説明

マフラーハンガー及びその製造方法

【課題】密着性、伸縮性の良好な熱反射性皮膜で覆われた、耐熱性に優れたマフラーハンガーと、その容易な製造方法を提供する。
【解決手段】排気管を車体に懸架するために車体と排気管との間に介装されるマフラーハンガーであって、架橋ゴムからなる成形品の表面がスチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末を含有する熱可塑性エラストマー組成物からなる熱反射性皮膜で覆われていることを特徴とするマフラーハンガーである。成形品の表面に、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末を含有するコーティング液を塗布し、引き続き乾燥させて溶剤を除去することによって成形品の表面を熱反射性皮膜で覆って製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気管を車体に懸架するために車体と排気管との間に介装される防振ゴム製品であるマフラーハンガー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マフラーハンガーは、排気管を車体に懸架するために車体と排気管との間に介装される防振ゴム製品である。したがって、排気管の近傍に配置され、車体の振動に伴って比較的大きく伸縮するものである。しかしながら、エンジンからの排気が通過する排気管は高温になるので、その近傍に配置されたマフラーハンガーは、そこからの輻射熱を受けることになり、長期の使用の間にゴムが熱劣化することが避けられなかった。これに対し、シリコーンゴムなどの耐熱性のゴムを使用する場合もあるが、素材コストの上昇が大きい。
【0003】
以上のようなゴムの熱劣化を防止するために、マフラーハンガーと排気管との間に遮熱板を配置して、排気管からの輻射熱がマフラーハンガーに到達するのを防止することが提案されている(例えば、特許文献1や特許文献2)。しかしながら、遮熱板を別途配置するのはコスト増加要因となるし、車両の重量増加要因ともなるので、必ずしも好ましいことではない。
【0004】
特許文献3には、エラストマー部材の表面を熱反射性の塗料で被覆することが記載されており、該塗料として、ポリジメチルシロキサン、特定のシラン系架橋剤、縮合触媒及び金属粒状物質を含んだ室温加硫性シーラントが用いられることが記載されている。金属粒状物質としては、アルミニウムフレークなどのように被膜に金属光沢を付与するものが用いられる。そしてこれによって、各種のエラストマー部材に及ぼす熱の劣化効果を減少させられることが記載されている。しかしながら、架橋性の特殊なシリコーン系樹脂を使用しなければならない。また、具体的用途としては、自動車エンジンコンパートメントなどに典型的に使用される、極めて高い温度に耐え得る用途であるものの、大きな伸縮や高荷重はそれほど要求されない用途が中心である。
【0005】
また、特許文献4には、周囲温度で硬化可能な2部式液状コーティング組成物であって、活性水素含有硬化剤に反応性の官能基をその中に含むか、または当該官能基が活性水素保有基である可撓性フィルム形成性ポリマーと、前記官能基と反応可能な硬化成分と、熱伝導性金属粒子からなるコーティング組成物が記載されている。このコーティング組成物は、エラストマー物品に塗布され、高温で長期間の使用にわたって熱散逸を提供することができるとされている。しかしながら、形成される塗膜が架橋されたものであるため、大きな伸縮や高荷重に対して十分に追随して良好な密着性を維持するのが困難になるおそれがあった。
【0006】
【特許文献1】特開2005−3007号公報
【特許文献2】特開2005−220852号公報
【特許文献3】特開平6−128528号公報
【特許文献4】特表2006−502290号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、密着性、伸縮性の良好な熱反射性皮膜で覆われた、耐熱性に優れたマフラーハンガーを提供することを目的とするものである。また、そのようなマフラーハンガーの好適な製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、排気管を車体に懸架するために車体と排気管との間に介装されるマフラーハンガーであって、架橋ゴムからなる成形品の表面が、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末を含有する熱可塑性エラストマー組成物からなる熱反射性皮膜で覆われていることを特徴とするマフラーハンガーを提供することによって解決される。
【0009】
