説明

マイクロプラズマ法による薄膜作製方法及びその装置

【課題】金属および金属化合物のターゲットを主原料とすることで、有機金属ガス等の有害なガスを使用する必要がなくなり、大気圧プラズマを反応場として利用すると共に、熱源としても利用することで高融点材であるシリコンやセラミックス等の基板上へ密着性の良好な金属またはその酸化物若しくは窒化物等の金属化合物薄膜の形成方法及びその形成装置を提供する。
【解決手段】マイクロプラズマ法による薄膜作製方法において、全体に亘って内径が均一である細管1内に薄膜形成用の原料ワイヤー3を設置し、細管1に不活性ガスを導入すると共に高周波電圧を印加して細管1内部に高周波プラズマを発生させ、1又は複数の細管1内部のプラズマガスの流速及びプラズマガス温度を高温に維持しながら原料を加熱・蒸発させ、蒸発した材料を細管1から噴出させて基板上に照射し、プラズマガスにより基板を加熱すると共に、照射した材料を大気圧下で基板上に堆積させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、酸化物、窒化物等の無機系材料薄膜を、有害な原料ガスを利用することなく、大気中で基板上に作製する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、酸化物、窒化物等の無機材料薄膜の作製では、真空蒸着法、スパッタ法、化学的気相堆積法(CVD法)等が主に用いられている。
真空蒸着法やスパッタ法では、チャンバー(真空容器)内に蒸着材料の原料となる金属、酸化物等の塊ないしプレートをセットし、チャンバー内を真空排気後、アルゴンや窒素などの不活性ガスや酸素などの反応性ガスを供給、チャンバー内を所定圧力値に維持し、原料固体を加熱ないしスパッタリング等で気化させ、チャンバー内の所定位置に設置した基板上へ堆積させる方法である。
一方CVD法では、真空排気したチャンバー内に、原料ガスを導入し、プラズマないし熱によりガスを分解し、基板上へ薄膜を堆積させる。これらの製法では、一辺が数cm〜数十cmの大面積基板の全域にわたって均一に薄膜を堆積させることが可能であり、工業的にも利用されている有効な製法である。
【0003】
しかしながら、デバイスの軽薄短小化のニーズが高い現在では、ガスセンサ能や導電性を有する無機薄膜を数百ミクロンから数ミリ角の微小領域のみに堆積させる技術開発の要望が高まっている。従来技術によるこれらの製法では、基板上にマスクを施してから蒸着、スパッタリング、CVDを行う手法が一般的であるが、これらの製法では、蒸着面積に対する原料消費量の割合が大きい非効率的な製法であり、非常に無駄の多い製法である。
加えて、真空装置内で行われる工程を要するため、チャンバー内への基板導入、チャンバー内の真空排気、ガス置換等が必要であり、その工程は多大な時間を費やす。
【0004】
これに対して、大気圧下で安定発生が可能な直径数百ミクロンから数mmのプラズマを用いた手法は、基板の数百μmから数mm角の微小領域のみに材料を直接堆積させることが可能であり、従来製法と比較して原料浪費量を格段に抑制できる有効な技術と考えられる。また、大気中での発生が可能であることから、全工程も短時間で完結させることが可能である。このような背景から、大気中に設置した直径数百ミクロンから数mmのノズル内で発生、噴出させたプラズマジェットを用いた薄膜作製技術が過去数年の間に提案されている。
【0005】
非特許文献1及び非特許文献2並びに特許文献1には、ノズル型大気圧プラズマ発生装置を利用して、メタン等の炭化水素系ガスを利用したCVD法によるカーボン系薄膜の製造装置を開示している。
また特許文献2は、大気圧下で発生させたプラズマジェットを、アモルファス基板の所望の位置に照射し、照射領域を溶融、再結晶化させる技術が提案されている。この技術は、大気圧下で発生させたプラズマを熱源として利用した薄膜プロセスである。
これらの手法は、大気中で実行可能な微小領域のみへの薄膜作製技術として有効な手法ではあるものの、次のような技術的制約がある。すなわち、特許文献1記載の手法では、装置に供給する原料はガス種であるので、大気中での工程を考えた場合、人体、環境に対して有害なガス原料は利用できない。ガス原料からの金属系薄膜作製工程では、有機金属ガス等の毒性を有するガスを使用するため、特許文献1記載の製法では作製可能な薄膜種は限られてしまう。
また、特許文献2記載の製法では、大気中での膜質改善という点では、プラズマの熱や高活性という特徴を活かした製法ではあるものの、基板上に異種の材料を堆積させるための技術ではない。
【0006】
これらの問題点を解決する手段として、本発明者らは非特許文献3及び特許文献3で新技術を提案している。この技術では、プラズマ発生用細管内に原料となる金属ワイヤーを予め挿入しておき、発生させたプラズマからの熱伝導等で金属ワイヤーを蒸発または溶融させ、生成した気相ないし液滴を、下流で凝縮、凝固させ、ノズル噴出口下流に設置した基板上に堆積させる技術である。
しかしながらこの手法は、金属および金属を主成分とする材料を、融点が500°C以下の低融点基板上へ、直径1〜100μmのドット状および幅5〜50μmのライン状で堆積させる手法である。
プラズマからの熱流束による低融点基板のダメージを防ぐために、プラズマの直径を100μm以下まで縮小することで熱容量の低下を図っている。この手法では、細管内で生成した粒子が細管から噴出し、基板表面に衝突、堆積する。つまり、粒子のサイズ、形態、組成等に関与する反応は、細管内で全て完了している。粒子が基板に堆積された後に、プラズマの作用により粒子の特徴が変化することは無い。このように本技術では、低融点基板を保護するという目的から、基板に対するプラズマの影響を減らした手法であり、直径が100μm以下の面積への材料堆積に特化された技術である。
【0007】
