説明

ポリカーボネートを超臨界流体で処理する方法

実質的に耐化学性が増大した部品となるポリカーボネートから成形部品を製造する方法。この方法は、少なくとも1つのキャビティを有する鋳型を提供する工程を含むものであり、鋳型は、キャビティに近接する領域に冷却手段を有している。溶融ポリカーボネートを超臨界流体と混合して混合物を形成する。この混合物を鋳型に注入する間に、冷却手段を用いてキャビティを冷却し、その温度を150°F以下とする。流体圧力が短時間冷却部で保持されると、耐化学性がさらに改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示内容は、射出成形に関し、特に、超臨界流体を存在させたポリカーボネート化合物の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ビスフェノールAカーボネート等のポリカーボネートは、多くの目的について良好な工学等級の熱可塑材である。かかる化合物は、広い温度範囲にわたって高強度、剛度および靭性を有する傾向がある。熱成形、押出し、圧縮および射出成形等の様々な溶融形成プロセスにおいて着色、化合、熱形成することができる。これらを用いることの最もよくある顕著な欠点は、耐化学性の制限、応力亀裂の受け易さ、切り欠き感度である。特に、ポリカーボネート化合物は、ベンゼン、トルエン、塩素化炭化水素、ヘプタン、酢酸エチルおよび強酸や塩基に対する抵抗が乏しい傾向がある。ポリカーボネート化合物中のモノマー単位を接続するエステル結合は加水分解性で、熱水による攻撃を受け易い分子を与える。
【0003】
例えば、他の射出成形可能なポリマーに用いられる実質的に高い温度で鋳型を操作することにより射出成形するときに、ポリカーボネート物品表面の耐化学性を最適化する試みは知られている。例えば、業界では、ポリカーボネート用の射出成形金型は、少なくとも180°F、200°F以上で操作されなければならず、これより高い温度が一般的である。高い鋳型温度を用いると、恐らく、仕上がり部品の表面に近傍の応力に係止される量が減少されることにより、鋳型サイクル時間が望ましくなく増え、耐化学性が増大する。望ましくは、鋳型サイクル時を不当に増やすことなく、その耐化学性を改善するポリカーボネート化合物を成形する方法により、業界では大きな利点が得られる。ポリカーボネートはまた、溶剤から緩慢な蒸発により、または180℃での長期加熱により調製すると、半結晶特徴を示すことができることも知られている。この形態は、化学攻撃による抵抗性を増大する傾向があるが、ポリカーボネートの光学明瞭度が減少する。結晶形態を導入せずにポリカーボネートの耐化学性を増大することも望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示内容は、従来の方法よりも実質的に耐化学性が増大した部品となるポリカーボネートを成形する方法を提供する。本方法は、驚くほど低い成形温度を用いるが、鋳型に達する前に、溶融ポリカーボネートへ超臨界流体を導入するのに合わせてそれを用いる。さらに、しばらくの間にわたって冷却部に圧力を維持すると耐化学性が増大することも知見された。
【0005】
一態様において、開示内容は、ポリカーボネートから成形部品を製造する方法と考えられる。この方法は、少なくとも1つのキャビティを有する鋳型を提供する工程を含むものであり、鋳型は、注入されたポリマーと接触する鋳型コアおよびキャビティの表面を正確に制御する手段を有している。溶融ポリカーボネートを超臨界流体と混合して混合物を形成する。この混合物を鋳型に注入する間に、冷却手段を用いてキャビティを冷却し、その温度を150°F以下とする。
【0006】
添付の図面のいくつかにおいては、同じ部品には同じ参照番号が付与されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図1に、本開示内容の方法を実施するのに好適な例示の超臨界流体注入システムのブロック図を示す。注入システム10は、管16を介してガスポンプ14を供給するガス供給タンク12を含む。ガスは、管18を通して、プレ計量レギュレータ20に高圧でポンピングされる。調節したガス供給を、管22を通して、電子的に制御可能な計量バルブ24まで、そこから管26を通して、流量計28まで分配する。計量バルブ24に戻す、流量計28との間にPIDコントローラ30が介在するフィードバックループによって、適切な重量パーセントのガスが分配される。計量された流れは管32およびポスト計量圧力レギュレータ34を通って、従来の成形押出し機36のバレルへ向かう。
【実施例】
【0008】
実施例1
単一キャビティコールドランナ鋳型として射出成形金型を作成して、成形し、図2に示す部品を形成した。例示した部品は、ミネソタ州セントポールの3Mカンパニー(3M Company,St.Paul,MN)製710インデックスストリップ(710 Index Strip)として市販されている電話線コネクタと同寸法で物理的に類似していた。成形機は、超臨界窒素流体を処理助剤として溶融ポリマーに注入することのできるように構成した。
【0009】
ペンシルバニア州ピッツバーグのマイルスポリマー部門(Miles Polymers Division,Pittsburg,PA)よりバイエルマクロロン(Makrolon)6555として市販されているポリカーボネート樹脂を、成形されるポリマーとして使用して、鋳型で射出成形を実施した。鋳型は、カナダ、オンタリオのグエルフ(Guelph,Ontario,CA)より市販されている往復式単軸型押出し機により供給し、18秒の成形サイクルで2600psi(17.9MPa)の圧力で操作した。鋳型に50°Fで冷却流体を供給した。これらの部品は以下の例3の実験において対照例として機能した。
【0010】
実施例2
以下の項目以外は、実施例1に記載したとおりにしてプラスチック部品を製造した。超臨界窒素を0.3パーセントの窒素まで溶融ポリカーボネートへ溶融混合した。成形サイクル時間は13.8秒であった。実施例1の方法に比べて、1サイクル当たり約5%少ない原材料を処理した。部品はセル状コアを備えた固体スキン層を有していた。本実施例に従って製造された部品の内部形態を図3の顕微鏡写真に示す。これらの部品は以下の例3の実験において実験例として機能した。
【0011】
実施例3
三点曲げ装置を作成した。支持点は3インチ(7.62cm)離れていて、実施例1および2で作成した部品を保持するのに合った寸法であった。実施例1および2の部品を曲げ装置に入れ、水平から0.015インチ(0.38mm)曲げた。この曲げを維持しながら、部品をヘプタン/酢酸エチル混合物(重量基準で2:1)に入れ、タイマーを用いて、各試料について最初に裸眼で目視される亀裂が形成されたのを確認した。実施例1に従って作成した10個の試料は亀裂形成までに28秒の平均時間を有していた。実施例2に従って作成した10個の試料は亀裂形成までに164秒の平均時間を有していた。この結果によれば、超臨界流体を用いると、ポリカーボネートにおける耐化学性を改善する作用をすることが分かる。対照および実験部品により現れる裂け目の種類は全く違っていたことに留意する。図4aに、実施例1に従って作成した対照部品の裂け目を示す。図4bに実施例2に従って作成した実験部品の裂け目を示す。
【0012】
実施例4
4つのキャビティのホットランナー鋳型として射出成形金型を作成し、成形して、ミネソタ州セントポールの3Mカンパニー(3M Company,St.Paul,MN)よりDPM−ボディトップ(DPM−Body Top)コンポーネントとして市販されている電話線コネクタを形成した。鋳型は、超臨界窒素流体を処理助剤として溶融ポリマーに注入することのできるように構成した。ペンシルバニア州ピッツバーグのマイルスポリマー部門(Miles Polymers Division,Pittsburg,PA)よりバイエルマクロロン(Makrolon)2658として市販されているポリカーボネート樹脂を成形するポリマーとして用いて、鋳型で24の射出成形の計画実験を実施した。各実施において製造された10番目の部品を固定具で、実施例3のプロトコルに従って試験した。その試験による亀裂出現時間を以下の表1に示してある。
【0013】
【表1】