このとき、架橋ゴムがエチレン−プロピレン共重合体ゴム又はエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴムであることが好適である。スチレン−ジエンブロック共重合体水添物のスチレン含有量が10〜28重量%であることも好適である。熱反射性皮膜が前記成形品の実質的に全面を覆っていることも好適である。熱反射性皮膜の厚さが5〜200μmであることも好適である。また、熱反射性皮膜が、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物100重量部に対して金属粉末10〜500重量部を含有することも好適である。
【0010】
また、上記課題は、排気管を車体に懸架するために車体と排気管との間に介装されるマフラーハンガーの製造方法であって、未架橋のゴムをマフラーハンガーの形状に賦形してから架橋させることによって架橋ゴムからなる成形品を得て、得られた成形品の表面に、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末を含有するコーティング液を塗布し、引き続き乾燥させて溶剤を除去することによって前記成形品の表面を熱反射性皮膜で覆うことを特徴とするマフラーハンガーの製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマフラーハンガーは、密着性、伸縮性の良好な熱反射性皮膜で覆われていて、耐熱性に優れている。そして、本発明のマフラーハンガーの製造方法によれば、そのような耐熱性に優れたマフラーハンガーが容易に製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のマフラーハンガーは、排気管を車体に懸架するために車体と排気管との間に介装されるものであって、架橋ゴムからなるものである。車体と排気管との間に介装されて防振性能を発揮できるものであればその形態は特に限定されない。車体に繋がる部材が固定される部分と排気管に繋がる部材が固定される部分とを有している。例えば、車体への取付軸と排気管への取付軸が挿入される貫通孔をそれぞれ1つずつ有し、両貫通孔間に生じる振動を、ゴムの伸縮によって吸収するような構造が一般的である。
【0013】
本発明のマフラーハンガーは架橋ゴムからなる。未架橋のゴムをマフラーハンガーの形状に賦形してから架橋させることによって架橋ゴムからなる成形品を得ることができる。防振性能や歪み回復力の面から架橋ゴムが使用される。架橋ゴムとしては、特に限定されるものではないが、シリコーンゴムやフッ素ゴムのように、元々耐熱性に優れているゴムについては、熱反射性皮膜で覆う必要性が小さい。また、熱反射性皮膜との接着性も考慮すれば、オレフィン系ゴム及びジエン系ゴムが好適に採用される。
【0014】
オレフィン系ゴムとしては、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPM)及びエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)が好適なものとして例示される。これらのオレフィン系ゴムは、一般に伸縮性に富んでいるので、マフラーハンガーのように繰り返しの伸縮に耐えることが求められる用途に向いている。特に、EPDMは加硫が容易で、強度と伸縮性とコストのバランスに優れているので、マフラーハンガーに特に適していて、広く使用されている。また、後述の実施例にも示されるように、オレフィン系ゴムは、本発明で使用する熱反射性皮膜との密着性が良好である。EPDMに用いられる非共役ジエンとしては、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエンなどが例示される。ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴムなどが例示される。
【0015】
EPMは、過酸化物架橋剤で架橋させて架橋ゴムとすることができる。一方、EPDMは過酸化物架橋剤によっても、硫黄によっても架橋することができ、より容易に架橋ゴムを得ることができる。また、ジエン系ゴムは硫黄によって容易に加硫することができる。性能面からは、硫黄で架橋されたEPDMを使用することが特に好ましい。本発明で使用される架橋ゴムは、各種の添加剤やフィラーを含むことが好ましく、カーボンブラックや酸化亜鉛などの無機フィラー、流動パラフィンなどのプロセスオイル、ステアリン酸などの滑剤、硫黄や過酸化物などの加硫剤、加硫助剤、老化防止剤などが適宜配合される。このように配合されたものを型に入れて加熱することによって架橋させ、架橋ゴムからなる成形品が得られる。
【0016】
架橋ゴムの硬度は、車種等に応じて適宜調整されるものであるが、JIS K6253に準じて測定したA硬度が40〜80であることが好ましい。比較的硬度の低い架橋ゴムを使用することにより、十分に伸縮して車体と排気管の間における大きな振幅に対応することができ、防振効果を十分に発揮する。そして、そのような大きな振幅の伸縮にも十分に追随できる熱反射性皮膜で被覆される本発明のマフラーハンガーを採用する意義が大きくなる。A硬度は、より好適には70以下であり、さらに好適には60以下である。一方、硬度が低すぎる場合には、強度が不十分になりやすく、A硬度は、より好適には45以上である。