薄膜作製プロセスでは、薄膜と基板との密着性は重要な因子の一つである。真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等に代表される真空中でのドライプロセスでは、膜の密着強度を向上させるための手法として、基板加熱用ステージを用いた基板加熱や、堆積物質の運動エネルギー向上という手段が用いられている。また、常圧によるドライ成膜プロセスでは、堆積物質を溶かして堆積させる溶射法が用いられている。
特許文献3に記載された技術では、プラズマからの熱流束で僅かに溶融、粗化された基板表面が堆積材料の密着性に寄与している。しかしながら、この効果は融点が500℃以下の基板に対しては有効であるが、シリコンやセラミックス等の高融点基板には期待できるものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Y. Shimizu et al. J. Phy. D:Appl. Phys., 36, 2940 (2003)
【非特許文献2】T. Kikuchi et al. J. Phy. D:Appl. Phys., 37, 1537 (2004)
【非特許文献3】Y. Shimizu et al. Surf. Coat. Technol., 200, 4251 (2006)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003―328138号公報
【特許文献2】特開2006−060130号公報
【特許文献3】特開2005−262111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、常圧下で発生させた大気圧プラズマを利用して、有機金属ガス等の有害なガスを原料として使用すること無く、金属および金属化合物のワイヤーを主原料として利用して、金属ないし酸化物、窒化物等の金属化合物薄膜を、基板上へ密着性良く堆積させる技術を提供する。
また、従来の常圧下で行われていた溶射のように、大掛かりなプラズマ発生装置および薄膜を作製するための装置ないし既存の装置の一部に設置して薄膜堆積を行うためのシステム全般を提供する。さらに、数cm以上の大面積薄膜作製を可能とする技術およびそのための装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
プラズマは、大気中に設置された内径数百ミクロンから数ミリメートルのガラス、石英、セラミクス等の絶縁性細管内で発生させる。細管内に堆積材料の原料となる金属または金属化合物のワイヤーを挿入し、不活性ガスや無毒性反応ガスを導入し、高周波を印加してプラズマを発生させる。発生させたプラズマを細管出口から大気中へジェット状で噴出させ、近接させた蒸着基板に照射する。この照射の効果により基板は加熱され、基板加熱効果により堆積材料と基板との密着性を向上させることが可能となる。
【0012】
細管内に挿入された原料ワイヤーは、細管内で発生しているプラズマからの熱伝導および印加された高周波により加熱され、その表面は蒸発する。この蒸発、生成した活性種を、その活性を保ったまま蒸着基板へと到達させる。そのために、特許文献3に記載された技術の問題点に対して、次に記述するような改良を行い、新たな効果をもたらした。特許文献3に記載されたような、細管出口に向かって細く加工された細管内では、ガス流速は出口に近づくにつれて増加する。これは、単位時間あたりに供給されるガス体積と細管内の断面積との関係から明らかである。
【0013】
プラズマ理工学で知られているように、ガス流速の増加はプラズマのガス温度低下に繋がるため、ガス噴出口に向かって細く加工された細管内では、噴出口に近づくに従い、プラズマのガス温度は低下する。また、細管のサイズ縮小は、プラズマを発生、維持のために印加している高周波の伝播効率の低下に繋がるため、細管上流部よりも管径が小さい出口付近では、プラズマのガス温度は低いと考えられる。
このような出口に向かって生じるプラズマガス温度の低下は、ノズル内での原料活性種凝縮に繋がる。つまり、基板上に堆積される粒子は、ノズル内で生成、成長がほぼ完了した粒子である。このような事実から、特許文献3の方法では、プラズマによる基板加熱、基板表面での反応等を期待できない。
【0014】
以上から、本願発明は、マイクロプラズマ法による薄膜作製方法において、全体に亘って内径が均一である1又は複数の細管A内に薄膜形成用の原料を設置し、該細管Aに不活性ガスを導入すると共に高周波電圧を印加して細管A内部に高周波プラズマを発生させ、細管A内部のプラズマガスの流速及び高温のプラズマガス温度を高温に維持しながら前記原料を加熱・蒸発させ、蒸発した材料を細管Aから噴出させて基板上に照射し、前記プラズマガスにより基板を加熱すると共に、照射した材料を大気圧下で基板上に堆積させることを特徴とするマイクロプラズマ法による薄膜作製方法を提供する。
また、このための装置として、全体に亘って内径が均一である1又は複数の細管A、該細管Aに不活性ガスを導入すると共に高周波電圧を印加して細管A内部に高周波プラズマを発生させる装置、細管A内部のプラズマガスの流速及び高温のプラズマガス温度を高温に維持しながら内部に配置した薄膜形成用の原料を加熱・蒸発させる装置、細管Aの出口近傍に配置した基板、細管Aの出口から噴出した材料を大気圧下で基板上に堆積させる装置からなることを特徴とするマイクロプラズマ法による薄膜作製装置を提供する。
本発明では、図1に示したような、全体にわたって内径が均一の細管を使用する。この細管内では、プラズマガスの流速はほぼ均一と考えられる。
【0015】
上記マイクロプラズマ法による薄膜作製方法において、1又は複数の細管Aに不活性ガスと共に、水素ガスを導入して高温のプラズマガスを発生させることができる。
また、高周波印加電極を細管A及び/又は細管B出口近傍の領域まで配置し、プラズマガスの温度を高温に維持することができる。プラズマ発生、維持のために印加する高周波は、印加領域全域にわたってほぼ均一に伝播されると考えられる。したがって、高周波印加電極(図1、符号1など)を細管出口付近の領域まで設置しておけば、出口付近でもプラズマガス温度を高温に維持することが可能となる。
