二次酸化防止剤、ヒンダードアミン系の耐候剤等を、単独または目的に応じて複数用いることができる。特にフェノール系酸化防止剤と、リン系酸化防止剤の組合せが好適に用いられる。具体的にはペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチルヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチルヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4‘−ビフェニレンフォスファイト等が好ましい。また、6−[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ]−2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキシフォスフェピン等も好適である。
【0022】
ポリプロピレンの結晶性を制御し微多孔の形成を制御するため、結晶核剤を使用することが好ましい。特に押出成形により本発明の微多孔膜を製造する場合には結晶核剤を使用することが好ましい。核剤の種類は特に問わないが、一般のベンジルソルビトール系、リン酸金属塩、t−ブチル安息香酸アルミニウム等のカルボン酸金属塩などが用いられる、その具体例はビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール,ビス(4−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、ビスベンジリデンソルビトール等である。添加量は、所望の結晶化条件にもよるが、結晶化が迅速に進み、成型性が容易となる点から、プロピレンの量に対して100ppm以上であることが好ましく、過剰の核剤によるブリード過多を防止する点から10,000ppm以下であることが好ましい。さらに好ましい核剤の量は100〜2,000ppmである。通常の可塑剤を用いた微多孔膜の製造法では、流動パラフィンや、フタル酸エステル系の可塑剤を用いた場合、ポリエチレンは透過性が発揮されやすいが、ポリプロピレンはポリエチレンに比べ孔が小さくなり、透過性が劣る傾向となる。このポリプロピレンの透過性を解消する手段として、孔を適当な大きさに調整する方法が効果的であり、核剤の利用により、相分離速度が調整され、適当な孔構造の形成が容易となる。
【0023】
その他、ポリプロピレンとポリエチレンの分散助剤として、例えば水添したスチレン−ブタジエン系エラストマーや、エチレンとプロピレンを共重合したエラストマー等も必要に応じて用いられる。これらの助剤の混合量は、特には規定されないがポリプロピレンとポリエチレンの合計量100質量部に対して、好ましくは1〜10質量部が使用される。
本発明ではポリオレフィン微多孔膜(A)と、ポリオレフィンを主体とし、微多孔膜(A)とは異なる微多孔膜(B)とを含み、全体の厚みが5μm以上45μm以下である、2層以上の構造を有するポリオレフィン微多孔膜とすることが好ましい。厚みがこの範囲内の多層フィルムであると、耐酸化性と透過性が両立しやすい。微多孔膜(B)は例えば、ポリエチレンやポリプロピレンからなる微多孔膜でも良い。
【0024】
微多孔膜(B)は100質量部のポリオレフィン樹脂と、40質量部以下の無機粒子を含むことが好ましく、この範囲内であると、強度に更に優れた微多孔膜が得られる。
ポリオレフィン微多孔膜の透気度は、好ましくは、1μm厚み辺り5〜200sec/100ccであり、さらに好ましくは10〜100sec/100cc、最も好ましくは10〜50sec/100ccである。
ポリオレフィン微多孔膜の厚みは、強度の点から0.5μm以上が好ましく、透過性の点から10μm以下が好ましい。より好ましくは 0.5〜4.5μm、更に好ましくは1.0〜2.8μmである。
【0025】
ポリオレフィン微多孔膜は、孔が三次元的に入り組んでいる三次元網目構造をとっていることが好ましい。このとき、多層フィルムの場合はその三次元網目構造が各層でつながっていることが好ましい。三次元網目構造とは、表面が葉脈状であり、任意の三次元座標軸方向からの断面の膜構造がスポンジ状である構造である。葉脈状とはフィブリルが網状構造を形成している状態である。これらは走査型電子顕微鏡で表面および断面を観察することにより確認できる。三次元網目構造のフィブリル径は0.01μm以上0.3μm以下であることが好ましく、走査型電子顕微鏡で観察できる。
ポリオレフィン微多孔膜は単層であってもよいし、積層フィルムの一層として用いてもよい。積層構造にする場合、本発明のポリオレフィン微多孔膜以外の層は、その目的に応じて任意に選ばれる。
【0026】