【0017】
本発明のマフラーハンガーは、架橋ゴムからなる成形品の表面が熱反射性皮膜で覆われているものである。熱反射性皮膜で覆われることによって、高熱の排気管から放射される輻射熱を反射して、成形品本体の温度上昇を効果的に抑制することができる。マフラーハンガーは、車体の下側の外気に触れる位置に配置されることが多いので、その周辺の気温が必ずしも高いわけではない。しかしながら、高温の排気管の近傍に配置されるので、特に排気管に面した部分が輻射熱の影響を大きく受けやすい。このとき、熱反射性の皮膜で覆うことにより、温度上昇を効果的に抑制することが可能である。製品を取り巻く雰囲気からの伝熱によって温度が上昇するのではなく、主として輻射熱の影響によって温度が上昇するものなので、マフラーハンガーは、本発明のような熱反射性皮膜を採用する意義が大きいものである、
【0018】
熱反射性皮膜は、そのマトリックスを形成する熱可塑性エラストマー中に、金属粉末が分散しているものである。金属粉末による反射によって輻射熱が反射される。ここで、金属粉末としては、赤外線を反射できるものであれば特に限定されるものではないが、入手のしやすさ、性能、コストなどの面から、アルミニウム粉末、特にアルミニウムフレークが好適に使用される。粉末の寸法が大きすぎると均一な皮膜形成が困難になるので、通常、45μmの目開きのふるい(JIS Z8801−1に準拠)を通過する粒子が50重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましい。アルミニウム粉末は、粉末として塗料に加えられても良いが、安全性のためには、予め有機溶媒などに分散させたペーストとして塗料に加えることが好ましい。
【0019】
本発明のマフラーハンガーの表面に形成される熱反射性皮膜は、熱可塑性エラストマーと金属粉末を含有するものである。熱可塑性エラストマーは、常温で形態を保持することができるエラストマーでありながら、化学的に架橋していないので、溶剤に溶解することが可能なものである。したがって、特に架橋処理をすることなく溶剤を乾燥除去するのみで皮膜の形成が可能であり、皮膜の形成が極めて容易である。
【0020】
本発明で形成される熱反射性皮膜に含まれる熱可塑性エラストマーは、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物である。ジエンブロックが水添されることによって、高温下で劣化しにくい被膜を形成することができる。しかも、水添ジエンブロックがあることによって、架橋ゴム基材への密着性が良好である。特に、水添ジエンブロックとエチレン−プロピレン−(ジエン)共重合体とは、その化学構造が似通っているためか、皮膜の密着性がきわめて良好なマフラーハンガーを与えることができる。また、スチレンブロックを有することによって常温において形態を保持することが可能である。
【0021】
スチレン−ジエンブロック共重合体水添物の構造は特に限定されず、スチレン−ジエンジブロック共重合体であってもよいし、スチレン−ジエン−スチレントリブロック共重合体であってもよいし、それ以上の数のブロックから構成されるブロック共重合体であってもよい。ジエンブロックを構成するのは、ブタジエンであってもよいし、イソプレンであってもよいし、これらを混合使用してもよい。また、スチレン、ジエン以外の構成単位を少量含んでいても構わない。例えば、カルボキシル基やエポキシ基などが導入されたスチレン−ジエンブロック共重合体水添物を使用することもできる。
【0022】
架橋ゴム基材との密着性、耐熱性、形態保持性などの観点からは、スチレン含有量が10〜28重量%であることが好ましい。これは、一般的な製品グレードから見れば、スチレン含有量のかなり少ないグレードが好適であるということである。スチレン含有量が低いことによって、基材の架橋ゴムとの接着性が良好になるとともに、柔軟性にも優れる。結果として、基材の伸縮に対する追随性に優れ、皮膜の耐久性が大きく向上する。スチレン含有量は、より好適には25重量%以下であり、さらに好適には22重量%以下である。一方、スチレン含有量が低すぎると、耐熱性が低下するとともに、形態保持性も悪化する。
【0023】
熱反射性皮膜に含まれる原料である熱可塑性エラストマーのJIS K6253に準じて測定したA硬度が20〜90であることが好ましい。ここでのA硬度は、原料の熱可塑性エラストマーのA硬度である。熱可塑性エラストマーの硬度が高すぎる場合には、熱反射性皮膜がマフラーハンガーの伸縮に十分に追随できず、皮膜が破損するおそれがある。A硬度は、より好適には80以下であり、さらに好適には75以下である。一方、硬度が低すぎる場合、耐熱性が低下するとともに、形態保持性も悪化する。A硬度は、より好適には30以上である。