さらに、細管出口付近まで電極を設置することで、細管内で発生させたプラズマを効率良く出口から噴出させることが可能となる。したがって、出口に近接させた基板にプラズマを直接照射することが可能となり、基板加熱を効率良く行うことが可能となる。また、細管内で生成した原料活性種は、噴出口から噴出した後も、基板表面に到達するまでその活性が保持される。これは先行特許文献3に記載の技術では達成不可能な、新たな効果である。
【0016】
また本発明では、原料ワイヤーの蒸発速度を制御することで、良質の薄膜を作製するための手法および装置も提供する。高蒸発速度では、固体を気体に転移させるために高い潜熱を要し、プラズマのガス温度の低下に繋がる。これは、基板との密着性の良い薄膜を作製する手段としては好ましくない。酸化物等の金属化合物薄膜作製では、プラズマ中へ酸素ガスを直接供給すると、原料ワイヤーの蒸発が促進され、その結果プラズマガス温度の低下を招き、良質の膜が得られない例がみられる。
以上から、マイクロプラズマ法による薄膜作製方法において、1又は複数の細管A内に薄膜形成用の原料を設置し、該細管Aに不活性ガスを導入すると共に高周波電圧を印加して細管A内部に高周波プラズマを発生させ、細管A内部のプラズマガスの流速及び高温のプラズマガス温度を高温に維持しながら前記原料を加熱・蒸発させ、蒸発した材料を細管Aから噴出させて基板上に照射し、前記プラズマガスにより基板を加熱すると共に、照射した材料を大気圧下で基板上に堆積させ、さらに前記細管Aとは別の細管Bを用いて反応性ガスを基板に側面から照射することにより、基板上に堆積する材料を反応性ガスにより反応させて前記材料の化合物を形成することを特徴とするマイクロプラズマ法による薄膜作製方法を提供することができる。
【0017】
本発明では、原料ワイヤーを挿入した細管内には酸素等のプラズマガスを導入することなく、不活性ガスおよび水素等のガスを含む不活性ガスで発生させたプラズマを利用して薄膜堆積を行い、それと同時に、酸素等の反応性ガスをプラズマ基板照射部の側面から導入して、酸化物等の金属化合物を作製するための方法および装置を提供する。
本手法では、堆積後の薄膜はプラズマ照射により平衡加熱されるため、比較的容易に平衡組成の酸化物、窒化物等を作製することが可能となる。
以上から、本願発明は、細管A内に薄膜形成用の原料を設置し、1又は複数の細管Aに不活性ガスを導入すると共に高周波電圧を印加して細管A内部に高周波プラズマを発生させる装置、細管A内部のプラズマガスの流速及び高温のプラズマガス温度を高温に維持しながら内部に配置した薄膜形成用の原料を加熱・蒸発させる装置、細管Aの出口近傍に配置した基板、細管Aの出口から噴出した材料を大気圧下で基板上に堆積させる装置、前記細管Aとは別の細管Bを、細管Aの近傍に配置し、この細管Bを用いて反応ガスを前記堆積した基板に側面から照射する装置、基板上に堆積した材料を反応性ガスにより反応させて前記材料の化合物を形成する装置からなるマイクロプラズマ法による薄膜作製装置を提供することができる。
【0018】
上記のような不活性ガス中への水素等の導電性ガス導入は、プラズマの導電性向上に繋がり、その結果として効率的な基板加熱を可能にする。また、ノズル内に挿入した金属ないし金属化合物ワイヤーの蒸発を促進させることに繋がる。
また、次のような複数段階の工程により金属化合物等の薄膜を作製するための手段および装置も提供する。第一工程では、不活性ガスおよび水素等のガスを含む不活性ガスで発生させたプラズマを利用して薄膜堆積を行う。所望の膜厚、面積の薄膜が得られた後、プラズマを消灯する。第二工程では、白金等の高融点耐酸化性ワイヤーが挿入されたノズルを作製薄膜上に接近させ、酸素等の反応性ガスを含む不活性ガスで発生させたプラズマを照射する。この第二工程では、第一工程で作製された薄膜は反応性プラズマ照射により十分に反応し、その結果、酸化物、窒化物等の金属化合物薄膜が得られる。
【0019】
これらの薄膜作製手法は、薄膜堆積工程において細管を走査ないし細管を集積化させることで、基板上の広面積へ薄膜堆積させることが可能となる。本手法は、集積化した細管を走査、また、堆積基板を走査させることでも有効である。
上記の製法は、全て細管中で発生させたプラズマを利用した手法であり、工程中での細管の新規交換、および洗浄を要するものと思われる。したがって細管の交換等を簡易に行えるように、装置と細管との着脱を容易に行えるように、Oリングを締め付けることでガス供給管と細管との接続法を提供する。
【0020】
また、本願発明は、基板と蒸発した材料を基板上に照射するプラズマ発生用細管とを相対移動させ、堆積させる膜の厚さ、物質及び面積を制御する上記マイクロプラズマ法による薄膜作製方法、及びこのためのマイクロプラズマ法による薄膜作製装置、並びに基板に対し蒸発した材料を基板上に照射するプラズマ発生用細管を多数個整列させ、これらを相対移動させると共に、堆積させる膜の厚さ、物質及び面積を制御し、大面積薄膜形成を行う上記マイクロプラズマ法による薄膜作製方法、及びこのためのマイクロプラズマ法による薄膜作製装置を提供することができる。
さらに、本願発明は、複数の細管Aから異種材料を噴出させて基板上に照射し、前記プラズマガスにより基板を加熱すると共に、照射した異種材料からなる複合材料又は化合物を大気圧下で基板上に堆積させることが可能なマイクロプラズマ法による薄膜作製方法及び装置を提供することができる。本願発明は、上記の組み合わせを全て含むものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、常圧下で発生させた大気圧プラズマを利用して、金属若しくはその酸化物又は窒化物等の金属化合物薄膜を基板上へ密着性良く形成する技術を提供することができる。これにより、従来のような、有機金属ガス等の有害なガスを原料として使用することなく、また大掛かりなプラズマ発生装置および原料供給装置を必要とすることなく、金属および金属化合物を主原料として利用して、簡易に金属又はその酸化物若しくは窒化物等の金属化合物薄膜作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明を実施するためのプラズマ発生細管およびガス管との固定法の一例を示す図である。