【0014】
実施番号24は、他のものよりも亀裂出現時間が非常に長かったことに留意する。
【0015】
実施例5
計画実験を行って、上の実施24で分かった耐化学性における特に注目すべき改善を追跡した。実施例4で用いた4つのキャビティのホットランナー鋳型を用いて、ペンシルバニア州ピッツバーグのマイルスポリマー部門(Miles Polymers Division,Pittsburg,PA)よりバイエルマクロロン(Bayer Makrolon)2658として市販されているポリカーボネート樹脂から部品を射出成形した。保持中の圧力は2600psi(17.9MPa)であった。超臨界窒素を0.1重量パーセントの量で添加し、各実施において製造された10番目の部品を固定具で、実施例3のプロトコルに従って試験した。その試験による亀裂出現時間を以下の表2に示してある。
【0016】
【表2】

【0017】
低処理温度および長保持圧力が最良の耐化学性に関連している。鋳型冷却流体温度は、鋳型ホットマニホルド設計の制限のために下げることはできなかったことに留意する。
【0018】
本開示内容の様々な修正および変更は、本開示内容の範囲および目的から逸脱することなしに当業者には明白であり、本開示内容はここに規定した説明のための実施形態に限定されないものと考えられる。特許請求の範囲が添付されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】超臨界流体注入システムを示す。
【図2】本開示内容のパラメータを試験するために制御および実験版で作成された鋳造プラスチック部品を示す。
【図3】実施例2の方法に従った処理後の図1に示す部品の内部形態を示す。
【図4a】従来の鋳造技術により作成した対照部品の裂け目を示す。
【図4b】本開示内容の方法により作成した実験部品の裂け目を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのキャビティを中に有する鋳型であって、前記キャビティに近接する領域を冷却する手段を有する鋳型を提供する工程と、
溶融ポリカーボネートを超臨界流体と混合して混合物を形成する工程と、
混合物を前記鋳型に注入する間に、前記冷却手段を用いて前記キャビティを冷却し、その温度を150°F以下とする工程と、
を含むポリカーボネートから成形部品を製造する方法。
【請求項2】
前記冷却手段を用いて前記キャビティを冷却し、その温度を130°F以下とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記冷却手段を用いて前記キャビティを冷却し、その温度を90°F以下とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記冷却手段を用いて前記キャビティを冷却し、その温度を60°F以下とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
昇圧が前記鋳型の前記混合物で少なくとも0.8秒間保持される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
昇圧が前記鋳型の前記混合物で少なくとも1.0秒間保持される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
昇圧が前記鋳型の前記混合物で少なくとも1.2秒間保持される請求項6に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【公表番号】特表2008−529846(P2008−529846A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555122(P2007−555122)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【国際出願番号】PCT/US2006/002991
【国際公開番号】WO2006/088626
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】