【0024】
熱反射性皮膜が、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物100重量部に対して金属粉末10〜500重量部を含有することが好ましい。スチレン−ジエンブロック共重合体水添物に対する金属粉末の含有量が少なすぎる場合、熱反射性能が低下し、輻射熱によるマフラーハンガーの温度上昇の抑制効果が不十分になるおそれがある。金属粉末の含有量は、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物100重量部に対して、より好適には20重量部以上でありさらに好適には50重量部以上である。一方、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物に対する金属粉末の含有量が多すぎる場合、皮膜の強度が低下するおそれがある。金属粉末の含有量は、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物100重量部に対して、より好適には200重量部以下でありさらに好適には150重量部以下である。
【0025】
本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、熱反射性皮膜が、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末以外の添加剤を含有しても構わない。各種の無機フィラー又は有機フィラーを配合することもできるが、この場合、皮膜の反射率が大きく低下しない範囲内で配合することが重要である。また、架橋剤によって架橋させることもできる。しかしながら、柔軟性を確保する観点からも、皮膜形成操作の簡略さの観点からも、熱反射性皮膜が架橋されていないことが好ましい。さらに、プロセスオイル、酸化防止剤などを適宜含有してもよい。
【0026】
熱反射性皮膜の形成方法は特に限定されない。架橋ゴムからなる成形品の表面に皮膜を形成することのできる公知の方法を採用することができる。中でも、架橋ゴムからなる成形品を得て、得られた成形品の表面に、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末を含有するコーティング液を塗布し、引き続き乾燥させて溶剤を除去することによって熱反射性皮膜を形成する方法が好適である。
【0027】
コーティング液は、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物、金属粉末及び液体媒体からなる。液体媒体は、金属粉末を分散させるとともに、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物を分散又は溶解させるものである。液体媒体としては、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物を溶解させることの可能な有機溶剤が好適に使用される。このような有機溶剤としては、炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールや、それらの混合物が好適に用いられる。特に、架橋ゴム基材を適度に膨潤させるとともに、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物の溶解性が良好であるという点からは、炭化水素、特に、トルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素が好適に用いられる。液体媒体として水を使用する場合には、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物のエマルジョンあるいは懸濁液とすることができる。この場合には、揮発有機物質を使用しないので、環境面から好ましい場合があるが、架橋ゴムへの密着性が必ずしも良好でない場合がある。
【0028】
コーティング液において、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末を、上記皮膜中での含有比率に対応する割合で含有させる。用いられる液体媒体の量は、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物の分子量や、塗布方法などに応じて適宜調整されるが、通常スチレン−ジエンブロック共重合体水添物を2〜50重量%含有する程度の濃度とする。
【0029】