【図2】大気圧プラズマ薄膜作製装置の概観図である。
【図3】作製された酸化モリブデン薄膜の光学顕微鏡による観察結果を示す写真である。
【図4】作製されたモリブデン薄膜の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す写真である。
【図5】図4とほぼ同じ条件で作製された膜から得られたX線回折図形である。
【図6】薄膜堆積用プラズマ発生法の概観図である。(a) はクリップ式電極を用いた発生法、(b)は板状電極を用いた発生法、(c)は誘導結合式発生法を示す。
【図7】薄膜堆積用プラズマ発生細管内での原料ワイヤー挿入位置を示す図である。(a)は 原料ワイヤーを電極位置まで挿入しない例、(b)は原料ワイヤーを細管出口付近まで挿入した例を示す。
【図8】反応性ガス吹付け式薄膜作製装置の概観図である。
【図9】反応性ガス吹付け式薄膜作製装置の有効性を示すもので、酸化モリブデン薄膜のXPSによる解析結果を示す図である。(a)は酸素ガス吹付け無しの条件で作製された薄膜のXPS解析結果を示し、(b)は酸素ガス吹付け有りの条件で作製された薄膜のXPS解析結果を示す。
【図10】当該申請技術の有効性を明らかにするために、比較を行うための二枚の写真である。(a)は、酸素ガス吹付け有りの条件で作製された酸化モリブデン薄膜の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す写真である。(b)は、特許文献3の手法で作製された酸化モリブデン薄膜の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す写真である。
【図11】薄膜堆積用プラズマ発生器と反応性プラズマ発生器とを併せ持つ薄膜作製装置の概観図である。
【図12】図11記載の装置の有効性を示す図であり、酸化モリブデン薄膜のXPSによる解析結果を示す。(a)は反応性酸素プラズマ照射無しの薄膜のXPS解析結果、(b)は反応性酸素プラズマ照射後の薄膜のXPS解析結果を示す。
【図13】基板走査法による大面積薄膜作製法の概念図である。
【図14】基板走査法により作製された酸化モリブデン薄膜の光学顕微鏡観察の写真である。
【図15】基板走査法により作製された酸化モリブデン薄膜の空気中およびアンモニア含有窒素気流中での電気抵抗測定結果を示す図である。
【図16】細管を集積化した大面積薄膜作製装置の概観図である。
【図17】集積化細管で発生させた大気圧プラズマの様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本願発明の実施の形態を説明する。なお、以下に示す説明は、理解を容易にするためのものであり、これらの実施の形態の説明によって本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想に基づく変形及び他の実施条件等は、当然本発明含まれる。
【0024】
(大気圧プラズマ薄膜形成装置についての説明)
図1は、本実施の形態に係るプラズマ発生器の構成およびガス管への接続法を示す模式図である。プラズマ発生器は、アルミナ製細管(符号1)、アルミナ細管支持用金属管(符号2)で構成されている。細管内部に挿入された原料ワイヤー(符号3)の方端は、細管支持用金属管(符号2)の内壁に固定されている。符号4〜6で構成されているOリング締め付け式継手を介して、ガス供給管に接続されている。したがって、プラズマ発生器一式(符号1〜3)はその着脱が簡易に行えるため、薄膜作製工程中にプラズマ発生器の交換が要された場合の作業が簡易に行える。
コイル形状の高周波印加電極7の一端は高周波整合器8を介して高周波発生源9に接続し、他端は何も接続せずに浮かしたままである。コイルはアルミナ細管の出口付近まで設置されており、出口付近でもプラズマの高温を保つことが可能である。内挿された原料ワイヤーは、一端は電極を設置した領域の中心部まで挿入し、もう一方の端は、金属管内壁に固定してある。原料ワイヤーは金属管を介して接地されている。
【0025】
図2に、図1に示したプラズマ発生部を含む薄膜堆積装置の概観図を示す。薄膜を堆積させる基板10をアルミナ細管の下流に設置する。その際、細管出口と基板表面との距離は、マイクロメーター等、基板の位置を正確に制御できる機構12を用いて制御する。良質の薄膜を作製するためには細管から噴出させたプラズマの照射が必要であり、その距離は数mm以内が望ましい。しかし、プラズマの発生条件によっては、この距離は数mm以上が好ましい場合もある。
Oリング締め付け式継手(図1の4〜6)、金属管(図1、符号2)を介してガス導入管(図2の13)からアルミナ細管内にアルゴンガス又は水素およびアルゴンを供給し、高周波を電極に印加する。
【0026】
次に、アルミナ細管外壁に接続された導線を介して、高電圧を瞬間的に印加して、プラズマを発生させる。これは、高電圧印加により管内で瞬間的に火花を発生させ、プラズマを着火する効果をもたらす。ただし、高電圧の印加無しでも、高周波を印加した状態で数十秒待機すると、プラズマは自然に発生する。高電圧印加による火花放電による原料ワイヤーおよび細管噴出口下流に設置した基板へのダメージ等を無視できないケースでは、後者の手法による発生が好ましい。
一旦プラズマを発生させれば、高周波印加を持続させることでプラズマを維持することができる。プラズマ発生中、細管内に挿入された原料ワイヤーは、プラズマからの熱伝導や高周波による加熱により、その表面から徐々に蒸発し、プラズマ中で活性化される。これらの活性種は、基板表面に到達後、基板上での薄膜堆積に寄与する。
【0027】