セパレータとして用いる場合には、本発明の微多孔膜を単層で用いても良いが、ポリオレフィン微多孔膜をいずれかの層に用いた積層構造であることが好ましい。積層構造のセパレータの場合、表層は電解液の含浸性、電池に用いたときの高温保存特性が特に要求される層である。本発明の微多孔膜は無機粒子を含有し、耐熱性と透過性を兼備し、更には機械的強度を有するため、積層膜の表層として使用する場合に特に効果が発揮される。さらに好ましくは、本ポリオレフィン微多孔膜を負極、正極に接する表層に配置した多層構造である。最も好ましくは、両方の電極に接する面、即ち両表層に本発明のポリオレフィン微多孔膜を配した3層以上の構造である。この場合、両表層のポリオレフィン微多孔膜の厚みや、透気性は全く同じである必要は無く、目的に応じた非対称構造でも良い。
【0027】
表層以外の層(以下、中間層という)は、透過性、シャットダウン特性を付与するために、従来のポリエチレン製セパレータ用として用いられているポリエチレン微多孔膜を用いることも可能である。このような層を構成する樹脂は、ポリエチレン単体でも良いが、ポリプロピレン等との混合物でも良い。
中間層は、無機粒子を含有しても良い。透気性、フィルム強度、フィッシュアイの観点の点から、100質量部のポリオレフィン樹脂と、40質量部以下の無機粒子を含むことが好ましい。また、中間層に強度の強い層を配して、補強層としてもよい。特に、本発明の製法として後述する共押出・共延伸法を用いる際は、中間層として超高分子量ポリエチレン等を主体とした強度の高い層を用い、延伸補強層として用いる事もできる。この場合、ポリオレフィン樹脂中に、10質量%以上の超高分子量ポリエチレンを含むことが好ましい。
【0028】
積層フィルムとする場合は、シャットダウン機能を有する層を厚くすることが好ましく、さらに好ましくは全層がシャットダウン機能を有することが最も好ましい。
本発明のポリオレフィン微多孔膜を表層として用いた積層膜は、表層の厚さを調整し、かつ無機粒子を配合することで、透過性、機械強度、電解液の含浸性に優れ、ショート温度が高いという効果を奏し、表層にポリプロピレンを含有することにより、高温保存特性や高耐熱特性をさらに向上させることができる。更に、他の一層にポリエチレンを含有させる場合にはシャットダウン温度が低くなるという効果をも奏する。本発明は、好ましい態様として、ポリオレフィン微多孔膜(A)に、ポリオレフィンを主体とし、微多孔膜(A)とは異なる微多孔膜(B)を積合した、2層以上の構造をもつポリオレフィン微多孔膜を包含する。ここで、「主体」とは微多孔膜を構成する基材樹脂合計質量を100としたときに、30質量%以上、好ましくは50質量%以上であることをいう。ポリオレフィンとしては、前述のポリエチレンやポリプロピレン等が挙げられる。
【0029】
前記2層以上の構造をもつポリオレフィン微多孔膜は、取扱い性、フィルム強度の点から、全体の厚みが5μm以上であることが好ましく、イオン透過性の点から45μm以下であることが好ましい。
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、ポリプロピレン10〜98質量部とポリエチレン90〜2質量部とからなるポリオレフィン樹脂組成物100質量部と、無機粒子3〜300質量部とを含む混合物を、予め混合した後、溶融混練し、押出成形してシートを得る工程、該シートを1軸以上で延伸する工程、可塑剤を抽出する工程を含む方法により好適に得られる。
【0030】
上記のような方法としては、例えばポリオレフィン樹脂組成物と無機粒子、場合により可塑剤を予め混合する工程、さらに押出機等で溶融混練する工程、押出成形する工程、延伸工程、可塑剤抽出工程、(必要に応じて)熱処理工程を経て製造される。
ポリオレフィン樹脂組成物と無機粒子と可塑剤を混練する方法は、あらかじめポリオレフィン樹脂と無機粒子と場合により可塑剤をヘンシェルミキサー等で事前混練する工程を経て、該混練物を押出機に投入し、押出機中で加熱溶融させながら、任意の比率で所定量になるまで可塑剤を導入し、さらに混練することが挙げられる。具体的には、ポリオレフィン樹脂と無機粒子と可塑剤とをヘンシェルミキサー等で事前混練したものを二軸押出機に投入し、可塑剤の少ない高粘度の状態で混練し、無機粒子を分散させ、然る後に押出機中に可塑剤を追加的に添加し、所定の可塑剤量にせしめることができる。このような方法は、無機粒子の分散性がより良好なシートを得ることができ、無機粒子を含む層が、高倍率でも破膜することなく延伸することができる点で好ましい。
【0031】
押出工程では、2軸押出機を用いる事が好適で、これにより、強度のせん断が付与出来るため、本発明のポリオレフィン系微多孔膜中の無機粒子の分散性が一層向上する。より好ましくは、2軸押出機のスクリューのL/Dが20〜70程度であり、さらに好ましくは30〜60である。そのスクリューにはフルフライトの部分と、一般にニーディングディスクやローターと呼ばれる混練部分を配している事が好ましい。