本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、コーティング液が、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末以外の添加剤を含有しても構わない。各種の無機フィラー又は有機フィラーを配合することもできるが、この場合、皮膜の反射率が大きく低下しない範囲内で配合することが重要である。また、硫黄、過酸化物、多官能不飽和化合物などの架橋剤を配合することもできる。しかしながら、柔軟性を確保する観点からも、塗布操作の簡略さの観点からも、コーティング剤が架橋剤を含有しないことが好ましい。さらに、プロセスオイル、酸化防止剤などを適宜必要に応じて配合してもよい。
【0030】
架橋ゴムからなる成形品に対して、コーティング液を塗布する方法は特に限定されない。スプレーコーティング、刷毛塗り、浸漬(ディップ)コーティングなどを採用することができる。中でも、マフラーハンガーの全体に対して容易に均一な被膜を形成できる点から、スプレーコーティングや浸漬コーティングが好適である。コーティング液を塗布した後で、液体媒体を乾燥させる。乾燥方法は特に限定されず、加熱乾燥させる方法などが採用される。
【0031】
塗布に先立って、架橋ゴムからなる成形品の表面に前処理を施してもよい。例えば、ゴム用の各種プライマーなどを塗布してから、前記コーティング液を塗布してもよい。そうすることによって接着性を改善できる場合があるが、製造工程が煩雑になるし、場合によってはむしろ架橋ゴムの表面物性が変化して、長期間の伸縮に対する耐久性に悪影響を及ぼす場合もあるので注意が必要である。したがって、得られた成形品の表面に前処理を施すことなくコーティング液を直接塗布することが好適である。特に前処理を施さなくても、十分な密着性が得られることも本発明の有利な効果の一つである。
【0032】
熱反射性皮膜の厚さは、好適には5〜200μmである。皮膜が厚すぎても、コストが上昇するだけであって、熱反射性能、特に到達温度の低下効果は頭打ちになることが多い。また、皮膜が厚すぎる場合には、基材の架橋ゴムの伸縮に追随しにくくなって剥離し易くなるおそれもある。皮膜の厚さは、より好適には100μm以下であり、さらに好適には80μm以下である。一方、皮膜が薄すぎる場合には、反射性能が低下するおそれがある。皮膜の厚さは、より好適には10μm以上である。
【0033】
マフラーハンガーにおいて、熱反射性皮膜で覆われる部分はその少なくとも一部分であればよい。マフラーハンガーの一部分を熱反射性皮膜で覆う場合、排気管からの熱輻射を反射するためには、排気管に向いている面が熱反射性皮膜で覆われるように車体と排気管の間に介装される。しかしながら、熱反射効率や使用場所に対する汎用性のためには、実質的にマフラーハンガーの全面が熱反射性皮膜で覆われていることがより好ましい。
【0034】
以上のようにして得られたマフラーハンガーは、自動車などの車体と排気管との間に介装されて用いられる。車体と排気管を複数のマフラーハンガーを介して接続することが普通である。マフラーハンガーは何年もの間荷重を受けて伸縮を繰り返すので、熱劣化すると破断しやすくなるけれども、本発明のマフラーハンガーを使用すれば、長期間に亘って熱劣化を効率的に防止することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明する。
【0036】
実施例1「熱反射特性の評価」
(架橋ゴムシートの作製)
エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体(EPDM)100重量部、酸化亜鉛5重量部、ステアリン酸1重量部、カーボンブラック50重量部、パラフィンオイル70重量部、加工助剤4重量部、老化防止剤2重量部、加硫促進剤3重量部及び硫黄0.3重量部をロールで混練してから、シート形状に成形し、160℃で10分間加硫して、厚さ3mmの架橋ゴムシートを得た。これを70mm×100mmの寸法に切り出して長方形の架橋EPDMシートを得た。得られた架橋EPDMシートのA硬度は50であった。
【0037】
(コーティング液Aの調製)
旭化成ケミカルズ株式会社製スチレン系エラストマー「タフテックH1062」5gをトルエン20gに溶解させた。東洋アルミニウム株式会社製アルミニウムフレーク粉(ノンリーフィング・コース)「P1100」5gをトルエン20gに分散させた。両者を混合撹拌してコーティング液Aを作製した。ここで、「タフテックH1062」は、スチレン−水添ブタジエン(エチレン−ブチレン)−スチレントリブロック共重合体であり、スチレン含有量18重量%、A硬度67である。また、「P1100」は、目開き45μmのふるいを85重量%が通過するものである。
【0038】
(試料の作成)
上述のようにして得られたコーティング液Aを、刷毛を用いて架橋EPDMシートの片面に塗布し、室温下に静置して乾燥させた。また、コーティング液Aの二度塗り試料も作製した。作製した試料は、以下の3試料である。
・試料1−1:コーティング液A一度塗り(約50μm)
・試料1−2:コーティング液A二度塗り(約90μm)