(モリブデン系薄膜作製の光学顕微鏡写真)
図3に、本手法、装置を用いて作製されたモリブデン系薄膜の光学顕微鏡写真を示す。この薄膜は次のような条件で作製された。内径800ミクロンのアルミナ細管に、直径200ミクロンのモリブデンワイヤーを図1のように挿入しておき、4%水素ガスを混入させたアルゴンガスを500ccmの流量で供給した。
20Wの450MHz高周波を印加してプラズマを発生させ、アルミナ細管から噴出させたプラズマを、噴出口から1mm下流に設置したアルミナ基板上に10分間照射した。その結果、アルミナ基板上の直径約1mmの領域にのみ、図3に見られるような薄膜が堆積された。
【0028】
(モリブデン系薄膜作製のSEM像)
図4は、上記とほぼ同様の条件で作製された薄膜の走査型電子顕微鏡像であり、本手法により緻密な薄膜がえられることが実証されている。
図5は、上記とほぼ同様のプラズマ発生条件でMgO基板上に堆積された薄膜から得られたX線回折図形である。MgO基板由来のピークを除けば、金属モリブデンに対応したピークのみが観察され、酸化モリブデンに対応したピークは観察されなかった。この結果は、本手法が大気中での金属薄膜作製に有効であることを実証している。
以上のように、本手法および本装置では、大気中での薄膜作製が可能である。上記の手法および装置は、下記のような手法および仕様でも、問題なく上記同様の効果が得られる。細管は、ここではアルミナ細管を使用しているが、本発明はこれに限定されない。絶縁性の細管であれば、本発明を実施することは全く問題ない。
細管のサイズは、直管であれば内径数十ミクロンから数ミリのものまで可能である。ただし、大気中での安定なプラズマ発生を考えた場合は2mm以下が好ましい。
プラズマ発生、維持のために印加する高周波は、ここでは450MHzのものを例示したが、50〜800MHzの高周波であれば、問題なく上記と同様の効果が得られる。
【0029】
ここに示した高周波印加電極はコイル形状であるが、本発明はこれに限定されない。コイルの代わりに金属管を用いても同様な効果が得られる。また、電極として鰐口クリップのような形状の電極を利用し、図6−aのように細管を挟むことでも同様の効果が得られる。また、図6−bのように、細管近傍に金属プレートを配置、電極として使用した場合にも同様の効果が得られる。
これらの発生例では、図1の例と同様に、細管内の原料ワイヤーは金属管を介して接地されていることが望ましい。接地することで、電極から印加された高周波はワイヤーへ伝播されるため、容量結合型によるプラズマの維持が可能となる。ただし、ワイヤーを接地しなくても、プラズマの発生が維持され、同様の効果が得られる場合もある。
また、図6−cに示したように、図1のコイル電極の他端を接地する方法も、有効である。接地することで、プラズマの発生は誘導結合方式により維持され、細管内の原料ワイヤーは誘導加熱により効率良く加熱蒸発される。この場合金属ワイヤーは接地しなくても良い。
【0030】
原料ワイヤーの挿入位置に関して、ここでは電極を設置した領域の中心部まで挿入した例(図1)を示したが、本発明はこれに限定されない。図7−aに示したような、電極設置領域部まで挿入しない条件、仕様でも、同様の効果を得ることができる。この場合プラズマは、図7−aに図示したように、ワイヤー先端部から電極にかけて発生し、噴出口から噴出する。逆に、原料ワイヤーは、図7−bのように細管噴出口付近まで挿入しておいても、同様の効果が得られる。また、供給するガスとしてアルゴンを供給した場合を例示したが、ヘリウムなどのガスを適宜用いることができることは言うまでも無い。
また、プラズマ中への水素の導入は、原料ワイヤーの蒸発を促進する効果をもたらす。水素導入は、プラズマのエンタルピーの上昇および熱伝導率の上昇に繋がり、プラズマ照射による基板加熱を効率良く行えるという効果をもたらす。
また、本手法は金属化合物薄膜作製にも有効であり、プラズマ中へ酸素や窒素ガスを導入することで、金属酸化物、窒化物等の薄膜を簡易に作製することが可能となる。
以上の説明から明らかなように、本実施の形態に係わる方法によれば、大気中で金属ないし金属化合物薄膜を簡易に作製することができる。
【0031】
次に、前述した大気圧プラズマ薄膜作製装置を基に応用した、金属化合物薄膜の高効率作製手法、装置および実施例について説明する。本手法は上記のものとは異なる手法であり、図8に示した装置の概観図により実施形態を説明する。なお、図8中では、図1に示されたプラズマ発生器を代表例に挙げて説明しているが、図1〜図7に示した手法のいかなる組み合わせも適用できるものである。そして、下記の効果と同様な効果が得られることは当然であり、本願発明はこれらを全て包含する。
本装置(図8)は、プラズマ発生用細管の噴出口近傍に、反応性ガス供給細管16が設置してある。この細管は、プラズマの発生に影響を与えない絶縁性のものが好ましいが、それほど影響を受けるものではないので、金属管を用いた場合でも同様の効果は得られる。細管はガス供給管17に接続されている。反応性ガス噴出ノズルは、プラズマ照射、薄膜堆積される領域に対して斜め方向に設置されているが、これはプラズマ発生用細管に対して直角方向すなわち基板表面に対して水平方向であっても同様の効果を有する。
【0032】
本装置(図8)を用いた酸化モリブデン薄膜作製の実施例を示す。
内径800ミクロンのプラズマ発生用細管(符号1)に直径200ミクロンのモリブデンワイヤーを挿入しておき、アルゴンガスを500ccmの流量で供給しながら25Wの高周波を印加してプラズマを発生させた。アルミナ細管から噴出させたプラズマを、噴出口から1mm下流に設置したアルミナ基板10上に照射するのと同時に、ガス供給用細管16に酸素ガスを500ccmの流量で供給し、基板上のプラズマ照射部に酸素ガスを吹付けた。
【0033】