前述のように、ポリオレフィン樹脂組成物と無機粒子と可塑剤とをヘンシェルミキサー等で予め混練したものを二軸押出機に投入し、可塑剤の少ない高粘度の状態で混練する際、追加の可塑剤を添加する前の高粘度の状態で、ニーディングディスクやローターで強く練ることが分散に対しさらに効果的である。この際、本発明のポリエチレンのMw/Mn(分子量分布)が6以上、好ましくはMw/Mnが20以上、さらに好ましくはMw/Mnが30以上の高密度ポリエチレンとMw/Mnが10以下の高密度ポリエチレンの混合物であると、そこに含まれる分子量1万以下の低分子量成分により潤滑性は確保されるので、樹脂温度を過剰に上げることなく、GPCによる分子量100万以上の成分による高せん断応力が両立し、好ましい無機粒子の分散状態を得る事ができる。この後、追加の可塑剤を添加することで、特に透過性確保に必要な孔構造を成型するに最適な可塑剤量が混合される。
【0032】
押出機の下流には、整流の為のギアポンプや、異物等の除去の為のフィルター等を設ける事ができる。
押出機の中で分散しきれなかった極少量の未分散無機粒子の2次凝集体の除去の為には、スクリーンメッシュで100メッシュ相当以上、さらに好ましくは250メッシュ相当以上、最も好ましくは400メッシュ相当以上の細密フィルターを配したスクリーンチェンジャーを設けることが好ましい。スクリーンフィルターはメッシュのほか、金属不織布、焼結フィルターなどでも良い。細密フィルターは目詰まりしやすいので、スクリーンチェンジャーは連続的にメッシュが交換できるものが望ましい。
【0033】
ダイスは、特に問わないが、サーキュラーダイス、Tダイス等が用いられる。本発明では無機粒子を用いる為、それによる摩耗を抑制する対策を講じたもの、例えば流路やリップに、テフロン(登録商標)加工、セラミック加工、ニッケル加工、モリブデン加工、ハードクロムコートしたものが好適には用いられる。
積層膜を得る場合、共押出ダイを用いる事もでき、Tダイの場合は好ましくは、ダイスの内部で溶融樹脂を膜状に広げてから各層を合流せしめるコートハンガー式のマルチマニホールドダイスを用いるのが、厚み制御の面で特に好ましい。ただし、フィードブロックダイや、クロスヘッド式のダイスも用いることは可能である。サーキュラーダイスの場合はスパイラル式ダイや、多層フィルムでも5層以上の場合はスタック式のダイスが熱劣化防止の面で好ましい。各層間の接着強度を上げたい際には特に好ましい。
【0034】
共押出に際しては、互いに積合する樹脂層のダイス合流部分で、合流時の界面乱れ等を防ぐ為、その粘度が、大きく違わないように配慮することが好ましい。
本発明でいう可塑剤は、ポリオレフィンと混合した際に、その融点以上において相溶することのできる有機化合物が望ましい。このような可塑剤として、例えば流動パラフィンやパラフィンワックスなどの炭化水素類、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジブチルフタレートなどのフタル酸エステル類、その他、セバシン酸エステル類、ステアリン酸エステル類、アジピン酸エステル類、リン酸エステル類が挙げられる。これらの可塑剤は単独で使用しても、2種以上混合して使用してもかまわない。可塑剤の割合は、可塑剤以外のPP、PE等の樹脂成分と無機粒子の合計量を100質重量部とした際に、20質量部以上400質量部以下が好ましく、さらには50質量部以上200質量部以下が好ましい。
【0035】
ダイスより押し出された溶融樹脂は、例えばキャスト装置に導入され、延伸前の原反とすることができる。その後、高機械強度、縦横の物性バランス付与の為、延伸されるが、2軸延伸が好ましい。好ましくは同時二軸延伸、逐次二軸延伸である。延伸温度は、好ましくは100℃〜155℃以下、さらに好ましくは110℃〜140℃の範囲内である。延伸倍率は、膜強度の観点で好ましくは面積倍率で3倍以上から200倍以下である。積層原反の場合は、共延伸とすれば良い。
可塑剤の抽出は膜を抽出溶媒に浸漬することにより行い、その後膜を十分乾燥させる。抽出溶媒は、ポリオレフィン、無機粒子に対して貧溶媒であり、かつ可塑剤に対しては良溶媒であり、沸点がポリオレフィンの融点よりも低いことが望ましい。このような抽出溶媒として、例えば塩化メチレン、1,1,1−トリクロロエタンなどの塩素系溶剤、メチルエチルケトン、アセトンなどのケトン類、ヒドロフルオロカーボン、ヒドロフルオロエーテル、環状ヒドロフルオロカーボン、ペルオロカーボン、ペルフルオロエーテルなどのハロゲン系有機溶剤、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル類、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素類、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類が挙げられる。またこれらの抽出溶媒を二種類以上使用してもよい。この中では特に塩化メチレンが好ましい。抽出工程は延伸工程の前でもよいし、後でもよい。複数の抽出槽による多段抽出でもよい。