・試料1−3:コーティングせず
【0039】
(加熱試験)
上記試料1−1〜1−3を、ヒーター(ニクロム線電熱器)から150mm離れた位置に配置して加熱した。このとき、熱反射性皮膜を有する試料は、熱反射性皮膜面がヒーターに対向する向きになるように配置して加熱した。加熱している間の、ヒーター対抗面と裏面の、それぞれ中央部の温度を経時的に測定した。その結果を図1(ヒーター対抗面の温度変化)及び図2(裏面の温度変化)に示す。
【0040】
(結果の考察)
図1及び図2に示されるように、アルミニウムフレーク粉を含有する熱反射性皮膜が形成された試料1−1及び1−2は、熱反射性皮膜が形成されていない試料1−3に比べて、ヒーター対抗面で50℃以上、裏面で20℃以上も温度上昇が抑制された。また、熱反射性皮膜厚みが約50μmから約90μmに増加することにより温度の上昇速度は低下したが、到達温度にはほとんど差が認められなかった。
【0041】
実施例2「密着性試験」
(架橋ゴムシートの作製)
天然ゴム100重量部、酸化亜鉛4重量部、ステアリン酸1重量部、カーボンブラック40重量部、老化防止剤7重量部、加硫促進剤3重量部、硫黄1.7重量部及び有機系加硫剤2重量部をロールで混練してから、シート形状に成形し、160℃で10分間加硫して、厚さ3mmの架橋ゴムシートを得た。これを30mm×100mmの寸法に切り出して長方形の架橋天然ゴムシートを得た。得られた架橋天然ゴムシートのA硬度は50であった。また、実施例1で作製した架橋ゴムシートを30mm×100mmの寸法に切り出して長方形の架橋EPDMシートを得た。
【0042】
(コーティング液Bの調製)
旭化成ケミカルズ株式会社製スチレン系エラストマー「タフテックH1041」5gをトルエン20gに溶解させた。東洋アルミニウム株式会社製アルミニウムフレーク粉(ノンリーフィング・コース)「P1100」5gをトルエン20gに分散させた。両者を混合撹拌してコーティング液Bを作製した。ここで、「タフテックH1041」は、スチレン−水添ブタジエン(エチレン−ブチレン)−スチレントリブロック共重合体であり、スチレン含有量30重量%、A硬度84である。
【0043】
(試料の作成)
実施例1で用いたコーティング液Aを、刷毛を用いて架橋EPDMシート及び架橋天然ゴムシートの片面に塗布し、室温下に静置して乾燥させた。また、上記コーティング液Bを、刷毛を用いて架橋EPDMシートの片面に塗布し、室温下に静置して乾燥させた。作製した試料は、以下の3試料であり、いずれも約50μmの熱反射性皮膜が形成されているものである。
・試料2−1:コーティング液A塗布架橋EPDM
・試料2−2:コーティング液B塗布架橋EPDM
・試料2−3:コーティング液A塗布架橋天然ゴム
【0044】
(密着性試験)
ゴムシート試料の両端を、75mm間隔のチャックで挟んで固定し、チャック間隔をプラスマイナス28.5mmの振幅で振動させて屈曲させた。振動の周波数は5ヘルツであり、振動回数は10万回とした。チャック間隔が開いたときにはゴムシートは伸張し、チャック間隔が狭まったときにはゴムシートは屈曲していた。以上の屈曲試験はJIS K6260に準じて行ったものである。10万回の屈曲の後にチャックから取り外し、熱反射性皮膜表面の状況をルーペで観察した。その結果は以下のとおりである。
・試料2−1:外観上特に目立った破損なし。
・試料2−2:チャックの近傍の熱反射性皮膜面において、伸縮方向に垂直な細かい亀裂がごく狭い範囲で観察された。亀裂の長さは1mm以下である。
・試料2−3:チャックの近傍の熱反射性皮膜面において、伸縮方向に垂直な亀裂が資料2−2よりも広い範囲で観察された。亀裂の長さが1mmを超えるものも少し含まれた。
【0045】
(結果の考察)
試験結果からわかるように、スチレン含有量の少ない硬度の低いスチレン系エラストマーを用いた熱反射性皮膜が架橋EPDM上に形成された試料2−1では、長時間の伸縮試験に対しても良好な密着性を示した。これに対し、スチレン含有量の多い硬度の高いスチレン系エラストマーを用いた熱反射性皮膜が形成された試料2−2では密着性が少し低下した。また、基材を架橋天然ゴムとした試料2−3では密着性がさらに少し低下した。
【0046】
実施例3「マフラーハンガーの性能評価」
(試料の作製)
図3及び図4に示される形状のマフラーハンガー1を用いて試験を行った。マフラーハンガー1の外形は、長径81mm、短径54mm、厚さ21mmの略小判型をしている。貫通孔2、2’は、一方が車体側に固定され、他方が排気管側に固定されるものである。中央に空間3を有し、その両側にある伸縮部4、4’が主として伸縮することによって振動を吸収する。そして極端な屈曲を防止するために当接部5、5’が設けられている。成形されたマフラーハンガーは、実施例1で用いたものと同じ材料を用い、マフラーハンガーの型に充填した後、165℃で15分間加硫して得られたものであり、架橋EPDMからなるものである。この成形品の表面全体に、実施例1で用いたコーティング液Aを、刷毛を用いて塗布し、室温下に静置して乾燥させた。これにより、約50μmの熱反射性皮膜が全面に形成された。