上記の製法、工程の効果を明らかなものとする薄膜組成のXPSによる解析結果を図9に示す。図9−aは酸素吹き付け無しの条件で作製された薄膜の解析結果であり、金属モリブデン相やMoO等の低酸化状態相を多く含有している。これに対して、図9−bは酸素ガスを吹付けながら40分間プラズマ照射した結果得られた薄膜の解析結果であり、ほぼMoOの単相で構成されていることが分かる。
このように、薄膜作製過程において、細管から噴出したプラズマの側面から酸素ガスを導入することで、平衡組成の金属酸化物薄膜を効率よく作製できることが示された。
図10−aは、上記とほぼ同様の手法で作製したMoO膜の走査型電子顕微鏡写真である。比較のために、特許文献3の手法で合成、基板上に堆積されたMoO膜の走査型電子顕微鏡写真を図10−bに示す。特許文献3の手法では、直径20nmほどの粒子が堆積されている様子が分かるが、当該出願技術では、粒子堆積後のプラズマ照射加熱により、粒子間で焼結のような現象が起こり、サイズが数百ミクロンにも達した球状粒子が形成され、それらが密に堆積されているのが分かる。基板への密着性も優れており、当該出願技術における、基板表面へのプラズマ照射による堆積物加熱の効果が実証されている。
ここでは、酸素ガスの吹き付けによる酸化物薄膜作製法について例示したが、本発明はこれに限定されない。吹き付け用ガス種を選択すれば、他の金属化合物の薄膜堆積も可能となる。例えば窒素ガスを吹き付けながら同様なプロセスを行えば、窒化物が得られることは言うまでもない。
【0034】
次に、前記の大気圧プラズマ薄膜作製法と反応性大気圧プラズマとを組み合わせた装置による、金属化合物薄膜の作製法、装置について説明する。本手法は上記のものとは別の手法であり、図11に示した装置の概略図を用いて実施形態を説明する。なお、図11中では、図1に示したプラズマ発生部を代表例に挙げて説明しているが、図1〜図7に示した手法のいかなる組み合わせも適用できるものである。そして、下記の効果と同様な効果が得られることは当然であり、本願発明はこれらを全て包含する。
本装置は、2本のプラズマ発生用細管で構成されており、一方の細管18は、薄膜堆積工程を行うための細管であり、内部には堆積材料の原料となるワイヤー19が挿入してある。他方の細管20は、反応性大気圧プラズマを発生させるための細管であり、薄膜堆積に用いるための物ではない。その内部には、反応性ガスとは反応しない高融点貴金属ワイヤー21が挿入してある。
【0035】
両細管には高周波を印加するための電極が設置されている。電極と整合器との間には高周波分配器22が接続されており、スイッチを切り替えることで、プラズマを発生させる細管側のみに高周波を印加、又は両細管に高周波を印加させることが可能である。
この細管で発生させたプラズマは、噴出口から噴出し、薄膜堆積領域に直接照射が可能である。金属化合物薄膜の作製工程では、第一工程で、符号18の細管を用いて薄膜堆積を実施し、第二工程では、符号20の細管を用いた反応性プラズマ照射により堆積薄膜を加熱、反応させて平衡組成の金属化合物薄膜を作製する。
【0036】
(本装置を用いた酸化モリブデン薄膜作製)
第一工程では、内径800ミクロンのアルミナ細管18に、直径200ミクロンのモリブデンワイヤー19を挿入しておき、4%水素ガスを混入させたアルゴンガスを500ccmの流量で供給した。20Wの高周波を印加してプラズマを発生させ、アルミナ細管から噴出させたプラズマを、噴出口から1mm程下流に設置したアルミナ基板10上に10分間照射した。アルミナ基板上には、図3、図4に示したものと同様な直径約1mm程の薄膜が堆積された。
第一工程終了後、第一工程で使用したガス等の供給は全て停止し、符号20の細管を利用した第二工程へと移行する。この細管は内径800ミクロンのアルミナ製であり、直径300ミクロンの白金ワイヤー21が挿入してある。酸素ガスを200ppm混入させたアルゴンガスを500ccm供給し、5Wの高周波を印加して、プラズマを発生させた。細管から噴出したプラズマを1mm程下流に設置されている薄膜に20分間直接照射した。
【0037】
第一工程のみの場合と両工程による場合とでは、作製された薄膜の組成に違いが見られる。本装置、手法の効果を明らかなものとするデータを図12に示す。これらはXPSによる薄膜の組成を表すデータである。図12−aは一段階工程のみで作製された薄膜から得られた解析結果であり、金属モリブデン相や低酸化状態相を多く含有している。これに対して、図12−bは上記のような二段階工程で得られた薄膜の解析結果であり、金属モリブデン相や低酸化状態の相をほとんど含まず、ほぼMoOの単相で構成されていることが分かる。
【0038】
このように、薄膜作製過程において、反応性プラズマを用いた二段階工程により、平衡組成の金属酸化物薄膜を効率よく作製できることが示された。ここでは、反応性酸素プラズマを利用した二段階工程による酸化物薄膜作製法について例示したが、本発明はこれに限定されない。第二工程で利用するプラズマ中へ導入するガス種を選択すれば、他の金属化合物の薄膜作製も可能となる。
また、工程を二段階に分割することなく、両プラズマを同時に発生させることによる金属化合物薄膜作製にも有効である。また、図11に示したように2本の細管を配列させることなく、工程毎にノズルを交換しても良い。また、ローテーション式ノズル位置制御装置を用いることも有効である。
【0039】
(本装置を用いた大面積薄膜作製法についての説明)
次に、上記薄膜作製技術を応用した、大面積薄膜作製法について模式図を用いて説明する。先ずは図2、図8、図11に示したような装置を用いて大面積薄膜を作製する方法について記述する。
上記のような薄膜作製工程において、図13−aの状態からプラズマを発生させた後、図13−b→c→dの順で、図中記載の矢印方向に基板を走査させれば良い。図中記載の走査を繰り返すことで、所望の厚さ、質の膜を作製することが可能となる。
【0040】
(大面積薄膜作製法を用いた酸化モリブデン薄膜作製)