【0036】
可塑剤抽出後には、膜厚、透気度などの膜物性の調整、或いはフィルムの熱収縮防止のため必要に応じて加熱延伸による熱固定を加えてもよい。該抽出後の延伸は一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸が挙げられ、好ましくは同時二軸延伸、逐次二軸延伸である。延伸温度は、好ましくは100℃以上から155℃以下である。延伸倍率は、好ましくは面積倍率で1倍を越えて10倍以下である。
引続きさらに熱処理をする場合は、高温雰囲気下での膜収縮を低減するために、例えば二軸延伸機、一軸延伸機、あるいは両方を用いて、100℃以上ポリプロピレンの融点以下の温度範囲で、幅方向、長さ方向、あるいは両方向にその倍率を応力を緩和することにより行う。
【0037】
また、本発明のポリオレフィン微多孔膜を積層フィルムに利用する場合、予め単層、または積層構造に成型された微多孔膜または、延伸前の状態で、本発明のポリオレフィン系微多孔膜を積合しロール等で熱融着する方法のいずれでも作製できる。
本発明のポリオレフィン微多孔膜を、セパレータとして使用する際、そのセパレータは、好ましくは以下の膜物性(積層フィルムの一部に用いる場合は、セパレータ全体の物性)を示すのが良い。
(1)透気度は、機械強度、自己放電の点から50秒/100cc、電池のサイクル特性、レート特性の点から1000秒/100cc以下である。好ましくは70秒/100cc以上800秒/100cc以下、より好ましくは100秒/100cc以上600秒/100cc以下である。
(2)突刺強度は、電池の組立の点から好ましくは300g以上である。さらに好ましくは400g以上である。
(3)破断強度は、電池の組立の点からMD方向、TD方向ともに500kg/cm以上、MD方向とTD方向の破断強度の比は0.1以上8.0以下が好ましい。より好ましくは0.1以上5.0以下、さらに好ましくは0.5以上2.0以下である。
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、非水電解質電池用セパレータ用として好適である。非水電解質電池とは電解液として水を使用しないで電池であり、例えばリチウムイオン2次電池などがある。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
実施例で用いた物性の測定方法、試験方法及び評価方法を示す。判定は必用項目において行い、◎、○を合格とし×を不合格とした。
(1)粘度平均分子量Mv
ASTM−D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η]を求める。ポリエチレンのMvは次式により算出した。
[η]=6.77×10−4Mv0.67
ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10−4Mv0.80
(2)樹脂密度[kg/m]。
JIS K7112密度勾配管法によりもとめた。
(3)重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分子量分布Mw/Mn
Waters社製 ALC/GPC 150C型(商標)を用い、以下の条件で測定し、標準ポリスチレンを用いて較正曲線を作成した。これの各分子量成分に0.43(ポリエチレンのQファクター/ポリスチレンのQファクター=17.7/41.3)を乗じることによりポリエチレン換算の分子量分布曲線を得た。
カラム:東ソー製 GMH−HT(商標)2本+GMH−HTL(商標)2本
移動相:o−ジクロロベンゼン
検出器:示差屈折計
流速 :1.0ml/min
カラム温度:140℃
【0039】
(4)膜厚(μm)
ダイヤルゲージ「PEACOCK No.25」(尾崎製作所、商標)にて測定した。MD10mm×TD10mmのサンプルを切り出し、格子状に9箇所(3点×3点)の膜厚を測定した。得られた平均値を膜厚(μm)とした。
(5)積層フィルムの膜厚 (μm)
一般の走査型電子顕微鏡による断面観察、もしくは剥離が可能な場合には剥離して上記(1)の方法により、膜厚を測定した。
(6)透気度 (sec/100cc)
JIS P−8117に準拠し、ガーレー式透気度計「G−B2」(東洋精機製作所(株)製、商標)で測定した。積層の場合は、剥離して測定した。ここで厚み1μm辺りの透気度が、5sec/100cc以上200sec/100cc以下を○とし、そのうち10 sec/100cc以上60sec/100cc未満の範囲を◎とした。また5sec/100cc未満、および200sec/100ccを超えるものを×とした。