【0047】
(試験方法)
熱反射性皮膜が形成されたマフラーハンガーと、熱反射性皮膜を有さないマフラーハンガーについて、加熱老化処理を施したものと、施さないものをそれぞれ作製し、引張耐久試験に供した。ここで、加熱老化処理は、ヒーター(ニクロム線電熱器)から150mm離れた位置に、マフラーハンガーの片面を対抗させる向きで配置し、26時間加熱することによって行った。また、引張耐久試験は、貫通孔2、2’に直径12mmの棒状の治具を差込み、治具間に上下方向の引張荷重が周期的にかかるようにした。周波数は5ヘルツであり、0〜35kgfの引張荷重がかかるようにし、破断までの引張回数を測定した。
【0048】
(試験結果)
・試料3−1(熱反射性皮膜あり、熱老化処理あり):23.7万回
・試料3−2(熱反射性皮膜あり、熱老化処理なし):30.7万回
・試料3−3(熱反射性皮膜なし、熱老化処理あり):0.3万回
・試料3−4(熱反射性皮膜なし、熱老化処理なし):28.7万回
【0049】
(結果の考察)
試料3−2と試料3−4は、いずれも熱老化処理を施さなかった試料であり、30.7万回と28.7万回の差は、測定誤差であると考えられる。熱反射性皮膜を形成して熱老化処理を施した試料3−1では23.7万回で破断しており、熱老化処理を施さなかった試料3−2と試料3−4よりも少しだけ耐久性が低下している。これに対し、熱反射性皮膜を形成せずに熱老化処理を施した試料3−3ではわずか0.3万回で破断しており、熱反射性皮膜を形成したことによる耐久性の向上は極めて顕著であった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1におけるヒーター対抗面の温度変化を示したグラフである。
【図2】実施例1における裏面の温度変化を示したグラフである。
【図3】実施例3で作製したマフラーハンガーの平面図である。
【図4】実施例3で作製したマフラーハンガーの側面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 マフラーハンガー
2、2’ 貫通孔
3 空間
4、4’ 伸縮部
5、5’ 当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気管を車体に懸架するために車体と排気管との間に介装されるマフラーハンガーであって、架橋ゴムからなる成形品の表面が、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末を含有する熱可塑性エラストマー組成物からなる熱反射性皮膜で覆われていることを特徴とするマフラーハンガー。
【請求項2】
架橋ゴムがエチレン−プロピレン共重合体ゴム又はエチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴムである請求項1記載のマフラーハンガー。
【請求項3】
スチレン−ジエンブロック共重合体水添物のスチレン含有量が10〜28重量%である請求項1又は2記載のマフラーハンガー。
【請求項4】
熱反射性皮膜が前記成形品の実質的に全面を覆っている請求項1〜3のいずれか記載のマフラーハンガー。
【請求項5】
熱反射性皮膜の厚さが5〜200μmである請求項1〜4のいずれか記載のマフラーハンガー。
【請求項6】
熱反射性皮膜が、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物100重量部に対して金属粉末10〜500重量部を含有する請求項1〜5のいずれか記載のマフラーハンガー。
【請求項7】
排気管を車体に懸架するために車体と排気管との間に介装されるマフラーハンガーの製造方法であって、
未架橋のゴムをマフラーハンガーの形状に賦形してから架橋させることによって架橋ゴムからなる成形品を得て、
得られた成形品の表面に、スチレン−ジエンブロック共重合体水添物及び金属粉末を含有するコーティング液を塗布し、
引き続き乾燥させて溶剤を除去することによって前記成形品の表面を熱反射性皮膜で覆うことを特徴とするマフラーハンガーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−90778(P2009−90778A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262295(P2007−262295)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000157278)丸五ゴム工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】