内径800ミクロンのプラズマ発生用細管に直径200ミクロンのモリブデンワイヤーを挿入しておき、2%水素含有アルゴンガスを1slmの流量で供給しながら25Wの高周波を印加してプラズマを発生させた。アルミナ細管から噴出させたプラズマを、噴出口から1mm下流に設置したアルミナ基板上に照射しながら、基板を図13に記載したように約2mm×4mmの領域にわたって200回走査させた。
【0041】
図14は、得られた薄膜の光学顕微鏡写真であり、プラズマ照射しながら走査させた領域に薄膜が形成されていることが示されている。このような手法で作製された薄膜が切れ目のない連続膜であることは、次のような伝導度測定の結果からあきらかである。図14とほぼ同様の条件で作製された大面積薄膜の両端に電極を設置、2端子法により伝導度を測定した結果、約30GΩ・cmの高抵抗ではあるものの、電流がながれることが示された。
【0042】
さらに、大気圧プラズマ薄膜装置で作製した薄膜が、ガスセンサ素子等のアプリケーションとして有用なものかを実証するために、図14に示した薄膜とほぼ同様の条件で作製された大面積薄膜のアンモニアガス応答試験を行った。本試験を行う前に、本装置、手法で作製された薄膜を大気中、320°Cで20分間アニールし、組成の安定化を図った。
このようなガスセンサ用酸化物薄膜の大気中アニールによる組成安定化は、如何なる手段で作製された薄膜に対してもなされる工程であり、本開発手法が他の薄膜作製法よりも劣ることを意味するものではない。
【0043】
アニール後の薄膜の両端に電極を設置し、約300℃の環境下、空気雰囲気中と20ppmのアンモニアを含有する窒素ガス気流中とでの薄膜の電気抵抗値測定、両者の比較を行った。図15に、抵抗測定の結果を示す。300℃付近での薄膜抵抗値は、空気雰囲気中では83〜94GΩcmであったのに対して、アンモニア含有窒素気流中では36〜40GΩcmであった。下記のセンサ感度評価式
感度(%)=[(Ra−Rg)/Ra]×100(Ra:空気中での抵抗値、Rg:測定ガス中での抵抗値)によると、本装置、手法で作製した薄膜は、60%程の感度を示すことが示唆された。
このように、本装置、手法で作製された薄膜は、薄膜応用面でも十分な機能を発揮することが示されており、すなわち、本発明装置、手法が大面積薄膜作製装置として有用なものであることが分かる。
上記の薄膜作製実施例中では基板を走査させているが、基板を固定した状態でプラズマ発生細管を走査させる方法でも大面積薄膜が作製可能であることは言うまでもない。また、プラズマ発生細管の配置、発生法、原料ワイヤー設置位置等は、図2、6、7、8、11に記載された手法のあらゆる組み合わせであっても可能である。
【0044】
(プラズマ発生用細管を集積化させた大面積薄膜作製)
次に、プラズマ発生用細管を集積化させ、大面積薄膜作製へ適用する手法および装置について記述する。図16に示した装置の概観図を用いて説明する。
プラズマ発生用の絶縁性細管(符号1)を、図16に記載したように並列に配列させ、例えばガス供給管の側面に固定させる。ガス供給管の終端部は閉鎖されており、供給されたガスは全て細管中へ供給される。プラズマを発生、維持させるための高周波を印加する電極の設置法は、図2、図6、図7に記載した全ての方法が適用できる。図16には、図6−bのような金属プレートを電極として利用する方法を記載してある。プレート電極は、細管の高集積化、すなわち細管数の増加に対して比較的容易に対応できるというメリットが考えられる。原料ワイヤー設置位置等は、図1〜図7に示された手法全てが適用可能である。
【0045】
図17は三本の細管を集積化、プラズマ発生の様子を示したものであり、この状態で基板にプラズマを照射し、図16に示したように基板を走査させれば、大面積薄膜の作製が可能となる。
このようにプラズマ発生用細管を集積化、発生させることで大面積薄膜の作製が可能となる。ここでは図16に記載したような、細管の一次元配列による集積化例を示したが、細管を二次元的に集積化させ、大面積薄膜作製に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0046】
1.絶縁性細管
2.金属管
3.原料ワイヤー
4.ナット
5.簡易継手
6.Oリング
7.コイル状高周波印加電極
8.高周波整合器
9.高周波発生源
10.薄膜堆積基板
11.基板固定ステージ
12.基板位置制御、走査機構
13.ガス供給管
14.クリップ式電極
15.プレート状電極
16.反応性ガス供給用細管
17.反応性ガス供給ライン
18.薄膜堆積用プラズマ発生のための細管
19.薄膜原料ワイヤー
20.反応性プラズマ発生用細管
21.高融点貴金属ワイヤー
22.高周波分配器
23.集積細管用ガス供給管
24.集積細管用の板状高周波印加電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロプラズマ法による薄膜作製方法において、全体に亘って内径が均一である1又は複数の細管A内に薄膜形成用の原料を設置し、該細管Aに不活性ガスを導入すると共に高周波電圧を印加して細管A内部に高周波プラズマを発生させ、細管A内部のプラズマガスの流速及び高温のプラズマガス温度を高温に維持しながら前記原料を加熱・蒸発させ、蒸発した材料を細管Aから噴出させて基板上に照射し、前記プラズマガスにより基板を加熱すると共に、照射した材料を大気圧下で基板上に堆積させることを特徴とするマイクロプラズマ法による薄膜作製方法。
【請求項2】
細管Aに不活性ガスと共に、水素ガスを導入して高温のプラズマガスを発生させることを特徴とする請求項1記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製方法。
【請求項3】
高周波印加電極を細管A又は細管B出口近傍の領域まで配置し、プラズマガスの温度を高温に維持することを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製方法。
【請求項4】
基板上に形成する原料が金属又は合金製ワイヤーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製方法。