【0040】
(7)セパレータの突刺強度(g)
ハンディー圧縮試験器「KES−G5」(カトーテック製、商標)を用いて、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secの条件で突刺試験を行うことにより、求めた。
400g未満を×、400g以上500g未満を○、500g以上を◎とした。フィルムの強度は、セパレータの場合、電池作製における捲回の際に重要となるため、積層の場合は、表層のみの強度は意味が無い為、剥離せずそのまま測定した。
(8)可塑剤吸油量 (ml/100g)
可塑剤吸油量測定器「S410」(FRONTEX社製、商標)を用いて測定を行った。無機粒子5gを投入し、混練しながら可塑剤を滴下した。混練時のトルクが上昇し、最大トルクの70%に減少するときの可塑剤添加量(ml)を求め、それと無機粒子質量(g)より、次式を用いて計算した。
可塑剤吸油量(ml/100g)=可塑剤添加量/無機粒子質量×100
(9)一次粒子径(nm)
走査型電子顕微鏡(SEM)にて拡大した、10×10μmの視野を直接、あるいはネガより写真に焼き付けた後、画像解析装置に読み込み、これから計算される各粒子の円換算径(面積を同じくする円の直径)の数平均値を無機フィラーの平均粒径(nm)とする。ただし、写真から画像解析装置に入力する際に染色境界が不明瞭な場合には写真のトレースを行い、この図を用いて画像解析装置に入力を行う。
【0041】
(10)高温保存特性 (%)
(a)正極の作製
正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoOを92.2質量部、導電材としてリン片グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)3.2質量部をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを作製する。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。このとき、正極の活物質塗布量は250g/m、活物質嵩密度は3.00g/cmになるようにする。これを面積2.00cmの円形に打ち抜く。
(b)負極の作製
負極活物質として人造グラファイト96.9質量部、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量部とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量部を精製水中に分散させてスラリーを作製する。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の片面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m、活物質嵩密度は1.35g/cmになるようにする。これを面積2.05cmの円形に打ち抜く。
(c)簡易電池組立
ポリオレフィン系微多孔膜、正極、負極、電解液(1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム溶液(溶媒:エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/2)をアルミニウム及びステンレス製のセル内に組み込んで、簡易リチウムイオン2次電池を作製する。
(d)高温保存特性評価
上記のように組み立てた簡易電池を25℃雰囲気下、3mA(約0.5C)の電流値で電池電圧4.4Vまで充電し、到達後4.4Vを保持するようにして電流値を3mAから絞り始めるという方法で、合計6時間の充電を行う。そして3mAの電流値で電池電圧3.0Vまで放電する。
【0042】
次に25℃雰囲気下、6mA(約1.0C)の電流値で電池電圧4.4Vまで充電し、到達後4.4Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行う。そして6mAの電流値で電池電圧3.0Vまで放電する。このときの放電容量をA(mAh)とする。
次に25℃雰囲気下、6mA(約1.0C)の電流値で電池電圧4.4Vまで充電し、到達後4.4Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行う。充電状態に保持したセルを60℃雰囲気下で7日間保存する。その後セルを取り出し25℃雰囲気下、6mAの電流値で電池電圧3.0Vまで放電する。次に25℃雰囲気下、6mA(約1.0C)の電流値で電池電圧4.4まで充電し、到達後4.4Vを保持するようにして電流値を6mAから絞り始めるという方法で、合計3時間充電を行う。そして6mAの電流値で電池電圧3.0Vまで放電する。このときの放電容量をB(mAh)とする。BのAに対する比率から、容量維持率を高温保存特性として算出する。容量維持率が80%以上を◎とし、70%以上を○とし、70%未満を×とした。◎、○を合格とし×を不合格とした。
【0043】
(11)フィッシュアイ
ポリオレフィン微多孔膜の裏面から白色LED光を透過させ、記録装置付のCCDカメラで撮影し、正常部分より、明るい部分と、暗い部分をフィッシュアイとして数えた。この操作を幅60mm、長さ200mのロールで実施し、フィッシュアイの数が20個以下を合格とした。
次に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
本発明のポリオレフィン系微多孔膜を表層として用いた3層フィルムの例について示す。
表層として、アイソタクティックポリプロピレン(ホモ、密度900kg/m、粘度平均分子量80万、Mw/Mn=13)85質量部、高密度ポリエチレン(PE1)(密度950kg/m、粘度平均分子量21万、Mw/Mn=7)10質量部、高密度ポリエチレン(PE2)(2段重合により重合したもの、密度950kg/m、粘度平均分子量30万、Mw/Mn=38)5質量部を用いた。2種のポリエチレン混合物の分子量分布Mw/Mnは12であった。シリカ(比重 2.2 疎水性、吸油量200ml/100g、平均一次粒径13nm)25質量部、核剤としてビス(P−エチルベンジリデン)ソルビトールを1質量部、酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン−(3‘、5‘−ジ−t−ブチル−4‘−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.3質量部、可塑剤として、流動パラフィン(37.78℃における動粘度75.90cSt、密度868kg/m)を25質量部加え、ヘンシェルミキサーで攪拌し原料を調整した。
中間層として、高密度ポリエチレン(PE1)(密度950kg/m、粘度平均分子量21万、Mw/Mn=7)100質量部、酸化防止剤としてテトラキス−[メチレン−(3‘、5’−ジ−t−ブチル−4‘−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.3質量部配合し原料を調製した
ここで、表層原料を口径35mm、L/D=48の二軸押出機にフィーダーを介して投入した。また中間層原料は口径50mm、L/D=48の二軸押出機にフィーダーを介して投入した。
【0045】
さらに両押出機のシリンダーの途中部分に、流動パラフィンを、表層、中間層それぞれの所定量を注入した。両表層、中間層の押出量を調製し、ダイス出口で表層A/中間層/表層Bの厚み比が1/7/1に調製した。押出機とダイスの間には、400メッシュのスクリーンを配したスクリーンチェンジャー、およびギヤポンプを配した。ダイスはマルチマニホールド式の共押出(2種3層)が可能なTダイを用いた。ダイス内では、表層がほぼ均等に等分され、中間層の両側に積合される。ダイスから出た溶融フィルム原反は、キャストロールで冷却固化させ、厚さ1.5mmのシートを成形した。ここで、便宜上、上流側の押出機側のキャストロールに接触する側をA表層とし、下流側のキャストロールに接触する側をB表層とした。
このシートを同時二軸延伸機で120℃の条件で面積倍率45倍に延伸した後、塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去後に乾燥し、さらにテンター延伸機により130℃の条件で横方向に1.5倍延伸した。その後、この延伸シートを130℃で7%幅方向に緩和して熱処理を行った。これにより、表層の二層が同一の組成で、中間層が異なる組成の二種三層構造を有する微多孔膜を得た。得られた微多孔膜の物性を表1に示す。A表層、B表層は若干の物性差はあるものの、実用上はほぼ同様な物性を示している。
このポリオレフィン系微多孔膜は、透過性、強度、電池の高容量化に対応できる高温保存性に優れ、さらにフィッシュアイ状の欠点が少なかった。
【0046】
[実施例2〜3]
表層と中間層の厚み比を、表1の値になるように、実施例2では表層の押出量を減らし、実施例3では表層の押出量を増やし、中間層を減らした。それ以外は、実施例1と同様ににしてフィルムを製膜した。結果を表1に示す。この積層膜もセパレータとして良好であった。
【0047】
[実施例4]
表層の原料として、高密度ポリエチレン(PE3)(密度954kg/m、粘度平均分子量21万、Mw/Mn=11)15質量部を使用した以外は、実施例1と同様に微多孔膜を作製した。作製した微多孔膜の物性を表1に示す。
【0048】
[実施例5〜7]
表層の組成を、表1の様に調製した以外は、実施例1と同様に微多孔膜を作製した。作製した微多孔膜の物性を表1に示す。