【請求項5】
マイクロプラズマ法による薄膜作製方法において、1又は複数の細管A内に薄膜形成用の原料を設置し、該細管Aに不活性ガスを導入すると共に高周波電圧を印加して細管A内部に高周波プラズマを発生させ、細管A内部のプラズマガスの流速及び高温のプラズマガス温度を高温に維持しながら前記原料を加熱・蒸発させ、蒸発した材料を細管Aから噴出させて基板上に照射すると共に前記プラズマガスにより基板を加熱し、さらに前記細管Aとは別の細管Bを用いて反応性ガスを基板に側面から照射することにより、基板上に堆積する材料を反応性ガスにより反応させて前記材料の化合物を形成することを特徴とするマイクロプラズマ法による薄膜作製方法。
【請求項6】
反応性ガスが酸素又は窒素であり、形成する薄膜が金属酸化物又は金属窒化物であることを特徴とする請求項5記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製方法。
【請求項7】
基板と蒸発した材料を基板上に照射するプラズマ発生用細管とを相対移動させ、堆積させる膜の厚さ、物質及び面積を制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製方法。
【請求項8】
基板に対し蒸発した材料を基板上に照射するプラズマ発生用細管を多数個整列させ、これらを相対移動させると共に、堆積させる膜の厚さ、物質及び面積を制御し、大面積薄膜形成を行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製方法。
【請求項9】
複数の細管Aから異種材料を噴出させて基板上に照射し、前記プラズマガスにより基板を加熱すると共に、照射した異種材料からなる複合材料又は化合物を大気圧下で基板上に堆積させることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製方法。
【請求項10】
全体に亘って内径が均一である1又は複数の細管A、該細管Aに不活性ガスを導入すると共に高周波電圧を印加して細管A内部に高周波プラズマを発生させる装置、細管A内部のプラズマガスの流速及び高温のプラズマガス温度を高温に維持しながら内部に配置した薄膜形成用の原料を加熱・蒸発させる装置、細管Aの出口近傍に配置した基板、細管Aの出口から噴出した材料を大気圧下で基板上に堆積させる装置からなることを特徴とするマイクロプラズマ法による薄膜作製装置。
【請求項11】
細管Aに不活性ガスと共に、水素ガスを導入する装置を備えていることを特徴とする請求項10記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製装置。
【請求項12】
細管A又は細管Bの中央から出口近傍の領域まで、高周波印加電極の位置及び形状を調節できる装置を備えていることを特徴とする請求項10又は11記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製装置。
【請求項13】
基板上に形成する原料が金属又は合金製ワイヤーであることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製装置。
【請求項14】
1又は複数の細管A内に薄膜形成用の原料を設置し、細管Aに不活性ガスを導入すると共に高周波電圧を印加して細管A内部に高周波プラズマを発生させる装置、細管A内部のプラズマガスの流速及び高温のプラズマガス温度を高温に維持しながら内部に配置した薄膜形成用の原料を加熱・蒸発させる装置、細管Aの出口近傍に配置した基板、細管Aの出口から噴出した材料を大気圧下で基板上に堆積させる装置、前記細管Aとは別の細管Bを細管Aの近傍に配置し、この細管B用いて反応性ガスを前記堆積した基板に側面から照射する装置、基板上に堆積した材料を反応性ガスにより反応させて前記材料の化合物を形成する装置からなることを特徴とするマイクロプラズマ法による薄膜作製装置。
【請求項15】
反応性ガスが酸素又は窒素であり、形成する薄膜が金属酸化物又は金属窒化物であることを特徴とする請求項14記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製装置。
【請求項16】
基板と蒸発した材料を基板上に照射するプラズマ発生用細管とを相対移動させる装置を設け、堆積させる膜の厚さ、物質及び面積を制御することを特徴とする請求項10〜15のいずれかに記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製装置。
【請求項17】
基板に対し蒸発した材料を基板上に照射するプラズマ発生用細管を多数個整列させる装置及びこれらを相対移動させる装置を設け、堆積させる膜の厚さ、物質及び面積を制御し、大面積薄膜形成を行うことを特徴とする請求項10〜16のいずれかに記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製装置。
【請求項18】
異種材料を噴出させて基板上に照射する複数の細管A及び前記プラズマガスにより基板を加熱すると共に、照射した異種材料からなる複合材料又は化合物を大気圧下で基板上に堆積させる装置を備えていることを特徴とする請求項10〜17のいずれかに記載のマイクロプラズマ法による薄膜作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−211391(P2012−211391A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−107298(P2012−107298)
【出願日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【分割の表示】特願2008−530835(P2008−530835)の分割
【原出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】