【0049】
[実施例8]
表層の組成を表1の様に調製した以外は実施例1と同様に微多孔膜を作製した結果を表1に示す。透過性、強度は良かったが、高温保存性が悪かった。
【0050】
[比較例1]
表層の原料のポリエチレンとして、高密度ポリエチレン(PE4)(密度948kg/m、粘度平均分子量33万、Mw/Mn=5) 15質量部のみ使用した以外は、実施例1と同様に微多孔膜を作製した。作製した微多孔膜の物性を表1に示す。無機粒子の分散性が悪く、表層にフィッシュアイ状の欠点が多発した。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、無機粒子としてのシリカを添加しなかった事以外は、実施例1と同様に微多孔膜を作製した。作製した微多孔膜の物性を表1に示すが、表層の1μm辺りの透気度が200sec/100ccを超え、透過性に劣っていた。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリオレフィン微多孔膜は、分離膜や電池用セパレータ、更には無機成形体のグリーンシートにも利用できる。特に、透過性や強度、更にはフィッシュアイ状の欠点が少ない点で優れるため、リチウムイオン2次電池用セパレータ、精密濾過膜、コンデンサー用セパレータ、燃料電池用材料に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン10質量部以上98質量部以下とポリエチレン90質量部以上2質量部以下とからなるポリオレフィン樹脂組成物100質量部と、無機粒子3質量部以上300質量部以下とを含み、該ポリエチレンの分子量分布(Mw/Mn)が6以上であることを特徴とするポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
ポリエチレンの分子量分布(Mw/Mn)が11以上である請求項1記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
ポリエチレンが分子量分布(Mw/Mn)が30以上の高密度ポリエチレン(PEA)と分子量分布(Mw/Mn)が10以下の高密度ポリエチレン(PEB)の混合物からなり、該混合物の合計質量を100とした時の、PEAの質量が3以上である請求項1又は2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
無機粒子の一次粒子径が100nm以下である請求項1〜3いずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項5】
一次粒子径が100nm以下の無機粒子を、3質量部以上100質量部以下含む請求項1〜3いずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
厚みが0.5μm以上10μm以下である請求項1〜5いずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
厚みが0.5μm以上4.5μm以下であり、厚み1μm換算の透気度が10sec/100cc以上300sec/100cc以下である請求項1〜5いずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜(A)と、ポリオレフィンを主体とし、微多孔膜(A)とは異なる微多孔膜(B)とを含み、全体の厚みが5μm以上45μm以下である、2層以上の構造を有するポリオレフィン微多孔膜。
【請求項9】
微多孔膜(B)が100質量部のポリオレフィン樹脂と、40質量部以下の無機粒子を含む、請求項8記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜を用いた非水電解質電池用セパレータ。
【請求項11】
ポリプロピレン10〜98質量部とポリエチレン90〜2質量部からなるポリオレフィン樹脂組成物100質量部と、無機粒子3〜300質量部とを含む混合物を、予め混合した後、溶融混練し、押出成形してシートを得る工程、該シートを1軸以上で延伸する工程、可塑剤を抽出する工程を含むポリオレフィン微多孔膜の製造方法。
【請求項12】
前記ポリオレフィン微多孔膜が積層膜であって、前記押出成形を共押出ダイを用いて行ない、共押出しにより積合する請求項11記載のポリオレフィン微多孔膜の製造方法。

【公開番号】特開2009−185093(P2009−185093A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23152(P2008−23152)
【出願日】平成20年2月1日(2008.2.1)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】